IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リバーエレテック株式会社の特許一覧

特開2025-2326圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法
<>
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図1
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図2
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図3
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図4
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図5
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図6
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図7
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図8
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図9
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図10A
  • 特開-圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法 図10B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002326
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/10 20060101AFI20241226BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20241226BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H03H9/10
H03H3/02 B
H03H9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102419
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000237444
【氏名又は名称】リバーエレテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】木村 芳紀
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 世直
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108CC06
5J108CC09
5J108CC11
5J108DD05
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE18
5J108FF07
5J108GG03
5J108GG07
5J108GG16
5J108GG17
5J108KK01
5J108KK03
5J108MM02
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】パッケージのマウント部に対し、機械的な接合強度と安定した電気的接続性能が両立する状態で接合される圧電振動素子と、そのような圧電振動素子を備える圧電振動子の製造方法を提供する。
【解決手段】パッケージ110に収容され、当該パッケージ110内のマウント部120に、導電性接着剤40を介して接合される圧電振動素子であって、導電性接着剤40によってマウント部120に接合される支持部30と、支持部30から連続し、励振電極が形成された振動部20と、支持部30におけるマウント部120への対向面に設けられた電極部35と、を含み、電極部35は、導電性接着剤40が配置される接着剤配置領域36と、接着剤配置領域36の縁36aに沿って分散配置された複数の溝部37とを有し、複数の溝部37のそれぞれは、接着剤配置領域36の縁36aを横断して配置されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージに収容され、当該パッケージ内のマウント部に、導電性接着剤を介して接合される圧電振動素子であって、
前記導電性接着剤によって前記マウント部に接合される支持部と、
前記支持部から連続し、励振電極が形成された振動部と、
前記支持部における前記マウント部への対向面に設けられた電極部と、を含み、
前記電極部は、前記導電性接着剤が配置される接着剤配置領域と、
前記接着剤配置領域の縁に沿って分散配置された複数の溝部と、を有し、
複数の前記溝部のそれぞれは、前記接着剤配置領域の縁を横断して配置されている、圧電振動素子。
【請求項2】
前記溝部は、前記接着剤配置領域の中心部を挟んだ少なくとも2箇所に配置されている、請求項1に記載の圧電振動素子。
【請求項3】
前記溝部のそれぞれは、前記接着剤配置領域の前記縁の内側方向および外側方向の2方向に指向して延在している、請求項2に記載の圧電振動素子。
【請求項4】
前記溝部が配置される箇所には、互いに略平行に並ぶ少なくとも2つの前記溝部が配置されている、請求項3に記載の圧電振動素子。
【請求項5】
複数の前記溝部は、前記接着剤配置領域の中心部の周囲で交差する格子状に配置されている、請求項1または2に記載の圧電振動素子。
【請求項6】
請求項1に記載の圧電振動素子における前記支持部の前記電極部を、当該電極部と前記マウント部との双方に付着する導電性接着剤を介して接合する圧電振動子の製造方法であって、
前記電極部側に付着する前記導電性接着剤が、前記接着剤配置領域に配置される、圧電振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動素子、および圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックで形成されたパッケージの内部に圧電振動素子を収容し、蓋体で封止した構造の圧電振動子が知られている。圧電振動素子は、例えば、パッケージ内のマウント部に接合されることにより、圧電振動素子で発生する振動を電気信号に変換して所定の機能(例えば、時計、カレンダー等)を実現させる回路素子と、電気的に接続される。ここで、圧電振動素子は、マウント部の電極パッドに、バインダ樹脂中に導電性フィラーが分散した導電性接着剤を介して接合される場合がある。特許文献1には、複数のピンホールを形成した接合部を導電性接着剤によって電極パッドに接合する構造の圧電振動素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-320297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性接着剤により対象部分どうしを接合する場合、上記特許文献1のように接合部に複数のピンホールを形成することにより、アンカー効果によって機械的な接合強度を向上させることができる。ところで、ピンホール等のアンカー効果を得るための孔や凹所等を有する圧電振動素子においては、上述の機械的接合強度に加えて、導電フィラーによる安定した電気的接続性能も望まれる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、パッケージのマウント部に対し、機械的な接合強度と安定した電気的接続性能が両立する状態で接合される圧電振動素子と、そのような圧電振動素子を備える圧電振動子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圧電振動素子は、パッケージに収容され、当該パッケージ内のマウント部に、導電性接着剤を介して接合される圧電振動素子であって、前記導電性接着剤によって前記マウント部に接合される支持部と、前記支持部から連続し、励振電極が形成された振動部と、前記支持部における前記マウント部への対向面に設けられた電極部と、を含み、前記電極部は、前記導電性接着剤が配置される接着剤配置領域と、前記接着剤配置領域の縁に沿って分散配置された複数の溝部と、を有し、複数の前記溝部のそれぞれは、前記接着剤配置領域の縁を横断して配置されている。
【0007】
本発明の圧電振動子の製造方法は、本発明の圧電振動素子における前記支持部の前記電極部を、当該電極部と前記マウント部との双方に付着する導電性接着剤を介して接合する圧電振動子の製造方法であって、前記電極部側に付着する前記導電性接着剤が、前記接着剤配置領域に配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パッケージのマウント部に対し、機械的な接合強度と安定した電気的接続性能が両立する状態で接合される圧電振動素子と、そのような圧電振動素子を備える圧電振動子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る圧電振動素子を備える圧電振動子を模式的に示す分解斜視図である。
図2】実施形態に係る圧電振動素子の平面図である。
図3】実施形態に係る圧電振動素子の支持部であって、マウント部に接合される先端接合部の裏面図である。
図4図3のIV-IV断面図である。
図5】実施形態に係る圧電振動素子の支持部の先端接合部がパッケージのマウント部に接合された状態を模式的に示す断面図(X-Z断面図)である。
図6図5のVI-VI断面図である。
図7図3に対応する図であって、変形例1に係る溝部の示す図である。
図8図3に対応する図であって、変形例2に係る溝部の示す図である。
図9図3に対応する図であって、変形例3に係る溝部の示す図である。
図10A】実施例に係る圧電振動素子の溝部を示す顕微鏡写真である。
図10B図10Aの顕微鏡写真に基づくAg(銀)のマッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係る圧電振動素子1を備える圧電振動子100を模式的に示す分解斜視図である。図2は、圧電振動素子1の平面図である。
【0011】
図1に示すように、圧電振動子100は、パッケージ110と、パッケージ110内に収容される圧電振動素子1と、を備える。パッケージは、セラミックやガラス等の材料により直方体の箱型形状に形成されたもので、図中上方に開口する収容凹所111を有する。収容凹所111内に圧電振動素子1が収容され、収容凹所111は図示しない蓋体で封止される。
【0012】
パッケージ110は、収容凹所111内に一対のマウント部120を有する。この一対のマウント部120に、圧電振動素子1が支持される。一対のマウント部120のそれぞれは、収容凹所111の底部の幅方向両側であって、長手方向中央部に配置されている。マウント部120は、底部から突出する凸部で構成され、その上面には、電極パッド121が配置されている。これら電極パッド121に、圧電振動素子1が電気的に接続される。圧電振動子1で発生する振動は、電極パッド121を介して電気的に接続される図示しない回路素子によって電気信号に変換され、これにより所定の機能(例えば、時計、カレンダー等)が実現される。
【0013】
圧電振動素子1は、基板10と、この基板10の表面に形成される図示しない励振電極と、を備える。実施形態の圧電振動素子1は、基板10が薄板状の水晶片からなる水晶振動素子である。基板10は、電気軸をX軸、機械軸をY軸、光学軸をZ軸とした水晶原石の直交座標系において、所定のカット角でカットされた水晶板を、所定形状の音叉型に加工して形成されたものである。なお、基板10の材料としては水晶片に限られず、セラミック片等の他の材料が用いられてもよい。
【0014】
図1および図2には、上述したX軸、Y軸、Z軸に対応するXYZ直交座標系を示している。また、図2においては、Y軸方向の一方側(上側)を矢印Y1で示し、他方側(下側)を矢印Y2で示している。また、図2においては、X軸方向の一方側(左側)を矢印X1で示し、他方側(右側)を矢印X2で示している。
【0015】
図2に示すように、実施形態の圧電振動素子1は、全体的にみて平面視が略長方形状の板状部材であって、X軸方向を左右方向とすると、左右対称の形状を有する。圧電振動素子1は、基部13と、屈曲振動を生じさせる一対の振動部20と、一対の振動部20のX軸方向両側にそれぞれ配置された一対の支持部30と、を備える。一対の振動部20は、X軸方向に互いに隣接する第1の振動腕部21および第2の振動腕部22を含む。一対の支持部30は、第1の振動腕部21のX1側に隣接する第1の支持腕部31と、第2の振動腕部22のX2側に隣接する第2の支持腕部32と、を含む。第1の支持腕部31、第1の振動腕部21、第2の振動腕部22、第2の支持腕部32は、この順でX1側からX2側に等間隔で並列し、Y軸方向に延びている。
【0016】
第1の振動腕部21および第2の振動腕部22のそれぞれは、基部13のY1側の端部からY1側に延びている。第1の振動腕部21および第2の振動腕部22の長さ(Y軸方向の寸法)は、互いに同じである。第1の振動腕部21および第2の振動腕部22は、Y1側の幅(X軸方向の寸法)がY2側の幅よりも大きい形状を有している。基部13の、各振動腕部21、22が延びる側とは反対側のY2側には、基部13に連続するくびれ部14を介して、X軸方向に延びる一対の中継部である第1の中継部15Aおよび第2の中継部15Bが形成されている。第1の支持腕部31は、第1の中継部15AのX1側の端部からY1側に延びている。第2の支持腕部32は、第2の中継部15BのX2側の端部からY1側に延びている。第1の振動腕部21は、基部13、くびれ部14および第1の中継部15Aを介して第1の支持腕部31に連続している。第2の振動腕部22は、基部13、くびれ部14および第2の中継部15Bを介して第2の支持腕部32に連続している。
【0017】
第1の支持腕部31および第2の支持腕部32の長さ(Y軸方向の寸法)は互いに同じであって、各振動腕部21、22の長さの中間付近まで延びている。第1の支持腕部31および第2の支持腕部32の幅(X軸方向の寸法)は均一であって、その幅は互いに同じである。
【0018】
基板10の表面に形成される図示しない励振電極は、第1の振動腕部21に設けられる第1の励振電極と、第2の振動腕部22に設けられる第2の励振電極と、を含む。第1の励振電極と第2の励振電極52とは、極性が互いに異なる。第1の励振電極は、基部13、くびれ部14、第1の中継部15Aおよび第1の支持腕部31にわたって設けられた図示しない第1の配線部を介して、第1の支持腕部31側に配置された後述する電極部35に電気的に接続されている。第2の励振電極は、基部13、くびれ部14、第2の中継部15Bおよび第2の支持腕部32にわたって設けられた図示しない第2の配線部を介して、第2の支持腕部32側に配置された後述する電極部35に電気的に接続されている。
【0019】
実施形態の圧電振動素子1は、上述したパッケージ110内に、第1の支持腕部31の先端接合部38が一方のマウント部120に接合されて支持され、第2の支持腕部32の先端接合部38が他方のマウント部120に接合されて支持される。これにより、各マウント部120の電極パッド121のそれぞれに、上述した第1の配線部を介して第1の励振電極が電気的に接続され、第2の配線部を介して第2の励振電極が電気的に接続される。各支持腕部31、32の先端接合部38がマウント部120に支持され、各振動腕部21、22はフリーな状態となる。これにより、パッケージ110が受ける衝撃が各振動腕部21、22に直接伝わり難くなるとともに、これら振動腕部21、22で生じる音叉振動の漏れが抑制される。
【0020】
図3は、第1の支持腕部31の、マウント部120に接合される先端接合部38の裏面側、すなわちマウント部120の電極パッド121に対向する対向面側を示している。図3には、図2で示したY1方向およびY2方向が示されている。図4は、図3のIV-IV断面図である。以下、この第1の支持腕部31の先端接合部38の構成を説明する。なお、第2の支持腕部32の先端接合部38も第1の支持腕部31と共通の構成を有する。したがって第1の支持腕部31の先端接合部38を代表して説明することにより、第2の支持腕部32の説明を省略する。なお、以下では、第1の支持腕部31と第2の支持腕部32とを共通部分として説明するため、これら支持腕部31、32をまとめて支持部30と称する場合がある。
【0021】
図3および図4に示すように、基板10における先端接合部38のマウント部120に対向する対向面には、電極部35が設けられている。電極部35は、後述する導電性接着剤40が配置される接着剤配置領域36と、複数の溝部37と、を有する。
【0022】
電極部35は、基板10の外面に形成されるとともに、各溝部37の内面にも形成されている。電極部35は、導電性金属による導電膜であって、蒸着やスパッタリング等の薄膜形成手段により基板10に形成される。接着剤配置領域36は、電極部35において導電性接着剤40が配置される領域であって、電極部35の中央部に配置される。接着剤配置領域36は、円形形状を有する。したがって、接着剤配置領域36の縁36aは円形形状を有する。接着剤配置領域36の形状については、図示例では当該接着剤配置領域36の形状を明示するために円形形状としているが、接着剤配置領域36の形状については円形形状に限られない。
【0023】
基板10の表面に溝加工を施した後、電極部35を形成することにより、電極部35が内面に形成された溝部37が形成される。複数の溝部37は、接着剤配置領域36の縁36aに沿って分散配置される。各溝部37は、細長いスリットであって、いずれも接着剤配置領域36の縁36aを横断して配置される。
【0024】
実施形態の複数の溝部37は、接着剤配置領域36の中心部を挟んで、その中心部のY1側およびY2側の2箇所に配置されている。それぞれの配置箇所において、溝部37は、2つずつ、すなわち一対の状態で形成されている。それら一対の溝部37は、互いに平行であって、かつ、支持部30の延びる方向と平行に直線状に延びている。
【0025】
各溝部37は、接着剤配置領域36の縁36aの内側方向および外側方向の2方向に指向して延在している。溝部37の寸法としては、例えば、幅が10μm程度、深さが25μm程度とされるが、これに限定はされない。また、溝部37の長さは、例えば、60μm程度とされるが、接着剤配置領域36の縁36aの内側方向および外側方向に延びる長さを有していれば特に限定はされず、接着剤配置領域36の大きさに応じて適宜に設定されてよい。
【0026】
図5は、圧電振動素子1の支持部30の先端接合部38がマウント部120に接合された状態を模式的に示す断面図であって、その接合部分の図1におけるX-Z断面を示している。図6は、図5のVI-VI断面図である。図5および図6に示すように、圧電振動素子1の先端接合部38は、導電性接着剤40を介してマウント部120に接合される。
【0027】
導電性接着剤40は、接着に寄与するバインダ樹脂41中に、導電に寄与する導電性フィラー42が分散した接着剤である。バインダ樹脂41はシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等であり、導電性接着剤40全体の約20%超を占める。導電性フィラー42はAg(銀)等であり、導電性接着剤40全体の70%超を占める。導電性フィラー42は、チップ状の薄く扁平な形状の扁平状フィラーであり、平均粒子径は5μm以上20μm以下程度であることが好ましい。
【0028】
図5および図6に示すように、導電性接着剤40は、支持部30の電極部35と、マウント部120の電極パッド121との間に介在する。これにより、電極部35が電極パッド121に電気的に接続する。この状態で、圧電振動素子1は上述した回路素子に電気的に接続される。このように圧電振動素子1の支持部30をマウント部120に接合するにあたっては、硬化前の液状(バインダ樹脂41が液状である)の導電性接着剤40が、例えばマウント部120の電極パッド121に塗布され、その導電性接着剤40に、電極部35を向かい合わせた状態から、先端接合部38をマウント部120に押し付ける。導電性接着剤40を硬化させて、圧電振動素子1の支持部30がパッケージ110のマウント部120に接合される。
【0029】
上記のようにして圧電振動素子1の先端接合部38をパッケージ110のマウント部120に接合する際には、液状の導電性接着剤40は、圧電振動素子1の電極部35における接着剤配置領域36に付着し、その多くは接着剤配置領域36内の電極部35の表面および各溝部37内に配置される状態となる。ここで、先端接合部38をマウント部120に押し付けると、接着剤配置領域36に配置されている導電性接着剤40が接着剤配置領域36の外側に押し出されていき、その中の一部は、図6に示すように各溝部37に流入していく。
【0030】
図6に示すように、Y方向に離間する一対の溝部37と、これら溝部37の間であって接着剤配置領域36の中心部とでは、導電性接着剤40中のバインダ樹脂41と導電性フィラー42との含有量が異なる。すなわち、溝部37ではバインダ樹脂41よりも導電性フィラー42の含有量が多く、溝部37の間の中心部では導電性フィラー42よりもバインダ樹脂41の含有量が多い。この理由としては、中心部は、対向する電極パッド121との間の狭い隙間に、粘度の低いバインダ樹脂41が毛細管現象によって入り込みやすく、結果として、バインダ樹脂41の含有量が多くなる。そして、中心部にバインダ樹脂41が多く集まると、中心部のバインダ樹脂41から押し出されるようにして、中心部の両側の溝部37に導電性フィラー42が流れ込み、溝部37での導電性フィラー42の含有量が増大する。
【0031】
実施形態の圧電振動素子1においては、上記のような挙動を示して中心部に多量に存在するバインダ樹脂41によって、支持部30の先端接合部38がマウント部120に対して機械的に強固に接合する。一方、Y方向にそれぞれ離間する溝部37内に存在する導電性フィラー42を介して、圧電振動素子1の電極部35とマウント部120の電極パッド121とが電気的に接続する。溝部37は、接着剤配置領域36の縁36aに沿って分散配置されることにより、支持部30が延びるY方向において接着剤配置領域36の中心部を挟んでその両側(Y1側およびY2側)に配置される。このため、バインダ樹脂41が集中して存在することによりマウント部120に強固に接着する中心部の周囲において、溝部37に集中して存在する多量の導電性フィラー42が、マウント部120の電極パッド121に接触する。したがって、溝部37に存在する多量の導電性フィラー42がマウント部120の電極パッド121に的確に接合し、導電性フィラー42による電気的接続性が安定して確保される。また、中心部から周囲に流動する導電性フィラー42は、溝部37に多く入り込むことにより溝部37内にとどまり、それ以上、周囲に流動する導電性フィラー42の量は少なくなる。したがって、中心部の周囲に多量の導電性フィラー42が集中して配置され、これによっても導電性フィラー42による電気的接続性が安定して確保される。
【0032】
すなわち、本実施形態での圧電振動子100の製造方法としては、上述した効果を得る上で、圧電振動素子1における支持部30の電極部35を、当該電極部35とマウント部120との双方に付着する導電性接着剤40を介して接合するにあたり、電極部35側に付着する導電性接着剤40は、接着剤配置領域36のみに配置されることが好ましい。
【0033】
なお、実施形態における接着剤配置領域36は、導電性接着剤40に圧電振動素子1の電極部35を接触させた際に、導電性接着剤40が電極部35に付着する領域である。接着剤配置領域36は、圧電振動素子1の電極部35に予め設定できる場合もあるか、もしくは、組み立て時において導電性接着剤40の粘度や量等に応じて生じる領域である。いずれにしろ実施形態の接着剤配置領域36は、溝部37の全体を包含するものではなく、溝部37が縁36aを横断する態様になる領域である。
【0034】
実施形態の圧電振動素子1は、複数の溝部37のそれぞれが、接着剤配置領域36の縁36aの内側方向および外側方向の2方向に指向して延在している。したがって、これら溝部37に導電性接着剤40が流入することにより、接着剤配置領域36の両側での導電性接着剤40による接合強度が向上し、接着剤配置領域36の中心部での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。
【0035】
実施形態の圧電振動素子1においては、複数の溝部37が接着剤配置領域36の中心部を挟んだ2箇所に配置されている。そして、複数の溝部37のそれぞれは、接着剤配置領域36の縁36aの内側方向および外側方向の2方向に指向して延在しており、配置された箇所においては2つの溝部37が互いに略平行に並んで配置されている。これらの結果、接着剤配置領域36の周囲での導電性接着剤40による接合強度が向上し、接着剤配置領域36の中心部での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。なお、実施形態では、配置箇所において溝部37は2つずつ形成されているが、可能であれば3つ、あるいは3つ以上が形成されていてもよい。
【0036】
以上が実施形態の圧電振動素子1である。この圧電振動素子1によれば、以下の効果を奏する
【0037】
(1)実施形態に係る圧電振動素子1は、パッケージ110に収容され、当該パッケージ110内のマウント部120に、導電性接着剤40を介して接合される圧電振動素子であって、導電性接着剤40によってマウント部120に接合される支持部30と、支持部30から連続し、励振電極が形成された振動部20と、支持部30におけるマウント部120への対向面に設けられた電極部35と、を含み、電極部35は、導電性接着剤40が配置される接着剤配置領域36と、接着剤配置領域36の縁に沿って分散配置された複数の溝部37と、を有し、複数の溝部37のそれぞれは、接着剤配置領域36の縁36aを横断して配置されている。
【0038】
これにより、圧電振動素子1は、パッケージ110のマウント部120に対し、機械的な接合強度と安定した電気的接続性能が両立する状態で接合される。
【0039】
(2)実施形態に係る圧電振動素子1においては、溝部37のそれぞれは、接着剤配置領域36の縁36aの内側方向および外側方向の2方向に指向して延在している。
【0040】
これにより、接着剤配置領域36の中心部での導電性接着剤40による接合強度が向上し、接着剤配置領域36の周囲での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。
【0041】
(3)実施形態に係る圧電振動素子1においては、溝部37は、接着剤配置領域36の中心部を挟んだ少なくとも2箇所に配置されている。
【0042】
これにより、接着剤配置領域36の中心部での導電性接着剤40による接合強度が向上し、接着剤配置領域36の周囲での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。
【0043】
(4)実施形態に係る圧電振動素子1においては、溝部37が配置される箇所には、互いに略平行に並ぶ少なくとも2つの溝部37が配置されている。
【0044】
これにより、接着剤配置領域36の中心部での導電性接着剤40による接合強度が向上し、接着剤配置領域36の周囲での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。
【0045】
(5)実施形態に係る圧電振動子の製造方法は、圧電振動素子1における支持部30の電極部35を、当該電極部35とマウント部120との双方に付着する導電性接着剤40を介して接合するにあたり、電極部35側に付着する導電性接着剤40が、接着剤配置領域36に配置されることが好ましい。
【0046】
これにより、導電性接着剤40の導電性フィラー42が溝部37内に流入するとともに、バインダ樹脂41が接着剤配置領域36の中心部に配置される状態が得やすくなる。その結果、圧電振動素子1が、パッケージ110のマウント部120に対して機械的な接合強度と安定した電気的接続性能が両立する状態で接合される圧電振動子を製造することができる。
【0047】
続いて、上記実施形態の圧電振動素子1における溝部37の配置や数等の形態を変更した圧電振動素子の変形例1~3について説明する。なお、これら変形例1~3は、溝部37の形態みを変更したものであって他の構成要素は上記実施形態と共通であるため、共通の構成要素についての説明は省略し、相違点のみを説明する。なお、変形例1~3を示す図7図9は、いずれも図3に対応する図であって、支持部30の先端接合部38の、マウント部120に対する対向面を示している。
【0048】
(変形例1)
図7に示す溝部37は、接着剤配置領域36の中心部を挟んで、その中心部のY1側およびY2側に1つずつ配置されている。これら溝部37は、いずれもY方向に延びており、支持部30の幅方向の中央に配置されている。各溝部37は、接着剤配置領域36の縁36aを横断し、かつ縁36aの内側方向および外側方向の2方向に指向して延在している。この変形例1によれば、幅の小さい支持部30に溝部37を容易に形成することができ、生産性の面で効率的である。
【0049】
(変形例2)
図8に示す溝部37は、接着剤配置領域36の中心部を挟んで、その中心部のY1側およびY2側に2つずつ配置されている。各溝部37は、接着剤配置領域36の中心に指向するように、Y軸方向に対して傾斜して延びており、全体的には放射状に配置されている。この変形例2によれば、接着剤配置領域36の中心部から周囲に流動する導電性フィラー42が各溝部37に効率的に多く流れ込み、接着剤配置領域36の中心部の周囲での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。
【0050】
(変形例3)
図9に示す複数の直線状の溝部37は、接着剤配置領域36の中心部の周囲で交差する格子状に配置されている。この変形例3によれば、接着剤配置領域36の中心部の周囲全周にわたり溝部37が存在するため、接着剤配置領域36の中心部の周囲での導電性フィラー42による電気的接続性が安定する。
【0051】
「実施例」
次に、実際に本発明の圧電振動素子を作製した実施例について説明する。上記実施形態と同様の構成を有する圧電振動素子を作製し、その圧電振動素子をパッケージのマウント部に、導電性フィラーとしてAg(銀)を用いた導電性接着剤で接合した。そして、図3においてX-X線に対応する線に沿って、圧電振動素子およびパッケージをカットし、その断面を観察した。図10Aは、その断面を研磨した後の状態を示す顕微鏡写真である。図10Bは、図10Aの顕微鏡写真に基づくAgのマッピング画像である。
【0052】
図10Aの顕微鏡写真により、実施例の圧電振動素子の支持腕部の表面に形成された2つの溝部には、導電性接着剤が充填されている状態が確認される。また、導電性接着剤は、支持腕部の一方の外側面(図10Aで左側の側面)にも付着している。図10Bのマッピング画像により、溝部にはAg濃度の高い導電性接着剤が充填されており、溝部間の狭い隙間に入り込んでいる導電性接着剤のAg濃度は低く、そこはバインダ樹脂の割合が高いことが確認される。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【0054】
例えば、圧電振動素子1の支持部30の先端接合部38に形成される複数の溝部としては、接着剤配置領域36の縁36aに沿って分散配置されていれば、配置箇所は任意である。また、溝部は、接着剤配置領域36の縁36aを横断していれば、その形状は任意であり、上記実施形態の溝部37のように直線状に限られない。
【0055】
実施形態の圧電振動素子1は、平面視形状が左右対称の形状であるが、本発明の圧電振動素子の形状としては、左右対称の形状に限定されるものではない。したがって、各振動腕部21、22および各支持腕部31、32の長さ、幅、これら腕部間の間隔等は限定されない。また、各支持腕部31、32は必須の構成要素ではなく、さらには、支持腕部31、32から基部13に至る各中継部15A、15Bおよびくびれ部14も、必須の構成要素ではなく、任意の構成要素である。
【0056】
圧電振動素子の種類としては、振動部がフリーとなるように支持部で支持され、その支持部に導電性接着剤によって接合される電極部を有するものであれば、振動モードや外形形状は限定されない。
【符号の説明】
【0057】
1…圧電振動素子、10…基板、20…振動部、30…支持部、35…電極部、36…接着剤配置領域、36a…接着剤配置領域の縁、37…溝部、40…導電性接着剤、50…励振電極、100…圧電振動子、110…パッケージ、120…マウント部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B