(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002370
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/46 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
G01J3/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102499
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 大蔵
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020DA02
2G020DA03
2G020DA04
2G020DA05
2G020DA14
2G020DA34
2G020DA45
(57)【要約】
【課題】塗膜の所定期間経過後の色差を高精度で予測できる塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置を提供する。
【解決手段】塗膜用機械学習モデルは、ベース層とクリア層とを少なくとも有する塗膜に対して所定期間経過後の色差を予測するように、コンピュータを機能させるための塗膜用機械学習モデルである。塗膜用機械学習モデルでは、ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報と、クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、塗膜の初期と所定期間経過後との色差とが、説明変数とされる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層とクリア層とを少なくとも有する塗膜に対して所定期間経過後の色差を予測するように、コンピュータを機能させるための塗膜用機械学習モデルであって、
前記ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報と、前記クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報と、前記クリア層の厚さと、前記ベース塗料に含まれる顔料量と、前記塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、前記塗膜の初期と前記所定期間経過後との色差とが、説明変数とされることを特徴とする塗膜用機械学習モデル。
【請求項2】
ベース層とクリア層とを少なくとも有する塗膜に対して所定期間経過後の色差を予測する塗膜色差予測装置であって、
前記ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報と、前記クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報と、前記クリア層の厚さと、前記ベース塗料に含まれる顔料量と、前記塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、前記塗膜の初期と前記所定期間経過後との色差とが説明変数とされる塗膜用機械学習モデルと、
前記塗膜用機械学習モデルを用いて、予測対象となる塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、予測対象となる塗膜に関するベース塗料の情報、クリア塗料の情報、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量とに基づいて、該塗膜の前記所定期間経過後の色差を予測する予測部と、
を備えることを特徴とする塗膜色差予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような技術分野として、例えば特許文献1に記載される塗装品質予測装置が知られている。この塗装品質予測装置では、車両の塗装に用いられる塗料の情報、塗料メーカー名、塗装時データ、塗装時条件、及び塗膜の表面の平滑性が説明変数とされる機械学習モデルを用いて、塗膜表面の平滑性を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の塗装品質予測装置では、塗料の特性は、更に、中塗り塗料の種別、中塗り塗料の色、中塗り塗膜の厚さ、ベース塗料の情報、クリア塗料の種別、ベース塗膜の厚さ、クリア塗膜の厚さ、各種顔料のトータル配合量などで構成されている。このため、機械学習モデルの構築に用いられる説明変数が多く、改善余地が残されている。また、最近では、塗膜の耐候性の評価にあたって、塗膜の所定期間経過後の色差を予測できる装置の開発が求められている。しかし、上述の塗装品質予測装置は塗膜の色差予測に対応できない。
【0005】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、塗膜の所定期間経過後の色差を高精度で予測できる塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塗膜用機械学習モデルは、ベース層とクリア層とを少なくとも有する塗膜に対して所定期間経過後の色差を予測するように、コンピュータを機能させるための塗膜用機械学習モデルであって、前記ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報と、前記クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報と、前記クリア層の厚さと、前記ベース塗料に含まれる顔料量と、前記塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、前記塗膜の初期と前記所定期間経過後との色差とが、説明変数とされることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る塗膜用機械学習モデルでは、ベース塗料の情報と、クリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、塗膜の初期と所定期間経過後との色差とが説明変数とされる。ベース塗料、クリア塗料、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量は、塗膜の色差に比較的に大きく影響する要素であり、このような要素を塗膜用機械学習モデルの説明変数とすることで、塗膜の所定期間経過後の色差を高精度に予測できる塗膜用機械学習モデルを構築することができる。
【0008】
本発明に係る塗膜色差予測装置は、ベース層とクリア層とを少なくとも有する塗膜に対して所定期間経過後の色差を予測する塗膜色差予測装置であって、前記ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報と、前記クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報と、前記クリア層の厚さと、前記ベース塗料に含まれる顔料量と、前記塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、前記塗膜の初期と前記所定期間経過後との色差とが説明変数とされる塗膜用機械学習モデルと、前記塗膜用機械学習モデルを用いて、予測対象となる塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、予測対象となる塗膜に関するベース塗料の情報、クリア塗料の情報、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量とに基づいて、該塗膜の前記所定期間経過後の色差を予測する予測部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る塗膜色差予測装置では、ベース塗料の情報と、クリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、塗膜の初期と所定期間経過後との色差とが説明変数とされる塗膜用機械学習モデルを備える。ベース塗料、クリア塗料、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量は、塗膜の色差に比較的に大きく影響する要素であり、このような要素を塗膜用機械学習モデルの説明変数とし、該塗膜用機械学習モデルを用いることで、塗膜の所定期間経過後の色差を高精度に予測することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗膜の所定期間経過後の色差を高精度で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】鋼板と鋼板に形成された塗膜とを示す概略断面図である。
【
図2】樹脂板と樹脂板に形成された塗膜とを示す概略断面図である。
【
図4】実施形態に係る塗膜用機械学習モデルの生成を説明するためのフロー図である。
【
図5】実施形態に係る塗膜色差予測装置の構造を示す図である。
【
図6】塗膜の所定期間経過後の色差予測を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係る塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置の実施形態について説明するが、その前に、塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置に関わる塗膜を簡単に説明する。
【0013】
塗膜用機械学習モデル及び塗膜色差予測装置に関わる塗膜は、例えば乗用車、トラック、バス、鉄道車両などの車両の外板及び外装部品に形成された塗膜である。
【0014】
乗用車の例を挙げて説明すると、外板は、車体を構成する部材であって外観上視認できる外板パネルのことを指しており、例えばフードパネル、ルーフパネル、トランクリッド、フェンダパネル、ドアアウター、ピラーなどを含む。外板の材料として、例えば金属板であり、具体的には熱間圧延鋼板又は冷間圧延鋼板が挙げられる。一方、外装部品は、車体に組み付けられるものであって外観上に視認できる艤装部品を指しており、例えばフロントバンパカバー、リヤバンパカバー、サイドミラー、ルーフモールなどを含む。外装部品の材料として、主に樹脂材料(例えば、樹脂板)が採用されている。
【0015】
以下、
図1及び
図2を参照し、鋼板に形成された塗膜の構造と樹脂板に形成された塗膜の構造とをそれぞれ説明する。
【0016】
図1は鋼板と鋼板に形成された塗膜とを示す概略断面図であり、ここでの鋼板は例えばフードパネル100である。
図1において、紙面に対し上側はフードパネル100の表側(外側ともいう)、下側はフードパネル100の裏側(内側ともいう)である。
図1に示すように、フードパネル100は、フードパネルの形状に加工された鋼板200と、鋼板200に形成された塗膜300とを備える。塗膜300は、鋼板200全体を覆うように形成された電着層310と、フードパネル100の表側において電着層310の上に順に形成された中塗り層320、ベース層330及びクリア層340とを有する。
【0017】
電着層310は、鋼板200の防錆力を高める機能を有する層であり、例えば20μmの厚さを有する。中塗り層320は、塗膜300の耐チッピング性や外観を向上する機能を有する層であり、例えば35μmの厚さを有する。ベース層330は、塗膜300の色(いわゆるボディカラー)を表すための層であり、例えば15μmの厚さを有する。ベース層330に用いられる塗料には、赤や白などといった着色顔料のほか、メタリックを表現するためのアルミニウム粉やマイカ顔料などが含まれている。クリア層340は、ベース層330を守るための透明なコーティング層であって、塗膜300の耐候性や平滑性を高めつつ、艶感及び高級感を引き立てる層である。クリア層340の厚さは、例えば35μmである。
【0018】
図2は樹脂板と樹脂板に形成された塗膜とを示す概略断面図である。ここでの樹脂板は例えばフロントバンパカバー400である。
図2において、紙面に対し上側はフロントバンパカバー400の表側(外側ともいう)、下側はフロントバンパカバー400の裏側(内側ともいう)である。フロントバンパカバー400は、バンパーの形で一体成型された樹脂部材500と、樹脂部材500に形成された塗膜600とを備えている。
【0019】
塗膜600は、樹脂部材500の上に順に形成されたプライマー層610、ベース層620及びクリア層630を有する。プライマー層610は、ベース層620と樹脂部材500との密着性を向上する機能を有する層である。ベース層620は、塗膜600の色を表すための層であり、ベース層620に用いられる塗料には、赤や白などといった着色顔料のほか、メタリックを表現するためのアルミニウム粉やマイカ顔料などが含まれている。クリア層630は、ベース層620を守るための透明なコーティング層であって、塗膜600の耐候性や平滑性を高めつつ、艶感及び高級感を引き立てる層である。
【0020】
ここで、本発明に至った経緯を説明する。
【0021】
従来では、塗膜の初期と所定期間経過後との色差ΔEを算出する方法として、まず、工場や試験場で上述の塗膜300,600を有する試験用サンプルを作製し、試験用サンプルに対して塗膜の初期(言い換えれば、新品塗膜)の明度(L)、色相(a)及び彩度(b)を測定した後、該試験用サンプルを紫外線が強い地方の自然環境に所定期間曝露する。所定期間経過後、曝露した試験用サンプルに対し、塗膜の明度(L)、色相(a)及び彩度(b)を再び測定する。その後、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、塗膜の所定期間曝露後の明度、色相及び彩度とのそれぞれの差(すなわち、ΔL、Δa、Δb)を求め、下記式(1)を用いてΔEを算出する。
【0022】
【0023】
なお、塗膜の明度(L)、色相(a)及び彩度(b)は、色を表すために国際照明委員会によって決められた基準であり、例えば分光測色計などの装置を利用して測定される。また、本実施形態において、塗膜の初期とは、曝露前の新品塗膜のことを意味し、すなわち工場から出荷される新車の車体塗膜を指す。
【0024】
上述の色差ΔEの算出方法では、試験期間が長く、車の開発に影響を与えてしまう。また、試験地の天候によって色差の算出結果が大きく左右されるため、天候の条件を合わせた試験を行うのが難しく、言い換えれば、再現試験ができない問題がある。
【0025】
そこで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、これまでの知見で得られている上述の色差ΔEを含むデータを利用して塗膜用機械学習モデルを構築し、構築した塗膜用機械学習モデルを用いて塗膜の所定期間経過後の色差を予測できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
具体的には、まず、本願発明者は、塗膜を構成する複数の層のうち、塗膜の色を大きく左右するベース層と、耐候性を大きく左右するクリア層とに着目し、ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報と、ベース塗料に含まれる顔料量と、クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報と、クリア層の厚さとをピックアップし、塗膜用機械学習モデルの説明変数とした。
【0027】
ベース層の形成に用いられるベース塗料の情報は、すなわちベース塗料の組成などに関する情報である。ベース塗料は、顔料を混ぜ合せて樹脂や添加剤を合わせたものであって、塗膜300の発色層を形成するものである。このベース塗料には、例えば溶剤系着色ベース塗料や水性着色ベース塗料が好適に用いられる。水性着色ベース塗料としては、例えば、顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有するものが挙げられる。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基などの親水基と水酸基などの架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物などが挙げられる。一方、溶剤系着色ベース塗料としては、例えば、顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有するものが挙げられる。
【0028】
ベース塗料に含まれる顔料量は、実際のボディカラーを作るための顔料の含有量を指し、例えば塗料中の樹脂等の塗料固形分100質量部を基準としたものである。
【0029】
顔料としては、特に制限されず、通常の着色顔料やメタリック顔料が挙げられる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性硫酸鉛、鉛酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、紺青、群青、コバルトブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスロンブルー、黄鉛、合成黄色酸化鉄、透明べんがら(黄)、ビスマスバナデート、チタンイエロー、亜鉛黄(ジンクイエロー)、クロム酸ストロンチウム、シアナミド鉛、モノアゾイエロー、ジスアゾ、イソインドリノンイエロー、金属錯塩アゾイエロー、キノフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、べんがら、透明べんがら(赤)、鉛丹、モノアゾレッド、無置換キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、キナクリドンマゼンダ、アンサンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、ペリレンレッド、ジケトピロロピロールクロムバーミリオン、塩基性クロム酸鉛、酸化クロム、塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーン、ピラゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット、ペリレンバイオレットなどが挙げられる。また、メタリック顔料としては、例えば、アルミニウム粉、フレーク状酸化アルミウム、パールマイカ、フレーク状マイカなどが挙げられる。
【0030】
これら顔料は、単独使用または2種類以上併用することができる。例えば2種類以上併用する場合、顔料量は各種の顔料の含有量を指す。
【0031】
クリア層の形成に用いられるクリア塗料の情報は、すなわちクリア塗料の組成などに関する情報である。クリア塗料は、例えば透明な塗膜を形成可能な、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて紫外線吸収剤などが含有されているものが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性官能基に反応し得るメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋剤とからなるものが挙げられる。
【0032】
クリア層の厚さは、クリアの膜厚ともいい、紫外線や埃などから塗膜を守る膜であり、通常では厚ければ厚いほど、塗膜の耐候性が強くなる。クリア層の厚さは、例えば25~45μmの範囲内にあることが好ましく、膜厚計などの装置を用いて測定される。
【0033】
更に、本願発明者は、上記試験用サンプルで実測した色差(すなわち、塗膜の初期と所定期間曝露後との色差)ΔEと、塗膜の初期の明度(L)、色相(a)及び彩度(b)の実測値も説明変数に加えつつ、
図3に示す学習装置1を用いて塗膜用機械学習モデルの生成を行った。
【0034】
学習装置1は、例えば演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって塗膜用機械学習モデルを生成する。
【0035】
具体的には、学習装置1は、入力部2、記憶部3、生成部4、及び出力部5を備えている(
図3参照)。入力部2は、ベース塗料の情報と、クリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度(L)、色相(a)及び彩度(b)と、塗膜の初期と所定期間経過後との色差ΔE(例えば、上述の色差ΔEの実測値)とがそれぞれ入力可能に構成されている。記憶部3は、学習装置1の機械学習を実行するためのプログラム等を格納する。また、記憶部3は、ベース塗料の情報を格納するベース塗料DB(データベース)6と、クリア塗料の情報を格納するクリア塗料DB7と、クリア層の厚さを格納するクリア厚さDB8と、ベース塗料に含まれる顔料量を格納する顔料量DB9と、色差ΔEの実測値を格納する色差DB10と、塗膜の初期の明度(L)、色相(a)及び彩度(b)を格納する塗膜初期明度、色相及び彩度DB16とを有する。
【0036】
そして、入力部2を介してベース塗料の情報と、クリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、上述の色差ΔEの実測値とがそれぞれ入力されると、記憶部3は、これらの情報やデータなどを上述の各DBにそれぞれ格納する。
【0037】
生成部4は、機械学習の教師データ及び塗膜用機械学習モデルの生成などを行う。生成部4が行う機械学習の手法は、教師あり学習であれば特に限定されない。教師あり学習で用いられるモデル又はアルゴリズムとしては、回帰分析、決定木、サポートベクターマシン(SVM)、ニューラルネットワーク、アンサンブル学習、ランダムフォレスト等が挙げられるが、本実施形態では、サポートベクターマシンが用いられる。
【0038】
図4は実施形態に係る塗膜用機械学習モデルの生成を説明するためのフロー図である。
図4に示すように、まず、学習装置1の生成部4は、記憶部3に格納されたベース塗料の情報と、クリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、色差ΔEとをそれぞれ取得する(ステップS11)。
【0039】
次に、生成部4は、ベース塗料の情報、クリア塗料の情報、クリア層の厚さ、ベース塗料に含まれる顔料量、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、色差ΔEとを関連付けることにより機械学習用の教師データを生成し(ステップS12)、生成した教師データに対してディープラーニングで機械学習を行うことで塗膜用機械学習モデルを生成する(ステップS13)。ここでは、プログラミング言語にはパイソン、塗膜用機械学習モデルの生成にはサポートベクターマシンがそれぞれ用いられる。
【0040】
これによって、コンピュータを機能させるための塗膜用機械学習モデルが生成される。そして、生成された塗膜用機械学習モデルは、出力部5を介して出力される(ステップS14)。また、生成された塗膜用機械学習モデルは、汎用のコンピュータや端末に実装され、又は、ソフトウエアやアプリケーションとしてダウンロードされ、又は、記憶媒体に記憶された状態で配布され、塗膜色差予測装置11等において利用される。
【0041】
以下、
図5及び
図6を基に、本実施形態に係る塗膜色差予測装置11を説明する。本実施形態の塗膜色差予測装置11は、上述の塗膜用機械学習モデルを用いて、予測対象となる塗膜の所定期間経過後の色差を予測するための装置である。すなわち、本実施形態では、予測対象となる塗膜の所定期間経過後の色差ΔEが目的変数である。
【0042】
塗膜色差予測装置11は、例えば演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されている。
【0043】
具体的には、塗膜色差予測装置11は、入力部12、記憶部13、予測部14、及び出力部15を備えている。入力部12は、各データが入力可能に構成されている。例えば、予測対象となる塗膜の初期の明度、色相及び彩度の実測値や、予測対象となる塗膜に関するベース塗料の情報、クリア塗料の情報、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量は、入力部12を介して入力される。
【0044】
記憶部13には、上述の塗膜用機械学習モデルが格納されている。塗膜用機械学習モデルは、例えば通信ネットワークを介して学習装置1からダウンロードされる。また、記憶部13には、塗膜色差予測装置11の動作に関する各プログラムも格納されている。更に、記憶部13には、入力部12を介して入力された各情報やデータが格納されてもよい。
【0045】
予測部14は、記憶部13に格納された塗膜用機械学習モデルを用いて、予測対象となる塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、予測対象となる塗膜に関するベース塗料の情報、クリア塗料の情報、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量とに基づいて、該塗膜の所定期間経過後の色差を予測する。出力部15は、塗膜の所定期間経過後の色差の予測結果を出力可能に構成されている。
【0046】
図6は塗膜の所定期間経過後の色差予測を示すフロー図である。例えば塗膜色差予測装置11のユーザは、予測対象となる塗膜の初期の明度、色相及び彩度を測定し、入力部12を介してその測定結果を入力する。また、ユーザは、予測対象となる塗膜に関する(言い換えれば、予測対象となる塗膜の形成に用いられる)ベース塗料の情報、クリア塗料の情報、クリア層の厚さ、及び、ベース塗料に含まれる顔料量を設計値としてそれぞれ決め、入力部12を介して塗膜色差予測装置11に入力する(ステップS21)。
【0047】
続いて、予測部14は、記憶部13に格納された塗膜用機械学習モデルを用いて、ステップS21で入力された情報及びデータ等に基づいて、予測対象となる塗膜の所定期間経過後の色差ΔEの予測を行う(ステップS22)。予測された色差ΔEは、出力部15を介して出力される(ステップS23)。
【0048】
本実施形態に係る塗膜用機械学習モデルでは、ベース塗料の情報と、クリア塗料の情報と、クリア層の厚さと、ベース塗料に含まれる顔料量と、塗膜の初期の明度、色相及び彩度と、塗膜の所定期間経過後の色差ΔEとが説明変数とされる。ベース塗料、クリア塗料、クリア層の厚さ、及びベース塗料に含まれる顔料量は、塗膜の色差に比較的に大きく影響する要素であり、このような要素を塗膜用機械学習モデルの説明変数とすることで、塗膜の所定期間経過後の色差を高精度に予測できる塗膜用機械学習モデルを構築することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る塗膜用機械学習モデルは、従来の塗装品質予測装置に用いられる学習モデルと比べて説明変数が少ないので、学習モデルの構築にかかる時間を少なくすることができる。
【0050】
そして、本実施形態に係る塗膜色差予測装置11では、上述した塗膜用機械学習モデルを用いることで、予測対象となる塗膜の所定期間経過後の色差を高精度に予測することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0052】
例えば、塗膜色差予測装置11は、学習装置1を備えるように構成されてもよい。具体的には、例えば塗膜色差予測装置11は、上述の生成部4を更に備えており、記憶部13はベース塗料DB6、クリア塗料DB7、クリア厚さDB8、顔料量DB9、色差DB10及び塗膜初期の明度、色相及び彩度DB16を更に有しており、各DBに格納される情報等は入力部12を介して入力される。また、生成部4は、生成した塗膜用機械学習モデルを記憶部13に格納させる。
【符号の説明】
【0053】
1:学習装置、2,12:入力部、3,13:記憶部、4:生成部、5,15:出力部、6:ベース塗料DB、7:クリア塗料DB、8:クリア厚さDB、9:顔料量DB、10:色差DB、11:塗膜色差予測装置、14:予測部、16:塗膜初期明度、色相及び彩度DB、100:フードパネル、200:鋼板、300,600:塗膜、310:電着層、320:中塗り層、330,620:ベース層、340,630:クリア層、400:フロントバンパカバー、500:樹脂部材、610:プライマー層