(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023507
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ばね、ばねを挿入する方法、およびばねを挿入するための治具
(51)【国際特許分類】
F16F 1/06 20060101AFI20250207BHJP
B25B 27/30 20060101ALI20250207BHJP
F16L 55/00 20060101ALN20250207BHJP
【FI】
F16F1/06 N
F16F1/06 K
B25B27/30
F16L55/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127675
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中川 祥太
(72)【発明者】
【氏名】佐々 治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】池崎 明博
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松村 南月
(72)【発明者】
【氏名】熊見 彰仁
【テーマコード(参考)】
3C031
3J059
【Fターム(参考)】
3C031EE27
3J059AD01
3J059BA05
3J059BB01
3J059BC01
3J059CA04
3J059CB15
3J059EA20
(57)【要約】
【課題】構造体内で支持部材として機能するばねを提供すること
【解決手段】ばねは、第1端に位置する第1のフック、第1端の反対側の第2端に位置する第2のフック、および第1のフックと第2のフックの間のコイル部を有する。第1端側の外径は、第2端側の外径よりも大きい。第1のフックは、コイル部の中心軸に平行な方向においてコイル部と重なるロッドであり、当該方向において中心軸と重ならない。第2のフックは、当該方向においてコイル部と重なるロッドであり、当該方向において中心軸と重なってもよい。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端に位置する第1のフック、
前記第1端の反対側の第2端に位置する第2のフック、および
前記第1のフックと前記第2のフックの間のコイル部を有し、
前記第1端側の外径は、前記第2端側の外径よりも大きく、
前記第1のフックは、前記コイル部の中心軸に平行な方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重ならない、ばね。
【請求項2】
前記ロッドの延伸方向は、前記方向において前記中心軸と交差しない、請求項1に記載のばね。
【請求項3】
前記第2のフックは、前記方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重なる、請求項1に記載のばね。
【請求項4】
前記コイル部は、前記第1端側の第1部分、前記第2端側の第2部分、および前記第1部分と前記第2部分の間の中間部分を有し、
前記第1部分と前記第2部分の外径は一定であり、前記中間部分の外径は、前記第1部分からの距離が増大するに従って減少する、請求項1に記載のばね。
【請求項5】
ばねをチューブに挿入する方法であり、
前記ばねは、
第1端に位置する第1のフック、
前記第1端の反対側の第2端に位置する第2のフック、および
前記第1のフックと前記第2のフックの間のコイル部を有し、
前記方法は、
前記第2端を前記チューブ内に配置すること、および
前記第2端を固定した状態で前記ばねの巻き数を増大するように前記第1のフックを前記コイル部の中心軸を中心として回転しつつ、前記ばねを前記チューブ内に移動させることを含み、
前記第1端側の外径は、前記第2端側の外径と前記チューブの内径よりも大きく、
前記第1のフックは、前記コイル部の中心軸に平行な方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重ならない、方法。
【請求項6】
前記ロッドの延伸方向は、前記方向において前記中心軸と交差しない、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のフックは、前記方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重なる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記コイル部は、前記第1端側の第1部分、前記第2端側の第2部分、および前記第1部分と前記第2部分の間の中間部分を有し、
前記第1部分と前記第2部分の外径は一定であり、前記中間部分の外径は、前記第1部分からの距離が増大するに従って減少する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ばねをチューブに挿入するための治具であり、
第1の端部にスリットを有し、第2の端部にグリップ部を有するシャフト、および
中心に前記シャフトが貫通可能な貫通孔を有し、前記貫通孔と交差しない直線状の溝を備える台座を備える、治具。
【請求項10】
前記台座に取り付けられ、前記台座を前記シャフトを中心として回転するためのハンドルをさらに備える、請求項9に記載の治具。
【請求項11】
前記ばねは、
第1端に位置する第1のフック、
前記第1端の反対側の第2端に位置する第2のフック、および
前記第1のフックと前記第2のフックの間のコイル部を有し、
前記第1のフックは、前記コイル部の中心軸に平行な方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重ならず、
前記溝は、前記第1のフックが収容されるように構成される、請求項9に記載の治具。
【請求項12】
前記ロッドの延伸方向は、前記方向において前記中心軸と交差しない、請求項11に記載の治具。
【請求項13】
前記第1端側の外径は、前記第2端側の外径と前記チューブの内径よりも大きい、請求項11に記載の治具。
【請求項14】
前記第2のフックは、前記方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重なり、
前記スリットは、前記第2のフックが収容されるように構成される、請求項11に記載の治具。
【請求項15】
前記コイル部は、前記第1端側の第1部分、前記第2端側の第2部分、および前記第1部分と前記第2部分の間の中間部分を有し、
前記第1部分と前記第2部分の外径は一定であり、前記中間部分の外径は、前記第1部分からの距離が増大するに従って減少する、請求項11に記載の治具。
【請求項16】
ばねをチューブに挿入するための治具であり、
一方の端部に前記ばねの第2端を収容する第1の係合部を有するシャフト、
前記シャフトが貫通可能な貫通孔を有するロータ、および
前記ロータに取り付けられ、前記ロータから前記第1の係合部側に延伸するクランプバーを備え、
前記クランプバーは、先端に前記ばねの前記第2端の反対側の第1端を収容する第2の係合部を有する、治具。
【請求項17】
前記ロータに取り付けられ、前記ロータを前記シャフトを中心として回転するためのハンドルをさらに備える、請求項16に記載の治具。
【請求項18】
前記ばねは、
前記第1端に位置する第1のフック、
前記第2端に位置する第2のフック、および
前記第1のフックと前記第2のフックの間のコイル部を有し、
前記第1のフックは、前記コイル部の中心軸に平行な方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重ならない、請求項16に記載の治具。
【請求項19】
前記ロッドの延伸方向は、前記方向において前記中心軸と交差しない、請求項18に記載の治具。
【請求項20】
前記第1端側の外径は、前記第2端側の外径と前記チューブの内径よりも大きい、請求項18に記載の治具。
【請求項21】
前記第2のフックは、前記方向において前記コイル部と重なるロッドであり、前記方向において前記中心軸と重なる、請求項18に記載の治具。
【請求項22】
前記コイル部は、前記第1端側の第1部分、前記第2端側の第2部分、および前記第1部分と前記第2部分の間の中間部分を有し、
前記第1部分と前記第2部分の外径は一定であり、前記中間部分の外径は、前記第1部分からの距離が増大するに従って減少する、請求項18に記載の治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、ばね、およびばねをチューブなどの構造体に挿入するための治具と方法に関する。あるいは、本発明の実施形態の一つは、ばねをその外径よりも小さいチューブに挿入するための方法と治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ばね(コイルばね)は、トルクを掛けて巻き数を増大させることで、全長が増大するとともに外径が小さくなり、トルクを解放することで元の形状に戻ろうとする性質を有する。この性質を利用することで、ばねをその外径よりも小さいチューブなどの構造体に挿入することができる。構造体に挿入されたばねは、構造体を完全に閉塞しないため、チューブ内に一定の大きさの固体を保持しつつ、気体や液体などの流体の通過を許容する支持部材として機能することができる(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-142299号公報
【特許文献2】特開2015-16425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の課題の一つは、新規な構造を有するばねを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、チューブなどの構造体内で支持部材として機能するばねを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記ばねをその外径よりも小さいチューブに挿入するための方法と治具を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、ばねである。このばねは、第1端に位置する第1のフック、第1端の反対側の第2端に位置する第2のフック、および第1のフックと第2のフックの間のコイル部を有する。第1端側の外径は、第2端側の外径よりも大きい。第1のフックは、コイル部の中心軸に平行な方向においてコイル部と重なるロッドであり、当該方向において中心軸と重ならない。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、ばねをチューブに挿入する方法である。ばねは、第1端に位置する第1のフック、第1端の反対側の第2端に位置する第2のフック、および第1のフックと第2のフックの間のコイル部によって構成される。当該方法は、第2端をチューブ内に配置すること、および第2端を固定した状態でばねの巻き数を増大するように第1のフックをコイル部の中心軸を中心として回転しつつ、ばねをチューブ内に移動させることを含む。第1端側の外径は、第2端側の外径とチューブの内径よりも大きい。第1のフックは、コイル部の中心軸に平行な方向においてコイル部と重なるロッドであり、当該方法において中心軸と重ならない。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、ばねをチューブに挿入するための治具である。治具は、シャフト、および台座を備える。シャフトは、第1の端部にスリットを有し、第2の端部にグリップ部を有する。台座は、中心にシャフトが貫通可能な貫通孔を有し、貫通孔と交差しない直線状の溝を備える。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、ばねをチューブに挿入するための治具である。治具は、一方の端部にスリットを有するシャフト、シャフトが貫通可能な貫通孔を有するロータ、およびロータに取り付けられ、少なくとも一部が貫通孔の中心軸と平行な方向に延伸するクランプバーを備える。クランプバーは、先端にスリットを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の実施形態に係るばねの模式的側面図。
【
図1B】本発明の実施形態に係るばねの第1端の模式図。
【
図2】本発明の実施形態に係るばねの模式的側面図。
【
図3A】本発明の実施形態に係るばねの模式的側面図。
【
図3B】本発明の実施形態に係るばねの第1端の模式図。
【
図4A】本発明の実施形態に係る、ばねを構造体に挿入するための治具の模式的側面図。
【
図4B】本発明の実施形態に係る、ばねを構造体に挿入するための治具の模式的正面図。
【
図5A】本発明の実施形態に係る、ばねを構造体に挿入するための治具の模式的斜視図。
【
図5B】本発明の実施形態に係る、ばねを構造体に挿入するための治具の模式的正面図。
【
図6A】本発明の実施形態に係るばねが挿入される構造体の模式的斜視図。
【
図6B】本発明の実施形態に係るばねを構造体に挿入する方法を示す模式的側面図。
【
図6C】本発明の実施形態に係るばねを構造体に挿入する方法を示す模式的側面図。
【
図7】本発明の実施形態に係るばねを構造体に挿入する方法を示す模式的側面図。
【
図8A】本発明の実施形態に係る、ばねを構造体に挿入するための治具の模式的側面図。
【
図8B】本発明の実施形態に係る、ばねを構造体に挿入するための治具の一部の模式的上面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0012】
本明細書および図面において、同一、あるいは類似する複数の構成を総じて表記する際には同一の符号を用い、これら複数の構成のそれぞれを区別して表記する際には、さらにハイフンと自然数を添えて表記する。一つの構成のうちの複数の部分をそれぞれ区別して表記する際には、同一の符号を用い、さらにアルファベットを用いる。
【0013】
以下、本発明の実施形態の一つであるばね、およびばねを構造体に挿入するための方法と治具を説明する。
【0014】
1.ばね
図1Aに本発明の実施形態の一つに係るばね100の模式的側面図を示す。ばね100は所謂コイルばねである。ばね100は、鉄やアルミニウム、銅、クロム、モリブデン、タングステン、チタンなどの金属(0価の金属)、またはステンレスなどの合金を含む素線によって構成され、素線は、
図1Aの鎖線で示される中心軸Axを中心としてコイル状に巻かれる。以下、中心軸Axに平行な方向をz方向とし、z方向に対して垂直であり、かつ、互いに垂直な方向をx方向とy方向とする。
【0015】
ばね100は、コイル状に巻かれたコイル部102、素線の一端(第1端)に設けられる第1のフック104、第1端に対して反対側に位置する素線の一端(第2端)に設けられる第2のフック106によって構成される。ばね100の外径は全体に亘って一定ではなく、
図1Aに示すように、ばね100が自然状態では、第1端側の外径D
1は、第2端側の外径D
2よりも大きい。したがって、コイル部102は、複数の部分で構成することができ、例えば、第1端側の第1部分102-1、第2端側の第2部分102-2、および第1部分102-1と第2部分102-2の間に位置する中間部分102-3よってコイル部102を構成することができる。第1部分102-1、第2部分102-2、および中間部分102-3の中心軸は実質的に同軸であり、中心軸Axと一致する。第1部分102-1の外径D
1は、中心軸Axに沿って一定または略一定であり、同様に、第2部分102-2の外径D
2も中心軸Axに沿って一定または略一定である。一方、中間部分102-3の外径は、第1部分102-1からの距離が増大するに従って外径D
1から外径D
2へ減少する。
【0016】
あるいは、
図2に示すように、コイル部102が第1端側から第2端側に亘って徐々に外径がD
2からD
1へ変化するようにばね100を構成してもよい。
【0017】
図1Bに示すように、第1端では素線が曲げられ、第1のフック104が形成される。素線が曲線状であるコイル部102と異なり、第1のフック104は直線状のロッドである。第1のフック104は、中心軸Axに平行な方向(すなわち、z方向)において、第1のフック104以外の部分、すなわち、コイル部102と重なる。第1のフック104は、中心軸Axに対して垂直または実質的に垂直な方向(すなわち、xy平面内)に延伸してもよく、図示しないが、xy平面と交差するように延伸してもい。また、第1のフック104は、z方向において中心軸Axと重ならない。さらに、第1のフック104の長さは、外径D
1よりも短い。
【0018】
より具体的には、
図1Aと
図1Bに示すように、第1のフック104がz方向において中心軸Axと重ならないだけでなく、その延伸方向もz方向において中心軸Axと重ならない(交差しない)ようにばね100が構成される。あるいは、
図3Aと
図3Bに示すように、第1のフック104の延伸方向はz方向において中心軸Axと重なる(交差する)ものの、第1のフック104自体はz方向において中心軸Axと重ならないようにばね100が構成される。第1のフック104の末端は、その直上に回り込む素線と重なってもよく(
図1B)、図示しないが、その直上に回り込む素線と重ならなくてもよい。後述するように、第1のフック104自体がz方向において中心軸Axと重ならないように配置することで、外径D
1よりも小さい内径を有するチューブに対して容易にばね100を挿入することができる。
【0019】
同様に、
図1Cに示すように、第2端でも素線が曲げられ、第2のフック106が形成される。第1のフック104と同様、第2のフック106も直線状のロッドであり、z方向において、第2のフック106以外の部分、すなわち、コイル部102と重なる。ただし、第2のフック106は、z方向において中心軸Axと重なる。第2のフック106は、中心軸Axに対して垂直または実質的に垂直な方向(すなわち、xy平面内)に延伸してもよく、あるいは、図示しないが、xy平面と交差するように延伸してもい。第2のフック106の末端も、その直下に回り込む素線と重なってもよく(
図1C)、図示しないが、その直下に回り込む素線と重ならなくてもよい。なお、ばね100が自然長の時の第1のフック104と第2のフック106の延伸方向は任意に決定でき、互いに平行でも垂直でもよく、あるいは任意の角度で交差してもよい。
【0020】
2.治具
図1Aから
図2に示すばね100、すなわち、第1のフック104が中心軸Axと重ならず、かつ、第1のフック104の延伸方向が中心軸Axと交差しないばね100をチューブなどの構造体へ挿入するための治具120の模式的側面図と正面図をそれぞれ
図4Aと
図4Bに示す。これらの図に示すように、治具120は、シャフト122、グリップ部124、および台座126を主な構成として備える。治具120は、さらにハンドル128を備えてもよい。シャフト122、グリップ部124、台座126、およびハンドル128のすべてまたは一部は、鉄、アルミニウム、銅などの金属、またはステンレスや真鍮などの合金を含んでもよく、あるいはエポキシ樹脂やフェノール樹脂、フッ素樹脂などの樹脂を含んでもよい。樹脂は、ガラス繊維や炭素繊維などを含む繊維強化プラスチックでもよい。シャフト122、グリップ部124、台座126、およびハンドル128のすべてまたは一部が樹脂を含むことで、軽量化によって操作性が向上した治具120を提供することができる。
【0021】
シャフト122は直線状に延伸し、一方の端部に切込み(スリット)122aを有する。切込み122aは、ばね100の第2端に設けられる第2のフック106を収容して噛み合うように形成される。したがって、切込み122aは、その幅(切込み122aが延伸する方向に垂直な方向の長さ)と深さ(シャフト122が延伸する方向の長さ)がばね100を構成する素線の直径以上となるように設けられる。一方、シャフト122の他の端部には、グリップ部124が設けられる。グリップ部124の構造は任意であり、後述するように、切込み122aにばね100の第2のフック106を収容した状態で構造体に挿入されたばね100を保持できるように構成すればよい。したがって、例えばグリップ部124は、シャフト122の延伸方向から傾くバー、あるいはシャフト122から分岐したT字またはY字状のロッドなどでもよい。グリップ部124は、シャフト122と一体化されていてもよく、あるいは独立した部材としてシャフト122に取り付けられていてもよい。グリップ部124とシャフト122は固定されるため、グリップ部124、シャフト122、および切込み122aの相対的な距離と位置関係は変化しない。なお、図示しないが、切込み122aに替えて、ばね100の第2のフックが貫通する貫通孔をシャフト122の端部に設けてもよい。
【0022】
台座126は、ばね100の第1のフック104を把持し、第1のフック104に対して巻き数を増大するようにトルクを掛けてばね100を中心軸Axを中心として回転しながらz方向に押し出すための基材として機能する。台座126の形状は、円板状でもよく、多角形でもよく、あるいはxy平面の輪郭が曲線と直線で構成されてもよい。台座126には、シャフト122が貫通可能な貫通孔が設けられ、これにより、シャフト122を貫通孔に挿入した状態で台座126とシャフト122を相対的に回転することができ、かつ、シャフト122の延伸方向に沿って相対的に移動することができる。ハンドル128は台座126に連結または固定され、ハンドル128を用いることで台座126をシャフト122の延伸方向を中心として回転することができる。ハンドル128の構成も適宜選択することができ、シャフト122に取り付けられた状態で台座126を回転できる任意の構成を採用すればよい。例えば
図4Aや
図4Bに示すように、台座126の側面からシャフト122の延伸方向に対して垂直に延伸する一つまたは複数のロッドでもよく、図示しないが、台座126のグリップ部124側に設けられるステアリングでもよい。ハンドル128は、台座126と一体化されていてもよく、あるいは独立した部材として台座126に取り付けられていてもよい。
【0023】
台座126の表面(グリップ部124に対して反対側の面)には、xy平面上を延伸する直線状の溝126aが設けられる。溝126aは、ばね100の第1のフック104を収容して噛み合うように構成される。したがって、切込み122aと同様、溝126aは、その幅(溝126aが延伸する方向に垂直な方向の長さ)と深さ(シャフト122が延伸する方向の長さ)がばね100の素線の直径以上となるように設けられる。台座126は、そのxy平面における最大長(円板形状であれば直径)D3がばね100の外径D1よりも小さくなるように構成される。このため、ばね100にシャフト122を挿入し、溝126aに第1のフック104を収容した状態で、台座126を介してばね100をz方向に押し出すことができ、かつ、ばね100が挿入される対象であるチューブなどの構造体との干渉を避けることができる。
【0024】
また、ばね100に対してトルクを掛ける際に第1のフック104をより確実に把持できるよう、台座126に溝126aに連続する係合部126bを設けてもよい。係合部126bは溝126aの一部を構成し、z方向において台座126から露出しない部分である。換言すると、溝126aは、台座126の表面において延伸する方向(
図5Bにおけるx方向)と
図5Bにおいて点線で示された底面が延伸する方向が交差するように形成してもよい。係合部126bは、その高さ(z方向における長さ)が素線の直径以上となるように設けられる。
【0025】
3.ばねの挿入方法
ばね100が挿入される構造体の一例としてチューブを挙げ、ばね100の挿入方法を
図6Aの模式的斜視図、
図4Aおよび
図6Bから
図7の模式的側面図、および
図4Bの模式的正面図を用いて説明する。
【0026】
ばね100が挿入されるチューブ130の内径D
4は(
図6A参照。)、ばね100の第2端側の外径D
2よりは大きいものの、第1端側の外径D
1よりも小さい。このため、チューブ130にばね100が挿入された後、ばね100はチューブ130から脱落しない。また、ばね100は素線によって構成されるため、素線間の隙間が存在する。このため、チューブ130を閉塞することなく、少なくともチューブ130に挿入された状態における素線の隙間よりも大きい固体をチューブ130内に保持することができると同時に、液体や気体などの流体の通過を許容することができる。
【0027】
まず、
図4Aに示すように、ばね100を治具120に取り付ける。すなわち、シャフト122を台座126の貫通孔に挿入し、さらにばね100に挿入する。また、ばね100の第1のフック104と第2のフック106をそれぞれ溝126aと切込み122aに収容する。この状態において、コイル部102の中心軸Axとシャフト122の延伸方向が概ね一致する。
【0028】
その後、ばね100の第2端をチューブ130に挿入し、z方向に移動させる(
図6B)。内径D
4は外径D
1よりも小さいので、ばね100をz方向に移動すると、チューブ130がばね100の中間部分102-3または第1部分102-1と当接する。この状態において、グリップ部124の回転を固定し、ばね100をz方向に移動させつつ、ばね100の巻き数が大きくなるように台座126を回転させる(
図4Bの点線矢印参照。)。台座126の回転は、ハンドル128を用いて行ってもよく、これにより、ばね100に対してより大きなトルクを掛けることができる。上述したように、ばね100の第2端に設けられる第2のフック106が切込み122aに収容されるが、グリップ部124と切込み122aの相対的な距離や位置関係は変化しない。また、台座126の溝126aにはばね100の第1端に設けられる第1のフック104が収容される。したがって、台座126の回転により、第1のフック104が回転することなく第2のフック106が回転し、その結果、ばね100の巻き数を増大させることができる。
【0029】
ばね100の巻き数が増大するとばね100の外径がD
1から減少する。このため、ばね100のz方向への移動に伴ってばね100の中間部分102-3や第1部分102-1を徐々にチューブ130内に挿入することができる。最終的にばね100の外径がチューブ130の内径D
4以下の外径D
1´に到達すると(
図7)、ばね100の全体をチューブ130内に挿入することができる。
【0030】
上述したように、台座126に設けられる溝126aは、シャフト122が貫通する台座126の貫通孔と交差しない、すなわち、貫通孔と干渉しない。このため、溝126aは、台座126の回転に伴ってシャフト122の延伸方向を中心として回転することができる。また、ばね100の第1のフック104は、コイル部102の中心軸とz方向において重ならないように設けられる。このため、ばね100を治具120に取り付ける際、第1のフック104による干渉を受けること無く切込み122aに第2のフック106を容易に、かつ、確実に固定することができる。第1のフック104と第2のフック106を台座126の溝126aとシャフト122の切込み122aにそれぞれ収容した状態で台座126を回転することで、容易にばね100に対してトルクを掛け、巻き数を増大させて外径を小さくすることができる。特に、溝126aに第1のフック104を収容することで、第1のフック104が台座126と接触する部分が大きくなるので、大きなトルクを掛けることができる。このため、大型のばね100をチューブ130に挿入する場合でも高い作業効率を維持することができる。さらに、シャフト122と第1のフック104が干渉しないため、シャフト122の外径をばね100の最小内径(第2部分102-2の内径)の範囲で大きく設定することができるので、治具120に高い剛性が付与され、大きなトルクをばね100に対して掛けることができる。その結果、ばね100をその自然状態における外径D1よりも小さい内径D4を有するチューブ130に容易に挿入、固定することができる。
【0031】
その後、ばね100に印加されたトルクを解放する。これにより、ばね100には元の状態に戻ろうとする復元力が働き、外径が増大する。しかしながら、自然状態におけるばね100の外径D1は内径D4よりも大きいため、ばね100の外径は内径D4を維持し、その結果、ばね100とチューブ130の間に大きな摩擦力が働く。この摩擦力がばね100のチューブ130からの脱落を防ぐとともに、チューブ130内に設けられる固体の保持を可能とする。
【0032】
4.治具の変形例
治具120の変形例として、
図3Aと
図3Bに示すばね100、すなわち、第1のフック104が中心軸Axと重ならないものの、第1のフック104の延伸方向が中心軸Axと交差するばね100をチューブなどの構造体へ挿入するための治具140の模式的側面図を
図8Aに示す。
図8Aに示すように、治具140は、シャフト142、ロータ146、および、クランプバー150を主な構成として備える。治具140は、ハンドル148をさらに備えてもよい。これらのシャフト142、ロータ146、ハンドル148、および、クランプバー150も、上述した金属、合金、または樹脂を含んでもよい。
【0033】
シャフト142は直線状に延伸し、一方の端部に係合部142aを有する。係合部142aは、切込み122aと同様、ばね100の第2端に設けられる第2のフック106を収容して噛み合うように形成される。したがって、係合部142aの形状に制約はなく、例えば、係合部142aは、
図8Aに示すような切込みでもよく、図示しないが、シャフト142を貫通する貫通孔、でもよい。係合部142aが切込みの場合、その幅(切込みが延伸する方向に垂直な方向の長さ)と深さ(シャフト142が延伸する方向の長さ)がばね100を構成する素線の直径以上となるように設けられる。係合部142aが貫通孔の場合には、その直径が素線の直径以上となるように係合部142aが設けられる。一方、シャフト142の他方の端部は、係合部142aにばね100の第2のフック106を収容した状態で構造体に挿入されたばね100を保持するために働く。したがって、シャフト142の他方の端部は、
図8Aに示すようにロッド状でもよく、図示しないが、治具120のグリップ部124と同様の形状を有してもよい。
【0034】
ロータ146は、シャフト142が貫通するための貫通孔を備える。これにより、ロータ146の中心軸を中心としてシャフト142とロータ146を相対的に回転することができる。
【0035】
クランプバー150もロータ146に連結される。クランプバー150は、ロータ146側から係合部142a側に延伸する。クランプバー150は、ロータ146の貫通孔の中心軸と平行な方向(z方向)に延伸してもよく、z方向から傾いた角度で延伸してもよい。
図8Bに示すように、クランプバー150の先端部にも係合部150aが設けられる。係合部150aは、ばね100の第1端に設けられる第1のフック104を収容して噛み合うように形成される。したがって、係合部150aの構造にも制約はなく、係合部150aは、
図8Bに示すような切込みでもよく、図示しないが、クランプバー150を貫通する貫通孔でもよい。係合部142aと同様、係合部150aが切込みの場合、その幅(切込みが延伸する方向に垂直な方向の長さ)と深さ(クランプバー150が延伸する方向の長さ)がばね100を構成する素線の直径以上となるように設けられる。係合部150aが貫通孔の場合には、その直径が素線の直径以上になるように係合部150aが設けられる。
【0036】
任意の構成であるハンドル148は、ロータ146に連結される。ハンドル148を設けることにより、ロータ146の回転が補助される。ハンドル148の構成も適宜選択することができ、ハンドル128と同様、シャフト142に取り付けられた状態でロータ146を回転できる任意の構成を採用すればよい。治具120と同様に、ハンドル148もロータ146と一体化されていてもよく、あるいは独立した部材としてロータ146に取り付けられていてもよい。
【0037】
上述した構成を有する治具140を用いる場合には、ばね100の第2のフック106を係合部142aを収容した状態でばね100を構造体に挿入する。これにより、ばね100の全体的な回転を抑制することができる。一方、第1のフック104がクランプバー150の先端に設けられる係合部150aによって把持される。この状態でロータ146を回転する。ロータ146を回転は、ハンドル148を用いておこなってもよく、これにより、ばね100に対してより大きなトルクを掛けることができる。ロータ146の回転に伴ってクランプバー150もシャフト142の周りを回転するため、ばね100にトルクを掛けることができる。治具120を用いる場合と同様、ばね100の巻き数が大きくなるようにハンドル148を用いてロータ146を回転することで、ばね100の外径がD1から減少するので、ばね100のz方向への移動に伴ってばね100の中間部分102-3や第1部分102-1を徐々にチューブ130などの構造体内に挿入することができる。その後、ばね100に印加されたトルクを解放する。これにより、ばね100には元の状態に戻ろうとする復元力が働き、外径が増大し、その結果、ばね100の構造体からの脱落が防がれ、構造体内に設けられる固体の保持を可能とする。
【0038】
上述したように、ばね100の第1のフック104は、コイル部102の中心軸とz方向において重ならないように設けられるため、治具140を用いる場合でも、第1のフック104はシャフト142と干渉しない。このため、ばね100を治具140に取り付ける際、第1のフック104による干渉を受けること無く係合部142aに第2のフック106を容易に、かつ、確実に固定することができる。また、第1のフック104と係合する係合部150aは、台座126の回転に伴い、ばね100を把持した状態でシャフト122の延伸方向を中心として回転するため、容易にばね100に対してトルクを掛け、巻き数を増大させて外径を小さくすることができる。さらに、シャフト142と第1のフック104が干渉しないため、シャフト142の外径をばね100の最小内径(第2部分102-2の内径)の範囲で大きく設定することができるので、治具140に高い剛性が付与され、大きなトルクをばね100に対して掛けることができる。特に、ばね100にトルクを掛ける際に力が加えられる部分をロータ146にすることで治具140の軽量化が可能であるため、大型のばね100を用いる場合でも高い操作性が実現される。その結果、ばね100をその自然状態における外径D1よりも小さい内径D4を有するチューブ130などの構造体に容易に挿入、固定することができる。
【0039】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0040】
また、上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0041】
100:ばね、102:コイル部、102-1:第1部分、102-2:第2部分、102-3:中間部分、104:第1のフック、106:第2のフック、120:治具、122:シャフト、122a:切込み、124:グリップ部、126:台座、126a:溝、126b:係合部、128:ハンドル、130:チューブ、140:治具、142:シャフト、142a:係合部、146:ロータ、148:ハンドル、150:クランプバー、150a:係合部