(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023489
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】鉄骨プラズマ切断装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20250207BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20250207BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
E04G23/08 H
B23K10/00 501A
B23K37/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127639
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】西村 淳
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良史
【テーマコード(参考)】
2E176
4E001
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176DD51
4E001AA01
4E001BA04
4E001CA01
(57)【要約】
【課題】機械化により鉄骨部材を専門作業員に頼ることがなく簡単な作業で切断することができ、作業効率を向上させ、作業にかかる時間を低減できる。
【解決手段】建築物の鉄骨梁及び鉄骨柱22を構成する鉄骨部材20をプラズマ切断する鉄骨プラズマ切断装置1であって、切断トーチ50と、床面を走行可能な走行部と、走行部に搭載され、切断トーチ50を鉄骨部材20に沿って移動可能にアーム先端部に設けたアーム部30と、を備える構成の鉄骨プラズマ切断装置を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の鉄骨梁及び鉄骨柱を構成する鉄骨部材をプラズマ切断する鉄骨プラズマ切断装置であって、
走行部に搭載されたアーム部と、
前記アーム部の先端に取り付けられた切断トーチと、を備え、
切断トーチは、鉄骨部材に沿って移動可能に設けられる、鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項2】
前記アーム部によって移動する前記切断トーチの移動速度を、前記鉄骨部材の厚みに応じて制御する制御部を備える、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項3】
前記鉄骨部材に着脱可能に固定するクランプ部を備える、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項4】
前記アーム部は、
前記走行部に支持され走行方向に沿う第1方向に延びる第1アーム部と、
上方から見た平面視で前記第1アーム部に直交する第2方向に延在し、前記第1アーム部の前端にスライド可能に設けられる第2アーム部と、を備え、
前記切断トーチは、前記第2アーム部の先端に設けられ、
前記第1アーム部は、前記第2方向に沿う中心軸回りに回転可能に設けられる、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項5】
前記鉄骨梁の切断時と前記鉄骨柱の切断時で、前記切断トーチの移動パターンが切り替えられる、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項6】
前記切断トーチは、トーチ先端が前記鉄骨部材の切断面との間に一定の距離を確保するガイド部を備え、
前記ガイド部は、前記鉄骨部材に向けて付勢可能に設けられる、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項7】
前記切断トーチによる切断時に生じるドロスに向けてエアーを吹き付けるエアーノズルが設けられる、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項8】
前記エアーノズルは、前記切断トーチの移動方向の前後両側に設けられる、請求項7に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項9】
前記第1アーム部は、左右一対で設けられ、
一対の前記第1アーム部は、前記鉄骨部材を左右両側から挟むように配置可能である、請求項4に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【請求項10】
前記切断トーチは、携帯端末によって遠隔操作で移動可能である、請求項1に記載の鉄骨プラズマ切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨プラズマ切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、老朽化したビルを解体し新築する工事が増加している現状がある。その中には超高層ビルとして建設されたビルも老朽化を理由に解体されるものもあり、現状では解体する対象も高層化している。これまでの解体工事では、中小規模ビルを解体し、超高層ビルに建替える場合が多かった。そのため、解体する対象となるビルは、中小規模ビルが多く、解体方法もバックホーやニブラ等を使用しての作業であり、解体部材は上階から下階に落としている方法が多い。
【0003】
また、近年では上述したように超高層ビルの解体工事の増加や、解体時の環境対策等により、これまでのような中小規模ビルを解体していた構法では対応できなくなっている。こうした状況の中、解体重機を解体階に載せ、コンクリートや鉄骨を細かくした後、それらを下階へ落とすブロック解体方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、ブロック解体は解体部材をブロック状で切り出し、その場では細かく解体せず、ブロックの状態で搬出する方法となる。
【0004】
このようなブロック解体方法では、コンクリートスラブは道路カッター等で切断し、鉄骨部材はガス切断等を用いて切断する。ブロック解体時の鉄骨梁の切断では、コンクリートスラブを道路カッター等で切断した後、スラブの荷重を受けている鉄骨梁をウェブ、下フランジをガス切断等を用いて切断する。このとき、鉄骨梁の上フランジは残した状態にしておき、ブロックで搬出する際に、クレーン等でその部材を玉掛し、吊り込んだ状態になった時点で、上フランジを切断し、解体部材を搬出する。また、鉄骨柱の場合も同様に専門職の作業員によってガス切断等で切断作業を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すような従来のブロック解体方法では、鉄骨梁や鉄骨柱等の鉄骨部材を先行して切断することにより、ブロック搬出時の切断時間を短縮でき、搬出サイクルを早めることができ、施工スピードの向上が期待できる。しかしながら、先行して鉄骨部材を切断する作業も専門職による作業員によって実施されることから、機械化による作業効率の向上が求められており、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、機械化により鉄骨部材を専門作業員に頼ることがなく簡単な作業で切断することができ、作業効率を向上させ、作業にかかる時間を低減できる鉄骨プラズマ切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、建築物の鉄骨梁及び鉄骨柱を構成する鉄骨部材をプラズマ切断する鉄骨プラズマ切断装置であって、走行部に搭載されたアーム部と、前記アーム部の先端に取り付けられた切断トーチと、を備え、切断トーチは、鉄骨部材に沿って移動可能に設けられることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置では、プラズマを発生させる切断トーチを搭載した走行部を鉄骨部材の切断位置の近傍に設置し、アーム部によって切断位置に沿って切断トーチを移動させることで、鉄骨部材をプラズマ切断することができる。このように、ガス切断に比べて切断速度が速いプラズマ切断を行う切断トーチをアーム部によって機械的に移動させることができるので、専門職の切断工による作業を低減することができ、作業効率を向上させることができる。また、プラズマ切断であるので、従来のガス切断のようにエアーの調整、ガスの調整、点火等の作業員による手間のかかる作業や調整が不要となり、効率よく作業を行うことができる。
そのため、本発明では、鉄骨部材を簡単な作業で切断することができ、作業効率を向上させ、作業にかかる時間を低減できる。したがって、鉄骨部材のブロック解体方法に本発明の鉄骨プラズマ切断装置を採用することで、効率よく鉄骨部材をブロック状に切り出して解体することができる。
【0010】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置では、走行部に切断トーチを備えたアーム部を搭載しているので、走行部として例えば昇降機構を有するフォークリフト等を採用することで、アーム部を上下に移動でき、高所で切断トーチを使用することができる。そのため、従来のように足場の設置作業が不要となり、かつ作業員による高所作業もなくなるという利点がある。
【0011】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記アーム部によって移動する前記切断トーチの移動速度を、前記鉄骨部材の厚みに応じて制御する制御部を備えることが好ましい。
【0012】
この場合には、制御部によって鉄骨部材の厚みに応じて切断トーチの移動速度を変更することができる。例えば、鉄骨部材の厚みが大きい場合には、速度を落として切断トーチを移動させて切断する。このように厚みに応じて切断トーチの移動速度を制御することで、効率よく、かつ確実な切断が行える。
【0013】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記鉄骨部材に着脱可能に固定するクランプ部を備えることが好ましい。
【0014】
この場合には、切断する鉄骨部材にクランプ部を固定することで、切断中の切断トーチの振れを抑えることができる。そのため、プラズマを発生させて切断する切断トーチを鉄骨部材の切断位置に沿わせて精度よく移動させることができる。
【0015】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記走行部に支持され前後方向に延びる第1アーム部と、前記第1アーム部の延在方向を中心にして回転可能に設けられる第2アーム部と、を備え、前記切断トーチは、前記第2アーム部の延在方向に沿って移動可能であることが好ましい。
【0016】
この場合には、第2アーム部の回転と、第2アーム部に沿って切断トーチを移動させることで、切断方向に角度を付けた切断や周方向の切断を効率よく行うことができる。すなわち、第1アーム部を固定した状態で第2アーム部の動作によって切断トーチで傾斜方向の切断や周方向の切断を行うことができ、複雑な動作が不要となり、作業効率を向上できる。
【0017】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記鉄骨梁の切断時と前記鉄骨柱の切断時で、前記切断トーチの移動パターンが切り替えられることが好ましい。
【0018】
この場合には、鉄骨部材の鉄骨梁と鉄骨柱の両方における切断位置に対応して切断トーチを移動させて切断を行うことができる。
【0019】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記切断トーチは、トーチ先端が前記鉄骨部材の切断面との間に一定の距離を確保するガイド部を備え、前記ガイド部は、前記鉄骨部材に向けて付勢可能に設けられることが好ましい。
【0020】
この場合には、付勢されたガイド部を鉄骨部材に当接させることで、切断トーチのトーチ先端と鉄骨部材の切断面との間の距離を一定に確保することができる。すなわち、切断トーチに備えたガイド部が切断トーチとともに一体的に移動させることで、切断中のトーチ先端が切断面と常に一定の距離を維持した状態となり、プラズマが失火することなく切断できる。
【0021】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記切断トーチによる切断時に生じるドロスに向けてエアーを吹き付けるエアーノズルが設けられることが好ましい。
【0022】
この場合には、切断時に発生し鉄骨部材の切断部分の隙間に溜まったドロスを吹き付けられるエアーにより吹き飛ばすことができ、前記隙間が確保されて確実な切断を行うことができる。このようにドロスが鉄骨部材の切断部分に溜まることを抑制できるので、切断トーチを上向きにした上向き切断が可能になる。
【0023】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記エアーノズルは、前記切断トーチの移動方向の前後両側に設けられることが好ましい。
【0024】
この場合には、切断トーチを移動方向の前側及び後側のいずれの方向に移動した場合でっても、エアーノズルからドロスに向けてエアーを吹き付けて吹き飛ばすことができる。
【0025】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記第1アーム部は、左右一対で設けられ、一対の前記第1アーム部は、前記鉄骨部材を左右両側から挟むように配置可能であることが好ましい。
【0026】
この場合には、左右両側の切断トーチを使用して鉄骨部材の左右両側から切断を行うことができるので、とくに鉄骨柱等の切断に効果がある。そのため、鉄骨プラズマ切断装置の移設を行うことなく、より効率よく切断作業を行うことができる。
【0027】
また、本発明に係る鉄骨プラズマ切断装置は、前記切断トーチは、携帯端末によって遠隔操作で移動可能であることが好ましい。
【0028】
この場合には、携帯端末を使用して遠隔で鉄骨プラズマ切断装置を容易に操作できる。そのため、切断トーチの移動状態を周囲から確認しながら操作することができるので、制度の高い切断を行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の鉄骨プラズマ切断装置によれば、機械化により鉄骨部材を専門作業員に頼ることがなく簡単な作業で切断することができ、作業効率を向上させ、作業にかかる時間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態による鉄骨プラズマ切断装置を上方から見た平面図である。
【
図2】
図1に示すII線矢視図であって、鉄骨プラズマ切断装置の側面図である。
【
図3】
図1に示すIII線矢視図であって、鉄骨プラズマ切断装置の正面図である。
【
図4】鉄骨プラズマ切断装置によって切断された鉄骨柱の側面図である。
【
図5】鉄骨プラズマ切断装置によって切断された鉄骨柱の水平断面図である。
【
図6】鉄骨梁を鉄骨プラズマ切断装置によって切断する状態を示す鉄骨梁の材軸方向から見た側面図である。
【
図7】
図6に示すVII線矢視図であって、鉄骨梁を鉄骨プラズマ切断装置によって切断する状態を示す平面図である。
【
図8】鉄骨梁を鉄骨プラズマ切断装置によって切断する状態を示す側面図である。
【
図9】鉄骨プラズマ切断装置によって切断された鉄骨梁の側面図である。
【
図10】鉄骨プラズマ切断装置によって切断された鉄骨柱の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態による鉄骨プラズマ切断装置について、図面に基づいて説明する。
【0032】
図1、
図2及び
図3に示すように、本実施形態の鉄骨プラズマ切断装置1は、建築物2の鉄骨梁21及び鉄骨柱22を構成する鉄骨部材20をプラズマ切断し、鉄骨部材20をブロック状に切り出して解体するブロック解体工法に採用される。
【0033】
本実施形態で切り出す鉄骨部材20からなる解体ブロックは、本実施形態の鉄骨プラズマ切断装置1を使用したプラズマ切断と、ガス切断の両方を使用して効率的に行うものである。なお、鉄骨プラズマ切断装置1では、鉄骨部材20を任意の形状、大きさの解体ブロックとして切り出す装置である。
【0034】
本実施形態の鉄骨プラズマ切断装置1は、切断対象となる鉄骨部材20の切断箇所の近傍に取り付けて切断する装置であり、鉄骨梁21と鉄骨柱22の両方を切断可能である。鉄骨プラズマ切断装置1は、不図示の走行部に搭載可能な基台40と、基台40に設けられるアーム部30と、アーム部30の先端に取り付けられた切断トーチ50と、を備えている。切断トーチ50は、鉄骨部材20に沿って移動可能に設けられる。
【0035】
鉄骨プラズマ切断装置1は、鉄骨梁21の切断時と鉄骨柱22の切断時で、切断トーチ50の移動パターンが切り替えることが可能に設けられている。本実施形態の鉄骨梁21は、後述する
図8~
図10に示すように、H形鋼材であり、ウェブ21aに六角形の穴が開いている。鉄骨柱22は、後述する
図4及び
図5に示すように、断面四角形の角型鋼管である。
【0036】
鉄骨プラズマ切断装置1は、不図示の携帯端末によって切断トーチ50を遠隔操作で移動可能に設けられている。あるいは、携帯端末に限定されることはなく、パーソナルコンピュータで遠隔操作することも可能である。
【0037】
基台40は、下面に装着された床面を転動する車輪41を有する。基台40は、走行部から取り外された状態のときに車輪41で自走可能である。基台40は、板状で上方から見た平面視で略長方形状をなし、長手方向を走行部の進行方向に沿う方向(後述する前後方向X1)に向けた状態で配置されている。
【0038】
不図示の走行部としては、例えばフォークリフトを採用できる。この場合、フォークリフトの上下昇降可能な荷取り爪でアーム部30を備えた基台40を保持することで、フォークリフトの床面の走行とともに基台40が所望の位置に移動される。さらに、荷取り爪を昇降させることで、基台40及び切断トーチ50を備えたアーム部30を上下に移動させることができる。
【0039】
ここで、鉄骨プラズマ切断装置1において、基台40の長手方向を前後方向X1とし、切断トーチ50が配置される側を前側、その反対側を後側とする。また、平面視して前後方向X1に直交する方向を左右方向X2とする。さらに、後述する第1アーム部31の延在方向を第1方向J1とし、第1方向J1に直交する方向を第2方向J2とする。本実施形態では、第2方向J2は、左右方向X2と同一方向である。
【0040】
基台40の前部は、鉄骨柱22を囲むように収容する凹部42(
図1参照)が形成されている。凹部42は、上方からみた平面視で前端が開口部となる矩形状の開口である。すなわち、基台40は、凹部42を挟んで左右両側が前方に突出している。
【0041】
アーム部30は、基台40上に装備されている。アーム部30は、基台40に支持され第1方向J1に延びる第1アーム部31と、上方から見た平面視で第1アーム部31に直交する第2方向J2(左右方向X2)に延在し、第1アーム部31の前端部31aにスライド可能に設けられる第2アーム部32と、を備える。
アーム部30は、左右一対で設けられている。一対のアーム部30は、一方を符号30Aで示し、他方を30Bで示している。
【0042】
第1アーム部31は、左右方向X2に沿う中心軸回りに回転可能な回転支持部33を有する。基台40には、支持本体43が固定されている。支持本体43の左右方向X2を向く側面には、回転支持部33が支持されている。第1アーム部31は、回転支持部33に案内されて第1方向J1にスライド可能な案内ガイド31b(
図3参照)を有している。
【0043】
第1アーム部31は、回転支持部33で回転させることで、第1方向J1の向き(角度)を変更可能である。例えば、第1アーム部31の第1方向J1を上下方向に向けて配置することができる(
図8参照)。
【0044】
また、左右一対の第1アーム部31は、第1方向J1を水平に向けた状態で、基台40の前方に突出させることで、鉄骨柱22を左右両側から挟むように配置することができる(
図1参照)。第1アーム部31の前方への突出長は、鉄骨柱22の幅寸法より大きく、第1アーム部31の前端部31aが基台40の凹部42に配置させた状態の鉄骨柱22よりも前側に突出可能な長さに設定されている。すなわち、第2アーム部32が鉄骨柱22の裏側(前側)に回り込むことが可能な状態となる。
【0045】
第1アーム部31の前端部31aには、摺動部材31Aが設けられている。
第2アーム部32は、摺動部材31Aを摺動させる案内レール34を備える(
図6参照)。第2アーム部32の長手方向(第2方向J2)は、第1アーム部31の長手方向(第1方向J1)に対して直交している。
【0046】
第2アーム部32の先端部32aには、切断トーチ50が第2方向J2を中心にして例えば360°の回転角で回転可能に支持されている。切断トーチ50は、第2アーム部32が摺動部材31Aに対して第2方向J2に摺動することで、左右方向X2に移動可能である。
【0047】
また、アーム部30は、鉄骨梁21の下フランジ21bに着脱可能に固定するクランプ部35を備える。クランプ部35は、基台40上の支持本体43から上方に向けて延びる支柱36の上端36aに設けられる。クランプ部35は、下向きの固定クランプ351と、例えばエアーによって駆動することで上下方向に移動可能で、固定クランプ351に対して上下方向に近接離反する可動クランプ352と、を有する。固定クランプ351と可動クランプ352によって鉄骨梁21の下フランジ21bを挟持することで、基台40及びアーム部30が鉄骨梁21に固定される。
【0048】
切断トーチ50は、第2アーム部32の先端部32aに設けられる(
図6参照)。切断トーチ50は、第2アーム部32とともに第2方向J2に沿って移動可能である。切断トーチ50は、例えば、上述した不図示の携帯端末によって遠隔操作し、スイッチのON/OFFで動作させることができる。
【0049】
切断トーチ50は、周知のプラズマ切断機が採用される。すなわち、プラズマ切断機本体のプラス端子ケーブルを母材である鉄骨部材20に接続し、電源をONにすることで、鉄骨部材20の金属と電極となる切断トーチ50との間にプラズマアークを発生させるものである。このとき発生される高温プラズマを熱源とし、切断トーチ50を鉄骨部材20に沿って移動することで、鉄骨部材20が切断される。
【0050】
切断トーチ50は、トーチ先端が鉄骨部材20の切断面との間に一定の距離を確保するガイド部(図示省略)を備える。このガイド部は、鉄骨部材20に向けて付勢可能に設けられる。具体的には、トーチ先端の両端にガイドローラ(図示省略)を有し、トーチ先端、ガイドローラをバネ機構で鉄骨部材20の切断面へ押し当てることにより、トーチ先端と切断鉄骨20との間隔(例えば、2~4mm程度の間隔)を一定に保つことができ、プラズマアークが失火することなく切断できる。
【0051】
また、鉄骨プラズマ切断装置1には、切断トーチ50による切断時に生じるドロスに向けてエアーを吹き付けるエアーノズル(図示省略)が設けられる。このエアーノズルは、切断トーチ50の移動方向の前後両側に設けられることが好ましい。
【0052】
鉄骨プラズマ切断装置1は、アーム部30によって移動する切断トーチ50の移動速度を、鉄骨部材20の厚みに応じて制御する制御部(図示省略)を備える。
【0053】
次に、上述した鉄骨プラズマ切断装置1を使用して鉄骨部材20を切断する方法について説明する。
先ず、鉄骨柱22を切断し、ブロック状に解体する施工手順について説明する。鉄骨柱22は、
図4及び
図5に示すように、水平方向に切断してブロック状の鉄骨柱22を上下方向に分断することで解体される。
【0054】
図1に示すように、鉄骨プラズマ切断装置1を走行部で走行させて、鉄骨柱22の所定の切断高さで周方向に沿って切断トーチ50が自動で移動できるように配置する。すなわち、基台40の凹部42の内側に鉄骨柱22を配置した状態で設置する。次に、左右一対のアーム部30A、30Bのそれぞれの第1アーム部31を前方に向けて移動させ、鉄骨柱22を左右両側から挟み込む。このとき第1アーム部31の前端部31aは、第2アーム部32が鉄骨柱22の裏側に回り込むことが可能な状態となる。
【0055】
次に、
図1に示すように、第1アーム部31及び第2アーム部32のスライド動作と、切断トーチ50の第2アーム部32の先端部32a回りの回転動作を自動で行うことで、
図4及び
図5に示すように鉄骨柱22の四隅の角部22aを水平にプラズマ切断する。
ここで、
図4及び
図5に示す符号Pは鉄骨プラズマ切断装置1を使用したプラズマ切断部を示し、符号Gは作業員によって行うガス切断部を示している。また、
図5に示す矢印Fは、切断トーチ50の移動方向(切断方向)を示している。
【0056】
鉄骨プラズマ切断装置1では、上述した制御部(図示省略)に切断位置、切断距離、鉄骨部材20の厚み等の情報を予め記憶させておくことで、アーム部30と切断トーチ50を制御して自動的に移動させて切断できる。
【0057】
このように鉄骨プラズマ切断装置1を使用し、建築物の鉄骨柱22に沿って切断トーチ50を移動し、鉄骨柱22をプラズマ切断によってブロック状に切断して切り出す。すなわち、鉄骨柱22の各角部22aを切断トーチ50によって水平方向にプラズマ切断しプラズマ切断部Pを形成した後、鉄骨柱22を切り出すブロック状の部位をクレーン等の揚重設備で吊り支持する。
次に、プラズマ切断部P同士の間を水平方向に作業員によってガス切断してガス切断部Gを形成することで、ブロック状の鉄骨柱22を切り出し、吊った状態で搬出することで解体される。
【0058】
次に、鉄骨梁21を切断し、ブロック状に解体する施工手順について説明する。鉄骨梁21は、
図6~
図10に示すように、略上下方向に切断してブロック状の鉄骨梁21を水平方向に分断することで解体される。
【0059】
図6及び
図7に示すように、鉄骨プラズマ切断装置1を走行部で走行させて、鉄骨梁21の所定の切断高さで上下方向に沿って切断トーチ50が自動で移動できるように配置する。すなわち、例えばフォークリフト(走行部)の荷取り爪の上下昇降機能を使用して基台40とともにアーム部30を所定の高さに配置する。次に、支柱36に設けられるクランプ部35を使用して鉄骨梁21の下フランジ21bに固定する。すなわち、クランプ部35の固定クランプ351を下フランジ21bの上側に配置し、可動クランプ352で下フランジ21bを下側から挟持することで、鉄骨プラズマ切断装置1が切断対象の鉄骨梁21に固定される。
【0060】
次に、
図1に示すように、第1アーム部31の回転支持部33による回転動作と、第1アーム部31及び第2アーム部32のスライド動作と、切断トーチ50の第2アーム部32の先端部32a回りの回転動作を自動で行うことで、
図8及び
図9に示すように鉄骨梁21の左右二箇所を斜め上下方向に切断する。すなわち、鉄骨梁21の切断時は、鉄骨梁21の鉛直方向に交差する方向に角度をつけて切断トーチ50を切り上げるように移動させてプラズマ切断する。
ここで、
図9及び
図10に示す符号Pは鉄骨プラズマ切断装置1を使用したプラズマ切断部を示し、符号Gは作業員によって行うガス切断部を示している。また、
図10に示す矢印Fは、切断トーチ50の移動方向(切断方向)を示している。
【0061】
このように鉄骨プラズマ切断装置1を使用し、建築物の鉄骨梁21に沿って切断トーチ50を移動し、鉄骨梁21をプラズマ切断によってブロック状に切断して切り出す。すなわち、鉄骨梁21の切断する左右二箇所において、鉄骨梁21の上部を残して切断トーチ50によって切り上げるようにしてプラズマ切断しプラズマ切断部Pを形成した後、鉄骨梁21を切り出すブロック状の部位をクレーン等の揚重設備で吊り支持する。
次に、プラズマ切断部Pの上部を作業員によって切り上げるようにガス切断してガス切断部Gを形成することで、ブロック状の鉄骨梁21を切り出し、吊った状態で搬出することで解体される。
【0062】
次に、上述した鉄骨プラズマ切断装置1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による鉄骨プラズマ切断装置1では、建築物の鉄骨梁21及び鉄骨柱22を構成する鉄骨部材20をプラズマ切断する。鉄骨プラズマ切断装置1は、走行部に搭載されたアーム部30と、アーム部30の先端に取り付けられた切断トーチ50と、を備え、切断トーチ50は、鉄骨部材20に沿って移動可能に設けられる。
【0063】
また、本実施形態では、プラズマを発生させる切断トーチ50を搭載した走行部を鉄骨部材20の切断位置の近傍に設置し、アーム部30によって切断位置に沿って切断トーチ50を移動させることで、鉄骨部材20をプラズマ切断することができる。このように、ガス切断に比べて切断速度が速いプラズマ切断を行う切断トーチ50をアーム部30によって機械的に移動させることができるので、専門職の切断工による作業を低減することができ、作業効率を向上させることができる。また、プラズマ切断であるので、従来のガス切断のようにエアーの調整、ガスの調整、点火等の作業員による手間のかかる作業や調整が不要となり、効率よく作業を行うことができる。
そのため、本実施形態では、鉄骨部材20を簡単な作業で切断することができ、作業効率を向上させ、作業にかかる時間を低減できる。したがって、鉄骨部材20のブロック解体方法に本発明の鉄骨プラズマ切断装置1を採用することで、効率よく鉄骨部材20をブロック状に切り出して解体することができる。
【0064】
また、本実施形態では、走行部に切断トーチ50を備えたアーム部30を搭載しているので、走行部として例えば昇降機構を有するフォークリフト等を採用することができる。フォークリフトの場合には、アーム部30を上下に移動でき、高所で切断トーチ50を使用することができる。そのため、従来のように足場の設置作業が不要となり、かつ作業員による高所作業もなくなるという利点がある。
【0065】
また、本実施形態では、アーム部30によって移動する切断トーチ50の移動速度を、鉄骨部材20の厚みに応じて制御する制御部を備える。
そのため、制御部によって鉄骨部材20の厚みに応じて切断トーチ50の移動速度を変更することができる。例えば、鉄骨部材20の厚みが大きい場合には、速度を落として切断トーチ50を移動させて切断する。このように厚みに応じて切断トーチ50の移動速度を制御することで、効率よく、かつ確実な切断が行える。
【0066】
また、本実施形態では、鉄骨部材20に着脱可能に固定するクランプ部35を備える。
そのため、切断する鉄骨部材20にクランプ部35を固定することで、切断中の切断トーチ50の振れを抑えることができる。そのため、プラズマを発生させて切断する切断トーチ50を鉄骨部材20の切断位置に沿わせて精度よく移動させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、走行部に支持され前後方向に延びる第1アーム部31と、第1アーム部31の延在方向を中心にして回転可能に設けられる第2アーム部32と、を備え、切断トーチ50は、第2アーム部32の延在方向に沿って移動可能である。
そのため、第2アーム部32の回転と、第2アーム部32に沿って切断トーチ50を移動させることで、切断方向に角度を付けた切断や周方向の切断を効率よく行うことができる。すなわち、第1アーム部31を固定した状態で第2アーム部32の動作によって切断トーチ50で傾斜方向の切断や周方向の切断を行うことができ、複雑な動作が不要となり、作業効率を向上できる。
【0068】
また、本実施形態では、鉄骨梁21の切断時と鉄骨柱22の切断時で、切断トーチ50の移動パターンが切り替えられる。
そのため、鉄骨部材20の鉄骨梁21と鉄骨柱22の両方における切断位置に対応して切断トーチ50を移動させて切断を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、切断トーチ50は、トーチ先端が鉄骨部材20の切断面との間に一定の距離を確保するガイド部を備え、ガイド部は、鉄骨部材20に向けて付勢可能に設けられる。
そのため、付勢されたガイド部を鉄骨部材20に当接させることで、切断トーチ50のトーチ先端と鉄骨部材20の切断面との間の距離を一定に確保することができる。すなわち、切断トーチ50に備えたガイド部が切断トーチ50とともに一体的に移動させることで、切断中のトーチ先端が切断面と常に一定の距離を維持した状態となり、プラズマが失火することなく切断できる。
【0070】
また、本実施形態では、切断トーチ50による切断時に生じるドロスに向けてエアーを吹き付けるエアーノズルが設けられる。
そのため、切断時に発生し鉄骨部材20の切断部分の隙間に溜まったドロスを吹き付けられるエアーにより吹き飛ばすことができ、隙間が確保されて確実な切断を行うことができる。このようにドロスが鉄骨部材20の切断部分に溜まることを抑制できるので、切断トーチ50を上向きにした上向き切断が可能になる。
【0071】
また、本実施形態では、エアーノズルは、切断トーチ50の移動方向の前後両側に設けられることで、切断トーチ50を移動方向の前側及び後側のいずれの方向に移動した場合であっても、エアーノズルからドロスに向けてエアーを吹き付けて吹き飛ばすことができる。
【0072】
また、本実施形態では、第1アーム部31は、左右一対で設けられ、一対の第1アーム部31は、鉄骨部材20を左右両側から挟むように配置可能である。
このような構成により、左右両側の切断トーチ50を使用して鉄骨部材20の左右両側から切断を行うことができるので、とくに鉄骨柱等の切断に効果がある。そのため、鉄骨プラズマ切断装置1の移設を行うことなく、より効率よく切断作業を行うことができる。
【0073】
また、本実施形態では、切断トーチ50は、携帯端末によって遠隔操作で移動可能である。そのため、携帯端末を使用して遠隔で鉄骨プラズマ切断装置1を容易に操作できる。そのため、切断トーチ50の移動状態を周囲から確認しながら操作することができるので、制度の高い切断を行うことができる。
【0074】
上述のように本実施形態による鉄骨プラズマ切断装置1では、機械化により鉄骨部材20を専門作業員に頼ることがなく簡単な作業で切断することができ、作業効率を向上させ、作業にかかる時間を低減できる。
【0075】
以上、本発明による鉄骨プラズマ切断装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0076】
例えば、本実施形態では、鉄骨梁21と鉄骨柱22を切断し、ブロック状に解体する場合について説明したが、これに限定されることはなく、鉄骨梁21及び鉄骨柱22の少なくとも一方のみを鉄骨部材20とする建築物にも適用とすることができる。また、本実施形態のように、鉄骨梁21のウェブ21aに穴が開いていなくても適用できる。
さらに、梁や柱に限定されず、例えばH形鋼材を含む構造物の切断、解体に本実施形態の鉄骨プラズマ切断装置1を使用することも勿論可能である。
【0077】
また、本実施形態では、走行部としてフォークリフトを一例として示したが、フォークリフトに限定されることはなく、他の走行機械であってもよい。例えば、上述した基台40自体が走行部であってもよい。
【0078】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 鉄骨プラズマ切断装置
20 鉄骨部材
21 鉄骨梁
22 鉄骨柱
30、30A、30B アーム部
31 第1アーム部
32 第2アーム部
33 回転支持部
35 クランプ部
40 基台
50 切断トーチ
P プラズマ切断部
G ガス切断部
X1 前後方向
X2 左右方向
J1 第1方向
J2 第2方向