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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002267
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20241226BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20241226BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241226BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20241226BHJP
   C22C 29/16 20060101ALN20241226BHJP
【FI】
C04B35/5831
C22C1/051 L
B23B27/14 B
B23B27/20
C22C29/16 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102325
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 貴英
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF37
3C046FF38
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF42
3C046FF44
3C046FF45
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF51
3C046FF53
3C046HH06
4K018AB02
4K018AB03
4K018AC01
4K018AD15
4K018BA04
4K018BA08
4K018BC13
4K018CA02
4K018DA01
4K018EA16
4K018FA21
4K018KA14
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】工具寿命を長くすることのできる立方晶窒化硼素焼結体を提供する。
【解決手段】cBNと結合相とを含み、焼結体の総量に対して、cBNの含有割合は80~94体積%、結合相の含有割合は6~20体積%であり、結合相は金属相とV化合物とAl化合物とを含み、金属相はNi、Ni含有合金及び固溶体からなる群より選ばれる1以上を含み、Ni含有合金及び固溶体はNiと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選ばれる1以上の元素とを含み、V化合物はVN、VCN及びVCからなる群より選ばれる1以上を含み、Al化合物はAl23、AlN及びAlB2からなる群より選ばれる1以上を含み、金属相の200面の最大ピーク位置2θが51.60°未満で、V化合物の220面のピーク強度をI1、金属相の200面のピーク強度をI2としたときI1/(I1+I2)が0.40~0.80であるcBN焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素の含有割合は、前記焼結体の総量に対して80体積%以上94体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記焼結体の総量に対して6体積%以上20体積%以下であり、
前記結合相は、金属相と、V化合物と、Al化合物と、を含み、
前記金属相は、Ni金属、Ni含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、
前記Ni含有合金及び前記Ni含有固溶体は、Niと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、
前記V化合物は、VN、VCN、及びVCからなる群より選択される1種以上を含み、
前記Al化合物は、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選択される1種以上を含み、
X線回折における前記金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.60°未満であり、
前記V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度をI1、前記金属相の(200)面のX線回折ピーク強度をI2としたとき、
1/(I1+I2)が0.40以上0.80以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
X線回折における前記金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)が、0.40°以上0.70°以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素の(220)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、
1/I3が0.70以上1.50以下である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
X線回折における前記V化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)が、63.40°未満である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
X線回折における前記金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.40°未満である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下「cBN」ともいう。)は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度と優れた熱伝導性を持つ。また、立方晶窒化硼素は、ダイヤモンドに比べて鉄との親和性が低いという特徴を持つ。そのため、立方晶窒化硼素と、金属やセラミックスの結合相とからなる立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具や耐摩耗工具などに用いられている。
【0003】
近年は、耐熱合金など、難削材に対する切削工具性能の向上の要求が強まっている。特に成形性が高い焼結金属の加工においては、被削材が複雑な形状を有していることが多いため、工具によって加工した場合に、熱衝撃によって工具に欠損が生じ易い。また、焼結金属は硬質粒子を含むことがあるため、工具が摩耗し易い。そのため、焼結金属の加工には立方晶窒化硼素が用いられることが多く、特に、立方晶窒化硼素含有率の高い立方晶窒化硼素焼結体について多くの検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、立方晶窒化硼素、Al23、AlON、SiAlON、TiC、TiCN、TiN、WC及びダイヤモンドからなる群から選択される1種類以上よりなる硬質粒子と、(Co,Ni)3(Al,W,V,Ti)で表される金属相とを含む、焼結体について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-208889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の焼結体において、硬質粒子が立方晶窒化硼素(cBNとも称する)である場合、cBN粒子同士の結合強度が不十分となる場合があり、耐欠損性に改善の余地がある。
【0007】
本発明は、工具寿命を長くすることのできる立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、cBN焼結体が特定の構成を含むことで、工具寿命を長くすることのできる立方晶窒化硼素焼結体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素の含有割合は、前記焼結体の総量に対して80体積%以上94体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記焼結体の総量に対して6体積%以上20体積%以下であり、
前記結合相は、金属相と、V化合物と、Al化合物と、を含み、
前記金属相は、Ni金属、Ni含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、
前記Ni含有合金及び前記Ni含有固溶体は、Niと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、
前記V化合物は、VN、VCN、及びVCからなる群より選択される1種以上を含み、
前記Al化合物は、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選択される1種以上を含み、
X線回折における前記金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.60°未満であり、
前記V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度をI1、前記金属相の(200)面のX線回折ピーク強度をI2としたとき、
1/(I1+I2)が0.40以上0.80以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
[2]
X線回折における前記金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)が、0.40°以上0.70°以下である、[1]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[3]
前記立方晶窒化硼素の(220)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、
1/I3が0.70以上1.50以下である、[1]又は[2]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[4]
X線回折における前記V化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)が、63.40°未満である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[5]
X線回折における前記金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.40°未満である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工具寿命を長くすることができる立方晶窒化硼素焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
[立方晶窒化硼素焼結体]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、立方晶窒化硼素の含有割合は、焼結体の総量に対して80体積%以上94体積%以下であり、結合相の含有割合は、焼結体の総量に対して6体積%以上20体積%以下であり、結合相は、金属相と、V化合物と、Al化合物と、を含み、金属相は、Ni金属、Ni含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、Ni含有合金及びNi含有固溶体は、Niと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、V化合物は、VN、VCN、及びVCからなる群より選択される1種以上を含み、Al化合物は、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選択される1種以上を含み、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.60°未満であり、V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度をI1、金属相の(200)面のX線回折ピーク強度をI2としたとき、I1/(I1+I2)が0.40以上0.80以下である。
【0013】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上記の構成を含むことによって、工具寿命を長くすることができる。
【0014】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体が、工具寿命を長くすることができる要因は、詳細には明らかではないが、本発明者はその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有割合が、焼結体の総量に対して80体積%以上であることで、cBN焼結体の硬さが向上するため、耐摩耗性に優れる。上記立方晶窒化硼素の含有割合が焼結体の総量に対して94体積%以下であることで、相対的に結合相の含有割合が高くなるため、cBN粒子の脱落が抑制され、耐摩耗性に優れる。
結合相の含有割合が、焼結体の総量に対して6体積%以上であることで、cBN粒子の脱落が抑制され、耐摩耗性に優れる。上記結合相の含有割合が、焼結体の総量に対して20体積%以下であることで、相対的にcBNの含有割合が高くなり、cBN焼結体の硬さが向上するため、耐摩耗性に優れる。
X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.60°未満であることで、耐熱性が向上し、耐摩耗性に優れる。
V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度をI1、金属相の(200)面のX線回折ピーク強度をI2としたとき、I1/(I1+I2)が0.40以上であることで、cBN同士の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。また、結合相によるcBN粒子の脱落抑制の効果が高くなるため、耐摩耗性も向上する。
1/(I1+I2)が0.80以下であることで、焼結性が向上するため、焼結体の靭性が向上し、耐欠損性に優れる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上述の効果が相俟った結果、耐欠損性に優れる。
【0015】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、cBNと結合相とを含む。なお、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、cBNと結合相との合計の含有割合は100体積%となる。
結合相は、金属相と、V化合物と、Al化合物と、を含む。
【0016】
Al化合物の含有割合(体積%)は、焼結体の総量に対して、好ましくは0.5体積%以上5.0体積%以下であり、より好ましくは0.8体積%以上4.3体積%以下であり、さらに好ましくは0.8体積%以上3.2体積%以下である。
【0017】
金属相及びV化合物の合計の含有割合は、焼結体の総量に対して、好ましくは5.0体積%以上18.0体積%以下であり、より好ましくは5.2体積%以上16.3体積%以下であり、さらに好ましくは6.6体積%以上12.5体積%以下である。
【0018】
金属相は、Ni金属、Ni含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、Ni含有合金及びNi含有固溶体は、Niと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、V化合物は、VN、VCN、及びVCからなる群より選択される1種以上を含み、Al化合物は、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選択される1種以上を含む。
【0019】
[立方晶窒化硼素(cBN)]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素の含有割合が80体積%以上であることにより、結合相の割合が相対的に少なくなるため、硬さが向上し、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有割合が94体積%以下であることにより、立方晶窒化硼素粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。さらに、切削加工において、被加工物の加工面の表面粗さが小さくなり、加工後の外観も良好となる傾向にある。同様の観点から、立方晶窒化硼素の含有割合は、80.5体積%以上93.7体積%以下であることが好ましく、83.2体積%以上92.3体積%以下であることがより好ましい。
【0020】
[結合相]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が6体積%以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。一方、立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が20体積%以下であることにより、相対的にcBNの含有割合を多くし、硬さが向上した結果、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、結合相の含有割合は、6.3体積%以上19.5体積%以下であることが好ましく、7.7体積%以上16.8体積%以下であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相において、金属相と、V化合物と、Al化合物と、を含む。
金属相は、Ni金属、Ni含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、好ましくはNi含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、より好ましくはNi含有合金を含む。
Ni含有合金及びNi含有固溶体は、Niと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、好ましくはNiと、Al及びVからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、より好ましくはNi元素とV元素とを含み、さらに好ましくはNi3Vを含む。
V化合物は、VN、VCN、及びVCからなる群より選択される1種以上を含み、Al化合物は、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選択される1種以上を含み、好ましくはAl23及びAlNからなる群より選択される1種以上を含み、より好ましくはAl23を含む。
【0022】
X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.60°未満であることで、耐熱性が向上し、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.40°未満であることが好ましく、50.80°以上51.30°未満であることがより好ましい。
なお、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θが例えば以下の範囲であるとき、金属相はそれぞれNi3V、Niであるとみなす。Ni3V及びNiの結晶構造は、立方晶である。
Ni3V:50.80°以上51.60°未満
Ni:51.60°以上52.2°未満
したがって、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)を前記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、金属相にNi3Vを含ませる方法が挙げられる。さらに、例えば、金属相中のNi3Vの含有割合を高くすることにより、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が小さくなる傾向にある。
【0023】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、X線回折における金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)が、0.40°以上0.70°以下であることが好ましい。当該半値全幅の値は、組織が微細化するほど大きくなる傾向にある。金属の組織が微細化すると、硬さが向上する一方で、靭性は低下する傾向にある。
X線回折における金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)が、0.40°以上であることで、金属相の硬さが向上するため、耐摩耗性に優れる。X線回折における金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)が、0.70°以下であることで、金属相の靭性が向上するため、耐欠損性に優れる。同様の観点から、X線回折における金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)は、0.42以上0.67以下であることがより好ましく、0.47以上0.61以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、X線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)が、62.60°以上63.40°未満であることが好ましい。
X線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)が63.40°未満であることで、耐摩耗性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、X線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)は、63.10°未満であることがより好ましい。
なお、X線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θが以下の範囲であるとき、V化合物がそれぞれVC、VCN及びVNであるとみなす。
VC:62.60°以上63.10°未満
VCN:63.10°以上63.40°未満
VN:63.40°以上63.90°以下
したがって、X線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θを前記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、V化合物において、VNに比して硬さに優れるVCN及び/又はVCを多く含ませる方法が挙げられる。
【0025】
V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度をI1、金属相の(200)面のX線回折ピーク強度をI2としたとき、I1/(I1+I2)が0.40以上であることで、cBN同士の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。また、結合相によるcBN粒子の脱落抑制の効果が高くなるため、耐摩耗性も向上する。
1/(I1+I2)が0.80以下であることで、焼結性が向上するため、焼結体の靭性が向上し、耐欠損性に優れる。同様の観点から、I1/(I1+I2)が、0.43以上0.77以下であることが好ましく、0.53以上0.64以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の(220)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、I1/I3が0.70以上1.50以下であることが好ましい。
1/I3が0.70以上であることで、cBN同士の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。I1/I3が1.50以下であることで、焼結性が向上するため、焼結体の靭性が向上し、耐欠損性に優れる。同様の観点から、I1/I3が、0.72以上1.45以下であることが好ましく、0.76以上1.32以下であることがより好ましい。
なお、I1、I2及びI3は、それぞれ以下の2θの範囲における最大強度である。
1:62.60°以上63.90°以下
2:50.80°以上52.20°以下
3:73.40°以上74.60°以下
【0027】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相には金属相、V化合物、及びAl化合物を構成する元素以外の元素を含んでいてもよい。具体例としては、特に限定されないが、例えば、Mn、Fe、Si等が挙げられる。
これらの元素は、例えば、ボールミル用のシリンダーやボール、充填に用いる高融点金属カプセルなどに由来し、不可避的に含まれていてもよく、意図的に添加してもよい。また、上記その他の元素の含有割合は、特に限定されないが、例えば、焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%に対して0質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0028】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を、その表面に対して直交する方向に鏡面研磨する。次に、SEMを用いて、鏡面研磨して現れた立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察する。この際、SEMを用いて、立方晶窒化硼素の粒子が100個以上400個以下含まれるように選択した倍率で拡大した立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を反射電子像にて観察する。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域を立方晶窒化硼素と、灰色領域及び白色領域を結合相と特定することができる。その後、SEMを用いて立方晶窒化硼素の上記断面の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から立方晶窒化硼素及び結合相の占有面積をそれぞれ求め、その占有面積から含有割合(体積%)を求める。
例えば、結合相において、灰色領域はAl化合物、白色領域は金属相又はV化合物であり得る。これを画像解析して、灰色領域の占める割合を「Al化合物の含有割合(体積%)」として算出する。また、白色領域の占める割合を「金属相及びV化合物の合計の含有割合(体積%)」として算出する。
【0029】
また、本実施形態において、結合相における各元素の含有割合(質量%)は、上述の立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を求めるために走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真と同じ観察視野において、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を使用することで求めることができる。より具体的には、上記の拡大した鏡面研磨面の観察視野全体においてEDS分析を行い、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%としたときの、各元素の含有割合(質量%)を算出する。
【0030】
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面は、立方晶窒化硼素焼結体の表面又は任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の断面である。立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を得る方法としては、例えばダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法を挙げることができる。
【0031】
結合相の組成は、市販のX線回折装置を用いて同定することもできる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を用いて、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定をすると、結合相の組成を同定することができる。ここで、測定条件としては、例えば、後述する実施例に記載の条件であると好ましい。また、2θの測定範囲を広くして分析すると、より多くのピークを検出できる傾向にあり、焼結体に含まれる材料の特定を一層確実にさせることができる。このような観点から、例えば、2θ=20~140°の範囲で測定するとよい。
なお、本実施形態において、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合、並びに結合相の組成は、後述の実施例に記載の方法により測定することもできる。具体的には、結合相の組成は、X線解析装置による測定の結果と、EDSを用いた元素マッピング結果とを解析することにより特定することができる。
【0032】
[立方晶窒化硼素焼結体の作製方法]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
原料粉末として、cBN粉末、VC粉末、VN粉末、Ni粉末、及びAl粉末を準備する。ここで、原料のcBN粉末の平均粒径を適宜調整することにより、得られる立方晶窒化硼素焼結体におけるcBNの平均粒径を上記特定の範囲に制御することができる。また、各原料粉末の割合を適宜調整することにより、得られる立方晶窒化硼素焼結体におけるcBN及び結合相の含有割合を上記特定の範囲に制御することができる。次に、準備した原料粉末を、超硬合金製ボールと溶媒とパラフィンとともにボールミル用シリンダーに入れて混合する。ボールミルで混合した原料粉末を、Ta製の高融点金属カプセル内に充填し、粉末の表面に吸着している水分及びその他の付着成分を除去するため、カプセルを開放したまま真空熱処理を行う。カプセル内に充填を行う際には、超硬合金からなる基材を入れてもよい。
次に、カプセルを密封し、カプセルに充填されている原料粉末を高圧で焼結させる。高圧焼結の条件は、例えば、圧力:6.0~9.0GPa、温度:1600~1900℃、焼結時間:15~60分である。
さらに、高圧焼結の後、温度及び/又は圧力を低下させて保持する。保持の条件は、例えば、圧力:2.0~5.0GPa、温度:600~1000℃、保持時間:60~150分である。
【0033】
本実施形態において、立方晶窒化硼素の含有割合を大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、配合組成におけるcBNの配合割合を多くする方法等が挙げられる。
【0034】
本実施形態において、上述のI1/(I1+I2)を大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、配合組成におけるNi及びV含有化合物(例えば、VC、VN)の合計の割合に対するV含有化合物(例えば、VC、VN)の合計の割合割合を多くする方法等が挙げられる。
【0035】
本実施形態において、上述のI1/I3を大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、配合組成におけるcBNの配合割合を少なくする方法等が挙げられる。
【0036】
本実施形態において、X線回折における金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)を小さくする方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、保持時の圧力を高くする方法等が挙げられる。
【0037】
本実施形態において、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)を小さくする方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、焼結時の温度を高くする方法、保持時の圧力を高くする方法等が挙げられる。
【0038】
本実施形態において、金属相をNi3Vとする方法、及びX線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)を小さくする方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、V化合物の原料としてVCを用いる方法等が挙げられる。
【0039】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、その表面に被覆層を備えた被覆立方晶窒化硼素焼結体として用いてもよい。立方晶窒化硼素焼結体の表面に被覆層が形成されることによって、耐摩耗性がさらに向上する。被覆層は、特に限定されないが、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含んでいてもよい。また、被覆層は、単層構造、又は、2層以上を含む積層構造を有してもよい。被覆層がこのような構造を有する場合、本実施形態の被覆立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性が一層向上する傾向にある。
【0040】
被覆層を形成する化合物の例として、特に限定されないが、例えば、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiSiN、及び、AlCrNなどを挙げることができる。中でも、TiCN、TiAlN、及び、AlCrNが好ましい。被覆層は、組成が異なる複数の層を積層した構造を有してもよい。
【0041】
被覆層を構成する各層の厚さ及び被覆層全体の厚さは、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織から光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、被覆立方晶窒化硼素焼結体における各層の平均厚さ及び被覆層全体の平均厚さは、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所以上の断面から、各層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定して、その平均値を計算することで求めることができる。
【0042】
また、被覆層を構成する各層の組成は、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織から、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
【0043】
被覆層の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、化学蒸着法や、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法及びイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、被覆層と立方晶窒化硼素焼結体との密着性に一層優れるので、好ましい。
【0044】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体は、工具寿命を長くすることができるため、切削工具や耐摩耗工具として使用されると好ましく、その中でも切削工具として使用されると好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体は、焼結金属用切削工具や鋳鉄用切削工具として使用されるとさらに好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体を切削工具や耐摩耗工具として用いた場合、従来よりも工具寿命を延長することができる。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
[原料粉末の準備]
cBN焼結体の原料として、表1に記載の平均粒径を有する原料粉末を準備した。
原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sizer、FSSS)により測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
[混合工程]
各原料粉末を、表2に記載の配合組成(体積%)となるように秤量した。秤量した原料粉末を、アルミナボールとヘキサン溶媒とパラフィンとともにボールミル用のシリンダーに入れ、2時間混合した。
【0049】
【表2】
【0050】
[充填工程及び乾燥工程]
混合した原料粉末を、Ta製の高融点金属の円盤状カプセル内に充填した。充填された原料粉末の表面に吸着している水分及び有機成分を除去するため、カプセルを開放したまま真空熱処理を行い、粉末の表面に吸着している水分及びその他の付着成分を除去した後、カプセルを密封した。
【0051】
[焼結工程]
その後、カプセルに充填されている原料粉末を高圧で焼結させた。高圧焼結の条件を、表3に示す。
【0052】
[保持工程]
次に、表3に記載の保持条件まで温度及び圧力を低下させ、表3に記載の時間保持して焼結体を得た。
【0053】
【表3】
【0054】
[測定・分析]
高圧焼結によって得られた立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めた。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を、その表面に対して直行する方向に鏡面研磨した。次に、SEMを用いて、鏡面研磨して現れた立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察した。この際、SEMを用いて、立方晶窒化硼素の粒子が100個以上400個以下含まれるように選択した倍率で拡大した立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を反射電子像にて観察した。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域を立方晶窒化硼素と、灰色領域及び白色領域を結合相と特定した。その後、SEMを用いて立方晶窒化硼素の上記鏡面研磨面の組織写真を撮影した。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から立方晶窒化硼素及び結合相の占有面積をそれぞれ求め、その占有面積から含有割合(体積%)を求めた。
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面は、立方晶窒化硼素焼結体の表面又は任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の断面であった。立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面(以下、「断面」ともいう。)を得る方法は、ダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法とした。結合相において、灰色領域はAl化合物、白色領域は金属相又はV化合物であった。これを画像解析して、灰色領域の占める割合を「Al化合物の含有割合(体積%)」として算出した。また、白色領域の占める割合を「金属相及びV化合物の合計の含有割合(体積%)」として算出した。
【0055】
さらに、結合相の組成は、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab)を用いて同定した。具体的には、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、下記条件で測定して得られた結果と、EDSを用いた元素マッピング結果とを解析することにより結合相の組成を同定した。
<測定条件>
・出力:45kV、200mA
・入射側ソーラースリット:5°
・発散縦スリット:2/3°
・発散縦制限スリット:5mm
・散乱スリット:2/3°
・受光側ソーラースリット:5°
・受光スリット:0.3mm
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:1°/min
・2θ測定範囲:30~90°
【0056】
具体的には、上述の方法のX線回折測定により、得られた立方晶窒化硼素焼結体が表4に記載の材料を含むことを特定した。
また、Al元素を有する化合物については、X線回折測定において明瞭なピークが得られなかったため、EDSを用いた元素マッピングにより同定した。その結果として、得られた立方晶窒化硼素焼結体が全てAl化合物を含むことが分かった。
また、X線回折測定では特定されず、元素マッピングの結果のみから特定された材料もあった。具体的には、発明品16において、X線回折測定では明瞭なピークは検出されなかったが、元素マッピングの結果からAlB2であると推察される相が確認できた。その他の発明品及び比較品においても、本実施例の倍率で特定できない程度の微細な相としてAlB2が存在し得る。
上記で得られた測定結果を合わせて表4に示す。
【0057】
上記X線回折測定と同時に、V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度I1、金属相の(200)面のX線回折ピーク強度I2、立方晶窒化硼素の(220)面のX線回折ピーク強度I3、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)及びX線回折におけるV化合物の(220)面の最大のピーク位置2θ(°)が得られた。
また、V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度I1、金属相の(200)面のX線回折ピーク強度I2、立方晶窒化硼素の(220)面のX線回折ピーク強度I3及びX線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)から、I1/(I1+I2)、I1/I3及びX線回折における金属相の(200)面のピークの半値全幅(°)を各々算出した。
各結晶面のX線回折ピークは、それぞれ以下の範囲を元に特定した。上記で得られた値を、まとめて表5に示す。
なお、X線回折における最大のピーク位置2θが以下の範囲であるとき、V化合物がそれぞれVC、VCN及びVNであるとみなした。
VC:62.60°以上63.10°未満
VCN:63.10°以上63.40°未満
VN:63.40°以上63.90°以下
また、X線回折における最大のピーク位置2θが以下の範囲であるとき、金属相はそれぞれNi3V及びNiであるとみなした。
Ni3V:50.80°以上51.60°未満
Ni:51.60°以上52.2°未満
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
[切削工具の作製]
得られた立方晶窒化硼素焼結体を、ワイヤ放電加工機を用いてISO規格CNGA120408で定められたインサート形状の工具形状に合わせて切り出した。切り出した立方晶窒化硼素焼結体を、超硬合金からなる台金にろう付けにより接合した。
【0061】
[切削試験]
得られた切削工具を用いて、下記の条件で切削試験を行った。
・被削材:浸炭焼入れした焼結金属
(材質:JIS規格・FD-08N4C-390、硬さ:HRA70)
・被削材形状:ギア形状、φ45mm(歯たけ8mm)×30mm
・切削速度:200m/min
・送り:0.10mm/rev
・切り込み深さ:0.30mm
・クーラント:なし(乾式切削加工)
・評価項目:工具の逃げ面摩耗幅が0.15mmに至ったとき、又は欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を測定した。また、工具寿命に至った際の損傷形態についても確認した。測定結果を表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
表6に示された結果より、立方晶窒化硼素焼結体が立方晶窒化硼素と結合相とを含み、立方晶窒化硼素の含有割合は、焼結体の総量に対して80体積%以上94体積%以下であり、結合相の含有割合は、焼結体の総量に対して6体積%以上20体積%以下であり、結合相は、金属相と、V化合物と、Al化合物と、を含み、金属相は、Ni金属、Ni含有合金及びNi含有固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、Ni含有合金及びNi含有固溶体は、Niと、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びCoからなる群より選択される1種以上の元素とを含み、V化合物は、VN、VCN、及びVCからなる群より選択される1種以上を含み、Al化合物は、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選択される1種以上を含み、X線回折における金属相の(200)面の最大のピーク位置2θ(°)が、51.60°未満であり、V化合物の(220)面のX線回折ピーク強度をI1、金属相の(200)面のX線回折ピーク強度をI2としたとき、I1/(I1+I2)が0.40以上0.80以下である発明品の方が、そうでない比較品より耐摩耗性及び耐欠損性に優れ、工具寿命を長くすることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、従来よりも工具寿命を延長できるので、その点で産業上の利用可能性が高い。