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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023322
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】亀裂検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20250206BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024214131
(22)【出願日】2024-12-09
(62)【分割の表示】P 2023579887の分割
【原出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葉名 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】梅田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛
(57)【要約】
【課題】流体を移送する配管の内部における亀裂の形状を精度よく推定できる亀裂検査システムを提供する。
【解決手段】亀裂検査システム1000は、配管40の表面における変形を撮影した画像情報と、配管40に付加される圧力情報、変位情報、温度情報の内の少なくとも一つと、を計測値として取得する計測部20と、取得された計測値を記憶する記憶部650と、記憶された画像情報に基づき導出される、配管40の変形を示す計測面変形ベクトルと、記憶された圧力情報、変位情報、温度情報の内の少なくとも一つの計測値と、を用いて配管40の内面における亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを推定する制御部10、30と、制御部10、30により推定された亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを表示する表示部641と、を備える。
【選択図】図28
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の表面における変形を撮影した画像情報と、前記配管に付加される圧力情報、前記配管の変位情報、前記配管の温度情報の内の少なくとも一つと、を計測値として取得する計測部と、
取得された前記計測値を記憶する記憶部と、
記憶された前記画像情報に基づき導出される、前記配管の変形を示す計測面変形ベクトルと、記憶された前記圧力情報、前記変位情報、前記温度情報の内の少なくとも一つの前記計測値と、を用いて前記配管の内面における亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを推定する制御部と、
前記制御部により推定された亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを表示する表示部と、を備えた、
亀裂検査システム。
【請求項2】
前記圧力情報、前記変位情報、前記温度情報の内の少なくとも一つの前記計測値が取得された、前記配管における計測位置情報と、前記画像情報とが、取得時刻と関連付けて前記記憶部に記録され、
前記制御部は、記憶された前記計測位置情報毎に亀裂の位置を推定すると共に、記憶された前記計測位置情報毎に亀裂の進展を推定して、推定された亀裂の進展により、前記配管内において移送される流体の前記配管からの漏れが発生する第1時期を推定し、
推定された前記計測位置情報毎の前記亀裂の位置と、対応する前記第1時期とを前記表示部に表示させる
請求項1に記載の亀裂検査システム。
【請求項3】
前記制御部は、
それぞれ異なる複数の前記配管に対して、前記配管毎の亀裂の進展と、前記配管毎の前記第1時期とを推定し、
各前記配管を前記第1時期の時期順に前記表示部に並べて表示すると共に、各前記配管に接続されて前記配管内を移送される前記流体の状態を測定する第2計測器を各前記配管に対応付けて前記表示部に表示する、
請求項2に記載の亀裂検査システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記亀裂の進展の推定結果に基づき、前記配管に流れる前記流体の圧力、あるいは、流量の少なくとも一方を制御する、
請求項2または請求項3に記載の亀裂検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、亀裂検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体を移送する配管の内部に亀裂が発生すると、その内部を目視あるいは直接計測できないために、亀裂の状態を把握する検査を行うことが困難となり、その結果、配管内部を流れる液体、気体、粉体などの流体が亀裂を介して配管から漏れることがある。配管が接続される装置の運転中に配管から流体が漏れると、装置を停止させて点検、補修を行う必要があるため、計画外に装置を使用できない期間が発生してしまう。
このような問題を解決するために、構造物内部における亀裂の状態を、構造部の表面における画像に基づいて検査を行う、以下のような亀裂検査装置としての検査装置が開示されている。
【0003】
即ち、従来の検査装置は、構造物に掛かる荷重が変化しているときに互いに異なる時刻に撮像された構造物の表面の画像であって、ひび割れの少なくとも一部を含む複数の画像を取得する取得部と、複数の画像に基づいて、構造物の表面におけるひび割れを境とする一方の側の第1局所領域の変位と、他方の側の第2局所領域の変位とを算出する変位算出部と、第1局所領域の変位と第2局所領域の変位とに基づいて、構造物の内部におけるひび割れの状態を推定する推定部とを備える(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号WO2019/176464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の検査装置では、ひび割れを境とする一方の側の第1局所領域の変位と、他方の側の第2局所領域の変位とを算出する変位算出部と、第1局所領域の変位と第2局所領域の変位とに基づいて、構造物の内部における亀裂の状態の推定を行っている。
しかしながら通常、流体を移送する配管は、所望の場所へ所望の量の流体を移送するために、分岐路などを備えた複雑な構造形状を有しており、さらに、移送される流体においては圧力変化等も生じる。そのため、配管内部において亀裂が生じる位置、大きさなどの亀裂状態が変化することから、上記のような推定方法では、正確に配管内部の亀裂の状態を推定することが困難であるという課題があった。
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、流体を移送する配管の内部における亀裂を精度よく推定できる亀裂検査システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示される亀裂検査システムは、
配管の表面における変形を撮影した画像情報と、前記配管に付加される圧力情報、前記配管の変位情報、前記配管の温度情報の内の少なくとも一つと、を計測値として取得する計測部と、
取得された前記計測値を記憶する記憶部と、
記憶された前記画像情報に基づき導出される、前記配管の変形を示す計測面変形ベクトルと、記憶された前記圧力情報、前記変位情報、前記温度情報の内の少なくとも一つの前記計測値と、を用いて前記配管の内面における亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを推定する制御部と、
前記制御部により推定された亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを表示する表示部と、を備えた、
ものである。
【発明の効果】
【0007】
本願に開示される亀裂検査システムによれば、精度よく推定された亀裂を作業者に提供できるため、適切な配管の保守保全業務を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1による亀裂検査装置の基本構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1による亀裂検査装置における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図3】実施の形態1による亀裂検査装置の検査対象の配管の構造を示す図である。
図4】実施の形態1による亀裂検査装置の検査対象の配管の構造を示す図である。
図5】実施の形態1による配管の形状をモデル化した形状モデルを示す斜視図である。
図6】実施の形態1によるモデル生成部の制御の詳細を示すフロー図である。
図7】実施の形態1による配管の亀裂発生面が要素に分割された様子を示す図である。
図8】実施の形態1による配管の計測面が要素に分割された様子を示す図である。
図9】実施の形態1による配管の亀裂発生面の各節点の変位変化量の差分による変位変化ベクトルを示す図である。
図10】実施の形態1による配管の計測面の各節点のひずみの差分によるひずみ変化ベクトルを示す図である。
図11】実施の形態1による配管の亀裂発生面の各節点の荷重変化量の差分による荷重変化ベクトルを示す図である。
図12】実施の形態1による配管の計測面の各節点の変位変化量を表す変位変化ベクトルを示す図である。
図13】実施の形態1による配管の計測面の各節点の角度変化量を表す角度変化ベクトルを示す図である。
図14】実施の形態1による亀裂検査装置の計測部の詳細工程を示すフロー図である。
図15】実施の形態1による亀裂検査装置の亀裂状態解析部の詳細工程を示すフロー図である。
図16】実施の形態2による亀裂検査装置における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図17】実施の形態2による亀裂検査装置の検査対象の配管の構造の一例を示す図である。
図18】実施の形態2によるモデル生成部の制御工程の詳細を示すフロー図である。
図19】実施の形態2による亀裂検査装置の計測部の詳細工程を示すフロー図である。
図20】実施の形態3によるモデル生成部の制御工程の詳細を示すフロー図である。
図21】実施の形態3による亀裂検査装置の計測部の詳細工程を示すフロー図である。
図22】実施の形態3による亀裂検査装置における亀裂状態解析部の詳細工程を示すフロー図である。
図23】実施の形態4における配管の亀裂を検査する亀裂検査装置のモデル生成部の詳細工程を示すフロー図である。
図24】実施の形態5による亀裂検査装置の基本構成を示すブロック図である。
図25】実施の形態5による亀裂検査装置における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図26】実施の形態5による亀裂検査装置における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図27】実施の形態6による亀裂検査システムにおける亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図28】実施の形態6における亀裂検査システムの概略構成を示す図である。
図29】実施の形態6における亀裂検査システムの概略構成を示す図である。
図30】実施の形態6における亀裂検査システムの概略構成を示す図である。
図31】各実施の形態における亀裂検査装置および亀裂検査システムのハードウェア構成例を説明する図である。
図32】各実施の形態における亀裂検査装置および亀裂検査システムのハードウェア構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、本実施の形態に係る配管40の亀裂を検査する亀裂検査装置100および亀裂検査方法について、図面を参照して説明する。なお、各図における同一符号は、同一もしくは相当部分を示している。
本実施の形態の亀裂検査装置100は、液体、気体、粉体などの流体を移送する配管40の内側に生じる亀裂を検査するものである。
【0010】
図1は、実施の形態1による亀裂検査装置100の基本構成を示すブロック図である。
図2は、実施の形態1による亀裂検査装置100における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図3は、実施の形態1による亀裂検査装置100の検査対象である配管40の構造を示す図である。
図4は、図3に示す配管40のA-A線における断面図である。
図5は、実施の形態1による亀裂検査装置100の検査対象である配管40の形状をモデル化した形状モデルMを示す斜視図である。
【0011】
先ず、図3を用いて、検査対象の配管40について説明する。
図3は、検査対象の配管40の構造の一例を示しており、配管40は、流体を分岐させる分岐43を有する直線配管41と、L字形状のL字配管42とを、溶接部Welにおいて溶接して結合した構造を有する。
【0012】
直線配管41は、治具などの支持部S1、S2により支持され、L字配管42は治具などの支持部S3により支持されている。
ここで、L字配管42と直線配管41とを接続する溶接部Welの溶接不良、あるいは配管40に液体が流れる場合に分岐43付近のL字配管42において生じるエロージョンまたはコロージョン等に起因して、L字配管42の内部において亀裂Craが生じる。
【0013】
この亀裂Craが配管40に加わる圧力により進展して、配管40内の液体、気体、粉体などの流体が、亀裂Craを介して配管40の外側に漏れる。あるいは、過大な圧力が加わることで亀裂Craが存在する部分において、配管40が破損してしまうことがある。この亀裂Craを本実施の形態の亀裂検査装置100により検査する。
【0014】
以下、亀裂検査装置100について説明する。
図1に示すように、亀裂検査装置100は、制御部としてのモデル生成部10と、計測部20と、制御部としての亀裂状態解析部30と、を備えて、亀裂Craの状態を推定する。推定される亀裂Craの状態とは、亀裂Craの大きさ、形状、位置等である。
また、亀裂状態解析部30は、通信線等によりモデル生成部10と計測部20とに接続されており、モデル生成部10および計測部20から出力されたデータを受信できる。
【0015】
以下、図2を用いて、これらモデル生成部10、計測部20、亀裂状態解析部30の制御の概略について説明する。
先ず、モデル生成部10について説明する。
モデル生成部10は、外部から入力される設計情報または実測で得られた配管40の構造情報に基づいて、配管40の形状をモデル化した形状モデルMを生成する(ステップS101~ステップS102、モデル生成工程)。
ここで、構造情報とは、配管40の内径、外径、管端部の形状、溶接形状、溶接位置、溶接方法、配管40おける設定された部位を固定する治具などの支持情報、支持方法、等である。
【0016】
次にモデル生成部10は、形状モデルMに基づいて、配管40の内面に亀裂Craが発生する可能性がある箇所を特定し、当該亀裂Craが発生する可能性のある箇所を含む配管40内における設定された領域を亀裂発生面CraSとして設定する第1設定制御Se1を行う(第1設定工程)。また、モデル生成部10は、形状モデルMに基づいて、亀裂発生面CraSに亀裂Craが生じた際に変形が生じる、配管40の表面における領域を特定し、当該領域を計測面MeaSとして設定する第2設定制御Se2を行う(ステップS103、第2設定工程)。
【0017】
次に、モデル生成部10は、移送される流体により配管40内に付加される内圧である第1圧力情報P1と、配管40の支持情報などの上記構造情報とを、境界条件として形状モデルMに付加する(ステップS104)。
ここで、境界条件とは、構造解析を行う形状モデルに対して設定される条件である。境界条件は、荷重条件と拘束条件とから構成されている。荷重条件としては、構造物のどこにどの程度の荷重が加わるのか、すなわち、形状モデルにおいて荷重が加わる部位における力のベクトル情報が定義される。一方、拘束条件としては、構造物のどこをどのように支持するのかの支持方法等の情報が定義される。
【0018】
次に、モデル生成部10は、このように、流体により配管40の内面に付加される内圧である第1圧力情報P1を含む境界条件が与えられた形状モデルMに基づいて、亀裂発生面CraSに亀裂Craが生じた際における、計測面MeaSの変化を計測面推定変化ベクトルV1として、複数種類の亀裂候補毎に設定する第3設定制御Se3を行う(ステップS105、第3設定工程)。
なお、複数種類の亀裂候補とは、異なる形状、異なる位置を有する、推定される亀裂Craの候補情報を示す。
【0019】
次に、計測部20の制御の概略について説明する。
計測部20は、亀裂Craの存在に応じて生じる、配管40の表面の計測面MeaSにおける変形を計測する(ステップS201)。計測部20は、図示しない制御部を有して、計測された計測値に基づき、計測面MeaSにおける変形を計測面変形ベクトルV2として求める(ステップS202)。
なお、ここでは、計測部20の図示しない制御部が、計測値に基づき計測面変形ベクトルV2を求める例を示したが、これに限定するものではない。計測面の変形を示す計測面変形ベクトルV2は、例えば、後述する亀裂状態解析部30が、計測部20からの計測値に基づいて求めるものでもよい。
【0020】
次に、亀裂状態解析部30の制御の概略について説明する。
亀裂状態解析部30は、モデル生成部10から得られた学習データである計測面推定変化ベクトルV1と、計測部20により取得した計測面変形ベクトルV2とを基に、計測面推定変化ベクトルV1と計測面変形ベクトルV2との類似度を求める(ステップS301)。
【0021】
亀裂状態解析部30は、亀裂候補毎に、亀裂発生面CraSの状態を示す状態量変形ベクトルV3に対して正規化した類似度を掛け合わせる(ステップS302)。
次に亀裂状態解析部30は、類似度を掛け合わせた亀裂発生面CraSの状態を示す状態量変形ベクトルV3を足し合わせて亀裂を推定する(ステップS303)。
これにより推定した亀裂Craの大きさ、形状、位置情報が得られる。
【0022】
このように、ステップS301~ステップS303を経て、亀裂を推定する工程を、第1推定制御Es1(第1推定工程)と称す。この第1推定制御Es1の詳細は、後述する。
【0023】
以下、上記モデル生成部10が生成した、配管40の形状モデルMについて説明する。
図5に示す形状モデルMは、図3のBで示す範囲から生成されている。
形状モデルMの内部には、候補面としての亀裂発生面CraSが設定されており、形状モデルMの表面には計測面MeaSが設定されている。
図5において、形状モデルMである平板は円筒座標系により示されており、計測面MeaSが設定される面をθz平面とし、候補面としての亀裂発生面CraSが設定される面をRZ平面とする。
【0024】
候補面としての亀裂発生面CraSは、前述のように、亀裂Craの発生が想定される箇所に設定される。計測面MeaSは、候補面の変化によって形状モデルMの表面が変化する範囲に設定される。
なお、前述のように、形状モデルMでは配管40の全体構造ではなく、θ方向に、図3に示す配管40の一部の範囲Bを切り出してモデル化している。
【0025】
図2を用いて説明したように、図2に示したモデル生成部10によるステップ104において、流体により配管40に付加される内圧である第1圧力情報P1と、配管40の円周方向の支持方法等の構造情報とを、境界条件として形状モデルMに加える。この際に、図3に示したような配管40の全体構造をモデル化し、支持部S1、S2、S3による支持条件を加えて、内圧が加わる時の配管40の形状モデルM付近の変位を算出し、この変位を形状モデルMの支持条件として境界条件に付加してもよい。
【0026】
以上、図2を用いてモデル生成部10の制御の概略について説明したが、以降は、数値解析によるモデル生成部10の制御の詳細について説明する。
図6は、実施の形態1によるモデル生成部10を数値解析により作成した場合の制御の詳細工程を示すフロー図である。なお、図6において、図2において既に示した工程に対しては同一符号を付している。
【0027】
ステップS101では、配管の構造を示す構造情報として、配管40の内径、外径、端部形状、溶接形状、溶接位置、配管40における設定された部位を固定する支持方法、支持位置、の内の少なくとも一つが入力される。また、このステップS101において、配管40に付加される内圧である第1圧力情報P1が入力される。
【0028】
ステップS102では、学習データを作成するための数値解析モデルを、構造情報を基に作成する。ここでは、図3に示した配管40の形状モデルMである。
ステップS103では、配管40の形状モデルM内で、溶接部Welの不良により亀裂が発すると仮定して、形状モデルMの溶接部Wel付近に、候補面としての亀裂発生面CraS、計測面MeaSを設定する。
ステップS104では、配管40の支持方法等の構造情報と、配管40に付加される内圧である第1圧力情報P1とから作成した境界条件を形状モデルMに入力する。
ステップS105では、配管40の構造情報に基づいて、作成する亀裂候補の形状を決定する。以下、亀裂候補の形状を設定する例を示す。
【0029】
図7は、図4の候補面としての亀裂発生面CraSが、平行線により要素360に分割された様子を示す図である。候補面としての亀裂発生面CraSのx軸方向をn個、y軸方向をm個に分割し、格子状に分割する平行線が交差する点、即ち分割された格子の頂点を位置(i,j)で示している。位置(i,j)は、(0,0)から(n,m)までの数字で表される。交差の頂点を節点とすると、それぞれの節点は要素360を形成する線上に位置する点である。なお、図7において、要素360は正方形で示されているが、これに限るものではなく、例えば、台形であってもよい。
【0030】
亀裂発生面の構造解析は、亀裂発生面における節点の位置毎に行われる。例えば、亀裂発生面における(0,0)の位置の節点に亀裂が生じている場合、亀裂発生面における(0,0)の位置から(n,m)の位置までの亀裂発生面における全ての節点の変位変化について構造解析が行われる。この場合、(0,0)の位置の節点は亀裂に該当するので、空洞になっている。したがって、(0,0)の位置の変位変化は生じない。一方、(0,0)以外の位置の節点には亀裂が無いと仮定しているため、境界条件によっては変位変化が生じる。また、このように亀裂発生面の変位変化の構造解析を節点の位置毎に行うことにより、学習データの数が限定され、学習データの生成時間を限定することができる。
【0031】
図8は、図5の計測面MeaSが要素370に分割された様子を示す図である。計測面MeaSのx軸方向をn個、z軸方向をp個に分割し、格子状に分割する平行線が交差する点、即ち、分割された格子の頂点を位置(k,l)で示している。位置(k,l)は、(0,0)から(n,p)までの数字で表される。格子の頂点を節点とすると、それぞれの節点は要素370を形成する線上に位置する点である。なお、図8において、要素370は正方形で示されているが、これに限るものではなく、例えば、台形であってもよい。
【0032】
計測面の構造解析は、亀裂発生面における節点の位置毎に行われる。例えば、亀裂発生面における(0,0)の位置の節点に亀裂が生じている場合、計測面における(0,0)の位置から(n,p)の位置までの計測面における全ての節点の変形について構造解析が行われる。実施の形態1における亀裂検査装置100では、計測面における節点の変形としてひずみ変化を用いる。次に、例えば、亀裂発生面における(0,1)の位置の節点に亀裂が生じている場合、計測面における(0,0)の位置から(n,p)の位置までの計測面における全ての節点のひずみ変化について構造解析が行われる。
【0033】
図6に示すステップS106において、亀裂候補を、作成した形状モデルMの亀裂発箇所に作成する。例えば、亀裂発生面における(0,1)の位置の節点に亀裂が生じている場合、亀裂発生面における(0,0)の位置から(n,m)の位置までの亀裂発生面における全ての節点の変位変化について構造解析が行われる。この場合、(0,1)の位置の節点は亀裂に該当するので、空洞になっている。したがって、(0,1)の位置の変位変化は生じない。一方、(0,1)以外の位置の節点には亀裂が無いと仮定しているため、境界条件によっては変位変化が生じる。
【0034】
図6に示すステップS107において、作成したモデルを数値解析する。
図6に示すステップS108において、計測面MeaSの計測面推定変化ベクトルV1と、亀裂発生面CraSの状態量を示す状態量変形ベクトルV3とを学習データとして保存する。
【0035】
以後、図6に示すステップS109に示されるように、亀裂発生面における(0,0)および(0,1)以外の位置にある節点について、亀裂候補の形状に併せて亀裂発生面における節点の変位変化について構造解析が同様に行われる。すなわち、亀裂発生面における亀裂候補の形状が生じていると仮定して、亀裂発生面における全ての節点の変位変化が求められる。図6に示すステップS110において、このようにして求められた変位変化が学習データとして記憶される。
【0036】
言い換えれば、亀裂発生面におけるそれぞれの節点と境界条件とは、次のような関係が設定されている。まず、拘束条件が設定されている亀裂発生面における節点には、全ての方向の変化量がゼロに設定されている。これにより、拘束条件が設定されている亀裂発生面における節点は、動かない。一方、荷重条件が設定されている亀裂発生面における節点のうち亀裂が生じていない節点には、一定の方向の変化量がゼロ以外に設定されている。また、荷重条件が設定されている亀裂発生面における節点のうち亀裂が生じている節点には、全ての方向の変化量がゼロに設定されている。
【0037】
図9は、図5に示す候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状毎における、候補面としての亀裂発生面CraSの各節点の変位変化量の差分による変位変化ベクトルを示す図である。
図9に示すように、Δ(-)の列ベクトルに含まれる各節点の変位データは、事前に決定した順番に並べられている。ここで「-」は、無意味な不定データを表している。以下の説明においても、「-」は無意味な不定データを表している。δ(i,j)は、図7の候補面としての亀裂発生面CraSにおける(i,j)の位置にある節点の変位変化である。さらに、例えば、δ0(i,j)は、亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の(i,j)の位置にある節点の変位データであり、Δ(0)は(0,0)の亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の、状態量変形ベクトルV3としての変位変化ベクトルである。
【0038】
以下の式(1)は、図9の複数の変位変化ベクトルから構成される亀裂面行列Δcrack_diffを示すものである。図9に示す変位変化ベクトルであるΔ(0)からΔ(T)は列ベクトルであり、これらの列ベクトルを各節点に想定される亀裂を移動させる順番に並べたものが、式(1)に示すΔcrack_diffである。
【0039】
【数1】
【0040】
また、モデル生成部10では、構造解析モデルにおける計測面の節点のひずみの差分によるひずみ変化ベクトルを作成する。
【0041】
図10は、図5に示す候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状毎における、図8に示す計測面MeaSの各節点のひずみの差分によるひずみ変化ベクトルを示す図である。図10に示すように、E(-)の列ベクトルに含まれる各節点の変位データは、事前に決定した順番に並べられている。
【0042】
ε(k,l)は、図8の計測面MeaSにおける(k,l)の位置にある節点のひずみデータである。さらに、例えば、ε0(k,l)は、候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の計測面MeaSの(k,l)の位置にある節点のひずみデータであり、E(0)は候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の、計測面推定変化ベクトルV1
としてのひずみ変化ベクトルである。
【0043】
以下の式(2)は、図10の複数のひずみ変化ベクトルから構成される計測面行列Emeasureを示すものである。図9に示すひずみ変化ベクトルであるE(0)からE(T)は列ベクトルであり、これらの列ベクトルを各節点に想定される亀裂を移動させる順番に並べたものが、式(2)に示すEmeasureである。
【0044】
【数2】
【0045】
学習データとして保存するパラメータとして、候補面としての亀裂発生面CraSの、状態量変形ベクトルV3としての変位変化ベクトル以外に、候補面としての亀裂発生面CraSの、状態量変形ベクトルV3としての荷重変化ベクトルを使用してもよい。
【0046】
図11は、図5に示す候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状毎における、候補面としての亀裂発生面CraSの各節点の荷重変化量の差分による荷重変化ベクトルを示す図である。
図11に示すように、Z(-)の列ベクトルに含まれる各節点の変位データは、事前に決定した順番に並べられている。さらに、例えば、ζ0(i,j)は、候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の(i,j)の位置にある節点の荷重データであり、Z(0)は候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の荷重変化ベクトルである。具体的には、亀裂が有る位置の節点の力はゼロとなり、亀裂が無い位置の節点の力はゼロ以外となる。
【0047】
学習データとして保存するパラメータとして、計測面MeaSの各節点のひずみの差分によるひずみ変化ベクトル以外に、計測面MeaSの変位変化ベクトルまたは角度変化ベクトルを使用してもよい。計測面における節点の変形として変位変化を用いる場合について説明する。計測面における節点の変形として変位変化を用いる場合は、モデル生成部10は、構造解析モデルにおける計測面の節点の変位の差分による変位変化ベクトルを作成する。
【0048】
図12は、図5の候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状における、図5の計測面MeaSの各節点の変位変化量を表す、計測面推定変化ベクトルV1としての、変位変化ベクトルを示す図である。
図12に示すようにDis(-)の列ベクトルに含まれる各節点の変位データは、事前に決定した順番に並べられている。d(k,l)は、計測面MeaSにおける(k,l)の位置にある節点の変位変化である。さらに、例えば、d0(k,l)は、候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の計測面MeaSの(k,l)の位置にある節点の変位データであり、Dis(0)は候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の変位変化ベクトルである。
【0049】
以下の式(3)は、図12の複数の変位変化ベクトルから構成される計測面行列Dismeasureを示すものである。計測面における節点の変形として変位変化を用いる場合は、計測面行列としてDismeasureを使用する。図12に示す変位変化ベクトルであるDis(0)からDis(T)は列ベクトルであり、これらの列ベクトルを各節点に想定される亀裂を移動させる順番に並べたものが、式(3)に示すDismeasureである。
【0050】
【数3】
【0051】
次に、計測面における節点の変形として角度変化を用いる場合について説明する。
計測面における節点の変形として角度変化を用いる場合は、モデル生成部10は、構造解析モデルにおける計測面の節点の角度の差分による角度変化ベクトルを作成する。
図13は、図5の候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状における、図5の計測面MeaSの各節点の角度変化量を表す、計測面推定変化ベクトルV1としての、角度変化ベクトルを示す図である。
【0052】
図13に示すようにA(-)の列ベクトルに含まれる各節点の変位データは、事前に決定した順番に並べられている。a(k,l)は、計測面MeaSにおける(k,l)の位置にある節点の角度変化である。さらに、例えば、a0(k,l)は、候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の計測面MeaSの(k,l)の位置にある節点の角度データであり、A(0,0)は候補面としての亀裂発生面CraSの亀裂候補の形状の事前に決定した順番における最初の亀裂の位置の節点に亀裂が生じている場合の角度変化ベクトルである。
【0053】
以下の式(4)は、図13の複数の角度変化ベクトルから構成される計測面行列Ameasureを示すものである。計測面における節点の変形として角度変化を用いる場合は、計測面行列としてAmeasureを使用する。図13に示す角度変化ベクトルであるA(0)からA(T)は列ベクトルであり、これらの列ベクトルを各節点に想定される亀裂を移動させる順番に並べたものが、式(4)に示すAmeasureである。
【0054】
【数4】
【0055】
図6のステップS109において、全ての亀裂候補に対して学習データを作成したか判定し、全て作成していない場合はステップS106に戻って亀裂の形状を変更する。
全ての亀裂候補に対して学習データの作成が完了したら、ステップS110において亀裂候補の学習データを出力する。
【0056】
次に、亀裂検査装置100の計測部20で、計測する詳細を説明する。
図14は、本実施の形態1による亀裂検査装置100の計測部20における詳細工程を示すフロー図である。
なお、図14において、図2に示した工程に対応する工程については、同一符号を付している。
【0057】
ステップS201aでは、モデル生成部10で作成した形状モデルMに基づいて、計測面MeaSを、配管40の表面において設定する。
ステップS201では、配管40の表面の計測面MeaSの変形を計測する。
ステップS201bでは、計測した配管40の表面の変形を、学習データの計測面推定変化ベクトルV1と同一のフォーマットに変換する。フォーマットの例は図10に示す形である。
ステップS202では、変換した計測面の変形を、変形ベクトルとして保存する。
ステップS203では、保存した変形ベクトルを、計測面変形ベクトルV2として出力する。
【0058】
上記図14のステップS201a~ステップS203を経て行われる、計測部20の実際の計測方法を詳細に説明する。
計測部20は、配管40の表面の少なくとも一部の領域を計測面MeaSとして、この計測面MeaSの表面の変形を計測する。
計測部20は、例えば、計測面MeaSに取り付けられたひずみゲージである。ひずみゲージは、ベース材と抵抗材料とから構成されている。ベース材の材料は、電気絶縁物から構成されている。抵抗材料は、ベース材に取り付けられており、ベース材から突出した部位には引き出し線が設けられている。ベース材は構造物の表面に接着剤を介して取り付けられており、ベース材が伸縮すると抵抗材料も伸縮し、抵抗材料の電気抵抗が変化する。抵抗材料の引き出し線は計測部20に接続されている。
例えば、配管40の表面にひずみが生じると、抵抗材料が伸縮し、抵抗材料の電気抵抗が変化する。図14に示したステップS201において、このように計測された抵抗材料の電気抵抗の変化は、引き出し線を介して計測部20の図示しない制御部に伝達される。
【0059】
このようにして、ステップS201において、ひずみゲージによって配管40の表面のひずみ変化を計測する。このような構成により、圧力が加えられた状態のままで、計測部20が配管40の表面にある計測面MeaSのひずみ変化を計測することができる。計測部20は、計測面MeaSを計測面として、計測された計測面の変形を計測面変形ベクトルV2として出力する。
【0060】
計測面における節点の変形として変位変化を用いる場合は、計測部20は、計測面MeaSの各節点の変位を計測するために、変位センサーを備える。変位センサーとしては、例えば、レーザー変位センサー、渦電流損式変位センサー、静電容量式変位センサー、接触式変位センサー、ワイヤ式変位センサー、レーザーマイクロメータ等を用いる。計測部20は、計測面MeaSの表面の変位変化を計測して計測面変形ベクトルV2として出力する。
【0061】
計測面における節点の変形として角度変化を用いる場合は、計測部20は計測面MeaSの各節点の角度を計測するために傾斜センサーを備える。
また、計測部20は、配管40の計測面MeaSの変形をデジタル画像相関法により計測してもよい。この場合、配管40に亀裂Craが無い段階、または配管40の亀裂Craの形状を異なる検査方法で把握している段階において、計測面MeaSの写真を撮影する。その後の検査で同一箇所の写真を撮影し、デジタル画像相関法に基づく画像解析を行って比較して変形量を求める。
【0062】
次に、計測部20の動作について説明する。配管40の内部に亀裂Craが無い条件の場合と、配管40の内部に亀裂Craが発生した条件の場合とのそれぞれについて、計測部20によって配管40における計測面MeaSの表面のひずみ変化が計測される。計測されたひずみ変化を、学習データと同じ順番に列ベクトルとして並べたものが、式(5)に示されるものである。
【0063】
【数5】
【0064】
計測部20は、式(5)に示された列ベクトルを計測面変形ベクトルV2として計測する。計測面変形ベクトルV2において、サフィックスの「0*0」は、図8の計測面MeaSにおける節点(0,0)のものであることを示している。このようにして計測された計測面変形ベクトルは、亀裂検査装置100の亀裂状態を解析する解析部150に出力される。
【0065】
計測面における節点の変形としてひずみ変化、変位変化および角度変化のいずれかを選択して用いる場合は、学習データとして、ひずみ変化ベクトル、計測面の各節点の変位変化量を表す変位変化ベクトル、計測面の各節点の角度変化量を表す角度変化ベクトルの全てを保存し、計測部20は計測面MeaSの各節点のひずみ、変位および角度の少なくとも1つを計測する。
【0066】
亀裂検査装置100の亀裂状態解析部30の制御について説明する。
図15は、亀裂状態解析部30の解析工程の詳細を示すフロー図である。なお、図15において、図2において既に示した工程に対応する工程については、同一符号を付している。
【0067】
ステップS301a2では、モデル生成部10から出力された学習データである計測面推定変化ベクトルV1を取得する。
ステップS301a3では、計測部20から出力された計測面変形ベクトルV2を取得する。
ステップS301a1では、ベクトルの類似度を計算するため、ステップS301a2において取得された学習データの中にある計測面の節点のひずみの差分の計測面推定変化ベクトルV1からなるひずみ変化行列E(s)を受け取る。
式(5)で示される計測面変形ベクトルV2と計測面推定変化ベクトルV1との類似度を求めるために、式(6)に示すようにL2ノルムであるユークリッド距離を求める。類似度としてユークリッド距離を用いることにより、限られた処理量で高精度な類似度を求めることができる。
【0068】
【数6】
【0069】
ここで、式(6)求めたユークリッド距離α(s)の分散が式(5)される計測面変形ベクトルの分散σ2と同じであると仮定し、式(6で求めたユークリッド距離α(s)と計測面変形ベクトルの分散σ2から、正規分布を仮定して式(7)に示す尤度関数を求める。
【0070】
【数7】
【0071】
ここで、Sは1からTの値を取り、学習データのケースを表すものである。
ステップS301において、すべての学習データの亀裂候補に対して類似度を計算して判定し、ステップS301bに進む。
【0072】
ステップS301bでは、式(7)に示した尤度関数を正規化するために、式(8)に示すように、尤度関数を足し合わせた値Cを求める。
【0073】
【数8】
【0074】
式(7)で求めた尤度関数を式(8)で示したCで正規化したものを、式(9)に示す。
【0075】
【数9】
【0076】
式(8)に示す正規化された尤度関数は、亀裂の候補面としての亀裂発生面CraSにおける変位変化の分布の尤度関数と等しくなる。
ステップS302では、学習データの中にある図8に示す亀裂面行列Δcrack_diff(S)受け取り、式(9)に示す尤度関数と対応する変位変化ベクトルΔ(S)とを全ての学習データで掛け合わせて、ステップ157ですべての学習データを掛け合わせたか判定し、ステップS303で式(10)に示すように全ての亀裂候補で足し合わせることにより、尤度関数における変位変化の期待値を求める。
【0077】
ステップS303bでは、式(10)に示される値を推定した亀裂Craとして出力する。推定した亀裂Craは、(10)で得られた変位変化の期待値を予め定めたしきい値によってしきい値処理することにより、亀裂発生面において推定される亀裂の位置および大きさを求める。
【0078】
【数10】
【0079】
さらに、潜変位変化ベクトルΔ(S)と同様に亀裂発生面の各節点の状態を示す状態量からなるベクトルである荷重変化ベクトルZ(S)を用いて期待値を求めてもよい。式(9)に示す正規化された尤度関数は、候補面としての亀裂発生面CraSの各節点の荷重変化の尤度関数と等しくなる。式(9)に示す尤度関数と対応する荷重変化ベクトルZ(s)とを掛け合わせて全ての亀裂候補で足し合わせ、尤度関数における荷重変化の期待値を求め、得られた期待値を予め定めたしきい値によってしきい値処理することにより、亀裂発生面において推定される亀裂の位置および大きさを求めてもよい。ここまでの推定に使用するベクトル量は、2次元配列もしくはイメージデータとして取り扱っても本願による亀裂推定装置は実現可能である。
【0080】
亀裂状態解析部30では、計測面行列Emeasureの代わりに計測面行列Dismeasureを用いて、計測部20から取得した変位変化の計測面変形ベクトルと計測面行列Dismeasureとの類似度としてユークリッド距離を求め、候補面としての亀裂発生面CraSにおける亀裂の位置および大きさを推定する。
【0081】
亀裂状態解析部30では、計測面行列Emeasureの代わりに計測面行列Ameasureを用いて、計測部20から取得した角度変化の計測面変形ベクトルと計測面行列Ameasureとの類似度としてユークリッド距離を求め、候補面としての亀裂発生面CraSにおける亀裂の位置および大きさを推定する。
【0082】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置は、
流体を移送する配管の表面における変形を計測する計測部と、
前記計測部からの計測値に基づき、前記配管の内面における亀裂を推定する制御部と、を備えた亀裂検査装置において、
前記制御部は、
前記配管の構造を示す構造情報に基づいて、該配管の形状をモデル化した形状モデルを生成し、
前記形状モデルに基づいて、前記配管の内面において亀裂が発生する箇所を特定し、該箇所を含む領域を亀裂発生面として設定する第1設定制御を行うと共に、前記亀裂発生面に亀裂が生じた際に変形が生じる前記配管の表面における領域を特定し、該領域を計測面として設定する第2設定制御を行い、
前記流体により前記配管の内面に付加される第1圧力情報を含む境界条件が与えられた前記形状モデルに基づいて、前記亀裂発生面に亀裂が生じた際における前記計測面の変化を計測面推定変化ベクトルとして複数種類の亀裂候補毎に設定する第3設定制御を行い、
前記計測部からの前記計測値に基づき、前記計測面における変形を計測面変形ベクトルとして導出し、導出された該計測面変形ベクトルと前記計測面推定変化ベクトルとの類似度を前記亀裂候補毎に算出すると共に、該類似度を正規化し、
前記正規化された類似度と、前記亀裂候補毎の前記亀裂発生面の変形状態を示す状態量変形ベクトルと、から、前記亀裂発生面に発生する亀裂を推定する第1推定制御を行う、
ものである。
【0083】
このように、本実施の形態の亀裂検査装置の制御部は、配管の構造を示す構造情報に基づいて、配管の形状をモデル化した形状モデルを生成する。そして、この形状モデルに基づいて、配管の内面において亀裂が発生する箇所を特定し、該箇所を含む領域を亀裂発生面として設定する第1設定制御を行う。
このように、本実施の形態で生成される形状モデルは、分岐路、溶接部、等の亀裂の発生に起因する複雑な配管の構造情報を用いているため、配管の内面において亀裂が発生する箇所を亀裂発生面として精度よく特定できる。同時に、亀裂発生面に亀裂が生じた際に変形が生じる配管の表面における変形を精度良く計測できる計測面の設定が可能となる。
【0084】
さらに、流体により配管の内面に付加される第1圧力情報を含む境界条件が与えられた形状モデルに基づいて、亀裂発生面に亀裂が生じた際における計測面の変化を計測面推定変化ベクトルとして複数種類の亀裂候補毎に設定する第3設定制御を行う。
こうして、圧力変化、流量変化等が生じる流体により配管の内面における摩耗、摩擦の状態が変化した場合でも、配管の内面に付加される第1圧力情報を含む形状モデルを用いて学習データである計測面推定変化ベクトルを設定しているため、精度良い学習データの導出が可能となる。
【0085】
さらには、計測面における変形を計測面変形ベクトルとして導出し、導出された該計測面変形ベクトルと、計測面推定変化ベクトルとの類似度を記亀裂候補毎に算出すると共に、該類似度を正規化している。そして、正規化された類似度と、亀裂候補毎の亀裂発生面の変形状態を示す状態量変形ベクトルと、から、亀裂発生面に発生する亀裂を推定する第1推定制御を行っている。
【0086】
こうして、類似度の高いものに重みをつけて推定を行うため、配管に発生する可能性の高い亀裂に絞った計測面推定変化ベクトル、計測面変形ベクトルに絞れることで、学習データの作成および計測の手間を削減して検査時間を短縮できると共に推定精度が向上する。
さらには、計測面推定変化ベクトルと計測面変形ベクトルとの類似度を正規化して推定することで、モデル生成部で作成した学習データに無い亀裂形状でも、正規化された類似度を利用して亀裂の形状を推定することができるため、推定精度が向上する。
さらには、数値解析で学習データを作成することで、配管の試験片の作成が不要になり検査の準備が簡略化できる。また、数多くの亀裂候補に対してモデルを準備できるため推定精度が向上する。
【0087】
ここで、計測面変形ベクトルとしてひずみ変化ではなく変位変化あるいは角度変化を用いた構成とすると、ひずみ計測よりも短時間かつ高精度に配管における計測面の変化を計測することができる。また、計測面における節点の変形としてひずみ変化、変位変化および角度変化のいずれかを選択して用いる場合は、様々な形状の配管に対して対応できる。
【0088】
また、上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記制御部は、前記第3設定制御において、
前記流体により前記配管の内面に付加される前記第1圧力情報に基づき、前記配管における変位を算出し、該変位が境界条件として付与された前記形状モデルに基づき、前記計測面推定変化ベクトルを複数種類の前記亀裂候補毎に設定する、
ものである。
【0089】
このように、計測面推定変化ベクトルを複数種類の亀裂候補毎に設定する学習データの設定において用いられる形状モデルには、流体により配管の内面に付加される圧力変化等の第1圧力情報に起因する、配管の変位が反映されている。
こうして、圧力変化、流量変化等が生じる流体により配管の変位が生じる場合でも、精度良い学習データの導出が可能となる。
【0090】
また、上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記制御部は、前記第1推定制御において、
それぞれの前記亀裂候補に対して前記亀裂発生面の前記状態量変形ベクトルと、正規化された前記類似度とを掛け合わせて、全ての前記亀裂候補について足し合わせた結果から、前記亀裂発生面に発生した亀裂を推定する、
ものである。
【0091】
このようにそれぞれの亀裂候補に対して亀裂発生面の状態量変形ベクトルと、正規化された類似度とを掛け合わせて、全ての亀裂候補について足し合わせた結果から、亀裂発生面に発生した亀裂を推定するため、解の一意性、解の存在性、および、解の前提性が満たされ、精度よい亀裂の推定が可能となる。
【0092】
また、上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記計測部は、
前記配管の表面における変形をデジタル画像相関法により計測し、
前記制御部は、前記計測部からの前記計測値に対して、デジタル画像相関法に基づく画像解析を行って前記計測面変形ベクトルを導出する、
ものである。
【0093】
このように、計測面における変形を画像に基づき行う非接触式の計測を行っている。そのため、例えば、ひずみゲージを貼付した状態監視、超音波探傷など接触式のように、検査箇所を増やした場合の検査時間、検査の手間の増大を抑止できる。
【0094】
また、上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記制御部は、第1設定制御において、
前記流体により前記配管の内面に付加される前記第1圧力情報を用いて、前記配管の内面において亀裂が発生する箇所を特定する、
ものである。
【0095】
制御部は、このように配管において亀裂発生面を特性する際において、配管の構造情報だけでなく、配管の内面に付加される第1圧力情報を用いてもよい。これにより、配管内において亀裂が発生する領域を更に精度よく特定できる。
【0096】
実施の形態2.
以下、本願の実施の形態2を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図16は、実施の形態2による亀裂検査装置200における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図17は、実施の形態2による亀裂検査装置200の検査対象の配管40の構造の一例を示す図である。
図18は、実施の形態2によるモデル生成部10を数値解析により作成した場合の制御の詳細を示すフロー図である。
図19は、本実施の形態1による亀裂検査装置200の計測部20における計測の詳細を示すフロー図である。
【0097】
実施の形態2における亀裂検査装置200では、図17に示すように、配管40の表面に圧力を付加する加圧治具260が設けられる。
モデル生成部10は、図16図18に示すステップS2104において、実施の形態1と同様の第1圧力情報P1と、配管40の構造情報とに加えて、更に、配管40の表面に付加される外力の大きさと方向の情報を有する第2圧力情報P2と、当該外力を加えるための加圧治具260による支持場所および支持方法とを、境界条件として加える。
【0098】
計測部20は、図16図19に示すステップS2201において、加圧治具260による外力付加に応じて生じる、配管40の表面の計測面MeaSにおける変形を計測する。
図17に示す配管40の構造例を用いて説明すると、配管40に対して、支持治具による支持力S2a、S2b、S1a、S1bと、加圧治具260による外力260Pとを加えた状態で、亀裂Craに対応した計測面MeaSにおける変形を計測する。以降は実施の形態1の制御と同様である。
【0099】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記配管の表面に圧力を付加する加圧治具が設けられ、
前記制御部は、前記第3設定制御において、
前記加圧治具により前記配管に付加される第2圧力情報を含む境界条件が与えられた前記形状モデルに基づいて、前記亀裂発生面に亀裂が生じた際における前記計測面の変化を前記計測面推定変化ベクトルとして複数種類の前記亀裂候補毎に設定する、
ものである。
【0100】
これにより、加圧治具により亀裂を開口させて、配管の表面の変形に基づく計測面推定変化ベクトルを設定できるため、亀裂の大きさ、位置等に対応する学習データの推定精度を向上できる。
さらには、加圧治具により外力を配管に加えた後に、計測部により計測面の変形を計測面変形ベクトルとして計測することで、更に、亀裂の大きさ、位置等の推定精度が向上する。
【0101】
実施の形態3.
以下、本願の実施の形態3を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図20は、本実施の形態3によるモデル生成部10による制御の詳細を示すフロー図である。
図21は、本実施の形態3による亀裂検査装置の計測部20における計測の詳細を示すフロー図である。
図22は、実施の形態3による亀裂検査装置における亀裂状態解析部の解析の詳細を示すフロー図である。
【0102】
本実施の形態では、図20に示すモデル生成部10のステップS3101において、同一あるいは異なる圧力条件の圧力が、複数回、配管40に対して付加されるものとする。そして、この複数回付加される圧力条件を示す第1圧力情報P1あるいは第2圧力情報P2が入力される。
その後、ステップS102からステップS108までは実施の形態1と同様の制御を行い、ステップS3109において、入力された圧力の圧力条件の全てに対して、学習データを計算したかを判定し、ステップS110において出力する。
【0103】
次に、図21に示す計測部20のステップS201aの次のステップS3205において、第1圧力情報P1、第2圧力情報P2に基づく圧力を、配管40に対して加える。そして、ステップS201において計測面MeaSの変形を計測する。
そして、ステップS3204では、図20のステップS3101において設定されたすべての圧力条件に対して計測を行ったかを判定し、すべての圧力条件での計測が完了したらステップS201bに進み、それ以降は実施の形態1と同様の制御を行う。
ステップ203では、すべての圧力条件で計測した計測面変形ベクトルV2が出力される。
【0104】
次に、図22に示す亀裂状態を解析する亀裂状態解析部30の詳細フローにおいて、ステップS301a2、301a3からステップS303bまでは実施の形態1と同様の制御を行う。
ステップS3304では、図20のステップS3101において設定されたすべての圧力条件で亀裂を推定したかを判定し、すべての圧力条件で亀裂を推定した場合は、ステップS3305に進み、すべての圧力条件で推定した亀裂の大きさ、位置の平均を、推定結果として出力する。
【0105】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記第1圧力情報、前記第2圧力情報のすくなくとも一方は、同一あるいは異なる圧力条件を有する圧力が複数回付加される圧力情報を有して構成され、
前記制御部は、
前記第3設定制御において、複数回付加される圧力のそれぞれに対して前記計測面推定変化ベクトルを設定し、
前記第1推定制御において、複数回付加される圧力のそれぞれに対して前記亀裂発生面に発生する亀裂を推定する、
ものである。
【0106】
このように、同一または異なる外力である第2圧力情報、または内圧である第1圧力情報の変化を配管に加え、付加される複数回の圧力のそれぞれに対して、学習デ-タである計測面推定変化ベクトルを設定する。そして、付加される複数回の圧力のそれぞれに対して亀裂を推定する。こうして、圧力が変化した複数回の計測結果から亀裂を推定することで、亀裂の推定精度が向上する。
【0107】
実施の形態4.
以下、本願の実施の形態4を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図23は、実施の形態4における配管の亀裂を検査する亀裂検査装置のモデル生成部10の詳細フローである。
【0108】
本実施の形態では、図23に示すモデル生成部10によるステップS4101において、配管40が、治具などの構造体により支持される支持位置の位置ばらつきを示す位置公差と、付加される圧力値のばらつきとが入力される。その後、ステップS102からステップS110までは実施の形態1と同様に制御を行い、ステップS4111において、支持寸法の交差と圧力のばらつきを境界条件に反映して学習データを作成したかを判定し、学習データを作成したら、寸法交差と圧力のばらつきとを含む学習データをステップS4112において出力する。
【0109】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記制御部は、前記第3設定制御において、
前記第1圧力情報における圧力値の変化、あるいは、前記構造情報に含まれる、前記配管の支持位置の位置公差、に応じた前記計測面推定変化ベクトルを、複数種類の前記亀裂候補毎に設定する、
ものである。
【0110】
このように、配管に接続される機器などにより決定される配管に加わる内圧のばらつきと、配管を支持する構造体の寸法公差の範囲とに基づいて、内圧、構造体の寸法の変化に応じた、学習データである計測面推定変化ベクトルを設定できる。こうして、配管の支持寸法、圧力のばらつきを考慮した上での、高精度の亀裂の推定が可能となる。
【0111】
実施の形態5.
以下、本願の実施の形態5を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図24は、実施の形態5による亀裂検査装置500の基本構成を示すブロック図である。
図25は、実施の形態5による亀裂検査装置500における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図26は、図25に示した亀裂検査装置500と異なる、実施の形態5による亀裂検査装置500ex1における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
【0112】
本実施の形態5では、図24に示すように推定した亀裂に基づいて、配管40の強度、あるいは、亀裂の進展などの状態判定である第2推定制御を行う、制御部としての亀裂判定部540を備える。
先ず、亀裂検査装置500における亀裂判定部540は、図25のステップS5401に示すように、ステップS303において推定された亀裂の大きさ、その位置に基づいて、地震などの過大な荷重により、亀裂付近において配管40が破断するか否かを推定し、ステップS5402において推定結果を表示部に表示する。
【0113】
また、亀裂検査装置500ex1における亀裂判定部540は、図26のステップS5401ex1に示すように、ステップS303において推定された亀裂の大きさ、その位置に基づいて、配管40の内部の流体の漏洩が発生するか否かを判定し、ステップS5402において推定結果を表示装置等に表示する。
【0114】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査装置においては、
前記第1圧力情報は、前記配管に繰り返し付加される繰り返し荷重情報あるいは、前記配管に付加される最大の荷重値情報を有して構成され、
前記制御部は、
前記第1推定制御において推定された前記亀裂発生面における亀裂による前記配管の状態を、前記第1圧力情報に基づき推定する第2推定制御を行う、
ものである。
【0115】
このように、第1圧力情報は、配管に繰り返し付加される繰り返し荷重情報あるいは、配管に付加される地震などによる最大の荷重値情報を有して構成される。
そして、制御部は、第1推定制御において推定された亀裂発生面における亀裂による配管の状態を、第1圧力情報に基づき推定する第2推定制御を行う。こうして、配管の状態として、流体の漏洩、配管の破断等を推定することで、配管の不具合度に応じて、適正な順番で効率的な補修が行える。
【0116】
実施の形態6.
以下、本願の実施の形態6を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図27は、実施の形態6における、亀裂検査装置を備えた亀裂検査システム1000における亀裂検査方法の概略を示すフロー図である。
図28は、実施の形態6における、亀裂検査装置を備えた亀裂検査システム1000の概略構成を示す図である。
【0117】
図28に示すように、本実施の形態の亀裂検査システム1000は、上記実施の形態1~5のいずれかにおいて示した亀裂検査装置と、記憶装置650と、亀裂検査装置の制御部の制御結果を表示する表示部としての表示装置641と、を備えたものである。なお、この図28において、亀裂検査装置が有するモデル生成部10の図示は省略している。
また、亀裂検査システム1000において、計測部20と記憶装置650、記憶装置650と亀裂状態解析部30、亀裂状態解析部30と表示装置641とは、通信線等により互いに接続されている。
図27に示すステップS6201において、計測部20は、配管40の圧力情報、変位情報、温度情報の内の少なくとも一つと、配管40の表面の画像情報とを計測値として取得する。
この画像情報は、実施の形態1に示したデジタル画像相関法等により取得された画像であり、変形を計測する手法を使用して表面の変形分布を取得して、計測面変形ベクトルV2を導出できる。そのため、画像から変形を計測する手法によっては、亀裂が無い時点または機器の運転開始時点の画像と、点検時の画像との、2枚の画像を用いる場合がある。
【0118】
次に、ステップS6201bにおいて、計測部20の図示しない制御部は、取得した上記計測値を記憶部としての記憶装置650に記憶する。なおここでは、計測部20が計測値を記憶装置650に記憶させる例を示したが、これに限定するものではない。亀裂検査システム1000が有する制御部がこの記憶動作を行うものであればよく、例えば、制御部としての亀裂状態解析部30が、計測部20から送信される計測値を受信して、この計測値を記憶装置650に記憶させるものでもよい。
そして、亀裂状態解析部30は、これら記憶装置650に記憶された計測値に基づいて、亀裂を推定する。
亀裂を推定する方法は、実施の形態1と同様であるが、ステップS6303に示すように、亀裂状態解析部30は、この推定において、記憶された配管40の圧力、変位、温度の内の少なくとも一つの情報を用いる。これにより、配管40の変形に影響をおよぼす圧力、変位、温度に基づいた高精度な亀裂の推定が可能となる。そして、亀裂状態解析部30は、ステップS6304に示すように、推定した亀裂の大きさを出力して、表示装置641に表示させる。
そして配管の保守保全業務を行う作業者は、このように精度良く推定された亀裂の情報を表示装置641により確認できるため、適切で効率的な保守保全業務を行うことができる。
【0119】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査システムは、
配管の表面における変形を撮影した画像情報と、前記配管に付加される圧力情報、前記配管の変位情報、前記配管の温度情報の内の少なくとも一つと、を計測値として取得する計測部と、
取得された前記計測値を記憶する記憶部と、
記憶された前記画像情報に基づき導出される、前記配管の変形を示す計測面変形ベクトルと、記憶された前記圧力情報、前記変位情報、前記温度情報の内の少なくとも一つの前記計測値と、を用いて前記配管の内面における亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを推定する制御部と、
前記制御部により推定された亀裂の大きさ、形状、あるいは位置の少なくとも一つを表示する表示部と、を備えた、
ものである。
【0120】
このように、画像から取得する、亀裂による配管の変形と、その変形への影響が大きい、配管に付加される圧力情報、配管の変位情報、配管の温度情報等の計測値を計測し、これらの結果に基づき亀裂の大きさ位置を推定することで、高精度に亀裂を推定できる。
そして、表示部に表示された高精度に推定された亀裂の情報に基づき、作業者は、効率的で適切な保守保全業務を行える。
【0121】
また、上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査システムは、
上記各実施の形態に記載の亀裂検査装置と、該亀裂検査装置の前記制御部による制御結果を表示する表示部と、前記計測部からの前記計測値を記憶する記憶部と、を備えた亀裂検査システムであって、
前記計測部は、前記配管の表面における変形を撮影した画像情報と、前記配管に付加される圧力情報、前記配管の変位情報、前記配管の温度情報の内の少なくとも一つと、を前記計測値として取得し、
前記制御部は、
取得された前記計測値を前記記憶部に記憶し、
前記第1推定制御において、記憶された前記画像情報に基づき導出される前記配管の前記計測面変形ベクトルと、記憶された前記圧力情報、前記変位情報、前記温度情報の内の少なくとも一つの前記計測値と、を用いて前記亀裂を推定し、
推定された亀裂を前記表示部に表示する、
ものである。
【0122】
このように、画像から取得する亀裂による変形と、その変形への影響が大きいパラメータである計測値を計測し、これらの結果に基づき亀裂の大きさ位置を推定する第1推定制御を行うことで、高精度に亀裂を推定できる。そして、表示部に表示された高精度に推定された亀裂の情報に基づき、作業者は、効率的で適切な保守保全業務を行える。
【0123】
図29は、上記亀裂検査システム1000と異なる亀裂検査システム1000ex1の概略構成を示す図である。
亀裂検査システム1000ex1は、実施の形態5に示した、配管40の強度、亀裂の進展などの状態判定である第2推定制御を行う亀裂判定部540を備える。
また、亀裂検査システム1000ex1の計測部20は、上記亀裂検査システム1000と同様に配管40の圧力情報、変位情報、温度情報の内の少なくとも一つと、配管40の表面の画像情報とを計測し、更に、圧力情報、変位情報、温度情報の計測を行った配管40の計測箇所の位置情報を計測する。
なお、亀裂状態解析部30と亀裂判定部540、亀裂判定部540と表示装置641とは、通信線等により互いに接続されている。
【0124】
前述の亀裂検査システム1000と同様に、取得される画像は、デジタル画像相関法等により取得された画像であり、変形を計測する手法を使用して表面の変形分布を取得できる。そのため、画像から変形を計測する手法によっては、亀裂が無い時点または機器の運転開始時点の画像と、点検時の画像との、2枚の画像を用いる場合がある。
【0125】
図29に示すように、計測部20は、計測箇所の位置情報を含む計測値と、画像情報とを、計測値を測定した取得時刻と関連付けて記憶装置650に記憶する。
そして、亀裂状態解析部30は、これら記憶装置650に記憶された計測値に基づいて、計測箇所の位置情報毎に、亀裂を推定し、出力する。
さらに、亀裂判定部540は、亀裂状態解析部30が出力した推定した亀裂を受信し、実施の形態5と同様に、この亀裂に基づいて、配管40の強度、あるいは、亀裂の進展などの状態判定である第2推定制御を行う。
【0126】
この第2推定制御において、亀裂判定部540は、検査後に配管40を使用し続けた際に、亀裂のある配管から漏れが発生する漏れ発生予測箇所と、第1時期としての漏れ発生予測時期とを、計測箇所の位置情報毎に推定し、次の点検または補修の時期まで漏れずに使用できるかを判定する。亀裂判定部540は、判定結果において、漏れが発生する可能性のある予測箇所と、推定した亀裂の大きさおよび位置と、漏れが発生する第1時期と、を対応付けて表示装置641に表示する。
このように、圧力、変位、温度の計測を行った配管40の計測箇所の位置情報毎に、漏れ発生予測箇所、漏れ発生予測時期を予測するため、配管40の位置により変化する圧力、変位、温度の情報を踏まえた精度良い予測が可能になる。
また、配管の保守保全業務を行う作業者は、このように精度良く推定された亀裂の情報と、漏れ発生予測箇所、漏れ発生予測時期とを表示装置641により確認できるため、配管40において流体の漏れが発生する前に適切な保守保全業務を行うことができる。
【0127】
このような亀裂検査システム1000ex1は、定期的な検査に使用しても良いし、あるいは、計測値を状態監視できるように亀裂検査システム1000ex1を配置、運用することで、常時、配管40の状態を検査するようにしても良い。
【0128】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査システムにおいては、
前記制御部は、
前記圧力情報、前記変位情報、前記温度情報の内の少なくとも一つの前記計測値が取得された、前記配管における計測位置情報と、前記画像情報とを、取得時刻と関連付けて前記記憶部に記録し、
前記第1推定制御において推定された前記亀裂発生面における亀裂による前記配管の状態を、前記第1圧力情報に基づき推定する第2推定制御を行い、
前記第1推定制御において、記憶された前記計測位置情報毎に亀裂の位置を推定し、
前記第2推定制御において、記憶された前記計測位置情報毎に亀裂の進展を推定して、推定された亀裂の進展により前記流体の前記配管からの漏れが発生する第1時期を推定し、
推定された前記計測位置情報毎の前記亀裂の位置と、対応する前記第1時期とを前記表示部に表示させる
ものである。
【0129】
このように、推定した亀裂の情報から漏れの発生箇所、時期を特定し、不具合が発生する可能性の高い箇所を表示部に表示させて作業者に認識させることで、効率的に配管の補修が行える。
【0130】
図30は、実施の形態6における亀裂検査システム1000ex2の概略構成を示す図である。
亀裂検査システム1000ex2は、詳細を後述するように、亀裂判定部540における判定内容が上記亀裂検査システム1000、1000ex1と一部異なる。
なお、亀裂検査システム1000ex2の計測部20が計測する計測値は、上記亀裂検査システム1000と同様であり、配管40の圧力情報、変位情報、温度情報の内の少なくとも一つと、配管40の表面の画像情報とを含むものである。
【0131】
図30に示すように、計測された計測値は、記憶装置650において記憶される。
そして、亀裂状態解析部30は、これら記憶装置650に記憶された計測値に基づいて、亀裂を推定する。
亀裂を推定する方法は、実施の形態1と同様であり、亀裂状態解析部30は、推定した亀裂の大きさ、位置を出力する。
さらに、亀裂判定部540は、上記亀裂検査システム1000ex1と同様に、推定した亀裂に基づいて、配管40の強度、あるいは、亀裂の進展などの状態判定である第2推定制御を行う。この時、亀裂判定部540は、複数の配管40のそれぞれに対してこの第2推定制御を行う。
【0132】
この第2推定制御において、亀裂判定部540は、検査後に配管40を使用し続けた際に、亀裂のある配管から漏れが発生する可能性のある第1時期としての漏れ発生予測時期を推定し、次の点検または補修の時期まで漏れずに使用できるかを、配管40毎に判定する。亀裂判定部540は、判定結果において、漏れが発生する可能性のある配管40と、推定した亀裂の大きさ、位置と、漏れが発生する第1時期とを対応付けて表示装置641に表示する。
【0133】
表示装置641では、亀裂判定部540の結果を基に、漏れの発生する第1時期の近い配管40に接続された、流体の状態監視を行う第2計測器としての、圧力計、流量計、水面計、油面計のいずれか一つを、漏れの発生する時期の順に並べて表示する。
詳細に説明すると、判定結果の漏れ発生予測時期に示されるように、配管Aから配管Cまでの配管毎に、検査後から漏れが発生する第1時期を推定する。そして、配管A、B、Cと圧力計の関係例に示すように、配管Aから配管Cにそれぞれ対応して接続される圧力計を表示する。そして、表示装置641に示すように漏れの発生時期が近い順に状態監視している圧力計の表示順を変更する。
【0134】
上記のように構成された本実施の形態の亀裂検査システムにおいては、
前記制御部は、
それぞれ異なる複数の前記配管に対して前記第2推定制御を行って、前記配管毎の亀裂の進展と、前記配管毎の前記第1時期とを推定し、
各前記配管を前記第1時期の時期順に前記表示部に並べて表示すると共に、各前記配管に接続されて前記配管内を移送される前記流体の状態を測定する第2計測器を各前記配管に対応付けて前記表示部に表示する、
ものである。
【0135】
このように、表示部において、漏れ発生予測時期の時期順に配管が並べて表示されると共に、各配管に接続されて配管内を移送される流体の状態を測定する第2計測器が、各配管に対応付けて表示部に表示される。
このような亀裂検査システムの制御により、配管の保守保全業務を行う作業者は、不具合が生じやすい配管を特定し、この配管に関連する第2計測器の確認を容易に行える。これにより、地震などの過大な負荷が発生した場合において、作業者は、速やかに流体の漏洩の発生の可能性を確認できる。
【0136】
また、亀裂検査システムは、このように、得られた流体の状態監視を行う第2計測器としての、圧力計、流量計、水面計、油面計の値に基づき、配管に流れる流体の圧力、あるいは、流量の少なくとも一方を制御してもよい。
これにより、判定部結果を基に、漏れの発生する時期の近い配管に加わる圧力または流量を制御し、配管に加わる圧力を削減して、亀裂の進展を抑制できる。こうして、補修時期を制御でき、当該配管を含む装置の停止期間を少なくできる。
【0137】
また、亀裂検査システムは、それぞれ異なる形状を有する複数の配管の形状モデルを格納し、各形状モデルに対して、過去に亀裂が生じた実際の亀裂の位置を示す位置情報を付加させてもよい。
そして、第1推定制御において、この過去の位置情報を用いて配管の内面において亀裂が発生する箇所を特定してもよい。
これにより、類似配管で発生した過去の実際の亀裂箇所に基づいて、候補面としての亀裂発生面を特定できるので、モデルに反映されていない要因も考慮して亀裂の発生箇所を見込むことが出来、推定精度が更に向上する。
【0138】
各実施の形態について、推定装置を実行するための処理回路が備えられている。処理回路は、専用のハードウェアであっても、メモリに格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSPともいう)であってもよい。
【0139】
図31は、亀裂検査装置および亀裂検査システムのハードウェア構成例を説明する図である。図31においては、上記各実施の形態の亀裂検査装置および亀裂検査システムの制御部として示した処理回路601がバス602に接続されている。処理回路601が専用のハードウェアである場合、処理回路401は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA又はこれらを組み合わせたものが該当する。推定装置の各部の機能のそれぞれは、処理回路601で実現されてもよいし、各部の機能はまとめて処理回路601で実現されてもよい。
【0140】
図32は、亀裂検査装置および亀裂検査システムの他のハードウェア構成例を説明する図である。図32においては、上記各実施の形態の亀裂検査装置および亀裂検査システムの制御部として示したプロセッサ603及び、記憶部としてのメモリ604がバス602に接続されている。処理回路がCPUの場合、推定装置の各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ604に格納される。処理回路は、メモリ604に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、亀裂検査装置および亀裂検査システムは、処理回路により実行されるときに、ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ604を備えている。また、これらのプログラムは、実行する手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるといえる。ここで、メモリ404とは、RAM(Random access memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の、不揮発性若しくは揮発性の半導体メモリ又は、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等が該当する。
【0141】
なお、亀裂検査装置および亀裂検査システムの各部の機能は、一部が専用のハードウェアで実現され、他の一部がソフトウェア又はファームウェアで実現されるようにしてもよい。例えば、専用のハードウェアとしての処理回路で各機能のうちモデル生成部10を実現させることができる。また、処理回路がメモリ604に格納されたプログラムを読み出して実行することによって各機能のうち亀裂状態解析部30を実現させることが可能である。
【0142】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア又はこれらの組み合わせによって、上記の各機能を実現することができる。
【0143】
なお、各実施の形態には、候補面としての亀裂発生面CraSあるいは計測面MeaSを格子状に分割したものを要素とする一例が記載されているが、特にこれに限定されるものではない。例えば、候補面としての亀裂発生面CraSあるいは計測面MeaSを台形形状に分割したものを要素として決定してもよい。
【0144】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0145】
10 モデル生成部(制御部)、20 計測部、30 亀裂状態解析部(制御部)、
40 配管、540 亀裂判定部(制御部)、641 表示装置(表示部)、
M 形状モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32