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特開2025-23458ポリエステルフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023458
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20250207BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
B32B27/36
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127582
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 篤
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA46
4F071AB18
4F071AB25
4F071AC09
4F071AE05
4F071AF39Y
4F071AF53
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB07
4F071BC01
4F100AA04B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA06
4F100JL14
4F100JL16C
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 本発明は、フィルム製造工程中においてフィルムからのテレフタル酸揮発量を軽減することで、微小なテレフタル酸付着欠点を防止し、高品質かつ生産性に優れたポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することをその課題とする。
【解決手段】 ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、厚さが1μm以上であり、以下の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とする層をS層としたときに、前記基材層の少なくとも一方の最表層が前記S層であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦80ppm (1)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (2)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (3)
アンチモン元素含有量(質量基準)≦5ppm (4)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (5)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、
厚さが1μm以上であり、以下の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とする層をS層としたときに、前記基材層の少なくとも一方の最表層が前記S層であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦80ppm (1)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (2)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (3)
アンチモン元素含有量(質量基準)≦5ppm (4)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (5)
【請求項2】
前記S層が以下(6)を満たす、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (6)
【請求項3】
前記リン元素の少なくとも一部が、リン酸およびリン酸ナトリウムに由来する、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記基材層が、前記S層、前記S層と反対側の最表面に位置する層(S層)を有し、前記S層が、前記(1)~(5)を全て満たす、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記基材層が、前記S層、前記S層と反対側の最表面に位置する層(S層)、及び前記S層と前記S層の間に位置する1層以上の層(I層)からなる、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記I層の少なくとも1層中に、ポリエステル樹脂を主成分とする回収原料を含有する、請求項5に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記回収原料が自己回収原料を含む、請求項6に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記基材層の少なくとも一方の表面上に機能層を有する、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項1または2に記載のポリエステルフィルムを製造する、ポリエステルフィルムの製造方法であって、テレフタル酸揮発量(T)が100ppm未満であるポリエステル樹脂を用いて前記S層を形成する、ポリエステフィルムの製造方法。
ただし、前記テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)である。
【請求項10】
請求項5に記載のポリエステルフィルムを製造する、ポリエステルフィルムの製造方法であって、下記(7)~(9)を全て満たすポリエステル樹脂を用いて、前記S層、前記S層、及び前記I層を形成する、ポリエステルフィルムの製造方法。
Ts<Ti (7)
Ts<Ti (8)
Ti≦350ppm (9)
Ts:前記S層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
Ts:前記S層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
Ti:前記I層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
ただし、前記テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)であり、前記I層が複数層からなる場合は、それらの加重平均値としてテレフタル酸揮発量(T)を算出する。
【請求項11】
前記S層を構成するポリエステル樹脂及び前記S層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値がともに10.0MΩ・cmより高く、かつ前記I層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下である、請求項10に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂からの揮発成分が凝縮・落下することによる微小な付着欠点が少なく、高品質なポリエステルフィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルフィルムの中でも、ポリエチレンテレフタレート(以降PETと記すことがある。)フィルムは、透明性や加工性に優れていることから、特に電子部品やディスプレイ材料を製造する際に使用する工程フィルムとして好適に用いられている。
【0003】
一般に他の部材・製品を製造するための工程材料としてポリエステルフィルムが使用される場合は、その表面上に各種溶融樹脂や樹脂を含む溶液等の材料を積層し、その後の工程にてポリエステルフィルム上に積層した樹脂を固化する等、構造を安定化させた後にポリエステルフィルムを剥離する方法が広く用いられている。当該方法において、ポリエステルフィルムは支持体としての役割と共に、その表面形状を材料表面に転写させ安定な表面状態を形成する役割も果たしている。
【0004】
また、ポリエステルフィルムは、その優れた寸法安定性、耐溶剤性、表面均一性により、各種ディスプレイ用の光学補償フィルムや、積層セラミックコンデンサー(MLCC)に使用されるサブミクロンオーダーの薄膜絶縁層形成用といった非常に高度な品質管理を要求される製品向けの離型フィルム等にも好適に使用されている。特に、これらの用途では、ディスプレイの高精細化やMLCCの小型化・高信頼性への要求が近年ますます強くなってきており、無欠陥フィルムの提供を強く望まれている。特にポリエステルフィルム上に形成される部材表面に致命的な欠陥を誘発しうる、ポリエステルフィルム表面に付着している微小付着異物の改善が喫緊の課題として強く求められている。
【0005】
ポリエステルフィルム表面に付着する異物として最も大きな課題となるのは、ポリエステルフィルムを製造する工程で揮発したテレフタル酸成分が再凝縮し、微小な異物として付着するテレフタル酸欠点である。特にオーブンでの熱結晶化工程にて揮発し、オーブン内壁等での再凝縮を経てフィルム上に付着する欠陥が問題となっている。揮発したテレフタル酸はオーブンのエア循環系を介してあらゆる箇所に付着するため、該欠陥はオーブン内の清掃での完全除去が難しく、その改善は大きな課題となっている。
【0006】
さらに環境負荷低減に対する要求の高まりから、消費エネルギーやCOの発生量を低減するために、フィルムから再生されたリサイクル原料を活用することも必要となってきている。特に工程用フィルムでは、フィルムが最終製品には残らず、製品の製造工程の初期段階で剥離され、フィルムに対する加工度も低い傾向があり、比較的リサイクルしやすい状態で廃棄されることが多い。よって、工程用フィルムに対しては、再利用による環境負荷低減が特に強く求められている。一方で、再利用原料は熱履歴を多く受けていることから、付着テレフタル酸欠点も発生しやすく、環境低減と高品質を両立するフィルムへの期待が高まっている。
【0007】
これら上記の課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。例えば、特許文献1、2では、特定のリン、硫黄元素からなるイオン化合物を添加することで、線状オリゴマーを削減する技術が開示されている。特許文献3では、特定の触媒を用いて、かつ重合完了後に失活処理を施す方法や、共重合成分としてイソフタル酸を含有させる方法が開示されている。特許文献4では、特定のイオン液体を添加することで、テレフタル酸を含む線状オリゴマーを樹脂中に溶解させ、揮発を防止する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2023-15002号公報
【特許文献2】特開2022-89784号公報
【特許文献3】国際公開第2018/092414号
【特許文献4】国際公開第2016/177084号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法では、発生するテレフタル酸量を低減する効果はあるが、上記用途で求められるような高度な品質要求水準には達することが不可能であった。特許文献3に記載の方法は、添加したイオン液体が、テレフタル酸を含む線状オリゴマーを溶解することで、揮発量の抑制を可能とする技術であるが、その効果は十分でなく、所望の品質要求水準を達成することはできなかった。また、特許文献4では、特にイソフタル酸を共重合した場合に、テレフタル酸の発生を効果的に抑止可能であるが、イソフタル酸を共重合すると耐熱性や耐薬品性が悪化するため、工程用フィルムとして必要な特性が阻害される問題があった。また、押出工程でのダイライン抑止には効果を発揮するが、その後の熱結晶工程で揮発するテレフタル酸成分を低減する効果は十分ではなかった。さらに、固有粘度(IV)も高く、高品質な工程用フィルムに必要な高精度濾過を実施することが困難となり、フィルム内部異物を除去できず、内部欠陥が増加すること等も問題であった。
【0010】
本発明は、これらの課題を解決し、フィルム製造工程中においてフィルムからのテレフタル酸揮発量を軽減することで、微小なテレフタル酸付着欠点を防止し、高品質かつ生産性に優れたポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決せんとするものである。すなわち、
[I].ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、厚さが1μm以上であり、以下の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とする層をS層としたときに、前記基材層の少なくとも一方の最表層が前記S層であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦80ppm (1)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (2)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (3)
アンチモン元素含有量(質量基準)≦5ppm (4)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (5)
[II].前記S層が以下(6)を満たす、[I]に記載のポリエステルフィルム。
5ppm≦ゲルマニウム元素含有量(質量基準)≦80ppm (6)
[III].前記リン元素の少なくとも一部が、リン酸およびリン酸ナトリウムに由来する、[I]または[II]に記載のポリエステルフィルム。
[IV].前記基材層が、前記S層、前記S層と反対側の最表面に位置する層(S層)を有し、前記S層が、前記(1)~(5)を全て満たす、[I]~[III]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[V].前記基材層が、前記S層、前記S層と反対側の最表面に位置する層(S層)、及び前記S層と前記S層の間に位置する1層以上の層(I層)からなる、[I]~[IV]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[VI].前記I層の少なくとも1層中に、ポリエステル樹脂を主成分とする回収原料を含有する、[V]に記載のポリエステルフィルム。
[VII].前記回収原料が自己回収原料を含む、[VI]に記載のポリエステルフィルム。
[VIII].前記基材層の少なくとも一方の表面上に機能層を有する、[I]~[VII]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[IV].[I]~[VIII]のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造する、ポリエステルフィルムの製造方法であって、テレフタル酸揮発量(T)が100ppm未満であるポリエステル樹脂を用いて前記S層を形成する、ポリエステフィルムの製造方法。ただし、前記テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)である。
[X].[V]~[VIII]のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造する、ポリエステルフィルムの製造方法であって、下記(7)~(9)を全て満たすポリエステル樹脂を用いて、前記S層、前記S層、及び前記I層を形成する、ポリエステルフィルムの製造方法。
Ts<Ti (7)
Ts<Ti (8)
Ti≦350ppm (9)
Ts:前記S層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
Ts:前記S層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
Ti:前記I層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
ただし、前記テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)であり、前記I層が複数層からなる場合は、それらの加重平均値としてテレフタル酸揮発量(T)を算出する。
[XI]. 前記S層を構成するポリエステル樹脂及び前記S層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値がともに10.0MΩ・cmより高く、かつ前記I層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下である、[X]に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィルム製造工程中においてフィルムからのテレフタル酸揮発量を軽減することで、微小なテレフタル酸付着欠点を防止し、高品質かつ生産性に優れたポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有し、厚さが1μm以上であり、以下の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とする層をS層としたときに、前記基材層の少なくとも一方の最表層が前記S層であることを特徴とする、ポリエステルフィルムである。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦80ppm (1)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (2)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (3)
アンチモン元素含有量(質量基準)≦5ppm (4)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (5)。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする基材層を有する。本発明において、ポリエステル樹脂とはジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繰り返し繋がった分子構造を有する樹脂をいい、ポリエステルフィルムとはポリエステル樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。本発明のポリエステルフィルムに好適に用いることができるポリエステル樹脂の詳細については後述する。主成分とは、対象物中の全構成成分を100質量%としたときに50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。ポリエステル樹脂を主成分とする基材層とは、ポリエステル樹脂を主成分とし、かつ厚みが1μm以上の層をいう(以下、「ポリエステル樹脂を主成分とする基材層」を単に「基材層」ということがある。)。なお、基材層は単層構成であっても積層構成であってもよく、上記要件を満たす層が連続して積層されている場合は、これらの層全体を一つの基材層として扱う。基材層の厚さの上限は特には限定されないが、生産性や使用時の取り扱い性から通常500μm以下である。ポリエステルフィルムを工程用フィルムとして使用する場合は、ポリエステルフィルムの強度、安定性、取り扱い性のバランスから、6μm~188μmが好ましく、12μm~100μmが特に好ましい。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムは、厚さが1μm以上であり、以下の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とする層をS層としたときに、基材層の少なくとも一方の最表層がS層である。なお、ポリエステルフィルムが単層構成である場合、当該層の厚みが1μm以上であり、以下の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とするものであれば、S層を有するものとみなすことができる。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦80ppm (1)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (2)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (3)
アンチモン元素含有量(質量基準)≦5ppm (4)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (5)。
【0016】
このような態様とすることで、ポリエステルフィルム製造工程中でのテレフタル酸成分の揮発を効果的に抑止することが可能となる。S層にあたる層の厚さが1μm未満である場合は、テレフタル酸の揮発抑止効果が不十分となる。
【0017】
また、本発明のポリエステルフィルムは、基材層が、S層、S層と反対側の最表面に位置する層(S層)を有し、S層が、上記(1)~(5)を全て満たす態様とすることも、テレフタル酸の揮発成分をさらに低減することができるため好ましい。上記態様において、ポリエステルフィルムは少なくとも2層(S層とS層)からなる積層構成を有する。なお、以下上記(1)~(5)についてはS層を例に説明するが、特に断りのない限りS層にも適用されるものとする。また、S層はポリエステル樹脂を主成分とすることが好ましく、その組成はS層と同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
ポリエステルフィルムの基材層が2層以上の積層構成となっている場合、S層の厚さの上限は、特には限定されないが、フィルムの生産性、製造コスト、および表面の粗さの制御や接着性の付与等の基材層を積層構成とする目的を鑑みると、10μmであることが好ましい。なお、S層の厚みについても、上記観点から同様に1μm以上であることが好ましい。S層の厚みの上限は特に制限されないが、ポリエステルフィルムの強度、安定性、取り扱い性のバランスから、ポリエステルフィルムの厚みが188μm以下となるように調整することが好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、S層、S層と反対側の最表面に位置する層(S層)、及びS層とS層の間に位置する1層以上の層(I層)からなることが、さらに好ましい。中間層であるI層を含む積層構成とすることで、工程用フィルムとして最も重要なフィルム表面の形状安定性についてはS層およびS層で担保しながら、I層に回収原料を用いたり、生産性を高めるためにキャスト工程での静電印可性を高めたポリエステル樹脂を使用したりできる等、ポリエステルフィルム設計の幅が広がることで、各種ポリエステルフィルムに求められる特性を好適に達成することが可能となる。なお、I層は1層であってもよいし、2層以上の複数層からなってもよい。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの基材層におけるS層は、リン元素を質量基準で15ppm以上80ppm以下含有することが必要である。下限としてより好ましくは20ppm、さらに好ましくは25ppmである。上限として好ましくは60ppm、より好ましくは50ppmである。リン元素量を上記範囲とすることで、ポリエステル樹脂の熱分解を抑制することができるため、加熱時のテレフタル酸揮発量やポリエステルフィルムとしたときの内部異物を低減することが可能となる。リン元素量の測定方法は後述する(他の元素量についても同様である。)。なお、ここで質量基準とは、S層を構成する全成分を基準とすることを意味し、以下同様に解釈することができる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムの基材層におけるS層は、ナトリウム元素を質量基準で4ppm以上40ppm以下含有していることが必要である。上限として好ましくは30ppmであり、より好ましくは20ppmである。ナトリウム元素を上記範囲とすることで、ナトリウム元素に起因する異物の発生が軽減され、かつポリエステル樹脂の熱分解を抑止することで、加熱時のテレフタル酸揮発量を低減することが可能となる。また、ナトリウム元素はリン元素と併用することで、特にポリエステル樹脂の加水分解特性を大幅に低減することができ、加熱時のテレフタル酸揮発量をより効果的に低減することができる。
【0022】
特に、前記ナトリウム元素や前記リン元素については、リン酸およびリン酸ナトリウム塩を用いてなることがポリエステル樹脂の分解抑制の観点から好ましい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいては、S層に含まれるリン元素の少なくとも一部が、リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来することが好ましい。なお、S層にリン酸イオンとナトリウムイオン、またはリン酸ナトリウムが存在する場合、S層に含まれるリン元素が「リン酸とリン酸ナトリウムの少なくとも一方に由来する」ものとみなすものとする。
【0023】
なお、S層のポリエステル樹脂の劣化抑制(耐加水分解)効果を高めるためには、基材層の原料となるポリエステル樹脂にリン酸とリン酸ナトリウム塩を加えることが好ましく、これらの成分の含有量をモル比換算で等量に近づけることがより好ましい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいては、S層がリン酸に由来するリン元素とリン酸ナトリウムに由来するリン元素の両方を含むことが好ましく、より好ましくは両者の量をモル比換算でより等量に近づけることである。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムの基材層におけるS層は、マンガン元素を質量基準で5ppm以上40ppm以下含有していることが必要である。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは30ppmである。マンガン化合物はポリエステル樹脂の熱分解、特に酸素が介在する酸化分解を抑制する効果を有するため、その量を上記下限以上とすることで、ポリエステル樹脂からのテレフタル酸揮発量を低減することが可能となる。ただ、マンガン元素はフィルム延伸工程などのポリエステル樹脂の融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性を有するため、製造工程でのテレフタル酸揮発量の増加を抑止するため、上記上限以下とすることが必要である。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムの基材層におけるS層は、金属元素のトータル含有量が質量基準で14ppm以上100ppm以下であり、好ましくは80ppm以下である。基材層中の金属元素量が100ppmを超えると、溶融押出工程にてポリエステル鎖の切断を促進させるため、3次元構造を有するゲル化物が多発したり、フィルム製造工程においてテレフタル酸の揮発量が増加することで、フィルムの品質を低下させる。また、金属成分自体、あるいは金属成分と他の化学物質との複合体が析出する等により、フィルム中の欠点を増加させる問題もある。また、なお、ここでいう金属元素は、一般的に定義されている金属元素と同義であり、元素の周期表の水素を除く1族、2族~12族のすべての元素、ホウ素を除く第3周期以降の13族、炭素、ケイ素を除く第4周期以降の14族、第5周期以降の15族、第6周期の16族のことをいう。なお、ポリエステルフィルムのS層における金属元素含有量の下限は、マンガン元素、ナトリウム元素の含有量の下限や他に使用しうる金属触媒の必要量から実質14ppmとなる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムの基材層におけるS層は、アンチモン元素の含有量が質量基準で5ppm以下であることが必要であり、好ましくは3ppm以下、より好ましくは含有しないことである。アンチモン化合物は、ポリエステル樹脂の重縮合触媒として広く使用されるが、金属異物としてフィルム中に析出されやすい課題がある。また、触媒として機能させようとすると少なくとも50ppm以上を添加する必要があるが、アンチモン元素量を50ppm以上添加すると、加熱時のテレフタル酸の揮発量が増加する傾向がある。S層はアンチモン元素を全く含まないことが好ましいが、複数種のポリエステルフィルムを同じ製造装置で併産する等、他のポリエステル樹脂で使用される触媒成分のコンタミにより微量混入されることがある。ただし、本発明においては、その含有量を5ppm以下とすることで、ポリエステル樹脂およびポリエステルフィルムの品質への影響を許容内とすることができる。
【0027】
このように上記(1)~(5)を全て満たすS層を有すること(好ましくは、上記(1)~(5)を全て満たすポリエステル樹脂を用いて、上記(1)~(5)を全て満たすS層を形成すること)で、ポリエステル樹脂の熱分解、加水分解、酸化分解のすべてを軽減することが可能となる。その結果、溶融工程や延伸工程、熱結晶化工程など、ポリエステルフィルム製造工程でのポリエステル樹脂の分解を抑制することが可能となる。特に温度が高い溶融工程や熱結晶化工程での分解を軽減することで、ポリエステルフィルム内部に含有するテレフタル酸量を低減することができる。その結果、熱結晶化工程での揮発テレフタル酸量が減少し、ポリエステルフィルム表面の微小なテレフタル酸付着欠陥の発生を抑えることが可能となる。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの基材層におけるS層は、ゲルマニウム元素を質量基準で5ppm以上80ppm以下含有することが好ましい。上限としてさらに好ましくは50ppmである。ゲルマニウム化合物はポリエステル樹脂の重合触媒として利用されるが、その量を上記下限以上とすることで、重縮合反応を遅延なく進行させることが可能となり、かつテレフタル酸の揮発量や、ポリエステルフィルムとしたときの内部異物の発生も軽減できる。また、ゲルマニウム元素は触媒活性に優れており、過剰に存在するとポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解を促進するため上記上限以下とすることが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは、その表面上に形成される機能層との密着性向上や離型性付与、フィルムのすべり性や帯電防止性の付与等を行う目的で、基材層の少なくとも一方の表面上に機能層を有してもよい。これら機能層を積層する方法は特には限定されないが、各種機能層を比較的容易かつ均一に積層できることから、塗布法が好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、前記機能層を形成する塗布方式は、特に限定されない。例えば、フィルムの製造工程とは別工程で、フィルムを巻き出して機能層形成用の塗料組成物を塗布・乾燥することで機能層を形成する、所謂オフラインコーティング法や、押出機により樹脂を押出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなす工程中に機能層形成用の塗料組成物の塗布を行い、塗布フィルムを一気に得る、所謂インラインコーティング法を用いることができる。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムの機能層には、表面のすべり性を向上させ取り扱い性を改善する目的で、滑剤を添加することが好ましい。使用される滑剤は、フィルム特性を阻害しない範囲内で特には限定されないが、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子などの無機粒子や、アクリル粒子、シリコーン粒子、ポリイミド粒子、“テフロン”(登録商標)粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋重合体粒子、コアシェル粒子などの有機粒子が挙げられ、これら粒子のいずれを用いても、あるいは複数種を併用してもよい。これら粒子の数平均一次粒径(以下、単に平均一次粒径ということがある。)は、50~1000nmの範囲内であることが好ましい。ここで平均一次粒径とは、JIS H7008(2002)において単一の結晶核の成長によって生成した粒子と定義される一次粒子の粒子径の平均である。粒子の添加量は、易滑層の厚みや樹脂組成、平均一次粒径、求められる易滑性や用途などによって適切に調節設計されるべきであるが、機能層を形成する成分全体を100質量%としたときに0.05~8質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは0.1~5質量%の範囲内である。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムの機能層形成用の塗料組成物には、滑剤粒子を保持したり、あるいは他の機能層との密着性を改善したり、フィルムから析出するオリゴマーを封止するなどの各種機能を付与するため、既知のポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系などの樹脂や、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤等を、単独および/または複数を混合して用いてもよい。さらには、メラミン系、オキサゾリン系、カルボジイミド系の架橋剤を含有してもよい。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムを工程用フィルムとして使用する場合は、フィルム表面に剥離を容易とする離型層を有することが好ましい。離型機能を発現させる化合物として、一般的にはシリコーン化合物、フッ素化合物、ワックス系化合物などが挙げられるが、成分の一部が転写し、製品を汚染する問題が発生しやすい課題がある。そこで、本発明のポリエステルフィルムにおいては、長鎖アルキル系樹脂を使用することが好ましい。長鎖アルキル系樹脂は、長鎖アルキル基が主骨格に共有結合された樹脂であり、良好な剥離性を付与できる点で好ましい。長鎖アルキル系樹脂を用いた場合、表面自由エネルギーが低い長鎖アルキル基が離型層の表面に偏析し、表面に対し垂直方向に配向、結晶化する。その結果、末端のメチル基が表面に露出し、表面自由エネルギーを低下させることで軽剥離性が発現する。
【0034】
さらに、長鎖アルキル系樹脂は、長鎖アルキル基を有する単位からなるブロック共重合体であることがより好ましい。離型剤が長鎖アルキル基を有する単位からなるブロック共重合体であることで、長鎖アルキル基が配向し易くなる。ブロック共重合体の製造方法としては、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)以外のリビングラジカル重合法であれば特段の制限はなく、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT法)有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)及びヨウ素移動重合法等の交換連鎖機構のリビングラジカル重合法、並びに、ニトロキシラジカル法(NMP法)等の各種重合方法を採用することができる。これらの中でも、重合の制御性と実施の簡便さの観点から、RAFT法及びNMP法が好ましい。
【0035】
長鎖アルキル系樹脂における長鎖アルキル基含有モノマーの、長鎖アルキル基非含有モノマーに対する割合はモル比で50~99%であることが好ましく、より好ましくは60~97%、さらに好ましくは70~95%である。長鎖アルキル基含有モノマーを上記の割合とすることで、離型層形成用の塗料組成物が、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を含む場合、これらの樹脂に対する長鎖アルキル系樹脂の相溶性を高め、均一な離型層を形成することができる。
【0036】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの品質と消費エネルギーやCOの発生量の低減を両立する観点から、I層の少なくとも1層中に、ポリエステル樹脂を主成分とする回収原料を含むことが好ましく、回収原料が自己回収原料を含むことがより好ましい。ここで回収原料とは、製造工程で発生する製品とならなかった部分のポリエステルフィルムや、使用後のポリエステルフィルム若しくはポリエステル成形体を再生したリサイクルポリエステル原料をいう。ポリエステルフィルム由来の回収原料を使用する場合、当該回収原料を用いて同じポリエステルフィルムの基材層を製造することも、別のポリエステルフィルムの基材層を製造することもできる。ポリエステルフィルム由来の回収原料を用いて同じポリエステルフィルムの基材層を製造する場合、当該回収原料を自己回収原料という。なお、回収原料を用いて同じポリエステルフィルムの基材層を製造する場合、回収原料を使用しない場合と組成に微差が生じる可能性はあるが、回収原料の元となるポリエステルフィルムの基材層と、得られるポリエステルフィルムの基材層との組成が質量基準で95%以上同じであれば、両者は「同じポリエステルフィルムの基材層」であると扱うものとする。
【0037】
近年は環境意識の高まりから、消費エネルギーやCOの発生量の低減要請が強く、これらを達成するために、ポリエステルフィルムの基材層にリサイクル原料を活用することが有効である。特に、循環型社会の実現のためには、自身のフィルムから再生されたリサイクル原料、すなわち自己回収原料を用いることが好ましい。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムに係る回収原料おいて、ポリエステルフィルムが表面に機能層を有する場合、異物除去の観点から機能層を除去した後で回収原料とすることが好ましい。機能層を除去したリサイクル原料を使用すると、機能層に含まれる様々な樹脂、添加剤などのポリエステルフィルムの基材層への混入が回避されるため、得られるポリエステルフィルム内部の欠点数の増加が抑えられ、品質上の不具合を軽減できる。すなわち、本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、機能層が設けられたポリエステルフィルムより機能層を除去した回収原料を使用することが、好ましい特徴として挙げられる。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムにおける基材層の主成分であるポリエステル樹脂は、耐熱性を十分に高める点からポリエチレンテレフタレート(PET)であることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分が含まれていてもよい。ポリエチレンテレフタレートとは、主たる構成単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステル樹脂をいい、主たる構成単位とは樹脂の分子鎖を構成する全構成単位を100モル%としたときに、50モル%を超えて含まれる構成単位をいう。なお、以下他のポリエステル樹脂についても主たる構成単位が置き換わる以外は同様に解釈することができる。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムおける基材層は、ポリエステル樹脂を主成分とする限り特に限定されないが、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。ここでいう「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより、得ることができる。なお、長手方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールであれば巻き方向がこれに相当、縦方向ともいう。)をいい、幅方向(横方向ともいう。)とはフィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。
【0041】
次に、本発明に係るポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造方法について記載する。なお、当該ポリエステル樹脂は、基材層がS層やI層を含む場合は、これらの層にも使用することができる。当該ポリエステル樹脂の製造方法は、ジカルボン酸成分またはそのエステルとジオール成分を主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂を製造する原料としては、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、これらは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0043】
ポリエステル樹脂の製造に用いることができるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとしては、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。なお、これらの成分は、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂において、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムに加工しやすいポリエステル樹脂を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルであり、これらは適宜組み合わせて用いることもできる。
【0045】
ポリエステル樹脂の製造に用いることができるジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。
【0046】
これらの成分は単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよく、また、ジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールを用いることもできる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムに加工しやすいポリエステル樹脂を得ることができる点で、ジオールとしてはエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0048】
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸アルキルエステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0049】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル樹脂を得る工程である。
【0050】
また、本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合のいずれも適用が可能である。
【0051】
層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、リン元素、マンガン元素、ナトリウム元素およびゲルマニウム元素を含む化合物は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前に添加することで、ポリエステル樹脂の分解を抑止することができ、さらに異物も少ないポリエステル樹脂を得ることができる。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造方法において、重縮合反応終了前までにリン元素、マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物を添加し、かつその含有量が最終的に得られたポリエステル樹脂に対し、下記式(10)~(12)を満たすことが好ましい。このような態様とすることで、得られるポリエステルフィルムのS層が式(1)~(3)を満たすことが容易となる。なお、ポリエステル樹脂に他の樹脂を混合して基材層を製造する場合は、下記式(10)~(12)において、「ポリエステル樹脂に対する質量比」を「S層(他の層に用いる場合は他の層)製造用のポリエステル樹脂組成物に対する質量比」と読み替えて解釈するものとする。
15ppm≦リン元素含有量(質量基準)≦80ppm (10)
4ppm≦ナトリウム元素含有量(質量基準)≦40ppm (11)
5ppm≦マンガン元素含有量(質量基準)≦40ppm (12)
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂に用いるマンガン元素を含む化合物は特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガンやそれら水和物などが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を込み合わせて用いることも可能である。また、マンガン元素を含む化合物の添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂のジオール成分と同一にすることが好ましい。例えば、PETの場合は溶媒としてエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造に用いるナトリウム元素を含む化合物は特に限定されない。例えば、ナトリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などを用いることができる。耐熱性の点から、ナトリウム元素を含む化合物はリン酸ナトリウム塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが挙げられる。耐熱性の点からリン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸ナトリウム塩を併用しても構わない。
【0055】
また、本発明のポリエステルフィルムのS層に用いるポリエステル樹脂の製造においては、上記リン酸ナトリウム塩と他のリン元素を含む化合物を併用することが好まく、リン酸ナトリウム塩とリン酸とからなる緩衝溶液として混合することが特に好ましい。リン酸ナトリウム塩とリン酸からなる緩衝溶液として添加することで、より良好な耐熱性を発現させることが可能となる。
【0056】
また、上記ナトリウム元素含有量を満たす範囲で、リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、フィルム製造における静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗を小さくすることができ、生産性が向上する。
【0057】
ナトリウム元素を含む化合物を添加する際の形態は、粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0058】
本発明に係るポリエステルフィルムのS層用のポリエステル樹脂の製造方法において、ゲルマニウム元素をポリエステル樹脂の質量に対し含有量が5ppm以上80ppm以下となるように添加することが好ましい。下限として好ましくは10ppmである。また、上限として好ましくは50ppmである。ポリエステル樹脂の製造に用いるゲルマニウム元素を含む化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、これらの化合物は単独で用いることも、複数種を込み合わせて用いることも可能である。
【0059】
なお、本発明に係るポリエステルフィルムのS層用のポリエステル樹脂の製造方法においては、例えばゲルマニウム元素やリン元素は重縮合反応中に留出してしまうことから、上述した元素量になるよう留出分を考慮して添加量を調整することが好ましい。
【0060】
また、本発明に係るポリエステルフィルムのS層用のポリエステル樹脂の製造方法においては、前述したように、アンチモン元素および金属元素含有量が下記式(13)~(14)を満たすように調整することが好ましい。このとき、アンチモン元素は前述した理由で生じる微量のコンタミ等による不可抗力の場合を除き、添加しないことが好ましい。
アンチモン元素含有量(質量基準)≦5ppm (13)
14ppm≦金属元素含有量(質量基準)≦100ppm (14)
本発明に係るポリエステルフィルムのS層用のポリエステル樹脂の製造方法においては、ゲルマニウム元素、マンガン元素およびナトリウム元素を含む化合物の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散できる。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムのS層を構成するポリエステル樹脂の製造方法において、重縮合反応終了後に得られるポリエステル樹脂をさらに失活処理することが好ましい。ゲルマニウム触媒で重縮合反応して得られるポリエステル樹脂においては、熱水などの比較的温和な条件で処理することで、触媒能が失活することが知られている。触媒能を失うことでポリエステル樹脂をその後のフィルム製膜工程に用いた際、重縮合触媒が原因となって発生する熱分解が抑制され、耐熱性に優れたポリエステルフィルムを得ることが可能となる。
【0062】
ポリエステル樹脂の失活処理は、水やリン化合物、アンモニア化合物など種々の溶液にて実施することが可能である。リン化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸メチル、リン酸エチルなどのリン酸エステル類、またリン酸やポリリン酸のようなリン化合物の水溶液や溶液などとポリエステル樹脂との接触が挙げられ、これに限定されない。また、アンモニア化合物としては、トリエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどが挙げられる。これら処理液とポリエステル樹脂を接触させて処理する温度は、20℃以上120℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上100℃以下、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。処理時間は、30分以上24時間以下であることが好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0063】
本発明に係るポリエステル樹脂の製造方法において、第1段目の工程がジカルボン酸とジオールとを用いた(A)エステル化反応を経て製造する場合、エステル化反応後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン元素を含む化合物添加後から、ナトリウム元素を含む化合物を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル樹脂の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いために、リン酸ナトリウム塩を用いた場合、分散しにくく異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。このとき、マンガン元素を含む化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0064】
追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸ナトリウム塩の異物化を抑制できる。
【0065】
また、本発明のS層に用いるポリエステル樹脂の製造においては、高分子量のポリエステル樹脂を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル樹脂を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル樹脂に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。また、失活処理を行う場合は、固相重合を効率よく行うため、固相重合後に行うのが好ましい。
【0066】
ポリエステル樹脂をポリエステルフィルムのS層に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0067】
以下、本発明のポリエステルフィルムのS層を得るためのポリエステル樹脂の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されるものではない。
【0068】
240~260℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0069】
こうして得られたエステル化反応物を重合装置に移送し、マンガン化合物、ゲルマニウム化合物を添加する。その後、エチレングリコールを追加添加し、リン酸、リン酸ナトリウム塩を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0070】
その後、重合装置内の温度を260~300℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂を得る。
【0071】
このようにして得られたポリエステル樹脂は、耐熱性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生するゲル組成物やテレフタル酸などの低分子量体の発生が少なく、特に工程用フィルム用途などの高品質が求められるポリエステルフィルム、すなわち本発明のポリエステルフィルムのS層をはじめ基材層を構成する他の層に、好適に用いることが可能である。
【0072】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について説明する。本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、テレフタル酸揮発量(T)が100ppm未満であるポリエステル樹脂を用いて前記S層を形成することを特徴とする。ただし、前記テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)である。
【0073】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法においては、テレフタル酸揮発量(T)が質量基準で100ppm以下のポリエステル樹脂を用いてS層を形成する。ここで、テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)であり、その測定方法の詳細は後述する。ポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)を質量基準で100ppm以下とすることで、得られるポリエステルフィルムの微小テレフタル酸付着欠点を効果的に抑止することができる。テレフタル酸揮発量(T)は、少なければ少ない程その抑止効果が高く、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。また下限値は特には規定されないが、技術的な観点から5ppm程度となる。テレフタル酸揮発量(T)を上記範囲とするための、ポリエステル樹脂の製造方法は特には限定されないが、例えば、リン元素、ナトリウム元素、マンガン元素、アンチモン元素、ゲルマニウム元素全金属元素量を、前述した様な濃度範囲に調整する方法が、好ましい方法として挙げられる。
【0074】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、ポリエステルフィルムがS層、S層、及びI層を有する場合、下記(7)~(9)を全て満たすポリエステル樹脂を用いて、S層、S層、及びI層を形成する。
Ts<Ti (7)
Ts<Ti (8)
Ti≦350ppm (9)
Ts:S層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
Ts:S層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
Ti:I層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(T)
ただし、テレフタル酸揮発量(T)は、温度290℃で20分間熱処理した際に揮発するテレフタル酸量(質量基準)であり、I層が複数層からなる場合は、それらの加重平均値としてテレフタル酸揮発量(T)を算出する。
【0075】
製造するポリエステルフィルムの基材層が積層構成を有する場合、その両最表層を構成するS層、S層のテレフタル酸揮発量を、中間部分を形成するI層のテレフタル酸揮発量以下となる様に調製することにより、I層を形成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量が高い場合でも、効果的に微小なテレフタル酸付着欠点を抑止することができる。そのため、例えばI層に回収原料を含有したり、他の機能や特性を発現させるために、テレフタル酸揮発量が多いポリエステル樹脂を使用したりすることが可能となる。なお、上記観点から、I層を構成するポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量(Ti)は350ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、さらに好ましくは150ppm以下である。Tiの下限については特に制限はないが、実現可能性の観点から5ppmとなる。なお、TsやTsはTiを下回る限り特に制限されないが、100ppm以下が好ましく、さらに好ましくは80ppm以下である。TsやTsの下限も特に制限されないが、こちらも実現可能性の観点から5ppmとなる。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、ポリエステルフィルムがS層、S層、及びI層を有する場合、S層を構成するポリエステル樹脂及びS層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値がともに10.0MΩ・cmより高く、かつI層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下であることが好ましい。溶融製膜法で得られるポリエステルフィルムの厚みムラに影響する要素の一つとして、基材層を得るための溶融シート状物をキャストドラムで冷却固化する際の静電印加性が挙げられる。この静電印加性は、最終的に得られるポリエステルフィルムの基材層を溶融したときの溶融比抵抗で評価することができ、また、基材層の原料となる溶融したポリエステル樹脂の溶融比抵抗で代替することもできる。
【0077】
溶融比抵抗とは、熱溶融させたポリエステル樹脂の体積抵抗率である。上記観点から、本発明のポリエステルフィルムのI層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値は10.0MΩ・cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは5.0MΩ・cm以下である。I層の溶融比抵抗値が10.0MΩ・cm以下となる場合、キャストドラムでの冷却固化の際に静電印加性が良好となるため、得られるポリエステルフィルムの厚みムラが抑えられる上、製膜速度を高めて生産性を向上させることもできる。また、I層の溶融比抵抗値の下限は特に制限されないが、実現可能性の観点から0.1MΩ・cmとなる。
【0078】
I層の溶融比抵抗値を前記範囲とする方法としては、I層の原料となるポリエステル樹脂中の金属元素含有量やリン元素含有量を前述の好適な範囲とする、当該原料に電気伝導を担う粒子や化合物を添加するなどの方法があるが、これらに限定されない。しかしながら、原料中の金属元素含有量を増加させると、前述の様に、得られるポリエステルフィルムのテレフタル酸揮発量(T)が増加したり、ゲル化物による異物の発生を誘発させることがある。そのため、金属によらないイオン性物質を適用することが好ましく、例えばカチオン性物質としてスルホニウム化合物、ホスホニウム化合物、アンモニウム化合物、イミダゾリウム化合物、ピリジニウム化合物、ピロリジニウム化合物を選択することができ、アニオン性物質として、スルホネート化合物、ホスフェート化合物、サルフェート化合物、アセテート化合物、イミド化合物など選択できる。特にホスホニウム化合物とスルホネート化合物の中和塩が好ましい。
【0079】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、ポリエステルフィルムがS層、S層、及びI層を有する場合、S層を構成するポリエステル樹脂及びS層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値がともに10.0MΩ・cmより高いことが好ましい。S層、S層はポリエステルフィルム基材層の最表層を構成しており、テレフタル酸由来の欠点を減らすには、この層からのテレフタル酸揮発量を低減させることが効果的となる。ポリエステル樹脂の溶融比抵抗値を低減しようとすると、前述のように金属元素を含有させたり、あるいはイオン性物質を添加させることが必要となる。このような手法を用いると、テレフタル酸揮発量(T)が増加したり、あるいは添加したイオン性物質が搬送ロールなどのフィルム製造工程を汚染し、欠陥が発生することがある。S層を構成するポリエステル樹脂及びS層を構成するポリエステル樹脂の溶融比抵抗値をともに10.0MΩ・cmより高く保つことで、上記問題点を軽減することができる。
【0080】
次に本発明のポリエステルフィルムの製造方法を、S層を形成するポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた単層構成のフィルムの場合を例にして説明するが、これに限定されるものではない。
【0081】
層を構成する極限粘度0.5~0.8dl/gのPETペレットを真空乾燥した後、押出機に供給し260~300℃で溶融したのち、フィルタにて異物を除去後、T字型口金よりシート状に押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10~60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化せしめて未延伸PETフィルムを作製する。この未延伸フィルムを70~100℃に加熱されたロール間で縦方向に2.5~5.0倍延伸して一軸延伸フィルムを取得する。なお、PETペレットの一部あるいは全部は、後述する回収原料を含むものを用いてもよい。
【0082】
この一軸延伸フィルムの少なくとも片面に機能層を構成する水系塗剤を塗布する。その後、水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をテンター装置のクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、塗剤を乾燥させた後に70~150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70~150℃の加熱ゾーンで横方向に2.5~5.0倍延伸し、続いて200~240℃の加熱ゾーンで5~40秒間熱処理を施し、100~200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した基材層上に機能層が積層されたポリエステルフィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3~12%の弛緩処理を施してもよい。なお、上記の例では二軸延伸は縦、横逐次延伸を行っているが、延伸は同時二軸延伸で行ってもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。但し、同時二軸延伸の場合は一軸延伸フィルムに水系塗剤を塗布することができないので、インラインコート法を採用する場合は未延伸フィルムに水系塗材を塗布するとよい。
【0083】
その後、クリップで把持した幅方向両端部を得られたポリエステルフィルムより切断除去し、所望の幅に裁断して巻き取る。なお、幅方向両端部の切断除去や所望の幅への裁断は、走行するフィルムを長手方向と平行に切断することが可能な装置、例えば公知のスリッター等で行うことができる。
【0084】
また、回収原料を得るにあたり、ポリエステルフィルムの機能層を除去する方法としては、物理的に表面を掻き取る方法や洗浄剤にて溶解・剥離する方法などが挙げられるが、機能層などの残存を抑え、均一な除去が可能である観点で、後者の洗浄剤を用いた洗浄方法が好ましい。用いる洗浄剤としては、特には限定されないが、ポリエステルフィルムの表面に作用し、部分的に分解することでフィルム上に形成された機能層の効率的な除去が可能となる点で、アルカリ系洗浄剤を用いることが好ましい。アルカリ系洗浄剤としては、無機アルカリ化剤、有機アルカリ化剤のいずれであってもよいが、無機アルカリ化剤の方が除去効率の面で好ましい。
【0085】
無機アルカリ化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属のケイ酸塩などの水溶液が挙げられ、これらは単独で用いても適宜混合して用いてもよい。また、これらの成分による洗浄は複数回実施してもよく、その場合、洗浄剤の種類を適宜変えることもできる。
【0086】
除去工程で使用されるアルカリ水溶液の濃度は、pH10以上とすることが好ましい。例えば、 水酸化ナトリウムの濃度は、一般に0.1質量%以上であれば良いが、0.1~30質量%であることが好ましく、0.4~20質量%であることがより好ましい。濃度が低すぎる場合は、機能層の除去が不十分となったり、除去時間がかかりすぎる等の問題が発生することがある。濃度が高すぎる場合は、ポリエステル基材の分解が過剰に進行する恐れがある。また、アルカリ水溶液の温度は、除去時間の短縮や除去効率向上の観点から50℃以上が好ましく、さらには70℃以上100℃以下である。
【0087】
また、アルカリ化剤のポリエステルフィルムと機能層との界面への浸透を促進する目的で、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類や、ノニオン性、アニオン性、カチオン性等の各種界面活性剤を用いることもできる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエーテル系、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルなどが好ましく用いられる。さらに、フィルム表面へのコロナ放電処理やプラズマ放電処理を事前に施して、親水性を高める方法も、界面剥離を促進する上で効果的である。
【0088】
アルカリ化剤の回収原料中への残存量を低減するために、アルカリ水溶液による洗浄後に水洗を実施することが好ましい。アルカリ化剤が回収原料中に残存した場合、異物量が増加したり、ポリエステル樹脂の劣化を促進し、ゲル化物が増加する場合がある。特に、アルカリ化剤に水酸化ナトリウムを用いた場合、基材層(特にS層、S層)主に中のナトリウム元素残存量に影響を与えるため、特に水洗を実施することが好ましい。
【0089】
ポリエステルフィルムのリサイクル方法としては、回収、粉砕、洗浄したフィルムをそのまま利用する、あるいは再溶融しペレット化して利用する、所謂マテリアルリサイクル法と、モノマーあるいはオリゴマーレベルにまで解重合してから、再び重縮合して再生する所謂ケミカルリサイクル法が挙げられるが、本発明においては特には限定されない。ただし、消費エネルギーやCOの発生量の削減率やリサイクルにかかる費用の観点から、マテリアルリサイクル法が好ましい。本発明のポリエステルフィルムでは、マテリアルリサイクルを繰り返した場合でもテレフタル酸に由来する欠点が少ないポリエステルフィルムを提供することが可能となる。なお、ポリエステル樹脂の固有粘度IVを上昇させる目的で、リサイクル原料に固層重合を施してもよい。
【実施例0090】
次に本発明を、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
[物性の測定法、及び各種特性の評価]
物性の測定及び各種特性の評価は以下の方法により行った。
【0092】
(1)ポリエステル樹脂およびポリエステルフィルム(基材層)におけるゲルマニウム、マンガン、リン、ナトリウム、アンチモン元素、および金属元素の定量
試料1gを白金皿にとり、電熱器で溶融炭化後、電気炉(700℃)にて1.5時間かけて完全に灰化させた。次に灰化物を濃塩酸1mLに溶かし、10%塩酸水溶液となるように純水を加え、測定試料とした。上記の溶液を測定試料として、原子吸光分析法(フレーム:アセチレン-空気、ゲルマニウム元素のみアセチレン-一酸化二窒素)にて定量を行った。なお、原子吸光分光光度計は(株)日立ハイテクサイエンス製「ZA-3300」を使用した。また、機能層を有するポリエステルフィルムの場合は、以下の方法を用いて機能層を除去した後に、測定試料とした。なお、フィルムでのS層、S層に含有している金属成分量を測定するためには、基材表層部からS層、S層のPET樹脂を削り取った試料を用いて測定した。
【0093】
なお、機能層除去前のフィルムにはカリウム元素が含まれていなかったことから、本測定にてカリウム元素が検出された場合は、機能層除去時の残渣由来と判断し、定量の対象から除外した。
【0094】
[機能層の除去]
ポリエステルフィルムを2.0cm角サイズに切断し、7質量%の水酸化カリウム水溶液(pH:14)中に投入し、攪拌しながら温度85℃で1時間洗浄した。洗浄終了後、純水にて10分間の攪拌洗浄を2回実施し機能層を除去した試料を得た。
【0095】
(2)ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mLにポリエステル樹脂又はポリエステルフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/mL)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする。)である。)。
【0096】
(3)ポリエステル樹脂の溶融比抵抗
各層の形成に用いるポリエステル樹脂を180℃で3時間真空乾燥し、次いで290℃にて溶融した。銅版2枚の間に“テフロン”(登録商標)のスペーサーを挟んで電極を作製し、この電極を前記の溶融樹脂中に沈め、電極間に5000V(V)の電圧を加えた時の電圧(V’)を測定し、次式から溶融比抵抗(ρ)を算出した。
ρ(Ω・cm)=V・S・R/(I・V’)
但し、式中において、V:印加電圧(V)、S:電極面積(cm)、R:抵抗体抵抗(Ω)、I:電極間距離(cm)、V’:測定電圧(V)を示す。
【0097】
(4)ポリエステル樹脂のテレフタル酸揮発量
ポリエステル樹脂ペレットを、160℃で8時間、3kPaの減圧下にて真空乾燥を実施した。乾燥した試料をインピンジャーに入れて、窒素気流下、290℃で20分間処理した。発生した揮発成分をメタノールに捕集した後、得られた溶液をエバポレータにて濃縮し、次に孔径0.45μmのディスクフィルターでろ過し試料溶液とした。この試料溶液を高速液体クロマトグラフィー((株)島津製作所製:Nexera)により測定し、テレフタル酸標準溶液から作成した検量線によりポリエステル樹脂の質量に対するテレフタル酸含有量(ppm)を求めた。
【0098】
(5)ポリエステル樹脂の異物評価
ポリエステル樹脂0.1mgを290℃に加熱したホットプレート上でカバーガラス2枚に挟み溶融し、ポリマー薄膜が形成されたプレパラートを作製した。このプレパラートを光学顕微鏡(オリンパス(株)製:BX50、400倍、暗視野)で観察し、観察できるすべての光点を数えた。得られた光点の個数を下記基準により判定し、A、Bを合格、Cを不合格とした。
A:光点が0~5個/0.1mgであった。
B:光点が6~9個/0.1mgであった。
C:光点が10個以上/0.1mgであった。
【0099】
(6)ポリエステルフィルムのテレフタル酸付着異物個数
ポリエステルフィルムを巻き出しながら以下に記載の反射式欠点検出システムを用いて、大きさ100μm以上の欠陥をカメラにて検出した。得られたカメラ画像において、テレフタル酸付着欠点の特徴である、微小な欠陥が集合している形態の欠陥をサンプリングし、フーリエ変換赤外線顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンシフィック(株)製“NICOLET”(登録商標)6700、およびCONTINUμM赤外顕微鏡)にてテレフタル酸と同定できた欠陥個数をカウントし、単位面積(1m)あたりの個数を算出した。
・光源-フィルム間距離 :100mm
・カメラ-フィルム間距離:760mm
・反射角 :15°
・カメラ分解能 :15μm
・検出速度 :10m/分
・検出面積 :100m
得られたテレフタル酸付着欠陥の個数から、下記基準により判定し、A、Bを合格、Cを不合格とした。
A:テレフタル酸付着欠陥が0個/m以上、0.05個/m未満であった。
B:テレフタル酸付着欠陥が0.05個/m以上、0.15個/m未満であった。
C:テレフタル酸付着欠陥が0.15個/m以上であった。
【0100】
(7)ポリエステルフィルムの内部欠陥個数
ポリエステルフィルムの片面側を黒色の油性ペン(寺西化学工業社性マジックインキNo.500黒 M500-T1)にて塗りつぶし、サンプルとした。塗りつぶした面と反対側から、キーエンス社製レーザーマイクロスコープVK-X100を用いて、倍率200倍(接眼レンズ20倍、対物レンズ10倍)にてサンプルの幅方向10mm×長手方向25mmの範囲を観測し、長径サイズが10μm以上の異物の個数を確認した。内部欠陥個数は下記の基準にて評価し、Cを不合格とした。
A:異物個数が10個/250mm以下であった。
B:異物個数が10個/250mmを超えて、30個/250mm以下であった。
C:異物個数が30個/250mmを超えた。
【0101】
[参考例1] ポリエステル樹脂1の調製
250℃にて溶融したビスヒドロキシエチルテレフタレート(以降BHTと記す。)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0102】
エステル化反応器から105質量部(PET100質量部相当)のBHTを溶融状態で重合装置へ仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しマンガン元素として23ppm)、二酸化ゲルマニウム(ポリエステル樹脂の質量に対しゲルマニウム元素として45ppm)を添加した。次いでリン酸(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として19ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル樹脂の質量に対しナトリウム元素として14ppm、リン元素として19ppm)のエチレングリコール溶液を添加した。なお、二酸化ゲルマニウムは、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド20質量%水溶液に完溶させた後、エチレングリコールを加えたエチレングリコール溶液を使用した。
【0103】
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル樹脂1を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0104】
[参考例2] ポリエステル樹脂2の調製
250℃にて溶融したビスヒドロキシエチルテレフタレート(以降BHTと記す。)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0105】
エステル化反応器から105質量部(PET100質量部相当)のBHTを溶融状態で重合装置へ仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂の質量に対しマンガン元素として23ppm)、二酸化ゲルマニウム(ポリエステル樹脂の質量に対しゲルマニウム元素として45ppm)を添加した。次いでリン酸(ポリエステル樹脂の質量に対しリン元素として19ppm)およびリン酸2水素ナトリウム2水和物(ポリエステル樹脂の質量に対しナトリウム元素として14ppm、リン元素として19ppm)のエチレングリコール溶液を添加した後、平均粒径1μmのコロイダルシリカのエチレングリコールスラリーを、シリカの含有量がポリエステル樹脂に対して0.1質量%となる様に添加した。なお、二酸化ゲルマニウムは、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド20質量%水溶液に完溶させた後、エチレングリコールを加えたエチレングリコール溶液を使用した。
【0106】
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル樹脂2を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0107】
[参考例3~8、12~16] ポリエステル樹脂3~8、12~16の調製
ポリエステル樹脂中のゲルマニウム元素、マンガン元素、ナトリウム元素、リン元素の量を表1、表2の通りになるように各成分の添加量を調整した以外は、参考例2と同様の方法でポリエステル樹脂3~8、12~16を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1、表2に示す。
【0108】
[参考例9] ポリエステル樹脂9の調製
二酸化ゲルマニウムの代わりに、テトラ-n-ブトキシチタンのエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しチタン元素として10ppm)を添加した以外は、参考例2と同様の方法でポリエステル樹脂10を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0109】
[参考例10] ポリエステル樹脂10の調製
二酸化ゲルマニウムの代わりに、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリーをポリエステル樹脂組成物の質量に対しアンチモン元素として85ppmとなるように添加したこと、およびマンガン元素、ナトリウム元素、リン元素の量を表2の通りになるように各成分の添加量を調整したこと、リン酸およびリン酸2水素ナトリウム2水和物を添加後、パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しリン元素として20ppm)を添加した以外は、参考例2と同様の方法でポリエステル樹脂10を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0110】
[参考例11] ポリエステル樹脂11の調整
二酸化ゲルマニウムの代わりに、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリーをポリエステル樹脂組成物の質量に対しアンチモン元素として100ppmとなるように添加したこと、およびマンガン元素、ナトリウム元素、リン元素の量を表2の通りになるように各成分の添加量を調整したこと以外は、参考例2と同様の方法でポリエステル樹脂11を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0111】
[参考例17] ポリエステル樹脂17の調製
リン酸およびリン酸2水素ナトリウム2水和物を添加後、パラトルエンスルホン酸とテトラブチルホスホニウムヒドロキシドを等モル混合したエチレングリコール溶液(ポリエステル樹脂組成物の質量に対しリン元素として60ppm)を添加した以外は。参考例2と同様の方法でポリエステル樹脂17を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0112】
[参考例18] 長鎖アルキル系樹脂(X)の調製25mL耐圧ガラス製重合用アンプルに、メタクリル酸メチル(MMA)(関東化学(株)社製)、重合開始剤としてα,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(関東化学(株)社製)、RAFT剤としてクミルジチオベンゾエート(CDB)、および溶媒であるトルエンを、MMA/CDB/AIBN/トルエン=2.92/0.03/0.007/2.27の重量(g)で仕込んだ。次に、アンプル内の混合溶液を凍結脱気法により2回脱気した後、アンプルを密閉して100℃のオイルバス中で18時間加熱し、重合溶液1を得た。次に、アンプル内の反応液に、ドコシルアクリレート、重合開始剤としてAIBN、および溶媒であるトルエンを、ドコシルアクリレート/AIBN/トルエン=1.37/0.003/1.3の重量(g)で加え、凍結脱気を2回行った後、アンプルを密閉して100℃で48時間加熱した。その後、重合溶液1を20倍質量のヘキサンに滴下し、撹拌して固体を析出させた。得られた固体を濾過し、40℃で一晩真空乾燥して炭素数22のアルキル基を有する長鎖アルキル系樹脂(X)を得た。得られた長鎖アルキル系樹脂(X)を以下の様に乳化し、水系樹脂エマルションとした。容量1Lのホモミキサーに375gの水を入れ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル45g、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール30g、長鎖アルキル系樹脂(X)を200g、トルエン150gを順次加えた後、70℃に加熱して均一に撹拌した。この混合液を加圧式ホモジナイザーに移して乳化を行った後、さらに加温下で減圧しトルエンを留去し、長鎖アルキル系樹脂(X)を得た。
【0113】
[参考例19] アクリル樹脂(Y)の調製
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(α)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(β)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、“アートレジン”(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)(γ)を(α)/(β)/(γ)=94/1/5の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(γ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60質量部と、イソプロピルアルコール200質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5質量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱して混合液2を調製し、これを60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、40質量部の混合液1とイソプロピルアルコール50質量部、過硫酸カリウム5質量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25質量%アンモニア水60質量部、及び純水900質量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂(Y)を得た。
【0114】
[参考例20] 回収原料の調製
ポリエステルフィルムを0.5cm~3.0cmのサイズに粉砕し、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(pH:14)中に投入し、攪拌しながら温度85℃で1時間洗浄した。洗浄終了後の粉砕物を水洗、乾燥を実施して洗浄済みのポリエステルフィルム粉砕物を得た。得られた粉砕物を真空ベント付き2軸押出機にて溶融し、口金からストランド状に押出し、水槽にて冷却後カッターにて切断し、リサイクルポリエステルペレット(原料)を得た。
【0115】
[参考例21] ポリエステルフィルムの製造方法
ポリエステル樹脂原料を真空中160℃で4時間乾燥した後、押出機1に供給し285℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルタで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルタで濾過し、溶融したポリエステル樹脂(A)を得た。また、同様方法で乾燥させたポリエステル樹脂原料を押出機2に供給し285℃で溶融押出を行った。その後積層装置にてステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルタで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルタで濾過し、溶融したポリエステル樹脂(B)を得た。次に積層装置を用いて、前記溶融した樹脂を厚さ方向に最表層から順に(A)/(B)/(A)となる様に、厚み比2:34:2で積層し、次いでT字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムにキャスト速度30m/分で巻き付けて冷却固化せしめ、未延伸フィルムとした。この未延伸フィルムを予熱ロールにて80℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて95℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.5倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。次いで、メタリングワイヤーバー(#4)を用いて、下記水系塗液を計量し、これを上記一軸延伸フィルムの片側表面上に、最終の機能層厚みが50nmとなる様に塗布した。
【0116】
<塗液>
それぞれの塗剤の固形分比率が下記となる様に調製した、固形分濃度3.3質量%の塗液。
参考例18で得られた長鎖アルキル系樹脂(X) :25質量%
参考例19で得られたアクリル樹脂(Y) :45質量%
メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標)MW12LF):30質量%(固形分換算)
水系塗剤を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してオーブンに運び、オーブン中にて雰囲気温度120℃で乾燥・予熱した。引き続き連続的に120℃の延伸ゾーンで幅方向に4.0倍延伸した。得られた二軸配向(二軸延伸)フィルムを引き続き230℃の加熱ゾーンで10秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚さ38μmのポリエステルフィルムを得た。なお、本ポリエステルフィルムの厚さ方向の構成は、離型層(機能層)/S層/I層/S層 の順であり、基材層の厚みはS層/I層/S層=2μm/34μm/2μm(合計38μm)であった。なお、基材層が複数の層からなる場合、両側の最表層が、厚さが1μm以上であり、上記の(1)~(5)を全て満たし、かつポリエステル樹脂を主成分とする層である場合は、S層、S層は、任意に決めることが可能である。本参考例21では上記のような場合においては任意にS層を選択し、その表面に機能層を形成した。
【0117】
[実施例1]
表3に記載のポリエステル樹脂組成物を用いて、参考例21の方法にて、ポリエステルフィルム基材の片側表面(S層側表面)に離型層を有するポリエスエルフィルムを得た。なお、I層は、ポリエステル樹脂17とポリエステル樹脂2と自己回収原料を、それぞれ5質量%、45質量%、50質量%とを混合して使用した。ここでいう自己回収原料とは、本ポリエステルフィルムを作成時に不要となったフィルムエッジや巻き芯部分、工程フィルムとして使用後に剥離されたフィルムを、参考例20の方法で、機能層を除去した後にチップ化した回収原料である。得られたポリエステルフィルムの特性を表6に示す。
【0118】
[実施例2~16、比較例1~9]
使用するポリエステル樹脂とポリエステル基材を構成する各層の厚みを表3~5の通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表6~8に示す。なお、ポリエステルフィルムの基材層の構成が、実施例14では押出機1のみを用いた単層構成、実施例11では積層装置にて(A)/(B)の2層、実施例12では、新たに押出機3を用いて実施例1と同様に積層装置を用いて、(A)/(B)/(C)の3層構成とした。また、実施例16では、S層、S層は、ポリエステル樹脂2とポリエステル樹脂11を、それぞれ95質量%と5質量%とを混合して使用した。
【0119】
なお、実施例11,14では、静電印可キャスト性が悪化したため、キャスト速度を20m/分に落としてフィルムを作製したが、品質としては合格レベルであった。また、実施例11,12では離型層を形成した基材表面を構成するS層内に滑剤を有さない事で非常に平滑な離型面を形成でき、高精細なディスプレイ用や層間絶縁層が薄い超小型MLCC用として好適であると共に、S層側表面が滑材粒子により適度なすべり性が付与されることで取り扱い性にも優れていた。さらに実施例12ではS層、S層、I層をそれぞれ独立した原料組成とすることで、中間層であるI層中に自己回収原料を多量に使用した場合でも、微小テレフタル酸付着欠点を低位とすることができ、工程用離型フィルムとして特に優れていた。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明にかかるポリエステルフィルムおよびその製造方法によれば、テレフタル酸付着欠点が少ないクリーンなポリエステルフィルムを得る事ができ、特に、微小な異物でも製品の致命的な欠陥を誘発する様な、高品質なディスプレイ用部材や電子材料用部材を製造する工程で使用される工程用フィルムとして、好適に用いることができる。さらにフィルムを再生した回収原料を用いた場合でも、テレフタル酸の付着を効果的に抑止できるため、近年要求が高まっている高品質な環境負荷低減製品としても好適に使用することができる。