(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022807
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20250206BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G03G9/08 381
G03G9/087 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024123316
(22)【出願日】2024-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2023125618
(32)【優先日】2023-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】林 寛人
(72)【発明者】
【氏名】村田 将一
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500BA12
2H500CA06
2H500CA44
2H500EA39B
2H500EA41B
2H500EA42B
2H500EA44B
2H500EA63B
(57)【要約】
【課題】高速印刷時の低温定着性及び耐久性に優れた静電荷像現像用トナーの製造方法に関すること。
【解決手段】結晶性ポリエステル樹脂C及び非晶性ポリエステル樹脂Aを同一又は異なる粒子に含有する樹脂粒子を、水系媒体中で凝集させて、凝集粒子を得る工程を含む、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記結晶性ポリエステル樹脂Cのエステル基濃度が6.5mmol/g以上12.5mmol/g以下であり、前記非晶性ポリエステル樹脂Aが、アルコール成分とカルボン酸成分とポリエチレンテレフタレートとの重縮合物である、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂C及び非晶性ポリエステル樹脂Aを同一又は異なる粒子に含有する樹脂粒子を、水系媒体中で凝集させて、凝集粒子を得る工程を含む、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記結晶性ポリエステル樹脂Cのエステル基濃度が6.5mmol/g以上12.5mmol/g以下であり、前記非晶性ポリエステル樹脂Aが、アルコール成分とカルボン酸成分とポリエチレンテレフタレートとの重縮合物である、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項2】
凝集粒子を得る工程で得られた凝集粒子を融着させて、トナー粒子を得る工程を含む、請求項1記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】
非晶性ポリエステル樹脂Aにおいて、ポリエチレンテレフタレートの含有量が、テレフタル酸-エチレングリコールのユニットを1モルとして、アルコール成分とカルボン酸成分とポリエチレンテレフタレートの合計量中、5モル%以上75モル%以下である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレートのIV値が、0.40以上0.80以下である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項5】
結晶性ポリエステル樹脂Cの含有量が、結晶性ポリエステル樹脂Cと非晶性ポリエステル樹脂Aの合計量中、3質量%以上40質量%以下である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項6】
非晶性ポリエステル樹脂Aのアルコール成分が、炭素数3以上6以下の脂肪族ジオールを含有する、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられる静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真システムの発展に伴い、さらなる高画質化に対応した静電荷像現像用トナーの開発が求められており、溶融混練法により得られる粉砕トナーに比べて、均一な小粒径のトナー粒子が容易に得られるケミカルトナーの製造方法が検討されている。また、高速化、例えば、A4縦方向で1枚あたり0.5~1.0秒程度の高速印刷にも対応可能な低温定着性を有するトナーが求められる。
【0003】
一方、静電荷像現像用トナーの結着樹脂として、原料モノマーとともにポリエチレンテレフタレートを用いた非晶性ポリエステル樹脂に結晶性ポリエステル樹脂を併用する検討がされている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-99699号公報
【特許文献2】特開2021-67882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トナーの結着樹脂として、非晶性ポリエステル樹脂に結晶性ポリエステル樹脂を併用することでトナーの低温定着性が向上するが、高速印刷にも対応可能な低温定着性への改善が求められる。特に、水系媒体中でトナー粒子を形成する際に、非晶性ポリエステル樹脂に比べより疎水性の高い結晶性ポリエステル樹脂はトナー粒子内部に存在しやすくなるため、高速時の素早い熱応答性を発揮しがたくなる。一方、結晶性ポリエステル樹脂が表面近傍に偏在すると高速印刷時の低温定着性が向上するが、耐久性が低下する傾向にある。しかしながら、従来技術は、これらの課題に対して不十分である。
【0006】
本発明は、高速印刷時の低温定着性及び耐久性に優れた静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、結晶性ポリエステル樹脂C及び非晶性ポリエステル樹脂Aを同一又は異なる粒子に含有する樹脂粒子を、水系媒体中で凝集させて、凝集粒子を得る工程を含む、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記結晶性ポリエステル樹脂Cのエステル基濃度が6.5mmol/g以上12.5mmol/g以下であり、前記非晶性ポリエステル樹脂Aが、アルコール成分とカルボン酸成分とポリエチレンテレフタレートとの重縮合物である、静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、高速印刷時の低温定着性及び耐久性に優れた静電荷像現像用トナーが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、特定のエステル基濃度を有する結晶性ポリエステル樹脂Cとポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて得られた非晶性ポリエステル樹脂Aを用い、水系媒体中で樹脂粒子を凝集させて静電荷像現像用トナーを得る方法である。本発明の方法により、高速印刷時の低温定着性に優れ、かつ、耐久性に優れるトナーが得られる詳細なメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。
【0010】
低温定着性の観点からは、結晶性ポリエステル樹脂はトナー粒子の表面近傍に存在していることが好ましく、本発明では、結着樹脂として、エステル基濃度が高く、親水性の高い結晶性ポリエステル樹脂Cを用いることで、水系媒体中でのトナー粒子形成において、結晶性ポリエステル樹脂が粒子内部に偏在することを抑制できる。
一方、アルコール成分とカルボン酸成分とPETの重縮合反応において、PETは解重合を受けながらエステル交換反応によりポリエステル樹脂鎖に取り込まれるものの、完全にランダム化はせず、非晶性ポリエステル樹脂A中にはPETセグメントと呼べるある程度の長さのユニットとして存在する。この時、PETセグメントのエステル基濃度は10.0mmol/gであるため、エステル基濃度がPETセグメントと近似した、エステル基濃度が高い結晶性ポリエステル樹脂Cを用いることで、PETセグメントと結晶性ポリエステル樹脂C間のエステル基を介した相互作用が働きやすくなり、PETセグメントを起点に結晶性ポリエステル樹脂Cの結晶化が促進される。これらの結果、トナーの熱応答性が向上し、定着時の瞬時な加熱でトナーが溶融するため、高速印刷においても低温定着性に優れるとともに、素早く結晶回復することでトナーの硬度を確保することができるため、結晶性ポリエステル樹脂がトナー粒子の表面近傍に偏在していても、耐久性に優れるトナーが製造できるものと考えられる。
【0011】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂Cは、脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分との重縮合物であることが好ましい。
【0012】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0013】
脂肪族ジオールの炭素数は、2以上であり、そして、エステル基濃度調整の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
【0014】
脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性を向上させる観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有していることが好ましく、α,ω-直鎖アルカンジオールであることがより好ましい。
【0015】
脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
【0016】
脂肪族ジオール以外のアルコール成分としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、コハク酸(炭素数:4)、フマル酸(炭素数:4)、アジピン酸(炭素数:6)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン二酸(炭素数:12)、テトラデカン二酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸誘導体、これらの酸の無水物、これらの酸の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。ここで、脂肪族ジカルボン酸系化合物がアルキルエステルである場合のアルキル基の炭素数は、上記炭素数には含めない。
【0018】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上であり、そして、エステル基濃度調整の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。
【0019】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、疎水性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
【0020】
他のカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0021】
さらに、結晶性ポリエステル樹脂Cのアルコール成分及び/又はカルボン酸成分は、耐久性の観点から、1官能のモノマーを含有することが好ましい。
【0022】
アルコール成分に含まれる1官能のモノマーとしては、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の脂肪族モノアルコール等が挙げられる。
【0023】
脂肪族モノアルコールの炭素数は、疎水性の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。
【0024】
カルボン酸成分に含まれる1官能のモノマーとしては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪族モノカルボン酸、これらの酸のアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等の脂肪族モノカルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0025】
脂肪族モノカルボン酸系化合物の炭素数は、疎水性の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは22以下であり、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。ここで、脂肪族モノカルボン酸系化合物がアルキルエステルである場合のアルキル基の炭素数は、上記炭素数には含めない。
【0026】
1官能のモノマーの含有量は、アルコール成分とカルボン酸成分の合計量中、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。
【0027】
なお、本明細書において、マクロモノマーやヒドロキシカルボン酸は、アルコール成分及びカルボン酸成分には含めない。
【0028】
カルボン酸成分のカルボキシ基のアルコール成分の水酸基に対する当量比(COOH基/OH基)は、帯電安定性の観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0029】
結晶性ポリエステル樹脂Cは、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは120℃以上、より好ましくは180℃以上、そして、好ましくは230℃以下、より好ましくは220℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0030】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化触媒の助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0031】
なお、本発明において、ポリエステル樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステル樹脂であってもよい。変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂が挙げられるが、変性されたポリエステル樹脂のなかでは、ポリエステル樹脂をポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0032】
結晶性ポリエステル樹脂Cのエステル基濃度は、高速印刷時の低温定着性及び耐久性の観点から、6.5mmol/g以上であり、好ましくは7.0mmol/g以上、より好ましくは7.5mmol/g以上であり、そして、12.5mmol/g以下であり、好ましくは11.5mmol/g以下、より好ましくは11.0mmol/g以下である。
【0033】
本発明において、ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、下記式より算出する。
【0034】
【0035】
〔式中、Aはポリエステル樹脂の原料モノマーがすべて反応した際に生成する全エステル結合量(mol)であり、Bはポリエステル樹脂を構成する原料モノマーの全質量(g)である。なお、式中の括弧内は、各数値の単位を意味する。〕
【0036】
結晶性ポリエステル樹脂Cの軟化点は、耐久性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは140℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0037】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最大ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。
結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である。
一方、非晶性樹脂は、吸熱ピークが観測されないか、観測される場合は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。
樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最大ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0038】
結晶性ポリエステル樹脂Cの融点は、耐久性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0039】
結晶性ポリエステル樹脂Cの酸価は、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下である。
【0040】
結晶性ポリエステル樹脂Cの含有量は、結晶性ポリエステル樹脂Cと非晶性ポリエステル樹脂Aの合計量中、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0041】
非晶性ポリエステル樹脂Aは、アルコール成分とカルボン酸成分とPETとの重縮合物である。
【0042】
アルコール成分は、高速印刷時の低温定着性の観点から、炭素数3以上6以下の脂肪族ジオールを含有することが好ましい。
【0043】
炭素数が3以上6以下の脂肪族ジオールとしては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。これらのなかでは、高速印刷時の低温定着性の観点から、1,2-プロパンジオール又はネオペンチルグリコールが好ましい。
【0044】
炭素数が3以上6以下の脂肪族ジオールの含有量は、高速印刷時の低温定着性の観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、アルコール成分が3価以上のアルコールを含む場合は、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。ただし、ここでいうアルコール成分にPETのエチレングリコール単位は含めない。
【0045】
他のアルコール成分としては、炭素数が7以上の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールA等の芳香族ジオール、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0046】
カルボン酸成分は、耐久性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物を含むことが好ましい。
【0047】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物、これらの酸の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0048】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下である。ただし、ここでいうカルボン酸成分にPETに含まれるテレフタル酸単位は含めない。
【0049】
芳香族ジカルボン酸系化合物以外のカルボン酸成分としては、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、炭化水素基で置換されたコハク酸誘導体、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸、これらの酸の無水物、これらの酸の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0050】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含まれていてもよい。
【0051】
PETは、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応により、及び/又はPETの一部が解重合を受けて生成するエチレングリコールとテレフタル酸が、原料モノマーとして重縮合反応に供され、ポリエステル樹脂に取り込まれる。PETは、エチレングリコールとテレフタル酸の等モル重縮合物として、PETを構成するエチレングリコールとテレフタル酸をそれぞれアルコール成分とカルボン酸成分としてみなす。
【0052】
PETは新品のVirgin PETであっても、再生PETであってもよい。
再生PETは、使用済みのPETを回収し、必要に応じて洗浄や他の材料との選別等を行った後粉砕され、粉砕物を解重合によりモノマー単位まで分解し、これを原料として再合成して得られたものをいう。
【0053】
本発明において、PETは、従来用いられているPETに比べて比較的低IV値、即ち低分子量のPETであることが好ましい。低IV値(低分子量)のPETをポリエステル樹脂に導入することにより、PETの解重合がより均一に進行する。
【0054】
PETのIV値は、上記の観点から、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.45以上、さらに好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.55以上であり、そして、低温定着性及び解重合の均一化の観点から、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.65以下である。IV値とは固有粘度であり、分子量の指標となる。PETのIV値は、重縮合時間等により調整することができる。
【0055】
IV値が0.40以上0.85以下のPETの市販品としては、RAMAPET L1(Indorama Ventures社製、IV値:0.60)、RAMAPET BF3067(Indorama Ventures社製、IV値:0.65)、RAMAPET N2G(Indorama Ventures社製、IV値:0.75)、TRN-NTJ(帝人(株)製、IV値:0.53)、TRN-RTJC(帝人(株)製、IV値:0.64)、RAMAPET S1(Indorama Ventures社製、IV値:0.84)、UK-31(ウツミリサイクルシステムズ(株)製、IV値:0.67)等が挙げられる。
【0056】
低IV値のPETの含有量は、重縮合に供されるPETの総量中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0057】
PETの含有量は、アルコール成分とカルボン酸成分とPETの合計量中、耐久性の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは75モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下である。非晶性ポリエステル樹脂Aが2種以上の樹脂からなる場合は、それぞれの樹脂のPET含有量の加重平均値を非晶性ポリエステル樹脂AのPET含有量とする。
なお、PETは、エチレングリコールとテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル等との重縮合体であることから、テレフタル酸-エチレングリコ-ルのユニット(Mw:192)を1モルとして換算する。従って、PETのモル数=エチレングリコール単位のモル数=テレフタル酸単位のモル数である。
【0058】
カルボン酸成分(PET中のテレフタル酸単位を含む)のアルコール成分(PET中のエチレングリコール単位を含む)に対する当量比(COOH基/OH基)は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0059】
非晶性ポリエステル樹脂のアルコール成分とカルボン酸成分とPETの重縮合反応条件は、好適な反応温度が好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下であること以外は、前記結晶性ポリエステル樹脂の反応条件と同様である。
【0060】
非晶性ポリエステル樹脂Aの軟化点は、耐久性の観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、そして、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0061】
非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度は、耐久性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下である。
【0062】
非晶性ポリエステル樹脂Aの酸価は、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは18mgKOH/g以下である。
【0063】
非晶性ポリエステル樹脂Aの含有量は、結晶性ポリエステル樹脂Cと非晶性ポリエステル樹脂Aの合計量中、耐久性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、そして、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは97質量%以下、より好ましくは96質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは92質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0064】
結晶性ポリエステル樹脂Cの非晶性ポリエステル樹脂Aに対する質量比(結晶性ポリエステル樹脂C/非晶性ポリエステル樹脂A)は、高速印刷時の低温定着性の観点から、好ましくは3/97以上、より好ましくは4/96以上、さらに好ましくは5/95以上、さらに好ましくは8/92以上、さらに好ましくは15/85以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは40/60以下、より好ましくは35/65以下、さらに好ましくは30/70以下、さらに好ましくは25/75以下である。
【0065】
トナーにおいて、結晶性ポリエステル樹脂Cと非晶性ポリエステル樹脂Aは結着樹脂として含有されている。
【0066】
他の結着樹脂としては、スチレンアクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、これらの樹脂を2種以上含む複合樹脂等が挙げられる。
【0067】
結晶性ポリエステル樹脂Cと非晶性ポリエステル樹脂Aの合計含有量は、結着樹脂中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0068】
また、結着樹脂の含有量は、トナー中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%未満、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0069】
トナーの原料として、結着樹脂以外に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤を用いてもよい。
【0070】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントレッド122、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾイエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0071】
着色剤の使用量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。
【0072】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、エチレンプロピレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。
【0073】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0074】
離型剤の使用量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
【0075】
本発明においては、結晶性ポリエステル樹脂C及び非晶性ポリエステル樹脂Aを同一又は異なる粒子に含有する樹脂粒子を、水系媒体中で凝集させて、凝集粒子を得る工程(凝集工程)を含む方法により、トナーを製造する。さらに、トナー粒子の安定性の観点から、凝集工程で得られた凝集粒子を融着させて、トナー粒子を得る工程(融着工程)を含むことが好ましく、凝集工程と融着工程は重複して進行させてもよい。結晶性ポリエステル樹脂C及び非晶性ポリエステル樹脂Aは同一の粒子に含有させても、それぞれ異なる粒子に含有させてもよい。
【0076】
樹脂粒子は、例えば、予め、結晶性ポリエステル樹脂C及び/又は非晶性ポリエステル樹脂Aを含む樹脂成分と、必要に応じて着色剤、離型剤等の任意成分(以下、樹脂成分及び任意成分を総称し「樹脂成分等」ともいう)を水系媒体中に分散させ、水系分散液として用いることができる。
【0077】
水系媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、水系分散液の分散安定性を向上させる観点、及び環境性の観点から、水系媒体中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。水としては、脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
【0078】
水系媒体が含み得る水以外の成分としては、炭素数が1以上5以下のアルキルアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3以上5以下のジアルキルケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が用いられる。これらの中でも、有機溶媒のトナーへの混入を防止する観点から、ポリエステル樹脂を溶解しない炭素数が1以上5以下のアルキルアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノールがより好ましい。
【0079】
樹脂粒子の水系分散液を得る方法としては、樹脂成分等を水系媒体に添加し、分散機等によって分散処理を行う方法、樹脂成分等の溶融体又は有機溶媒溶液に、水系媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法(転相乳化)等が挙げられる。これらの中でも、トナーの高速印刷時の低温定着性及び耐久性を向上させる観点から、転相乳化による方法が好ましい。
【0080】
転相乳化法としては、樹脂成分等を有機溶媒に溶解させ、樹脂成分等の有機溶媒溶液を得、得られた溶液に水系媒体を添加して転相乳化する方法(A)、又は、樹脂成分等を溶融して混合して得られた樹脂混合物に水系媒体を添加して転相乳化する方法(B)が挙げられる。均質な樹脂粒子の水系分散液を得る観点から、方法(A)が好ましい。
【0081】
転相乳化法で使用する有機溶媒としては、溶解性パラメータ(SP値:POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION 1989 by John Wiley & Sons,Inc)が、好ましくは15.0MPa1/2以上、より好ましくは16.0MPa1/2以上、さらに好ましくは17.0MPa1/2以上であり、そして、好ましくは26.0MPa1/2以下、より好ましくは24.0MPa1/2以下、さらに好ましくは22.0MPa1/2以下である有機溶媒が好ましい。
【0082】
有機溶媒としては、エタノール(26.0)、イソプロパノール(23.5)、イソブタノール(21.5)等のアルコール系溶媒;アセトン(20.3)、メチルエチルケトン(19.0)、メチルイソブチルケトン(17.2)、ジエチルケトン(18.0)等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル(16.5)、テトラヒドロフラン(18.6)、ジオキサン(20.5)等のエーテル系溶媒;酢酸エチル(18.6)、酢酸イソプロピル(17.4)等の酢酸エステル系溶媒等が挙げられる。なお、各溶媒の後ろのカッコ内の数値はそれぞれのSP値(単位:MPa1/2)である。これらの中でも、水系媒体添加後の混合液からの除去が容易である観点から、好ましくはケトン系溶媒及び酢酸エステル系溶媒から選ばれる1種以上、より好ましくはメチルエチルケトン、酢酸エチル及び酢酸イソプロピルから選ばれる1種以上、さらに好ましくはメチルエチルケトンである。
【0083】
転相乳化法では、樹脂を中和剤により処理することが好ましい。
【0084】
中和剤としては、塩基性物質等が挙げられる。塩基性物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の含窒素塩基性物質等が挙げられ、これらの中でも、樹脂粒子の分散安定性及び凝集性を向上させる観点から、好ましくは、アンモニア及びアルカリ金属の水酸化物から選らばれる少なくとも1種、より好ましくはアンモニア及び水酸化ナトリウムから選らばれる少なくとも1種、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0085】
樹脂の酸基に対する前記中和剤の使用当量(モル%)は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、さらに好ましくは100モル%以下である。
なお、中和剤の使用当量(モル%)は、下記式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{樹脂の酸価(mgKOH/g)×樹脂の質量(g)}/(56×1000)]〕×100
【0086】
水系媒体を添加する際の温度は、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。
【0087】
水系媒体の添加速度は、小粒径の樹脂粒子を得る観点から、転相が終了するまでは、樹脂粒子を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部/分以上、より好ましくは0.5質量部/分以上、さらに好ましくは3質量部/分以上であり、そして、好ましくは50質量部/分以下、より好ましくは30質量部/分以下、さらに好ましくは20質量部/分以下、さらに好ましくは10質量部/分以下である。転相後の水系媒体の添加速度には制限はない。
【0088】
転相乳化の後に、必要に応じて、得られた分散体から有機溶媒を除去してもよい。有機溶媒の除去方法は、水と溶解しているため蒸留が好ましい。有機溶媒の残存量は、水系分散液中、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは実質的に0質量%である。
【0089】
樹脂粒子に含まれる全樹脂成分中における樹脂の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0090】
樹脂粒子の水系分散液の固形分濃度は、トナーの生産性を向上させる観点、及び樹脂粒子の水系分散液の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。なお、固形分は、樹脂、着色剤、界面活性剤等の不揮発性成分の総量である。
【0091】
樹脂粒子の水系分散液の固形分中の、樹脂の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下である。
【0092】
水系分散液中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.10μm以上、さらに好ましくは0.12μm以上であり、そして、好ましくは0.80μm以下、より好ましくは0.40μm以下、さらに好ましくは0.30μm以下である。
また、樹脂粒子のCV値は、樹脂粒子の水系分散液の生産性を向上させる観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上であり、高画質の画像が得られるトナーを得る観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下である。
なお、本発明において、CV値は下記式に従って算出する。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積平均粒径)×100
【0093】
着色剤、離型剤等の任意成分は、前記のように、樹脂粒子の水系分散液を調製する際に、樹脂と混合して用いても、それぞれ、水系媒体に分散した分散液を別途調製し、樹脂粒子の水系分散液と混合して、凝集粒子を得てもよい。
【0094】
例えば、離型剤の水系分散液(離型剤分散液)は、離型剤と水系媒体とを、離型剤の融点以上の温度で、分散機を用いて離型剤粒子を分散させることによって得ることが好ましい。
【0095】
離型剤粒子の水系媒体への分散は、離型剤粒子の分散安定性を向上させる観点、及び均一な凝集粒子を得る観点から、界面活性剤の存在下で行うことが好ましい。
【0096】
界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のアニオン性界面活性剤;カチオン性界面活性剤;非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0097】
離型剤分散液中の界面活性剤の含有量は、離型剤粒子の分散安定性を向上させる観点、及びトナー作製時の離型剤粒子の凝集性を向上させ、遊離を防止する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下である。
【0098】
用いる分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機、高圧分散機等が挙げられる。
【0099】
また、前記分散機を使用する前に、任意成分、界面活性剤、及び水系媒体を、予めホモミキサー、ボールミル等の混合機で予備分散させておくことが好ましい。
任意成分に用いる水系媒体は、前記樹脂粒子の水系分散液を得る際に用いられる水系媒体と同様である。
【0100】
離型剤分散液の固形分濃度は、トナーの生産性を向上させる観点、及び離型剤粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0101】
離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は、均一な凝集粒子を得る観点から、好ましくは0.10μm以上、より好ましくは0.20μm以上、さらに好ましくは0.30μm以上であり、そして、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.80μm以下、さらに好ましくは0.60μm以下である。
【0102】
着色剤の水系分散液(着色剤分散液)も、離型剤分散液と同様に、好ましくは界面活性剤の存在下で、分散機を用いて着色剤粒子を分散させることによって得ることが好ましい。
【0103】
着色剤分散液の調製に用いる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられ、着色剤粒子の分散安定性を向上させる観点、並びに着色剤粒子と樹脂粒子との凝集性を向上させる観点から、好ましくはアニオン性界面活性剤である。具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等が挙げられ、好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。
【0104】
着色剤分散液中の界面活性剤の含有量は、着色剤粒子の分散安定性を向上させる観点、及びトナー作製時の着色剤粒子の凝集性を向上させ、遊離を防止する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、そして、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。
【0105】
着色剤分散液の固形分濃度は、トナーの生産性を向上させる観点、及び着色剤粒子の水系分散液の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0106】
着色剤粒子の体積中位粒径(D50)は、高画質の画像が得られるトナーを得る観点から、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.08μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上であり、そして、好ましくは0.50μm以下、より好ましくは0.30μm以下、さらに好ましくは0.15μm以下である。
【0107】
凝集工程において、樹脂粒子の凝集を効率的に行う観点から、凝集剤を添加することが好ましい。
凝集剤は、過剰な凝集を防ぎつつ、所望の粒径のトナーを得る観点から、電解質であることが好ましく、塩であることがより好ましい。凝集剤としては、第四級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等の有機系凝集剤;無機金属塩、無機アンモニウム塩、2価以上の金属錯体等の無機系凝集剤等が挙げられる。これらの中でも、凝集性を向上させ均一な凝集粒子を得る観点から、好ましくは無機系凝集剤であり、より好ましくは無機金属塩又は無機アンモニウム塩であり、さらに好ましくは無機アンモニウム塩である。
【0108】
無機系凝集剤のカチオンの価数は、過剰な凝集を防ぎつつ、所望の粒径のトナーを得る観点から、好ましくは5価以下、より好ましくは2価以下、さらに好ましくは1価である。
無機系凝集剤の1価のカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられ、これらの中ではアンモニウムイオンが好ましい。
【0109】
無機金属塩としては、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の金属塩、及びポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム等の無機金属塩重合体が挙げられる。
無機アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0110】
凝集剤としては、好ましくは硫酸アンモニウムである。
【0111】
凝集剤の使用量は、凝集を制御して所望の粒径を得る観点から、樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、そして、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下である。
【0112】
凝集剤は、混合分散液に滴下して添加することが好ましい。凝集剤は一時に添加してもよいし、断続的又は連続的に添加してもよい。添加時及び添加終了後には、十分な撹拌を行うことが好ましい。
【0113】
凝集剤は、凝集を制御して所望の粒径の凝集粒子を得る観点から、水溶液として滴下することが好ましく、凝集剤の水溶液の濃度は、好ましくは2質量%以上40質量%以下である。
【0114】
また、凝集を制御して所望の粒径及び粒径分布の凝集粒子を得る観点から、凝集剤の水溶液は、pHを7.0以上9.0以下に調整して使用することが好ましい。
【0115】
凝集剤の滴下時間は、凝集を制御して所望の粒径の凝集粒子を得る観点から、好ましくは1分以上120分以下である。
【0116】
凝集工程における凝集剤の滴下時の樹脂粒子の凝集温度は、凝集を制御して所望の粒径の凝集粒子を得る観点から、好ましくは0℃以上40℃以下である。
【0117】
さらに、凝集を促進させ、所望の粒径及び粒径分布の凝集粒子を得る観点から、凝集剤を添加した後に分散液の温度を上げることが好ましい。保持する温度としては、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは65℃以下である。
【0118】
得られる凝集粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは7μm以下である。
【0119】
融着工程は、凝集工程で得られた凝集粒子を融着させて、トナー粒子を得る工程である。凝集粒子中の、主として物理的にお互いに付着している状態であった各粒子が融着されて一体となり、トナー粒子(融着粒子)が形成される。
【0120】
融着工程においては、凝集粒子の融着性を向上させる観点、トナーの高速印刷時の低温定着性及び耐久性を高める観点から、非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度以上の温度で保持することが好ましい。
【0121】
保持温度は、凝集粒子の融着性を向上させる観点、及びトナーの生産性を向上させる観点から、非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度より、好ましくは2℃高い温度以上、より好ましくは4℃高い温度以上、さらに好ましくは6℃高い温度以上であり、そして非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度より、好ましくは30℃高い温度以下、より好ましくは25℃高い温度以下である。
融着粒子を上記温度で所望の円形度に達するまで保持することで、トナー粒子の円形度を制御することができる。
【0122】
融着工程で得られる分散液中のトナー粒子の体積中位粒径(D50)は、トナーの低温定着性及び耐久性を向上させる観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは7μm以下である。
【0123】
融着工程で得られる分散液中のトナー粒子の円形度は、トナーの低温定着性及び耐久性を向上させる観点から、好ましくは0.955以上、より好ましくは0.960以上、さらに好ましくは0.965以上であり、そして、好ましくは0.990以下、より好ましくは0.985以下、さらに好ましくは0.980以下である。
【0124】
融着工程により得られたトナー粒子は、適宜後処理工程を行って、単離することが好ましい。
例えば、融着工程で得られた分散液中のトナー粒子は、水系媒体中に存在するため、まず、固液分離を行うことが好ましい。固液分離には、吸引濾過法等が好ましく用いられる。
固液分離後に洗浄を行うことが好ましい。このとき、添加した界面活性剤も除去することが好ましいため、界面活性剤の曇点以下で水系媒体により洗浄することが好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
【0125】
次に、乾燥を行うことが好ましい。乾燥時の温度は、トナー粒子自体の温度が、非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度より低くなるようにすることが好ましい。乾燥方法としては、真空低温乾燥法、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等を用いることが好ましい。乾燥後の水分含量は、トナーの帯電特性を向上させる観点から、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下に調整する。
【0126】
本発明においては、融着工程により得られたトナー粒子を、さらに外添剤と混合する工程(外添工程)を行うことが好ましい。
【0127】
外添工程に用いる外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0128】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、環状シラザン、シリコーンオイル、アミノシラン、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0129】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0130】
トナー粒子と外添剤との混合は、常法に従って行うことができ、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いることができる。
【0131】
外添剤の使用量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、トナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0132】
本発明の方法により得られた静電荷像現像用トナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例0133】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定することができる。
【0134】
〔PETのIV値〕
フェノール/テトラクロロエタンが60/40(質量比)の混合溶媒に、4g/Lの濃度にて溶解し、ウベローデ型粘度計にて測定を行い、下記式から算出する。
IV=(-1+√(1+4kη))/(2kC)
〔式中、k=0.33、C=0.004g/mLであり、η=(t1/t0)-1(t0:溶媒のみの落下秒数、t1:試料溶液の落下秒数)である。〕
【0135】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0136】
〔樹脂の吸熱の最大ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とする。結晶性樹脂においては、吸熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0137】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(20℃)から昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に、試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0138】
〔樹脂の酸価〕
JIS K 0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、非晶性樹脂はアセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に、結晶性樹脂はクロロホルムとジメチルホルムアミドの混合溶媒(クロロホルム:ジメチルホルムアミド=7:3(容量比))に、それぞれ変更する。
【0139】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温した後、200℃から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次いで、試料を昇温速度10℃/minで昇温し、熱量を測定し、吸熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0140】
〔樹脂粒子分散液、着色剤粒子分散液、及び離型剤粒子分散液の固形分濃度〕
赤外線水分計「FD-230」((株)ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分、変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、分散液の水分(質量%)を測定する。固形分濃度は次の式に従って算出する。
固形分濃度(質量%)=100-水分(質量%)
【0141】
〔樹脂粒子、着色剤粒子、及び離型剤粒子の体積中位粒径及びCV値〕
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機「LA-920」((株)堀場製作所製)
(2)測定条件:測定用セルに試料分散液をとり、蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる温度で体積中位粒径(D50)及び体積平均粒径を測定する。また、CV値は次の式に従って算出する。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積平均粒径)×100
【0142】
〔凝集粒子の体積中位粒径〕
・測定機:「コールターマルチサイザー(登録商標)III」(ベックマン・コールター(株)製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:「マルチサイザー(登録商標)III バージョン3.51」(ベックマン・コールター(株)製)
・電解液:「アイソトン(登録商標)II」(ベックマン・コールター(株)製)
・測定条件:試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒径分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0143】
〔トナー粒子(融着粒子)の円形度〕
下記の条件で、トナー粒子の円形度を測定する。
・測定装置:フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(シスメックス(株)製)
・分散液の調製:トナー粒子の分散液を固形分濃度が0.001~0.05質量%になるように脱イオン水で希釈して調製する。
・測定モード:HPF測定モード
【0144】
〔トナー粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値〕
・測定機:「コールターマルチサイザー(登録商標)III」(ベックマン・コールター(株)製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:「マルチサイザー(登録商標)III バージョン3.51」(ベックマン・コールター(株)製)
・電解液:「アイソトン(登録商標)II」(ベックマン・コールター(株)製)
・分散液:電解液に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン(登録商標)109P」〔花王(株)製、HLB(グリフィン)=13.6〕を溶解して5質量%に調整したもの
・分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒径分布から体積中位粒径(D50)を求める。また、CV値は次の式に従って算出する。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積平均粒径)×100
【0145】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0146】
樹脂製造例1
表1、2に示す、アルコール成分、カルボン酸成分、PET、エステル化触媒、及び助触媒を、窒素導入管、撹拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保持した後に180℃から235℃まで10℃/hで昇温し、さらに、235℃で5時間重縮合させた。その後、210℃まで降温し10kPaの減圧下にて表1、2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶性ポリエステル樹脂(樹脂A1~A6、A11、A12)を得た。物性を表1、2に示す。
【0147】
樹脂製造例2
表1、2に示す、アルコール成分、カルボン酸成分、PET、エステル化触媒、及び助触媒を、窒素導入管、撹拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃まで昇温した後、235℃で6時間重縮合させた。その後、210℃まで降温し、10kPaの減圧下にて表1、2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶性ポリエステル樹脂(樹脂A7、A10、A13)を得た。物性を表1、2に示す。
【0148】
樹脂製造例3
表1に示す、アルコール成分、カルボン酸成分、エステル化触媒、及び助触媒を、窒素導入管、98℃の熱水を通した分留管を装着した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保持した後に180℃から235℃まで10℃/hで昇温し、その後、235℃で5時間重縮合させた。その後、210℃まで降温し、210℃で10kPaの減圧下にて表1に記載の軟化点まで反応を行って、非晶性ポリエステル樹脂(樹脂A8、A9)を得た。物性を表1に示す。
【0149】
【0150】
【0151】
樹脂製造例4
表3に示す、アルコール成分及びカルボン酸成分を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後、表3に示すエステル化触媒を添加し、8.0kPaにて表3に示す軟化点に達するまで反応を行い、結晶性ポリエステル樹脂(樹脂C1~C5、樹脂C7~C9)を得た。物性を表3に示す。
【0152】
樹脂製造例5
表3に示す、アルコール成分、カルボン酸成分、及び重合禁止剤を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後、表3に示すエステル化触媒を添加し、8.0kPaにて表3に示す軟化点に達するまで反応を行い、結晶性ポリエステル樹脂(樹脂C6)を得た。物性を表3に示す。
【0153】
【0154】
実施例1
〔樹脂分散液の調製〕
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた3リットル容の容器に、樹脂A1 160g、樹脂C1 40g、及びメチルエチルケトン200gを入れ、73℃にて2時間かけて溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を、樹脂の酸価に対して中和度60モル%になるように添加して、30分撹拌した。
次いで、73℃に保持したまま、200r/minで撹拌しながら、脱イオン水700gを50分かけて添加し、転相乳化した。得られた溶液を、73℃に保持したまま、メチルエチルケトンを減圧下で留去し分散液を得た。その後、撹拌を継続しながら分散液を30℃に冷却した後、固形分濃度が20質量%になるように脱イオン水を加えることにより、樹脂分散液(樹脂分散液X1)を得た。
【0155】
<着色剤分散液の調製>
1リットル容のビーカーに、着色剤「ECB-301」(大日精化工業(株)製、フタロシアニンブルー(P.B.15:3))116.2g、アニオン性界面活性剤「ネオペレックス(登録商標)G-15」(花王(株)製、15質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液)154.9g及び脱イオン水260gを混合し、ホモジナイザーを用いて室温下で3時間分散させた後、固形分濃度が20質量%になるように脱イオン水を加えることにより、着色剤分散液を得た。得られた分散液中の着色剤粒子の体積中位粒径(D50)は118nm、CV値は27%であった。
【0156】
<離型剤分散液の調製>
離型剤(日本精蝋(株)製、商品名:FNP0090、フィッシャートロプシュワックス、融点:90℃)50g、カチオン性界面活性剤(花王(株)製、商品名:サニゾールB50)5g及び脱イオン水200gを95℃に加熱して、ホモジナイザーを用いて、離型剤を分散させた後、圧力吐出型ホモジナイザーで分散処理し、脱イオン水を加えて固形分濃度20質量%の離型剤分散液を得た。得られた分散液中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は550nm、CV値は26%であった。
【0157】
<凝集工程>
脱水管、撹拌装置及び熱電対を装備した3リットル容の4つ口フラスコに、樹脂分散液X1 500g、着色剤分散液54g、離型剤分散液35g、及び15質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液「ネオペレックスG-15」(花王(株)製、アニオン性界面活性剤)3.3gを入れ、温度25℃で混合した。次に、得られた混合物を撹拌しながら、硫酸アンモニウム43gを脱イオン水980gに溶解した水溶液に4.8質量%水酸化カリウム水溶液を添加してpH8.2に調整した溶液を、25℃で10分かけて滴下した後、58℃まで2時間かけて昇温し、凝集粒子の体積中位粒径(D50)が6.2μmになるまで、58℃で保持し、凝集粒子の分散液を得た。
【0158】
<融着工程>
得られた凝集粒子の分散液に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム「エマールE-27C」(花王(株)製、アニオン性界面活性剤、有効濃度27質量%)22g、及び脱イオン水1100gを添加した。その後、75℃まで1時間かけて昇温し、円形度が0.970になるまで75℃で保持することにより、凝集粒子が融着した融着粒子の分散液を得た。
【0159】
得られた融着粒子の分散液を30℃に冷却し、分散液を吸引濾過して固形分を分離した後、25℃の脱イオン水で洗浄し、25℃で2時間吸引濾過した。その後、真空定温乾燥機「DRV622DA」(ADVANTEC製)を用いて、33℃で24時間真空乾燥を行って、トナー粒子を得た。トナー粒子の物性値を表5に示す。
【0160】
<外添工程>
トナー粒子100質量部、疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル(株)製、平均粒子径:40nm、疎水化処理剤:シリコーンオイル)2.5質量部、及び疎水性シリカ「キャボシル(登録商標)TS720」(キャボットコーポレーション製、平均粒子径:12nm、疎水化処理剤:シリコーンオイル)1.0質量部をヘンシェルミキサーに入れて撹拌し、150メッシュの篩を通過させて、トナーを得た。
【0161】
実施例2~7、10~15、17~20及び比較例1~4
結着樹脂として、表4に示す非晶性ポリエステル樹脂160g及び結晶性ポリエステル樹脂40gを使用して、樹脂分散液(樹脂分散液X2~X7、X10~X19、X22~X25)を得た以外は、実施例1と同様にして、外添工程まで行い、トナーを得た。
【0162】
実施例8
樹脂A1の使用量を180gに、樹脂C1の使用量を20gに、それぞれ変更して、樹脂分散液(樹脂分散液X8)を得た以外は、実施例1と同様にして、外添工程まで行い、トナーを得た。
【0163】
実施例9
樹脂A1の使用量を140gに、樹脂C1の使用量を60gに、それぞれ変更して、樹脂分散液(樹脂分散液X9)を得た以外は、実施例1と同様にして、外添工程まで行い、トナーを得た。
【0164】
実施例16
〔樹脂分散液の調製〕
(1) 撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた3リットル容の容器に、樹脂A1 200g及びメチルエチルケトン200gを入れ、73℃にて2時間かけて溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を、樹脂の酸価に対して中和度60モル%になるように添加して、30分撹拌した。
次いで、73℃に保持したまま、200r/minで撹拌しながら、脱イオン水700gを50分かけて添加し、転相乳化した。得られた溶液を、73℃に保持したまま、メチルエチルケトンを減圧下で留去し分散液を得た。その後、撹拌を継続しながら分散液を30℃に冷却した後、固形分濃度が20質量%になるように脱イオン水を加えることにより、樹脂分散液(樹脂分散液X20)を得た。
【0165】
(2) 撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた3リットル容の容器に、樹脂C1 200g及びメチルエチルケトン200gを入れ、73℃にて2時間かけて溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を、樹脂の酸価に対して中和度60モル%になるように添加して、30分撹拌した。
次いで、73℃に保持したまま、200r/minで撹拌しながら、脱イオン水700gを50分かけて添加し、転相乳化した。得られた溶液を、73℃に保持したまま、メチルエチルケトンを減圧下で留去し分散液を得た。その後、撹拌を継続しながら分散液を30℃に冷却した後、固形分濃度が20質量%になるように脱イオン水を加えることにより、樹脂分散液(樹脂分散液X21)を得た。
【0166】
凝集工程において、樹脂分散液X1の代わりに、樹脂分散液X20 400g及び樹脂分散液X21 100gを使用した以外は、実施例1と同様にして、外添工程まで行い、トナーを得た。
【0167】
樹脂分散液X1~X25について、樹脂の組成と樹脂粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値を表4に示す。
【0168】
【0169】
試験例1〔高速下での低温定着性〕
上質紙「J紙A4サイズ」(富士フイルムビジネスイノベーション(株)製)に市販のプリンタ「Microline(登録商標)5400」(沖電気工業(株)製)を用いて、トナーの紙上の付着量が0.60±0.01mg/cm2となるベタ画像をA4紙の上端から5mmの余白部分を残し、50mmの長さで定着させずに出力した。
次に、定着器を温度可変に改造した同プリンタを用意し、定着器の温度を100℃にし、A4縦方向に1枚あたり0.8秒の速度でトナーを定着させ、印刷物を得た。
同様の方法で定着器の温度を5℃ずつ上げて、トナーを定着させ、印刷物を得た。
印刷物の画像上の上端の余白部分からベタ画像にかけて、メンディングテープ「Scotch(登録商標)メンディングテープ810」(スリーエムジャパン(株)製、幅18mm)を長さ50mmに切ったものを軽く貼り付けた後、500gのおもり(接触面積1963mm2)を載せ、速さ10mm/sで1往復押し当てた。その後、貼付したテープを下端側から剥離角度180°、速さ10mm/sで印刷物から剥がした。テープ貼付前及び剥離後の印刷物の下に上質紙「エクセレントホワイト紙A4サイズ」(沖電気工業(株)製)を30枚敷き、各印刷物のテープ貼付前及び剥離後の定着画像部分の反射画像濃度を、測色計「SpectroEye」(GretagMacbeth社製、光射条件;標準光源D50、観察視野2°、濃度基準DINNB、絶対白基準)を用いて測定し、各反射画像濃度から次の式に従って定着率を算出した。
定着率(%)=(テープ剥離後の反射画像濃度/テープ貼付前の反射画像濃度)×100
定着率が90%以上となるもっとも低い温度を最低定着温度として、低温定着性を評価した。結果を表5に示す。最低定着温度が低いほど低温定着性に優れることを表す。
【0170】
試験例2〔通常速度での低温定着性〕
定着速度を、A4縦方向に1枚あたり2.0秒に変更した以外は、試験例1と同様にして、通常速度での低温定着性を評価した。結果を表5に示す。
【0171】
試験例3〔トナーの耐久性〕
印刷機「ページプレスト N-4」(カシオ計算機(株)製、定着:接触定着方式、現像:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、温度32℃、湿度85%の環境下にて黒化率5.5%の斜めストライプのパターンを連続して印刷した。途中、500枚ごとに黒ベタ画像を印字し、画像上のスジの有無を確認した。印刷は、画像上にスジが発生した時点で中止し、最高9000枚まで行った。画像上にスジが目視にて観察された時点までの印字枚数を、現像ロールにトナーが融着・固着したことによりスジが発生した枚数とし、耐久性を評価した。結果を表5に示す。表中、「>9000」は9000枚目もスジが発生しないことを意味する。なお、スジが発生しない枚数が多いほど、トナーの耐久性が高いことを示す。
【0172】
【0173】
以上の結果より、実施例1~20のトナーは、いずれも高速印刷時の低温定着性と耐久性に優れることが明らかである。
これに対し、PETを用いていない非晶性ポリエステル樹脂を用いた比較例1及びPETのモノマー成分であるエチレングリコールを直接用いた非晶性ポリエステル樹脂を用いた比較例2のトナーは、耐久性が不十分である。また、エステル基濃度が低すぎる結晶性ポリエステル樹脂を用いた比較例3のトナーは、通常速度での低温定着性は良好であっても、高速印刷時の低温定着性は不十分であり、実施例1~20のトナーが、高速印刷にも耐え得る優れた低温定着性を有するものであることが分かる。エステル基濃度が高すぎる結晶性ポリエステル樹脂を用いた比較例4のトナーは、耐久性に欠ける。