(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023455
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】高透明ポリエステルフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250207BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20250207BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08J7/046 Z
C08G63/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127579
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 篤
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4J029
【Fターム(参考)】
4F006AA35
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4J029JA09
4J029JA251
4J029JA261
4J029JB171
4J029JF031
4J029JF361
4J029JF541
(57)【要約】
【課題】 本発明は、再溶融してもゲル化物などの異物発生が少なく、かつ耐熱性を兼ね備えリサイクルを実施した場合でも非常に高い品質を維持可能な、高透明ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、内部へイズが0.5%以下であり、かつ下記式(I)~(IV)を全て満たす、ポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (II)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (III)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (IV)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、内部へイズが0.5%以下であり、かつ下記式(I)~(IV)を全て満たす、ポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (II)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (III)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (IV)
【請求項2】
前記基材層中のリン元素含有量が質量基準で15ppm以上70ppm以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記リン元素の少なくとも一部が、リン酸およびリン酸ナトリウムに由来する、請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記基材層の少なくとも片側の表面上に塗布層を有する、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記基材層が回収原料を含む、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記回収原料が自己回収原料を含む、請求項6に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記基材層が前記回収原料を用いてなり、下記式(V)で求められるリサイクル指数(R)が1.5以上である、請求項6または7に記載のポリエステルフィルム。
[リサイクル指数(R)]
R=Σ(mn*rn) (V)
n:基材層に含まれる原料の種類
mn:再生基材層における各原料の質量比率
rn:以下の通りに定義される各原料のリサイクル指数
回収原料でない原料:1.0
回収原料:回収した成形体のリサイクル指数に1.0を加えた値
【請求項9】
請求項6または7に記載のポリエステルフィルムを製造する、ポリエステルフィルムの製造方法であって、塗布層が設けられたポリエステルフィルムより塗布層を除去した回収原料を使用することを特徴とする、ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透明なポリエステルフィルムおよびリサイクル原料を用いた製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルフィルムの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記すことがある。)フィルムは、透明性や加工性に優れていることから、特にディスプレイやタッチパネル用途向けの高透明な光学用フィルムとして好適に用いられている。
【0003】
一般にポリエステル樹脂、特にPETの製造方法としては、テレフタル酸などのジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールまたはこれを主体とするグリコールとからエステル化反応物を製造し、このエステル化反応物を重縮合触媒の存在下、高温、高真空下で重縮合する方法が用いられている。
【0004】
ポリエステル樹脂を製造する際の重縮合触媒としては、従来からゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物などが用いられているが、安価でかつ触媒活性が優れているアンチモン化合物が最も広く使用されている。しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として用いると、ポリエステル樹脂の製造段階において不溶な金属粒子として析出しやすい。そのため、得られたポリエステル樹脂をフィルムに成形加工した際に欠点を生じさせたり、溶融押出し時にアンチモン化合物が微小なゲル化物を誘発させる等の問題があった。
【0005】
近年は、光学用を中心とする高透明フィルムに対する品質要求がますます高くなっており、機械特性や熱特性を維持しながら上記のような欠点を抑制する技術が望まれている。また、さらに環境負荷低減に対する要求の高まりから、消費エネルギーやCO2の発生量を低減するために、フィルム自身から再生されたリサイクル原料を活用することも必要となってきている。例えば、繰り返し使用しても異物、特に微小なゲル化物の発生や、ポリエステルの粘度低下を抑制し、高い品質を保持可能なリサイクル耐久性を有するフィルムへの期待が高まっている。
【0006】
これらの課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。例えば、特許文献1では、アンチモン化合物の添加量を減少することによって、金属アンチモンの生成を抑制する技術が開示されている。特許文献2では、特定量のマンガン化合物とアルカリ金属化合物、リン化合物、有機チタン化合物を用い、ポリマー中の不溶性異物の生成を抑制したポリエステルの製造方法が開示されている。特許文献3では、ゲルマニウム化合物を触媒としてマグネシウム化合物、リン化合物を用いた、ポリエステルの透明性や結晶性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献4では、リサイクル性の観点から、フィルム上に設けられた機能層を剥離洗浄し、再生原料として活用するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-146707号公報
【特許文献2】特開昭63-278927号公報
【特許文献3】特開2003-137992号公報
【特許文献4】特開2021-160351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ある程度金属アンチモンの生成を抑制することはできるものの、高い透明性や品質が要求されるようなフィルムで求められる水準にまで下げることは不可能であった。特許文献2に記載の方法では、チタン化合物の活性が高く、ポリエステル重合反応中に変性ポリマーや凝集異物が発生する問題があった。特許文献3に記載の方法では、ゲルマニウム化合物がポリエステル樹脂の分解を促進してゲル化物が発生したり、得られるフィルムの耐熱性が悪化したりする課題があった。また、特許文献4に記載の方法では、ポリエステル樹脂そのもののリサイクル耐久性に課題があるため、リサイクル比率を上げられないことや、高品質が要求される光学フィルムには適用できないこと等が課題となる。
【0009】
本発明は、これらの課題を解決し、再溶融してもゲル化物などの異物発生が少なく、かつ耐熱性を兼ね備え、リサイクルを実施した場合でも非常に高い品質を維持可能な、高透明ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決せんとするものである。すなわち、
(1) ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、内部へイズが0.5%以下であり、かつ下記式(I)~(IV)を全て満たす、ポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (II)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (III)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (IV)
(2) 前記基材層中のリン元素含有量が質量基準で15ppm以上70ppm以下である、(1)に記載のポリエステルフィルム。
(3) 前記リン元素の少なくとも一部が、リン酸およびリン酸ナトリウムに由来する、(2)に記載のポリエステルフィルム。
(4) 前記基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(5) 前記基材層の少なくとも片側の表面上に塗布層を有する、(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(6) 前記基材層が回収原料を含む、(1)~(5)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(7) 前記回収原料が自己回収原料を含む、(6)に記載のポリエステルフィルム。
(8) 前記基材層が前記回収原料を用いてなり、下記式(V)で求められるリサイクル指数(R)が1.5以上である、(6)または(7)に記載のポリエステルフィルム。
[リサイクル指数(R)]
R=Σ(mn*rn) (V)
n:基材層に含まれる原料の種類
mn:再生基材層における各原料の質量比率
rn:以下の通りに定義される各原料のリサイクル指数
回収原料でない原料:1.0
回収原料:回収した成形体のリサイクル指数に1.0を加えた値
(9) (6)~(8)のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造する、ポリエステルフィルムの製造方法であって、塗布層が設けられたポリエステルフィルムより塗布層を除去した回収原料を使用することを特徴とする、ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再溶融してもゲル化物などの異物発生が少なくかつ耐熱性を兼ね備え、リサイクルを実施した場合でも非常に高い品質を維持可能な、高透明ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、内部へイズが0.5%以下であり、かつ下記式(I)~(IV)を全て満たす、ポリエステルフィルムである。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (II)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (III)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (IV)。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有する。本発明において、ポリエステル樹脂とはジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繰り返し繋がった分子構造を有する樹脂をいい、ポリエステルフィルムとはポリエステル樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。本発明のポリエステルフィルムに好適に用いることができるポリエステル樹脂の詳細は後述する。主成分とは、対象物中の全構成成分を100質量%としたときに50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。ポリエステル樹脂を主成分とする基材層とは、ポリエステル樹脂を主成分とし、かつ厚みが10μm以上の層をいう(以下、「ポリエステル樹脂を主成分とする基材層」を単に「基材層」ということがある。)。なお、基材層は単層構成であっても積層構成であってもよく、上記要件を満たす層が連続して積層されている場合は、これらの層全体を一つの基材層として扱う。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、ゲルマニウム元素を質量基準で5ppm以上80ppm以下含有することが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは60ppmであり、より好ましくは50ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステル樹脂の重合触媒として利用されるが、その量を上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となり、異物の発生も軽減できる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のゲルマニウム元素量を満たすことで、ポリエステル樹脂の各種分解を抑制することが可能となる。なお、基材層中のゲルマニウム元素量の測定方法は後述する(他の元素量についても同様である。)。なお、ここで質量基準とは、ポリエステルフィルムを構成する全成分を基準とすることを意味し、以下同様に解釈することができる。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、マンガン元素を質量基準で5ppm以上40ppm以下含有していることが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは30ppmである。マンガン化合物はポリエステル樹脂の熱分解に影響するため、その量を上記下限以上とすることで、ポリエステルフィルムの耐熱性を向上することが可能であり、異物の発生も軽減できる。また、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン元素量を満たすことで、加工工程におけるポリエステル樹脂やフィルムの各種分解を抑制することが可能となる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、ナトリウム元素を質量基準で4ppm以上40ppm以下含有していることが必要である。上限として好ましくは30ppmであり、より好ましくは20ppmである。ナトリウム元素を上記範囲とすることで、ナトリウム元素に起因する異物の発生が軽減されて耐熱性が良好となり、熱分解に起因するポリエステル樹脂やフィルムの各種分解を抑制できる。
【0017】
また、本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、金属元素のトータル含有量が質量基準で14ppm以上100ppm以下であり、好ましくは80ppm以下である。基材層中の金属元素量が100ppmを超えると、溶融押出工程にてポリエステル鎖の切断を促進させるため、3次元構造を有するゲル化物が多発しやすく、フィルムの欠点となり品質を低下させる。また、金属成分自体、あるいは金属成分と他の化学物質との複合体が析出する等により、フィルム中の欠点を増加させる問題もある。また、なお、ここでいう金属元素は、一般的に定義されている金属元素と同義であり、元素の周期表の水素を除く1族、2族~12族のすべての元素、ホウ素を除く第3周期以降の13族、炭素、ケイ素を除く第4周期以降の14族、第5周期以降の15族、第6周期の16族のことをいう。なお、ポリエステルフィルムにおける基材層における金属元素含有量の下限は、ゲルマニウム元素、マンガン元素、ナトリウム元素の含有量の下限から実質14ppmとなる。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、リン元素を質量基準で15ppm以上70ppm以下含有していることが好ましい。下限としてより好ましくは20ppm、さらに好ましくは25ppm、特に好ましくは30ppmである。上限として好ましくは60ppm、より好ましくは50ppmである。上記範囲とすることで、ポリエステルに耐熱性を付与させることができ、さらに生産性も向上する。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムの基材層では、異物化の原因となりやすい金属元素を極力含有させず、マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物またはリン化合物を添加することでポリエステルに耐熱性を付与している。特に、ナトリウム元素やリン元素については、リン酸およびリン酸ナトリウム塩を用いてなることがポリエステル樹脂の劣化抑制の観点から好ましい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいては、基材層に含まれるリン元素の少なくとも一部が、リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来することが好ましい。なお、基材層にリン酸イオンとナトリウムイオン、またはリン酸ナトリウムが存在する場合、基材層に含まれるリン元素が「リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来する」ものとみなすものとする。
【0020】
なお、基材層のポリエステル樹脂の劣化抑制(耐加水分解)効果を高めるためには、基材層の原料となるポリエステル樹脂にリン酸とリン酸ナトリウム塩を加えることが好ましく、これらの成分の含有量をモル比換算で等量に近づけることがより好ましい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいては、基材層がリン酸に由来するリン元素とリン酸ナトリウムに由来するリン元素の両方を含むことが好ましく、より好ましくは両者の量をモル比換算でより等量に近づけることである。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、ポリエステルフィルムの厚みムラの軽減と生産性向上を両立させる観点から、基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下であることが好ましい。溶融製膜法で得られるポリエステルフィルムの厚みムラに影響する要素の一つとして、基材層を得るための溶融シート状物をキャストドラムで冷却固化する際の静電印加性が挙げられる。この静電印加性は、最終的に得られるポリエステルフィルムの基材層を溶融したときの溶融比抵抗値で評価することができ、また、基材層の原料となる溶融したポリエステル樹脂の溶融比抵抗値で代替することもできる。
【0022】
溶融比抵抗値とは、熱溶融させたポリエステルフィルム(またはポリエステル樹脂組成物)の体積抵抗率である。上記観点から、本発明のポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗値は10.0MΩ・cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは5.0MΩ・cm以下である。基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下となる場合、キャストドラムでの冷却固化の際に静電印加性が良好となるため、得られるポリエステルフィルムの厚みムラが抑えられる上、製膜速度を高めて生産性を向上させることもできる。また、基材層の溶融比抵抗値の下限は特に制限されないが、実現可能性の観点から0.1MΩ・cmとなる。なお、ポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗値は、以下の方法により測定することができる(測定方法の詳細は後述する。)。まず、粉砕したポリエステルフィルム(塗布層を有する場合は、塗布層を除去した後に粉砕する。)を180℃で3時間真空乾燥し、次いで290℃にて溶融する。その後、銅版2枚の間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を得られた溶融樹脂中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えた時の電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗値(ρ)を算出する。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm2)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。
【0023】
基材層の溶融比抵抗値を前記範囲とする方法としては、基材層の原料となるポリエステル樹脂組成物中の金属元素含有量やリン元素含有量を前述の好適な範囲とする、当該原料に電気伝導を担う粒子や化合物を添加するなどの方法があるが、これらに限定されない。しかしながら、原料中の金属元素含有量を増加させると、前述の様に、得られるポリエステルフィルムの耐熱性を低下させたり、ゲル化物による異物の発生を誘発させることがある。そのため、金属によらないイオン性物質を適用することが好ましく、例えばカチオン性物質としてスルホニウム化合物、ホスホニウム化合物、アンモニウム化合物、イミダゾリウム化合物、ピリジニウム化合物、ピロリジニウム化合物を選択することができ、アニオン性物質として、スルホネート化合物、ホスフェート化合物、サルフェート化合物、アセテート化合物、イミド化合物など選択できる。特にホスホニウム化合物とスルホネート化合物の中和塩が好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層の主成分であるポリエステル樹脂は、耐熱性を十分に高める点からポリエチレンテレフタレート(PET)であることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分が含まれていてもよい。ポリエチレンテレフタレートとは、主たる構成単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステル樹脂をいい、主たる構成単位とは樹脂の分子鎖を構成する全構成単位を100モル%としたときに、50モル%を超えて含まれる構成単位をいう。なお、以下他のポリエステル樹脂についても主たる構成単位が置き換わる以外は同様に解釈することができる。
【0025】
次に、本発明に係るポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法について記載する。当該ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、ジカルボン酸成分またはそのエステルとジオール成分を主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂組成物を製造する原料としては、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、これらは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0027】
ポリエステル樹脂組成物の製造に用いることができるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとしては、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。なお、これらの成分は、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂組成物において、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムに加工しやすいポリエステル樹脂組成物を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルであり、これらは適宜組み合わせて用いることもできる。
【0029】
ポリエステル樹脂組成物の製造に用いることができるジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。
【0030】
これらの成分は単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよく、また、ジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールを用いることもできる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムに加工しやすいポリエステル樹脂組成物を得ることができる点で、ジオールとしてはエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0032】
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸アルキルエステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0033】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル樹脂組成物を得る工程である。
【0034】
また、本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合のいずれも適用が可能である。
【0035】
基材層に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、ゲルマニウム元素およびマンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前に添加することで、耐熱性を向上させることができ、さらに異物の抑制されたポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、重縮合反応終了前までにゲルマニウム元素およびマンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物を添加し、かつその含有量が最終的に得られたポリエステル樹脂に対し、下記式(VI)~(VIII)を満たすことが好ましい。このような態様とすることで、得られるポリエステルフィルムの基材層が式(I)~(IV)を満たすことが容易となる。なお、ポリエステル樹脂に他の樹脂を混合して基材層を製造する場合は、下記式(VI)~(VIII)において、「ポリエステル樹脂に対する質量比」を「基材層製造用のポリエステル樹脂組成物に対する質量比」と読み替えて解釈するものとする。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(ポリエステル樹脂に対する質量比)≦80ppm (VI)
5ppm≦マンガン元素含有量(ポリエステル樹脂に対する質量比)≦40ppm (VII)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(ポリエステル樹脂に対する質量比)≦40ppm (VIII)。
【0038】
基材層用のポリエステル樹脂の製造方法において、ゲルマニウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が5ppm以上80ppm以下となるように添加することが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは60ppmであり、より好ましくは50ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステルの重合触媒として利用されるが、上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のゲルマニウム元素量を満たすことで、ポリエステルの各種分解を抑制することが可能となる。ポリエステル樹脂の製造に用いるゲルマニウム元素を含む化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることも可能である。
【0039】
基材層用のポリエステル樹脂組成物は、マンガン元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が5ppm以上40ppm以下となるように含むことが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは30ppmである。マンガン元素量を上記下限以上とすることで、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上することが可能である。また、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン元素量を満たすことで、加工工程におけるポリエステル樹脂の各種分解を抑制することが可能となる。
【0040】
ポリエステル樹脂組成物の製造に用いるマンガン元素を含む化合物は特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガンやそれら水和物などが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることも可能である。また、マンガン元素を含む化合物の添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂組成物のジオール成分と同一にすることが好ましい。例えば、PETの場合は溶媒としてエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0041】
また、基材層用のポリエステル樹脂組成物は、ナトリウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が4ppm以上40ppm以下となるように添加することが必要である。上限として好ましくは30ppmであり、より好ましくは20ppmである。ナトリウム元素含有量が40ppmを超えると、金属凝集異物が増加したり、ポリエステル樹脂の耐熱性が悪化する。また、ナトリウム元素含有量が4ppmを下回る場合は、ポリエステル樹脂の耐熱性が悪化する。ナトリウム元素含有量を上記範囲とすることで、耐熱性が良好となり、熱分解に起因するポリエステル樹脂の劣化を抑制できる。
【0042】
ポリエステル樹脂組成物の製造に用いるナトリウム元素を含む化合物は特に限定しない。例えば、ナトリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などを用いることができる。耐熱性の点から、ナトリウム元素を含む化合物はリン酸ナトリウム塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが挙げられる。耐熱性の点からリン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸ナトリウム塩を併用しても構わない。
【0043】
また、基材層用のポリエステル樹脂組成物の製造においては、上記リン酸ナトリウム塩と他のリン元素を含む化合物を併用することが好まく、リン酸ナトリウム塩とリン酸とからなる緩衝溶液として混合することが特に好ましい。リン酸ナトリウム塩とリン酸からなる緩衝溶液として添加することで、より良好な耐熱性を発現させることが可能となる。
【0044】
また、上記ナトリウム元素含有量を満たす範囲で、リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、フィルム製造における静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗値を小さくすることができ、生産性が向上する。
【0045】
ナトリウム元素を含む化合物を添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0046】
基材層用のポリエステル樹脂は、リン元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が15ppm以上70ppm以下となるように添加することが好ましい。下限として好ましくは20ppm、より好ましくは25ppmである。上限として好ましくは60ppm、より好ましくは50ppmである。上記範囲とすることで、ポリエステル樹脂に耐熱性を付与させることができる。
【0047】
基材層用のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、重縮合反応終了後に得られるポリエステル樹脂組成物をさらに失活処理することが好ましい。ゲルマニウム触媒で重縮合反応して得られるポリエステル樹脂組成物においては、熱水などの比較的温和な条件で処理することで、触媒能が失活することが知られている。触媒能を失うことでポリエステル樹脂組成物をその後のフィルム製膜工程に用いた際、重縮合触媒が原因となって発生する熱分解が抑制され、耐熱性に優れたポリエステルフィルムを得ることが可能となる。
【0048】
ポリエステル樹脂組成物の失活処理は、水やリン化合物、アンモニア化合物など種々の溶液にて実施することが可能である。リン化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸メチル、リン酸エチルなどのリン酸エステル類、またリン酸やポリリン酸のようなリン化合物の水溶液や溶液などとポリエステル樹脂組成物との接触が挙げられ、これに限定されない。また、アンモニア化合物としては、トリエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどが挙げられる。これら処理液とポリエステル樹脂組成物を接触させて処理する温度は、20℃以上120℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上100℃以下、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。処理時間は、30分以上24時間以下であることが好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0049】
基材層用のポリエステル樹脂組成物の製造方法においては、例えばゲルマニウム元素やリン元素は重縮合反応中に留出してしまうことから、上述した元素量になるよう留出分を考慮して添加量を調整することが好ましい。
【0050】
基材層用のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、(A)エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン元素を含む化合物添加後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル樹脂組成物の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いために、リン酸ナトリウム塩を用いた場合、分散しにくく異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。このとき、マンガン元素を含む化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0051】
追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸ナトリウム塩の異物化を抑制できる。
【0052】
ゲルマニウム元素、マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散できる。
【0053】
また、基材層用のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、高分子量のポリエステル樹脂組成物を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル樹脂組成物を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル樹脂組成物に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。また、失活処理を行う場合は、固相重合を効率よく行うため、固相重合後に行うのが好ましい。
【0054】
ポリエステル樹脂組成物をポリエステルフィルムの基材層に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0055】
以下、本発明のポリエステルフィルムの基材層を得るためのポリエステル樹脂組成物、及び基材層の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されるものではない。
【0056】
240~260℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0057】
こうして得られたエステル化反応物を重合装置に移送し、マンガン化合物、ゲルマニウム化合物を添加する。その後、エチレングリコールを追加添加し、リン酸、リン酸ナトリウム塩を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0058】
その後、重合装置内の温度を260~300℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得る。
【0059】
このようにして得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生するゲル組成物やテレフタル酸などの低分子量体の発生が少なく、特に光学フィルム用途などの高品質が求められるポリエステルフィルム、すなわち本発明のポリエステルフィルムの基材層に、好適に用いることが可能である。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする限り特に限定されないが、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。ここで言う「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより、得ることができる。なお、長手方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールであれば巻き方向がこれに相当、縦方向ともいう。)をいい、幅方向(横方向ともいう。)とはフィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶融押出しし、シート状に成形することによって得られる。本発明におけるポリエステルフィルムの基材層は、厚さ方向に1つの層で構成されていてもよいし、複数の層を有していてもよい。複数の層を有する基材層は、例えば複数の押出機から溶融ポリエステル樹脂組成物を供給し、厚さ方向に重ねた後に冷却固化しシート化することにより得ることができる。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、内部ヘイズが0.5%以下であり、好ましくは0.3%以下である。ヘイズはポリエステルフィルムを通して散乱された光の割合を示した数値であり、低いほど光の散乱が少なく、ポリエステルフィルムはより透明でクリアな外観となる。光の散乱は、主にポリエステルフィルムの表面形状による散乱(外部散乱)とポリエステルフィルムの内部の添加剤や不純物、空洞などによる散乱(内部散乱)に分けられ、前者による散乱割合を示したものを外部ヘイズ、後者による散乱割合を示したものを内部ヘイズという。なお、内部ヘイズは公知のヘイズメーターで測定することができ、その詳細は後述する。
【0063】
ディスプレイ等に用いられる光学用フィルムは、その表面にハードコート層、電極層、屈折率調整層、透明粘着層など種々の加工がなされるため、表面形状による散乱である外部ヘイズは、加工構成により調整することが可能である。一方で内部散乱による内部ヘイズは、加工により調整することができないため、光学用基材フィルムとして非常に重要な特性である。よって、フィルムの内部ヘイズが0.5%を超えると、ポリエステルフィルムを透過した光が散乱される割合が大きくなり、ディスプレイの透明度や精細度が悪化する。
【0064】
内部ヘイズを所望の値に調整する方法としては、フィルム内部に添加剤や不純物、気泡など光を散乱させる異物を混入させない方法や、ポリエステルフィルムを二軸配向とし、結晶化度を適正に制御する方法を用いることができる。より具体的には、基材層に用いるポリエステル樹脂組成物中の添加剤、特に触媒などの金属元素量を100ppm以下、好ましくは80ppm以下とすることや、前述したように特定の触媒種やリン系の添加剤を適量使用すること等で達成が可能である。また、異物を混入させないように、ポリエステル樹脂組成物を適切に保管、計量することや、ポリエステル樹脂の溶融押出工程にて、たとえば濾過精度10μm以下の高精度濾過を実施すること等も好ましい方法として挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0065】
本発明のポリエステルフィルムは、そのすべり係数を低減し、取り扱い性を改善する目的で滑剤などの添加剤を使用する場合は、できる限りその添加量を減らすことが好ましい。少ない添加量にて効率的にすべり係数を低減させる方法としては、添加剤を可能な限りフィルム表面に局在化させることが好ましい。具体的には、基材層を厚さ方向に複数の層を積層させた構成とし、フィルム表面を形成する層にのみ添加剤を添加させる方法や、ポリエステル基材層の上に、添加剤を含む塗布層を設ける方法などが挙げられる。特に透明性と易滑性を両立し、さらにポリエステルフィルム上に設けられる機能層との密着性向上や帯電防止性付与などの機能を比較的容易に追加することができることから、本発明のポリエステルフィルムは、基材層の少なくとも片側の表面上に、塗布層を設けることが好ましい。
【0066】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、塗布層を積層する方法は特には限定されない。例えば、フィルムの製造工程とは別工程で、フィルムを巻き出し、塗布・乾燥することで塗布層を形成する、所謂オフラインコーティング法や、押出機により樹脂を押出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなすフィルムの製造工程中に塗布を行い、塗布フィルムを一気に得る、所謂インラインコーティング方法を用いることができる。
【0067】
本発明の塗布層には、フィルム表面のすべり性を向上させ取り扱い性を改善する目的で、滑剤を添加することが好ましい。使用される滑剤は、フィルム特性を阻害しない範囲内で特には限定されないが、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子などの無機粒子や、アクリル粒子、シリコーン粒子、ポリイミド粒子、“テフロン”(登録商標)粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋重合体粒子、コアシェル粒子などの有機粒子が挙げられ、これら粒子のいずれを用いても、あるいは複数種を併用してもよい。これら粒子の数平均一次粒径(以下、単に平均一次粒径ということがある。)は、50~1000nmの範囲内であることが好ましい。ここで平均一次粒径とは、JIS H7008(2002)において単一の結晶核の成長によって生成した粒子と定義される一次粒子の粒子径の平均である。粒子の添加量は、易滑層の厚みや樹脂組成、平均一次粒径、求められる易滑性や用途などによって適切に調節設計されるべきであるが、易滑層を形成する成分全体を100質量%としたときに0.05~8質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは0.1~5質量%の範囲内である。
【0068】
本発明のポリエステルフィルムの塗布層には、滑材粒子を保持したり、あるいは他の機能層との密着性を改善したり、フィルムから析出するオリゴマーを封止する事などの各種機能を付与すること等のため、既知のポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系などの樹脂を、単独および/または複数を混合して用いてもよい。さらには、メラミン系、オキサゾリン系、カルボジイミド系の架橋剤を含有してもよい。
【0069】
次に本発明のポリエステルフィルムの製造方法を、基材層を形成するポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた場合を例にして説明するが、本発明のポリエステルフィルムは、以下の方法により製造されるものに限定されない。
【0070】
基材層用のポリエステルフィルムを構成する固有粘度0.500~0.800dl/gのPETペレットを乾燥した後、押出機に供給して260~300℃で溶融させる。次いで、フィルタにて溶融樹脂より異物を除去後、これをT字型口金よりシート状に押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10~60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化することにより未延伸PETフィルムを作製する。この未延伸フィルムを70~100℃に加熱されたロール間で縦方向に2.5~5.0倍延伸して一軸延伸フィルムを取得する。なお、PETペレットの一部あるいは全部は、後述する回収原料を含むものを用いてもよい。また、縦方向への延伸の際には、必要に応じて上下方向からラジエーションヒーターを用いて加熱することにより一軸延伸フィルムの温度を調節してもよい。
【0071】
この一軸延伸フィルムの少なくとも片面に塗布層を構成する水系塗剤を塗布する。その後、水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をテンター装置のクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、塗剤を乾燥させた後に70~150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70~150℃の加熱ゾーンで横方向に2.5~5.0倍延伸し、続いて200~240℃の加熱ゾーンで5~40秒間熱処理を施し、100~200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した基材層上に塗布層が積層されたポリエステルフィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3~12%の弛緩処理を施してもよい。なお、上記の例では二軸延伸は縦、横逐次延伸を行っているが、延伸は同時二軸延伸で行ってもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。但し、同時二軸延伸の場合は一軸延伸フィルムに水系塗剤を塗布することができないので、インラインコート法を採用する場合は未延伸フィルムに水系塗材を塗布するとよい。
【0072】
その後、クリップで把持した幅方向両端部を得られたポリエステルフィルムより切断除去し、所望の幅に裁断して巻き取る。なお、幅方向両端部の切断除去や所望の幅への裁断は、走行するフィルムを長手方向と平行に切断することが可能な装置、例えば公知のスリッター等で行うことができる。
【0073】
本発明のポリエステルフィルムは、消費エネルギーやCO2の発生量の低減の観点から、基材層が回収原料を含むことが好ましく、回収原料が自己回収原料を含むことがより好ましい。ここで回収原料とは、製造工程で発生する製品とならなかった部分のポリエステルフィルムや、使用後のポリエステルフィルム若しくはポリエステル成形体を再生したリサイクルポリエステル原料をいう。ポリエステルフィルム由来の回収原料を使用する場合、当該回収原料を用いて同じポリエステルフィルムの基材層を製造することも、別のポリエステルフィルムの基材層を製造することもできる。ポリエステルフィルム由来の回収原料を用いて同じポリエステルフィルムの基材層を製造する場合、当該回収原料を自己回収原料という。なお、回収原料を用いて同じポリエステルフィルムの基材層を製造する場合、回収原料を使用しない場合と組成に微差が生じる可能性はあるが、回収原料の元となるポリエステルフィルムの基材層と、得られるポリエステルフィルムの基材層との組成が質量基準で95%以上同じであれば、両者は「同じポリエステルフィルムの基材層」であると扱うものとする。
【0074】
近年は環境意識の高まりから、消費エネルギーやCO2の発生量の低減要請が強く、これらを達成するために、ポリエステルフィルムの基材層にリサイクル原料を活用することが有効である。特に、循環型社会の実現のためには、自身のフィルムから再生されたリサイクル原料、すなわち自己回収原料を用いることが好ましい。
【0075】
本発明のポリエステルフィルムは、基材層が回収原料を用いてなり、下記式(V)で求められるリサイクル指数(R)が1.5以上であることが好ましく、さらには2.0以上である。このようなポリエステルフィルムは、基材層を構成するポリエステル樹脂原料中に回収原料を含めることにより得ることができる。
[リサイクル指数(R)]
R=Σ(mn*rn) (V)
n:基材層に含まれる原料の種類
mn:再生基材層における各原料の質量比率
rn:以下の通りに定義される各原料のリサイクル指数
回収原料でない原料:1.0
回収原料:回収した成形体のリサイクル指数に1.0を加えた値。
【0076】
リサイクル指数(R)は、ポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数、具体的には本発明のポリエステルフィルムの基材層を構成するポリエステル樹脂原料の平均使用回数を示す数値である。回収原料を全く含まないポリエステル樹脂からなる基材層のリサイクル指数(R)は1.0であり、このポリエステルフィルムを回収し再生した回収原料のリサイクル指数は、再生前のポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数(R)1.0に1.0を加えた2.0となる。よって、本回収原料100%からなるポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数(R)は2.0であり、つまりポリエステル樹脂原料として2回フィルム化されたことを意味する。また、ポリエステル樹脂全体を100質量%としたときに、非回収原料(原料リサイクル指数r1:1.0)50質量%と本回収原料(原料リサイクル指数r2:2.0)50質量%からなるポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数(R)は、式(V)により1.5と計算される。これは基材層を構成するポリエステル樹脂が、平均して1.5回目の使用ということを意味している。
【0077】
ポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数(R)は高ければ高いほど環境負荷低減の観点で良いが、高透明・高品質なポリエステルフィルムの場合は、繰り返し使用により、ポリエステル樹脂の分解によるゲルの発生、樹脂の色づき、添加されている金属成分の凝集等の問題があり、これらの課題を解決する必要がある。前述したポリエステル樹脂をポリエステルフィルムの基材層の原料として用いることで、ポリエステル樹脂のゲル化物や金属成分凝集による異物発生を抑制でき、ポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数(R)を高めること、ひいては循環型リサイクルシステムを構築することが可能となる。このようなポリエステル樹脂を用いることでポリエステルフィルムの品質の低下を抑えつつリサイクル指数を上げることができるが、ポリエステル樹脂の劣化等の観点で限界があることから、ポリエステルフィルムの基材層のリサイクル指数(R)の上限は5.0である。
【0078】
本発明のポリエステルフィルムに係る回収原料おいて、ポリエステルフィルムが表面に塗布層や機能層を有する場合、異物除去の観点から塗布層を除去することが好ましい。塗布層が残存したままのリサイクル原料を使用すると、塗布層に含まれる様々な樹脂、添加剤などがポリエステル基材層中に混入することにより、内部ヘイズが上昇したり、フィルム内部の欠点数が増加したりすることで、光学用フィルムとして使用した場合、最終製品の欠陥が増える等の品質上の不具合を発生させることがあり、好ましくない。すなわち、本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、塗布層が設けられたポリエステルフィルムより塗布層を除去した回収原料を使用することを特徴とする。
【0079】
塗布層や機能層を除去する方法としては、物理的に表面を掻き取る方法や洗浄剤にて溶解・剥離する方法などが挙げられるが、塗布層などの残存を抑え、均一な除去が可能である観点で、後者の洗浄剤を用いた洗浄方法が好ましい。用いる洗浄剤としては、特には限定されないが、ポリエステルフィルムの表面に作用し、部分的に分解することでフィルム上に形成された塗布層や機能層を効率的な除去が可能となる点で、アルカリ系洗浄剤を用いることが好ましい。アルカリ系洗浄剤としては、無機アルカリ化剤、有機アルカリ化剤のいずれであってもよいが、無機アルカリ化剤の方が除去効率の面で好ましい。
【0080】
無機アルカリ化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属のケイ酸塩などの水溶液が挙げられ、これらは単独で用いても適宜混合して用いてもよい。また、これらの成分による洗浄は複数回実施してもよく、その場合、洗浄剤の種類を適宜変えることもできる。
【0081】
除去工程で使用されるアルカリ水溶液の濃度は、pH10以上とすることが好ましい。例えば、 水酸化ナトリウムの濃度は、一般に0.1質量%以上であれば良いが、0.1~30質量%であることが好ましく、0.4~20質量%であることがより好ましい。濃度が低すぎる場合は、塗布層や機能層の除去が不十分となったり、除去時間がかかりすぎる等の問題が発生することがある。濃度が高すぎる場合は、ポリエステル基材の分解が過剰に進行する恐れがある。また、アルカリ水溶液の温度は、除去時間の短縮や除去効率向上の観点から50℃以上が好ましく、さらには70℃以上100℃以下である。
【0082】
アルカリ化剤のポリエステルフィルムと塗布層・機能層界面への浸透を促進する目的で、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類や、ノニオン性、アニオン性、カチオン性等の各種界面活性剤を用いることもできる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエーテル系、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルなどが好ましく用いられる。さらに、フィルム表面へのコロナ放電処理やプラズマ放電処理を事前に施して、親水性を高める方法も、界面剥離を促進する上で効果的である。
【0083】
アルカリ化剤の回収原料中への残存量を低減するために、アルカリ水溶液による洗浄後に水洗を実施することが好ましい。アルカリ化剤が回収原料中に残存した場合、異物量が増加したり、ポリエステル樹脂の劣化を促進し、ゲル化物が増加する場合がある。特に、アルカリ化剤に水酸化ナトリウムを用いた場合、基材層中のナトリウム元素残存量に影響を与えるため、特に水洗を実施することが好ましい。
【0084】
ポリエステルフィルムのリサイクル方法としては、回収、粉砕、洗浄したフィルムをそのまま利用する、あるいは再溶融しペレット化して利用する、所謂マテリアルリサイクル法と、モノマーあるいはオリゴマーレベルにまで解重合してから、再び重縮合して再生する所謂ケミカルリサイクル法が挙げられるが、本発明においては特には限定されない。ただし、消費エネルギーやCO2の発生量の削減率やリサイクルにかかる費用の観点から、マテリアルリサイクル法が好ましい。本発明では、マテリアルリサイクルを繰り返した場合でも品質の劣化が少ないポリエステルフィルムを提供することが可能となる。なお、ポリエステル樹脂の固有粘度IVを上昇させる目的で、リサイクル原料に固層重合を施しても良い。
【実施例0085】
次に本発明を、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
[物性の測定法、及び各種特性の評価]
物性の測定及び各種特性の評価は以下の方法により行った。
【0087】
(1)ポリエステルフィルムの内部ヘイズ
測定にはスガ試験機(株)製ヘイズメーター(HGM-2DP)を用いた。ポリエステルフィルムよりサンプルを60mm×30mmで切り出し、テトラリンで満たした光路長1cmの石英セル中にサンプルを挿入して測定した際の測定値から求めた。
【0088】
(2)ポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルム(基材層)におけるゲルマニウム、マンガン、リン、ナトリウム元素、および金属元素の定量(単位:ppm)
試料5gを白金皿にとり、電熱器で溶融炭化後、電気炉(700℃)にて1.5時間かけて完全に灰化させた。次に灰化物を濃塩酸5mLに溶かし、10%塩酸水溶液となるように純水を加え、測定試料とした。上記の溶液を測定試料として、原子吸光分析法(フレーム:アセチレン-空気、ゲルマニウム元素のみアセチレン-一酸化二窒素)にて定量を行った。なお、原子吸光分光光度計は(株)日立ハイテクサイエンス製「ZA-3300」を使用した。なお、塗布層を有するポリエステルフィルムの場合は、以下の方法を用いて塗布層を除去した後に、測定試料とした。
【0089】
なお、塗布層除去前のフィルムにはカリウム元素が含まれていなかったことから、本測定にてカリウム元素が検出された場合は、機能層除去時の残渣由来と判断し、定量の対象から除外した。
【0090】
[塗布層の除去]
ポリエステルフィルムを2.0cm角サイズに切断し、7質量%の水酸化カリウム水溶液(pH:14)中に投入し、攪拌しながら温度85℃で1時間洗浄した。洗浄終了後、純水にて10分間の攪拌洗浄を2回実施し塗布層を除去した試料を得た。
【0091】
(3)ポリエステル樹脂組成物、ポリエステルフィルムの固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mLにポリエステル樹脂又はポリエステルフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/mL)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする。)である。)。
【0092】
(4)ポリエステル樹脂組成物、ポリエステルフィルム基材層の溶融比抵抗値
ポリエステル樹脂組成物、または粉砕したポリエステルフィルムを180℃で3時間真空乾燥し、次いで290℃にて溶融した。銅版2枚の間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を前記の溶融樹脂中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えたときの電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗値(ρ)を算出した。なお、塗布層を有するポリエステルフィルムの場合は、後述の参考例19の方法を用いて塗布層を除去した後に、測定試料とした。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm2)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。
【0093】
(5)ポリエステル樹脂組成物の異物評価
ポリエステル樹脂組成物0.1mgを290℃に加熱したホットプレート上でカバーガラス2枚に挟み溶融し、ポリマー薄膜が形成されたプレパラートを作製した。このプレパラートを光学顕微鏡(オリンパス(株)製:BX50、400倍、暗視野)で観察し、観察できるすべての光点を数えた。得られた光点の個数より下記基準により判定し、Cを不合格とした。
A:0~5個/0.1mg
B:6~9個/0.1mg
C:10個以上/0.1mg。
【0094】
(6)ポリエステル樹脂組成物の耐熱性評価
ポリエステル樹脂組成物を厚さ100μm、幅5cm×5cmとなるよう、プレス機を用いてプレスフィルムを3枚作製した(プレス機:ゴンノ油圧機製作所製15トン、4本柱単動上昇式プレス機)。熱風乾燥機にて、230℃で30分間にわたりプレスフィルム3枚に加熱処理をした後、これらのプレスフィルム3枚を重ねた状態で二つ折りにし、何枚のフィルムが割れるかで耐熱性を評価した。耐熱性の評価は下記基準で行い、Cを不合格とした。
A:プレスフィルムが1枚も割れなかった。
B:プレスフィルムが1枚または2枚が割れた。
C:プレスフィルムが3枚とも割れた。
【0095】
(7)ポリエステルフィルムの内部欠陥個数
ポリエステルフィルムの片面側を黒色の油性ペン(寺西化学工業社性マジックインキNo.500黒 M500-T1)にて塗りつぶし、サンプルとした。塗りつぶした面と反対側から、キーエンス社製レーザーマイクロスコープVK-X100を用いて、倍率200倍(接眼レンズ20倍、対物レンズ10倍)にてサンプルの幅方向10mm×長手方向25mmの範囲を観測し、長径サイズが10μm以上の異物の個数を確認した。内部欠陥個数は下記の基準にて評価し、Cを不合格とした。
A:異物個数が10個/250mm2以下であった。
B:異物個数が10個/250mm2を超えて、30個/250mm2以下であった。
C:異物個数が30個/250mm2を超えた。
【0096】
[参考例1] ポリエステル樹脂1の調製
250℃にて溶融したビスヒドロキシエチルテレフタレート(以降BHTと記す。)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0097】
エステル化反応器から105質量部(PET100質量部相当)のBHTを溶融状態で重合装置へ仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しマンガン元素として23ppm)、二酸化ゲルマニウム(ポリエステル樹脂の質量に対しゲルマニウム元素として45ppm)を添加した。次いでリン酸(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として19ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル樹脂の質量に対しナトリウム元素として14ppm、リン元素として19ppm)のエチレングリコール溶液を添加した。その後、パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しリン元素として20ppm)を添加した。なお、二酸化ゲルマニウムは、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド20質量%水溶液に完溶させた後、エチレングリコールを加えたエチレングリコール溶液を使用した。
【0098】
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステル樹脂組成物をストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル樹脂組成物を取得し、これをポリエステル樹脂1とした。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0099】
[参考例2~5、12~17]
ポリエステル樹脂中のゲルマニウム元素、マンガン元素、ナトリウム元素、リン元素の量を表1、表2の通りになるように各成分の添加量を調整した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂2~5、12~17を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1、表2に示す。
【0100】
[参考例6~8]
パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液を添加しないこと、リン元素の量を表1の通りになるように各成分の添加量を変更した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂6~8を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0101】
[参考例9]
パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液を添加後、平均粒径1μmのコロイダルシリカのエチレングリコールスラリーを、シリカの含有量がポリエステル樹脂に対して0.1質量%となる様に添加した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステル樹脂9を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0102】
[参考例10、11]
二酸化ゲルマニウムの代わりに、テトラ-n-ブトキシチタンのエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しチタン元素として10ppm (参考例10))、または三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しアンチモン元素として70ppm (参考例11))を添加した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂10、11を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0103】
[参考例18] 塗布用水溶性ポリエステル樹脂(A)の調製
窒素ガス雰囲気下でジカルボン酸成分としてテレフタル酸88モル部、5-スルホイソフタル酸ナトリウム12モル部、グリコール成分としてエチレングリコール140モル部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を全ジカルボン酸成分100万質量部に対して100質量部添加して、160~240℃で6時間エステル化反応を行った後、反応物が透明になるまで溜出液を除いたのち、220~280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂組成物(A)を得た。
【0104】
[参考例19] 回収原料の調製
ポリエステルフィルムを0.5cm~3.0cmのサイズに粉砕し、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(pH:14)中に投入し、攪拌しながら温度85℃で1時間洗浄した。洗浄終了後の粉砕物を水洗、乾燥して洗浄済みのポリエステルフィルム粉砕物を得た。得られた粉砕物を真空ベント付き2軸押出機にて溶融し、口金からストランド状に押出し、水槽にて冷却後カッターにて切断し、リサイクルポリエステルペレット(原料)を得た。なお、本回収原料の調整工程で使用する水酸化ナトリウム水溶液由来のナトリウム元素残存量は、回収原料に対し質量基準で5ppmであった。
【0105】
[参考例20] ポリエステルフィルムの製造方法
ポリエステル樹脂原料を真空中160℃で4時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルタで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルタで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムにキャスト速度30m/分で巻き付けて冷却固化せしめ、未延伸フィルムとした。この未延伸フィルムを予熱ロールにて80℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて95℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.1倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。次いで、ワイヤー径0.1mm(#4)のメタリングワイヤーバーを用いて、塗液膜厚さが6μmになるように下記水系塗液を計量し、これを上記一軸延伸フィルムの片側表面面に塗布した。
【0106】
<塗液>
ポリエステル樹脂固形分を100質量部とした時に、以下成分を含有する、ポリエステル樹脂固形分換算の濃度が5.0%である水溶液。
参考例18で得られたポリエステル樹脂(A):92.5質量%
メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”MW12LF):5質量%(固形分換算)
粒径140nmのコロイダルシリカ: 2.5質量%。
【0107】
水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してオーブンに運び、オーブン中にて雰囲気温度120℃で乾燥・予熱した。引き続き連続的に120℃の延伸ゾーンで幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向(二軸延伸)フィルムを引き続き230℃の加熱ゾーンで10秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
【0108】
【0109】
【0110】
[実施例1]
(回収原料の調整)
参考例1で得られたポリエステル樹脂1を用いて、参考例20の方法でポリエスエルフィルムを得た。次に、得られたポリエステルフィルムを参考例19の方法を用いて、塗布層の除去・洗浄を実施し、回収ポリエステル原料(リサイクル指数2.0)を得た。
【0111】
(ポリエステルフィルムの作製)
以下のポリエステル樹脂原料混合物を用いて、参考例20の方法にてポリエスエルフィルム(リサイクル指数1.5)を得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表3に示す。
・参考例1で得られたポリエステル樹脂1: 50質量%(リサイクル指数1.0)
・上記で得た回収ポリエステル原料 : 50質量%(リサイクル指数2.0)。
【0112】
[実施例2~17、比較例1~9]
リサイクル原料調製に使用するポリエステル樹脂原料およびポリエステルフィルム作製に使用するポリエステル樹脂原料を、表3,4の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。なお、実施例12,13および比較例9は、それぞれ記載の実施例、比較例のフィルムを用いてリサイクル原料を調整した。得られたフィルムの特性を表3~5に示す。比較例1、3、4~7、9では、樹脂劣化による半透明の異物が多数発生し、比較例2、8では樹脂劣化による半透明の異物の他にも金属由来と推定される有色の核を有する微小凝集物も見られた。なお、比較例10のポリエステルフィルムは、光学用フィルムとして透明度が低く外観上問題があった。実施例11~13では、リサイクル指数を上げていっても、異物、透明度とも大きく悪化しておらず、良好な品質を保っていた。なお、実施例6、7、8、17では、静電印可キャスト性が悪化したため、キャスト速度を20m/分に落としてフィルムを作製したが、品質としては合格レベルであった。
【0113】
【0114】
表中、実施例9の全金属元素は、表に記載されたものの他、ポリエステル樹脂11に由来するアンチモン元素を含めた合計の値である。
【0115】
【0116】
本発明にかかるポリエステルフィルムは、樹脂の熱劣化物や金属凝集異物が少なく、内部欠点を抑制できることから、高品質が求められるディスプレイ用光学フィルムなどに好適に用いることができる。さらにフィルムを再生した回収原料を用いた場合でも樹脂劣化や金属物の凝集による欠陥が発生しにくいため、近年要求が高まっている高品質な環境負荷低減製品としても好適に使用することができる。