(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002303
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/04 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
F04D29/04 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102380
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】森 一憲
(72)【発明者】
【氏名】羽野 洋平
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AB13
3H130AB22
3H130AB60
3H130AC10
3H130BA90E
3H130BA91E
3H130DB03X
3H130DF01Z
3H130DF03Z
3H130DF06Z
3H130EA06E
3H130EB04E
3H130EC16E
(57)【要約】
【課題】ポンプに適用される軸受の異常を簡易な構成で判定可能にする。
【解決手段】ポンプ1は、ケーシング2と、ケーシング2内で延在し、羽根車20が固定された主軸3と、ケーシング2に支持され、主軸3を回転可能に支持する軸受41と、主軸3と一体に回転するように主軸3に外嵌され、軸受41の内周面と摺接するスリーブ46と、摩耗監視対象としての軸受41及び/又はスリーブ46の表面のうち軸方向に向けられた面41a,46a上に設置され、主軸3の回転に伴って摩耗監視対象と同等に摩耗する識別部材50,60と、識別部材50,60の表面を撮像すべく撮像装置80をケーシング2内に導入するための通路4aと、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内で延在し、羽根車が固定された主軸と、
前記ケーシングに支持され、前記主軸を回転可能に支持する軸受と、
前記主軸と一体に回転するように前記主軸に外嵌され、前記軸受の内周面と摺接するスリーブと、
摩耗監視対象としての前記軸受及び/又は前記スリーブの表面のうち軸方向に向けられた面上に設置され、前記主軸の回転に伴って前記摩耗監視対象と同等に摩耗する識別部材と、
前記識別部材の表面を撮像すべく撮像装置を前記ケーシング内に導入するための通路と、
を備える、ポンプ。
【請求項2】
前記識別部材のうち、少なくとも前記表面が、径方向の内周側と外周側とで異なる色に着色されている、
請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記識別部材の前記表面が、径方向に対して傾斜した傾斜面である、
請求項1に記載のポンプ。
【請求項4】
前記識別部材が、前記摩耗監視対象と同等の、又は前記摩耗監視対象よりも小さい硬度を有する、
請求項1に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、立軸ポンプに適用される軸受診断装置を開示している。軸受診断装置は、軸受と主軸との隙間と、軸受に供給される圧縮空気の圧力低下時間や流量との相関を考慮に入れて、圧力計及び空気流量計の検出結果に基づいて、軸受の摩耗、損傷その他の異常性を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の軸受診断装置においては、そのシステム構成が、ハードウェア面及びソフトウェア面の両面で複雑である。
【0005】
本発明は、ポンプに適用される軸受の異常性を簡素な構成で判定可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ケーシングと、前記ケーシング内で延在し、羽根車が固定された主軸と、前記ケーシングに支持され、前記主軸を回転可能に支持する軸受と、前記主軸と一体に回転するように前記主軸に外嵌され、前記軸受の内周面と摺接するスリーブと、摩耗監視対象としての前記軸受及び/又は前記スリーブの表面のうち軸方向に向けられた面上に設置され、前記主軸の回転に伴って前記摩耗監視対象と同等に摩耗する識別部材と、前記識別部材の表面を撮像すべく撮像装置を前記ケーシング内に導入するための通路と、を備える、ポンプを提供する。
【0007】
上記構成によれば、ポンプの維持管理に関わる作業員は、表示装置に表示された識別部材の表面の撮像結果を確認する等の目視によって、簡単に識別部材の摩耗の程度を確認できる。識別部材は、摩耗監視対象と同等に径方向に摩耗していく。そのため、識別部材の摩耗の程度から、摩耗監視対象の摩耗の程度も精度よく判定できる。摩耗監視対象の面上に識別部材を設置し、識別部材の表面の撮像を可能にするための通路を設けることにより、このような判定が実現される。摩耗監視対象の摩耗を判定するための装置を簡素化できる。
【0008】
前記識別部材のうち、少なくとも前記表面が、径方向の内周側と外周側とで異なる色に着色されていてもよい。
【0009】
上記構成によれば、撮像結果に基づいて識別部材の摩耗の程度を判断しやすくなる。ひいては、摩耗監視対象の摩耗の程度を判断しやすくなる。
【0010】
前記識別部材の前記表面が、径方向に対して傾斜した傾斜面であってもよい。
【0011】
上記構成によれば、撮像結果における見かけ上の摩耗量が、実際の摩耗量よりも大きくなる。したがって、撮像結果に基づいて、識別部材ひいては摩耗監視対象の摩耗の程度を判定しやすくなる。
【0012】
前記識別部材が、前記摩耗監視対象と同等の、又は前記摩耗監視対象よりも小さい硬度を有してもよい。
【0013】
上記構成によれば、識別部材を摩耗監視対象と同等に摩耗させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポンプに適用される軸受の異常性を簡素な構成で判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、同一の又は対応する要素には同一の符号を付して詳細な説明の重複を省略する。
【0017】
図1を参照して、実施形態に係るポンプ1が、水槽90を備えた排水機場や揚水機場等の機場に据え付けられている。ポンプ1は、一例として、立軸ポンプであり、ケーシング2、主軸3、及び導入部4を備える。
【0018】
ケーシング2は、全体として管状であり、両端で開口する。ケーシング2は、ラッパ管11、インペラケーシング12、揚水管13、及び吐出エルボ管14を含む複数のケーシング部材を備え、これらケーシング部材は、下からこの順番で順次に連結される。揚水管13の上端フランジが、水槽90を上から閉塞する据付床91に固定される。揚水管13及びそれより下に連結されたケーシング部材は、据付床91から吊り下げられ、水槽90内に配置される。吐出エルボ管14の一端は、揚水管13の上端フランジに締結され、吐出エルボ管14は、水槽90の上方に配置される。ラッパ管11の下端開口は、ケーシング2の吸込口2aであり、吐出エルボ管14の他端開口は、ケーシング2の吐出口2bである。
【0019】
主軸3は、ケーシング2内で鉛直に延在する。ケーシング2の中心軸は、ラッパ管11から揚水管13まで鉛直に延在して吐出エルボ管14内で湾曲する一方、主軸3の軸線は下からそのまま直線的に延在する。主軸3の上端部は、吐出エルボ管14の管壁を貫通し、ケーシング2外のアクチュエータ(図示せず)に接続される。羽根車20が、主軸3の下端部に固定されており、インペラケーシング12の内下部に収容されている。
【0020】
アクチュエータが作動すると、主軸3が羽根車3aと共に回転駆動される。これにより、水槽90内の水が、吸込口2aを介してケーシング2に吸い込まれ、上向きにケーシング2を通流し、吐出口2bを介してケーシング2から吐出される。なお、吐出口2bには、機場に備わる排水管(図示せず)が接続される。
【0021】
ケーシング部材は、インペラケーシング12内に配置された下軸受ケーシング15と、揚水管13内に配置された上軸受ケーシング16とを更に含む。下軸受ケーシング15及び上軸受ケーシング16は、筒状に形成され、主軸3を外囲する。下軸受ケーシング15の外周面は、径方向に延びるリブ18を介してインペラケーシング12の内周面に接続される。上軸受ケーシング16の外周面は、径方向に延びるリブ19を介して揚水管13の内周面に接続される。
【0022】
主軸3は、上下方向に間隔をあけて配置された複数の軸受によって回転可能に支持される。複数の軸受には、ケーシング2内に収容された2つの軸受31,41が含まれる。
【0023】
軸受31は、下軸受ケーシング15に保持され、下軸受ケーシング15を介してケーシング2に支持される。軸受41は、上軸受ケーシング16に保持され、上軸受ケーシング16を介してケーシング2に支持される。どちらの軸受31,41も、据付床91よりも下方に配置され且つ軸受ケーシング内に収容されていることから、摩耗等の異常性の確認が困難である。摩耗の監視には、撮像装置80(
図2を参照)が使用される。
【0024】
導入部4は、撮像装置80を下軸受ケーシング15及び上軸受ケーシング16内に導入するための通路4aを形成する。導入部4及びその通路4aは、パイプによって構成され、又はケーシング部材に形成された貫通穴によって構成される。
【0025】
導入部4の一端は、据付床91の上方に位置する。導入部4は、据付床91を貫通して水槽90内で延在する共通部4bと、共通部4bから分岐してケーシング2の外周面から中心側へ向かって延在する2つの分岐部4c,4dとを含む。各分岐部4c,4dの先端が、導入部4の他端である。共通部4bは、ケーシング2外に配置される。
【0026】
一方の分岐部4cは、インペラケーシング12を貫通し、インペラケーシング12内で径方向中心側へ向かって延在し、下軸受ケーシング15を貫通する。一方の分岐部4cの先端は、軸受31が配置された下軸受ケーシング15の内部に向けて開口する。他方の分岐部4dは、揚水管13を貫通し、揚水管13内で径方向中心側へ向かって延在し、上軸受ケーシング16を貫通する。他方の分岐部4dの先端は、軸受41が配置された上軸受ケーシング16の内部に向けて開口する。
【0027】
図2を参照して、ポンプ1は、軸受ホルダ42、スリーブ46、第1識別部材50、及び第2識別部材60を更に備える。
【0028】
上軸受ケーシング16の上端開口縁は、主軸3の外周面から径方向に離れている。軸受ホルダ42は、円筒状であり、上軸受ケーシング16の上端部に内嵌される。軸受ホルダ42は、一端で外周側に突出する外フランジ42a、及び他端で内周側に突出する内フランジ42bを有する。軸受ホルダ42の外周面は、上軸受ケーシング16の内周面に密着され、外フランジ42aは、上軸受ケーシング16の上端面に当接され、内フランジ42bは、上軸受ケーシング16の内部で上軸受ケーシング16の内周面に対して径方向中心側に突出する。
【0029】
軸受41は、円筒状であり、軸受ホルダ42内に収容される。軸受41の外周面は、軸受ホルダ42の内周面に密着される。軸受41の内周面は、内フランジ42bよりも径方向内周側に位置している。軸受41の下端面41aの一部は、内フランジ42bに当接する。軸受41の下端面41aの一部は、内フランジ42bによって覆われず、下方に露出する(ただし、後述のとおり、この露出部分の大部分が、第1識別部材50の設置により、第1識別部材50で隠される)。軸受41の上端面は、外フランジ42aの上面に対して僅かに下方に位置する。軸受41は、軸受41及び軸受ホルダ42の上方に設けられた軸受押え43と、内フランジ42bとにより、軸方向に挟持される。
【0030】
スリーブ46は、主軸3に外嵌され、主軸3と一体となって回転する。スリーブ46は、軸受41に挿通される。主軸3が回転駆動されると、スリーブ46が主軸3と一体となって回転し、スリーブ46の外周面が、軸受ホルダ、軸受ケーシング、リブを介してケーシング2に支持されている軸受41の内周面に対して摺接する。これにより、軸受41及びスリーブ46の少なくとも一方に、摩耗が生じる。
【0031】
本実施形態では、単なる一例として、軸受41及びスリーブ46の両方が、摩耗の程度を監視する対象(摩耗監視対象)である。識別部材は、摩耗監視対象の表面のうち、軸方向に向けられた面に設置される。軸受41及びスリーブ46の両方が摩耗監視対象である場合、識別部材は、軸受41及びスリーブ46それぞれに個別に設置される。第1識別部材50は軸受41用であり、第2識別部材60はスリーブ46用である。
【0032】
第1識別部材50は、軸受41の軸方向に向けられた面の一例として、下端面41aに設置される。特に、第1識別部材50は、下端面41aのなかでも、軸受ホルダ42の内フランジ42bに対して径方向内周側に突出して内フランジ42bで覆われていない部位に設置される。第1識別部材50は、当該部位に設置され、軸受41から下方に突出する。
【0033】
第2識別部材60は、スリーブ46の軸方向に向けられた面の一例として、段差面46aに設置される。この点、スリーブ46の先端部には、径方向に切削された切り欠きが設けられている。切り欠きは、全周にわたって設けられていてもよいが、周方向に部分的に設けられていてもよい。切り欠きの形成により、スリーブ46の先端部には、スリーブ46の先端面よりも軸方向中央側に段差面46aが設けられる。本実施形態では、当該先端部が下に向けられており、段差面46aは下に向けられている。組付状態で、段差面46aは、軸受41の下端面41aと上下方向(軸方向)において概ね同じ位置にあり、本実施形態では、軸受41の下端面41aに対して僅かに下方に位置する。
【0034】
この下方は、本実施形態において、摩耗監視対象から見て識別部材の突出方向であり、識別部材から見て通路4aの末端開口が配置されている側である。通路4aの末端は、上軸受ケーシング16の内周面に開口する。通路4aの末端開口は、軸受41、軸受ホルダ42、及びスリーブ46に対して、下方に離れている。
【0035】
詳細図示を省略するが、撮像装置80は、一例として工業用内視鏡である。撮像装置80は、ケーブル81と、ケーブル81の先端に設けられた撮像部82と、ケーブル81の基端に設けられた操作部83(
図1参照)とを有していてもよい。撮像部82は、CCD(Charge-Coupled Device)等の撮像素子(図示せず)や、白色LED(Light-Emitting Diode)等の照明(図示せず)を有する。撮像部82は、撮像素子に結像された画像データを取得する。撮像部82の光軸Lは、上方に向かうにつれて径方向内周側に向かうようにして、軸方向に対して傾斜されている。このため、第1識別部材50及び第2識別部材60が、上軸受ケーシング16の内周面に対して径方向内周側に配置されていても、第1識別部材50及び第2識別部材60の表面を撮像部82の視野内に収めることができる。画像データは、ケーブル81を介して操作部83に伝送される。
【0036】
操作部83は、撮像部82で得られた画像データの転送指令及び記録指令や、照明の動作指令を入力するための操作子を有する。入力操作は作業員によって行われる。操作部83には、撮像素子に結像されている画像をリアルタイムで表示するディスプレイが設けられていてもよい。また、操作部83は、撮像装置80の電源バッテリや、画像データを記録するメモリを内蔵する。メモリに記録された画像データは、公知の情報伝送技術を使用して、作業員によって操作される情報端末(例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット、あるいはスマートフォン等)に転送可能である。また、ケーブル81を介して伝送される画像データをこれら情報端末のディスプレイにリアルタイム表示してもよい。
【0037】
図3及び
図4を参照して、第1識別部材50は、軸方向に見て円弧状、一例として1/4円弧状である。第1識別部材50は、底面51、内周面52、及び傾斜面53を表面として有し、これら3つの表面は、直角三角形状の断面を形成する。底面51は、軸受41の下端面41aに面接触した状態で下端面41aに接合される。内周面52は、底面51の内周側周縁から垂直に延在し、軸受41の内周面と面一をなす。傾斜面53は、第1識別部材50の内周面52の先端を底面51の外周側周縁に接続する。傾斜面53は、径方向に対して傾斜しており、径方向内周側から外周側に向かうにつれて軸方向(上方)に向かうように傾斜している。第1識別部材50は、軸受41の下端面のうち、通路4aと径方向に対向し得る領域又は位相に配置される。
【0038】
図3及び
図5を参照して、第2識別部材60は、軸方向に見て円弧状、一例として1/4円弧状である。第2識別部材は、底面61、頂面62、外周面63、及び内周面64を表面として有し、これら4つの表面は、長方形状の断面を形成する。底面61は、スリーブ46の段差面46aに面接触した状態で段差面46aに接合される。外周面63は、底面61の内周側周縁から垂直に延在し、スリーブ46の小径化された先端部の外周面に面接触した状態で当該外周面に接合される。内周面64は、底面61の外周側周縁から垂直に延在する。頂面62は、外周面63及び内周面64の先端同士を径方向に接続している。
【0039】
第1識別部材50の表面は、内周側から外周側に向けて異なる色が着色されている。着色される表面は、少なくとも、撮像装置80の視野内に収まる第1識別部材50の傾斜面53を含んでいればよい。
【0040】
一例として、第1識別部材50の表面(傾斜面53)は、内周側から順に緑色、黄色、及び赤色の3つの互いに異なる色に塗り分けられている。各色の幅(すなわち、径方向の寸法、あるいは外径と内径との差)は、周方向において一定である。緑色の最内周層50aは、第1識別部材50の全体としての内径を形成する。最内周層50aの外径は、黄色の中間層50bの内径と同径である。中間層50bの外径は、赤色の最外周層50cの内径と同径である。
【0041】
第2識別部材60についてもこれと同様である。第2識別部材60の表面(特に、撮像装置80の視野内に収まる頂面62)も、外周側から順に緑色、黄色、及び赤色の3つの互いに異なる色に塗り分けられている。最外周層60aが緑色層、中間層60bが黄色層、最内周層60cが赤色層である。
【0042】
軸受41の材質は、特に限定されず、ゴムや、セラミクス等の材質から適宜選択される。スリーブ46についてもこれも同様である。主軸3の回転に伴って、第1識別部材50は、軸受41と同等に摩耗する。第2識別部材60も、スリーブ46と同等に摩耗する。第1識別部材50は、軸受41と同等の、又は軸受41よりも小さい硬度を有する。第1識別部材50は、軸受41と同じ材質で成形されていてもよく、異なる材質で成形されていてもよい。第2識別部材60及びスリーブ46の硬度及び材質の関係性についても、これと同様である。
【0043】
ここで、軸受41又はスリーブ46の「初期状態」とは、摩耗が生じていない状態である。ポンプ1が機場に新規に据え付けられた直後には、軸受41及びスリーブ46が初期状態にある。メンテナンス作業で軸受41又はスリーブ46が新品に交換された直後には、交換された摩耗監視対象が初期状態にある。
【0044】
初期状態において、第1識別部材50の外周面と第2識別部材60の内周面とは、スリーブ46の軸受41に対する相対回転を阻害しないようにして、互いに接触又は極小のクリアランスをあけて近接している(
図3では、単なる一例として接触している状態を示す)。第1識別部材50の傾斜面53の径方向中心側端縁は、第2識別部材60の頂面62の径方向外周側端縁と交差する。
【0045】
摩耗監視対象と識別部材との接合には、どのような接合手段が使用されてもよい。接着剤が使用されてもよい。摩耗監視対象及び識別部材がゴム製である場合には、熱融着が使用されてもよい。
【0046】
このように構成されるポンプ1において、摩耗の監視は定期的に又は常時行われる。定期的に行われる場合、作業員は、導入部4を介して上軸受ケーシング16内に撮像装置80を導入する。撮像装置80の利用周期(すなわち、軸受監視作業の周期、又は識別部材の表面を示す画像データの取得周期)は、特に限定されない。作業員は、据付床91から上方に延在する導入部4の一端から、ケーブル81を導入部4に挿し込んでいき、撮像部82を上軸受ケーシング16内に導入する。そして、撮像部82により、識別部材の表面及びその周辺を示す画像データが取得される。
【0047】
なお、画像データの取得に先立って、第2識別部材60の位相が第1識別部材50の位相と対応させる位置で、主軸3の回転を止める。または、主軸3が回転する状態(つまり、ポンプ1が稼働している状態)において、第2識別部材60の位相が第1識別部材50の位相と一致するタイミングで取得された静止画像データが取得される。
【0048】
図3及び
図7を参照して、撮像部82によって取得された画像データ内には、第1識別部材50の表面として傾斜面53と、第2識別部材60の表面として頂面62との画像が含まれる。
【0049】
初期状態では、第1識別部材50の傾斜面53と第2識別部材60の頂面62とが互いに接しており、傾斜面53と頂面62とが一体となっている。中央部分において、傾斜面53上の最内周層50aと、頂面62の最外周層60aとが、径方向に合わさった状態で、円弧状に延在する。2層は同じ色(例えば、緑色)に着色されており、画像内で一体化される。この一体化された緑色層の径方向外周側には傾斜面53上の中間層50bが隣接し、径方向内周側には頂面62の中間層60bが隣接しており、2つの中間層50b,60bは同じ色(例えば、黄色)に着色されている。2つの黄色層は、一体化された緑色層を径方向に挟むようにして円弧状に延在する。更にその外側には、2つの赤色層が、緑色層及びその両側の2つの黄色層を挟むようにして円弧状に延在する。径方向外周側の赤色層は、傾斜面53上の最外周層50cであり、径方向内周側の赤色層は、頂面62上の最内周層60cである。
【0050】
作業員は、操作部83に備え付けられたディスプレイ、又は情報端末に接続され又は備え付けられたディスプレイに表示された画像データから、円弧状に延在し且つ互いに色分けされた複数の帯を視認できる。初期状態では、上述のとおり、中央領域で一体化されて相対的に太い緑色層を確認可能である。このような表示に基づいて、作業員は、摩耗監視対象が初期状態にあるということを容易に判定できる。
【0051】
作業員は、画像データの取得後、ケーブル81を引き上げることにより、撮像装置80をポンプ1又はその導入部4から抜き取ることができる。すなわち、撮像装置80はポンプ1に常時備わっていなくてもよく、定期的な監視作業のたびにポンプ1に対して着脱され得る。
【0052】
図6及び
図8は、摩耗監視対象の摩耗が進行した状態における
図3及び
図7にそれぞれ相当する図である。
【0053】
図6を参照して、軸受41の摩耗が進行すると、軸受41の内周面が径方向外周側に後退する。この後退は、概ね、周方向の全体にわたって一様に、且つ軸方向の全体にわたって一様に生じる。軸受41の摩耗と共に、第1識別部材50も径方向に摩耗する。第1識別部材50は軸受41と同等に摩耗し、軸受41の径方向への摩耗量と第1識別部材50の径方向への摩耗量とは同等である。そのため、摩耗が進行しても、第1識別部材50の内周面は、初期状態と同様にして、軸受41の内周面と面一である。
【0054】
軸受41の摩耗の進行により、最内周層50aから順にその幅(径方向寸法)を縮小させていく。
図6に示す例では、最内周層50aが完全に消失され、中間層50bもその内周側から縮小されている。これにより、図示例のように、たとえスリーブ46に摩耗が生じていない場合であっても、第1識別部材50の内周面の後退により、第1識別部材50の傾斜面53は、第2識別部材60の頂面62から径方向外周側に離隔し、第1識別部材50と第2識別部材60との間に間隙が形成される。この間隙には、照明が届きにくい。
【0055】
そのため、
図8を参照して、このような摩耗状態で取得された画像データにおいては、中央領域の緑色層は、第1識別部材50から消失した分、細くなる。そして、第2識別部材60に残存する緑色層と、第1識別部材50に残存する黄色層との間には、間隙内の影が黒色に表示される。作業員は、緑色層の消失又は縮小と、消失又は縮小された緑色層に代わり黒色が帯状に延在していることを確認できる。この確認結果に基づいて、作業員は、軸受41に摩耗が進行していると判定できる。
【0056】
交換が必要とされる摩耗量は、ポンプ1の仕様、あるいは主軸3及び軸受の仕様に従って、予め決められている。緑色層(第1識別部材50においては最内周層50a、第2識別部材60においては最外周層60a)の径方向寸法は、この交換が必要とされる摩耗量の数十パーセントであってもよい。緑色層及び黄色層の径方向寸法の合計は、この交換が必要とされる摩耗量と同等であってもよい。このように、交換が必要とされる摩耗量と、各層の径方向寸法とを対応付けることで、作業員は、緑色層の消失(換言すれば、黄色層及び赤色層のみ表示)により、摩耗監視対象の交換時期が近いと認識できる。また、作業員は、緑色層及び黄色層の消失(換言すれば、赤色層のみ表示)により、摩耗監視対象の交換時期が到来していると認識できる。これにより、作業員は高い熟練を有していなくても、簡単に摩耗監視対象の摩耗の程度を判定でき、適時に交換作業を行うことができる。
【0057】
本実施形態では、撮像装置80によって撮像される第1識別部材50の表面が傾斜面53であり、傾斜面53は径方向に対して傾斜する。そして、撮像部82の光軸Lも、径方向に対して傾斜しており、傾斜面53の法線方向に沿っている。このため、画像データ内の見かけ上の摩耗量が、現実の摩耗量(径方向に対して軸方向に傾斜しない方向における摩耗量)よりも拡大される。したがって、作業員は、撮像結果に基づいて識別部材ひいては摩耗監視対象の摩耗の程度を判定しやすい。
【0058】
このように摩耗監視対象の摩耗の程度の判定を実現するための装置が、摩耗監視対象に識別部材を設置し、この識別部材の表面を撮像する撮像装置80を導入するための導入部4をポンプ1に付設することによって実現されている。したがって、摩耗監視対象の摩耗の程度の判定を簡素な構成で実現できる。
【0059】
下軸受ケーシング15の内部構造も、上軸受ケーシング16の内部構造と同様である。ただし、下軸受ケーシング15の内部構造は、上軸受ケーシング16の内部構造と上下逆である。軸受31は、下軸受ケーシング15の下端部に嵌合する軸受ホルダ(詳細図示省略)に保持され、第1識別部材は軸受31の上端面に設置され、第2識別部材はスリーブ(詳細図示省略)の上端部に形成され且つ上方に向けられた面上に設置される。分岐部4cの末端開口は、軸受31に対して上方に配置され、撮像装置は、第1識別部材及び第2識別部材の表面を上から撮像する。これにより、作業員は、上記同様にして、軸受31及びこれに嵌め込まれるスリーブの摩耗の程度も容易に判定できる。
【0060】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更、追加又は削除可能である。
【0061】
摩耗監視対象は、必ずしも軸受及びスリーブの両方でなくてもよく、軸受及びスリーブの一方のみであってもよい。下軸受ケーシング15内の摩耗監視対象と、上軸受ケーシング16内の摩耗監視対象とが異なっていてもよい。軸受及びスリーブのうち摩耗監視対象から外れたものについては、これに設置されるべき識別部材を省略可能である。
【0062】
撮像装置によって撮像されるべき識別部材の表面は、径方向に対して軸方向に傾斜していなくてもよい。上記実施形態のように、第2識別部材60の表面(頂面62)は傾斜していなくても、光軸Lが傾斜していることで、摩耗量の見かけ上の拡大効果は得られる。なお、光軸Lは軸方向に平行であってもよい。
【0063】
識別部材の表面に着色される色は、上記実施形態のものに限定されない。また、使用される色数も、上記実施形態のものに限定されない。
【0064】
摩耗を目視で判定できるように、識別部材に付される識別子は、径方向内周側から外周側に向けた色分けに限定されない。径方向の摩耗の有無を目視で識別可能に構成されていれば、識別子はどのように構成されていてもよい。例えば、識別子は、ケガキ線であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 ポンプ
2 ケーシング
2a 吸込口
2b 吐出口
3 主軸
3a 羽根車
4 導入部
4a 通路
4b 共通部
4c,4d 分岐部
11 ラッパ管
12 インペラケーシング
13 揚水管
14 吐出エルボ管
15 下軸受ケーシング
16 上軸受ケーシング
18 リブ
19 リブ
20 羽根車
31 軸受
41 軸受
41a 下端面
42 軸受ホルダ
42a 外フランジ
42b 内フランジ
43 軸受押え
46 スリーブ
46a 段差面
50 第1識別部材
50a 最内周層
50b 中間層
50c 最外周層
51 底面
52 内周面
53 傾斜面
60 第2識別部材
60a 最外周層
60b 中間層
60c 最内周層
61 底面
62 頂面
63 外周面
64 内周面
80 撮像装置
81 ケーブル
82 撮像部
83 操作部
90 水槽
91 据付床
L 光軸