IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特開2025-2260正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法
<>
  • 特開-正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法 図1
  • 特開-正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法 図2
  • 特開-正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法 図3
  • 特開-正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法 図4
  • 特開-正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法 図5
  • 特開-正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002260
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20241226BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102311
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA13
5H050EA15
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】電池抵抗の低減。
【解決手段】正極活物質は、活物質粒子およびコーティング膜を含む。コーティング膜は、活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜は、酸素およびガラス形成元素を含む。ガラス形成元素は、リンおよびケイ素を含む。正極活物質は、式(1)「CLi/CX≦2.50」かつ式(2)「0<CSi/CX」の関係を満たす。CLi、CXおよびCSiは、それぞれ、X線光電子分光法により測定される元素濃度を示す。CLiはリチウムの元素濃度を示す。CXはガラス形成元素の合計元素濃度を示す。CSiはケイ素の元素濃度を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粒子およびコーティング膜を含み、
前記コーティング膜は、前記活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記コーティング膜は、酸素およびガラス形成元素を含み、
前記ガラス形成元素は、リンおよびケイ素を含み、
式(1)かつ式(2):
Li/CX≦2.50 …(1)
0<CSi/CX …(2)
の関係を満たし、
前記式(1)および前記式(2)中、
Li、CXおよびCSiは、それぞれ、X線光電子分光法により測定される元素濃度を示し、CLiはリチウムの元素濃度を示し、CXは前記ガラス形成元素の合計元素濃度を示し、かつ、CSiはケイ素の元素濃度を示す、
正極活物質。
【請求項2】
前記ガラス形成元素は、ホウ素をさらに含み、
式(3):
Si/CX<0.10 …(3)
の関係をさらに満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
正極および負極を含み、
前記正極は、請求項1または請求項2に記載の正極活物質、および、硫化物固体電解質を含む、
全固体電池。
【請求項4】
(a)コーティング液を準備すること、
(b)前記コーティング液と活物質粒子とを混合することにより、混合物を準備すること、および、
(c)前記混合物を乾燥することにより、正極活物質を製造すること、
を含み、
前記コーティング液は、ガラス形成材料を含み、
前記ガラス形成材料は、縮合リン酸化合物およびケイ素を含み、
前記縮合リン酸化合物は、質量分率で83%以上の五酸化二リンを含む、
正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記(a)は、
(a1)リン酸化合物の脱水縮合反応により、前記縮合リン酸化合物を合成すること、および、
(a2)前記脱水縮合反応の反応系にケイ素を添加すること、
を含む、
請求項4に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質、全固体電池、および、正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-099323号公報(特許文献1)は、ポリアニオン構造部を備えるコート層を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-099323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硫化物系全固体電池(以下「全固体電池」と略記され得る。)が開発されている。全固体電池は、硫化物固体電解質を含む。正極において、活物質粒子は高電位を有する。正極において、硫化物固体電解質が活物質粒子と直接接触すると、硫化物固体電解質が劣化し得る。硫化物固体電解質(イオン伝導パス)の劣化により、電池抵抗が増大し得る。そこで、活物質粒子の表面にコーティング膜を形成することが提案されている。コーティング膜が活物質粒子と硫化物固体電解質との直接接触を阻害することにより、硫化物固体電解質の劣化が軽減され得る。ただしコーティング膜は、抵抗成分でもある。硫化物固体電解質の劣化を軽減できても、コーティング膜の抵抗が高いために、所望の電池抵抗が得られない可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、電池抵抗の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.正極活物質は、活物質粒子およびコーティング膜を含む。コーティング膜は、活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜は、酸素およびガラス形成元素を含む。ガラス形成元素は、リンおよびケイ素を含む。
正極活物質は、下記式(1)かつ式(2)の関係を満たす。
Li/CX≦2.50 …(1)
0<CSi/CX …(2)
上記式(1)および(2)中、CLi、CXおよびCSiは、それぞれ、X線光電子分光法により測定される元素濃度を示す。CLiはリチウムの元素濃度を示す。CXはガラス形成元素の合計元素濃度を示す。CSiはケイ素の元素濃度を示す。
【0007】
特許文献1は、ポリアニオン構造部を含むコート層を提案する。特許文献1におけるコート層は、本開示におけるコーティング膜に相当する。ポリアニオン構造部は、Li3PO4-Li4SiO4を含む。特許文献1の実施例において、コーティング膜におけるモル比は、「Li/P/Si=7/1/1」とされている。コーティング膜に含まれるLiは、イオン伝導のキャリアであると考えられる。従来知見によると、Li組成比が大きい程、電池抵抗の低減が期待される。
【0008】
しかし、本開示の新知見によると、Li組成比が特定値以下まで低減することにより、電池抵抗が顕著に低減し得る。上記式(1)の左辺は、Li組成比を表す。CLi等の元素濃度は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)により測定される。XPSは、測定対象(正極活物質)の最表面の情報を取得する。すなわち、XPSにより測定されるLi組成比は、コーティング膜におけるLi組成比を表すと考えられる。上記式(1)に示されるように、Li組成比が2.5以下であることにより、電池抵抗の低減が期待される。なお、特許文献1におけるLi組成比は、3.5程度であると考えられる。
【0009】
リン(P)はガラス形成元素である。すなわち、Pは、酸素(O)と共に、酸化物ガラス(ガラスネットワーク)を形成し得る。ケイ素(Si)もガラス形成元素である。2種以上のガラス形成元素が共存することにより、複合的なガラスネットワークが形成され得る。該ガラスネットワークは、2種以上のアニオン(PO4 3-、SiO4 4-等)を含むと考えられる。2種以上のアニオンが共存することにより、混合アニオン効果の発現が期待される。混合アニオン効果により、イオン伝導の促進が期待される。すなわち、電池抵抗の低減が期待される。
【0010】
2.上記「1」に記載の正極活物質は、例えば、次の構成を含んでいてもよい。
ガラス形成元素は、ホウ素をさらに含む。
正極活物質は、下記式(3)の関係をさらに満たす。
Si/CX<0.10 …(3)
【0011】
ホウ素(B)もガラス形成元素である。PとBとの組み合わせにより、混合アニオン効果の促進が期待される。Siは、PおよびBに比して微量であってもよい。例えば、PおよびBがガラスネットワークの骨格を形成し、部分的にSiが導入されてもよい。微量のSiがガラスネットワークに導入されることにより、イオン伝導の促進が期待される。
【0012】
3.全固体電池は、正極および負極を含む。正極は、上記「1」または「2」に記載の正極活物質および硫化物固体電解質を含む。
【0013】
4.正極活物質の製造方法は、下記(a)~(c)を含む。
(a)コーティング液を準備する。
(b)コーティング液と活物質粒子とを混合することにより、混合物を準備する。
(c)混合物を乾燥することにより、正極活物質を製造する。
コーティング液は、ガラス形成材料を含む。ガラス形成材料は、縮合リン酸化合物およびケイ素を含む。縮合リン酸化合物は、質量分率で83%以上の五酸化二リンを含む。
【0014】
縮合リン酸化合物における五酸化二リン(P25)の質量分率(以下「P25濃度」とも記される。)は、重合度の指標である。P25濃度が高い程、縮合リン酸化合物が高い重合度を有すると考えられる。P25濃度が83%以上であることにより、電池抵抗の低減が期待される。コーティング膜において、ガラスネットワークの連続性が向上し得るためと考えられる。
【0015】
5.上記「4」に記載の正極活物質の製造方法は、例えば、次の構成を含んでいてもよい。上記(a)は、下記(a1)および(a2)を含む。
(a1)リン酸化合物の脱水縮合反応により、縮合リン酸化合物を合成する。
(a2)脱水縮合反応の反応系にケイ素を添加する。
【0016】
脱水縮合反応の反応系にSiが添加されることにより、リン酸ネットワーク(縮合リン酸化合物)にSiが導入され得る。事前に、リン酸ネットワークにSiが組み込まれることにより、イオン伝導度の向上が期待される。
【0017】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態における正極活物質の概念図である。
図2図2は、本実施形態における正極活物質の製造方法の概略フローチャートである。
図3図3は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
図4図4は、実験結果を示す表である。
図5図5は、Si組成比と電池抵抗との関係を示すグラフである。
図6図6は、P25濃度と電池抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<用語の説明>
「元素濃度(CLi、CX、CSi)」は、次の手順で測定される値を示す。例えば、アルバック・ファイ社製のXPS装置(製品名「PHI X-tool」)、または、これと同等品が準備される。正極活物質(粉体)がXPS装置にセットされる。224eVのパスエネルギーにより、ナロースキャン分析が実施される。測定データが解析ソフトフェアにより処理される。例えば、アルバック・ファイ社製の解析ソフトフェア(製品名「MulTiPak」)、または、これと同等品が使用されてもよい。Li1sスペクトルのピーク面積(積分値)が、Liの元素濃度(CLi)に変換される。P2pスペクトルのピーク面積が、Pの元素濃度(CP)に変換される。B1sスペクトルのピーク面積が、Bの元素濃度(CB)に変換される。Si2pスペクトルのピーク面積が、Siの元素濃度(CSi)に変換される。CXは、ガラス形成元素の合計元素濃度である。例えば、P、B、および、Siの3種のガラス形成元素が検出される場合、式「CX=CP+CB+CSi」により、CXが求まる。
【0020】
「ガラス形成元素」は、Oと結合することにより、ネットワーク構造を有する酸化物ガラスを形成し得る。ガラス形成元素は、例えば、P、Si、B、窒素(N)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、および、水素(H)等を含んでいてもよい。「ガラス形成材料」は、ガラス形成元素を含む材料を示す。ガラス形成材料は、単体、化合物、または、混合物のいずれでもよい。
【0021】
「P25濃度」は、次の手順で測定される値を示す。0.1mLの試料(縮合リン酸化合物)、および、0.9mLの蒸留水が、プラスチック製のキュベットに入れられる。360nmの波長における吸光度が測定される。吸光度と、P25濃度との関係(検量線)から、試料のP25濃度が求まる。
【0022】
「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。
【0023】
各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0024】
<正極活物質>
正極活物質は、1個の粒子からなっていてもよい。正極活物質は、2個以上の粒子を含んでいてもよい。すなわち、正極活物質は、粉体(粒子の集合体)であってもよい。正極活物質は、例えば、1~30μm、10~20μm、または、1~10μmのD50を有していてもよい。「D50」は、体積基準の粒度分布(積算分布)において、積算が50%になる粒子径を示す。粒度分布は、レーザ回折法により測定され得る。
【0025】
図1は、本実施形態における正極活物質の概念図である。正極活物質5は、複合粒子を含む。複合粒子は、コアシェル構造を有する。すなわち、正極活物質5は、活物質粒子1およびコーティング膜2を含む。正極活物質5は、例えば「被覆活物質」等と換言され得る。
【0026】
<コーティング膜>
コーティング膜2は、正極活物質5のシェルである。コーティング膜2は、活物質粒子1の表面の少なくとも一部を被覆している。被覆率は、例えば、94%以上であってもよい。被覆率は、例えば、95%以上、96%以上、または、97%以上のいずれでもよい。被覆率は、例えば、100%以下、97%以下、96%以下、または、95%以下のいずれでもよい。
【0027】
「被覆率」は、XPSにより測定される。XPSにより、正極活物質の表面における、各種元素の元素濃度が測定される。下記式(4)により、被覆率が求まる。
θ=CX/(CX+CY) …(4)
上記式(4)中、θは被覆率を示す。被覆率は、百分率(%)で表示される。CXは、ガラス形成元素の合計元素濃度を示す。例えば、コーティング膜2が、P、BおよびSiを含む時、式「CX=CP+CB+CSi」によりCXが求まる。CYは、活物質粒子1の構成元素(ただしLiおよびOを除く。)の合計元素濃度を示す。例えば、活物質粒子1が「LiNi1/3Co1/3Mn1/32」の組成を有する時、式「CY=CCo+CNi+CMn」によりCYが求まる。例えば、活物質粒子が「LiNi0.8Co0.15Al0.052」の組成を有する時、式「CY=CCo+CNi+CAl」によりCYが求まる。
【0028】
コーティング膜2の厚さは、例えば、5~100nm、5~50nm、10~30nm、または、20~30nmのいずれでもよい。コーティング膜2の厚さは、例えば、複合粒子の断面観察により測定され得る。断面観察は、例えばSEM(Scanning Electron Microscope)により実施され得る。
【0029】
コーティング膜2は、O、およびガラス形成元素(X)を含む。ガラス形成元素は、PおよびSiを含む。ガラス形成元素は、PおよびSiに加えて、例えば、B、N、S、GeおよびHからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ガラス形成元素は、例えば、P、SiおよびBを含んでいてもよい。コーティング膜2は、例えば、リン酸骨格、ケイ酸骨格、ホウ酸骨格等を含んでいてもよい。例えば、正極活物質5のTOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)スペクトルが、PO2 -、PO3 -、SiO3 -、SiO4 -、Si25 -、BO2 -、BO3 -等に由来するフラグメントピークを含んでいてもよい。
【0030】
コーティング膜2は、Liを含んでいてもよい。本実施形態においては、下記式(1)の関係が満たされる。
Li/CX≦2.50 …(1)
上記式(1)の関係が満たされることにより、電池抵抗の低減が期待される。なお、コーティング膜2中のLi源は、2つ以上考えられる。例えば、コーティング膜2は、コーティング液に含まれるLi化合物に由来するLiを含んでいてもよい。例えば、コーティング膜2は、コーティング膜2の形成時に、活物質粒子1から拡散してきたLiを含んでいてもよい。
【0031】
Li組成比(CLi/CX)は、例えば、2.46以下、2.45以下、2.42以下、2.37以下、または、1.40以下のいずれでもよい。Li組成比は、例えば、0.1以上、0.5以上、1.0以上、1.40以上、または、2.00以上のいずれでもよい。
【0032】
下記式(2)の関係が満たされる限り、Si組成比は任意である。
0<CSi/CX …(2)
【0033】
例えば、下記式(3)の関係が満たされていてもよい。
Si/CX<0.10 …(3)
【0034】
Si組成比(CSi/CX)は、例えば、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、または、0.06以上のいずれでもよい。Si組成比は、例えば、0.09以下、0.08以下、0.07以下、または、0.06以下のいずれでもよい。
【0035】
コーティング膜2がBを含む時、PとBとの量的関係は任意である。例えば、「CP/CB=99/1~1/99」、「CP/CB=9/1~1/9」または「CP/CB=7/3~3/7」の関係が満たされていてもよい。例えば「1≦CP/CB」または「2≦CP/CB」等の関係が満たされていてもよい。
【0036】
<活物質粒子>
活物質粒子1は、正極活物質5のコアである。活物質粒子1は、例えば、1~30μm、10~20μm、または、1~10μmのD50を有していてもよい。活物質粒子1は、Liイオンを可逆的に格納し得る。活物質粒子1は、任意の結晶構造を有し得る。活物質粒子1は、例えば、層状岩塩型構造等を含んでいてもよい。
【0037】
活物質粒子1は、任意の組成を有し得る。活物質粒子1は、例えば、下記式(5)の組成を有していてもよい。
Li1-aNix1-x2 …(5)
上記式(5)中、-0.5≦a≦0.5、0<x<1の関係が満たされる。Mは、Co、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種である。例えば、0.5≦x<1、または、0.6≦x≦0.9の関係が満たされていてもよい。
【0038】
活物質粒子1にドーパントが添加されていてもよい。ドーパントは、粒子全体に拡散していてもよいし、局所的に分布していてもよい。例えば、粒子表面にドーパントが偏在していてもよい。ドーパントは、置換型固溶原子であってもよいし、侵入型固溶原子であってもよい。ドーパントの添加量(活物質粒子1の全体に対するモル分率)は、例えば、0.01~5%、0.1~3%、または0.1~1%のいずれでもよい。ドーパントは、例えば、B、C、N、ハロゲン、Si、Na、Mg、Al、Mn、Co、Cr、Sc、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Pb、Bi、Sb、Sn、W、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、および、アクチノイドからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0039】
<正極活物質の製造方法>
図2は、本実施形態における正極活物質の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における正極活物質の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)コーティング液の準備」、「(b)混合物の準備」および「(c)乾燥」を含む。本製造方法は、例えば「(d)熱処理」等をさらに含んでいてもよい。
【0040】
<(a)コーティング液の準備>
本製造方法は、コーティング液を準備することを含む。コーティング液は、溶質および溶媒を含む。例えば、各種材料が溶媒に溶解されることにより、コーティング液が形成されてもよい。溶媒は、溶質が溶解し得る限り、任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、水、アルコール等を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、イオン交換水、メタノール、エタノール等を含んでいてもよい。
【0041】
溶質の配合量は、100質量部の溶媒に対して、例えば0.1~20質量部であってもよい。溶質は、ガラス形成材料を含む。すなわち、コーティング液は、ガラス形成材料を含む。ガラス形成材料は、縮合リン酸化合物およびSiを含む。ガラス形成材料は、ホウ酸化合物等をさらに含んでいてもよい。溶質は、例えば、Li化合物等をさらに含んでいてもよい。例えば、溶媒に、縮合リン酸化合物、Si化合物、Li化合物、および、ホウ酸化合物等が溶解されることにより、コーティング液が準備されてもよい。
【0042】
縮合リン酸化合物は、P源である。縮合リン酸化合物は、例えば、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、および、無水リン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。縮合リン酸化合物は、水和物、塩等であってもよい。縮合リン酸化合物は、83%以上のP25濃度を有する。P25濃度は、例えば、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、または、89%以上のいずれでもよい。P25濃度は、例えば、100%以下、95%以下、89%以下、または、84%以下のいずれでもよい。
【0043】
<(a1)脱水縮合>
本製造方法は、リン酸化合物の脱水縮合反応により、縮合リン酸化合物を合成することを含んでいてもよい。リン酸化合物(出発原料)は、例えば、オルトリン酸等を含んでいてもよい。リン酸化合物は、水和物、塩等であってもよい。縮合リン酸化合物のP25濃度は、脱水縮合条件により調整され得る。例えば、リン酸化合物が加熱されることにより、脱水縮合反応が進行してもよい。加熱温度は、例えば、400~500℃であってもよい。加熱時間は、例えば、2~6時間、2~4時間、または、4~6時間のいずれでもよい。
【0044】
<(a2)Si添加>
本製造方法は、脱水縮合反応の反応系にSiを添加することを含んでいてもよい。リン酸化合物の脱水縮合反応の進行時に、Siが添加されることにより、縮合リン酸化合物にSiが導入され得る。事前に、リン酸ネットワークにSiが組み込まれることにより、イオン伝導度の向上が期待される。
【0045】
添加方法は任意である。例えば、Siを含有する坩堝が準備されてもよい。例えば、磁器製の坩堝は、Siを含有し得る。リン酸化合物が坩堝に充填される。坩堝が加熱されることにより、リン酸化合物の脱水縮合反応が生起し得る。同時に、坩堝からSiが溶出することにより、反応系にSiが添加され得る。Si添加量は、例えば、坩堝のSi含有量、加熱温度、加熱時間等により調整され得る。
【0046】
例えば、加熱中のリン酸化合物に、Si化合物(例えばSiO2等)が添加されてもよい。Si化合物は、例えば、粉体であってもよい。例えば、リン酸化合物とSi化合物との混合物が加熱されてもよい。
【0047】
Si添加量は、縮合リン酸化合物におけるSi濃度により表され得る。Si濃度(質量分率)は、例えば、600ppm以上、708ppm以上、1251ppm以上、1488ppm以上、または、2353ppm以上のいずれでもよい。Si濃度は、例えば、2353ppm以下、1488ppm以下、1251ppm以下、または、708ppm以下のいずれでもよい。Si濃度は、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy,ICP-AES)により測定され得る。
【0048】
<Li化合物>
Li化合物は、Li源である。正極活物質5においてLi組成比が2.5以下になり得る限り、溶質はLi化合物を含んでいてもよい。Li化合物は、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等を含んでいてもよい。Li化合物の添加タイミングは、任意である。例えば、Siと同様に、Li化合物は、リン酸化合物の脱水縮合反応の反応系に添加されてもよい。
【0049】
Li添加量は、縮合リン酸化合物におけるLi濃度により表され得る。Li濃度(質量分率)は、例えば、1.4%以上、1.48%以上、1.6%以上、1.65%以上、または、1.7%以上のいずれでもよい。Li濃度は、例えば、1.7%以下、1.65%以下、1.6%以下、1.48%以下、または、1.4%以下のいずれでもよい。
【0050】
<ホウ酸化合物>
ホウ酸化合物は、B源である。ホウ酸化合物は、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等を含んでいてもよい。ホウ酸化合物は、水和物、塩等であってもよい。ホウ酸化合物の添加タイミングは、任意である。例えば、溶媒に縮合リン酸化合物が溶解した後、ホウ酸化合物がさらに溶解されてもよい。
【0051】
<(b)混合物の準備>
本製造方法は、コーティング液と、活物質粒子1とを混合することにより、混合物を準備することを含む。混合物は、例えば、懸濁液または湿粉のいずれでもよい。例えば、コーティング液中に活物質粒子1(粉体)が分散されることにより、懸濁液が形成されてもよい。例えば、粉体中に、コーティング液が噴霧されることにより、湿粉が形成されてもよい。本製造方法においては、任意の混合装置、造粒装置等が使用され得る。
【0052】
<(c)乾燥>
本製造方法は、混合物を乾燥することにより、正極活物質5を製造することを含む。活物質粒子1の表面に付着したコーティング液が乾燥することにより、コーティング膜2が生成される。本製造方法においては、任意の乾燥方法が使用され得る。例えば、スプレードライヤにより、混合物が乾燥されてもよい。すなわち、懸濁液がノズルから噴霧されることにより、液滴が形成される。液滴は、活物質粒子1およびコーティング液を含む。例えば、熱風により、液滴が乾燥されることにより、正極活物質5が形成され得る。スプレードライ法の使用により、例えば、被覆率の向上等が期待される。
【0053】
例えば、転動流動層コーティング装置により、正極活物質5が製造されてもよい。転動流動層コーティング装置においては、「(b)混合物の準備」および「(c)乾燥」が、実質的に同時に進行し得る。
【0054】
<(d)熱処理>
本製造方法は、正極活物質5に熱処理を施すことを含んでいてもよい。熱処理によりコーティング膜2が定着し得る。熱処理は「焼成」とも称され得る。本製造方法においては、任意の熱処理装置が使用され得る。処理温度は、例えば、150~300℃であってもよい。処理時間は、例えば、1~10時間であってもよい。熱処理雰囲気は、例えば空気雰囲気または不活性雰囲気のいずれでもよい。
【0055】
<全固体電池>
図3は、本実施形態における全固体電池の概念図である。電池100は、任意の外形を有し得る。電池100は、例えば、板状の外形を有していてもよい。電池100は、発電要素50を含む。電池100は、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が発電要素50を収納していてもよい。外装体は、例えば、Alラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。発電要素50は、正極10および負極20を含む。発電要素50は、セパレータ層30をさらに含んでいてもよい。セパレータ層30は、正極10と負極20との間に配置される。発電要素50は、任意の構造を有し得る。発電要素50は、例えば、モノポーラ構造またはバイポーラ構造のいずれを有していてもよい。
【0056】
正極10は、例えば、正極集電体および正極活物質層を含んでいてもよい。正極集電体は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。正極活物質層は、正極集電体の表面に配置され得る。正極活物質層は、正極活物質および硫化物固体電解質を含む。
【0057】
硫化物固体電解質の配合量は、100体積部の正極活物質に対して、例えば1~200体積部であってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ガラスセラミックスまたはアルジロダイトのいずれでもよい。硫化物固体電解質は、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P25、LiI-Li2O-Li2S-P25、LiI-Li2S-P25、LiI-Li3PO4-P25、Li2S-GeS2-P25、Li2S-P25、Li10GeP212、Li426、Li7311、Li3PS4、Li7PS6、および、Li6PS5X(X=Cl、Br、I)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0058】
例えば「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiI、LiBrおよびLi3PS4が任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物固体電解質を示す。例えば、メカノケミカル法により硫化物固体電解質が生成されてもよい。各原料の前に数字が付されることにより、混合比が特定されてもよい。例えば、「10LiI-15LiBr-75Li3PS4」は、原料の混合比が「LiI/LiBr/Li3PS4=10/15/75(モル比)」であることを示す。
【0059】
正極活物質層は、例えば、導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。導電材およびバインダの配合量は、それぞれ独立に、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、例えば、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)等を含んでいてもよい。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を含んでいてもよい。
【実施例0060】
<試料>
図4は、実験結果を示す表である。以下のように、No.1~No.7に係る正極活物質および全固体電池が製造された。
【0061】
No.1
10.8質量部の縮合リン酸化合物(ラサ工業社製)が、166質量部のイオン交換水に溶解されることにより、コーティング液が準備された。
【0062】
なお、縮合リン酸化合物の製造手順は次のとおりであった。オルトリン酸および水酸化リチウム・1水和物が混合されることにより、混合物が調製された。混合物における水酸化リチウム・1水和物の質量分率は、6%であった。混合物が磁器製の坩堝に入れられた。坩堝が電気炉内で6時間保管された。電気炉の設定温度は、300℃であった。オルトリン酸の脱水縮合反応により、縮合リン酸化合物が生成された。図4の脱水縮合条件における「温度」は、電気炉の設定温度(加熱温度)を示し、「時間」は保持時間(加熱時間)を示す。
【0063】
50質量部の活物質粒子(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)が、53.7質量部のコーティング液に分散されることにより、懸濁液が準備された。懸濁液がスプレードライヤ(製品名「Mini Spray Dryer B-290」、BUCHI社製)に供給されることにより、正極活物質が製造された。スプレードライヤの給気温度は200℃であり、給気風量は0.45m3/minであった。正極活物質が空気中で熱処理された。熱処理温度は200℃であった。
【0064】
正極活物質、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75Li3PS4)、導電材(VGCF)、バインダ(SBR)および分散媒(ヘプタン)が混合されることにより、正極スラリーが準備された。正極活物質と硫化物固体電解質との混合比は「正極活物質/硫化物固体電解質=6/4(体積比)」であった。導電材およびバインダの配合量は、それぞれ、100質量部の正極活物質に対して、3質量部であった。超音波ホモジナイザにより、正極スラリーが十分攪拌された。正極スラリーが正極集電体(Al箔)の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより正極原反が製造された。正極原反から、円盤状の正極が切り出された。正極の面積は1cm2であった。
【0065】
負極およびセパレータ層が準備された。負極活物質は黒鉛であった。正極、セパレータ層および負極の間で、同種の硫化物固体電解質が使用された。筒状治具内において、正極、セパレータ層および負極がこの順に積層されることにより、積層体が形成された。積層体がプレスされることにより、発電要素が形成された。発電要素に端子が接続されることにより、全固体電池が形成された。
【0066】
No.2~No.6
図4に示されるように、脱水縮合条件が変更されることを除いては、No.1と同様に、正極活物質および全固体電池が製造された。
【0067】
No.7
10.8質量部の縮合リン酸化合物が、166質量部のイオン交換水に溶解されることにより、リン酸溶液が準備された。さらに「CP/CB=1」となるように、リン酸溶液にホウ酸(ナカライテスク社製)が溶解されることにより、コーティング液が準備された。これらを除いては、No.4と同様に、正極活物質および全固体電池が製造された。
【0068】
<評価>
縮合リン酸化合物において、P25濃度、Li濃度およびSi濃度が測定された。XPS装置により、正極活物質のLi組成比、Si組成比および被覆率が測定された。全固体電池の抵抗(電池抵抗)が測定された。測定結果は、図4に示される。
【0069】
<結果>
図5は、Si組成比と電池抵抗との関係を示すグラフである。図5には、No.1~No.6の結果がプロットされている。Si組成比(CSi/CX)が0より大きい時、電池抵抗が顕著に低減する傾向がみられる。
【0070】
図6は、P25濃度と電池抵抗との関係を示すグラフである。図6には、No.1~No.6の結果がプロットされている。P25濃度が83%以上である時、電池抵抗が顕著に低減する傾向がみられる。
【符号の説明】
【0071】
1 活物質粒子、2 コーティング膜、5 正極活物質、10 正極、20 負極、30 セパレータ層、50 発電要素、100 電池(全固体電池)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6