(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023456
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】光学用ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 63/00 20060101AFI20250207BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C08G63/00
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127580
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有家 隆文
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
【テーマコード(参考)】
4F100
4J029
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
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4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AR00B
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4J029DB13
4J029JA091
4J029JA251
4J029JA261
4J029JB171
4J029JF031
4J029JF361
4J029JF541
(57)【要約】
【課題】 本発明は、これらの課題を解決し、異物の発生、特に金属起因の内部異物の発生が少ない光学用ポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【解決手段】 長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数が38個/250mm2以下であることを特徴とする、光学用ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数が38個/250mm2以下であることを特徴とする、光学用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
金属元素含有量が10ppm以上150ppm以下である、請求項1に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
基材層の溶融比抵抗が0.1MΩ・cm以上10MΩ・cm以下である、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ゲルマニウム元素含有量が3ppm以上100ppm以下であり、マンガン元素含有量が3ppm以上40ppm以下であり、かつナトリウム元素含有量が4ppm以上40ppm以下である、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
リン元素含有量が15ppm以上70ppm以下である、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
少なくとも片面にコート層を有する、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
粒子含有量が0.01質量%以下である、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
位相差転写用である、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
タッチパネル基材用である、請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルフィルムの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記すことがある。)フィルムは、透明性や加工性に優れていることから、特にディスプレイやタッチパネル用途向けの高透明な光学用フィルムとして好適に用いられている。
【0003】
一般にポリエステル樹脂、特にPETの製造方法としては、テレフタル酸などのジカルボン酸またはそのエステル誘導体とエチレングリコールまたはこれを主体とするグリコールとからエステル化反応物を製造し、このエステル化反応物を重縮合触媒の存在下、高温、高真空下で重縮合する方法が用いられている。
【0004】
ポリエステル樹脂を製造する際の重縮合触媒としては、従来からゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物などが用いられているが、安価でかつ触媒活性が優れているアンチモン化合物が最も広く使用されている。しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として用いると、ポリエステル樹脂の製造段階において不溶な金属粒子として析出しやすい。そのため、得られたポリエステル樹脂を成形加工した際に欠点を生じさせたり、析出したアンチモンを起点として光学機能層(ハードコート層や位相差層等)形成用の塗剤を弾き、機能不備を引き起こすなどの問題があった。
【0005】
これらの課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。例えば、特許文献1では、アンチモン化合物の添加量を減らすことによって、金属アンチモン粒子の生成を抑制する技術が開示されている。特許文献2では、特定量のマンガン化合物とアルカリ金属化合物、リン化合物、有機チタン化合物を用い、ポリマー中の不溶性異物の生成を抑制したポリエステル樹脂の製造方法が開示されている。特許文献3では、ゲルマニウム化合物を触媒としてマグネシウム化合物、リン化合物を用いることにより、ポリエステル樹脂の透明性や結晶性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-146707号公報
【特許文献2】特開昭63-278927号公報
【特許文献3】特開2003-137992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ある程度金属アンチモン粒子の生成を抑制することはできるものの、高い透明性や品質が要求されるようなフィルムで求められる水準にまで下げることは不可能であった。特許文献2に記載の方法では、チタン化合物の活性が高く、ポリエステル重合反応中に変性ポリマーや凝集異物が発生する問題があった。特許文献3に記載の方法では、ゲルマニウム化合物がポリエステル樹脂の分解を促進してゲル化物が発生したり、得られるフィルムの耐熱性が悪化したりする課題があった。すなわち、これらの方法で得られたポリエステル樹脂を用いた場合、光学用ポリエステルフィルムに求められる品質の確保が困難であった。
【0008】
本発明は、これらの課題を解決し、異物の発生、特に金属起因の内部異物の発生が少ない光学用ポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決せんとするものである。すなわち、以下の構成よりなる。
(1) 長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数が38個/250mm2以下であることを特徴とする、光学用ポリエステルフィルム。
(2) 金属元素含有量が10ppm以上150ppm以下である、(1)に記載の光学用ポリエステルフィルム。
(3) 基材層の溶融比抵抗が0.1MΩ・cm以上10MΩ・cm以下である、(1)または(2)に記載の光学用ポリエステルフィルム。
(4) ゲルマニウム元素含有量が3ppm以上100ppm以下であり、マンガン元素含有量が3ppm以上40ppm以下であり、かつナトリウム元素含有量が4ppm以上40ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
(5) リン元素含有量が15ppm以上70ppm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
(6) 少なくとも片面にコート層を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
(7) 粒子含有量が0.01質量%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
(8) 位相差転写用である、(1)~(7)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
(9) タッチパネル基材用である、(1)~(7)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異物の発生、特に金属起因の内部異物の発生が少ない光学用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の光学用ポリエステルフィルムを詳細に説明する。本発明の光学用ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有する。本発明において、ポリエステル樹脂とはジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繰り返し繋がった分子構造を有する樹脂をいい、ポリエステルフィルムとはポリエステル樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。本発明の光学用ポリエステルフィルムに好適に用いることができるポリエステル樹脂の詳細は後述する。光学用ポリエステルフィルムとは、光を通過、反射、吸収することで何らかの効果をもたらすポリエステルフィルムをいい、これは例えばタッチパネルやディスプレイ等の光学機器の表示部分に使用される。主成分とは、対象物中の全構成成分を100質量%としたときに50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。ポリエステル樹脂を主成分とする基材層とは、ポリエステル樹脂を主成分とし、かつ厚みが23μm以上の層をいう(以下、「ポリエステル樹脂を主成分とする基材層」を単に「基材層」ということがある。)。なお、基材層は単層構成であっても積層構成であってもよく、上記要件を満たす層が連続して積層されている場合は、これらの層全体を一つの基材層として扱う。
【0012】
本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいては、長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数が、38個/250mm2以下である。光学用ポリエステルフィルムは、金属成分由来の内部欠点があることにより、ITOなどの金属スパッタやCuメッシュ加工をした際にショートの原因になることや、金属異物を起点としてボイドが形成されて内部ヘイズが上昇し、透明性が悪化する問題が生じる。さらに、内部欠点を形成する金属種によっては、表層付近で析出した場合に当該金属異物を起点としてコート層形成用の塗材を弾くことにより、所謂、塗布抜けを生じる場合もある。このような問題点が生じると、位相差フィルムやタッチパネル用途等の光学用途での使用が困難となる。
【0013】
上記観点から、本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいて、長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数は、好ましくは20個/250mm2、より好ましくは10個/250mm2、さらに好ましくは9個/250mm2である。金属成分由来の内部欠点の個数は、上記観点から少なければ少ないほど好ましく、下限は0個/250mm2である。なお、内部欠点の個数が0個/250mm2であるとは、光学用ポリエステルフィルム250mm2あたり、内部欠点が全く存在しない又は0.5個未満であることをいう。
【0014】
本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいて、金属元素は、一般的に定義されている金属元素と同義であり、より具体的には元素の周期表の水素を除く1族、2族~12族のすべての元素、ホウ素を除く第3周期以降の13族、炭素、ケイ素を除く第4周期以降の14族、第5周期以降の15族、第6周期の16族のことをいう。
【0015】
特に、ポリエステルフィルムの場合は、その主成分であるポリエステル樹脂の重合触媒の残渣であるチタンやアンチモン、ゲルマニウム、マンガン、ナトリウム、カルシウムに加えて、それらに由来する金属化合物が検出されることが多い。そのため、長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数を上記範囲とする観点から、ポリエステル樹脂の重合時に反応系に添加する重合触媒量はなるべく少なくすることが好ましい。またナトリウムやカルシウムなどは、工程で使用する洗浄水などにも含まれるため、洗浄水としては通常の水よりもイオン交換水など、純度の高い水を使用することがより好ましい。
【0016】
金属成分由来の内部欠点の大きさは、長径が10μm~50μm程度の大きさとなることが多い。基本的には、金属成分由来の異物は溶融~押出の過程で下記に示すポリマーフィルターにて補足されるため、金属成分由来の内部欠点の長径は10~20μm程度となることが多いが、ポリマーフィルターの濾過精度は均一ではないため、長径が20μm以上の異物が混ざることがある。
【0017】
長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点は、上述の方法の他に、押出機器に取り付けるポリマーフィルターの濾過精度を細かくすることでも減らすことができる。金属成分由来の内部欠点の原因となる異物を減らす観点から、ポリマーフィルターの濾過精度は、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは5μm以下である。異物低減の観点からは、ポリマーフィルターの濾過精度は小さいほど好ましいが、濾過精度が1μm以下のポリマーフィルターを使用した場合、ポリマー圧力が上昇してしまうことがあり、長期製膜に向かない。そのため、長期間の製膜に耐えうることも考慮すると、ポリマーフィルターの濾過精度の下限は1μmが好ましい。
【0018】
ここで長径とは、楕円形または長方形で面積が最小となるように内部欠点を囲んだ周囲の長辺の長さをいう。内部欠点の長径、及び長径が10μm以上50μm以下である内部欠点の個数は公知のマイクロレーザースコープによる観察や、その側長機能で測定することができる。また、内部欠点が金属成分由来であるとは、内部欠点が金属成分を含むことを意味し、内部欠点が金属成分を含むか否かはエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により判別することができる。
【0019】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、金属元素含有量が10ppm以上150ppm以下であることが好ましい。ここで「金属元素含有量が10ppm以上150ppm以下である」とは、光学用ポリエステルフィルムの全構成成分を100質量%としたときに、金属元素含有量が10ppm以上150ppm以下であることをいう(後述する他の元素量についても、同様の基準である。)。金属元素含有量が150ppmを超えると、金属成分自体、あるいは金属成分と他の化学物質との複合体が析出する等により、光学用ポリエステルフィルム中の欠点を増加させる問題がある。上記観点から、本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいては、金属元素のトータル含有量は質量基準で100ppm以下であることがより好ましい。なお、光学用ポリエステルフィルムの金属元素含有量の下限は、重合反応を進めるのに好ましい触媒量から、10ppmが好ましく、より好ましくは14ppmであり、さらに好ましくは20ppmである。
【0020】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、厚みムラの軽減と生産性向上を両立させる観点から、基材層の溶融比抵抗が0.2MΩ・cm以上10MΩ・cm以下であることが好ましい。溶融製膜法で得られる光学用ポリエステルフィルムの厚みムラに影響する要素の一つとして、光学用ポリエステルフィルムの基材層を得るための溶融シート状物をキャストドラムで冷却固化する際の静電印加性が挙げられる。この静電印加性は、最終的に得られる光学用ポリエステルフィルムの基材層を溶融したときの溶融比抵抗で評価することができ、また、基材層の原料となる溶融したポリエステル樹脂の溶融比抵抗で代替することもできる。
【0021】
溶融比抵抗とは、熱溶融させた光学用ポリエステルフィルムの基材層(またはポリエステル樹脂)の体積抵抗率である。当該基材層の溶融比抵抗が10MΩ・cm以下となる場合、キャストドラムでの冷却固化の際に静電印加性が良好となる。そのため、得られる光学用ポリエステルフィルムの厚みムラが抑えられる上、製膜速度を高めて生産性を向上させることもできる。上記観点から、光学用ポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗は、より好ましくは5.0MΩ・cm以下である。また、光学用ポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗値の下限は特に制限されないが、実現可能性の観点から0.1MΩ・cmが好ましく、より好ましくは0.2MΩ・cmである。
【0022】
光学用ポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗を前記範囲とする方法としては、当該基材層の原料となるポリエステル樹脂中の金属元素含有量(特にナトリウム元素含有量)を好適な範囲に調整する、当該原料に電気伝導を担う粒子や化合物を添加するなどの方法があるが、これらに限定されない。しかしながら、原料中の金属元素含有量を増加させると、前述の様に、得られる光学用ポリエステルフィルムの耐熱性を低下させたり、ゲル化物による異物の発生を誘発させることがある。そのため、金属によらないイオン性物質を適用することが好ましく、例えばカチオン性物質としてスルホニウム化合物、ホスホニウム化合物、アンモニウム化合物、イミダゾリウム化合物、ピリジニウム化合物、ピロリジニウム化合物を選択することができ、アニオン性物質として、スルホネート化合物、ホスフェート化合物、サルフェート化合物、アセテート化合物、イミド化合物など選択できる。特にホスホニウム化合物とスルホネート化合物の中和塩が好ましい。
【0023】
なお、光学用ポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗値は、以下の方法により測定することができる(測定方法の詳細は後述する。)。まず、粉砕した光学用ポリエステルフィルム(塗布層を有する場合は、塗布層を除去した後に粉砕する。)を180℃で3時間真空乾燥し、次いで290℃にて溶融する。その後、銅版2枚の間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を得られた溶融樹脂中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えた時の電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗値(ρ)を算出する。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm2)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。
【0024】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、重縮合反応の進行と、長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点低減の観点から、ゲルマニウム元素含有量が3ppm以上100ppm以下であり、マンガン元素含有量が3ppm以上40ppm以下であり、かつナトリウム元素含有量が4ppm以上40ppm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、ゲルマニウム元素を質量基準で3ppm以上100ppm以下含有することが好ましい。下限としてより好ましくは5ppmである。また、上限としてより好ましくは80ppmであり、さらに好ましくは60ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステル樹脂の重合触媒として利用されるが、その量を上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとそれ自体が金属成分由来の内部欠点の原因となるだけでなく、ポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解にも寄与する。したがって、上記上限以下のゲルマニウム元素量を満たすことで、ポリエステル樹脂の各種分解を抑制することが可能となる上、金属成分由来の内部欠点を減らすこともできる。なお、基材層中のゲルマニウム元素量の測定方法は後述する(他の元素量についても同様である。)。
【0026】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、マンガン元素を質量基準で3ppm以上40ppm以下含有していることが好ましい。下限としてより好ましくは5ppmである。また、上限としてより好ましくは30ppmである。マンガン化合物はポリエステル樹脂の熱分解に影響するため、その量を上記下限以上とすることで、ポリエステルフィルムの耐熱性を向上することが可能である。また、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いため、過剰に存在するとそれ自体が金属成分由来の内部欠点の原因となるだけでなく、ポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解にも寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン元素量を満たすことで、加工工程におけるポリエステル樹脂やフィルムの各種分解を抑制することが可能となる上、金属成分由来の内部欠点を減らすこともできる。
【0027】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、ナトリウム元素を質量基準で4ppm以上40ppm以下含有していることが好ましい。上限としてより好ましくは30ppmであり、さらに好ましくは20ppmである。ナトリウム元素量を上記範囲とすることで、ナトリウム元素に起因する異物の発生が軽減されたり、耐熱性が良好となり、熱分解に起因するポリエステル樹脂やフィルムの各種分解を抑制できる。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、リン元素含有量が15ppm以上70ppm以下であることが好ましい。下限としてより好ましくは20ppm、より好ましくは25ppmである。上限としてより好ましくは60ppm、さらに好ましくは50ppmである。リン元素含有量を上記範囲とすることで、光学用ポリエステルフィルムに耐熱性を付与させることができる。
【0029】
本発明の光学用ポリエステルフィルムでは、異物化の原因となりやすい金属元素を極力含有させず、マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物またはリン化合物を添加することで構成成分であるポリエステル樹脂に耐熱性を付与している。特に、ナトリウム元素やリン元素については、リン酸およびリン酸ナトリウム塩を用いてなることがポリエステル樹脂の劣化抑制の観点から好ましい。すなわち、本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいては、光学用ポリエステルフィルム(主に基材層)に含まれるリン元素の少なくとも一部が、リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来することが好ましい。なお、光学用ポリエステルフィルムにリン酸イオンまたはリン酸ナトリウムが存在する場合、光学用ポリエステルフィルムに含まれるリン元素が「リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来する」ものとみなすものとする。
【0030】
なお、光学用ポリエステルフィルムのポリエステル樹脂の劣化抑制(耐加水分解)効果を高めるためには、光学用ポリエステルフィルムの原料となるポリエステル樹脂にリン酸とリン酸ナトリウム塩を加えることが好ましく、これらの成分の含有量をモル比換算で等量に近づけることがより好ましい。すなわち、本発明の光学用ポリエステルフィルムは、リン酸に由来するリン元素とリン酸ナトリウムに由来するリン元素の両方を含むことが好ましく、より好ましくは両者の量をモル比換算でより等量に近づけることである。なお、これらのリン元素は基材層に含まれることが好ましい。
【0031】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、少なくとも片面にコート層を有することが好ましい。少なくとも片面にコート層があることで、例えば、相手部材との密着性を上げることができる。またコート層に粒子を入れることで、ハンドリング性を改善することもできる。なお、本発明におけるコート層については、機能層、塗布層ということもある。
【0032】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、粒子含有量が0.01質量%以下であることが好ましい。「粒子含有量が0.01質量%以下である」とは、光学用ポリエステルフィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、光学用ポリエステルフィルムが粒子を含まない、又は0.01質量%以下の粒子を含むことをいう。光学用ポリエステルフィルムは、通常高い透明性が求められるため、透明性を下げる要因となる粒子は極力入れないことが好ましいが、走行性やハンドリング性を付与するために、0.01質量%以下の少量であれば添加してもよい。なお、光学用ポリエステルフィルムが複数の層を有する場合(例えば、基材層とコート層を有する場合)は、どの層に粒子を添加してもよい。
【0033】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、位相差転写用として利用可能である。位相差転写用途の光学用ポリエステルフィルムとは、配向層と位相差層を順に積層させるための、工程フィルムとして利用されるフィルムである。金属由来の内部異物が少ないことで、検査感度を上げることができ、さらに欠点の少ない位相差層を形成することができる。また、内部欠点の一部は表層に存在する可能性がある。表層に金属由来の欠点があった場合、周辺のポリエステル表面と異なる官能基を有するため、その上に塗工される配向層を弾くことがある。表層に存在する金属由来の欠点を削減するためには、金属由来の内部欠点自体の数を減らすことが好ましい。
【0034】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、タッチパネル基材用として利用可能である。タッチパネル基材用途は、片面に光学調整層をコートした後、一般的にはITOがスパッタされ、反対面にはアンチブロッキングのハードコート層がコートされる。いずれも透明性が重要であり、金属由来の内部異物が多いと欠点として認識される上、欠点を起点にショートしてしまう可能性もある。本発明の光学用ポリエステルフィルムは、長径が10μm以上50μm以下である金属成分由来の内部欠点の個数が少なく抑えられているため、上記問題を解決することができ、タッチパネル基材用に好適に利用できる。なお、当該用途は光学用途中でも特に透明性や金属成分由来の内部欠点が少ないことが高水準で要求されるため、金属成分由来の内部欠点の個数が9個/250mm2以下のものや、粒子を含まないものを特に好適に用いることができる。
【0035】
次に、本発明に係る光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法について説明するが、本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法はこれに限定されない。当該ポリエステル樹脂の製造方法は、ジカルボン酸成分またはそのエステルとジオール成分を主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
【0036】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂を製造する原料としては、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、これらは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0037】
ポリエステル樹脂の製造に用いることができるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとしては、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。なお、これらの成分は、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂において、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムに加工しやすいポリエステル樹脂を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルであり、これらは適宜組み合わせて用いることもできる。
【0039】
ポリエステル樹脂の製造に用いることができるジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。
【0040】
これらの成分は単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよく、また、ジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールを用いることもできる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムに加工しやすいポリエステル樹脂を得ることができる点で、ジオールとしてはエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0041】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0042】
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸アルキルエステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0043】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル樹脂を得る工程である。
【0044】
また、本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合のいずれも適用が可能である。
【0045】
基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
【0046】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、ゲルマニウム元素、マンガン元素、およびナトリウム元素を含む化合物を用いる場合、これらの化合物は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前に添加することで、耐熱性を向上させることができ、さらに異物の抑制されたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0047】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、重縮合反応終了前までにゲルマニウム元素、マンガン元素、およびナトリウム元素を含む化合物を添加し、かつその含有量が最終的に得られたポリエスル樹脂に対し、ゲルマニウム元素含有量が3ppm以上100ppm以下であり、マンガン元素含有量が3ppm以上40ppm以下であり、かつナトリウム元素含有量が4ppm以上40ppm以下であることにより、ポリエステルフィルムのゲルマニウム元素含有量が3ppm以上100ppm以下であり、マンガン元素含有量が3ppm以上40ppm以下であり、かつナトリウム元素含有量が4ppm以上40ppm以下を満たすことが容易となる。
【0048】
基材層用のポリエステル樹脂の製造方法において、ゲルマニウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が3ppm以上100ppm以下となるように添加することが好ましい。下限としてより好ましくは5ppmである。また、上限としてより好ましくは80ppmであり、さらに好ましくは60ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステルの重合触媒として利用されるが、上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のゲルマニウム元素量を満たすことで、ポリエステル樹脂の各種分解を抑制することが可能となる。ポリエステル樹脂の製造に用いるゲルマニウム元素を含む化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を込み合わせて用いることも可能である。
【0049】
基材層用のポリエステル樹脂は、マンガン元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が3ppm以上40ppm以下となるように含むことが好ましい。下限としてより好ましくは5ppmである。また、上限としてより好ましくは30ppmである。マンガン元素量を上記下限以上とすることで、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上することが可能である。また、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン元素量を満たすことで、加工工程におけるポリエステル樹脂の各種分解を抑制することが可能となる。
【0050】
ポリエステル樹脂の製造に用いるマンガン元素を含む化合物は特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガンやそれら水和物などが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることも可能である。また、マンガン元素を含む化合物の添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂のジオール成分と同一にすることが好ましい。例えば、ポリエステル樹脂がPETの場合は溶媒としてエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0051】
また、基材層用のポリエステル樹脂は、ナトリウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が4ppm以上40ppm以下となるように添加することが好ましい。上限としてより好ましくは30ppmであり、さらに好ましくは20ppmである。ナトリウム元素含有量が40ppm以下であると、金属凝集異物が減少したり、ポリエステル樹脂の耐熱性の悪化が軽減される。また、ナトリウム元素含有量が4ppm以上であると、ポリエステル樹脂の耐熱性の悪化が軽減される。すなわち、ナトリウム元素含有量を上記範囲とすることで、耐熱性が良好となり、熱分解に起因するポリエステル樹脂の劣化を抑制できる。
【0052】
ポリエステル樹脂の製造に用いるナトリウム元素を含む化合物は特に限定しない。例えば、ナトリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などを用いることができる。耐熱性の点から、ナトリウム元素を含む化合物はリン酸ナトリウム塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが挙げられる。耐熱性の点からリン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸ナトリウム塩を併用しても構わない。
【0053】
また、基材層用のポリエステル樹脂の製造においては、上記リン酸ナトリウム塩と他のリン元素を含む化合物を併用することが好まく、リン酸ナトリウム塩とリン酸とからなる緩衝溶液として混合することが特に好ましい。リン酸ナトリウム塩とリン酸からなる緩衝溶液として添加することで、より良好な耐熱性を発現させることが可能となる。
【0054】
また、上記ナトリウム元素含有量を満たす範囲で、リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、フィルム製造における静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗を小さくすることができ、生産性が向上する。
【0055】
ナトリウム元素を含む化合物を添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂のジオール成分と同一にすることが好ましく、ポリエステル樹脂がPETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0056】
基材層用のポリエステル樹脂は、リン元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が15ppm以上70ppm以下となるように添加することが好ましい。下限としてより好ましくは20ppm、さらに好ましくは25ppmである。上限としてより好ましくは60ppm、さらに好ましくは50ppmである。上記範囲とすることで、ポリエステル樹脂に耐熱性を付与させることができる。
【0057】
基材層用のポリエステル樹脂の製造方法において、重縮合反応終了後に得られるポリエステル樹脂をさらに失活処理することが好ましい。ゲルマニウム触媒で重縮合反応して得られるポリエステル樹脂においては、熱水などの比較的温和な条件で処理することで、触媒能が失活することが知られている。触媒能を失うことでポリエステル樹脂をその後のフィルム製膜工程に用いた際、重縮合触媒が原因となって発生する熱分解が抑制され、耐熱性に優れたポリエステルフィルムを得ることが可能となる。
【0058】
ポリエステル樹脂の失活処理は、水やリン化合物、アンモニア化合物など種々の溶液にて実施することが可能である。リン化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸メチル、リン酸エチルなどのリン酸エステル類、またリン酸やポリリン酸のようなリン化合物の水溶液や溶液などとポリエステル樹脂との接触が挙げられ、これに限定されない。また、アンモニア化合物としては、トリエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどが挙げられる。これら処理液とポリエステル樹脂を接触させて処理する温度は、20℃以上120℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上100℃以下、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。処理時間は、30分以上24時間以下であることが好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0059】
基材層用のポリエステル樹脂の製造方法においては、例えばゲルマニウム元素やリン元素は重縮合反応中に留出してしまうことから、上述した元素量になるよう留出分を考慮して添加量を調整することが好ましい。
【0060】
基材層用のポリエステル樹脂の製造方法において、(A)エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン元素を含む化合物添加後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル樹脂の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いために、リン酸ナトリウム塩を用いた場合、分散しにくく異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。このとき、マンガン元素を含む化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0061】
追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸ナトリウム塩の異物化を抑制できる。
【0062】
ゲルマニウム元素、マンガン元素、およびナトリウム元素を含む化合物の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散できる。
【0063】
また、基材層用のポリエステル樹脂の製造方法において、高分子量のポリエステル樹脂を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル樹脂を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル樹脂に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。また、失活処理を行う場合は、固相重合を効率よく行うため、固相重合後に行うのが好ましい。
【0064】
ポリエステル樹脂をポリエステルフィルムの基材層に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0065】
以下、本発明のポリエステルフィルムの基材層を得るためのポリエステル樹脂の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されるものではない。
【0066】
240~260℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0067】
こうして得られたエステル化反応物を重合装置に移送し、マンガン化合物、ゲルマニウム化合物を添加する。その後、エチレングリコールを追加添加し、リン酸、リン酸ナトリウム塩を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0068】
その後、重合装置内の温度を260~300℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂を得る。
【0069】
このようにして得られたポリエステル樹脂は、耐熱性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生するゲル組成物やテレフタル酸などの低分子量体の発生が少なく、特に光学フィルム用途などの高品質が求められるポリエステルフィルム、すなわち本発明のポリエステルフィルムの基材層に、好適に用いることが可能である。
【0070】
本発明の光学用ポリエステルフィルムおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする限り特に限定されないが、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。ここでいう「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより、得ることができる。なお、長手方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールであれば巻き方向がこれに相当、縦方向ともいう。)をいい、幅方向(横方向ともいう。)とはフィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。
【0071】
本発明の光学用ポリエステルフィルムにおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶融押出しし、シート状に成形することによって得られる。本発明におけるポリエステルフィルムの基材層は、厚さ方向に1つの層で構成されていてもよいし、複数の層を有していてもよい。複数の層を有する基材層は、例えば複数の押出機から溶融ポリエステル樹脂を供給し、厚さ方向に重ねた後に冷却固化しシート化することにより得ることができる。
【0072】
本発明の光学用ポリエステルフィルムにおける基材層は、内部ヘイズが0.5%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3%以下である。ヘイズはポリエステルフィルムを通して散乱された光の割合を示した数値であり、低いほど光の散乱が少なく、ポリエステルフィルムはより透明でクリアな外観となる。光の散乱は、主にポリエステルフィルムの表面形状による散乱(外部散乱)とポリエステルフィルムの内部の添加剤や不純物、空洞などによる散乱(内部散乱)に分けられ、前者による散乱割合を示したものを外部ヘイズ、後者による散乱割合を示したものを内部ヘイズという。なお、内部ヘイズは公知のヘイズメーターで測定することができ、その詳細は後述する。
【0073】
ディスプレイ等に用いられる光学用ポリエステルフィルムは、その表面にハードコート層、電極層、屈折率調整層、透明粘着層など種々の加工がなされるため、表面形状による散乱である外部ヘイズは、加工構成により調整することが可能である。一方で内部散乱による内部ヘイズは、加工により調整することができないため、光学用基材フィルムとして非常に重要な特性である。よって、光学用ポリエステルフィルムの内部ヘイズが0.5%以下であると、光学用ポリエステルフィルムを透過した光が散乱される割合が小さくなり、ディスプレイの透明度や精細度が向上する。
【0074】
内部ヘイズを所望の値に調整する方法としては、フィルム内部に添加剤や不純物、気泡など光を散乱させる異物を混入させない方法や、光学用ポリエステルフィルムを二軸配向とし、結晶化度を適正に制御する方法を用いることができる。より具体的には、基材層に用いるポリエステル樹脂中の添加剤、特に触媒などの金属系添加剤量を150ppm以下とすることや、前述したように特定の触媒種やリン系の添加剤を適量使用すること等で達成が可能である。また、異物を混入させないように、ポリエステル樹脂を適切に保管、計量することや、ポリエステル樹脂の溶融押出工程にて、例えば濾過精度10μm以下の高精度濾過を実施すること等も好ましい方法として挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0075】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、そのすべり係数を低減し、取り扱い性を改善する目的で滑剤などの添加剤を使用する場合は、できる限りその添加量を減らすことが好ましい。少ない添加量にて効率的にすべり係数を低減させる方法としては、添加剤を可能な限りフィルム表面に局在化させることが好ましい。具体的には、基材層を厚さ方向に複数の層を積層させた構成とし、フィルム表面を形成する層にのみ添加剤を添加させる方法や、ポリエステル基材層の上に、添加剤を含む塗布層を設ける方法などが挙げられる。特に透明性と易滑性を両立し、さらにポリエステルフィルム上に設けられる機能層との密着性向上や帯電防止性付与などの機能を比較的容易に追加することができることから、本発明の光学用ポリエステルフィルムは、基材層の少なくとも片側の表面上に、塗布層を設けることが好ましい。
【0076】
本発明の光学用ポリエステルフィルムにおいて、塗布層を積層する方法は特には限定されない。例えば、フィルムの製造工程とは別工程で、フィルムを巻き出し、塗布・乾燥することで塗布層を形成する、所謂オフラインコーティング法や、押出機により樹脂を押出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなすフィルムの製造工程中に塗布を行い、塗布フィルムを一気に得る、所謂インラインコーティング方法を用いることができる。
【0077】
本発明の塗布層には、フィルム表面のすべり性を向上させ取り扱い性を改善する目的で、滑剤を添加することが好ましい。使用される滑剤は、フィルム特性を阻害しない範囲内で特には限定されないが、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子などの無機粒子や、アクリル粒子、シリコーン粒子、ポリイミド粒子、“テフロン”(登録商標)粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋重合体粒子、コアシェル粒子などの有機粒子が挙げられ、これら粒子のいずれを用いても、あるいは複数種を併用してもよい。これら粒子の数平均一次粒径(以下、単に平均一次粒径ということがある。)は、50~1000nmの範囲内であることが好ましい。ここで平均一次粒径とは、JIS H7008(2002)において単一の結晶核の成長によって生成した粒子と定義される一次粒子の粒子径の平均である。粒子の添加量は、易滑層の厚みや樹脂組成、平均一次粒径、求められる易滑性や用途などによって適切に調節設計されるべきであるが、易滑層を形成する成分全体を100質量%としたときに0.05~8質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは0.1~5質量%の範囲内である。
【0078】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの塗布層には、滑材粒子を保持したり、あるいは他の機能層との密着性を改善したり、フィルムから析出するオリゴマーを封止することなどの各種機能を付与すること等のため、既知のポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系などの樹脂を、単独および/または複数を混合して用いてもよい。さらには、メラミン系、オキサゾリン系、カルボジイミド系の架橋剤を含有してもよい。
【0079】
次に本発明の光学用ポリエステルフィルムの製造方法を、基材層を形成するポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた場合を例にして説明するが、これに限定されるものではない。
【0080】
基材ポリエステルフィルムを構成する極限粘度0.5~0.8dl/gのPETペレットを真空乾燥した後、押出機に供給し260~300℃で溶融したのち、フィルタにて異物を除去後、T字型口金よりシート状に押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10~60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化せしめて未延伸PETフィルムを作製する。この未延伸フィルムを70~100℃に加熱されたロール間で縦方向に2.5~5.0倍延伸して一軸延伸フィルムを取得する。なお、PETペレットの一部あるいは全部は、後述する回収原料を含むものを用いてもよい。
【0081】
この一軸延伸フィルムの少なくとも片面に塗布層を構成する水系塗剤を塗布する。その後、水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をテンター装置のクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、塗剤を乾燥させた後に70~150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70~150℃の加熱ゾーンで横方向に2.5~5.0倍延伸し、続いて200~240℃の加熱ゾーンで5~40秒間熱処理を施し、100~200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した基材層上に塗布層が積層された光学用ポリエステルフィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3~12%の弛緩処理を施してもよい。なお、上記の例では二軸延伸は縦、横逐次延伸を行っているが、延伸は同時二軸延伸で行ってもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。但し、同時二軸延伸の場合は一軸延伸フィルムに水系塗剤を塗布することができないので、インラインコート法を採用する場合は未延伸フィルムに水系塗材を塗布するとよい。
【0082】
その後、クリップで把持した幅方向両端部を得られた光学用ポリエステルフィルムより切断除去し、所望の幅に裁断して巻き取る。なお、幅方向両端部の切断除去や所望の幅への裁断は、走行する光学用ポリエステルフィルムを長手方向と平行に切断することが可能な装置、例えば公知のスリッター等で行うことができる。
【実施例0083】
次に、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下に説明する態様に限定されるものではない。
【0084】
[物性の測定法、及び各種特性の評価法]
(1)フィルムの内部ヘイズ
スガ試験機(株)製 ヘイズメーター(HGM-2DP)を用いて、以下のとおり測定した。サンプルを60mm×30mmで切り出し、テトラリンで満たした光路長1cmの石英セル中にサンプルを挿入して測定した際の測定値から求めた。
【0085】
(2)ゲルマニウム、マンガン、リン、ナトリウム元素、および金属元素の定量
試料(ポリエステル樹脂または光学用ポリエステルフィルムの基材層の粉砕物)5gを白金皿にとり、電熱器で溶融炭化後、電気炉(700℃)で1.5時間かけて完全に灰化させた。その後、灰化物を濃塩酸5mLに溶かし、10%塩酸水溶液となるように純水を加えて測定試料とした。上記の溶液を測定試料として、原子吸光分析法(フレーム:アセチレン-空気、ゲルマニウム元素のみアセチレン-一酸化二窒素)にて定量を行った。なお、原子吸光分光光度計は(株)日立ハイテクサイエンス製「ZA-3300」を使用した。光学用ポリエステルフィルムから基材層の粉砕物を得る方法は以下のとおりである。なお、塗布層除去前のフィルムにはカリウム元素が含まれていなかったことから、本測定にてカリウム元素が検出された場合は、機能層除去時の残渣由来と判断し、定量の対象から除外した。
【0086】
[光学用ポリエステルフィルムから基材層の粉砕物を得る方法]
光学用ポリエステルフィルムを0.5cm~3.0cmのサイズに粉砕し、7質量%の水酸化カリウム水溶液(pH:14)中に投入し、攪拌しながら温度85℃で1時間洗浄する。洗浄終了後の粉砕物を水洗、乾燥して洗浄済みの基材層の粉砕物を得る。
【0087】
(3)ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mLにポリエステル樹脂を溶解させ(溶液濃度C=1.2g/mL)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(C)により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C ・・・式(C)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0088】
(4)溶融比抵抗
銅版2枚を電極として、間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を290℃で溶融した真空乾燥(条件:180℃、3時間)済みのポリエステル樹脂または光学用ポリエステルフィルムの基材層の粉砕物中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えたときの電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗(ρ)を算出した。なお、光学用ポリエステルフィルムから基材層の粉砕物を得る方法は(2)に示す通りである。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
(但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm2)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。)。
【0089】
(5)ポリエステル樹脂の異物評価
290℃に加熱したホットプレート上で、2枚のカバーガラスに挟んだ0.1mgのポリエステル樹脂を溶融し、ポリマーの薄膜が形成されたプレパラートを作製した。このプレパラートを光学顕微鏡(オリンパス(株)製:BX50、400倍、暗視野)で観察し、観察できるすべての光点を数えて下記の基準で評価した(A、Bを合格、Cを不合格とした。)。
A:0~5個/0.1mg
B:6~9個/0.1mg
C:10個以上/0.1mg。
【0090】
(6)ポリエステル樹脂の耐熱性評価
プレス機を用いて、ポリエステル樹脂を厚さ100μm、幅5cm×5cmとなるように成形して、プレスフィルムを3枚作製した(プレス機:ゴンノ油圧機製作所製15トン、4本柱単動上昇式プレス機)。得られたプレスフィルム3枚に、熱風乾燥機にて230℃で30分間の加熱処理を施し、その後3枚のプレスフィルムを重ねた状態で二つ折りにした。このときに割れたプレスフィルムの枚数より下記基準で耐熱性を評価した(A、Bを合格、Cを不合格とした。)。
A:1枚も割れなかった。
B:1枚または2枚が割れた。
C:3枚とも割れた。
【0091】
(7)光学用ポリエステルフィルムの内部欠点個数
光学用ポリエステルフィルムの片面側を黒色の油性ペン(寺西化学工業社性マジックインキNo.500黒 M500-T1)にて塗りつぶした。その後、キーエンス社製レーザーマイクロスコープVK-X100を用いて、塗りつぶした面と反対側から倍率200倍(接眼レンズ20倍、対物レンズ10倍)にて幅方向10mm×長手方向25mmの範囲を観測し、長径サイズが10μm以上の異物の個数にて内部欠点個数を評価した。なお、長径サイズはVK-X200に内蔵されている画像処理により測定した。
【0092】
(8)内部欠点の成分分析
異物の分析はSEM-EDXを用いて行った。(7)で検出された異物のうち長径サイズが50μm以下のものをSEM-EDXで分析し、金属異物が検出された個数をカウントした。
【0093】
(9)タッチパネル基材としての評価
以下の原材料を、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMA)で希釈して混合し、各原材料を溶媒中に分散させ、不揮発分が25.5質量%の塗料を調製した。ここで得た塗料を、光学用ポリエステルフィルムの塗布層上に、乾燥後の膜厚が1.0μmになるように塗布した。その後、80℃に設定した乾燥炉により塗布膜中の溶剤を除去した後、UV処理装置を用いて積算光量が400mJ/cm2となるように紫外線を照射して塗布膜を硬化させ、光学機能層を形成した。なお、光学用ポリエステルフィルムのもう片方の面(プレーン面)にはITO保護フィルム(“SUNYTECT”(登録商標)NSA33T」、株式会社サンエー化研製)を貼り付けた。
[原材料]
反応性基装飾コロイダルシリカ(分散媒:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、不揮発分:40重量%):100質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:48質量部
1,6-ヘキサンジオールジアクリレート:12質量部
光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン):2.5質量部
上記光学機能層の表面にスパッタリング法を用いて透明導電層を配置し、透明導電フィルムを作製した。具体的には、酸化インジウムに酸化錫5質量%を添加したターゲットを用いて、アルゴンガス98体積%と酸素ガス2体積%とからなる混合雰囲気中で成膜して、酸化インジウムと酸化スズとの複合酸化物からなる透明導電層を作製した。その後、得られた積層体をオーブンにて140℃、90分の条件で加熱して、透明導電フィルムを作製した。得られたフィルムの透明性・視認性について、下記判定基準により、判定を行った。
A:透明性・視認性とも良好であった。
B:実用上問題ないものの、透明性・視認性に劣っていた。
C:実用上、問題あるレベルで透明性・視認性が不良であった。
【0094】
(10)位相差層の塗布抜け
硬化後の膜厚が200nmとなるように、ポリビニルシンナメート(PVCi)基を有する光配向材料を、酢酸イソブチルを含む混合溶媒に溶解させて固形分比率5質量%とした光配向層組成物をダイコート法により光学用ポリエステルフィルムに塗布した。その後、100℃に調整した乾燥機内で2分間乾燥させ、溶媒を蒸発させるとともに組成物を熱硬化させて光配向層を形成した。続いて、この光配向層に対して、積算光量が40mJ/cm2となるように原反の搬送方向と平行な方向に約500μm間隔のパターン状に偏光紫外線を照射して、厚さ200nmのパターン配向層を形成した。次に、形成したパターン配向層上に、光重合性ネマチック液晶の液晶組成物(固形分30%、溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を使用)をダイコート法により塗布して乾燥させ、その後、紫外線照射により重合させて厚さ1μmの位相差層(屈折率1.60)を形成した。最後にPETフィルムを剥離して位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの配向層側から白色LED光を照射し、反対側に偏光板、及びCCDカメラを順に設置し、CCDカメラで光が抜ける箇所を検出した。なお配向層と偏光板の配向軸はクロスニコル(配向軸が直交)となるように設置しており、光が抜ける箇所はクロスニコルになっていない、すなわち塗布抜けとなる。その個数を下記基準で評価した(A、Bを合格、Cを不合格とした。)。
A:塗布抜けの個数が0.01個/m2以下であった。
B:塗布抜けの個数が0.01個/m2より多く0.10個/m2以下であった。
C:塗布抜けの個数が0.10個/m2を超えた。
【0095】
(11)位相差層の表面観察
上記で作製した位相差フィルム表面をキーエンス社製レーザーマイクロスコープVK-X100観察して、粒子の転写後の有無について確認した。凹凸があった場合、光の入射確度が変わるため、位相差フィルムの性能を十分に発揮できない可能性がある。
【0096】
[参考例1] ポリエステル樹脂1の調製
250℃にて溶融したビスヒドロキシエチルテレフタレート(以降BHTと記す)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。エステル化反応器から105質量部(PET100質量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しマンガン元素として23ppm)、二酸化ゲルマニウム(ポリエステル樹脂の質量に対しゲルマニウム元素として45ppm)を添加した。次いでリン酸(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として19ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル樹脂の質量に対しナトリウム元素として14ppm、リン元素として19ppm)のエチレングリコール溶液を添加した。その後、パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として20ppm)を添加した。なお、二酸化ゲルマニウムは、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド20質量%水溶液に完溶させた後、エチレングリコールを加えたエチレングリコール溶液を使用した。その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に吐出させながらイオン交換水で満たした水槽で冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル樹脂1を得た。得られたポリエステル樹脂1の特性を表1に示す。
【0097】
[参考例2~9]
ポリエステル樹脂中のゲルマニウム元素、マンガン元素、ナトリウム元素、リン元素の量を表1、表2の通りになるように調整した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂2~9を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性を表1示す。
【0098】
[参考例10~14]
パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液を使用しないこと(参考例10、12、14)、及びリン元素の量を表1の通りになるように変更した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂10~14を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性を表1、2に示す。
【0099】
[参考例15,16]
パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液を添加後、平均粒径1μmのコロイダルシリカのエチレングリコールスラリーを、シリカの含有量がポリエステル樹脂に対して0.005質量%(参考例15)、または0.2質量%(参考例16)となる様に添加した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステル樹脂15~16を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性を表2に示す
[参考例17~19]
二酸化ゲルマニウムの代わりに、テトラ-n-ブトキシチタンのエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しチタン元素として10ppm(参考例17)、または三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル樹脂の質量に対しアンチモン元素として70ppmまたは110ppm 順に参考例18、19)を添加した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂17~19を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0100】
[参考例20、21]
ポリエステル樹脂を洗浄する際にイオン交換水ではなく、通常の水を使用した以外は参考例1と同様にして(参考例20)、又は参考例18と同様にして(参考例21)、ポリエステル樹脂を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0101】
[参考例22] 塗布用水溶性ポリエステル樹脂(A)の調製
窒素ガス雰囲気下でジカルボン酸成分としてテレフタル酸88モル部、5-スルホイソフタル酸ナトリウム12モル部、グリコール成分としてエチレングリコール140モル部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を全ジカルボン酸成分100万質量部に対して100質量部添加して、160~240℃で6時間エステル化反応を行った後、反応物が透明になるまで溜出液を除いたのち、220~280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A)を得た。
【0102】
[参考例23] ポリエステルフィルムの製造方法
ポリエステル樹脂を真空中160℃で4時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルタで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルタで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムにキャスト速度30m/分で巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを予熱ロールにて80℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて95℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.1倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。次いで、下記塗液を上記一軸延伸フィルムの片側表面面に塗布し、ワイヤー径0.1mm(#4)のメタリングワイヤーバーを用いて、塗液膜厚さ6μmに計量した。
<塗液>
ポリエステル樹脂固形分を100質量部とした時に、以下成分を含有する、ポリエステル樹脂固形分換算の濃度が5.0%である水溶液。
参考例22得られたポリエステル樹脂(A):100質量部
メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標)MW12LF):5質量部(固形分換算)
粒径140nmのコロイダルシリカ:2.5質量部
水系塗剤を塗布した1軸延伸フィルムをクリップで把持してオーブンに導入し、オーブン中にて雰囲気温度120℃で乾燥、予熱した。引き続き連続的に120℃の延伸ゾーンで幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向(二軸延伸)フィルムを引き続き230℃の加熱ゾーンで10秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚さ50μmの二軸配向ポリエステルフィルム(光学用ポリエステルフィルム)を得た。
【0103】
[実施例1]
(ポリエステルフィルムの作製)
以下のポリエステル樹脂原料混合物を用いて、参考例1で得られたポリエステル樹脂1を用いて参考例23に記載の方法で光学用ポリエスエルフィルムを得た。得られた光学用ポリエステルフィルムの評価結果を表3に示す。
【0104】
[実施例2~19、比較例1~2]
ポリエステル樹脂原料を、表1、2の通りとした以外は、実施例1と同様にして光学用ポリエステルフィルムを得た。得られた光学用ポリエステルフィルムの評価結果を表3、4に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
本発明にかかる光学用ポリエステルフィルムは、異物の発生、特に金属起因の内部異物の発生が少ない。そのため、高品質が求められるディスプレイ等の光学用途に好適に用いることができる。