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  • 特開-超音波欠陥検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002280
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】超音波欠陥検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102343
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森永 武
(72)【発明者】
【氏名】兼重 健一
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047BC02
2G047BC18
2G047DA01
2G047DA03
2G047DB12
2G047EA05
2G047GG37
(57)【要約】
【課題】製造現場に簡易に設置して被検査体中の溶け残り等の欠陥検出を確実に行うことができる超音波欠陥検出方法を提供する
【解決手段】一定厚の被検査体Mの表面に平行に超音波探触子1を走査して、各走査位置において超音波の発振から底面反射波を受信するまでの受信時間を計測し、受信時間の最頻値を頂点とするヒストグラムにおいて、当該ヒストグラムの左右対称形が崩れた領域Xにおける上記受信時間を示す走査位置に欠陥があるものとし、上記領域Xにおける受信時間を示す各走査位置の座標より上記被検査体の平面的広がりを検出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定厚の被検査体の表面に平行に超音波探触子を走査して、各走査位置において超音波の発振から底面反射波を受信するまでの受信時間を計測し、受信時間の最頻値を頂点とするヒストグラムにおいて、当該ヒストグラムの左右対称形が崩れた領域における前記受信時間を示す走査位置に欠陥があるものとする超音波欠陥検出方法。
【請求項2】
前記左右対称形が崩れた領域における前記受信時間を示す各走査位置の座標より前記被検査体の平面的広がりを検出する請求項1に記載の超音波欠陥検出方法。
【請求項3】
前記左右対称形が崩れた領域における各走査位置での前記受信時間と、前記最頻値を示す受信時間の差から前記平面内欠陥部の厚みを検出する請求項2に記載の超音波欠陥検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波欠陥検出方法に関し、特に母材中の溶け残り等の欠陥検出に有用な超音波欠陥検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波を使用して被検査体中の欠陥を検出する場合、当該欠陥が空隙や介在物等である場合にはこれら欠陥での超音波の反射を利用することが多い。これは、被検査体の表面での反射波と底面での反射波の間に検出ウインドウを設定し、この検出ウインドウ内に反射波が現れると、これを欠陥からの反射として検出するものである。
【0003】
なお、特許文献1には、連続鋳造の鋳片内の凝固部を検査する方法が提案されており、ここでは、鋳片内に超音波を発生させて、超音波の発生と当該超音波による表面振動の発生の時間差が、鋳片内の上記凝固部による音速低下に依存することを利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-343203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、母材中の溶け残り等の欠陥では、欠陥と母材の材料が同質であるために欠陥表面での反射率が小さく、このため欠陥反射を利用する従来方法では十分な反射波強度が得られずノイズに埋もれてしまうために欠陥の検出が困難であるという問題があった。母材中の溶け残り等の欠陥に関し、X線の利用も考えられるが、被ばく防止の構造等、設備が大掛かりになって製造現場に簡易に設置することが難しい。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、製造現場に簡易に設置して被検査体中の溶け残り等の欠陥検出を確実に行うことができる超音波欠陥検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、一定厚の被検査体(M)の表面に平行に超音波探触子(1)を走査して、各走査位置において超音波の発振から底面反射波を受信するまでの受信時間を計測し、受信時間の最頻値を頂点とするヒストグラムにおいて、当該ヒストグラムの左右対称形が崩れた領域(X)における前記受信時間を示す走査位置に欠陥があるものとする。
【0008】
本第1発明によれば、欠陥部では超音波の速度が正常部とは異なるために、受信時間の最頻値を頂点とするヒストグラムが左右非対称となる。そこで、左右対称形が崩れた領域における受信時間を示す走査位置に欠陥があるもの確定できる。受信時間の最頻値を基準としているから被検査体の厚みが変わっても欠陥の判定を確実に行うことができる。
【0009】
本第2発明では、前記左右対称形が崩れた領域(X)における前記受信時間を示す各走査位置の座標より前記被検査体の平面的広がりを検出する。
【0010】
本第2発明によれば、受信時間(音速)の差(又は比)を最頻値と崩れた領域(欠陥部の各点)を比較することで、欠陥部の平面的広がりを確実に検出することができる。
【0011】
本第3発明では、前記左右対称形が崩れた領域(X)における各走査位置での前記受信時間と、前記最頻値を示す受信時間の差から前記平面内欠陥部の厚みを検出する。
【0012】
本第3発明によれば、受信時間の差は欠陥部の厚みに対応しているから、欠陥部の厚みを確実に検出することができる。
【0013】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の超音波欠陥検出方法によれば、製造現場に簡易に設置して被検査体中の溶け残り等の欠陥検出を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明方法を実施する装置の要部斜視図である。
図2】超音波探触子の走査経路を示す平面図である。
図3】空隙欠陥と溶け残り欠陥を検出した時の超音波反射波のAスコープ画像である。
図4】溶け残り欠陥を検出した時の超音波反射波のAスコープ画像である。
図5】溶け残り欠陥を検出した時の反射波受信時間のヒストグラムである。
図6】本発明方法による溶け残り欠陥の欠陥検出画像である。
図7】X線による溶け残り欠陥の欠陥検出画像である。
図8】欠陥反射による溶け残り欠陥の欠陥検出画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
図1には本発明方法を実施する装置の要部を示す。図1において、支持柱11の下端に設けた逆L字形のステー12に姿勢変更用のモータ13,14が設けられており、これらモータ13,14を介して、超音波の受発振を行う探触子1が下方に向けて配設されている。探触子1の下方には被検査体Mが位置させられており、本実施形態では被検査体Mはその上面と下面が平行である一定厚のTi―50Al合金製の円板体である。
【0018】
上記支持柱11の上端は図略のX-Yスライダ装置に連結されており、これにより探触子1は下方の被検査体Mの表面に対し一定間隔を保った状態でこれに平行に水平面内を自在に走査される。その走査軌跡は本実施形態では図2のLで示すように、被検査体Mの表面に対して一定間隔で左右に折り返すものであり、これによって被検査体Mの表面全面に亘って所定間隔毎の各走査位置(探傷位置)において、被検査体Mの厚み方向(図2の紙面垂直方向)へ超音波の受発振を行って欠陥の有無を検出することができる。
【0019】
この場合、被検査体M内部の欠陥が空隙等である場合には、図3(1)に示すようなAスコープにおいて、表面反射波Raと底面反射波Rbの間に設定された検出ウインドウW内に、欠陥からの反射波Rdが現れる。
【0020】
ところが、欠陥が溶け残り等である場合には、例えば被検査体Mの母材部(健全部)がTi―50Alの合金であるのに対して欠陥部は純Tiであって同質材であるため、下式(1)に示す音響インピーダンスZ1,Z2の相違から定まる、健全部と欠陥部の境界での反射率Rは極く小さく、図3(2)に示すように、検出ウインドウW内に欠陥反射波Rdは殆ど現れない。なお、式(1)中、Z1、Z2はそれぞれ正常部、欠陥部の音響インピーダンスである。
【0021】
【0022】
一方、超音波の音速(縦波)CLは下式(2)で決定され、音速に注目すると健全部と欠陥部の材質が同質であっても両者内の音速に差が生じることが考えられ、そうであれば同一厚の板状である上記被検査体Mの健全部と欠陥部ではその反射波の到達時間は異なるはずである。なお式(2)中、Eはヤング率、ρは密度、νはポアソン比である。実際Aスコープを観察すると、欠陥部における底面反射波Rbの到達時間(図4(2)参照)は、欠陥部を通過する際に音速が変化する(本実施形態では音速が低下する)ため、健全部における底面反射波Rbの到達時間(図4(1)参照)よりHdだけ遅くなっている。
【0023】
【0024】
図5には、上記探触子1による被検査体Mの全探傷位置での、Aスコープにおける底面反射波Rbの受信時間(零クロス点)を横軸に、その頻度を縦軸にとったヒストグラムを示す。ヒストグラムで最頻値を示すのは、被検査体Mの大部分を占める健全部における底面反射波Rbの零クロス点である。ヒストグラムが全体として対称形の山型になるのは、健全部においても粒界散乱によって音速が変化することがあり、その変化確率は通常は正規分布を示すからである。図5に示すヒストグラムの山型が左右対称にならないのは欠陥部の存在による音速変動があるからであり、本実施形態では反射波受信時間が長い領域で山型の対称形状が崩れている(図5の斜線部X)。なお、本実施形態では斜線部Xで頻度が極大となっているが、極大を示さない場合もある。
【0025】
そこで、Aスコープにおける反射波受信時間が上記ヒストグラムの山型が崩れている範囲にある探傷位置を、他の探傷位置と区別できる例えば異なる輝度あるいは色彩で表示するとともに、その輝度の高さあるいは色彩の濃度を、当該探傷位置での反射波受信時間と、最頻値を示す反射波受信時間の差に応じて変化させた画像(Cスコープ)を作成すると、欠陥部の広がりとその厚みを視覚的に示すことができる。その一例を図6に示す。図6で輝度が高く纏まった領域が欠陥部Dとして視覚的に識別でき、かつその輝度の強さは欠陥部Dの厚みに対応している。この図6は、同じ被検査体MをX線撮影して得た欠陥部Dを示す図7と良く一致している。ちなみに、従来の欠陥反射波を利用する方法では図8に示すように欠陥部が全く検出されない。
【0026】
上記実施形態ではCスコープ画像を描画しているが、特に描画することなく、反射波受信時間やその差を当該探傷位置の位置座標と対応させたデータとして記憶し、必要な演算を施すようにしても良い。
非検査体は円板である必要はなく、一定厚のものであれば、例えば、長方形状など形状は問わない。
【符号の説明】
【0027】
1…探触子、L…走査軌跡、M…被検査体、Ra…表面反射波、Rb…底面反射波、Rd…欠陥反射波、X…左右対称形が崩れた領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8