IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

特開2025-2371歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法
<>
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図1
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図2A
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図2B
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図3A
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図3B
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図4
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図5
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図6A
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図6B
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図6C
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図7
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図8
  • 特開-歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002371
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/075 20060101AFI20241226BHJP
   B24B 53/12 20060101ALI20241226BHJP
   B23F 21/02 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B24B53/075
B24B53/12 Z
B23F21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102504
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】田太 博章
【テーマコード(参考)】
3C047
【Fターム(参考)】
3C047CC08
3C047CC13
3C047EE11
3C047EE15
(57)【要約】
【課題】複数条のねじ状砥石に対するドレス時間を短縮しつつ高精度に砥石をドレッシングすることが可能な歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法を提供する。
【解決手段】複数条のねじ状砥石30を、2つ以上の山部42を有する総形ロータリドレッサ40を用いてドレッシングする歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法において、前記ドレッサにてドレス切り込み量が最も大きくなる第1の山部42Aを前記ねじ状砥石の第1のねじ溝34A噛み合わせてドレス動作を複数回行う第1のドレス工程と、前記第1のねじ溝を除く何れか1つのねじ溝42Bに対するドレス切り込み量が最も大きくなるように、前記第1のドレス工程の最終回のドレス切り込み量でドレス動作を1回行う第2のドレス工程とを含み、前記第2のドレス工程は、前記第1のドレス工程において前記山部と噛み合った前記第1のねじ溝を除く全てのねじ溝34B,34Cに対して実施される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車研削に用いられる複数条のねじ山を有するねじ状砥石を、該ねじ状砥石の2つ以上のねじ溝と噛み合う2つ以上の山部を外周面に有する総形ロータリドレッサを用いてドレッシングする歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法において、
前記総形ロータリドレッサの前記2つ以上の山部のうち、第1の山部のドレス切り込み量が最も大きくなるように前記総形ロータリドレッサと前記ねじ状砥石とを位置合わせし、前記ねじ状砥石の前記2つ以上のねじ溝のうち、第1のねじ溝に前記第1の山部を噛み合わせてドレス切り込み量が回ごとに大きくなるように、ドレス動作を複数回行う第1のドレス工程と、
前記ねじ状砥石の前記第1のねじ溝を除く何れか1つのねじ溝に対するドレス切り込み量が最も大きくなるように、前記第1のドレス工程の最終回のドレス切り込み量で、ドレス動作を1回行う第2のドレス工程と、
を含み、
前記第2のドレス工程は、前記第1のドレス工程において前記総形ロータリドレッサの山部と噛み合ったねじ溝であって、前記第1のねじ溝を除く全てのねじ溝に対して実施されることを特徴とする歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法。
【請求項2】
前記第2のドレス工程において、前記第1の山部が噛み合うねじ溝が前回のドレス動作と今回のドレス動作とで変化するように、前記第1の山部による前記ドレス動作の開始位置を前記ねじ状砥石の周方向で変化させることを特徴とする請求項1に記載の歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法。
【請求項3】
前記第1のドレス工程と前記第2のドレス工程とにおいて、前記総形ロータリドレッサの各山部と前記ねじ状砥石の各ねじ溝との噛み合わせ状態が維持されており、
前記第2のドレス工程では、前記第1の山部以外の山部によるドレス切り込み量が最も大きくなるように、前記ねじ状砥石と前記ドレッサとが位置合わせされることを特徴とする請求項1に記載の歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法。
【請求項4】
前記ねじ状砥石は、ベッド上に、前記ねじ状砥石を回転可能に支持する砥石支持部と、前記総形ロータリドレッサを回転可能に支持するドレッサ支持部と、を備えた歯車研削盤を用いてドレッシングされ、
前記砥石支持部は、前記ベッドに対して垂直なZ方向と、前記Z方向に直交するとともに前記ドレッサ支持部に対して接近・離間するX方向と、に移動可能であるとともに、支持された前記ねじ状砥石の軸方向が、前記X方向及び前記Z方向に直交するY方向に対して傾斜するように構成され、
前記第2のドレス工程において、前記ねじ状砥石と前記ドレッサとの位置合わせは、前記ドレッサ支持部に支持された前記総形ロータリドレッサに対し、前記砥石支持部によって支持された前記ねじ状砥石を前記Z方向に移動させることによって行われることを特徴とする請求項3に記載の歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法。
【請求項5】
前記第2のドレス工程は、前記第1のねじ溝に近いねじ溝から順に実施されることを特徴とする請求項1に記載の歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法に関し、特に、複数条のねじ山を有するねじ状砥石のドレッシング方法に関する。
【0002】
従来、歯車の歯を研削加工する砥石として、ねじ状砥石が知られている。ねじ状砥石は、外周面に螺旋状に形成されたねじ山を有し、ねじ山の条数によって、砥石を1回転させた際に研削できる歯数が変わり、条数を増やすことで歯車の研削加工時間を短縮することができる。また、ねじ状砥石は、使用によって表面が摩耗すると、ねじ山の形状が変化するため、ドレス工具を用いてねじ山を成形し直すドレッシングが実施される。
【0003】
歯車を研削する歯車研削盤では、ねじ状砥石による歯車を研削加工とともに、ドレス工具によって摩耗したねじ状砥石を成形可能なものが知られている。例えば、特許文献1には、加工対象となる歯車を回転可能に支持する歯車支持部と、ねじ状砥石を回転可能に支持する砥石支持部と、ドレス工具を回転可能に支持するドレス工具支持部とを備えた歯車研削盤が記載されている。この歯車研削盤では、歯車支持部に歯車を取り付けて、砥石支持部に設置されたねじ状砥石によって歯車を研削加工する。また、ねじ状砥石が摩耗すると、歯車の研削加工を停止して、ドレス工具支持部に取り付けられたドレス工具によりねじ状砥石をドレッシングする。
【0004】
ねじ状砥石用のドレス工具としては、ねじ状砥石のねじ山と同形状のドレス刃を外周面に有する総形ロータリドレッサが知られている。総形ロータリドレッサとしては、図8に示すように、ねじ状砥石130の1つのねじ山132を一対のドレス刃141,142で挟み込んでドレッシングするシングルタイプの総形ロータリドレッサ120が知られている。また、図7に示すように、軸方向に隣接するねじ状砥石30の複数のねじ溝34にドレッサの複数の山部42A,42B,42Cが噛み合うことで、隣接する複数のねじ山を同時にドレッシングするマルチタイプの総形ロータリドレッサ40が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-39659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯車研削盤では、歯車の加工効率を向上する観点から、複数条のねじ状砥石で歯車を加工することが望ましく、ねじ状砥石をドレッシングする間は歯車の加工が停止されるため、ドレス時間を短くすることが望ましい。
【0007】
図9に示すように、ねじ状砥石は、総形ロータリドレッサの中心軸に対して、進み角の分、砥石の軸方向を傾けた状態でドレッシングされ、ねじ状砥石の条数が増加すると、進み角が大きくなって傾き量も大きくなる。それ故、図9に示すように、例えば3つのねじ山A,B,Cを有する3条のねじ状砥石では、総形ロータリドレッサでドレッシングする際に、中央のねじ山Aでは、ねじ状砥石とドレッサとの間の軸間距離が最も小さくなり、これに隣り合うねじ山B,Cは、ねじ山Aよりも軸間距離が円弧の差γだけ大きくなる。マルチタイプの総形ロータリドレッサでは、この軸間距離の差に伴ってドレッサの複数の山部がねじ溝に切り込む量に差が生じ、深く切り込まれるねじ溝と浅く切り込まれるねじ溝とが生じてしまうことから、複数条のねじ状砥石に用いるとドレス精度が低下するという問題がある。
【0008】
それ故、モジュール数が大きい等の進み角の大きいねじ状砥石を高精度に研削する必要がある場合は、複数条のねじ状砥石に対するドレッシングにおいてシングルタイプの総形ロータリドレッサが用いられている。しかしながら、複数条のねじ状砥石では、各ねじ山に対して、ドレス切り込み量が徐々に大きくなるようにドレス動作(ねじ山を1回ドレッシングする動作)を複数回行う必要があり、条数に比例してドレス動作の回数が増えることから、ドレス時間がかかるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、複数条のねじ山を有するねじ状砥石に対するドレス時間を短縮しつつ高精度に砥石をドレッシングすることが可能な歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態は、歯車研削に用いられる複数条のねじ山を有するねじ状砥石を、該ねじ状砥石の2つ以上のねじ溝と噛み合う2つ以上の山部を外周面に有する総形ロータリドレッサを用いてドレッシングする歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法において、前記総形ロータリドレッサの前記2つ以上の山部のうち、第1の山部のドレス切り込み量が最も大きくなるように前記総形ロータリドレッサと前記ねじ状砥石とを位置合わせし、前記ねじ状砥石の前記2つ以上のねじ溝のうち、第1のねじ溝に前記第1の山部を噛み合わせてドレス切り込み量が回ごとに大きくなるように、ドレス動作を複数回行う第1のドレス工程と、前記ねじ状砥石の前記第1のねじ溝を除く何れか1つのねじ溝に対するドレス切り込み量が最も大きくなるように、前記第1のドレス工程の最終回のドレス切り込み量で、ドレス動作を1回行う第2のドレス工程と、を含み、前記第2のドレス工程は、前記第1のドレス工程において前記総形ロータリドレッサの山部と噛み合ったねじ溝であって、前記第1のねじ溝を除く全てのねじ溝に対して実施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法によれば、複数条のねじ山を有するねじ状砥石に対するドレス時間を短縮しつつ高精度に砥石をドレッシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態である歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法を実施可能な歯車研削盤を模式的に示す側面図である。
図2A】3条のねじ状砥石の側面図である。
図2B】1条のねじ状砥石の側面図である。
図3A】3条のねじ状砥石のドレス工程時の傾斜度合いを示す側面図である。
図3B】1条のねじ状砥石のドレス工程時の傾斜度合いを示す側面図である。
図4】ねじ状砥石のドレッシング方法のフローチャート図である。
図5】3条のねじ状砥石をマルチタイプの総形ロータリドレッサで切り込む際の切り込み量の誤差を説明する図である。
図6A】第1のドレス工程後の各ねじ溝のドレス状態を説明する図である。
図6B】第2のドレス工程後の各ねじ溝のドレス状態を説明する図である。
図6C】繰り返し工程後の各ねじ溝のドレス状態を説明する図である。
図7】マルチタイプの総形ロータリドレッサの説明図である。
図8】シングルタイプの総形ロータリドレッサの説明図である。
図9】ねじ状砥石を示す図であって、ねじ状砥石とドレッサの傾き状態及び軸間距離を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態である歯車研削用ねじ状砥石のドレッシング方法を実施可能な歯車研削盤10を模式的に示す側面図である。歯車研削盤10は、ねじ状砥石30を用いて加工対象である歯車50の歯を研削可能であるとともに、ねじ状砥石30を総形ロータリドレッサ40(以下、単に「ドレッサ40」とも称する)によってドレッシング可能な装置である。歯車研削盤10は、ベッド11と、ワーク支持部12と、砥石支持部14と、ドレッサ支持部16と、砥石支持部14を移動させる移動機構20と、を備える。歯車研削盤10は、互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向を有しており、X方向及びY方向は歯車研削盤10の台座となるベッド11に対して水平な方向、Z方向はベッド11に対して垂直な方向となっている。図1では、左右方向がX方向、紙面奥行方向がY方向、上下方向がZ方向となっている。
【0014】
ワーク支持部12は、被加工対象である歯車50を回転可能に支持するとともに、図示していない駆動源によって歯車50を回転させる。ワーク支持部12は、ベッド11からZ方向に突出しており、Z方向に平行な回転軸12aを有している。研削加工において、歯車50は、中心軸がワーク支持部12の回転軸12aと一致するように、ワーク支持部12上端部にセットされ、セットされた状態で、X方向は歯車50の径方向と一致し、Z方向は歯車50の軸方向と一致する。
【0015】
砥石支持部14は、移動機構20を介してベッド11上に設置され、モータ等の駆動源により、ねじ状砥石30を回転可能に支持する。移動機構20は、コラム22と、サドル23と、砥石スライダ24と、旋回ヘッド25と、を有する。コラム22は、ベッド11に支持され、ベッド11上をX方向に移動可能に構成されている。サドル23は、コラム22の側面に、上下方向に延びる図示していないレールを介して設けられており、レールに沿ってZ方向に移動可能に構成されている。サドル23は、コラム22においてワーク支持部12と対向する側面に設けられる。サドル23の正面、すなわちワーク支持部12と対向するYZ面には、X軸回りで回転可能な旋回ヘッド25が設けられている。砥石支持部14は、砥石支持部14を砥石軸方向に移動可能な砥石スライダ24を介してサドル23の正面に設置されている。移動機構20は、図示していないモータ等の駆動源により、砥石支持部14に支持されたねじ状砥石30を、X方向、Z方向及び砥石軸方向に移動可能であるとともに、旋回ヘッド25によってねじ状砥石30の軸方向がY方向に対して傾斜するように、ねじ状砥石30をX軸回りに回転可能である。
【0016】
ねじ状砥石30は、図2Aに示すように、研削刃である螺旋状のねじ山32を複数条有している。本実施の形態では一例として、3条のねじ山32A,32B,32Cを有するねじ状砥石30を用いている。なお、ねじ山の条数は2つ以上であればよい。隣り合うねじ山32A,32B,32Cの間には、螺旋状のねじ溝34A,34B,34Cが形成されている。ねじ状砥石30は、ねじ山32の条数によって砥石を1回転させた際に研削できる歯数が変わり、条数を増やすことで歯車50の研削加工時間を短縮することができる。
【0017】
図2Bは、螺旋状のねじ山132が1つのである1条のねじ状砥石130を示している。図2A及び図2Bに示すように、ねじ状砥石30,130は、ねじ山32,132のピッチが等しい場合、条数が増加すると進み角(すなわち、ねじ状砥石30,130の中心軸31,131に対するねじ山32,132の傾斜角)が大きくなる。ドレッシング時にはドレッサ40の軸方向は歯車研削盤10のY方向と一致しており、図3A及び図3Bに示すように、ねじ状砥石30,130は、進み角の分、砥石の軸方向をY方向に対して傾けた状態でドレッシングされ、傾き量は条数が増加すると大きくなる。ねじ状砥石30は、旋回ヘッド25をX軸回りに所定角度回転させることにより、軸方向をY方向に対して傾斜させることができる。
【0018】
ドレッサ支持部16は、ドレッサ40を回転可能に支持する。ドレッサ支持部16は、ベッド11上に設置されたZ方向に長く延びるカウンタコラム28の側面に取り付けられている。カウンタコラム28はZ方向に延びる中心軸回りに回転可能に構成されている。
【0019】
ドレッサ40は、略円板状に形成されており、図7に示すように、外周面にねじ状砥石30の複数のねじ溝34A,34B,34Cに噛み合う複数の山部42A,42B,42Cを有する総形工具である。ドレッサ40は円盤状に形成されており、複数の山部42は、ドレッサ40の外周面にて、軸方向に並んでおり、各山部42は周方向に亘って環状に形成されている。ドレッサ40は、ねじ状砥石30の複数のねじ溝34A,34B,34Cに、ドレッサ40の複数の山部42A,42B,42Cが噛み合うことにより、複数条のねじ山32A,32B,32Cを同時にドレッシング可能なマルチタイプの総形ロータリドレッサである。なお、ドレッサ40の外周面に設けられる山部42の数は、少なくとも2つのねじ山32を同時にドレッシングできるように、2つ以上であればよい。
【0020】
上述した歯車研削盤10では、砥石支持部14に支持されたねじ状砥石30により、ワーク支持部12に支持された歯車50を研削加工することができる。また、ねじ状砥石30の使用により、ねじ山32の表面が摩耗して形状が変化すると、ドレッサ支持部16に支持されたドレッサ40を用いて、ねじ状砥石30をドレッシングし、ねじ山を成形し直すことができる。
【0021】
次に、歯車研削盤10を用いたねじ状砥石30のドレッシング方法について説明する。ねじ状砥石30及びドレッサ40のそれぞれは、砥石支持部14及びドレッサ支持部16のそれぞれに、中心軸31,41を中心として回転自在に装着される。ドレッシング方法は、図4に示すように、第1のドレス工程S12と、第2のドレス工程S14と、繰り返し工程S16と、を含む。以下に説明するドレッシング方法では、便宜上、第1のドレス工程S12において、最も切り込み量が大きくなるドレッサ40の山部42を第1の山部34Aと称し、第1のドレス工程S1において、この第1の山部34Aと噛み合うねじ溝34を第1のねじ溝34Aと称している。
【0022】
以下、図4のフローチャートに沿って、ドレッシング方法の第1の実施の形態について詳細に説明する。第1の実施の形態では、図7に示すように、ドレッサ40の複数の山部42A,42B,42Cのうちの1つのである第1の山部42Aを基準とし、この第1の山部42Aのドレス切り込み量が最も大きくなるように、位置合わせやドレス動作が実施される。
【0023】
まず、第1のドレス工程S12では、ドレッサ40の複数の山部42のうち、第1の山部42Aのドレス切り込み量が最も大きくなるようにドレッサ40とねじ状砥石30とを位置合わせする。このように位置合わせされた状態で、ねじ状砥石30の複数のねじ溝34のうち、第1のねじ溝34Aに第1の山部42を噛み合わせてドレス切り込み量が回ごとに大きくなるように、ドレス動作を複数回行う。
【0024】
図5に示すように、ねじ状砥石30は、ドレッサ40の中心軸41(すなわちY方向)に対してねじ状砥石30の中心軸31を進み角分、傾けて位置合わせされる。ねじ状砥石30とドレッサ40とは、側面視で、これらの中心軸31,41が交差する点で軸間距離が最も短くなり、ドレス切り込み量が最も大きくなる。本実施の形態では、ねじ状砥石30の軸方向の中央部において、ねじ状砥石30及びドレッサ40の中心軸31,41が交差し、且つ、この交差点にドレッサ40の第1の山部42Aが位置するように位置合わせしている。なお、第1のドレス工程S12において、ドレス切り込み量が最も大きくなる山部42は、他の山部42B,42Cであってもよいが、本実施の形態のように、ドレッサ40の軸方向に並ぶ複数の山部42B,42A,42Cのうち、中央部に位置する山部42Aを選択することが好ましい。
【0025】
このように位置合わせされた状態で、第1の山部42Aを第1のねじ溝34Aに噛み合わせて、ドレス動作を複数回行う。これにより、ドレッサ40の第2及び第3の山部42B,42Cのそれぞれは、ねじ状砥石30の第2及び第3のねじ溝34B,34Cのそれぞれに噛み合わされた状態で、複数回ドレス動作されることとなる。ここでドレス動作とは、ねじ山32の螺旋形状に沿って1回ドレッシングする動作をいう。第1のドレス工程S12においてドレス動作を行う回数は、予め設定することができる。また、第1のドレス工程S12では、第1の山部42によって、目標となるドレス切り込み量が達成されるように設定している。
【0026】
一例として、本実施の形態では、目標となるドレス切り込み量を0.30mmとしており、第1のドレス工程S12において、10回のドレス動作で目標の切り込み量が達成されるように、第1の山部42Aが1回ごとに0.03mm切り込むようにしている。図6A図6B及び図6Cは、それぞれ、第1のドレス工程S12、第2のドレス工程S14及び繰り返し工程S16の後の各ねじ溝34A,34B,34Cのドレス切り込み量の状態を説明する図である。各図では、目標のドレス切り込み量に達したねじ溝34の上に黒丸を付しており、目標のドレス切り込み量よりも切り込み量が浅いねじ溝34の上に黒三角を付している。図6Aに示すように、第1のドレス工程S12の後、第1のねじ溝34Aのドレス切り込み量は、目標値である0.30mmとなる。第2及び第3の山部42B,42Cで切り込まれた第2及び第3のねじ溝34B,34Cのドレス切り込み量は、図5に示すように差γだけ浅くなることから、0.30mmよりも僅かに小さい値となる。
【0027】
続く第2のドレス工程S14では、第1のねじ溝34Aを除く何れか1つのねじ溝34B,34Cに対するドレス切り込み量が最も大きくなるように、第1のドレス工程S12の最終回のドレス切り込み量で、ドレス動作を1回行う。本実施の形態では、第2のねじ溝34Bのドレス切り込み量が最も大きくなるように、切り込み量が最も大きい第1の山部42Aを第2のねじ溝34Bに噛み合わせてドレス動作を1回行っている。ねじ状砥石30において、各ねじ山32の開始位置は、周方向で等間隔となるように離れており、これに伴って、第1のねじ溝34A、第2のねじ溝34B及び第3のねじ溝34Cは、溝の開始位置が、ねじ状砥石30の周方向で等間隔(120度)ずれている。第2のドレス工程S14では、第1の山部42Aが第2のねじ溝34Bと噛み合うように、第1の山部42Aによるドレス動作の開始位置をねじ状砥石30の周方向で変化させる。第2のドレス工程S14が実施されることで、図6Bに示すように、第2のねじ溝34Bのドレス切り込み量は、目標値である0.30mmとなる。
【0028】
続く繰り返し工程S16では、第1のドレス工程S12においてドレッサ40の山部42と噛み合ったねじ溝34であって、第1のねじ溝34Aを除く全てのねじ溝34に対して第2のドレス工程が実施されるように、第2のドレス工程が繰り返される。本実施の形態では、繰り返し工程S16によって、第3のねじ溝34Cが、第1の山部42Aにより、第1のドレス工程S12の最終回のドレス切り込み量で、1回ドレス動作される。これにより、図6Cに示すように、第3のねじ溝34Cのドレス切り込み量は、目標値である0.30mmとなる。
【0029】
上述したように、本実施の形態のドレッシング方法では、3条のねじ状砥石30をドレッシングする際に、10回に2回のドレス動作を加えた12回のドレス動作によって、ねじ状砥石のドレッシングを完了することができる。従来のシングルタイプの総形ロータリドレッサを用いたドレッシング方法では、目標となるドレス切り込み量を達成するために、10回のドレス動作を1条ずつ行う必要があり、3条のねじ状砥石では30回のドレス動作が必要となる。本実施の形態のドレッシング方法では、ドレス動作の回数を少なくして、ドレス時間を短縮することができるとともに、高精度でねじ状砥石30をドレッシングすることができる。
【0030】
次に、図4のフローチャートを用いて、ドレッシング方法の第2の実施の形態について詳細に説明する。第2の実施の形態では、第1のドレス工程S12と第2のドレス工程S14とにおいて、図7に示すように、ドレッサ40の各山部42A,42B,42Cとねじ状砥石30の各ねじ溝34A,34B,34Cとの噛み合わせ状態が維持される。第2の実施の形態のドレッシング方法において、第1のドレス工程S12は、上述した第1の実施の形態と同様であるので、詳細を省略する。第1のドレス工程S12が実施されると、図6Aに示すように、第1のドレス工程S12の後、第1のねじ溝34Aのドレス切り込み量は、目標値となり、その他のねじ溝34B,34Cは、ドレス切り込み量が目標値よりも僅かに小さい値となる。
【0031】
第2の実施の形態において、第2のドレス工程S14では、第1の山部42A以外の山部42B,42Cによるドレス切り込み量が最も大きくなるように、ねじ状砥石30とドレッサ40とが位置合わせされる。具体的には、ドレッサ支持部16に支持されたドレッサ40に対し、砥石支持部14によって支持されたねじ状砥石30をZ方向に移動させることによって、切り込み量が最も大きくなる山部42を第2の山部42Bに変更する。このように変更された状態で、第1のドレス工程S12と同じ噛み合わせ状態、すなわち、第1の山部42Aが第1のねじ溝34A、第2の山部42Bが第2のねじ溝34B、第3の山部42Cが第3のねじ溝34Cに噛み合った状態とし、第1のドレス工程S12の最終回のドレス切り込み量でドレス動作を1回行う。
【0032】
例えば、第1のドレス工程S12において、10回のドレス動作で目標の切り込み量が達成されるように、第1の山部42Aが1回ごとに0.03mm切り込むようにしていた場合、第2の山部42Bによる切り込み量が、最終回の切り込み量である0.30mmのドレス切り込み量となるようにして、ドレス動作が1回行われる。第2のドレス工程S14が実施されることで、図6Bに示すように、第2のねじ溝34Bのドレス切り込み量は、目標値である0.30mmとなる。
【0033】
続く繰り返し工程S16では、第1のドレス工程S12においてドレッサ40の山部42と噛み合ったねじ溝34であって、第1のねじ溝34Aを除く全てのねじ溝34に対して第2のドレス工程が実施されるように、第2のドレス工程が繰り返される。本実施の形態では、繰り返し工程S16において、第3の山部42Cのドレス切り込み量が最も大きくなるように、ドレッサ40に対してねじ状砥石30をZ方向に移動させる。このように変更された状態で、第1のドレス工程S12と同じ噛み合わせ状態とし、第1のドレス工程S12の最終回のドレス切り込み量でドレス動作を1回行う。具体的には、第3の山部42Cによる切り込み量が、第1のドレス工程S12の最終回の切り込み量である0.30mmのドレス切り込み量となるようにして、ドレス動作が1回行われる。繰り返し工程S16が実施されることで、図6Cに示すように、第3のねじ溝34Cのドレス切り込み量は、目標値である0.30mmとなる。
【0034】
上述したように、第2の実施の形態のドレッシング方法では、3条のねじ状砥石30をドレッシングする際に、10回に2回のドレス動作を加えた12回のドレス動作によって、ねじ状砥石のドレッシングを完了することができる。従来のシングルタイプの総形ロータリドレッサを用いたドレッシング方法では、目標となるドレス切り込み量を達成するために、30回のドレス動作が必要であったが、本実施の形態のドレッシング方法では、マルチタイプの総形ロータリドレッサ40を用いてドレス動作の回数を少なくし、ドレス時間を短縮することができるとともに、高精度でねじ状砥石30をドレッシングすることができる。
【0035】
また、上述したように、第2の実施の形態のドレッシング方法では、ドレス切り込み量が最も大きくなる山部42が、各工程S12,S14,S16で変化する。切り込み量が最も大きい山部42は、他の山部42よりも仕事量が多くなり摩耗が進むことになるが、第2の実施の形態のように、各工程S12,S14,S16でドレス切り込み量が最も大きくなる山部42が変わることで、各山部42の仕事量を均一化させ、各山部42が均一に摩耗するようすることができる。これにより、1つの山部42のみが集中的に摩耗することを防止して、ドレッサ40の工具寿命を延ばすことができる。
【0036】
なお、上述した第2の実施の形態の一例では、第1のドレス工程S12において切り込み量が最も大きくなる山部42を第1の山部42としているが、これに代えて、第2の山部42B又は第3の山部42Cとしてもよい。各山部42が均一に摩耗するように、第1のドレス工程S12において切り込み量が最も大きくなる山部42を選択することで、ドレッサ40の工具寿命をより長くすることができる。
【0037】
ねじ状砥石30のねじ山32と、ドレッサ40の山部42との数が等しい場合、第1及び第2の実施の形態のドレッシング方法において、第2のドレス工程は、複数条のねじ状砥石30の条数がn条(nは2以上の整数)の場合、(n-1)回実施される。例えば5条のねじ状砥石をドレッシングする場合には、第2のドレス工程S14が4回繰り返されることとなる。第2のドレスS14が繰り返される場合、第2のドレス工程S14は、第1のドレス工程S12で最も大きく切り込まれた第1のねじ溝34Aに近いねじ溝34から順に実施されることが好ましい。なお、ねじ状砥石30の条数が2条である場合には、繰り返し工程は不要となる。
【0038】
なお、上述した実施の形態では、ねじ状砥石30のねじ山32条数と、ドレッサ40の山部42の数とが等しい例を示したが、これらの数が異なっていてもよい。例えば、5条のねじ状砥石を3つの山部を有するマルチタイプの総形ロータリドレッサでドレッシングしてもよく、かかる場合であっても、シングルタイプの総形ロータリドレッサに比べて、ドレス動作の回数を低減してドレス時間を短縮することが可能である。
【0039】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 歯車研削盤
11 ベッド
12 ワーク支持部
14 砥石支持部
16 ドレッサ支持部
20 移動機構
30 ねじ状砥石
32A 第1のねじ山
32B 第2のねじ山
32C 第3のねじ山
34A 第1のねじ溝
34B 第2のねじ溝
34C 第3のねじ溝
40 総形ロータリドレッサ
42A 第1の山部
42B 第2の山部
42C 第3の山部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9