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特開2025-23127含酸素炭化水素類製造システム、その製造方法及び運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023127
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】含酸素炭化水素類製造システム、その製造方法及び運転方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/152 20060101AFI20250206BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20250206BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250206BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20250206BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20250206BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20250206BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20250206BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20250206BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20250206BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20250206BHJP
   B01J 23/80 20060101ALI20250206BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20250206BHJP
   C07C 29/154 20060101ALN20250206BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
C07C29/152
C25B1/23
C25B9/00 A
C25B15/02
C07C31/04
B01J23/755 M ZAB
B01J23/745 M
B01J23/83 M
B01J23/42 M
B01J23/63 M
B01J23/80 Z
C01B3/02 H
B01J23/755 M
C07C29/152 ZAB
C07C29/154
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024208574
(22)【出願日】2024-11-29
(62)【分割の表示】P 2021076157の分割
【原出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
(57)【要約】
【課題】水と二酸化炭素を原料として含酸素炭化水素類を合成する含酸素炭化水素類製造システムとして、含酸素炭化水素類合成に必要な水素及び一酸化炭素を確保して含酸素炭化水素類を製造することができる含酸素炭化水素類製造システムを提供する。
【解決手段】電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20と含酸素炭化水素類合成反応部40とを少なくとも有し、逆水性ガスシフト反応部20の含酸素炭化水素類合成反応部40側の出口での一酸化炭素に対する水素の比を、含酸素炭化水素類合成反応部40で生じる含酸素炭化水素類の合成反応に適合する一酸化炭素に対する水素の当量比に応じて調整する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水と二酸化炭素から含酸素炭化水素類を製造する含酸素炭化水素類製造システムであって、
電解反応部と逆水性ガスシフト反応部と含酸素炭化水素類合成反応部とを少なくとも有し、
前記逆水性ガスシフト反応部の前記含酸素炭化水素類合成反応部側の出口での一酸化炭素に対する水素の比を、前記含酸素炭化水素類合成反応部で生じる前記含酸素炭化水素類の合成反応に適合する一酸化炭素に対する水素の当量比に応じて調整する含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項2】
前記電解反応部に導入する水と二酸化炭素の比率を調整する形態で、前記逆水性ガスシフト反応部の出口での一酸化炭素に対する水素の比を調整する請求項1に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項3】
前記電解反応部における反応条件を調整する形態で、前記逆水性ガスシフト反応部の出口での一酸化炭素に対する水素の比を調整する請求項1又は2に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項4】
前記逆水性ガスシフト反応部における反応条件を調整する形態で、前記逆水性ガスシフト反応部の出口での一酸化炭素に対する水素の比を調整する請求項1~3の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項5】
前記電解反応部において、水の電解反応が行われる請求項1~4の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項6】
前記電解反応部において、水と二酸化炭素の共電解反応が行われる請求項1~4の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項7】
前記逆水性ガスシフト反応部が、金属酸化物と活性金属成分とを少なくとも含む逆水性ガスシフト触媒を有する請求項1~6の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項8】
前記含酸素炭化水素類合成反応部が、金属酸化物と活性金属成分とを少なくとも含む含酸素炭化水素類合成触媒を有する請求項1~7の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製
造システム。
【請求項9】
前記電解反応部が、支持体の上に電極層と電解質層と対極電極層が少なくとも形成された電解セルを有する請求項1~8の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項10】
前記支持体が金属である請求項9に記載の含酸素炭化水素類製造システム。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システムの製造方法であって、金属酸化物担体に活性金属成分を含浸担持する含浸担持工程を経て得られる含浸担持物を前記逆水性ガスシフト反応部に配置する含酸素炭化水素類製造システムの製造方法。
【請求項12】
請求項1~10の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システムの製造方法であって、共沈法によって沈殿物を形成する共沈工程を経て得られる沈殿物を前記含酸素炭化水素類合成反応部に配置する含酸素炭化水素類製造システムの製造方法。
【請求項13】
請求項1~10の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システムの運転方法であって、前記逆水性ガスシフト反応部に還元前処理を施した後に運転する含酸素炭化水素類製造システムの運転方法。
【請求項14】
請求項1~10の何れか一項に記載の含酸素炭化水素類製造システムの運転方法であって、前記含酸素炭化水素類合成反応部に還元前処理を施した後に運転する含酸素炭化水素類製造システムの運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも水と二酸化炭素からメタノールなどの含酸素炭化水素類を製造する含酸素炭化水素類製造システムに関するとともに、この含酸素炭化水素類製造システムの製造方法及び運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の含酸素炭化水素類製造システムが特許文献1又は2に開示されている。
特許文献1に開示のシステムは、水蒸気と二酸化炭素の電気的還元を行う固体酸化物形電解装置を具備した合成ガス発生器と、合成ガス発生器で発生した合成ガスを用いてメタノール等の燃料の合成を行う燃料合成器とを備え、合成ガス発生器から燃料合成器に合成ガスを供給するための供給路から分岐し、発生した合成ガスの一部を任意の流量、割合で合成ガス発生器の入り口に循環させる機構を具備するシステムが開示されている。
【0003】
一方、特許文献2に開示のシステムは、高温で水蒸気を電気分解して水素を生成する水蒸気電解装置と、高温で二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素を生成する二酸化炭素電解装置と、それらで生成された水素と一酸化炭素を用いてメタノール合成を行うメタノール合成装置とを備えるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-152219号公報
【特許文献2】特開2017-178810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、水蒸気と二酸化炭素を共に電気分解して水素と一酸化炭素(CO)を得る、所謂共電解を行う電解反応部が開示されているが、その電解反応部から得られる合成ガス(水素とCOの混合ガス)の組成が、例えばメタノール合成に適した組成に成り難いため、電解反応部の出口ガスを電解反応部の入口に循環させる構成としている。なお、具体的にどのような条件で電解反応部の出口ガスを電解反応部の入口に循環させれば良いのか記載は無い。
【0006】
特許文献2では、水蒸気を電気分解して水素を得る電解反応部と、二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素(CO)を得る電解反応部とを個別に備え、それぞれで得られた水素とCOを混合してメタノール合成を行う構成としている。
【0007】
このように、メタノールなどの含酸素炭化水素を製造するために必要な水素とCOの混合ガスを電解反応によって得ようとする場合、水素とCOの比率を調整することが難しいため、電解反応部を2つに分けたり、電解反応ガスを循環させる構成にしたりするなどの対策が必要となり、システムのコストが高くなり、また、システムが大型化するという課題があった。
【0008】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、水と二酸化炭素を原料として含酸素炭化水素類を合成する含酸素炭化水素類製造システムにおいて、簡便な方法で含酸素炭化水素類合成に必要な水素及び一酸化炭素を確保して含酸素炭化水素類を製造することができるコンパクトで高効率かつ低コストな含酸素炭化水素類製造システムを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1特徴構成は、
少なくとも水と二酸化炭素から含酸素炭化水素類を製造する含酸素炭化水素類製造システムであって、電解反応部と逆水性ガスシフト反応部と含酸素炭化水素類合成反応部とを少なくとも有する点にある。
【0010】
この含酸素炭化水素類製造システムでは、電解反応部、逆水性ガスシフト反応部及び含酸素炭化水素類合成反応部を設ける。この構成において、各部位の空間的な位置関係を問うものではないが、少なくともこれらの部位間を移流するガスに関して、電解反応部で分解されたガスが逆水性ガスシフト反応部に移流し、この部位での反応を経て得られる水素及び一酸化炭素が含酸素炭化水素類合成反応部に移流し、メタノールやジメチルエーテル(DME)などの含酸素炭化水素類が合成されればよい。
【0011】
即ち、電解反応部ではこの部位に供給されるガスを分解して少なくとも水素を得る。逆水性ガスシフト反応部では、二酸化炭素から一酸化炭素を生成し、含酸素炭化水素類合成反応部での含酸素炭化水素類の合成に必要となる一酸化炭素をこの反応で得る。結果、電解反応部で得られる水素に加えて、逆水性ガスシフト反応部で生成される一酸化炭素を利用して、含酸素炭化水素類合成反応部で含酸素炭化水素類を効率的に得ることができる。
【0012】
従って、電解反応部において一酸化炭素の生成が良好に行われない場合でも、逆水性ガスシフト反応部を設けることで、一酸化炭素を充分確保できる。
【0013】
また、電解反応部は高温での反応であるが、吸熱反応である逆水性ガスシフト反応部を電解反応部と組み合わせることでシステム効率を高めることができる。
【0014】
本発明の第2特徴構成は、前記含酸素炭化水素類がメタノールである点にある。
【0015】
本特徴構成によれば、少なくとも水と二酸化炭素から、電解反応部と逆水性ガスシフト反応部と含酸素炭化水素類合成反応部とを少なくとも有するシステムを用いて、化学原料等として有用なメタノールを高いシステム効率で得ることができる。
【0016】
本発明の第3特徴構成は、前記電解反応部において、水の電解反応が行われる点にある。
【0017】
本特徴構成によれば、含酸素炭化水素類合成反応部で必要となる水素を、水および水蒸気の一種以上の電気分解で得ることができる。
【0018】
本発明の第4特徴構成は、前記電解反応部において、水と二酸化炭素の共電解反応が行われる点にある。
【0019】
本特徴構成によれば、電解反応部において水と二酸化炭素を共に分解することで、水素及びある程度の一酸化炭素を得ることができる。先にも示したように、共電解は主に水素の供与に寄与するが、本発明に係る含酸素炭化水素類製造システムでは、電解反応部の下手に逆水性ガスシフト反応部を備えることにより、不足ぎみとなる一酸化炭素をこの逆水性ガスシフト反応部で補うことができる。さらに、電解反応部で共電解を行うように構成すると、電解反応部から流入するガスは、水、水素、二酸化炭素及び一酸化炭素を含むため、ほぼそのまま逆水性ガスシフト反応を起こさせることができる。
【0020】
本発明の第5特徴構成は、
前記逆水性ガスシフト反応部が、金属酸化物と活性金属成分とを少なくとも含む逆水性ガスシフト触媒を有する点にある。
【0021】
本特徴構成によれば、金属酸化物と活性金属成分とを少なくとも含む触媒を逆水性ガスシフト触媒として使用して、逆水性ガスシフト反応を起こさせることができる。なお、例えば、金属酸化物を担体として、活性金属成分を含浸担持させて得た含浸担持物を逆水性ガスシフト触媒として前記逆水性ガスシフト反応部に配置することができる。これが本発明の第12特徴構成となる。
このように金属酸化物の担体に活性金属成分が担持された触媒は、活性金属成分が溶解した溶液内に金属酸化物担体を浸漬する等の操作により、容易に製造することができる。従って、触媒における金属酸化物担体の濃度、活性金属成分の濃度を良好に管理でき好ましい。
【0022】
ここで、この種の触媒(逆水性ガスシフト触媒)を得るには、450℃以上の温度で焼成する焼成工程を経て製造することが好ましい。600℃以上、800℃以上とすることがさらに好ましい。この触媒は高温域においてその平衡反応を、本発明が目的とする逆水性ガスシフト反応側に進めることができるため、高温側で使用の必要があるとともに、さらに高温耐性を必要とされるためである。例えば、比較的高温域(例えば、600℃~800℃)で用いる固体酸化物形電解セルと組み合わせる場合でも、触媒を安定的に使用することができる。また、焼成温度を高くし過ぎると焼成工程にかかるコストが高くなり過ぎるため、その上限は1200℃程度である。
【0023】
また、使用に際しては、還元前処理を施した後に使用することが好ましい。
上記のように焼成工程を経て得られる触媒は触媒活性成分の少なくとも一部が酸化物の状態にあり、その活性を充分発揮できない場合がある。そこで、還元前処理を行って、酸化状態にある触媒活性成分が還元されて、充分、その活性を発揮させることができるためである。
【0024】
従って、これまで説明してきた含酸素炭化水素類製造システムに関し、その運転方法として、逆水性ガスシフト反応部に還元前処理を施した後に運転することが好ましい。これが本発明の第14特徴構成となる。
【0025】
さらに、このようにして得られる触媒(逆水性ガスシフト触媒)を、例えば金属支持体の表面に塗布することにより、その塗布面に接して移流するガスに逆水性ガスシフト反応を起こさせることができる。
【0026】
本発明の第6特徴構成は、
前記逆水性ガスシフト触媒が、前記活性金属成分として、ニッケルまたは鉄の内の少なくとも一方を含む逆水性ガスシフト触媒である点にある。
【0027】
本特徴構成によれば、活性金属成分としてニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を含むことで、後に表1、表2、表3、表4に基づいて説明するように、比較的高温側で高活性な触媒となる。
この構成の触媒の性能を触媒活性成分として高価な貴金属である白金と比較しても遜色のない活性を示した。
【0028】
触媒活性成分としてニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を使用する場合は、白金と比較して単位重量当たりのコストを1/1000以下に低減でき、コストの低減、或いは同一コストを掛ける場合、触媒使用量を各段に増加させることができ好ましい。
【0029】
なお、担体をセリア系金属酸化物もしくはジルコニア系金属酸化物とすることで、高温域での耐性を確保し易いので好ましい。
【0030】
本発明では、電解反応部の下流側(電解反応部で生成されるガスが移流する側)に逆水性ガスシフト反応部を設けるが、逆水性ガスシフト触媒の担体をセリア系金属酸化物もしくはジルコニア系金属酸化物とすることで、電解反応部を構成する材料と熱膨張係数が近いものとできるため、ほぼ、同一の高温域で良好に両部位での反応を発生させることができる。
【0031】
例えば、この逆水性ガスシフト触媒を得る場合、ニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を含有する溶液に、セリア系金属酸化物もしくはジルコニア系金属酸化物を主成分とする担体を添加し、前記担体に少なくともニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を含浸担持する含浸担持工程を少なくとも実行することで、逆水性ガスシフト触媒を製造することができる。
【0032】
本発明の第7特徴構成は、
前記含酸素炭化水素類合成反応部が、金属酸化物と活性金属成分とを少なくとも含む含酸素炭化水素類合成触媒を有する点にある。
【0033】
本特徴構成によれば、金属酸化物と活性金属成分とを少なくとも含む触媒を含酸素炭化水素類合成触媒として使用して、含酸素炭化水素類合成反応を起こさせることができる。なお、例えば、共沈法により、所望の金属成分を含む沈殿物を形成して得た触媒を含酸素炭化水素類合成触媒として前記含酸素炭化水素類合成反応部に配置することができる。これが本発明の第13特徴構成となる。
このような触媒では、金属酸化物や活性金属成分として、含有金属成分種や濃度の異なる複数の溶液を用いて沈殿物を得ることができるため、所望の金属含有量の沈殿物を容易に製造することができる。従って、触媒における金属酸化物の濃度、活性金属成分の濃度を良好に管理でき好ましい。
【0034】
ここで、この種の触媒(含酸素炭化水素類合成触媒)を得るには、沈殿物を焼成する焼成工程を経て製造することが好ましい。
【0035】
また、使用に際しては、還元前処理を施した後に使用することが好ましい。
上記のように焼成工程を経て得られる触媒は触媒活性成分の少なくとも一部が酸化物の状態にあり、その活性を充分発揮できない場合がある。そこで、還元前処理を行って、酸化状態にある触媒活性成分が還元されて、充分、その活性を発揮させることができるためである。
【0036】
従って、これまで説明してきた含酸素炭化水素類製造システムに関し、その運転方法として、含酸素炭化水素類合成反応部に還元前処理を施した後に運転することが好ましい。これが本発明の第15特徴構成となる。
【0037】
さらに、このようにして得られる触媒(含酸素炭化水素類合成触媒)を、例えば金属支持体の表面に塗布することにより、その塗布面に接して移流するガスに含酸素炭化水素類合成反応を起こさせることもできる。
【0038】
本発明の第8特徴構成は、
前記活性金属成分として、少なくとも銅を含む点にある。
【0039】
本特徴構成によれば、後に示すように、高い活性で含酸素炭化水素類を合成できる。
【0040】
本発明の第9特徴構成は、
前記電解反応部が、支持体の上に電極層と電解質層と対極電極層が少なくとも形成された電解セルを有する点にある。
【0041】
本特徴構成によれば、電解反応部で使用する電解セルとして、薄くても十分な強度を有する堅牢な支持体の上に、例えば薄膜状の電極層と電解質層及び対極電極層を備えることで、電解セルとなるこれら層を構成する材料使用量を低減しながら有効に電解反応を起こさせることができる。結果、コンパクトで高性能且つ強度と信頼性に優れた電解セルユニットを構成することができる。この種の支持体の構成材料としては、金属やセラミックスを選択できる。
【0042】
本発明の第10特徴構成は、
前記支持体が金属である点にある。
【0043】
支持体として金属を採用することで、安価な金属材料で強度を確保することで材料コストを抑制し、セラミックスより加工しやすい。
【0044】
本発明の第11特徴構成は、
前記逆水性ガスシフト反応部が、前記電解反応部の内部に組み込まれる点にある。
【0045】
本特徴構成によれば、吸熱反応である逆水性ガスシフト反応に必要な反応熱を電解反応部の排熱を利用することができるため、高効率な含酸素炭化水素類製造システムを得ることができる上に、システムをコンパクト化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】含酸素炭化水素類製造システムの構成を示す図
図2】電解反応部の構成を示す模式図
図3】電解反応部と逆水性ガスシフト反応部とを一体化したシステムの構成を示す図
図4】電解反応部及び逆水性ガスシフト反応部を備えた電解セルユニットの模式図
図5】電極層側ガス供給路を逆水性ガスシフト反応部とした比較実験に使用した電解セルユニットの断面図
図6】電解反応部と逆水性ガスシフト反応部との間に熱交換器を備えるシステムの構成図
図7】COを逆水性ガスシフト反応部に導く含酸素炭化化水素類製造システムの別構成を示す図
図8】水素分離部を備えた含酸素炭化水素類製造システムの別構成を示す図
図9】電解反応部に水のみを導入する含酸素炭化水素類製造システムの更なる別構成を示す図
図10】触媒の調製状態を示す説明図
図11】触媒の塗布・焼成状態及び還元前処理を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、今般発明者らが提案する含酸素炭化水素類製造システム100の1形態の構成を示している。
【0048】
同図に示すように、この含酸素炭化水素類製造システム100は、電解反応部10、第1触媒反応部20、水分離部30(HO分離部と図示)、第2触媒反応部40及び二酸化炭素分離部50(CO分離部と図示)を順に備えて構成されている。
【0049】
前記電解反応部10は流入するガスの少なくとも一部を電気分解する部位であり、前記第1触媒反応部20は流入するガスの少なくとも一部を逆水性ガスシフト反応する逆水性ガスシフト反応部であり、前記第2触媒反応部40は流入するガスの少なくとも一部を含酸素炭化水素類に合成する含酸素炭化水素類合成反応部として働くように構成されている。ここで、合成される含酸素炭化水素類は、主にはメタノールであるが、脱水工程を含めるなどしてジメチルエーテル(DME)なども合成できる。
【0050】
水分離部30及び二酸化炭素分離部50は、内部を流れるガスから所定の成分(記載順に、HO、CO)の少なくとも一部を除去する部位である。水分離部30及び二酸化炭素分離部50により除去・回収される成分は、図1に示すように、水戻し路31及び二酸化炭素戻し路51を介して、システムの所定の部位に戻されて再利用される。両戻し路31、51の上に、それぞれを経て戻されるHO及びCOで示している。
結果、この含酸素炭化水素類製造システム100は、実質的にCOをシステム外に放出することの無いカーボンクローズドシステムとして成立する。
【0051】
同図において、各部の前に各部に流入するガスを示し、後に当該部から放出されるガスを示した。
【0052】
前記電解反応部10では、出発原料としての、HO及びCOとが流入され、内部で電気分解されて、HOはHとOとに分解されるとともに、一部のCOがCOとOとに分解され放出される。
【0053】
反応は、以下の様に記載される。
2HO→2H+O (式1)
2CO→2CO+O (式2)
これらの式1、2は図1の電解反応部10を示す箱内にも示した。
【0054】
前記第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)では、HとCOが流入され、
内部で逆水性ガスシフト反応が起こり、COがCOに、HはHOになり放出される。
【0055】
反応は、以下の平衡反応として記載されるが、逆水性ガスシフト反応は、以下の式3で記載される反応が右側に進む反応(COとHが反応してCOとHOが生成する方向に進む反応)となる。
CO+H⇔CO+HO (式3)
この式3は図1の第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)を示す箱内にも示した。この箱内には、反応に使用する逆水性ガスシフト触媒cat1も模式的に示した。
【0056】
前記水分離部30において生成したHOは分離され、水戻し路31(水リサイクルライン)を介して電解反応部10の上流側に戻される。
【0057】
前記第2触媒反応部40(含酸素炭化水素類合成反応部)では、少なくともHとCOが流入され、触媒反応により含酸素炭化水素類が合成される。例えば、COとHからメタノール(CHOH)が合成される反応は以下の平衡反応として記載されるが、COとHからメタノール(CHOH)が合成される反応は、以下の式4で記載される反応が右側に進む反応(COとHが反応してCHOHが生成する方向に進む反応)となる。
CO+2H⇔CHOH (式4)
この式4は図1の第2触媒反応部40(含酸素炭化水素類合成反応部)を示す箱内にも示した。
さらに、この部位では(式3)の平衡反応も発生し得る。
【0058】
前記二酸化炭素分離部50において生成したCOは分離され、二酸化炭素戻し路51(二酸化炭素リサイクルライン)を介して電解反応部10の上流側に戻される。
【0059】
結果、この含酸素炭化水素類製造システム100では、最終的には含酸素炭化水素類が合成され、外部に供給することができる。
【0060】
以上が、上記の含酸素炭化水素類製造システム100の概要であるが、以下、各部の構成及びその役割に関して説明する。
〔電解反応部〕
先にも示した様に、この電解反応部10は、上記式1、式2に従って供給される電力を消費して流入するHO及びCOを分解する。
【0061】
図2に、この電解反応部10の断面構成を模式的に示した。
同図は、複数積層されて電解スタック(図示省略)を形成する電解セルユニットUを示したものであり、この電解セルユニットUは電解セル1を備え、電解セル1は、電解質層1aの一方の面に電極層2を、他方の面に対極電極層3を備えて構成される。電極層2は電解セル1におけるカソードとなり、対極電極層3がアノードとなる。因みに、この電解セルユニットUは、金属支持体4により支持されている。なお、ここでは、電解セル1として固体酸化物形電解セルを用いた場合を例示している。
【0062】
前記電解質層1aは、その厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成できる。その構成材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0063】
この電解質層1aは、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層1aが得られる。そのため、金属支持体4の損傷を抑制し、また、金属支持体4と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた電解セルユニットUを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層1aが低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0064】
また、電解質層1aはガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層1aの緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層1aは、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層1aが、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層1aの一部に含まれていると、電解質層1aが複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層1aを形成しやすくできるからである。
【0065】
電極層2は、金属支持体4の表側の面であって孔4aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。孔(貫通孔)4aが設けられた領域の全体が、電極層2に覆われている。つまり、孔4aは金属支持体4における電極層2が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての孔4aが電極層2に面して設けられている。
【0066】
この電極層2の構成材料は、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。なお、電極層2は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層2が得られる。そのため、金属支持体4を傷めることなく、また、金属支持体4と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子を実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0067】
対極電極層3は、電解質層1aの電極層2とは反対側の面に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。対極電極層3の材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物およびこれらの混合物を用いることができる。特に対極電極層3が、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。
これら電解質層1a、電極層2及び対極電極層3は、後述するように薄膜として形成されており、発明者は、これを薄層状に形成と呼んでいる。
【0068】
先にも示したように、電解セルユニットUは金属支持体型としており、電極層2の支持体として金属支持体4を備え、この金属支持体4を挟んだ電極層2とは反対側にU字型の電極層側ガス供給路5aを形成する供給路形成部材5を設けている。さらに、この金属支持体4に表裏面を貫通する状態で多数の孔4aを設けている。電極層側ガス供給路5aを介して供給されるガス(HO及びCO)は電気分解の対象となり、多数の孔4aを介して電極層2に供給される。さらに、生成されるガス(H、CO)は、この孔4aから流出される。
【0069】
一方、対極電極層3側に関しても、対極電極層側ガス供給路6aを形成するための供給路形成部材6を設けている。この供給路形成部材6は、図示するように、対極電極層3側に多くの溝を設け、この対極電極層側ガス供給路6aに搬送用のガスg2(例えば空気等)を供給するように構成されている。
【0070】
そして、金属支持体4は、電極層2、電解質層1a、対極電極層3を支持して電解セル1及び、電解セルユニットU全体の強度を保つ支持体としての役割を担う。この例では、金属支持体として板状の金属支持体4が用いるが、他の形状、例えば箱状、円筒状などの形状も可能である。
なお、金属支持体4は、支持体として電解セルユニットUを形成するのに充分な強度を有すれば良く、例えば、0.1mm~2mm程度、好ましくは0.1mm~1mm程度、より好ましくは0.1mm~0.5mm程度の厚みのものを用いることができる。本実施形態では、支持体を金属としているが、例えばセラミックスとすることも可能である。
【0071】
金属支持体4は、例えば、金属板の表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の孔4aを有する。例えば、孔4aは、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工などにより、金属支持体4に設けることができる。孔4aは、金属支持体4の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する。この孔4aは、ガスの移流方向(図2における紙面表裏方向)に傾けて設けてもよい。
【0072】
金属支持体4の基材の材料としてフェライト系ステンレス材(Fe-Cr系合金の一例)を用いることで、電極層2や電解質層1aの材料として用いられるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウム・ドープ・セリア、CGOとも呼ぶ)等と熱膨張係数を近づけることができる。従って、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も電解セルユニットUがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた電解セルユニットUを実現できるので好ましい。
【0073】
前記電解セルユニットUの供給路形成部材5、6には金属支持体4と同様の材料を採用することができ、その厚さもほぼ同一とできる。
【0074】
金属支持体4、両供給路形成部材5、6は導電性を有するが、気密に構成されることにより、各供給路5a、6aを分離するセパレータとして働くこととなる。
【0075】
以上の構成を有する電解セルユニットUは、電気分解動作にあっては電力供給部(図2において電池で示した)から電解質層1aを挟んで設けられる一対の電極層2、3間に直流電力を供給する。本実施形態では、図示するように電極層2側をマイナスに、対極電極層3側をプラスとする場合を示している。なお、電解セルユニットUの構成によっては、電極層2側をプラスに、対極電極層3側をマイナスにする場合もある。
そして、電極層2に、電気分解対象のガスであるHO及びCOを電解原料供給部(図1における電解反応部10の上流部位)から供給するとともに、対極電極層側に搬送用ガスg2を供給することで、電解セル1内で式1、式2に示した反応を起こさせ、分解されたガスを取り出すことができる。ここで、HOの供給に関しては、水と水蒸気の何れか一方であってもよいし、それらの両方であってもよい。従って、本発明にあっては、電解セルユニットUと、この電解セルユニットUに水および/または水蒸気と二酸化炭素を供給する電解原料供給部と、電力を供給する電力供給部とを少なくとも備えて電解セル装置が構築される。
【0076】
電解反応において供給するガス(HO、CO)及び放出されるガス(HO、H、CO、O、CO)を、図2では、電解セルユニットUの上下に記載しているが、これは理解を容易とするためであり、実際は、上述の電極層側ガス供給路5a及び対極電極層側ガス供給路6aは、図2の紙面表裏方向に延びて形成されており、例えば、図2において電解セルユニットUの上側に記載の供給側のガス(HO、CO)を紙面表側から、電解セル1の下側に記載の放出側のガス(HO、H、CO、O、CO)を紙面裏側から、回収動作することができる(後述する図4参照のこと)。なお、電解反応において生成するOの排出をスムーズにするために、例えば空気などの搬送用ガスg2を電解セルユニットUに流すこともできる。
【0077】
電解反応部10にHOとCOを供給して電気分解する場合、HOの方がCOよりも電解電圧が低く、電気分解されやすいため、仮に、同量のHOとCOを電解反応部10に供給して電解反応を行う場合、電解反応部10の出口ではCO濃度よりもH濃度の方が高くなり易く、未反応のCOが残り易い。
【0078】
〔第1触媒反応部(逆水性ガスシフト反応部)〕
先にも示した様に、第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)は、逆水性ガスシフト反応を起こさせて、供給されるHを使用してCOをCOに変換し、HをHOとする。即ち、HOとCOを供給して電気分解する電解反応部10において、分解されることなく残存しているCOをCOに変換する。
【0079】
ここでの反応は、式3で示した通りであるが、この反応は吸熱反応であり、反応温度条件に応じた平衡反応である。結果、先にも説明したように、できるだけ高温側(例えば、600℃~800℃)で式3で示す反応を起こさせることができる触媒であると好ましい。
【0080】
本明細書での触媒の説明に際して、触媒として活性を有する成分を「触媒活性成分」と、当該触媒活性成分を担持する担持体を「担体」と記載することがある。
発明者らは後述するように様々な触媒活性成分及び担体の組み合わせを検討したが、特定の組み合わせが好適であることを見出した。
この種の触媒の製造は、触媒活性成分(活性金属成分)を含有する溶液に担体(金属酸化物)を浸漬し、取り出して乾燥・加熱処理する含浸担持工程を実行することで、担体表面に触媒活性成分が分布する担体担持型の触媒(含浸担持物)を容易に得ることができる。この加熱処理は焼成処理となる。触媒の調製及び使用に関しては、図10図11を参照して説明する。
【0081】
ここで説明する調製方法は、様々な触媒活性成分、担体の組み合わせにおいて、出発原料を異にするだけで同様である。図10には、本発明に係る逆水性ガスシフト触媒cat1の例を示した。同図において、逆水性ガスシフト触媒cat1の触媒活性成分をca1と、その担体をcb1と表記している。
【0082】
図10に示すように、触媒調製では、触媒活性成分ca1となる金属成分を含有する化合物の水溶液を得て、当該水溶液に担体cb1を投入して、撹拌、含浸する含侵担持工程(a)を実行した後、蒸発乾固、乾燥、その後、粉砕成形する乾燥・粉砕・成形工程(b)等を実行し、得られた成形体を、空気中で焼成する焼成工程(c)を実行することで、
目的物(cat1)を得ることができる。従って、この形態の触媒は含浸担持触媒とも呼ばれる。
【0083】
この場合、図11に、逆水性ガスシフト触媒cat1の例で示すように、触媒を使用する部位に塗布して、焼成を行うこともできる。図11(a)には、孔4aが穿孔された金属支持体4に、逆水性ガスシフト触媒cat1を塗布して塗布層20aを形成し、焼成する塗布・焼成工程を示している。図11(b)には、この逆水性ガスシフト触媒cat1を使用する前に、Hを流して還元前処理する還元前処理工程を示している。
【0084】
なお、空気中で焼成処理を行うと、担持した触媒活性成分ca1は、その一部もしくは全部が酸化された状態となっている。触媒を使用する前に、所謂、還元前処理を行って、酸化状態にある触媒活性成分を還元して、その活性を充分高めることもできる。図11(b)には、触媒の表面に還元性ガス(代表的にはH)を流通させて還元前処理を行っている状態を示した。
【0085】
(使用する触媒)
この第1触媒反応部20に使用する逆水性ガスシフト触媒cat1として、発明者らは以下の要件を満たす触媒を選択している。
【0086】
セリア系金属酸化物もしくはジルコニア系金属酸化物を主成分とする担体cb1に、ニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を触媒活性成分ca1として少なくとも担持して構成される触媒。ここで、触媒cat1の強度を高めることができるので、触媒全体に対する担体cb1の割合は55重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であるとより好ましく、65重量%以上であると更に好ましい。また、この割合の上限は、例えば、99.5重量%とできるが、これ以上となると触媒活性成分ca1を充分に担持できなくなり、逆水性ガスシフト触媒cat1としての効果を得にくくなる場合があるからである。
【0087】
さらに、セリア系金属酸化物としては、ガドリニウム、サマリウム、イットリウムのうちの少なくともいずれか一つをドープしたセリアとすることもできる。
また、ジルコニア系金属酸化物としては、イットリア、スカンジアのうちの少なくともいずれか一つで安定化したジルコニアとすることもできる。
【0088】
なお、逆水性ガスシフト反応を良好に進行させることができるので、触媒活性成分ca1の担持量が0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であるとより好ましく、5重量%以上であると更に好ましい。また、触媒活性成分ca1の担持量を増やし過ぎても、高分散に触媒活性成分ca1を担持させることが困難となり、触媒活性の大幅な向上が得にくくなる上、触媒コストも高くなるので、前記触媒活性成分ca1の担持量が35重量%以下であると好ましく、30重量%以下であるとより好ましく、25重量%以下であると更に好ましい。
【0089】
さらに、ニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を触媒活性成分ca1に加えて、更なる触媒活性成分ca1として、銅を担持することも好ましい。この構成にあっては、銅の担持量は、主な媒活性成分ca1としてのニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を触媒活性成分ca1の担持量と同一以下とする。
【0090】
以下に、第1触媒反応部20に使用する逆水性ガスシフト触媒cat1として、触媒活性成分ca1及び担体cb1を様々に変更した場合の実施例の試験結果に関して説明する。
触媒活性成分ca1としては、Ni、Feを検討しPt(白金)と比較した。
担体cb1は、ZrO(ジルコニア)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、CeO(セリア)を実施例として、Al(アルミナ)も検討した。
【0091】
以下の説明では、試験例1及び試験例2を紹介するが、両試験の差異は、逆水性ガスシフト触媒cat1の焼成において、試験例1はその焼成温度を450℃とし、試験例2はその焼成温度を600℃~1000℃と高温側に設定している点にある。
【0092】
(試験例1)
第1触媒反応部20に使用する触媒として、担体を様々に変更した場合の実施例(1~19)の試験結果に関して説明する。
触媒活性成分としては、Ni、Feを検討しPt(白金)を比較した。
担体は、ZrO(ジルコニア)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウム・ドープ・セリア)、CeO(セリア)を実施例として、Al(アルミナ)も検討した。
【0093】
(触媒調製)
逆水性ガスシフト触媒cat1の調製に際しては、目的とする触媒の組成に従って、水溶性のニッケル化合物(硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、酢酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、クエン酸ニッケル等)、水溶性の鉄化合物
(硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、硫酸鉄アンモニウム、酢酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄等)
の何れか一方又は両方を定量し溶かした水溶液を得る。また、更なる触媒活性成分ca1として銅を担持する際には水溶性の銅化合物(硝酸銅、塩化銅、硫酸銅、硫酸銅アンモニウム、酢酸銅、シュウ酸銅、クエン酸銅等)を同様に定量し、溶かした水溶液を得る。当該水溶液に所定量の担体粉(セリア、ジルコニア、GDC、YSZ、Al)を投入し、撹拌、含浸した後、蒸発乾固、乾燥、その後、粉砕、成形した後、空気中で焼成する。この含侵が本発明にいう「含浸担持工程」であり、その結果物が「含浸担持物」である。
なお、下記の実施例の触媒は、硝酸ニッケル六水和物、硝酸鉄九水和物、硝酸銅三水和物をそれぞれ用いて調製した。また、Ptを用いた触媒はテトラアンミン白金水酸化物を用いて調製した。
【0094】
上記の触媒調製に於ける、上記の蒸発乾固や乾燥、焼成の温度は、一般的に用いられる温度域で実施できるが、試験例1では、下記の実施例の触媒は、それぞれ、80℃、80℃、450℃とした。
【0095】
表1に本発明に於ける逆水性ガスシフト触媒cat1の実施例1~19を示している。
なお、横軸は、担体cb1の種別、触媒活性成分としての金属担持量(重量%;表ではwt.%と表記)、CO吸着量(ml/g)、BET表面積(m/g)としている。
なお、CO吸着量については、触媒を350℃で水素雰囲気下1時間の還元前処理を施した後に、CO吸着量を測定した。
【0096】
【表1】
【0097】
(触媒活性試験)
触媒活性試験は、50%H-50%COの混合ガス(HとCOが1:1(体積比)で含まれる混合ガス)を反応ガスとして用い、GHSV(Gas Hourly Space Velocity)を10000/hの条件で、反応温度を600℃~800℃まで50℃刻みで変えながら行った。
なお、触媒活性試験を行う前に、水素ガスを触媒層に通流しながら600℃で触媒の還元前処理を行った。
試験結果として、CO転化率(%)と共に、反応部出口のCO濃度(%)、CH濃度(%)を表2に記載した。
【0098】
なお、CO転化率(%)は触媒層出口のガス分析結果を基に以下の式に従って算出した。
〔CH濃度〕+〔CO濃度〕/(〔CH濃度〕+〔CO濃度〕+〔CO濃度〕)
【0099】
先にも示したように、第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)で使用する逆水性ガスシフト触媒cat1としは、高温側(例えば、600~800℃付近)においてCO転化率(%)が高いことが望ましい。
【0100】
【表2】
【0101】
(試験例2)
以下、試験例2の実施例(20~29)の試験結果に関して説明する。この例でも、
触媒活性成分としては、Ni、Feを検討し、Cuの添加についても検討した。
担体は、CeO(セリア)、ZrO(ジルコニア)を実施例とし、Al(アルミナ)も検討した。
【0102】
(触媒調製)
試験例2で用いる逆水性ガスシフト触媒cat1は、焼成温度を600℃、800℃、1000℃に変更した以外は試験例1と同様の方法で調製した。
【0103】
表3に調製した実施例(20~29)のそれぞれの触媒を示す。
【0104】
【表3】
【0105】
(触媒活性試験)
触媒活性試験は、HとCOが1:1(体積比)で含まれる混合ガスを反応ガスとして用い、GHSVを10000/hの条件で、反応温度を600℃~800℃まで50℃刻みで変えながら行った。
なお、触媒活性試験を行う前に、水素ガスを触媒層に通流しながら600℃で触媒の還元前処理を行った。
試験結果として、CO転化率(%)と共に、反応部出口のCO濃度(%)、CH濃度(%)を表4に記載した。
【0106】
【表4】
【0107】
なお、参考までに、本実験条件でのCO転化率の平衡値(計算値)を表4に示した。
【0108】
鉄・ジルコニア触媒と鉄・アルミナ触媒
鉄・ジルコニア触媒について、焼成温度を450℃、600℃、800℃、1000℃とした場合の試験結果をそれぞれ実施例8、実施例22、実施例26、実施例29に示している。一方、鉄・アルミナ触媒については、焼成温度を450℃、600℃、800℃とした場合の試験結果をそれぞれ、実施例14、実施例23、実施例27に示している。
これらの結果から分かるように、金属担持量は若干異なるが、鉄・ジルコニア触媒は鉄・アルミナ触媒よりも逆水性ガスシフト反応を行う上で、その活性に優れている。また、鉄・ジルコニア触媒は、焼成温度が450℃のもののみならず、600℃、800℃、1000℃と焼成温度を高くしたものでも非常に高い触媒活性を有しており、いずれの焼成温度にした場合でも、CO転化率が平衡値の近傍に達している。
【0109】
ニッケル・セリア触媒
焼成温度を450℃、600℃、800℃、1000℃とした場合の試験結果をそれぞれ実施例4、実施例20、実施例24、実施例28に示している。これらの結果から分かる様に、ニッケル・セリア触媒は、焼成温度が450℃のもののみならず、600℃、800℃、1000℃と焼成温度を高くしたものでも非常に高い触媒活性を有しており、いずれの焼成温度にした場合でも、CO転化率が平衡値の近傍に達している。
【0110】
ニッケル・アルミナ触媒
焼成温度を450℃とした場合の試験結果を実施例7に示している。この結果では、ニッケル・アルミナ触媒では、先に述べたニッケル・セリア触媒と比べるとCO転化率は低い結果となった。
【0111】
ニッケル・銅・セリア触媒
焼成温度を450℃、600℃、800℃とした場合の試験結果をそれぞれ実施例6、実施例21、実施例25に示している。これらの結果から、ニッケル・銅・セリア触媒では、焼成温度が600℃や800℃のように高くなると若干CO転化率が低下する傾向が見られるが、先に述べた焼成温度条件が同様の鉄・アルミナ触媒より優れている。また、焼成温度が450℃のニッケル・銅・セリア触媒では、CO転化率が平衡値の近傍に達している。
【0112】
逆水性ガスシフト触媒としての有用性
以上に示したように、鉄・ジルコニア系触媒やニッケル・セリア系触媒では、焼成温度を450℃~1000℃のように種々変更しても、非常に高い逆水性ガスシフト触媒活性を示すため、例えば600℃~800℃付近の高温域で使用する固体酸化物形の電解セルと組み合わせて使用する場合でも、高い性能と耐久性を確保し易くなり有用である。
【0113】
以上の結果から、先にも示したように、この第1触媒反応部20に使用する逆水性ガスシフト触媒cat1として、セリア系金属酸化物もしくはジルコニア系金属酸化物を主成分とする担体cb1に、ニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を触媒活性成分ca1として少なくとも担持して構成される触媒を使用することができる。
【0114】
さらに、担体cb1としてのセリア系金属酸化物としては、ガドリニウム、サマリウム、イットリウムのうちの少なくともいずれか一つをドープしたセリアとすることもできる。
【0115】
また、担体cb1としてのジルコニア系金属酸化物は、イットリア、スカンジアのうちの少なくともいずれか一つで安定化したジルコニアとすることもできる。
【0116】
さらに、ニッケル及び鉄の何れか一方又は両方を触媒活性成分ca1に加えて、更なる触媒活性成分ca1として銅を担持することも好ましい。
【0117】
そして、第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)に、上記逆水性ガスシフト触媒cat1を使用することにより、600~1000℃付近において、高活性ではあるが非常に高価であるPt触媒と同等以上のCO転化率(%)で逆水性ガスシフト反応を行うことができる。
なお、本実施例の試験は、10000/hという非常に高いGHSV条件で行った試験であるので、GHSVを10000/hよりも小さくした条件、すなわち、処理するガス量に対して使用する触媒量を増やすことで、より高いCO転化率(%)で逆水性ガスシフト反応を行うことも可能となる。
【0118】
〔電解反応部と逆水性ガスシフト反応部の組み合わせ〕
これまでの説明では、図1に示すシステム構成に従って、ガスの移流方向に沿って電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20とを記載順に個別に設ける構成に沿って説明した。
電解反応部10の反応は反応条件によっては発熱反応となり、逆水性ガスシフト反応部20の反応は吸熱反応である。そこで、これら二つの反応部10、20を一体化することでシステムの熱効率を高めることができる。このように、これら二つの反応部10、20を組み合わせて、一体化する場合の構成を示したのが図3であり、一体とされていることを両部位を囲って示している。また、同箱内にこのように一体化された場合の反応を示した。基本的には、先に示した式1、式2、式3が行われることとなる。なお、電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20を組み合わせて、一体化する場合、それらを断熱性部材で共に囲うと、電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20との間の熱の授受を効率良く行えるので好ましい。また、電解反応部10で発生する熱を逆水性ガスシフト反応部20に伝熱させるために伝熱性部材を用いて電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20とを接続させても良い。
【0119】
〔電解反応部と逆水性ガスシフト反応部とを共に備えた電解セルユニット〕
上記概念に基づいて、電解反応部10となっている電解セルユニットUに、逆水性ガスシフト反応部20を設けることが好ましい。これは、電解セル1として600~800℃付近において作動する固体酸化物形電解セルを用いた場合、600~800℃付近において高い活性が得られる本願の逆水性ガスシフト触媒cat1では、電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20とを同程度の温度域で使用できるからである。
この場合も、電解反応部10を通過したガスが逆水性ガスシフト反応部20に導かれて逆水性ガスシフト反応を発生できればよい。
【0120】
このような逆水性ガスシフト反応部20を併設した電解セルユニットUを図4に示した。図4は、図2において断面で示した電解セルユニットUを、そのガスの移流方向を含めて描いた図である。
【0121】
同図に示すように、電解セルユニットUの断面は基本的に同一である。
即ち、この電解セルユニットUも、電解質層1aを挟んで電極層2と対極電極層3が形成された電解セル1、その支持体としての機能を有するとともに、セパレータとして働く金属支持体4、供給路形成部材5、6を備えて構成されており、電極層側ガス供給路5a及び対極電極層側ガス供給路6aが形成される構成とされている。さらに詳細に説明すると、図からも判明するように、金属支持体4をガスの移流方向でみると、電解セル1に対応する部位には孔4aを設けているが、電極層2より下流側には孔を設けてはいない。従って、金属支持体4は、上記の電極層2に供給されるとともにこの電極層2から放出されるガスと、対極電極層3ガスに供給されるとともにこの対極電極層3から放出されるガスとを、有効に分離するセパレータとなる。
【0122】
ただし、この例では、前記電極層側ガス供給路5aの内面(供給路形成部材5の供給路側内面、金属支持体4の電極層2を形成した面とは反対側の面及び複数の孔4aの表面)に、先に説明した逆水性ガスシフト触媒cat1が塗布されている。この塗布層20aを太実線で示した。この構成は、逆水性ガスシフト反応部20が電解反応部10の内部に組み込まれる例となる。
さらに、電極層側ガス供給路5aは、電解反応部10を超えて先に延ばされており、この延長側にも、前記塗布層20aを設けている。
【0123】
結果、電解セルユニットUの電極層側ガス供給路5aは、電極層2で発生する少なくともHを排出する排出路とされており、電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20とを一体に電解セルユニットUに備えた構成となる。
【0124】
この構成では、金属支持体4が電極層2で発生するHと対極電極層3で発生するOを分離するセパレータとして働く構成とされ、このセパレータのHの排出路側の少なくとも一部が逆水性ガスシフト反応部20とされている。
このようにして構成される電解セルユニットUを、図2図4の左右方向に積層することで、多数の電解セルユニットUが積層され、それらが電気的に接続された所謂電解セルモジール(図示省略)を形成することができる。当然、生成される有用なガスは複数層に渡って得ることができる。
【0125】
発明者らは、上記電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20とを組み合わせる(電解反応部10の電極層側ガス供給路5aを逆水性ガスシフト反応部20とする)概念の下、電極層側ガス供給路5aに、粒状の逆水性ガスシフト触媒cat1を収納して実験を行った。
図5に、この実験に供した電解セルユニットUの断面を示した。
【0126】
以下図5を参照しながら、具体的に説明する。同図には電解セルユニットUの断面図を示している。
ここでは、電解セル1として、金属支持型の固体酸化物形電解セルを用いた。金属支持体4として、厚さ0.3mmのフェライト系ステンレスの金属板に対して、レーザー加工により貫通孔(孔4aとなる)を複数設けて、金属基板を作製した。この金属基板の上に、電極層2と中間層2aを順に積層し、金属基板の中間層2aの上に、中間層2aを覆うように電解質層1aを積層した。更に、電解質層1aの上に、反応防止層7と対極電極層3を順に積層し、電解セル1を作製した。なお、電極層2を形成する材料としてはNiO粉末とGDC粉末の混合物を用い、中間層2aを形成する材料としてはGDC粉末を用い、
電解質層1aを形成する材料としては8YSZ(8mol%イットリア安定化ジルコニア)粉末を用い、反応防止層7を形成する材料としてはGDC粉末を用い、対極電極層3を形成する材料としてはGDC粉末とLSCF粉末の混合物を用いた。また、電極層2、中間層2a、電解質層1a、反応防止層7、対極電極層3の厚さが、それぞれ約25μm程度、約10μm程度、約5μm程度、約5μm程度、約20μm程度であった。なお、電極層2と電解質層1aの間に中間層2aを設けたり、電解質層1aと対極電極層3の間に反応防止層7を設けたりすることで、電解セル1の性能や耐久性を向上することができる。また、中間層2aや反応防止層7は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な中間層2aや反応防止層7が得られる。そのため、金属支持体4を傷めることなく、性能や耐久性に優れた電解セル1を実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0127】
上記のようにして得られた電解セルユニットUについて、その電極層側ガス供給路5a(電解反応部10で電気分解されたガスの排出路ともなっている)に、粒状に形成した逆水性ガスシフト触媒cat1を収納する場合の性能向上に関して検討した。
【0128】
逆水性ガスシフト触媒cat1を収納しなかった場合の結果
電解セルユニットUにHOとCOを含むガスを供給しながら電解反応を行い、電解セルユニットUの出口ガスのHとCOの比をガスクロマトグラフを用いて測定した。結果を以下の表5に示した。この実験結果を比較例A1,A2と記載した。
【表5】
【0129】
逆水性ガスシフト触媒cat1を収納した場合の結果
逆水性ガスシフト触媒cat1として、実施例2と同様の8YSZ担体にNiを約10%担持して得た粒状の触媒を収納して、電解セルユニットUにHOとCOを含むガスを供給しながら電解反応を行い、電解セルユニットUの出口ガスのHとCOの比をガスクロマトグラフを用いて測定した。その結果を表6に示した。この実験結果を実施例A1と記載した。
【0130】
【表6】
【0131】
以上の比較実験により、電解セル1が金属支持体4の上に薄層状に形成され、逆水性ガスシフト反応によりCOと前記Hを用いてCOを生成する逆水性ガスシフト反応部20を、電解されたガスの排出路となる電極層側ガス供給路5aに設けた電解セルユニットUでは、電気分解により生成するHに対するCOの組成比率を高めることができた。
【0132】
逆水性ガスシフト触媒cat1を電極層側ガス供給路5a(電解済みのガスの排出路となっている)に収納しない電解セルユニットUと、収納する電解セルユニットUとの比較では、出口では水素/一酸化炭素([H/CO])比が約10以上から約5となり、電解反応部10の反応と逆水性ガスシフト反応部20の反応を組み合わせることでメタノールなどの含酸素炭化水素類合成に有利となるCOの量を確保できるので好ましい。
なお、電解反応部10に導入するHOとCOの比率や電解反応部10の反応条件(電解電圧や反応温度等)、逆水性ガスシフト反応部20の反応条件(使用触媒量やGHSV、反応温度等)などを適宜調整することで、逆水性ガスシフト反応部20の出口での水素/一酸化炭素([H/CO])比を、後段の第2触媒反応部40(含酸素炭化水素類合成反応部)に適した値(例えば、COとHからメタノールを合成する反応の当量比であるH/CO=2など)に調整することができる。
【0133】
〔電解反応部と逆水性ガスシフト反応部との間に熱交換器を設置〕
これまでの説明では、電解反応部10と第一触媒反応部(逆水性ガスシフト反応部)20とを、一体化する例に関して主に説明したが、両部位10、20を別部位としておき、両部位10、20間に熱交換器11を設けて、両部位間で熱融通が可能な構成を採用してもよい。この構成を図1に対応して図6に示した。中抜きの二重線は両部位間での熱移動を示している。この構成では、各部位10、20の温度を適切に制御できる。
【0134】
発明者等は、これまで説明してきた電解反応部10と逆水性ガスシフト反応部20とからなるシステムを「電解反応システム」と呼んでいる。
【0135】
〔第2触媒反応部(含酸素炭化水素類合成反応部)〕
この第2触媒反応部40(含酸素炭化水素類合成反応部)では、少なくともHとCOが流入され、触媒反応によりメタノールなどの含酸素炭化水素類を生成する。
【0136】
(含酸素炭化水素類合成触媒の例)
この第2触媒反応部40に使用する触媒(含酸素炭化水素類合成触媒)としては、貴金属系の触媒を用いることも可能だがコストが高いので、例えば、銅-亜鉛系の触媒を好適に用いることができる。以下に、本実施形態における含酸素炭化水素類合成触媒の例としての銅-亜鉛-アルミニウム系のメタノール合成触媒を示す。
【0137】
(触媒調製)
銅-亜鉛-アルミニウム系のメタノール合成触媒(銅、亜鉛、アルミニウムの酸化物を主成分とするメタノール合成触媒)の調製は、例えば、下記に示すような共沈法によって沈殿物を形成する共沈工程により実施できる。
銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)及び亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)を含む水溶液にアルミニウム化合物(例えば、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等)を加えた混合液を、約60℃に温度を保ったアルカリ物質(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)の水溶液に攪拌しながら、滴下して沈殿物を生成する。この際、沈殿物を生成するための混合液を加える順序を逆にして、アルカリ物質の溶液に、銅、亜鉛及びアルミニウム化合物を加えてもよい。また、水酸化アルミニウムはアルカリ物質の溶液に加えておいて、ここに銅化合物及び亜鉛化合物を含む水溶液を混合して沈殿物を生成してもよい。なお、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを用いると耐熱性、耐久性に優れた触媒が得られやすいので好ましい。
【0138】
ついで、生成した沈殿物を充分に水で洗浄した後、濾過し、乾燥する。次に、これを、例えば、200~650℃の範囲内の温度で焼成し、酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウムの混合酸化物を得る。得られた混合酸化物は、必要に応じて助剤(例えば、グラファイト等)を加えた後、例えば、タブレット、押し出し成形物等の形状に成形する。なお、この焼成温度範囲は、触媒の耐熱性と性能を両立させる上で、下限としては、300℃以上がより好ましく、350℃以上が更に好ましく、上限としては、600℃以下がより好ましく、550℃以下が更に好ましい。
【0139】
上記の混合酸化物における酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウムの配合比は、金属原子の原子比で、銅:亜鉛:アルミニウム=1:0.3~10:0.05~2、より好ましくは1:0.6~3:0.3~1程度とすることが好ましい。
【0140】
(混合酸化物調製試験)
炭酸ナトリウム水溶液に水酸化アルミニウムを加えて60℃に保ちながら、硝酸銅、硝酸亜鉛を含有する混合水溶液を攪拌しながら徐々に滴下し沈殿物を生成する。その後、沈殿物を、充分に洗浄した後、濾過し、乾燥する。次に、これを550℃の温度で3時間焼成し、モル比で1:1:0.2の酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウムを含む混合酸化物を得た。
【0141】
(還元前処理)
次に、必要に応じて上記のような工程を経て得た混合酸化物を水素還元に付した後に触媒反応に用いる(還元前処理)。水素還元において、銅は融点が低いため、熱により粒径が増大し、表面積が減少しやすく、また、過度の熱により細孔構造が微妙に変化して、結果的に、メタノール合成触媒としての特性が大きく変化する。従って、混合酸化物の水素還元前処理に際しては、発熱反応である酸化銅の銅への水素還元を温和な条件下で進行させることが好ましく、例えば、水素含有量6容量%以下、より好ましくは、0.5~4容量%程度となるように、反応に関与しないガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)により希釈された水素ガスの存在下に、150~300℃程度の温度に維持しつつ還元前処理する方法が好適である。特に反応に関与しないガスとしては、窒素ガス等の不活性ガスが好適に使用できる。
【0142】
上記の方法で得られる銅-亜鉛-アルミニウム系のメタノール合成触媒は、微粒子の凝集体からなる緻密な構造をしており、非常に小さい銅粒子が、酸化亜鉛粒子表面に均一に分散しているとともに、酸化亜鉛との化学的な相互作用により高活性状態になっている。一方、酸化アルミニウムは全体に分布し、熱による銅粒子、酸化亜鉛粒子のシンタリングを防いで高活性な状態を保持している。従って、これらのメタノール合成触媒を使用する場合には、例えば300℃以上の比較的高い温度範囲においても高い触媒活性を長時間維持することが可能となる。
【0143】
〔水分離部〕
この水分離部30には凝縮器を配しており、流入されるHOを含有するガスを所定の温度・圧力に調整して、凝縮させ水を外部に取出す。なお、水分離部30を第2触媒反応部40の前段に配置して、第2触媒反応部40に導入するガス中の水分量を低減させると第2触媒反応部40での含酸素炭化水素類合成触媒反応が進行し易くなるので好ましい。
【0144】
〔二酸化炭素分離部〕
例えば、この部位50にはPSAを配しており、流入されるCOを含有するガスから所定の温度・圧力下で吸着剤に吸着してCOを分離するとともに、分離されたCOを吸着剤から脱離させることで、COを良好に分離する。分離されたCOは二酸化炭素戻し路51を介して、電解反応部10の前に戻して再利用することができる。
なお、PSA等を用いて、二酸化炭素分離部と水分離部を同一の分離部とすることもできる。
【0145】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、二酸化炭素分離部50において分離されたCOを電解反応部10の前に戻したが、本発明に係る含酸素炭化水素類製造システム100では、COのCOへの変換は主に逆水性ガスシフト反応部20で行うため、COの戻り先を逆水性ガスシフト反応部20の前としても良い。この構成を図7に示した。
【0146】
(2)上記の実施形態では、含酸素炭化水素類合成反応部40から得られるガス中のHに関しては、特に述べなかったが、水素分離膜等を使用してHを分離する水素分離部(図上H分離部と記載)60を設けて、Hを分離して別途使用しても良い。この構成を図8に示した。この例では、水素分離部60において分離したHの戻り先を逆水性ガスシフト反応部20の前として、逆水性ガスシフト反応に利用しても良い。
【0147】
(3)上記の実施形態では、電解反応部10にHOとCOの両方を供給して電気分解反応に供する例を示したが、図9に示すように、電解反応部10にHOのみを供給して電気分解反応に供するシステムとしても良い。
【0148】
(4)上記の実施形態では、電解反応部10に電解セル1として固体酸化物形電解セルを用いる例を示したが、電解セル1として、アルカリ形電解セルや高分子膜形電解セルなどを用いても良い。
【0149】
(5)上記の実施形態では、含酸素炭化水素類合成反応部40にてメタノールを合成する例を示したが、含酸素炭化水素類合成反応部40に用いる含酸素炭化水素類合成触媒の選定の仕方や、脱水工程や脱水素工程等の組合せによっては含酸素炭化水素類合成反応部40に導入される水素と一酸化炭素等から、エタノールなどのメタノール以外のアルコール類や、ジメチルエーテル(DME)などのエーテル類、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、ギ酸やギ酸メチルなどのカルボン酸類を合成することもできる。なお、酸素を用いる脱水素工程を備えた含酸素炭化水素類合成反応部40において、水素と一酸化炭素等からメタノールを経てホルムアルデヒドを合成する場合は、電解反応部10で発生する酸素を、酸素を用いる脱水素工程に利用できるので、高効率でコンパクトかつ低コストな含酸素炭化水素類製造システムを構築できる。
【0150】
(6)上記の実施形態では、含酸素炭化水素類合成触媒の例としての銅-亜鉛-アルミニウム系(酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム系)の触媒を示したが、銅-亜鉛-ジルコニウム系(酸化銅-酸化亜鉛-酸化ジルコウム系)や、銅-亜鉛-クロム系(酸化銅-酸化亜鉛-酸化クロム系)などの触媒を含酸素炭化水素類合成触媒として用いることもできる。
【0151】
(7)上記の実施形態において、含酸素炭化水素類合成反応部40で発生する反応熱を電解反応部10に導入されるHOの水蒸気化に用いるように構成すると、高効率な含酸素炭化水素類製造システムを構築できる。なお、この場合、含酸素炭化水素類合成反応部40の反応流体と電解反応部10に導入されるHOとの間で熱交換する機構(例えば熱交換器)を設けることで、このような高効率な含酸素炭化水素類製造システムを構築できる。
【符号の説明】
【0152】
1 電解セル
1a 電解質層
2 電極層
3 対極電極層
4 金属支持体(支持体・セパレータ)
4a 孔
5 供給路形成部材(セパレータ)
6 供給路形成部材(セパレータ)
10 電解反応部
20 第1触媒反応部(逆水性ガスシフト反応部)
20a 塗布層
30 水分離部
40 第2触媒反応部(含酸素炭化水素類合成反応部)
50 二酸化炭素分離部
60 水素分離部
U 電解セルユニット
cat1 逆水性ガスシフト触媒
ca1 触媒活性成分(活性金属)
cb1 担体(金属酸化物担体)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11