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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023820
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】スピン変換器
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/20 20230101AFI20250207BHJP
   H01F 10/32 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
H10N50/20
H01F10/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110011
(22)【出願日】2024-07-09
(31)【優先権主張番号】63/530,783
(32)【優先日】2023-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/538,711
(32)【優先日】2023-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
【テーマコード(参考)】
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
5E049AA10
5E049BA14
5E049GC01
5F092AA20
5F092AB10
5F092AC26
5F092BC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】小型化可能で、電流又は電圧の強度を変更できる、スピン変換器を提供する。
【解決手段】スピン変換器100は、第1スピン軌道トルク配線層10と、第2スピン軌道トルク配線層20と、第1スピン波伝搬層と、を備える。第1スピン波伝搬層は、第1スピン軌道トルク配線層と第2スピン軌道トルク配線層との間にある。第1スピン軌道トルク配線層のX方向の第1端の第1端子41と第2端の第2端子42の間に電流又は電圧を印加し、第2スピン軌道トルク配線層の第3端の第3端子43と第4端の第4端子44との間の電流又は電圧を出力する。第3端と第4端は、X方向と直交するY方向において、第2スピン軌道トルク配線層の異なる位置にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スピン軌道トルク配線層と、第2スピン軌道トルク配線層と、第1スピン波伝搬層と、を備え、
前記第1スピン波伝搬層は、前記第1スピン軌道トルク配線層と前記第2スピン軌道トルク配線層との間にあり、
前記第1スピン軌道トルク配線層の第1方向の第1端と第2端の間に電流又は電圧を印加し、前記第2スピン軌道トルク配線層の第3端と第4端との間の電流又は電圧を出力できるように構成され、
前記第3端と前記第4端は、前記第1方向と直交する第2方向において、前記第2スピン軌道トルク配線層の異なる位置にある、スピン変換器。
【請求項2】
前記第1スピン波伝搬層は、磁性絶縁体である、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項3】
前記第1スピン軌道トルク配線層は、前記第1方向の長さが前記第2方向の長さより長く、
前記第2スピン軌道トルク配線層の前記第2方向の長さは、前記第1スピン軌道トルク配線層の前記第2方向の長さより長い、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項4】
前記第1スピン軌道トルク配線層は、前記第1方向の長さが前記第2方向の長さより長く、
前記第2スピン軌道トルク配線層は、前記第1方向の長さが前記第2方向の長さより長い、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項5】
前記第3端と前記第4端との間に流れる第2電流は、前記第1端と前記第2端との間に流れる第1電流より大きい、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項6】
前記第3端と前記第4端との間の第2電位差は、前記第1端と前記第2端との間の第1電位差より大きい、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項7】
電源をさらに備え、
前記電源は、前記第1端と前記第2端との間に電流又は電圧を印加する、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項8】
第1端子と第2端子と第3端子と第4端子とをさらに備え、
前記第1端子は、前記第1端に接続され、
前記第2端子は、前記第2端に接続され、
前記第3端子は、前記第3端に接続され、
前記第4端子は、前記第4端に接続されている、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項9】
積層方向から見て、前記第1スピン軌道トルク配線層と前記第2スピン軌道トルク配線層とが重なる重畳面は、(a/b)×r>1を満たし、
aは、前記重畳面の前記第1方向の長さであり、
bは、前記重畳面の前記第2方向の長さであり、
rは、r=B/Aを満たし、
Aは、前記第1スピン軌道トルク配線層の電流密度であり、
Bは、前記第2スピン軌道トルク配線層の電流密度である、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項10】
第3スピン軌道トルク配線層と、第2スピン波伝搬層と、をさらに備え、
前記第2スピン波伝搬層は、前記第2スピン軌道トルク配線層と前記第3スピン軌道トルク配線層との間にあり、
前記第3スピン軌道トルク配線層の前記第1方向の第5端と第6端の間に電流又は電圧を印加できるように構成され、
前記第5端は、前記第1端と積層方向に対向する位置にあり、
前記第1端と前記第2端との間に流れる第1電流と、前記第5端と前記第6端との間に流れる第3電流とは、流れ方向が反対である、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項11】
第3スピン軌道トルク配線層と、第2スピン波伝搬層と、接続配線と、をさらに備え、
前記第2スピン波伝搬層は、前記第2スピン軌道トルク配線層と前記第3スピン軌道トルク配線層との間にあり、
前記第3スピン軌道トルク配線層の前記第1方向の第5端と第6端の間に電流又は電圧を印加できるように構成され、
前記第5端は、前記第1端と積層方向に対向する位置にあり、
前記第1端と前記第5端は、接続配線で直接接続されている、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項12】
第3スピン軌道トルク配線層と、第2スピン波伝搬層と、をさらに備え、
前記第2スピン波伝搬層は、前記第2スピン軌道トルク配線層と前記第3スピン軌道トルク配線層との間にあり、
第1スピン波伝搬層と第2スピン波伝搬層とは、同じ材料からなる、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項13】
前記第1スピン波伝搬層の厚さは、6nm以上である、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項14】
前記第1スピン波伝搬層の厚さは、スピン伝導長以下である、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項15】
前記第1スピン波伝搬層は、強磁性体、フェリ磁性体、反強磁性体のいずれかである、請求項1に記載のスピン変換器。
【請求項16】
前記第1スピン軌道トルク配線層と、前記第2スピン軌道トルク配線層と、のうちいずれか一方は、トポロジカル絶縁体である、請求項1に記載のスピン変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピン変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電流や電圧の強度を変化させる変圧器は、様々な電子機器に用いられる主要な電子部品の一つである。例えば、特許文献1には、コイルを用いた変圧器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-018317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルの大きさとインダクタンスの強度とはトレードオフの関係にあり、小型のコイルで大きなインダクタンスを実現することは難しい。そのため、コイルを用いた変圧器は、小型化に限界がある。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、小型化可能で、電流又は電圧の強度を変更できる、スピン変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0007】
第1の態様に係るスピン変換器は、第1スピン軌道トルク配線層と、第2スピン軌道トルク配線層と、第1スピン波伝搬層と、を備える。前記第1スピン波伝搬層は、前記第1スピン軌道トルク配線層と前記第2スピン軌道トルク配線層との間にある。前記第1スピン軌道トルク配線層の第1方向の第1端と第2端の間に電流又は電圧を印加し、前記第2スピン軌道トルク配線層の第3端と第4反との間の電流又は電圧を出力できるように構成されている。前記第3端と前記第4端は、前記第1方向と直交する第2方向において、前記第2スピン軌道トルク配線層の異なる位置にある。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるスピン変換器は、小型化可能で、電流又は電圧の強度を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るスピン変換器の平面図である。
図2】第1実施形態に係るスピン変換器の第1の断面図である。
図3】第1実施形態に係るスピン変換器の第2の断面図である。
図4】第1実施形態に係るスピン変換器の機能を説明するための図である。
図5】第1実施形態に係るスピン変換器の用途の一例の模式図である。
図6】第1実施形態に係るスピン変換器の第1変形例の平面図である。
図7】第1実施形態に係るスピン変換器の第2変形例の平面図である。
図8】第1実施形態に係るスピン変換器の第3変形例の平面図である。
図9】第2実施形態に係るスピン変換器の平面図である。
図10】第2実施形態に係るスピン変換器の第1の断面図である。
図11】第2実施形態に係るスピン変換器の第2の断面図である。
図12】第2実施形態に係るスピン変換器の機能を説明するための図である。
図13】第2実施形態に係るスピン変換器の第1変形例の平面図である。
図14】第2実施形態に係るスピン変換器の第1変形例の第1の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本開示はそれらに限定されるものではなく、本開示の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0011】
まず方向について定義する。各層が広がる面の一方向をX方向、X方向に対して直交する方向をY方向とする。例えば、第1スピン軌道トルク配線層の第1端e1と第2端e2とを繋ぐ第1方向をX方向とする。第1方向と直交する第2方向を例えばY方向とする。また各層の厚み方向をZ方向とする。X方向及びY方向に対して、Z方向は直交する。
【0012】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態に係るスピン変換器100をZ方向から見た平面図である。図2は、第1実施形態に係るスピン変換器のY方向の中心を通るXZ断面図である。図3は、第1実施形態に係るスピン変換器のX方向の中心を通るYZ断面図である。
【0013】
スピン変換器100は、入力信号と異なる出力信号を生み出す信号変換器である。例えば、スピン変換器100は、電流を電圧に変換する電流電圧変換器、電圧を電流に変換する電圧電流変換器、電流又は電圧の強度を変える変流器又は変圧器として機能する。
【0014】
スピン変換器100は、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20と第1スピン波伝搬層30とを備える。スピン変換器100は、第1端子41、第2端子42、第3端子43、第4端子44、電源50をさらに有してもよい。またスピン変換器100の周囲は、絶縁層90で覆われていてもよい。
【0015】
第1端子41は、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1に接続されている。第2端子42は、第1スピン軌道トルク配線層10の第2端e2に接続されている。第1端子41及び第2端子42は、スピン変換器100への信号の書き込み端子である。第1端子41及び第2端子42は、導体である。例えば、第1端子41は電源50に接続され、第2端子42はグラウンドに接続されている。電源50は、第2端子42に接続されてもよい。電源50及びグラウンドと第1スピン軌道トルク配線層10とが直接接する場合、第1端子41、第2端子42は無くてもよい。
【0016】
第3端子43は、第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3に接続されている。第1端e3は、第3端の一例である。第4端子44は、第2スピン軌道トルク配線層20の第2端e4に接続されている。第2端e4は、第4端の一例である。第3端子43及び第4端子44は、スピン変換器100からの信号の読み出し端子である。第3端子43及び第4端子44は、導体である。例えば、第3端子43及び第4端子44は、他の素子に接続されている。第3端子43、第4端子44は無くてもよい。
【0017】
電源50は、第1スピン軌道トルク配線層10に接続されている。電源50は、例えば、電圧源又は電流源である。電源50は、第1端e1と第2端e2との間に電流又は電圧を印加できるように構成されている。例えば、電源50が電圧源の場合、電源50は、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1と第2端e2との間に電位差を生み出す。例えば、電源50が電流源の場合、電源50は、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1と第2端e2との間に電流を流す。
【0018】
絶縁層90は、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)等である。
【0019】
第1スピン軌道トルク配線層10は、スピン変換器100への信号の書き込み配線である。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の第1端e1と第2端e2との間には、電流又は電圧が印加される。
【0020】
第1スピン軌道トルク配線層10は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。
【0021】
第1スピン軌道トルク配線層10は、例えば、主成分として非磁性の重金属を含む。重金属は、イットリウム(Y)以上の比重を有する金属を意味する。非磁性の重金属は、例えば、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属である。第1スピン軌道トルク配線層10は、例えば、Hf、Ta、W、Tiからなる。非磁性の重金属は、その他の金属よりスピン軌道相互作用が強く生じる。スピンホール効果はスピン軌道相互作用により生じる。スピンホール効果によって第1スピン軌道トルク配線層10内でスピンが偏在すると、スピン流Jが発生しやすくなる。
【0022】
第1スピン軌道トルク配線層10は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属は、強磁性金属又は反強磁性金属である。非磁性体に含まれる微量な磁性金属は、スピンの散乱因子となる。微量とは、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10を構成する元素の総モル比の3%以下である。スピンが磁性金属により散乱するとスピン軌道相互作用が増強され、電流に対するスピン流の生成効率が高くなる。
【0023】
第1スピン軌道トルク配線層10は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。トポロジカル絶縁体は、物質内部が絶縁体又は高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。トポロジカル絶縁体は、スピン軌道相互作用により内部磁場が生じる。トポロジカル絶縁体は、外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。トポロジカル絶縁体は、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成できる。またトポロジカル絶縁体は、表面にのみ電流が流れるため、少ない電流量で高い電流密度を実現できる。
【0024】
トポロジカル絶縁体は、例えば、Sn、SnTe、Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3、TlBiSe、BiTe、Bi1-xSb、(Bi1-xSbTe、(Nd,Pr)Irなどである。トポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0025】
第1スピン軌道トルク配線層10は、例えば、X方向の長さL1がY方向の長さL2より長い。スピン流は、第1スピン軌道トルク配線層10を流れる電子が散乱することで生じる。X方向は、第1スピン軌道トルク配線層10において、電子の流れ方向である。X方向の長さL1が長いと、第1端e1から第2端e2に至るまでに、電子が散乱される回数が多くなる。電子の散乱回数が増えると、第1スピン軌道トルク配線層10でのスピン流の発生効率が高まる。
【0026】
第2スピン軌道トルク配線層20は、スピン変換器100からの信号の読み出し配線である。第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3と第2端e4との間の電流又は電圧を、スピン変換器100は、出力する。
【0027】
第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3と第2端e4とは、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1と第2端e2と、Y方向において、異なる位置にある。例えば、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1と第2端e2とを最短距離で繋ぐ直線は、第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3と第2端e4とを最短距離で繋ぐ直線と交差する。第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3と第2端e4とを最短距離で繋ぐ直線は、Y方向に対して傾いていてもよい。
【0028】
第2スピン軌道トルク配線層20の少なくとも一部は、第1スピン波伝搬層30を挟んで、第1スピン軌道トルク配線層10と対向する。
【0029】
第2スピン軌道トルク配線層20は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。第2スピン軌道トルク配線層20には、第1スピン軌道トルク配線層10と同様の材料を用いることができる。第2スピン軌道トルク配線層20は、第1スピン軌道トルク配線層10と同じ材料からなってもよいし、異なる材料からなってもよい。第2スピン軌道トルク配線層20は、トポロジカル絶縁体であることが好ましい。
【0030】
第2スピン軌道トルク配線層20は、例えば、X方向の長さL3がY方向の長さL4より長い。X方向の長さL3がY方向の長さL4より長いと、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗が小さくなる。Y方向に流れる電流にとっての流路が広がるためである。第1端e3と第2端e4との間の電位差が一定の場合、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗が低い方が、第1端e3と第2端e4の間を流れる電流量は大きくなる。すなわち、スピン変換器100において、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3がY方向の長さL4より長いと、スピン変換器100から出力される出力電流が大きくなる。
【0031】
第2スピン軌道トルク配線層20のZ方向の厚さt20は、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10のZ方向の厚さt10より厚い。第1スピン軌道トルク配線層10は、厚さt10が薄いほど高効率でスピン流を生み出すことができる。また第2スピン軌道トルク配線層20のZ方向の厚さt20は厚いほど、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗を小さくできる。Y方向に流れる電流にとっての流路が広がるためである。スピン変換器100がこの構成を満たすと、スピン変換器100から出力される出力電流が大きくなる。
【0032】
第2スピン軌道トルク配線層20は、Z方向から見て、第1スピン軌道トルク配線層10と重なる。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とが重なる重畳面は、(a/b)×r>1を満たすことが好ましい。ここで、aは、重畳面のX方向の長さであり、bは、重畳面のY方向の長さであり、rは、r=B/Aを満たし、Aは、第1スピン軌道トルク配線層10の電流密度であり、Bは、第2スピン軌道トルク配線層20の電流密度である。この関係を満たすと、スピン変換器100に入力された電流又は電圧を増幅して出力することができる。
【0033】
第1スピン波伝搬層30は、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とに挟まれる。第1スピン波伝搬層30は、第1スピン軌道トルク配線層10から注入されたスピンを、スピン波として伝搬し、第2スピン軌道トルク配線層20へ伝える。
【0034】
第1スピン波伝搬層30は、例えば、磁性絶縁体である。第1スピン波伝搬層30が磁性体を含むことで、スピン波を伝搬できる。また第1スピン波伝搬層30が絶縁性を有することで、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とを電気的に分離できる。第1スピン波伝搬層30は、強磁性体、フェリ磁性体、反強磁性体のいずれでもよい。
【0035】
第1スピン波伝搬層30の厚さは、スピン伝導長以下であることが好ましい。スピン伝導長は、導電材料におけるスピン拡散長に対応する長さであり、入力したスピンが半減するまでの距離である。第1スピン波伝搬層30の厚さがスピン伝導長以下であれば、第1スピン波伝搬層30におけるスピンの減衰率を3割以下とすることができる。第1スピン波伝搬層30の厚さは、例えば、6nm以上である。
【0036】
スピン変換器100は、各層の積層工程と、各層の加工工程とを繰り返すことで作製できる。各層の積層工程は、例えば、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD法)、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工工程は、例えば、フォトリソグラフィー等を用いて行うことができる。
【0037】
次いで、スピン変換器100の機能を説明する。図4は、スピン変換器100の機能を説明するための模式図である。
【0038】
スピン変換器100は、第1端子41と第2端子42との間に入力された信号を変換し、第3端子43と第4端子44との間から出力信号として出力する素子である。
【0039】
まず電源50を用いて第1端子41と第2端子42との間に電位差を与える。これがスピン変換器100への入力信号となる。第1端子41と第2端子42との間に電位差が生じると、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に電流I1が流れる。
【0040】
第1スピン軌道トルク配線層10を流れる電流I1は、スピンホール効果によってスピン流を発生させる。
【0041】
スピンホール効果は、電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の流れる方向と直交する方向(例えば、z方向)にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果は、運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で、通常のホール効果と共通する。通常のホール効果は、磁場中で運動する荷電粒子の運動方向がローレンツ力によって曲げられる。これに対し、スピンホール効果は磁場が存在しなくても、電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)でスピンの移動方向が曲げられる。
【0042】
例えば、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に電流が流れると、例えば、-y方向に偏極したスピンは進行方向に対して-Z方向に曲げられ、+y方向に偏極したスピンS1は進行方向に対して+Z方向に曲げられる。
【0043】
スピンS1は、第1スピン軌道トルク配線層10に近接する第1スピン波伝搬層30に注入される。第1スピン波伝搬層30内の磁化は、第1スピン波伝搬層30に注入されるスピンS1によって歳差運動をする。磁化の歳差運動は、スピン波SW1となって、第1スピン波伝搬層30内を伝搬する。
【0044】
第1スピン波伝搬層30と第2スピン軌道トルク配線層20との間には、スピン波SW1として伝搬したスピンが蓄積される。第2スピン軌道トルク配線層20内のスピン状態が不均一になると、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向に電流I2が生じる。これは、第1スピン軌道トルク配線層10において、電流I1がスピン流を生み出す現象を逆転させた現象であり、スピンが電流I2を生み出す。
【0045】
電流I2は、第3端子43と第4端子44との間に生じる。つまりスピン変換器100は、電流I1を電流I2に変換している。また第1スピン軌道トルク配線層10の抵抗が十分高い場合は、電流I1は電位差として表すことができる。この場合、スピン変換器100は、電圧を電流I2に変換する。また第2スピン軌道トルク配線層20の抵抗が十分高い場合は、電流I2は電位差として表すことができる。この場合、スピン変換器100は、電流I1を電圧に変換する。
【0046】
第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3と第2端e4との間に流れる電流I2は、第1端e1と第2端e2との間に流れる電流I1より大きくすることができる。例えば、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の電流の流路を広くしたり、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の電流の流路を狭くすることで、電流I2を電流I1より大きくできる。
【0047】
また第2スピン軌道トルク配線層20の第1端e3と第2端e4との間の第2電位差は、第1端e1と第2端e2との間の第1電位差より大きくすることができる。例えば、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の電流の流路を狭くしたり、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さを長くしたりすることで、第2電位差を第1電位差より大きくできる。
【0048】
第1実施形態に係るスピン変換器100は、新たな仕組みで、入力信号を出力信号に変換する。また第1実施形態に係るスピン変換器100は、電流とスピンとの間のエネルギー変換を利用するため、コイルの巻き数等の制限がなく、小型化しやすい。
【0049】
本実施形態に係るスピン変換器100は、例えば、量子コンピュータに適用できる。図5は、本実施形態に係るスピン変換器100を適用した量子コンピュータの模式図である。量子コンピュータ200は、例えば、量子プロセッサ201と、スピン変換器100と、非可逆回路素子202と、フィルター203,204,205と、増幅器206と、を有する。
【0050】
量子プロセッサ201は、量子計算を行う。非可逆回路素子202は、量子プロセッサ201からの量子ビットの読み出し信号を配送する。非可逆回路素子202は、例えば、サーキュレータである。スピン変換器100は、入力信号を出力信号に変換する。フィルター203,204,205は、例えば、伝搬する信号の周波数を制限する。増幅器206は、読み出し信号を増幅する。
【0051】
例えば、超電導量子コンピュータは、極低温で動作する。そのため、量子プロセッサ201の近傍にあるスピン変換器100も極低温環境下に曝される位置に配置される。大きな容積の空間を極低温環境で維持することは難しく、スピン変換器100の小型化が求められる。本実施形態に係るスピン変換器100は、小型化しやすく、量子コンピュータに電子部品を集積することへの適用に適している。
【0052】
ここまで、第1実施形態の一例を示したが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではなく、様々な変形例が可能である。
【0053】
図6は、第1実施形態の第1変形例に係るスピン変換器101の平面図である。図6に示すように、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3’はY方向の長さL4’より短くてもよい。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4’が長いと、第3端子43と第4端子44との間の第2スピン軌道トルク配線層20の抵抗が大きくなる。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3’が短いと、電流の流路が狭くなり、第3端子43と第4端子44との間の第2スピン軌道トルク配線層20の抵抗が大きくなる。すなわち、スピン変換器100において、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4’をX方向の長さL3’より長くすることで、スピン変換器100から出力される出力電圧を大きくできる。
【0054】
図7は、第2変形例に係るスピン変換器102の平面図である。図7に示すように、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1’はY方向の長さL2’より短くてもよい。第1スピン軌道トルク配線層10は、抵抗が高い場合が多い。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1’を短くすることで、スピン変換器102の素子抵抗を小さくすることができる。
【0055】
また第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3は、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1’より長くてもよい。スピン変換器100から出力される出力電流を大きくする場合、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3は長い方が好ましい。
【0056】
なお、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3及びY方向の長さL4は、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1及びY方向の長さL2と無関係に、任意に設定できる。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とは、形成されるレイヤーが異なるためである。
【0057】
図8は、第3変形例に係るスピン変換器103の平面図である。図8に示すように、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4’’は、第1スピン軌道トルク配線層10のY方向の長さL2’’より短くてもよい。スピン変換器100から出力される出力電流を大きくする場合、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4’’は短い方が好ましい。
【0058】
ここまでいくつかの変形例を提示したが、第1実施形態に係るスピン変換器は、これらの例に限られるものではない。スピン変換器に求められる機能に応じて、形状を自由に設計できる。
【0059】
例えば、スピン変換器100から出力される出力電流を大きくする場合、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3は長い方が好ましく、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4は短い方が好ましい。例えば、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3を第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1より長くしてもよい。また第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4を第1スピン軌道トルク配線層10のY方向の長さL2より短くしてもよい。
【0060】
また例えば、スピン変換器100から出力される出力電圧を大きくする場合、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3は短い方が好ましく、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4は長い方が好ましい。例えば、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3を第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1より短くしてもよい。また第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4を第1スピン軌道トルク配線層10のY方向の長さL2より長くしてもよい。
【0061】
「第2実施形態」
図9は、第2実施形態に係るスピン変換器110をZ方向から見た平面図である。図10は、第2実施形態に係るスピン変換器110のY方向の中心を通るXZ断面図である。図11は、第2実施形態に係るスピン変換器110のX方向の中心を通るYZ断面図である。
【0062】
スピン変換器110は、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20と第3スピン軌道トルク配線層60と第1スピン波伝搬層30と第2スピン波伝搬層70とを備える。スピン変換器100は、第1端子41、第2端子42、第3端子43、第4端子44、第5端子45、第6端子46、電源50、電源51をさらに有してもよい。スピン変換器110において、スピン変換器100と同様の構成には同様の符号を付し、説明を省く。
【0063】
第5端子45は、第3スピン軌道トルク配線層60の第1端e5に接続されている。第6端子46は、第3スピン軌道トルク配線層60の第2端e6に接続されている。第5端子45及び第6端子46は、スピン変換器110への信号の書き込み端子である。第5端子45及び第6端子46は、導体である。例えば、第5端子45は電源51に接続され、第6端子46はグラウンドに接続されている。電源51は、第6端子46に接続されてもよい。電源51及びグラウンドと第3スピン軌道トルク配線層60とが直接接する場合、第5端子45、第6端子46は無くてもよい。
【0064】
電源51は、第3スピン軌道トルク配線層60に接続されている。電源51は、例えば、電圧源又は電流源である。電源51は、第1端e5と第2端e6との間に電流又は電圧を印加できるように構成されている。例えば、電源51が電圧源の場合、電源51は、第3スピン軌道トルク配線層60の第1端e5と第2端e6との間に電位差を生み出す。例えば、電源51が電流源の場合、電源51は、第3スピン軌道トルク配線層60の第1端e5と第2端e6との間に電流を流す。
【0065】
第3スピン軌道トルク配線層60の少なくとも一部は、第2スピン波伝搬層70を挟んで、第2スピン軌道トルク配線層20と対向する。第3スピン軌道トルク配線層60は、Z方向に第1スピン軌道トルク配線層10と重なる位置にある。第3スピン軌道トルク配線層60の第1端e5は、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1とZ方向に対向する位置にある。
【0066】
第3スピン軌道トルク配線層60は、第1スピン軌道トルク配線層10と共に、スピン変換器100への信号の書き込み配線である。第3スピン軌道トルク配線層60のX方向の第1端e5と第2端e6との間には、電流又は電圧が印加される。第3スピン軌道トルク配線層60には、第1スピン軌道トルク配線層10と同様の材料を用いることができる。第3スピン軌道トルク配線層60は、第1スピン軌道トルク配線層10及び第2スピン軌道トルク配線層20と同じ材料からなってもよいし、異なる材料からなってもよい。第3スピン軌道トルク配線層60は、トポロジカル絶縁体であることが好ましい。
【0067】
第3スピン軌道トルク配線層60は、例えば、X方向の長さL5がY方向の長さL6より長い。第3スピン軌道トルク配線層60で生じるスピン流は、第3スピン軌道トルク配線層60を流れる電子が散乱することで生じる。X方向の長さL5が長いと、第1端e5から第2端e6に至るまでに、電子が散乱される回数が多くなる。電子の散乱回数が増えると、第3スピン軌道トルク配線層60でのスピン流の発生効率が高まる。
【0068】
また第3スピン軌道トルク配線層60は、例えば、X方向の長さL5がY方向の長さL6より短くてもよい。この場合、スピン変換器110の素子抵抗を下げることができる。
【0069】
また第3スピン軌道トルク配線層60のX方向の長さL5は、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3より長くてもよいし、短くてもよい。同様に、第3スピン軌道トルク配線層60のY方向の長さL6は、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の長さL4より長くてもよいし、短くてもよい。
【0070】
第3スピン軌道トルク配線層60のZ方向の厚さt60は、例えば、第2スピン軌道トルク配線層20のZ方向の厚さt20より薄い。第3スピン軌道トルク配線層60は、厚さt60が薄いほど高効率でスピン流を生み出すことができる。また第2スピン軌道トルク配線層20のZ方向の厚さt20は厚いほど、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗を小さくできる。スピン変換器110がこの構成を満たすと、スピン変換器110から出力される出力電流が大きくなる。
【0071】
第2スピン波伝搬層70は、第3スピン軌道トルク配線層60と第2スピン軌道トルク配線層20とに挟まれる。第2スピン波伝搬層70は、第3スピン軌道トルク配線層60から注入されたスピンを、スピン波として伝搬し、第2スピン軌道トルク配線層20へ伝える。
【0072】
第2スピン波伝搬層70は、例えば、磁性絶縁体である。第2スピン波伝搬層70が磁性体を含むことで、スピン波を伝搬できる。また第2スピン波伝搬層70が絶縁性を有することで、第3スピン軌道トルク配線層60と第2スピン軌道トルク配線層20とを電気的に分離できる。第2スピン波伝搬層70は、強磁性体、フェリ磁性体、反強磁性体のいずれでもよい。
【0073】
第2スピン波伝搬層70は、第1スピン波伝搬層30と同じ材料からなることが好ましい。第2スピン波伝搬層70と第1スピン波伝搬層30との共鳴周波数が一致すると、第2スピン軌道トルク配線層20にスピンが注入されるタイミングが合い、第2スピン軌道トルク配線層20におけるスピンから電流への変換効率が高まる。
【0074】
第2スピン波伝搬層70の厚さは、スピン伝導長以下であることが好ましい。第2スピン波伝搬層70の厚さは、例えば、6nm以上である。
【0075】
スピン変換器110は、各層の積層工程と、各層の加工工程とを繰り返すことで作製できる。各層の積層工程、各層の加工工程は、第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
【0076】
次いで、スピン変換器110の機能を説明する。図12は、スピン変換器110の機能を説明するための模式図である。
【0077】
スピン変換器110は、第1端子41と第2端子42との間、及び、第5端子45と第6端子46との間に入力された信号を変換し、第3端子43と第4端子44との間から出力信号として出力する素子である。
【0078】
まず電源50を用いて第1端子41と第2端子42との間に電位差を与える。同様に、電源51を用いて第5端子45と第6端子46との間に電位差を与える。これらがスピン変換器110への入力信号となる。
【0079】
第1端子41と第2端子42との間に電位差に応じて、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に電流I1が流れる。第5端子45と第6端子46との間に電位差に応じて、第3スピン軌道トルク配線層60のX方向に電流I3が流れる。ここで、電流I1と電流I3とは流れ方向が逆向きとなるように設定する。例えば、第1端子41の電位を第2端子42の電位より高くした場合は、第5端子45の電位を第6端子46の電位より低くする。この逆で、第1端子41の電位を第2端子42の電位より低くした場合は、第5端子45の電位を第6端子46の電位より高くしてもよい。
【0080】
第1スピン軌道トルク配線層10を流れる電流I1は、スピンホール効果によってスピン流を発生させる。スピンS1は、第1スピン軌道トルク配線層10に近接する第1スピン波伝搬層30に注入される。第1スピン波伝搬層30に注入されたスピンS1は、スピン波SW1となって、第1スピン波伝搬層30内を伝搬する。
【0081】
同様に、第3スピン軌道トルク配線層60を流れる電流I3は、スピンホール効果によってスピン流を発生させる。電流I3によって生じたスピンS2は、第3スピン軌道トルク配線層60に近接する第2スピン波伝搬層70に注入される。第2スピン波伝搬層70に注入されたスピンS2は、スピン波SW2となって、第2スピン波伝搬層70内を伝搬する。ここで、電流I1によって生じるスピンS1と、電流I3によって生じるスピンS3とは、同じ向きのスピンである。
【0082】
第1スピン波伝搬層30と第2スピン軌道トルク配線層20との間には、スピン波SW1として伝搬したスピンが蓄積される。第2スピン波伝搬層70と第2スピン軌道トルク配線層20との間には、スピン波SW2として伝搬したスピンが蓄積される。第2スピン軌道トルク配線層20の上下の面からスピンが注入されると、第2スピン軌道トルク配線層20内のスピン状態が不均一になる。そして、このスピン状態の不均一に起因して、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向に電流I2’が生じる。
【0083】
電流I2’は、第3端子43と第4端子44との間に生じる。つまりスピン変換器110は、電流I1及び電流I3を電流I2’に変換している。また第1スピン軌道トルク配線層10、第2スピン軌道トルク配線層20及び第3スピン軌道トルク配線層60の抵抗が高い場合は、スピン変換器110の入出力信号を電圧にすることができる。
【0084】
第2実施形態に係るスピン変換器110は、新たな仕組みで、入力信号を出力信号に変換する。また第2実施形態に係るスピン変換器110は、電流とスピンとの間のエネルギー変換を利用するため、コイルの巻き数等の制限がなく、小型化しやすい。また第2実施形態に係るスピン変換器110は、第2スピン軌道トルク配線層20の上下面からスピンが注入されるため、スピンから電流へのスピン-電流変換効率が高い。
【0085】
ここまで、第2実施形態の一例を示したが、本開示はこれらの実施形態に限られるものではなく、様々な変形例が可能である。例えば、第2実施形態に係るスピン変換器110に、第1実施形態に係るスピン変換器100の変形例を適用できる。
【0086】
図13は、第2実施形態の第1変形例に係るスピン変換器111の平面図である。図14は、第2実施形態の第1変形例に係るスピン変換器111のXZ断面図である。スピン変換器111において、スピン変換器110と同様の構成には同様の符号を付し、説明を省く。
【0087】
スピン変換器111は、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20と第3スピン軌道トルク配線層60と第1スピン波伝搬層30と第2スピン波伝搬層70と接続配線80とを有する。スピン変換器111は、第5端子45と第6端子46とに変えて、接続配線80が設けられている。またスピン変換器111は、電源50、電源51に変えて、電源52が設けられている。
【0088】
接続配線80は、導体である。接続配線80は、例えば、第1スピン軌道トルク配線層10の第1端e1と第3スピン軌道トルク配線層60の第1端e5とを繋ぐ。電源52は、第6端子46に接続され、第2端子42はグラウンドに接続されている。電源52は、第1スピン軌道トルク配線層10及び第3スピン軌道トルク配線層60に電流又は電圧を印加できるように構成されている。
【0089】
電源52を用いて第6端子46と第2端子42との間に電位差を印加すると、第3スピン軌道トルク配線層60及び第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に電流が流れる。第3スピン軌道トルク配線層60を流れる電流の向きと第1スピン軌道トルク配線層10を流れる電流の向きとは反対である。すなわち、第1変形例に係るスピン変換器111は、一つの電源52で、スピン変換器110と同様の機能を示す。
【0090】
第1変形例に係るスピン変換器111は、スピン変換器110と同様の効果を奏する。またスピン変換器111は、構成要素が少なく、より小型化しやすい。
【0091】
以上のように、上述の実施形態に係るスピン変換器は、電流を電圧に変換する電流電圧変換器、電圧を電流に変換する電圧電流変換器、電流又は電圧の強度を変える変流器又は変圧器として機能する。以下、具体的な構造を規定した場合の、具体的なスピン変換器の変換効率を求めた。
【0092】
「第1実施例」
第1実施例では、図1に示す素子構造のスピン変換器を想定した。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=100:1とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=100:1とした。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とは同じ材料からなるとし、それぞれのスピンと電流の変換効率を10%と仮定した。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は1kΩとし、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は0.1Ωとした。第1端e1と第2端e2との間に1Vの電圧を印加した。第1端e1と第2端e2との間には、1mAの電流が流れる。この際、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、1Aの電流が流れる。つまり、第1実施例に係るスピン変換器は、1mAの電流を1Aに増幅しており、電流増幅率は1000倍であった。
【0093】
「第2実施例」
第2実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20のそれぞれのスピンと電流の変換効率を1%と仮定した点が第1実施例と異なる。第2実施例のその他の条件は、第1実施例と同じとした。第2実施例では、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.01Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、1mAの電流が流れる。つまり、第2実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は1倍であった。
【0094】
「第3実施例」
第3実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20のそれぞれのスピンと電流の変換効率を100%と仮定した点が第1実施例と異なる。第3実施例のその他の条件は、第1実施例と同じとした。第3実施例では、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、10Aの電流が流れる。つまり、第3実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は10000倍であった。
【0095】
「第4実施例」
第4実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20の形状を変更した点が第1実施例と異なる。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=1000:1とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=1000:1とした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は10kΩとなり、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は0.01Ωとなる。第4実施例のその他の条件は、第1実施例と同じとした。第4実施例では、第1端e1と第2端e2との間に、0.1mAの電流が流れる。第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、10Aの電流が流れる。つまり、第4実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は10000倍であった。
【0096】
「第5実施例」
第5実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20の形状を変更した点が第1実施例と異なる。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=20:1とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=20:1とした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は1kΩであり、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は2.5Ωである。第5実施例のその他の条件は、第1実施例と同じとした。第5実施例では、第1端e1と第2端e2との間に、1mAの電流が流れる。第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、40Aの電流が流れる。つまり、第5実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は40倍であった。
【0097】
「第6実施例」
第6実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20のそれぞれのスピンと電流の変換効率を1%と仮定した点が第5実施例と異なる。第6実施例のその他の条件は、第5実施例と同じとした。第6実施例では、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.01Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、4mAの電流が流れる。つまり、第6実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は4倍であった。
【0098】
「第7実施例」
第7実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20の形状を変更した点が第6実施例と異なる。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=10:1とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=10:1とした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は1kΩとなり、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は10Ωとなる。第7実施例のその他の条件は、第6実施例と同じとした。第7実施例では、第1端e1と第2端e2との間に、1mAの電流が流れる。第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.01Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、1Aの電流が流れる。つまり、第7実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は1倍であった。
【0099】
「第8実施例」
第8実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20の形状を変更した点が第1実施例と異なる。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=1:100とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=1:100とした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は0.1Ωとなり、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は1kΩとなる。第8実施例のその他の条件は、第1実施例と同じとした。第8実施例では、第1端e1と第2端e2との間に、10Aの電流が流れる。第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、0.1mAの電流が流れる。つまり、第8実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は1/10000倍であった。
【0100】
「第9実施例」
第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さを100μm、Y方向の長さを1μm、Z方向の厚さを1nm、材料をTaとして、抵抗率を12mΩcmとした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は、2400Ωである。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に1Vの電圧を印加すると、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に0.417mAの電流が流れる。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さを1μm、Y方向の長さを100μm、Z方向の厚さを1nmとした。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とは同じ材料からなるとし、それぞれのスピンと電流の変換効率を10%と仮定した。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は、0.24Ωである。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向には、0.1Vの電位差が生じ、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向に417mAの電流が流れる。第9実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は1000倍であった。
【0101】
「第10実施例」
第10実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20のそれぞれのスピンと電流の変換効率を1%と仮定した点が第9実施例と異なる。第10実施例のその他の条件は、第9実施例と同じとした。第9実施例では、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.01Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、41.7mAの電流が流れる。つまり、第10実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は100倍であった。
【0102】
「第11実施例」
第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さを100μm、Y方向の長さを1μm、Z方向の厚さを5nm、材料をTaとして、抵抗率を12mΩcmとした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は、2400Ωである。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に1Vの電圧を印加すると、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に0.417mAの電流が流れる。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さを1μm、Y方向の長さを100μm、Z方向の厚さを5nmとした。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とは同じ材料からなるとし、それぞれのスピンと電流の変換効率を10%と仮定した。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は、0.24Ωである。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向には、0.001Vの電位差が生じ、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向に4.17mAの電流が流れる。第11実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は10倍であった。
【0103】
「第12実施例」
第12実施例では、第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20のそれぞれのスピンと電流の変換効率を1%と仮定した点が第11実施例と異なる。第12実施例のその他の条件は、第11実施例と同じとした。第12実施例では、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.001Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、0.417mAの電流が流れる。つまり、第12実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は1倍であった。
【0104】
「第13実施例」
第13実施例は、第1スピン軌道トルク配線層10のY方向の長さを0.1μmとし、第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さを0.1μmとした点が、第12実施例と異なる。第13実施例におけるその他の条件は、第12実施例と同じとした。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は、24000Ωである。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に0.1Vの電圧を印加すると、第1スピン軌道トルク配線層10のX方向に0.0417mAの電流が流れる。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は、0.24Ωである。第2スピン軌道トルク配線層20のY方向には、0.001Vの電位差が生じ、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向に0.417mAの電流が流れる。第13実施例に係るスピン変換器の電流増幅率は10倍であった。
【0105】
「第14実施例」
第14実施例では、図1に示す素子構造のスピン変換器を想定した。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=100:1とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=100:1とした。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とは同じ材料からなるとし、それぞれのスピンと電流の変換効率を10%と仮定した。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は1kΩとし、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は0.1Ωとした。第1端e1と第2端e2との間に1Vの電圧を印加した。第1端e1と第2端e2との間には、1mAの電流が流れる。この際、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、10μVの電位差が生じた。つまり、第14実施例に係るスピン変換器は、1Vの電位差を10μVに変換しており、電圧増幅率は1/10000倍であった。
【0106】
「第15実施例」
第15実施例では、図1に示す素子構造のスピン変換器を想定した。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の長さL1:Y方向の長さL2=1:100とした。第2スピン軌道トルク配線層20のX方向の長さL3:Y方向の長さL4=1:100とした。第1スピン軌道トルク配線層10と第2スピン軌道トルク配線層20とは同じ材料からなるとし、それぞれのスピンと電流の変換効率を10%と仮定した。第1スピン軌道トルク配線層10のX方向の抵抗は1kΩとし、第2スピン軌道トルク配線層20のY方向の抵抗は1kΩとした。第1端e1と第2端e2との間に1Vの電圧を印加した。第1端e1と第2端e2との間には、10Aの電流が流れる。この際、第1端e3と第2端e4との間に生じる起電力は0.1Vであり、第1端e3と第2端e4との間には、1kVの電位差が生じた。つまり、第15実施例に係るスピン変換器は、1Vの電位差を1kVに変換しており、電圧増幅率は1000倍であった。
【符号の説明】
【0107】
10 第1スピン軌道トルク配線層
20 第2スピン軌道トルク配線層
30 第1スピン波伝搬層
41 第1端子
42 第2端子
43 第3端子
44 第4端子
45 第5端子
46 第6端子
50、51、52 電源
60 第3スピン軌道トルク配線層
70 第2スピン波伝搬層
80 接続配線
90 絶縁層
100、101、102、103、110、111 スピン変換器
e1、e3、e5 第1端
e2、e4、e6 第2端
I1、I2、I2’、I3 電流
図1
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