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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022754
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】メソゲン基含有エステル化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/675 20060101AFI20250206BHJP
   C07C 69/68 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C07C69/675 CSP
C07C69/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095032
(22)【出願日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2023127067
(32)【優先日】2023-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】平川 明啓
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 裕希
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB46
4H006AC48
4H006BB11
4H006BJ50
4H006BN10
4H006BP30
4H006KA03
4H006KA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】破断強度に優れた熱応答性ポリマーの原料となるメソゲン基含有エステル化合物を提供すること。
【解決手段】活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物。化合物Aは、下記式(1):

(式(1)中、Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)で表される化合物であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物。
【請求項2】
前記化合物Aが、下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)で表される化合物である請求項1に記載のメソゲン基含有エステル化合物。
【請求項3】
下記式で表されるエステル結合割合が5~30%である請求項1に記載のメソゲン基含有エステル化合物。
【数1】
(上記式中、「平均付加量」は前記化合物A1モルに対する、前記カルボキシ基含有化合物または前記ラクトン化合物の平均付加量(モル)を示す。)
【請求項4】
前記ラクトン化合物がε-カプロラクトンである請求項1に記載のメソゲン基含有エステル化合物。
【請求項5】
前記化合物A1モルに対する前記ε-カプロラクトンの平均付加量が0.6~13モルである請求項4に記載のメソゲン基含有エステル化合物。
【請求項6】
前記カルボキシ基含有化合物がグリコール酸または乳酸である請求項1に記載のメソゲン基含有エステル化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメソゲン基含有エステル化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱応答性ポリマーは、熱などの外部刺激を加えることによって伸縮するという特徴的な応答挙動を示すため、アクチュエータなどの様々な分野への適用が試みられている。熱応答性ポリマーとしては、例えば液晶エラストマーが挙げられる。
【0003】
下記特許文献1には、液晶エラストマーの原料として、メソゲン基含有化合物に、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが付加した液晶性化合物が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、液晶エラストマーとして、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、ジイソシアネート化合物と、ヒドロキシル基を有する光重合性基含有化合物と、光硬化開始剤との光架橋前反応物から構成される光架橋性液晶性ポリマーであって、ヒドロキシル基を有する光重合性基含有化合物を1~10重量%含有する光架橋性液晶性ポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6396130号公報
【特許文献2】特許第7112332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記液晶性化合物を原料として得られた光架橋性液晶ポリマーを架橋してなる熱応答性液晶ポリマーは、低温(室温付近)で液晶性とゴム弾性とを有するため、多くの用途で有用な材料である。ただし、本発明者が検討した結果、例えば空気入りタイヤのキャッププライなどのコードに使用する場合、かかるコードには高い破断強度が要求されるため、上記特許文献に記載の材料に比して、破断強度の点でさらなる改良の余地があることが判明した。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、破断強度に優れた熱応答性ポリマーの原料となるメソゲン基含有エステル化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は下記構成により達成し得る。すなわち本発明は、活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物(1)に関する。
【0009】
上記メソゲン基含有エステル化合物(1)において、前記化合物Aが、下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)で表される化合物であるメソゲン基含有エステル化合物(2)が好ましい。
【0010】
上記メソゲン基含有エステル化合物(1)または(2)において、下記式で表されるエステル結合割合が5~30%であるメソゲン基含有エステル化合物(3)が好ましい。
【数1】
(上記式中、「平均付加量」は前記化合物A1モルに対する、前記カルボキシ基含有化合物または前記ラクトン化合物の平均付加量(モル)を示す。)
【0011】
上記メソゲン基含有エステル化合物(1)~(3)いずれかにおいて、前記ラクトン化合物がε-カプロラクトンであるメソゲン基含有エステル化合物(4)が好ましい。
【0012】
上記メソゲン基含有エステル化合物(4)において、前記化合物A1モルに対する前記ε-カプロラクトンの平均付加量が0.6~13モルであるメソゲン基含有エステル化合物(5)が好ましい。
【0013】
上記メソゲン基含有エステル化合物(1)~(5)いずれかにおいて、前記カルボキシ基含有化合物がグリコール酸または乳酸であるメソゲン基含有エステル化合物(6)が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
これまで、メソゲン基含有化合物に、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが付加したメソゲン基含有化合物(以下、「エーテル系メソゲン基含有化合物」ともいう)が知られていたが、エーテル系メソゲン基含有化合物を原料として得られた光架橋性ポリマーを架橋してなる熱応答性ポリマーについては、破断強度の向上の点でさらなる改良の余地があった。本発明者は、活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物を新規に開発したが、かかるメソゲン基含有エステル化合物は、ε-カプロラクトンが開環しつつ活性水素基を有する化合物Aに付加する、またはカルボキシ基含有化合物が化合物Aに付加することにより、メソゲン基含有化合物がエステル結合を有する。本発明者が鋭意検討した結果、熱応答性ポリマーがメソゲン基含有化合物にエステル結合が付加した構造を有するメソゲン基含有エステル化合物は、例えば繊維のように長さ方向に伸長されるような用途に用いられると、伸長時に結晶化する傾向があり(伸長化結晶)、伸長時の伸長化結晶の形成により、熱応答性ポリマーの破断強度が著しく上昇することが判明した。
【0015】
上記のとおり、本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物はエステル結合が付加した構造を有するため、熱応答性ポリマーの原料として使用された場合、伸長時の伸長化結晶の形成により、熱応答性ポリマーの破断強度が著しく上昇する。この効果は、従来のエーテル系メソゲン基含有化合物を熱応答性ポリマーの原料として使用した場合に比して、著しく高い。このため、本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物を原料として得られた熱応答性ポリマーは、優れた破断強度が要求される用途、例えば空気入りタイヤのキャッププライなどのコード用として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物は、活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物である。
【0017】
活性水素基を有する化合物Aとしては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が使用可能である。
【化2】
【0018】
上記一般式(1)において、Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。なお、「隣接する結合基の一部をなす単結合」とは、当該単結合が隣接する結合基の一部と共有されている状態を意味する。例えば、上記一般式(1)において、Rが隣接する結合基の一部をなす単結合である場合、単結合であるRは両側のベンゼン環と共有された状態となり、当該両側のベンゼン環とともにビフェニル構造を形成する。Xとしては、例えば、OH、SH、NH、COOH、二級アミンなどが挙げられる。
【0019】
本発明において、活性水素基を有する化合物Aとして、好適には下記の式(2)に記載の化合物(以下、「BH6」ともいう)を使用することができる。
【化3】
【0020】
本発明において、原料として使用する、活性水素基を有する化合物Aは1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物は、活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物である。ラクトン化合物としては、ε-カプロラクトンが好ましい。伸長時の伸長化結晶の形成により、熱応答性ポリマーの破断強度を向上する見地から、活性水素基を有する化合物A1モルに対する前記ε-カプロラクトンの平均付加量が0.6~13モルであることが好ましく、0.6~12モルであることが好ましい。なお、本発明において「活性水素基を有する化合物Aに対するε-カプロラクトンの平均付加量」は、活性水素基を有する化合物A1モルに対するε-カプロラクトンの平均付加モル量を意味し、平均付加量(モル)は例えば水酸基価(OHV)測定などにより算出可能である。
【0022】
本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物は、活性水素基を有する化合物Aに、ε-カプロラクトンが付加したメソゲン基含有エステル化合物が好ましいが、活性水素基を有する化合物Aに対し、ε-カプロラクトンに加えて、ε-カプロラクトン以外の化合物、例えばアルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが付加していてもよい。付加されるアルキレンオキシドは特に制限されず、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、メチルグリシジルエーテル、およびアリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。付加されるスチレンオキシドは、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシル基、またはハロゲンなどの置換基を有していてもよい。ただし、伸長時の伸長化結晶の形成により、熱応答性ポリマーの破断強度を向上する見地から、活性水素基を有する化合物Aへのε-カプロラクトンの付加量が、他のアルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドに比して多いことが好ましく、活性水素基を有する化合物Aに対し、ε-カプロラクトンのみが付加しているものがより好ましい。
【0023】
本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物は、活性水素基を有する化合物Aに、カルボキシ基含有化合物またはラクトン化合物を付加したメソゲン基含有エステル化合物である。カルボキシ基含有化合物としては、グリコール酸または乳酸が好ましい。伸長時の伸長化結晶の形成により、熱応答性ポリマーの破断強度を向上する見地から、活性水素基を有する化合物A1モルに対する前記グリコール酸または乳酸の平均付加量が0.6~13モルであることが好ましく、0.6~12モルであることが好ましい。なお、本発明において「活性水素基を有する化合物Aに対するグリコール酸または乳酸の平均付加量」は、活性水素基を有する化合物A1モルに対するグリコール酸または乳酸の平均付加モル量を意味し、平均付加量(モル)は例えば水酸基価(OHV)測定などにより算出可能である。
【0024】
本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物は、熱応答性ポリマーの原料として特に有用である。熱応答性ポリマーは、例えば本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物である光架橋性ポリマーを製造し、かかる光架橋性ポリマーを架橋することにより製造することができる。
【0025】
なお、本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物に対し、酸化防止剤を添加する場合、メソゲン基含有エステル化合物に由来するラジカル発生を抑制し、メソゲン基含有エステル化合物および後述する光架橋性ポリマーの粘度上昇を抑制できるため好ましい。メソゲン基含有エステル化合物に対し、酸化防止剤を添加する場合、その添加タイミングは、メソゲン基含有エステル化合物の保存段階あるいは乾燥段階、光反応開始剤の存在下、メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させることにより、光架橋性ポリマーを製造する段階、さらには得られた光架橋性ポリマーの保存段階のいずれであってもよい。
【0026】
酸化防止剤としては、当業者に公知のものを使用可能であるが、メソゲン基含有エステル化合物からのラジカル発生量を効果的に抑制することができるため、フェノール系酸化防止剤およびヒンダートアミン系酸化防止剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、フェノール環のヒドロキシ基に隣接する部位にメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのアルキル基を有するものが好ましく、特にフェノール環のヒドロキシ基に隣接する部位にt-ブチル基を有するものが好ましい。この場合、フェノール系酸化防止剤が備えるヒドロキシ基(活性水素基)が、傘高い構造であるt-ブチル基に保護され、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応性が低くなり、酸化防止剤の酸化防止能の失活が好適に抑制できる。フェノール環のヒドロキシ基に隣接する部位にt-ブチル基を有するフェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、6,6’-ジ-t-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼンなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基に隣接する部位にt-ブチル基を有するフェノール系酸化防止剤としては市販品の使用も可能であり、特にBHT(東京化成工業社製)、アデカスタブAO-60/アデカスタブAO-60G(オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ADEKA社製)、およびアデカスタブAO-80(3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ADEKA社製)の使用が好ましい。またその他のフェノール系酸化防止剤として、スミライザーGS(F)(住友化学製)、スミライザーGM(F)(住友化学製)、スミライザーGA80(住友化学製)、スミライザーMDP-S(住友化学製)、WX-R(住友化学製)、WX-RC(住友化学製)、Irganox1010(BASF社製)、1035(BASF社製)、1076(BASF社製)、1135(BASF社製)、1726(BASF社製)等の市販品も使用可能である。
【0028】
ヒンダードアミン系酸化防止剤は、窒素原子に水素またはアルキル基、特にはメチル基が結合した化合物が好ましく、市販品の使用も可能である。このような市販品としては例えば、アデカスタブ LA-52(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-57(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-63P(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-68(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-72(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-77Y(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-81(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-82(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-87(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-402AF(ADEKA社製)、アデカスタブ LA-40MP(ADEKA社製)Tinuvin123(BASF社製)、Tinuvin1144(BASF社製)、Tinuvin 152(BASF社製)、Tinuvin 249(BASF社製)、Tinuvin 292(BASF社製)、Tinuvin 770DF(BASF社製)、Tinuvin 5100(BASF社製)が挙げられる。なお、ヒンダートアミン系酸化防止剤により、メソゲン基含有エステル化合物の酸化抑制効果が得られる理由については、以下のとおり考えられる。ヒンダートアミン系酸化防止剤は光安定剤として使用されることが一般的であり、様々な作用機構が提案されているが、主にラジカル捕捉効果により、光安定化効果を奏するものと考えられている。メソゲン基含有エステル化合物の酸化抑制効果はラジカル捕捉により達成されるため、ヒンダートアミン系の酸化防止剤でもメソゲン基含有エステル化合物の酸化を抑制することができる。
【0029】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤およびヒンダートアミン系酸化防止剤以外の酸化防止剤も使用可能であり、例えばチアジン系酸化防止剤であるフェノチアジンが挙げられる。フェノチアジンについても、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応性が低く、酸化防止能の失活が好適に抑制できるため好ましい。
【0030】
本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物に対し、酸化防止剤を添加する場合、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤またはヒンダートアミン系酸化防止剤などを単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0031】
メソゲン基含有エステル化合物および後述する光架橋性ポリマーの粘度上昇を抑制し、その成形加工性を向上するためには、メソゲン基含有エステル化合物の全量を100質量部としたとき、酸化防止剤の配合量は0.006~10質量部であることが好ましく、0.05~2.5質量部であることがより好ましい。さらに、光架橋性ポリマー組成物中の酸化防止剤濃度は30~30000ppmであることが好ましく、400~7000ppmであることがより好ましい。また、光架橋性ポリマー組成物がイソシアネート化合物を含有する場合、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応により、酸化防止剤のラジカル発生の抑制効果が低減することがある。したがって、光架橋性ポリマー組成物がイソシアネート化合物を含有する場合、反応前のイソシアネート化合物の全量を100質量%としたとき、前記酸化防止剤の割合が0.015~20質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがより好ましい。
【0032】
イソシアネート化合物は、例えば下記に示すジイソシアネート化合物を使用することができる。ジイソシアネート化合物を例示すると、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、およびm-キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;並びに1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。例示したジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。なお、本発明ではイソシアネート化合物として3官能以上のイソシアネート化合物を併用しても良いが、得られる光架橋性ポリマーの熱可塑性を確保するため、使用するイソシアネート化合物の全量を100質量%としたとき、ジイソシアネート化合物の割合は98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、略100質量%であることがさらに好ましい。3官能以上のイソシアネート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート、およびテトライソシアネートシランなどのテトライソシアネートが挙げられる。
【0033】
光架橋性ポリマーを構成するメソゲン基含有エステル化合物の全量を100質量部としたとき、イソシアネート化合物の割合は5~60質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。イソシアネート化合物の配合量が5質量部未満である場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となるため、光架橋性ポリマーを連続成形することが困難となる。一方、イソシアネート化合物の割合が60質量部を超える場合、光架橋性ポリマーの原材料全体に占めるメソゲン基含有エステル化合物の配合量が相対的に少なくなるため、光架橋性ポリマーおよび熱応答性ポリマーの伸縮性が低下する。
【0034】
なお、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基は、メソゲン基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基、および光重合性基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基と反応し得る。メソゲン基含有エステル化合物および光重合性基含有化合物が有する活性水素基の理論量に対するイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の理論量であるNCO INDEX(NCO/OH)は、0.95~1.30であることが好ましく、1.00~1.20であることがより好ましい。
【0035】
活性水素基を有する光重合性基含有化合物は、例えば、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物、アリル化合物を使用することができる。アクリロイル基含有化合物を例示すると、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、グリセリンジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが挙げられる。メタクリロイル基含有化合物を例示すると、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンジメタクリレート、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネートなどが挙げられる。アリル基含有化合物を例示すると、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
光架橋性ポリマーを構成するメソゲン基含有エステル化合物の全量を100質量部としたとき、光重合性基含有化合物の割合は0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~7質量部であることがより好ましい。光重合性基含有化合物の割合が0.1質量部未満の場合、原材料に光照射を行っても十分に硬化しないため、生成した熱応答性ポリマーは熱応答性を発現し難くなる。光重合性基含有化合物の割合が10質量部を超える場合、光照射後のポリマー中の架橋密度が高くなり過ぎるため、この場合も生成した熱応答性ポリマーは熱応答性を発現し難くなる。
【0037】
光架橋性ポリマーの原料として、3以上の活性水素基を有する架橋剤を使用してもよい。架橋剤としては例えば、3つまたは4つの活性水素基を有するポリオール化合物、アミン化合物などが挙げられる。ポリオール化合物としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、ジグリセリン、メチルグルコシド、ペンタエリトリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、3官能の開始剤(トリメチロールプロパン、グリセリン等)または4官能の開始剤(ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジエチレンアミン等)にエーテル化合物を付加したポリエーテルポリオールなどが挙げられる。アミン化合物としては、メタントリアミン、ジエチレントリアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールなどが挙げられる。
【0038】
光架橋性ポリマーを製造する際、メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とに加え、光架橋性ポリマーの原材料として、活性水素基含有化合物を使用してもよい。活性水素基含有化合物としては、例えば、ポリオール化合物、アミン化合物が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。上掲の各活性水素基含有化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0039】
メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させる場合、当業者に公知のウレタン重合触媒を使用してもよい。かかる重合触媒としては、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ―2-エチルへキソキシド、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)などの有機チタン触媒、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートなどの有機ジルコニウム触媒、ナフテン酸亜鉛などの有機亜鉛触媒、ジブチル錫ジラウレートやオクチル酸錫などの有機錫系触媒、トリエチレンジアミンおよびその誘導体、N-メチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルなどの第3級アミン系触媒、酢酸カリウム、オクチル酸カリウムなどのカルボン酸金属塩触媒、イミダゾール系触媒などが挙げられる。これらの中でも、トリエチレンジアミンおよびその誘導体の使用が好ましい。
【0040】
メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物を製造する際、光反応開始剤を配合することが好ましい。
【0041】
光反応開始剤は、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフォンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン/ベンゾフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル/オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、ヨードニウム,(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロフォスフェート(1-)/プロピレンカーボネート、トリアリールスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリアリールスルフォニウムテトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート、オキシムスルホネート系光酸発生剤を使用することができる。光架橋性ポリマーを構成するメソゲン基含有エステル化合物の全量を100質量部としたとき、光反応開始剤の割合は、0.05~10質量部であることが好ましく、0.1~8質量部であることがより好ましい。光反応開始剤の配合量が0.05質量部未満の場合、光照射時に均一に重合反応が進行しないため、あるいは硬化が不十分となるため、生成したポリマーは熱応答性を発現し難くなる。光反応開始剤の配合量が10質量部を超える場合、生成したポリマー中のメソゲン基の含有量が減少するため、熱応答性を発現し難くなる。光反応開始剤は、200~600nmに吸収波長を有するものが好ましい。光反応開始剤が上記範囲の吸収波長を有していれば、光架橋性ポリマーまたはその原材料の透明度(可視光の透過率)が低いものであっても、光反応開始剤が光を吸収し、確実に光架橋反応を進行させることができる。
【0042】
上記で説明した光架橋性ポリマーは、熱応答性ポリマーの原料となる。光架橋性ポリマーは、光反応開始剤の存在下、メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させることにより、製造することができる。反応させる際の反応条件としては、例えば光反応開始剤と共に、メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを押出成形機に投入し、例えば60~150℃に加熱した状態で加熱溶融しつつ、これらを反応させる方法が挙げられる。
【0043】
光架橋性ポリマーおよび光反応開始剤を含む、加熱溶融された光架橋性ポリマー組成物は、冷却後、粉砕してペレット状に成形しておき、ペレット化した原材料を押出成形機を用いて所定の形状に成形した後、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下で延伸しながら押出成形してもよい。あるいは、光反応開始剤存在下、メソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物(光架橋性ポリマー)をそのまま、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下の温度領域で延伸しながら押出成形してもよい。この場合、メソゲン基含有エステル化合物に含まれるメソゲン基が延伸方向に沿うように動くため、高度な配向性を有する光架橋性ポリマーの成形体を製造することができる。
【0044】
前記で得られた、高度な配向性を有する光架橋性ポリマーの成形体を適切な形状に成形して冷却し、延伸状態を保ったまま波長200~600nm光を照射すると、配向性を維持したまま原材料間で架橋反応が進行し、温度変化に伴う伸縮性を備えた熱応答性ポリマーが完成する。このようにして製造された熱応答性ポリマーは、低温領域ではメソゲン基が延伸方向に配向しているが、加熱して相転移温度(Ti)を上回るとメソゲン基の配向が崩れて(不規則となって)延伸方向に収縮し、冷却して相転移温度(Ti)を下回るとメソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張するという特異的な熱応答性挙動を示す。
【0045】
ちなみに、熱応答性ポリマーの配向性は、メソゲン基の配向度によって評価することができる。配向度の値が大きいものは、メソゲン基が一軸方向に高度に配向している。配向度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた1回全反射測定法(ATR)により、芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度(0°、90°)、およびメチル基の対称変角振動の吸光度(0°、90°)を測定し、これらの吸光度をパラメータとする以下の計算式に基づいて算出される。
配向度=(A-B)/(A+2B)
A:0°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/0°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
B:90°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/90°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
【0046】
熱応答性ポリマーが有意な伸縮性を発現するためには、メソゲン基の配向度が0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
【実施例0047】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0048】
<相転移温度(Ti)>
メソゲン基含有エステル化合物、および光架橋性ポリマーを光架橋することにより得られた熱応答性ポリマーについて、示唆走査熱量分析計[DSC](品名:X-DSC 7000、日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、相転移温度(Ti)を測定した。
【0049】
<熱応答性ポリマーの破断強度>
メソゲン基含有エステル化合物を原料として得られた光架橋性ポリマーを光架橋することにより得られた熱応答性ポリマーについて、破断強度を測定した。具体的には、まず熱応答性ポリマーの原料となる光架橋性ポリマーの樹脂ペレットを、該光架橋性ポリマーのTiから±20℃の温度に設定した圧縮成型機(品名:NSF-37、株式会社神藤金属工業所製)を用い、0.5mmの樹脂シートに成形した。このシートをダンベル状8号形(JIS K 6251)に打ち抜き、7倍延伸したものに光照射を行い光架橋反応させ、熱応答性ポリマーを作製した。作製した熱応答性ポリマー(幅:1.5mm、厚さ:0.2mm)を、オートグラフ(品名:AG-X、株式会社島津製作所製)で引張速度を135mm/min、標線間距離70mmとし、その他JIS K 6251に従って引張試験を行う)ことで、破断強度を測定した。評価は、比較例1で製造したメソゲン基含有化合物Aを原料として製造した製造例21の熱応答性ポリマーの破断強度を100として、指数評価を行った。数値が大きいほど、破断強度に優れることを意味する。結果を表3に示す。
【0050】
<熱応答性ポリマーの伸縮挙動>
メソゲン基含有エステル化合物を原料として得られた光架橋性ポリマーを光架橋することにより得られた熱応答性ポリマーについて、35~155℃の温度変化に伴って発生する、配向方向におけるサイズの減少(試料の長さの減少、これを「α」とする)および35~155℃の温度変化に伴って発生するサイズの増加(試料の長さの増加、これを「β」とする)をそれぞれスケールで測定し、α<βとなるものを、熱応答性ポリマーとしての伸縮挙動が十分にあるものと判断した。結果を表3に示す。なお表3中では、伸縮挙動が十分にある場合を「〇」と示す。
【0051】
[メソゲン基含有エステル化合物の製造例]
実施例1
下記式(2)に記載のBH6(400g)、ε-カプロラクトン(248g)、トルエン(4200ml)を加え、110℃になるまで加熱した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)(2g)添加後、反応溶液を110℃で4時間撹拌した。その後、トルエンを減圧蒸留により除去して、目的物である下記式(3)に記載のメソゲン基含有エステル化合物Aを得た。BH61モルに対し、ε-カプロラクトンが平均して付加したモル量(ε-カプロラクトンの平均付加量(モル))およびメソゲン基含有エステル化合物の相転移温度(Ti)を表1に示す。
【化4】
【化5】
【0052】
実施例2~6
1モルのBH6に対するε-カプロラクトンの平均付加量(モル)が表1に記載の量となるようにε-カプロラクトンの仕込み量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、メソゲン基含有エステル化合物B~Fを得た。
【0053】
実施例7
上記式(2)に記載のBH6(400g)、L-乳酸(140g)、トルエン(4200ml)を加え、110℃になるまで加熱した。p-トルエンスルホン酸(20g)を添加後、DeanStakを用い、反応により生じる水を除去しながら反応溶液を110℃で4時間加熱還流した。その後、炭酸水素ナトリウムを加え、中和した後、分液ロートを用い、有機層の水洗いを行った。続いて、有機層のトルエンを減圧蒸留により除去して、目的物である下記式(4)に記載のメソゲン基含有エステル化合物Gを得た。BH61モルに対し、L-乳酸が平均して付加したモル量(L-乳酸の平均付加量(モル))およびメソゲン基含有エステル化合物の相転移温度(Ti)を表1に示す。
【化6】
【0054】
比較例1
反応容器に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物としてBH6(500g)、水酸化カリウム(7g)、及び溶媒としてトルエン(500ml)を入れて混合し、さらに、ε-カプロラクトンに代えて、プロピレンオキシドを1モルのBH6に対して4.2当量添加し、これらの混合物を、加圧条件下、120℃で3時間反応させた(付加反応)。次いで、反応容器にシュウ酸(10g)を添加して付加反応を停止させ、反応液中の不溶な塩を吸引ろ過によって除去し、さらに、反応液中のトルエンを減圧蒸留法により除去することにより、メソゲン基含有化合物Aを製造した。
【0055】
【表1】
【0056】
[光架橋性ポリマーの製造例]
製造例1~8
比較例1で製造したメソゲン基含有化合物Aおよび実施例1~7で製造したメソゲン基含有エステル化合物A~G100質量部(phr)に対し、イソシアネート化合物として1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(三井化学社製、表2では「PDI」と示す)、活性水素基含有化合物としてポリカプロラクトンポリオール(ダイセル社製、製品名「PCL-210N」、 表2では「PCL」と示す)またはポリプロピレングリコール(旭硝子社製、表2では「PPG」と示す)、活性水素基を有する光重合性基含有化合物として2-ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学社製、表2では「HOA」と示す)または2-ヒドロキシメチルアクリレート(東京化成工業社製、表2では「メタクリレート」と示す)、光反応開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IGM resins社製、表2では「TPO」と示す)、光増感剤として1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(東京化成工業社製、表2では「DABCO」と示す)を表2に記載の配合量で混合し、光架橋性ポリマー組成物の原材料を調製した。この原材料を撹拌しながら、使用したメソゲン基含有化合物が溶融する温度、具体的には使用したメソゲン基含有化合物またはメソゲン基含有エステル化合物のTiから±30℃で加熱溶融し、メソゲン基含有化合物またはメソゲン基含有エステル化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させることにより、光架橋性ポリマー、光反応開始剤および光増感剤を含有する光架橋性ポリマー組成物を製造した。得られた製造物を冷却後、プラスチック粉砕機(品名:ZI-420、株式会社ホーライ製)で粉砕して、製造例1~8に係る光架橋性ポリマー組成物の樹脂ペレットを製造した。
【0057】
【表2】
【0058】
[熱応答性ポリマーの製造例]
製造例21~28
製造例1~8で製造した光架橋性ポリマー組成物の樹脂ペレットを、80~150℃に設定した単軸押出機(品名:SZW25GT-24MG-STD、株式会社テクノベル製)に投入し、厚み1.0mmの樹脂シートに成形した。この樹脂シートを30~100℃に設定した冷却ロールに通して冷却し、引取りロールで巻き取った。このとき、冷却ロールと引取りロールとの間に回転差を付けることにより、樹脂シートを1.5~10倍に延伸した。さらに、冷却ロールと引取りロールとの間に卓上型UV硬化装置(品名:アイminiグランテージ(ESC-1511U)、アイグラフィックス株式会社製)を設置し、延伸された樹脂シートに高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプを光源とした光を照射し、光架橋(硬化)された熱応答性ポリマーを得た。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の結果から、本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物である実施例1~7のメソゲン基含有化合物を原料として得られた光架橋性ポリマー組成物の熱応答性ポリマー(製造例22~28)は、エーテル系メソゲン基含有化合物を原料として得られた光架橋性ポリマー組成物の熱応答性ポリマー(製造例21)に比して、破断強度が著しく高まることが分かる。また、本発明に係るメソゲン基含有エステル化合物である実施例1~7のメソゲン基含有エステル化合物を原料として得られた光架橋性ポリマー組成物の熱応答性ポリマー(製造例22~28)は、温度変化に伴う伸縮挙動も発現することがわかる。