(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023457
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 63/16 20060101AFI20250207BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250207BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20250207BHJP
【FI】
C08G63/16
C08J5/18 CFD
C08J7/043 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127581
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藥師堂 健一
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4J029
【Fターム(参考)】
4F006AA35
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4J029JA091
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4J029JA261
4J029JB171
4J029JF031
4J029JF361
4J029JF541
(57)【要約】
【課題】 本発明は、工程安定性を確保しつつもフィルムの着色が少ないポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、前記ポリエステル樹脂が、線状オリゴマー含有量が100ppm以下であり、ゲルマニウム元素を含有し、下記式(I)を満たすことを特徴とするポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、前記基材層の線状オリゴマー含有量が5ppm以上100ppm以下であり、かつ前記基材層が下記式(I)を満たすことを特徴とするポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
【請求項2】
前記基材層が下記式(II)~(IV)を全て満たす、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (II)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (III)
5ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (IV)
【請求項3】
前記基材層が下記式(V)を満たす、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦70ppm (V)
【請求項4】
前記リン元素の少なくとも一部が、リン酸およびリン酸ナトリウムに由来する、請求項3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下である、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記基材層の少なくとも片側の表面上に塗布層を有する、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
内部ヘイズが0.5%以下である、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色が少ないポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルフィルムの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記すことがある。)フィルムは、透明性や加工性に優れていることから、特にディスプレイやタッチパネル用途向けの高透明な光学用フィルムとして好適に用いられている。
【0003】
一般にポリエステル樹脂、特にPETの製造方法としては、テレフタル酸などのジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールまたはこれを主体とするグリコールとからエステル化反応物を製造し、このエステル化反応物を重縮合触媒の存在下、高温、高真空下で重縮合する方法が用いられている。
【0004】
ポリエステル樹脂を製造する際の重縮合触媒としては、従来からゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物などが用いられているが、安価でかつ触媒活性が優れているアンチモン化合物が最も広く使用されている。しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として用いると、ポリエステル樹脂の製造段階において不溶な金属粒子として析出しやすいため、得られたポリエステル樹脂をフィルムに成形加工した際に欠点を生じさせたり、溶融押出し時にアンチモン化合物が微小なゲル化物を誘発させる等の問題があった。
【0005】
また、アンチモン化合物を重縮合触媒として用いる場合、ポリエステル樹脂の分解反応によって、ポリエステル樹脂のモノマー成分や低分子量体(オリゴマー成分)といった線状オリゴマーが発生・増加しやすい。この線状オリゴマーは、製造工程、成形時、及び加工時に揮発・飛散してフィルム等の成形品の表面の汚れを誘発することや、工程の汚れを引き起こすことがある。そしてこれらの汚れは、最終的に得られる成形品の品位悪化に繋がる。
【0006】
さらには、アンチモン化合物やチタン化合物を重縮合触媒として用いると、ポリエステル樹脂が黄変・着色しやすい傾向があり、高透明なフィルムを得にくいといった問題もある。特に近年においては、光学用を中心とする高透明フィルムに対する品質要求がますます高くなっており、機械特性や熱特性を維持しながら上記のような問題を改善する技術が望まれている。
【0007】
これらの課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。例えば、特許文献1では、線状オリゴマーの成分比率を特定範囲とすることによって口金由来のスジを低減し、フィルム製造工程における工程安定性を確保する技術が開示されている。特許文献2では、特定量のアンチモン、マンガン、ナトリウムを含有させることによって線状オリゴマー発生量を低減し、フィルム製造工程における工程安定性を確保する技術が開示されている。特許文献3では、口金温度をポリエステル樹脂の融点未満に制御することで線状オリゴマー発生量を低減し、フィルム製造工程における工程安定性を確保する技術が開示されている。特許文献4では、フィルム製造工程中に溶媒処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理などを施すことによってフィルム表面の線状オリゴマーを除去し、フィルム製造工程における工程安定性を確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/092414号
【特許文献2】特開2019-85504号公報
【特許文献3】特開平10-180844号公報
【特許文献4】特開2001-89590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ある程度は口金スジの発生を抑制することができるものの、キャストドラムや縦延伸ロールなどといった工程ロールの汚染を抑制することができず、十分な工程安定性が確保できない課題がある。特許文献2や3に記載の方法では、ある程度は線状オリゴマーの発生量を低減することができ工程安定性の改善効果は見られるものの、フィルムの黄変や着色が十分に抑制できない課題がある。特許文献4に記載の方法では、フィルム製造工程中に新たに処理工程を設ける必要があるため既存設備への適用が難しく、また、フィルムの黄変や着色が十分に抑制できない課題がある。
【0010】
本発明は、これらの課題を解決し、製造時の工程安定性を確保しつつも着色が少ないポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決せんとするものである。すなわち、
(1) ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、前記基材層の線状オリゴマー含有量が5ppm以上100ppm以下であり、かつ前記基材層が下記式(I)を満たすことを特徴とするポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)
(2) 前記基材層が下記式(II)~(IV)を全て満たす、(1)に記載のポリエステルフィルム。
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (II)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (III)
5ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (IV)
(3) 前記基材層が下記式(V)を満たす、(1)または(2)に記載のポリエステルフィルム。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦70ppm (V)
(4) 前記リン元素の少なくとも一部が、リン酸およびリン酸ナトリウムに由来する、(3)に記載のポリエステルフィルム。
(5) 前記基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(6) 前記基材層の少なくとも片側の表面上に塗布層を有する、(1)~(5)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(7) 内部ヘイズが0.5%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工程安定性を確保しつつも着色が少ないポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明のポリエステルフィルムについて詳細に説明する。本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、前記基材層の線状オリゴマー含有量が5ppm以上100ppm以下であり、かつ前記基材層が下記式(I)を満たすことを特徴とする。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (I)。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有する。本発明において、ポリエステル樹脂とはジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繰り返し繋がった分子構造を有する樹脂をいい、ポリエステルフィルムとはポリエステル樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。本発明のポリエステルフィルムに好適に用いることができるポリエステル樹脂の詳細は後述する。主成分とは、対象物中の全構成成分を100質量%としたときに50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。ポリエステル樹脂を主成分とする基材層とは、ポリエステル樹脂を主成分とし、かつ厚みが10μm以上の層をいう(以下、「ポリエステル樹脂を主成分とする基材層」を単に「基材層」ということがある。)。なお、基材層は単層構成であっても積層構成であってもよく、上記要件を満たす層が連続して積層されている場合は、これらの層全体を一つの基材層として扱う。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムは、製造工程の安定化と着色軽減の観点から、基材層の線状オリゴマー含有量が5ppm以上100ppm以下であることが必要である。上限として好ましくは80ppmであり、より好ましくは65ppmであり、さらに好ましくは25ppmであり、特に好ましくは15ppmである。また、下限としては、線状オリゴマーの生成メカニズムの観点から5ppmが実質的な下限となる。
【0016】
なお、本発明における線状オリゴマーとは、ポリエステル樹脂の熱分解や加水分解、酸化分解等の分解反応によって生成するモノマー成分やオリゴマー成分であり、具体的にはポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分や、ジカルボン酸のカルボキシル基とジオールのヒドロキシル基が反応してできる鎖状の反応物のことを指し、環状3量体のような環状のオリゴマーは含めない。例えば、代表的なポリエステル樹脂であるPETを例に挙げると、テレフタル酸(TPA)、テレフタル酸とエチレングリコールの反応物である、モノヒドロキシエチルテレフタレート(MHET)、およびビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)等が線状オリゴマーとして発生する。
【0017】
一般的に、線状オリゴマーは昇華しやすく、また析出しやすいため、フィルム製造工程においては、溶融押出時に高温の状態で大気中に放出されて空気中へ拡散したり、フィルムの内部から表面へと浸み出したりして、口金やキャスティングドラムの汚れ、あるいはフィルムやロールの汚れなどの原因となる。そのため、ポリエステルフィルムの生産性の低下や、フィルムにキズが付くなどの品質悪化を引き起こす要因となる。
【0018】
線状オリゴマー含有量を上記範囲内とすることで、フィルム製造工程における工程汚れやフィルム汚れが低減され、フィルム製造工程の掃除の頻度を下げるといった工程安定性の向上や、工程汚れに起因するフィルムキズの発生や着色を低減でき高品位なポリエステルフィルム得ることができる。なお、基材層中の線状オリゴマー含有量の測定方法の詳細は後述する。
【0019】
線状オリゴマー含有量を上記範囲内とする方法としては、特に限定されず、例えば原料となるポリエステル樹脂に予め固相重合を施すことで線状オリゴマーの含有量を下げておく方法、押出機に投入する前に十分に乾燥を施したり、カルボキシル基末端量が少ないポリエステル樹脂を採用したり、末端封止剤を添加することで溶融押出時の加水分解を抑制する方法、溶融押出温度や口金温度を下げる方法、不活性ガス雰囲気下または減圧下で溶融押出する方法などを採用することができる。また、これらの方法の他に、後述の方法によって製造される線状オリゴマーが生成されにくいポリエステル樹脂を採用することも好ましい方法である。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、ゲルマニウム元素を質量基準で5ppm以上80ppm以下含有することが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは60ppmであり、より好ましくは50ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステル樹脂の重合触媒として利用されるが、その量を上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となり、着色の発生も軽減できる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のゲルマニウム元素量を満たすことで、ポリエステル樹脂の各種分解を抑制することが可能となり、その結果、線状オリゴマー含有量も低減することができる。なお、基材層中のゲルマニウム元素量の測定方法は後述する(他の元素量についても同様である。)。ここで質量基準とは、ポリエステルフィルムを構成する全成分を基準とすることを意味し、以下同様に解釈することができる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、マンガン元素を質量基準で5ppm以上40ppm以下含有していることが好ましい。下限としてより好ましくは10ppmである。また、上限としてより好ましくは30ppmである。マンガン化合物はポリエステル樹脂の熱分解に影響するため、その量を上記下限以上とすることで、ポリエステルフィルムの耐熱性を向上することが可能であり、着色の発生も軽減しやすい。また、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン元素量を満たすことで、加工工程におけるポリエステル樹脂やフィルムの各種分解、それに伴う着色を抑制しやすい。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、ナトリウム元素を質量基準で4ppm以上40ppm以下含有していることが好ましい。上限としてより好ましくは30ppmであり、さらに好ましくは20ppmである。ナトリウム元素を上記範囲とすることで、ナトリウム元素に起因する異物の発生が軽減されて耐熱性が良好となり、熱分解に起因するポリエステル樹脂やフィルムの各種分解、それに伴う着色を抑制しやすい。
【0023】
また、本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、金属元素含有量が質量基準で5ppm以上100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは80ppm以下である。基材層中の金属元素量が100ppmを超えると、溶融押出工程にてポリエステル鎖の切断を促進させるため、3次元構造を有するゲル化物が多発しやすく、フィルムの欠点となり品質を低下させることがある。また、金属成分自体、あるいは金属成分と他の化学物質との複合体が析出する等により、フィルム中の欠点を増加させることがある。なお、ここでいう金属元素とは、一般的に定義されている金属元素と同義であり、元素の周期表の水素を除く1族、2族~12族のすべての元素、ホウ素を除く第3周期以降の13族、炭素、ケイ素を除く第4周期以降の14族、第5周期以降の15族、第6周期の16族のことをいう。ポリエステルフィルムにおける基材層の金属元素含有量の下限は、ゲルマニウム元素の含有量の下限から実質5ppmであり、ゲルマニウム元素の他にマンガン元素やナトリウム元素を含有する場合はこれらの元素の含有量の下限から14ppmとすることが好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、リン元素を質量基準で15ppm以上70ppm以下含有していることが好ましい。下限としてより好ましくは20ppm、さらに好ましくは25ppm、特に好ましくは30ppmである。上限としてより好ましくは60ppm、さらに好ましくは50ppmである。上記範囲とすることで、ポリエステルフィルムに耐熱性を付与させることができ、さらに生産性も向上しやすい。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムの基材層は、異物化の原因となりやすい金属元素を極力含有させず、マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物またはリン化合物を添加することでポリエステルに耐熱性を付与させやすい。特に、ナトリウム元素やリン元素については、リン酸およびリン酸ナトリウム塩を用いてなることがポリエステル樹脂の劣化抑制の観点から好ましい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいては、基材層に含まれるリン元素の少なくとも一部が、リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来することがより好ましい。なお、基材層にリン酸イオンとナトリウムイオン、またはリン酸ナトリウムが存在する場合、基材層に含まれるリン元素が「リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来する」ものとみなすものとする。
【0026】
なお、基材層のポリエステル樹脂の劣化抑制(耐加水分解)効果を高めるためには、基材層の原料となるポリエステル樹脂にリン酸とリン酸ナトリウム塩を加えることが好ましく、これらの成分の含有量をモル比換算で等量に近づけることがより好ましい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいては、基材層がリン酸に由来するリン元素とリン酸ナトリウムに由来するリン元素の両方を含むことが好ましく、より好ましくは両者の量をモル比換算でより等量に近づけることである。このような態様とすることで、ポリエステル樹脂の劣化に伴うポリエステルフィルムの着色を軽減することができる。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、ポリエステルフィルムの厚みムラの軽減と生産性向上を両立させる観点から、基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下であることが好ましい。溶融製膜法で得られるポリエステルフィルムの厚みムラに影響する要素の一つとして、基材層を得るための溶融シート状物をキャストドラムで冷却固化する際の静電印加性が挙げられる。この静電印加性は、最終的に得られるポリエステルフィルムの基材層を溶融したときの溶融比抵抗値で評価することができ、また、基材層の原料となる溶融したポリエステル樹脂の溶融比抵抗値で代替することもできる。
【0028】
溶融比抵抗値とは、熱溶融させたポリエステルフィルム(またはポリエステル樹脂)の体積抵抗率である。上記観点から、本発明のポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗値は10.0MΩ・cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは5.0MΩ・cm以下である。基材層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下となる場合、キャストドラムでの冷却固化の際に静電印加性が良好となるため、得られるポリエステルフィルムの厚みムラが抑えられる上、製膜速度を高めて生産性を向上させることもできる。また、基材層の溶融比抵抗値の下限は特に制限されないが、実現可能性の観点から0.1MΩ・cmとなる。なお、ポリエステルフィルムの基材層の溶融比抵抗値は、以下の方法により測定することができる(測定方法の詳細は後述する。)。まず、粉砕したポリエステルフィルム(塗布層を有する場合は、塗布層を除去した後に粉砕する。)を180℃で3時間真空乾燥し、次いで290℃にて溶融する。その後、銅版2枚の間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を得られた溶融樹脂中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えたときの電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗値(ρ)を算出する。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm2)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。
【0029】
基材層の溶融比抵抗値を前記範囲とする方法としては、基材層の原料となるポリエステル樹脂中の金属元素含有量やリン元素含有量を前述の好適な範囲とする、当該原料に電気伝導を担う粒子や化合物を添加するなどの方法があるが、これらに限定されない。しかしながら、原料中の金属元素含有量を増加させると、前述の様に、得られるポリエステルフィルムの耐熱性を低下させたり、ゲル化物による異物の発生を誘発させることがある。そのため、金属によらないイオン性物質を適用することが好ましく、例えばカチオン性物質としてスルホニウム化合物、ホスホニウム化合物、アンモニウム化合物、イミダゾリウム化合物、ピリジニウム化合物、ピロリジニウム化合物を選択することができ、アニオン性物質として、スルホネート化合物、ホスフェート化合物、サルフェート化合物、アセテート化合物、イミド化合物など選択できる。特にホスホニウム化合物とスルホネート化合物の中和塩が好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層の主成分であるポリエステル樹脂は、耐熱性を十分に高める点からポリエチレンテレフタレート(PET)であることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分が含まれていてもよい。ポリエチレンテレフタレートとは、主たる構成単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステル樹脂をいい、主たる構成単位とは樹脂の分子鎖を構成する全構成単位を100モル%としたときに、50モル%を超えて含まれる構成単位をいう。なお、以下他のポリエステル樹脂についても主たる構成単位が置き換わる以外は同様に解釈することができる。
【0031】
次に、本発明に係るポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法について記載する。当該ポリエステル樹脂の製造方法は、ジカルボン酸成分またはそのエステルとジオール成分を主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂を製造する原料としては、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、これらは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0033】
ポリエステル樹脂の製造に用いることができるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとしては、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。なお、これらの成分は、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂において、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムに加工しやすいポリエステル樹脂を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルであり、これらは適宜組み合わせて用いることもできる。
【0035】
ポリエステル樹脂の製造に用いることができるジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。
【0036】
これらの成分は単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよく、また、ジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールを用いることもできる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムに加工しやすいポリエステル樹脂を得ることができる点で、ジオールとしてはエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0037】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、得られるポリエステル樹脂の耐熱性を良好にすることができる。
【0038】
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸アルキルエステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0039】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル樹脂を得る工程である。
【0040】
また、本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合のいずれも適用が可能である。
【0041】
基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、ゲルマニウム元素、マンガン元素、およびナトリウム元素を含む化合物は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前に添加することで、耐熱性を向上させることができ、さらに異物の抑制されたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、重縮合反応終了前までにゲルマニウム元素を含む化合物(さらに好ましくは、これに加えてマンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物)を添加し、かつその含有量が最終的に得られたポリエステル樹脂に対し、下記式(VI)(マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物を含む場合は(VI)~(VIII))を満たすことが好ましい。このような態様とすることで、得られるポリエステルフィルムの基材層が式(I)(マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物を含む場合は(I)~(IV))を満たすことが容易となる。なお、ポリエステル樹脂に他の樹脂を混合して基材層を製造する場合は、下記式(VI)~(VIII)において、「ポリエステル樹脂に対する質量比」を「基材層製造用のポリエステル樹脂組成物に対する質量比」と読み替えて解釈するものとする。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(ポリエステル樹脂に対する質量比)≦80ppm (VI)
5ppm≦マンガン元素含有量(ポリエステル樹脂に対する質量比)≦40ppm (VII)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(ポリエステル樹脂に対する質量比)≦40ppm (VIII)。
【0044】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、ゲルマニウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が5ppm以上80ppm以下となるように添加することが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは60ppmであり、より好ましくは50ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステルの重合触媒として利用されるが、上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のゲルマニウム元素量を満たすことで、ポリエステルの各種分解を抑制することが可能となる。ポリエステル樹脂の製造に用いるゲルマニウム元素を含む化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることも可能である。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂は、マンガン元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が5ppm以上40ppm以下となるように含むことが好ましい。下限としてより好ましくは10ppmである。また、上限としてより好ましくは30ppmである。マンガン元素量を上記下限以上とすることで、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させやすい。また、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン元素量を満たすことで、ポリエステルフィルムへの加工工程におけるポリエステル樹脂の各種分解や、それに伴うポリエステルフィルムの着色を抑制しやすい。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造に用いるマンガン元素を含む化合物は特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガンやそれら水和物などが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることも可能である。また、マンガン元素を含む化合物の添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂のジオール成分と同一にすることが好ましい。例えば、PETの場合は溶媒としてエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂は、ナトリウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が4ppm以上40ppm以下となるように含むことが好ましい。上限としてより好ましくは30ppmであり、さらに好ましくは20ppmである。ナトリウム元素含有量が40ppmを超えると、金属凝集異物が増加したり、ポリエステル樹脂の耐熱性が悪化することがある。また、ナトリウム元素含有量が4ppmを下回る場合は、ポリエステル樹脂の耐熱性が悪化することがある。ナトリウム元素含有量を上記範囲とすることで、耐熱性が良好となり、ポリエステルフィルムを製造する際に熱分解に起因するポリエステル樹脂の劣化や、それに伴うポリエステルフィルムの着色を抑制しやすい。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造に用いるナトリウム元素を含む化合物は特に限定しない。例えば、ナトリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などを用いることができる。耐熱性の点から、ナトリウム元素を含む化合物はリン酸ナトリウム塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが挙げられる。耐熱性の点からリン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸ナトリウム塩を併用しても構わない。
【0049】
また、本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造においては、上記リン酸ナトリウム塩と他のリン元素を含む化合物を併用することが好まく、リン酸ナトリウム塩とリン酸とからなる緩衝溶液として混合することが特に好ましい。リン酸ナトリウム塩とリン酸からなる緩衝溶液として添加することで、より良好な耐熱性を発現させることが可能となる。
【0050】
また、上記ナトリウム元素含有量を満たす範囲で、リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、フィルム製造における静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗値を小さくすることができ、生産性が向上する。
【0051】
ナトリウム元素を含む化合物を添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂は、リン元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が15ppm以上70ppm以下となるように添加することが好ましい。下限としてより好ましくは20ppm、さらに好ましくは25ppmである。上限としてより好ましくは60ppm、さらに好ましくは50ppmである。上記範囲とすることで、ポリエステル樹脂に耐熱性を付与しやすい。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、重縮合反応終了後に得られるポリエステル樹脂をさらに失活処理することが好ましい。ゲルマニウム触媒で重縮合反応して得られるポリエステル樹脂においては、熱水などの比較的温和な条件で処理することで、触媒能が失活することが知られている。触媒能を失うことでポリエステル樹脂をその後のフィルム製膜工程に用いた際、重縮合触媒が原因となって発生する熱分解が抑制され、耐熱性に優れたポリエステルフィルムを得やすい。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の失活処理は、水やリン化合物、アンモニア化合物など種々の溶液にて実施することが可能である。リン化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸メチル、リン酸エチルなどのリン酸エステル類、またリン酸やポリリン酸のようなリン化合物の水溶液や溶液などとポリエステル樹脂との接触が挙げられ、これに限定されない。また、アンモニア化合物としては、トリエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどが挙げられる。これら処理液とポリエステル樹脂を接触させて処理する温度は、20℃以上120℃以下が好ましく、40℃以上100℃以下がより好ましく、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。処理時間は、30分以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法においては、例えばゲルマニウム元素やリン元素は重縮合反応中に留出してしまうことから、上述した元素量になるよう留出分を考慮して添加量を調整することが好ましい。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、(A)エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン元素を含む化合物添加後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル樹脂の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いために、リン酸ナトリウム塩を用いた場合、分散しにくく異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。このとき、マンガン元素を含む化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0057】
追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸ナトリウム塩の異物化を抑制できる。
【0058】
ゲルマニウム元素、マンガン元素、およびナトリウム元素を含む化合物の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散できる。
【0059】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂は、線状オリゴマー含有量が5ppm以上100ppm以下であることが好ましい。上限としてより好ましくは80ppmであり、さらに好ましくは50ppmであり、特に好ましくは30ppmであり、下限としては、線状オリゴマーの生成メカニズムの観点から5ppmが実質的な下限となる。線状オリゴマー含有量を上記範囲内とすることで、ポリエステルフィルムの基材層の線状オリゴマー含有量を制御しやすい。ポリエステル樹脂の線状オリゴマー含有量を上記範囲内とする方法としては、前述したような方法によって製造される線状オリゴマーが生成されにくいポリエステル樹脂を採用することが好ましい方法である。なお、ポリエステル樹脂の線状オリゴマー含有量の測定方法に詳細については後述する。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂は、b値が12.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂のb値を上記範囲とすることで、ポリエステルフィルムの透明性を確保やすくなり、高透明性が求められやすい光学用途として好ましく用いることができる。下限としてはポリエステル樹脂の分子構造の観点から3.0が実質的な下限となる。ポリエステル樹脂のb値を上記範囲内とする方法としては、前述したような方法によって製造される熱分解が起こりにくいポリエステル樹脂を採用することが好ましい方法である。なお、ポリエステル樹脂のb値の測定方法の詳細は後述する。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、高分子量のポリエステル樹脂を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル樹脂を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル樹脂に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。また、失活処理を行う場合は、固相重合を効率よく行うため、固相重合後に行うのが好ましい。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂は、ポリエステルフィルムの基材層に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0063】
以下、本発明のポリエステルフィルムの基材層に用いるポリエステル樹脂、及びそれを用いた基材層の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されるものではない。
【0064】
245~260℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0065】
こうして得られたエステル化反応物を重合装置に移送し、マンガン化合物、ゲルマニウム化合物を添加する。その後、エチレングリコールを追加添加し、リン酸、リン酸ナトリウム塩を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0066】
その後、重合装置内の温度を285~295℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂を得る。
【0067】
このようにして得られたポリエステル樹脂は、耐熱性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生するゲル組成物やテレフタル酸などの低分子量体の発生が少なく、特に光学フィルム用途などの高品質が求められるポリエステルフィルム、すなわち本発明のポリエステルフィルムの基材層に、好適に用いることが可能である。
【0068】
本発明のポリエステルフィルムおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする限り特に限定されないが、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。ここでいう「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより得ることができる。なお、長手方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールであれば巻き方向がこれに相当、縦方向ともいう。)をいい、幅方向(横方向ともいう。)とはフィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。
【0069】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶融押出しし、シート状に成形することによって得られる。本発明におけるポリエステルフィルムの基材層は、厚さ方向に1つの層で構成されていてもよいし、複数の層を有していてもよい。複数の層を有する基材層は、例えば複数の押出機から溶融ポリエステル樹脂を供給し、厚さ方向に重ねた後に冷却固化しシート化することにより得ることができる。
【0070】
ディスプレイ等に用いられる光学用フィルムは、その表面にハードコート層、電極層、屈折率調整層、透明粘着層など種々の加工がなされるため、表面形状による散乱である外部ヘイズは、加工構成により調整することが可能である。一方で内部散乱による内部ヘイズは、加工により調整することができないため、光学用基材フィルムとして非常に重要な特性である。よって、光学用途での使用を想定した場合、本発明のポリエステルフィルムは内部ヘイズが0.5%以下であることが好ましい。このような態様とすることで、ポリエステルフィルムを透過した光の散乱が軽減され、ディスプレイ等に使用したときにその透明度や精細度が良好となる。
【0071】
内部ヘイズを所望の値に調整する方法としては、フィルム内部に添加剤や不純物、気泡など光を散乱させる異物を混入させない方法や、ポリエステルフィルムを二軸配向とし、結晶化度を適正に制御する方法を用いることができる。より具体的には、基材層に用いるポリエステル樹脂中の添加剤、特に触媒などの金属元素量を100ppm以下、好ましくは80ppm以下とすることや、前述したように特定の触媒種やリン系の添加剤を適量使用すること等で達成が可能である。また、異物を混入させないように、ポリエステル樹脂を適切に保管、計量することや、ポリエステル樹脂の溶融押出工程にて、例えば濾過精度10μm以下の高精度濾過を実施すること等も好ましい方法として挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0072】
本発明のポリエステルフィルムは、そのすべり係数を低減し、取り扱い性を改善する目的で滑剤などの添加剤を使用する場合は、できる限りその添加量を減らすことが好ましい。少ない添加量にて効率的にすべり係数を低減させる方法としては、添加剤を可能な限りフィルム表面に局在化させることが好ましい。具体的には、基材層を厚さ方向に複数の層を積層させた構成とし、フィルム表面を形成する層にのみ添加剤を添加させる方法や、ポリエステル基材層の上に、添加剤を含む塗布層を設ける方法などが挙げられる。特に透明性と易滑性を両立し、さらにポリエステルフィルム上に設けられる機能層との密着性向上や帯電防止性付与などの機能を比較的容易に追加することができることから、本発明のポリエステルフィルムは、基材層の少なくとも片側の表面上に、塗布層を設けることが好ましい。
【0073】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、塗布層を積層する方法は特には限定されない。例えば、フィルムの製造工程とは別工程で、フィルムを巻き出し、塗布・乾燥することで塗布層を形成する、所謂オフラインコーティング法や、押出機により樹脂を押出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなすフィルムの製造工程中に塗布を行い、塗布フィルムを一気に得る、所謂インラインコーティング方法を用いることができる。
【0074】
本発明の塗布層には、フィルム表面のすべり性を向上させ取り扱い性を改善する目的で、滑剤を添加することが好ましい。使用される滑剤は、フィルム特性を阻害しない範囲内で特には限定されないが、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子などの無機粒子や、アクリル粒子、シリコーン粒子、ポリイミド粒子、“テフロン”(登録商標)粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋重合体粒子、コアシェル粒子などの有機粒子が挙げられ、これら粒子のいずれを用いても、あるいは複数種を併用してもよい。これら粒子の数平均一次粒径(以下、単に平均一次粒径ということがある。)は、50~1000nmの範囲内であることが好ましい。ここで平均一次粒径とは、JIS H7008(2002)において単一の結晶核の成長によって生成した粒子と定義される一次粒子の粒子径の平均である。粒子の添加量は、易滑層の厚みや樹脂組成、平均一次粒径、求められる易滑性や用途などによって適切に調節設計されるべきであるが、易滑層を形成する成分全体を100質量%としたときに0.05~8質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは0.1~5質量%の範囲内である。
【0075】
本発明のポリエステルフィルムの塗布層には、滑材粒子を保持したり、あるいは他の機能層との密着性を改善したり、フィルムから析出するオリゴマーを封止することなどの各種機能を付与すること等のため、既知のポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系などの樹脂を、単独および/または複数を混合して用いてもよい。さらには、メラミン系、オキサゾリン系、カルボジイミド系の架橋剤を含有してもよい。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムは、内部ヘイズが0.5%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3%以下である。ヘイズはポリエステルフィルムを通して散乱された光の割合を示した数値であり、低いほど光の散乱が少なく、ポリエステルフィルムはより透明でクリアな外観となる。光の散乱は、主にポリエステルフィルムの表面形状による散乱(外部散乱)とポリエステルフィルムの内部の添加剤や不純物、空洞などによる散乱(内部散乱)に分けられ、前者による散乱割合を示したものを外部ヘイズ、後者による散乱割合を示したものを内部ヘイズという。なお、内部ヘイズは公知のヘイズメーターで測定することができ、その詳細は後述する。
【0077】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムb値が12.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。フィルムb値が低いことは着色が少ないことを意味し、フィルムb値が12.0以下であれば、特に光学フィルム用途や加飾フィルム用途などといったフィルム色調への品質要求が高い用途への採用が容易となる。フィルムb値は、原料となるポリエステル樹脂のそのもののb値を低く抑えることで制御できる。フィルムb値の下限は、ポリエステル樹脂の分子構造の観点から3.0が実質的な下限である。なお、フィルムb値は実施例に記載の方法にて測定される。
【0078】
次に本発明のポリエステルフィルムの製造方法を、基材層を形成するポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた場合を例にして説明するが、本発明のポリエステルフィルムは、以下の方法により製造されるものに限定されない。
【0079】
基材層用のポリエステルフィルムを構成する固有粘度(IV)0.500~0.800dl/g(測定方法の詳細は後述)のPETペレットを乾燥した後、押出機に供給して260~300℃で溶融させる。次いで、フィルタにて溶融樹脂より異物を除去後、これをT字型口金よりシート状に押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10~60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化することにより未延伸PETフィルムを作製する。この未延伸フィルムを70~100℃に加熱されたロール間で縦方向に2.5~5.0倍延伸して一軸延伸フィルムを取得する。なお、PETペレットの一部あるいは全部は、回収原料を含むものを用いてもよい。また、縦方向への延伸の際には、必要に応じて上下方向からラジエーションヒーターを用いて加熱することにより一軸延伸フィルムの温度を調節してもよい。
【0080】
この一軸延伸フィルムの少なくとも片面に塗布層を構成する水系塗剤を塗布する。その後、水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をテンター装置のクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、塗剤を乾燥させた後に70~150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70~150℃の加熱ゾーンで横方向に2.5~5.0倍延伸し、続いて200~240℃の加熱ゾーンで5~40秒間熱処理を施し、100~200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した基材層上に塗布層が積層されたポリエステルフィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3~12%の弛緩処理を施してもよい。なお、上記の例では二軸延伸は縦、横逐次延伸を行っているが、延伸は同時二軸延伸で行ってもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。但し、同時二軸延伸の場合は一軸延伸フィルムに水系塗剤を塗布することができないので、インラインコート法を採用する場合は未延伸フィルムに水系塗剤を塗布するとよい。
【0081】
その後、クリップで把持した幅方向両端部を得られたポリエステルフィルムより切断除去し、所望の幅に裁断して巻き取る。なお、幅方向両端部の切断除去や所望の幅への裁断は、走行するフィルムを長手方向と平行に切断することが可能な装置、例えば公知のスリッター等で行うことができる。
【実施例0082】
次に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
[物性の測定法、及び各種特性の評価]
物性の測定及び各種特性の評価は以下の方法により行った。
【0084】
(1)ポリエステル樹脂およびポリエステルフィルム(基材層)における線状オリゴマー含有量(単位:ppm)
試料を0.1g計量して、試料がポリエステル樹脂である場合は窒素雰囲気下で290℃6時間の熱処理を行い、試料がポリエステルフィルムである場合は熱処理を行わずに、2mLのHFIP(ヘキサフルオロ-2-プロパノール)/クロロホルム=1/1(体積)混合溶液で溶解させた後、クロロホルム3mLを添加し、さらにメタノール40mLを徐々に加えた。その後、ペーパーフィルター(ADVANTEC製No.2)でろ過して得られた溶液を濃縮乾固させて得られた残渣にDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)0.5mLを加えて溶解・分散させ、エタノールを加えて5mLに定容した。その後、得られた溶液を、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターでろ過して試料溶液とした。得られた試料溶液を、LC/UVで分析することにより、溶融処理後のポリエステル樹脂(又はポリエステルフィルム)中のTPA(テレフタル酸)、MHET(モノヒドロキシエチルテレフタレート)、BHET(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)の含有量を測定し、これらの合計量を線状オリゴマー含有量とした。なお、塗布層を有するポリエステルフィルムの場合は、三共理化学(株)製「超精密研磨フィルム」(粒度15000)を用いて塗布層を研磨、除去し、基材層を露出させて測定試料とした(以下、特に断りのない限り、基材層を測定対象とする項目において同じ。)。
【0085】
(2)ポリエステル樹脂およびポリエステルフィルム(基材層)におけるゲルマニウム、マンガン、リン、ナトリウム元素、および金属元素の定量(単位:ppm)
試料5gを白金皿にとり、電熱器で溶融炭化後、電気炉(700℃)にて1.5時間かけて完全に灰化させた。次に灰化物を濃塩酸5mLに溶かし、10質量%塩酸水溶液となるように純水を加え、測定試料とした。上記の溶液を測定試料として、原子吸光分析法(フレーム:アセチレン-空気、ゲルマニウム元素のみアセチレン-一酸化二窒素)にて定量を行った。なお、原子吸光分光光度計は(株)日立ハイテクサイエンス製「ZA-3300」を使用した。
【0086】
(3)ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)(単位:-)
オルトクロロフェノール100mLにポリエステル樹脂を溶解させ(溶液濃度C=1.2g/mL)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする。)である。)。
【0087】
(4)ポリエステル樹脂、ポリエステルフィルム基材層の溶融比抵抗値(単位:Ω・cm)
ポリエステル樹脂、または粉砕したポリエステルフィルムを180℃で3時間真空乾燥し、次いで290℃にて溶融した。銅版2枚の間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を前記の溶融樹脂中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えたときの電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗値(ρ)を算出した。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm2)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。
【0088】
(5)ポリエステル樹脂のb値(単位:-)
インジェクション成形機により幅100mm×長さ100mm×厚さ1mmのテストピースを作製し、測色色差計(日本電色工業株式会社製“ZE 6000”)を用いて、透過光によりb値を測定した。テストピースの作製及び測定を3回繰り返し、得られた値の平均値を樹脂のb値とした。なお、着色軽減を求められる用途で使用できる水準から、b値は12.0以下であれば良好と判断する。
【0089】
(6)ポリエステルフィルムの内部ヘイズ(単位:%)
測定にはスガ試験機(株)製ヘイズメーター(HGM-2DP)を用いた。ポリエステルフィルムよりサンプルを60mm×30mmで切り出し、テトラリンで満たした光路長1cmの石英セル中にサンプルを挿入して測定した際の測定値から求めた。
【0090】
(7)ポリエステルフィルムのb値(単位:-)
合計厚みが1mmになるようにポリエステルフィルムを重ねて、これをサンプルとし、JIS Z 8722(2000年)に基づき、測色色差計(日本電色工業株式会社製“SE 2000”)を用いて、透過光によりb値を測定した。サンプルの作製及び測定を3回繰り返し、得られた値の平均値をポリエステルフィルムのb値とした。
【0091】
(8)工程安定性
ポリエステルフィルムの連続製造を行いつつ、4時間に1回の頻度で、下記するキズ個数の評価方法にて評価を行い、キズ個数が1.0個/m2を超えたところでポリエステルフィルムの製造を一時中断して全工程ロールの掃除を行った。掃除後にポリエステルフィルムの連続製造を再開して、以降、ポリエステルフィルムの製造時間が累計で240時間に達するまで、同様に繰り返した。その後、ポリエステルフィルムの製造開始(掃除後の製造再開)から掃除を行うまでの平均時間を算出し、以下の基準で工程安定性を評価した。なお、ポリエステルフィルムの製造時間は、製造を中断してから再開するまでの時間は含めないで算出するものとした。
【0092】
<キズ個数の評価方法(単位:個/m2)>
1m2の面積となるようにポリエステルフィルム試料を用意した。暗室にて該試料の一方の面を、入射角を試料に対して水平方向30°~150°の範囲で変えて2000lxのLEDライト(OHM社製EB-10KM)で照らしながら、ライト照射面側から観察し、目視で確認できたキズをサンプリングした。サンプリングしたキズをレーザー顕微鏡で観察し、深さ0.1μm以上、長さ0.1mm以上、かつ幅2μm以下であるキズをカウントした。測定を5回繰り返し、得られた値の平均値をキズ個数とした。
A:ポリエステルフィルムの製造開始から掃除を行うまでの平均時間が48時間以上であった。
B:ポリエステルフィルムの製造開始から掃除を行うまでの平均時間が24時間以上48時間未満であった。
C:ポリエステルフィルムの製造開始から掃除を行うまでの平均時間が12時間以上24時間未満であった。
D:ポリエステルフィルムの製造開始から掃除を行うまでの平均時間が12時間未満であった。
【0093】
[参考例1] ポリエステル樹脂1の調製
250℃にて溶融したビスヒドロキシエチルテレフタレート(以降BHETと記す。)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0094】
エステル化反応器から105質量部(PET100質量部相当)のBHETを溶融状態で重合装置へ仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しマンガン元素として23ppm)、二酸化ゲルマニウム(ポリエステル樹脂の質量に対しゲルマニウム元素として45ppm)を添加した。次いでリン酸(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として19ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル樹脂の質量に対しナトリウム元素として14ppm、リン元素として19ppm)のエチレングリコール溶液を添加した。その後、パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として20ppm)を添加した。なお、二酸化ゲルマニウムは、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド20質量%水溶液に完溶させた後、エチレングリコールを加えたエチレングリコール溶液を使用した。
【0095】
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル樹脂1を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0096】
[参考例2~5、12~17]
ポリエステル樹脂中のゲルマニウム元素、マンガン元素、ナトリウム元素、リン元素の量を表1、表2の通りになるように各成分の添加量を調整した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂2~5、12~17を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1、表2に示す。
【0097】
[参考例6~8]
パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液を添加しないこと、リン元素の量を表1の通りになるように各成分の添加量を変更した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂6~8を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0098】
[参考例9]
パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液を添加後、平均粒径1μmのコロイダルシリカのエチレングリコールスラリーを、シリカの含有量がポリエステル樹脂に対して0.002質量%となる様に添加した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステル樹脂9を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0099】
[参考例10、11]
二酸化ゲルマニウムの代わりに、テトラ-n-ブトキシチタンのエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しチタン元素として10ppm(参考例10))、または三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しアンチモン元素として70ppm(参考例11))を添加した以外は、参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂10、11を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0100】
[参考例18]
酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液を添加しないこと以外は参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂18を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0101】
[参考例19]
リン酸2水素ナトリウム2水和物を添加しないこと以外は参考例1と同様の方法でポリエステル樹脂19を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0102】
[参考例20] 塗布用水溶性ポリエステル樹脂(A)の調製
窒素ガス雰囲気下でジカルボン酸成分としてテレフタル酸88モル部、5-スルホイソフタル酸ナトリウム12モル部、グリコール成分としてエチレングリコール140モル部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を全ジカルボン酸成分100万質量部に対して100質量部添加して、160~240℃で6時間エステル化反応を行った後、反応物が透明になるまで溜出液を除いたのち、220~280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A)を得た。
【0103】
[参考例21] ポリエステルフィルムの製造方法
ポリエステル樹脂原料を真空中160℃で4時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルタで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルタで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムにキャスト速度30m/分で巻き付けて冷却固化せしめ、未延伸フィルムとした。この未延伸フィルムを予熱ロールにて80℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて95℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.1倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。次いで、ワイヤー径0.1mm(#4)のメタリングワイヤーバーを用いて、塗液膜厚さが6μmになるように下記水系塗液を計量し、これを上記一軸延伸フィルムの片側表面に塗布した。
【0104】
<塗液>
ポリエステル樹脂固形分を100質量部としたときに、以下成分を含有する、ポリエステル樹脂固形分換算の濃度が5.0%である水溶液。
参考例20で得られたポリエステル樹脂(A):92.5質量%
メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標)MW12LF):5質量%(固形分換算)
粒径140nmのコロイダルシリカ:2.5質量%。
【0105】
水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してオーブンに運び、オーブン中にて雰囲気温度120℃で乾燥・予熱した。引き続き連続的に120℃の延伸ゾーンで幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向(二軸延伸)フィルムを引き続き230℃の加熱ゾーンで10秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。その後、長手方向と平行にスリットして幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
【0106】
【0107】
【0108】
[実施例1]
参考例1で得られたポリエステル樹脂1を用いて、参考例21の方法にてポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表3に示す。
【0109】
[実施例2~15、比較例1~4]
使用するポリエステル樹脂原料を表3,4の通りとした以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表3,4に示す。なお、実施例6、7、8では、静電印加キャスト性が悪化したため、キャスト速度を20m/分に落としてフィルムを作製したが、工程安定性やフィルムb値としては合格レベルであった。
【0110】
【0111】
本発明により、工程安定性を確保しつつも着色が少ないポリエステルフィルムを提供することができる。本発明にかかるポリエステルフィルムは上記特性に優れるため、高品質が求められるディスプレイ用光学フィルムなどに好適に用いることができる。