(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023505
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250207BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127673
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】須田 好紀
(72)【発明者】
【氏名】新里 剛
(72)【発明者】
【氏名】丸山 翔也
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC33
3D232CC37
3D232CC38
3D232DA02
3D232DA15
3D232DA63
3D232DC09
3D232DD10
3D232DD17
3D232DE09
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CD57
3D333CE31
3D333CE36
3D333CE39
(57)【要約】
【課題】操舵トルクを第1及び第2トルクセンサで検出し、操舵補助力を付与するモータの回転角を第1及び第2回転角センサで検出し、第1トルクセンサと第1回転角センサが共通の電源を共用し、第2トルクセンサと第2回転角センサが共通の電源を共用する電動パワーステアリング装置において、これらセンサのいずれかの異常を検知した場合に、モータの制御に使用するセンサを円滑に切り替える。
【解決手段】切替制御部(26、32、35、36、44、45)は、第1トルクセンサ10a又は第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した場合に、モータ制御部25がモータ11の駆動制御に使用する被選択操舵トルクTh及び被選択回転角θmを、第1操舵トルクTh1及び第1回転角θm1から第2操舵トルクTh2及び第2回転角θm2にそれぞれ切り替えた後に、第1電源20をオフにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵軸に加わる操舵トルクを各々検出する第1トルクセンサ及び第2トルクセンサと、
前記車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータと、
前記モータのモータ回転軸の回転角を各々検出する第1回転角センサ及び第2回転角センサと、
前記第1トルクセンサが検出した第1操舵トルク及び前記第2トルクセンサが検出した第2操舵トルクのうちの選択された一方である被選択操舵トルクと、前記第1回転角センサが検出した第1回転角及び前記第2回転角センサが検出した第2回転角のうちの選択された一方である被選択回転角と、に基づいて前記モータを駆動制御するモータ制御部と、
前記第1トルクセンサと前記第1回転角センサとに電力を供給する第1電源と、
前記第2トルクセンサと前記第2回転角センサとに電力を供給する第2電源と、
前記第1トルクセンサ又は前記第1回転角センサに発生した異常を検知した場合に、前記モータ制御部が前記モータの駆動制御に使用する前記被選択操舵トルク及び前記被選択回転角を、前記第1操舵トルク及び前記第1回転角から前記第2操舵トルク及び前記第2回転角にそれぞれ切り替えた後に、前記第1電源をオフにする切替制御部と、
を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記切替制御部は、
前記第1トルクセンサに発生した前記異常を検知した場合に、前記異常を検知した時点から第1所定時間の経過まで、前記異常の検知前に検出した前記第1操舵トルクを保持する信号保持部と、
前記異常を検知した時点から前記第1所定時間の経過まで前記信号保持部に保持された前記第1操舵トルクを前記被選択操舵トルクとして選択し、前記第1所定時間の経過時点で前記被選択操舵トルクを前記第2操舵トルクに切り替える操舵トルク切替部と、
前記異常を検知した時点から前記第1所定時間よりも長い第2所定時間の経過まで前記第1回転角を前記被選択回転角として算出し、前記第2所定時間の経過後に前記第2回転角を前記被選択回転角として算出する回転角算出部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記第1回転角センサに発生した前記異常を検知した場合に、
前記操舵トルク切替部は、前記異常を検知した時点から前記第2所定時間の経過時点で、前記被選択操舵トルクを前記第1操舵トルクから前記第2操舵トルクに切り替え、
前記回転角算出部は、前記異常の検知前に検出した前記第1回転角を初期値として、前記異常を検知した時点から前記第2所定時間の経過まで、前記異常を検知した時点以降の前記第2回転角の変化量を前記初期値に加算して前記被選択回転角を算出し、前記第2所定時間の経過後に前記第2回転角を前記被選択回転角として算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記第1電源に異常が発生した場合に、
前記信号保持部は、前記異常を検知した時点から前記第1所定時間の経過まで、前記異常の検知前に検出した前記第1操舵トルクを保持し、
前記操舵トルク切替部は、前記異常を検知した時点から前記第1所定時間の経過まで前記信号保持部に保持された前記第1操舵トルクを前記被選択操舵トルクとして選択し、前記第1所定時間の経過時点で前記被選択操舵トルクを前記第2操舵トルクに切り替え、
前記回転角算出部は、前記異常の検知前に検出した前記第1回転角を初期値として、前記異常を検知した時点から前記第2所定時間の経過まで、前記異常を検知した時点以降の前記第2回転角の変化量を前記初期値に加算して前記被選択回転角を算出し、前記第2所定時間の経過後に前記第2回転角を前記被選択回転角として算出する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置は、車両の操舵軸に加わる操舵トルクを第1トルクセンサ及び第2トルクセンサで各々検出する冗長構成と、車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータのモータ回転角を第1回転角センサ及び第2回転角センサで各々検出する冗長構成と、を備える。
第1トルクセンサで異常発生を検知した場合には、モータの制御に用いる操舵トルクを検出するセンサを第1トルクセンサから第2トルクセンサへ切り替える。また、第1回転角センサで異常発生を検知した場合には、モータの制御に用いるモータ回転角を検出するセンサを第1回転角センサから第2回転角センサへ切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の冗長構成では、第1トルクセンサで異常発生を検知した場合に、第1トルクセンサに電力を供給する電源をオフすることにより、故障したセンサへの電力供給によって更なる損傷が生じる虞を回避できる。第1回転角センサで異常発生を検知した場合も同様である。
一方で、第1トルクセンサと第1回転角センサとが共通の第1電源を共用し、第2トルクセンサと第2回転角センサとが共通の第2電源を共用することにより、必要な電源回路の数を低減してコストを低減できる。
【0005】
しかしながら、第1トルクセンサと第1回転角センサとが共通の第1電源を共用すると、第1トルクセンサの異常発生に伴って第1電源をオフすることにより、第1回転角センサから正常なモータ回転角の信号を得られなくなる。同様に、第1回転角センサの異常発生に伴って第1電源をオフすることにより、第1トルクセンサから正常な操舵トルクの信号を得られなくなる。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、第1トルクセンサ及び第2トルクセンサで操舵トルクを各々検出し、第1回転角センサ及び第2回転角センサで操舵補助力を付与するモータの回転角を各々検出し、第1トルクセンサと第1回転角センサが共通の電源を共用し、第2トルクセンサと第2回転角センサが共通の電源を共用する電動パワーステアリング装置において、これらセンサのいずれかの異常を検知した場合に、モータの制御に使用するセンサを円滑に切り替えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電動パワーステアリング装置は、車両の操舵軸に加わる操舵トルクを各々検出する第1トルクセンサ及び第2トルクセンサと、車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータと、モータのモータ回転軸の回転角を各々検出する第1回転角センサ及び第2回転角センサと、第1トルクセンサが検出した第1操舵トルク及び第2トルクセンサが検出した第2操舵トルクのうちの選択された一方である被選択操舵トルクと、第1回転角センサが検出した第1回転角及び第2回転角センサが検出した第2回転角のうちの選択された一方である被選択回転角と、に基づいてモータを駆動制御するモータ制御部と、第1トルクセンサと第1回転角センサとに電力を供給する第1電源と、第2トルクセンサと第2回転角センサとに電力を供給する第2電源と、第1トルクセンサ又は第1回転角センサに発生した異常を検知した場合に、モータ制御部がモータの駆動制御に使用する被選択操舵トルク及び被選択回転角を、第1操舵トルク及び第1回転角から第2操舵トルク及び第2回転角にそれぞれ切り替えた後に、第1電源をオフにする切替制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1トルクセンサ及び第2トルクセンサで操舵トルクを各々検出し、第1回転角センサ及び第2回転角センサで操舵補助力を付与するモータの回転角を各々検出し、第1トルクセンサと第1回転角センサが共通の電源を共用し、第2トルクセンサと第2回転角センサが共通の電源を共用する電動パワーステアリング装置において、これらセンサのいずれかの異常を検知した場合に、モータの制御に使用するセンサを円滑に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】
図1のトルクセンサ信号処理部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図1の回転角センサ信号処理部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図3の異常判定部によるモータ回転角の判定方法の一例の説明図である。
【
図5】(a)~(h)は、第1トルクセンサに発生した異常を検出した場合のFOP処理の一例の説明図である。
【
図6】(a)~(h)は、第1回転角センサに発生した異常を検出した場合のFOP処理の一例の説明図である。
【
図7】(a)~(h)は、第1電源ICに異常が発生した場合のFOP処理の一例の説明図である。
【
図8】
図1のモータ制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、モータ11を制御して、ステアリング軸3にトルク(すなわち操舵補助力)を加えるEPS(Electric Power Steering)装置である。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1では、
図1に示すように、ステアリングホイール2のステアリング軸3は、減速ギア4、ユニバーサルジョイント5a及び5b、ラック・ピニオン機構6、タイロッド7a、7bを経て、更にハブユニット8a、8bを介して操向車輪9L、9Rに連結されている。
【0012】
また、ステアリング軸3のステアリングホイール2側には、ステアリングホイール2の操舵トルクThを検出するためのトルクセンサユニット10が取り付けられており、ステアリング軸3のラック・ピニオン機構6側には、操舵を補助するアシストトルク(すなわち操舵補助力)を発生するモータ11が減速ギア4を介して連結されている。また、モータ11には、モータ11のモータ回転軸11aの回転角であるモータ回転角θmを検出するための回転角センサユニット12が取り付けられている。トルクセンサユニット10及び回転角センサユニット12の出力信号は、電動パワーステアリング装置1を制御するためのコントローラ13(ECU:Electronic Control Unit)に出力される。
【0013】
トルクセンサユニット10は、第1トルクセンサ10aと、第2トルクセンサ10bを備えている。第1トルクセンサ10a及び第2トルクセンサ10bは、例えば個別のセンサIC(Integrated Circuit)であってよい。
ステアリング軸3は、ステアリングホイール2側の第1の部材3aと、ラック・ピニオン機構6側の第2の部材3bとをトーションバー3cを介して連結した構造からなる。第1の部材3aの下端側の外周面には、N極及びS極が周方向に交互に配置された多極磁石10cが取り付けられている。
【0014】
第1トルクセンサ10aと第2トルクセンサ10bのそれぞれは、第1の部材3aに操舵トルクThが入力されてトーションバー3cに捩れが生じた場合に、多極磁石10cによって第1トルクセンサ10aと第2トルクセンサ10bに付与される磁界の強さが変化するように、多極磁石10cの周囲に配置されている。第1トルクセンサ10aと第2トルクセンサ10bのそれぞれは、多極磁石10cによって付与される磁界の強さに応じた信号を出力する。すなわち、第1トルクセンサ10aと第2トルクセンサ10bのそれぞれは、第1の部材3aに入力された操舵トルクThに応じて変化する磁束密度に応じた信号を出力する。第1トルクセンサ10aと第2トルクセンサ10bの出力信号は、コントローラ13に出力される。
【0015】
回転角センサユニット12は、第1回転角センサ12aと、第2回転角センサ12bと、第3回転角センサ12cとを備える。ここで、モータ11のモータ回転軸11aの先端部には、多極磁石12dが取り付けられている。そして、第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b、第3回転角センサ12cのそれぞれは、モータ11が駆動されてモータ回転軸11aが回転された場合に、多極磁石12dによって第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b、第3回転角センサ12cに付与される磁界の強さが変化するように、多極磁石12dの周囲に配置されている。
【0016】
第1回転角センサ12aは、多極磁石12dによって付与される磁界の強さに応じた第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1を出力する。同様に、第2回転角センサ12bは、多極磁石12dによって付与される磁界の強さに応じた第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2を出力する。第3回転角センサ12cは、多極磁石12dによって付与される磁界の強さに応じた第3正弦信号SIN3及び第3余弦信号COS3を出力する。すなわち、第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b、第3回転角センサ12cのそれぞれは、モータ回転角θmに応じて変化する磁束密度に応じた信号を出力する。第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b、第3回転角センサ12cの出力信号は、コントローラ13に出力される。
【0017】
モータ11は、ステータ、ロータ及びシャフトを有する三相ブラシレスモータである。ロータは、ステータ内部に収容され、シャフトによって回転可能に支持されている。また、ロータは、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。また、ステータは、所定角度毎に径内方向へ突出する突出部を有し、この突出部に、U相コイル、V相コイル、W相コイルが巻回されている。モータ11は、2組の巻線組を有する2重三相ブラシレスモータであってもよく、3組以上の巻線組を有する三相ブラシレスモータであってもよい。
【0018】
コントローラ13は、トルクセンサユニット10の出力信号と、及び回転角センサユニット12の出力信号と、車速センサ14が検出した車速Vhに基づき、操舵を補助するアシストトルクに対応する電流指令値を演算し、演算した電流指令値に基づきモータ11に供給する電流を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。
【0019】
コントローラ13は、例えば、プロセッサ及び記憶装置等を含むコンピュータと、トルクセンサユニット10及び回転角センサユニット12へ電力を供給する電源と、モータ11の駆動回路(例えばインバータ回路)を含む。
プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
【0020】
以下に説明するコントローラ13の機能は、例えばコントローラ13のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
なお、コントローラ13を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。例えば、コントローラ13は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばコントローラ13はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0021】
コントローラ13は、第1電源IC20と、第2電源IC21と、第3電源IC22と、トルクセンサ信号処理部23と、回転角センサ信号処理部24と、モータ制御部25と、安全制御マネージャ26を備える。
第1電源IC20は、第1トルクセンサ10aと第1回転角センサ12aに電力を供給する。すなわち、第1トルクセンサ10aと第1回転角センサ12aとは共通の第1電源IC20を共用する。第2電源IC21は、第2トルクセンサ10bと第2回転角センサ12bに電力を供給する。すなわち、第2トルクセンサ10bと第2回転角センサ12bとは共通の第2電源IC21を共用する。第3電源IC22は、第3回転角センサ12cに電力を供給する。
【0022】
トルクセンサ信号処理部23は、第1トルクセンサ10aの出力信号に基づいて、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクTh(すなわちステアリング軸3に入力された操舵トルク)の検出値を第1操舵トルクTh1として算出する。また、第2トルクセンサ10bの出力信号に基づいて、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクThの検出値を第2操舵トルクTh2として算出する。
トルクセンサ信号処理部23は、第1操舵トルクTh1と第2操舵トルクTh2のうちいずれか一方を選択して、被選択操舵トルクThとしてモータ制御部25に出力する。トルクセンサ信号処理部23の詳細は後述する。
【0023】
回転角センサ信号処理部24は、第1回転角センサ12aの出力信号に基づいて、モータ回転角θmの検出値を第1回転角θm1として算出する。また、第2回転角センサ12bの出力信号に基づいて、モータ回転角θmの検出値を第2回転角θm2として算出する。回転角センサ信号処理部24は、第1回転角θm1及び第2回転角θm2のうち一方を選択して、被選択回転角θmとしてモータ制御部25に出力する。回転角センサ信号処理部24の詳細は後述する。
第3回転角センサ12cの出力信号は、第1回転角センサ12a及び第2回転角センサ12の異常検出に用いられる。
【0024】
モータ制御部25は、車速センサ14が検出した車速Vhと、被選択操舵トルクThと、被選択回転角θmに基づいて、操舵を補助するアシストトルクに対応する電流指令値を演算し、演算した電流指令値に基づきモータ11に供給する電流を制御する。モータ制御部25の詳細は後述する。
【0025】
安全制御マネージャ26は、第1トルクセンサ10a、第1回転角センサ12a及び第1電源IC20の組み合わせと、第2トルクセンサ10b、第2回転角センサ12b及び第1電源IC21の組み合わせ、により形成された冗長構成において、異常が発生した装置の作動を禁止し、正常な装置で機能を継続するフェイルオペレーション(FOP:Fail Operation)を実行する。
【0026】
トルクセンサ信号処理部23は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知すると、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを安全制御マネージャ26に出力する。トルクセンサ診断信号Sdtを受信すると、安全制御マネージャ26は、被選択回転角θmを第1回転角θm1から第2回転角θm2に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを回転角センサ信号処理部24へ出力し、その後に第1電源IC20をオフにする。
【0027】
また、トルクセンサ信号処理部23は、第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知すると、第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを安全制御マネージャ26に出力する。トルクセンサ診断信号Sdtを受信すると、安全制御マネージャ26は、被選択回転角θmを第2回転角θm2から第1回転角θm1に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを回転角センサ信号処理部24へ出力し、その後に第2電源IC21をオフにする。
【0028】
回転角センサ信号処理部24は、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知すると、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知したことを知らせる回転角センサ診断信号Sdrを安全制御マネージャ26に出力する。回転角センサ診断信号Sdrを受信すると、安全制御マネージャ26は、被選択操舵トルクThを第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替えることを要求する切替要求信号Sstをトルクセンサ信号処理部23へ出力し、その後に第1電源IC20をオフにする。
【0029】
また、回転角センサ信号処理部24は、第2回転角センサ12bに発生した異常を検知すると、第2回転角センサ12bに発生した異常を検知したことを知らせる回転角センサ診断信号Sdrを安全制御マネージャ26に出力する。回転角センサ診断信号Sdrを受信すると、安全制御マネージャ26は、被選択操舵トルクThを第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に切り替えることを要求する切替要求信号Sstをトルクセンサ信号処理部23へ出力し、その後に第2電源IC21をオフにする。
【0030】
次に、
図2を参照してトルクセンサ信号処理部23の機能構成の一例を説明する。
図2に示すように、第1トルクセンサ10aは、多極磁石10cによって付与される磁界を検出するための第1磁気検出素子10aaと第2磁気検出素子10abを備える。第2トルクセンサ10bは、多極磁石10cによって付与される磁界を検出するための第3磁気検出素子10baと第4磁気検出素子10bbを備える。
【0031】
第1磁気検出素子10aa、第2磁気検出素子10ab、第3磁気検出素子10ba、第4磁気検出素子10bbは、第1の部材3aに操舵トルクThが入力されてトーションバー3cに捩れが生じた場合に、多極磁石10cによって第1磁気検出素子10aa、第2磁気検出素子10ab、第3磁気検出素子10ba、第4磁気検出素子10bbに付与される磁界の強さが変化するように、多極磁石10cの周囲に配置されている。第1磁気検出素子10aa、第2磁気検出素子10ab、第3磁気検出素子10ba、第4磁気検出素子10bbは、付与される磁界の強さに応じた捩れ角信号St1a、St1b、St2a、St2bをそれぞれ出力する。
【0032】
トルクセンサ信号処理部23は、換算部30a、30b、33a及び33bと、平均値算出部(Avr)30c及び33cと、第1トルクセンサ異常判定部31と、信号保持部32及び35と、第2トルクセンサ異常判定部34と、操舵トルク切替部36と、診断処理部37と、を備える。
換算部30a及び30bは、捩れ角信号St1a及びSt1bが表す捩れ角を、操舵トルクTh1a及びTh1bにそれぞれ換算する。平均値算出部30cは、操舵トルクTh1a及びTh1bの平均値を第1操舵トルクTh1として算出して信号保持部32に出力する。
【0033】
第1トルクセンサ異常判定部31は、捩れ角信号St1a及びSt1bに基づいて第1トルクセンサ10aに異常が発生したか否かを判定する。
例えば第1トルクセンサ異常判定部31は、第1トルクセンサ10aとトルクセンサ信号処理部23との間に通信異常が発生した場合に、第1トルクセンサ10aに異常が発生したと判定してよい。例えば第1トルクセンサ10aが、SENT(Single Edge Nibble Transmission)通信によって捩れ角信号St1a及びSt1bをトルクセンサ信号処理部23へ送信している場合、第1トルクセンサ異常判定部31は、SENTプロトコルの異常が発生した場合に、第1トルクセンサ10aに異常が発生したと判定してよい。
【0034】
また例えば第1トルクセンサ異常判定部31は、捩れ角信号St1aと捩れ角信号St1bとの間の相間に基づいて第1トルクセンサ10aに異常が発生したか否かを判定してよい。例えば第1トルクセンサ異常判定部31は、捩れ角信号St1aと捩れ角信号St1bとの差分の絶対値|St1a-St1b|が閾値を超える場合に第1トルクセンサ10aに異常が発生したと判定してよい。
【0035】
第1トルクセンサ異常判定部31は、第1トルクセンサ10aに異常が発生したと判定した場合に、異常判定信号Sat1を信号保持部32と操舵トルク切替部36と、診断処理部37へ出力する。
信号保持部32は、異常判定信号Sat1を受信しない場合には、平均値算出部30cから受信した第1操舵トルクTh1をそのまま操舵トルク切替部36へ出力する。
【0036】
異常判定信号Sat1を受信すると、信号保持部32は、異常判定信号Sat1の受信直前に平均値算出部30cから受信した第1操舵トルクTh1を第1所定時間T1の間保持する。信号保持部32は、異常判定信号Sat1の受信した時点t10から第1所定時間T1の間、保持している第1操舵トルクTh1を操舵トルク切替部36へ出力する。すなわち、信号保持部32は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した時点t10から第1所定時間T1の間、異常の検知前に検出された第1操舵トルクTh1を操舵トルク切替部36へ出力する。例えば第1所定時間T1は8[m秒]であってよい。
【0037】
一方で、換算部33a及び33bは、捩れ角信号St2a及びSt2bが表す捩れ角を、操舵トルクTh2a及びTh2bにそれぞれ換算する。平均値算出部33cは、操舵トルクTh2a及びTh2bの平均値を第2操舵トルクTh2として算出して信号保持部32に出力する。
第2トルクセンサ異常判定部34は、捩れ角信号St2a及びSt2bに基づいて第2トルクセンサ10bに異常が発生したか否かを判定する。第2トルクセンサ異常判定部34による異常判定方法は、捩れ角信号St1a及びSt1bに基づく第1トルクセンサ異常判定部31の異常判定方法と同様であってよい。
【0038】
第2トルクセンサ異常判定部34は、第2トルクセンサ10bに異常が発生したと判定した場合に、異常判定信号Sat2を信号保持部35と操舵トルク切替部36と、診断処理部37へ出力する。
信号保持部35は、異常判定信号Sat2を受信しない場合には、平均値算出部33cから受信した第2操舵トルクTh2をそのまま操舵トルク切替部36へ出力する。
【0039】
異常判定信号Sat2を受信すると、信号保持部35は、異常判定信号Sat2の受信直前に平均値算出部33cから受信した第2操舵トルクTh2を第1所定時間T1の間保持する。信号保持部35は、異常判定信号Sat2の受信した時点t20から第1所定時間T1の間、保持している第2操舵トルクTh2を操舵トルク切替部36へ出力する。すなわち、信号保持部35は、第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知した時点t20から第1所定時間T1の間、異常の検知前に検出された第2操舵トルクTh2を操舵トルク切替部36へ出力する。
【0040】
操舵トルク切替部36は、信号保持部32から出力される第1操舵トルクTh1及び信号保持部35から出力される第2操舵トルクTh2のうちいずれか一方を選択して、被選択操舵トルクThとしてモータ制御部25に出力する。
第1操舵トルクTh1が被選択操舵トルクThとしてモータ制御部25に出力されている状態で、第1トルクセンサ10aに異常が発生したと判定したことを示す異常判定信号Sat1を受信すると、操舵トルク切替部36は、異常判定信号Sat1を受信した時点(すなわち第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した時点)t10から第1所定時間T1の間、信号保持部32に保持されている第1操舵トルクTh1を被選択操舵トルクThとして出力する。すなわち、異常の検知前に検出された第1操舵トルクTh1を被選択操舵トルクThとして出力する。
異常判定信号Sat1を受信した時点t10から第1所定時間T1が経過しても第1トルクセンサ10aが正常に回復せず、第1トルクセンサ10aの異常が確定した場合に操舵トルク切替部36は、時点t10から第1所定時間T1が経過した時点t11において、モータ制御部25に出力する被選択操舵トルクThを、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替える。
【0041】
第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した時点t10から第1所定時間T1が経過する前に第1トルクセンサ10aが正常に回復した場合には、信号保持部32は、第1トルクセンサ10aの異常検知前に受信した第1操舵トルクTh1の保持を終了し、平均値算出部30cから現在受信している第1操舵トルクTh1をそのまま操舵トルク切替部36へ出力する。操舵トルク切替部36は、モータ制御部25に出力する被選択操舵トルクThを、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替えない。
【0042】
第2操舵トルクTh2が被選択操舵トルクThとしてモータ制御部25に出力されている状態で、第2トルクセンサ10bに異常が発生したと判定したことを示す異常判定信号Sat2を受信すると、操舵トルク切替部36は、異常判定信号Sat2を受信した時点(すなわち第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知した時点)t20から第1所定時間T1の間、信号保持部35に保持されている第2操舵トルクTh2を被選択操舵トルクThとして出力する。すなわち、異常の検知前に検出された第2操舵トルクTh2を被選択操舵トルクThとして出力する。
異常判定信号Sat2を受信した時点t20から第1所定時間T1が経過しても第2トルクセンサ10bが正常に回復せず、第2トルクセンサ10bの異常が確定した場合に操舵トルク切替部36は、時点t20から第1所定時間T1が経過した時点t21において、モータ制御部25に出力する被選択操舵トルクThを、第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に切り替える。
【0043】
第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知した時点t20から第1所定時間T1が経過する前に、第2トルクセンサ10bが正常に回復した場合には、信号保持部35は、第2トルクセンサ10bの異常検知前に受信した第2操舵トルクTh2の保持を終了し、平均値算出部33cから現在受信している第2操舵トルクTh2をそのまま操舵トルク切替部36へ出力する。操舵トルク切替部36は、モータ制御部25に出力する被選択操舵トルクThを、第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に切り替えない。
【0044】
また、第1回転角θm1が被選択回転角θmとしてモータ制御部25に出力されている状態で第1回転角センサ12aに発生した異常が検知された場合、安全制御マネージャ26は、被選択操舵トルクThを第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替えることを要求する切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36へ出力する。
【0045】
切替要求信号Sstを受信した操舵トルク切替部36は、第1回転角センサ12aに発生した異常が検知された時点t30から第2所定時間T2が経過した時点t31で、モータ制御部25に出力する被選択操舵トルクThを、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替える。第2所定時間T2は第1所定時間T1よりも長い時間に設定される。例えば第2所定時間T2は50[m秒]であってよい。
例えば安全制御マネージャ26は、第1回転角センサ12aに発生した異常が検知された時点t30から第2所定時間T2が経過した時点t31で切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36に送信し、操舵トルク切替部36は、切替要求信号Sstの受信直後に被選択操舵トルクThを切り替えてもよい。
【0046】
第2回転角θm2が被選択回転角θmとしてモータ制御部25に出力されている状態で第2回転角センサ12bに発生した異常が検知された場合、安全制御マネージャ26は、被選択操舵トルクThを第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に切り替えることを要求する切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36へ出力する。
【0047】
切替要求信号Sstを受信した操舵トルク切替部36は、第2回転角センサ12bに発生した異常が検知された時点t40から第2所定時間T2が経過した時点t41で、モータ制御部25に出力する被選択操舵トルクThを、第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に切り替える。例えば安全制御マネージャ26は、第2回転角センサ12bに発生した異常が検知された時点t40から第2所定時間T2が経過した時点t41で切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36に送信し、操舵トルク切替部36は、切替要求信号Sstの受信直後に被選択操舵トルクThを切り替えてもよい。
【0048】
なお、操舵トルク切替部36は、第1操舵トルクTh1を被選択操舵トルクThとして出力している状態で、第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に被選択操舵トルクThを切り替えることを要求する切替要求信号Sstを受信した場合には、被選択操舵トルクThとして第1操舵トルクTh1を出力する状態を継続する。
同様に、第2操舵トルクTh2を被選択操舵トルクThとして出力している状態で、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に被選択操舵トルクThを切り替えることを要求する切替要求信号Sstを受信した場合には、被選択操舵トルクThとして第2操舵トルクTh2を出力する状態を継続する。
【0049】
診断処理部37は、異常判定信号Sat1に基づいて第1トルクセンサ10aに発生した異常が継続しているか否かを判定し、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した時点t10から第2所定時間T2が経過しても第1トルクセンサ10aが正常に回復しない場合に、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを、時点t10から第2所定時間T2が経過した時点t12において安全制御マネージャ26に出力する。
トルクセンサ診断信号Sdtを受信した安全制御マネージャ26は、トルクセンサ診断信号Sdtを受信した時点t12で、回転角センサ信号処理部24が出力する被選択回転角θmを第1回転角θm1から第2回転角θm2に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを出力する。また、トルクセンサ診断信号Sdtを受信した時点t12の後の時点t13で、第1電源IC20をオフにする。
【0050】
なお、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した時点t10から第1所定時間T1が経過して、被選択操舵トルクThを第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替えた後に、時点t10から第2所定時間T2が経過する前に第1トルクセンサ10aが正常に回復した場合には、診断処理部37は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを安全制御マネージャ26に出力しない。この結果、被選択回転角θmは第1回転角θm1から第2回転角θm2に切り替わらず、第1電源IC20もオンに維持される。この場合に、操舵トルク切替部36は、被選択操舵トルクThを第1操舵トルクTh1に切り替えなくてもよい(すなわち被選択操舵トルクThとして第2操舵トルクTh2を出力し続けてもよい)。
【0051】
また診断処理部37は、異常判定信号Sat2に基づいて第2トルクセンサ10bに発生した異常が継続しているか否かを判定し、第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知した時点t20から第2所定時間T2が経過しても第2トルクセンサ10bが正常に回復しない場合に、第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを、時点t20から第2所定時間T2が経過した時点t22で、安全制御マネージャ26に出力する。
トルクセンサ診断信号Sdtを受信した安全制御マネージャ26は、トルクセンサ診断信号Sdtを受信した時点t22で、回転角センサ信号処理部24が出力する被選択回転角θmを第2回転角θm2から第1回転角θm1に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを出力する。また、トルクセンサ診断信号Sdtを受信した時点t22の後の時点t23で、第2電源IC21をオフにする。
【0052】
また、診断処理部37は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した時点t10や第2トルクセンサ10bに発生した異常を検知した時点t20から、第2所定時間T2よりも長い第3所定時間T3が経過してもこれらのセンサが正常に回復しない場合には、乗員に警告を出力したり、これらの異常の発生を記憶装置に記憶する。例えば第3所定時間T3は100[m秒]であってよい。
【0053】
次に、
図3を参照して回転角センサ信号処理部24の機能構成の一例を説明する。
図3に示すように、第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b及び第3回転角センサ12cは、多極磁石12dによって付与される磁界を検出するための第5磁気検出素子40a、第6磁気検出素子41a及び第7磁気検出素子42aをそれぞれ備える。
第5磁気検出素子40a、第6磁気検出素子41a及び第7磁気検出素子42aは、モータ11が駆動されてモータ回転軸11aが回転された場合に、多極磁石12dによって第5磁気検出素子40a、第6磁気検出素子41a及び第7磁気検出素子42aに付与される磁界の強さが変化するように、多極磁石12dの周囲に配置されている。
【0054】
第5磁気検出素子40aは、多極磁石12dによって付与される磁界の強さに応じた第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1を出力する。同様に、第6磁気検出素子41aは、多極磁石12dによって付与される磁界の強さに応じた第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2を出力する。第7磁気検出素子42aは、多極磁石12dによって付与される磁界の強さに応じた第3正弦信号SIN3及び第3余弦信号COS3を出力する。
【0055】
回転角センサ信号処理部24は、診断用機械角算出部40b、41b及び42bと、センサ信号異常判定部40c、41c及び42cと、異常判定部43と、機械角算出部44と、角度推定部45と、角度変換部46と、診断処理部47を備える。
なお、トルクセンサ信号処理部23の信号保持部32及び35並びに操舵トルク切替部36と、回転角センサ信号処理部24の機械角算出部44及び角度推定部45と、安全制御マネージャ26とは、特許請求の範囲に記載の「切替制御部」の一例である。
【0056】
診断用機械角算出部40bは、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1に基づいてモータ回転軸11aの診断用機械角θdm1を算出する。
同様に診断用機械角算出部41b及び42bは、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2並びに第3正弦信号SIN3及び第3余弦信号COS3に基づいて、モータ回転軸11aの診断用機械角θdm2及びθdm3をそれぞれ算出する。
診断用機械角θdm1、θdm2及びθdm3は異常判定部43に出力されて、第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b及び第3回転角センサ12cに発生した異常の検出に用いられる。
【0057】
センサ信号異常判定部40cは、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1が異常であるか否かを判定する。例えば、センサ信号異常判定部40cは、2種類の異常判定処理によって第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1が異常であるか否かを判定してよい。
第1の異常判定処理では、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1の振幅が所定範囲内であるか否かを判定し、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1の両方の振幅が所定範囲内である場合に、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1が正常であると判定し、いずれか一方の振幅が所定範囲外である場合に、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1が異常であると判定する。
【0058】
第2の異常判定処理では、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1の2乗和が所定範囲(例えば振幅の2乗に所定マージンを付与した範囲)内であるか否かを判定し、2乗和が所定範囲内である場合に、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1が正常であると判定し、2乗和が所定範囲外である場合に、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1が異常であると判定する。
センサ信号異常判定部40cは、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1の異常判定の判定結果Sas1を、異常判定部43と診断処理部47に出力する。
【0059】
センサ信号異常判定部41c及び42cは、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2と、第3正弦信号SIN3及び第3余弦信号COS3が異常であるか否かをそれぞれ判定する。センサ信号異常判定部41c及び42cによる異常判定方法は、センサ信号異常判定部40cの判定方法と同様である。
センサ信号異常判定部41c及び42cは、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2の異常判定の判定結果Sas2と、第3正弦信号SIN3及び第3余弦信号COS3の異常判定の判定結果Sas3と、をそれぞれ異常判定部43と診断処理部47に出力する。
【0060】
異常判定部43は、診断用機械角θdm1~θdm3と判定結果Sas1~Sas3とに基づいて、第1回転角センサ12aと第2回転角センサ12bに異常が発生したか否かを判定する。
具体的には、異常判定部43は診断用機械角θdm1~θdm3の差に基づいて、第1回転角センサ12a及び第2回転角センサ12bが異常であるか否かを判定する。
【0061】
例えば、異常判定部43は診断用機械角θdm1とθdm2との間の差が所定値以上であるか、診断用機械角θdm2とθdm3との間の差が所定値以上であるか、診断用機械角θdm1とθdm3との間の差が所定値以上であるかを判定し、これらの判定結果と第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b及び第3回転角センサ12cの状態との対応関係を示す
図4のテーブルを参照することにより、第1回転角センサ12a、第2回転角センサ12b及び第3回転角センサ12cが異常であるか否かを判定してよい。
【0062】
図3を参照する。異常判定部43は、診断用機械角θdm1~θdm3に基づいて第1回転角センサ12aが正常であると判定され、且つセンサ信号異常判定部40cの判定結果Sas1が正常である場合に、第1回転角センサ12aが正常であると判定する。診断用機械角θdm1~θdm3に基づいて第1回転角センサ12aが異常であると判定されるか、又はセンサ信号異常判定部40cの判定結果Sas1が異常である場合に、第1回転角センサ12aに発生した異常を検出する。
異常判定部43は、第1回転角センサ12aが正常であるか異常であるかを示すステータス信号Saa1を、機械角算出部44と、角度推定部45と、診断処理部47に出力する。
【0063】
また、異常判定部43は、診断用機械角θdm1~θdm3に基づいて第2回転角センサ12bが正常であると判定され、且つセンサ信号異常判定部41cの判定結果Sas2が正常である場合に、第2回転角センサ12bが正常であると判定し、診断用機械角θdm1~θdm3に基づいて第2回転角センサ12bが異常であると判定されるか、又はセンサ信号異常判定部41cの判定結果Sas2が異常である場合に、第2回転角センサ12bに発生した異常を検出する。
異常判定部43は、第2回転角センサ12bが正常であるか異常であるかを示すステータス信号Saa2を、機械角算出部44と、角度推定部45と、診断処理部47に出力する。
【0064】
機械角算出部44は、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1に基づいて、モータ回転軸11aの機械角である第1機械角θmm1を算出する。また、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて、モータ回転軸11aの機械角である第2機械角θmm2を算出する。角度変換部46は、機械角算出部44が算出した機械角を電気角に変換して被選択回転角θmとして出力する。第1回転角θm1は、第1機械角θmm1から変換された電気角であり、第2回転角θm2は、第2機械角θmm2から変換された電気角である。
【0065】
例えば、被選択回転角θmとして第1回転角θm1が出力されている状態では、ステータス信号Saa1が第1回転角センサ12aの正常を示している間、機械角算出部44は、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1に基づいて第1機械角θmm1を算出し、角度推定部45は、機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1をそのまま角度変換部46に出力する。角度変換部46は、第1機械角θmm1を電気角である第1回転角θm1に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0066】
この状態から、時点t30において第1回転角センサ12aで発生した異常が検知されると(すなわち、ステータス信号Saa1が第1回転角センサ12aの異常を示すと)、機械角算出部44は第1機械角θmm1の算出を継続するとともに、後段の角度推定部45による角度推定処理のための第2機械角θmm2を、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて算出する。
【0067】
時点t30から第2所定時間T2が経過しても第1回転角センサ12aが正常に回復せず、第1回転角センサ12aの異常が確定した場合には、機械角算出部44は、時点t30から第2所定時間T2が経過した時点t31において、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて第2機械角θmm2を算出する。角度推定部45は、機械角算出部44が算出した第2機械角θmm2をそのまま角度変換部46に出力する。角度変換部46は、第2機械角θmm2を電気角である第2回転角θm2に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0068】
角度推定部45は、時点t30から第2所定時間T2が経過する時点t31までの期間(または、時点t31以前に第1回転角センサ12aが正常に回復した場合には、時点t30から第1回転角センサ12aが回復するまでの期間)において、モータ回転軸11aの機械角を推定する角度推定処理を実行する。
【0069】
角度推定処理では、第1回転角センサ12aの異常検知前に機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1を初期値θintとして、第1回転角センサ12aの異常を検知した時点t30から現在時点までの第2機械角θmm2の変化量を初期値θintに加えて推定値θestを算出する。角度変換部46は、推定値θestを電気角に変換して被選択回転角θmとして出力する。
時点t30から第2所定時間T2が経過する前に第1回転角センサ12aが正常に回復した場合には、角度推定部45は角度推定処理を終了して、機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1をそのまま角度変換部46に出力する。
【0070】
同様に、被選択回転角θmとして第2回転角θm2が出力されている状態では、ステータス信号Saa2が第2回転角センサ12bの正常を示している間、機械角算出部44は、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて第2機械角θmm2を算出し、角度推定部45は、機械角算出部44が算出した第2機械角θmm2をそのまま角度変換部46に出力する。角度変換部46は、第2機械角θmm2を電気角である第2回転角θm2に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0071】
この状態から、時点t40において第2回転角センサ12bで発生した異常が検知されると(すなわち、ステータス信号Saa2が第2回転角センサ12bの異常を示すと)、機械角算出部44は第2機械角θmm2の算出を継続するとともに、後段の角度推定部45による角度推定処理のための第1機械角θmm1を、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1に基づいて算出する。
【0072】
時点t40から第2所定時間T2が経過しても第2回転角センサ12bが正常に回復せず、第2回転角センサ12bの異常が確定した場合には、機械角算出部44は、時点t40から第2所定時間T2が経過した時点t41において、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1に基づいて第1機械角θmm1を算出する。角度推定部45は、機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1をそのまま角度変換部46に出力する。角度変換部46は、第1機械角θmm1を電気角である第1回転角θm1に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0073】
角度推定部45は、時点t40から第2所定時間T2が経過する時点t41までの期間(または、時点t41以前に第2回転角センサ12bが正常に回復した場合には、時点t40から第2回転角センサ12bが回復するまでの期間)において、モータ回転軸11aの機械角を推定する角度推定処理を実行する。
【0074】
角度推定処理では、第2回転角センサ12bの異常検知前に機械角算出部44が算出した第2機械角θmm2を初期値θintとして、第2回転角センサ12bの異常を検知した時点t40から現在時点までの第1機械角θmm1の変化量を初期値θintに加えた推定値θestを角度変換部46に出力する。角度変換部46は、推定値θestを電気角に変換して被選択回転角θmとして出力する。
時点t40から第2所定時間T2が経過する前に第2回転角センサ12bが正常に回復した場合には、角度推定部45は角度推定処理を終了して、機械角算出部44が算出した第2機械角θmm2をそのまま角度変換部46に出力する。
【0075】
また、被選択回転角θmとして第1回転角θm1が出力されている状態で、機械角算出部44が、被選択回転角θmを第1回転角θm1から第2回転角θm2に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを安全制御マネージャ26から受信した場合には、機械角算出部44は、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて第2機械角θmm2を算出し、角度推定部45は、機械角算出部44が算出した第2機械角θmm2をそのまま角度変換部46に出力する。角度変換部46は、第2機械角θmm2を電気角である第2回転角θm2に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0076】
同様に、被選択回転角θmとして第2回転角θm2が出力されている状態で、機械角算出部44が、被選択回転角θmを第2回転角θm2から第1回転角θm1に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを安全制御マネージャ26から受信した場合には、機械角算出部44は、第1正弦信号SIN1及び第1余弦信号COS1に基づいて第1機械角θmm1を算出し、角度推定部45は、機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1をそのまま角度変換部46に出力する。角度変換部46は、第1機械角θmm1を電気角である第1回転角θm1に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0077】
診断処理部47は、ステータス信号Saa1に基づいて第1回転角センサ12aに発生した異常が継続しているか否かを判定し、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した時点t30から第2所定時間T2が経過しても第1回転角センサ12aが正常に回復しない場合に、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知したことを知らせる回転角センサ診断信号Sdrを、時点t30から第2所定時間T2が経過した時点t31で、安全制御マネージャ26に出力する。
回転角センサ診断信号Sdrを受信した安全制御マネージャ26は、回転角センサ診断信号Sdrを受信した時点t31で、被選択操舵トルクThを第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替えることを要求する切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36へ出力する。また、回転角センサ診断信号Sdrを受信した時点t31の後の時点t32で、第1電源IC20をオフにする。
【0078】
また診断処理部47は、ステータス信号Saa2に基づいて第2回転角センサ12bに発生した異常が継続しているか否かを判定し、第2回転角センサ12bに発生した異常を検知した時点t40から第2所定時間T2が経過しても第2回転角センサ12bが正常に回復しない場合に、第2回転角センサ12bに発生した異常を検知したことを知らせる回転角センサ診断信号Sdrを、時点t40から第2所定時間T2が経過した時点t41で、安全制御マネージャ26に出力する。
回転角センサ診断信号Sdrを受信した安全制御マネージャ26は、回転角センサ診断信号Sdrを受信した時点t41で、被選択操舵トルクThを第2操舵トルクTh2から第1操舵トルクTh1に切り替えることを要求する切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36へ出力する。また、回転角センサ診断信号Sdrを受信した時点t41の後の時点t42で、第2電源IC21をオフにする。
【0079】
また、診断処理部47は、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した時点t30や第2回転角センサ12bに発生した異常を検知した時点t40から、第2所定時間T2よりも長い第3所定時間T3が経過してもこれらのセンサが正常に回復しない場合には、乗員に警告を出力したり、これらの異常の発生を記憶装置に記憶する。例えば第3所定時間T3は100[m秒]であってよい。
【0080】
(動作)
以下、第1操舵トルクTh1及び第1回転角θm1が、それぞれ被選択操舵トルクTh及び被選択回転角θmとして選択されてモータ制御部25がモータ11を制御している状態で、第1トルクセンサ10a、第1回転角センサ12a、第1電源IC20のいずれかに異常が発生した場合の動作を説明する。
図5(a)~
図5(h)は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検出した場合のFOP処理の一例の説明図である。
【0081】
図5(a)及び
図5(b)は、第1トルクセンサ10a及び第2トルクセンサ10bの状態を示す。
図5(c)は、被選択操舵トルクThとしてトルクセンサ信号処理部23から出力される操舵トルクの値を示す。
図5(d)及び
図5(e)は、第1回転角センサ12a及び第2回転角センサ12bの状態を示す。
図5(f)は、被選択回転角θmとして回転角センサ信号処理部24から出力されるモータ回転角の値を示す。
図5(g)及び
図5(h)は、第1電源IC20と第2電源21の状態を示す。
【0082】
被選択操舵トルクThとして第1操舵トルクTh1が出力されている状態で、時点t10において第1トルクセンサ10aで発生した異常が検知されると、時点t10から第1所定時間T1が経過する時点t11まで、信号保持部32が、第1トルクセンサ10aの異常の検知前に検出された第1操舵トルクTh1の前回値を保持する。操舵トルク切替部36は、信号保持部32に保持された第1操舵トルクTh1の前回値を被選択操舵トルクThとして出力する。
時点t11において操舵トルク切替部36は、被選択操舵トルクThを、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替える。
【0083】
時点t10から第2所定時間T2が経過しても第1トルクセンサ10aが正常に回復しない場合に、診断処理部37は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを、時点t10から第2所定時間T2が経過した時点t12で、安全制御マネージャ26に出力する。
安全制御マネージャ26は、回転角センサ信号処理部24が出力する被選択回転角θmを第1回転角θm1から第2回転角θm2に切り替えることを要求する切替要求信号Ssrを出力する。
【0084】
回転角センサ信号処理部24の機械角算出部44は、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて第2機械角θmm2を算出し、角度変換部46は、第2機械角θmm2を電気角である第2回転角θm2に変換して被選択回転角θmとして出力する。
安全制御マネージャ26は、時点t12の後の時点t13で、第1電源IC20をオフにする。
【0085】
図6(a)~
図6(h)は、第1回転角センサ12aに発生した異常を検出した場合のFOP処理の一例の説明図である。
図6(a)及び
図6(b)は、第1トルクセンサ10a及び第2トルクセンサ10bの状態を示す。
図6(c)は、被選択操舵トルクThとしてトルクセンサ信号処理部23から出力される操舵トルクの値を示す。
図6(d)及び
図6(e)は、第1回転角センサ12a及び第2回転角センサ12bの状態を示す。
図6(f)は、被選択回転角θmとして回転角センサ信号処理部24から出力されるモータ回転角の値を示す。
図6(g)及び
図6(h)は、第1電源IC20と第2電源21の状態を示す。
【0086】
被選択回転角θmとして第1回転角θm1が出力されている状態で、時点t30において第1回転角センサ12aで発生した異常が検知されると、時点t30から第2所定時間T2が経過する時点t31まで、角度推定部45が角度推定処理を実行する。角度推定処理では、第1回転角センサ12aの異常検知前に機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1を初期値θintとして、第1回転角センサ12aの異常を検知した時点t30から現在時点までの第2機械角θmm2の変化量を初期値θintに加えて推定値θestを算出する。角度変換部46は、推定値θestを電気角に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0087】
時点t30から第2所定時間T2が経過しても第1回転角センサ12aが正常に回復しない場合に、時点t31において機械角算出部44は、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて第2機械角θmm2を算出する。角度変換部46は、第2機械角θmm2を電気角である第2回転角θm2に変換して被選択回転角θmとして出力する。診断処理部47は、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知したことを知らせる回転角センサ診断信号Sdrを、安全制御マネージャ26に出力する。
回転角センサ診断信号Sdrを受信した安全制御マネージャ26は、被選択操舵トルクThを第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替えることを要求する切替要求信号Sstを操舵トルク切替部36へ出力する。
【0088】
トルクセンサ信号処理部23の操舵トルク切替部36は、被選択操舵トルクThを、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替える。安全制御マネージャ26は、回転角センサ診断信号Sdrを受信した時点t31の後の時点t32で、第1電源IC20をオフにする。
【0089】
図7(a)~
図7(h)は、第1電源IC20に異常が発生した場合のFOP処理の一例の説明図である。
図7(a)及び
図7(b)は、第1トルクセンサ10a及び第2トルクセンサ10bの状態を示す。
図7(c)は、被選択操舵トルクThとしてトルクセンサ信号処理部23から出力される操舵トルクの値を示す。
図7(d)及び
図7(e)は、第1回転角センサ12a及び第2回転角センサ12bの状態を示す。
図7(f)は、被選択回転角θmとして回転角センサ信号処理部24から出力されるモータ回転角の値を示す。
図7(g)及び
図7(h)は、第1電源IC20と第2電源21の状態を示す。
【0090】
被選択操舵トルクThとして第1操舵トルクTh1が出力され、被選択回転角θmとして第1回転角θm1が出力されている状態で、時点t50において第1電源IC20に異常が発生すると、第1トルクセンサ10aと第1回転角センサ12aに正常な電力が供給されなくなり、第1トルクセンサ10aで発生した異常と第1回転角センサ12aで発生した異常とが検知される。
【0091】
時点t50から第1所定時間T1が経過する時点t51まで、信号保持部32が、第1トルクセンサ10aの異常の検知前に検出された第1操舵トルクTh1の前回値を保持する。操舵トルク切替部36は、信号保持部32に保持された第1操舵トルクTh1の前回値を被選択操舵トルクThとして出力する。時点t51において操舵トルク切替部36は、被選択操舵トルクThを、第1操舵トルクTh1から第2操舵トルクTh2に切り替える。
【0092】
時点t50から第2所定時間T2が経過しても第1トルクセンサ10aが正常に回復しない場合に、診断処理部37は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知したことを知らせるトルクセンサ診断信号Sdtを、時点t50から第2所定時間T2が経過した時点t52で、安全制御マネージャ26に出力する。
【0093】
一方で、時点t50から時点t52まで、角度推定部45が角度推定処理を実行する。角度推定処理では、第1回転角センサ12aの異常検知前に機械角算出部44が算出した第1機械角θmm1を初期値θintとして、第1回転角センサ12aの異常を検知した時点t30から現在時点までの第2機械角θmm2の変化量を初期値θintに加えて推定値θestを算出する。角度変換部46は、推定値θestを電気角に変換して被選択回転角θmとして出力する。
【0094】
時点t50から第2所定時間T2が経過しても第1回転角センサ12aが正常に回復しない場合に、時点t52において機械角算出部44は、第2正弦信号SIN2及び第2余弦信号COS2に基づいて第2機械角θmm2を算出する。角度変換部46は、第2機械角θmm2を電気角である第2回転角θm2に変換して被選択回転角θmとして出力する。診断処理部47は、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知したことを知らせる回転角センサ診断信号Sdrを、安全制御マネージャ26に出力する。
安全制御マネージャ26は、トルクセンサ診断信号Sdt、回転角センサ診断信号Sdrを受信した時点t52の後の時点t53で、第1電源IC20をオフにする。
【0095】
図8は、モータ制御部25の機能構成の一例を示すブロック図である。モータ制御部25は、電流指令値演算部50と、減算器51及び52と、比例積分(PI:Proportional-Integral)制御部53と、2相/3相変換部54と、指令値補正部55と、PWM制御部56と、インバータ57と、3相/2相変換部58と、角速度変換部59を備え、モータ11をベクトル制御で駆動する。なお、添付図面においてインバータを「INV」と表記する。
【0096】
電流指令値演算部50は、被選択操舵トルクThと、車速Vhと、被選択回転角θmと、被選択回転角θmの回転角速度ωに基づいてモータ11に流すべきq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。
一方で、モータ11のモータ電流ia、ib及びicはそれぞれ電流センサ60、61及び62で検出される。これら検出されたモータ電流ia、ib及びicは、3相/2相変換部58でd-q2軸の電流id、iqに変換される。
【0097】
減算器51及び52は、フィードバックされた電流iq、idをq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを算出する。q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdは、PI制御部53に入力される。PI制御部53は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを各々0とするような電圧指令値vq、vdを算出する。
【0098】
2相/3相変換部54は、電圧指令値vd、vqを、モータ11のA相電圧指令値va0、B相電圧指令値vb0、C相電圧指令値vc0にそれぞれ変換する。以下、A相電圧指令値、B相電圧指令値及びC相電圧指令値を総称して「3相電圧指令値」と表記する。指令値補正部55は、3相電圧指令値va0、vb0及びvc0に対して、電圧利用率改善のための補正を行って、補正された3相電圧指令値va1、vb1及びvc1を出力する。
【0099】
PWM制御部56は、補正後の3相電圧指令値va1、vb1及びvc1に基づいてPWM制御されたゲート信号を生成する。インバータ57は、PWM制御部56で生成されたゲート信号によって駆動される。モータ11にはq軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdが0になるような電流が供給される。
【0100】
角速度変換部59は、被選択回転角θmの時間的変化に基づいてモータ11のモータ回転軸11aの回転角速度ωを算出する。これら被選択回転角θm及び回転角速度ωは、電流指令値演算部50に入力されてベクトル制御に使用される。
【0101】
(実施形態の効果)
(1)電動パワーステアリング装置1は、車両の操舵軸3に加わる操舵トルクを各々検出する第1トルクセンサ10a及び第2トルクセンサ10bと、車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータ11と、モータ11のモータ回転軸の回転角を各々検出する第1回転角センサ12a及び第2回転角センサ12bと、第1トルクセンサ10aが検出した第1操舵トルク及び第2トルクセンサ10bが検出した第2操舵トルクのうちの選択された一方である被選択操舵トルクと、第1回転角センサ12aが検出した第1回転角及び第2回転角センサ12bが検出した第2回転角のうちの選択された一方である被選択回転角と、に基づいてモータ11を駆動制御するモータ制御部25と、第1トルクセンサ10aと第1回転角センサ12aとに電力を供給する第1電源20と、第2トルクセンサ10bと第2回転角センサ12bとに電力を供給する第2電源21と、第1トルクセンサ10a又は第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した場合に、モータ制御部25がモータ11の駆動制御に使用する被選択操舵トルク及び被選択回転角を、第1操舵トルク及び第1回転角から第2操舵トルク及び第2回転角にそれぞれ切り替えた後に、第1電源20をオフにする切替制御部と、を備える。
これにより、第1トルクセンサ10a又は第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した場合に、モータ11の駆動制御に用いるセンサを、第2トルクセンサ10b又は第2回転角センサ12bに円滑に切り替えることができる。
【0102】
(2)切替制御部は、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した場合に、異常を検知した時点から第1所定時間の経過まで、異常の検知前に検出した第1操舵トルクを保持する信号保持部32と、異常を検知した時点から第1所定時間の経過まで信号保持部に保持された第1操舵トルクを被選択操舵トルクとして選択し、第1所定時間の経過時点で被選択操舵トルクを第2操舵トルクに切り替える操舵トルク切替部36と、異常を検知した時点から第1所定時間よりも長い第2所定時間の経過まで第1回転角を被選択回転角として算出し、第2所定時間の経過後に第2回転角を被選択回転角として算出する回転角算出部44と、を備えてもよい。
このように、第1トルクセンサ10aに発生した異常を検知した場合に所定時間が経過してからモータ11の駆動制御に用いるセンサを切り替えるため、異常の誤検知による切り替えを抑制できる。
【0103】
(3)第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した場合に、操舵トルク切替部36は、異常を検知した時点から第2所定時間の経過時点で、被選択操舵トルクを第1操舵トルクから第2操舵トルクに切り替え、回転角算出部44は、異常の検知前に検出した第1回転角を初期値として、異常を検知した時点から第2所定時間の経過まで、異常を検知した時点以降の第2回転角の変化量を初期値に加算して被選択回転角を算出し、第2所定時間の経過後に第2回転角を被選択回転角として算出してもよい。
このように、第1回転角センサ12aに発生した異常を検知した場合に所定時間が経過してからモータ11の駆動制御に用いるセンサを切り替えるため、異常の誤検知による切り替えを抑制できる。
【0104】
(4)第1電源20に異常が発生した場合に、信号保持部32は、異常を検知した時点から第1所定時間の経過まで、異常の検知前に検出した第1操舵トルクを保持し、操舵トルク切替部36は、異常を検知した時点から第1所定時間の経過まで信号保持部に保持された第1操舵トルクを被選択操舵トルクとして選択し、第1所定時間の経過時点で被選択操舵トルクを第2操舵トルクに切り替え、回転角算出部44は、異常の検知前に検出した第1回転角を初期値として、異常を検知した時点から第2所定時間の経過まで、異常を検知した時点以降の第2回転角の変化量を初期値に加算して被選択回転角を算出し、第2所定時間の経過後に第2回転角を被選択回転角として算出してもよい。
これにより、第1電源20に異常が発生した場合に、モータ11の駆動制御に用いるセンサを、第2トルクセンサ10b又は第2回転角センサ12bに円滑に切り替えることができる。
【符号の説明】
【0105】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…ステアリング軸、3a…第1の部材、3b…第2の部材、3c…トーションバー、4…減速ギア、5a、5b…ユニバーサルジョイント、6…ラック・ピニオン機構、7a、7b…タイロッド、8a、8b…ハブユニット、9L、9R…操向車輪、10…トルクセンサユニット、10a…第1トルクセンサ、10aa…第1磁気検出素子、10ab…第2磁気検出素子、10b…第2トルクセンサ、10ba…第3磁気検出素子、10bb…第4磁気検出素子、10c…多極磁石、11…モータ、11a…モータ回転軸、12…回転角センサユニット、12a…第1回転角センサ、12b…第2回転角センサ、12c…第3回転角センサ、12d…多極磁石、13…コントローラ、14…車速センサ、20…第1電源IC、21…第2電源IC、22…第3電源IC、23…トルクセンサ信号処理部、24…回転角センサ信号処理部、25…モータ制御部、26…安全制御マネージャ、30a、30b、33a、33b…換算部、30c、33c…平均値算出部、31…第1トルクセンサ異常判定部、32、35…信号保持部、34…第2トルクセンサ異常判定部、36…操舵トルク切替部、37、47…診断処理部、40a…第5磁気検出素子、40b、41b、42b…診断用機械角算出部、40c、41c、42c…センサ信号異常判定部、41a…第6磁気検出素子、42a…第7磁気検出素子、43…異常判定部、44…機械角算出部、45…角度推定部、46…角度変換部、50…電流指令値演算部、51、52…減算器、53…PI制御部、54…2相/3相変換部、55…指令値補正部、56…PWM制御部、57…インバータ、58…3相/2相変換部、59…角速度変換部、60、61、62…電流センサ