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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023391
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】カッタビットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20250207BHJP
   E21B 10/42 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
E21D9/087 C
E21B10/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127464
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 文康
【テーマコード(参考)】
2D054
2D129
【Fターム(参考)】
2D054AC01
2D129AA08
2D129AB05
2D129GA09
2D129GB09
2D129GB14
(57)【要約】
【課題】カッタビットの耐摩耗性を向上させ、長寿命化を図るためのカッタビットの製造方法を提案する。
【解決手段】硬質チップ5の表面の硬質皮膜を除去する被膜除去工程と、複数の硬質チップ5,5,…を鋳型7内の上部に配列させるチップ配置工程と、鋳型7内に溶湯40を注入して耐摩耗材4を形成する耐摩耗材形成工程と、母材2の表面に耐摩耗材4を固定するとともに母材2の先端に刃材3を固定する刃材固定工程とを備えるカッタビットの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の硬質チップを鋳型内の上部に配列させるチップ配置工程と、
前記鋳型内に溶湯を注入して耐摩耗材を形成する耐摩耗材形成工程と、
母材の表面に前記耐摩耗材を固定するとともに前記母材の先端に刃材を固定する刃材固定工程と、を備えることを特徴とする、カッタビットの製造方法。
【請求項2】
前記硬質チップには貫通孔が形成されており、
前記チップ配置工程では、複数の前記硬質チップの前記貫通孔に同一の取付部材を挿通する作業と、前記取付部材を前記鋳型内に取り付ける作業とを行うことを特徴とする、請求項1に記載のカッタビットの製造方法。
【請求項3】
前記鋳型の側壁下部に注入孔が形成されており、
前記耐摩耗材形成工程では、前記注入孔から溶湯を注入することを特徴とする、請求項1に記載のカッタビットの製造方法。
【請求項4】
前記硬質チップがサーメットチップであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のカッタビットの製造方法。
【請求項5】
前記硬質チップの表面の硬質皮膜を除去する被膜除去工程をさらに備えていることを特徴とする、請求項4に記載のカッタビットの製造方法。
【請求項6】
前記被膜除去工程では、エアブラストにより前記硬質皮膜を除去することを特徴とする、請求項5に記載のカッタビットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削機に使用するカッタビットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法、推進工法、TBM等によるトンネル工事は、カッタビットが設置されたトンネル掘削機により行う。カッタビットは、刃材としての超硬チップと、超硬チップを決められた角度で保持する母材とを備えている。母材は、地山の切削により磨耗し易く、母材の摩耗を原因としてカッタビットが掘削機から脱落する場合もある。カッタビットが脱落した場合や、カッタビットが磨耗した場合には、掘削作業を中断してカッタビットを交換等する必要があるが、掘削作業を中断すると、工期短縮化の妨げになる。そのため、耐摩耗性を向上させてカッタビットの長寿命化を図る場合がある。
例えば、特許文献1には、刃材を保持する母材の外面に肉盛り溶接が施されたカッタビットが開示されている。特許文献1のカッタビットによれば、肉盛り溶接により母材の摩耗が抑制されて、刃材の剥落のリスクの低減できる。しかしながら、母材の外面に肉盛り溶接を行う作業に手間がかかる。
【0003】
そのため、特許文献2には、耐摩耗性を要求される設備の摩耗対策として、母材表面の所定の部位に硬質チップ(サーメットチップ)を配設する技術が開示されている。硬質チップは、予め鋳型内に配設しておくが、溶湯を鋳型に注入した際のヒートショックで割損する場合がある。割損した硬質チップは、鋳型内で移動してしまい、所望の位置に配設されないおそれがある。そのため、特許文献2の製造方法では、硬質チップに複数のメッキ層を積層し、溶湯を鋳型に注入した際の急激な加熱によるヒートショックを軽減している。一方、メッキ処理を行うことで、手間とコストが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-087426号公報
【特許文献2】特開2014-083577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カッタビットの耐摩耗性を向上させ、長寿命化を図るためのカッタビットの製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明は、掘削機に取り付けられるカッタビットの製造方法であって、複数の硬質チップを鋳型内の上部に配列させるチップ配置工程と、前記鋳型内に溶湯を注入して耐摩耗材を形成する耐摩耗材形成工程と、母材の表面に前記耐摩耗材を固定するとともに前記母材の先端に刃材を固定する固定工程とを備えている。
かかる製造方法により得られるカッタビットは、硬質チップにより母材の摩耗が抑制されるため、カッタビットの長寿命化を図ることができる。また、硬質チップは、耐摩耗材を母材に固定することにより所定の位置に配設されるため、製造時の手間も少ない。また、硬質チップは、予め鋳型の上部(耐摩耗材の表面側)に配列されているため、溶湯で鋳包まれた後も母材の表面側に配設される。なお、硬質チップは、母材に比べて比重が小さいため、ヒートショックにより割損した場合であっても鋳型内の上方(母材の表面側)に移動する。
【0007】
前記硬質チップに貫通孔が形成されている場合には、前記チップ配置工程において、複数の前記硬質チップの前記貫通孔に同一の取付部材を挿通する作業と、前記取付部材を前記鋳型内に取り付ける作業とを行うのが望ましい。こうすることで、鋳型に溶湯(鋳ぐるみ材)を注入した後においても、複数の硬質チップを列状に並設した状態を維持することできるため、硬質チップが偏って配置されることを防止できる。なお、取付部材には、母材を構成する金属(例えばSS材)よりも融点が高い素材(モリブデンやタングステン等)を使用するのが望ましいが、ステンレスなどを使用してもよい。
【0008】
前記鋳型の側壁下部に注入孔を形成しておき、前記耐摩耗材形成工程において前記注入孔から溶湯を注入すると、ヒートショックにより硬質チップに割損が生じた場合であっても、硬質チップの移動を最小限に抑えて、硬質チップが偏って配置されることを抑制できる。
前記硬質チップが切削工具等で使用されたサーメットチップ(使用済みのサーメットチップ)であれば、材料コストの低減化が可能となり、また、廃材を有効に活用できる。この場合には、硬質チップの表面の硬質皮膜を除去する被膜除去工程を備えていれば、硬質チップと耐摩耗材を構成する金属との接合性が向上する。硬質皮膜は、エアブラストにより除去するのが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカッタビットの製造方法により製造されたカッタビットによれば、比較的簡易かつ安価に製造可能で、なおかつ、耐摩耗性を有していて長寿命化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るカッタビットを示す断面図である。
図2】硬質チップの例を示す斜視図である。
図3】カッタビットの製造方法を示すフローチャートである。
図4】鋳型を示す斜視図である。
図5】チップ配置工程を示す斜視図である。
図6図5に続くチップ配置工程を示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のX-X断面図、(c)は(a)のY-Y断面図である。
図7】耐摩耗材形成工程を示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のX-X断面図、(c)は(a)のY-Y断面図である。
図8】刃材固定工程を示す断面図である。
図9】本実施形態の耐摩耗材の硬質チップの配置状況を確認するために実施した実験状況を示す断面図であって、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
図10】本実施形態の耐摩耗材の硬質チップの配置状況を確認するために実施した実験結果を示す写真であって、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
図11】硬質チップの表面の硬質皮膜を除去することによる効果を確認した結果の写真であって、(a)は実施例2、(b)は比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、シールドマシンのカッタヘッドに固定されて地山の切削を行うカッタビット1について説明する。図1にカッタビット1を示す。カッタビット1は、図1に示すように、母材2と、母材2にろう付けされた刃材3および耐摩耗材4を備えている。本実施形態では、ろう付けに使用するろう材として銀ろうを使用する。
母材2は、掘削機(カッタヘッド)に固定されて刃材3を支持する部材であって、いわゆるシャンク材である。母材2は、刃材3を決められた角度に、かつ、脱落しないように保持する。本実施形態の母材2は、刃材3よりも膨張係数が大きく、かつ、構造部材として十分な剛性、強度を有する材料により構成されている。本実施形態では、母材2を構成する材料として、SS材やSKC材等を使用するが、母材2を構成する材料は限定されるものではない。
【0012】
母材2の前面22は、カッタビット1の進行方向前側の面であり、図1に示すように、先端部(刃材3)側に向うに従って後面24から離れるように傾斜している。母材2の背面23は、地山(切削面)に対向する面であり、先端部(刃材3)側に向うに従って底面25から離れるように傾斜している。背面23の延長面と前面22の延長面とが交わる角部は鋭角となる。母材2の後面24は、カッタビット1の進行方向後側の面であり、底面25は、図示せぬカッタヘッドに当接する面である。本実施形態の母材2の後面24と底面25は、直角に交わっている。なお、後面24および底面25の必ずしも直角である必要はない。また、母材2の形状は限定されない。
母材2の前面22および背面23には、その先端側に開口する連続した凹部21が形成されている。本明細書において、母材2の先端とは、母材2の前面22の延長面と背面23の延長面とで挟まれた角部をいう。凹部21は、母材2の先端に形成された断面V字状の欠損部分である。刃材3および耐摩耗材4は、凹部21に固定(ろう付け)される。
【0013】
刃材3は、断面視四角形状の超硬チップからなり、図1に示すように、母材2の前面22の延長面と背面23の延長面に沿って配設されている。本実施形態の刃材3は、母材2の先端部において前面31および背面32が露出していて、後面33および底面34が、凹部21(母材2)または耐摩耗材4にろう付けされている。刃材3の前面31と背面32との交差部は鋭角となっている。一方、刃材3の前面31と底面34との交差部および底面34と後面33との交差部は直角になっていて、背面32と後面33との交差部は鈍角になっている。なお、刃材3の断面形状は、母材2(凹部21)および耐摩耗材4の形状に応じて適宜決定するものであり、図示の形状に限定される訳ではない。
【0014】
耐摩耗材4は、複数の硬質チップ5,5,…が表面に面した状態で埋め込まれた部材であって、図1に示すように、母材2の前面22または背面23と面一の状態で凹部21にろう付けされている。すなわち、母材2には、複数の硬質チップ5,5,…が、前面22および背面23と面一の状態で固定されている。耐摩耗材4の母材2の先端側端面は、刃材3の底面34または後面33に当接した状態でろう付けされている。なお、耐摩耗材4は、母材の後面24または側面(図1において紙面表裏の面)にも固定してもよい。
【0015】
本実施形態の硬質チップ5は、炭化チタンや炭窒化チタンを主成分としたサーメットチップであり、切削工具等で使用されたものを再利用している。図2に硬質チップ5を示す。図2に示すように、各硬質チップ5の中央部には、切削工具等に取り付けるために設けられた貫通孔51が形成されている。本実施形態では、平面視三角形状(三角柱状)の硬質チップ5を使用するが、硬質チップ5の形状は限定されるものではない。硬質チップ5の比重は、耐摩耗材4の溶湯の比重よりも小さい。
【0016】
以下、本実施形態のカッタビット1の製造方法について説明する。図3にカッタビット1の製造方法を示す。カッタビット1の製造方法は、図3に示すように、被膜除去工程S1と、鋳型形成工程S2と、チップ配置工程S3と、耐摩耗材形成工程S4と、刃材固定工程S5とを備えている。
【0017】
被膜除去工程S1では、硬質チップ5の表面の硬質皮膜を除去する。本実施形態では、エアブラストにより硬質チップ5の表面から硬質皮膜を除去する。
鋳型形成工程S2では、耐摩耗材4用の鋳型7を形成する。図4に鋳型7を示す。本実施形態の鋳型7は、砂型であり、図4に示すように、耐摩耗材4の形状に応じたキャビティ71を有した状態で、砂を固めることにより形成する。鋳型7は、キャビティ71が形成された本体部72と、本体部72の下面を覆う底版73とからなる。キャビティ71は下側に開口するように形成されており、底版73はキャビティ71を覆っている。本体部72の側壁下部には、キャビティ71に通じる注入孔(溝)74が形成されている。
【0018】
チップ配置工程S3では、複数の硬質チップ5,5,…を鋳型7(キャビティ71)内の上部に配列させる。図5および図6にチップ配設工程を示す。チップ配置工程S3では、まず、図5に示すように、複数の硬質チップ5,5,…の貫通孔51に同一の取付部材6を挿通する作業を行う。次に、図6(a)~(c)に示すように、取付部材6を鋳型7(キャビティ71)内に取り付ける作業を行う。このとき、耐摩耗材4(母材2)の外面に面する側の面が揃うように、隙間なく硬質チップ5を配置するのが望ましい。複数の硬質チップ5,5,…に貫通させた取付部材6は、治具61により鋳型7(本体部72のキャビティ71)の内面に固定する。硬質チップ5,5,…を配設するときは、キャビティ71の開口部が上になるように本体部72を載置した状態で、上方からキャビティ71内に硬質チップ5を配設する。なお、取付部材6および治具61には、耐摩耗材4を構成する鋳ぐるみ材(例えばSS材)よりも融点が高いモリブデンやタングステン等の材料を使用することで、鋳型7に鋳ぐるみ材(溶湯)を注入した際に溶融することを防止する。また、取付部材6には、ステンレス等を使用してもよい。本体部72に取付部材6を固定したら、本体部72を反転させ、キャビティ71の開口部を下側にした状態で、本体部72を底版73に載置する(図7参照)。
【0019】
耐摩耗材形成工程S4では、鋳型7(キャビティ71)内に溶湯(鋳ぐるみ材)40を注入して耐摩耗材4を形成する。図7に耐摩耗材形成工程S4を示す。溶湯40は、鋳型7の側面下部に形成された注入孔74から注入する。注入孔74は、鋳型7の上面に開口する注湯口41に通じている。本実施形態では、溶湯として、硬質チップおよび取付部材6よりも融点の低いハイクロム鋳鉄(融点1400~1700℃)を使用する。鋳型7に注入した溶湯40が固化したら、鋳型7から耐摩耗材4を取り出す。その後、必要に応じて耐摩耗材の表面を研磨する。
刃材固定工程S5では、母材2の表面に耐摩耗材4を固定するとともに母材2の先端に刃材3を固定する。図8に刃材固定工程S5を示す。耐摩耗材4は、図8に示すように、母材2の凹部21にろう付けする。また、刃材3は、凹部21および耐摩耗材4の端面にろう付けする。
【0020】
以上、本実施形態のカッタビット1によれば、硬質チップ5が埋め込まれた耐摩耗材4が母材2の外面に面して配設されているため、母材2の摩耗が抑制され、切削能力の長寿命化を図ることができる。そのため、カッタビット1の交換の頻度を少なくでき、手間を低減できる。また、複数の硬質チップ5,5,…が面状に分散配置された耐摩耗材4により母材2が部分的に摩耗することが防止されている。
溶湯40は、鋳型7の側壁下部に形成された注入孔74から注入するため、ヒートショックにより硬質チップ5に割損が生じた場合であっても、硬質チップ5の移動を最小限に抑えて、硬質チップ5が偏って配置されることを抑制できる。
【0021】
また、複数の硬質チップ5,5,…は、一面を母材2(耐摩耗材4)の表面に合わせて配置しているため、切削時の抵抗が硬質チップ5により増加することがない。また、硬質チップ5を隙間なく配置することで、母材2の耐摩耗性がより向上する。
また、硬質チップ5は、母材2に耐摩耗材4を固定することにより所定の位置に配設されるため、製造時の手間も少ない。
【0022】
また、硬質チップ5の表面から硬質皮膜を除去するため、硬質チップ5と溶湯40との接合性が優れている。
硬質チップ5は、予め鋳型7の上部に配列されているため、溶湯40で鋳包まれた後も母材2の表面側に配設される。なお、硬質チップ5は、母材2に比べて比重が小さいため、ヒートショックにより割損した場合であっても鋳型7内の上方(母材2の表面側)に移動(浮遊)する。
【0023】
硬質チップ5は、貫通孔51に挿通した取付部材6を介して鋳型7内に配置するため、鋳型7に溶湯40(鋳ぐるみ材)を注入した後においても、複数の硬質チップ5を列状に並設した状態を維持することでき、その結果、硬質チップ5が偏って配置されることを防止できる。
硬質チップ5に使用済のサーメットチップを使用することで、材料コストの低減化、および、廃材の有効利用が実現されている。また、硬質チップ5として、使用済みのサーメットチップを加工(硬質皮膜の除去以外)せずにそのまま使用できるため、加工等に要する手間を省略できる。
【0024】
次に、本実施形態のカッタビット1(耐摩耗材4)の製造方法による効果を確認するために実施した実験結果を示す。図9に実験状況の概要を示す。
本実験では、図9(a)に示すように、鋳型7のキャビティ71の上側に複数の硬質チップを配設した状態で、鋳型7の側壁下側に形成された注入孔74から溶湯40を注入して形成した場合の硬質チップ5の状況を確認した(実施例1)。また、比較例1として、図9(b)に示すように、キャビティ71の底部に硬質チップ5を配設した状態で、側壁上部から溶湯40を注入した場合の硬質チップ5の状況を確認した。さらに、比較例2として、図9(c)に示すように、キャビティ71の底部に硬質チップ5を配設した状態で上方から溶湯40を注入した場合の硬質チップ5の状況を確認した。
【0025】
図10(a)に実施例1、(b)に比較例1、(c)に比較例2に、それぞれ表面を研磨した耐摩耗材の写真を示す。図1中の点線は、溶湯40を注入する前の硬質チップ5の位置を示している。
図10(a)に示すように、実施例1では、溶湯40の熱で硬質チップ5が割れたものの、硬質チップ5の比重が溶湯40よりも軽いため、表面側に浮き上がる。そのため、耐摩耗材4の表面に硬質チップ5が配設される結果となった。また、溶湯40を下側から注入することで、注入された溶湯の流れが直接的に硬質チップ5を押し流すことがなく、比較的均等に硬質チップ5が配置されていた。
比較例1及び比較例2では、溶湯40の熱で割れた硬質チップ5が、キャビティ71内で浮遊してしまい、耐摩耗材4の表面と反対側に浮き上がる。そのため、図10(b)および(c)に示すように、実施例1に比べて、耐摩耗材4の表面に配設された硬質チップ5が少なくなった。また、比較例1では、鋳型7の上側から溶湯40を注入するため、溶湯40の流れにより硬質チップ5が流されて、図10(b)に示すように、硬質チップ5が注入孔の反対側(図10(b)において上側)に偏る傾向が見られた。さらに、比較例2では、キャビティ71の上方から溶湯40を注入するため、溶湯40の流れにより硬質チップ5が流されて、図10(c)に示すように、耐摩耗材4の中央部に硬質チップ5がほとんど残らなかった。
以上の結果から、本実施形態のカッタビット1の製造方法によれば、母材2の表面に硬質チップ5が均等に配設されたカッタビット1を製造できることが確認できた。
【0026】
次に、硬質チップ5の表面の硬質皮膜を除去することにより効果を確認した。硬質チップ5の表面から硬質皮膜を除去いた場合(実施例2)と、硬質皮膜を除去しなかった場合(比較例3)について、それぞれ溶材(溶接材料)42との接合性を確認した。図11に実施例2および比較例3の硬質チップ(サーメットチップ)5と溶材42との接合部の拡大写真を示す。
図11(a)に示すように、実施例1では、硬質チップ5と溶材42とが隙間なく接合されていることが確認できた。一方、比較例3では、図11(b)に示すように、硬質皮膜(コーティング層C)と溶材42との間に空隙Gができてしまう結果となった。
したがって、硬質チップ5の表面の硬質皮膜を除去することで、硬質チップ5と溶湯40との接合性が向上することが確認できた。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、カッタビット1をシールドマシンに用いる場合について説明したが、カッタビット1を使用する掘削機は限定されるものではなく、例えば、トンネルボーリングマシンや推進工法における掘進機等に使用してもよい。
刃材3および耐摩耗材4の母材2への固定方法はろう付けに限定されるものではない。また、ろう付けに使用するろう材は、銀ろうに限定されるものではない。
前記実施形態では、硬質チップ5として、使用済みのサーメットチップを再利用するものとしたが、硬質チップ5は、新品の材料であってもよい。また、硬質チップ5の材質は限定されるものではない。また、硬質チップ5を鋳型に設置する際に使用する取付部材6の構成は限定されるものではない。
被膜除去工程S1は必要に応じて実施すればよい。
【符号の説明】
【0028】
1 カッタビット
2 母材
21 凹部
3 刃材
4 耐摩耗材
5 硬質チップ
51 貫通孔
6 取付部材
7 鋳型
71 キャビティ
72 本体部
73 底版
74 注入孔
S1 被膜除去工程
S2 鋳型形成工程
S3 チップ配置工程
S4 耐摩耗材形成工程
S5 刃材固定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11