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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023506
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】PCR方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20250207BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127674
(22)【出願日】2023-08-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】509233699
【氏名又は名称】株式会社ゴーフォトン
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】三谷 康正
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS12
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】血液を検体とした場合であっても、煩雑な核酸の精製作業等を行うことなく、PCR増幅に伴う蛍光信号の測定を好適に行うことのできるPCR方法を提供する。
【解決手段】PCR方法は、血液をPCR試薬に添加して試料を調製する工程(S10)と、マイクロ流体チップの流路内で試料を繰り返し往復移動させて、試料にサーマルサイクルを付与する工程(14)と、試料のPCRの進捗を監視するために、流路内の試料から蛍光を検出する工程(S16)と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液をPCR試薬に添加して試料を調製する工程と、
マイクロ流体チップの流路内で前記試料を繰り返し往復移動させて、前記試料にサーマルサイクルを付与する工程と、
前記試料のPCRの進捗を監視するために、前記流路内の前記試料から蛍光を検出する工程と、
を備えることを特徴とするPCR方法。
【請求項2】
前記サーマルサイクルを付与する工程において、前記流路内で前記試料を繰り返し往復移動させることにより、前記流路内において前記試料が有色の固形成分と透明溶液成分とに分離され、
前記蛍光を検出する工程において、前記透明溶液成分から発せられる蛍光を検出することを特徴とする請求項1に記載のPCR方法。
【請求項3】
前記試料における血液の添加率は0.01%~20%、好ましくは0.1%~10%、より好ましくは1%~5%であることを特徴とする請求項1または2に記載のPCR方法。
【請求項4】
前記PCR試薬は、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のPCR方法。
【請求項5】
前記PCR試薬は、添加剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のPCR方法。
【請求項6】
前記流路は、直線状流路と曲線状流路を組み合わせた蛇行状流路を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のPCR方法。
【請求項7】
前記流路は、第1温度に維持される第1温度領域と、前記第1温度と異なる第2温度に維持される第2温度領域と、前記第1温度領域と前記第2温度領域とを接続する接続流路と、を含み、
前記接続流路の断面積は、前記第1温度領域および前記第2温度領域に含まれる流路の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のPCR方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査は、各種医学分野における検査、農作物や病原性微生物の同定、食品の安全性評価、さらには病原性ウィルスや各種感染症の検査にも広く活用されている。微小量のDNAを高感度に検出するために、DNAの一部を増幅して得られたものを分析する方法が知られている。中でもPCRを用いた方法は、生体等から採取されたごく微量のDNAのある部分を選択的に増幅する注目の技術である。
【0003】
PCRは、DNAを含む生体サンプルと、プライマーや酵素などからなるPCR試薬とを混合した試料に、所定のサーマルサイクルを与え、変性、アニーリングおよび伸長反応を繰り返し起こさせて、DNAの特定の部分を選択的に増幅させるものである。DNAを増幅させながらその蛍光信号を測定し、定量分析を行うことにより、リアルタイムでのPCR解析を行うことができる。
【0004】
PCRにおいては、対象の試料をPCRチューブまたは複数の穴が形成されたマイクロプレート(マイクロウェル)などのチップに所定量入れて、サーマルサイクラーと呼ばれる装置で試料に対して温度変化を与えることが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/065917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなPCRチューブまたはマイクロプレートを用いた従来のPCR方法では、血液をPCR試薬に直接添加した試料に対してPCRを行った場合、PCR初期の加熱変性により血液成分の褐色化が進み、試料の蛍光透過度が低下するために、PCR増幅に伴う蛍光信号を正確に測定できず、リアルタイムPCR解析を適切に行うことができない虞がある。血液から核酸の抽出・精製作業を行い蛍光信号の測定を阻害する色素を除去してからPCR試薬に添加する、あるいは、血液を例えば10倍以上希釈してから微量血液のみをPCR試薬に添加する、などの方法により、従来のPCR方法でもリアルタイムPCRは可能であるが、このような作業を行うことは非常に煩雑で時間が掛かるものである。
【0007】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、血液を検体とした場合であっても、煩雑な核酸の精製作業等を行うことなく、PCR増幅に伴う蛍光信号の測定を好適に行うことのできるPCR方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のPCR方法は、血液をPCR試薬に添加して試料を調製する工程と、マイクロ流体チップの流路内で試料を繰り返し往復移動させて、試料にサーマルサイクルを付与する工程と、試料のPCRの進捗を監視するために、流路内の試料から蛍光を検出する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血液を検体とした場合であっても、煩雑な核酸の精製作業等を行うことなく、PCR増幅に伴う蛍光信号の測定を好適に行うことのできるPCR方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るPCR方法に適用可能なマイクロ流体チップの第1面側を示す斜視図である。
図2】マイクロ流体チップの第2面側を示す斜視図である。
図3】マイクロ流体チップが備える基板の第1面の平面図である。
図4】マイクロ流体チップが備える基板の第2面面の平面図である。
図5】マイクロ流体チップの断面構造を説明するための概念図である。
図6】マイクロ流体チップを利用可能なサーマルサイクルやPCRを実施するためのPCR装置を説明するための概略図である。
図7】本実施形態に係るPCR方法を説明するためのフローチャートである。
図8】マイクロ流体チップの流路内で試料を移動させたときに、試料がどのように変化するかを説明するための図である。
図9】マイクロ流体チップの流路内で試料を移動させたときに、試料がどのように変化するかを説明するための図である。
図10】マイクロ流体チップの流路内で試料を移動させたときに、試料がどのように変化するかを説明するための図である。
図11】マイクロ流体チップの流路内で試料を移動させたときに、試料がどのように変化するかを説明するための図である。
図12】マイクロ流体チップの流路内で試料を移動させたときに、試料がどのように変化するかを説明するための図である。
図13】マイクロ流体チップの流路内で試料を移動させたときに、試料がどのように変化するかを説明するための図である。
図14】本発明の実施形態に係るPCR方法に適用可能な別のマイクロ流体チップの第1面の平面図である。
図15図15(a)および図15(b)は、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す図である。
図16】一般的なリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す図である。
図17図17(a)および図17(b)は、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す図である。
図18】一般的なリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るPCR方法に適用可能なマイクロ流体チップ10の第1面側を示す斜視図である。図2は、マイクロ流体チップ10の第2面側を示す斜視図である。図3は、マイクロ流体チップ10が備える基板14の第1面14aの平面図である。図4は、マイクロ流体チップ10が備える基板14の第2面14b面の平面図である。図5は、マイクロ流体チップ10の断面構造を説明するための概念図である。図5は、流路、フィルムおよびフィルタと基板との位置関係を説明するための図であり、実施のマイクロ流体チップの断面図とは異なる点に留意されたい。
【0013】
マイクロ流体チップ(「流体チップ」、「(マイクロ)流路チップ」、「反応処理チップ」、「反応処理容器」、「核酸増幅用チップ」、「DNAチップ」または「測定チップ」などとも呼ばれる)10は、サーマルサイクルや反応に供される試料が移動する流路12を備える。マイクロ流体チップ10は、第1面14aに試料が移動する溝状の流路12が主として形成された樹脂製の基板14と、基板14の第1面14aに貼り付けられた第1封止フィルム16および第2封止フィルム18と、基板の第2面14bに貼り付けられた第3封止フィルム20と、を備える。また、マイクロ流体チップ10において、流路12へのコンタミネーションを抑制する目的で、基板14の流路12の両端部近傍に、第1フィルタ28および第2フィルタ30を備えてもよい。
【0014】
図3に示されるように、マイクロ流体チップ10の基板14の第1面14aには、少なくとも溝状の流路12と、流路12の両端部に配置され、流路12に連通し流路内を加圧または送風するポンプからの出力を取り付けるための空気連通口24,26と、流路12上に設けられた室状のチャンバ32,34と、流路12へのコンタミネーションを防止するためのフィルタ28,30を載置するフィルタスペース36,38と、が設けられている。溝状の流路12は、PCRやサーマルサイクルに供される試料が移動することが予定される。
【0015】
図4に示されるように、基板14の第2面14bには、空気連通口24,26とフィルタスペース36,38を連通するための溝状のエアダクト40,42と、試料を流路12に導入するための試料導入口(試料導入孔)44が設けられている。溝状のエアダクト40,42は、空気連通口24,26に接続したポンプなどからの送風や加圧のために、主として空気が通る流路として予定されてもよい。このように流路12やエアダクト40,42などを基板14の対向する二つの主面(第1面14aと第2面14b)に設けることで、基板14の主面の有効利用に役立つ。
【0016】
マイクロ流体チップ10の基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、バリア性が良好で、且つ、低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、アクリル、ポリプロピレン、シリコーンなどの樹脂、中でも環状ポリオレフィン樹脂が好適である。基板が樹脂からなる場合、金型を用いる射出成形により、大量に、かつ、高い品質で作製することが可能である。
【0017】
マイクロ流体チップ10の基板14の大きさは、特に限定されるものではなく、基板内に形成された流路内での化学的、物理的作用を満足するものであればその大きさは問わない。一方で、マイクロ流体チップが搭載される装置を小型にしたいという要請があるのであれば、マイクロ流体チップやそれを構成する基板についても小さくまたは薄くすることができる。マイクロ流体チップ10の基板14は、成形性や携帯性、取扱性のよい平行平板状であってよい。
【0018】
マイクロ流体チップ10の基板14の大きさは、例えば、厚みが1mm~10mmであり、好ましくは2mm~6mmであり、平面視においてW×Lの矩形状であり、Wは10mm~60mmであり、好ましくは20mm~35mmであり、Hは45mm~100mmであり、好ましくは60mm~85mmである。
【0019】
また、マイクロ流体チップ10は、透明な樹脂から構成されてもよい。マイクロ流体チップ10は、リアルタイムPCR法により試料に含まれる核酸の増幅に用いられることが予定される。核酸を含む試料がマイクロ流体チップ10の流路内で反応が進むとき、試料から出射される蛍光をリアルタイムで検出しモニタリングすることにより、反応の進捗や終了を知ることができる。流路内の試料からの蛍光の検出や、蛍光を起こさせる励起光の照射のような光学測定に供されるパーツとしては、マイクロ流体チップ10は透明な材料から構成されることが好ましい。
【0020】
基板14の第1面14aには溝状の流路12が形成されている。マイクロ流体チップ10において、流路12の大部分は基板の第1面14aに露出した溝状に形成されている。また、溝状のエアダクト40,42は基板14の第2面14bに露出した溝状に形成されている。このような形態をとることにより、流路12などを対向する二つの主面に備えた基板14が、金型を用いる射出成形により容易に成形される。基板14に形成された溝を封止して流路12として活用するために、基板14の各面上に流路封止フィルムが貼られる。流路12の寸法は、例えば幅0.2mm~1.5mm、深さ0.2mm~2mm程度であり、流路12の寸法は、幅0.7mm、深さ0.7mmであってもよい。また射出成型法により基板14を工業的により有利に生産するために、流路12の構造は、いわゆる「抜きテーパ」と称する、基板14の第1面14a、第2面14bに対して一定の角度を備える側面を含み得る。テーパの角度は1°~30°であってもよく、3°~15°であってもよい。
【0021】
流路12や試料導入口44、空気連通口24,26、チャンバ32,34、フィルタ28,30を封止するための封止フィルム16,18,20は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の第1面14a、第2面14bと密着して一体化できる機能を備える。封止フィルム16,18,20は、粘着剤も含めて低い、望ましくはほとんどゼロの自家蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、封止フィルム16,18,20は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、マイクロ流体チップ10の反りや変形防止に役立つ。
【0022】
流路12の一端近傍には、第1フィルタ28が設けられている。流路12の他端近傍には、第2フィルタ30が設けられていてもよい。流路12の両端近傍に設けられた一対の第1フィルタ28および第2フィルタ30は、PCRによって目的のDNAの増幅やその検出を妨げないように、または目的のDNAの品質が劣化しないように、流路内や試料へのコンタミネーションを防止する目的がある。第1フィルタ28および第2フィルタ30の寸法は、基板14の第1面14aに形成されたフィルタスペース36,38に隙間なく収まるような寸法に形成される。
【0023】
基板14には、第1エアダクト40および第1フィルタ28を介して流路12の一端に通じる第1空気連通口24が形成されている。同様に基板14には、第2エアダクト42および第2フィルタ30を介して流路12の他端に通じる第2空気連通口26が形成されている。一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26は、基板14の第1面14aに露出するように形成されている。
【0024】
流路12の一部は、一対の第1フィルタお28よび第2フィルタ30の間に、後述するPCR装置により複数水準の温度の制御が可能なサーマルサイクル領域を含む。ヒータなどを含む温度制御システムを有するPCR装置に、マイクロ流体チップ10をセットすることにより、マイクロ流体チップ10の流路12の一部が温度制御システムにより加熱され、求める温度に維持される。温度は、サーマルサイクルを付与してPCRなどの反応を生じさせるために必要な複数の温度に維持されるように制御される。反応は、試料に含まれる核酸が熱変性する反応や、アニーリング反応や、伸長反応を含む。流路12の一部に制御される温度は、これらの反応を生じさせる温度であってもよい。このような、複数水準の温度が維持された反応領域を連続的に往復するように試料を移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
【0025】
本実施形態において、サーマルサイクル領域は、第1温度領域46と、第2温度領域48とを含む。後述のPCR装置にマイクロ流体チップ10が搭載された際に、第1温度領域46は比較的高温(例えば約95℃)に維持され、第2温度領域48は、第1温度領域46よりも低温(例えば約60℃)に維持される。試料に含まれる核酸などが、第1温度領域46に含まれる流路内で熱変性反応を生じてもよく、第2温度領域48に含まれる流路内でアニーリング反応と伸長反応を生じてもよい。なお、第1温度領域46および第2温度領域48は、その温度の高低の観点から、それぞれ「高温領域」および「中温領域」と称してもよい。また、第1温度領域46と第2温度領域48は、その反応の属性の観点から、「変性領域」と「アニーリング・伸長領域」と称してもよい。
【0026】
第1温度領域46の一端は、第1チャンバ32に連通する。さらに、第1チャンバ32は、第1フィルタ28および第1エアダクト40を介して第1空気連通口24に連通する。第1温度領域46の他端は、接続流路50を介して第2温度領域48の一端に連通する。第2温度領域48の他端は、接続流路41を通じて第3蛇行状流路52の一端に連通する。第3蛇行状流路52の他端は第2チャンバ34に連通する。さらに、第2チャンバ34は、第2フィルタ30および第2エアダクト42を介して第2空気連通口26に連通する。
【0027】
本実施形態において、第3蛇行状流路52は、サーマルサイクルやPCRに直接関係しない流路であり、直線状流路と曲線状流路を含む。試料を流路内に導入するための試料導入口44を第3蛇行状流路52に連通させておく構造とすることで、PCRに供される予定の試料を待機させておくバッファ的な流路として用いてもよい。
【0028】
第1温度領域46および第2温度領域48はそれぞれ、曲線状流路と直線状流路とを組み合わせた連続的に折り返す第1蛇行状流路54,第2蛇行状流路56を含む。複数の曲線状流路を直線状流路によって接続しているともいえる。このような蛇行状流路とした場合、後述の温度制御システムを構成するヒータ等の限られた実効面積を有効に使うことができ、各温度領域内での温度のばらつきを低減することに貢献するとともに、マイクロ流体チップ10の実体的な大きさを小さくでき、PCR装置の小型化に貢献できるという利点がある。また、曲線状流路と直線状流路とを組み合わせることにより、例えば直線状流路のみで温度領域を構成した場合と比較して、流路を流れる試料の攪拌混合を促進することができる。これにより、後述するように試料を固形成分と透明溶液成分とに効果的に分離することができる。曲線状流路の曲率半径R2は、0.3mm~10mmであってよく、好ましくは0.5mm~6mmであってよい。
【0029】
一方、第1温度領域46と第2温度領域48は直線状の接続流路50により接続されている。接続流路50には、後述のPCR装置にマイクロ流体チップ10が搭載された際に、流路内を流れる試料から蛍光を検出するために励起光の照射を受ける領域(「蛍光検出領域」または単に「検出領域」と称する)58が設けられてもよい。この蛍光検出領域58に含まれる流路を検出流路59と称する。
【0030】
接続流路50は、試料の蛍光を検出するための蛍光検出装置の一部が配置される部分に対応する。そのため、第1温度領域46と第2温度領域48との間隔は、比較的長いものであってよく、例えば、第1温度領域46と第2温度領域48との間隔は、第1温度領域46および/または第2温度領域48に含まれる直線状の流路より長くてもよい。接続流路50に配置される蛍光検出装置の一部は、所定の体積を有するので、その蛍光検出装置の一部のパーツを配置するために、当該間隔を、ある一定の距離以上とすることにメリットがある。また、第1温度領域46と第2温度領域48との間隔は、長いほど、両方の温度領域間の熱的な干渉を小さくできるメリットがある。温度領域間の熱的な干渉が小さい場合、装置からヒータなどの温度制御手段を通じて供される熱の有効利用が図れ、装置の省電力化に貢献できる。
【0031】
一方で、PCR装置やマイクロ流体チップ10の大きさを小さくするメリット(携帯性や重量など)があるので、第1温度領域46と第2温度領域48との間隔は、例えば、マイクロ流体チップ10の平面図における長辺の長さLの1/2より短くてもよい。このとき、他の要素の搭載やマージンやブランクスペースの配置などのマイクロ流体チップの設計の自由度の向上が図ることができ、PCR装置の求める大きさや携帯性を確保しやすい。
【0032】
第1チャンバ32は、サーマルサイクル領域と第1空気連通口24との間に配置されている。より詳細には、第1チャンバ32は、サーマルサイクル領域の第1温度領域46と、第1フィルタ28の間に配置されている。流路内の試料は、例えば、第2空気連通口26から加圧または送風されることにより、第1温度領域46に向かって移動する。第1チャンバ32は、試料が過剰に押されて、または第1温度領域46をオーバーランして、第1フィルタ28に到達することを抑制する役割を備える。一定の体積を有する第1チャンバ32を流路中に備えることにより、試料がサーマルサイクル領域の所定の停止予定位置を通過した場合であっても、試料が第1チャンバ32内に留まり、停止させることができ、試料が第1空気連通口24に向かう流れを抑制することができる。
【0033】
第1チャンバ32は、図3に示すように、サーマルサイクル領域の第1温度領域46から延びる流路の流路端との接続部(または開口部)である第1接続部32aと、第1フィルタ28に向かう流路の流路端との接続部である第2接続部32bを備える。第1チャンバ32は、第1接続部32aの近傍に第1構造体32cを有する。この第1構造体32cは、第1接続部32aから第1チャンバ32に進入した液状の試料が、直接に第2接続部32bに向かうことを抑制し、第1フィルタ28の方向への試料の進入を抑制することに貢献する。
【0034】
第2チャンバ34は、サーマルサイクル領域と第2空気連通口26との間に配置されている。より詳細には、第2チャンバ34は、第3蛇行状流路52と第2フィルタ30との間に配置されている。流路内の試料は、例えば、第1空気連通口24から加圧または送風されることにより、試料が、第2温度領域48に向かって移動する。第2チャンバ34は、試料が過剰に押されて、または第2温度領域48や第3蛇行状流路52をオーバーランして、第2フィルタ30に到達することを抑制する役割を備える。
【0035】
第2チャンバ34は、図3のように、第3蛇行状流路52から延びる流路の流路端との接続部である第3接続部34aと、第2フィルタ30に向かう流路の流路端との接続部である第4接続部34bを備える。第2チャンバ34は、第3接続部34aの近傍に第2構造体34cを有する。この第2構造体34cは、第3接続部34aから第2チャンバ34に進入した液状の試料が、直接に第4接続部34bに向かうことを抑制し、第2フィルタ30の方向への試料の進入を抑制することに貢献する。
【0036】
第1チャンバ32、第2チャンバ34は、試料のオーバーランを防ぐ以外の機能を有していてもよい。例えば第1チャンバ32、第2チャンバ34は、反応用チャンバとして用いられてもよい。具体的には、第1チャンバ32、第2チャンバ34内にあらかじめPCR試薬を保持しておき、第1チャンバ32、第2チャンバ34内でPCR試薬に検体を添加した後、PCRを行ってもよい。
【0037】
図3に示すように、第1蛇行状流路54と第1チャンバ32との間に、第1拡幅流路60が設けられていてもよい。第1拡幅流路60は、第1温度領域46に属する流路に隣接し、且つ接続流路50から見て第1蛇行状流路54よりも奥側に設けられている。また、第2蛇行状流路56と第3蛇行状流路52との間に、第2拡幅流路62が設けられていてもよい。第2拡幅流路62は、第2温度領域48に属する流路に隣接し、且つ接続流路50から見て第2温度領域48に属する流路よりも奥側に形成されている。
【0038】
第1拡幅流路60は、その断面積が第1蛇行状流路54の断面積よりも大きくなるように設けられている。同様に、第2拡幅流路62は、その断面積が第2蛇行状流路56の断面積よりも大きくなるように設けられている。第1拡幅流路60および第2拡幅流路62はそれぞれ、第1蛇行状流路54および第2蛇行状流路56を流れる試料にブレーキ作用を及ぼす役割を有する。これは、流管通る流体の速さは、流管の断面積に反比例するとした、ベルヌーイの法則を利用したものである。試料が、第1温度領域46ならびに第2温度領域48を流れる場合に、試料に対して制動(ブレーキ)がかかり、第1温度領域46および第2温度領域48内に試料を停止させようとする機能が追加される。また、このように流路12の一部に断面積が変化する領域を設けることにより、当該領域において試料の攪拌混合を促進することができる。これにより、後述するように試料を固形成分と透明溶液成分とに効果的に分離することができる。
【0039】
マイクロ流体チップ10は、流路内に試料を導入するための少なくともひとつの試料導入口を有していてもよい、試料導入口は、例えば増幅対象の核酸を含む試料を、流路内に導入するためのインレットである。試料導入口は、基板14の主面から、いずれかの流路に通じて穿孔された構造を有していれば、その形状や大きさ、配置は問わない。図3および図4では、例として、第3蛇行状流路52に通じるように試料導入口44が設けられている。図3および図4では、流路12は面14aに、試料導入口44は14bに設けられており、互いに基板14の対向する面に形成されているが、基板14の同一の面に設けられていてもよい。別の実施形態に係るマイクロ流体チップは、二個の試料導入口(第1試料導入口および第2試料導入口)を備えていてもよい。
【0040】
図1に示すように、基板14の第1面14aには、少なくとも流路を封止するための第1封止フィルム16が貼り付けられる。第1封止フィルム16は、基板14の第1面14aの略全面を覆う程度の大きさのものであってよい。第1封止フィルム16は、送液システムのポンプの吐出ポートから通じているノズルを接続するために、空気連通口24,26が封止されないように、空気連通口24,26に対応する位置には、予め孔を開けておいてもよい。第1封止フィルム16は、空気連通口24,26が封止された態様でもよい。この場合、空気連通口24,26は、マイクロ流体チップ10を使用するとき、流路内を加圧または送風するための送液システムに用いられるポンプの吐出ポートから通じているノズルが取り付けられるので、ノズル端に中空のニードルなどを備えていれば、ニードル先端でフィルムを穿孔したうえで、ポンプの出力ポートと空気連通口24,26とを連通できる。
【0041】
基板14の第1面14aには、空気連通口24,26を除いた、流路12やフィルタスペース36,38、チャンバ32,34を封止するための第1封止フィルム16の使用とともに、例えば、第2空気連通口26のみが封止されるように、粘着性の第2封止フィルム18が貼り付けられていてもよい。このとき、第1空気連通口24には、封止のための封止フィルムが貼られていなくてもよい。マイクロ流体チップ10に、試料導入口44から試料を導入するとき、第1空気連通口24は、流路内に導入された試料の体積に対応する空気の排気ポートとしてはたらく。そして、そのまま、流路内に試料が導入されたマイクロ流体チップ10の空気連通口24,26に、送液システムのポンプの出力端が接続されてもよい。このとき第2封止フィルムを剥がしてもよい。流通時には、第1空気連通口24はオープンであるものの、第2空気連通口26をはじめ、その他のポートは封止フィルムにより封止されているので、第1空気連通口24から、ダストやちり、ほこりなどが入りにくく、コンタミネーシの抑制が可能である。
【0042】
図2に示すように、基板14の第2面14bには、空気連通口24,26とフィルタスペース36,38とを連通する溝状のエアダクト40,42と、試料を流路に導入するための試料導入口44が設けられている。基板14の第2面14bには、溝状のエアダクト40,42を封止するための第3封止フィルム20が貼り付けられていてもよい。さらに、基板14の第2面14bには、試料導入口44を封止するための第4封止フィルムが貼り付けられていてもよい。エアダクト40,42と、試料導入口44の位置が近ければ、第3封止フィルム20によって、エアダクト40,42と、試料導入口44を同時に封止してもよい。このときは、第4封止フィルムは不要である。
【0043】
図1および図2は、基板14とこれらの各封止フィルム16,18,20が貼り付けられて一体化した例を示す。図2には、エアダクト40,42と、試料導入口44を同時に封止せしめる第3封止フィルム20の態様の例が示されている。
【0044】
試料導入口44を介して、試料を流路内に導入する例を説明する。まず、作業者は、第3封止フィルム20を剥がして、試料導入口44を開放する。このとき、第3封止フィルム20は、試料導入口44が開放される程度に剥がし、溝状のエアダクト40,42は封止されたままとする。
【0045】
次に、ピペットやスポイト、シリンジなどによって、計量した試料を、試料導入口44から流路12内に入れる。さらにピペットやスポイト、シリンジなどを操作して、試料をサーマルサイクル領域の第1温度領域46か第2温度領域48に達するまで推してもよい。この場合、試料の到達した位置を、PCRやサーマルサイクルの際の試料の初期位置とすることができる。導入された試料により、試料の体積と略同じ体積の空気が流路内でおされて、開放されている第1空気連通口24よりリリースされる。このとき、第1空気連通口24は試料導入時の排気ポートとなる。
【0046】
次に、第3封止フィルム20を、もとに貼り戻す。第3封止フィルム20は、複数回の貼りと剥がしのサイクルに耐えうる特性を備えることが好ましい。こうすることで、マイクロ流体チップ10の流通時の清浄性の保持と、試料の導入作業の利便性の観点から好適となる。
【0047】
また、第2封止フィルム18と第3封止フィルム20は、初期状態で基板14の主面に貼り付けられている状態から、使用時に一部を剥がしたりする(貼り戻しもありうる)作業が容易なように、フィルム端部に表裏が非粘着性のタブ18a,20aを備えていてよい。作業者が、マイクロ流体チップ10の試料導入口44孔や空気連通口24,26をオープンな状態とする作業の利便性の向上に役立つ。
【0048】
また、第3封止フィルム20は、図2に示すように、試料導入口44とエアダクト42の間に、コーナー部20bを設けてもよい。このコーナー部20bは、作業者が試料導入口44だけを開放する際に、第3封止フィルム20を剥がす限度の目安となる。またコーナー部に略円形の切り込みを設けて、目安を強調したり、フィルムを途中まで剥がすことによっても、フィルムが切れにくくしてもよい。
【0049】
図6は、マイクロ流体チップ10を利用可能なサーマルサイクルやPCRを実施するためのPCR装置(「サーマルサイクル装置」、「サーマルサイクラー」、「反応処理装置」とも呼ばれる)100を説明するための概略図である。
【0050】
PCR装置100は、マイクロ流体チップ10が設置される設置部101と、比較的高温に制御される流路12の第1温度領域46を加熱するための第1ヒータ102と、流路の第2温度領域48を加熱するための第2ヒータ104と、各反応領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)を含む温度制御システムを備える。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。これらのヒータ、適切なヒータドライバ、およびマイクロコンピュータやマイクロプロセッサ、電子回路などから構成される制御装置110によって、マイクロ流体チップ10の流路12における第1温度領域46が約95℃、第2温度領域48が約60℃に維持され、PCRを実施するために必要なサーマルサイクル領域の各反応領域の温度が設定される。さらに、PCR装置100は、これらの各パーツを適切に稼働させるために、装置内に内蔵されるバッテリーや、外部からの電力の供給を受けるための電源ユニット(いずれも図示しない)を備える。各パーツを駆動させるためのドライバについては説明や記載を省略する。
【0051】
PCR装置100は、さらに、蛍光検出装置106を備える。試料Sには所定の蛍光プローブが添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料Sから発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗やその終結の判定材料としての指標とすることができる。
【0052】
蛍光検出装置106としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE-510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料Sの発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適しており応答スピードも優れている。
【0053】
光ファイバ型の蛍光検出装置106は、光学ヘッド108と、蛍光検出装置本体(ドライバ含む)112と、光学ヘッド108と蛍光検出装置本体112とを接続する光ファイバ114とを備える。蛍光検出装置本体112には励起光用光源(LED、レーザその他特定の波長を出射するように調整された光源)、光ファイバ型合分波器および光電変換素子(PD,APD又はフォトマル等の光検出器)(いずれも図示せず)等が含まれており、これらを制御するためのドライバやマイクロコンピュータ等からなる。光学ヘッド108はレンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。集光された蛍光は光ファイバ114を通じて蛍光検出器ドライバ内の光ファイバ型合分波器により励起光と分けられ、光電変換素子によって電気信号に変換される。光ファイバ型の蛍光検出器としては、特開2010-271060号に記載のものを使用することができる。光ファイバ型蛍光検出装置106は、さらに単一または複数の光学ヘッドを用いて同軸式に複数波長に係る検出が可能なようにモディファイすることもできる。複数波長に係る蛍光検出器とその信号処理については、国際公開第2014/003714号に記載の発明を活用することができる。
【0054】
PCR装置100においては、検出流路59内の試料Sからの蛍光を検出することができるように光学ヘッド108が配置される。試料Sは流路内でサーマルサイクル領域内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料Sに含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる(リアルタイムPCR)。また、PCR装置100においては、蛍光検出装置106からの出力値を利用して、試料Sの移動制御に活用する。例えば蛍光検出装置106からの出力値を制御装置110に送信して、後述の送液システム120の制御をする際のパラメータとして利用してもよい。蛍光検出装置106は、試料からの蛍光を検出する機能を発揮するものであれば光ファイバ型蛍光検出装置に限定されない。
【0055】
また蛍光検出装置106は、励起光/蛍光の複数のセットを設けることができる。例えば、第1蛍光検出装置は、青色の励起光を照射して試料から出射される緑色の蛍光を検出し、第2蛍光検出装置は、緑色の励起光を照射して赤色の蛍光を検出するようにセッティングされていてもよい。そのほか、検出の対象となる核酸や蛍光プローブなどの組み合わせに応じて、励起光/蛍光波長特性の組み合わせについて予めセッティングされた蛍光検出装置を配置してもよい。
【0056】
PCR装置100においては、蛍光検出装置106の光学ヘッド108は、サーマルサイクル領域内の接続流路50内の試料からの蛍光を検出するように配置されている。接続流路50は、第1温度領域46と第2温度領域48とを接続する流路である。上述したように、試料からの蛍光が検出されることが予定されている領域を蛍光検出領域58と称する。また蛍光検出領域58に属する流路を検出流路59と称する。検出流路59は流路が形成されている基板14の第1面14aに設けられている。
【0057】
PCR装置100は、さらに、試料Sをマイクロ流体チップ10の流路内で移動および停止させるための送液システム120を備える。送液システム120は、これに限られるものではないが、第1空気連通口24または第2空気連通口26を通じて、いずれか一方から空気を送り込む(送風する)ことによって、試料Sを流路内で一方向に移動させることができる。さらに、送液システム120は、流路への送風を止める、または流路内の試料Sの両側の圧力を等しくすることにより所定の位置で停止させることができる。
【0058】
図6に示すように、本実施形態における送液システム120は、送液用ポンプ128と、第1三方弁122と、第2三方弁124と、加圧チャンバ126と、を備える。さらに、送液システム120は、送液用ポンプ128の吐出ポートと空気連通口とを接続するチューブとノズルを備えていてもよい。
【0059】
加圧チャンバ126は、その内部に一定の体積を有する空間を形成している。加圧チャンバ126は、その内部空間の圧力を変化可能に構成される。加圧チャンバ126内の圧力は、PCRを行っている間は少なくともPCR装置100の周辺環境の気圧より高い圧力(例えば1.05~1.3気圧)に維持される。PCR装置100は、加圧チャンバ126内の圧力を高めるために、これらに限られないが、出力ポートが加圧チャンバ126内に接続されている加圧ポンプや送風ポンプ、ブロア、マイクロポンプ、シリンジポンプなど(図示しない)を含んでいてよい。PCR装置100の周辺環境の気圧とは、PCR装置100が設置されている場所、PCR装置100によるPCRが行われる場所、又はPCR装置100が周りから区画された場所に設置されている場合は、その区画された場所、における圧力(又は大気圧)のことを指す。加圧チャンバ126内の圧力は、試料が高温(95℃程度)に繰り返し曝されても、PCR反応処理に影響するような著しい試料の蒸発や気泡等の発生を防止できる程度に加圧すればよい。加圧チャンバ126内の圧力は高ければ高いほど、試料の蒸発等の影響を抑止することができるが、反面、その取扱いも含めて送液システム120が複雑化したり大型化したりするため、当業者は装置の用途や目的、費用、効果等を総合的に判断し、全体のシステムの設計をすることができる。
【0060】
加圧チャンバ126には、大気圧開放バルブ(リークバルブ)127が設けられている。大気圧開放バルブ127は、マイクロ流体チップ10の脱着時に、送液システム120やマイクロ流体チップ10の流路12内の圧力が大気圧に等しくなるように制御される。これにより、試料Sの急激な移動やとびだしを防ぐことができる。
【0061】
送液用ポンプ128は、加圧チャンバ126内に配置される。送液用ポンプ128は、停止時に一次側(空気の吸い込み側)と二次側(空気の吐出側)の圧力が等しくなる送風機またはマイクロブロアであってよい。送液用ポンプ128は、空気を流路内に送り込み、その送風や圧力の高まりを受けて液状の試料が移動する役割を有していて、現に液体自体を送り込むポンプではないことに留意する。
【0062】
第1三方弁122の第1ポートAは、送液用ポンプ128の出力ポート(吐出ポート)128aと接続される。第1三方弁122の第2ポートBは、加圧チャンバ126の内部空間と連通する。第1三方弁122の第3ポートCは、第1チューブ130の一端に接続され、該第1チューブ130の他端は、送液システム120の第1出力ポート131としてマイクロ流体チップ10の第1空気連通口24に接続される。第1三方弁122は、マイクロ流体チップ10の第1空気連通口24が送液用ポンプ128の出力ポート128aと連通する状態と、マイクロ流体チップ10の第1空気連通口24が加圧チャンバ126の内部空間に開放される状態とを切替可能である。マイクロ流体チップ10の第1空気連通口24と送液用ポンプ128の出力ポート128aとを連通する場合、第1三方弁122はポートAとポートCとが連通する状態に制御される。一方、マイクロ流体チップ10の第1空気連通口24を加圧チャンバ126の内部空間に開放する場合、第1三方弁122はポートBとポートCとが連通する状態に制御される。
【0063】
第2三方弁124の第1ポートAは、送液用ポンプ128の出力ポート128aと接続される。第2三方弁124の第2ポートBは、加圧チャンバ126の内部空間と連通する。第2三方弁124の第3ポートCは、マイクロ流体チップ10の第2空気連通口26と接続される。第2三方弁124の第3ポートCは、第2チューブ132の一端に接続され、該第2チューブ132の他端は、送液システム120の第2出力ポート133としてマイクロ流体チップ10の第2空気連通口26に接続される。第2三方弁124は、マイクロ流体チップ10の第2空気連通口26が送液用ポンプ128の出力ポート128aと連通する状態と、マイクロ流体チップ10の第2空気連通口26が加圧チャンバ126の内部空間に開放される状態とを切替可能である。マイクロ流体チップ10の第2空気連通口26と送液用ポンプ128の出力ポート128aとを連通する場合、第2三方弁124はポートAとポートCとが連通する状態に制御される。一方、マイクロ流体チップ10の第2空気連通口26を加圧チャンバ126の内部空間に開放する場合、第2三方弁124はポートBとポートCとが連通する状態に制御される。
【0064】
送液用ポンプ128、第1三方弁122および第2三方弁124の操作は、適切なドライバを通じて、制御装置110によって行わせることが可能である。特に、先述のように配置された光学ヘッド108が、得られた蛍光信号に基づく出力値を制御装置110に送信して、流路中の試料Sの位置やその通過を制御装置110に認識させることによって、送液システム120の制御を行うことができる。
【0065】
送液システム120を用いて、第1温度領域46から第2温度領域48に試料Sを移動する場合を説明する。送液用ポンプ128は動作状態(ON)に制御される。また、第1三方弁122は第1ポートAと第3ポートCが連通した状態、第2三方弁124は第2ポートBと第3ポートCが連通した状態に制御される。これにより、マイクロ流体チップ10の第1空気連通口24が送液用ポンプ128の出力ポート128aと連通するとともに、マイクロ流体チップ10の第2空気連通口26が加圧チャンバ126の内部空間に開放される状態となる。本実施形態では送液用ポンプ128が加圧チャンバ126内に配置されているので、送液用ポンプ128から空気が吐出されると、マイクロ流体チップ10の第1空気連通口24の圧力は第2空気連通口26よりも高くなり、試料Sが第1温度領域46から第2温度領域48に向かって移動する。試料Sが第2温度領域48に到達したとき、第1三方弁122は第2ポートBと第3ポートCが連通した状態、第2三方弁124は第2ポートBと第3ポートCが連通した状態に制御される。これにより、第1空気連通口24および第2空気連通口26は両方とも加圧チャンバ126の内部空間に開放された状態となるので、試料Sは第2温度領域48で停止する。逆に第2温度領域48から第1温度領域46に試料Sを移動する場合は、第1三方弁122と第2三方弁124を上記とは逆に操作すればよい。
【0066】
このように、流路12の両側に接続された第1三方弁122および第2三方弁124を順次に、かつ、連続的に操作することにより、試料Sを流路内で、第1温度領域46と第2温度領域48の間を連続して往復移動させて、それによって試料Sに適切なサーマルサイクルを与えることが可能となる。
【0067】
PCR装置100においては、周辺環境の気圧より高い圧力(例えば1.3気圧)に設定された加圧チャンバ126の内部空間に送液用ポンプ128を配置するとともに、第1三方弁122および第2三方弁124の第2ポートBが加圧チャンバ126の内部空間に開放されるよう構成されている。従って、反応処理中は、マイクロ流体チップ10の流路12全体が周辺環境の気圧より高い圧力に維持されている。このことは、例えば、メキシコシティなどの高地や飛行中の航空機内で、PCR装置100を用いることでメリットが特に享受できる。第1温度領域46の第1温度は、95℃またはその近傍である。高地や航空機内の圧力は1気圧より低いので、95℃でも試料Sの一部が沸騰する可能性が生じる。しかし、PCR装置100の加圧チャンバ126を備える送液システム120を採用することによって、このような低大気圧の環境における、望ましくない試料の沸騰を抑制することが可能となる。また、PCR装置100は、低い大気圧の環境でなくても問題なく用いることができる。
【0068】
送液システムは、図6に示す形態以外の形態を採用してもよい。ポンプとしては、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプ、マイクロブロアや送風機などを用いることができる。ポンプを二個用いるので、目的の温度領域に正確に停止させるために、ポンプの個体差を調整する必要の生じる場合がある。このときも、二個のポンプについて、停止時には一次側(空気の吸い込み側)と二次側(空気の吐出側)の圧力が等しくなる送風機またはマイクロブロアからなる送風用ポンプを用いることができる。試料を移動させる場合は、その方向に対応するポンプだけを動作させる。試料を停止させるときは、両方のポンプを停止させる。これによって、試料の両側の圧力がバランスされるので、試料を停止させることができる。
【0069】
流路12を備えたマイクロ流体チップ10を適用可能なPCR装置100は、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置とも呼ばれる。
【0070】
上述したように、PCRチューブまたはマイクロプレートを用いた従来のPCR方法では、血液を検体としてリアルタイムPCRを行う場合、血液から核酸の抽出・精製作業を行い蛍光信号の測定を阻害する色素を除去してからPCR試薬に添加する、あるいは、血液を例えば10倍以上希釈してから微量血液のみをPCR試薬に添加する、などの作業が必要であった。これは、従来のPCR方法では、血液をPCR試薬に直接添加した試料に対してPCRを行った場合、PCR初期の加熱変性により血液成分の褐色化が進み、試料の蛍光透過度が低下するために、PCR増幅に伴う蛍光信号の強度を正確に測定できないからである。すなわち、従来のPCR方法では、試料中の血液成分の色が蛍光検出を妨げていた。
【0071】
本発明者は、様々な試料に対してリアルタイムPCRの実験を行う中で、上記のような試料が流れる微細な流路12を備えるマイクロ流体チップ10および当該マイクロ流体チップ10にサーマルリサイクルを付与するPCR装置100を用いることにより、血液をPCR試薬に直接添加した試料であっても、PCR増幅に伴う蛍光信号の測定を好適に行うことができることを見いだした。
【0072】
図7は、本実施形態に係るPCR方法を説明するためのフローチャートである。本実施形態に係るPCR方法は、血液を検体としたリアルタイムPCR方法である。
【0073】
本実施形態に係るPCR方法においては、まず、血液をPCR試薬に添加して試料を調製する(S10)。ここでいう「血液」とは「全血」を意味する。本明細書では、「血液をPCR試薬に添加」とは、全血をそのままPCR試薬に直接添加することを意味しており、血液から精製された核酸をPCR試薬に添加することや、血液を簡易精製したクルードなものをPCR試薬に添加することは、血液をPCR試薬に添加する行為とは呼ばない。従来の技術文献においては、このような血液のPCR試薬への添加を「血液をPCR試薬に添加」と表現している場合があるので留意されたい。
【0074】
PCR試薬は、プライマーおよびプローブを含む。プローブは、TaqManプローブ(TaqMan/タックマンはロシュ ダイアグノスティックスゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの登録商標)であってよい。
【0075】
所定量のPCR試薬に対して所定量の血液を添加して、試料を調製する。試料における血液の添加率は、0.01%~20%、好ましくは0.1%~10%、より好ましくは1%~5%であってよい。例えば、PCR試薬19μLに全血1μLを添加することにより、血液添加率5%の試料20μLを調製できる。
【0076】
次に、マイクロ流体チップ10を準備し、マイクロ流体チップ10内の流路12に調製した試料を導入する(S12)。流路12への試料の導入は、ピペットやスポイト、シリンジなどを用いて、マイクロ流体チップ10の試料導入口44から行う。
【0077】
S10およびS12では、試料を調製した後に、マイクロ流体チップ10内に導入したが、マイクロ流体チップ10内で試料を調製してもよい。例えば、上述したように第1チャンバ32、第2チャンバ34内にあらかじめPCR試薬を保持しておき、第1チャンバ32、第2チャンバ34内でPCR試薬に血液を添加してもよい。
【0078】
次に、マイクロ流体チップ10の第1温度領域46と第2温度領域48との間で試料を繰り返し往復移動させて、試料にサーマルサイクルを付与する(S14)。数十サイクルのサーマルサイクルを試料に付与することにより、標的核酸が増幅される。
【0079】
S14のサーマルサイクルの間、試料のPCRの進捗を監視するために、流路12内の試料から発せられる蛍光信号を検出する(S16)。そして、検出した蛍光信号に基づいて、リアルタイムPCR解析を行う(S18)。リアルタイムPCR解析では、横軸をサイクル数(C)とし、縦軸を蛍光信号強度とした増幅曲線を作成する。試料に対してサーマルサイクルを付与し、試料中の標的核酸が増幅すると、蛍光信号の強度が増加する。蛍光信号強度が指数関数的に立ち上がるサイクル数はCt値(スレッシュホールドサイクル数)と呼ばれ、初期の検体濃度が高くなるにつれ、Ct値は小さくなる。リアルタイムPCR解析では、Ct値を求めるために、蛍光信号強度を正確に測定することが極めて重要である。
【0080】
図8図13は、マイクロ流体チップ10の流路12内で試料Sを移動させたときに、試料Sがどのように変化するかを説明するための図である。図8図13は、マイクロ流体チップ10の第1面14aに形成された流路12を概略的に示す。試料Sは、PCR試薬に血液を直接添加したものである。
【0081】
図8は、試料導入口44から流路12内に試料Sが導入された直後の状態を示す。導入直後の試料Sは、図8に示すように第3蛇行状流路52内に位置している。導入直後の試料Sは、赤色透明である。
【0082】
図9は、第3蛇行状流路52から第2温度領域48および接続流路50を通って、第1温度領域46に試料Sを移動させた状態を示す。上述したように、空気連通口24,26を介して流路12内を加圧または送風することにより、流路12内で試料を移動させることができる。第1温度領域46では、約95℃で15秒間加熱される。これにより、試料Sは赤色透明から、薄茶色の不透明に変化する。
【0083】
図10は、第1温度領域46から接続流路50を通って第2温度領域48に試料Sを移動させた状態を示す。第2温度領域48では、約60℃で15秒間加熱される。これにより、試料Sは徐々に固形成分(沈殿物)と透明溶液成分とに分離し始める。試料Sをの固形成分は、薄茶色不透明であり、透明溶液成分は、淡褐色透明である。
【0084】
図11は、第2温度領域48から接続流路50を通って第1温度領域46に試料Sを移動させた状態を示す。第1温度領域46では、約95℃で15秒間加熱される。これにより、試料Sの固形成分の凝集が進み、有色の固形成分と透明溶液成分との分離がさらに進行する。
【0085】
図12は、第1温度領域46から接続流路50を通って第2温度領域48に試料Sを移動させた状態を示す。第2温度領域48では、約60℃で15秒間加熱される。これにより、試料Sの固形成分の凝集がさらに進み、図12に示すように有色の固形成分と透明溶液成分の分離が明確になってくる。試料Sの固形成分は、薄茶色不透明から濃茶色不透明に変化する。透明溶液成分は淡褐色透明である。
【0086】
図13は、第2温度領域48から接続流路50を通って第1温度領域46に試料Sを移動させた状態を示す。第1温度領域46では、約95℃で15秒間加熱される。これにより、試料Sの固形成分の凝集がさらに進み、有色の固形成分(濃茶色)と透明溶液成分(淡褐色透明)との分離がさらに進行する。
【0087】
以降同様に、第1温度領域46と第2温度領域48との間で試料Sを繰り返し(数十サイクル)往復移動させることにより、PCRが進み、標的核酸が増幅される。この間、試料Sは有色の固形成分(濃茶色)と透明溶液成分(淡褐色透明)とに分離されたままである。
【0088】
本発明者は、PCR初期の第1温度領域46と第2温度領域48との間の数回の往復移動により、上記のように、血液を検体とする試料Sが不透明な有色の固形成分と透明溶液成分とに分離されることを見いだした。試薬が移動しない一般的なPCRにおいては、このように血液が加熱変性後に血液成分の分離は起きないので、PCR増幅による蛍光信号の強度を正確に測定することは困難であるが、本発明においては、試料Sが有色の固形成分と透明溶液成分とに分離されることにより、透明溶液成分から発せられる蛍光信号の強度を正確に測定することができるので、リアルタイムPCR解析を好適に行うことができる。
【0089】
本実施形態に係るPCR方法において、流路12内において試料が固形成分と透明溶液成分とに分離する現象は、試料が流路12内を移動する過程において、試料が攪拌混合されるためであると推察される。マイクロ流体チップ10では、第1温度領域46、第2温度領域48は、直線状流路と曲線状流路を組み合わせた第1蛇行状流路54、第2蛇行状流路56を含んでいる。試料を曲線状流路に流すことにより、単に直線状流路を流すだけの場合よりも試料が攪拌混合されるので、試料の固定成分と透明溶液成分の分離作用が促進される。
【0090】
流路12の一部の断面積が他の部分の断面積と異なるようにマイクロ流体チップを構成してもよい。この場合、断面積が変化する部分の凹凸で試料がより攪拌混合されるので、試料の固定成分と透明溶液成分の分離作用が促進される。この一例を以下に示す。
【0091】
図14は、本発明の実施形態に係るPCR方法に適用可能な別のマイクロ流体チップ70の第1面14aの平面図である。図14に示すように、マイクロ流体チップ70では、接続流路50における検出流路59の断面積が、第1蛇行状流路54、第2蛇行状流路56の断面積よりも大きくなっている。このような流路の断面積が変化する部分の凹凸により、試料がより攪拌混合されるので、試料の固定成分と透明溶液成分の分離作用が促進される。
【0092】
PCR試薬は、界面活性剤を含んでもよい。PCR試薬に界面活性剤が添加されている場合、流路12内を流れる間に、試料を好適に混ぜることができる。界面活性剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン系界面活性剤のいずれを用いることができ、高分子系のもの及び低分子系のものいずれも使用可能である。界面活性剤の例としては、純石けん分、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩を含み、具体的には、N,N-Bis(3-D-gluconamidopropyl)cholamide[BIGCHAP]、N,N-Bis(3-D-gluconamidopropyl)deoxycholamide[Deoxy-BIGCHAP]、NIKKOL BL-9EX [Polyoxyethylene(9)Lauryl Ether]、Octanoyl-N-methylglucamide [MEGA-8]、Nonanoyl-N-methylglucamide [MEGA-9]、Decanoyl-N-methylglucamide [MEGA-10]、Polyoxyethylene(8)Octylphenyl Ether [Triton X-114]、Polyoxyethylene(9)Octylphenyl Ether [NP-40]、Polyoxyethylene(10)Octylphenyl Ether [Triton X-100]、Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monolaurate [Tween 20]、Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monopalmitate [Tween 40]、Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monostearate [Tween 60]、Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate [Tween 80]、Polyoxyethylene(20)Sorbitan Trioleate、Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether [Brij35]、Polyoxyethylene(20)Cethyl Ether [Brij58]、n-Dodecyl-β-D-maltopyranoside、n-Heptyl-β-D-thioglucopyranoside、n-Octyl-β-D-glucopyranoside、n-Octyl-β-D-thioglucopyranoside、n-Nonyl-β-D-thiomaltoside、IGEPAL CA-630、Digitonin、Saponin,from Soybeans、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-2-hydroxy-1-propanesulfonate [CHAPSO]、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate [CHAPS]、Sodium Dodecylsulfate [SDS]、Lithium Dodecyl Sulfate [LDS]、Lithium 3,5-Diiodosalicylate、Tris(hydroxymethyl)aminomethane Dodecyl Sulfate[Tris DS]、Sodium Cholate、N-Lauroylsarcosine、Sodium N-Dodecanoylsalcosinate、Cetyldimethylethylammonium Bromide、Cetyltrimethylammonium Bromide[CTAB]、Cetyltrimethylammonium Chloride、Guanidine Thiocyanateなどが用いられる。
【0093】
PCR試薬は、添加剤を含んでもよい。PCR試薬に添加剤が添加されている場合、流路12内を流れる間に、試料を好適に混ぜることができる。これは、血液中のタンパクが変性し、PCRの邪魔にならないためである。本発明の増幅反応の効率、特異性を高めるために、硫酸アンモニウム、ウシ血清アルブミン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ベタイン、フォルムアミド、ゼラチン、グリセロール、PEG6000、SDS、スペルミジン、Triton、Triton X-100、尿素などのような添加剤を適切な添加量にして添加すると効果的である。上記物質の添加に加えて、アルカリ溶液を試料に混合することにより効率よく行うことができる。アルカリ溶液としては、アルカリ金属水酸化物の溶液、例えば水酸化ナトリウム溶液及び水酸化カリウム溶液を例示できるが、これらに限定されない。アルカリ濃度(OH-1の濃度)は、0.1mM以上、又は1mM以上、好ましくは10mM以上、より好ましくは30mM以上とすることができる。あるいは、pH7以上、好ましくはpH8以上、より好ましくはpH9以上とすることができる。アルカリ濃度及びpHは、その後の検出または増幅ステップを阻害しない限り、任意の濃度及びpHで行なうことができる(例えば10M以下)。
【0094】
以下、実施例について説明する。
【0095】
(第1実施例)
第1実施例では、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置と、PCRチューブを用いた一般的なリアルタイムPCR装置とを用いて、血液をPCR試薬に直接添加した試料を調製し、リアルタイムPCR測定を行った。
【0096】
以下の条件で、試料を作製した。GoTaq(登録商標)Enviro qPCR Systems(プロメガ社製)の2xPCR試薬が2倍希釈になるように、マアジ遺伝子を増幅する配列番号1及び2に記載のプライマー(各0.9μM)、配列番号3に記載のプローブ(0.4μM)、配列番号4に記載の鋳型DNA10コピーを添加したPCR試薬19μLを調製した。そこに全血1μLまたはddHOを添加し20μLの試料を調製し、各装置の1反応あたりの試料として用いた。以下に配列を示す。
プライマー:5'-CAGATATCGCAACCGCCTTT-3'(配列番号1)
プライマー:5'-CCGATGTGAAGGTAAATGCAAA-3'(配列番号2)
プローブ:5'-[FAM]-TATGCACGCCAACGGCGCCT-[BHQ1]-3'(配列番号3)
鋳型DNA:5'CAGATATCGCAACCGCCTTTACATCCGTAGCACACATCTGCCGGGACGTAAACTACGGCTGACTTATTCGCAATATGCACGCCAACGGCGCCTCCTTCTTTTTCATTTGCATTTACCTTCACATCGG-3'(配列番号4)
【0097】
以下にリアルタイムPCR装置とPCR条件を示す。レシプロカルフロー式の測定チップおよびリアルタイムPCR装置は、上述したマイクロ流体チップ10およびPCR装置100に対応する。
(レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置とPCR条件)
測定機器:PicoGene PCR1100(ゴーフォトン社製)
測定チップ:MCP2000 (ゴーフォトン社製)
測定条件:PCR1100でのセット値
Hot Start 95℃,15sec.
Denature 95℃,3.5sec.
Annealing & Extension 60℃,15sec.
Cycle 50
(一般的なリアルタイムPCR装置とPCR条件)
測定機器:CFX96 Touch Deep Well(バイオラッド社製)
測定チューブ:8連チューブ
測定条件:CFX96 Touch Deep Wellの実測定値(PCR1100と同様)
Hot Start 95℃,15sec.
Denature 95℃,3.5sec.
Annealing & Extension 60℃,15sec.
Cycle 50
【0098】
レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置を用いると、PCR試薬に血液を添加した試料は流路12中において95℃の第1温度領域46と60℃の第2温度領域48に交互に送液されることで、試料が攪拌混合されながら血液の凝固が進み、その固形成分と透明溶液成分が分離されて、その透明溶液成分の蛍光信号を測定することが可能となった。
【0099】
図15(a)および図15(b)は、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す。図15(a)は血液添加ありの試料のリアルタイム増幅曲線であり、図15(b)は血液添加なしの試料のリアルタイム増幅曲線である。図15(a)および図15(b)に示すように、血液添加ありの試料と血液添加なしの試料とで同様な増幅曲線を得ることができ、そのPCR増幅の判定は非常に容易である。
【0100】
一般的なリアルタイムPCR装置では、PCRチューブを用いて測定を行った。一般的なリアルタイムPCR装置においては、PCRチューブ内に試料が静置されたままの状態でPCR反応が進む。血液添加なしの試料においては、PCR前とPCR中の両方とも試料は透明であり、PCR増幅に伴う蛍光信号を十分に測定できた。一方、血液添加ありの試料においては、PCR前は赤色透明であったものが、PCR中は、PCR初期の加熱変性により血液成分の褐色化が進み、試料の蛍光透過度が下がる。そのため、PCR増幅に伴う蛍光信号を十分に測定することが不可能となった。
【0101】
図16は、一般的なリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す。図16に示すように、血液添加なしの試料の増幅曲線は、曲線の立ち上がりが明確であり、明瞭にPCR増幅を判定できる。一方、血液添加ありの試料の増幅曲線は、曲線の立ち上がりが不明確であり、PCR増幅の判定が非常に困難である。
【0102】
(第2実施例)
第2実施例では、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置と、PCRチューブを用いた一般的なリアルタイムPCR装置とを用いて、血液をRT-PCR試薬に直接添加した試料を調製し、リアルタイムRT-PCR測定を行った。
【0103】
以下の条件で、試料を作製した。GoTaq(登録商標)Enviro RT-qPCR Systems(プロメガ社製)の付属の逆転写酵素を所定量添加し、2xPCR試薬が2倍希釈になるようにしてSFTS遺伝子を増幅する配列番号5及び6に記載のプライマー(各0.9μM)、配列番号7に記載のプローブ(0.3μM)、配列番号8に記載の鋳型RNA10コピーを添加したRT-PCR試薬19μLを調製した。そこに全血1μLまたはddHOを添加し20μLの試料を調製し、各装置の1反応あたりの試料として用いた。以下に配列を示す。
プライマー:5'-ACCTGTCTCCTTCAGCTTCT-3'(配列番号5)
プライマー:5'-TGTCAGAGTGGTCCAGGATT-3'(配列番号6)
プローブ:5'-FAM-TGGAGTTTGGTGAGCAGCAGC-BHQ1-3'(配列番号7)
鋳型RNA:5'ACCTGTCTCCTTCAGCTTCTTGATGATCAATGCAGGATCAAGGCCTTCATAGGCCAGCTCTCTCGCAAAATCTTCAAGCTCAGTCAAATTGAGCTGCTGCTCACCAAACTCCACTGCAATCCTGGACCACTCTGACA-3'(配列番号8)
【0104】
以下にリアルタイムPCR装置とPCR条件を示す。レシプロカルフロー式の測定チップおよびリアルタイムPCR装置は、上述したマイクロ流体チップ10およびPCR装置100に対応する。
(レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置とPCR条件)
測定機器:PicoGene PCR1100(ゴーフォトン社製)
測定チップ:MCP2000 (ゴーフォトン社製)
測定条件:PCR1100でのセット値
RT 50℃,5min.
Hot Start 95℃,15sec.
Denature 95℃,3.5sec.
Annealing & Extension 60℃,20sec.
Cycle 45
(一般的なリアルタイムPCR装置とPCR条件)
測定機器:CFX96 Touch Deep Well(バイオラッド社製)
測定チューブ:8連チューブ
測定条件:CFX96 Touch Deep Wellの実測定値(PCR1100と同様)
RT 50℃,5min.
Hot Start 95℃,15sec.
Denature 95℃,3.5sec.
Annealing & Extension 60℃,20sec.
Cycle 45
【0105】
レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置を用いると、鋳型がDANのときと同様にRNAにおいても、RT-PCR試薬に血液を添加した試料は流路12中において50℃で5分の逆転写反応後、95℃の第1温度領域46と60℃の第2温度領域48に交互に送液されることで、試料が攪拌混合されながら血液の凝固が進み、その固形成分と透明溶液成分が分離されて、その透明溶液成分の蛍光信号を測定することが可能となった。
【0106】
図17(a)および図17(b)は、レシプロカルフロー式のリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す。図17(a)は血液添加ありの試料のリアルタイム増幅曲線であり、図17(b)は血液添加なしの試料のリアルタイム増幅曲線である。図17(a)および図17(b)に示すように、血液添加ありの試料と血液添加なしの試料とで同様な増幅曲線を得ることができ、そのPCR増幅の判定は非常に容易である。
【0107】
一方、一般的なリアルタイムPCR装置においては、PCRプローブ内に試料が静置されたままの状態でRT-PCR反応が進む。血液添加なしの試料においては、PCR前とPCR中の両方とも試料は透明であり、PCR増幅に伴う蛍光信号を十分に測定できた。血液添加ありの試料においては、PCR前は赤色透明であったものが、PCR中は、PCR初期の加熱変性により血液成分の褐色化が進み、試料の蛍光透過度が下がる。そのため、RT-PCR増幅に伴う蛍光信号を十分に測定することが不可能となった。
【0108】
図18は、一般的なリアルタイムPCR装置を用いたときの増幅曲線を示す。図18に示すように、血液添加なしの試料の増幅曲線は、曲線の立ち上がりが明確であり、明瞭にPCR増幅を判定できる。一方、血液添加ありの試料の増幅曲線は、曲線の立ち上がりが不明確であり、PCR増幅の判定が非常に困難である。
【0109】
以上の第1実施例および第2実施例のPCR結果から、本実施形態に係るPCR方法は、血液を直接PCR試薬に添加した試料に対して、PCR増幅に伴う蛍光信号の測定を好適に行うことができ、リアルタイムPCR解析を適切に行うことができることが分かる。本実施形態に係るPCR方法は、血液を直接PCR試薬に添加した試料を用いるため、煩雑な核酸の精製作業等は不要である。そのため、勘弁で迅速なリアルタイムPCRが可能である。
【0110】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0111】
10、70 マイクロ流体チップ、 12 流路、 14 基板、 16 第1封止フィルム、 18 第2封止フィルム、 20 第3封止フィルム、 24 第1空気連通口、 26 第2空気連通口、 28 第1フィルタ、 30 第2フィルタ、 32 第1チャンバ、 34 第2チャンバ、 40 第1エアダクト、 42 第2エアダクト、 46 第1温度領域、 48 第2温度領域、 54 第1蛇行状流路、 56 第2蛇行状流路、 58 蛍光検出領域、 59 検出流路、 60 第1拡幅流路、 62 第2拡幅流路、 100 PCR装置、 101 設置部、 102 第1ヒータ、 104 第2ヒータ、 106 蛍光検出装置、 108 光学ヘッド、 110 制御装置、 120 送液システム、 122 第1三方弁、 124 第2三方弁、 126 加圧チャンバ、 128 送液用ポンプ。
【0112】
配列番号1:プライマー
配列番号2:プライマー
配列番号3:プローブ
配列番号4:鋳型DNA
配列番号5:プライマー
配列番号6:プライマー
配列番号7:プローブ
配列番号8:鋳型RNA
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2025023506000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液をPCR試薬に添加して試料を調製する工程と、
マイクロ流体チップの流路内で前記試料を繰り返し往復移動させて、前記試料にサーマルサイクルを付与する工程と、
前記試料のPCRの進捗を監視するために、前記流路内の前記試料から蛍光を検出する工程と、
を備え
前記流路は、直線状流路と曲線状流路を組み合わせた蛇行状流路を含み、
前記サーマルサイクルを付与する工程において、前記蛇行状流路を含む前記流路内で前記試料を繰り返し往復移動させることにより、前記流路内において前記試料が有色の固形成分と透明溶液成分とに分離され、
前記蛍光を検出する工程において、前記透明溶液成分から発せられる蛍光を検出することを特徴とするPCR方法。
【請求項2】
前記試料における血液の添加率は0.01%~20%、好ましくは0.1%~10%、より好ましくは1%~5%であることを特徴とする請求項1に記載のPCR方法。
【請求項3】
前記PCR試薬は、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のPCR方法。
【請求項4】
前記PCR試薬は、添加剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のPCR方法。
【請求項5】
前記流路は、第1温度に維持される第1温度領域と、前記第1温度と異なる第2温度に維持される第2温度領域と、前記第1温度領域と前記第2温度領域とを接続する接続流路と、を含み、
前記接続流路の断面積は、前記第1温度領域および前記第2温度領域に含まれる流路の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のPCR方法。