(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023748
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】推定方法、推定装置、及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/16 20060101AFI20250207BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
G01T1/16 A
G21C17/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128165
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 克彦
(72)【発明者】
【氏名】熊田 有華
【テーマコード(参考)】
2G075
2G188
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075DA08
2G075FA05
2G075FA18
2G188AA10
2G188AA20
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB18
2G188CC21
2G188CC28
2G188DD30
2G188EE01
2G188EE37
2G188EE39
(57)【要約】
【課題】測定した放射線エネルギースペクトルから未知の放射線源分布を精度よく推定する。
【解決手段】推定装置10は、既知の放射線源分布における測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、当該放射線源分布の下で計算された放射線エネルギースペクトルを出力とする学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデル1に、未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、既知の放射線源分布に対してシミュレーションによって得られた放射線エネルギースペクトルを入力とし、当該放射線源分布を出力とする学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデル2に第1学習モデル1の出力を入力し、第2学習モデル2の出力を未知の放射線源分布の推定値として出力する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、
未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、
前記未知の放射線源分布の推定値として出力する処理をコンピュータが実行する
放射線源分布の推定方法。
【請求項2】
前記第2学習データの正解データは、複数種類の放射線源によって構成された既知の放射線源分布を含み、
前記第2学習モデルは前記第1学習モデルの出力から推定した前記複数種類の放射線源の分布を出力する
請求項1に記載の放射線源分布の推定方法。
【請求項3】
前記第2学習データの正解データは、放射線源から放射される放射線を遮蔽する遮蔽体の既知の遮蔽体分布を更に含み、
前記第2学習モデルは、前記第1学習モデルの出力から推定した前記遮蔽体の分布を出力する
請求項2に記載の放射線源分布の推定方法。
【請求項4】
放射線源がγ線を放射するものを含み、前記遮蔽体がウランを含む
請求項3に記載の放射線源分布の推定方法。
【請求項5】
既知の放射線源分布に含まれる複数の放射線源がそれぞれ単独で存在するものとしてシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである各々の基礎計算データを合成した合成基礎計算データを入力とし、前記複数の放射線源が同時に存在するものとしてシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルを出力とする学習データを用いて機械学習が行われた第0学習モデルに、前記合成基礎計算データを入力した場合の前記第0学習モデルの出力を、前記第2学習データの入力とする
請求項4に記載の放射線源分布の推定方法。
【請求項6】
前記第1学習モデルの出力を正規化してから前記第2学習モデルに入力する
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の放射線源分布の推定方法。
【請求項7】
プロセッサを備え、
前記プロセッサが、既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する
放射線源分布の推定装置。
【請求項8】
既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する処理をコンピュータに実行させるための
放射線源分布の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線源分布の推定方法、推定装置、及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、放射性物質から放出される放射線が入射されると入射放射線のエネルギーに対応する検出信号を出力する検出部と、前記検出信号のエネルギー値毎の計数を示すエネルギー分布である第1エネルギー分布を導出する分析部と、前記検出部の応答関数を格納する記憶部と、前記第1エネルギー分布に対して、前記応答関数を用いた信号復元演算を行うことにより前記放射性物質の放射線のエネルギー分布である第2エネルギー分布を演算して、前記放射性物質の核種を弁別すると共に、弁別された当該放射性物質の放射能強度を演算する演算部と、を備え、前記応答関数は、測定対象物に含まれる前記放射性物質である測定放射性物質に対する第1応答関数と、前記測定対象物に含まれない前記放射性物質である外部放射性物質に対する第2応答関数と、を有して構成され、前記演算部は、前記第1エネルギー分布に対して、前記第2応答関数を用いた前記信号復元演算を行うことにより、演算された前記第2エネルギー分布から、前記外部放射性物質の放射線のエネルギーを分離する分離制御を行い、当該分離制御が行われた前記第2エネルギー分布に基づいて、前記測定放射性物質の核種を弁別すると共に、弁別された当該測定放射性物質の放射能強度を演算する放射能分析装置が開示されている。
【0003】
特許文献2には、放射線を検出する検出素子毎に、少なくとも検出器応答を含んだ第1スペクトルを取得する取得部と、前記第1スペクトルの特徴に基づいて、入力されたスペクトルを補正した第2スペクトルを出力する学習済みモデルを、前記第1スペクトルに対して適用するか否かを判定する判定部と、を備える医用画像処理装置が開示されている。
【0004】
特許文献3には、平面状の検出領域に入射した放射線を検出する放射線検出器と、前記検出領域をメッシュ状に分割した区画のうちの何れの区画に前記放射線が入射したかを特定する入射位置演算器と、前記放射線の量を入射した前記区画毎に積算した区画放射線積算量を記憶するカウント保持器と、連続する前記区画を組み合わせて設けられた設定領域のそれぞれに対してこの設定領域に属する前記区画に対応する前記区画放射線積算量を足し合わせて設定領域放射線積算量を求める設定領域積算器と、を有する放射性表面汚染検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-103153号公報
【特許文献2】特開2020-22689号公報
【特許文献3】特開2008-292166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環境中の放射線量や放射線エネルギースペクトルを測定し、測定データからホットスポット、原子炉内の燃料デブリ及び放射線源等(以降、単に「放射線源」ともいう)の位置(分布)を推定して除染等に役立てることがある。
【0007】
図12は、放射線源(例えばコバルト60とセシウム137)の位置と測定した放射線エネルギースペクトルとの関係例を示す図である。コバルト60は
60Coと表され、セシウム137は
137Csと表される。
【0008】
放射線源の位置と放射線源から放射される放射線量が予めわかっている状況において、特定の位置における放射線エネルギースペクトルを推定することは原因から結果を推定する順問題となるため、数理モデルを用いた推定が可能である。しかしながら、特定の位置における放射線エネルギースペクトルを測定し、その測定結果から放射線源の位置を推定することは結果から原因を推定する逆問題となるため、順問題のように数理モデルを用いて推定を行うことが難しい。
【0009】
したがって、放射線検出器による放射線エネルギースペクトルの測定結果に基づいて、放射線量の高いところを探し当てるような宝探し的な手法により、放射線源を探し出すことが行われている。
【0010】
一方で、ビッグデータ解析の手法として機械学習の研究が進められている。機械学習では入力と出力との間に存在する数理モデルが不明であったとしても、入力と出力の対応関係さえわかっていれば、入力と出力との間に潜在的に含まれる特徴量を抽出し、入力と出力との対応関係を再現する学習モデルを生成することができる。したがって、各々の位置において測定された放射線エネルギースペクトルを入力とし、放射線エネルギースペクトルの測定時における放射線源の位置を出力とする学習モデルを用いれば、測定した放射線エネルギースペクトルから放射線源の位置を推定することが可能になる。
【0011】
この場合、学習モデルの機械学習に用いる学習データが必要になるが、実際に放射線源8の位置を変えながら生成した様々な環境において放射線エネルギースペクトルを測定して学習データを生成することは現実的でないことが多い。したがって、既知である放射線源8の位置から放射線輸送計算用モンテカルロシミュレーションを用いて計算した各々の位置における測定データを用いて学習データを生成する手法がとられる。
【0012】
しかしながら、放射線輸送計算用モンテカルロシミュレーションによって得られる放射線エネルギースペクトルは、分解能補正を行っても放射線検出器によって測定される放射線エネルギースペクトルとピークの位置や形状等が異なる場合がある。計算した放射線エネルギースペクトルと実測した放射線エネルギースペクトルの誤差は核種同定等では問題にならないことが多いが、放射線源分布の推定のように放射線エネルギースペクトルの微細な変化を特徴量として用いる場合には推定結果に影響を与える。したがって、既知の放射線源分布の下で計算された位置毎の放射線エネルギースペクトルと既知の放射線源分布との対応関係を機械学習した学習モデルに実測した放射線エネルギースペクトルを入力した場合、推定した放射線源分布に無視できない誤差が含まれることがある。
【0013】
本開示は、上記事情を考慮して成されたものであり、既知の放射線源分布の下で計算された位置毎の放射線エネルギースペクトルと既知の放射線源分布との対応関係を機械学習した学習モデルに、未知の放射線源分布の下で測定された位置毎の放射線エネルギースペクトルを入力して未知の放射線源分布を推定する場合と比較して、測定した放射線エネルギースペクトルから未知の放射線源分布を精度よく推定することができる推定方法、推定装置、及び推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1態様に係る放射線源分布の推定方法は、既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する処理をコンピュータが実行する。
【0015】
第2態様に係る放射線源分布の推定方法は、第1態様に係る放射線源分布の推定方法において、前記第2学習データの正解データは、複数種類の放射線源によって構成された既知の放射線源分布を含み、前記第2学習モデルは前記第1学習モデルの出力から推定した前記複数種類の放射線源の分布を出力する。
【0016】
第3態様に係る放射線源分布の推定方法は、第2態様に係る放射線源分布の推定方法において、前記第2学習データの正解データは、放射線源から放射される放射線を遮蔽する遮蔽体の既知の遮蔽体分布を更に含み、前記第2学習モデルは、前記第1学習モデルの出力から推定した前記遮蔽体の分布を出力する。
【0017】
第4態様に係る放射線源分布の推定方法は、第3態様に係る放射線源分布の推定方法において、放射線源がγ線を放射するものを含み、前記遮蔽体がウランを含む。
【0018】
第5態様に係る放射線源分布の推定方法は、第4態様に係る放射線源分布の推定方法において、既知の放射線源分布に含まれる複数の放射線源がそれぞれ単独で存在するものとしてシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである各々の基礎計算データを合成した合成基礎計算データを入力とし、前記複数の放射線源が同時に存在するものとしてシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルを出力とする学習データを用いて機械学習が行われた第0学習モデルに、前記合成基礎計算データを入力した場合の前記第0学習モデルの出力を、前記第2学習データの入力とする。
【0019】
第6態様に係る放射線源分布の推定方法は、第1態様~第5態様の何れかの態様に係る放射線源分布の推定方法において、前記第1学習モデルの出力を正規化してから前記第2学習モデルに入力する。
【0020】
第7態様に係る放射線源分布の推定装置はプロセッサを備え、前記プロセッサが、既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する。
【0021】
第8態様に係る放射線源分布の推定プログラムは、既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0022】
第1態様、第7態様、及び第8態様によれば、既知の放射線源分布の下で計算された位置毎の放射線エネルギースペクトルと既知の放射線源分布との対応関係を機械学習した学習モデルに、未知の放射線源分布の下で測定された位置毎の放射線エネルギースペクトルを入力して未知の放射線源分布を推定する場合と比較して、測定した放射線エネルギースペクトルから未知の放射線源分布を精度よく推定することができる、という効果を有する。
【0023】
第2態様によれば、放射線源の種類毎に放射線源分布を推定することができる、という効果を有する。
【0024】
第3態様によれば、放射線源分布に加えて遮蔽体分布も推定することができる、という効果を有する。
【0025】
第4態様によれば、鉛以外が用いられた遮蔽体の遮蔽体分布も推定することができる、という効果を有する。
【0026】
第5態様によれば、第2計算放射線エネルギースペクトルを得る際の計算負荷を低減することができる、という効果を有する。
【0027】
第6態様によれば、第1学習モデルの出力を正規化せずに第2学習モデルに入力する場合と比較して、放射線源分布の推定精度を向上させることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】第1学習モデルの機械学習例を示す図である。
【
図4】第2学習モデルの機械学習例を示す図である。
【
図5】放射線源分布の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】正解となる放射線源分布の一例を示す図である。
【
図10】測定データを第2学習モデルに入力して推定した放射線源分布と、計算データを第2学習モデルに入力して推定した放射線源分布の一例を示す図である。
【
図11】変換データを第2学習モデルに入力して推定した放射線源分布の一例を示す図である。
【
図12】放射線源の位置と測定した放射線エネルギースペクトルとの関係例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素及び同じ処理には全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0030】
図1は、放射線源分布を推定する推定装置10の構成例を示す図である。推定装置10は、制御部11、通信部12、表示部13、受付部14、インターフェース(I/F)部15、及び記憶部16の各機能部を含む。制御部11、通信部12、表示部13、受付部14、インターフェース(I/F)部15、及び記憶部16はバス17によって接続され、相互にデータの送受信を行う。
【0031】
制御部11は、推定装置10を操作するユーザの指示に基づいて各機能部を制御し、放射線源分布を推定する。放射線源分布とは、放射線源8が存在する位置を表す分布のことである。制御部11は、プロセッサの一例であるCPU(Central Processing Unit)11A、不揮発性メモリ11B、及びCPU11Aの一時的な作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)11Cを備える。
【0032】
不揮発性メモリ11Bは、不揮発性メモリ11Bに供給される電力が遮断されても記憶した情報が維持される記憶装置の一例であり、例えばSSD(Solid State Drive)等の半導体メモリが用いられるがハードディスクを用いてもよい。不揮発性メモリ11Bには、CPU11Aが放射線源分布の推定に関する制御を行うために読み込む推定プログラム11D、及びCPU11Aが放射線源分布の推定に関する制御を行う際に参照する各種パラメータが予め記憶されている。
【0033】
通信部12は、データ通信を行う通信プロトコルを備え、通信回線に接続された外部装置4との間でデータ通信を行う。通信部12に接続される通信回線は有線又は無線の何れであってもよい。また、通信部12が対応しているデータ通信の規格に制約はなく、例えばWi-Fi(登録商標)、ブルートゥース(登録商標)、及びNFC(Near Field Communication)等を用いたデータ通信が可能である。
【0034】
表示部13は、制御部11によって処理された情報を、表示装置5を通じてユーザに表示する。なお、表示部13は、制御部11によって処理された情報を、プリンタ(図示省略)を通じて用紙等の記録媒体に印字することによってユーザに表示してもよい。
【0035】
受付部14は、入力装置6を通じてユーザから受け付けた放射線源分布の推定に関する指示及び各種パラメータ等を受け付け、制御部11に通知する。ユーザが指示等の入力に用いる入力装置6の種類に制約はなく、例えばスイッチ、タッチパネル、タッチペン、キーボード、及びマウス等が用いられる。
【0036】
I/F部15は、放射線検出器の一例であるヨウ化ナトリウムスペクトロメータ7(以降、「NaIスペクトロメータ7」という)に制御部11からの指示を通知すると共に、NaIスペクトロメータ7によって測定された放射線エネルギースペクトルを制御部11に通知するインターフェース機能を提供する。I/F部15に接続される放射線検出器は、特に限定されず、対象とする放射線の種類に応じて、その放射線のエネルギースペクトルを測定することができればよく、ゲルマニウム検出器(「Ge検出器」ともいう)であっても、タリウム活性化ヨウ化ナトリウム検出器(「NaI(TI)スペクトロメータ」ともいう)であってもよい。
【0037】
記憶部16は、例えば第1学習モデル1、第2学習モデル2を記憶する。記憶部16は不揮発性メモリ11Bと同じく半導体メモリが用いられるがハードディスクを用いてもよい。なお、記憶部16を不揮発性メモリ11Bとして用いてもよく、この場合、推定プログラム11D及び各種パラメータが記憶部16に記憶される。
【0038】
第1学習モデル1は、既知の放射線源分布に対して、NaIスペクトロメータ7を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルを出力とする学習データを用いて機械学習が行われた学習モデルである。すなわち、第1学習モデル1は、NaIスペクトロメータ7を用いて測定した放射線エネルギースペクトルから、同じ環境の下で計算した場合に得られる放射線エネルギースペクトルを推定する。特定の放射線源分布の下での各位置における放射線エネルギースペクトルの計算には、例えばPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)が用いられるが、他のモンテカルロシミュレーションやその派生手法を用いてもよい。更に、モンテカルロシミュレーション以外の有限要素法、有限差分法、PINNs(Physics-Informed Neural Networks)なども用いることができ、シミュレーション手法はモンテカルロシミュレーションに限られない。
【0039】
説明の便宜上、NaIスペクトロメータ7を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを「測定データ」と表し、特定の放射線源分布の下でPHITSを用いて計算した放射線エネルギースペクトルを「計算データ」ということにする。本開示に係る測定データは測定放射線エネルギースペクトルの一例であり、本開示に係る計算データは第1計算放射線エネルギースペクトルの一例である。第1学習モデル1において、計算データは測定データに対する正解データaとなる。
【0040】
図2は、第1学習モデル1の機械学習例を示す図である。第1学習モデル1は、例えば入力層、中間層、及び出力層で構成された3層ニューラルネットワークによって表される。なお、層数は3層に限られず、さらに多くの層を用いてもよい。
【0041】
第1学習モデル1における入力層のノードxの数は、測定データにおけるエネルギー帯のチャネル数に設定され、第1学習モデル1における出力層のノードyの数は、計算データにおけるエネルギー帯のチャネル数に設定される。エネルギー帯のチャネル数とは、エネルギーを連続する複数のエネルギー帯に分割し、分割した各々のエネルギー帯に対して、エネルギー帯が表すエネルギーの範囲が低い方から高い方に向かって昇順に割り当てた番号のことをいう。
【0042】
エネルギー帯のチャネル数に制約はないが、本開示では一例として、エネルギーを64個のエネルギー帯に分割して取り扱うため、エネルギー帯のチャネル数は“64”となる。測定データ及び計算データでは強度がチャネル毎に測定及び計算されるため、測定データ及び計算データはそれぞれ64個の要素を有するベクトルとして表される。したがって、測定データを入力とし、計算データを出力とする第1学習モデル1の入力層におけるノードxの数、及び出力層におけるノードyの数は共に64個となる。なお、各チャネルの強度は、放射線の計数量を表すcps(Count Per Second)によって表される。
【0043】
第1学習モデル1の中間層におけるノードzの数に制約はないが、本開示では一例として、ノードx及びノードyの数にあわせて64個とした。すなわち、本開示の第1学習モデル1は、入力層にノードx1~ノードx64、中間層にノードz1~ノードz64、及び出力層にノードy1~ノードy64を有する学習モデルである。ノードzの数をノードx及びノードyの数より少なくすれば、中間層において測定データの特徴量が圧縮され、ノードzの数をノードx及びノードyの数より多くすれば、中間層において測定データの特徴量が測定データの次元数よりも高次元に投射される。
【0044】
次に、第1学習モデル1の機械学習に用いる測定データの取得方法について説明する。
図3は、測定データの取得例を示す図である。測定データを取得する場合、
図3(A)に示すように測定範囲を複数の領域に分割し、NaIスペクトロメータ7を用いて各領域の位置における測定データを取得する。測定範囲における領域の分割数に制約はないが、本開示では一例として、測定範囲を縦方向に4分割及び横方向に4分割して、16個のマス目状の領域を生成した。測定範囲の分割数に制約はなく、16個未満であっても17個以上であってもよい。
【0045】
図3(A)において、領域9A及び領域9Bは放射線源8が配置された領域であり、領域9Cは遮蔽体20が配置された領域である。このように、例えば実際の環境において放射線の遮蔽物として機能する森林や建物に見立てた遮蔽体20を測定データの測定環境に配置してもよい。この場合、放射線源分布は、遮蔽体20の位置、形状、大きさ、及び材質等の影響を受ける。
【0046】
放射線源8には、例えばセシウム137が用いられるが、コバルト60を用いてもよい。また、放射線源8は、複数種類を用いてもよいし、同一種類を複数個用いてもよい。本開示の測定環境では複数種類の放射線源8、すなわち、セシウム137とコバルト60を用いる。
図3(A)において、領域9Aはセシウム137が配置された領域を示し、領域9Bはコバルト60が配置された領域を示している。遮蔽体20には、例えば鉛、鉄、コンクリート等が用いられる。なお、放射線源8が放射する放射線の種類は、その放射線のエネルギースペクトルを測定できれば特に限定されない。また、放射線源8がγ線を放射する場合、遮蔽体20としてウランが用いられることがある。ウランは、密度が大きいのでγ線等を遮蔽する効果がある。見方を変えると、本開示では、遮蔽体として存在するウランの分布を推定することも可能であり、つまり、本開示では、遮蔽体分布の推定としてではあるがウランの分布も推定可能である。なお、もちろん、ウランを放射線源8として、ウランの放射する放射線エネルギースペクトルを測定及び学習等することによる、ウランの分布の推定も本開示により可能である。また、
図3においては同一平面上に放射線源8、遮蔽体20を配置しているが、それに限定されず、3次元的に配置してもよい。
【0047】
図3(B)は、
図3(A)に示す測定環境をV軸方向に沿って眺めた場合における測定環境の側面図である。
図3(B)に示すように、領域9A及び領域9Bに相当するテーブル等の積載面18には各々の種類の放射線源8が配置され、領域9Cに相当する積載面18には遮蔽体20が配置されている。
【0048】
ユーザは、積載面18からW軸方向に規定距離だけ離れた検出面19の位置にNaIスペクトロメータ7を配置して、各々の領域における測定データを測定する。積載面18からNaIスペクトロメータ7までの距離を規定する規定距離に制約はないが、本開示では一例として、規定距離を1cmに設定した。また、放射線源8等の配置と同様に、測定データの測定は、同一平面上に限定されず、3次元的に測定してもよい。
【0049】
推定装置10は、
図3に示したような既知の放射線源分布の下で、NaIスペクトロメータ7を用いて16個ある各領域の測定データを測定すると共に、測定データの測定時と同じ放射線源8及び遮蔽体20の位置に対する各領域の計算データを、PHITSを用いて計算する。このようにして取得した同じ領域における測定データと計算データを用いて、測定データと計算データをそれぞれ入力データと、入力データに対する出力、すなわち、正解データaとして対応付けた学習データを生成する。測定データを入力データとし、計算データを正解データa
1~正解データa
64とする学習データは第1学習データの一例である。
【0050】
本開示では一例として、放射線源8及び遮蔽体20の位置を34パターンほど変化させ、各々のパターン毎に16個ある各領域の測定データと計算データを取得することによって544個の学習データを生成した。第1学習モデル1は、544個の学習データを用いた機械学習を10000回行うことで得られた学習モデルである。具体的には、第1学習モデル1は、544個の学習データに含まれる各々の測定データを入力層のノードxに入力した場合に、入力した測定データと同じ学習データに含まれる計算データ(すなわち、正解データa1~a64)が出力層のノードyから出力されるように10000回の機械学習が行われた学習モデルである。
【0051】
第1学習モデル1の機械学習に用いる学習データの数、及び機械学習の回数は一例であり、それぞれ544個及び10000回に限定されない。ユーザは、第1学習モデル1の機械学習に最適と思われる学習データの数を準備し、第1学習モデル1の機械学習に最適と思われる機械学習の回数を設定すればよい。
【0052】
一方、
図1に示した第2学習モデル2は、既知の放射線源分布における各位置の計算データを入力とし、計算データが得られた状況における既知の放射線源分布を出力とする学習データを用いて機械学習が行われた学習モデルである。本開示では、計算データは、
図3に示した測定範囲の領域毎に算出される。すなわち、第2学習モデル2は、PHITSを用いて計算した、
図3の16分割された各領域における計算データから放射線源分布を推定する。なお、第2学習モデル2に入力される計算データは、第2計算放射線エネルギースペクトルの一例である。ここで、第1学習データと同様に、第2学習データにおいても、3次元的な放射線源分布における計算データを用いてもよい。第2学習データとは、第2学習モデル2の機械学習に用いる学習データのことである。第1学習データ及び第2学習データにおいて3次元的な放射線源分布のデータを用いることで、3次元的に精度よく放射線源分布を推定することができる。
【0053】
図4は、第2学習モデル2の機械学習例を示す図である。第2学習モデル2も
図2に示した第1学習モデル1と同じく、例えば入力層、中間層、及び出力層で構成された3層ニューラルネットワークによって表される。
【0054】
第2学習モデル2における入力層のノードxの数は、同じ放射線源分布の下で計算した16分割された各領域の計算データにおけるエネルギー帯の各チャネルの強度を、すべての領域について順に並べた場合の要素数に設定される。本開示の例の場合、1つの領域の計算データにおけるエネルギー帯のチャネル数は64チャネルであり、同じ放射線源分布の下において計算データの算出対象となる領域の数は16個であるから、64×16=1024個のノードxが用いられる。
【0055】
第2学習モデル2における出力層のノードyの数は、入力層に入力された計算データが算出された状況における放射線源分布を表すのに必要な数に設定される。本開示の例の場合、放射線源8が配置可能な領域は16個存在することから、例えば放射線源8が配置されている領域の値を“1”で表し、放射線源8が配置されていない領域を“0”で表せば、16ビットのビット列によって放射線源8の分布を表すことができる。既に説明したように、本開示では一例として、セシウム137とコバルト60の2種類の放射線源8を用いることから、放射線源8の分布を放射線源8の種類毎に表すには32ビットのビット列が必要になる。
【0056】
同じことは遮蔽体20の分布についても言及することができる。計算データの算出に用いられる遮蔽体20の種類が鉛のみとすれば、16ビットのビット列によって遮蔽体20の分布が表される。したがって、遮蔽体20と2種類の放射線源8を用いた放射線源分布を表すためには、48ビットのビット列があればよいことになる。放射線源分布を表す各々のビットに対して第2学習モデル2のノードyを1つずつ割り当てれば、第2学習モデル2の出力層が、計算データが算出された状況における放射線源分布を表すことになるため、ノードyの数は48個に設定される。
【0057】
第2学習モデル2の中間層におけるノードzの数に制約はないが、本開示では一例として、ノードxの数にあわせて1024個とした。すなわち、本開示の第2学習モデル2は、入力層にノードx1~ノードx1024、中間層にノードz1~ノードz1024、出力層にノードy1~ノードy48を有する学習モデルである。また、計算データを入力データとし、放射線源分布を正解データa1~正解データa48とする学習データは第2学習データの一例である。
【0058】
本開示では一例として、放射線源8及び遮蔽体20の位置を15000パターンほど変化させ、各々のパターン毎に16個ある各領域の計算データを取得することによって15000個の学習データを生成した。すなわち、既知の放射線源分布の下で算出した各領域の計算データを1まとめにした計算データ(「統合計算データ」ともいう)を入力データとし、当該計算データが算出された状況における放射線源分布を入力データに対する正解データaとして対応付けた学習データを、放射線源分布を変化させながら15000個生成する。第2学習モデル2は、こうして生成された15000個の学習データを用いた機械学習を行うことで得られた学習モデルである。
【0059】
具体的には、第2学習モデル2は、15000個の学習データに含まれる各々の統合計算データを入力層のノードxに入力した場合に、入力した統合計算データと同じ学習データに含まれる放射線源分布(すなわち、正解データa1~a48)が出力層のノードyから出力されるように機械学習が行われた学習モデルである。
【0060】
第2学習モデル2の機械学習に用いる学習データの数は一例であり、15000個に限定されない。ユーザは、第2学習モデル2の機械学習に最適と思われる学習データの数を準備すればよい。
【0061】
なお、第2学習モデル2の出力層が表す放射線源8の分布は2種類の放射線源8に限定されるわけではなく、1種類の放射線源8の分布であっても、同じ種類の放射線源8が複数個ある場合の放射線源8の分布であっても、3種類以上の複数種類の放射線源8の分布であってもよい。すなわち、第2学習モデル2の学習データには、少なくとも1種類の放射線源8の既知分布が統合計算データに対する出力として含まれる。また、遮蔽体20が存在する場合、第2学習モデル2の学習データには、遮蔽体20の既知分布が統合計算データに対する出力として含まれる。
【0062】
次に、放射線源分布を推定する推定装置10の作用について詳細に説明する。
図5は、
図3に示した測定データの測定環境において、未知の放射線源分布の下で測定された測定データに対する放射線源分布の推定指示をユーザから受け付けた場合に、推定装置10によって実行される放射線源分布の推定処理の一例を示すフローチャートである。推定装置10における制御部11のCPU11Aは、不揮発性メモリ11Bから推定プログラム11Dを読み込んで放射線源分布の推定処理を実行する。
【0063】
なお、記憶部16には、未知の放射線源分布の下で測定された測定データが予め記憶されているものとする。また、放射線源分布の推定処理の説明において「測定データ」とは、未知の放射線源分布の下で測定された測定データのことを指す。
【0064】
まず、ステップS10において、制御部11は、記憶部16から第1学習モデル1を取得してRAM11Cに展開する。制御部11は、取得した第1学習モデル1の入力層に測定データを入力する。これにより、第1学習モデル1の出力層から、測定データが測定された測定環境と同じ測定環境の下で得られる計算データの推定値が出力される。
【0065】
したがって、ステップS20において、制御部11は、第1学習モデル1が出力する、測定データに対する計算データの推定値を取得する。すなわち、第1学習モデル1によって測定データが計算データに変換されたことになる。以降では、第1学習モデル1に測定データを入力することによって得られる計算データの推定値を、実際にPHITSを用いて計算した計算データと区別するため「変換データ」という。
【0066】
ステップS30において、制御部11は、記憶部16から第2学習モデル2を取得してRAM11Cに展開する。制御部11は、第2学習モデル2の入力層にステップS20の処理によって取得した変換データを入力する。制御部11は、第2学習モデル2の入力層に変換データを入力する場合、変換データをそのまま入力するのではなく正規化してから第2学習モデル2に入力してもよい。例えば強度が最大となる変換データのチャネルの強度を“1”に設定し、各位置における各々のチャネルの強度を0以上1以下の範囲に変換してから第2学習モデル2に入力してもよい。なお、正規化した変換データを第2学習モデル2に入力する場合、第2学習モデル2の機械学習も正規化された変換データを入力データとする学習データによって行われていることが好ましい。
【0067】
これにより、第2学習モデル2の出力層から、測定データが測定された測定環境における未知の放射線源分布の推定値が出力される。
【0068】
したがって、ステップS40において、制御部11は、第2学習モデル2が出力する放射線源分布の推定値を取得する。
【0069】
ステップS50において、制御部11は表示部13を制御して、ステップS40の処理によって取得した放射線源分布の推定値を可視化し、測定データから推定される放射線源分布として表示装置5に表示する。具体的には、制御部11は表示部13を制御して、16分割された領域毎に放射線源8及び遮蔽体20の有無を表示する。以上により、
図5に示す放射線源分布の推定処理を終了する。
【0070】
このように推定装置10は、まずは測定データから測定データが測定された測定環境と同じ測定環境の下で得られる計算データ、すなわち、変換データを生成し、生成した変換データを第2学習モデル2に入力することによって放射線源分布を推定する。
なお、本発明で推定の目的とする放射線源分布とは、放射線源8の位置だけを指すのではなく、放射線源8の強弱(つまり、各放射線の放射能の強弱)も指す。そのため、本発明は、例えば、福島第一原子力発電所の、放射性燃料デブリの分布推定等も可能である。
【0071】
<放射線源分布の推定例>
次に、
図5に示した放射線源分布の推定処理によって推定した放射線源分布の推定結果を示す。以降では、
図5に示した放射線源分布の推定処理によって推定した放射線源分布の推定結果を、「推定装置10による推定結果」という。
【0072】
図6は、正解となる放射線源分布の一例を示す図である。
図6に示すように、セシウム137とコバルト60をそれぞれ測定範囲の領域9A及び領域9Bに配置した。なお、測定範囲に遮蔽体20は配置しなかった。
【0073】
図7は、
図6に示した測定範囲の位置(1)、位置(2)、及び位置(3)においてそれぞれ測定された測定データ例を示す図である。
【0074】
図8は、
図7に示した測定範囲の位置(1)、位置(2)、及び位置(3)における測定データをそれぞれ第1学習モデル1に入力することによって得られた変換データ例を示す図である。
【0075】
図9は、
図6に示した放射線源分布の下でそれぞれ計算した、測定範囲の位置(1)、位置(2)、及び位置(3)における計算データ例を示す図である。
【0076】
一方、
図10は、正解となる放射線源分布と、
図7に示した測定データを第2学習モデル2に入力して推定した放射線源分布と、
図9に示した計算データを第2学習モデル2に入力して推定した放射線源分布とを、放射線源8の種類毎に示した図である。
【0077】
図11は、正解となる放射線源分布と、
図8に示した変換データを第2学習モデル2に入力して推定した放射線源分布とを、放射線源8の種類毎に示した図である。
【0078】
図10において、測定データから推定した放射線源分布と正解となる放射線源分布との誤差は1.06であった。また、計算データから推定した放射線源分布と正解となる放射線源分布との誤差は6.54E-7であった(Eは10のべき乗を表す)。測定データから推定した放射線源分布の場合、本来存在しない位置にセシウム137があると推定された。
【0079】
このように、計算データから推定した放射線源分布のほうが測定データから推定した放射線源分布より推定精度が高くなる理由は、第2学習モデル2が計算データと放射線源分布との対応付けを学習した学習モデルであるということにある。
図7及び
図9に示す測定データと計算データを比較すればわかるように、同じ位置であっても、測定データと計算データは異なる傾向を示す。したがって、計算データから乖離した測定データを第2学習モデル2に入力すれば、推定される放射線源分布も計算データと対応付けられた正解の放射線源分布から乖離する傾向を示す。
【0080】
一方、
図11において、変換データから推定した放射線源分布と正解となる放射線源分布との誤差は7.83E-6であった。このように、変換データから推定した放射線源分布のほうが測定データから推定した放射線源分布より推定精度が高くなる理由は、変換データと測定データの波形の違いにある。
図7~
図9にそれぞれ示す測定データ、変換データ、及び計算データを比較すればわかるように、位置(1)~位置(3)の何れにおいても、
図8に示す変換データの波形の方が
図7に示す測定データの波形よりも
図9に示す計算データの波形に近づく傾向を示す。したがって、変換データから推定した放射線源分布のほうが測定データから推定した放射線源分布より推定精度が高くなる。
【0081】
以上、実施形態を用いて推定装置10の一形態について説明したが、開示した推定装置10の形態は一例であり、推定装置10の形態は実施形態に記載の範囲に限定されない。
例えば、第1学習モデル、第2学習モデルを実施形態から変更したり、第1学習モデル、第2学習モデルに加えて、更に別の学習モデルを加えることもでき、その追加数は特に限定されない。例えば、複数種類の放射線源8から得られる測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、放射線源8の種類毎に分けた放射線源スペクトルを出力とする学習データを用いて機械学習が行われた学習モデルを更に用いることもできる。更に、例えば第2計算放射線エネルギースペクトルの取得において、以下に説明する第0学習モデルを用いることができる。ここで、第0学習モデルとは、第2計算放射線エネルギースペクトルを計算するために用いる学習モデルである。
【0082】
第2学習データの入力データである第2計算放射線エネルギースペクトルを生成する場合、上述の例示では、放射線源8のすべての分布パターン毎に計算データのシミュレーション計算を行った。したがって、
図3の16分割された領域内に複数個の放射線源8が存在する場合は、複数個の放射線源8の組み合わせに対して、放射線源8の分布パターンを変化させながら計算データのシミュレーション計算を行うことになるため、計算データのシミュレーション計算が煩雑になることがあった。しかしながら、第2計算放射線エネルギースペクトルを生成するのに第0学習モデルを用いる場合、制御部11は、例えば各々の放射線源8の分布毎にそれぞれ放射線エネルギースペクトルを計算し、各々の放射線源8毎の計算データを領域毎に合成することによって、第2計算放射線エネルギースペクトルを取得する。したがって、16分割された領域内に複数個の放射線源8を配置した状態で放射線エネルギースペクトルのシミュレーション計算を行わなくても、複数個の放射線源8が分布する場合の第2計算放射線エネルギースペクトルを取得することができる。
【0083】
例えば、
図6の領域9A及び領域9Bのように、16分割された領域内に3つの放射線源8が配置されている場合の第2計算放射線エネルギースペクトルの生成について説明する。
【0084】
第0学習モデルを使用しない場合は、そのまま放射線源8が3つ配置されているものとして、シミュレーション計算を行う必要があった。しかしながら、第0学習モデルを使用する場合、制御部11は、領域9Bにコバルト60のみが配置されている場合の計算データ(以下、「基礎計算データA」ともいう)と、2つの領域9Aのうち、一方の領域9Aにセシウム137のみが配置されている場合の計算データ(以下、「基礎計算データB」ともいう)と、他方の領域9Aにセシウム137のみが配置されている場合の計算データ(以下、「基礎計算データC」ともいう)の計3つの計算データをそれぞれ個別に計算する。そのうえで、制御部11は、基礎計算データA、基礎計算データB、及び基礎計算データCを領域毎、かつ、チャネル毎にそれぞれ合成したもの(以下、「合成基礎計算データ」ともいう)を第0学習モデルの入力として生成する。「合成」とは、複数の基礎計算データから別のデータ(この場合、「合成基礎データ」)を生成する行為であり、例えば各々の基礎計算データA~Cを領域毎、かつ、チャネル毎に加算することをいう。
【0085】
制御部11は、第0学習モデルに合成基礎計算データを入力すれば、
図6に示したように、同時に3つの放射線源8が配置された放射線源分布における第2計算放射線エネルギースペクトルを第0学習モデルの出力として取得できる。換言すれば、制御部11は、16分割された領域内に同時に存在する放射線源8を放射線源8毎に分解し(例えば
図6に示した例の場合、3つの放射線源8がそれぞれ個別に存在するものとして取り扱う)、16分割された領域内に何れか1つの放射線源8が存在するものとして計算した基礎計算データA~Cを合成することにより、複数の放射線源8が各位置に同時に存在する場合の第2計算放射線エネルギースペクトルを得る。したがって、制御部11は、複数の放射線源8を含んだ放射線源分布における各領域の計算データをシミュレーション計算しなくても第2計算放射線エネルギースペクトルを得ることができるため、第2計算放射線エネルギースペクトルの計算負荷を低減することができる。計算負荷の低減効果は、放射線源8や遮蔽体20の数が多くなるほど、また、領域の分割数が増加するほど大きくなる。
【0086】
なお、第0学習モデルの機械学習用の学習データの入力データは、例えば既知の複数の放射線源8が、それぞれ単独で存在する場合の16分割された各領域におけるチャネル毎の放射線エネルギースペクトルを、放射線源8毎に合成したデータである。第0学習モデルの機械学習用の学習データの正解データは、既知の複数の放射線源8が、16分割された領域内に同時に存在しているとしてシミュレーションを行って得られた計算データである。第0学習モデルにおいても、第1学習モデル及び第2学習モデルと同様に、3次元的な放射線源分布のデータにも対応できる。
【0087】
また、第0学習モデルは、第1学習モデル及び第2学習モデルと同様に、例えば、入力層、中間層、及び出力層で構成された3層ニューラルネットワークによって表されてもよいし、更に多くの層で表されてもよい。
【0088】
なお、上記では、複数個の放射線源8が分布する場合の計算データを、各領域に1つの放射線源8しか存在していないという状況の下で算出する例について言及したが、放射線源8の位置はこれに限られない。例えば同じ領域に複数の放射線源8が存在してもよく、複数の放射線源8は同種であっても異種であってもよい。また、同じ領域に放射線源8と遮蔽体20が存在している場合の計算データを基礎計算データとして用いることもできる。
【0089】
ここまで説明の便宜上、放射線源分布の推定範囲を16分割した領域の範囲に限定する例について説明してきたが、より広い範囲まで放射線源分布の推定範囲を広げてもよい。この場合、放射線源分布の推定範囲を広くするほど、複数の放射線源8が同時に存在する場合の計算データの算出が複雑になる。この場合、例えば16分割された領域全体を、放射線源8が存在するか否かを表す1つの単位として取り扱ってもよい。そのうえで、第0学習モデルを用いて第2計算放射線エネルギースペクトルを生成すれば、放射線源分布の推定範囲が広くなったとしても、複数の放射線源8が領域に同時に存在するものとして第2計算放射線エネルギースペクトルを計算する場合と比較して、第2計算放射線エネルギースペクトルの計算負荷を低減することができる。
【0090】
上記では、基礎計算データの合成方法として基礎計算データの加算を例示したが、例えば遮蔽体20が含まれる場合や、基礎計算データの強度を補正する場合、及び規格化した基礎計算データを用いる際には、状況に応じて減算や積除等の他の演算手法を用いて基礎計算データを合成すればよいことは言うまでもない。
【0091】
特に放射線源8の種類や数が少ない場合などにおいては、測定又は計算された放射線エネルギースペクトルに代えて、一定期間において得られた放射線エネルギースペクトルの積算値を各学習データ、及び推定処理を行う際の各学習モデルへの入力データとして用いることもできる。
【0092】
本開示は、エネルギースペクトルに代えて、サーベイメーター等で得られる放射線強度を用いての放射線源推定への応用も可能である。
【0093】
本開示の要旨を逸脱しない範囲で実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、当該変更又は改良を加えた形態も開示の技術的範囲に含まれる。
【0094】
例えば本開示の要旨を逸脱しない範囲で、
図5に示した放射線源分布の推定処理に他の処理を付け加えてもよい。
【0095】
上記の実施形態では、一例として、
図5に示した放射線源分布の推定処理をソフトウェア処理で実現する形態について説明した。しかしながら、放射線源分布の推定処理のフローチャートと同等の処理をハードウェアで処理させるようにしてもよい。この場合、放射線源分布の推定処理をソフトウェア処理で実現した場合と比較して処理の高速化が図られる。
【0096】
上記の実施形態において、プロセッサとは広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU11A)や、専用のプロセッサ(例えば GPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、及びプログラマブル論理デバイス等)を含む。
【0097】
また、上記の実施形態におけるプロセッサの動作は、1つのプロセッサによって成すのみでなく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して成すものであってもよい。また、プロセッサの各動作の順序は上記の実施形態において記載した順序のみに限定されるものではなく、適宜変更してもよい。
【0098】
上記の実施形態では、不揮発性メモリ11Bに推定プログラム11Dが記憶されている例について説明した。しかしながら、推定プログラム11Dの記憶先は不揮発性メモリ11Bに限定されない。本開示の推定プログラム11Dは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録された形態で提供することも可能である。
【0099】
例えば推定プログラム11DをCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びブルーレイディスクのような光ディスクに記録した形態で提供してもよい。また、推定プログラム11Dを、USB(Universal Serial Bus)メモリ及びメモリカードのような可搬型の半導体メモリに記録した形態で提供してもよい。不揮発性メモリ11B、CD-ROM、DVD-ROM、ブルーレイディスク、USB、及びメモリカードは非一時的(non-transitory)記憶媒体の一例である。
【0100】
更に、制御部11は通信部12を通じて、通信回線に接続された外部装置4から推定プログラム11Dをダウンロードし、ダウンロードした推定プログラム11Dを制御部11の不揮発性メモリ11Bに記憶してもよい。この場合、制御部11のCPU11Aは、外部装置4からダウンロードした推定プログラム11Dを不揮発性メモリ11Bから読み込んで放射線源分布の推定処理を実行する。
【0101】
以下に本実施形態に係る付記を示す。
【0102】
(付記1)
既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する処理をコンピュータが実行する
放射線源分布の推定方法。
【0103】
(付記2)
前記第2学習データの正解データは、複数種類の放射線源によって構成された既知の放射線源分布を含み、
前記第2学習モデルは前記第1学習モデルの出力から推定した前記複数種類の放射線源の分布を出力する
付記1に記載の放射線源分布の推定方法。
【0104】
(付記3)
前記第2学習データの正解データは、放射線源から放射される放射線を遮蔽する遮蔽体の既知の遮蔽体分布を更に含み、
前記第2学習モデルは、前記第1学習モデルの出力から推定した前記遮蔽体の分布を出力する
付記1又は付記2に記載の放射線源分布の推定方法。
【0105】
(付記4)
放射線源がγ線を放射するものを含み、前記遮蔽体がウランを含む
付記3に記載の放射線源分布の推定方法。
【0106】
(付記5)
既知の放射線源分布に含まれる複数の放射線源がそれぞれ単独で存在するものとしてシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである各々の基礎計算データを合成した合成基礎計算データを入力とし、前記複数の放射線源が同時に存在するものとしてシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルを出力とする学習データを用いて機械学習が行われた第0学習モデルに、前記合成基礎計算データを入力した場合の前記第0学習モデルの出力を、前記第2学習データの入力とする
付記1~付記4の何れか1つに記載の放射線源分布の推定方法。
【0107】
(付記6)
前記第1学習モデルの出力を正規化してから前記第2学習モデルに入力する
付記1~付記5の何れか1つに記載の放射線源分布の推定方法。
【0108】
(付記7)
プロセッサを備え、
前記プロセッサが、既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する
放射線源分布の推定装置。
【0109】
(付記8)
既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力し、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力し、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する処理をコンピュータに実行させるための
放射線源分布の推定プログラム。
【0110】
(付記9)
放射線源分布の推定処理を実行するようにコンピュータによって実行可能なプログラムを記憶した非一時的記憶媒体であって、
前記放射線源分布の推定処理が、
既知の放射線源分布に対して、放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルである測定放射線エネルギースペクトルを入力とし、入力となる前記測定放射線エネルギースペクトルが測定された状況における放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第1計算放射線エネルギースペクトルを出力とする第1学習データを用いて機械学習が行われた第1学習モデルに、未知の放射線源分布の下で放射線検出器を用いて測定した放射線エネルギースペクトルを入力する第1入力ステップと、
既知の放射線源分布からシミュレーションによって生成された放射線エネルギースペクトルである第2計算放射線エネルギースペクトルを入力とし、前記第2計算放射線エネルギースペクトルが得られた状況における放射線源分布を出力とする第2学習データを用いて機械学習が行われた第2学習モデルに、前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第1学習モデルの出力を入力する第2入力ステップと、
前記未知の放射線源分布の下で測定した放射線エネルギースペクトルに対する前記第2学習モデルの出力を、前記未知の放射線源分布の推定値として出力する出力ステップと、
を含む非一時的記憶媒体。
【符号の説明】
【0111】
1 第1学習モデル
2 第2学習モデル
4 外部装置
5 表示装置
6 入力装置
7 ヨウ化ナトリウム(NaI)スペクトロメータ
8 放射線源
9A (セシウム137が配置された)領域
9B (コバルト60が配置された)領域
9C (遮蔽体が配置された)領域
10 推定装置
11 制御部
11A CPU
11B 不揮発性メモリ
11C RAM
11D 推定プログラム
12 通信部
13 表示部
14 受付部
15 I/F部
16 記憶部
17 バス
18 積載面
19 検出面
20 遮蔽体