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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023494
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】柑橘果汁含有飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20250207BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20250207BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20250207BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/02 B
A23L2/52 101
A23L2/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127650
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】高岸 知輝
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LE10
4B117LG02
4B117LG05
4B117LK06
4B117LK08
4B117LK09
4B117LK12
4B117LL01
4B117LL02
4B117LP01
4B117LP02
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】柑橘果汁含有飲料において、すっきり感および後味を改善することができる新規な技術を提供する。
【解決手段】 柑橘果汁由来の果汁率が30%以下であり、クエン酸酸度が0.40g/100ml以上であり、(A)イソ酪酸エチルを含有し、その含有量が10~10000ppbであるか、およびび/または(B)ヘキサン酸アリルを含有し、その含有量が10~500ppbである柑橘果汁含有飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘果汁由来の果汁率が30%以下であり、クエン酸酸度が0.40g/100ml以上であり、以下の(A)および/または/または(B)を満たす、柑橘果汁含有飲料。
(A) イソ酪酸エチルを含有し、その含有量が10~10000ppbである。
(B) ヘキサン酸アリルを含有し、その含有量が10~500ppbである。
【請求項2】
前記柑橘果汁がレモン果汁である、請求項1に記載の柑橘果汁含有飲料。
【請求項3】
クエン酸酸度が0.40g/100ml以上である柑橘果汁含有飲料において、
柑橘果汁由来の果汁率を30%以下とするとともに、
その含有量が10~10000ppbとなるようにイソ酪酸エチルを含有させる、および/または/またはその含有量が10~500ppbとなるようにヘキサン酸アリルを含有させることを含む、すっきり感および後味の改善方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柑橘類由来の果汁を含む飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から柑橘類などの果汁を含む飲料(柑橘果汁含有飲料)が広く親しまれている(例えば特許文献1)。該飲料においては消費者の多様な好みに応えるために果汁率やクエン酸酸度の異なる飲料が販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-167171号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、柑橘果汁含有飲料において、すっきり感および後味を改善することができる新規な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、柑橘果汁含有飲料においてクエン酸酸度を0.40g/100ml以上とする場合に、飲料を飲んだときに感じられるすっきり感が低下し、後味についても評価が低下することに気が付いた。
鋭意研究の結果、本発明者は、柑橘果汁由来の果汁率が30%以下である飲料とし、併せてイソ酪酸エチル及び/またはヘキサン酸アリルを所定の含有量で含有させることで、すっきり感を高めることができ、且つ後味についても評価を高めることができることを見出した。
【0006】
なお、本明細書において、すっきり感とは、飲料を口に含んだときに感じる味や飲んだ後に感じる味(後味)についての感覚である。飲料を口に含んだときに感じる味および/または後味がより淡泊と感じられたり、また、後味がより早くなくなったりする場合に、すっきり感がより感じられるようになる(すっきり感の改善)。
また、後味の改善とは、後味がより良くなること(より高い評価が得られること)を意味する。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
柑橘果汁由来の果汁率が30%以下であり、クエン酸酸度が0.40g/100ml以上であり、以下の(A)および/または(B)を満たす、柑橘果汁含有飲料。
(A) イソ酪酸エチルを含有し、その含有量が10~10000ppbである。
(B) ヘキサン酸アリルを含有し、その含有量が10~500ppbである。
[2]
前記柑橘果汁がレモン果汁である、[1]に記載の飲料。
[3]
クエン酸酸度が0.40g/100ml以上である柑橘果汁含有飲料において、
柑橘果汁由来の果汁率を30%以下とするとともに、
その含有量が10~10000ppbとなるようにイソ酪酸エチルを含有させる、および/またはその含有量が10~500ppbとなるようにヘキサン酸アリルを含有させることを含む、すっきり感及び後味の改善方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柑橘果汁含有飲料において、すっきり感および後味を改善することができる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。本実施形態は柑橘果汁含有飲料に関する。
【0010】
本明細書において柑橘果汁含有飲料とは、柑橘類の果汁を原料として配合した飲料を意味する。
本明細書において、柑橘類の果汁(柑橘果汁)とは、柑橘類を破砕して搾汁したり、あるいは裏ごししたりするなどして得られる液体成分をいう。また、柑橘果汁には、当該液体成分を濃縮したものや、これらの希釈還元物も含まれる概念である。さらに、本実施形態に係る柑橘果汁は、パルプ分を含むもの、または、ろ過や遠心分離等の処理によりパルプ分を除去したもののいずれであってもよい。
【0011】
本明細書において柑橘類とは、ミカン科ミカン亜科に属する植物の果実を意味する。具体的な柑橘類としては、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、ブラッドオレンジなどのオレンジ類、うんしゅうみかん、マンダリンオレンジ、ぽんかん、紀州みかん、アンコール、ダンゼリン、コウジ、シークワーサー、タチバナ、不知火などのみかん類、ナツダイダイ、はっさく、ヒュウガナツ、サンボウカン、河内晩柑、キヌカワ、ナルトなどの雑柑類、タンカン、いよかん、マーコット、清見、オーランド、ミネオラ、セミノール等のタンゴール・タンゼロ類、メキシカンライム、タヒチライム等のライム類、リスボンレモン、ユーレカレモン、ディアマンテ、エトローグ等のレモン類、バンペイユ、土佐ブンタン等のブンタン、ダンカン、マーシュ、トムソン、ルビーレッド等のグレープフルーツ類、ゆず、カボス、スダチ、ハナユ、キズ等のユズ類、キンカン、カラタチが挙げられる。このうち、本発明の構成を適用することですっきり感および後味をより改善することができるため、柑橘果汁としてレモン(レモン類)由来の果汁が含有されることが好ましい。
本実施形態に係る柑橘果汁の調製に用いることのできる柑橘類について、その品種、産地、熟度、大きさなどは特に限定されず、適宜設定することができる。また、柑橘果汁として市販のジュースや濃縮ジュース、ペーストなどを用い、本実施形態の柑橘果汁含有飲料を調製するようにしてもよい。具体的には、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)で指定されたジュースや濃縮ジュースを挙げることができ、例えばこれらのうち1種または2種以上を本実施形態の柑橘果汁含有飲料調製のために用いることができる。
【0012】
本実施形態の柑橘果汁含有飲料において、柑橘果汁由来の果汁率は30%以下である。また、本実施形態の柑橘果汁含有飲料において、クエン酸酸度は0.40g/100ml以上である。
【0013】
本明細書において、果汁率(果汁含有率)とは、果実等の食用部分を搾汁して得られ、濃縮等の処理を行っていない搾汁(ストレート果汁)の糖度(Brix値、Bx)またはクエン酸酸度(酸度ともいう)を100%としたときの、相対濃度である。
また、本明細書において糖度は、JAS規格に基づき、試料の温度(液温度)20℃における糖用屈折計の示度をいう。糖度の測定は、公知の方法、装置を用いて行うことができる。
また、クエン酸酸度は、100g中に含まれる有機酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100g)で表すことができる。酸度もまた、JAS規格の酸度測定法で定められた方法、具体的には0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定できる。
果汁率を糖度または酸度のいずれに基づいて算出するかはJAS規格に基づき果物の種類ごとに定められている。例えば、レモンは酸度に基づいて算出する。果汁含有率をJAS規格のBrix値に基づいて換算する場合、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖度は除いて算出される。
例えば、レモンについてはストレート果汁の酸度が4.5%であるから、酸度が22.5%の濃縮レモン果汁を飲料中約0.2重量%配合した場合、1%の果汁率の飲料を得ることができる。
【0014】
本実施形態の柑橘果汁含有飲料における柑橘果汁に由来する果汁率は上述のとおり30%以下である。また、柑橘果汁由来の果汁率の下限値については果汁が含まれる限り特に限定されないが、柑橘果汁がレモン果汁である場合には、レモン果汁由来の味わいがより感じられるという観点から1%以上であることが好ましい。
また、本実施形態の柑橘果汁含有飲料における酸度は上述のとおり0.40g/100ml以上である。なお、酸度の上限値については特に限定されないが、1g/100ml以下であることが好ましい。
【0015】
本実施形態の柑橘果汁含有飲料は、その含有量が10~10000ppbであるイソ酪酸エチル(Ethyl isobutyrate, Ethyl 2-methylpropanoate)、及び/またはその含有量が10~500ppbであるヘキサン酸アリル(Allyl hexanoate, 2-Propenyl n-hexanoate)を含有する。
【0016】
イソ酪酸エチル、およびヘキサン酸アリルの含有量を調整する方法は特に限定されず、例えば市販品を用いて飲料製造過程において添加を行うなどすればよい。
また、飲料におけるイソ酪酸エチル、およびヘキサン酸アリルの含有量の測定は例えばガスクロマトグラフィー質量分析法によって行うことができる。測定は例えば以下のような条件に基づいて行うことができる。
【0017】
具体的には、GERSTEL社製MPSを用いるDHS(Dynamic HeadSpace)法により、GC/MS測定に供し、以下に示す条件で測定を行うことができる。
<装置>
GC:Agilent Technologies社製 8890
MS:Agilent Technologies社製 5977B MSD
HS:Gerstel社製MPS,
TUBE:Carbopack B/X
<使用カラム>
HP-INNOWAX 0.250mm×60m×0.25μm
<定量イオン>
イソ酪酸エチル m/z=116
ヘキサン酸アリル m/z=99
<温度条件>
40℃(5min)→+5℃/min昇温→240℃(0min)
<キャリアガス流量>
He 2ml/分
<注入法>
スプリットレス
<イオン源温度>
230℃
【0018】
本実施形態の柑橘果汁含有飲料においては、本発明の目的を達成できる範囲で果汁や上記2成分のいずれか以外に加えて他の成分を含むようにしてもよく、特に限定されない。
具体的には、柑橘類以外の果物に由来する果汁、野菜汁、食塩、糖類や高甘味度甘味料などの甘味料、酸味料、香料、ビタミン、着色料、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定化剤、増粘剤などを挙げることができる。
また、本実施形態の柑橘果汁含有飲料はエタノールなどのアルコールを含有する飲料であってもよく、また、アルコールを実質的に含有しない飲料(具体的には、アルコールの含有量が1.0体積/体積%未満の飲料)であってもよい。
また、本実施形態の柑橘果汁含有飲料は炭酸ガスを含有する炭酸飲料であってもよい。炭酸ガスのガスボリュームは特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
また、本実施形態に係る柑橘果汁含有飲料においてpHは特に限定されず、例えばpH3.0~4.0、好ましくはpH3.0~3.5とすることができる。
【0019】
本実施形態の柑橘果汁含有飲料の製造方法は特に限定されず、当業者が常法により製造することができる。
例えば、まず、柑橘類の濃縮果汁を原料として用い、これを水で希釈するとともに必要に応じ酸味料等を添加するなどして、選定された30%以下の果汁率および選定された0.40g/100ml以上の酸度となるようにする。次いで、イソ酪酸エチルをその含有量が10~10000ppbとなるように添加するか、及び/またはヘキサン酸アリルをその含有量が10~500ppbとなるように添加し、さらにその他必要に応じて加えられる成分を添加するなどして柑橘果汁含有飲料を調製する。
添加する順序などは特に限定されず、当業者が適宜設定できる。また、イソ酪酸エチル、およびヘキサン酸アリルは、単独の成分として添加されてもよいほか、他の成分とともに組成物として添加されるようにしてもよい。また、本実施形態の柑橘果汁含有飲料を炭酸飲料とする場合、上記希釈において炭酸水を用いる方法のほか、容器に充填する前に所定のガスボリュームになるようにカーボネーションを行うことにより炭酸飲料とすることもできる。
【0020】
製造された本実施形態の柑橘果汁含有飲料は、特に限定されないが、例えば容器に封入された容器詰飲料とすることができる。
容器への封入方法などは特に限定されず、例えば常法に従って行うことができる。
容器も公知のものを適宜選択して用いることができ、素材や形状など特に限定されない。容器の具体例としては、例えば、紙容器、透明又は半透明のビン、PETボトル等の透明又は半透明のプラスチック容器、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶などが挙げられる。
また、容器詰飲料とするにあたり、必要に応じて殺菌等の工程を経て製造することができる。殺菌する方法は特に限定されず当業者が適宜設定でき、例えば、飲料を容器に充填した後に熱水シャワー殺菌等の加熱殺菌を行う方法や、飲料を殺菌してから容器に充填する方法などを挙げることができる。
【0021】
以上、本実施形態によれば、酸度が0.40g/100ml以上である柑橘果汁含有飲料の、飲んだときに感じられるすっきり感と後味の良さを改善することができる。その結果、嗜好性を高めて飲料の商品価値の向上に寄与することが期待できる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
[ベース液の調製]
表1に示す原料を配合し、所定の量まで加水をした後加熱殺菌し、容器詰飲料を得た。
表1に示す含有量は調製後の飲料における値である。
なお、果汁中の香気成分量を分析したが、各香気成分(イソ酪酸エチル、ヘキサン酸アリル)は極微量(数ppb程度)しか含まれていなかった。

【0024】
【表1】
【0025】
[参考試験]
表1に記載のベース液1~6を、パネリスト5名に分量評定法を用いて評価させた。その評点の平均値を表2に示す。
各パネリストは、各項目を7段階で評価した(数字が大きいほどすっきり感、後味について評価が高い)。また、べース液1を対照(各項目の表点4)とした。
【0026】
評価基準:
すっきり感
評点7:基準と比較して非常に強く感じる
評点6:基準と比較して強く感じる
評点5:基準と比較してやや感じる
評点4:基準
評点3:基準と比較してやや弱く感じる
評点2:基準と比較して弱く感じる
評点1:基準と比較して非常に弱く感じる
後味の良さ
評点7:基準と比較して非常に良い
評点6:基準と比較して良い
評点5:基準と比較してやや良い
評点4:基準
評点3:基準と比較してやや悪い
評点2:基準と比較して悪い
評点1:基準と比較して非常に悪い
【0027】
【表2】
【0028】
上記表2に示す結果から理解できるとおり、酸度0.40g/100ml以上で「すっきり感」および「後味の良さ」の評価点が下がるような結果となった。
【0029】
[試験1]
表1に記載のベース液5に表3に記載の濃度になるようにイソ酪酸エチルまたはヘキサン酸アリルを添加した飲料について、参考試験と同様の評価を行った。対照(各項目の表点4、対照例2)はベース液5とした。評点の平均値を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
表3から理解できるとおり、イソ酪酸エチルを10~10000ppb、またはヘキサン酸アリルを10~500ppb含有する実施例の柑橘果汁含有飲料においてすっきり感、後味の改善が認められた。
【0032】
[試験2]
表1に記載のベース液7、8に対してイソ酪酸エチルまたはヘキサン酸アリルを表4に記載の濃度で添加した飲料について参考試験と同様の評価を行った。対照(各項目の表点4)はベース液5(対照例2)、ベース液7(対照例3)、ベース液8(対照例4)とした。評点の平均値を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
表4から理解できるとおり、実施例の柑橘果汁含有飲料においてすっきり感、後味の改善が認められた。
【0035】
[試験3]
表1に記載のベース液9、10に対してイソ酪酸エチルまたはヘキサン酸アリルを表5に記載の濃度になるように添加した飲料について参考試験と同様の評価を行った。対照(各項目の表点4)はベース液9(対照例5)、ベース液10(対照例6)とした。評点の平均値を表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
表5から理解できるとおり、実施例の柑橘果汁含有飲料においてすっきり感、後味の改善が認められた。