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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023531
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】木質構造部材
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20250207BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04H9/02 321B
E04H9/02 351
F16F15/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127736
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柳坂 祥希
(72)【発明者】
【氏名】谷 翼
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AB03
2E139AC19
2E139AC22
2E139AC33
2E139BA17
2E139BD06
2E139BD14
2E139BD23
3J048AA06
3J048AC05
3J048BA17
3J048BD05
3J048BD08
3J048DA04
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】木質系の部材を鋼板に強固かつ簡潔な構造で接合することができる、木質構造部材を提供する。
【解決手段】木質構造部材10は、木質系支持材40と鋼板50が組み合わされた木質構造部材10であって、前記木質系支持材40の表面40fに、複数の突出部62を貫入して設けられる木材緊結金物60を備え、前記鋼板50と前記木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系支持材と鋼板が組み合わされた木質構造部材であって、
前記木質系支持材の表面に、複数の突出部を貫入して設けられる木材緊結金物を備え、前記鋼板と前記木材緊結金物の間は、構造用接着剤で接着接合されていることを特徴とする木質構造部材。
【請求項2】
木質系支持材と粘弾性ダンパーが組み合わされた木質構造部材であって、
前記木質系支持材の表面に、複数の突出部を貫入して設けられる木材緊結金物と、
一対の取付鋼板の間に粘弾性体が配置される前記粘弾性ダンパーと、を備え、
一方の前記取付鋼板と、前記木材緊結金物の間は、構造用接着剤で接着接合されていることを特徴とする木質構造部材。
【請求項3】
更に、構造物の骨組の第1の部分に接合される連結用鋼板を備え、
前記木質系支持材は、前記骨組の第2の部分に連結され、前記連結用鋼板に対して相対移動可能に設けられ、
前記粘弾性ダンパーの他方の前記取付鋼板と前記連結用鋼板の間は、前記構造用接着剤で接着接合されて固定されていることを特徴とする請求項2に記載の木質構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系支持材と鋼板、特に粘弾性ダンパーが組み合わされた木質構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、木質系の部材と、鋼板とを組み合わせて接合することが、行われている。木質系の部材を接合する対象となる、鋼材を含む部材として、例えば粘弾性ダンパーが挙げられる。
粘弾性ダンパーは、次の特許文献1~3に開示されるように、粘弾性体により構造物の振動を減衰させる。
より詳細には、特許文献1には、構造物の骨組みの一方の部位に取り付けられて軸力が作用する内側部材と、骨組みの他方の部位に取り付けられて軸力が作用する外側部材と、これら内側部材及び外側部材の間に介装された粘弾性体とを備えた制震ダンパーが開示されている。
また、特許文献2には、複数枚の鋼板と、各鋼板間に接着される粘弾性体とからなり、鋼板の一端が建物のフレーム側の連結部材に連結される制震ダンパーが開示されている。
また、特許文献3には、鋼製外側筋かい構成材における筋かい長手方向に延長する保持孔内に、筋かい長手方向に延長する鋼製内側筋かい構成材が配置され、その内側筋かい構成材における外側筋かい構成材内に配置された部分の周面とその外側筋かい構成材の内周面との間に粘弾性層が介在されて固着され、外側筋かい構成材内の奥部と内側筋かい構成材の先端部との間に伸縮許容間隙が設けられて、振動抑制筋かい材が構成され、その振動抑制筋かい材の両端部が建造物の骨組みに連結されている、構造物の振動抑制装置が開示されている。
【0003】
このような粘弾性ダンパーを、例えばブレースや壁等に適用して、制振ブレースや制振壁等の制振部材を実現するに際し、デザイン性を高めることを目的として、冒頭で説明したように、粘弾性ダンパーに木質系の部材を組み合わせて、木現しとすることが考えられる。このような木質系の部材を、制振部材を構成する鋼材等に、ボルトやドリフトピンを用いて接合しようとすると、取り合いが複雑になる可能性がある。また、この場合には、ボルトやドリフトピンと、木質系の部材との間に応力が集中し、ボルトやドリフトピンが木質系の部材にめり込むことがある。ボルトやドリフトピンが木質系の部材にめり込むと、接合部分の剛性が低下してしまう。したがって、木質系の部材を粘弾性ダンパーと組み合わせて制振部材を構築したとしても、粘弾性ダンパーの性能を有効に発揮できず、振動を効果的に低減できない可能性がある。
これに対し、木質系の部材を、制振部材を構成する鋼材等に、ボルトやドリフトピンではなく、接着剤によって接着することが考えられる。しかし、この場合には、木質系の部材と、接着剤による接合対象となる鋼材等との間に応力が作用すると、この接合部において、木質系の部材自体が応力に抵抗し得ず、接着剤が接着された部分の表面の繊維が木質系の部材から剥離するようにして、接合部が破壊されることがある。
したがって、木質系の部材を、例えば粘弾性ダンパー等に含まれる鋼板に、強固かつ簡潔な構造で接合することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4950913号公報
【特許文献2】特開2016-56605号公報
【特許文献3】特開平3-262881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、木質系の部材を鋼板に強固かつ簡潔な構造で接合することができる、木質構造部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、木質系支持材と粘弾性ダンパーを組み合わせた木質構造部材として、粘弾性ダンパーと木質系支持材(軸部材)を高力ボルトによる摩擦接合ではなく、骨組に接合された連結用鋼板と粘弾性ダンパーとの接合面、及び粘弾性ダンパーと木質系支持材の表面に取り付けた木材緊結金物との接合面を、其々構造用接着剤を用いて接着接合させることで、木質系支持材に対する局所的な応力集中やめり込みを抑止可能である点に着眼し、本発明に至った。具体的には、木質構造部材として、制振ブレースと、木質制振間柱、及び制振壁を実現した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の木質構造部材は、木質系支持材と鋼板が組み合わされた木質構造部材であって、前記木質系支持材の表面に、複数の突出部を貫入して設けられる木材緊結金物を備え、前記鋼板と前記木材緊結金物の間は、構造用接着剤で接着接合されていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、木質系支持材の表面に木材緊結金物が設けられ、鋼板と木材緊結金物の間は、構造用接着剤で接着接合されて固定されている。したがって、鋼板と木質系支持材の間に応力が作用した場合に、当該応力は、木質系支持材に関しては、木材緊結金物との間で作用する。ここで、木質系支持材には、木材緊結金物の複数の突出部が、木質系支持材の内部へ貫入された状態となっている。このような、木材緊結金物が木質系支持材の内部に貫入される構成とすることで、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材の表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材の表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することが抑制される。
また、何らかの部材を木質系支持材に接合するに際し、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いると、木質系支持材のボルトやドリフトピン等が設けられた部分の周辺に応力が集中し、これにより、ボルトやドリフトピン等が木質系支持材にめり込むことが考えられる。これに対し、上記のような構成によれば、木質系支持材には、木材緊結金物の複数の突出部が貫入して設けられることで、木材緊結金物が接合されているため、これらの間に作用する応力は、複数の突出部の各々へと広く分散した状態で、木質系支持材と木材緊結金物との間で相互に伝達される。したがって、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に比べると、局所的な応力の集中が抑制され、木質系支持材へのめり込みが抑制される。
上記の効果が相乗し、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で鋼板に接合することができる。
また、木材緊結金物と鋼板の間は、構造用接着剤で接着接合されて固定されている。このため、これらの接合のためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を鋼板に強固かつ簡潔な構造で接合することができる、木質構造部材を実現することができる。
【0007】
また、本発明の木質構造部材は、木質系支持材と粘弾性ダンパーが組み合わされた木質構造部材であって、前記木質系支持材の表面に、複数の突出部を貫入して設けられる木材緊結金物と、一対の取付鋼板の間に粘弾性体が配置される前記粘弾性ダンパーと、を備え、一方の前記取付鋼板と、前記木材緊結金物の間は、構造用接着剤で接着接合されていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、木質系支持材の表面に木材緊結金物が設けられ、粘弾性ダンパーの一方の取付鋼板と木材緊結金物の間は、構造用接着剤で接着接合されて固定されている。したがって、粘弾性ダンパーと木質系支持材の間に応力が作用した場合に、当該応力は、木質系支持材に関しては、木材緊結金物との間で作用する。ここで、木質系支持材には、木材緊結金物の複数の突出部が、木質系支持材の内部へ貫入された状態となっている。このような、木材緊結金物が木質系支持材の内部に貫入される構成とすることで、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材の表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材の表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することが抑制される。
また、何らかの部材を木質系支持材に接合するに際し、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いると、木質系支持材のボルトやドリフトピン等が設けられた部分の周辺に応力が集中し、これにより、ボルトやドリフトピン等が木質系支持材にめり込むことが考えられる。これに対し、上記のような構成によれば、木質系支持材には、木材緊結金物の複数の突出部が貫入して設けられることで、木材緊結金物が接合されているため、これらの間に作用する応力は、複数の突出部の各々へと広く分散した状態で、木質系支持材と木材緊結金物との間で相互に伝達される。したがって、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に比べると、局所的な応力の集中が抑制され、木質系支持材へのめり込みが抑制される。
上記の効果が相乗し、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパーの取付鋼板に接合することができる。
また、木材緊結金物と粘弾性ダンパーの取付鋼板の間は、構造用接着剤で接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパーを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパーに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材を実現することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、木質構造部材は、更に、構造物の骨組の第1の部分に接合される連結用鋼板を備え、前記木質系支持材は、前記骨組の第2の部分に連結され、前記連結用鋼板に対して相対移動可能に設けられ、前記粘弾性ダンパーの他方の前記取付鋼板と前記連結用鋼板の間は、前記構造用接着剤で接着接合されて固定されている。
上記のような構成によれば、連結用鋼板と木質系支持材は、構造物の骨組の、それぞれ異なる第1の部分と第2の部分に、接合、連結されている。連結用鋼板と木質系支持材は、互いに相対移動可能に設けられているため、地震が生じ、層間変形等により、構造物の骨組の第1の部分と第2の部分が互いに相対移動しようとすると、連結用鋼板と木質系支持材は、これら第1の部分と第2の部分の各々に追従して移動することで、相対移動する。この、連結用鋼板と木質系支持材の相対移動は、これらの間に介装された粘弾性ダンパーにより吸収、減衰される。このようにして、振動が低減される。
このようにして粘弾性ダンパーに応力が作用した場合においても、既に説明したように、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材の表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材の表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することや、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に生じるような、局所的な応力の集中と木質系支持材へのめり込みが、抑制される。
したがって、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパーの取付鋼板に接合することができる。
また、連結用鋼板と粘弾性ダンパーの取付鋼板の間は、構造用接着剤で接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパーを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパーに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材を実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、木質系の部材を鋼板に強固かつ簡潔な構造で接合することができる、木質構造部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る木質構造部材を示す断面図である。
図2A】木材緊結金物の平面図である。
図2B】木材緊結金物の側面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る木質構造部材を、梁幅方向から見た図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る木質構造部材を示す断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る木質構造部材の上部に配置された粘弾性ダンパーを示す拡大断面図である。
図6A】粘弾性ダンパーの平面図である。
図6B】粘弾性ダンパーの側面図である。
図7】木材緊結金物の接着面積の検討例を示す図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る木質構造部材としての木質制振間柱を示す断面図を示す。
図9】本発明の第3実施形態に係る木質構造部材としての木質制振間柱を、梁幅方向から見た図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る木質構造部材としての木質制振間柱の上部に配置された粘弾性ダンパーを示す拡大断面図である。
図11】本発明の第3実施形態の変形例に係る木質構造部材としての木質制振間柱を示す断面図である。
図12】本発明の第4実施形態に係る木質構造部材としての制振壁を示す図である。
図13】本発明の第4実施形態の変形例に係る木質構造部材としての制振壁を示す図である。
図14】木材緊結金物の変形例の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、木質系支持材と粘弾性ダンパーが組み合わされた木質構造部材である。木質構造部材は、木質系支持材と鋼板が、木質系支持材に取付けられた木材緊結金物を介して、構造用接着剤剤を用いて接着接合された形態(第1実施形態)、木質系支持材と粘弾性ダンパーが、木質系支持材に取付けられたプレート状の木材緊結金物を介して、構造用接着剤剤を用いて接着接合された制振ブレース(第2実施形態)、または木質制振間柱(第3実施形態)、或いは制振壁(第4実施形態)である。具体的には、木質構造部材は、木質系支持材と、構造物の骨組に接合される連結用鋼板、及び固定用鋼板と、木質系支持材に設ける木材緊結金物と、連結用鋼板と木質系支持材との間に設ける粘弾性ダンパーとで構成される。
以下、添付図面を参照して、本発明による木質構造部材を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る木質構造部材を示す断面図を図1に示す。
本実施形態における木質構造部材10は、木質系支持材40と鋼板50とが組み合わされ、接合されることで形成されている。後に第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態、及びこれらの各変形例として説明するように、木質構造部材10は、構造物に作用する応力を負担するための、制振ブレース、木質制振間柱、制振壁等として使用することができる。
木質構造部材10は、木質系支持材40と、木材緊結金物60と、鋼板50と、を備えている。
【0013】
木質系支持材40は、例えば、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成材)により形成されている。
鋼板50は、木質系支持材40の表面40f、より詳細には次に説明する木材緊結金物60の板部61の表面61gに対向するように、配置されている。
【0014】
図2A図2Bは、それぞれ、木材緊結金物の平面図と側面図である。図2A図2Bに示すように、木材緊結金物60は、板部61と、複数の突出部62と、を有している。木材緊結金物60は、例えば、金属板をプレス加工することで形成されている。板部61は、その板厚方向から見た際に、例えば矩形状に形成されている。複数の突出部62は、板部61の表面61fに沿った面内に互いに間隔をあけて形成されている。各突出部62は、板部61の一方の表面61fから突出して設けられている。各突出部62は、板部61に、一端63sが鋭角を成すように形成されたスリット63の内側の部分を、他端63t側を基準として一方の表面61f側に屈曲させることで形成されている。
木材緊結金物60は、木質系支持材40の表面40fにおいて、鋼板50と対向する位置に設けられている。木材緊結金物60は、複数の突出部62が木質系支持材40に貫入し、板部61の表面61fが木質系支持材40の表面40fに沿うように設けられることにより、木質系支持材40に接合されている。
このようにして、木材緊結金物60は、板部61の、複数の突出部62が突出するように設けられた一方の表面61fが、木質系支持材40の表面40fに当接して設けられ、板部61の、一方の表面61fとは反対側の他方の表面61gが、鋼板50の表面と当接するように設けられている。
木質系支持材40に対しては、鋼板50と略同等の面積の、1枚の木材緊結金物60が接合されても良い。あるいは、鋼板50と略同等な面積となるように、より小さな木材緊結金物60を複数並べて、木質系支持材40に接合してもよい。
【0015】
鋼板50と木材緊結金物60の板部61の間は、構造用接着剤Jからなる接着剤層50jを介して、接着接合されて固定されている。特に本実施形態においては、鋼板50は、その表面が、木材緊結金物60の板部61の他方の表面61gに対して当接し、構造用接着剤Jにより、木材緊結金物60の板部61の他方の表面61gに、直接接合されている。
【0016】
構造用接着剤Jは、スポット溶接接合、ボルト接合、リベット接合などの接合方法に比べて、2倍以上の接合強度を有すると言われている接着剤である。よって、構造用接着剤Jは、部材同士を連結する接合強度が高く、耐久性に優れている特徴があり、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などがある。
具体的には、本発明の木質構造部材では、構造用接着剤Jには粘弾性ダンパー50Aの粘弾性体53として使用される高減衰ゴムの破断耐力(約2.0N/mm)に対して、十分な剥離強さ(4.5N/mm以上)、及びせん断強さ(15N/mm以上)を備えているものを使用するのが望ましい。構造用接着剤Jとしては、表面に多少、不揃い、油やほこりが有る場合でも、接着が可能であり、かつ硬化時間が短い、2液混合型のアクリル樹脂系のものを使用するのが望ましい。例えば、構造用接着剤Jとしては、セメダイン株式会社製の2液アクリル樹脂系のメタルロックシリーズの「Y618H」または「Y630D」、あるいは「EP48R」を用いることが可能である。
【0017】
上述したような木質構造部材10によれば、木質系支持材40と鋼板50が組み合わされた木質構造部材10であって、木質系支持材40の表面40fに、複数の突出部62を貫入して設けられる木材緊結金物60を備え、鋼板50と木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されている。
上記のような構成によれば、木質系支持材40の表面40fに木材緊結金物60が設けられ、鋼板50と木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。したがって、鋼板50と木質系支持材40の間に応力が作用した場合に、当該応力は、木質系支持材40に関しては、木材緊結金物60との間で作用する。ここで、木質系支持材40には、木材緊結金物60の複数の突出部62が、木質系支持材40の内部へ貫入された状態となっている。このような、木材緊結金物60が木質系支持材40の内部に貫入される構成とすることで、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40の表面40fに接着する場合に生じるような、木質系支持材40の表面40fの繊維が剥離して、接合部が破壊することが抑制される。
また、何らかの部材を木質系支持材40に接合するに際し、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いると、木質系支持材40のボルトやドリフトピン等が設けられた部分の周辺に応力が集中し、これにより、ボルトやドリフトピン等が木質系支持材40にめり込むことが考えられる。これに対し、上記のような構成によれば、木質系支持材40には、木材緊結金物60の複数の突出部62が貫入して設けられることで、木材緊結金物60が接合されているため、これらの間に作用する応力は、複数の突出部62の各々へと広く分散した状態で、木質系支持材40と木材緊結金物60との間で相互に伝達される。したがって、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に比べると、局所的な応力の集中が抑制され、木質系支持材40へのめり込みが抑制される。
上記の効果が相乗し、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で鋼板50に接合することができる。
また、木材緊結金物60と鋼板50の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、これらの接合のためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を鋼板50に強固かつ簡潔な構造で接合することができる、木質構造部材を実現することができる。
【0018】
特に、上記のような構成においては、鋼板50に対して木質系の部材を強固に接合することができるため、例えば構造物において、通常であれば鋼材によって実現するような部分であっても、部材自体の強度が十分に保証されるのであれば、これを木質系の部材に置き換えて、木質系の部材によって実現することができる。これにより、木現しとする部分を設けることが可能となり、木材の質感を持たせることが可能となる。
【0019】
また、木材緊結金物60は、板部61と、板部61の一方の表面61f側から突出して設けられた複数の突出部62とを有し、木材緊結金物60の突出部62は、板部61に鋭角を成すように形成されたスリット63の内側の部分を一方の表面61f側に屈曲させることで形成されている。
このような構成によれば、突出部62を有した木材緊結金物60を容易に形成することができる。
【0020】
また、木材緊結金物60の板部61の一方の表面61fから突出して設けられた複数の突出部62が木質系支持材40に貫入するという構成によって木質系支持材40に接合された木材緊結金物60は、通常であれば、板部61が木質系支持材40とは反対の、他方の表面61gの方向に反り返り、めくれるようにして、一部が木質系支持材40から離間し、突出部62が引き抜かれることで、木質系支持材40と木材緊結金物60との間の接合が破壊される可能性がある。
しかし、本実施形態の木材緊結金物60においては、板部61の、突出部62が設けられた一方の表面61fが、木質系支持材40側に位置するとともに、他方の表面61gが、鋼板50と、構造用接着剤Jにより、全面にわたって接着接合されている。すなわち、木材緊結金物60の板部61は、全面が、木質系支持材40の表面40fと鋼板50の表面との間に挟まれた状態となっているため、木材緊結金物60の板部61が木質系支持材40から他方の表面61gの方向に離間して反り返るように変形しようとしても、この変形は、反り返る方向に位置して板部61が接着された、鋼板50によって、阻止される。したがって、木材緊結金物60がめくれるようにして木質系支持材40から離間し、木質系支持材40と木材緊結金物60との間の接合が破壊されることが、抑制される。
【0021】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る木質構造部材を、梁幅方向から見た図を図3に示す。図4は、本発明の第2実施形態に係る木質構造部材を示す断面図である。図5は、本発明の第2実施形態に係る木質構造部材の上部に配置された粘弾性ダンパーを示す拡大断面図である。
図3図4に示されるように、木質構造部材10Aは、構造物1の骨組2において、互いに上下に位置する梁3A、3B同士と、水平方向で隣り合う柱4A、4B同士の間で、斜めに延びるように設けられている。本実施形態において、梁3A、3Bは、それぞれ、H型鋼からなり、上部フランジ3fと、下部フランジ3bと、上部フランジ3fと下部フランジ3bとの間に設けられたウェブ3cと、を有している。梁3A、3Bは、その延伸方向Daの一方の側における端部3sが、一方の柱4Aに接合されている。梁3A、3Bは、その延伸方向Daの他方の側における端部3tが、他方の柱4Bに接合されている。また、本実施形態において、柱4A、4Bは、上下方向Dvから見た際の断面形状が、平面視矩形状の鋼管からなる。
本実施形態の木質構造部材10Aは、2つの隣り合う柱4A、4Bと、上方の梁3A、及び下方の梁3Bにより形成される矩形形状の架構面において、当該矩形形状の対角線上に位置する角部同士を連結するように設けられている、制振ブレースである。木質構造部材10Aは、木質系支持材40Aと粘弾性ダンパー50Aとが組み合わされることで構成されている。木質構造部材10Aは、木質系支持材40Aと、連結用鋼板20Aと、固定用鋼板30Aと、木材緊結金物60と、粘弾性ダンパー50Aと、を備えている。
【0022】
木質系支持材40Aは、骨組2の第1の部分P1と第2の部分P2との間で、斜めに延びている、長尺の板材である。図4に示されるように、木質系支持材40Aは、梁幅方向Dtにおいて、後述の連結用鋼板20A及び固定用鋼板30Aを挟んだ両側に、一対が設けられている。一対の木質系支持材40Aは、梁幅方向Dtに間隔をあけて設けられている。各木質系支持材40Aは、例えば、CLTにより形成されている。一対の木質系支持材40Aの間には、木質系支持材40Aの延在する方向に所定の間隔ごとにつづり材80が設けられている。つづり材80は、一対の木質系支持材40Aの間に挟み込まれている。つづり材80は、例えば、木材から形成されている。
【0023】
木質系支持材40Aの一方の端部40sは、骨組2の第2の部分P2に、固定用鋼板30Aを介して連結され、固定されている。固定用鋼板30Aは、下方の梁3Bの、他方の柱4Bに接合された端部3tと、他方の柱4Bとの接合部である、骨組2の第2の部分P2に固定されている。固定用鋼板30Aは、下方の梁3Bの上部フランジ3fの上面、及び他方の柱4Bの側面に、例えば溶接により接合されている。固定用鋼板30Aは、下方の梁3Bの上部フランジ3fの上面、及び他方の柱4Bの側面に、適宜のブラケット(図示無し)を介して、溶接、ボルト接合等によって接合されていてもよい。固定用鋼板30Aは、梁幅方向Dtにおいて、下方の梁3Bの上部フランジ3fの中央から、鉛直上方に延びている。
木質系支持材40Aの端部40sと、固定用鋼板30Aとの間には、梁幅方向Dtに所定の厚さを有したスペーサ70が挟み込まれている。スペーサ70は、例えば、木材から形成されている。スペーサ70は、後述の粘弾性ダンパー50Aと同等の厚さを有している。木質系支持材40Aの、梁幅方向Dtで内側を向く表面40fと、スペーサ70の、梁幅方向Dtで外側を向く表面70fとは、当接している。スペーサ70の、梁幅方向Dtで内側を向く表面70gと、固定用鋼板30Aの、梁幅方向Dtで外側を向く表面30fとは、当接している。木質系支持材40Aの表面40fとスペーサ70の表面70f、スペーサ70の表面70gと固定用鋼板30Aの表面30fとは、それぞれ、構造用接着剤Jにより接合されている。
木質系支持材40A、スペーサ70、及び固定用鋼板30Aは、ボルトにより接合されても構わない。ただし、これらの接合にボルトを用いた場合においては、木質系支持材40Aのボルトが設けられた部分の周辺に応力が集中し、木質系支持材40Aが変形する可能性がある。したがって、これらの接合には、構造用接着剤Jを用いて接合するのが、より望ましい。
【0024】
図5に示されるように、木質系支持材40Aの他方の端部40tは、木材緊結金物60、粘弾性ダンパー50A、連結用鋼板20Aを介して、骨組2の第1の部分P1に連結されている。
連結用鋼板20Aは、上方の梁3Aの一方の端部3sと、一方の柱4Aとの接合部である、骨組2の第1の部分P1に固定されている。連結用鋼板20Aは、上方の梁3Aの下部フランジ3bの下面、及び柱4Aの側面に、例えば溶接により接合されている。連結用鋼板20Aは、上方の梁3Aの下部フランジ3bの下面、及び柱4Aの側面に、適宜のブラケット(図示無し)を介して、溶接、ボルト接合等によって接合されていてもよい。連結用鋼板20Aは、梁3A、3Bの延伸方向Daと、上下方向Dvとの双方に交差する梁幅方向Dtにおいて、上方の梁3Aの下部フランジ3bの中央から、鉛直下方に延びている。
【0025】
粘弾性ダンパー50Aは、連結用鋼板20Aを挟んだ両側に、一対が設けられている。木質系支持材40Aは、一対の粘弾性ダンパー50Aを挟んだ両側に、一対の粘弾性ダンパー50Aの各々に対応して、一対として設けられる。これにより、一対の木質系支持材40Aの各々は、連結用鋼板20Aを、一対の粘弾性ダンパー50Aの各々を介して挟み込むように設けられている。粘弾性ダンパー50Aは、連結用鋼板20Aの、梁幅方向Dtで外側を向く表面20fと、当該表面20fに対向して設けられる、木質系支持材40Aの表面40f、より詳細には木材緊結金物60の板部61の表面61gとの間に配置されている。
粘弾性ダンパー50Aは、連結用鋼板20Aと木質系支持材40Aとの相対移動を減衰させる。粘弾性ダンパー50Aは、一対の取付鋼板51、52と、粘弾性体53と、を一体に有している。
【0026】
図6A図6Bは、それぞれ、粘弾性ダンパーの平面図と側面図である。
粘弾性ダンパー50Aは、取付鋼板51と粘弾性体53、及び取付鋼板52が、この順に積層されて一体に形成されている。取付鋼板51と取付鋼板52は、平行に、かつ互いに離間して設けられている。粘弾性体53は、取付鋼板51と取付鋼板52の間に設けられている。本実施形態においては、粘弾性体53は高減衰ゴムである。本実施形態においては、粘弾性ダンパー50Aは、取付鋼板51と取付鋼板52を互いに離間して設け、これらの間に高減衰ゴムを加硫形成することにより、取付鋼板51、取付鋼板52、及び高減衰ゴムが加硫接着されて一体となるように、製造されている。特に、本実施形態においては、粘弾性ダンパー50Aは、粘弾性ダンパー50Aを厚さ方向から見たときに、その形状が略正方形状となるように形成されて、ユニット化されたものを使用している。
【0027】
高減衰ゴムは、温度依存性、振動数依存性が共に小さく、単位面積当たりの減衰能力が大きい。高減衰ゴムは、硬度が高いゴムである。高減衰ゴムは、粘弾性ダンパーとして使用され得る他の種類のゴムと比較すると、減衰力が大きく、耐震用として使用することが可能である。より具体的には、本実施形態においては、粘弾性体53は、イソブレン系のゴムであり、非線形の特性を有し、許容歪は200%で、限界歪は300%であり、最大ダンパー力は400kNであるものが使用され得る。
本実施形態において粘弾性体53は、温度依存性が0.70(30℃/10℃)と小さい。より具体的には、粘弾性体53の、温度が例えば0℃から40℃に上昇した場合の吸収エネルギーの低下量は、線形ゴムよりも小さい。このように、粘弾性体53は温度依存性が小さく、温度が高くなっても大きいエネルギーを吸収できる。粘弾性体53としては、例えば、住友ゴム工業株式会社製の「VS4」を用いることが可能である。
【0028】
本実施形態において、木材緊結金物60は、第1実施形態において図2A図2Bを用いて説明したものと同一であるため、詳細な説明を割愛する。
図5に示すように、木材緊結金物60は、木質系支持材40Aの表面40fにおいて、粘弾性ダンパー50Aの一方の取付鋼板51と対向する位置に設けられている。木材緊結金物60は、複数の突出部62が木質系支持材40Aに貫入し、板部61の表面61fが木質系支持材40Aの表面40fに沿うように設けられることにより、木質系支持材40Aに接合されている。
このようにして、木材緊結金物60は、板部61の、複数の突出部62が突出するように設けられた一方の表面61fが、木質系支持材40Aの表面40fに当接して設けられ、板部61の、一方の表面61fとは反対側の他方の表面61gが、粘弾性ダンパー50Aの一方の取付鋼板51の表面と当接するように設けられている。
木質系支持材40Aに対しては、粘弾性ダンパー50Aの一方の取付鋼板51と略同等の面積の、1枚の木材緊結金物60が接合されても良い。あるいは、取付鋼板51と略同等な面積となるように、より小さな木材緊結金物60を複数並べて、木質系支持材40Aに接合してもよい。
【0029】
木質系支持材40Aの端部40tにおいて、各粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51と木材緊結金物60の板部61の間、及び粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板52と連結用鋼板20Aの間は、それぞれ、構造用接着剤Jからなる接着剤層50jを介して、接着接合されて固定されている。特に本実施形態においては、各粘弾性ダンパー50Aの一方の取付鋼板51は、その表面が、木材緊結金物60の板部61の他方の表面61gに対して当接し、構造用接着剤Jにより、木材緊結金物60の板部61の他方の表面61gに、直接接合されている。また、各粘弾性ダンパー50Aの他方の取付鋼板52は、その表面が、連結用鋼板20Aの表面20fに対して当接し、構造用接着剤Jにより、連結用鋼板20Aの表面20fに、直接接合されている。このようにして、木質系支持材40Aに設けられた木材緊結金物60と粘弾性ダンパー50A、及び粘弾性ダンパー50Aと連結用鋼板20Aが、それぞれ構造用接着剤Jで接合されている。
本実施形態において、構造用接着剤Jは、第1実施形態において説明したものと同一なものを使用可能であるため、詳細な説明を割愛する。
【0030】
このようにして、木質系支持材40Aの一方の端部40sが、骨組2の第2の部分P2に連結、固定され、他方の端部40tが、粘弾性ダンパー50Aを介して、構造物1の骨組2の第1の部分P1に接合された連結用鋼板20Aに連結されることで、木質系支持材40Aの端部40tは、連結用鋼板20Aに対して相対移動可能に設けられている。
このような構成において、例えば地震や風等により、木質構造部材10Aが設けられた構造物1が揺れた場合には、上方の梁3Aと下方の梁3Bが、互いに相対変位する。この際に、固定用鋼板30A及び木質系支持材40Aは、下方の梁3Bと一体に変位し、連結用鋼板20Aは、上方の梁3Aと一体に変位する。すると、粘弾性ダンパー50Aにおいては、取付鋼板51と取付鋼板52が、互いに相対変位しようとする。この相対変位が、取付鋼板51と取付鋼板52の間に設けられた、粘弾性ダンパー50Aの粘弾性体53により減衰されることにより、構造物1の揺れが減衰される。
【0031】
上述したような木質構造部材10Aによれば、木質系支持材40Aと粘弾性ダンパー50Aが組み合わされた木質構造部材10Aであって、木質系支持材40Aの表面40fに、複数の突出部62を貫入して設けられる木材緊結金物60と、一対の取付鋼板51、52の間に粘弾性体53が配置される粘弾性ダンパー50Aと、を備え、一方の取付鋼板51と、木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されている。
上記のような構成によれば、木質系支持材40Aの表面40fに木材緊結金物60が設けられ、粘弾性ダンパー50Aの一方の取付鋼板51と木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。したがって、粘弾性ダンパー50Aと木質系支持材40Aの間に応力が作用した場合に、当該応力は、木質系支持材40Aに関しては、木材緊結金物60との間で作用する。ここで、木質系支持材40Aには、木材緊結金物60の複数の突出部62が、木質系支持材40Aの内部へ貫入された状態となっている。このような、木材緊結金物60が木質系支持材40Aの内部に貫入される構成とすることで、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40Aの表面40fに接着する場合に生じるような、木質系支持材40Aの表面40fの繊維が剥離して、接合部が破壊することが抑制される。
また、何らかの部材を木質系支持材40Aに接合するに際し、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いると、木質系支持材40Aのボルトやドリフトピン等が設けられた部分の周辺に応力が集中し、これにより、ボルトやドリフトピン等が木質系支持材40Aにめり込むことが考えられる。これに対し、上記のような構成によれば、木質系支持材40Aには、木材緊結金物60の複数の突出部62が貫入して設けられることで、木材緊結金物60が接合されているため、これらの間に作用する応力は、複数の突出部62の各々へと広く分散した状態で、木質系支持材40Aと木材緊結金物60との間で相互に伝達される。したがって、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に比べると、局所的な応力の集中が抑制され、木質系支持材40Aへのめり込みが抑制される。
上記の効果が相乗し、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51に接合することができる。
また、木材緊結金物60と粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパー50Aを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Aに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Aを実現することができる。
【0032】
また、木質構造部材10Aは、更に、構造物1の骨組2の第1の部分P1に接合される連結用鋼板20Aを備え、木質系支持材40Aは、骨組2の第2の部分P2に連結され、連結用鋼板20Aに対して相対移動可能に設けられ、粘弾性ダンパー50Aの他方の取付鋼板52と連結用鋼板20Aの間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。
上記のような構成によれば、連結用鋼板20Aと木質系支持材40Aは、構造物1の骨組2の、それぞれ異なる第1の部分P1と第2の部分P2に、接合、連結されている。連結用鋼板20Aと木質系支持材40Aは、互いに相対移動可能に設けられているため、地震が生じ、層間変形等により、構造物1の骨組2の第1の部分P1と第2の部分P2が互いに相対移動しようとすると、連結用鋼板20Aと木質系支持材40Aは、これら第1の部分P1と第2の部分P2の各々に追従して移動することで、相対移動する。この、連結用鋼板20Aと木質系支持材40Aの相対移動は、これらの間に介装された粘弾性ダンパー50Aにより吸収、減衰される。このようにして、振動が低減される。
このようにして粘弾性ダンパー50Aに応力が作用した場合においても、既に説明したように、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40Aの表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材40Aの表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することや、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に生じるような、局所的な応力の集中と木質系支持材40Aへのめり込みが、抑制される。
したがって、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51に接合することができる。
また、連結用鋼板20Aと粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板52の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパー50Aを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Aに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Aを実現することができる。
【0033】
また、粘弾性ダンパー50Aは、連結用鋼板20Aを挟んで一対が設けられ、木質系支持材40Aは、一対の粘弾性ダンパー50Aを挟んだ両側に、一対の粘弾性ダンパー50Aの各々に対応して、一対として設けられる。
このような構成によれば、木質構造部材10Aは、一対の粘弾性ダンパー50Aを挟んだ両側に設けられるために、一対の粘弾性ダンパー50Aを外側から木質系支持材40Aにより覆うことが可能となり、木質構造部材10Aの両側を木現しとすることができる。
また、一対の粘弾性ダンパー50Aを挟んだ両側に木質系支持材40Aを設けることにより、木質系支持材40Aを1つのみ設ける場合に比べると、木質系支持材40A一つあたりの断面積を小さくすることができる。このため、木質系支持材40Aに大断面の単体材を用いることなく、木質系支持材40Aに必要な荷重支持力を確保することができる。
また、連結用鋼板20Aを挟んで、両側に粘弾性ダンパー50A、及び木質系支持材40Aを設けることで、粘弾性ダンパー50Aが複数配置されることになり、減衰性能を高めることができる。
【0034】
また、木材緊結金物60は、板部61と、板部61の一方の表面61f側から突出して設けられた複数の突出部62とを有し、木材緊結金物60の突出部62は、板部61に鋭角を成すように形成されたスリット63の内側の部分を一方の表面61f側に屈曲させることで形成されている。
このような構成によれば、突出部62を有した木材緊結金物60を容易に形成することができる。
【0035】
また、木材緊結金物60の板部61の一方の表面61fから突出して設けられた複数の突出部62が木質系支持材40Aに貫入するという構成によって木質系支持材40Aに接合された木材緊結金物60は、通常であれば、板部61が木質系支持材40Aとは反対の、他方の表面61gの方向に反り返り、めくれるようにして、一部が木質系支持材40Aから離間し、突出部62が引き抜かれることで、木質系支持材40Aと木材緊結金物60との間の接合が破壊される可能性がある。
しかし、本実施形態の木材緊結金物60においては、板部61の、突出部62が設けられた一方の表面61fが、木質系支持材40A側に位置するとともに、他方の表面61gが、粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51と、構造用接着剤Jにより、全面にわたって接着接合されている。すなわち、木材緊結金物60の板部61は、全面が、木質系支持材40Aの表面40fと粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51の表面との間に挟まれた状態となっているため、木材緊結金物60の板部61が木質系支持材40Aから他方の表面61gの方向に離間して反り返るように変形しようとしても、この変形は、反り返る方向に位置して板部61が接着された、粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51によって、阻止される。したがって、木材緊結金物60がめくれるようにして木質系支持材40Aから離間し、木質系支持材40Aと木材緊結金物60との間の接合が破壊されることが、抑制される。
【0036】
(粘弾性ダンパーの必要接着面積の検討例)
ここで、上記したような粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51、52と、木材緊結金物60の板部61との必要接着面積について検討を行ったので、その検討結果を示す。
本検討においては、取付鋼板51、52を、縦440mm×横440mmとした。すると、粘弾性ダンパー50Aの取付鋼板51、52における、接着可能面積Aは、
A=440×440×2(面)=387200mm
となる。
粘弾性体53として32tタイプのものを用いるとすると、粘弾性ダンパー50Aのダンパー容量は、313.6kNとなる。また、粘弾性ダンパー50Aの短期必要耐力Qは、次式のように、長期必要耐力の1.5倍した値となり、
Q=313.6×1.5=470.4kN
となる。
木材緊結金物60の板部61の有効接着面積を、0.6Aとすると、木材緊結金物60の板部61と取付鋼板51との必要接着応力度τは、
τ=Q/0.6A
={470.4×10}/{0.6×387200}
=2.02N/mm
となる。
【0037】
これに対し、木材緊結金物60の板部61と取付鋼板51とを接着する構造用接着剤Jとして、例えば、セメダイン株式会社製のY618H(商品名)を用いた場合、木材緊結金物60の板部61と取付鋼板51との接着応力度τは、
τ=8.0N/mmとなる。
その結果、
τ(=8.0)>τ(=2.02)
であり、接着応力度τが、必要接着応力度τを上回っているため、十分な接合強度が得られていることがわかる。
【0038】
図7は、木材緊結金物の接着面積の検討例を示す図である。
上記結果に基づき、木材緊結金物60に市販品を用いた場合の、木材緊結金物60の枚数について検討した。図7に示すように、例えば、板部61の寸法が縦140mm×横70mmである、市販品の木材緊結金物60を、縦3枚×横6枚=計18枚並べて、取付鋼板51に接着する場合を想定した。
すると、計18枚並べた木材緊結金物60の板部61の総面積Aは、
=(140×3)×(70×6)×2
=352800mm
となる。
この場合、計18枚並べた木材緊結金物60の板部61と取付鋼板51との必要接着応力度τは、
τ=Q/0.6A
={470.4×10}/{0.6×352800}
=2.22N/mm
となる。
その結果、
τ(=8.0)>τ(=2.22)
であり、接着応力度τが、必要接着応力度τを上回っているため、十分な接合強度が得られていることがわかる。
【0039】
(第2実施形態の第1変形例)
なお、本発明の木質構造部材は、図面を参照して説明した上述の第2実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記第2実施形態を、上下方向に逆転させた構成とすることもできる。この場合、木質構造部材10Aは、第2実施形態と同様に、2つの隣り合う柱4A、4Bと、上方の梁3A、及び下方の梁3Bにより形成される矩形形状の架構面において、当該矩形形状の対角線上に位置する角部同士を連結するように、設けられる。
この場合には、木質構造部材10Aの木質系支持材40Aの他方の端部40tは、下側に位置して、木材緊結金物60、粘弾性ダンパー50A、及び連結用鋼板20Aを介して、下方の梁3Bの一方の端部3tと、他方の柱4Bとの接合部である骨組2の第1の部分に連結する。また、木質系支持材40Aの一方の端部40sは、上側に位置して、スペーサ70、及び固定用鋼板30Aを介して、上方の梁3Aの一方の端部3sと、一方の柱4Aとの接合部である骨組2の第2の部分に固定する。
なお、上記第2実施形態、及び第1変形例では、一対の木質系支持材40A同士の間に、つづり材80を設けるようにしたが、つづり材80に代えて、一対の木質系支持材40Aの間の隙間を塞ぐように隙間塞ぎ用の木材を設けるようにしてもよい。この場合においても、木質系支持材40Aの軸剛性、せん断剛性を高め、木質構造部材10Aにおける振動減衰性能を高めることができる。
【0040】
(第2実施形態の第2変形例)
また、上記第2実施形態では、粘弾性ダンパー50Aを、連結用鋼板20Aを挟んで一対に設け、木質系支持材40Aを、一対の粘弾性ダンパー50Aを挟んだ両側に、一対の粘弾性ダンパー50Aの各々に対応して、一対として設けるようにしたが、これに限らない。
例えば、木質系支持材40Aの他方の端部40tにおいて、1枚の木質系支持材40Aを挟んで両側に間隔をあけて、一対の連結用鋼板20Aを設け、木質系支持材40Aの一方の側と一方の連結用鋼板20Aとの間と、木質系支持材40Aの他方の側と他方の連結用鋼板20Aとの間に、それぞれ粘弾性ダンパー50Aを挟み込むようにしてもよい。この場合も、木質系支持材40Aにおいて、粘弾性ダンパー50Aの一方の取付鋼板51と対向する位置に木材緊結金物60を設け、木材緊結金物60と取付鋼板51とを、構造用接着剤Jで接着接合する。
木質系支持材40Aの一方の端部40sにおいては、木質系支持材40Aを挟んで両側に、一対の固定用鋼板30Aを設け、これらを構造用接着剤Jで接着接合する。
【0041】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る木質構造部材としての木質制振間柱を示す断面図を図8に示す。図9は、本発明の第3実施形態に係る木質構造部材としての木質制振間柱を、梁幅方向から見た図である。図10は、本発明の第3実施形態に係る木質構造部材としての木質制振間柱の上部に配置された粘弾性ダンパーを示す拡大断面図である。
図8図9に示されるように、木質構造部材10Bは、構造物1の骨組2において、互いに上下に位置する梁3A、3B同士の間に設けられた木質制振間柱である。木質構造部材10Bは、連結用鋼板20Bと、固定用鋼板30Bと、木質パネルからなる木質系支持材40Bと、木材緊結金物60と、粘弾性ダンパー50Bと、を備えている。
【0042】
連結用鋼板20Bは、構造物1の骨組2の第1の部分P11としての上方の梁3Aに固定されている。本実施形態においては、梁3A、3Bは鉄筋コンクリート造である。連結用鋼板20Bは、木質構造部材10Bの梁幅方向Dtに間隔をあけて一対が設けられている。各連結用鋼板20Bは、ベース部21と、鋼板部22と、リブ23と、を一体に有している。ベース部21は、上方の梁3Aの下面に沿って、梁3Aの延伸方向Daに延びている。ベース部21は、梁3Aの延伸方向Daに間隔をあけて配置された複数本のボルト90により、梁3Aの下面に固定されている。鋼板部22は、図8のように梁3Aの延伸方向Daから視たときに、ベース部21の、上方の梁3Aの中央側に位置する端部から鉛直下方に延びている。鋼板部22は、ベース部21と同様に、梁3Aの延伸方向Daに延びている。リブ23は、梁3Aの延伸方向Daに間隔をあけた複数個所に設けられている。リブ23は、梁3Aの延伸方向Daに直交する面に沿って設けられている。リブ23は、ベース部21と、鋼板部22とに接合されている。
【0043】
固定用鋼板30Bは、構造物1の骨組2の第2の部分P12としての下方の梁3Bに固定されている。連結用鋼板20Bと固定用鋼板30Bとは、上下方向Dvに間隔をあけて設けられている。固定用鋼板30Bは、ベース部31と、固定用鋼板部32と、リブ33と、を一体に有している。ベース部31は、下方の梁3Bの上面に沿って、梁3Bの延伸方向Daに延びている。ベース部31は、梁3Bの延伸方向Daに間隔をあけて配置された複数本のボルト90により、梁3Bの上面に固定されている。固定用鋼板部32は、図8のように梁3Bの延伸方向Daから視たときに、ベース部31の中央部から、鉛直面内で上方に向かって延伸している。固定用鋼板部32は、ベース部31と同様に、梁3Bの延伸方向Daに延びている。リブ33は、梁3Bの延伸方向Daに間隔をあけた複数個所に設けられている。各リブ33は、梁3Bの延伸方向Daに直交する面に沿って設けられている。各リブ33は、ベース部31と、固定用鋼板部32とに接合されている。後に説明する、本実施形態の木質系支持材40Bには、鉛直方向に延在するスリットが、梁幅方向Dtに木質系支持材40Bを貫通するように形成され、各リブ33はこのスリット内に位置づけられている。
【0044】
木質系支持材40Bは、連結用鋼板20Bと、固定用鋼板30Bとの間に、上下方向Dvに延びるように設けられている。本実施形態において、木質系支持材40Bは、梁幅方向Dtにおいて、後述の鉛直鋼板45及び固定用鋼板30Bの固定用鋼板部32を挟んだ両側に、一対が設けられている。
一対の木質系支持材40Bの各々は、板状に形成されている。各木質系支持材40Bは、例えば、CLTにより形成されている。一対の木質系支持材40Bは、梁幅方向Dtに間隔をあけて設けられている。一対の木質系支持材40Bの各々は、木質系支持材40Bの長さ方向と幅方向を含む平面として形成される2つの表面40f、40gのうち、一方の表面40fが互いに対向して設けられ、他方の表面40gが外側を向いて壁面を形成するように設けられている。
【0045】
一対の木質系支持材40Bの下部同士の間には、固定用鋼板30Bの固定用鋼板部32が挟み込まれている。固定用鋼板部32の表面32fは、木質系支持材40Bの、梁幅方向Dtで内側を向く表面40fに対して、当接して設けられている。固定用鋼板部32の表面32fの各々は、木質系支持材40Bの下部の表面40fの各々に対し、構造用接着剤Jにより接合されている。これにより、木質系支持材40Bは、固定用鋼板30Bを介して、骨組2の第2の部分P12としての下方の梁3Bに連結され、固定されている。
【0046】
図10に示されるように、一対の木質系支持材40Bの間には、鉛直鋼板45が設けられている。鉛直鋼板45は、一対の木質系支持材40Bの上部同士の間に挟み込まれている。鉛直鋼板45は、一対の木質系支持材40Bの上端から上方に突出している。鉛直鋼板45の表面45fは、木質系支持材40Bの梁幅方向Dtで内側を向く表面40fに対して、対向して配置されている。
木材緊結金物60は、木質系支持材40Bの表面40fにおいて、鉛直鋼板45と対向する位置に設けられている。木材緊結金物60は、複数の突出部62が各木質系支持材40Bに貫入し、板部61の表面61fが木質系支持材40Bの表面40fに沿うように設けられている。
木材緊結金物60の板部61の、複数の突出部62が突出するように設けられた表面61fとは反対側の他方の表面61gと、鉛直鋼板45の表面45fとは、互いに当接して設けられて、構造用接着剤Jにより接着接合されている。
【0047】
本実施形態において、粘弾性ダンパー50Bは、一対の木質系支持材40Bよりも上方に配置されている。粘弾性ダンパー50Bは、鉛直鋼板45の、一対の木質系支持材40Bの上端から上方に突出して設けられた部分と、一対の連結用鋼板20Bの鋼板部22との間にそれぞれ挟み込まれている。図9に示されるように、粘弾性ダンパー50Bは、梁3Aの延伸方向Daに沿って、複数が並べられて設けられている。
図10に示されるように、各粘弾性ダンパー50Bの一方の取付鋼板51は、その表面が、鉛直鋼板45の表面45fに対して当接し、構造用接着剤Jにより、鉛直鋼板45の表面45fに接合されている。これにより、取付鋼板51は、木質系支持材40Bの表面40fに対し、鉛直鋼板45を介して構造用接着剤Jで接着接合されている。
各粘弾性ダンパー50Bの他方の取付鋼板52は、その表面が、連結用鋼板20Bの鋼板部22の表面に対して当接し、構造用接着剤Jにより、鋼板部22の表面に接合されている。
このようにして、各粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板51と木材緊結金物60の板部61の間は、鉛直鋼板45を介して、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。また、粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板52と連結用鋼板20Bの間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。
【0048】
このようにして、木質系支持材40Bは、各粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板51に接着接合された鉛直鋼板45に、木材緊結金物60を介して接着接合されている。つまり、粘弾性ダンパー50Bの一方の取付鋼板51と木材緊結金物60の板部61は、鉛直鋼板45を介して構造用接着剤Jで接着されている。また、木質系支持材40Bは、下端において、骨組2の第2の部分P12に連結、固定されている。このような木質系支持材40Bは、連結用鋼板20Bに対して相対移動可能に設けられている。
このような木質構造部材10Bにおいては、例えば地震や風等により、木質構造部材10Bが設けられた構造物1が揺れた場合、上方の梁3Aと下方の梁3Bが、互いに相対変位する。この際に、固定用鋼板30Bと木質系支持材40B、及び鉛直鋼板45は、下方の梁3Bと一体に変位し、連結用鋼板20Bは、上方の梁3Aと一体に変位する。すると、粘弾性ダンパー50Bにおいては、取付鋼板51と取付鋼板52が、互いに相対変位しようとする。この相対変位が、取付鋼板51と取付鋼板52の間に設けられた、粘弾性ダンパー50Bの粘弾性体53により減衰されることにより、構造物1の揺れが減衰される。
【0049】
上述したような木質構造部材10Bによれば、木質系支持材40Bと粘弾性ダンパー50Bが組み合わされた木質構造部材10Bであって、木質系支持材40Bの表面40fに、複数の突出部62を貫入して設けられる木材緊結金物60と、一対の取付鋼板51、52の間に粘弾性体53が配置される粘弾性ダンパー50Bと、を備え、一方の取付鋼板51と、木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されている。
上記のような構成によれば、木質系支持材40Bの表面40fに木材緊結金物60が設けられ、粘弾性ダンパー50Bの一方の取付鋼板51と木材緊結金物60の間は、(鉛直鋼板45を介して)構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。したがって、粘弾性ダンパー50Bと木質系支持材40Bの間に応力が作用した場合に、当該応力は、木質系支持材40Bに関しては、木材緊結金物60との間で作用する。ここで、木質系支持材40Bには、木材緊結金物60の複数の突出部62が、木質系支持材40Bの内部へ貫入された状態となっている。このような、木材緊結金物60が木質系支持材40Bの内部に貫入される構成とすることで、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40Bの表面40fに接着する場合に生じるような、木質系支持材40Bの表面40fの繊維が剥離して、接合部が破壊することが抑制される。
また、何らかの部材を木質系支持材40Bに接合するに際し、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いると、木質系支持材40Bのボルトやドリフトピン等が設けられた部分の周辺に応力が集中し、これにより、ボルトやドリフトピン等が木質系支持材40Bにめり込むことが考えられる。これに対し、上記のような構成によれば、木質系支持材40Bには、木材緊結金物60の複数の突出部62が貫入して設けられることで、木材緊結金物60が接合されているため、これらの間に作用する応力は、複数の突出部62の各々へと広く分散した状態で、木質系支持材40Bと木材緊結金物60との間で相互に伝達される。したがって、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に比べると、局所的な応力の集中が抑制され、木質系支持材40Bへのめり込みが抑制される。
上記の効果が相乗し、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板51に接合することができる。
また、木材緊結金物60と粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板51の間は、(鉛直鋼板45を介して)構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパー50Bを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Bに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Bを実現することができる。
【0050】
また、木質構造部材10Bは、更に、構造物1の骨組2の第1の部分P11に接合される連結用鋼板20Bを備え、木質系支持材40Bは、骨組2の第2の部分P12に連結され、連結用鋼板20Bに対して相対移動可能に設けられ、粘弾性ダンパー50Bの他方の取付鋼板52と連結用鋼板20Bの間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。
上記のような構成によれば、連結用鋼板20Bと木質系支持材40Bは、構造物1の骨組2の、それぞれ異なる第1の部分P11と第2の部分P12に、接合、連結されている。連結用鋼板20Bと木質系支持材40Bは、互いに相対移動可能に設けられているため、地震が生じ、層間変形等により、構造物1の骨組2の第1の部分P11と第2の部分P12が互いに相対移動しようとすると、連結用鋼板20Bと木質系支持材40Bは、これら第1の部分P11と第2の部分P12の各々に追従して移動することで、相対移動する。この、連結用鋼板20Bと木質系支持材40Bの相対移動は、これらの間に介装された粘弾性ダンパー50Bにより吸収、減衰される。このようにして、振動が低減される。
このようにして粘弾性ダンパー50Bに応力が作用した場合においても、既に説明したように、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40Bの表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材40Bの表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することや、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に生じるような、局所的な応力の集中と木質系支持材40Bへのめり込みが、抑制される。
したがって、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板51に接合することができる。
また、連結用鋼板20Bと粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板52の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパー50Bを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Bに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Bを実現することができる。
【0051】
また、粘弾性ダンパー50Bと木質系支持材40Bは、鉛直鋼板45を挟んで一対が設けられ、粘弾性ダンパー50Bの一方の取付鋼板51と、木質系支持材40Bに接合された木材緊結金物60の板部61の各々が、鉛直鋼板45に構造用接着剤Jで接着接合され、連結用鋼板20Bは、一対の粘弾性ダンパー50Bを挟み込むように、一対が設けられ、粘弾性ダンパー50Bの各々においては、他方の取付鋼板52が連結用鋼板20Bに対して、其々構造用接着剤Jで接着接合されている。
このような構成によれば、木質構造部材10Bは、鉛直鋼板45を挟んだ両側に設けられるために、木質構造部材10Bの両側を木現しとすることができる。
また、木質系支持材40Bを一対で設けることにより、木質系支持材40Bを1つのみ設ける場合に比べると、木質系支持材40B一つあたりの断面積を小さくすることができる。このため、木質系支持材40Bに大断面の単体材を用いることなく、木質系支持材40Bに必要な荷重支持力を確保することができる。
また、粘弾性ダンパー50Bが複数配置されることになり、減衰性能を高めることができる。
【0052】
また、木材緊結金物60は、板部61と、板部61の一方の表面61f側から突出して設けられた複数の突出部62とを有し、木材緊結金物60の突出部62は、板部61に鋭角を成すように形成されたスリット63の内側の部分を一方の表面61f側に屈曲させることで形成されている。
このような構成によれば、突出部62を有した木材緊結金物60を容易に形成することができる。
【0053】
(第3実施形態の第1変形例)
例えば、上記第3実施形態では、粘弾性ダンパー50Bを、連結用鋼板20Bと、木質系支持材40Bの上部に設けられた鉛直鋼板45との間に配置するようにしたが、これに限られない。
例えば、木質構造部材10Bは、上下を反転させて設けるようにしてもよい。すなわち、木質系支持材40Bは、骨組2の第1の部分としての下方の梁3Bに、連結用鋼板20B、粘弾性ダンパー50B、鉛直鋼板45、木材緊結金物60を介して接合し、骨組2の第2の部分としての上方の梁3Aに、固定用鋼板30Bを介して接合するようにしてもよい。
【0054】
(第3実施形態の第2変形例)
本発明の第3実施形態の第2変形例に係る木質構造部材としての木質制振間柱を示す断面図を図11に示す。
図11に示されるように、木質構造部材10Cは、連結用鋼板20Cと、固定用鋼板30Cと、木質系支持材40Cと、粘弾性ダンパー50Cと、を備えている。
連結用鋼板20Cは、骨組2の第1の部分P21としての上方の梁3Aに固定されている。連結用鋼板20Cは、ベース部27と、鋼板部28と、を一体に有している。ベース部27は、上方の梁3Aの下面に沿って、梁3Aの延伸方向Daに延びている。ベース部27は、梁3Aの延伸方向Daに間隔をあけて配置された複数本のボルト90により、梁3Aの下面に固定されている。鋼板部28は、梁3Aの延伸方向Daから視たときに、ベース部27の中央部から、鉛直面内で下方に向かって延伸している。
固定用鋼板30Cは、骨組2の第2の部分P22としての下方の梁3Bに固定されている。連結用鋼板20Cと固定用鋼板30Cとは、上下方向Dvに間隔をあけて設けられている。固定用鋼板30Cは、上記第3実施形態と同様に、ベース部31と、固定用鋼板部32と、リブ33と、を一体に有した構成となっている。固定用鋼板30Cは、梁3Bの延伸方向Daに間隔をあけて配置された複数本のボルト90により、梁3Bの上面に固定されている。
【0055】
木質系支持材40Cは、連結用鋼板20Cと、固定用鋼板30Cとの間に、上下方向Dvに延びるように設けられている。本実施形態において、木質系支持材40Cは、梁幅方向Dtにおいて、連結用鋼板20Cの鋼板部28及び粘弾性ダンパー50Cを挟んだ両側に、一対が設けられている。
一対の木質系支持材40Cの下部同士の間には、固定用鋼板30Cの固定用鋼板部32が、スペーサ70を介して挟み込まれている。スペーサ70の両面は、固定用鋼板部32の表面32fと、木質系支持材40Cの、梁幅方向Dtで内側を向く表面40fとに対して当接して設けられている。スペーサ70の両面は、固定用鋼板部32の表面32fと、木質系支持材40Cの下部の表面40fとに対し、それぞれ、構造用接着剤Jにより接合されている。これにより、木質系支持材40Cは、固定用鋼板30Cを介して、骨組2の第2の部分P22としての下方の梁3Bに連結され、固定されている。
【0056】
本変形例において、粘弾性ダンパー50Cは、連結用鋼板20Cの鋼板部28と、一対の木質系支持材40Cとの間の各々に、一対として設けられている。
各粘弾性ダンパー50Cの取付鋼板52は、その表面が、連結用鋼板20Cの鋼板部28の表面28fに対して当接し、構造用接着剤Jにより、鋼板部28の表面28fに、直接接合されている。
木材緊結金物60は、木質系支持材40Cの表面40fにおいて、取付鋼板51と対向する位置に設けられている。木材緊結金物60は、複数の突出部62が各木質系支持材40Cに貫入し、板部61の表面が木質系支持材40Cの表面40fに沿うように設けられている。木材緊結金物60の板部61の、複数の突出部62が突出するように設けられた表面とは反対側の他方の表面と、各粘弾性ダンパー50Cの取付鋼板51とは、互いに当接して設けられて、構造用接着剤Jにより接着接合されている。
このようにして、各粘弾性ダンパー50Cの取付鋼板51と木材緊結金物60の板部61の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。また、粘弾性ダンパー50Bの取付鋼板52と連結用鋼板20Cの間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このような木質系支持材40Cは、連結用鋼板20Cに対して相対移動可能に設けられている。
【0057】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係る木質構造部材としての制振壁を示す図を図12に示す。
図12に示されるように、木質構造部材10Dは、構造物1の骨組2において、互いに上下に位置する梁3A、3B同士の間に設けられた制振壁である。木質構造部材10Dは、連結用鋼板20Dと、固定用鋼板30Dと、木質パネルからなる木質系支持材40Dと、木材緊結金物60と、粘弾性ダンパー50Dと、を備えている。木質構造部材10Dにおける、梁3A、3Bの延伸方向Daから視たときの断面構造は、上記第2、第3実施形態、及びその変形例で示したものと同様の構成が適用できるので、以下の説明では、その詳細を省略する。特に本実施形態における断面構造としては、上記第3実施形態の第2変形例の説明に用いた図11を上下に反転させた状態に近いものとなる。
【0058】
連結用鋼板20Dは、例えば、構造物1の骨組2の第1の部分P31としての下方の梁3Bに固定されている。固定用鋼板30Dは、構造物1の骨組2の第2の部分P32としての上方の梁3Aに固定されている。連結用鋼板20Dと固定用鋼板30Dとは、上下方向Dvに間隔をあけて設けられている。
木質系支持材40Dは、下方の梁3Bと、上方の梁3Aとの間で、壁面を形成する。木質系支持材40Dは、連結用鋼板20Dと、固定用鋼板30Dとの間に、上下方向Dvに延びるように設けられている。本実施形態において、木質系支持材40Dは、梁幅方向Dtにおいて、連結用鋼板20D及び固定用鋼板30Dを挟んだ両側に、一対が設けられている。
一対の木質系支持材40Dの各々は、板状に形成されている。一対の木質系支持材40Dは、梁幅方向Dtに間隔をあけて設けられている。
一対の木質系支持材40Dの上部同士の間には、固定用鋼板30Dが挟み込まれている。固定用鋼板30Dの表面の各々は、木質系支持材40Dの上部の各々に対し、スペーサ70を介して構造用接着剤Jにより接合されている。これにより、木質系支持材40Dは、固定用鋼板30Dを介して、骨組2の第2の部分P32としての上方の梁3Aに連結され、固定されている。
【0059】
一対の木質系支持材40Dの下部同士の間には、連結用鋼板20Dが設けられている。
本実施形態において、粘弾性ダンパー50Dは、連結用鋼板20Dと各木質系支持材40Dの間にそれぞれ挟み込まれている。粘弾性ダンパー50Dは、梁3Bの延伸方向Daに沿って、複数が並べられて設けられている。
木材緊結金物60は、各木質系支持材40Dにおいて、連結用鋼板20Dと対向する位置に設けられている。木材緊結金物60の板部61と、粘弾性ダンパー50Dの一方の取付鋼板とは、構造用接着剤Jにより接着接合されている。粘弾性ダンパー50Dの他方の取付鋼板は、その表面が、連結用鋼板20Dの表面に対して当接し、構造用接着剤Jにより、連結用鋼板20Dの表面に接合されている。
【0060】
上述したような木質構造部材10Dによれば、木質系支持材40Dと粘弾性ダンパー50Dが組み合わされた木質構造部材10Dであって、木質系支持材40Dの表面に、複数の突出部を貫入して設けられる木材緊結金物60と、一対の取付鋼板の間に粘弾性体が配置される粘弾性ダンパー50Dと、を備え、一方の取付鋼板と、木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されている。
上記のような構成によれば、木質系支持材40Dの表面に木材緊結金物60が設けられ、粘弾性ダンパー50Dの一方の取付鋼板と木材緊結金物60の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。したがって、粘弾性ダンパー50Dと木質系支持材40Dの間に応力が作用した場合に、当該応力は、木質系支持材40Dに関しては、木材緊結金物60との間で作用する。ここで、木質系支持材40Dには、木材緊結金物60の複数の突出部が、木質系支持材40Dの内部へ貫入された状態となっている。このような、木材緊結金物60が木質系支持材40Dの内部に貫入される構成とすることで、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40Dの表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材40Dの表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することが抑制される。
また、何らかの部材を木質系支持材40Dに接合するに際し、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いると、木質系支持材40Dのボルトやドリフトピン等が設けられた部分の周辺に応力が集中し、これにより、ボルトやドリフトピン等が木質系支持材40Dにめり込むことが考えられる。これに対し、上記のような構成によれば、木質系支持材40Dには、木材緊結金物60の複数の突出部が貫入して設けられることで、木材緊結金物60が接合されているため、これらの間に作用する応力は、複数の突出部の各々へと広く分散した状態で、木質系支持材40Dと木材緊結金物60との間で相互に伝達される。したがって、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に比べると、局所的な応力の集中が抑制され、木質系支持材40Dへのめり込みが抑制される。
上記の効果が相乗し、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパー50Dの取付鋼板に接合することができる。
また、木材緊結金物60と粘弾性ダンパー50Dの取付鋼板の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパー50Dを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Dに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Dを実現することができる。
【0061】
また、木質構造部材10Dは、更に、構造物1の骨組2の第1の部分P31に接合される連結用鋼板20Dを備え、木質系支持材40Dは、骨組2の第2の部分P32に連結され、連結用鋼板20Dに対して相対移動可能に設けられ、粘弾性ダンパー50Dの他方の取付鋼板と連結用鋼板20Dの間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。
上記のような構成によれば、連結用鋼板20Dと木質系支持材40Dは、構造物1の骨組2の、それぞれ異なる第1の部分P31と第2の部分P32に、接合、連結されている。連結用鋼板20Dと木質系支持材40Dは、互いに相対移動可能に設けられているため、地震が生じ、層間変形等により、構造物1の骨組2の第1の部分P31と第2の部分P32が互いに相対移動しようとすると、連結用鋼板20Dと木質系支持材40Dは、これら第1の部分P31と第2の部分P32の各々に追従して移動することで、相対移動する。この、連結用鋼板20Dと木質系支持材40Dの相対移動は、これらの間に介装された粘弾性ダンパー50Dにより吸収、減衰される。このようにして、振動が低減される。
このようにして粘弾性ダンパー50Dに応力が作用した場合においても、既に説明したように、接着剤を用いて何らかの部材を木質系支持材40Dの表面に接着する場合に生じるような、木質系支持材40Dの表面の繊維が剥離して、接合部が破壊することや、ボルトやドリフトピン等の鋼製の接合具を用いて接合した場合に生じるような、局所的な応力の集中と木質系支持材40Dへのめり込みが、抑制される。
したがって、接合部の状態が長期にわたり維持され、木質系の部材を強固な構造で粘弾性ダンパー50Dの取付鋼板51に接合することができる。
また、連結用鋼板20Dと粘弾性ダンパー50Dの取付鋼板の間は、構造用接着剤Jで接着接合されて固定されている。このため、粘弾性ダンパー50Dを取り付けるためにボルトやドリフトピンを用いる必要がなくなる。すると、ボルトやドリフトピンを締結するための接合しろを設ける必要がなくなり、接合部分の取り合いが簡潔なものとなる。
このようにして、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Dに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Dを実現することができる。
【0062】
(第4実施形態の変形例)
本発明の第4実施形態の変形例に係る木質構造部材としての制振壁を示す図を図13に示す。
図13に示されるように、本変形例における木質構造部材10Eは、連結用鋼板20E、粘弾性ダンパー50E、及び木材緊結金物60を、梁3Bの延伸方向Daにおける木質系支持材40Eの両端部に備えている。
また、本変形例における木質構造部材10Eは、木質系支持材40Eを、骨組2の第2の部分P32としての上方の梁3Aに固定する固定用鋼板30Eが、梁3Aの延伸方向Daにおける木質系支持材40Eの中央部に配置されている。この固定用鋼板30Eは、梁3Aに設けられた接合プレート95に対し、ピン97を介してピン接合されている。このようにして、木質構造部材10Eは、骨組の第2の部分P32に連結されている。
本変形例に示す木質構造部材10Eにおいても、木質系の部材を粘弾性ダンパー50Eに強固かつ簡潔な構造で接合して、振動を効果的に低減することができる、木質構造部材10Eを実現することができる。
【0063】
(その他の変形例)
なお、各実施形態及びその変形例では、木材緊結金物60として、板部61と、突出部62とを、備える構成を示したが、例えば、板部61の形状は、矩形状に限らず、円形等、適宜他の形状に変更可能である。
また、各実施形態及びその変形例では、突出部62を、板部61に形成したスリット63の内側の部分を屈曲させることで形成するようにしたが、これに限られない。例えば、図14に示すような木材緊結金物60Bにおいては、板部61Bに設けられた孔61hに、板部61Bの他方の表面61g側から一方の表面61f側へと、ビス等の線状接合具65が挿通されることで、突出部62Bが形成されている。このようにした場合においても、突出部62Bを容易に形成することができる。
また、上記各実施形態及びその変形例では、粘弾性ダンパー50A~50Eは、2枚の、取付鋼板51と取付鋼板52との間に、粘弾性体53を備える構成としたが、3枚以上の鋼板と、その間に設けられた複数の高減衰ゴムを備えるようにしてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0064】
また、本発明の木質構造部材は、下記の特徴を備える。
木質系支持材と粘弾性ダンパーが組み合わされた木質構造部材であって、構造物の骨組の第1の部分に接合される連結用鋼板と、前記骨組の第2の部分に連結され、前記連結用鋼板に対して相対移動可能に設けられる、前記木質系支持材と、板部と、前記板部の一方の表面から突出して設けられた複数の突出部とを有し、前記突出部が前記木質系支持材に貫入して設けられた木材緊結金物と、一対の取付鋼板を備え、前記連結用鋼板と、前記木材緊結金物の前記板部との間に介装されて、前記連結用鋼板と前記木質系支持材との相対移動を減衰させる前記粘弾性ダンパーと、を備え、前記粘弾性ダンパーの一方の前記取付鋼板と前記木材緊結金物の前記板部の間、及び前記粘弾性ダンパーの他方の前記取付鋼板と前記連結用鋼板の間は、其々構造用接着剤で接着接合されて固定されていることを特徴とする。
また、粘弾性ダンパーは、連結用鋼板を挟んで一対が設けられ、木質系支持材は、一対の前記粘弾性ダンパーを挟んだ両側に、一対の前記粘弾性ダンパーの各々に対応して、一対として設けられることを特徴とする。
また、木材緊結金物の前記突出部は、板部に鋭角を成すように形成されたスリットの内側の部分を一方の表面側に屈曲させることで形成されているか、または、板部に設けられた孔に、板部の他方の表面側から一方の表面側へと線状接合具が挿通されることで、形成されていることを特徴とする。
【符号の説明】
【0065】
1 構造物 60、60B 木材緊結金物
2 骨組 61、61B 板部
10、10A~10E 木質構造部材 61f 一方の表面
20A~20E 連結用鋼板 61g 他方の表面
40、40A~40E 木質系支持材 61h 孔
40f 表面 62、62B 突出部
50 鋼板 63 スリット
50A~50E 粘弾性ダンパー 65 線状接合具
51 一方の取付鋼板 J 構造用接着剤
52 他方の取付鋼板 P1、P11、P21、P31 第1の部分
53 粘弾性体 P2、P12、P22、P32 第2の部分
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14