(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023590
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】天然黒鉛鉱石破砕物を触媒とする廃アルミを用いる水分解システム
(51)【国際特許分類】
B01J 31/02 20060101AFI20250207BHJP
C01B 3/08 20060101ALI20250207BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20250207BHJP
【FI】
B01J31/02 M
C01B3/08 Z
C01B32/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127873
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】512004844
【氏名又は名称】石井 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐想 光廣
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA15
4G146AD35
4G169AA06
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BE02
4G169BE02A
4G169CB81
4G169DA02
4G169ED02
4G169FB06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】短鎖カルビン種を酸化還元触媒とする水分解システムの提供。
【解決手段】廃アルミ粉砕物をアルカリ性水溶液中に浸漬して水素を発生させるにあたり、天然黒鉛鉱石の粉砕物を水分解触媒として添加することを特徴とするアルミを使用する水分解システム。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃アルミ粉砕物をアルカリ性水溶液中に浸漬して水素を発生させるにあたり、天然黒鉛鉱石の粉砕物を水分解触媒として添加することを特徴とするアルミを使用する水分解システム。
【請求項2】
天然黒鉛鉱石中の水分解触媒の有効成分が、直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有する、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはCnH2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)である請求項1記載の水分解システム。
【請求項3】
廃アルミ粉砕物が、廃アルミ缶をグリコール系溶剤かケトン系溶剤に浸漬し、常圧で加熱して表面樹脂塗装を剥離したものである請求項1記載の水分解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃アルミニウムを使用する水分解システムにおいて、天然黒鉛鉱石破砕物を触媒とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
水素の製造には水の電解が一般的であるが、電気を使用することなく、水を分解する方法として回収アルミ缶を原料とする安価な水素製造方法が提案されている(特許文献1)。ここでは、その典型的な反応は、以下の反応式でアルミとアルカリ性水溶液を反応させて水素を発生させる。
2Al+2NaOH+6H2O→2Na[Al(OH)4]+3H2↑
この反応にあたり、Fe2(SO4)3などの水溶性触媒を用いることが推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.P.Kudryavtsev and S.Evsyukov Carbon 30(1992)213-221
【非特許文献2】V.V.Korshak and Y.P.Kudryavtsev, Makromol, Chem, Rapid Commun.9 (1988)135-140
【非特許文献3】K.Akagi, M.Nishiguchi and H.Shirakawa, synth.Met.17(1987)557-562
【非特許文献4】カルビンの合成と構造:炭素TANSO1997[No.178]122-127
【非特許文献5】擬一次元炭素結晶カルボライトの物性(KAKEN1996年度研究成果報告書)代表 いわき明星大学教授 田沼静一
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかるアルミとアルカリ性水溶液とを反応させるに従来使用されている分解触媒を検討するに、天然黒鉛鉱石の破砕物を添加すると、上記分解反応が促進されることを見出した。
そこで、本発明は従来使用されている水溶性触媒に代え、天然黒鉛鉱石の粉砕物を分解触媒とする水分解システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
天然黒鉛鉱石の粉砕物がアルミニウムと苛性ソーダの反応を促進する理由を考察するに、天然黒鉛鉱石中に含まれる成分を分析すると、天然黒鉛中にはフラーレンを含むカルビン種(Carbynoid又はGraphyne)は炭素原子が共役三重結合(ポリイン型異性体)又は累積二重結合(ポリクムレン型異性体)のいずれかによって連結されている固体状態の直鎖状sp混成炭素鎖が含まれ、かかる炭素構造種が従来の水溶性触媒より優れた機能を有することを見出し、これに基づき、本発明を完成した。
即ち、本発明は廃アルミ粉砕物をアルカリ性水溶液中に浸漬して水素を発生させるにあたり、天然黒鉛鉱石の粉砕物を水分解触媒として添加することを特徴とする廃アルミを使用す る水分解システムである。ここで、廃アルミ粉砕物は缶ビール等に用いられた廃アルミ等の粉砕物及び粉末を含む。通常表面塗装されているので、廃アルミ缶をエチレングリコールEG、ジエチレングリコールDEG及びトリエチレングリコールTEGを含むグリコール系溶剤かシクロヘキサノンCHN又はメチルイソブチルケトンMIBKなどのケトン系溶剤に浸漬し、常圧で加熱して表面樹脂塗装を剥離したものを使用するのが好ましい。
天然黒鉛鉱石中の水分解触媒の有効成分としては、直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有する、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはCnH2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を含む。アルカリ性水溶液としては苛性ソーダ又は苛性カリなどのアルカリ剤を用い、アルミニウムとの反応性を求める。本発明の場合、カルビン種との反応が必要なため、必要に応じて電解質を加えるのが好ましく、海水を用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシステムによれば、原料として廃アルミ缶を用い、安価な天然黒鉛鉱石粉砕物を用いるので、水素をより安価に簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】短鎖カルビン種を含む天然黒鉛鉱石粉砕物をビーカー内の水中に浸漬することによって水を分解している状態を示す写真である。
【
図2】短鎖カルビン種を含む天然黒鉛鉱石粉砕物と典型金属であるアルミニウム缶片をビーカー内の水中に浸漬することによって水を分解している状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
カーボン電子同士の化学結合は3種の混成軌道の可能性を持っており、sp3の混成軌道を持ち、1つのσ結合からなる三次元構造のダイアモンド種、sp2混成軌道を持ち、1つのσ結合と1つのπ結合からなる二次元構造のグラファイト種、sp混成軌道を持ち、1つのσ結合と2つのπ結合からなる一次元構造のカルビン種、1つの準σ結合と1つの準π結合から準sp2混成軌道を形成する0次元のフラーレン種に分類することができるとされ、
図3に示す三次元相関図が示される。この内、特に、フラーレンを含むカルビン種(Carbynoid又はGraphyne)は炭素原子が共役三重結合(ポリイン型異性体)又は累積二重結合(ポリクムレン型異性体)のいずれかによって連結されている固体状態の直鎖状sp混成炭素鎖が示唆されており、多くの研究者がこのカルビン種の合成に挑戦している。代表的な物理的方法としては、黒鉛にレーザー照射あるいはイオンスパッタリングして生成する方法(非特許文献1)や、代表的な化学的方法としてハロゲン化ポリビニリデンをエチル化カリウムのテトラヒドロフラン溶液中で脱ハロゲン化する方法(非特許文献2)、ポリアセチレンを予め塩素化しておき、これを脱塩酸化する方法(非特許文献3)などが提案されているものの、量産に成功していないのが現状であり(非特許文献4)、カルビンの工業的利用には程遠い。また、擬一次元炭素結晶としてカルボライトと命名された新たに創生された炭素結晶についてはその電気的物性について研究されているにすぎず(非特許文献5)、多くはその結晶構造を含め、その物性並びに用途は謎とされている。
【0010】
本発明者は天然黒鉛鉱から採取した天然黒鉛は
図3に示すように、Graphiteだけでなく、Carbynoid及びGraphyne構造を含み、ポリイン(α-carbyne)及びクムレン(β-carbyne)炭素構造を有し、炭素間の一次元炭素構造は解離しやすい形態で炭素間結合が存在するためか水中に浸漬又は熱湯で煮沸するだけで、多くの炭化水素が水中に滲出していることがクロマトグラフィ分析によって確認された。そこで、その炭化水素の構造を決定すべく、その黒鉛片を昇温イオン脱離法(TOF-ESD:飛行時間型電子励起イオン離脱法)で検査すると、酸素、水素、炭酸ガスの他に短鎖カルビン種を含む各種炭化水素イオンが脱離することを確認された。この短鎖カルビンはカルビン構造の末端が三不対電子構造を有して活性であるため、特に炭素鎖が短い(RC:・、但しRはC
nH
2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)とその反応性は非常に高いと予測され(非特許文献4)、水と反応して水素を放出する触媒機能を有することを発見した。しかもこの黒鉛材料に金属電極を対向又は接触させると、金属電極のイオン化を介して水分解を促進する機能を有することを発見した。これらの現象は水溶液中に存在する短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC
nH
2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)の水中での酸化還元触媒作用であると思われる。そのため、短鎖カルビン種が水中でカルビンイオンRC:・を生成し、酸化還元反応を促進するため、水分解を触媒することができると思われる。
【0011】
したがって、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはCnH2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を含むと、水又は電解液中で酸化還元触媒機能を有するため、本発明は、電気化学反応を促進する触媒として、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはCnH2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を酸化還元触媒として提供し、廃アルミの水分解を促進し、大量の水素を発生させる。
【0012】
短鎖カルビン種の存在
短鎖カルビン種は、直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を検索することにより確認できる。炭素二重結合又は三重結合は、昇温イオン脱離法(TOF-ESD:飛行時間型電子励起イオン離脱法)では、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはCnH2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)の最小n=1のCH3C:・のエチリジンの放出を確認している。また、通常、炭素三重結合は赤外分光法においてC≡C伸縮の2260~2100cm-1、≡C-H伸縮の3340~3270cm-1或いは≡C-H変角の700~600cm-1の吸収スペクトルに特有とされる一方、化学的にはアセチリドの検出を用いることが挙げられる。
【0013】
水中での変化
また、カルビンイオンは水中で互いにカップリングするn=2以上のプロピリジンを含む短鎖カルビンを形成し、また、水中の金属イオンと結合し、カルビン金属錯体を形成するものと思われる。そして、中間体RCO
+やRCMe
+は金属イオンとの形成により電子を受けて還元され、中間体を介してカルビンに還元され、金属がイオンとして消失するまでこの反応が繰り返される結果、
図1に示されるように、水中への浸漬により水を分解する酸化還元反応を促進すると思われる。
【0014】
本発明の天然黒鉛粉砕物は、天然黒鉛鉱粉砕物から採取した黒鉛から調製した黒鉛シートであってもよい。直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を残すものがあると思われ、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖カルビン種(RC:・、但しRはCnH2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を滲出可能であるからである。
【0015】
(天然黒鉛のイオンの質量分析)
(飛行時間型電子励起イオン脱離法:TOF-ESD法)により天然黒鉛から放出される電子励起イオンの、質量分析を行なうことができる。この装置は、水素顕微鏡はScanning type Electron-Stimulated Desorption Ion Microscope (SESDIK)といわれ、100~500eVの低速の電子をパルスで試料を照射すると、固体表面に吸着している水素や酸素その他の吸着種がイオン化されて真空中に飛び出してくる。これらを検出、増幅して信号とする。電子ビームはパルスとして照射するのでイオンの検出には飛行時間法(TOF)により、飛行時間の計算式を用いて計算する方法である。この信号をTOFスペクトルとして表示すると局所場に応じた質量分析ができることになり、水素、酸素その他の吸着種のイオンの2次元分布を得ることができる。単に水素や酸素が検出できるだけでなく、結合や吸着状態の違いが脱離の運動エネルギーに投影して吸着対象を選別して検出し、化学的な質量分析ができる。天然黒鉛から溶液中への滲出物質を液体クロマトグラフで確認すると大量の炭化水素が確認された。そこで、上記天然黒鉛の切片を切り出し、固体の表面にパルス電子を照射して脱離するプロトンを検出する方法(電子励起イオン脱離、TOF-ESD)を用いて分析すると、水素、酸素、一酸化炭素の他、分子量27のエチリジン(CH3C・)及び分子量28のエチレン(C2H4)を検出した。
【0016】
短鎖カルビンを含む黒鉛電極による水分解
天然黒鉛鉱から得られる粉末またはやや大きな粒径の粉砕物を酸化還元触媒として、塩化ナトリウム1モルを添加した電解液に添加すると、
図1の水分解作用が見られた。
【0017】
短鎖カルビンを含む天然黒鉛鉱石粉砕物と金属アルミ板による水分解
天然黒鉛鉱から得られる天然黒鉛粉末から1~2mm厚のシート100mm×100mmとなす一方、対極に1mm厚の廃アルミ缶から切り出し、塗装を除去した切片100mm×100mmを用い、これらを1モルの塩化ナトリウムおよび0.5~1.0モルの苛性ソーダ添加した電解液に浸漬すると、
図2の強い水分解作用が見られた。
【0018】
以上、本発明を上記実施例で具体的に説明したが、これらの具体例に限られるものでなく、海水に0.5~1.0モルの苛性ソーダ又は苛性カリなどのアルカリ性剤を添加してアルカリ性水溶液としてもよい。