(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002385
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】掘削位置特定システムおよび掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/11 20060101AFI20241226BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
E21D9/11 E
G01C15/00 104D
G01C15/00 103B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102538
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 高弘
(72)【発明者】
【氏名】上岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】江口 康則
(72)【発明者】
【氏名】松村 匡樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 真史
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AB01
2D054BA22
2D054BA24
2D054GA65
2D054GA82
(57)【要約】
【課題】随時変化し得る建設機械の掘削位置を精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工精度の向上を図ることを可能とした、建設機械の掘削位置特定システムと掘削方法を提供する。
【解決手段】先端に掘削機17が装着されている作業装置16が走行台車11に旋回自在に取り付けられている建設機械10の掘削位置を特定する掘削位置特定システム100である。作業装置16の方向角を特定する慣性センサ21と、建設機械10に設置される複数のターゲット30と、ターゲット30を自動追尾してターゲット30の3次元座標を測定する測量機40と、慣性センサ21による検出データと測量機40による測量データとに基づいて掘削位置を特定する演算手段と、慣性センサ21の動作時間を計測する計時手段とを有している。校正値による校正後の慣性センサ21が動作したときに蓄積する誤差が誤差閾値に達する前に慣性センサ21の誤差をリセットする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に掘削機が装着されている作業装置が走行台車に旋回自在に取り付けられている建設機械において、前記掘削機の掘削位置を特定する、掘削位置特定システムであって、
前記作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出して、前記作業装置の方向角を特定する慣性センサと、
前記建設機械に設置される複数のターゲットと、
前記建設機械の移動に伴って移動する少なくとも1つの前記ターゲットを自動追尾して、3次元座標が既知の基準点座標に基づいて前記ターゲットの3次元座標を測定する測量機と、
前記慣性センサによる検出データと前記測量機による測量データとに基づいて前記掘削位置を特定する演算手段と、
前記慣性センサの動作時間を計測する計時手段と、を有し、
前記慣性センサは、事前試験により算出された校正値により校正されており、
前記演算手段は、前記動作時間が所定時間に達するまでの残り時間を算出し、
前記所定時間は、前記校正値による校正後の前記慣性センサが動作したときに蓄積する誤差が誤差閾値に達するまでの時間であることを特徴とする、掘削位置特定システム。
【請求項2】
前記複数のターゲットは、前記測量機による視準の可不可を実行する、視準可不可手段を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の掘削位置特定システム。
【請求項3】
前記慣性センサは、加速度センサと、ジャイロとを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の掘削位置特定システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の掘削位置特定システムを利用した掘削方法であって、
事前試験を行い前記慣性センサの校正値を算出する校正値算出工程と、
前記校正値により前記慣性センサを校正する校正工程と、
前記掘削機により掘削を行う掘削工程と、
前記慣性センサが動作したときに蓄積する誤差をリセットする補正工程と、を備えており、
前記掘削工程では、1台の前記測量機により1つの前記ターゲットを自動追尾して得た測量データと、前記慣性センサによる検出データに基づいて、掘削位置を特定しながら前記所定時間に至るまで掘削を行い、
前記補正工程では、前記掘削工程において得られた最新の前記1つのターゲットの測量データと、他のターゲットを視準して得た測量データとに基づいて前記掘削機の掘削位置を特定することを特徴とする、掘削方法。
【請求項5】
前記補正工程では、前記建設機械が停止した後に、前記複数のターゲットを1基ずつ順番に視準することを特徴とする、請求項4に記載の掘削方法。
【請求項6】
前記校正値算出工程では、
慣性センサにより旋回角速度を取得する作業と、
前記旋回角速度から旋回速度Nを算出する作業と、
前記旋回速度Nの誤差の割合SFを算出する作業と、
校正する旋回速度の区間を選択する作業と、
前記誤差の割合SFに基づいて、前記区間に含まれる前記旋回速度Nを校正するための補正関数を求める作業と、
前記補正関数を用いて補正係数を算出する作業と、
前記補正係数から前記旋回速度Nの校正値を算出する作業と、により前記校正値を算出することを特徴とする、請求項4に記載の掘削方法。
【請求項7】
前記旋回速度Nは、旋回時間t内で時間Δtごとに前記慣性センサで取得された旋回角速度ωの積分値θを前記旋回時間tで除すことにより算出することを特徴とする、請求項6に記載の掘削方法。
【請求項8】
前記事前試験では、前記慣性センサは、エンコーダを有する試験装置の旋回試験用テーブルに取り付けられており、
前記誤差の割合SFは、式1を利用して、前記エンコーダで取得された前記旋回試験用テーブルの回転角θeと、前記積分値θとから算出することを特徴とする、請求項7に記載の掘削方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の掘削位置特定システムおよび掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネルの施工において、岩盤を掘削する際にトンネルの設計掘削断面ラインに対して岩盤がトンネルの中央側へ張り出すアタリ部が生じた場合には、設計掘削断面ラインに近づけるように、アタリ部を除去する必要がある。アタリ部の除去(掘削)には、例えば、削岩機などのアタッチメントを取り付けた旋回式の建設機械(例えばバックホウ)を使用する。
【0003】
従来のアタリ部の除去方法は、作業員が切羽近傍で目視により確認を行い、除去する箇所をレーザーポインター等で建設機械のオペレータに指示する方法である。ところが、アタリ部や余掘り部の状況確認は作業員と建設機械のオペレータによる経験や技量に頼るところが大きく、アタリ部の除去不足による追加作業の発生や、過大な余掘りに伴うコンクリート吹付け量の増加に起因して、施工コストが増加するといった課題がある。
以上のことから、作業員がレーザーポインター等で建設機械のオペレータに指示する方法に代わり、建設機械のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定することのできる、建設機械の掘削位置特定システムと掘削方法が望まれる。
【0004】
ここで、特許文献1には、掘削機の基準位置及び方向の設定装置と設定方法が提案されている。
特許文献1の設定装置は、削岩機を搭載した建設機械と、建設機械をガイドマウンティングで支承するブームと、建設機械とブームの可動部分の作動量を検出するための検出器と、検出器からの検出データに基づいて建設機械の自動位置決め又は位置表示を行う制御装置とを備えた掘削機において、建設機械に設置された1個のプリズムと、建設機械の前後方向移動に伴って移動するプリズムを自動追尾し、検出器の検出データから演算された測定点のプリズム位置の演算データと、自動追尾式測量機による2測定点のプリズム位置の測定データとに基づいて、掘削の基準方向に対する掘削機の基準方向のずれと、切羽に対する掘削機の基準点の位置とを求め、掘削機の基準方向のずれと基準点の位置のデータを制御装置に設定する演算手段とを備えている。
【0005】
特許文献1の掘削機により掘削作業を行う際は、掘削機の台車を切羽付近に設置した後、建設機械を移動して、切羽上の点にビットの先端を第1測定点として接触させ、演算手段は第1測定点に対して、検出器の検出データからプリズム位置の演算データを求めるとともに、自動追尾式測量機は、建設機械の移動に伴って移動するプリズムを自動追尾してプリズム位置の第1測定データを測定する。次に、ビットの先端を切羽上の点から所定距離に離隔するように建設機械をその前後方向に第2測定点まで後退させ、自動追尾式測量機は、プリズム位置の第2測定データを測定するというものである。
【0006】
また、特許文献2には、トータルステーションと、建設機械に設置された反射体と、建設機械の姿勢情報を測定するセンサユニットと、情報処理を行う制御手段とを具備し、トータルステーションからの座標情報と、センサユニットからの姿勢情報とに基づいて、建設機械の作業具の先端座標を特定する機能を有する、こそく管理装置が開示されている。
【0007】
一方、トータルステーションによる自動追尾では、旋回式建設機械の旋回時にターゲットを正しく視準できないことがある。
これに対し、旋回式建設機械の旋回部に高精度な慣性センサが備わっていれば、慣性センサによる測定値と照らし合わせることで、トータルステーションによる視準ミスを検知し、トータルステーションを自動復帰させることができる。
慣性センサは、3軸のジャイロと3軸の加速度センサからなるセンサで、主に慣性航法等に用いられ三次元位置の自己診断に用いられる。
【0008】
ところが、慣性センサでは、ジャイロの誤差が蓄積する(いわゆるドリフト誤差が発生する)。慣性センサに誤差が蓄積すると、建設機械の位置や旋回方向等にズレが生じ、アタリ部を除去する際のノミ先の先端位置に誤差が生じるおそれがある。ノミ先の先端位置に誤差が生じると、アタリ部を除去する際の精度に影響がおよぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-307085号公報
【特許文献2】特開2017-190587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、随時変化し得る建設機械の掘削位置を精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工精度の向上を図ることを可能とした、建設機械の掘削位置特定システムと掘削方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本発明の掘削位置特定システムは、先端に掘削機が装着されている作業装置が走行台車に旋回自在に取り付けられている建設機械において、前記掘削機の掘削位置を特定するものである。この掘削位置特定システムは、前記作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出して、前記作業装置の方向角を特定する慣性センサと、前記建設機械に設置される複数のターゲットと、前記建設機械の移動に伴って移動する少なくとも1つの前記ターゲットを自動追尾して、3次元座標が既知の基準点座標に基づいて前記ターゲットの3次元座標を測定する測量機と、前記慣性センサによる検出データと前記測量機による測量データとに基づいて前記掘削位置を特定する演算手段と、前記慣性センサの動作時間を計測する計時手段とを有している。前記演算手段は、前記動作時間が所定時間に達するまでの残り時間を算出する。なお、前記慣性センサは、事前試験により算出された校正値により校正されている。また、前記所定時間は、前記校正値による校正後の前記慣性センサが動作したときに蓄積する誤差が誤差閾値になるまでの時間である。
【0012】
また、前記掘削位置特定システムを利用した本発明の掘削方法は、事前試験を行い前記慣性センサの校正値を算出する校正値算出工程と、前記校正値により前記慣性センサを校正する校正工程と、前記掘削機により掘削を行う掘削工程と、前記慣性センサが動作したときに蓄積する誤差をリセットする補正工程とを備えている。前記掘削工程では、1台の前記測量機により1つの前記ターゲットを自動追尾して得た測量データと、前記慣性センサによる検出データに基づいて、掘削位置を特定しながら前記所定時間に至るまで掘削を行う。また、前記補正工程では、前記掘削工程において得られた最新の前記1つのターゲットの測量データと、他のターゲットを視準して得た測量データとに基づいて前記掘削機の掘削位置を特定する。また、前記補正工程では、前記建設機械が停止した後に、前記複数のターゲットを1基ずつ順番に視準するのが望ましい。
ここで、「作業装置」には、例えば、ブームとアームのユニット形態や、ブームのみの形態等が含まれる。
【0013】
かかる掘削位置特定システムおよび掘削方法によれば、作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出する慣性センサが設置され、さらに建設機械に設置されたターゲット(例えば360度プリズム)が測量機に自動追尾されることにより、慣性センサの検出データと測量機の測量データにて建設機械の掘削位置を特定することが可能になり、建設機械のオペレータが自ら、掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削を行うことができる。
また、測量機は自動追尾するものであることから、建設機械のオペレータのみでも建設機械の掘削位置を特定することができ、作業員の削減を図ることも可能になる。ここで、建設機械が無人走行と無人操作を実現できる場合(トンネル坑外にある管理施設からの遠隔操作を含む)は、トンネル内における作業員を完全に不要にした、自動掘削施工を実現できる。
【0014】
また、慣性センサは、事前試験によりジャイロの個別の特性を把握したうえで校正されているため、ジャイロ(慣性センサ)を高精度に校正することができる。例えば、慣性センサを一律に校正するのではなく、旋回速度に応じて校正すると、正負の旋回速度が生じる建設機械において、プラス側とマイナス側の両方に生じる誤差に対して効果的に校正することができる。
さらに、事前試験結果により設定された所定時間内で作業を行うため、慣性センサが動作したときに蓄積される誤差(いわゆるドリフト誤差)が、予め設定された誤差閾値を超えることがない。
【0015】
前記複数のターゲットが、前記測量機による視準の可不可を実行する、視準可不可手段を備えている場合には、例えば、前記建設機械の作動中は前記複数のターゲットのうちの一つのターゲットのみを視準可として他のターゲットを視準不可とする信号を前記制御手段から各ターゲットに送信し、前記停止信号に基づいて前記建設機械の停止後は、前記複数のターゲットを1基ずつ順番に視準可とする信号を前記制御手段から各ターゲットに送信するように構成してもよい。
【0016】
こうすることで、視準したいターゲットとは異なるターゲットを誤って視準することを防止できる。ここで、視準可不可手段としては、視準ターゲットがカバーに収容されて視準不可な状態とされ、アクチュエータにて視準ターゲットが昇降してカバーから張り出すことにより視準可な状態とされる形態や、視準ターゲットを包囲するカバーがアクチュエータにて昇降することにより、視準ターゲットが視準可な状態と視準不可な状態とされる形態等が挙げられる。
なお、前記慣性センサに、加速度センサと、ジャイロとを備えているものを使用すれば、作業装置の方向角(ヨー角)の特定精度の向上に寄与する。
【0017】
前記校正値算出工程では、ジャイロの個別の特性を把握したうえで校正するための校正値を算出するものとする。このような校正値の算出方法としては、慣性センサにより旋回角速度を取得する作業と、前記旋回角速度から旋回速度Nを算出する作業と、前記旋回速度Nの誤差の割合SFを算出する作業と、校正する旋回速度の区間を選択する作業と、前記誤差の割合SFに基づいて前記区間に含まれる前記旋回速度Nを校正するための補正関数を求める作業と、前記補正関数を用いて補正係数を算出する作業と、前記補正係数から前記旋回速度Nの校正値を算出する作業とを行うことで前記校正値を算出するのが望ましい。
【0018】
なお、前記旋回速度Nは、式1を利用して、慣性センサの旋回角速度ωの積分値(旋回角速度積分値)θと旋回時間tとの割合により算出するのが望ましい。
また、前記事前試験では、前記慣性センサは、エンコーダを有する試験装置の旋回試験用テーブルに取り付けて、前記誤差の割合SFは、式2を利用して、前記旋回角速度積分値θと、前記エンコーダにより検出された前記旋回試験用テーブルの回転角(エンコーダ回転角)θeとから算出するのが望ましい。
【0019】
【発明の効果】
【0020】
本発明の建設機械の掘削位置特定システムと掘削方法によれば、随時変化し得る建設機械の掘削位置を精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工精度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る掘削位置特定システムを構成する建設機械の一例を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る掘削位置特定システムの一例の構成図である。
【
図3】アタリ部と余掘り部を説明する模式図である。
【
図4】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図6A】視準可不可手段の一例を示す図であって、視準ターゲットが視準不可の状態を示す図である。
【
図6B】視準可不可手段の一例を示す図であって、視準ターゲットが視準可の状態を示す図である。
【
図7A】視準可不可手段の他の例を示す図であって、視準ターゲットが視準不可の状態を示す図である。
【
図7B】視準可不可手段の他の例を示す図であって、視準ターゲットが視準可の状態を示す図である。
【
図8】オペレータ端末の表示画面における表示例を示す図である。
【
図9】掘削方法の手順を示すフローチャートである。
【
図10】校正値算出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図12】旋回角度と誤差の割合の関係の例を示すグラフである。
【
図13】旋回角度とセンサ補正値の関係の例を示すグラフである。
【
図14】区間ごとの補正関数の例を示すグラフである。
【
図15】ピッチ角、ロール角、ヨー角の説明図である。
【
図16】検証試験における作業時の旋回角の変化を示すグラフである。
【
図17】検証試験における作業時の旋回角速度の分布を示すグラフである。
【
図18】校正前後のドリフト量の比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る掘削位置特定システムを構成する建設機械の一例を示す斜視図であり、
図2は、実施形態に係る掘削位置特定システムの一例の構成図である。また、
図3は、アタリ部と余掘り部を説明する模式図である。
【0023】
掘削位置特定システム100が適用される図示例の建設機械10は、作業装置16のアーム16cの先端に油圧ブレーカ17(掘削機の一例)がアタッチメントとして装着されている重機(油圧ブレーカをアタッチメントとして備える油圧ショベル)である。ここで、建設機械は、図示例のような油圧ブレーカを備えた重機の他にも、掘削機である掘削ロッドを備えた複数のブームが旋回自在に設けられている、ドリルジャンボ等、走行体と旋回体がある建設機械であってもよい。
【0024】
建設機械10は、走行台車11と、作業装置16とを有する。走行台車11は、不図示の油圧モータにて走行する左右のクローラを備えた走行体12と、走行体12に対して水平面内をZ1方向に旋回自在に積層されている、上部旋回体13とを備える。作業装置16は、上部旋回体13の取り付け位置15に対して鉛直面内をZ2方向に回動自在に取り付けられている。
上部旋回体13には、オペレータキャビン14が装備され、エンジンや油圧ポンプ、作動油タンク(いずれも図示せず)等が搭載されている。オペレータキャビン14には、以下で説明するオペレータ端末70(
図8参照)が設置されている。
【0025】
作業装置16は、取り付け位置15に取り付けられているブーム16aと、上部旋回体13の本体に対してブーム16aをピッチ方向に回動させるブームシリンダ16bと、アーム16cと、ブーム16aに対してアーム16cをピッチ方向に回動させるアームシリンダ16dと、アーム16cに対してアタッチメントをピッチ方向に回動させるアタッチメントシリンダ16eとを有し、これら複数のシリンダによる関節を備えている。アーム16cの先端に、油圧ブレーカ(掘削機)17が装着され、油圧ブレーカ17の先端はノミ先17a(掘削位置)となっており、掘削位置特定システム100は、掘削時における油圧ブレーカ17の3次元座標として、このノミ先17aの3次元座標を特定するシステムである。
【0026】
上部旋回体13における作業装置16の取り付け位置15には、慣性センサ21が設置されている。本実施形態の慣性センサ21は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)慣性センサであって、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサを含む、6軸慣性センサである。なお、本明細書における「慣性センサ」とは、3軸以上の加速度センサやジャイロセンサを含む慣性センサを意味する。
【0027】
作業装置16の複数の関節箇所(各シリンダの先端の回動取り付け箇所)には、いずれも1軸加速度センサ22が設置されており、ブームシリンダ16bの先端位置に1軸加速度センサ22Aが設置され、アームシリンダ16dの先端位置に1軸加速度センサ22Bが設置され、アタッチメントシリンダ16eの先端位置に1軸加速度センサ22Cが設置されている。
【0028】
図2に示すように、上部旋回体13の後方には、複数(図示例は2つ)の視準ターゲット30A,30Bが設置されている。この視準ターゲット30は、360度方向からの視準を可能とする360度プリズムである。
図2は、山岳トンネルTにおいて、発破後に岩盤からなる地山Gを建設機械10が掘削している状況を示しているが、山岳トンネルTにおいて、建設機械10よりも坑口側の坑壁には、視準ターゲット30の自動追尾が可能なトータルステーション40(測量機の一例)が設置されている。また、トータルステーション40とケーブル45を介して電気的に接続されている、コンピュータ(制御装置)50も坑口側に設けられている。
【0029】
トータルステーション40では、3次元座標が既知の基準点Bの基準点座標に基づいて、自身の三次元座標が設定されており、視準ターゲット30を自動追尾してその3次元座標を測定する。
このように、掘削機17を先端に備えた作業装置16が回動自在に設けられている、建設機械10と、建設機械10における作業装置16の取り付け位置15に設置されている慣性センサ21(図示例は6軸慣性センサ)と、建設機械10の備える複数の視準ターゲット30を自動追尾するトータルステーション40と、コンピュータ50とにより、掘削位置特定システム100が形成される。
【0030】
コンピュータ50は通信アンテナ58を備えており、慣性センサ21による検出データや、作業装置16の各関節に設置されている1軸加速度センサ22による検出データを無線通信によりX3方向でデータ取得する。また、ケーブル45を介してトータルステーション40によって測量及び内部演算された、視準ターゲット30の3次元座標に関する測量データをX4方向でデータ取得する。
【0031】
図2に示すように、トンネルTの軸方向をX方向、水平面内においてX方向に直交す方向をY方向、これらに直交する鉛直方向をZ方向とする。そして、X-Z平面(鉛直面)における作業装置16の角度をピッチ角θpとし、Y-Z平面(鉛直面)における作業装置16の角度をロール角θrとし、X-Y平面(水平面)における作業装置16の角度をヨー角θyとする。
【0032】
建設機械10が停止している際には、トータルステーション40にて2つの視準ターゲット30A、30BがX1方向とX2方向に順に視準され、各視準ターゲット30A,30Bに固有の複数のターゲット座標が取得され、2つのターゲット座標に関する測量データに基づいて、建設機械10の例えば作業装置16の取り付け位置15の3次元座標が特定され、さらには、作業装置16の方向角が特定される。
【0033】
また、建設機械10が掘削施工している際には、トータルステーション40にていずれか一方の視準ターゲット30が自動追尾にて視準され、視準ターゲット30のターゲット座標が取得される。さらに、作業装置16の取り付け位置15における慣性センサ(6軸慣性センサ)21による検出データや作業装置16の各関節における1軸加速度センサ22による検出データがコンピュータ50へX3方向に送信され、これら測量データと検出データとに基づいて、作業装置16に装着されている油圧ブレーカ17のノミ先17a(掘削位置)の3次元座標が特定される。
【0034】
すなわち、掘削位置特定システム100では、作業装置16のロール角θrとピッチ角θpとヨー角θyを検出して作業装置16の方向角を特定する、慣性センサ21が作業装置16の取り付け位置15に設置されていることにより、慣性センサ21は、停止時に設定された方向角の初期値から建設機械10の旋回や移動で変化する作業装置16の方向角を累積的に読み込んでいく。そして、慣性センサ21の内部において検出データを随時累積することにより、測量された視準ターゲット30の3次元座標に関する測量データと合わせて、施工中の油圧ブレーカ17のノミ先17a(掘削位置)を都度特定することを可能にする。
【0035】
図3に示すように、山岳トンネルTの施工においては、発破後に建設機械10を用いて地山Gを掘削する際に、トンネルTの切羽Kにおける設計掘削断面ラインL1に対して、実掘削断面ラインL2がトンネルTの中央側へ張り出す、アタリ部Aや、掘り過ぎによる余掘り部Dなどの凹凸が生じ得る。掘削位置特定システム100は、以下で詳説するコンピュータ50による制御により、掘削施工中の油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標を都度高精度に特定して、アタリ部Aや余掘り部Dの発生を抑制することを可能にしたシステムである。
【0036】
ここで、実掘削断面ラインL2は、複数のノミ先17aの3次元座標に基づいて作成される。尚、図示を省略するが、建設機械10に3Dスキャナがさらに備えられていてもよい。この形態では、3Dスキャナにて取得された掘削断面までの距離データに基づいて、掘削断面の複数箇所の3次元座標が特定され、特定された複数の3次元座標に基づいて実掘削断面ラインが作成される。
【0037】
次に、
図4乃至
図8を参照して、掘削位置特定システム100を構成するコンピュータ50について説明する。ここで、
図3は、コンピュータ50のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図4は、コンピュータ50の機能構成の一例を示す図である。
【0038】
図3に示すように、コンピュータ(制御装置)50は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置により構成される。コンピュータ50は、接続バス56により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)51、主記憶装置52、補助記憶装置53、通信IF54、及び入出力IF(interface)55、計時手段57を備えている。主記憶装置52と補助記憶装置53は、コンピュータ50が読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0039】
CPU51は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU51は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU51は、コンピュータ50の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU51は、例えば、補助記憶装置53に記憶されたプログラムを主記憶装置52の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。また、CPU51は、慣性センサ21による検出データとトータルステーション40による測量データとに基づいて掘削位置(ノミ先17aの位置)の演算処理を行う。
【0040】
主記憶装置52は、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置52は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置53は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置53には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF54を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、トータルステーション40、慣性センサ21、1軸加速度センサ22、オペレータキャビン14にあるオペレータ端末70等の他、例えばネットワークに接続するトンネル坑外にある管理施設等に設置されている、施工管理用のパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0041】
補助記憶装置53は、例えば、主記憶装置52を補助する記憶領域として使用され、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置53は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置53として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0042】
入出力IF55は、コンピュータ50に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF55には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。コンピュータ50は、入出力IF55を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0043】
また、入出力IF55には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、現在施工中の切羽Kにおいて予め設定されている、設計掘削断面ラインL1や、現在施工中の実掘削断面ラインL2、アタリ部Aや余掘り部Dが生じている場合はその位置とアタリ部Aにおけるアタリ部の長さや余掘り部Dにおける余掘り部の長さ等が表示されるようになっている。尚、オペレータ端末70も同様の入出力IFを備えており、その表示部にはコンピュータ50と同様の表示内容が表示されるようになっている。
【0044】
通信IF54は、コンピュータ50が接続するケーブルやネットワークとのインターフェイスである。通信IF54は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、慣性センサ21や1軸加速度センサ22等から計測データを受信し、管理施設にある施工管理用のパーソナルコンピュータに対して、実掘削断面ラインや、アタリ部、余掘り部等に関する特定データを送信する。
【0045】
計時手段57は、慣性センサの動作時間を計測する。CPU(演算手段)は、計時手段57の計測結果に応じて、慣性センサ21が動作したときに蓄積する誤差が誤差閾値に達するまでの時間(所定時間)に達したか否かを判定する。動作時間または所定時間までの残り時間は、オペレータ端末に表示される。
【0046】
図5に示すように、コンピュータ50は、CPU51によるプログラムの実行により、少なくとも、通信部102、制御モード切替部104、視準可不可手段駆動部106、測量機制御部108、掘削位置・方向角特定部110、表示部112、及び記憶部114の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0047】
通信部102には、トータルステーション40にて測定された、視準ターゲット30の3次元座標に関する測量データが取得され、取得された視準ターゲット30の三次元座標データは記憶部114に記憶(格納)される。さらに、通信部102には、慣性センサ21により検出された、上部旋回体13の取り付け位置15における作業装置16の方向角に関する検出データと、作業装置16の各関節にある1軸加速度センサ22により検出された、ブーム16aやアーム16c等のピッチ角θpに関する検出データが取得され、記憶部114に記憶される。すなわち、通信部102では、無線通信と有線通信の双方によるデータの送受信が実行される。
【0048】
制御モード切替部104は、第1制御と第2制御の2つの制御モードの切替えを実行する。ここで、第1制御は、測量機制御部108により、建設機械10が掘削施工している際に、トータルステーション40に対して1つの視準ターゲット30を視準させる制御を実行してターゲット座標を取得する。
【0049】
掘削位置・方向角特定部110により、ターゲット座標に関する測量データと、慣性センサ21による検出データと、1軸加速度センサ22による検出データとに基づいて、油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標(掘削位置)を特定する制御が実行される。すなわち、第1制御により、油圧ブレーカ17の方向角が特定され、ノミ先17aの3次元座標が特定される。
一方、第2制御は、測量機制御部108により、建設機械10が停止している際に、トータルステーション40に対して2つの視準ターゲット30A,30Bを順に視準させる制御を実行して、視準ターゲット30A,30Bに固有の2つのターゲット座標を取得する。
【0050】
掘削位置・方向角特定部110により、2つのターゲット座標に関する測量データに基づいて、建設機械10と取り付け位置15の3次元座標を特定し、作業装置16の方向角を特定し直し(新たな方向角の特定)、慣性センサ21に対して新たな方向角を与える制御が実行される。
【0051】
第2制御においては、1つのトータルステーション40にて2つの視準ターゲット30A,30Bを順にシーケンシャルに視準することから、視準したい視準ターゲット30とは異なる他方の視準ターゲット30を誤って視準することが生じ得る。この課題を解消するべく、視準可不可手段駆動部106により、視準ターゲット30に備えてある視準可不可手段60を駆動する。
【0052】
ここで、
図6と
図7は、異なる形態の視準可不可手段60の例を示している。
図6Aと
図6Bに示す視準可不可手段60Aは、角鋼管61と、角鋼管61の内部に取り付けられているストロークモータ62と、ストロークモータ62に対してY1方向へ昇降自在に取り付けられているロッド63と、ロッド63の上方に取り付けられているカバー64とを有する。
建設機械10の上部旋回体13には、ロッド31の下端が取り付けられ、ロッド31の上端に視準ターゲット30(360度プリズム)が取り付けられている。
【0053】
視準ターゲット30を視準不可とする際は、
図6Aに示すように、カバー64により視準ターゲット30を完全に包囲する。一方、視準ターゲット30を視準可とする際は、視準可不可手段駆動部106によるストロークモータ62の駆動制御により、
図6Bに示すように、カバー64をY2方向へ降下させることによって視準ターゲット30を外部へ露出させる。
【0054】
一方、
図7に示す視準可不可手段60Bは、ストロークモータ62にてY1方向に昇降されるロッド63の上端に視準ターゲット30が取り付けられている。
視準ターゲット30を視準不可とする際は、
図7Aに示すように、角鋼管61により視準ターゲット30を完全に包囲する。一方、視準ターゲット30を視準可とする際は、視準可不可手段駆動部106によるストロークモータ62の駆動制御により、
図7Bに示すように、ロッド63をY3方向へ上昇させることによって視準ターゲット30を外部へ露出させる。
【0055】
図6と
図7に示すいずれの形態の視準可不可手段60であっても、第2制御においては、視準可不可手段駆動部106によって双方の視準ターゲット30A,30Bの各ストロークモータ62を交互に駆動することにより、1つの視準ターゲット30のみを視準可とし、他の視準ターゲット30を視準不可とし、次に、視準可の視準ターゲット30を視準不可とし、視準不可の視準ターゲット30を視準可とするシーケンシャルな制御を実行することができる。
この制御により、1台のトータルステーション40にて2つの視準ターゲット30を順次視準する際に、視準したい視準ターゲット30とは異なる他方の視準ターゲット30を誤って視準することを防止できる。
【0056】
建設機械10が作動している際に作業装置16の方向角を特定する慣性センサ21には、建設機械10が停止している際に特定された方向角が初期値として付与されている。その後、建設機械10の作動により、慣性センサ21は検出データを随時累積することによって、作動中の作業装置16の方向角を特定し、視準ターゲット30の3次元座標と合わせて油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標が特定される。そのため、慣性センサ21には、時間の経過とともに累積誤差(ドリフト誤差とも言う)が生じ得る。図示例のように3軸ジャイロセンサを含む6軸慣性センサである場合に、ジャイロセンサではセンサが常時旋回していることから、この累積誤差はより一層生じ易くなる。
【0057】
そこで、コンピュータ50では、その第2制御により、建設機械10が停止している際に2つのターゲット座標に関する測量データを取得し、この測量データに基づいて、建設機械10や作業装置16の新たな方向角を特定して、慣性センサ21に対して新たな方向角を付与することにより、慣性センサ21による検出データの累積誤差をリセットし、以後の作業装置16の作動の際の方向角の初期値を再設定する。
【0058】
また、記憶部114には、慣性センサ21の累積誤差に関する誤差閾値がさらに記憶されている。例えば、3軸加速度センサや3軸ジャイロセンサは、5分程度で累積誤差が大きくなり、ノミ先17aの3次元座標の精度を低下させ得ることから、例えば慣性センサ21の累積誤差の誤差閾値を5分程度に設定し、コンピュータ50では、計時手段57により建設機械10(慣性センサ21)が作動を開始した後の経過時間がカウントされる。
【0059】
通信部102を介して、オペレータキャビン14にあるオペレータ端末70に対して、カウントされる経過時間データが送信され、その表示画面には、誤差閾値(所定時間)までの残り時間が表示されるようになっている。建設機械10のオペレータは、この残り時間が経過する前に建設機械10の作動を停止し、コンピュータ50による第2制御によって慣性センサ21の方向角の初期値の再設定を行う。このことにより、慣性センサ21の内部における累積誤差をリセットし、その後に建設機械10の作動を開始することによって、油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標の高精度な特定を継続することが可能になる。
【0060】
このようなコンピュータ50による第1制御と第2制御により、油圧ブレーカ17の方向角やノミ先17aの3次元座標の高精度な特定を図りながらの掘削施工を実現でき、アタリ部と余掘り部の発生抑制に繋がる。
【0061】
図8は、建設機械10のオペレータキャビン14に設置されている、オペレータ端末70の表示画面72における表示例を示す図である。
図示するように、表示画面72には、現在の切羽K(トンネルの長手方向における所定の縦断位置にある切羽)において、予め設定されている設計掘削断面ラインL1が表示される。また、この切羽Kにおける実掘削断面ラインL2が設計掘削断面ラインL1と重ね合わされるようにして表示される。
【0062】
さらに、オペレータが表示画面72を視認しながら掘削する際に、油圧ブレーカ17のノミ先17aを実掘削断面ラインL2上の任意の掘削位置に接触させた際の三次元座標(P0(xp、yp、zp))が、表示画面72にプロットされる。
【0063】
また、設計掘削断面ラインL1と実掘削断面ラインL2の重ね合わせにより、表示画面72には、アタリ部と余掘り部の位置やアタリ部長さや余掘り部長さが表示される。図示例では、アタリ部の複数の3次元座標が点P1乃至P5で表示され、各アタリ部長さがt1乃至t5で表示される。一方、余掘り部の複数の3次元座標が点P6乃至P10で表示され、各余掘り部長さがs1乃至s5で表示される。
【0064】
また、方向角の初期値設定までの残り時間が表示され、オペレータは、この残り時間までに掘削を継続し、残り時間が経過する前に建設機械10を停止し、慣性センサ21の累積誤差をリセットするべく、コンピュータ50による第2制御により、作業装置16の方向角の初期値の再設定を実行する。
【0065】
コンピュータ50は、例えば、送信されるトータルステーション40からの測量データや、慣性センサ21や1軸加速度センサ22からの検出データがいずれも変化しない場合に、建設機械10が停止していると判定し、制御モードを第1制御から第2制御に自動的に切替え、作業装置16の方向角の初期値の再設定のための各種制御を実行してもよい。
【0066】
作業装置16の方向角の初期値の再設定が実行された後、コンピュータ50は制御モードを第2制御から第1制御に自動的に切替え、初期値の再設定が完了した旨の指令信号をオペレータ端末70に送信し、オペレータ端末70はこの指令信号に基づいて建設機械10の作動を開始してよい旨の報知をオペレータに対して実行する。
【0067】
以下、本実施形態の掘削位置特定システムを利用した掘削方法について説明する。
図9に掘削方法の手順を示す。
図9に示すように、本実施形態の掘削方法は、校正値算出工程S1と、校正工程S2と、掘削工程S3と、補正工程S4とを備えている。
校正値算出工程S1では、事前試験を行い慣性センサ21の校正値を算出する。
図10に校正値算出方法の手順を示す。校正値算出方法は、
図10に示すように、旋回角度取得作業S11と、旋回速度算出作業S12と、誤差割合算出作業S13と、校正区間選択作業S14と、補正関数定義作業S15と、補正係数算出作業S16と、校正値算出作業S17とを備えている。
【0068】
旋回角度取得作業S11では、慣性センサ21により旋回角速度を取得する。
図11に事前試験に用いる試験装置の概要を示す。
図11に示すように、事前試験では、慣性センサ21は、エンコーダを有する試験装置80の旋回試験用テーブル81に取り付けられている。試験装置8に慣性センサ21をセットして、旋回試験用テーブル81を低速旋回させた際のデータを収集する。旋回速度は、旋回式建設機械1の旋回速度を想定した大きさとする。
【0069】
旋回速度算出作業S12では、旋回角速度から旋回速度Nを算出する。旋回速度Nは、旋回時間t内で時間Δtごとに慣性センサ21で取得された旋回角速度ωの積分値θを旋回時間tで除すことにより算出する(式1)。
【0070】
【0071】
誤差割合算出作業S13では、旋回速度Nの誤差の割合SFを算出する。誤差の割合SFは、式2を利用して、エンコーダ83で取得された旋回試験用テーブル81の回転角θeと、慣性センサ21で取得された旋回角速度ωの積分値(旋回角速度積分値)θとから算出する。
なお、誤差の割合SF<0の場合、慣性センサ測定値が実際の旋回速度よりも大きく出力されていることを意味し、SF>0の場合は、慣性センサ測定値が実際の旋回速度よりも少なく出力されていることを意味する。
図12に旋回速度と誤差の割合SFの関係の例を示す。
【0072】
【0073】
校正区間選択作業S14では、校正する旋回速度の区間(選定区間)を選択する。まず、試験装置80で得られた誤差の割合SFから慣性センサ21の実測値を補正するためのセンサ補正値HSF(=1+SF)を求める。
図13に旋回速度とセンサ補正値HSFとの関係を示す。次に、補正関数を定義する選定区間を選定する。
【0074】
補正関数定義作業S15では、誤差の割合SF(センサ補正値HSF)に基づいて、区間に含まれる旋回速度Nを校正するための補正関数f(x)を求める。選定区間を関数化すること(すなわち、選定区間ごとに補正関数f(x)を定義すること)で、連続性を確保する。
図14に示すように、例えば、測点P1から測点P2までの区間(選定区間)Aにおける補正関数f(x1)を定義する。同様に、測点P2から測点P3までの区間B、測点P3から測点P4までの区間C、測点P4から測点P5までの区間D、測点P5から測点P6までの区間Eにおける補正関数f(x2)~f(x5)をそれぞれ定義する。
【0075】
補正係数算出作業S16では、補正関数f(x)を用いて補正係数kを算出する。補正係数kは、校正するセンサ出力値ωを補正関数f(x)に代入することにより算出する。すなわち、慣性センサ6からの出力(角速度)が、区間A~Eの何れに含まれるかを検出し、その区間に対応する補正関数f(x)を用いて補正係数kを算出する(式3参照)。
k=f(ω) ・・・式3
【0076】
校正値算出作業S17では、補正係数kから旋回速度Nの校正値ω0を算出する。
校正値ω0は、式4に示すように、補正係数kと実測の角速度(センサ出力値ω)とを乗算して算出する。
ω0=k×ω ・・・式4
【0077】
校正工程S2では、算出された校正値ω0により慣性センサ21を校正する。
掘削工程S3では、校正値ω0により構成された慣性センサ21が設置された状態で掘削機17による掘削を行う。掘削工程S3では、1台のトータルステーション40により1つのターゲット30を自動追尾して得た測量データと、慣性センサ21による検出データに基づいて、掘削位置(ノミ先)17aを特定しながら所定時間に至るまで掘削を行う。オペレータは、オペレータ端末に表示された所定時間までの時間を確認しながら、作業を行い、所定時間を経過する前に掘削作業を停止する。
【0078】
補正工程S4では、慣性センサ21が動作したときに蓄積する誤差をリセットする。補正工程S4では、掘削工程S3において得られた最新の一方の視準ターゲット30の測量データと、他方のターゲット30を視準して得た測量データとに基づいて掘削機17の掘削位置を特定するとともに、慣性センサ21の内部の累積誤差をリセットする。このとき、オペレータの操作により、視準ターゲット30を1基ずつ順番に視準可となるように、各ターゲット30の視準可不可手段60を開閉する。
【0079】
作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出する慣性センサが設置され、さらに建設機械に設置された視準ターゲット(例えば360度プリズム)が測量機に自動追尾されることにより、作業員がレーザーポインター等で建設機械のオペレータに指示する方法に代わり、慣性センサの検出データと測量機の測量データにて建設機械の掘削位置を特定することが可能になり、建設機械10のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械10の作業装置16の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好であって、アタリ部や余掘り部の発生を抑制することができる。
【0080】
また、建設機械10の坑口側に設置されているトータルステーション40は無人にて自動追尾するものであることから、掘削施工は建設機械10のオペレータのみでよいこととなり、作業員の削減を図ることも可能になる。ここで、建設機械10が無人走行と無人操作を実現できる場合は、トンネルT内における作業員を完全に不要にした、自動掘削施工を実現できる。
【0081】
また、実施形態に係る建設機械の掘削位置特定方法は、掘削位置特定システム100を適用した掘削位置特定方法であり、まず、A工程として、建設機械10の停止時に、建設機械10の備える2つの視準ターゲット30を1台のトータルステーション40にて順に視準して建設機械10と作業装置16の方向角の初期値を特定する。この際、
図6と
図7を参照して説明した通り、2つの視準ターゲット30が視準可不可手段60を備えていることにより、1台のトータルステーション40にて2つの視準ターゲット30を順次視準する際に、視準したい視準ターゲット30とは異なる他方の視準ターゲット30を誤って視準することを防止できる。
【0082】
次に、B工程として、建設機械10を作動させて掘削施工を行い、その際に、トータルステーション40にて1つの視準ターゲット30を自動追尾し、かつ建設機械10における作業装置16の取り付け位置15に設けられて、作業装置16のロール角とピッチ角とヨー角を検出する慣性センサ21にて作業装置16の方向角を特定し、慣性センサ21による検出データとトータルステーション40による測量データとに基づいて、掘削施工中の掘削機17の掘削位置を特定する。
【0083】
この施工において、慣性センサ21が作動を開始してから累積誤差が誤差閾値を超えるまでの時間(所定時間)を設定し、掘削施工中において、所定時間が経過する前に建設機械10を停止させ、トータルステーション40に2つの視準ターゲット30A,30Bを順に視準させ、各視準ターゲット30A,30Bに固有の2つのターゲット座標に基づいて建設機械10や作業装置16の新たな方向角を特定して、慣性センサに対して新たな方向角を与えた後、次の掘削施工を行う。複数のターゲットが、測量機による視準の可不可を実行する、視準可不可手段を備えているため、視準したいターゲットとは異なるターゲットを誤って視準することを防止できる。
【0084】
建設機械の掘削位置特定方法によっても、建設機械10のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械10の作業装置16の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好な掘削施工を実現できる。
【0085】
また、慣性センサは、事前試験によりジャイロの個別の特性を把握したうえで校正されているため、ジャイロ(慣性センサ)を高精度に校正することができる。すなわち、慣性センサを一律に校正するのではなく、旋回速度に応じて校正するため、正負の旋回速度が生じる建設機械において、プラス側とマイナス側の両方に生じる誤差に対して効果的に校正することができる。なお、前記慣性センサに、加速度センサと、ジャイロとを備えているものを使用しているため、作業装置の方向角(ヨー角)の特定精度の向上を図ることができる。
【0086】
さらに、事前試験結果により設定された時間内で作業を行うため、慣性センサが動作したときに蓄積される誤差(いわゆるドリフト誤差)が、予め設定された誤差閾値を超えることがない。
【0087】
以下、慣性センサの適応性を確認した試験結果について説明する。
ヘッド部、アーム部、ブーム部では、ピッチングとローリングの検出を行い、上部旋回体では、ピッチング角とローリング角とヨー角の検出を行った。慣性センサは、三軸加速度(Ax,Sy,Az)、三軸角速度(Rx,Ry,Rz)の六軸を出力する。ピッチ角θp、ロール角θrおよびヨー角θyは、それぞれ式5~7により算出する(
図15参照)。
【0088】
【0089】
トンネル切羽におけるこそく作業の重機旋回データを収集した。作業時の旋回角の変化を
図16に示し、作業時の旋回角速度の分布を
図17に示す。
図16に示すように、実作業時の重機旋回範囲は、約100度程度で、作業時間は5~10分程度であることが確認できた。また、
図17に示すように、作業時の旋回角速度の分布から、±3rpmの範囲で旋回作業が行われている。
これらの実測データから、より有効な慣性センサからのヨー角のドリフト量の許容範囲を3分間で、0.5°以内とした。また、ピッチング・ローリング角の分解能は、1/100°とした。
【0090】
慣性センサのヨー角確認に、上部旋回体上の2点のポジショニング情報をトータルステーションで取得し、ヨー角を求め、これを真値の基準として両者を比較確認した。
また、作業旋回範囲±3rpmの範囲でセンサ出力の角速度を校正してヨー角の補正を行った。角速度の構成には、現場で取得した旋回角速度の再現化可能な慣性センサ校正用の旋回試験台を作成し、校正係数を求めた。
【0091】
図18に、ヨー角校正前と校正後のドリフト量の比較試験結果を示す。
図18に示すように、校正を行うことで、3分間のドリフト量を0.5°以内に抑えることが可能なことが確認できた。
なお、センサ校正に関しては、個体ごとに特性が異なるため、個別に対応が必要となる。また、ドリフト量の許容値は、適宜決定可能である。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、作業装置16の複数の関節箇所に一軸加速度センサを設置するものとしたが、例えば、三軸加速度センサを使用してもよい。
前記実施形態では、所定時間に近づいたら、オペレータが建設機械を停止し、ターゲットの視準可不可手段60を手動で開閉する場合について説明したが、建設機械10の停止および視準可不可手段60の開閉は自動で行ってもよい。
視準可不可手段60は、必要に応じて設ければよい。また、視準可不可手段60の構成は、前記実施形態で示したものに限定されるものではない。
コンピュータの設置個所は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【符号の説明】
【0093】
10:建設機械
11:走行台車
12:下部走行体
13:上部旋回体
14:オペレータキャビン
15:取り付け位置
16:作業装置
16a:ブーム
16b:ブームシリンダ
16c:アーム
16d:アームシリンダ
16e:アタッチメントシリンダ
17:油圧ブレーカ(掘削機)
17a:掘削位置(ノミ先)
21:慣性センサ(6軸慣性センサ)
22:1軸加速度センサ
30,30A,30B:視準ターゲット(360度プリズム)
31:ロッド
40:測量機(トータルステーション)
45:ケーブル
50:コンピュータ
58:通信アンテナ
60,60A,60B:視準可不可手段
61:角鋼管
62:アクチュエータ(ストロークモータ)
63:ロッド
64:カバー
70:オペレータ端末
72:表示画面
80:試験装置
81:試験用テーブル
100:掘削位置特定システム(建設機械の掘削位置特定システム)
102:通信部
104:制御モード切替部
106:視準可不可手段駆動部
108:測量機制御部
110:掘削位置・方向角特定部
112:表示部
114:記憶部
B:基準点
T:山岳トンネル(トンネル)
G:地山(岩盤)
K:切羽
L1:設計掘削断面ライン
L2:実掘削断面ライン
A:アタリ部
D:余掘り部