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特開2025-22884アルデヒド混合物のバイオテクノロジー的製造のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022884
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】アルデヒド混合物のバイオテクノロジー的製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/24 20060101AFI20250206BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20250206BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20250206BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20250206BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250206BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20250206BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C12P7/24
C12P7/40 ZNA
C12N9/02
C12N9/14
C12N15/63 Z
C12N15/53
C12N15/55
C12P7/40
C12P7/24 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024187592
(22)【出願日】2024-10-24
(62)【分割の表示】P 2022554676の分割
【原出願日】2020-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】521397201
【氏名又は名称】シムライズ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】トルステン・ガイスラー
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ・ペーター・ライ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・バッケス
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ハルムス
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ボルンショイアー
(72)【発明者】
【氏名】キャスリーン・バルケ
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・ゾルン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・アレクサンダー・フラーツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ハンマー
(57)【要約】
【課題】本発明は、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを用いる、飽和ならびに不飽和アルデヒドとそれらの混合物との製造のためのバイオテクノロジー的方法に関する。
【解決手段】本方法は、発酵法によるかまたは酵素法によるかのいずれかで実行されることがある。さらに、本発明は、ベクターシステム、ならびに本発明によるアルデヒドおよび混合物を製造するために用いることができる酵素をコードする配列および組み換え型の微生物に関する。さらに、本発明は、本発明による方法によって得られる組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸を製造するためのバイオテクノロジー的方法であって、
少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを提供すること、
前記少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼと前記少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを、出発原料としての少なくとも1種類のカルボン酸あるいはアルコールでエステル化されたカルボン酸と同時に反応させること、および
少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸を前記反応によって得ること
を含み、
前記少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼは、アミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、配列番号8、11、37、38、39、40、41、43、44、45、46、47、48、50、51、52、53、54、55または56からなる群、あるいはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列から選ばれ、
前記少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼは、アミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列は、配列番号9、10、12、13、14、59または60からなる群、あるいはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列から選ばれる、
方法。
【請求項2】
前記バイオテクノロジー的方法は、
i.α-ジオキシゲナーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子および/またはアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメントを収容する少なくとも1種類の組み換え型の微生物または真菌を提供するステップ;
ii.前記少なくとも1種類の組み換え型の微生物を前記対応する発現生成物の発現を可能にする条件において培養するステップ;
iii.前記少なくとも1種類の培養された組み換え型の微生物に少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールでエステル化された少なくとも1種類のカルボン酸を加えるステップ;
iv.前記少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび前記少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼをステップiiiの少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールでエステル化されたカルボン酸と同時に反応させることによって、少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸を得るステップ、
を含む発酵的方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオテクノロジー的製造方法は、
i.少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを提供するステップであって、前記少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび/または前記少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼは、天然に、化学的にまたはバイオテクノロジー的に製造され得るステップ;
ii.ステップiの提供された酵素に少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールでエステル化された少なくとも1種類のカルボン酸を加えるステップ;
iii.前記少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび前記少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼをステップiiの前記少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールでエステル化された前記カルボン酸と同時に反応させることによって、少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸を得るステップ、
を含む酵素的方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記出発原料の少なくとも1つは、バイオテクノロジー起源、天然起源または化学起源、あるいはそれらの組み合わせである、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記出発原料は、パルミトオレイン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、オレイン酸、プニカ酸、α-エレオステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ペトロセリン酸、ショールムーグリン酸、α-リカリン酸、オリーブ油、ナタネ油、マカダミアナッツ油、シーバックソーン果実油、桐油、魚油、ルリヂサ油、大風子油、オランダセリ油、オイチシカ油、ザクロ種子油、ヤシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、およびコニディオボルス属(Conidiobolus)、エノキタケ属(Flammulina)、ツリガネタケ属(Fomes)、マンネンタケ属(Ganoderma)、モルティエラ属(Mortierella)、ワサビタケ属(Panellus)、ヒラタケ属(Pleurotus)、ナヨタケ属(Psathyrella)、キウロコタケ属(Stereum)、およびウンベロプシス属(Umbelopsis)から選ばれた属の何れかから得られる菌の油からなる群から選ばれる、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法の生成物は、7Z,10Z-ヘキサデカジエナール、8Z,11Z-ヘプタデカジエナール、6E,9E-ペンタデカジエナール、7Z-ヘキサデセナール、8Z-ペンタデセナール、8Z,11Z,14Z-ヘプタデカトリエナール、7Z,10Z,13Z-ヘキサデカトリエナール、4Z,7Z,10Z,13Z-ノナデカテトラエナール、8Z,10E,12E-ヘプタデカトリエナール、8Z,10E,12Z-ヘプタデカトリエナール、7Z,9E,11Z-ヘキサデカトリエナール、7Z,9E,11E-ヘキサデカトリエナール、9-デセナール、10-ウンデセナール、3Z-デセナール、4Z-ウンデセナール、7Z-ドデセナール、8Z-トリデセナール、7Z-テトラデセナール、8Z-ペンタデセナール、9Z-テトラデセナール、10Z-ペンタデセナール、7Z-ペンタデセナール、8Z-ヘキサデセナール、9Z-ヘキサデセナール、10Z-ヘプタデセナール、5Z,8Z-テトラデカジエナール、6Z,9Z-ペンタデカジエナール、7Z,10Z-テトラデカジエナール、8Z,11Z-ペンタデカジエナール、7Z,9E-ヘキサデカジエナール、8Z,10E-ヘプタデカジエナール、8E,10Z-ヘキサデカジエナール、9E,11Z-ヘプタデカジエナール、9-メチルウンデカナール、10-メチルウンデカナール、10-メチルドデカナール、11-メチルドデカナール、11-メチルトリデカナール、12-メチルトリデカナール、12-メチルテトラデカナール、13-メチルテトラデカナールおよび13-メチルペンタデカナールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸である、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種類の組み換え型の微生物は、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス属種(Bacillus spp.)、サッカロミセス属種(Saccharomyces spp.)、ハンゼヌラ(Hansenula)またはコマガテラ属種(Komagatella spp.)、クルイベロミセス属種(Kluyveromyces spp.)からなる群から選ばれる、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
追加として少なくとも1種類のNADHオキシダーゼおよび/または少なくとも1種類のリパーゼが提供される、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種類のNADHオキシダーゼは、アミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号62および64、またはそれに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列からなる群から選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種類のリパーゼは、カンディダ・アンタルクティカ(Candida antarctica)、クロカビ(Aspergillus niger)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、ペニシリウム・カメンベルティイ(Penicillium camembertii)、ムコル・ジュバニクス(Mucor juvanicus)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、豚すい臓、カンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa)、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、カンディダ・アンタルクティカ(Candida antarcticaまたはリゾプス・デレマール(Rhizopus delemar)からなる群から選ばれた市販リパーゼである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
α-ジオキシゲナーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメント(a)およびアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメント(b)を含み;前記核酸セグメント(a)および/または(b)の一部としてNADHオキシダーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメントおよび/またはリパーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメントを含むか又は含まず、前記核酸セグメント(a)および/または前記核酸セグメント(b)は、同じベクター上あるいは2種類以上の別々のベクター上に提供される、少なくとも1種類のベクターまたはプラスミドベクターからなるベクターシステムであって、
前記ベクターシステムは、少なくとも1種類のポリペプチドの発現をコードし、前記ポリペプチドは、配列番号8、9、10、11、12、13、14、37、38、39、40、41、43、44、45、46、47、48、50、51、52、53、54、55、56、59または60からなる群、あるいはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列から選ばれる、ベクターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを用いる、飽和および不飽和アルデヒドならびにそれらの混合物の製造のためのバイオテクノロジー的方法に関する。この方法は、発酵法または酵素法のいずれによっても実行されることがある。さらに、本発明は、ベクターシステム、ならびに本発明によるアルデヒドおよび混合物を製造するために用いることができる酵素をコードする配列および組み換え型の微生物に関する。さらに、本発明は、本発明による方法によって得られる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーバーの工業生産の分野において、フレーバーを合成する効率的かつコスト効果の高い方法が常に求められている。そのようなフレーバーの例は、(不)飽和アルデヒドである。アルデヒドの例は、8Z-テトラデセナールまたは1-デセナールである。この種類の物質は、主に肉調製品および柑橘類油中に見いだされる。しかし、現在、これらのアルデヒドおよび対応する酸の製造のための一般に適用可能なバイオテクノロジー的なプロセスは、記載されたことがない。
【0003】
先行技術から不飽和アルデヒドの調製のためのプロセスが公知である。例えば、不飽和アルコールの化学酸化によって8Z,11Z-ヘプタデカジエナールを得ることができる(特許文献1)。また、特許文献2に記載されているようにさまざまな植物酵素を用いるα酸化によって、公知の方法で脂肪酸からアルデヒドを製造することができる。不飽和アルデヒドを製造する藻類バイオマスの使用も公知である(非特許文献1)。さらに、4,7,10,13,16-ノナデカペンタエナールまたは3,6,9,12,15,18-ヘンイコサヘキサエナールの調製のためのプロセスが公知である(ハロポリエンおよびそれらの中間体の調製、特許文献3)。
【0004】
さらに、アルデヒドを酸に酸化するためにアルデヒドデヒドロゲナーゼを用いる多数のプロセスが公知である(非特許文献2;非特許文献3)。
【0005】
しかし、上述の化学的な方法ならびに非常に特殊な酵素だけに基づく方法には、包括的な範囲のアルデヒドまたはその混合物に適用できないという不利がある。さらに、これらの方法のいくつかは、化学試薬ならびに触媒との反応に基づいており、そのため、そのような方法は非特許文献4の意味での天然プロセスとはみなされない。α-ジオキシゲナーゼをアルデヒドデヒドロゲナーゼと特異的に組み合わせ、製造の範囲を特異的に拡大する組み合わせ方法は知られていない。所望の触媒反応が順番にかつ基質特異性および選択性に関して特異的に進むことになる、2種類以上の酵素を有する組み換え型の反応システムにおいては、用いられる酵素を、例えば全細胞触媒反応の場合に産生生物の内在酵素によって邪魔されないように精密に整合させることが必要である。従って、反応制御は、中間体もカスケード中の第2のまたはそれぞれの次段の酵素によって認識され、後者に利用可能であることを確実にするために決定的に重要である。そのような調整または組み合わせは、常に技術的に困難であり、直截的に予測することができず、それぞれのバイオテクノロジー的状況において対象となる酵素について集中的な分析を必要とする。
【0006】
キュウリ(非特許文献5)または緑藻アナアオサ(Ulva pertusa)(非特許文献6)の圧搾汁中に8Z-ヘプタデセナール、8Z,11Z-ヘプタデカジエナールまたは8Z,11Z,14Z-ヘプタデカトリエナールのような1つ以上の二重結合を有するいくつかの不飽和アルデヒドが天然に存在することが報告されている。アルデヒド8Z-ヘプタデセナール、8Z,11Z-ヘプタデカジエナール、8Z,11Z,14Z-ヘプタデカトリエナールの含有量は2%、19.9%および26.1%と文献に報告されている。
【0007】
8Z,11Z-ヘプタデカジエナールの匂いは、藻類に典型的であると記載されている(非特許文献6)。
【0008】
対照的に、4Z,7Z,10Z,13Z-ノナデカテトラエナール、4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ノナデカペンタエナールまたは3,6,9,12,15,18-ヘネイコサヘキサエン酸の味感は記載されていない。
【0009】
8Z-ペンタデセナールがキュウリの天然構成成分であることが知られている(非特許文献7)。8Z-ペンタデセナールのフレーバーは、第一義的に油っぽいと記載され、チキンおよび焼かれた牛肉に対するフレーバー強化特性も記載されている。さらに、1-ノニンおよび6-ブロモ-1-ヘキサノールからの製造のための方法も知られている(特許文献4)が、これは非特許文献4に従う天然製造プロセスとして分類することができない。
【0010】
4Z,7Z,10Z,13Z-ノナデカテトラエナールの味感は知られておらず、これまで製造方法が存在しなかった。
【0011】
特許文献2に記載されているように、植物酵素を用いるα-酸化によって脂肪酸からさまざまなアルデヒドを製造することができる。不飽和アルデヒドの製造のための緑藻バイオマスの使用も公知である。
【0012】
酵素的開裂による対応する油または油脂からの脂肪酸の製造のためのその他のプロセスも先行技術から公知である。これを目的として、主にクロカビ(Aspergillus niger)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、ペニシリウム・カメンベルティイ(Penicillium camembertii)、ムコル・ジュバニクス(Mucor juvanicus)、ペニシリウム・ロックフォルティイ(Penicillium roquefortii)、豚すい臓、カンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa)、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、カンディダ・アンタルクティカ(Candida antarctica)またはリゾプス・デレマール(Rhizops delemar)由来の酵素が用いられる(非特許文献8)。
【0013】
従って、非特許文献4に従って天然の製造プロセスとして分類することができる、アルデヒドまたはアルデヒド混合物の製造のための方法を提供することが本発明の目的であった。さらに、対象となる生成物を中間の化学的ステップなしで高い収率および純度で提供することができる、酵素的代謝ステップの選択的な調整によって一体化されたバイオテクノロジープロセスを提供することが目的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63-233914号
【特許文献2】国際公開第2012025629(A1)号
【特許文献3】特開平05-000974(A)号
【特許文献4】特開2014-043409号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「海洋緑藻アナアオサ(Ulva pertusa)の精油の成分(8Z,11Z,14Z)-8,11,14-ヘプタデカトリエナール、(7Z,10Z,3Z)-7,10,13-ヘキサデカトリエナールおよび(8Z,11Z)-8,11-ヘプタデカジエナールの簡明な合成」、バイオサイエンス、バイオテクノロジーおよびバイオケミストリー(Biosci Biotechnol Biochem)、69巻7号:1348~52頁(2005年7月))
【非特許文献2】石毛たけるら、アプライド・アンド・エンバイアロンメンタル・マイクロバイオロジー(Appl.Environ.Microbiol.)、66巻3481~3486頁(2000年)
【非特許文献3】加藤智久ら、エクストリーモファイルズ(Extremophiles)、14巻33頁(2010年)
【非特許文献4】欧州議会・理事会規則(EC)第1334/2008号
【非特許文献5】塩揉みによるキュウリ(Cucumis sativus L.)のキュウリおよびニガウリ(Momordica charantia L.)からのアロマ生成、日本家政学会誌60巻(2009年)10号877~885頁
【非特許文献6】アナバアオサ(アオサ目、緑藻植物)のプロトプラストからの再生によるバイオフレーバーの産生、ハイドロバイオロジア(Hydrobiologia)、204巻143~149頁(1990年)
【非特許文献7】ケンプ(Kemp、A)著、キュウリ(Cucumis sativus)由来のC15アルデヒド、フィトケミストリー(Phytochemistry)、16巻11号1831~1832頁(1977年)
【非特許文献8】微生物リパーゼの工業的利用(Industrial applications of microbial lipases)、エンザイム・アンド・マイクロバイアル・テクノロジー(Enzyme and Microbial Technology)、39巻2号235~251頁(2006年6月26日)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
よって、第1の側面によれば、本発明は、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを用いて飽和および不飽和アルデヒドを製造するための方法を提供することに関する。
【0017】
さらに、一実施形態によれば、本発明は、飽和および不飽和アルデヒドならびにそれらの混合物の製造のための発酵的方法に関する。本発明による方法の別の実施形態において、酵素的方法が提供される。
【0018】
さらなる実施形態において、本発明による方法は、バイオテクノロジー起源、天然起源または化学起源のいずれかである反応体(遊離体)の使用に関する。
【0019】
さらに別の実施形態において、本発明による方法は、カルボン酸とアルコールでエステル化されたカルボン酸との群から選ばれた好ましい反応体に関する。
【0020】
さらに、本発明による方法は、好ましい生成物混合物、本方法において用いられる微生物ならびに好ましく用いられる酵素のアミノ酸配列および用いられる酵素の配列を指定するヌクレオチド配列または核酸セグメントに関する。
【0021】
本発明の別の側面は、本発明に従って用いられる酵素をコードするベクターシステムの提供に関する。
【0022】
本発明の別の側面は、本発明による方法によって得られる組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】α-ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子を有するプラスミドpET28a_OSaDOX。
図2】アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を有するプラスミドpET-Duet_VhFALDH。
図3】アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびNADHオキシダーゼをコードする遺伝子を有するプラスミドpET-Duet_LsNOX_VhFALDH。
図4】オレイン酸とリノール酸との混合物から8,11-ヘプタデカジエナールと7,10-ヘキサデカジエナールとを含有するアルデヒド混合物へのバイオ触媒変換。
図5】α-ジオキシゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびNADHオキシダーゼによるオレイン酸とリノール酸との混合物から対応するアルデヒド混合物へのバイオ触媒変換の1時間までの時間経過。
図6】NADHオキシダーゼがないα-ジオキシゲナーゼおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼによるオレイン酸とリノール酸との混合物から対応するアルデヒド混合物へのバイオ触媒変換の24時間までの時間経過。
図7】α-ジオキシゲナーゼおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼとNADHオキシダーゼとによるオレイン酸とリノール酸との混合物から対応するアルデヒド混合物へのバイオ触媒変換の24時間までの時間経過の増大。
【発明を実施するための形態】
【0024】
配列の簡単な説明
配列番号1:イネ(Oryza sativa)由来の酵素Os-α-DOXをコードする核酸配列。
配列番号2:ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)由来の酵素VhFALDHをコードする核酸配列。
配列番号3:ビブリオ・ハーベイ由来の酵素VhFALDHの175Q変異体をコードする核酸配列。
配列番号4:ラクトバチルス・サンフランシスセニス(Lactobacillus sanfranciscenis)由来の酵素LsNOXをコードする核酸配列。
配列番号5:ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)UPV-1由来の酵素ReALDHをコードする核酸配列。
配列番号6:ゲオバチルス・テルモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)由来の酵素GtALDHをコードする核酸配列。
配列番号7:マリノバクター・アクアエオレイ(Marinobacter aquaeolei)VT8由来のアルデヒドデヒドロゲナーゼである酵素Maqu3410をコードする核酸配列。
配列番号8:イネ由来の酵素Os-α-DOXをコードするアムノ酸配列。
配列番号9:ビブリオ・ハーベイ由来の酵素VhFALDHをコードするアミノ酸配列。
配列番号10:ビブリオ・ハーベイ由来の酵素VhFALDHの175Q変異体をコードするアミノ酸配列。
配列番号11:ラクトバチルス・サンフランシスセニス由来の酵素LsNOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号12:ロドコッカス・エリスロポリスUPV-1由来の酵素ReALDHをコードするアミノ酸配列。
配列番号13:ゲオバチルス・テルモデニトリフィカンス由来の酵素GtALDHをコードするアミノ酸配列。
配列番号14:マリノバクター・アクアエオレイVT8由来のアルデヒドデヒドロゲナーゼである酵素Maqu3410をコードするアミノ酸配列。
配列番号15:フォワードプライマーをコードする核酸配列。
配列番号16:リバースプライマーをコードする核酸配列。
配列番号17:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来の酵素At-α-DOX2をコードする核酸配列。
配列番号18:シロイヌナズナ由来の酵素At-α-DOXをコードする核酸配列。
配列番号19:トウガラシ(Capsicum annuum)由来の酵素CaaDOXをコードする核酸配列。
配列番号20:テンサイ褐斑病菌(Cercospora beticola)由来の酵素CbaDOXをコードする核酸配列。
配列番号21:キュウリ(Cucumis sativus)由来の酵素CsaDOX2をコードする核酸配列。
配列番号22:キュウリ由来の酵素CsaDOXをコードする核酸配列。
配列番号23:キュウリ由来の酵素CsaDOxlike1をコードする核酸配列。
配列番号24:トマト(Solanum lycopersicum)由来の酵素Le-α-DOX1をコードする核酸配列。
配列番号25:トマト由来の酵素Le-α-DOX2をコードする核酸配列。
配列番号26:コヨーテタバコ(Nicotiana attenuata)由来の酵素NaaDOX2をコードする核酸配列。
配列番号27:コヨーテタバコ由来の酵素Na-α-DOXをコードする核酸配列。
配列番号28:コヨーテタバコ由来の酵素Nt-α-DOXをコードする核酸配列。
配列番号29:ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)由来の酵素PpaDOXをコードする核酸配列。
配列番号30:エンドウ(Pisum sativum)由来の酵素Ps-α-DOXをコードする核酸配列。
配列番号31:トマト由来の酵素SlaDOX2をコードする核酸配列。
配列番号32:トマト由来の酵素StaDOX1.1をコードする核酸配列。
配列番号33:トマト由来の酵素StaDOX1.2をコードする核酸配列。
配列番号34:トマト由来の酵素StaDOX1.3をコードする核酸配列。
配列番号35:ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来の酵素StaDOX1をコードする核酸配列。
配列番号36:ジャガイモ由来の酵素StaDOX2をコードする核酸配列。
配列番号37:シロイヌナズナ由来の酵素At-α-DOX2をコードするアミノ酸配列。
配列番号38:シロイヌナズナ由来の酵素At-α-DOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号39:トウガラシ由来の酵素CaaDOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号40:テンサイ褐斑病菌由来の酵素CbaDOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号41:キュウリ由来の酵素CsaDOX2をコードするアミノ酸配列。
配列番号42:キュウリ由来の酵素CsaDOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号43:キュウリ由来の酵素CsaDOxlike1をコードするアミノ酸配列。
配列番号44:トマト由来の酵素Le-α-DOX1をコードするアミノ酸配列。
配列番号45:トマト由来の酵素Le-α-DOX2をコードするアミノ酸配列。
配列番号46:コヨーテタバコ由来の酵素NaaDOX2をコードするアミノ酸配列。
配列番号47:コヨーテタバコ由来の酵素Na-α-DOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号48:コヨーテタバコ由来の酵素Nt-α-DOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号49:ヒメツリガネゴケ由来の酵素PpaDOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号50:エンドウ由来の酵素Ps-α-DOXをコードするアミノ酸配列。
配列番号51:トマト由来の酵素SlaDOX2をコードするアミノ酸配列。
配列番号52:トマト由来の酵素SlaDOX1.1をコードするアミノ酸配列。
配列番号53:トマト由来の酵素SlaDOX1.2をコードするアミノ酸配列。
配列番号54:トマト由来の酵素SlaDOX1.3をコードするアミノ酸配列。
配列番号55:トマト由来の酵素SlaDOX1をコードするアミノ酸配列。
配列番号56:トマト由来の酵素SlaDOX2をコードするアミノ酸配列。
配列番号57:アシネトバクター属菌(Acinetobacter sp.)M1株由来の酵素Ald1をコードする核酸配列。
配列番号58:ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来のアルデヒドデヒドロゲナーゼである酵素HFD4をコードする核酸配列。
配列番号59:アシネトバクター属菌M1株由来の酵素Ald1をコードするアミノ酸配列。
配列番号60:ヤロウィア・リポリティカ由来のアルデヒドデヒドロゲナーゼである酵素HFD4をコードするアミノ酸配列。
配列番号61:ラクトバチルス・サンフランシスセニス由来のNAD(P)Hオキシダーゼをコードする核酸配列。
配列番号62:ラクトバチルス・サンフランシスセニス由来のNAD(P)Hオキシダーゼをコードするアミノ酸配列。
配列番号63:ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)由来のNADHオキシダーゼをコードする核酸配列。
配列番号64:ラクトバチルス・ブレビス由来のNADHオキシダーゼをコードするアミノ酸配列。
【0025】
定義
本明細書において用いられる用語ベクターシステムは、少なくとも1種類以上のベクターまたはプラスミドベクターからなるか、あるいは、少なくとも1種類以上のベクターまたはプラスミドベクターを含むシステムを意味する。従って、ベクターシステムは、複数の異なる標的遺伝子をコードする(プラスミド)ベクターを含むことがある。ベクターシステムは、本開示によれば、複数の(プラスミド)ベクターをさらに含むことがあり、それらのベクターが今度は少なくとも1種類の標的遺伝子を含む。従って、ベクターシステムは、1種類だけの(プラスミド)ベクターコンストラクトまたは複数の種類の(プラスミド)ベクターコンストラクトを含むことがあり、それらのベクターコンストラクトのうち後者は、個々のコンストラクトによってコードされる標的遺伝子が宿主生物によって転写され翻訳されるように、同時にまたは順次、安定的にまたは一時的に、対応する組み換え宿主生物に変換されることがある。
【0026】
用語アミノ酸、タンパク質およびポリペプチドは、本明細書において区別なく用いられる。本明細書において開示されるアミノ酸、またはそれらアミノ酸の機能部分は、正しい畳み込み後の酵素機能を有する。よって、用語酵素は、本明細書において用語アミノ酸とも区別なく用いられる。
【0027】
本開示が核またはタンパク質配列の配列相同性または配列同一性を百分率で参照するときはいつでも、そのような参照は、核酸配列については、エンボスウォーター(EMBOSS Water)ペアワイズシークエンスアラインメント(Pairwise Sequence Alignments)(ヌクレオチド)(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_water/nucleotide.html)、アミノ酸配列については、エンボスウォーター、ペアワイズシークエンスアラインメント(タンパク質)(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_water/)を用いて計算することができる値をそれぞれ指す。欧州分子生物学研究所(European Molecular Biology Laboratory)(EMBL)欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioninformatics Institute)(EBI)によって提供されるローカルシークエンスアラインメントツールは、スミス-ウォーターマンのアルゴリズムの改変版(a modified Smith-Waterman algorithm)を使用する(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/およびスミス(Smith)、T.F.およびウォーターマン(Waterman)、M.S.著「共通分子部分配列の特定(Identification of common molecular subsequences)」、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)、147巻1号195~197頁(1981年)参照)。さらに、本明細者において、スミス-ウォーターマンアルゴリズムの改変版を用いて2つの配列のそれぞれのペアワイズ配向を実施するときは、EMBL-EBIによって現在与えられている既定値パラメータが参照される。これらは、(i)アミノ酸配列では、マトリックス=BLOSUM62、ギャップオープンペナルティー=10およびギャップエクステンドペナルティー=0.5、(ii)核酸配列では、マトリックス=DNAfull、ギャップオープンペナルティー=10、ギャップエクステンドペナルティー=0.5である。
【0028】
本発明の開示による核酸によってコードされる組み換え型の微生物または真菌あるいはタンパク質または酵素の増殖および培養、単離および精製は、当業者に公知である。
【0029】
用語タンパク質、ポリペプチドおよび酵素は、本明細書において開示される遺伝子産物の一定不変に酵素的な機能を理由として区別なく用いられる。同じく、本開示を目的とする場合、用語遺伝子および核酸(セグメント)は区別なく用いられる。
【0030】
所望の標的タンパク質を発現するために本発明に従って用いられる核酸、ヌクレオチド配列または核酸セグメント(これらの用語は、機能酵素をコードするDNA配列物またはそれらDNA配列物の機能領域と区別なく用いられる)は、任意選択として、コドン最適化されることがある。すなわち、遺伝子のコドン利用形は、発現株として選ばれた組み換え型の微生物または真菌のものに適応している。対象となるタンパク質をコードする所望の標的遺伝子は、種に依存する特定のコドン利用形に対応するために翻訳されるタンパク質配列を変えることなく改変することができることは、当業者に公知である。従って、変換される本発明の核酸は、大腸菌または別の細菌サッカロミセス属種もしくは別の酵母のコドン利用形に特異的に適応させることができる。
【0031】
開示されるカルボン酸は、それらの遊離形で存在するか、またはアルコールにエステル化されるかのいずれかであってよい。アルコールは、例えば脂質の成分として生じる。
【0032】
本明細書において指定される化合物の(Z)/(E)異性体の配置が特定的に示されていない場合、表示は、対応する化合物の可能なすべての配置異性体またはそれらの混合物を含む。なお、本明細書において言及される特定の酵素は、対象となる化合物の両方の異性体を認識および変換することができる。
【0033】
詳細な説明
本発明の課題は、少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸の製造のためのバイオテクノロジー的方法であって、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを提供することを含む方法を提供することによって第一義的に解決される。
【0034】
得られるアルデヒドは、用いられる反応体と比較して常に炭素原子1個短くなる。本発明の状況における飽和アルデヒドは、二重結合のないアルデヒドを指し、一方、不飽和アルデヒドは、二重結合が存在するアルデヒドを指す。この場合の対応するカルボン酸は、得られるアルデヒドと同じ鎖長および同じ飽和度を有する化合物であるが、少なくとも1つのカルボキシル基を有するものである。本発明に従って用いられる少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼは、鎖長C6~C22のカルボン酸のα炭素原子における酸化を触媒し、その結果、カルボン酸に対応し炭素原子1個短くなったアルデヒドが生成する。
【0035】
その基質特異性に起因して、用いられる少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼは、アルデヒドから対応するカルボン酸への酸化を触媒し、さらにα-ジオキシゲナーゼを用いてこのカルボン酸を今度は炭素原子1個短くなったアルデヒドに変換することができる。従って、本発明の方法は、種々の鎖長を有するアルデヒドを有するアルデヒド混合物を選択的に製造するために用いることができる。
【0036】
本発明による方法の一実施形態においては、α-酸化とアルデヒド酸化とを同時に実行することができるが、別の実施形態においては、α-酸化を最初に実行してからアルデヒド酸化を実行し、それによって、両方の実施形態において所望の生成物が得られるまで反応サイクルを続けることができる。
【0037】
本発明による方法の好ましい実施形態において、バイオテクノロジー的製造方法は、
i.α-ジオキシゲナーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子および/またはアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメントが入っている少なくとも1種類の組み換え型の微生物または真菌を提供するステップ;
ii.対応する発現産物の発現を可能にする条件において少なくとも1種類の組み換え型の微生物を培養するステップ;
iii.培養された少なくとも1種類の組み換え型の微生物に少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールでエステル化された少なくとも1種類のカルボン酸を加えるステップ;
iv.少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼをステップiiiの少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールにエステル化されたカルボン酸と反応させることによって、少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸を得るステップ、
を含む発酵的方法のことがある。
【0038】
本発明の状況における発酵的方法とは、少なくとも1つのステップにおいて本発明の生成物を製造するために必要な少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼと少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼとを発現する組み換え型の微生物が培養される、方法を指す。本明細書における発現産物は、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび/または少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼである。それによって、一実施形態によれば、反応体の反応は、反応体が存在する反応混合物中への酵素の分泌によって行わせることができるが、別の実施形態によれば、反応は、少なくとも1種類の微生物の細胞質ゾル中で行わせることができ、それに続いて産物を分泌させることができる。
【0039】
本発明の状況において、提供するとは、反応体、酵素または類似物を利用可能にする能動ステップを含むことを常に意味する。一実施形態によれば、提供するとは、常に技術的ステップ、例えば反応生物のクローン化または反応体の製造のことがある。
【0040】
本発明による方法の別の好ましい実施形態において、バイオテクノロジー的製造方法は、
i.少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼを提供するステップであって、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび/または少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼは、天然に、化学的にまたはバイオテクノロジー的に製造されることがあるステップ;
ii.提供されたステップiの酵素に少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールでエステル化された少なくとも1種類のカルボン酸を加えるステップ;
iii.少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼをステップiiの少なくとも1種類のカルボン酸またはアルコールにエステル化されたカルボン酸と反応させることによって、少なくとも1種類の不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは少なくとも1種類の飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸を得るステップ、
を含む酵素的方法のことがある。
【0041】
本発明の文脈における酵素的方法とは、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼが精製されるかまたは部分的に精製されて微生物外に存在することがある、方法を意味する。一実施形態において、これら2種類の酵素は、もはや培養することができずかつ物理的、化学的または酵素的プロセスによって消化された微生物の状態を意味する細胞溶解物として存在することがある。さらなる実施形態において、酵素は、>80%の純度を有し、当業者に周知の精製プロセスによって精製されて存在することがある。さらに別の実施形態において、酵素は、<80%の純度において、当業者に公知の精製プロセスによって部分的に精製されて存在することがある。さらに別の実施形態において、酵素は、タンパク質合成によって得られ、任意選択として精製されることがある。
【0042】
バイオテクノロジー起源の反応体(出発原料)は、微生物の発酵によって製造された反応物である。微生物の発酵によって、天然原料、例えば植物、真菌、動物、微生物または土壌から天然起源の反応体が得られることがある。反応体の前駆体から化学合成によって化学起源の反応体が製造されることがある。
【0043】
さらなる好ましい実施形態において、本発明による方法の反応物の少なくとも1つは、バイオテクノロジー起源、天然起源または化学起源のことがある。バイオテクノロジー起源、天然起源または化学起源の反応物に上記が適用される。
【0044】
本発明の方法のさらなる好ましい実施形態によれば、反応体は、カルボン酸およびアルコールでエステル化されたカルボン酸の群から選ぶことができる。好ましい反応物は、パルミトレイン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、オレイン酸、プニカ酸、α-エレオステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ペトロセリン酸、ショールムーグリン酸、α-リカリン酸、オリーブ油、カノーラ油、マカダミアナッツ油、シーバックソーン果実油、桐油、魚油、ルリヂサ油、大風子油、オランダセリ油、オイチシカ油、ザクロ種子油、ヤシ油、ヒマワリ油、フィールドストーン種子油およびブドウ種子油、ならびにコニディオボルス属(Conidiobolus)、エノキタケ属(Flammulina)、ツリガネタケ属(Fomes)、マンネンタケ属(Ganoderma)、モルティエラ属(Mortierella)、ワサビタケ属(Panellus)、ヒラタケ属(Pleurotus)、ナヨタケ属(Psathyrella)、キウロコタケ属(Stereum)、ウンベロプシス属(Umbelopsis)から独立に選ばれた属から得られる菌類油からなる群から選ばれたものである。
【0045】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明による方法の生成物は、少なくとも飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸ならびに/あるいは不飽和アルデヒドおよびその対応するカルボン酸のことがある。本明細書において、本発明による方法の生成物は、好ましくは7Z,10Z-ヘキサデカジエナール、8Z,11Z-ヘプタデカジエナール、6E,9E-ペンタデカジエナール、7Z-ヘキサデセナール、8Z-ペンタデセナール、7Z-テトラデセナール、8Z,11Z,14Z-ヘプタデカトリエナール、7Z,10Z,13Z-ヘキサデカトリエナール、4Z,7Z,10Z,13Z-ノナデカテトラエナール、8Z,10E,12E-ヘプタデカトリエナール、8Z,10E,12Z-ヘプタデカトリエナール、7Z,9E,11Z-ヘキサデカトリエナール、7Z,9E,11E-ヘキサデカトリエナール、9-デセナール、10-ウンデセナール、3Z-デセナール、4Z-ウンデセナール、7Z-ドデセナール、8Z-トリデセナール、7Z-テトラデセナール、8Z-ペンタデセナール、9Z-テトラデセナール、10Z-ペンタデセナール、7Z-ペンタデセナール、8Z-ヘキサデセナール、9Z-ヘキサデセナール、10Z-ヘプタデセナール、5Z,8Z-テトラデカジエナール、6Z,9Z-ペンタデカジエナール、7Z,10Z-テトラデカジエナール、8Z,11Z-ペンタデカジエナール、7Z,9E-ヘキサデカジエナール、8Z,10E-ヘプタデカジエナール、8E,10Z-ヘキサデカジエナール、9E,11Z-ヘプタデカジエナール、9-メチルウンデカナール、10-メチルウンデカナール、10-メチルドデカナール、11-メチルドデカナール、11-メチルトリデカナール、12-メチルトリデカナール、12-メチルテトラデカナール、13-メチルテトラデカナールおよび13-メチルペンタデカナールを含む群から選ばれる。
【0046】
本発明の状況において、二重結合の位置が(Z)/(E)配置について特定的に指定されていないすべての化合物は、二重結合のすべての可能な位置および関連化合物の混合物を含む。
【0047】
本発明の方法のさらなる実施形態によれば、少なくとも1種類の組み換え型の微生物は、大腸菌、好ましくは大腸菌BL21、大腸菌MG1655、大腸菌W3110およびそれらの誘導株、バチルス属種、好ましくはB.リケニフォルミス(licheniformis)、B.スビティリス(subitilis)またはB.アミロリケファシエンス(amyloliquefaciens)およびそれらの誘導株、サッカロミセス属種、好ましくはS.セレビシアエ(cerevesiae)およびそれらの誘導株、ハンゼヌラ(Hansenulla)またはコマガタエラ(Komagatella)属種、好ましくはK.ファフィイ(phaffii)およびH.ポリモルファ(polymorpha)ならびにそれらの誘導株、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属種、好ましくはK.ラクティス(lactis)からなる群から選ばれることがある。
【0048】
好ましい実施形態によれば、追加として少なくとも1種類のNADHオキシダーゼおよび/または少なくとも1種類のリパーゼが提供されることがある。
【0049】
NADHオキシダーゼは、基質特異性および位置選択性に起因してアルデヒドの酸化を触媒することができるものである。本発明による方法の好ましい実施形態において、対応する補助因子をリサイクルすることによって、これらは、密接に調整された複数の方法をいっそう効率的にする追加の酵素として用いることができる。
【0050】
本発明の方法の別の好ましい実施形態において、少なくとも1種類のNADHオキシダーゼは、アミノ酸配列を含むことがあり、アミノ酸配列は、配列番号62および64、またはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列からなる群から独立に選ばれる。一実施形態において、NADHオキシダーゼをコードするアミノ酸配列は、配列番号61および62、またはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列からなる群から選ばれた核酸配列によってコードされる。
【0051】
さらに、本発明のさまざまな側面および実施形態により本発明による反応を触媒する酵素は、それが誘導される元の特定の酵素の触媒的に活性なドメインまたはフラグメントのことがある。
【0052】
別の好ましい実施形態において、少なくとも1種類のリパーゼは、カンディダ・アンタルクティカ(Candida antarctica)、クロカビ(Aspergillus niger),リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae),ペニシリウム・カメンベルティイ(Penicillium camembertii),ムコル・ジュバニクス(Mucor juvanicus),ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti),ブタ膵臓、カンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa),リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)またはリゾプス・デレマール(Rhizopus delemar)からなる群から選ばれた市販リパーゼのことがある。
【0053】
本発明の方法のさらに別の好ましい実施形態において、α-ジオキシゲナーゼは、配列番号8、11、37、38、39、40、41、43、44、45、46、47、48、50、51、52、53、54、55または56からなる群から選ばれたアミノ酸配列あるいはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列を含むことがある。
【0054】
別の好ましい実施形態において、少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼは、アミノ酸配列を含むかまたはアミノ酸配列からなることがあり、アミノ酸配列は、配列番号9、10、12、13、14、59または60あるいはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列からなる群から選ばれることがある。
【0055】
本発明の別の実施形態は、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび/または少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼならびに/あるいは少なくとも1種類のリパーゼおよび/または少なくとも1種類のNADHオキシダーゼの精製、分泌、検出または局在化を目的としての酵素機能を有するポリペプチドをコードする核酸配列またはそれら核酸配列のセグメントを目的とすることがある。これらの核酸セグメントはタグ配列とも呼ばれ、少なくとも1種類のα-ジオキシゲナーゼおよび/または少なくとも1種類のアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする核酸セグメントの前に来る(N末端)および/または後に来る(C末端)ことがある。好ましいタグ配列は、以下の一覧:ポリヒスチジン(His)タグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ、チオレドキシンタグ、FLAGタグ、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグ、ストレプトアビジンタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、クロロプラスト輸送ペプチドタグ、ミトコンドリア輸送ペプチドタグおよび/または分泌タグから選ばれる。さらに、当業者は、産生株として対象となる微生物または菌類のための複数の他の適当なタグ配列を承知しており、これらのタグ配列は、対象となるポリペプチドの培養液上清中への分泌を直接可能にする。このことは、いくつかの実施形態において対象となるポリペプチドを取得し、任意選択として精製することを容易にするうえで有利なことがある。
【0056】
本発明の別の側面において、本発明は、α-ジオキシゲナーゼの配列を指定する少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメント(a)、およびアルデヒドデヒドロゲナーゼの配列を指定する少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメント(b)を含み;任意選択として、核酸セグメント(a)および/または(b)の一部としてNADHオキシダーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメントおよび/またはリパーゼをコードする少なくとも1種類の遺伝子を含む核酸セグメントを含み、核酸セグメント(a)および/または核酸セグメント(b)は、同じベクター上または2種類以上の別々のベクター上に提供される、少なくとも1種類のベクターまたはプラスミドベクターを含むベクターシステム、好ましくはプラスミドベクターシステムに関する。
【0057】
好ましい実施形態によれば、ベクターシステムは、少なくとも1種類のポリペプチドの発現をコードすることがあり、前記ポリペプチドは、配列番号8、9、10、11、12、13、14、37、38、39、40、41、43、44、45、46、47、48、50、51、52、53、54、55、56、59または60からなる群またはそれらに少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列から選ばれる。
【0058】
別の側面において、本発明は、本発明による方法によって得られるアルデヒド混合物を含む組成物であって、組成物は、7Z-テトラデセナール、8Z-ペンタデセナール、ペンタデカナール、7Z-ヘキサデセナールおよび8Z-ヘプタデセナールからなる群から選ばれた少なくとも1種類、あるいは好ましくは少なくとも2種類または3種類のアルデヒドを含み、この1種類以上のアルデヒドは、それぞれ組成物全体に対して約0.0001~20重量%、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%の割合でそれぞれ存在し、かつ組成物は、任意選択として、請求項1~12の何れか一項に記載の方法によって得られるさらなるアルデヒドを含むか、または組成物は、7Z-テトラデセナールを約0.0001~20重量%の割合で含むか、または組成物は、8Z-ペンタデセナールを組成物全体に対して約0.0001~20重量%の割合で含むか、または組成物は、ペンタデカナールを組成物全体に対して約0.0001~20重量%の量で含むか、または組成物は、7Z-ヘキサデセナールを組成物全体に対して約0.0001~20重量%の量で含むか、または組成物は、8Z-ヘプタデセナールを組成物全体に対して約0.0001~20重量%の量で含むか、または組成物は、少なくとも8Z-ペンタデセナールおよびペンタデカナールを含み、組成物全体中の8Z-ペンタデセナールおよびペンタデカナールの割合は、約0.0001~20重量%を含むか、または組成物は、少なくとも8Z-ペンタデセナールおよび8Z-ヘプタデセナールを含み、組成物全体中の8Z-ペンタデセナールおよび8Z-ヘプタデセナールの割合は、約0.0001~20重量%を含むことを特徴とする組成物に関する。
【0059】
本発明の状況における組成物は、半完成または完成された製品組成物であり、好ましくは、栄養または娯楽または化粧または洗浄用調製物として使用される調製物からなる群から選ばれる。
【0060】
本発明の意味における栄養または娯楽に使用される調製物は、例えばベーカリー製品(例えばパン、ドライクッキー、ケーキ、その他のペーストリー)、菓子類(例えばチョコレート、チョコレートバー製品、その他のバー製品、フルーツガム、ハードおよびソフトキャラメル、チューインガム)、アルコールまたはノンアルコール飲料(例えばコーヒー、茶、ワイン、ワイン系飲料、ビール、ビール系飲料、リカー、スピリッツ、ブランデー、フルーツ系ソーダ、アイソトニック飲料、ソフトドリンク、ネクター、果実および野菜ジュース、果実または野菜ジュース調製物)、インスタント飲料(例えばインスタントココアドリンク、インスタントティードリンク、インスタントコーヒードリンク、インスタント果実飲料)、肉製品(例えばハム、フレッシュまたは生のソーセージ調製物、味付けまたはマリネー化されたフレッシュまたは塩漬け肉製品)、卵または卵製品(乾燥卵、卵白、卵黄)、シリアル製品(例えば朝食シリアル、シリアルバー、前もって調理されたすぐ食べられる米製品)、乳製品(例えばミルクドリンク、バターミルクドリンク、ミルクアイスクリーム、ヨーグルト、ケフィール、クリームチーズ、ソフトチーズ、ハードチーズ、乾燥ミルクパウダー、乳漿、バター、バターミルク、部分または完全に加水分解されたミルクタンパク質含有製品)、大豆タンパク質または他の大豆画分から作られた製品(例えば豆乳およびそれ由来の製品、大豆タンパク質を含有する果実ドリンク、大豆レシチンを含有する調製物、豆腐またはテンペーなどの発酵製品またはそれらから作られた製品)、フルーツ調製物(例えばジャム、フルーツアイスクリーム、フルーツソース、フルーツフィリング)、野菜調製物(例えばケチャップ、ソース、乾燥野菜、冷凍野菜、予め調理された野菜、料理された野菜)、スナック(例えば焼かれるかまたは揚げられたポテトチップスまたはポテト生地製品、コーンまたはピーナッツ系の押出成形品)、油脂およびオイル系製品またはそれらの乳化物(例えばマヨネーズ、レムラードソース、ドレッシング)、その他の即席の食事およびスープ(例えばドライスープ、インスタントスープ、予め調理されたスープ)、例えばスナックセクター中で用いられるスパイス、シーズニング混合物および特にシーズニングである。本発明の意味における調製物は、栄養または娯楽に使用されるさらなる調製物の製造のための半完成商品としても使用される。本発明の意味の範囲内の調製物は、カプセル、錠剤(被覆されていない錠剤ならびに被覆された錠剤、例えば腸溶コーティング)、トローチ、顆粒、ペレット、固体混合物、液相中の分散物の形、乳化物として、粉体として、溶液として、ペーストとしてまたは食品補助物として嚥下または噛むことができる他の調製物としてのこともある。
【0061】
本発明の意味における化粧または洗滌調製物は、身体を清浄化するか、手入れをするかまたは賦香するためあるいは洗滌のために用いることができる調製物である。好ましい化粧用調製物は、床クリーナー、窓ガラスクリーナー、皿洗い洗剤、バスルームおよび衛生用クリーナー、スカウリングミルク、固体および液体トイレクリーナー、粉体および発泡体カーペットクリーナー、布地フレッシュナー、アイロン掛け補助剤、液体洗剤、粉体洗剤、さらし粉などの洗濯前処理薬剤、軟化剤、漬け込み剤および汚れ落とし、洗濯柔軟剤、洗浄用石鹸、液体、ゲルまたは固体の形の洗浄錠剤、殺菌剤、表面殺菌剤およびエアフレッシュナー、エアロゾルスプレー、家具艶出し剤、フロアワックスなどのワックスおよび艶出し剤、靴墨およびパーソナルケア製品などの固体および液体石鹸、シャワージェル、シャンプー、髭剃り石鹸、シェービングフォーム、バスオイル、水中油型、油中水型および水中油中水型の化粧用乳化物、例えばスキンクリームおよびローション、フェーシャルクリームおよびローション、日焼け止めクリームおよびローション、アフターサンクリームおよびローション、ハンドクリームおよびローション、フットクリームおよびローション、脱毛クリームおよびローション、アフターシェーブクリームおよびローション、日焼けクリームおよびローション、ヘアーケア製品、例えばヘアースプレー、ヘアージェル、セット用ヘアーローション、ヘアーコンディショナー、永続的および半永続的ヘアー着色剤、コールドウェーブおよびヘアーストレート化用製品、ヘアートニック、ヘアークリームおよびローションなどの整髪用製品、腕の下用スプレー、ロールオン、デオドラントスティック、デオドラントクリームなどのデオドラントおよび発汗抑制剤、アイシャドー、メークアップ、口紅、マスカラなどの装飾用化粧製品マニキュア液、ならびにロウソク、灯油、香料スティック、殺虫剤、防虫剤および推進薬から選ばれる。
【0062】
好ましい実施形態において、得られる組成物は、本発明による方法の実施形態に依存してドデカノール、トリデカナール、トリデカノール、テトラデカナール、8Z-テトラデセノール、テトラデカノール、ペンタデカナール、ペンタデカノール、オクタン酸、デカン酸、トリデカナール、トリデセナール、ペンタデセナールおよび8Z-テトラデセナールからなる群から選ばれたさらなるアルデヒド、カルボン酸またはアルコールを含有する。
【0063】
さらに別の実施形態において、得られる混合物の個々の成分は、当業者に公知の方法によって部分的にまたは全体的に精製される。よって、これらの混合物の主な利点は、混合物としてと、個々の成分としてとの両方で用いることができるので、広い範囲の産業界におけるそれらの普遍的利用可能性である。
【0064】
本発明は、非限定的な実施例を参照し、配列リストおよび図面中に提供される開示に基づいて下記でさらに説明される。
【実施例0065】
実施例1:単一コンストラクトの創出
タンパク質発現のために使用する単一コンストラクトの生成のために、コーディング配列を有する適当なベクターを生成させた。この目的で、種々の標的遺伝子のそれぞれのコーディング配列を合成し、ベクターpET28a(メルクケミカルズ社(Merck Chemicals GmbH、シュバルバッハ(Schwalbach))またはpETDuet-1(メルクケミカルズ社、シュバルバッハ)中の2つの制限部位の間にクローン化した。クローン化した遺伝子とクローン化のために使用したそれぞれの制限部位との概要を表1にまとめる。すべての配列番号について、意図する発現宿主の1つとしての大腸菌に遺伝子のコドン利用形を適応させた。さらに、配列番号3は、それぞれの生物から得た起源配列に対する点変異を有する。
【0066】
【表1】
【0067】
標準的な形質転換方法(マニアティス(Maniatis)ら、1983年)を用いて、取得したプラスミドをコンピテントな大腸菌BL21(DE3)細胞に導入し、細胞を選択的固形培地(LB+アンピシリン(100mg/L)+6g/L寒天)上37℃で18時間増殖させた。
【0068】
実施例2:変異導入による種々のVhAldh変異体の生成
プラスミドpET-Duet_LsNOX_VhFALDHから出発し、QuikChange II 部位特異的変異導入キット(アジレント(Agilent)、バルトブロン(Waldbronn)、ドイツ)を使用して種々の酵素変異体を生成させた。このプロセスにおいて、製造業者の指示に従う特定のプライマーを使用してVhFaldhのコーディング配列中に標的変異部分を導入した。VhFALDHの変異形pET-Duet_LsNOX_VhFALDHT175Qの場合はプライマーVhFALDH-T175Q_fw(配列番号15)およびVhFALDH-T175Q_rv(配列番号:16)を使用した。核酸または対応する翻訳されたタンパク質の配列を配列番号3および10にそれぞれ示す。
【0069】
実施例3:タンパク質発現および精製Osa-DOX
タンパク質発現物を50mLの体積で調製するために、最初に適切な抗生物質を有する5mLのLB培地(カール・ロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)の前培養物を調製し、接種用ループを用いてpET28a_OsaDOXが入っている大腸菌BL21(DE3)細胞を寒天プレートから取り出し、前培養物に移した。次にこれを37℃および150rpmで16時間インキュベートした。前培養物から、50mLのLB培地(カール・ロス社、カールスルーエ、ドイツ)および適切な抗生物質を有する主培養物に、600nmで0.05の光学密度が得られるように接種した。次に主培養物を600nmで0.6~1.0の光学密度が得られるまで37℃および200rpmでインキュベートした。タンパク質発現を誘導するために、この時点で0.5mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを加え、培養物を21℃でさらに16時間インキュベートした。最後に、細胞ペレットを取得し、続いてタンパク質抽出および精製を実施するために主培養物を17,105×gで10分間遠心分離した。この目的で、最初に、B-PERタンパク質抽出試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、ボン、ドイツ)を使用し、製造業者の指示に従って細胞破壊を実施した。次に、得られた細胞溶解物をそのまま用いるか、または1mL HisPur Ni-NTAクロマトグラフィーカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ボン、ドイツ)を使用し、製造業者の指示に従って処理するかのいずれかを行った。
【0070】
実施例4:VhFaldhおよびLsNOXからのタンパク質発現
タンパク質発現物を50mLの体積で調製するために、最初に適切な抗生物質を有する5mLのLB培地(カール・ロス社、カールスルーエ、ドイツ)の前培養物を調製し、接種用ループを用いてpET-Duet_LsNOX_VhFALDHが入っている大腸菌BL21(DE3)細胞を寒天プレートから取り出し、前培養物に移した。次にこれを37℃および150rpmで16時間インキュベートした。前培養物から、50mLのLB培地(カール・ロス社、カールスルーエ、ドイツ)および適切な抗生物質を有する主培養物に、600nmで0.1の光学密度が得られるように接種した。次に主培養物を600nmで0.6~0.8の光学密度が得られるまで37℃および200rpmでインキュベートした。タンパク質発現を誘導するために、この時点で0.5mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを加え、培養物を16℃さらに16時間インキュベートした。最後に、細胞ペレットを取得し、続いてタンパク質抽出および精製を実施するために主培養物を17,105×gで10分間遠心分離した。この目的で、最初に、B-PERタンパク質抽出試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ボン、ドイツ)を使用し、製造業者の指示に従って細胞破壊を実施した。次に、得られた濁った細胞溶解物をそのまま用いた。
【0071】
実施例5:脂肪族酸トリグリセリドの加水分解
1Lの丸底フラスコ中で380mLのtert-ブタノール(カール・ロス)中5~10gのCALB-imm(ノボチーム(Novozym)435;10,000U/g)を0.5~3時間撹拌した。次に、50gのトリグリセリド、および15mLの200mMトリス-HCl、pH8緩衝液を加えた。この反応を激しい撹拌下60℃で15~21時間行った。続いて、濾過によって酵素を除去し、ロータリーエバポレーターを用いて反応混合物を濃縮乾固した。生成物を4℃で一夜保管し、次に、200mLの200mMトリス-HCl、pH2に取り込んだ。1時間撹拌しながら500mLのtert-ブチルジメチルエーテル(ハネウェル)を加えることによって脂肪酸を抽出した。混合物を分液ロートに移し、相分離を起こるまで待った。続いて、有機相を丸底フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮乾固した。生成物を-20℃で保管し、GC-MS(20m ZB-1、60-9-300、スプリット60:1)によって組成を分析した。標準物質との比較によって生成物の保持指数を決定した。
【0072】
実施例6:Os-α-DoxおよびVhFaldhを用いるアルデヒド混合物の調製
実施例5による種々の脂肪酸または加水分解物の反応のために、実施例3によるpET28a_OsaDOXが入っている大腸菌BL21(DE3)細胞と、実施例4によるpET-Duet_LsNOX_VhFALDHが入っている大腸菌BL21(DE3)細胞からの溶菌液とを用いた。この目的で、25mMのリノール酸(シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich))、実施例3による40g/Lの大腸菌α-Dox、10g/Lの大腸菌VhFALDH_NOXからの溶解物、3.25mMのNAD(シグマアルドリッチ)、0.5%グルコース、0.1%(重量/体積)アラビアゴムおよび4.7mLリン酸カリウム緩衝液、pH8を50mL反応管中で懸濁させた。
【0073】
ここでは、バッフルを有する100mL振とうフラスコ中で緩衝液、リノール酸、NAD、グルコースおよびアラビアゴムを一緒にし、200rpmおよび37℃で5分間混合した。次に、示した細胞または溶解物を加え、反応物を200rpmおよび37℃で24時間インキュベートした。
【0074】
続いて、塩酸を用いて混合物をpH2に調整し、ボルテックス混合しながら(1分)同じ体積の酢酸エチル(シグマ-アルドリッチ)を加えることによって2回抽出した。17.105×gにおける10分間の遠心分離によって水相からの有機物の分離を実施した。ガスクロマトグラフィー(20m ZB-1、df:0.18μm、内径:0.18mm/60-12-300°KAS)によって試料を分析した。標準物質およびGC-MSデータとの比較によって選ばれたGC方法についての保持指数を決定した。
【0075】
実施例7:本発明によるアルデヒド混合物
表2および3は、本発明によるプロセスによって得られた混合物の例を示す。得られた混合物に加えて、後続のステップにおいて個々の成分を精製することができる。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【外国語明細書】