(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023424
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】苗箱および移植装置
(51)【国際特許分類】
A01G 9/02 20180101AFI20250207BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
A01G9/02 603A
A01G9/02 610A
A01C11/02 302C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127531
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000100469
【氏名又は名称】みのる産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】陶山 純
(72)【発明者】
【氏名】大坪 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】竹田 圭佑
【テーマコード(参考)】
2B060
2B327
【Fターム(参考)】
2B060AA09
2B060AD06
2B060AE01
2B060BA04
2B060CB02
2B060CB09
2B060CB17
2B060CC05
2B327ND03
2B327SA07
2B327SA25
(57)【要約】
【課題】移植装置に用いられる苗箱において、葉同士の絡まりを抑制し、搬送不良を抑制する技術を提供する。
【解決手段】この苗箱9は、複数のポット苗を育成するための苗箱であって、複数の苗室91と、把持部92とを有する。苗室91は、搬送方向および前記搬送方向と直交する幅方向に配列され、下方へカップ状に凹む。把持部92は、苗箱9の幅方向両側の端辺に沿って配置される。苗室91同士の幅方向の間隔D1は、苗室91同士の搬送方向の間隔D2よりも大きい。これにより、ポット苗Nの横方向への広がりを抑制して、幅方向に並ぶ複数のポット苗の茎葉部同士が絡まるのを抑制する。これにより、搬送不良を抑制できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポット苗を育成するための苗箱であって、
搬送方向および前記搬送方向と直交する幅方向に互いに間隔を空けて配列され、下方へ凹むカップ状の複数の苗室と、
前記幅方向両側の端辺に沿って配置される把持部と、
を有し、
前記苗室同士の前記幅方向の間隔は、前記苗室同士の前記搬送方向の間隔よりも大きい、苗箱。
【請求項2】
請求項1に記載の苗箱であって、
前記苗室同士の前記幅方向の間隔は、前記苗室の上端部の直径の1.3倍以上である、苗箱。
【請求項3】
請求項2に記載の苗箱であって、
前記苗室同士の前記幅方向の間隔は、前記苗室の上端部の直径の1.4倍以上である、苗箱。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の苗箱であって、
前記把持部は、
前記搬送方向に間隔をあけて配置される複数の把持孔
を有し、
前記把持孔同士の前記搬送方向の間隔は、前記苗室同士の前記搬送方向の間隔と同じである、苗箱。
【請求項5】
苗箱に保持された複数のポット苗を圃場に移植する移植装置であって、
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載された前記苗箱を所定のピッチで前記搬送方向に搬送する苗箱搬送部と、
前記苗箱から前記ポット苗を取り出す苗取り出し部と、
前記苗取り出し部から受け渡された前記ポット苗を前記圃場へ植え付ける植え付け部と、
を有し、
前記苗取り出し部は、
前記苗箱搬送部によって搬送される前記苗箱に対して、前記幅方向に間隔をあけて配置され、前記苗室の底部に設けられた貫通孔または切り込みから前記苗室の内部へ挿入する、複数の押出棒
を有し、
前記押出棒同士の前記幅方向の間隔は、前記苗箱搬送部の搬送ピッチよりも大きい、移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗箱および移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、稲や野菜などの苗を圃場に移植する移植機として、苗箱に育成されたポット苗を圃場に移植する移植機が知られている。苗箱に育成された野菜のポット苗を圃場に移植する移植機については、例えば、特許文献1に記載されている。
図8は、特許文献1で使用される苗箱(9)の上面図である。
図9は、特許文献1の移植機の移植部(20)の斜視図である。
【0003】
図8に示すように、特許文献1に記載の苗箱(9)には、それぞれ内部にポット苗を育成するための苗室(91)が搬送方向および幅方向に整列している。
図9に示すように、特許文献1に記載の移植機では、苗箱搬送部(41)によって搬送される苗箱(9)の、幅方向に並ぶ10個の苗室(91)からポット苗を一度に押し出すための押出棒(421)が備えられている。
【0004】
同時に押し出された10個のポット苗は、苗反転部(43)によって前後の向きを反転され、苗搬送部(32)の有する横送りベルト(51)によって水平方向に搬送された後に、1つずつ縦送りベルト(52)へと送られ、植え付け部(3)によって圃場へ植え付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、移植機において、苗箱からポット苗を取り出して植え付ける場合に、隣り合うポット苗の葉同士が絡まってしまうと、苗箱からポット苗を取り出す際に絡んだ苗がうまくその後の苗の搬送経路に引き渡されなかったり、同時に取り出した複数のポット苗から1つずつ別個に分離できずに2株植えが発生したりする原因となってしまう。
【0007】
このため、従来、葉が広がりやすい種類の野菜においては、葉齢が小さいうちに移植を行うなどの工夫をしていた。しかしながら、苗箱での生育期間を長くしたい場合や、特に葉が広がりやすい種類の野菜を移植する場合には、依然、葉同士の絡まりを解消する方法が求められていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、移植装置に用いられる苗箱において、葉同士の絡まりを抑制し、搬送不良を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、複数のポット苗を育成するための苗箱であって、搬送方向および前記搬送方向と直交する幅方向に互いに間隔を空けて配列され、下方へ凹むカップ状の複数の苗室と、前記幅方向両側の端辺に沿って配置される把持部と、を有し、前記苗室同士の前記幅方向の間隔は、前記苗室同士の前記搬送方向の間隔よりも大きい。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明の苗箱であって、前記苗室同士の前記幅方向の間隔は、前記苗室の上端部の直径の1.3倍以上である。
【0011】
本願の第3発明は、第2発明の苗箱であって、前記苗室同士の前記幅方向の間隔は、前記苗室の上端部の直径の1.4倍以上である。
【0012】
本願の第4発明は、第1発明ないし第3発明のいずれか一発明の苗箱であって、前記把持部は、前記搬送方向に間隔をあけて配置される複数の把持孔を有し、前記把持孔同士の前記搬送方向の間隔は、前記苗室同士の前記搬送方向の間隔と同じである。
【0013】
本願の第5発明は、苗箱に保持された複数のポット苗を圃場に移植する移植装置であって、第1発明ないし第4発明のいずれか一発明の前記苗箱を所定のピッチで前記搬送方向に搬送する苗箱搬送部と、前記苗箱から前記ポット苗を取り出す苗取り出し部と、前記苗取り出し部から受け渡された前記ポット苗を前記圃場へ植え付ける植え付け部と、を有し、前記苗取り出し部は、前記苗箱搬送部によって搬送される前記苗箱に対して、前記幅方向に間隔をあけて配置され、前記苗室の底部に設けられた貫通孔または切り込みから前記苗室の内部へ挿入する、複数の押出棒を有し、前記押出棒同士の前記幅方向の間隔は、前記苗箱搬送部の搬送ピッチよりも大きい。
【発明の効果】
【0014】
本願の第1発明から第5発明によれば、ポット苗の横方向への広がりを抑制して、幅方向に並ぶ複数のポット苗の茎葉部同士が絡まるのを抑制する。これにより、搬送不良を抑制できる。
【0015】
特に、本願の第2発明によれば、搬送精度を向上できる。
【0016】
特に、本願の第3発明によれば、搬送精度をより向上できる。
【0017】
特に、本願の第4発明によれば、移植装置において苗箱の搬送ピッチを苗室の搬送方向の間隔と合わせやすい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】一実施形態に係る苗箱およびポット苗の断面図である。
【
図5】一実施形態に係る苗取り出し部の側面図である。
【
図6】一実施形態に係る苗取り出し部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本願では、苗箱の移植装置における進行方向を「搬送方向」、搬送方向に直交する方向を「幅方向」とそれぞれ称する。また、苗箱の裏側に対して表側を「上方」、表側に対して裏側を「下方」として上下方向を定義する。
【0020】
また、本願では、移植装置の進行方向を「前方向」、移植装置の進行方向と逆の方向を「後方向」とそれぞれ称する。また、本願では、移植装置の使用時の姿勢に従って上下方向を定義し、前後方向および上下方向と直交する方向を左右方向と称する。
【0021】
<1.苗箱について>
図1は、本発明の一実施形態に係る苗箱9の斜視図である。
図2は、苗箱9の上面図である。
図3は、苗箱9と、苗箱9内で育成されたポット苗Nとの断面図を概念的に示した図である。本実施形態の苗箱9は、例えば、白菜やブロッコリー等の苗を育成するための苗箱である。
【0022】
苗箱9は、上面視で長方形状である。苗箱9の長手方向が、移植装置において搬送される搬送方向である。また、苗箱9の短手方向は、搬送方向と直交する幅方向である。
【0023】
苗箱9は、搬送方向および幅方向に間隔を空けて2次元的に配列された複数の苗室91を有する。苗室91は、表側の面から裏側に向かって下方へ凹むカップ状である。すなわち、苗室91は、苗箱9の表側(上側)に開口を有し、苗箱9の裏側(下側)に底部を有する。
【0024】
図1および
図2に示すように、苗室91は、上面視において円形である。また、
図3に示すように、苗室91は、上端部から下方へ向かうにつれて次第に縮径する。
【0025】
苗室91の底には、底面孔911が設けられている。本実施形態では、底面孔911は、Y字形状をしている。なお、底面孔911は、単なる円形や四角形等の貫通孔であってもよく、Y字形状や十文字形状等の切り込みであってもよい。
【0026】
図2に示すように、苗室91同士の幅方向の間隔D1は、苗室91同士の搬送方向の間隔D2よりも大きい。ここで、苗室91の幅方向の間隔D1とは、
図3に示すように、隣り合う苗室91の幅方向の中央の距離である。同様に、苗室91の搬送方向の間隔D2とは、隣り合う苗室91の搬送方向の中央の距離である。
【0027】
本実施形態では、苗室91の直径Rは、約23mmである。なお、苗室91の直径Rは、苗室91の上端部の直径である。また、苗室91の幅方向の間隔D1は、約37mmである。すなわち、苗室91の幅方向の間隔D1は、苗室91の直径Rの約1.6倍である。また、苗室91の搬送方向の間隔D2は、約28mmである。すなわち、苗室91の搬送方向の間隔D2は、苗室91の直径Rの約1.2倍である。
【0028】
また、苗箱9は、苗箱9の幅方向の両側の端辺に沿って配置される把持部92を有する。把持部92は、搬送方向に間隔を空けて配置される複数の把持孔920を有する。把持孔920同士の搬送方向の間隔は、苗室91同士の搬送方向の間隔と同じである。後述する移植装置1を用いて苗箱9のポット苗Nを圃場へ移植する際には、移植装置1の一部が把持孔920に係合して搬送方向へ移動することによって、苗箱9が搬送方向に搬送される。このため、把持孔920の搬送方向の間隔が苗室91の搬送方向の間隔と同じであることにより、移植装置1において苗箱9の搬送ピッチを苗室91の搬送方向の間隔と合わせやすい。
【0029】
各苗室91に土を入れた後、各苗室91内に播種し、育苗することで、
図3に示すように、複数のポット苗Nが得られる。ポット苗Nは、苗室91において土と根とにより構成される根部N1と、根部N1から延びる茎葉部N2とから成る。育成したポット苗Nは、苗箱9に収容されたまま苗箱9ごと移植装置1へ載置される。
【0030】
<2.移植装置の構成について>
図4は、移植装置1の側面図である。この移植装置1は、苗箱9において育成された複数の野菜のポット苗Nを、圃場へ移植する装置である。本実施形態の移植装置1は、いわゆる乗用型の移植装置である。この移植装置1は、搭載したエンジン111の駆動力により自走しながら、ポット苗Nを順次に圃場へ移植する。作業者は、移植装置1の座席13に座った状態で、空になった苗箱9の取り出し、新たな苗箱9の供給、および移植装置1の操作を行う。
【0031】
図4に示すように、移植装置1は、本体部11と、車輪12と、座席13と、操作部14と、苗箱載置台15と、移植部20とを有する。
【0032】
本体部11は、エンジン111と、エンジン111から出力される動力をPTO軸を介して移植部20へと伝達する動力伝達機構とを有する。車輪12は、本体部11、座席13、操作部14、苗箱載置台15および移植部20を走行自在に支持する。車輪12は、エンジン111の出力した動力によって回転し、移植装置1を走行させる。
【0033】
座席13、操作部14および苗箱載置台15は、本体部11の後方に設けられている。操作部14は、座席の前方に配置され、座席13に座った作業者が操作を行う。操作部14は、移植装置1の使用時に作業者が把持するハンドル141と、移植装置1の各部を操作するための操作レバー142等を有する。苗箱載置台15は、移植前または移植後の苗箱を載置可能である。
【0034】
移植部20は、ポット苗Nを苗箱9から取り出して圃場へと移植する。
図4に示すように、移植部20は、苗取り出し部21と、苗搬送部22と、左右2つの苗植え付け部23とを有する。苗取り出し部21は、苗箱9を搬送しつつ、苗箱9からポット苗Nを取り出して、苗搬送部22へと引き渡す。苗搬送部22は、苗取り出し部21から受け取ったポット苗Nを左右に分けて搬送し、左右それぞれの苗植え付け部23へと引き渡す。苗植え付け部23は、上下に移動する植え付けカップ230を有する。植え付けカップ230は、上方で苗搬送部22からポット苗Nを受け取り、下方で圃場にポット苗Nを植え付ける。左右2つの苗植え付け部23により、2条同時にポット苗Nを植え付けることができる。
【0035】
図5および
図6は、移植部20の苗取り出し部21の側面図である。
図5は、押出棒320が待機状態である様子を示しており、
図6は、押出棒320が押出状態である様子を示している。
図5および
図6中、苗箱9の搬送経路が破線矢印で示されている。
図5および
図6に示すように、苗取り出し部21は、苗箱搬送部31と、苗押し出し部32と、苗反転部33とを有する。
【0036】
苗箱搬送部31は、苗箱載置面311と、苗箱送り出し部312とを有する。苗箱載置面311は、苗箱9の搬送経路に沿って、配置される。移植処理を行う場合には、ポット苗Nが育成された苗箱9を、苗箱載置面311に苗室91の底部が沿うように配置する。苗箱送り出し部312は、苗箱9の把持孔920に搬送爪(図示せず)を引っかけて送り出す。これにより、苗箱9が、搬送経路に沿って、所定の搬送ピッチで搬送方向に搬送される。このとき、苗箱送り出し部312が把持孔920を用いて苗箱9を送り出すことから、苗箱搬送部31における搬送ピッチは、把持孔920同士の間隔と同じとなる。すなわち、苗箱搬送部31における搬送ピッチは、苗箱9の苗室91同士の搬送方向の間隔と同じである。
【0037】
苗押し出し部32は、苗箱9の搬送経路の途中において、苗箱9に収容されたポット苗Nの根部N1を苗室91から押し出して、ポット苗Nを取り出す。苗押し出し部32は、略水平に並ぶ複数の押出棒320を有する。押出棒320同士の幅方向(左右方向)の間隔は、苗箱9の苗室91同士の幅方向の間隔と同じである。ここで、苗箱9において、苗室91同士の幅方向の間隔は、苗室91同士の搬送方向の間隔よりも大きい。すなわち、押出棒320同士の幅方向の間隔は、苗箱搬送部31における搬送ピッチよりも大きい。
【0038】
押出棒320は、苗箱9において配列された苗室91の底面孔911に裏面側から挿入されることにより、搬送経路上を搬送される苗箱9内に保持されたポット苗Nの根部N1を、苗室91から表面側へ押し出す。これにより、苗箱9の幅方向に並ぶ複数のポット苗Nが、複数の押出棒320によって同時に押し出され、苗箱9から取り出される。
【0039】
苗箱9は、搬送経路に沿って湾曲しながら搬送される。
図5および
図6に示すように、苗押し出し部32によってポット苗Nが押し出される押し出し位置付近では、苗箱9は略垂直に配置される。このとき、ポット苗Nの姿勢は、後方に根部N1、前方に茎葉部N2が配置された状態となっている。押出棒320が底面孔911から前方へ向かって苗室91内に挿入されることにより、ポット苗Nは、苗箱9から前方へと押し出される。
【0040】
苗反転部33は、苗押し出し部32によって苗箱9から押し出された複数のポット苗Nを受け取り、ポット苗Nの前後方向を反転させて苗搬送部22へ引き渡す。本実施形態では、苗押し出し部32が苗箱9の一列分である8個のポット苗Nを同時に押し出し、苗反転部33が当該8個のポット苗Nを同時に反転して苗搬送部22へ引き渡す。その後、苗搬送部22においてポット苗Nは1つずつ別個に搬送され、左右2つの苗植え付け部23へと引き渡される。
【0041】
このような移植装置1を用いて苗箱9から取り出したポット苗Nを圃場に植え付ける場合に、苗箱9の隣り合う苗室91において生育したポット苗Nの茎葉部N2同士が絡まる場合がある。特に、白菜等の特定の植物では、他の苗よりも茎葉部N2が広がりやすく、したがって、隣り合うポット苗Nの茎葉部N2同士が絡まりやすい。
【0042】
このように、茎葉部N2同士の絡まりがある場合であっても、移植装置1で幅方向に並ぶ列毎に押出棒320で一斉に押し出すため、搬送方向に隣り合うポット苗N同士においては、ポット苗Nの押し出し時に強制的に絡まりが解消されやすい。一方、苗押し出し部32によるポット苗Nの押し出しおよび反転後、苗搬送部22において1つずつ別個に搬送しようとした際に、幅方向に隣り合うポット苗N同士の茎葉部N2の絡まりを解消するのが困難である。そのため、幅方向に隣り合うポット苗N同士の茎葉部N2の絡まりがある場合には、絡まりが解消されず、苗植え付け部23において2株同時にポット苗Nが植え付けられる虞がある。
【0043】
図8に示す従来の苗箱を、
図9に示す従来の移植装置を用いて圃場に植え付ける場合には、ポット苗の葉齢が大きくなると、このような問題が生じやすかった。このような茎葉部の絡まりを解消するために、単に苗箱の苗室同士の間隔を、搬送方向および幅方向の両方について大きくすることが考えられる。しかしながら、この方法では、苗箱の面積に対する栽培可能なポット苗の数が大きく減少するという問題がある。さらには、搬送方向および幅方向の両方について苗室同士の間隔を大きくすると、ポット苗が上方だけでなく横方向に広がって生育しやすくなり、その結果、苗室同士の間隔を大きくしたにもかかわらず、隣り合うポット苗同士の絡まりが発生することが分かった。
【0044】
これに対し、本実施形態の苗箱9のように、苗室91同士の幅方向の間隔を、苗室91同士の搬送方向の間隔よりも大きくすると、ポット苗Nの育成中、茎葉部N2が成長すると、苗室91同士の間隔の狭い搬送方向に隣り合うポット苗Nの茎葉部N2と接触する。これにより、搬送方向の間隔を基準として茎葉部N2の横方向に成長するため、幅方向に隣り合うポット苗N同士において、茎葉部N2の絡まりが抑制される。
【0045】
このようにすれば、上記の移植装置1を用いて圃場に植え付ける場合に、苗押し出し部32において一斉に押し出される複数のポット苗Nは、隣り合うポット苗N同士の茎葉部N2の絡まりが小さくなる。したがって、苗搬送部22における搬送中にポット苗N同士の茎葉部N2の絡まりによって搬送不良が生じることが抑制される。
【0046】
<3.実験結果>
続いて、苗箱9の苗室91同士の間隔についての実験について、
図7を参照しつつ実験結果を説明する。この実験では、苗室91の上端部の直径Rおよび苗室91同士の搬送方向の間隔D2を固定し、ポット苗Nの葉齢および苗室91同士の幅方向の間隔D1を変更しつつ、移植部20全体(苗取り出し部21、苗搬送部22および苗植え付け部23)を通じたポット苗Nの搬送精度を調べた。実験条件は以下の通りである。
【0047】
(実験条件)
対称苗種:白菜
葉齢:2~3葉、3~4葉、4~5葉
直径R:約23mm
幅方向の間隔D1:直径Rの1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍
(約28mm、約30mm、約32mm、約34.5mm、約37mm)
搬送方向の間隔D2:直径Rの1.2倍(約28mm)
【0048】
図7に示すように、苗室91同士の幅方向の間隔D1と搬送方向の間隔D2とがいずれも苗室91の直径Rの1.2倍である場合には、葉齢2~3葉において搬送精度が85%以上95%未満であり、葉齢3~4葉および葉齢4~5葉において搬送精度が85%未満と、搬送精度が良好でないことがわかる。
【0049】
また、苗室91同士の幅方向の間隔D1を苗室91の直径Rの1.3倍として、搬送方向の間隔D2よりも僅かに大きくした場合には、全ての葉齢について、搬送精度が85%以上95%未満となり、搬送精度の向上が見られた。このため、苗室91同士の幅方向の間隔D1は、苗室91同士の搬送方向の間隔D2よりも大きく、かつ、苗室91の直径Rの1.3倍より大きいことが好ましいことがわかった。
【0050】
また、苗室91同士の幅方向の間隔D1を苗室91の直径Rの1.4倍、1.5倍、および1.6倍として、搬送方向の間隔D2よりも大きくした場合には、全ての葉齢について、搬送精度が95%以上となり、搬送精度が大きく向上した。このため、苗室91同士の幅方向の間隔D1は、苗室91同士の搬送方向の間隔D2よりも大きく、かつ、苗室91の直径Rの1.4倍より大きいことがより好ましいことがわかった。
【0051】
上述の通り、本実施形態では、苗室91の直径Rは、約23mmである。また、苗室91の幅方向の間隔D1は、約37mmである。すなわち、苗室91の幅方向の間隔D1は、苗室91の直径Rの約1.6倍である。また、苗室91の搬送方向の間隔D2は、約28mmである。すなわち、苗室91の搬送方向の間隔D2は、苗室91の直径Rの約1.2倍である。このため、本実施形態の苗箱9を用いれば、良好な搬送精度でポット苗Nの植え付けを行うことができる。
【0052】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0053】
上記の実施形態では、苗室91が上面視で円形であったが、本発明はこれに限られない。例えば、苗室91は、上面視で四角形やその他多角形等の他の形状であってもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、苗箱9の有する把持部92が、複数の把持孔920を有したが、本発明はこれに限られない。把持部92は、移植装置1が係合して苗箱9の搬送に用いることができれば、把持孔920に代えて、凹部や切り欠き等の他の形状を有していてもよい。
【0055】
また、上記の実施形態の苗箱9は、野菜の苗を育成する苗箱であったが、本発明はこれに限られない。本発明の苗箱は、稲の苗を育成する苗箱であってもよい。
【0056】
また、上記の実施形態の移植装置1は2条分のポット苗を同時に移植できる、いわゆる2条植の移植装置であったが、本発明の移植装置は、2条植には限られない。例えば、1条植、4条植、6条植および8条植の移植装置に、本発明を適用してもよい。
【0057】
また、上記の実施形態の移植装置に使用した苗箱は、横8列、縦22列に苗室が並ぶものであったが、本発明に使用する苗箱の苗室の数は、これに限られない。
【0058】
また、上記の実施形態の移植装置は、乗用型の移植装置であったが、本発明はこれに限られない。本発明の移植装置は、作業者が圃場を歩行しながら自走する移植装置を操作する歩行型の移植装置であってもよい。
【0059】
また、移植装置の細部の構成については、本願の各図に示された形状と、相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 :移植装置
9 :苗箱
20 :移植部
21 :苗取り出し部
22 :苗搬送部
23 :苗植え付け部
31 :苗箱搬送部
32 :苗押し出し部
33 :苗反転部
91 :苗室
92 :把持部
320 :押出棒
911 :底面孔
920 :把持孔
N :ポット苗
N1 :根部
N2 :茎葉部