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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022772
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20250206BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20250206BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20250206BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20250206BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20250206BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L9/06
C08L7/00
C08L45/00
C08L93/04
B60C1/00 A
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109201
(22)【出願日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2023126597
(32)【優先日】2023-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】川島 正寛
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA03
3D131AA04
3D131AA05
3D131AA06
3D131AA07
3D131AA08
3D131AA11
3D131AA12
3D131AA14
3D131AA17
3D131AA19
3D131AA20
3D131BA04
3D131BA05
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB04
3D131BB05
3D131BB11
3D131BC02
3D131BC09
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC18
4J002AC01W
4J002AC11X
4J002AC11Y
4J002AF024
4J002BK004
4J002CE004
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したゴム組成物を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するべく、本発明は、ゴム成分と、樹脂と、を含むゴム組成物であって、
前記樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂を、前記ゴム成分100質量部に対して合計1~50質量部含み、
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴムを含有し、
前記スチレン-ブタジエンゴムは、ガラス転移温度が-40℃未満であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、樹脂と、を含むゴム組成物であって、
前記樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂を、前記ゴム成分100質量部に対して合計1~50質量部含み、
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴムを含有し、
前記スチレン-ブタジエンゴムは、ガラス転移温度が-40℃未満であることを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
前記樹脂は、前記イソプレン骨格ゴムとのSP値の差が0.6(cal/cm1/2以下であること、及び/又は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が500~1300g/molであることを特徴とする、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、1~80質量部であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、1~40質量部であることを特徴とする、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記スチレン-ブタジエンゴムが、窒素原子を含む官能基とアルコキシ基とを有する変性剤で変性されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のゴム組成物を含むことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の安全性を向上させる観点から、通常路面のみならず、氷雪路面等の低温環境下でのタイヤの制動性(低温特性)や、駆動性を向上させるために、種々の検討がなされている。
例えば、湿潤・氷雪路面での性能を向上させるために、天然ゴム(NR)やブタジエンゴム(BR)等のゴム成分と共にアロマオイルを配合したゴム組成物を、トレッドゴムに用いる技術が知られている(特許文献1)。
また、湿潤・氷雪路面でのグリップ性能を向上させるために、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを合計30質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、C系樹脂を5~50質量部配合してなるゴム組成物を、トレッドゴムに用いる技術も知られている(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に開示の技術では、タイヤの低温特性の向上と、タイヤの転がり抵抗の低減(以下、「低転がり抵抗性」という。)と、を高いレベルで両立することは困難であった。
【0004】
一方、上述した、Wet性能、耐摩耗性、低転がり抵抗性とは別に、社会の持続可能性(サステナビリティ)の観点から、タイヤに使用される各種部材について、生物資源(バイオマス資源)由来の材料や、再生資源(リサイクル資源)由来の材料といった、所謂、サステナブル材料を使用することも求められており、サステナブル材料の使用率(以下、「サステナブル材料の比率」と呼ぶことがある。)を高めるための技術の開発も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-269884号公報
【特許文献1】特開2006-241358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、本発明は、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したゴム組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ゴム成分と、樹脂と、を含むゴム組成物について、上記課題を解決するべく鋭意研究を行った。そして、樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂を特定量含有させることによって、現在使用されている化石資源由来の材料をサステナブル材料へ置き換えた場合でも、優れた低温特性、操縦安定性を実現できること、さらに、樹脂の含有量を特定範囲に抑えるとともに、ガラス転移温度が-40℃未満のスチレン-ブタジエンゴムを含有させることによって、充填剤の分散性を改良して、ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能や、低温特性、操縦安定性を良好に維持できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1]ゴム成分と、樹脂と、を含むゴム組成物であって、
前記樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂を、前記ゴム成分100質量部に対して合計1~50質量部含み、
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴムを含有し、
前記スチレン-ブタジエンゴムは、ガラス転移温度が-40℃未満であることを特徴とする、ゴム組成物。
上記[1]に記載の本発明のゴム組成物は、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上させることが可能である。
【0009】
[2]前記樹脂は、前記イソプレン骨格ゴムとのSP値の差が0.6(cal/cm1/2以下であること、及び/又は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が500~1300g/molであることを特徴とする、[1]に記載のゴム組成物。
上記[2]に記載の本発明のゴム組成物は、低転がり抵抗性、操縦安定性及び低温特性をより高めることが可能である。
【0010】
[3]前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、1~80質量部であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
上記[3]に記載の本発明のゴム組成物は、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性のバランスをより高めることが可能である。
【0011】
[4]前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、1~40質量部であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のゴム組成物。
上記[4]に記載の本発明のゴム組成物は、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性のバランスをより高めることが可能である。
【0012】
[5]前記スチレン-ブタジエンゴムが、窒素原子を含む官能基とアルコキシ基とを有する変性剤で変性されていることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
上記[5]に記載の本発明のゴム組成物は、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性のバランス、作業性をより高めることが可能である。
【0013】
[6][1]又は[2]に記載のゴム組成物を含むことを特徴とする、タイヤ。
上記[6]に記載の本発明のタイヤは低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上を図れる。
に優れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したタイヤを提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
なお、本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0016】
また、本明細書において、「サステナブル材料の比率」とは、対象とする材料中の、生物資源(バイオマス資源)由来の成分と、再生資源(リサイクル資源)由来の成分と、の総質量割合である。
【0017】
本明細書において、前記生物資源(バイオマス資源)とは、生物由来のカーボンニュートラルな有機資源を指し、例えば、デンプンやセルロース等の形で蓄えられたもの、植物を食べて成育する動物の体や、植物や動物を加工して得た製品等が包含され、化石資源(石油、石炭、天然ガス等)を除く資源である。該生物資源は、可食であってもよいし、非可食であってもよいが、食料と競合せず、また、資源の有効利用の観点からは、非可食であることが好ましい。
【0018】
前記生物資源の具体例としては、例えば、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦藁、稲藁、古紙、製紙残渣等)、木材、木炭、堆肥、生ゴミ、植物油カス、水産物残渣、家畜排泄物、食品廃棄物、排水汚泥、天然ゴム、綿花、油脂(パーム油、ヒマシ油、綿実油、大豆油、アマニ油、菜種油、ヤシ油、落花生油、トール油、コーン油、コメ油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、向日葵油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油、ココナッツ油等)、炭水化物系作物(トウモロコシ、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、イモ類、そば、キャッサバ、サゴヤシ、サトウキビ等)、バガス(即ち、サトウキビの搾汁後の残渣)、大豆、おから、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油等)、パルプ黒液、藻類等が挙げられる。前記生物資源としては、これらを処理したもの(即ち、生物資源由来物質)を利用することもできる。処理方法としては、例えば、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体等の働きを利用した生物学的処理方法;酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー、光エネルギー等を利用した化学的処理方法;微細化、圧縮、マイクロ波処理、電磁波処理等の物理的処理方法;等が挙げられる。また、前記生物資源としては、前記生物資源や前記処理を行った生物資源から、抽出、精製したもの(即ち、生物資源由来物質)を利用することもできる。例えば、前記生物資源から精製した糖類、タンパク質、アミノ酸、脂肪酸、脂肪酸エステル等を利用することもできる。前記糖類としては、生物資源由来の、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース、セルロース、デンプン、キチン等が挙げられる。前記タンパク質としては、生物資源由来で、アミノ酸(好ましくはL-アミノ酸)が連結してできた化合物が挙げられ、ジペプチド等のオリゴペプチドも包含される。前記アミノ酸としては、生物資源由来の、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、リジン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニン等が挙げられ、これらの中でも、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、フェニルアラニンが好ましい。該アミノ酸は、L-アミノ酸でも、D-アミノ酸でもよいが、天然における存在量が多く、入手容易性の観点から、L-アミノ酸が好ましい。前記脂肪酸としては、生物資源由来の、酪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。前記脂肪酸エステルとしては、植物油、動物油、生物資源由来の油脂の改質物等が挙げられる。これら生物資源には、種々の材料、不純物が混入していてもよい。
【0019】
本明細書において、前記再生資源(リサイクル資源)とは、一度使用され、又は使用されずに収集され、若しくは廃棄された製品を再生(リサイクル)して得た資源を指す。例えば、再生資源としては、使用済タイヤ等の使用済ゴム製品を再生(リサイクル)して得た資源等が挙げられる。
【0020】
<ゴム組成物>
【0021】
本発明のゴム組成物の構成について、以下に説明する。
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、樹脂と、を含み、
前記樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂を、前記ゴム成分100質量部に対して合計1~50質量部含み、
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴムを含有し、
前記スチレン-ブタジエンゴムは、ガラス転移温度が-40℃未満であることを特徴とする。
【0022】
本発明のゴム組成物においては、樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種とともに、ロジン系樹脂を配合することで、低転がり抵抗性及び低温特性と、操縦安定性とのバランスを向上させることができる。
ただし、前記樹脂を配合するだけでは、該ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能と耐摩耗性能が低下し、また、該樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対して50質量部を超えると、該ゴム組成物を適用したタイヤの低転がり性が悪化する。これに対し、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前記樹脂の含有量を、ゴム成分100質量部に対して50質量部以下とし、さらに、ガラス転移温度が-40℃未満のスチレン-ブタジエンゴムを配合することで、ゴム組成物中の充填剤の分散性を改良して、該ゴム組成物の低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性のバランスを補完できる。
【0023】
(ゴム成分)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分を含み、該ゴム成分が、組成物にゴム弾性をもたらす。該ゴム成分は、イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴムを含有する。
・イソプレン骨格ゴム
前記イソプレン骨格ゴムは、イソプレン単位を主たる骨格とするゴムであり、具体的には、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、改質天然ゴム(改質NR)、変性天然ゴム(変性NR)、変性合成イソプレンゴム(変性IR)等が挙げられる。天然ゴム(NR)としては、例えば、RSS#3、TSR20(例えば,SIR20やSTR20)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
ゴム成分がイソプレン骨格ゴムを含有することで、ゴム組成物の破壊強度を高めることができる。その結果、該ゴム組成物を適用したタイヤの転がり抵抗を小さくして、低燃費性能を向上させることができ、また、タイヤの耐摩耗性能を向上させることもできる。
【0024】
また、前記天然ゴム(NR)の起源は、特に限定されず、例えば、パラゴムノキ由来、グアユール由来、ロシアタンポポ由来のもの等が挙げられる。合成イソプレンゴム(IR)としては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等が挙げられる。変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。変性IRとしては、エポキシ化合成イソプレンゴム、水素添加合成イソプレンゴム、グラフト化合成イソプレンゴム等が挙げられる。これらイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、イソプレン系ゴムとしては、NRが好ましい。
【0025】
前記イソプレン骨格ゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部中、1~80質量部であることが好ましく、1~65質量部であることがさらに好ましい。イソプレン骨格ゴムの含有量が、ゴム成分100質量部中、1~65質量部の場合、該ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能と低温性能をさらに向上させることができる。また、イソプレン骨格ゴムの含有量が、ゴム成分100質量部中、1~65質量部の場合、該ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能及び低温特性をより一層向上させることができる。また、イソプレン骨格ゴムの配合効果をより大きくする観点からは、イソプレン骨格ゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部中、10質量部以上がさらに好ましい。
【0026】
また、前記イソプレン系ゴムは、サステナブル率が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
前記イソプレン系ゴムのサステナブル率を前記範囲内とするためには、天然ゴム(NR)を使用したり、生物資源由来のイソプレンや再生資源由来のイソプレンをモノマー成分として合成されたポリマーを使用することが好ましい。この際、合成されたポリマーは、生物資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、再生資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマーと再生資源由来のモノマーとの共重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマー及び/又は再生資源由来のモノマーと化石資源(石油等)由来のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0027】
・スチレン-ブタジエンゴム
前記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、ガラス転移温度が-40℃未満であり、好ましくは-45℃以下、さらに好ましくは-50℃以下であり、また、好ましくは-90℃より高い。スチレン-ブタジエンゴムのガラス転移温度が-40℃未満であると、該ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能と耐摩耗性能とを十分に向上させることができる。また、ガラス転移温度が-90℃より高いスチレン-ブタジエンゴムは、合成し易い。
【0028】
前記スチレン-ブタジエンゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部中、20~99質量部であることが好ましく、30~99質量部であることがより好ましく、35~99質量部であることがさらに好ましい。スチレン-ブタジエンゴムの含有量が、ゴム成分100質量部中、60~99質量部の場合、タイヤ用ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能とウェットグリップ性能とをさらに向上させることができる。
【0029】
前記イソプレン骨格ゴムと前記スチレン-ブタジエンゴムとのSP値の差は、0.3(cal/cm1/2以上であることが好ましく、0.35(cal/cm1/2以上であることがさらに好ましい。イソプレン骨格ゴムとスチレン-ブタジエンゴムとのSP値の差が0.3(cal/cm1/2以上の場合、イソプレン骨格ゴムとスチレン-ブタジエンゴムとが非相溶になり易い。
【0030】
前記スチレン-ブタジエンゴムは、結合スチレン量が15質量%未満であることが好ましい。スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量とは、スチレン-ブタジエンゴムに含まれるスチレン単位の割合を意味する。スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量が15質量%未満である場合、ガラス転移温度が低くなり易い。スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量は、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。また、スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量は、ゴム組成物を適用したタイヤの耐摩耗性能の観点から、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましい。
前記スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量は、スチレン-ブタジエンゴムの重合に用いる単量体の量、重合度等により調整することができる。
【0031】
前記スチレン-ブタジエンゴムは、窒素原子を含む官能基とアルコキシ基とを有する変性剤で変性されていることが好ましい。スチレン-ブタジエンゴムが窒素原子を含む官能基とアルコキシ基とを有する変性剤で変性されている場合、ゴム組成物を適用したタイヤのウェットグリップ性能と、低燃費性能と、耐摩耗性能とのバランスがさらに向上し、特には、低燃費性能と耐摩耗性能をさらに向上させることができる。
前記窒素原子を含む官能基とアルコキシ基とを有する変性剤とは、少なくとも1つの窒素原子を含む官能基と少なくとも1つのアルコキシ基を有する変性剤の総称である。
窒素原子を含む官能基は、下記から選択されることが好ましい。
第一アミノ基、加水分解可能な保護基で保護された第一アミノ基、第一アミンのオニウム塩残基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、イミン基、イミン残基、アミド基、加水分解可能な保護基で保護された第二アミノ基、環状第二アミノ基、環状第二アミンのオニウム塩残基、非環状第二アミノ基、非環状第二アミンのオニウム塩残基、イソシアヌル酸トリエステル残基、環状第三アミノ基、非環状第三アミノ基、ニトリル基、ピリジン残基、環状第三アミンのオニウム塩残基及び非環状第三アミンのオニウム塩残基からなる群から選択される官能基を有し、直鎖、分枝、脂環若しくは芳香族環を含む炭素数1~30の1価の炭化水素基、又は酸素原子、硫黄原子及びリン原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいても良い、直鎖、分枝、脂環又は芳香族環を含む炭素数1~30の1価の炭化水素基である。
【0032】
-第1の好適態様の変性スチレン-ブタジエンゴム-
前記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、アミノアルコキシシラン化合物で変性されていることが好ましく、充填剤に対して高い親和性を有する観点から、末端がアミノアルコキシシラン化合物で変性されていることがさらに好ましい。スチレン-ブタジエンゴムの末端がアミノアルコキシシラン化合物で変性されている場合、変性スチレン-ブタジエンゴムと充填剤(特には、シリカ)との相互作用が特に大きくなる。
【0033】
前記スチレン-ブタジエンゴムの変性箇所は、上述のように分子末端であってもよいが、主鎖であってもよい。
分子末端が変性されたスチレン-ブタジエンゴムは、例えば、国際公開第2003/046020号、特開2007-217562号公報に記載の方法に従って、活性末端を有するスチレン-ブタジエン共重合体の末端に、種々の変性剤を反応させることで製造できる。
一好適態様においては、該分子末端が変性されたスチレン-ブタジエンゴムは、国際公開第2003/046020号、特開2007-217562号公報に記載の方法に従って、シス-1,4結合量が75%以上の活性末端を有するスチレン-ブタジエン共重合体の末端に、アミノアルコキシシラン化合物を反応させた後、多価アルコールのカルボン酸部分エステルと反応させて安定化を行うことで製造することができる。
【0034】
前記多価アルコールのカルボン酸部分エステルとは、多価アルコールとカルボン酸とのエステルであり、かつ水酸基を一つ以上有する部分エステルを意味する。具体的には、炭素数4以上の糖類又は変性糖類と脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。このエステルは、さらに好ましくは、(1)多価アルコールの脂肪酸部分エステル、特に炭素数10~20の飽和高級脂肪酸又は不飽和高級脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル(モノエステル、ジエステル、トリエステルのいずれでもよい)、(2)多価カルボン酸と高級アルコールの部分エステルを、多価アルコールに1~3個結合させたエステル化合物等が挙げられる。
部分エステルの原料に用いられる多価アルコールとしては、好ましくは少なくとも三つの水酸基を有する炭素数5又は6の糖類(水素添加されていても、水素添加されていなくてもよい)、グリコールやポリヒドロキシ化合物等が用いられる。また、原料脂肪酸としては、好ましくは炭素数10~20の飽和又は不飽和脂肪酸であり、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸が用いられる。
多価アルコールの脂肪酸部分エステルの中では、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、具体的には、ソルビタンモノラウリン酸エステル、ソルビタンモノパルミチン酸エステル、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタントリステアリン酸エステル、ソルビタンモノオレイン酸エステル、ソルビタントリオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0035】
上記アミノアルコキシシラン化合物としては、特に限定されないが、下記一般式(i)で表されるアミノアルコキシシラン化合物が好ましい。
11 -Si-(OR124-a ・・・ (i)
【0036】
一般式(i)中、R11及びR12は、それぞれ独立に炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基を示し、R11及びR12の少なくとも1つはアミノ基で置換されており、aは0~2の整数であり、OR12が複数ある場合、各OR12は互いに同一でも異なっていてもよく、また、分子中には活性プロトンは含まれない。
【0037】
上記アミノアルコキシシラン化合物としては、下記一般式(ii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物も好ましい。
【化1】
【0038】
一般式(ii)中、n1+n2+n3+n4=4(但し、n2は1~4の整数であり、n1、n3およびn4は0~3の整数である)である。
は、飽和環状3級アミン化合物残基、不飽和環状3級アミン化合物残基、ケチミン残基、ニトリル基、(チオ)イソシアナート基、イソシアヌル酸トリヒドロカルビルエステル基、ニトリル基、ピリジン基、(チオ)ケトン基、アミド基、並びに加水分解性基を有する第一若しくは第二アミノ基の中から選択される少なくとも1種の官能基である。n4が2以上の場合には、Aは、同一でも異なっていてもよく、Aは、Siと結合して環状構造を形成する二価の基であってもよい。
21は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、n1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
22は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよい。n2が2以上の場合には、R22は、互いに同一若しくは異なっていてもよいし、或いは、一緒になって環を形成してもよい。
23は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子であり、n3が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
24は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
加水分解性基を有する第一若しくは第二アミノ基における加水分解性基としては、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0039】
上記一般式(ii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物は、下記一般式(iii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【化2】
【0040】
一般式(iii)中、p1+p2+p3=2(但し、p2は1~2の整数であり、p1およびp3は0~1の整数である)である。
は、NRa(Raは、一価の炭化水素基、加水分解性基又は含窒素有機基である)である。
25は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。
26は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又は含窒素有機基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよい。p2が2の場合には、R26は、互いに同一でも異なっていてもよいし、或いは、一緒になって環を形成していてもよい。
27は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子である。
28は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
加水分解性基としては、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0041】
上記一般式(ii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物は、下記一般式(iv)又は下記一般式(v)で表されるアミノアルコキシシラン化合物であることも好ましい。
【化3】
【0042】
一般式(iv)中、q1+q2=3(但し、q1は0~2の整数であり、q2は1~3の整数である)である。
31は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
32及びR33は、それぞれ独立して、加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。
34は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q1が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
35は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q2が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
【0043】
【化4】
【0044】
一般式(v)中、r1+r2=3(但し、r1は1~3の整数であり、r2は0~2の整数である)である。
36は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
37は、ジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、メチルシリル(メチル)アミノメチル基、メチルシリル(メチル)アミノエチル基、メチルシリル(エチル)アミノメチル基、メチルシリル(エチル)アミノエチル基、ジメチルシリルアミノメチル基、ジメチルシリルアミノエチル基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
38は、炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r2が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
一般式(v)で表されるアミノアルコキシシラン化合物の具体例としては、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-トリエトキシシリル-1-プロパンアミンが挙げられる。
【0045】
上記一般式(ii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物は、下記一般式(vi)又は下記一般式(vii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物であることも好ましい。
【化5】
【0046】
一般式(vi)中、R40は、トリメチルシリル基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。
41は、炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。
42は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
ここで、TMSは、トリメチルシリル基を示す(以下、同じ。)。
【0047】
【化6】
【0048】
一般式(vii)中、R43及びR44は、それぞれ独立して炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
45は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、各R45は、同一でも異なっていてもよい。
【0049】
上記一般式(ii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物は、下記一般式(viii)又は下記一般式(ix)で表されるアミノアルコキシシラン化合物であることも好ましい。
【化7】
【0050】
一般式(viii)中、s1+s2は3である(但し、s1は0~2の整数であり、s2は1~3の整数である)。
46は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
47及びR48は、それぞれ独立して炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。複数のR47又はR48は、同一でも異なっていてもよい。
【0051】
【化8】
【0052】
一般式(ix)中、Xは、ハロゲン原子である。
49は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
50及びR51は、それぞれ独立して加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であるか、或いは、R50及びR51は結合して二価の有機基を形成している。
52及びR53は、それぞれ独立してハロゲン原子、ヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。
50及びR51としては、加水分解性基が好ましく、加水分解性基として、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0053】
上記一般式(ii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物は、下記一般式(x)、下記一般式(xi)、下記一般式(xii)又は下記一般式(xiii)で表されるアミノアルコキシシラン化合物であることも好ましい。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0054】
一般式(x)~(xiii)中、記号U、Vは、それぞれ0~2且つU+V=2を満たす整数である。
一般式(x)~(xiii)中のR5492は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1~20の一価若しくは二価の脂肪族又は脂環式炭化水素基、或いは炭素数6~18の一価若しくは二価の芳香族炭化水素基である。
一般式(xiii)中のα及びβは、0~5の整数である。
【0055】
一般式(x)、一般式(xi)、一般式(xii)を満たす化合物の中でも、特に、N1,N1,N7,N7-テトラメチル-4-((トリメトキシシリル)メチル)へプタン-1,7-ジアミン、2-((ヘキシル-ジメトキシシリル)メチル)-N1,N1,N3,N3-2-ペンタメチルプロパン-1,3-ジアミン、N1-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)-N3,N3-ジメチル-N1-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)プロパン-1,3-ジアミン、4-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)-N1,N1,N7,N7-テトラメチル-4-((トリメトキシシリル)メチル)へプタン-1,7-ジアミンが好ましい。
また、一般式(xiii)を満たす化合物の中でも、特に、N,N-ジメチル-2-(3-(ジメトキシメチルシリル)プロポキシ)エタンアミン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-2-(3-(トリメトキシシリル)プロポキシ)エタンアミン、N,N-ジメチル-2-(3-(トリメトキシシリル)プロポキシ)エタンアミン、N,N-ジメチル-3-(3-(トリメトキシシリル)プロポキシ)プロパン-1-アミンが好ましい。
【0056】
-第2の好適態様の変性スチレン-ブタジエンゴム-
前記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、下記一般式(I)で表されるカップリング剤によって変性されていることも好ましい。この場合、ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能と耐摩耗性能をさらに向上させることができる。
【化13】
【0057】
上記一般式(I)中、R、R及びRは、それぞれ独立して単結合又は炭素数1~20のアルキレン基を示す。
、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基を示す。
及びR11は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキレン基を示す。
10は、炭素数1~20の、アルキル基又はトリアルキルシリル基を示す。
mは、1~3の整数を示し、pは、1又は2を示す。
~R11、m及びpは、複数存在する場合、それぞれ独立している。
i、j及びkは、それぞれ独立して0~6の整数を示す。但し、(i+j+k)は、3~10の整数である。
Aは、炭素数1~20の、炭化水素基、又は、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子及びリン原子からなる群から選択される少なくとも一種の原子を有し、活性水素を有しない有機基を示す。
ここで、一般式(I)中、Aが示す炭化水素基は、飽和、不飽和、脂肪族、及び芳香族の炭化水素基を包含する。活性水素を有しない有機基としては、例えば、水酸基(-OH)、第2級アミノ基(>NH)、第1級アミノ基(-NH)、スルフヒドリル基(-SH)等の活性水素を有する官能基、を有しない有機基が挙げられる。
【0058】
上記一般式(I)で表されるカップリング剤によって変性されたスチレン-ブタジエンゴムは、重量平均分子量(Mw)が20×10~300×10であって、該変性スチレン-ブタジエンゴムの総量に対して、分子量が200×10~500×10である変性スチレン-ブタジエンゴムを、0.25~30質量%含み、収縮因子(g’)が0.64未満であることが好ましい。
【0059】
一般に、分岐を有する重合体は、同一の絶対分子量である直鎖状の重合体と比較した場合に、分子の大きさが小さくなる傾向にあり、前記収縮因子(g’)は、想定上同一の絶対分子量である直鎖状重合体に対する、分子の占める大きさの比率の指標である。即ち、重合体の分岐度が大きくなれば、収縮因子(g’)は小さくなる傾向にある。本実施形態では、分子の大きさの指標として固有粘度を用い、直鎖状の重合体は、固有粘度[η]=-3.883M0.771の関係式に従うものとして用いる。変性スチレン-ブタジエンゴムの各絶対分子量のときの収縮因子(g’)を算出し、絶対分子量が100×10~200×10のときの収縮因子(g’)の平均値を、その変性スチレン-ブタジエンゴムの収縮因子(g’)とする。ここで、「分岐」とは、1つの重合体に対して、他の重合体が直接又は間接的に結合することにより形成されるものである。また、「分岐度」は、1の分岐に対して、直接又は間接的に互いに結合している重合体の数である。例えば、後述するカップリング残基を介して間接的に、後述の5つのスチレン-ブタジエン共重合体鎖が互いに結合している場合には、分岐度は5である。なお、カップリング残基とは、スチレン-ブタジエン共重合体鎖に結合される、変性スチレン-ブタジエンゴムの構成単位であり、例えば、後述するスチレン-ブタジエン共重合体とカップリング剤とを反応させることによって生じる、カップリング剤由来の構造単位である。また、スチレン-ブタジエン共重合体鎖は、変性スチレン-ブタジエンゴムの構成単位であり、例えば、後述するスチレン-ブタジエン共重合体とカップリング剤とを反応させることによって生じる、スチレン-ブタジエン共重合体由来の構造単位である。
前記収縮因子(g’)は、好ましくは0.64未満であり、より好ましくは0.63以下であり、より好ましくは0.60以下であり、さらに好ましくは0.59以下であり、より一層好ましくは0.57以下である。また、収縮因子(g’)の下限は、特に限定されず、検出限界値以下であってもよいが、好ましくは0.30以上であり、より好ましくは0.33以上であり、さらに好ましくは0.35以上であり、より一層好ましくは0.45以上である。収縮因子(g’)がこの範囲である変性スチレン-ブタジエンゴムを使用することで、ゴム組成物の加工性が向上する。
収縮因子(g’)は分岐度に依存する傾向にあるため、例えば、分岐度を指標として収縮因子(g’)を制御することができる。具体的には、分岐度が6である変性スチレン-ブタジエンゴムとした場合には、その収縮因子(g’)は0.59以上0.63以下となる傾向にあり、分岐度が8である変性スチレン-ブタジエンゴムとした場合には、その収縮因子(g’)は0.45以上0.59以下となる傾向にある。
【0060】
上記一般式(I)で表されるカップリング剤によって変性されたスチレン-ブタジエンゴムは、分岐を有し、分岐度が5以上であることが好ましい。また、変性スチレン-ブタジエンゴムは、1以上のカップリング残基と、該カップリング残基に対して結合するスチレン-ブタジエン共重合体鎖とを有し、さらに、上記分岐が、1の当該カップリング残基に対して5以上の当該スチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むことがより好ましい。分岐度が5以上であること、及び、分岐が、1のカップリング残基に対して5以上のスチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むよう、変性スチレン-ブタジエンゴムの構造を特定することにより、より確実に収縮因子(g’)を0.64未満にすることができる。なお、1のカップリング残基に対して結合しているスチレン-ブタジエン共重合体鎖の数は、収縮因子(g’)の値から確認することができる。
また、前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、分岐を有し、分岐度が6以上であることがより好ましい。また、変性スチレン-ブタジエンゴムは、1以上のカップリング残基と、該カップリング残基に対して結合するスチレン-ブタジエン共重合体鎖とを有し、さらに、上記分岐が、1の当該カップリング残基に対して6以上の当該スチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むことが、さらに好ましい。分岐度が6以上であること、及び、分岐が、1のカップリング残基に対して6以上のスチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むよう、変性スチレン-ブタジエンゴムの構造を特定することにより、収縮因子(g’)を0.63以下にすることができる。
さらに、前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、分岐を有し、分岐度が7以上であることがさらに好ましく、分岐度が8以上であることがより一層好ましい。分岐度の上限は、特に限定されないが、18以下であることが好ましい。また、変性スチレン-ブタジエンゴムは、1以上のカップリング残基と、該カップリング残基に対して結合するスチレン-ブタジエン共重合体鎖とを有し、さらに、上記分岐が、1の当該カップリング残基に対して7以上の当該スチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むことが、より一層好ましく、1の当該カップリング残基に対して8以上の当該スチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むことが、特に好ましい。分岐度が8以上であること、及び、分岐が、1のカップリング残基に対して8以上のスチレン-ブタジエン共重合体鎖が結合している分岐を含むよう、変性スチレン-ブタジエンゴムの構造を特定することにより、収縮因子(g’)を0.59以下にすることができる。
【0061】
前記スチレン-ブタジエン共重合体鎖は、少なくともその1つの末端が、それぞれカップリング残基が有するケイ素原子と結合していることが好ましい。この場合、複数のスチレン-ブタジエン共重合体鎖の末端が、1のケイ素原子と結合していてもよい。また、スチレン-ブタジエン共重合体鎖の末端と炭素数1~20のアルコキシ基又は水酸基とが、一つのケイ素原子に結合し、その結果として、その1つのケイ素原子が炭素数1~20のアルコキシシリル基又はシラノール基を構成していてもよい。
【0062】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、伸展油を加えた油展ゴムとすることができる。該変性スチレン-ブタジエンゴムは、非油展であっても、油展であってもよいが、耐摩耗性能の観点から、100℃で測定されるムーニー粘度が、20以上100以下であることが好ましく、30以上80以下であることがより好ましい。
【0063】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは20×10以上300×10以下であり、より好ましくは50×10以上であり、より好ましくは64×10以上であり、さらに好ましくは80×10以上である。また、上記重量平均分子量は、好ましくは250×10以下であり、さらに好ましくは180×10以下であり、より好ましくは150×10以下である。重量平均分子量が20×10以上であると、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性を十分に向上させることができる。また、重量平均分子量が300×10以下であると、ゴム組成物の加工性が向上する。
【0064】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、該変性スチレン-ブタジエンゴムの総量(100質量%)に対して、分子量が200×10以上500×10以下である変性スチレン-ブタジエンゴム(以下、「特定の高分子量成分」ともいう。)を、0.25質量%以上30質量%以下含むことが好ましい。該特定の高分子量成分の含有量が0.25質量%以上30質量%以下の場合、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性能を十分に向上させることができる。前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、前記特定の高分子量成分を、好ましくは1.0質量%以上含み、より好ましくは1.4質量%以上含み、さらに好ましくは1.75質量%以上含み、より一層好ましくは2.0質量%以上含み、特に好ましくは2.15質量%以上含み、極めて好ましくは2.5質量%以上含む。また、変性スチレン-ブタジエンゴムは、前記特定の高分子量成分を、好ましくは28質量%以下含み、より好ましくは25質量%以下含み、さらに好ましくは20質量%以下含み、より一層好ましくは18質量%以下含む。
なお、本明細書において、ゴム成分の「分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって得られる、標準ポリスチレン換算分子量である。特定の高分子量成分の含有量がこのような範囲にある変性スチレン-ブタジエンゴムを得るためには、後述する重合工程と反応工程とにおける反応条件を制御することが好ましい。例えば、重合工程においては、後述する有機モノリチウム化合物の重合開始剤としての使用量を調整すればよい。また、重合工程において、連続式、及び回分式のいずれの重合様式においても、滞留時間分布を有する方法を用いる、即ち、成長反応の時間分布を広げるとよい。
【0065】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムにおいては、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、1.6以上3.0以下が好ましい。変性スチレン-ブタジエンゴムの分子量分布がこの範囲であれば、ゴム組成物の加工性が良好となる。
【0066】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムの製造方法は、特に限定されるものではないが、有機モノリチウム化合物を重合開始剤として用い、ブタジエンとスチレンを共重合して、スチレン-ブタジエン共重合体を得る重合工程と、該スチレン-ブタジエン共重合体の活性末端に対して、5官能以上の反応性化合物(以下、「カップリング剤」ともいう。)を反応させる反応工程と、を有することが好ましい。
【0067】
前記重合工程は、リビングアニオン重合反応による成長反応による重合が好ましく、これにより、活性末端を有するスチレン-ブタジエン共重合体を得ることができ、高変性率の変性スチレン-ブタジエンゴムを得ることができる。
前記スチレン-ブタジエン共重合体は、1,3-ブタジエンとスチレンを共重合して得られる。
【0068】
前記有機モノリチウム化合物の重合開始剤としての使用量は、目標とするスチレン-ブタジエン共重合体又は変性スチレン-ブタジエンゴムの分子量によって決めることが好ましい。重合開始剤の使用量に対する、1,3-ブタジエン、スチレン等の単量体の使用量が重合度に関係し、即ち、数平均分子量及び/又は重量平均分子量に関係する。従って、分子量を増大させるためには、重合開始剤を減らす方向に調整するとよく、分子量を低下させるためには、重合開始剤量を増やす方向に調整するとよい。
前記有機モノリチウム化合物は、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、好ましくは、アルキルリチウム化合物である。この場合、重合開始末端にアルキル基を有する、スチレン-ブタジエン共重合体が得られる。アルキルリチウム化合物としては、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、n-ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、及びスチルベンリチウムが挙げられる。アルキルリチウム化合物としては、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、n-ブチルリチウム、及びsec-ブチルリチウムが好ましい。これらの有機モノリチウム化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
前記重合工程において、重合反応様式としては、例えば、回分式、連続式の重合反応様式が挙げられる。連続式においては、1個又は2個以上の連結された反応器を用いることができる。連続式の反応器は、例えば、撹拌機付きの槽型、管型のものが用いられる。連続式においては、好ましくは、連続的に単量体、不活性溶媒、及び重合開始剤が反応器にフィードされ、該反応器内で重合体を含む重合体溶液が得られ、連続的に重合体溶液が排出される。回分式の反応器は、例えば、攪拌機付の槽型のものが用いられる。回分式においては、好ましくは、単量体、不活性溶媒、及び重合開始剤がフィードされ、必要により単量体が重合中に連続的又は断続的に追加され、該反応器内で重合体を含む重合体溶液が得られ、重合終了後に重合体溶液が排出される。本実施形態において、高い割合で活性末端を有するスチレン-ブタジエン共重合体を得るには、重合体を連続的に排出し、短時間で次の反応に供することが可能な、連続式が好ましい。
【0070】
前記重合工程は、不活性溶媒中で重合することが好ましい。溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が挙げられる。具体的な炭化水素系溶媒としては、以下のものに限定されないが、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素が挙げられる。重合反応に供する前に、不純物であるアレン類、及びアセチレン類を有機金属化合物で処理することで、高濃度の活性末端を有するスチレン-ブタジエン共重合体が得られる傾向にあり、高い変性率の変性スチレン-ブタジエンゴムが得られる傾向にあるため好ましい。
【0071】
前記重合工程においては、極性化合物を添加してもよい。極性化合物を添加することで、スチレンを1,3-ブタジエンとランダムに共重合させることができ、また、極性化合物は、1,3-ブタジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤としても用いることができる傾向にある。
前記極性化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパン等のエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第3級アミン化合物;カリウム-tert-アミラート、カリウム-tert-ブチラート、ナトリウム-tert-ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等を用いることができる。これらの極性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記重合工程において、重合温度は、生産性の観点から、0℃以上であることが好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、50℃以上100℃以下であることが特に好ましい。このような範囲にあることで、重合終了後の活性末端に対するカップリング剤の反応量を充分に確保することができる傾向にある。
【0073】
前記スチレン-ブタジエン共重合体又は変性スチレン-ブタジエンゴム中の結合ブタジエン量は、特に限定されないが、40質量%以上100質量%以下であることが好ましく、55質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
また、前記スチレン-ブタジエン共重合体又は変性スチレン-ブタジエンゴム中の結合スチレン量は、特に限定されないが、0質量%超60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
前記結合ブタジエン量及び結合スチレン量が上記範囲であると、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性能とをさらに向上させることができる。
なお、結合スチレン量は、フェニル基の紫外吸光によって測定でき、ここから結合ブタジエン量も求めることができる。
【0074】
前記スチレン-ブタジエン共重合体又は変性スチレン-ブタジエンゴムにおいて、ブタジエン結合単位中のビニル結合量は、特に限定されないが、10モル%以上75モル%以下であることが好ましく、20モル%以上65モル%以下であることがより好ましい。ビニル結合量が上記範囲であると、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性能とをさらに向上させることができる。
なお、変性スチレン-ブタジエンゴムについては、ハンプトンの方法[R.R.Hampton,Analytical Chemistry,21,923(1949)]により、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2-結合量)を求めることができる。
【0075】
上記一般式(I)で表されるカップリング剤が有するアルコキシシリル基は、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体が有する活性末端と反応して、アルコキシリチウムが解離し、スチレン-ブタジエン共重合体鎖の末端とカップリング残基のケイ素との結合を形成する傾向にある。カップリング剤1分子が有するSiORの総数から、反応により減じたSiOR数を差し引いた値が、カップリング残基が有するアルコキシシリル基の数となる。また、カップリング剤が有するアザシラサイクル基は、>N-Li結合及びスチレン-ブタジエン共重合体末端とカップリング残基のケイ素との結合を形成する。なお、>N-Li結合は、仕上げ時の水等により容易に>NH及びLiOHとなる傾向にある。また、カップリング剤において、未反応で残存したアルコキシシリル基は、仕上げ時の水等により容易にシラノール(Si-OH基)となり得る傾向にある。
【0076】
前記反応工程における反応温度は、好ましくはスチレン-ブタジエン共重合体の重合温度と同様の温度であり、より好ましくは0℃以上120℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上100℃以下である。また、重合工程後からカップリング剤が添加されるまでの温度変化は、好ましくは10℃以下であり、より好ましくは5℃以下である。
前記反応工程における反応時間は、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは30秒以上である。重合工程の終了時から反応工程の開始時までの時間は、カップリング率の観点から、より短い方が好ましいが、より好ましくは5分以内である。
反応工程における混合は、機械的な攪拌、スタティックミキサーによる攪拌等のいずれでもよい。重合工程が連続式である場合は、反応工程も連続式であることが好ましい。反応工程における反応器は、例えば、撹拌機付きの槽型、管型のものが用いられる。カップリング剤は、不活性溶媒により希釈して反応器に連続的に供給してもよい。重合工程が回分式の場合は、重合反応器にカップリング剤を投入する方法でも、別の反応器に移送して反応工程を行ってもよい。
【0077】
前記一般式(I)において、Aは、好ましくは下記一般式(II)~(V)のいずれかで表される。Aが一般式(II)~(V)のいずれかで表されるものであることにより、より優れた性能を有する変性スチレン-ブタジエンゴムを得ることができる。
【0078】
【化14】
前記一般式(II)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、aは、1~10の整数を示す。複数存在する場合のBは、各々独立している。
【0079】
【化15】
前記一般式(III)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、Bは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、1~10の整数を示す。それぞれ複数存在する場合のB及びBは、各々独立している。
【0080】
【化16】
前記一般式(IV)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、aは、1~10の整数を示す。複数存在する場合のBは、各々独立している。
【0081】
【化17】
前記一般式(V)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、aは、1~10の整数を示す。複数存在する場合のBは、各々独立している。
【0082】
前記一般式(II)~(V)中のB、B、B、Bに関して、炭素数1~20の炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキレン基等が挙げられる。
【0083】
好ましくは、前記一般式(I)において、Aは、前記一般式(II)又は(III)で表され、kは、0を示す。
より好ましくは、前記一般式(I)において、Aは、前記一般式(II)又は(III)で表され、kは、0を示し、前記一般式(II)又は(III)において、aは、2~10の整数を示す。
より一層好ましくは、前記一般式(I)において、Aは、前記一般式(II)で表され、kは、0を示し、前記一般式(II)において、aは、2~10の整数を示す。
かかるカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン、ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリスメトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン等が挙げられ、これらの中でも、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンが特に好ましい。
【0084】
前記カップリング剤としての一般式(I)で表される化合物の添加量は、スチレン-ブタジエン共重合体のモル数対カップリング剤のモル数が、所望の化学量論的比率で反応させるよう調整することができ、そのことにより所望の分岐度が達成される傾向にある。具体的な重合開始剤のモル数は、カップリング剤のモル数に対して、好ましくは5.0倍モル以上、より好ましくは6.0倍モル以上であることが好ましい。この場合、一般式(I)において、カップリング剤の官能基数((m-1)×i+p×j+k)は、5~10の整数であることが好ましく、6~10の整数であることがより好ましい。
【0085】
前記特定の高分子成分を有する変性スチレン-ブタジエンゴムを得るためには、スチレン-ブタジエン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)を、好ましくは1.5以上2.5以下、より好ましくは1.8以上2.2以下とするとよい。また、得られる変性スチレン-ブタジエンゴムは、GPCによる分子量曲線が一山のピークが検出されるものであることが好ましい。
前記変性スチレン-ブタジエンゴムのGPCによるピーク分子量をMp、スチレン-ブタジエン共重合体のピーク分子量をMpとした場合、以下の式が成り立つことが好ましい。
(Mp/Mp)<1.8×10-12×(Mp-120×10+2
Mpは、20×10以上80×10以下、Mpは30×10以上150×10以下がより好ましい。Mp及びMpは、後述する実施例に記載の方法により求める。
【0086】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムの変性率は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。変性率が30質量%以上であることで、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性能とをさらに向上させることができる。
【0087】
前記反応工程の後、共重合体溶液に、必要に応じて、失活剤、中和剤等を添加してもよい。失活剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。中和剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸(炭素数9~11個で、10個を中心とする、分岐の多いカルボン酸混合物)等のカルボン酸;無機酸の水溶液、炭酸ガス等が挙げられる。
また、前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、重合後のゲル生成を防止する観点、及び加工時の安定性を向上させる観点から、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピネート、2-メチル-4,6-ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の酸化防止剤を添加することが好ましい。
【0088】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムを、重合体溶液から取得する方法としては、公知の方法を用いることができる。その方法として、例えば、スチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法が挙げられる。
【0089】
上記一般式(I)で表されるカップリング剤と、スチレン-ブタジエン共重合体とを反応させてなる変性スチレン-ブタジエンゴムは、例えば、下記一般式(VI)で表される。
【化18】
【0090】
一般式(VI)中、Dは、スチレン-ブタジエン共重合体鎖を示し、該スチレン-ブタジエン共重合体鎖の重量平均分子量は、10×10~100×10であることが好ましい。該スチレン-ブタジエン共重合体鎖は、変性スチレン-ブタジエンゴムの構成単位であり、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体とカップリング剤とを反応させることによって生じる、スチレン-ブタジエン共重合体由来の構造単位である。
12、R13及びR14は、各々独立に、単結合又は炭素数1~20のアルキレン基を示す。
15及びR18は、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基を示す。
16、R19、及びR20は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を示す。
17及びR21は、各々独立に、炭素数1~20のアルキレン基を示す。
22は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を示す。
m及びxは、1~3の整数を示し、x≦mであり、pは、1又は2を示し、yは1~3の整数を示し、y≦(p+1)であり、zは、1又は2の整数を示す。
それぞれ複数存在する場合のD、R12~R22、m、p、x、y、及びzは、各々独立しており、同じであっても異なっていてもよい。
また、iは、0~6の整数を示し、jは0~6の整数を示し、kは0~6の整数を示し、(i+j+k)は3~10の整数であり、((x×i)+(y×j)+(z×k))は、5~30の整数である。
Aは、炭素数1~20の炭化水素基、又は、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びリン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を有し、かつ、活性水素を有しない有機基を示す。Aが示す炭化水素基は、飽和、不飽和、脂肪族、及び芳香族の炭化水素基を包含する。上記活性水素を有しない有機基としては、例えば、水酸基(-OH)、第2級アミノ基(>NH)、第1級アミノ基(-NH)、スルフヒドリル基(-SH)等の活性水素を有する官能基、を有しない有機基が挙げられる。
【0091】
上記一般式(VI)において、Aは、上記一般式(II)~(V)のいずれかで表されることが好ましい。Aが一般式(II)~(V)のいずれかで表されるものであることにより、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性能とをさらに向上させることができる。
【0092】
-第3の好適態様の変性スチレン-ブタジエンゴム-
前記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、少なくとも一方の末端が以下の一般式(1)で表される化合物(アルコキシシラン)を含む変性剤で変性されていることも好ましい。
【化19】
【0093】
前記ゴム成分として、充填剤親和性作用基であるオリゴシロキサン及び3級アミノ基を含む上記一般式(1)で表される化合物を含む変性剤で変性したスチレン-ブタジエンゴムを用いることによって、シリカ等の充填剤の分散性を高めることができる。その結果、本発明のゴム組成物は、充填剤の分散性が改善されることから、低ロス性が大きく改善され、該ゴム組成物を適用したタイヤの転がり抵抗を低減でき、低燃費性能を向上させることができる。
【0094】
上記一般式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基であり;L及びLは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキレン基であり;nは、2~4の整数である。
【0095】
具体的には、式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して置換又は非置換の炭素数1~20のアルキル基であってもよく、前記R~Rが置換される場合、それぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数4~10のシクロアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数2~12のアルカノイルオキシ基(Ra-COO-、ここで、Raは炭素数1~9のアルキル基である)、炭素数7~13のアラルキルオキシ基、炭素数7~13のアリールアルキル基、及び、炭素数7~13のアルキルアリール基からなる群から選択される1つ以上の置換基で置換され得る。
より具体的には、前記R~Rは、置換又は非置換の炭素数1~10のアルキル基であってもよく、さらに具体的には、前記R~Rは、それぞれ独立して置換又は非置換の、炭素数1~6のアルキル基であってもよい。
【0096】
また、式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して置換又は非置換の炭素数1~20のアルキル基であり、具体的には、置換又は非置換の炭素数1~10のアルキル基、さらに具体的には、置換又は非置換の炭素数1~6のアルキル基であってもよく、置換される場合、先にR~Rで説明したような置換基で置換され得る。
なお、前記R~Rがアルキル基ではなく、加水分解可能な置換基の場合、N-R及びN-Rの結合が水分存在下でN-Hに加水分解され、重合体の加工性に悪影響を及ぼし得る。
【0097】
より具体的には、前記式(1)で表される化合物において、R~Rは、メチル基又はエチル基であり、R~Rは、炭素数1~10のアルキル基とすることができる。
【0098】
前記式(1)で表される化合物中のアミノ基、即ち、N-R及びN-Rは、3級アミノ基であることが好ましい。前記3級アミノ基は、式(1)で表される化合物が変性剤として用いられた際、さらに優れた加工性を有するようにする。
なお、前記R~Rにアミノ基を保護するための保護基が結合するか、又は、水素が結合する場合には、前記式(1)で表される化合物による効果の具現が難しい可能性がある。水素が結合する場合、変性過程で陰イオンが水素と反応して反応性を失うようになって変性反応自体が不可能となり、保護基が結合する場合、変性反応が行われるが、重合体末端に結合した状態で後加工時に加水分解によって脱保護されて1級又は2級アミノ基になり、脱保護された1級又は2級アミノ基は、その後の配合時に配合物の高粘度化を引き起こし、加工性低下の原因になるおそれがある。
【0099】
また、前記式(1)で表される化合物中のL及びLは、それぞれ独立して置換又は非置換の炭素数1~20のアルキレン基である。
より具体的には、L及びLは、それぞれ独立して炭素数1~10のアルキレン基、さらに具体的には、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基のような炭素数1~6のアルキレン基とすることができる。
【0100】
前記式(1)で表される化合物中のL及びLについては、分子内のSi原子とN原子との間の距離が近い程、より優れた効果を奏する。但し、SiがNと直接結合する場合、後の処理工程中にSiとNとの間の結合が切れるおそれがあり、この際に発生した2級アミノ基は、後処理中に水により流失する可能性が高く、製造される変性スチレン-ブタジエンゴムでは、シリカ等の充填剤との結合を促進するアミノ基による充填剤との結合が難しく、その結果、充填剤の分散性の向上効果が低下することがある。このようにSiとNとの間の結合の長さによる改善効果を考慮すると、前記L及びLは、それぞれ独立して、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基のような炭素数1~3のアルキレン基であることがさらに好ましく、より具体的には、プロピレン基とすることができる。また、L及びLは、先にR~Rで説明したような置換基で置換され得る。
【0101】
また、前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記構造式(1-1)~(1-5)で表される化合物のうちのいずれか1つであることが好ましい。より優れた低ロス性を実現できるためである。
【化20】
【0102】
前記式(1)で表される化合物は、アルコキシシラン構造がスチレン-ブタジエン共重合体の活性末端と結合する一方、Si-O-Si構造及び末端に結合した3つ以上のアミノ基が、シリカ等の充填剤に対して親和力を示すことによって、従来の分子内に一つのアミノ基を含む変性剤と比較して、充填剤と変性スチレン-ブタジエンゴムとの結合を促進させることができる。また、前記スチレン-ブタジエン共重合体の活性末端の結合程度が均一で、カップリング前後に分子量分布の変化を観察すると、カップリング後にも前に比べて分子量分布が大きくならずに一定である。そのため、変性スチレン-ブタジエンゴム自体の物性低下がなく、ゴム組成物内の充填剤の凝集を防ぎ、充填剤の分散性を高めることができるため、ゴム組成物の加工性を向上させることができる。これらの効果は、特に、ゴム組成物をタイヤに適用した際に、低燃費性能とウェットグリップ性能をバランスよく改善させることが可能となる。
【0103】
なお、前記式(1)で表される化合物は、下記反応スキームで表される縮合反応を通じて製造され得る。
【化21】
【0104】
前記反応スキームにおいて、R~R、L及びL、及びnは、上述した式(1)で定義されたものと同様であり、R’及びR”は、前記縮合反応に影響を及ぼさない任意の置換基である。例えば、前記R’及びR”は、それぞれ独立してR~Rのいずれか1つと同一のものとすることができる。
【0105】
前記反応スキームの反応は、酸の存在下で進行し、該酸は一般に縮合反応に用いられるものであれば、制限なしに用いることができる。当業者は、前記反応が進められる反応器の種類、出発物質、反応温度等の多様な工程変数に合わせて、最適な酸を選択することができる。
【0106】
なお、前記式(1)で表される化合物を含む変性剤によって変性されたスチレン-ブタジエンゴムは、1.1~3.0の狭い分子量分布(Mw/Mn、「多分散指数(PDI)」ともいう。)を有するものとすることができる。前記変性スチレン-ブタジエンゴムの分子量分布が3.0を超えるか、1.1未満の場合、ゴム組成物への適用時に引張特性及び粘弾性が低下するおそれがある。前記変性スチレン-ブタジエンゴムの分子量分布の制御による、引張特性及び粘弾性改善の効果の顕著性を考慮すると、前記変性スチレン-ブタジエンゴムの分子量分布は、1.3~2.0の範囲が好ましい。なお、前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、前記変性剤を用いることによって、変性前のスチレン-ブタジエン共重合体の分子量分布と類似する。
【0107】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムの分子量分布は、重量平均分子量(Mw)対数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)から計算され得る。このとき、前記数平均分子量(Mn)は、n個の重合体分子の分子量を測定し、これら分子量の総合を求めてnで割って計算した個別の重合体分子量の共通平均であり、前記重量平均分子量(Mw)は、高分子組成物の分子量分布を表す。全体分子量の平均は、モル当たりグラム(g/mol)で表すことができる。
また、前記重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれゲル透過型クロマトグラフィ(GPC)で分析されるポリスチレン換算分子量である。
【0108】
また、前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、上記した分子量分布の条件を満たしていると同時に、数平均分子量(Mn)が50,000g/mol~2,000,000g/molであり、より具体的には、200,000g/mol~800,000g/molとすることができる。前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、重量平均分子量(Mw)が100,000g/mol~4,000,000g/molであり、より具体的には、300,000g/mol~1,500,000g/molとすることができる。
前記変性スチレン-ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)が100,000g/mol未満であるか、又は数平均分子量(Mn)が50,000g/mol未満の場合、ゴム組成物に適用する際の引張特性の低下のおそれがある。また、重量平均分子量(Mw)が4,000,000g/molを超えているか、数平均分子量(Mn)が2,000,000g/molを超える場合には、変性スチレン-ブタジエンゴムの加工性の低下によりゴム組成物の作業性が悪化し、混練が困難となり、また、ゴム組成物の物性を十分に向上させることが難しくなることがある。
より具体的には、前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、前記分子量分布とともに、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の条件を同時に満たしている場合には、ゴム組成物に適用した場合、ゴム組成物の粘弾性と加工性をバランスよく改善させることができる。
【0109】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、ブタジエン部分のビニル結合量が5%以上であることが好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、また、60%以下であることが好ましい。ブタジエン部分のビニル結合量を上記の範囲にすることで、ガラス転移温度を適切な範囲に調整できる。
【0110】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、100℃でのムーニー粘度(MV)が、40~140、具体的には60~100であってもよい。前記範囲のムーニー粘度を有する場合、より優れた加工性を示すことができる。
前記ムーニー粘度は、ムーニー粘度計、例えば、Monsanto社のMV2000Eで、100℃、ローター速度2±0.02rpmで、大ローターを使って測定することができる。このとき用いられた試料は、室温(23±3℃)で30分以上放置した後、27±3gを採取して、ダイキャビティの内部に満たしておき、プラテンを作動させて測定することができる。
【0111】
前記変性スチレン-ブタジエンゴムは、上述したように、一方の末端が上記一般式(1)で表される化合物を含む変性剤によって変性されることが好ましいが、他方の末端が下記一般式(2)で表される化合物を含む変性剤によってさらに変性されていることが好ましい。変性スチレン-ブタジエンゴムの両末端が変性されていることで、ゴム組成物中の充填剤の分散性がさらに向上し、ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能とウェットグリップ性能とをより高いレベルで両立できる。
【化22】
【0112】
上記一般式(2)において、R~R11は、互いに独立して、水素;炭素数1~30のアルキル基;炭素数2~30のアルケニル基;炭素数2~30のアルキニル基;炭素数1~30のヘテロアルキル基、炭素数2~30のヘテロアルケニル基;炭素数2~30のヘテロアルキニル基;炭素数5~30のシクロアルキル基;炭素数6~30のアリール基;又は炭素数3~30の複素環基である。
また、式(2)において、R12は、単結合;置換基で置換又は非置換の炭素数1~20のアルキレン基;置換基で置換又は非置換の炭素数5~20のシクロアルキレン基;又は置換基で置換又は非置換の炭素数5~20のアリーレン基であり、ここで、上記置換基は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基である。
また、式(2)において、R13は、炭素数1~30のアルキル基;炭素数2~30のアルケニル基;炭素数2~30のアルキニル基;炭素数1~30のヘテロアルキル基;炭素数2~30のヘテロアルケニル基;炭素数2~30のヘテロアルキニル基;炭素数5~30のシクロアルキル基;炭素数6~30のアリール基;炭素数3~30の複素環基;又は下記一般式(2a)若しくは一般式(2b)で表される作用基であり、mは1~5の整数であり、R13のうち少なくとも1つは、下記一般式(2a)若しくは一般式(2b)で表される作用基であり、mが2~5の整数の場合、複数のR13は、互いに同一であっても、異なってもよい。
【0113】
【化23】
【0114】
上記一般式(2a)において、R14は、置換基で置換又は非置換の炭素数1~20のアルキレン基;置換基で置換又は非置換の炭素数5~20のシクロアルキレン基;又は置換基で置換又は非置換の炭素数6~20のアリーレン基であり、ここで、上記置換基は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基である。
また、式(2a)において、R15及びR16は、互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基で置換又は非置換の炭素数1~20のアルキレン基である。
また、式(2a)において、R17は、水素;炭素数1~30のアルキル基;炭素数2~30のアルケニル基;炭素数2~30のアルキニル基;炭素数1~30のヘテロアルキル基;炭素数2~30のヘテロアルケニル基;炭素数2~30のヘテロアルキニル基;炭素数5~30のシクロアルキル基;炭素数6~30のアリール基;炭素数3~30の複素環基であり、Xは、N、O又はS原子であり、但し、XがO又はSである場合、R17は存在しない。
【0115】
【化24】
【0116】
上記一般式(2b)において、R18は、置換基で置換又は非置換の炭素数1~20のアルキレン基;置換基で置換又は非置換の炭素数5~20のシクロアルキレン基;又は置換基で置換又は非置換の炭素数6~20のアリーレン基であり、ここで、上記置換基は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基である。
また、式(2b)において、R19及びR20は、互いに独立に、炭素数1~30のアルキル基;炭素数2~30のアルケニル基;炭素数2~30のアルキニル基;炭素数1~30のヘテロアルキル基;炭素数2~30のヘテロアルケニル基;炭素数2~30のヘテロアルキニル基;炭素数5~30のシクロアルキル基;炭素数6~30のアリール基;炭素数3~30の複素環基である。
【0117】
また、上記一般式(2)で表される化合物において、R~R11は、互いに独立に、水素;炭素数1~10のアルキル基;炭素数2~10のアルケニル基;又は炭素数2~10のアルキニル基であり、R12は、単結合;又は非置換の炭素数1~10のアルキレン基であり、R13は、炭素数1~10のアルキル基;炭素数2~10のアルケニル基;炭素数2~10のアルキニル基;又は上記一般式(2a)又は一般式(2b)で表される作用基であり、上記一般式(2a)において、R14は、非置換の炭素数1~10のアルキレン基であり、R15及びR16は、互いに独立に非置換の炭素数1~10のアルキレン基であり、R17は、炭素数1~10のアルキル基;炭素数5~20のシクロアルキル基;炭素数6~20のアリール基;又は炭素数3~20の複素環基であり、上記一般式(2b)において、R18は、非置換の炭素数1~10のアルキレン基であり、R19及びR20は、互いに独立に炭素数1~10のアルキル基;炭素数5~20のシクロアルキル基;炭素数6~20のアリール基;又は炭素数3~20の複素環基であってもよい。
【0118】
より具体的には、上記一般式(2)で表される化合物は、以下の構造式(2-1)~式(2-3)で表される化合物とすることができる。
【化25】
【0119】
なお、前記スチレン-ブタジエン共重合体を、上記一般式(2)で表される化合物を含む変性剤によって変性させる場合には、式(2)で表される化合物を含む変性剤を、変性開始剤として用いる。
具体的には、例えば、炭化水素溶媒中で、式(2)で表される化合物を含む変性剤の存在下にて、ブタジエン単量体及びスチレン単量体を重合させることで、式(2)で表される化合物由来の変性基を、前記スチレン-ブタジエン共重体に付与することができる。
【0120】
・イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴム以外のゴム成分
前記ゴム成分は、イソプレン骨格ゴム及びスチレン-ブタジエンゴム以外のゴム成分(以下、「その他のゴム成分」ということがある。)を含有することもできる。
前記その他のゴム成分としては、前記生物資源由来のゴム及び前記再生資源由来のゴムであることが好ましい。
【0121】
ここで、前記生物資源由来のゴムを構成するモノマー成分100mol%中の生物資源由来のモノマー成分の割合は、50mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、80mol%以上がさらに好ましく、90mol%以上がより一層好ましく、95mol%以上が特に好ましく、100mol%であってもよい。
また、前記再生資源由来のゴムを構成するモノマー成分100mol%中の再生資源由来のモノマー成分の割合は、50mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、80mol%以上がさらに好ましく、90mol%以上がより一層好ましく、95mol%以上が特に好ましく、100mol%であってもよい。
【0122】
前記その他のゴム成分は、架橋に寄与する成分であり、通常、重量平均分子量(Mw)が1万以上であり、好ましくは5万以上、より好ましくは15万以上、さらに好ましくは20万以上であり、また、好ましくは500万以下、より好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、さらに好ましくは130万以下である。
なお、前記ゴム成分の重量平均分子量(Mw)は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0123】
前記その他のゴム成分としては、ジエン系ゴムが挙げられ、該ジエン系ゴムとしては、ブタジエン系ゴムが好ましい。ここで、ブタジエン系ゴムとは、モノマー単位としてブタジエン由来の単位を含むゴムを指す。
【0124】
前記ブタジエンゴム(BR)としては、例えば、高シス含量のブタジエンゴム、低シス含量のブタジエンゴム、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム等が挙げられる。前記ブタジエンゴム(BR)としては、市販品を利用することができ、該ブタジエンゴムの市販品としては、UBEエラストマー(株)、株式会社ENEOSマテリアルズ、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品が挙げられる。これらブタジエンゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0125】
前記ブタジエン系ゴムは、サステナブル率が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
前記ブタジエン系ゴムのサステナブル率を前記範囲内とするためには、例えば、生物資源由来のブタジエン、再生資源由来のブタジエン、生物資源由来の芳香族ビニル化合物(例えば、生物資源由来のスチレン)、再生資源由来の芳香族ビニル化合物(例えば、再生資源由来のスチレン)をモノマー成分として合成されたポリマーを使用すればよい。この際、合成されたポリマーは、生物資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、再生資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマーと再生資源由来のモノマーとの共重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマー及び/又は再生資源由来のモノマーと化石資源(石油等)由来のモノマーとの共重合体であってもよい。なお、生物資源(バイオマス資源)由来のブタジエンゴム(B-BR)、生物資源由来の芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、生物資源(バイオマス資源)由来のスチレン-ブタジエンゴム(B-SBR))には、ブタジエン等を従来法に従って重合して得たゴムだけではなく、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(以下、「微生物等」とも呼ぶ。)による反応や酵素反応により得られたゴムも包含される。
【0126】
また、前記ゴム成分全体のサステナブル率を前記範囲内とするためには、のゴム成分として、天然ゴム(NR)を使用したり、生物資源由来のモノマー成分や再生資源由来のモノマー成分をモノマー成分として合成されたポリマーを使用することが好ましい。
【0127】
一般に、タイヤ用ゴム組成物の素材(ゴム及びそのモノマー、充填剤、樹脂等)は、その製造に大規模な製造装置を要するため、通常、特定地域の大工場で生産され、原料及び製品の保管、輸送に多くのエネルギーを要する。これに対して、生物資源(バイオマス資源)由来の素材は、各地域の農産物、森林等に由来し、また、微生物の発酵、触媒反応により小規模でも製造できるため、各地域の生産物や廃棄物を活用することで、原料の輸送及び保管に要するエネルギーを削減でき、さらには製造した素材のタイヤ工場への輸送及び保管に要するエネルギーも削減でき、環境に優しい。また、再生資源(リサイクル資源)由来の素材は、例えば、使用済タイヤを解体、熱分解して、ゴム、充填剤、スチールコード等、タイヤを構成する材料を取り出すことで入手できる。その他にも、生物資源又は生物資源の処理物を脱硫して、当該生物資源又は生物資源の処理物から硫黄含有物質を取り除く脱硫工程と、該脱硫工程で発生した脱硫処理残渣から硫黄を回収する回収工程と、回収した硫黄を加硫用硫黄に加工する加工工程と、を含む方法(例えば、特願2022-140390に記載の方法)等により、生物資源又は生物資源の処理物から硫黄を得ることができ、各種廃棄物や使用済み物品からタイヤ用ゴム組成物の素材を入手することができる。このように、サステナブル材料(生物資源由来の素材や、再生資源由来の素材)を用いることで、ライフサイクル全体における二酸化炭素排出量(LCCO2)の削減、ライフサイクル全体におけるエネルギー消費量(LCE)の削減、ライフサイクル全体で発生するコスト(LCC)の削減、化石資源の使用量削減等、タイヤ製造において総合的に環境負荷を低減できる。
【0128】
また、前記ゴム組成物を製造する際の、生物資源、再生資源、化石資源(例えば、化石資源由来のモノマー成分)の供給状況及び/又は市場の要求(例えば、生物資源の食料としての需要)に応じて、生物資源由来のモノマー成分、再生資源由来のモノマー成分、及び化石資源由来のモノマー成分の比率を適宜選択して、生物資源由来のモノマー成分、再生資源由来のモノマー成分、及び化石資源由来のモノマー成分を重合することにより、従来の合成ゴムを用いた場合と同等の性能を有するサステナブル材料(生物資源由来の素材や、再生資源由来の素材)由来のゴムを得ることができる。なお、再生資源由来のモノマー成分を用いる場合は、該モノマーの製造工程上の理由から、化石資源由来のモノマー成分と分けることが困難な場合もある。その場合は、マスバランスの考え方を採用することで、環境に対する影響を評価することができる。
【0129】
前記その他のゴム成分は、上述のブタジエンゴム(BR)の他にも、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムを含んでもよい。これらゴム成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
前記その他のゴム成分には、変性により、カーボンブラック、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基が導入されていてもよい。該官能基としては、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、シリル基、アルコキシシリル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基等が挙げられ、また、これら官能基は、置換基を有していてもよい。これら官能基は、1種単独でゴム成分に導入してもよいし、2種以上を組み合わせてゴム成分に導入してもよい。これらの中でも、アミノ基、アルコキシ基、及びアルコキシシリル基が好ましく、アミノ基の水素原子が炭素数1~6のアルキル基で置換された置換アミノ基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数1~6のアルコキシシリル基がさらに好ましい。
【0131】
前記官能基は、例えば、該官能基を有する化合物(変性剤)を前記ゴム成分と反応させることで導入できる。官能基を有する化合物(変性剤)としては、シリカやカーボンブラックといった充填剤に対して相互作用性を有する変性官能基であり、含窒素官能基、含ケイ素官能基又は含酸素官能基のいずれかが挙げられる。含窒素官能基としては、アミノ基含有化合物等が挙げられ、含ケイ素官能基としてはハロゲン化ケイ素、ヒドロカルビルオキシシラン化合物等が挙げられ、含酸素官能基としてはアルコキシ基含有化合物、アルキレンオキシド基含有化合物、トリアルキルシリロキシ基含有化合物等が挙げられる。より具体的には、WO2016/194316、WO2019/117256に記載の化合物等が挙げられる。
これら変性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0132】
前記サステナブル材料(生物資源由来の素材や、再生資源由来の素材)由来のゴムは、例えば、生物資源由来のモノマー成分や、再生資源由来のモノマー成分を用い、必要に応じて、化石資源由来のモノマー成分を用いて、従来の化石資源由来の合成ゴムの製造方法と同様にして製造することができる。また、前記サステナブル材料由来のゴム(特には、生物資源由来のゴム)は、微生物等による反応や酵素反応により得ることもできる。
【0133】
上述の生物資源から生物資源由来ゴムを調製する方法については、例えば、特開2022-179158号公報に記載の方法を用いることができる。例えば、モノマー成分として生物資源から得られたブタジエンを用いることで、生物資源(バイオマス資源)由来のブタジエンゴム(B-BR)を得ることができ、また、モノマー成分として生物資源から得られたスチレンと、生物資源から得られたブタジエンを用いることで、生物資源(バイオマス資源)由来のスチレン-ブタジエンゴム(B-SBR))を得ることができる。ここで、生物資源からB-BR、B-SBRを得る方法としては、人工的に重合する方法の他、生体内で重合する方法、生物由来酵素で重合する方法等が挙げられる。得られるB-BR、B-SBRの分子量、分岐、ミクロ構造等は、目的のタイヤ性能に応じて、公知の方法に従って重合条件を変更することにより適宜調整することができる。
【0134】
前記生物資源から得られたブタジエンとしては、アルキルアルコール類(好ましくはエタノール、及びブタノール、より好ましくはブタノール)由来のブタジエン、アルケン類(好ましくはエチレン)由来のブタジエン、不飽和カルボン酸類(好ましくはチグリン酸)由来のブタジエンを好適に使用できる。また、これらのブタジエンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、前記生物資源から得られたスチレンとしては、植物(好ましくはマンサク科、エゴノキ科、キョウチクトウ科に属する植物、より好ましくはフウ属、エゴノキ属、ニチニチソウ属に属する植物、さらに好ましくはモミジバフウ、エゴノキ、ニチニチソウ)により得られたスチレン、微生物(好ましくはペニシリウム属、エシェリキア属に属する微生物、より好ましくはP.citrinum、形質転換されたE.coli)により得られたスチレンを好適に使用できる。また、これらのスチレンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0135】
昨今、バイオエタノール、バイオエチレン等を中心としたバイオマスコンビナートが計画されているが、バイオエタノール及びバイオエチレンは、生物資源として、主に糖類及び/又はセルロース類を用いて製造され、タンパク質、脂質、アミノ酸等の他の生物資源を有効に活用できない。さらに、糖類は、食料と競合し、セルロース類の過度の利用は、森林伐採に繋がる。そのため、種々の生物資源の供給状況の他、再生資源の供給状況、化石資源の供給状況、及び市場の要求(例えば、バイオマス資源の食料としての需要)に応じて、前記生物資源由来のモノマー成分として、生物資源由来のモノマー成分を複数種使用したり、生物資源由来のモノマー成分と再生資源由来のモノマー成分と化石資源由来のモノマー成分とを併用し、さらにこれらのモノマー成分の比率を適宜調整して使用することが好ましい。これにより、1種類の生物資源に頼ることなく、糖、タンパク質、脂質等、幅広い生物資源や、再生資源を有効に活用でき、また、サステナブル材料由来のゴムを安定的に供給でき、さらには、製造時の状況に応じて環境に配慮することもできる。
なお、生物資源由来のモノマー成分を複数種類使用する場合には、異なる生物資源に由来するモノマー成分、即ち、異なる生物資源から得られたモノマー成分を使用することが好ましい。具体的には、生物資源由来のブタジエンとして、由来が異なる複数種類の生物資源由来のブタジエンの混合物を使用すること、及び/又は、生物資源由来のスチレンとして、由来が異なる複数種類の生物資源由来のスチレンの混合物を使用することが好ましい。これにより、複数種類の生物資源を有効活用できる。
【0136】
(樹脂)
本発明のゴム組成物は、さらに樹脂を含み、
そして、前記樹脂として、テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂を含む。
テルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種に加えて、ロジン系樹脂を必須成分として含有することによって、低転がり抵抗性及び低温特性をより改善できる。
加えて、前記ゴム成分との相溶性が高まる結果、後述するカーボンブラックやシリカの分散性が向上し、より優れた、低転がり抵抗性、低温特性、操縦安定性のバランスを得ることができる。
さらに、ゴム組成物における化石燃料由来の原料の使用を低減し環境への負荷を小さくでき、ゴム組成物における天然資源由来の原材料比率(サステナブル材料の比率)を改善することができる。
【0137】
前記テルペン系樹脂は、松属の木からロジンを得る際に同時に得られるテレビン油、或いはこれから分離した重合成分を配合し、フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる固体状の樹脂であり、β-ピネン樹脂、α-ピネン樹脂等がある。
【0138】
また、テルペン-芳香族化合物系樹脂としては、代表例としてテルペン-フェノール樹脂、スチレン-テルペン樹脂等が挙げられる。該テルペン-フェノール樹脂は、テルペン類と種々のフェノール類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させたり、或いはさらにホルマリンで縮合する方法で得ることができる。また、前記スチレン-テルペン樹脂は、スチレンとテルペン類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させることで得ることができる。原料のテルペン類としては、特に制限はなく、α-ピネンやリモネン等のモノテルペン炭化水素が好ましく、α-ピネンを含むものがより好ましく、α-ピネンが特に好ましい。
【0139】
前記ロジン系樹脂としては、天然樹脂ロジンとして、生松ヤニやトール油に含まれるガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等があり、また、変性ロジン、ロジン誘導体、変性ロジン誘導体として、例えば、重合ロジン、その部分水添ロジン;グリセリンエステルロジン、その部分水添ロジンや完全水添ロジン;ペンタエリスリトールエステルロジン、その部分水添ロジンや重合ロジン;等が挙げられる。
【0140】
また、前記樹脂は、上述したテルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂及びロジン系樹脂の他にも、C系樹脂、C-C系樹脂、C系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、芳香族系樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、クマロン-インデン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等を含むことができる。これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら樹脂の中でも、C系樹脂、C-C系樹脂、C系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂及び芳香族系樹脂が好ましい。C系樹脂、C系樹脂、C-C系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂は、耐摩耗性及び低燃費性をバランス良く向上させることができる。また、芳香族系樹脂は、グリップ性能、耐摩耗性及びゴム強度をバランス良く向上させることができる。
【0141】
さらに、前記樹脂は、水素添加されていてもよく、即ち、水素添加樹脂(水添樹脂)であってもよい。また、前記樹脂には、変性により、カーボンブラック、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基が導入されていてもよい。該官能基としては、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、シリル基、アルコキシシリル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基等が挙げられる。
【0142】
前記C系樹脂としては、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂が挙げられる。C留分には、通常1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。
【0143】
前記C-C系樹脂とは、C-C系合成石油樹脂を指し、C-C系樹脂としては、例えば、石油由来のC-C11留分を、AlCl、BF等のフリーデルクラフツ触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。C-C系樹脂としては、C以上の成分の少ない樹脂が、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。
【0144】
前記C系樹脂とは、C系合成石油樹脂を指し、例えばAlClやBF等のフリーデルクラフツ型触媒を用い、C留分を重合して得られる固体重合体を指す。C系樹脂としては、例えば、インデン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。
【0145】
前記シクロペンタジエン系樹脂は、モノマー単位としてシクロペンタジエン系モノマー由来の単位を含む樹脂を指す。該シクロペンタジエン系樹脂としては、シクロペンタジエン系モノマーの単独重合体、2種以上のシクロペンタジエン系モノマーの共重合体、シクロペンタジエン系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。ここで、シクロペンタジエン系モノマーとしては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン等が挙げられ、これらの中でも、ジシクロペンタジエンが好ましく、即ち、前記シクロペンタジエン系樹脂としては、ジシクロペンタジエン系樹脂が好ましい。該ジシクロペンタジエン系樹脂は、例えば、AlClやBF等のフリーデルクラフツ型触媒等を用い、ジシクロペンタジエンを重合して得られる樹脂を指す。ジシクロペンタジエン系樹脂としては、ジシクロペンタジエンの単独重合体、ジシクロペンタジエンと芳香族系モノマーとの共重合体、ジシクロペンタジエンとC留分(ビニルトルエン、インデン等)との共重合体等が挙げられる。
【0146】
前記芳香族系樹脂は、モノマー単位として芳香族系モノマー由来の単位を含む樹脂を指す。該芳香族系樹脂としては、芳香族系モノマーの単独重合体、2種以上の芳香族系モノマーの共重合体、芳香族系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。ここで、芳香族系モノマーとしては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フェニルスチレン等のスチレン系モノマー;フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール等のフェノール系モノマー;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール等のナフトール系モノマー;等が挙げられる。
【0147】
前記樹脂は、軟化点が30℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがより好ましく、110℃より高いことがより好ましく、116℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがより好ましく、123℃以上であることがより好ましく、127℃以上であることがさらに好ましい。また、前記樹脂は、加工性の観点から、軟化点が160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、145℃以下であることがより好ましく、141℃以下であることがより好ましく、136℃以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2015(ISO 28641:2010)に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0148】
前記樹脂としては、市販品を利用することができ、該樹脂の市販品としては、例えば、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、エクソンモービル社、クレイトン社、ヤスハラケミカル(株)、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、クレイトンポリマー社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0149】
また、前記樹脂は、前記イソプレン骨格ゴムとのSP値の差が0.6(cal/cm1/2以下であることが好ましい。
前記樹脂の前記イソプレン骨格ゴムとのSP値の差が0.6(cal/cm1/2以下であることで、イソプレン骨格ゴムに対する相溶性が高くなり、ゴム成分の運動性が制御され、低温領域のヒステリシスロス(tanδ)を向上させることができるため、ゴム組成物を適用したタイヤの低温特性、作業性が向上する。なお、前記樹脂と前記イソプレン骨格ゴムとのSP値の差は、相溶性をより向上させる観点から、0.59(cal/cm1/2以下であることが好ましく、0.58(cal/cm1/2以下であることがより好ましく、0.57(cal/cm1/2以下であることがさらに好ましい。樹脂成分とイソプレン骨格ゴムとのSP値の差が0.6(cal/cm1/2以下であると、樹脂成分とイソプレン骨格ゴムとの相溶性がより向上し、ゴム組成物を適用したタイヤのウェットグリップ性能がさらに向上する。
一方、前記樹脂は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が500g/mol以上1300g/mol以下であることも好ましい。前記樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量が500g/mol以上であると、タイヤから樹脂成分が析出し難く、樹脂成分による効果を十分に発現することができ、また、1300g/mol以下であると、樹脂成分がゴム成分と相溶しやすい。
そのため、タイヤからの樹脂成分の析出を抑制し、タイヤ外観の低下を抑制する観点から、前記樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、500g/mol以上であることが好ましく、550g/mol以上であることがより好ましく、600g/mol以上であることがより好ましく、650g/mol以上であることがより好ましく、700g/mol以上であることがさらに好ましい。また、ゴム成分への樹脂成分の相溶性を高め、樹脂成分による効果をより高める観点から、樹脂成分のポリスチレン換算の重量平均分子量は、1250g/mol以下であることがより好ましく、1230g/mol以下であることがより好ましく、1220g/mol以下であることがより好ましく、1200g/mol以下であることがさらに好ましい。
【0150】
また、前記樹脂と前記イソプレン骨格ゴムの質量比率[樹脂成分/イソプレン骨格ゴムの質量比率]が、0.5以上であることが好ましい。前記樹脂と前記イソプレン骨格ゴムの質量比率が上記範囲となることで、該ゴム組成物を適用したタイヤのウェットグリップ性能をさらに向上させることができる。なお、樹脂とイソプレン骨格ゴムの質量比率[樹脂成分/イソプレン骨格ゴムの質量比率]は、0.10以上が好ましく、0.20以上がより好ましく、0.25以上がより好ましく、また、2.0以下が好ましく、1.9以下がより好ましく、1.8以下であることがさらに好ましい。
【0151】
そして、本発明のゴム組成物中のテルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して合計1~50質量部である。
ゴム組成物中のテルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種、並びに、ロジン系樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対し1質量部以上であると、樹脂による効果が十分に発現し、また、50質量部以下であると、タイヤから樹脂成分が析出し難く、樹脂成分による効果を十分に発現できる。一方、樹脂成分の含有量が、ゴム成分100質量部に対して50質量部を超えると、ゴム組成物を適用したタイヤの低燃費性能と耐摩耗性能が悪化する。ゴム組成物中の樹脂成分の含有量は、樹脂成分による効果をより高める観点から、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、9質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、17質量部以上であることがさらに好ましい。また、タイヤからの樹脂成分の析出を抑制し、タイヤ外観の低下を抑制する観点から、ゴム組成物中の樹脂成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0152】
(補強性充填剤)
また、本発明のゴム組成物は、補強性充填剤をさらに含むことが好ましい。
本発明の加硫ゴム組成物の、破壊強度、耐摩耗性、低転がり抵抗性、グリップ性能等の各種性能を高めることができるためである。
ここで、前記補強性充填剤については、ゴム分野で通常用いられる補強性充填剤であればよく、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0153】
・シリカ
前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、シラノール基が多い点で、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記シリカとしては、市販品を利用することができ、該シリカの市販品としては、東ソー・シリカ(株)、Evonik社、Solvay社、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
また、前記シリカとしては、環境負荷低減の観点から、半導体の原材料となるシリコンウエハーの端材や、ガラス瓶等からケイ酸成分を抽出し、リサイクルして製造に使用したシリカを用いることも好ましい。
【0154】
前記シリカとしては、環境負荷低減の観点から、ケイ酸植物由来のシリカが好ましい。該ケイ酸植物は、例えば、コケ類、シダ類、トクサ類、ウリ科、イラクサ科、イネ科の植物等に存在する。これら植物の中でも、イネ科植物が好ましい。また、該イネ科植物としては、イネ、笹、サトウキビ等が挙げられ、これらの中でも、イネが好ましい。該イネは、食用に広く栽培されているため、広い地域で現地調達可能であり、また、イネの籾殻は、産業廃棄物として多量に発生することから量を確保し易い。従って、入手容易性の観点から、シリカとしては、籾殻由来のシリカ(以下、「籾殻シリカ」とも呼ぶ。)が特に好ましい。該籾殻シリカを用いることで、産業廃棄物となる籾殻を有効活用でき、また、タイヤ製造工場の近隣で原料を現地調達できるため、輸送や保管のエネルギー及びコストを低減でき、種々の観点から、環境面で好ましい。前記籾殻シリカは、籾殻を加熱により炭化して得られる籾殻炭の粉末でもよいし、籾殻を燃料としてバイオマスボイラーで燃焼させた際に発生する籾殻灰をアルカリで抽出してケイ酸アルカリ水溶液を調製し、該ケイ酸アルカリ水溶液を用いて湿式法で製造した沈降シリカでもよい。前記籾殻炭の製法は、特に限定されず、公知の種々の方法を用いることができ、例えば、窯を用いて籾殻を蒸し焼きにすることで熱分解させて籾殻炭を得ることができる。このようにして得られる籾殻炭を公知の粉砕機(例えば、ボールミル)を用いて粉砕し、所定の粒径範囲に選別し分級することで、籾殻炭の粉末を得ることができる。また、前記籾殻由来の沈降シリカは、特開2019-38728号公報に記載の方法等で製造できる。
【0155】
前記シリカは、窒素吸着比表面積(NSA)が50m/g以上であることが好ましく、100m/g以上であることがより好ましく、150m/g以上であることがさらに好ましく、また、350m/g以下であることが好ましく、250m/g以下であることがより好ましく、230m/g以下であることがさらに好ましく、200m/g以下であることがより一層好ましい。
なお、本明細書において、シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0156】
また、前記シリカは、窒素吸着比表面積(BET法)が80m/g以上330m/g未満であることがより好ましい。シリカの窒素吸着比表面積(BET法)が80m/g以上であると、該ゴム組成物を適用したタイヤを十分に補強でき、タイヤの転がり抵抗をさらに低くすることができる。また、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)が330m/g未満であると、ゴム組成物の弾性率が高くなり過ぎず、該ゴム組成物を適用したタイヤのウェットグリップ性能がさらに向上する。転がり抵抗をより低くし、タイヤの耐摩耗性能をさらに向上させる観点から、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、110m/g以上であることが好ましく、130m/g以上であることが好ましく、150m/g以上であることが好ましく、180m/g以上であることがさらに好ましい。また、タイヤのウェットグリップ性能をより向上させる観点から、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、300m/g以下であることが好ましく、280m/g以下であることがより好ましく、270m/g以下であることがさらに好ましい。
【0157】
前記シリカの含有量は、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、シリカの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましく、60質量部以上がより一層好ましく、110質量部以上が特に好ましく、また、300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、180質量部以下がさらに好ましく、150質量部以下が特に好ましい。
【0158】
・カーボンブラック
前記充填剤は、カーボンブラックを含むことも好ましい。該カーボンブラックは、ゴム組成物を補強して、ゴム組成物の耐摩耗性能を向上させることができる。
カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0159】
前記ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム組成物及びそれを適用したタイヤの耐摩耗性能を向上させる観点から、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、ゴム組成物の作業性の観点から、ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
充填剤がシリカとカーボンブラックを含む場合、シリカとカーボンブラックの総量中のシリカの割合は、80質量%以上100質量%未満であることが好ましく、90質量%以上100質量%未満であることがさらに好ましい。シリカの割合が80質量%以上であることで、該ゴム組成物を適用したタイヤの機械的強度が向上し、転がり抵抗をより低くすることができる。
【0160】
また、前記カーボンブラックは、植物由来のカーボンブラックや、リサイクルによって得られたカーボンブラックであることが特に好ましい。植物由来のカーボンブラックとしては、例えば、ヒマシ油、松脂油に由来するものが挙げられる。また、リサイクルによって得られるカーボンブラックとしては、例えば、使用済タイヤ等の熱分解によって得られるカーボンブラック、廃油から得られるカーボンブラック等が挙げられる。前記カーボンブラックのグレードとしては、特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、市販品を利用することができ、該カーボンブラックの市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、日鉄カーボン(株)、Birla Carbon社等の製品を使用できる。これらカーボンブラックは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0161】
(シランカップリング剤)
また、本発明のゴム組成物がシリカを含む場合、該シリカの効果を向上させるために、本発明のゴム組成物は、シランカップリング剤を含むことが好ましい。該シランカップリング剤としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、市販品を利用することができ、該シランカップリング剤の市販品としては、例えば、Evonik社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東レ・ダウコーニング(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)等の製品を使用できる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0162】
前記シランカップリング剤の含有量は、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、また、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下がより一層好ましい。
【0163】
なお 、シランカップリング剤の原材料として、バイオエタノールを用いることもできる。バイオエタノールは、生物資源として、主に糖類及び/又はセルロース類を用いて製造され、タンパク質、脂質、アミノ酸等の他の生物資源を有効に活用できない。更に、糖類は、食料と競合し、セルロース類の過度の利用は、森林伐採に繋がる。そのため、種々の生物資源の供給状況の他、再生資源の供給状況、化石資源の供給状況、及び市場の要求(例えば、バイオマス資源の食料としての需要)に応じて、前記生物資源由来のモノマー成分として、生物資源由来のモノマー成分を複数種使用したり、生物資源由来のモノマー成分と再生資源由来のモノマー成分と化石資源由来のモノマー成分とを併用して使用することが好ましい。これにより、1種類の生物資源に頼ることなく、糖、タンパク質、脂質等、幅広い生物資源や、再生資源を有効に活用でき、また、製造時の状況に応じて環境に配慮することもできる。
【0164】
(ゴム粉)
また、本発明のゴム組成物は、ゴム粉を含むことが好ましい。該ゴム粉は、使用済タイヤ等の使用済ゴム製品を粉砕し、所望により、鋼材類、繊維類等の補強材、ダスト類、ガラス類、砂、石等を取り除き、又はゴム粉を製造するために新たに加硫済ゴム組成物を準備し、粉砕することで得てもよい。例えば、「Rubber Chemistry And Technology」に記載の方法により、加硫ゴムからゴム粉を得ることができる。加硫ゴムを粉砕してゴム粉を得る工程においては、機械的処理や低温処理を利用してもよい。例えば、機械的処理では、加硫ゴムを微粒子に機械的に粉砕するために、クラッカーミル、グラニュレータ等の種々の破砕機器を使用できる。また、低温処理では、細かく刻まれた加硫ゴムを極低温で凍結させ、続いて、微粒子に粉砕する。また、鋼材類の除去には、磁選機等を用いることができ、繊維類の除去には、空気選別機等を用いることができる。前記ゴム粉としては、市販品を利用することもでき、該ゴム粉の市販品としては、Global Corporation又はNantong Huili Rubber Corporation等の製品が挙げられる。環境負荷低減の観点から、使用済タイヤ等の使用済ゴム製品を粉砕することで得られるゴム粉を用いることが好ましい。前記ゴム粉は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0165】
前記ゴム粉の組成は、特に限定されず、原料となる使用済ゴム製品(使用済タイヤ)等の加硫ゴムの組成による。一実施形態において、ゴム粉は、ゴム成分、カーボンブラック、シリカ等を含む。ゴム粉に含まれるゴム成分、カーボンブラック、シリカ等は、上述した本実施形態のゴム組成物に含まれるゴム成分、カーボンブラック、シリカ等と同様であってもよいし、異なってもよい。
【0166】
前記ゴム粉は、体積平均粒子径が1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることがより一層好ましい。また、ゴム粉の体積平均粒子径は、小さい程好ましく、下限は特に限定されない。
なお、本明細書において、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定され、例えば、堀場製作所(株)製「CAPA500」を用いて測定できる。
【0167】
前記ゴム粉は、60メッシュ篩残分が1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、下限は特に限定されない。また、前記ゴム粉は、80メッシュ篩残分が10質量%未満であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、下限は特に限定されない。
なお、本明細書において、篩残分は、ASTM D5644-01に従って測定される。
【0168】
前記ゴム粉は、アセトン抽出分が12質量%以下であることが好ましく、11質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、また、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、ゴム粉中のアセトン抽出分とは、JIS K6350 に準拠するアセトン抽出法により求められるアセトン抽出分(%)をいう。
【0169】
前記ゴム成分中のゴム粉の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、ゴム粉の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がより一層好ましく、また、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下がより一層好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0170】
(液状軟化剤)
さらに、本発明のゴム組成物は、液状軟化剤を含有してもよい。ここで、「液状軟化剤」とは、25℃(室温)で液状であり、ゴム組成物を軟化させる作用を有する配合剤である。該液状軟化剤としては、特に限定されず、オイル、液状ポリマー等が挙げられ、これらの中でも、オイルが好ましい。これら液状軟化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0171】
前記オイルとは、ゴム成分に含まれる伸展油、及び、ゴム組成物の配合剤として添加する液状の油分の総称であり、例えば、植物油、プロセスオイル、植物油やプロセスオイルのリサイクルにより得られたオイル、又はその混合物等が挙げられる。環境負荷低減の観点から、オイルとしては、植物油、リサイクルにより得られたオイルが好ましい。前記植物油としては、パーム油、ヒマシ油、綿実油、大豆油、アマニ油、菜種油、ヤシ油、落花生油、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、コメ油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、向日葵油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油、ココナッツ油等が挙げられる。また、前記プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等が挙げられる。前記オイルとしては、市販品を利用することができ、該オイルの市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、ENEOS(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。これらオイルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0172】
前記液状ポリマーとしては、液状ジエン系ポリマーが好ましい。該液状ジエン系ポリマーとしては、液状スチレン-ブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ポリブタジエン(液状BR)、液状ポリイソプレン(液状IR)、液状スチレン-イソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ポリファルネセン、液状ファルネセン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これら液状ポリマーは、水素添加されていてもよいし、末端や主鎖が官能基(極性基)で変性されていてもよい。これら液状ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0173】
前記液状軟化剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、液状軟化剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、また、100質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下がより一層好ましい。
【0174】
(老化防止剤)
さらに、本発明のゴム組成物は、老化防止剤を含有してもよい。該老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(77PD)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AW)、6-アニリノ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等が挙げられる。前記老化防止剤としては、市販品を利用することができ、該老化防止剤の市販品としては、大内新興化学工業(株)、住友化学(株)、精工化学(株)、フレクシス社、鶴見化学工業(株)等の製品を使用できる。これら老化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0175】
前記老化防止剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましい。また、老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0176】
(ワックス)
また、本発明のゴム組成物は、ワックスを含有してもよい。該ワックスとしては、例えば、植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;エチレンの重合物、プロピレンの重合物等の合成ワックス;等が挙げられる。前記ワックスとしては、市販品を利用でき、該ワックスの市販品としては、精工化学(株)、日本精蝋(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらワックスは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0177】
前記ワックスの含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、ワックスの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0178】
(ステアリン酸)
また、本発明のゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。該ステアリン酸としては、市販品を利用でき、該ステアリン酸の市販品としては、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらステアリン酸の市販品は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0179】
前記ステアリン酸の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、ステアリン酸の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましい。また、ステアリン酸の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0180】
(酸化亜鉛)
また、本発明のゴム組成物は、酸化亜鉛(亜鉛華)を含有してもよい。該酸化亜鉛としては、リサイクルにより得られた酸化亜鉛が好ましい。該酸化亜鉛としては、市販品を利用でき、該酸化亜鉛の市販品としては、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)等の製品を使用できる。これら酸化亜鉛の市販品は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0181】
前記酸化亜鉛の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、酸化亜鉛の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0182】
(硫黄)
さらに、本発明のゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。該硫黄としては、化石資源由来のもの、再生資源由来のもの、生物資源由来材料の処理によるもの等を用いることができ、環境負荷低減の観点から、生物資源に由来する廃棄物から得られる硫黄を用いることが特に好ましい。生物資源に由来する廃棄物から硫黄を得る方法としては、例えば、上述の特願2022-140390に記載の方法等が挙げられる。また、前記硫黄としては、ゴム工業において一般的に架橋剤として用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等を用いてもよい。前記硫黄としては、市販品を利用でき、該硫黄の市販品としては、鶴見化学工業(株)、細井化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)等の製品を使用できる。これら硫黄は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0183】
前記硫黄の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、硫黄の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上がさらに好ましく、また、8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0184】
(セルロースナノファイバー)
本発明のゴム組成物は、セルロースナノファイバー(CNF)を含有してもよい。セルロースナノファイバーは、ゴム組成物に配合することにより、ゴム組成物を補強できる。該セルロースナノファイバーとしては、変性セルロースナノファイバーが好ましく、該変性セルロースナノファイバーは、変性セルロースを原料とする微細繊維である。セルロースナノファイバーの繊維径は、特に限定されないが、3~500nm程度である。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができる。前記セルロースナノファイバーは、セルロースを解繊することによって得ることができる。また、微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、酸化処理、解繊処理により調整することができる。
【0185】
前記セルロースナノファイバーの原料は、セルロースを含んでいればよく、特に限定されるものではないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、晒クラフトパルプ(BKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。これらセルロース原料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0186】
前記セルロースナノファイバーの含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、セルロースナノファイバーの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、1~100質量部の範囲が好ましく、5~70重量部の範囲がより好ましく、10~40質量部の範囲がさらに好ましい。
【0187】
(多孔質セルロース粒子)
本発明のゴム組成物は、多孔質セルロース粒子を含有してもよい。該多孔質セルロース粒子は、好ましくは空隙率が75~95%の多孔質構造を持つセルロース粒子であり、ゴム組成物に配合することにより、氷上性能を向上させることができる。多孔質セルロース粒子の空隙率が75%以上であることにより、氷上性能の向上効果に優れ、また、空隙率が95%以下であることにより、粒子の強度を高めることができる。該空隙率は、より好ましくは80~90%である。前記多孔質セルロース粒子の空隙率は、一定質量の試料(即ち、多孔質セルロース粒子)の体積をメスシリンダーで測定し、嵩比重を求めて、下記式から求めることができる。
空隙率(%)={1-[試料の嵩比重(g/mL)]/[試料の真比重(g/mL)]}×100
ここで、セルロースの真比重は1.5である。
【0188】
前記多孔質セルロース粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、耐摩耗性の観点から、平均粒径が1000μm以下のものが好ましい。平均粒径の下限は、特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましい。平均粒径は、より好ましくは100~800μmであり、さらに好ましくは200~800μmである。
前記多孔質セルロース粒子としては、長径/短径の比が1~2である球状粒子が好ましい。このような球状構造の粒子を用いることにより、ゴム組成物中への分散性が向上して、氷上性能の向上、耐摩耗性等の維持に寄与することができる。前記長径/短径の比は、より好ましくは1.0~1.5である。
前記多孔質セルロース粒子の平均粒径と、長径/短径の比は、次のようにして求められる。即ち、多孔質セルロース粒子を顕微鏡で観察して画像を得て、この画像を用いて、粒子の長径と短径(長径と短径が同じ場合には、ある軸方向の長さとこれに直交する軸方向の長さ)を100個の粒子について測定し、その平均値を算出することで平均粒径が得られ、また、長径を短径で割った値の平均値により長径/短径の比が得られる。
【0189】
前記多孔質セルロース粒子としては、レンゴー株式会社から「ビスコパール」として市販されており、また、特開2001-323095号公報、特開2004-115284号公報等に記載されており、それらを好適に用いることができる。
【0190】
前記多孔質セルロース粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、多孔質セルロース粒子の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、0.3~20質量部の範囲が好ましく、1~15重量部の範囲がより好ましく、3~15質量部の範囲がさらに好ましい。
【0191】
(固体微粒子)
本発明のゴム組成物は、固体微粒子を含有してもよい。該固体微粒子は、ゴム組成物に配合することにより、氷上性能を向上させることができる。該固体微粒子は、平均粒子径が1μm以上であることが好ましく、また、1000μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。前記固体微粒子としては、籾殻、胡桃粉又は胡桃の殻等の植物より得られた植物由来の粉体;卵殻(卵殻粉)、骨粉等の動物より得られた動物由来の粉体;シラス等の天然鉱物由来の粉体;グラファイト、酸化亜鉛ウィスカ等の無機微粒子;硫酸マグネシウム、リグニンスルホン酸の金属塩等の水溶性金属塩微粒子;グラスファイバー等の非金属繊維;等が挙げられ、これらの中でも、籾殻、胡桃の殻、卵殻、及びシラスが好ましい。
【0192】
前記固体微粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、固体微粒子の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、0.3~20質量部の範囲が好ましく、1~15重量部の範囲がより好ましく、3~15質量部の範囲がさらに好ましい。
【0193】
(その他の成分)
本発明のゴム組成物は、上述した各成分の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤をその他の成分として含むことができる。その他の成分については、例えば、上述した補強性充填剤以外の充填剤;有機過酸化物;等をさらに配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができ、例えば、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部の範囲が好ましい。
【0194】
(ゴム組成物の製造方法)
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、前記ゴム成分に、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより、本発明のゴム組成物を製造することができる。また、得られたゴム組成物を加硫することで、加硫ゴムとすることができる。
【0195】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置の投入体積やローターの回転速度、ラム圧等、及び混練り温度や混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。混練り装置としては、通常、ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサーやインターミックス、ニーダー、ロール等が挙げられる。
【0196】
前記熱入れの条件についても、特に制限はなく、熱入れ温度や熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。該熱入れ装置としては、通常、ゴム組成物の熱入れに用いる熱入れロール機等が挙げられる。
【0197】
前記押出の条件についても、特に制限はなく、押出時間や押出速度、押出装置、押出温度等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。押出装置としては、通常、ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。押出温度は、適宜に決定することができる。
【0198】
前記加硫を行う装置や方式、条件等についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択することができる。加硫を行う装置としては、通常、ゴム組成物の加硫に用いる金型による成形加硫機等が挙げられる。加硫の条件として、その温度は、例えば100~190℃程度である。
【0199】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を含むことを特徴とする。本発明のゴム組成物を用いることで、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、作業性及びサステナブル材料の比率についても向上したタイヤが得られる。
ここで、本発明のタイヤは、例えば、建設車両用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、航空機用タイヤ、乗用車用タイヤとして用いることができる。
【0200】
なお、上述した本発明のゴム組成物を用いる際は、例えば、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本実施形態のタイヤは、好ましくは空気入りタイヤであり、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0201】
また、本発明のタイヤでは、上述した本発明のゴム組成物を、例えば、トレッド(ベーストレッド、キャップトレッド、アンダートレッド)、クッションゴム、ショルダー、サイドウォール、クリンチ、ビードフィラー、カーカスのコーティングゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等に用いることができ、また、ランフラットタイヤのサイド補強層等に用いることもできる。また、本発明のゴム組成物は、タイヤの他にも、ゴムクローラ、免震ゴム、ホース等にも適用することができる。
【実施例0202】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0203】
[参考実施例1~2、比較例1]
表1に示す配合に従って、常法で配合・混練することで、ゴム組成物のサンプルを調製した。表1では、各成分の配合量は整数で表記した。その他は小数点以下第1位で表記した。
【0204】
<評価>
【0205】
(1)低転がり抵抗性
ゴム組成物の各サンプルから得られた加硫ゴムの試験片について、粘弾性測定装置(上島製作所社製)を使用し、温度50℃、歪0.1%、周波数52Hzで、tanδを測定した。
各例で測定されたtanδについて、比較例1のtanδを100として指数化した。指数値が小さいほど、加硫ゴムは発熱性が低く、加硫ゴムから得られるタイヤの転がり抵抗が小さい(低転がり抵抗性に優れる)ことを示す。評価結果は表1に示す。
【0206】
(2)操縦安定性
試験片の貯蔵弾性率(E’)を、粘弾性測定装置(上島製作所社製)を用いて、温度30℃、歪0.1%、周波数52Hzの条件で測定した。評価結果は、比較例1のE’を100として、指数表示した。指数値が大きい程、E’が大きく、ドライハンドリング性能に優れることを示す。
【0207】
(3)低温特性
試験片の損失弾性率(E’)を、粘弾性測定装置(上島製作所社製)を用いて、温度-20℃、歪0.1%、周波数52Hzの条件で測定した。評価結果は、比較例1のE’を100として、指数表示した。指数値が小さい程、E’が小さく、低温特性に優れることを示す。
【0208】
(4)サステナブル材料の比率
ゴム組成物の各サンプルについて、生物資源(バイオマス資源)由来の材料と、再生資源(リサイクル資源)由来の材料と、の総質量割合を算出して、サステナブル材料比率を算出した。
評価は、数値が大きい程、サステナブル材料の使用率が高く、良好であることを示す。評価結果は表1に示す。
【0209】
【表1】
【0210】
*1 TSR#20、SP値=8.20(cal/cm1/2
*2 下記の方法で合成したヒドロカルビルオキシシラン化合物変性スチレン-ブタジエンゴム、Tg=-65℃、SP値=8.65(cal/cm1/2

*3 ブチルリチウムを開始剤として得られるSBRであってTgが-38℃で末端をN-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-トリエトキシシリル-1-プロパンアミンで変性したスチレン-ブタジエンゴム、Tg=-38℃、SP値=8.95(cal/cm1/2
*4 旭カーボン株式会社製、商品名「#80」
*5 東ソーシリカ株式会社製、商品名「ニップシールAQ」
*6 昭和電工株式会社製、商品名「ハイジライトHー43M」、平均粒径=1.0μm
*7 Evonik社製、商品名「Si75」
*8 日本ゼオン株式会社製、商品名「クイントン(登録商標)G100B」
*9 クレイトン社製、商品名「SYLVATRAXX8125」、SP値=(推定)8.76(cal/cm1/2、重量平均分子量(Mw)=1218g/mol
*10 クレイトン社製、商品名「SYLVATRAXX2097」、SP値=(推定)9.97(cal/cm1/2、重量平均分子量(Mw)=1157g/mol
*11 Sigma-Aldrich社製、製品番号「307564」
*12 老化防止剤と加硫促進剤と硫黄の合計量、参考比較例・参考実施例ともに同一部数で配合。
【0211】
表1の結果から、参考比較例のゴム組成物に対して、参考実施例1及び2のゴム組成物はサステナブル材料の比率について向上した結果を示すことがわかる。参考実施例1のゴム組成物は、参考比較例1のゴム組成物に対して、低転がり抵抗性、低温特性が向上していること、参考実施例2のゴム組成物は参考比較例1のゴム組成物に対して操縦安定性が向上していることもわかる。
そのため、参考実施例1のゴム組成物で使用しているテルペン系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂と、参考実施例2のゴム組成物で使用しているロジン系樹脂を含む配合では、低転がり抵抗性、低温特性、操縦安定性、サステナブル材料の比率のバランスを実現できると期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明によれば、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、低転がり抵抗性、低温特性及び操縦安定性に優れ、サステナブル材料の比率についても向上したタイヤを提供することもできる。