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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022776
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】架橋ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20250101AFI20250206BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20250206BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250206BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20250206BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K5/548
C08K3/36
C08K5/14
C08J3/24 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024112269
(22)【出願日】2024-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2023127291
(32)【優先日】2023-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 和音
(72)【発明者】
【氏名】厚見 智志
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA16
4F070AC23
4F070AC24
4F070AC53
4F070AE01
4F070AE08
4F070AE30
4F070FA03
4F070FB06
4F070FC03
4F070GA05
4F070GA06
4F070GC02
4J002BB051
4J002BB151
4J002DJ017
4J002EK038
4J002EK058
4J002EK068
4J002EX086
4J002FD017
4J002FD148
4J002FD206
4J002GC00
4J002GM01
(57)【要約】
【課題】エチレン-α-オレフィンエラストマーの有機過酸化物架橋系の架橋ゴム組成物において、高い物理特性を得る。
【解決手段】有機過酸化物により架橋された架橋ゴム組成物である。架橋ゴム組成物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーと、メルカプト基を有するシランカップリング剤と、シリカとを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-α-オレフィンエラストマーと、メルカプト基を有するシランカップリング剤と、シリカとを含有し、有機過酸化物により架橋された架橋ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された架橋ゴム組成物において、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーのエチレン含量が45質量%以上60質量%以下である架橋ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1に記載された架橋ゴム組成物において、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーがエチレン・プロピレン・ジエンターポリマーを含む架橋ゴム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載された架橋ゴム組成物において、
前記エチレン・プロピレン・ジエンターポリマーのジエン成分がエチリデンノボルネンであり、かつ、そのENB含量が2質量%以上10質量%以下である架橋ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1に記載された架橋ゴム組成物において、
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤が3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランを含む架橋ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1に記載された架橋ゴム組成物において、
前記シリカが湿式シリカを含む架橋ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1に記載された架橋ゴム組成物において、
前記有機過酸化物がジアルキルパーオキサイドを含む架橋ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤を含有する架橋ゴム組成物が知られている。例えば特許文献1には、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、シリカ及びシランカップリング剤を含有する靴用の架橋ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6035453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、エチレン-α-オレフィンエラストマーの有機過酸化物架橋系の架橋ゴム組成物において、高い物理特性を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エチレン-α-オレフィンエラストマーと、メルカプト基を有するシランカップリング剤と、シリカとを含有し、有機過酸化物により架橋された架橋ゴム組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エチレン-α-オレフィンエラストマーの有機過酸化物架橋系の架橋ゴム組成物において、メルカプト基を有するシランカップリング剤及びシリカを含有することにより、高い物理特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0008】
実施形態に係る架橋ゴム組成物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーと、メルカプト基を有するシランカップリング剤と、シリカとを含有し、有機過酸化物により架橋されたものである。
【0009】
実施形態に係る架橋ゴム組成物によれば、エチレン-α-オレフィンエラストマーの有機過酸化物架橋系の架橋ゴム組成物において、メルカプト基を有するシランカップリング剤及びシリカを含有することにより、高い物理特性を得ることができる。
【0010】
ここで、エチレン-α-オレフィンエラストマーは、架橋ゴム組成物におけるゴム成分を構成する。エチレン-α-オレフィンエラストマーは、ゴム成分における主成分であることが好ましい。ゴム成分におけるエチレン-α-オレフィンエラストマーの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0011】
エチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えばエチレン・プロピレンコポリマー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(以下「EPDM」という。)、エチレン・オクテンコポリマー、エチレン・ブテンコポリマー等が挙げられる。エチレン-α-オレフィンエラストマーは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、汎用性の観点から、EPDMを含むことがより好ましい。
【0012】
エチレン-α-オレフィンエラストマーのエチレン含量は、高い物理特性とロール加工性とのバランスをとる観点から、好ましくは45質量%以上60質量%以下、より好ましくは50質量%以上56質量%以下、更に好ましくは51質量%以上54質量%以下である。エチレン-α-オレフィンエラストマーがEPDMである場合、そのジエン成分としては、例えばエチリデンノボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等が挙げられる。ジエン成分は、汎用性の観点から、これらのうちのエチリデンノボルネンを含むことが好ましい。EPDMのジエン成分がエチリデンノボルネンである場合、そのENB含量は、高い物理特性を得る観点から、好ましくは2質量%以上10質量%以下、より好ましくは2.5質量%以上9質量%以下、更に好ましくは7質量%以上8質量%以下である。
【0013】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、シリカとシランカップリング剤の反応のしやすさはシランカップリング剤の末端官能基の嵩高さに依存しているため、ジメトキシシラン基、ジエトキシシラン基、トリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基等の嵩高い官能基を有するシランカップリング剤を含むことが好ましく、例えば3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。メルカプト基を有するシランカップリング剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い物理特性を得る観点から、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランを含むことがより好ましい。メルカプト基を有するシランカップリング剤の場合、その他のシランカップリング剤とは異なり、ラジカルの連鎖移動性が高く、加硫のような空気中の反応でもラジカルが失活しにくく、ポリマーとの反応効率が高いため、高い物理特性が得られると推測される。
【0014】
架橋ゴム組成物におけるメルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量は、高い物理特性を得る観点から、エチレン-α-オレフィンエラストマー100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上40質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上30質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以上20質量部以下、より更に好ましくは1質量部以上2質量部以下である。なお、この架橋ゴム組成物における含有量とは、架橋前の未架橋ゴム組成物における配合量を意味する(以下同様)。
【0015】
シリカとしては、合成シリカが挙げられる。合成シリカとしては、湿式シリカ及び乾式シリカが挙げられる。湿式シリカとしては、例えば沈降法シリカ、ゲル法シリカ等が挙げられる。乾式シリカとしては、例えば焼成法シリカ、アーク法シリカ等が挙げられる。シリカは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い物理特性を得る観点から、湿式シリカを含むことが好ましく、沈降法シリカを含むことがより好ましい。
【0016】
架橋ゴム組成物におけるシリカの含有量は、高い物理特性を得る観点から、エチレン-α-オレフィンエラストマー100質量部に対して、好ましくは1質量部以上80質量部以下、より好ましくは20質量部以上60質量部以下、更に好ましくは30質量部以上50質量部以下である。架橋ゴム組成物におけるシリカの含有量のメルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量に対する比は、同様の観点から、好ましくは10以上40以下、より好ましくは20以上30以下である。
【0017】
有機過酸化物は、メルカプト基のラジカル連鎖移動性により有機過酸化物のラジカルの失活が抑制され、架橋密度が上がることにより高い物性が得られることから、有機過酸化物で架橋されることが好ましく、実施形態に係る架橋ゴム組成物の架橋に用いられる有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えばジクミルパーオキサイド、1,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3等が挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート等が挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。有機過酸化物は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、水素引抜き能が高く架橋反応が起きやすく高い物性を得られることから、ジアルキルパーオキサイドを含むことが好ましく、ジクミルパーオキサイドを含むことがより好ましい。
【0018】
架橋前の未架橋ゴム組成物における有機過酸化物の配合量は、高い物理特性を得る観点から、エチレン-α-オレフィンエラストマー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、更に好ましくは1質量部以上2質量部以下である。
【0019】
実施形態に係る架橋ゴム組成物は、必要に応じて、カーボンブラック、加工助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、オイル、老化防止剤その他のゴム配合剤を含んでいてもよい。
【0020】
実施形態に係る架橋ゴム組成物の標準温度での50%伸び時応力S50は、好ましくは1.3MPa以上、より好ましくは1.5MPa以上である。標準温度での切断時引張強さTbは、好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上である。標準温度での切断時伸びEbは、好ましくは700%以下、より好ましくは300%以下である。これらの引張特性は、JIS K6251:2017に基づいて測定されるものである。
【0021】
実施形態に係る架橋ゴム組成物の25℃での貯蔵たて弾性係数E’及び100℃での貯蔵たて弾性係数E’のいずれも、好ましくは5MPa以上15MPa以下、より好ましくは7MPa以上12MPa以下である。25℃での貯蔵たて弾性係数E’に対する100℃での貯蔵たて弾性係数E’の比は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上である。25℃でのtanδ及び100℃でのtanδのいずれも、好ましくは0.07以上0.13である。これらの動的性質は、JIS K6394:2007に基づき、動歪を1.0%及び周波数を10Hzとして測定されるものである。
【0022】
実施形態に係る架橋ゴム組成物を室温でトルエンに7日間浸漬した後のトルエン膨潤率は、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下である。このトルエン膨潤率は、トルエン浸漬前の体積を100%としてトルエン浸漬前後の体積の増加量を百分率で表したものであり、架橋度の指標である。
【0023】
以上の実施形態に係る架橋ゴム組成物は、ニーダー、バンバリーミキサー、オープンロール等のゴム混練機を用い、エチレン-α-オレフィンエラストマー、メルカプト基を有するシランカップリング剤、シリカ及び有機過酸化物を混練して未架橋ゴム組成物を調製し、その未架橋ゴム組成物を所定温度及び所定圧力で架橋させることにより得ることができる。
【0024】
実施形態に係る架橋ゴム組成物は、ゴム製品の製品本体を形成するのに好適であり、具体的には、高い物理特性が求められる例えば伝動ベルトのベルト本体を形成するのに適している。
【実施例0025】
(架橋ゴム組成物)
以下の実施例1~2及び比較例1~3の架橋ゴム組成物を作製した。それぞれの構成は、表1にも示す。
【0026】
<実施例1>
密閉型混練機に、EPDM1(T7241 ENEOSマテリアル社製、エチレン含量:52質量%、ENB含量:7.7質量%)とともに、このEPDM100質量部に対して、1.5質量部のメルカプト基を有するシランカップリング剤の3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-802 信越化学工業社製)、40質量部の沈降法シリカ(ウルトラジルVN3 エボニック社製)及び3質量部の有機過酸化物のジクミルパーオキサイド(パークミルD 日本油脂社製)を配合して混練することにより未架橋ゴム組成物を調製した。そして、この未架橋ゴム組成物をプレス成形することによりシート状の架橋ゴム組成物を作製した。得られたシート状の架橋ゴム組成物を実施例1とした。
【0027】
<実施例2>
EPDM1に代えてEPDM2(EP93 ENEOSマテリアル社製、エチレン含量:55質量%、ENB含量:2.7質量%)を用いたことを除いて実施例1と同一構成のシート状の架橋ゴム組成物を作製し、それを実施例2とした。
【0028】
<比較例1>
メルカプト基を有するシランカップリング剤の3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランを配合していないことを除いて実施例1と同一構成のシート状の架橋ゴム組成物を作製し、それを比較例1とした。
【0029】
<比較例2>
メルカプト基を有するシランカップリング剤の3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランに代えて、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(Si69 LiuYang SanJi Chemical Co.、Ltd)を配合したことを除いて実施例1と同一構成のシート状の架橋ゴム組成物を作製し、それを比較例2とした。
【0030】
<比較例3>
メルカプト基を有するシランカップリング剤の3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランを配合していないことを除いて実施例2と同一構成のシート状の架橋ゴム組成物を作製し、それを比較例3とした。
【0031】
【表1】
【0032】
(試験方法)
<引張特性>
実施例1~2及び比較例1~3のそれぞれについて、JIS K6251:2017に基づいて、標準温度での50%伸び時応力S50、切断時引張強さTb及び切断時伸びEbを測定した。
【0033】
<動的性質>
実施例1~2及び比較例1~3のそれぞれについて、JIS K6394:2007に基づき、動歪を1.0%及び周波数を10Hzとして、25℃及び100℃のそれぞれでの貯蔵たて弾性係数E’並びに25℃及び100℃のそれぞれでのtanδを測定した。
【0034】
<トルエン膨潤率>
実施例1並びに比較例1及び2のそれぞれの小片のテストピースについて、室温でトルエンに7日間浸漬し、トルエン浸漬前の体積を100%としてトルエン浸漬前後の体積の増加量をトルエン膨潤率として算出した。
【0035】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。表1によれば、実施例1は、比較例1及び2よりも高い物理特性を有することが分かる。また、実施例2は、比較例3よりも高い物理特性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、架橋ゴム組成物の技術分野について有用である。