(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022774
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】濃度比測定方法、及び濃度比測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3577 20140101AFI20250206BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/27 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110064
(22)【出願日】2024-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2023126247
(32)【優先日】2023-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC13
2G059DD17
2G059EE01
2G059HH01
2G059HH06
2G059JJ02
2G059JJ17
2G059KK01
2G059KK02
2G059MM01
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】広い濃度範囲で、トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の成分濃度をリアルタイムに測定することができる濃度比測定方法の提供。
【解決手段】トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定方法であって、前記溶液の特定波長における吸光度を測定する工程と、前記吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程と、を含み、前記特定波長が、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定方法であって、
前記溶液の特定波長における吸光度を測定する工程と、
前記吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程と、を含み、
前記特定波長が、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域であることを特徴とする濃度比測定方法。
【請求項2】
前記特定波長が、2以上の波長乃至波長域である請求項1に記載の濃度比測定方法。
【請求項3】
前記特定波長が、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1730nm以上1850nm以下、及び1800nm以上2050nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である請求項1に記載の濃度比測定方法。
【請求項4】
前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合を、前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する前記溶液の濃度比の測定から除外する工程を更に有し、
前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合が、下記(1)又は(2)である請求項1に記載の濃度比測定方法。
(1)1500nm以上1650nm以下及び/又は1750nm以上1900nm以下の波長域の1以上の波長乃至波長域における吸光度が前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する前記溶液の最大吸光度を超え、前記溶液に水が混入する場合
(2)1500nm以上1900nm以下の波長域の1以上の波長乃至波長域における吸光度が前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する前記溶液の最小吸光度未満であり、前記溶液に水素ガスが混入する場合
【請求項5】
トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定装置であって、
前記溶液の特定波長における吸光度を測定する吸光度測定部と、
前記吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する濃度比算出部と、
を有し、
前記特定波長が、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域であることを特徴とする濃度比測定装置。
【請求項6】
前記吸光度測定部が、測定セルと、前記測定セルに収容された前記溶液に前記特定波長の光線を照射する光源と、前記溶液を透過した透過光の吸光度を測定する吸光度検出器と、を有する請求項5に記載の濃度比測定装置。
【請求項7】
前記吸光度測定部が、前記光源と前記測定セルとの光路上に分光器を更に有し、
前記分光器が、1121nm以上1140nm以下、1620nm以上1639nm以下、及び2150nm以上2169nm以下の波長域を透過するバンドパスフィルタである請求項6に記載の濃度比測定装置。
【請求項8】
前記吸光度測定部が、前記光源と前記測定セルとの光路上に分光器を更に有し、
前記分光器が、1204nm以上1223nm以下、1747nm以上1766nm以下、1831nm以上1850nm以下、及び2360nm以上2379nm以下の波長域を透過するバンドパスフィルタである請求項6に記載の濃度比測定装置。
【請求項9】
前記吸光度測定部が、前記光源と前記測定セルとの光路上に分光器を更に有し、
前記分光器が、1160nm以上1166nm以下、1272nm以上1368nm以下、1519nm以上1593nm以下、1694nm以上1707nm以下、2086nm以上2090nm以下、2274nm以上2284nm以下、及び2444nm以上2476nm以下の波長域を透過しないカットオフフィルタである請求項6に記載の濃度比測定装置。
【請求項10】
前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合が、前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する前記溶液の濃度比の測定から除外され、
前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合が、下記(1)又は(2)である請求項5に記載の濃度比測定装置。
(1)1500nm以上1650nm以下及び/又は1750nm以上1900nm以下の波長域の1以上の波長乃至波長域における吸光度が前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する前記溶液の最大吸光度を超え、前記溶液に水が混入する場合
(2)1500nm以上1900nm以下の波長域の1以上の波長乃至波長域における吸光度が前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する前記溶液の最小吸光度未満であり、前記溶液に水素ガスが混入する場合
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃度比測定方法、及び濃度比測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素型エネルギーとして、水素エネルギーの利用が推進されている。
水素は、気体のままではエネルギー密度が小さく運搬しにくいため、水素の貯蔵及び輸送技術として、例えば、水素とトルエンとを反応させて水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサンを合成し、メチルシクロヘキサンを輸送し、メチルシクロヘキサンから脱水素して水素を取り出す、有機ハイドライト方式と呼ばれる技術が報告されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
メチルシクロヘキサンの合成反応、又は脱水素反応におけるトルエンとメチルシクロヘキサンとの濃度比を求める方法としては、合成後の反応溶液をガスクロマトグラフィーなどの質量分析装置で測定して、反応溶液中のトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度を求め、両者の濃度から転化率を算出する方法が知られている(例えば、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-095329号公報
【特許文献2】特開2020-159743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の前記ガスクロマトグラフィーによる測定方法では、測定試料における測定対象の成分濃度が十分に小さいことが要求されるため、測定試料をサンプリングし、溶媒で十分に希釈し、ガスクロマトグラフィー装置に呈する必要がある。したがって、従来技術の測定方法は、測定精度が高いものの、広い濃度範囲でリアルタイムに濃度を測定することができず、自動化が困難であるという問題がある。
【0006】
本開示は、広い濃度範囲で、トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の濃度比をリアルタイムに測定することができる濃度比測定方法、及び濃度比測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての、本開示の一態様による濃度比測定方法は、トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定する濃度比測定方法であって、
前記溶液の特定波長における吸光度を測定する工程と、
前記吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程と、を含み、
前記特定波長が、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、広い濃度範囲で、トルエン乃至メチルシクロヘキサン含有溶液の成分濃度をリアルタイムに測定することができる濃度比測定方法、及び濃度比測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態における濃度比測定装置の一例を示す概略図である。
【
図2】第2の実施形態における濃度比測定装置の一例を示す概略図である。
【
図3】第1の実施形態における濃度比測定装置の他の例を示す概略図である。
【
図4】第1の実施形態における濃度比測定装置の他の例を示す概略図である。
【
図5】第1の実施形態における濃度比測定装置の他の例を示す概略図である。
【
図6】第7の実施形態における濃度比測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】第7の実施形態における濃度比測定方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図8】トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。
【
図9】トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。
【
図10】波長幅10nmの波長域における吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。
【
図11】波長幅20nmの波長域における吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。
【
図12】第4の実施形態における濃度比測定用のバンドパスフィルタの一例の特性を示すグラフである。
【
図13】第4の実施形態における濃度比測定用のバンドパスフィルタの他の一例の特性を示すグラフである。
【
図14】第4の実施形態における濃度比測定用のバンドパスフィルタの他の一例の特性を示すグラフである。
【
図15】
図9のグラフにおいて、決定係数が0.8以下の波長域を示すグラフである。
【
図16】第4の実施形態における濃度比測定用のカットオフフィルタの一例の特性を示すグラフである。
【
図17】第4の実施形態における濃度比測定用のカットオフフィルタの他の一例の特性を示すグラフである。
【
図18】本実施形態の濃度比測定装置を有する有機ハイドライド製造装置の一例を示す図である。
【
図19】トルエン、メチルシクロヘキサン、水、及び水素における波長と吸光度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
(濃度比測定方法、及び濃度比測定装置)
本開示の濃度比測定方法は、吸光度測定工程と、濃度比算出工程と、を含み、更に必要に応じて、特定波長設定工程、検量線作成工程などのその他の工程を有する。
本開示の濃度比測定装置は、吸光度測定部と、濃度比算出部と、を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
以下に、前記濃度比測定方法、及び前記濃度比測定装置に共通する事項について、併せて説明する。
【0012】
-メチルシクロヘキサンの合成反応、及び脱水素反応-
まず、水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサンの合成反応、及び水素を取り出す反応である脱水素反応について説明する。
トルエン(C6H5CH3)と水素(H2)とを反応させて水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサン(C6H11CH3)を合成する反応(水素付加反応とも称する)は、下記反応式(1)により表される。
【0013】
<反応式(1)>
C6H5CH3 + 3H2 → C6H11CH3
【0014】
前記メチルシクロヘキサンの合成反応としては、公知の方法により実施することができ、例えば、トルエンと水素とを反応させる方法;トルエンを直接電気化学反応させることにより、水素ガスを経由せずに水とトルエンからメチルシクロヘキサンを合成する方法;などが挙げられる。
水素付加反応が開始されると、水素付加反応自体は発熱反応であるため、通常、反応系を冷却する必要がある。反応温度がメチルシクロヘキサンの大気圧下での沸点100.9℃を大幅に超えると、メチルシクロヘキサンの合成効率(以下、「転化率」と称することがある)が低下する。そのため、例えば、冷却装置や冷却水ラインを使用して、反応温度が上昇し過ぎないように維持することが好ましい。前記反応温度としては、通常、80℃~100℃であり、85℃~98℃が好ましく、85℃~96℃がより好ましい。
【0015】
メチルシクロヘキサンから水素を取り出す脱水素反応は、前記反応式(1)の逆反応である、下記反応式(2)により表される。
前記脱水素反応としては、公知の方法により実施することができる。
【0016】
<反応式(2)>
C6H11CH3 → C6H5CH3 + 3H2
【0017】
前記濃度比測定方法、及び濃度比測定装置は、このようなメチルシクロヘキサンの合成反応、乃至脱水素反応の溶液における、トルエンとメチルシクロヘキサンとの濃度比の測定に好適に適用することができる。
前記濃度比測定方法、及び濃度比測定装置によれば、従来技術の前記ガスクロマトグラフィーによる測定方法において必要とされる希釈処理を行うことなく、メチルシクロヘキサン0体積%から100体積%までの広い濃度範囲で前記濃度比を測定することができるため、リアルタイムでの測定が可能となり、自動化による測定が可能となる。
反応後の溶液において前記濃度比を測定することにより、得られた反応溶液のメチルシクロヘキサンの転化率や脱水素効率を広い濃度範囲で簡便に評価することができる。
反応過程の溶液において前記濃度比をリアルタイムで測定することができ、これにより、反応装置や反応条件の最適化を図ることができる。
【0018】
[第1の実施形態]
図1に示すように、本開示の一実施形態に係る濃度比測定装置10を、フロースルー型の測定セル1aを流通する溶液Sのトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを得るために濃度比測定方法を実施する実施形態を例にして説明する。
濃度比測定装置10は、溶液Sの特定波長における吸光度を測定する吸光度測定部1と、測定された吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて溶液Sのトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する濃度比算出部2とを有する。吸光度測定部1は、溶液Sを流通するフロースルー型の測定セル1aと、測定セル1aを流通する溶液Sに対して光線L1を照射する光源1bと、溶液Sを透過した透過光L2を受光する吸光度検出器1cとを有する。更に、検量線を記憶する記憶部5を有してもよい。
【0019】
ここで、光線L1は、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の近赤外領域の波長域における1以上の波長乃至波長域である特定波長の光を含む。
吸光度検出器1cは、透過光L2を受光して、光路長Dに基づき特定波長における吸光度を検出及び測定する。
【0020】
濃度比算出部2及び記憶部5は、操作部や表示部も備えた一つの装置でもよく、さらに吸光度測定部の動作を制御する制御部も備えていてもよい。濃度比算出部2及び記憶部5は1つのコンピュータに組み込まれてもよい。吸光度測定部1は1つの装置でもよく、吸光度測定部1及び濃度比算出部2が互いに有線、無線を介して接続されてもよい。
【0021】
吸光度は溶液の温度に大きく依存する場合がある。また、メチルシクロヘキサンの合成反応、乃至脱水素反応の反応過程における溶液を測定セル1aに流通する場合、反応過程の溶液は80℃以上の高温であり得る。そこで、正確な吸光度を測定するために、熱交換器を測定セル1aの上流に配置するなどにより、測定セル1aに流通する溶液Sの温度を一定温度に変換してもよい。
前記一定温度としては、吸光度が安定的に得られる限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、25℃程度であってよい。
【0022】
[第2の実施形態]
第1の実施形態における濃度比測定装置10は、フロースルー型の測定セル1aを流通する溶液Sに対して連続的に吸光度測定を行う実施形態であるが、この実施形態に限定するものではない。
図2に示す、第2の実施形態における濃度比測定装置20のように、分取型の測定セル1a'内にサンプリングされた溶液Sに光線L1を送光し、溶液Sを透過した透過光L2を受光する、バッチ方式の濃度比測定方法を実施する実施形態であってもよい。
【0023】
なお、
図2に示す濃度比測定装置20は、フロースルー型の測定セル1aに代えて分取型の測定セル1a'を有すること以外は、
図1に示す濃度比測定装置10と同様の構成を適宜採用することができる。
ここで、分取型の測定セル1a'内への溶液Sのサンプリング方法としては、特に制限はなく、手動で行ってもよく、自動で行ってもよい。
【0024】
<溶液>
測定対象である、前記トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液とは、トルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかを含有する溶液であり、トルエン及びメチルシクロヘキサンのいずれか一方を含有する溶液であってもよく、トルエン及びメチルシクロヘキサンの両方を含み、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが任意の濃度比であってもよく、いずれの場合も好適に測定することができる。
【0025】
前記溶液は、トルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかを含み、更に必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよいが、実質的にトルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかからなることが好ましい。
前記溶液におけるトルエン及びメチルシクロヘキサンの少なくともいずれかの含有量としては、前記溶液の全量に対する体積比で、95体積%以上が好ましく、98体積%以上がより好ましく、99体積%以上が更に好ましい。
【0026】
前記その他の成分としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベンゼン、メタン等の副産物;メチルシクロヘキサンの合成反応や脱水素反応における触媒や反応装置由来の成分;などが挙げられる。
【0027】
<吸光度測定工程、及び吸光度測定部>
前記吸光度測定工程は、前記溶液の特定波長における吸光度を測定する工程であり、前記吸光度測定部により好適に実施することができる。
前記吸光度測定部は、前記溶液の特定波長における吸光度を測定する部であり、具体的には、測定セルと、前記測定セルに収容された前記溶液に特定波長の光線を照射する光源と、前記溶液を透過した透過光の吸光度を測定する吸光度検出器と、を有することが好ましく、更に必要に応じて、レンズ、分光器、光ファイバなどを有する。
【0028】
前記特定波長としては、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【0029】
以下に示す実施例から明らかな通り、前記特定波長は、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mと、吸光度との間に良好な相関関係が得られる、決定係数が1に近い波長乃至波長域である。
したがって、前記溶液の特定波長における吸光度を測定し、これに基づき濃度比t:mを算出することにより、メチルシクロヘキサン0体積%から100体積%までの広い濃度範囲で前記濃度比を測定することができ、また、溶液の前処理なしに、リアルタイムに前記濃度比を測定することができる。
【0030】
なお、前記溶液がその他の成分を含み、その他の成分が、その他の成分に固有の波長における溶液の吸光度に影響を及ぼす場合には、その他の成分に固有の波長を含まないように前記特定波長を設定することにより、測定精度の高い濃度比測定方法を実施することができる。
【0031】
<<測定セル>>
前記測定セルとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フロースルー型の測定セル、分取型の測定セルなどが挙げられる。
前記測定セルの光線を透過する部分の材質としては、特定波長、溶液組成などに応じて適宜選択することができ、例えば、石英ガラスなどが挙げられる。
【0032】
<<光源>>
前記光源としては、特定波長を含む限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザ光、発光ダイオード(LED)等の単色光源;ハロゲンランプ等の連続光;などが挙げられる。
【0033】
<<レンズ>>
前記レンズは、光源から照射される光、測定セルに照射される光、測定セルを透過した透過光、吸光度検出器に入力される光等の光を収束させたり、平行光にしたりするために光路上の各位置に配置することができる。
【0034】
<<分光器>>
前記分光器としては、特定波長を透過する限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光学フィルタ、プリズム、回折格子などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記光学フィルタとしては、例えば、特定の単色光乃至複数の波長域を透過するバンドパスフィルタ、カットオン波長よりも長い波長を透過するロングパスフィルタ、カットオフ波長よりも短い波長を透過するショートパスフィルタ、特定の単色光乃至複数の波長域を透過しないカットオフフィルタ、色ガラスフィルタ、ダイクロイックフィルタなどが挙げられる。
また、分光器としては、透過波長域を変更可能な可変光フィルタと可変光減衰器との組み合わせも好適に用いることができる。
【0035】
<<光ファイバ>>
前記濃度比測定装置は、光源から測定セルに照射される光、測定セルを透過して吸光度検出器に入力される透過光等の光を効率的に送光するため、光源と測定セルとの間、乃至測定セルと吸光度検出器との間に、光ファイバを用いてもよい。
【0036】
<<吸光度検出器>>
前記吸光度検出器としては、特定波長を検出可能な限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光半導体(ホトセル)、光電子増倍管(ホトマルチプライヤー)などが挙げられる。
前記吸光度検出器は、透過光を電気信号に変換することで前記溶液の特定波長における吸光度を測定することができる。
【0037】
第3の実施形態、乃至第6の実施形態として、光源と分光器との好適な組み合わせを有する濃度比測定方法、及び濃度比測定装置について説明する。
これらの実施形態は、例えば、
図1に示す濃度比測定装置10、及び
図2に示す濃度比測定装置20のいずれにも適用することができる。
【0038】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、特定波長である単色光を照射する光源と、特定波長である単色光を透過するバンドパスフィルタなどの分光器と、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
【0039】
第3の実施形態、乃至第6の実施形態のいずれにおいても、分光器は、光源と測定セルとの間の光路上に設けられた前分光方式であってもよく(
図3~4参照)、測定セルと吸光度検出器との間の光路上に設けられた後分光方式であってもよい(
図5参照)。
前分光方式の場合、分光器は、
図3に示すように光源の後に設けられてもよく、
図4に示すように測定セルの前に設けられてもよい。
第3の実施形態において、分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、
図3~4に示すように光源の後、又は測定セルの前に設けることが好ましい。
【0040】
第3の実施形態によれば、特定波長である単色光に基づき吸光度を測定し、濃度比を算出することで、単色光の吸光度測定装置を利用でき、測定及び算出を簡便化することができる。
【0041】
[第4の実施形態:濃度比測定装置、及び濃度比測定用フィルタ]
第4の実施形態は、連続光を照射する光源と、単色光よりも広い波長域乃至複数の波長域の特定波長を透過するバンドパスフィルタ、カットオフフィルタ、可変光フィルタなどの分光器と、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
【0042】
前記バンドパスフィルタとしては、特定波長を透過する限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、下記表5に示す、1121nm以上1140nm以下、1204nm以上1223nm以下、1620nm以上1639nm以下、1747nm以上1766nm以下、1831nm以上1850nm以下、2150nm以上2169nm以下、及び2360nm以上2379nm以下の波長域のうち、少なくとも1つの波長域を透過するバンドパスフィルタであることが好ましく、2以上の波長域を透過するバンドパスフィルタであることがより好ましい。
【0043】
ここで、これらの波長域は2つのグループに分類することができ、具体的には、トルエン濃度が上昇すると吸光度が増加するT群の波長域、及びメチルシクロヘキサン濃度が上昇すると吸光度が増加するM群の波長域に分類することができる。
T群の波長域は、1121nm以上1140nm以下、1620nm以上1639nm以下、及び2150nm以上2169nm以下の3つの波長域である(
図13参照)。
M群の波長域は、1204nm以上1223nm以下、1747nm以上1766nm以下、1831nm以上1850nm以下、及び2360nm以上2379nm以下の4つの波長域である(
図14参照)。
【0044】
具体的には、下記表5に示す3つ乃至4つの波長域を透過する特性を有する、
図12~
図14のいずれかに示すバンドパスフィルタを、トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定するための濃度比測定用フィルタとして、特に好適に用いることができる。
例えば、
図3~4に示す分光器3の位置、つまり、光源1bと測定セル1aとの光路上に分光器を有することで、吸光度と濃度比に良好なリニアリティの関係のある波長域のみ吸光度を測定することができる。具体的には、タングステンランプなどの光源から連続光を入射することができ、透過波長の限定も緩和されることから光量が増え、安定した濃度比の測定が可能となる。
【0045】
前記カットオフフィルタとしては、特定波長を透過する限り、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、下記表6に示す、1160nm以上1166nm以下、1272nm以上1368nm以下、1519nm以上1593nm以下、1694nm以上1707nm以下、2086nm以上2090nm以下、2274nm以上2284nm以下、及び2444nm以上2476nm以下の波長域のうち、少なくとも1つの波長域を透過しないカットオフフィルタであることが好ましく、2以上の波長域を透過しないカットオフフィルタであることがより好ましく、全ての波長域を透過しないカットオフフィルタであることが更に好ましい。
【0046】
具体的には、下記表6及び
図15に示すA~Gの7つの波長域を透過しない特性を有する、
図16~
図17のいずれかに示すカットオフフィルタを、トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比を測定するための濃度比測定用フィルタとして、特に好適に用いることができる。
例えば、
図3~4に示す分光器3の位置、つまり、光源1bと測定セル1aとの光路上に分光器を有することで、リニアリティが劣る波長域が吸光度検出器に入力されないことから、リニアリティの良い濃度比の測定が可能である。
【0047】
前記分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、
図3~4に示すように光源の後、又は測定セルの前に設けることが好ましい。
【0048】
第4の実施形態によれば、広い波長域乃至複数の波長域の特定波長に基づき吸光度を測定し、濃度比を算出することで、精度の高い濃度比の測定をすることができる。
【0049】
[第5の実施形態]
第5の実施形態は、連続光を照射する光源と、透過波長域を変更可能な可変光フィルタを用いて特定波長である単色光を透過する分光器と、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
前記可変光フィルタとしては、例えば、ファブリペロー干渉フィルタなどが挙げられる。
前記分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、
図5に示すように吸光度検出器の前に設けることが好ましい。
【0050】
[第6の実施形態]
第6の実施形態は、連続光を照射する光源と、分光器として、特定波長である単色光を取り出すモノクロメータと、を組み合わせて用いる濃度比測定装置、及び当該濃度比測定装置を用いて濃度比測定方法を実施する実施形態である。
前記モノクロメータとは、プリズム、回折格子等の分散素子で分散した光から特定の波長の光を出口スリットから取り出す機構を有する分光器である。
前記分光器を設ける位置としては、適宜選択することができるが、
図3に示すように光源の後に設けることが好ましい。
【0051】
<濃度比算出工程、及び濃度比算出部>
前記濃度比算出工程は、前記吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する工程であり、前記濃度比算出部により好適に実施することができる。
前記濃度比算出部は、前記吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する部であり、例えば、以下に説明する式(1)及び(2)に基づき、濃度比を算出するプログラムが格納されたコンピュータなどが挙げられる。
【0052】
[第7の実施形態:1つの波長に基づく濃度比測定方法]
以下に、濃度比測定方法の実施形態について説明する。
第7の実施形態における濃度比測定方法は、
図1~5に示す濃度比測定装置10、20、30、40、及び50のいずれによっても好適に実施できるが、代表して
図1に基づき説明する。
濃度比測定装置10は、光源1bからの光線L1を溶液Sに照射して溶液Sを透過した透過光L2の吸光度、及び光路長Dに基づいて、溶液S中のトルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比を算出する。
濃度比測定方法は、吸光度測定工程と、濃度比算出工程とを含み、更に必要に応じて、特定波長を設定する特定波長設定工程、検量線を作成する検量線作成工程を含んでもよい。
【0053】
<特定波長設定工程>
特定波長設定工程では、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である特定波長を設定する。
【0054】
特定波長を設定する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、第3の実施形態の濃度比測定装置において特定波長である単色光を照射可能な光源を設定する方法;第4の実施形態の濃度比測定装置において広い波長域乃至複数の波長域の特定波長を透過するバンドパスフィルタ、カットオフフィルタなどの分光器を設定する方法;第5の実施形態の濃度比測定装置において可変光フィルタの透過波長を特定波長である単色光に設定する方法;第6の実施形態の濃度比測定装置においてモノクロメータの波長を特定波長である単色光に設定する方法;濃度比算出部において算出に用いる特定波長を特定する方法などが挙げられる。
【0055】
<検量線作成工程>
検量線作成工程では、予めトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが明らかな、段階的な濃度比を有する各標準溶液を準備し、所望の乃至設定した特定波長における吸光度を測定して、濃度比と吸光度との関係がリニアリティを示す検量線を作成する。
【0056】
検量線を作成する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、後述する実施例及び
図8に示す方法により検量線を作成することができる。更に、作成した検量線を記憶部に記憶させることができる。
標準溶液における段階的な濃度比としては、例えば、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:m(体積比)で、それぞれ0:100、10:90、30:70、50:50、70:30、90:10、及び100:0などが挙げられる。
【0057】
<吸光度測定工程>
吸光度測定工程では、測定対象である(すなわち、濃度比が未知の)溶液の特定波長における吸光度を測定する。
第7の実施形態においては、特定波長が、1つの波長である。
吸光度を測定する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、具体的には、
図6及び7に示すように、以下のステップ1-1~ステップ1-3により測定することができる。
ステップ1-1:溶液を有しないブランクの測定セルの特定波長における透過光T
0の光量を測定する。
ステップ1-2:溶液を有する測定セルの特定波長における透過光Tの光量を測定する。
ステップ1-3:透過率T/T
0、及び下記式(1)に基づき、特定波長における吸光度Aを求める。
【0058】
【数1】
T
0: 特定波長におけるブランクの透過光
T: 特定波長における溶液の透過光
A: 特定波長における吸光度
【0059】
<濃度比算出工程>
濃度比算出工程では、吸光度測定工程で求めた吸光度に基づき、予め記録された検量線に基づいて前記トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出する。
濃度比t:mを算出する方法としては、特に制限はなく目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、具体的には、前記検量線、及び下記式(2)に基づき濃度比t:mを算出することができる。
【0060】
【数2】
A(λ
1): 特定波長λ
1における吸光度[A.U.]
α
T(λ
1): λ
1におけるトルエンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
α
M(λ
1): λ
1におけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
D: 光路長[cm]
c
T: トルエンの体積モル濃度[mol・L
-1]
c
M: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L
-1]
t: 溶液中のトルエンの濃度比(体積比)
m: 溶液中のメチルシクロヘキサンの濃度比(体積比)
ただし、t+m=1
【0061】
ここで、実施形態4において、バンドパスフィルタを用いた態様では、バンドパスフィルタを透過可能な波長域における吸光度を全て加算して、濃度比t:mを算出することができる。近赤外領域で決定係数が0.99以上の波長域の波長をすべて使うことにより、吸光度測定器の受光素子に届く光量を大きくでき、したがって、S/Nのよい測定が可能となる。
具体的には、A(λi)の和を測定した後に、A(λi)、及びt以外は既知である下記式(3)に基づき、tを求めることで、濃度比t:mを算出することができる。
【0062】
【数3】
A(λ
i): 特定波長λ
iにおける吸光度[A.U.]
α
T(λ
i): λ
iにおけるトルエンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
α
M(λ
i): λ
iにおけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
D: 光路長[cm]
c
T: トルエンの体積モル濃度[mol・L
-1]
c
M: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L
-1]
t: 溶液中のトルエンの濃度比(体積比)
m=1-t: 溶液中のメチルシクロヘキサンの濃度比(体積比)
n: 波長域の数
【0063】
図6に示すように、吸光度測定工程として、ステップ1-1~1-3を実施し、濃度比算出工程としてステップ2を実施してもよく、
図7に示すように、任意の特定波長設定工程として、ステップ0をステップ1-1の前に更に実施してもよい。
【0064】
[第8の実施形態:2つ以上の波長乃至波長域に基づく濃度比測定方法]
第8の実施形態の濃度比測定方法は、特定波長が、2つ以上の波長乃至波長域である実施形態である。2つ以上の波長乃至波長域に基づくこと以外は、第7の実施形態と同様にして実施することができる。
濃度比を求めるためには、第7の実施形態に示すように濃度比と吸光度とのリニアリティが優れる特定波長におけるいずれの波長の吸光度を測定してもよいが、第8の実施形態に示すように、2つ以上の波長乃至波長域での吸光度を測定し、その平均吸光度を用いることで、更に安定した精度の高い測定が実現できる。
【0065】
特定波長が、2つ以上の波長λ1、・・・λn(nは、2以上の整数を示す)である場合、得られる吸光度A(λ1)、・・・A(λn)を測定し、これらの吸光度を加算平均した平均吸光度Ameanを求める。次いで、第7の実施形態において、式(2)におけるA(λ1)にAmeanを代入することにより、濃度比を求めることができる。
【0066】
特定波長が、λ1からλ2の波長域である場合、その波長域内のデジタル的、又はアナログ的な平均吸光度Ameanを求め、第7の実施形態において、式(2)におけるA(λ1)にAmeanを代入することにより、濃度比を求めることができる。
平均吸光度Ameanを求める方法としては、用いる濃度比測定装置の仕様に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の波長分解能により測定した波長ごとの吸光度から、設定した波長域である特定波長について積算して平均することにより平均吸光度を求めるデジタル的な方法;バンドパスフィルタなどの光学フィルタを用いて、特定波長の波長域の光を照射してその透過光をまとめて受光し、アナログ式に当該波長域における吸光度を求める方法;などが挙げられる。
【0067】
第8の実施形態において、前記特定波長は、2以上の波長乃至波長域、すなわち、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の7つの波長域における2つ以上の波長乃至波長域である。
前記波長域としては、前記7つの波長域(すなわち、後述する表2に示す決定係数が1に近い波長域)のいずれかの範囲内であれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
前記波長域の波長幅Δλとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5[nm]、10[nm]、20[nm]などが挙げられる。
市販されている光学フィルタは、半値幅10[nm]、20[nm]のものが多く、これらのフィルタを好適に用いることができる。また、任意の半値幅を有する光学フィルタや、透過波長域を変更可能な可変光フィルタを用いてアナログ的に平均吸光度を求めてもよく、前記デジタル的な方法を用いてもよい。
【0068】
後述する実施例、
図10~11、及び表3から明らかな通り、1の波長で測定した吸光度と比べて、平均吸光度では、決定係数が向上し、したがって、よりリニアリティの高い測定を行うことができる。また、透過光の総量が増え、波長や透過光の測定誤差などの影響を低減でき、S/N比が向上する。
したがって、第8の実施形態の濃度比測定方法によれば、より安定した精度の高い濃度比の測定が可能となる。
【0069】
[第9の実施形態:2つの特定波長に基づく濃度比測定方法]
また、第9の実施形態の濃度比測定方法として、2つの互いに異なる特定波長として、第1の特定波長λ1、及び第2の特定波長λ2を選択し、各波長における溶液の吸光度をそれぞれ測定し、各波長におけるトルエンのモル吸光度、及びメチルシクロヘキサンのモル吸光度、及び下記式(12)に基づいてトルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを算出することができる。
【0070】
第9の実施形態において、前記特定波長は、2つの波長、すなわち、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、1730nm以上1850nm以下、1800nm以上2050nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における2つの互いに異なる波長である。
【0071】
まず、波長λ1、及びλ2の各波長にて、トルエンの吸光度AT(λ1)、及びAT(λ2)と、メチルシクロヘキサンの吸光度AM(λ1)、及びAM(λ2)をそれぞれ測定する。その測定結果、及び以下の式(4)~(9)より、トルエンとメチルシクロヘキサンの各波長におけるモル吸光係数を求める。
【0072】
【数4】
α
T(λ
1): λ
1におけるトルエンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
A
T(λ
1): λ
1におけるトルエンの吸光度[A.U.]
c
T: トルエンの体積モル濃度[mol・L
-1]
D: 光路長[cm]
【0073】
【数5】
α
T(λ
2): λ
2におけるトルエンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
A
T(λ
2): λ
2におけるトルエンの吸光度[A.U.]
c
T: トルエンの体積モル濃度[mol・L
-1]
D: 光路長[cm]
【0074】
【数6】
α
M(λ
1): λ
1におけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
A
M(λ
1): λ
1におけるメチルシクロヘキサンの吸光度[A.U.]
c
M: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L
-1]
D: 光路長[cm]
【0075】
【数7】
α
M(λ
2): λ
2におけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol
-1・cm
-1]
A
M(λ
2): λ
2におけるメチルシクロヘキサンの吸光度[A.U.]
c
M: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L
-1]
D: 光路長[cm]
【0076】
波長λ1、及びλ2の吸光度は、式(8)~(11)と表すことができる。
【0077】
【数8】
T
0(λ
1): λ
1におけるブランクの透過光
T(λ
1): λ
1における溶液の透過光
A(λ
1): λ
1における吸光度
【0078】
【数9】
T
0(λ
2): λ
2におけるブランクの透過光
T(λ
2): λ
2における溶液の透過光
A(λ
2): λ
2における吸光度
【0079】
【0080】
【0081】
式(10)~(11)を行列式である式(12)で表すことができ、式(12)の逆行列を求めて両辺の左から作用させると式(13)となる。
【0082】
【0083】
【0084】
式(12)の左辺は、求めるトルエンのモル濃度t×cTと、メチルシクロヘキサンのモル濃度m×cMである。
式(13)の右辺を見ると、トルエンの吸光係数と、メチルシクロヘキサンの吸光係数と、溶液の吸光度と、光路長と、のみから表されていることがわかる。
このことから、予め求めたトルエンの吸光係数と、メチルシクロヘキサンの吸光係数と、式(13)に基づいて、2つの特定波長における溶液の吸光度A(λ1)、及びA(λ2)を測定することにより、トルエンのモル濃度t×cTと、メチルシクロヘキサンのモル濃度m×cMを求めることが可能であることがわかる。
この結果から、トルエンの濃度tと前記メチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mをcT、cMの値を用いて、算出することができる。
【0085】
[第10の実施形態:波長依存性が小さい波長域に基づく濃度比測定方法]
第10の実施形態の濃度比測定方法は、波長依存性が小さい波長域に基づく実施形態である。なお、波長依存性が小さい波長域に基づくこと以外は、第7~9の実施形態と同様にして実施することができる。
第10の実施形態における前記特定波長は、波長依存性が小さい波長域における1以上の波長乃至波長域、すなわち、1730nm以上1850nm以下の、及び1800nm以上2050nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【0086】
吸光度には波長依存性がある。この波長依存性が小さいほど計測が安定する。もし、波長依存性が大きい場合、少しの測定波長変化に対して吸光度の変化が大きくなり、測定波長に揺らぎがあると、再現性が劣化してしまう。このことは誤差感度が高いということになり、計測が安定しない要因の1つとなる。
したがって、測定波長の揺らぎに由来する誤差を低減し、精度のよい測定を行う観点から、波長依存性が小さい(平坦性のよい)波長域を選択するとよく、後述する実施例の表4から明らかな通り、1730nm以上1850nm以下の波長域、及び1800nm以上2050nm以下の波長域を選択することが好ましい。
第10の実施形態の濃度比測定方法によれば、測定波長の揺らぎに由来する誤差を低減し、精度のよい測定を行うことができる。
【0087】
[第11の実施形態:吸光度感度が大きい波長域に基づく濃度比測定方法]
第11の実施形態の濃度比測定方法は、吸光度感度が大きい波長域に基づく実施形態である。なお、吸光度感度が大きい波長域に基づくこと以外は、第7~9の実施形態と同様にして実施することができる。
第11の実施形態における前記特定波長は、吸光度感度が大きい波長域における1以上の波長乃至波長域、すなわち、1120nm以上1140nm以下、1190nm以上1230nm以下、1620nm以上1680nm以下、2150nm以上2180nm以下、及び2360nm以上2420nm以下の波長域における1以上の波長乃至波長域である。
【0088】
波長依存性が小さいほど計測が安定する一方で、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比は、トルエン及びメチルシクロヘキサンの水素化/脱水素化の反応の進み具合によって変化する。そのため、その変化の向き(水素化又は脱水素化)や、変化のダイナミックを知るためには、できるだけ吸光度感度が大きい波長域で吸光度を求めるとよい。
具体的には、後述する実施例の表4から明らかな通り、吸光度の傾きの大きさ|a|>0.5である1620nm以上1680nm以下の波長域、2150nm以上2180nm以下の波長域、及び2360nm以上2420nm以下の波長域を選択することが好ましい。
第11の実施形態の濃度比測定方法によれば、濃度比の変化に対して感度の高い測定を行うことができる。
【0089】
第10~11の実施形態のように、測定波長は、目的によって変えることができる。
つまり、濃度比をモニタする用途には決定係数が1に近く、かつ吸光度の波長依存性の小さな(平坦性の良い)波長域で測定することができる。一方、反応の方向やダイナミックを確認したり、反応の最終段階における転化率の微小な変化を確認したりする場合には、濃度比に対する吸光度の感度の高い(傾きaの絶対値|a|が大きい)波長域で測定することができる。
【0090】
[第12の実施形態:溶液に水乃至水素ガスが混入する場合を除外する濃度比測定方法]
第12の実施形態の濃度比測定方法は、副産物である水乃至水素ガスが前記溶液に混入する場合を除外して、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比の測定を行う実施形態である。なお、前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合を除外すること以外は、第1~11の実施形態と同様にして実施することができる。
【0091】
第12の実施形態の濃度比測定装置は、前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合が、トルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の濃度比の測定から除外され、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比の測定を行う濃度比測定装置の実施形態である。なお、前記溶液に水乃至水素ガスが混入する場合が除外されること以外は、第1~11の実施形態と同様にして実施することができる。
【0092】
図18に、本実施形態の濃度比測定装置を有する有機ハイドライド製造装置の一例を示す。
図18に示す有機ハイドライド製造装置100は、濃度比測定装置10と、電解槽60と、カソード液供給槽70と、配管71~73と、ポンプ75と、を有する。濃度比測定装置10は、本実施形態では、配管71に接続されたフロースルー型の測定セル1aを流通する溶液Sに対して連続的に吸光度測定を行う実施形態であり、
図1に示す濃度比測定装置10に代えて、
図3~5に示す濃度比測定装置30、40又は50を用いてもよい。
【0093】
電解槽60は、アノード室61と、アノード電極62と、電解質膜63と、カソード電極64と、カソード室65と、電源部66と、を有する。電解槽60は、トルエンを電気化学還元反応により水素化して、有機ハイドライドであるメチルシクロヘキサン(MCH)を生成する。ここで、水を電気分解した後に、基本的には水素が発生する工程を経ることなく、水素イオンが直接トルエンを還元し、MCHが直接的に生成される。具体的には、アノード室61中の水がアノード電極62で酸化され、水素イオンが生成される。生成された水素イオンが電解質膜63を通過し、カソード電極64側に移動する。タンク70からカソード室65に供給されたトルエンと、移動した水素イオンとが反応してMCHが生成される。そして、生成されたMCHと、水素化していないトルエンと、がポンプ75を通じてカソード液供給槽70に戻る。このサイクルを繰り返すことにより、最終的にはほとんどのトルエンがMCHに変換される。
【0094】
一方で、副反応として、カソードでトルエンと反応できなかった水素イオンが水素となる。また、アノード室61中の水が一部、電解質膜63を通過し、カソード電極64側に移動する。その結果、トルエンとMCHと同様に、水や水素も、有機ハイドライド製造装置100のカソード液供給槽70及び電解槽60を巡回することとなる。
【0095】
図19は、トルエン、メチルシクロヘキサン、水、及び水素における波長と吸光度の関係を示すグラフである。濃度比測定装置10におけるフロースルー型の測定セル1aを流通する溶液Sに、水乃至水素ガスが混入していると、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比の正しい測定ができないため、溶液Sに水乃至水素ガスが混入する場合を測定対象から除外する。
【0096】
溶液Sが水及び/又は水素を含有する場合を検出して、その場合を測定対象から除外できれば、その検出方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜することができる。具体的には、水に関しては、トルエン及びMCHの吸光度が低い波長域(例えば、1500nm以上1650nm以下及び/又は1750nm以上1900nm以下の1以上の波長又は波長帯)においてトルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の最大吸光度を超える吸光度が検出された場合、溶液Sが水を含有する場合であると判断することができ、その場合をトルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比の測定から除外することができる。
【0097】
水素に関しては、
図19に示す波長域を含む1500nm以上1900nm以下の波長域において、水素の吸光度は非常に小さく、実質的に吸光度0であると考えてよく、いずれの波長においてもトルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の吸光度よりも小さい。したがって、1500nm以上1900nm以下の1以上の波長又は波長帯においてトルエン乃至メチルシクロヘキサンを含有する溶液の最小吸光度未満の吸光度である場合、溶液Sが水素を含有する場合であると判断することができ、その場合をトルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比の測定から除外することができる。
【0098】
以上のように、溶液Sが水及び/又は水素を含有する場合を考慮から除外し、溶液Sが実質的にトルエン乃至メチルシクロヘキサンのみを含有する場合にトルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比を測定することにより、混在する水及び水素の影響を排除した精度の高い濃度比の測定が実現できる。
【実施例0099】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0100】
図8は、トルエンとメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との関係を示すグラフである。具体的には、波長1000[nm]~2500[nm]における、トルエンとメチルシクロヘキサンとを所定の濃度比で混合した溶液の吸光度を表す。
図8中、縦軸は吸光度を示し、横軸は波長を示す。トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mが、体積[L]の比で、それぞれ0:100、10:90、30:70、50:50、70:30、90:10、及び100:0となるように調整した溶液(
図8中、T00M100、T10M90、T30M70、T50M50、T70M30、及びT100M00と表記する)を用い、それぞれの溶液について、波長1000[nm]~2500[nm]における吸光度を測定した。
【0101】
図8より、吸光度が、トルエンとメチルシクロヘキサンの所定の濃度比(体積比)によって波長ごとに特定の値を示すことが分かる。
【0102】
次いで、
図8に示す吸光度と濃度比t:mとの相関を評価するために、吸光度と濃度比t:mとの決定係数を求め、
図9として、
図8のグラフに重ねて示した。
図9は、トルエンとメチルシクロヘキサンの各波長による濃度比と吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。
図9中、凡例の各数値はトルエンの濃度(モル濃度比)を示し、太線は決定係数R
2(相関係数Rの二乗:R
2)を示し、右側の縦軸は決定係数を示す。その他の凡例は
図8と同様である。
【0103】
図9において、決定係数は、吸光度と濃度比t:mとのリニアリティの良し悪しを表している。決定係数R
2は、0≦R
2≦1の値を取るが、1に近いほどリニアの関係のあることを示す。
【0104】
トルエンの濃度cTと吸光度の関係は、下記の式(2)で表される。
【0105】
【0106】
A(λ1): 特定波長λ1における吸光度[A.U.]
αT(λ1): λ1におけるトルエンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1]
αM(λ1): λ1におけるメチルシクロヘキサンのモル吸光係数[L・mol-1・cm-1]
D: 光路長[cm]
cT: トルエンの体積モル濃度[mol・L-1]
cM: メチルシクロヘキサンの体積モル濃度[mol・L-1]
t: 溶液中のトルエンの濃度比(体積比)
m: 溶液中のメチルシクロヘキサンの濃度比(体積比)
ただし、t+m=1
【0107】
ここで、前記反応式(1)~(2)よりトルエンとメチルシクロヘキサンの水素化/脱水素化の反応は、等モル反応であることから、濃度比t:m=t:1-tと表すことができる。
式(2)に代入することで、溶液の吸光度A(λ)をトルエンの濃度tの一次式で表すことができる。
図9に、トルエンの濃度tと吸光度A(λ)の関係の強さを決定係数で示したグラフを示す。
図9からわかるように、1000[nm]~2500[nm]の波長域において、吸光度の値は0[A.U.]~2.6[A.U.]の間で変化する。表1に示す吸光度と透過率の対応を参照して、吸光度0[A.U.]~2.6[A.U.]を透過率T/T
0で表すと、100[%]~0.25[%]で変化することと等しい。
【0108】
【0109】
吸光度と透過率の関係は下記式(1)による。
【数15】
T
0: 特定波長におけるブランクの透過光
T: 特定波長における溶液の透過光
A: 特定波長における吸光度[A.U.]
【0110】
図9、及び表1より、センサやフィルタのダイナミック特性のため吸光度Aが0.05[A.U.]以下、又は1.3[A.U.]以上の波長では、リニアリティの特性が低下する。これは透過率T/T
0で表すと89.1[%]以上5.0[%]以下と等しい。
【0111】
これらの結果から、トルエンの濃度tとメチルシクロヘキサンの濃度mとの濃度比t:mを求める波長には、表2に示す通り、最適な波長域があり、表2に示す波長域における1以上の波長乃至波長域である特定波長を用いて、溶液の吸光度を測定することにより、濃度比を正確に求めることができることが分かった。
すべての波長域で吸光度を測定する必要はなく、最も適した表2に示す波長域の1つの波長で吸光度を測定し、濃度比を算出することができることが確認できた。
【0112】
【0113】
次に、波長域を特定波長とした場合の濃度比測定方法について示す。
図10は、波長幅10nmの波長域における吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。表2に示すリニアリティに優れる7つの波長域内で、連続した波長幅10nmの波長域の全てについて、それぞれ吸光度の平均を求め、その中で最も決定係数の大きな波長域を示した。
【0114】
具体的には、
図8に示す実施例と同様にして、1100[nm]~2500[nm]の波長域において、波長分解能1[nm]で吸光度を測定した。次いで、表2に示すリニアリティに優れる7つの波長域内で、連続する波長幅10nmの波長域を全て設定した。例えば、1120nm~1140nmの波長域内であれば、波長幅10nmの波長域は、1120nm~1129nm、1121nm~1130nm、1122nm~1131nm、・・・1131nm~1140nmと1nmごとに12個設定できる。
続いて、それぞれ10nm幅の波長域について、10個分(10波長分)の吸光度を積算し、その平均吸光度を求め、平均吸光度に基づいて濃度比を算出した。
【0115】
図10中、系列(1、0.9、0.7、0.5、0.3、0.1、0)は、トルエンの濃度比tを示す。太線は、表2に示す波長域内の波長幅10[nm]の波長域において、各系列の平均吸光度から求めた決定係数の加算平均の最大値を示し、右側の縦軸で決定係数を示す。
図10中、波長幅10[nm]の点在する線は、決定係数の加算平均が最大となる波長域(横軸)、及び平均吸光度(左側の縦軸)を示す。
【0116】
図10において、波長幅10nmの波長域を波長幅20nmの波長域に変更したこと以外は同様にして、
図11に示す実施例を実施した。
図11は、波長幅20nmの波長域における吸光度と決定係数との関係を示すグラフである。表2に示すリニアリティに優れる7つの波長域内で、連続した波長幅20nmの波長域の全てについて、それぞれ吸光度の平均を求め、その中で最も決定係数の大きな波長域を示した。
【0117】
表3に、
図10~11から得られた、決定係数が最大となる波長幅10nm又は波長幅20nmの波長域、及びその決定係数の最大値を示す。
図10~11、及び以下に示す表3から明らかな通り、波長域における平均吸光度を測定することにより、決定係数が向上し(又は、元の1波長の決定係数の最大値が1である場合には決定係数が0.999以上であり)、したがって、リニアリティの高い測定を行うことができる。また、波長域で吸光度測定することにより、透過光の総量が増え、波長や透過光の測定誤差などの影響を低減でき、S/N比が向上する。
したがって、波長域に基づく濃度比測定方法によれば、より安定した精度の高い濃度比の測定が可能となることが分かった。
【0118】
表3の中でも、波長域1751[nm]~1760[nm]、又は1747[nm]~1766[nm]の波長域がもっとも決定係数が1に近くリニアリティがある結果となったが、センサやその他の光学系によって多少の変化が在ると予想されるので、そのシステムに適した波長域を微調整し設定するとよい。
【0119】
【0120】
また、表4では、7つの波長域のそれぞれにおける、吸光度の波長依存性(平坦性)、傾きの大きさ|a|を評価して示した。
【0121】
<吸光度の波長依存性(平坦性)>
吸光度の波長依存性(平坦性)は、
図8及び表2に示す7つの波長域のそれぞれにおいて、トルエンの吸光度の波長依存性ΔA
T(λ)/Δλ、及びメチルシクロヘキサンの吸光度の波長依存性ΔA
M(λ)/Δλを算出し、以下の評価基準により、吸光度の波長依存性を評価した。評価結果を、表3に示した。
ここで、A
T(λ)は、トルエンの吸光度[A.U.]を示し、A
M(λ)は、メチルシクロヘキサンの吸光度[A.U.]を示し、Δλは、各波長域の下限値及び上限値の差分を示す。
[評価基準]
△:|ΔA
T(λ)/Δλ|≧0.009、乃至|ΔA
M(λ)/Δλ|≦0.009を満たし、吸光度の波長依存度が小さくない。
〇:|ΔA
T(λ)/Δλ|<0.009、且つ|ΔA
M(λ)/Δλ|<0.009を満たし、吸光度の波長依存度が小さい。
【0122】
<吸光度の傾きの大きさ>
吸光度の傾きの大きさ|a|は、7つの波長域のそれぞれにおいて、下記式(14)で示す、吸光度とトルエンの濃度比との一次式に近似した場合の、tの係数(傾き)aの絶対値の中で、波長域の中で最も大きな|a|である。
|a|が大きい場合、トルエンの濃度変化に関して吸光度の感度が高いことを示している。特に、|a|>0.5の場合を「〇」で示した。
【0123】
A=a×t+b 式(14)
A: 吸光度
t: トルエンの濃度比
a: tの係数(傾き)
b: 定数
【0124】
【0125】
測定波長の誤差を低減し、精度のよい測定を行う観点から、波長依存性が小さい(平坦性のよい)波長域で吸光度を測定することが好ましく、具体的には、1730nm以上1850nm以下の波長域、及び1800nm以上2050nm以下の波長域を選択するとよいことが分かった。
【0126】
一方で、反応の変化の向き(水素化又は脱水素化)や、変化のダイナミックを知るためには、できるだけ感度の大きな波長域で吸光度を測定することが好ましく、具体的には、1620nm以上1680nm以下の波長域、2150nm以上2180nm以下の波長域、及び2360nm以上2420nm以下の波長域を選択するとよいことが分かった。
【0127】
図9~
図11の結果から、決定係数が1に近く、0.99超の波長域は、下記表5の波長域であり、この波長域で吸光度を測定すると、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度との間に良好なリニア関係が得られる。
したがって、表5に示す7つの波長域を透過する特性を有する、
図12に示すバンドパスフィルタを作製した。また、トルエン濃度が上昇すると吸光度が増加するT群の波長域を透過する特性を有する、
図13に示すバンドパスフィルタ、メチルシクロヘキサン濃度が上昇すると吸光度が増加するM群の波長域を透過する特性を有する、
図14に示すバンドパスフィルタを作製した。これらのバンドパスフィルタを用いることで、吸光度と濃度に良好なリニアの関係のある波長域のみ吸光度を測定することができる。
【0128】
【0129】
一方で、決定係数が小さく、例えば、表6及び
図15のA~Gの波長域に示すように決定係数<0.9の波長域で吸光度を測定すると、トルエン及びメチルシクロヘキサンの濃度比と吸光度の間に良好なリニア関係が得られない。
したがって、表6及び
図15に示すA~Gの7つの波長域を透過しない特性を有する、
図16~17に示すカットオフフィルタを作製した。これらのカットオフフィルタを用いることで、誤ってA~Gの波長域を含む形で吸光度を測定しても、A~Gの領域は赤外線が通らないことから、リニアリティの良い濃度比の測定を行うことができる。
【0130】
【0131】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせ等、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。