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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002316
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】保冷システム
(51)【国際特許分類】
   F25D 3/00 20060101AFI20241226BHJP
   F25D 11/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
F25D3/00 E
F25D11/00 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102400
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】598039242
【氏名又は名称】株式会社 スギヤマゲン
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内海 夕香
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健介
(72)【発明者】
【氏名】相坂 成郎
(72)【発明者】
【氏名】仲佐 進一
【テーマコード(参考)】
3L044
3L045
【Fターム(参考)】
3L044AA04
3L044BA02
3L044CA11
3L044DA01
3L044DC04
3L044FA03
3L044KA01
3L044KA04
3L045AA04
3L045BA02
3L045CA02
3L045EA01
3L045KA16
3L045PA01
3L045PA04
(57)【要約】
【課題】断熱容器のなかの温度を素早く下げる。
【解決手段】送風装置35は、断熱容器のなかに配置され、前記断熱容器のなかに収容された保冷材34に空気を吹き付けることにより、保冷材34によって冷却された空気を、前記断熱容器のなかで循環させる。送風装置35は、例えば、保冷材34の主たる表面に沿って空気を吹き付ける。送風装置35は、例えば、保冷材34に吹き付ける空気を吹き出す吹出口と、前記吹出口から吹き出される空気を、前記吹出口が空気を吹き出す方向に対して略垂直な方向から吸い込む吸入口とを有する。送風装置35は、例えば、ブロアファンである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱容器のなかに配置され、前記断熱容器のなかに収容された保冷材に空気を吹き付けることにより、前記保冷材によって冷却された空気を、前記断熱容器のなかで循環させる送風装置
を備える、保冷システム。
【請求項2】
前記送風装置は、前記保冷材の主たる表面に沿って前記空気を吹き付ける、
請求項1の保冷システム。
【請求項3】
前記送風装置は、
前記保冷材に吹き付ける前記空気を吹き出す吹出口と、
前記吹出口から吹き出される空気を、前記吹出口が空気を吹き出す方向に対して略垂直な方向から吸い込む吸入口と
を有する、請求項1又は2の保冷システム。
【請求項4】
前記送風装置は、ブロアファンである、
請求項1又は2の保冷システム。
【請求項5】
前記送風装置から吹き出される前記空気が当たる位置に、前記保冷材を保持する保持部材
を更に備える、請求項1又は2の保冷システム。
【請求項6】
前記送風装置に動作電力を供給する蓄電池
を更に備える、請求項1又は2の保冷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保冷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、運搬ボックス内の空気を循環させる送風手段と、送風手段が循環させる空気を冷却する保冷剤とを有する空調ユニットを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5743247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の空調ユニットは、外部から電力を得ることができない運搬中であっても、運搬ボックス内の温度を厳密に管理し、所定の範囲内に保つことができる。
しかし、運搬ボックス内の温度が高く、目標温度範囲から大きく外れている場合は、運搬ボックス内の温度を下げて目標温度範囲内にするには時間がかかるため、運搬ボックス内の温度をあらかじめ目標温度範囲内にしておく必要がある。
この発明は、例えばこのような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
保冷システムは、送風装置を有する。前記送風装置は、断熱容器のなかに配置され、前記断熱容器のなかに収容された保冷材に空気を吹き付けることにより、前記保冷材によって冷却された空気を、前記断熱容器のなかで循環させる。
【発明の効果】
【0006】
送風装置が保冷材に空気を吹き付けるので、空気と保冷材との間の熱交換が促進され、断熱容器のなかの温度を素早く下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】保冷システムの一例を示す斜視図。
図2】保冷ユニットの一例を示す斜視図。
図3】保冷材の一例を示す斜視図。
図4】送風装置の一例を示す斜視図。
図5】保持部材の一例を示す斜視図。
図6】保冷ユニットの一例を示す側面視断面図。
図7】実験結果を示すグラフ図。
図8】送風装置の静圧風量特性を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照して、保冷システム10について説明する。
保冷システム10は、例えば冷凍食品など比較的少量の保冷対象物を、例えば1時間など比較的短時間輸送するため、摂氏-15度以下に保つシステムである。
保冷システム10は、例えば、断熱容器12と、保冷ユニット13a及び13bとを有する。
【0009】
断熱容器12は、例えば真空断熱材などの断熱材料で形成された容器であり、内部空間に保冷対象物を収容する。例えば、天面板21と、前面板22と、背面板23と、左側面板24と、右側面板25と、底面板26とを有する略直方体箱状である。
天面板21は、例えば、天面扉27を有する。また、前面板22は、例えば、前面扉28を有する。図1は、天面扉27及び前面扉28が開いた状態を示している。天面扉27は、下側(-Z側)の縁を軸にして手前側(-Y側)に回動して、閉じることができる。前面扉28は、奥側(+Y側)の縁を軸にして上側(+Z側)に回動して、閉じることができる。天面扉27や前面扉28を開くことにより、保冷対象物などを出し入れすることができる。また、天面扉27及び前面扉28を閉じることにより、断熱容器12の内部空間を密閉することができる。
なお、扉の形状は、図示した形状に限らず、例えば、天面板21の全体が上側(+Z側)に片開きする形状であってもよいし、前面板22の全体が手前側(-Y側)に片開きする形状であってもよいし、前面板22が左右(±X方向)に観音開きする形状であってもよいし、他の形状であってもよい。
【0010】
保冷ユニット13a及び13bは、断熱容器12のなかに配置され、断熱容器12のなかに収容された保冷対象物を冷却する。
保冷ユニット13a及び13bは、例えば、底面板26の上に配置される。この場合、保冷ユニット13a及び13bの上に、簀子など(不図示)を配置して、断熱容器12のなかに収容される保冷対象物と保冷ユニット13a及び13bとの間に隙間ができ、保冷対象物による荷重が保冷ユニット13a及び13bにかからないようにすることが好ましい。
なお、保冷ユニット13a及び13bの配置位置は、図示した位置に限らず、例えば、前面板22や背面板23や左側面板24や右側面板25の内側であってもよいし、天面板21の下側であってもよい。また、保冷ユニット13aと保冷ユニット13bとを異なる位置に配置してもよい。
また、保冷ユニットの数は、二つに限らず、一つだけであってもよいし、三つ以上であってもよい。
【0011】
図2を参照して、保冷ユニット13aについて説明する。なお、保冷ユニット13bも同様なので、説明を省略する。
保冷ユニット13aは、例えば、保冷材34と、送風装置35と、保持部材36とを有する。
保冷材34は、保持部材36によって保持されている。送風装置35は、保持部材36に固定され、保冷材34から見て奥側(+Y方向)に位置付けられている。
【0012】
図3を参照して、保冷材34について説明する。
保冷材34は、例えば、密閉されたケース41と、そのなかに充填された保冷剤(不図示)とを有し、冷蔵庫のなかで冷却するなどして保冷剤を凍結させたのち、断熱容器12のなかに入れることにより、保冷剤が融解するときに吸収する融解熱で、断熱容器12のなかを冷却する。
ケース41は、例えば±Z方向に対して垂直な略長方形板状であり、四つの脚部42と、六つの貫通穴43とを有する。
脚部42は、ケース41の四隅に配置され、上下(±Z方向)に突出している。これにより、ケース41の周りに隙間を確保することができる。
貫通穴43は、ケース41を上下(±Z方向)に貫通している。これにより、ケース41の表面積が大きくなり、保冷剤の凍結・融解を促進することができる。
【0013】
図4を参照して、送風装置35について説明する。
送風装置35は、保冷材34に風(空気)を吹き付けることにより、保冷材34によって冷却された空気を、断熱容器12のなかで循環させる。
送風装置35は、例えば、ブロアファンであり、例えば、ケース51と、モータ54と、ファン(不図示)とを有する。
ケース51は、±Z方向に延びる軸を中心とする中空略円柱状であり、例えば、吸入口52と、吹出口53とを有する。吹出口53は、ケース51の側面から例えば手前方向(-Y方向)へ向けて突出し、手前方向へ向けて空気を吹き出す。これにより、吹出口53から吹き出された空気が、保冷材32に吹き付けられる。吸入口52は、ケース51の上面の中心付近に設けられた略円形の穴であり、例えば上方向(+Z方向)から空気を吸い込む。このように、吹出口53から空気を吹き出す方向に対して略垂直な方向から空気を吸い込むことにより、断熱容器12の内部空間が狭くても、断熱容器12のなかの空気を効率良く循環させることができる。
モータ54は、蓄電池(不図示)から供給される電力によって動作し、ケース51のなかに配置されたファンを回転させることにより、吸入口52から空気を吸い込ませ、吸入口52から吸い込んだ空気を吹出口53から吹き出させる。
なお、蓄電池は、断熱容器12のなかに配置してもよいが、断熱容器12から配線を引き出して断熱容器12の外側に配置することが好ましい。そうすれば、蓄電池からの発熱により冷却効率が落ちるのを防ぐことができる。
【0014】
図5を参照して、保持部材36について説明する。
保持部材36は、送風装置35から吹き出される空気が当たる位置に、保冷材34を保持する。保持部材36は、例えば一枚の板を折り曲げた形状であり、例えば、底面部61と、側面部62及び63と、縁部64及び65とを有する。
底面部61は、±Z方向に対して垂直な略長方形板状である。なお、底面部61は、保冷材34が保持される位置に、比較的大きな開口を有してもよい。そうすれば、保持部材36の底面部61を断熱容器12の内面から離れた位置に配置した場合に、保冷材34によって冷却された空気が開口から保持部材36の外に出ることができる。
側面部62は、±X方向に対して垂直な略長方形板状であり、底面部61の-X側の縁から+Z方向へ向けて延びている。
側面部63は、±X方向に対して垂直な略長方形板状であり、底面部61の+X側の縁から+Z方向へ向けて延びている。
縁部64は、±Z方向に対して垂直な略長方形板状であり、側面部62の+Z側の縁から+X方向へ向けて延びている。
縁部65は、±Z方向に対して垂直な略長方形板状であり、側面部63の+Z側の縁から-X方向へ向けて延びている。
側面部62及び63の高さ(±Z方向の長さ)は、保冷材34の厚さ(±Z方向の長さ)よりもわずかに大きい。また、底面部61の幅(±X方向の長さ)は、保冷材34の幅(±X方向の長さ)よりもわずかに大きい。これにより、側面部62及び63並びに縁部64及び65がガイドレールとして機能し、底面部61と縁部64及び65との間、かつ、側面部62と側面部63との間に、保冷材34を差し込んで保持することができる。
なお、縁部64及び65の代わりに、底面部61と同じ大きさの天面部を設けてもよい。その場合、天面部に比較的大きな開口を設けて、保冷材34によって冷却された空気が保持部材36の外に出ることができるようにする。また、送風装置35が空気を吸い込むのを阻害しないよう、吸入口52に対応する位置にも開口を設ける。このように、送風装置35を保持部材36で覆う構造とすれば、送風装置35を保護することができる。送風装置35を保護する覆いは、保持部材36とは別の部材であってもよい。送風装置35を保護する覆いの上に保冷対象物などが乗って、吸入口52に対応する位置にある開口が塞がれるのを防ぐため、覆いの上面から上方向へ突出した例えば高さ5mmの突起を、例えば覆いの四隅に設けてもよい。また、蓄電池から送風装置35への配線を容易にするため、送風装置35に接続された電源ジャックを設けてもよい。
また、ガイドレールの代わりに、例えば、保冷材34の貫通穴43に対応する位置に、貫通穴43に嵌合する突起を設けて、保冷材34を正しい位置に保持できるようにしてもよいし、他の手段によって保冷材34を正しい位置に保持できるようにしてもよい。
【0015】
図6を参照して、保冷ユニット13aの動作について説明する。なお、保冷ユニット13bも同様なので、説明を省略する。
送風装置35は、吹出口53の正面に、保持部材36に保持された保冷材34の中心が位置付けられるよう、保持部材36の底面部61に固定されている。これにより、保冷材34を正しい位置に正確に位置付けることができる。送風装置35は、例えば、両面テープ、面ファスナーなどの固定手段により、着脱可能に保持部材36に固定されてもよい。
上述したとおり、吸入口52を介して+Z方向から送風装置35のなかに吸い込まれた空気は、吹出口53から-X方向へ向けて吹き出される。
吹出口53から吹き出された空気は、保冷材34の上下に分かれ、一方は、保冷材34の上側(+Z側)の表面に沿って進み、他方は、保冷材34の下側(-Z側)の表面に沿って進む。これにより、吹出口53から吹き出された空気と、保冷材34との間の熱交換が促進され、吹出口53から吹き出された空気が冷却される。そして、保冷材34によって冷却された空気が断熱容器12のなかに拡散することにより、断熱容器12の内部空間全体が素早く冷却され、そのなかに収容された冷却対象物を保冷することができる。
【0016】
保冷材34の表面は、様々な方向を向いているが、そのうち、同じ方向を向いている面積が最も大きい表面を「主たる表面」と呼ぶ。この例の保冷材34の場合、+Z方向を向いた表面及び-Z方向を向いた表面が「主たる表面」である。このように、保冷材34の主たる表面に沿って空気を吹き付けることにより、吹出口53から吹き出された空気を効率良く冷却することができる。
【0017】
吹出口53の高さ(±Z方向の長さ)は、保冷材34の高さ(±Z方向の長さ)よりも大きいことが好ましい。そうすれば、吹出口53から吹き出した空気の一部が、保冷材34の+X側の面に当たることなくそのまま直進し、保冷材34の+Z側の面に沿って進むことができるので、保冷材34によって効率良く冷却される。ただし、吹出口53の高さが高すぎると、吹出口53から吹き出した空気の一部が、保冷材34から+Z方向に離れた位置を進み、保冷材34と熱交換することができない。このため、吹出口53の高さは、保冷材34の高さの1.5倍以下であることが好ましい。
【0018】
吹出口53の幅(±Y方向の長さ)は、保冷材34の幅(±Y方向の長さ)よりも小さいことが好ましい。吹出口53の幅が保冷材34の幅よりも大きいと、吹出口53から吹き出された空気の一部が、保冷材34の+X側の面に当たることなくそのまま直進し、保冷材34の±X側の面に沿って進むことになり、保冷材34の±Z側の面に沿って進む場合よりも熱交換の効率が落ちるからである。ただし、吹出口53の幅が狭すぎると、保冷材34の±Z側の表面に、吹出口53から吹き出された空気と熱交換しない範囲が生じる。このため、吹出口53の幅は、保冷材34の幅の0.2倍以上であることが好ましい。
【0019】
また、この例のように保冷材34が略長方形板状である場合、長方形の長辺方向を、吹出口53から空気が吹き出される方向と平行に配置することが好ましい。そうすれば、吹出口53から吹き出された空気が保冷材34と熱交換する時間を長くすることができ、吹出口53から吹き出された空気を効率良く冷却することができる。これを一般化すると、保冷材34は、吹出口53から空気が吹き出される方向と平行な方向における主たる表面の長さがなるべく長くなるような向きに配置することが好ましい。
【0020】
このように吹出口53から吹き出された空気がなるべく長く保冷材34と熱交換するようにすることが重要である。したがって、送風装置35は、ブロアファンのように、指向性の高い風を吹き出すものであることが好ましい。
【0021】
吸入口52が空気を吸い込む方向は、断熱容器12のなかでなるべく広く開放された方向であることが好ましい。例えば、保冷ユニット13aや13bを天面板21の下(-Z側)に配置する場合であれば、吸入口52が-Z方向から空気を吸い込むように配置する。同様に、保冷ユニット13aや13bを背面板23の内側(-Y側)に配置する場合であれば、吸入口52が-Y方向から空気を吸い込むように配置する。
【0022】
保冷ユニット13aや13bは、断熱容器12のなかに着脱可能に固定されることが好ましい。そうすれば、保冷ユニット13aや13bに保冷材34を着脱する作業が容易になる。例えば、保冷ユニット13aや13bに羽根を設け、この羽根を断熱容器12の内側に引っ掛けるなどして、保冷ユニット13aや13bを断熱容器12に固定する。
【0023】
保冷ユニット13aや13bを前面板22や背面板23や左側面板24や右側面板25の内側に配置するなど、保冷材34を縦(±Z方向に対して平行)に配置する場合、保冷材34を送風装置35の上側(+Z側)に配置すれば、保冷ユニット13aや13bを断熱容器12から取り外さなくても保冷材34を交換できる。逆に、保冷材34を送風装置35の下側(-Z側)に配置すれば、保冷材34に発生した結露が飛び散るのを防ぐことができる。あるいは、保冷材34を送風装置35の横に配置してもよい。
【0024】
また、保冷ユニット13aや13bと断熱容器12の内壁との間の隙間は、なるべく狭いほうが好ましい。その隙間のなかに滞留する空気は、保冷対象物の冷却に寄与しないからである。
【0025】
保冷材34に充填される保冷剤は、保冷対象物の性質に基づいて適切な融点を有するものを選択する。例えば、冷凍食品は、法令により摂氏-15度以下で保存することが義務付けられているので、保冷剤の融点は、-15度以下であることが必要であり、輸送中に扉を開閉しても-15度以下を維持するためには、もっと低いほうが望ましい。
しかし、融点が低すぎると、保冷剤を凍結させるのが困難になるので、-30度であることが好ましい。そうすれば、内部温度が-35度~-40度である保冷剤凍結庫で、保冷剤を容易に凍結させることができる。
【0026】
また、断熱容器12の天面扉27や前面扉28が開いたことを検知するセンサを設け、扉が開いたことを検知したときは、送風装置35を停止させてもよい。そうすれば、断熱容器12の外に流れ出す冷気を最小限に抑えることができる。
【0027】
「保冷」には、二つの観点がある。一つは、高い温度から低い温度へ温度を低下させる「冷却力」である。もう一つは、周囲よりも低い温度になっている環境を維持する「保冷維持力」である。保冷剤は、ドライアイスよりも「保冷維持力」は優れているが、「冷却力」が劣っている。特に、冷凍食品の保冷のように低い温度にするためには、断熱容器内を環境温度から冷却する「冷却力」が重要になる。
保冷剤の冷却力が弱い原因は、気化を伴わない相転移現象であるという点が挙げられる。しかし、それだけではなく、空気そのものの特性も影響している。すなわち、空気は、断熱材として用いられるほど、熱伝導率が著しく低く、熱を伝えにくい。このため、保冷剤が周囲の熱を吸収できるのは、保冷剤を充填したケースの極めて近傍のみであり、冷却された空気の冷熱が周囲の空気に伝わりにくく、混じりにくい。
また、空気には、比熱が小さく、熱しやすく冷めやすいという特徴もある。自由に動き回る空気分子が、静置している物体に接触すると、相手の分子に振動を与えることが容易だからである。空気同士で熱が伝わりにくいのは、空気分子同士が動き回っているからであり、静置物体の分子とは熱を伝えやすいのである。
【0028】
そこで、保冷剤に風を直接当てることにより、保冷剤によって冷やされる空気を常に入れ替える。保冷剤近傍に流れを作り出すことで、空気と保冷剤の熱交換の速度が向上し、保冷剤の冷却力を高めることができる。
【0029】
これに対し、従来技術の送風装置は、断熱容器内の空気を攪拌し、保冷剤によって冷却された空気を混じり合わせるために用いられる。このため、空気と保冷剤の熱交換の速度を向上させることができず、冷却力を高めることができない。
【0030】
保冷システム10の効果を確認するため、以下の実験を実施した。
<実験1>
断熱容器は、硬質発泡ポリウレタンフォーム50mmを、ポリエチレン(PE)クロスのラミネートシートでカバーしたボードで作製した。断熱容器12の内寸は、720mm×620mm×880mmである。
保冷ユニットの送風装置には、山洋電気株式会社製のブロアファン(商品名「San Ace B97」、型番「109BM12GC2-1」)を使用した。
送風装置の電源には、蓄電池として、モバイルバッテリーを使用した。ただし、使用したブロアファンの入力電圧が直流12Vなので、モバイルバッテリーとブロアファンとの間に、昇圧回路を挿入した。モバイルバッテリーと昇圧回路とを内蔵したバッテリーボックスを、断熱容器の外側に設けたポケットに収納し、ブロアファンとの間をリード線で接続した。
保冷ユニットの保冷材には、株式会社スギヤマゲン製の保冷材(商品名「Cool Lab(登録商標) -31」)を使用した。保冷材の大きさは、285mm×210mm×32mmである。保冷剤の融点は摂氏-31度、保冷剤の充填量は、800gである。ブロアファンの吹出口と保冷材との間の距離は、8cmとした。
三つの保冷ユニットを、断熱容器の底面板の上に設置し、その上に、簀子状のカバーを乗せた。
また、補助的に、三つの保冷材(株式会社スギヤマゲン製の保冷材(商品名「Cool Lab(登録商標) -31」))を断熱容器の天面板の下に設けたポケットに設置した。
【0031】
このようにして構成した保冷システム(保冷材は除く。)を、扉を全開にした状態で、恒温室(室内温度摂氏35度)のなかに20分間静置し、断熱容器の内部空間を摂氏35度にした。
その後、保冷剤急速凍結庫(庫内温度摂氏-35度)で保冷剤を完全に凍結させた六つの保冷材を上述した位置に設置し、扉を閉じて、そのまま恒温室(室内温度摂氏35度)のなかに放置し、断熱容器の内部の温度を温度ロガーで測定した。測定位置は、底面板の上面の中央、前面板の内側面の中央、左右側面板の内側面の下部中央及び上部中央、背面板の内側面の中央、天面板の下面の中央の8か所である。
【0032】
<実験2>
断熱容器は、実験1と同じものを使用した。
実験1と同じ保冷ユニットを二つ、断熱容器の底面板の上に設置し、補助的な保冷材を四つ、天面板の下に設けたポケットのなかに設置した。すなわち、保冷材の数は変えずに、保冷ユニットの数を一つ減らした。
このようにして構成した保冷システムを用いて、実験1と同じ条件で、断熱容器の内部の温度を測定した。
【0033】
<実験3>
断熱容器は、実験1と同じものを使用した。
保冷ユニットは設けず、実験1と同じ保冷材を単独で六つ使用した。保冷材の配置は、実験1と同様であり、底面板の上に三つ、天面板の下に三つ設置した。すなわち、保冷材の数は、実験1及び2と同じである。
このようにして構成した保冷システムを用いて、実験1と同じ条件で、断熱容器の内部の温度を測定した。
【0034】
図7を参照して、実験結果について説明する。
横軸は、断熱容器の扉を閉めてからの経過時間を示し、縦軸は、測定した温度を示す。
実線91は、実験1において測定した温度を代表して、天面中央で測定した温度を示す。
破線92は、実験2において測定した温度を代表して、天面中央で測定した温度を示す。
破線93は、実験3において測定した温度を代表して、天面中央で測定した温度を示す。
【0035】
実験1において、断熱容器の内部の温度が摂氏-15度に達するまでにかかった時間は、底面中央で約14分、前面中央、左右側面下部中央、背面中央、天面中央で約16分、左右側面上部中央で約18分だった。また、断熱容器の内部の温度は、最終的に摂氏-19度に到達した。このように、猛暑日であっても、断熱容器の内部を急速に冷却し、保冷状態を維持できることがわかった。
【0036】
実験2において、断熱容器の内部の温度が摂氏-15度に達するまでにかかった時間は、底面中央で約27分、前面中央、左右側面下部中央、背面中央、天面中央で約28分、左右側面上部中央で約33分だった。実験1と比べると、冷却にかかる時間は長くなったが、冷却効果は十分にあることがわかった。
【0037】
実験3において、断熱容器の内部の温度は、最終的に、底面中央で摂氏-8度、前面中央、左右側面下部中央、背面中央、天面中央、左右側面上部中央では、摂氏0度~-3度までしか下がらなかった。したがって、保冷ユニットを使用しないと、十分な冷却効果を得ることができないことがわかった。
【0038】
<実験4>
断熱容器は、実験1と同じものを使用した。
保冷ユニットは設けず、実験1と同じ保冷材を単独で16枚使用した。保冷材は、天面板の下に設けたポケットに四つ、左右側面板の内側に設けたポケットに二つずつ、前面板及び背面板の内側に設けたポケットに四つずつ配置した。
このようにして構成した保冷システムを用いて、実験1と同じ条件で、断熱容器の内部の温度を測定した。
【0039】
実験4において、断熱容器の内部の温度がすべて摂氏-15度に達するまでにかかった時間は、約18分だった。このように、保冷ユニットを使用しなくても、保冷材の数を増やせば、実験1と同様の冷却速度及び冷却効果を得ることできるが、必要な保冷材の数は、約2.5倍になった。
【0040】
<実験5>
断熱容器は、実験1と同じものを使用した。
実験1と同じ保冷ユニットを三つ、断熱容器の天面板の下に設置し、補助的な保冷材を三つ、底面板の上に設置した。すなわち、保冷ユニットと補助的な保冷材との配置を逆転した。
このようにして構成した保冷システムを用いて、実験1と同じ条件で、断熱容器の内部の温度を測定した。
【0041】
実験5において、断熱容器の内部の温度がすべて摂氏-15度に達するまでにかかった時間は、約35分だった。実験1と比較すると、冷却速度は遅くなったが、温度むらが小さくなり、断熱容器の内部温度の均一性が高くなった。
また、実験5では、天面に配置した保冷ユニットの保冷材のほうが、底面に配置した補助的な保冷材よりも早く融解する。天面に配置した保冷ユニットの保冷材は、断熱容器に収容した保冷対象物を取り出さなくても交換できるので、輸送中に保冷ユニットの保冷材を適宜交換する運用とすれば、扉の開閉頻度が高い場合や長時間の輸送が可能になる。
【0042】
<実験6>
断熱容器は、実験1と同じものを使用した。
保冷ユニットの送風装置として、ブロアファンではなく、山洋電気株式会社製の軸流ファン(商品名「San Ace 80」、型番「9GA0812P2S001」)を使用した。他の実験で使用したブロアファンの定格入力電力は7.2Wであるのに対し、実験6で使用した軸流ファンの定格入力電力は9.96Wなので、消費電力をほぼ揃えるため、天面に配置した保冷材三つに対して軸流ファンを二つ設置した。また、底面に補助的な保冷材を三つ配置した。
このようにして構成した保冷システムを用いて、実験1と同じ条件で、断熱容器の内部の温度を測定した。
【0043】
実験6において、断熱容器の内部の温度は、最終的に、底面中央で摂氏-8度、前面中央、左右側面下部中央、背面中央、天面中央、左右側面上部中央では、摂氏0度~-3度までしか下がらず、十分な冷却効果を得ることができないことがわかった。
【0044】
このように、保冷ユニットの送風装置は、軸流ファンよりもブロアファンであるほうが好ましい。この理由について、以下考察する。
【0045】
図8を参照して、ブロアファンと軸流ファンの静圧風量特性の違いについて説明する。
横軸は、風量を示し、縦軸は、静圧を示す。
実線94は、ブロアファンの静圧風量特性を示す。
実線95は、軸流ファンの静圧風量特性を示す。
【0046】
通風抵抗が小さい場合は、軸流ファンのほうが風量が大きいが、通風抵抗が大きくなると、ブロアファンのほうが静圧が高いので、風量が大きくなる。このため、断熱容器のなかの狭い内部空間のなかで空気を循環させる目的には、ブロアファンのほうが適していると言える。この実験では、断熱容器のなかに保冷対象物を収容していないが、実際の運用では、断熱容器のなかに保冷対象物を収容して輸送するので、通風抵抗は更に大きくなる。したがって、ブロアファンのほうが好適であると言える。
また、軸流ファンの静圧風量特性には、旋回失速領域96が存在する。このため、保冷対象物の配置が変化すると状態が不安定になる可能性がある。
【0047】
それに加えて、軸流ファンは、空気を吸い込む方向と空気を吹き出す方向とが一直線である。このため、保冷材を設置した断熱容器の内壁と同じ内壁に軸流ファンを設置すると、軸流ファンの空気を吸い込む側の空間が狭くなり、通風抵抗が大きくなる。
これに対し、ブロアファンは、空気を吸い込む方向と空気を吹き出す方向とが直角である。このため、保冷材を設置した断熱容器の内壁と同じ内壁にブロアファンを設置しても、ブロアファンの空気を吸い込む側の空間が広く、通風抵抗が大きくなるのを防ぐことができる。
【0048】
軸流ファンは、最大風量が大きいので、断熱容器内の空気を攪拌して保冷剤によって冷却された空気を混じり合わせるのには向いているが、保冷剤の冷却力を高めるには、ブロアファンのほうが向いている。
【0049】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 保冷システム、12 断熱容器、13a,13b 保冷ユニット、21 天面板、22 前面板、23 背面板、24 左側面板、25 右側面板、26 底面板、27 天面扉、28 前面扉、34 保冷材、35 送風装置、36 保持部材、41 ケース、42 脚部、43 貫通穴、51 ケース、52 吸入口、53 吹出口、54 モータ、61 底面部、62,63 側面部、64,65 縁部、91,94,95 実線、92,93 破線、96 旋回失速領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8