(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023603
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】方位誤差推定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20250207BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20250207BHJP
【FI】
G01S7/40 130
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127897
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD08
5J070AE07
5J070AF03
(57)【要約】
【課題】レーダ装置の方位角度の誤差の推定精度を向上する技術を提供すること。
【解決手段】信号処理部7は、物体検知部31と車速検知部33と静止物判定部35と方位誤差推定部37とを備えるとともに、方位誤差オフセット推定部39を備える。方位誤差推定部37は、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性を利用して、物体検知部31によって検知される物体の方位角度毎の角度誤差を推定する。方位誤差オフセット推定部39は、静止物の相対速度及び方位角度に基づいて、レーダ装置の軸ずれ角に対応する値を示す方位誤差オフセットを推定する。そして、静止物判定部35は、方位誤差オフセットに応じて、静止物の判定条件を変更し、方位誤差推定部37は、変更された静止物の判定条件に基づいて、方位角度毎の角度誤差を推定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の周囲の物体を検知するレーダ装置(3)を用いる場合に、前記物体の方位角度の誤差を推定する方位誤差推定装置(7)であって、
前記自車の周囲の検知領域に存在する前記物体の情報のうち、少なくとも前記自車に対する相対速度及び前記方位角度を検知するように構成された物体検知部(31)と、
前記自車の速度を検知するように構成された車速検知部(33)と、
前記物体検知部及び前記車速検知部から得られた前記物体の前記相対速度及び前記方位角度と前記自車の速度とから、前記物体が静止物かどうかを判定するように構成された静止物判定部(35)と、
前記静止物に対する前記相対速度の前記方位角度の依存性を利用して、前記物体検知部によって検知される前記物体の前記方位角度毎の角度誤差を推定するように構成された方位誤差推定部(37)と、
を備え、
更に、前記静止物の前記相対速度及び前記方位角度に基づいて、前記レーダ装置の軸ずれ角に対応する値を示す方位誤差オフセットを推定するように構成された方位誤差オフセット推定部(39)と、
を備え、
前記静止物判定部は、前記方位誤差オフセットに応じて、前記静止物の判定条件を変更するように構成されるとともに、前記方位誤差推定部は、前記変更された前記静止物の判定条件に基づいて、前記方位角度毎の角度誤差を推定するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の方位誤差推定装置であって、
前記方位誤差オフセット推定部は、前記静止物の前記相対速度及び前記方位角度に基づいて、前記レーダ装置の軸ずれ角に対応する、前記静止物の前記相対速度と前記方位角度との関係を表す曲線のずれの状態を示す、前記方位誤差オフセットを推定するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の方位誤差推定装置であって、
前記方位誤差オフセット推定部は、全方位における前記静止物の前記相対速度の前記方位角度の依存性に基づいて、前記方位誤差オフセットを推定するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の方位誤差推定装置であって、
前記静止物の判定条件を変更する場合には、前記方位誤差オフセット推定部にて前記方位誤差オフセットの推定の際に用いる前記静止物を抽出する範囲よりも、前記方位誤差推定部にて前記角度誤差の推定の際に用いる前記静止物を抽出する範囲を狭くするように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の方位誤差推定装置であって、
前記方位誤差推定部は、前記方位誤差オフセットの推定を複数サイクル実施した場合に、前記方位誤差オフセットが収束した後に、前記方位角度毎の角度誤差を出力するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の方位誤差推定装置であって、
前記複数サイクルにおける前記方位誤差オフセットの推定値のばらつきに応じて、前記方位誤差オフセットの収束を判定するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の方位誤差推定装置であって、
前記方位誤差推定部にて、前記方位誤差オフセットの推定を複数サイクル実施した場合に、前記複数サイクルにおける前記方位誤差オフセットの推定値のばらつきに応じて、前記静止物の判定条件を変更するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の方位誤差推定装置であって、
前記静止物判定部は、前記方位誤差オフセットの前記複数サイクルの推定値のばらつきが小さいほど、前記静止物の抽出範囲を狭めるように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項9】
自車の周囲の物体を検知するレーダ装置(3)を用いる場合に、前記物体の方位角度の誤差を推定する方位誤差推定装置(7)であって、
前記自車の周囲の検知領域に存在する前記物体の情報のうち、前記自車に対する少なくとも相対速度及び方位角度を検知するように構成された物体検知部(31)と、
前記自車の速度を検知するように構成された車速検知部(33)と、
前記物体検知部及び前記車速検知部から得られた前記物体の前記相対速度及び前記方位角度と前記自車の速度とから、前記物体が静止物かどうかを判定するように構成された静止物判定部(35)と、
前記静止物に対する前記相対速度の前記方位角度の依存性を利用して、前記物体検知部によって検知される前記物体の前記方位角度毎の角度誤差を推定するように構成された方位誤差推定部(37)と、
を備えるとともに、
前記静止物判定部は、前記方位誤差推定部によって推定された前記方位角度毎の角度誤差に基づいて、前記静止物の判定条件を前記方位角度毎に変更するように構成された、
方位誤差推定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の方位誤差推定装置であって、
前記方位誤差推定部が、前記方位角度毎の角度誤差を複数サイクル実施した場合に、
前記静止物判定部は、前記方位角度毎の角度誤差の推定値の前記複数サイクル間のばらつきが小さいほど、前記方位角度毎の前記静止物の抽出範囲を狭めるように構成された、
方位誤差推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する方位誤差を推定することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁波を送受信することによって車両周囲に存在する障害物を検出するレーダ装置のアンテナ等を、バンパ内に設置することが行われている。
また、近年では、静止物の相対速度の方位角度の依存性を利用して、バンパによる方位毎の角度誤差(即ち、バンパ誤差)を推定する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、従来の技術について、下記のような課題が見出された。
レーダ装置では、レーダビームの中心軸がずれるいわゆる軸ずれが生じることがあり、軸ずれがある場合に上述したバンパ誤差の推定を行うと、バンパ誤差の推定の精度が低下する恐れがある。
【0005】
つまり、軸ずれが生じている場合には、物体(即ち、静止物等)の位置等を精度良く検出できないことがあるので、誤った静止物の位置等の情報を用いてバンパ誤差を推定すると、結果としてバンパ誤差(即ち、方位角度の誤差)の推定精度が低下するという問題がある。
【0006】
本開示の一局面は、レーダ装置の方位角度の誤差の推定精度を向上することが可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
a)本開示の一態様は、自車の周囲の物体を検知するレーダ装置(3)を用いる場合に、物体の方位角度の誤差を推定する方位誤差推定装置(7)に関するものである。
この方位誤差推定装置は、物体検知部(31)と車速検知部(33)と静止物判定部(35)と方位誤差推定部(37)とを備えるとともに、方位誤差オフセット推定部(39)を備える。
【0008】
物体検知部は、自車の周囲の検知領域に存在する物体の情報のうち、少なくとも自車に対する相対速度及び方位角度を検知するように構成されている。
車速検知部は、自車の速度を検知するように構成されている。
【0009】
静止物判定部は、物体検知部及び車速検知部から得られた物体の相対速度及び方位角度と自車の速度とから、物体が静止物かどうかを判定するように構成されている。
方位誤差推定部(37)は、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性を利用して、物体検知部によって検知される物体の方位角度毎の角度誤差を推定するように構成されている。
【0010】
方位誤差オフセット推定部は、静止物の相対速度及び方位角度に基づいて、レーダ装置の軸ずれ角に対応する値を示す方位誤差オフセットを推定するように構成されている。
そして、静止物判定部は、方位誤差オフセットに応じて、静止物の判定条件を変更するように構成されるとともに、方位誤差推定部は、変更された静止物の判定条件に基づいて、方位角度毎の角度誤差を推定するように構成されている。
【0011】
このような構成により、本開示では、レーダ装置の方位角度の誤差の推定精度を向上することができる。
具体的には、レーダ装置に軸ずれが生じている場合には、静止物の判定に影響を及ぼすことがある。よって、レーダ装置の軸ずれ量(即ち、方位誤差オフセット)に応じて、方位角度の誤差の推定に用いる静止物の判定条件を変更することにより、軸ずれによる影響を抑制して、精度良くレーダ装置の方位角度の誤差を推定することができる。
【0012】
b)本開示の他の態様は、自車の周囲の物体を検知するレーダ装置(3)を用いる場合に、物体の方位角度の誤差を推定する方位誤差推定装置(7)に関するものである。
この方位誤差推定装置は、物体検知部(31)と車速検知部(33)と静止物判定部(35)と方位誤差推定部(37)とを備える。
【0013】
物体検知部は、自車の周囲の検知領域に存在する物体の情報のうち、自車に対する少なくとも相対速度及び方位角度を検知するように構成されている。
車速検知部は、自車の速度を検知するように構成されている。
【0014】
静止物判定部は、物体検知部及び車速検知部から得られた物体の相対速度及び方位角度と自車の速度とから、物体が静止物かどうかを判定するように構成されている。
方位誤差推定部は、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性を利用して、物体検知部によって検知される物体の方位角度毎の角度誤差を推定するように構成されている。
【0015】
そして、静止物判定部は、方位誤差推定部によって推定された方位角度毎の角度誤差に基づいて、静止物の判定条件を方位角度毎に変更するように構成されている。
このような構成により、本開示では、レーダ装置の方位角度の誤差の推定精度を向上することができる。
【0016】
レーダ装置に軸ずれが生じている場合には、静止物の判定に影響を及ぼすことがある。それに対して、本開示では、方位誤差推定部によって推定された方位角度毎の角度誤差に基づいて、静止物の判定条件を方位角度毎に変更するので、仮に軸ずれがあった場合でも、その影響を抑制できる。
【0017】
つまり、方位角度毎の角度誤差に基づいて、例えば、方位角度毎に静止物を抽出する範囲を設定するように、静止物の判定条件を方位角度毎に変更することにより、静止物を抽出する範囲を適切に設定できる。よって、適切に設定された範囲にて抽出された静止物を用いて、精度良く方位角度毎の角度誤差を推定することができる。
【0018】
また、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の車両制御システムの構成を示す説明図である。
【
図2】第1実施形態の車両のレーダ装置の配置状態を示す平面図である。
【
図3】第1実施形態の信号処理部を機能的に示すブロック図である。
【
図4】側方(壁面)の静止物の相対速度及び方位角度の検出されかたを示す説明図である。
【
図5】
図5Aは、相対速度と方位角度との理論値を示す理論曲線と実際の観測値による実曲線と方位誤差との関係を示す説明図、
図5Bは、理論曲線と実曲線との方位角度の水平方向における差分を示すグラフである。
【
図6】理論曲線の軸ずれ時における変化を示すグラフである。
【
図7】
図7Aは、静止物抽出範囲が狭い場合の問題を説明する説明図、
図7Bは、静止物抽出範囲が広い場合の問題を説明する説明図である。
【
図8】第1実施形態の実施内容を示し、
図8Aは、静止物抽出範囲を広げて方位誤差オフセットを求める手順を示す説明図、
図8Bは、方位誤差オフセットに応じて静止物抽出範囲を絞り込む手順を示す説明図である。
【
図9】第1実施形態における処理を示すフローチャートである。
【
図10】第1実施形態における角度補正の手順を示す説明図である。
【
図11】第2実施形態の信号処理部を機能的に示すブロック図である。
【
図12】第2実施形態の実施内容を示し、
図12Aは、静止物抽出範囲を広げておき各方位角度でバンパ誤差を推定する手順を示す説明図、
図12Bは、方位角度毎に静止物抽出範囲を設定する手順を示す説明図である。
【
図13】第2実施形態における処理を示すフローチャートである。
【
図14】
図14Aは、静止物の抽出の処理を示すフローチャート、
図14Bは、バンパ誤差の推定の処理を示すフローチャートである。
【
図15】係数k3(忘却係数)を設定する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
本第1実施形態では、レーダ装置によって物体を検知する場合に、物体の方位角度の誤差を推定できる装置について説明する。
【0021】
[1-1.全体構成]
図1に示す車両制御システム1は、車両に搭載されるシステムである。車両制御システム1は、例えば、レーダ装置3と、車載センサ群5と、信号処理部7と、支援実行部9と、軸ずれ通知装置11と、搭載角度調整装置13と、を備える。以下では、車両制御システム1を搭載する車両を自車VH(
図2参照)ともいう。
【0022】
レーダ装置3は、レーダ波を送受信するアンテナ部(図示せず)等を備えており、電磁波を透過する材料で構成されたバンパ内に設置して使用される。アンテナ部は、垂直方向(即ち、鉛直方向)及び水平方向のいずれについても反射波の到来方向を検出できるように構成される。このアンテナ部としては、垂直方向及び水平方向に並ぶ複数のアンテナを備えるアレイアンテナを採用できる。
【0023】
レーダ装置3は、
図2に示すように、例えば、上方(即ち、鉛直方向)から見た平面視において、自車VHの前部や自車VHの周囲の4隅の角部にそれぞれ搭載される。各レーダ装置3は、それぞれ所定の角度範囲である照射範囲にレーダ波を照射する。なお、以下では、角部のレーダ装置3を例に挙げて説明するので、
図2では、角部のレーダ装置3の各検知エリア(即ち、照射範囲)を記載してある。
【0024】
レーダ装置3は、垂直方向における照射範囲及び水平方向における照射範囲に、レーダ波を照射する。レーダ装置3は、照射したレーダ波の反射波を受信することで、レーダ波を反射した反射点に関する反射点情報を検出する。レーダ装置3が検出する反射点情報には、レーダ装置3と反射点との相対速度、及び、反射点の方位角度、が少なくとも含まれる。
【0025】
なお、レーダ装置3は、レーダ波として、ミリ波帯の電磁波を使用するいわゆるミリ波レーダ(例えば、FMCWレーダ)であってもよいし、レーダ波としてレーザ光を用いるレーザレーダ、レーダ波として音波を用いるソナーであってもよい。いずれにしても、レーダ波を送受信するアンテナ部は、水平方向および垂直方向のいずれについても反射波の到来方向を検出できるように構成されている。
【0026】
図1に戻り、車載センサ群5は、自車VHの状態等を検出するために自車VHに搭載された各種センサである。ここでは、車載センサ群5を構成するセンサとして、車輪の回転に基づいて車速を検出する車速センサ5aが少なくとも含まれている。
【0027】
信号処理部7は、CPU15と、ROM17、RAM19、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、メモリ21)と、を有するマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を中心に構成される。信号処理部7の各種機能は、CPU15が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ21が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0028】
なお、信号処理部7を構成するマイコンの数は1つでも複数でもよい。また、信号処理部7が有する各種機能を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素について、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現してもよい。例えば、上記機能がハードウェアである電子回路によって実現される場合、その電子回路は多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路、あるいはこれらの組合せによって実現してもよい。
【0029】
信号処理部7は、
図3に示すように、機能的に、物体検知部31と車速検知部33と静止物判定部35と方位誤差推定部37とを備えるとともに、更に、方位誤差オフセット推定部39を備えている。
【0030】
物体検知部31は、自車VHの周囲の検知領域に存在する物体の情報のうち、少なくとも自車VHに対する相対速度及び方位角度を検知するように構成されている。
車速検知部33は、自車VHの速度を検知するように構成されている。
【0031】
静止物判定部35は、物体検知部31及び車速検知部33から得られた物体の相対速度及び方位角度と自車VHの速度とから、物体が静止物かどうかを判定するように構成されている。特に、この静止物判定部35は、後述する方位誤差オフセットに応じて、静止物の判定条件を変更するように構成されている。
【0032】
方位誤差推定部37は、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性を利用して、物体検知部31によって検知される物体の方位角度毎の角度誤差(即ち、バンパ誤差)を推定するように構成されている。なお、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性とは、レーダ装置3によって静止物の状態を検知する場合に、静止物の方位角度は静止物の相対速度に応じて変化する(即ち、相対速度に対応している)ことを意味している。
【0033】
方位誤差オフセット推定部39は、静止物の相対速度及び方位角度に基づいて、レーダ装置3の軸ずれ角に対応する値を示す方位誤差オフセットを推定するように構成されている。
【0034】
なお、この方位誤差オフセット推定部39は、例えば、レーダ装置3の軸ずれ角に対応する、静止物の相対速度と方位角度との関係を表す曲線のずれの状態を示す、方位誤差オフセットを推定するように構成されている。
【0035】
また、方位誤差オフセット推定部39は、例えば、全方位における静止物の相対速度の方位角度の依存性に基づいて、方位誤差オフセットを推定するように構成されている。
なお、信号処理部7が実行する処理には、後述するように、物標を検出する処理と、軸ずれ推定の処理(即ち、方位誤差オフセットの推定の処理)と、バンパ誤差の推定の処理等と、が少なくとも含まれている。
【0036】
支援実行部9は、信号処理部7が実行する物標を検出する処理等での処理結果に基づき、各種車載機器を制御して、所定の運転支援を実行する。制御対象となる車載機器には、各種画像を表示するモニタ、警報音や案内音声を出力する音響機器が含まれる他、自車VHの内燃機関、パワートレイン機構、ブレーキ機構等を制御する制御装置が含まれていてもよい。
【0037】
軸ずれ通知装置11は、車室内に設置された例えば音声出力装置である。軸ずれ通知装置11は、信号処理部7から出力される情報に基づき、自車VHの乗員に対して、警告音を出力する。
【0038】
搭載角度調整装置13は、モータ(図示せず)と、レーダ装置3に取り付けられた歯車(図示せず)とを備える。搭載角度調整装置13は、信号処理部7から出力される駆動信号に従ってモータを回転させる。これにより、モータの回転力が歯車に伝達され、水平方向に沿った軸及び垂直方向に沿った軸を中心にレーダ装置3を回転させることができる。
【0039】
[1-2.方位誤差推定の方法]
次に、本第1実施形態における方位誤差推定の方法について説明する。
なお、以下では、平面視での平面(即ち、水平方向)における方位誤差推定の方法について説明する。
【0040】
従来、車両のバンパ内に、レーダ装置3(即ち、連続波を用いて物体の方位角度を検出するレーダ装置)が配置された場合に、バンパの影響によって生じる方位誤差を推定する技術が知られている(例えば、特許第6358076号参照)。
【0041】
この技術とは、静止物の相対速度と方位角度との理論曲線と、実際にレーダ装置3にて検知された物体に対応する観測値に基づく実データの曲線と、の差分から、方位角度毎のずれ量を推定する技術である。
【0042】
ここでは、
図4の構成を例に挙げ説明するが、公知であるので簡単に説明する。
図4に示すように、レーダ装置3は、電磁波を透過する材料で構成されたバンパ内に設置して使用される。例えば、レーダ装置3は、車両の後側に設置されたバンパの進行方向に向かって右端付近に設置され、かつ、車両の側方を探査範囲に含むような向きに設置されている。
【0043】
レーダ装置3が0~180[deg]を探査範囲とし、しかも、探査範囲の0[deg]の方向が、車両の後方向に対し、車両の上方から見て右回りにθinst[deg]傾くように車両に取り付けられている場合、車両の真横方向は、90+θinst[deg]となる。
図4では、θinst=50[deg]の場合を示す。
【0044】
図4の取付状態を前提として、特許第6358076号公報の段落[0026]に記載の式(1)(即ち、下記の式(P1))を用いて求めた理論曲線を
図5Aに破線で示す。
【0045】
【0046】
但し、Vself:自車速度:、y:静止物の相対速度、x:静止物の方位角度、θinst:レーダ装置3の取付角度、A:定数、N_FFT_BIN:FFTポイント数(例えば256)
なお、理論曲線は自車速度(即ち、自車速)が遅いほど変化が小さく、自車速度が早いほど、方向に対する相対速度(周波数ビン)の変化が大きくなる。
【0047】
相対速度を表す周波数ビンは、0~N_FFT_BIN[bin]で表され、その中心のN_FFT_BIN/2[bin]を、相対速度がゼロの場合としている。この場合、N_FFT_BIN/2~N_FFT_BIN[bin]は、静止物(例えば、壁面)が自車VHに接近してくるように観測される物標接近領域、0~N_FFT_BIN/2[bin]は、静止物が自車VHから離れていくように観測される物標離脱領域となる。
【0048】
図5Aでは、破線が理論曲線であり、実線が実データの分布Pを、周知の統計的な手法を用いて曲線(即ち、実データに基づく曲線:実曲線)で表したものである。この実曲線は、理論曲線の付近(即ち、上下の一点鎖線で挟まれた領域:静止物を抽出する範囲)で観測された物体(即ち、静止物を示す物標)を平滑化して算出したものである。
【0049】
そして、同図に示すように、ある方位角度における理論曲線と実曲線との差、即ち、理論曲線と実曲線との方位軸方向(図中の左右方向)における差が、バンパの影響による方位誤差となる。なお、
図5Bに、水平方向の方位における理論曲線と実曲線との方位角度の差分(即ち、方位誤差)を示す。
【0050】
ところで、本発明者等の研究により、レーダ装置3に軸ずれがある場合には、静止物の速度(即ち、相対速度)と方位角度との関係が変化することが分かっている。また、移動物が理論曲線付近に出ることもあり、バンパ誤差の推定のように、方位角度毎に誤差を推定する場合には、特に影響が大きくなることが考えられる。
【0051】
具体的には、
図6に示すように、軸ずれが無い場合には、例えば、物体(物標)の相対速度と水平方位との関係を示す理論曲線は細い破線で示すような曲線(C1)となるが、軸ずれがある場合には、軸ずれの角度(即ち、軸ずれ角)の分だけ、理論曲線が方位軸方向にずれる特徴がある。つまり、軸ずれがあると、理論曲線は軸ずれ角の分だけシフト(例えば、
図6では右側にシフト)し、太い破線で示すような理論曲線(C2)になる。なお、軸ずれ角がない場合の理論曲線をC1で示し、軸ずれ角がある場合の理論曲線をC2で示す。
【0052】
そのため、
図7Aに示すように、理論曲線C1に対して、静止物抽出範囲(即ち、上下の一点鎖線で挟まれる範囲)が狭い場合には、静止物抽出範囲内の物標(即ち、細かいメッシュで塗りつぶされた実線の丸)が少なくなって、従ってその範囲の静止物が少なくなって、方位誤差の推定精度が低下する恐れがある。なお、静止物は、実線の丸で示されており、その一部が、静止物抽出範囲内の物標(即ち、細かいメッシュで塗りつぶされた実線の丸)である。
【0053】
一方、
図7Bに示すように、理論曲線C1に対して、静止物抽出範囲が広い場合には、静止物抽出範囲内の物標が多くなって、静止物だけでなく移動物も含まれる可能性が高くなるので、方位誤差の推定精度が低下する恐れがある。なお、静止物抽出範囲において、メッシュにて塗りつぶされた実線の丸が、静止物を示し、粗いドットで塗りつぶされた破線の丸が、移動物を示している。なお、他の破線の丸は、移動物を示している。
【0054】
そこで、本開示では、
図8に示すように、まず、静止物抽出範囲を広げて、軸ずれを推定する。即ち、理論曲線C1と理論曲線C2とのずれである方位誤差オフセット(即ち、軸ずれ角)を推定する。その後、理論曲線C2に基づいて静止物抽出範囲を絞り込み、バンパ誤差の推定を行う。
【0055】
具体的には、
図8Aに示すように、まず、軸ずれ角の推定を行うために、静止物抽出範囲を、上下の一点鎖線で示すように、上下方向に広げる(即ち、相対速度の範囲を広げる)。例えば、軸ずれ角が無い場合に初期値として設定された静止物抽出範囲よりも広げる。
【0056】
次に、この広げた範囲内の物標のデータ、例えば、水平方向における全方位の物標のデータを用いて、公知技術と同様に、軸ずれ角の推定を行う。即ち、理論曲線C1と理論曲線C2とのずれである方位誤差オフセットを推定する。
【0057】
ここで、静止物抽出範囲を広げると、移動物のデータが含まれる可能性があるが、軸ずれ角の推定の特性上、方位角度毎の誤差を求めるものではないので、また、広い範囲(例えば、全水平方位)の物標全体の分布から推定するため、バンパ誤差のような悪影響は少ないと考えられる。
【0058】
なお、軸ずれ角の推定の技術は、例えば特許第3733863号公報等に記載のように公知技術である。この技術は、静止物に対する相対速度の方位角依存性を利用して、軸ずれ量(同公報に記載の光軸ずれ量α)を推定するものである。
【0059】
次に、
図8Bに示すように、方位誤差オフセットの推定結果(即ち、軸ずれ後の理論曲線C)に基づいて、静止物抽出範囲を絞り込む。なお、軸ずれ後の理論曲線Cとは、軸ずれ前の理論曲線C1を、方位誤差オフセット分だけオフセットさせた(例えば、
図8Aの右側に移動させた)理論曲線である。
【0060】
つまり、ここでは、軸ずれ後の理論曲線C2を含むような所定幅の静止物抽出範囲(即ち、
図8Bの一点鎖線で挟まれた領域)を設定する。この
図8Bに示す静止物抽出範囲は、前記軸ずれ角(即ち、方位誤差オフセット)の推定で用いた前記
図8Aに示す静止物抽出範囲よりも狭い範囲である。例えば、
図8Aにおける静止物抽出範囲の上下方向の幅(即ち、相対速度に対応した幅)よりも、
図8Bにおける上下方向の幅が狭い範囲である。
【0061】
この静止物抽出範囲を用いることにより、適切な数で且つ静止物である可能性のある物標を絞り込みことができる。よって、この好ましい物標のデータを用いて、バンパ誤差の推定を行うことにより、バンパ誤差の推定を精度良く行うことができる。
【0062】
[1-3.制御処理]
次に、信号処理部7によって実施される方位誤差推定処理について、
図9のフローチャートを用いて説明する。本処理は、レーダ波を送受信する測定サイクル毎に実施される。
【0063】
図9に示すように、車両のイグニッションスイッチがオン(IG ON)となると、レーダ装置3によるレーダ動作、即ち、レーダ波を送信するとともに、物体からの反射波を受信して、車両の周囲の物体の情報を検出する動作が開始される。
【0064】
ステップ(以下、S)100では、車速センサ5aからの信号に基づいて、自車速度が所定の閾値より大であるか否かを判定する。ここで肯定判断されるとS110に進み、一方否定判断されるとS170に進む。なお、自車速度が低い場合には、静止物判定等の処理を精度よく行うことが難しいので、この判定を行う。
【0065】
S110では、周知のように、レーダ波の反射波を利用して、物体(即ち、物標)の情報を取得する。例えば、物標との距離(R)、物標の相対速度(V)、物標の方位角度(θ)の情報を取得する。
【0066】
続くS120では、静止物の抽出の処理を行う。この静止物の抽出の処理としては、前記特許第3733863号公報等に記載の処理を採用できる。
例えば、静止物の相対速度は、方位角度と自車速度とから、下記式(1)を用いて計算可能である。よって、下記式(2)に示すように、観測された相対速度が計算値(即ち、静止物の水平方位と自車速度とから計算可能な相対速度の理論値)から一定の範囲にあるものを静止物として抽出する。即ち、静止物の抽出範囲を下記式(2)のようにして設定する。なお、各式の*は乗算の記号である。
【0067】
相対速度=自車速度*cos(方位角度)・・・・(1)
自車速度*cos(方位角度)*k1<相対速度<自車速度*cos(方位角度)*k2・・(2)
なお、k1(=0.9)、k2(=1.1)は、割合を示す定数(k1<k2)であり、この定数の場合は誤差10%の例を示している。
【0068】
また、このようにして設定される静止物の抽出範囲は、上述した
図8Aの「静止物抽出範囲を広げておき」の内容に対応しており、後述するバンパ誤差を推定する際に使用する静止物の抽出範囲よりも広い。
【0069】
続くS130では、方位誤差オフセットを推定する。この方位誤差オフセットの推定は、上述の特許第3733863号公報等に記載のように、静止物に対する相対速度の方位角依存性を利用してレーダ装置3の軸ずれ量を推定するものである。
【0070】
具体的には、レーダ装置3にて検出できる、水平方向における全方位の物標のデータのうち、前記式(2)で設定される静止物の範囲のデータ(例えば、前記
図8Aの上下の一点鎖線の範囲内のデータ)を用いて、軸ずれ量を推定する。
【0071】
続くS140では、方位誤差オフセットの推定が収束したか否かの判定を行う。ここで肯定判断されるとS150に進み、一方否定判断されるとS170に進む。
具体的には、複数回のレーダ動作毎に方位誤差オフセットを推定し、推定した方位誤差オフセットのばらつき応じて(例えば、ばらつきが所定値より小さくなった場合には)、方位誤差オフセットが収束したと判定することができる。例えば、所定回数の方位誤差オフセットが、所定の変動の範囲内の値となった場合には、方位誤差オフセットが収束したと判定することができる。また、所定回数の方位誤差オフセットの標準偏差を求め、標準偏差が閾値より小さくなった場合に、ばらつきが小さくなったと判断してもよい。
【0072】
S150では、バンパ誤差推定を行う。ここでは、前記
図8Bに示すように、方位誤差オフセットの推定結果に応じて、静止物抽出範囲を絞り込み、この絞り込んだ静止物抽出範囲にある物標のデータを用いて、バンパ誤差の推定を行う。
【0073】
例えば、前記式(1)、式(2)において、方位角度に代えて、「方位角度-軸ずれ量」を用い、さらに、例えば、前記式(2)のk1の数値を大きくする(例えば、0.95に設定する)とともに、k2の数値を小さくする(例えば、1.05に設定する)。このようにして、軸ずれがある場合の理論曲線C2を含むようにして、静止物抽出範囲を絞り込む(即ち、誤差の範囲を小さくする)。
【0074】
なお、静止物抽出範囲を絞り込む場合には、方位誤差オフセットのばらつきが小さいほど、静止物抽出範囲を狭くしてもよい。
そして、この絞り込んだ静止物抽出範囲の物標のデータ(即ち、静止物のデータ)を用いて、例えば、特許第6358076号公報に記載の技術を用いて、周知のバンパ誤差の推定を行う。
【0075】
続くS160では、角度補正を行う。
例えば、
図10に示すように、バンパ誤差の推定で、水平角度ごとの誤差量を算出する(
図10右欄参照)。この角度補正では、静止物、移動物にかかわらず、全物標に対して、その物標の水平方位について(
図10の左上欄参照)、その方位の誤差量を引くことで(
図10の左下欄参照)、その角度補正を実施する。
【0076】
続くS170では、イグニッションスイッチがオフか否かを判定し、ここで肯定判断されると一旦本処理を終了し、一方否定判断されるとS100に戻る。
[1-4.効果]
本第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0077】
(1a)本第1実施形態では、レーダ装置3の方位角度の誤差の推定精度を向上することができる。レーダ装置3に軸ずれが生じている場合には、静止物の判定に影響を及ぼすことがある。よって、レーダ装置3の軸ずれ量(即ち、方位誤差オフセット)に応じて、バンパ誤差の推定に用いる静止物の判定条件を変更すること(例えば、静止物抽出範囲を狭くして絞り込むこと)により、軸ずれによる影響を抑制して、精度良くレーダ装置3の方位角度の誤差を推定することができる。
【0078】
(1b)本第1実施形態では、水平方向の全方位における静止物の相対速度の方位角度の依存性に基づいて、方位誤差オフセットを推定する。よって、レーダ装置3の軸ずれ量(即ち、方位誤差オフセット)を精度よく推定できる。
【0079】
(1c)本第1実施形態では、方位誤差オフセットの推定を複数サイクル実施した場合には、方位誤差オフセットが収束した後に、方位角度毎の角度誤差を出力することができる。これにより、レーダ装置3の軸ずれ量(即ち、方位誤差オフセット)を精度よく推定できる。
【0080】
(1d)本第1実施形態では、複数サイクルにおける方位誤差オフセットの推定値のばらつきに応じて、方位誤差オフセットの収束を判定することができる。
(1e)本第1実施形態では、方位誤差オフセットの推定を複数サイクル実施した場合には、複数サイクルにおける方位誤差オフセットの推定値のばらつきに応じて、静止物の判定条件を変更することができる。例えば、方位誤差オフセットの複数サイクルの推定値のばらつきが小さいほど、静止物の抽出範囲を狭めるようにしてもよい。
【0081】
[1-5.対応関係]
次に、本第1実施形態と本開示との関係について説明する。
レーダ装置3はレーダ装置に対応し、信号処理部7は方位誤差推定装置に対応し、物体検知部31は物体検知部に対応し、車速検知部33は車速検知部に対応し、静止物判定部35は静止物判定部に対応し、方位誤差推定部37は方位誤差推定部に対応し、方位誤差オフセット推定部39は方位誤差オフセット推定部に対応する。
【0082】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0083】
本第2実施形態では、第1実施形態とハード構成は同様で有り、レーダ装置3、車載センサ群5、信号処理部7、支援実行部9、軸ずれ通知装置11、搭載角度調整装置13等を備える(
図1参照)。
【0084】
信号処理部7は、
図11に示すように、機能的に、第1実施形態と同様な、物体検知部31と車速検知部33と静止物判定部35と方位誤差推定部37とを備える。さらに、静止物判定部35は、方位角度毎の角度誤差を考慮して、静止物の判定条件を方位角度毎に変更するように構成されている。
【0085】
[2-1.方位誤差推定の方法]
次に、本第2実施形態における方位誤差の推定方法について説明する。
図12Aに示すように、まず、静止物抽出範囲を広げておき、各方位角度でバンパ誤差を推定する。つまり、理想曲線C1(細い破線で示す曲線)を挟んだ静止物抽出範囲の
図12Aの上下の幅を、前記
図8Aに示すように、初期の設定値よりも広く設定する。例えば、上述した式(2)のk1、k2を用いて設定した範囲よりも広く設定する。例えば、
図12Aの上下の一点鎖線で示す範囲内に設定する。
【0086】
ここで、方位角度毎としては、
図12Aで示す短冊形の範囲であり、所定幅(例えば、一定の角度範囲)の範囲である。なお、短冊形の上下の位置は、静止物抽出範囲の上下と同じである。詳しくは、短冊形の上端としては、短冊形の左右の中央値が静止物抽出範囲の上側と交差する点を採用でき、また、短冊形の右辺又は左辺が静止物抽出範囲の上側と交差する点を採用できる。同様に、短冊形の下端としては、短冊形の左右の中央値が静止物抽出範囲の下側と交差する点を採用でき、また、短冊形の右辺又は左辺が静止物抽出範囲の下側と交差する点を採用できる。
【0087】
そして、
図12Aに示す静止物抽出範囲内の物標(即ち、静止物の可能性の高い物標)を用いて、各方位角度(詳しくは、所定幅の範囲)毎にバンパ誤差を推定する。
次に、
図12Bに示すように、上述したように求めた方位角度毎のバンパ誤差の推定値を考慮して、方位角度毎に短冊形の静止物抽出範囲(即ち、
図12Aの上下方向の長さ)を設定する。
【0088】
例えば、バンパ誤差が分かれば、それに対応した理論曲線C2の位置が分かるので、その理論曲線C2を中心(即ち、基準)にして、方位角度毎に短冊形の静止物抽出範囲(即ち、相対速度の範囲)の位置をずらす。即ち、短冊毎の相対速度の範囲を
図12Aの上下方向にずらす。
【0089】
また、短冊毎の相対速度の範囲の長さ(例えば、
図12Bの上下方向の長さ)は、複数回バンパ誤差を推定した場合に、そのバンパ誤差が例えば所定値以下に収束したときには、バンパ誤差の大きさに応じて設定する。例えば、バンパ誤差が小さい場合には、短冊毎の相対速度の範囲の長さを小さくする。
【0090】
これにより、軸ずれがあったとしても、精度良くバンパ誤差を推定することができる。つまり、バンパ誤差に基づいて適切な静止物抽出範囲(即ち、
図7A、
図7Bに示すような、過度に狭い静止物抽出範囲や過度に広い静止物抽出範囲でない静止物抽出範囲)を設定できるので、適切な静止物抽出範囲にて抽出した静止物のデータを用いて、精度良くバンパ誤差を推定することができる。なお、
図12A、
図12Bに太い点線で示す曲線が、軸ずれがあった場合の理想曲線C2の例である。
【0091】
[2-2.制御処理]
次に、本第2実施形態における制御処理について説明する。なお、第1実施形態と同様な内容は簡単に説明する。
【0092】
図13に示すように、イグニッションスイッチがオンの場合には、S200では、自車速度が閾値より大であるか否かを判定する。ここで肯定判断されるとS210に進み、一方否定判断されるとS250に進む。
【0093】
S210では、物標の検出を行う。例えば、物標との距離(R)、物標の相対速度(V)、物標の方位角度(θ)の情報を取得する。
続くS220では、静止物の抽出の処理を行う。
【0094】
続くS230では、抽出された静止物を用いて、バンパ誤差の推定を行う。なお、後述するように、バンパ誤差の推定の結果を用いて、前記S220で用いられる静止物の抽出の範囲を変更する。
【0095】
続くS240では、角度補正を行う。
続くS250では、イグニッションスイッチがオフか否かを判定する。ここで肯定判断されると一旦本処理を終了し、一方否定判断されると前記S200に戻る。
【0096】
次に、上述した静止物の抽出の処理とバンパ誤差の推定の処理について説明する。
<静止物抽出処理>
図14Aに示すように、S300では、静止物抽出範囲を設定する。具体的には、前記
図12Aに示すように、広めの静止物抽出範囲を設定する。例えば、軸ずれがない場合に設定されるような静止物抽出範囲より
図12Aの上下方向に広い範囲を設定する。
【0097】
さらに、S300では、後述するバンパ誤差推定処理の結果を用いて、所定範囲の方位角度毎に短冊状に各静止物抽出範囲を設定する。
つまり、バンパ誤差量推定処理によって推定したバンパ誤差量(X)を反映して、下記式(3)、(4)のようにする。なお、フィードバックするバンパ誤差量(X)は、バンパ誤差推定処理で算出する。
【0098】
自車速度*cos(方位角度補正値)*k1<相対速度
<自車速度*cos(方位角度補正値)*k2・・(3)
なお、k1(=0.9)、k2(=1.1)は、割合を示す定数である。
【0099】
方位角度補正値=方位角度-その方位角度のバンパ誤差補正量・・・・・(4)
なお、この方位角度は、前記各短冊状の範囲に対応した方位角度である。
続くS310では、前記S300で設定される静止物抽出範囲の物標に対して、静止物か否かの静止物判定を実施する。例えば、自車速度に対して所定の関係を有する物標(例えば、向きが逆で大きさが同じ速度を有する物標)を静止物と判定する。ここで、静止物と判定されるとS320に進み、一方静止物と判定されない場合にはS330に進む。
【0100】
S320では、静止物と判定された物標を、静止物として抽出する。
続くS330では、静止物抽出範囲において、全物標を処理したか否かを判定する。ここで肯定判断されると一旦本処理を終了し、否定判断されるとS300に戻る。
【0101】
<バンパ誤差推定処理>
図14Bに示すように、S400では、前記静止物抽出処理にて抽出された静止物のデータを用いて、瞬時バンパ誤差量を算出する。ここで、瞬時バンパ誤差量とは、1サイクルでの物標の検出の処理に対応して推定されたバンパ誤差量である。
【0102】
続くS410では、複数サイクルでのパンパ誤差量の平均値やばらつきを更新する。
続くS420では、複数サイクルでのパンパ誤差量のばらつき量に応じて、バンパ誤差量の平均値を、下記式(5)や
図15のように平滑化して算出する。
【0103】
フィードバックするバンパ補正量=k3*バンパ誤差量・・・・(5)
なお、k3は
図5に示される係数(忘却係数)である。また、
図5において、s1、s2は、バンパ誤差量のばらつき(標準偏差)を示す。
【0104】
このように、S420では、前記S300の静止物抽出範囲の設定に用いるためにフィードバックするバンパ誤差量(X)を算出する。従って、このバンパ誤差量(X)は、前記S300の静止物抽出範囲の設定に用いられる。
【0105】
続くS430では、静止物抽出範囲において、全物標を処理したか否かを判定する。ここで肯定判断されると一旦本処理を終了し、否定判断されるとS400に戻る。
本第2実施形態は、第1実施形態と同様な効果を奏する。また、本第2実施形態では、バンパ誤差の推定を行う際に、軸ずれの推定を行う必要がないという利点がある。
【0106】
また、本第2実施形態では、方位角度毎の角度誤差の推定値の複数サイクル間のばらつきが小さいほど、方位角度毎の静止物の抽出範囲を狭めるようにしてもよい。
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0107】
(3a)例えば、第1実施形態の軸ずれを推定する技術としては、特許第3733863号公報に記載の技術以外に、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性などを利用した他の技術を採用してもよい。例えば、特許第3733863号公報、特開2019-66342号公報等に記載の技術を採用できる。
【0108】
また、第1実施形態のバンパ誤差を推定する技術としては、特許第6358076号公報に記載の技術以外に、静止物に対する相対速度の方位角度の依存性などを利用した他の技術を採用してもよい。例えば、特表2021-536575号公報、特許第6933986号公報等に記載の技術を採用できる。
【0109】
(3b)本開示に記載の方位誤差推定装置およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0110】
あるいは、本開示に記載の方位誤差推定装置およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0111】
もしくは、本開示に記載の方位誤差推定装置およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0112】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。方位誤差推定装置に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0113】
(3c)上述した方位誤差推定装置の他、当該方位誤差推定装置を構成要素とする構成、当該方位誤差推定装置のコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移有形記録媒体、制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【0114】
(3d)上記各実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…車両システム、3…レーダ装置、5…車載センサ群、7…信号処理部、35…静止物判定部、37…方位誤差推定部、39…方位誤差オフセット推定部、VH…自車両