(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022620
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】ヒータ装置及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
H05B 3/00 20060101AFI20250206BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20250206BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20250206BHJP
A47C 27/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H05B3/00 310H
H05B3/00 310D
A47C7/74 B
B60N2/56
A47C27/00 F
H05B3/00 355Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127356
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高月 涼太
(72)【発明者】
【氏名】山口 涼太
(72)【発明者】
【氏名】一戸 哲
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 まり乃
(72)【発明者】
【氏名】アルタンホヤグ ビレグーン
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
3B096
3K058
【Fターム(参考)】
3B084JF02
3B084JF04
3B087DE09
3B087DE10
3B096AC14
3K058AA91
3K058AA94
3K058BA01
3K058CA04
3K058CA22
3K058CB02
3K058CE03
3K058CE12
3K058CE19
3K058CE29
(57)【要約】
【課題】面状発熱体の発熱層の損傷による異常発熱を簡素な構成で防止する。
【解決手段】ヒータ装置20は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体24と、面状発熱体に重なって配置された九十九折部32を有し、面状発熱体24に対して電気的に接続された導電性を有する線材30と、を備え、線材30が切断されることで面状発熱体32への通電が遮断される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体と、
前記面状発熱体に重なって配置された重なり部を有し、前記面状発熱体に対して電気的に接続された導電性を有する線材と、
を備え、前記線材が切断されることで前記面状発熱体への通電が遮断されるヒータ装置。
【請求項2】
前記線材に対して電気的に直列に接続されたヒューズを備える請求項1に記載のヒータ装置。
【請求項3】
前記線材は、熱伝導性を有し、前記線材に接続された温度ヒューズ又はサーモスタットを備える請求項1に記載のヒータ装置。
【請求項4】
複数の面状発熱体を備え、
前記線材は、前記複数の面状発熱体のそれぞれに重なって配置された複数の前記重なり部を有する請求項1~請求項3の何れか1項に記載のヒータ装置。
【請求項5】
前記重なり部は、前記九十九折りに曲がった九十九折部である請求項1~請求項3の何れか1項に記載のヒータ装置。
【請求項6】
前記九十九折部は、前記通電によって前記面状発熱体に流れる電流の方向に沿って延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の延在部を有する請求項5に記載のヒータ装置。
【請求項7】
前記九十九折部は、前記面状発熱体の表面に沿った沿面方向に延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の延在部を有し、各前記延在部がジグザグ状に曲がっている請求項5に記載のヒータ装置。
【請求項8】
前記九十九折部は、
前記面状発熱体の表面に沿った第1方向に沿って延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の第1延在部を有する第1九十九折部と、
前記面状発熱体の表面に沿い且つ前記第1方向と交差する第2方向に沿って延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がた複数の第2延在部を有する第2九十九折部と、
を備え、
前記第1九十九折部と前記第2九十九折部とが、互いに絶縁され且つ前記面状発熱体の面直方向に重なって配置されている請求項5に記載のヒータ装置。
【請求項9】
炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体と、
前記面状発熱体に重なって配置された重なり部を有し、熱伝導性を有する線材と、
前記面状発熱体と電気的に直列に接続され、前記線材の一部に近接して配置された温度ヒューズ又はサーモスタットと、
を備えたヒータ装置。
【請求項10】
車両の乗員が着座するシートクッション及び前記乗員の背部を支持するシートバックを有するシート本体と、
前記面状発熱体が前記シート本体に配設された請求項1又は請求項9に記載のヒータ装置と、
を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体を備えたヒータ装置、及び該ヒータ装置を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたヒータ駆動装置は、給電制御装置として機能し、電熱線への給電を制御する。このヒータ駆動装置では、電流出力回路及び検出抵抗は、電流検出部として機能し、電熱線を流れる電流を検出する。マイコンは、検出された電流に基づいて、電熱線に関する電熱線温度を繰り返し算出する。駆動回路は、切替え部として機能し、算出した電熱線温度に応じてスイッチをオン又はオフに切替える。これにより、電熱線の近傍に温度検出素子を配置することなく、電熱線温度を適切な温度に維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術のように、ヒータ装置が電熱線を有する場合、電熱線が断線すると電流が流れなくなるため、異常発熱は生じない。しかしながら、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体(例えばカーボンナノチューブフィルムヒータ)を備えたヒータ装置では、面状発熱体の一部に切込みや穴等の損傷が生じても、損傷が生じていない部分は通電される。このため、損傷箇所の端部で異常発熱が生じる可能性がある。
【0005】
上記のような異常発熱を防止するための対策としては、例えばヒータ装置の基布を分厚くする等によってヒータ装置の強度を上げることにより、切れ込みや穴が空かないようにする対策が挙げられるが、切込みや穴が空いた際の異常発熱への抜本的な解決にはなっていない。また例えば、面状発熱体の付近に面状の温度センサを配置し、切れ込みや穴が空いた際の温度上昇を検出し、制御装置によってヒータ装置への通電を遮断する対策もあるが、ヒータ装置の製造コストが大幅に増加する原因となる。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、面状発熱体の発熱層の損傷による異常発熱を簡素な構成で防止することができるヒータ装置及びこれを備えた車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様のヒータ装置は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体と、前記面状発熱体に重なって配置された重なり部を有し、前記面状発熱体に対して電気的に接続された導電性を有する線材と、を備え、前記線材が切断されることで前記面状発熱体への通電が遮断される。
【0008】
なお、第1の態様の「炭素素材」には、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンブラック、グラフェン等が含まれる。
【0009】
第1の態様のヒータ装置では、面状発熱体は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有している。導電性を有する線材は、面状発熱体に重なって配置された重なり部を有しており、面状発熱体に対して電気的に接続されている。このヒータ装置では、面状発熱体の発熱層が刃物等によって損傷する際に、上記線材の重なり部が刃物等で切断されることにより、面状発熱体への通電が遮断される。これにより、面状発熱体の異常発熱を簡素な構成で防止することができる。
【0010】
第2の態様のヒータ装置は、第1の態様において、前記線材に対して電気的に直列に接続されたヒューズを備える。
【0011】
第2の態様のヒータ装置では、面状発熱体の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材の重なり部が刃物等で切断されなかった場合、面状発熱体の温度上昇によって線材の温度が上昇し、線材の抵抗値が下がることにより、線材を流れる電流が増大する。その結果、線材に対して電気的に直列に接続されたヒューズが切れることにより、面状発熱体への通電が遮断される。これにより、線材が切断されなかった場合でも、面状発熱体の異常発熱を簡素な構成で防止することができる。
【0012】
第3の態様のヒータ装置は、第1の態様において、前記線材は、熱伝導性を有し、前記線材に接続された温度ヒューズ又はサーモスタットを備える。
【0013】
第3の態様のヒータ装置では、面状発熱体の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材の重なり部が刃物等で切断されなかった場合、面状発熱体の温度上昇によって、熱伝導性を有する線材の温度が上昇する。その結果、線材に接続された温度ヒューズ又はサーモスタットが、線材から伝わる熱によって切れることにより、面状発熱体への通電が遮断される。これにより、線材が切断されなかった場合でも、面状発熱体の異常発熱を簡素な構成で防止することができる。
【0014】
第4の態様のヒータ装置は、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様において、複数の面状発熱体を備え、前記線材は、前記複数の面状発熱体のそれぞれに重なって配置された複数の前記重なり部を有する。
【0015】
第4の態様のヒータ装置では、線材が有する複数の重なり部が複数の面状発熱体のそれぞれに重なって配置されている。これにより、複数の面状発熱体の何れかが損傷した場合に、当該面状発熱体への通電を遮断し、異常発熱を防止することができる。
【0016】
第5の態様のヒータ装置は、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様において、前記重なり部は、前記九十九折りに曲がった九十九折部である。
【0017】
第5の態様のヒータ装置では、九十九折りに曲がった線材の九十九折部が面状発熱体に重なって配置されている。これにより、面状発熱体の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材の九十九折部が刃物等で切断され易くなり、面状発熱体への通電が遮断され易くなる。
【0018】
第6の態様のヒータ装置は、第5の態様において、前記九十九折部は、前記通電によって前記面状発熱体に流れる電流の方向に沿って延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の延在部を有する。
【0019】
第6の態様のヒータ装置では、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体に対して、当該面状発熱体に流れる電流の方向と交差する方向の切込みが生じた場合、前記電流の方向に沿った方向の切込みが生じた場合よりも、面状発熱体の発熱が大きくなり易い。この面状発熱体に重なる線材の九十九折部は、上記電流の方向に沿って延在し、九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の延在部を有している。このため、上記のように面状発熱体の発熱が大きくなり易い切込みが生じた際に複数の延在部の何れかが切断され易くなり、面状発熱体への通電が遮断され易くなる。
【0020】
第7の態様のヒータ装置は、第5の態様において、前記九十九折部は、前記面状発熱体の表面に沿った沿面方向に延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の延在部を有し、各前記延在部がジグザグ状に曲がっている。
【0021】
第7の態様のヒータ装置では、面状発熱体に重なる線材の九十九折部は、面状発熱体の表面に沿った沿面方向に延在し、九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の延在部を有しており、各延在部がジグザグ状に曲がっている。これにより、面状発熱体が刃物等で損傷する場合に、複数の延在部の何れかが切断され易くなり、面状発熱体への通電が遮断され易くなる。
【0022】
第8の態様のヒータ装置は、第5の態様において、前記九十九折部は、前記面状発熱体の表面に沿った第1方向に沿って延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がった複数の第1延在部を有する第1九十九折部と、前記面状発熱体の表面に沿い且つ前記第1方向と交差する第2方向に沿って延在し、前記九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がた複数の第2延在部を有する第2九十九折部と、を備え、前記第1九十九折部と前記第2九十九折部とが、互いに絶縁され且つ前記面状発熱体の面直方向に重なって配置されている。
【0023】
第8の態様のヒータ装置では、面状発熱体に重なる線材の九十九折部は、複数の第1延在部と複数の第2延在部とを有している。複数の第1延在部は、面状発熱体の表面に沿った第1方向に沿って延在しており、九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がっている。複数の第2延在部は、面状発熱体の表面に沿い且つ第1方向と交差する第2方向に沿って延在し、九十九折りの曲げ部を介して互いに繋がっている。第1九十九折部と第2九十九折部とは、互いに絶縁され且つ面状発熱体の面直方向に重なって配置されている。これにより、面状発熱体が刃物等で損傷する場合に、複数の第1延在部及び複数の第2延在部の何れかが切断され易くなり、面状発熱体への通電が遮断され易くなる。
【0024】
第9の態様の車両用シートは、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体と、前記面状発熱体に重なって配置された重なり部を有し、熱伝導性を有する線材と、前記面状発熱体と電気的に直列に接続され、前記線材の一部に近接して配置された温度ヒューズ又はサーモスタットと、を備えている。
【0025】
第9の態様の車両用シートでは、面状発熱体は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有している。熱伝導性を有する線材は、面状発熱体に重なって配置された重なり部を有している。温度ヒューズ又はサーモスタットは、面状発熱体と電気的に直列に接続されており、線材の一部に近接して配置されている。このヒータ装置では、面状発熱体の発熱層が刃物等によって損傷すると、面状発熱体の温度上昇によって、線材の温度が上昇する。その結果、線材の一部に近接して配置された温度ヒューズ又はサーモスタットが線材から伝わる熱によって切れることにより、面状発熱体への通電が遮断される。これにより、面状発熱体の異常発熱を簡素な構成で防止することができる。
【0026】
第10の態様の車両用シートは、車両の乗員が着座するシートクッション及び前記乗員の背部を支持するシートバックを有するシート本体と、前記面状発熱体が前記シート本体に配設された第1の態様~第9の態様の何れか1つの態様のヒータ装置と、を備えている。
【0027】
第10の態様の車両用シートでは、シート本体は、車両の乗員が着座するシートクッションと、乗員の背部を支持するシートバックとを有している。このシート本体には、ヒータ装置の面状発熱体が配設されている。このヒータ装置は、第1の態様~第9の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した効果が得られる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、面状発熱体の発熱層の損傷による異常発熱を簡素な構成で防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態に係る車両用シートの構成を示す側面図である。
【
図2】実施形態に係るヒータ装置の構成を示す平面図である。
【
図3】
図2に示される構成の一部を拡大して示す平面図である。
【
図4】実施形態に係るヒータ装置の概略的な構成を示す配線図である。
【
図5】
図4に示される構成の一部を示す配線図である。
【
図7】ヒータ装置がヒューズを備える例を示す平面図である。
【
図8A】
図7に示されるヒータ装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図8B】ヒータ装置がヒューズ又はサーモスタットを備える例を示すブロック図である。
【
図9】線材が有する複数の延在部がジグザグ状に形成された例を示す配線図である。
【
図10】ヒータ装置が電流の増幅手段を有する例を示す配線図である。
【
図11】ヒータ装置がECUを有する例を示す配線図である。
【
図12】線材の第1九十九折部を示す平面図である。
【
図13】線材の第2九十九折部を示す平面図である。
【
図15】第1九十九折部と第2九十九折部と面状発熱体との重ね合わせについて説明するための説明図である。
【
図16】第1九十九折部と第2九十九折部とが直列に接続された例を示す平面図である。
【
図17】第1九十九折部と第2九十九折部とが別々の回路とされた例を示す平面図である。
【
図18】第1九十九折部と第2九十九折部とが同じ基材上に設けられた例を示す平面図である。
【
図19】面状発熱体と線材とが電気的に接続されていない例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、
図1~
図18を参照して本発明の実施形態に係る車両用シート10及びヒータ装置20について説明する。なお、
図1に示される矢印FR及びUPは、車両用シート10の前方及び上方を示している。
【0031】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、シート本体12と、ヒータ装置20とを備えている。シート本体12は、車両の乗員が着座するシートクッション14と、乗員の背部を支持するシートバック16と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト18とを有している。シートクッション14には、ヒータ装置20が配設されている。ヒータ装置20は、例えばシートクッション14の表皮とパッド材との間に介在している。なお、ヒータ装置20がシートバック16に配設された構成にしてもよいし、ヒータ装置20がシートクッション14及びシートバック16の両方に配設された構成にしてもよい。
【0032】
図2及び
図3に示されるように、ヒータ装置20は、基布22と、基布22上に接着等の手段で貼り付けられた複数の面状発熱体24と、複数の面状発熱体24にそれぞれ重なって配置された複数の九十九折部32を有する線材30とを備えている。複数の面状発熱体24は、互いに電気的に直列、並列又は直並列に接続されている。各面状発熱体24は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有している。各面状発熱体24は、ここではカーボンナノチューブ(carbon nanotube:CNT)フィルムヒータであり、
図4に示されるように、カーボンナノチューブフィルム26と、一対の電極28とを有している。なお
図4では、説明を理解し易くするため、面状発熱体24及び九十九折部32をそれぞれ1つだけ図示している。
【0033】
本実施形態では、シートクッション14の表層側から表皮、線材30、面状発熱体24、基材22、パッド材の順で配置されている。線材30を面状発熱体24よりも表皮側に配置することで、面状発熱体24の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材30の九十九折部32が刃物等で切断され易くなるため、安全性が向上する。なお、シートクッション14の表層側から表皮、面状発熱体24、線材30、基材22、パッド材の順で配置される構成にしてもよい。この配置の場合、熱源である面状発熱体24が線材30よりも乗員側に位置するため、暖房効率が向上する。また、シートクッション14に着座した乗員が線材30によって異物感を感じ難くなる。
【0034】
カーボンナノチューブフィルム26は、例えば基材層及び絶縁層(何れも図示省略)と、発熱層とが積層されて構成されている。基材層及び絶縁層は、例えばポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドをフィルムまたは布様にしたもの(不織布を含む)によって構成されている。発熱層は、例えば基材層上に施されたカーボンナノチューブのコーティング膜によって構成されている。カーボンナノチューブは、中空円筒の構造をした炭素の結晶であり、電流が流れると発熱する発熱体である。カーボンナノチューブは、発熱層の各部に張り巡らされるように分散されている。このカーボンナノチューブフィルム26では、電流経路に垂直又は略垂直な切込みが生じると、抵抗値が上昇し局所的な温度上昇が発生するが、電流経路に水平又は略水平な切込みが生じても、抵抗値が殆ど上昇しない。
【0035】
一対の電極28は、導電性を有する材料によって長尺薄板状に形成されたバスバーである。一対の電極28は、カーボンナノチューブフィルム26の表面に沿った対向方向に対向して対をなしており、発熱層における前記沿面方向の両端部にそれぞれ接続されている。
【0036】
上記構成の面状発熱体24では、一対の電極28間に電圧が印加され、上記対向方向に沿って発熱層に電流が流れている状態において、当該電流に対して垂直又は略垂直な方向の切込みが生じると、発熱層の抵抗値が大きく上昇し、発熱層に局所的な温度上昇が生じる。また、この面状発熱体24では、一対の電極28間に電圧が印加され、上記対向方向に沿って発熱層に電流が流れている状態において、当該電流に対して平行又は略平行な方向の切込みが生じると、発熱層の抵抗値は殆ど上昇せず、発熱層に局所的な温度上昇が生じない。
【0037】
線材(配線)30は、例えば導電性を有する金属等の材料によって構成されており、各々が九十九折りに曲がった複数の九十九折部32を有している。九十九折部32は、本発明における「重なり部」に相当する。この九十九折部32は、面状発熱体24の発熱層に刃物等が刺さって生じる損傷よりも小さなピッチで九十九折りに曲がっていることが好ましい。
【0038】
複数の九十九折部32は、複数の面状発熱体に対して図示しない絶縁層を介して重なっている。各九十九折部32は、接着剤、粘着テープ、両面粘着テープ、塗布、印刷等の手段で各面状発熱体24上に設けられている。なお、各九十九折部32は、面状発熱体24とは別の基布に縫い込み、接着、粘着、塗布、印刷等により構成され、当該基布が面状発熱体24上に積層されてもよい。
【0039】
各九十九折部32は、各面状発熱体24の一対の電極28の対向方向(すなわち通電によって面状発熱体24に流れる電流の方向)に沿って延在し、九十九折りの曲げ部32Aを介して互いに繋がった複数の延在部32Bを有している。なお、本発明における「重なり部」は、九十九折部32に限るものではなく、九十九折り以外の曲がり方で曲がったものでもよい。
【0040】
上記の線材30は、複数の面状発熱体24に対して電気的に直列に接続されている。具体的には、面状発熱体24の一方の電極28が電源Pのプラス端子と電気的に接続され、面状発熱体24の他方の電極28に線材30の一端部が接続され、線材30の他端部が電源Pのマイナス端子と電気的に接続されている。この電源Pがオンにされると、線材30を通して複数の面状発熱体24に通電される構成になっている。
【0041】
上記構成の車両用シート10では、シートクッション14にヒータ装置20が配設されている。このヒータ装置20は、カーボンナノチューブが満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体24と、面状発熱体24に対して絶縁され且つ九十九折りに曲がった状態で面状発熱体24に重なって配置された九十九折部32を有し、面状発熱体24に対して電気的に直列に接続された導電性を有する線材30と、を備えている。このヒータ装置20では、線材30を通して面状発熱体24に通電される。この面状発熱体24の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材30の九十九折部32が刃物等で切断されることにより、面状発熱体24への通電が遮断される。これにより、面状発熱体24の異常発熱を簡素な構成で防止することができ、安全性を確保することができる。
【0042】
また、このヒータ装置20では、複数の面状発熱体24が互いに直列、並列又は直並列に接続されており、線材30が有する複数の九十九折部32が複数の面状発熱体24のそれぞれに重なって配置されている。これにより、複数の面状発熱体24の何れかが損傷した場合に、当該面状発熱体24への通電を遮断し、異常発熱を防止することができる。
【0043】
また、このヒータ装置20では、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体24に対して、当該面状発熱体24に流れる電流の方向(
図5の矢印I参照)と交差する方向の切込みC1が生じた場合、当該電流の方向Iに沿った方向の切込みC2が生じた場合よりも、面状発熱体24の発熱が大きくなり易い。この面状発熱体24に重なる線材30の九十九折部32は、電流の方向Iに沿って延在し、九十九折りの曲げ部32Aを介して互いに繋がった複数の延在部32Bを有している。このため、上記のように面状発熱体24の発熱が大きくなり易い切込みC1が生じた際に複数の延在部32Bの何れかが切断され易くなり、面状発熱体24への通電が遮断され易くなる。これにより、安全性を一層確保することができる。
【0044】
つまり、
図6に示される比較例のように、線材30の九十九折部32が電流の方向Iと交差する方向に沿って延在する複数の延在部32Cを有する場合、面状発熱体24の発熱が大きくなり易い切込みC1が生じた際に、複数の延在部32Cの何れかが切断され難くなり、面状発熱体24への通電が遮断され難くなるが、本実施形態ではこれを回避することができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、互いに直列、並列、直並列に接続された複数の面状発熱体24に対して複数の九十九折部32を有する線材30が直列に接続された構成にしたが、これに限らず、互いに並列に接続された複数の面状発熱体24のそれぞれに対して各九十九折部32が個別に直列に接続された構成にしてもよい。その場合、複数の面状発熱体24の何れかが損傷した場合に、当該何れかの面状発熱体24に重なる九十九折部32が切断されることで、当該何れかの面状発熱体24のみへの通電を遮断することができ、他の面状発熱体24への通電を継続することができる。
【0046】
(各種変形例)
次に、上記実施形態の各種変形例について説明する。なお、上記実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、上記実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0047】
図7及び
図8Aに示される例では、ヒータ装置20がヒューズ34を備えている。ヒューズ34は、線材30と電源Pとの間に接続されており、線材30に対して直列に接続されている。この例では、面状発熱体24の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材30の九十九折部32が刃物等で切断されなかった場合、面状発熱体24の温度上昇によって線材30の温度が上昇し、線材30の抵抗値が下がることにより、線材30を流れる電流が増大する。その結果、線材30に対して電気的に直列に接続されたヒューズ34が切れることにより、面状発熱体24への通電が遮断される。これにより、線材30が切断されなかった場合でも、面状発熱体24の異常発熱を簡素な構成で防止することができ、安全性を確保することができる。
【0048】
図8Bに示される例では、ヒータ装置20が温度ヒューズ(又はサーモスタット)36を備えている。温度ヒューズ(又はサーモスタット)36は、線材30と電源Pとの間に接続されており、線材30に対して直列に接続されている。この線材30は、熱伝導性を有している。この例では、面状発熱体24の発熱層が刃物等によって損傷する際に、線材30の九十九折部32が刃物等で切断されなかった場合、面状発熱体24の温度上昇によって、熱伝導性を有する線材30の温度が上昇する。その結果、線材30に接続された温度ヒューズ(又はサーモスタット)36が、線材30から伝わる熱によって切れることにより、面状発熱体24への通電が遮断される。これにより、線材30が切断されなかった場合でも、面状発熱体24の異常発熱を簡素な構成で防止することができ、安全性を確保することができる。
【0049】
図9に示される例では、面状発熱体24に重なる線材30の九十九折部32は、面状発熱体24の表面に沿った沿面方向(ここでは一対の電極28の対向方向)に沿って延在し、九十九折りの曲げ部32Aを介して互いに繋がった複数の延在部32Dを有しており、各延在部32Dがジグザグ状に曲がっている。複数の延在部32Dのジグザグの幅と九十九折りのピッチは、面状発熱体24の発熱層に刃物等が刺さって生じる損傷の大きさを想定して設定されている。これにより、面状発熱体24が刃物等で損傷する場合に、複数の延在部32Dの何れかが切断され易くなり、面状発熱体24への通電が遮断され易くなるので、安全性を一層確保することができる。
【0050】
図10に示される例では、ヒータ装置20が電流の増幅手段であるリレー38を有しており、リレー38によって増幅された電流が面状発熱体24に流れる一方、リレー38によって増幅されていない電流が線材30に流れるように構成されている。これにより、線材30には流せないような大きな電流で面状発熱体24を発熱させることができる。なお、増幅手段はリレー38に限らず、トランジスタ等であってもよい。
【0051】
図11に示される例では、ヒータ装置20が制御装置であるECU(Electronic Control Unit)40を有しおり、線材30に流れる電流と、面状発熱体24に流れる電流とがECU40に入力されるように構成されている。ECU40は、線材30に流れる電流に基づいて線材30の電気抵抗値を検知し、その検知結果に基づいて面状発熱体24に流れる電流等を制御する。これにより、面状発熱体24に流れる電流等を高精度に制御することができる。
【0052】
図12~
図17に示される例では、線材30の九十九折部32が備える第1九十九折部321と第2九十九折部322とが面状発熱体24に重ねられている。第1九十九折部321と第2九十九折部322とは、面状発熱体24とは別の基材42、44に縫い込み、接着、粘着、塗布、印刷等の手段で配設されている。第1九十九折部321は、通電によって面状発熱体に流れる電流の方向Iに沿って延在し、九十九折りの曲げ部32Aを介して互いに繋がった複数の第1延在部32Bを有している。第2九十九折部322は、上記電流の方向Iと交差する方向に沿って延在し、九十九折りの曲げ部32Aを介して互いに繋がった複数の第2延在部32Cを有している。第1九十九折部321と第2九十九折部322とは、互いに絶縁された状態で面状発熱体24の面直方向に重なって配置されている。第1九十九折部321と第2九十九折部322との間及び第2九十九折部322と面状発熱体24との間にはそれぞれ図示しない絶縁層が介在されている。
【0053】
第1九十九折部321と第2九十九折部322とは、
図16に示されるように、配線46を介して直列に接続されてもよいし、
図17に示されるように別々の回路とされてもよいが、面状発熱体24に対しては直列に接続されている。この面状発熱体24の面直方向から見た場合、複数の第1延在部32Bと複数の第2延在部32Cとによって複数の閉じた図形(ここでは格子状の図形)が形成されている。これにより、面状発熱体24が刃物等で損傷する場合に、複数の第1延在部32B及び第2延在部32Cの何れかが切断され易くなり、面状発熱体への通電が遮断され易くなる。
【0054】
なお、
図18に示されるように、第1九十九折部321と第2九十九折部322とが同じ基材48に貼り付けられ、当該基材48が折れ線Lにおいて折られることにより、第1九十九折部321と第2九十九折部322とが重ね合わされる構成にしてもよい。その場合、第1九十九折部321と第2九十九折部322との間にシート状の絶縁層50が挟まれる構成となる。
【0055】
図19に示される例では、面状発熱体24に九十九折部32(重なり部)が重なって配置された線材30’は、熱伝導性を有しており、面状発熱体24とは電気的に接続されていない。この例では、面状発熱体24及び電源Pに対して電気的に直列に接続された温度ヒューズ(又はサーモスタット)36を備えており、線材30’の一部が温度ヒューズ(又はサーモスタット)36に近接して配置されている。この例では、面状発熱体24の発熱層26が刃物等によって損傷すると、面状発熱体24の温度上昇によって、線材30’の温度が上昇する。その結果、線材30’の一部に近接して配置されたヒューズ(又はサーモスタット)36が線材30’から伝わる熱によって切れることにより、面状発熱体24への通電が遮断される。これにより、面状発熱体24の異常発熱を簡素な構成で防止することができる。
【0056】
以上、実施形態及び変形例を挙げて本発明について説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態及び変形例に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
10 車両用シート
12 シート本体
14 シートクッション
16 シートバック
20 ヒータ装置
24 面状発熱体
30 線材
32 九十九折部(重なり部)
321 第1九十九折部
322 第2九十九折部
32A 曲げ部
32B 延在部
32C 延在部
32D 延在部
34 ヒューズ
36 温度ヒューズ又はサーモスタット