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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023875
(43)【公開日】2025-02-18
(54)【発明の名称】グリース自動給脂器
(51)【国際特許分類】
   F16N 11/10 20060101AFI20250210BHJP
   F16N 19/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
F16N11/10
F16N19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128216
(22)【出願日】2023-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】312010308
【氏名又は名称】マフレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大徳 一美
(57)【要約】
【課題】本発明は以下の問題を解決するにある。1)長期にわたり常時連続的にかつ自動的にグリース給脂できるようにする。2)天候や気候に応じて適正な給脂量を供給できるようにする。3)自動給脂器のグリース残存量を目視可能にする。4)電動ポンプやガス膨脹を利用せず安定して稼働できるようにした。
【解決手段】空気中の水蒸気を吸収して膨張する粉体からなる膨張剤を膨張せしめて、円筒容器に充填したグリースを軸受けに給脂する自動給脂器である。膨張剤を充填した膨張剤カップにテーパを設けて膨張剤が効率的に上方に膨脹できるようにした。膨張剤の圧力で円筒容器が半径方向に膨張しても、ゴム性のシール板をポアソン変形せしめてシール性能を維持可能にした。膨張剤カップやピストンに吸気孔を設けて膨張剤が空気中の水分を安定して吸収できるようにした。円筒容器は上下に蓋をしてボルトで着脱可能にした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張剤とグリースがシール板を介して円筒容器の両側に配置されているグリース自動給脂器において、前記円筒容器のグリース側の端面にはグリース吐出用の吐出管を設けた上蓋が設けてあり、前記円筒容器の膨張剤側の端面には下蓋が設けられており、前記上蓋と前記下蓋はボルトで前記円筒容器に固定されており、前記下蓋には複数の通気孔が設けられ、両端が開孔した通気筒が垂直に取り付けられており、該通気筒は複数の給気孔を設けた給気筒に挿入されており、該給気筒は前記シール板を押し上げるためのピストン板に垂直に取り付けられており、前記膨張剤は前記ピストン板と前記下蓋で形成された空間に充填されており、前記通気筒から取り込まれた空気が前記通気孔を通じて前記給気筒に浸入し、さらに前記給気筒の給気孔を経て前記膨張剤に吸収され、空気に含有されている水分で前記膨張剤を膨脹せしめて前記ピストン板を押し上げて前記グリースが排出されることを特徴とするグリース自動給脂器
【請求項2】
膨張剤とグリースがピストン板を介して円筒容器の両側に配置されているグリース自動給脂器において、前記円筒容器のグリース側の端面には吐出口を設けた上蓋が設けてあり、前記円筒容器の膨張剤側の端面には下蓋が設けられており、前記上蓋と前記下蓋はボルトで前記円筒容器に固定されており、前記下蓋には複数の通気孔が設けられた両端が開孔した通気筒が垂直に取り付けられており、該通気筒は複数の給気孔を設けた給気筒に挿入されており、該給気筒はピストン板に垂直に取り付けられており、前記膨張剤は前記ピストン板と前記下蓋で形成された空間に充填されており、前記通気筒から取り込まれた空気が前記通気孔を通じて前記給気筒に浸入し、さらに該給気孔を経て前記膨張剤に吸収され、空気に含有されている水分で前記膨張剤を膨脹せしめて前記ピストン板を押し上げて前記グリースが排出されるグリース自動給脂器において、前記グリースは伸縮自在な蛇腹状の弾性体容器に充填されており、該弾性体容器は雄ネジが設けられた吐出管を備えており、前記上蓋の吐出口に挿入されており、前記吐出管には固定ナットが螺合されており、該固定ナットで前記上蓋を挟んで前記弾性体容器が前記上蓋に固定されていることを特徴とするグリース自動給脂器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の前記ピストン板に片側開口の補助円筒や前記下蓋に片側開口の補強円筒が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のグリース自動給脂器。

フォームの始まり
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張剤の連続的な膨張を利用してシリンダに封入したグリースを加圧して、軸受けなどに常時連続的に給脂するためのグリース自動給脂器に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の軸受けにグリースなどのグリースを供給する方法として、定期的にグリースガンで給脂する方法や電動ポンプによる集中給脂方法がある。グリースガンは軸受けごとに手差し作業となり作業効率が悪く、グリースニップルには塵埃が付着するので給脂の度にコンタミ低下の恐れがあった。電動による自動給脂では電気制御、配管設備を要し装置全体が高価・複雑になっていた。軸受けのグリースは給脂直後から劣化、漏れ、水分やコンタミの浸入などでトラブル原因が蓄積されるので、常時連続的に給脂する自動給脂器の実現が望まれている。自動給脂器の具体例として以下の方法が紹介されている。
【0003】
特開平10-38193号広報において、グリースが弾力性を有するグリース容器に収納され、該グリース容器が膨張剤を収納した膨張剤容器に収納され、該膨張剤容器の吸湿孔を介した湿分が膨張剤に供給されることにより膨張剤を膨張せしめてグリースを軸受けに供給するグリース自動供給装置が示されている。この方法においては、弾性力を有するグリース容器と収納本体のシールが困難でありグリースが収納本体に逆流する問題があった。またシール板でグリースと膨張剤を仕切る方法が例示されているが、膨張剤の膨張や加圧された潤滑剤により収納本体が半径方向に変形しグリースが膨張剤側に洩れ、圧力が上昇しない問題やグリースと膨張剤が混在しコンタミ低下の問題があった。また、グリースの残量を目視できないので適当なタイミングで交換せざるをえずコスト高になっていた。
【0004】
特開平11-325393号広報において、固形膨張剤の膨張力でピストンを押し出してグリースを押し出す方法が示されている。この方法においては、1)膨張剤封入部が円錐形状のため膨張剤深さが浅くなり、油圧と2段ピストンで押し出しストロークを確保しているので構造が複雑で重くなっていた。2)グリース貯蔵部は第2のピストンで押圧され高圧となりフープ応力で半径方向に膨らむので、第2ピストンのOリングの膨張量が不足しグリースが洩れていた。
【0005】
特開2003-83497号広報において、ピストンの面積を押し付け部材の1.1倍以上にした自動給脂器が示されている。この方法においては、1)直胴部に吸気孔がないので膨張剤の膨張量が小さく自動給脂器の取替え周期が短かった。2)シリンダを当接部のみで押し上げるのでピストンが捏ねてスティッキングしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-38193号広報
【特許文献2】特開平11-325393号広報
【特許文献3】特開2003-83497号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以下の問題を解決するにある。1)シリンダに充填したグリースの漏れを防止し確実な給脂を具現化する。2)膨張剤の膨張力を効率的にグリースに伝え確実に軸受けに供給できるようにする。3)簡単な目視によりグリースの残存量が確認できるようにする。4)天候や気候や設置場所に応じてグリース供給量を増減し適正な給脂量の供給を可能にする。5)長期にわたり常時連続的に給脂し適正な性状のグリースを保持できるようにする。6)軸受けへの水分、コンタミの浸入を防止する。7)人力による手差し作業を解消する。8)軸受けの点検管理周期を長くする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の解決手段は特許請求項1に示すように、膨張剤とグリースがシール板を介して円筒容器の両側に配置されているグリース自動給脂器において、前記円筒容器のグリース側の端面にはグリース吐出用の吐出管を設けた上蓋が設けてあり、前記円筒容器の膨張剤側の端面には下蓋が設けられており、前記上蓋と前記下蓋はボルトで前記円筒容器に固定されており、前記下蓋には複数の通気孔が設けられ、両端が開孔した通気筒が垂直に取り付けられており、該通気筒は複数の給気孔を設けた給気筒に挿入されており、該給気筒は前記シール板を押し上げるためのピストン板に垂直に取り付けられており、前記膨張剤は前記ピストン板と前記下蓋で形成された空間に充填されており、前記通気筒から取り込まれた空気が前記通気孔を通じて前記給気筒に浸入し、さらに前記給気筒の給気孔を経て前記膨張剤に吸収され、空気に含有されている水分で前記膨張剤を膨脹せしめて前記ピストン板を押し上げて前記グリースが排出されるグリース自動給脂器である。
【0009】
第2の解決手段は特許請求項2に示すように、膨張剤とグリースがピストン板を介して円筒容器の両側に配置されているグリース自動給脂器において、前記円筒容器のグリース側の端面には吐出口を設けた上蓋が設けてあり、前記円筒容器の膨張剤側の端面には下蓋が設けられており、前記上蓋と前記下蓋はボルトで前記円筒容器に固定されており、前記下蓋には複数の通気孔が設けられた両端が開孔した通気筒が垂直に取り付けられており、該通気筒は複数の給気孔を設けた給気筒に挿入されており、該給気筒はピストン板に垂直に取り付けられており、前記膨張剤は前記ピストン板と前記下蓋で形成された空間に充填されており、前記通気筒から取り込まれた空気が前記通気孔を通じて前記給気筒に浸入し、さらに該給気孔を経て前記膨張剤に吸収され、空気に含有されている水分で前記膨張剤を膨脹せしめて前記ピストン板を押し上げて前記グリースが排出されるグリース自動給脂器において、前記グリースは伸縮自在な蛇腹状の弾性体容器に充填されており、該弾性体容器は雄ネジが設けられた吐出管を備え、前記上蓋の吐出口に挿入されており、前記吐出管には固定ナットが螺合されており、該固定ナットで前記上蓋を挟んで前記弾性体容器が前記上蓋に固定されているグリース自動給脂器である。
【0010】
第3の解決手段は特許請求項3に示すように、請求項1又は請求項2に記載の前記ピストン板に片側開口の補助円筒や前記下蓋に片側開口の補強円筒が取り付けられているグリース自動給脂器である。
【発明の効果】
【0011】
第1の解決手段による効果は、1)連続的に膨張する膨張剤が常時ピストン及びシール板を押し上げてグリースを加圧するので、グリースを連続的に軸受けに給脂できる。2)膨張剤の膨張速度は極めて遅いので長期にわたり給脂可能であり軸受けを適正な状態に維持できる。3)通気孔や給気孔の数や大きさを変更することにより設置場所の環境に応じて給脂速度を調整できる。4)手作業給脂のように毎回汚れた給脂口にグリースガンを接続して給脂することがないので軸受けへの水分、コンタミの浸入を防止できる。5)人力による手差し作業やこれに伴う危険作業を解消できる。6)グリース自動給脂器の寿命が長いので軸受けの管理周期を長くできる。7)膨張剤が膨脹するにつれて押し付け板が押し上げられ、これにつれて給気筒が上昇するので膨張剤に給気孔を通じて水分を含有した空気を供給できるので膨張剤の膨脹は継続しグリースを最後まで供給できる。
【0012】
第2の解決手段による効果は、1)グリースをあらかじめ弾性体のグリース容器に充填しているので円筒容器への収納が便利である。2)グリース容器の排出管の雄ネジがグリースシリンダの吐出管の雌ネジに螺合されているので、グリース容器を確実に吐出管とシール接合できる。3)グリース容器をジャバラ形状にすることにより、グリース容器を圧縮した際に横広がりすることなくジャバラがきれいに縦方向に折り畳められるのでグリースを効率的に押し出せる。
【0013】
第3の解決手段による効果は、1)補助円筒は膨張剤と一緒に上昇できるので円筒容器の変形を防止しシール板のシール性を維持しシール板を上昇限界までガイドできる。2)補強円筒は膨張剤が膨脹して円筒容器を半径方向に押し広げる力を拘束できるので、円筒容器の変形が抑えられてグリース洩れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】円筒容器にグリースを充填したグリース自動給脂器の断面図。
図2】グリースを押し出し途中のグリース自動給脂器の断面図。
図3図2のa部詳細図。
図4】ボルトによる円筒容器の拘束状態を示す断面図。
図5】シール板のシールメカニズム説明図。
図6】補助円筒と補強円筒を設けたグリース自動給脂器の実施態様断面図。
図7】グリースをジャバラ容器に充填したグリース自動給脂器の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を請求項1ないし3及び図1ないし図7に基づいて説明する。
【0016】
第1の解決手段は特許請求項1に示すように、膨張剤70とグリース80がシール板60を介して円筒容器20の両側に配置されているグリース自動給脂器10において、前記円筒容器10のグリース側の端面20aにはグリース吐出用の吐出管31を設けた上蓋30が設けてあり、前記円筒容器20の膨張剤側の端面20bには下蓋40が設けられており、前記上蓋30と前記下蓋40はボルト90で前記円筒容器20に固定されており、前記下蓋40には複数の通気孔41aが設けられ、両端が開孔した通気筒41が垂直に取り付けられており、該通気筒41は複数の給気孔51aを設けた給気筒51に挿入されており、該給気筒51は前記シール板60を押し上げるためのピストン板50に垂直に取り付けられており、前記膨張剤70は前記ピストン板50と前記下蓋40で形成された空間70aに充填されており、前記通気筒41から取り込まれた空気が前記通気孔41aを通じて前記給気筒51に浸入し、さらに前記給気筒51の給気孔51aを経て前記膨張剤70に吸収され、空気に含有されている水分で前記膨張剤70を膨脹せしめて前記ピストン板50を押し上げて前記グリース80が排出されるグリース自動給脂器10である。
【0017】
図1に示すように、円筒容器20は両端20a、20bが開孔しており、上蓋30と底板40に設けられた複数の貫通孔32、42にボルト90が貫通せしめられ、円筒容器20を挟み込んで固定されているので密閉状態を形成できる。上蓋30の下面30bと円筒容器20の上端面20a及び下蓋40の上面40bと円筒容器20の下端面20bにはシール材21を嵌め込んでシール性を高めている。
【0018】
図3に示すようにボルト90と円筒容器20のすき間gを最小限にすることにより、膨張剤70の膨脹による円筒容器20の半径方向への膨らみを抑制できる。円筒容器20の強度を補強でき半径方向の変形を抑制できるのでシール板60によるシール性を保持できる。
【0019】
円筒容器20は膨張剤70やグリース80の容量に合わせて炭素鋼管やステンレス鋼管や塩化ビニル樹脂などの樹脂管を適宜長さに切断して使用できる。
【0020】
上蓋30には吐出管31が取付けられている。吐出管31は上蓋30の上面30aに溶接24bやネジ止めなどで取付けることができる。吐出管31には雄ネジ31aが設けてありグリースニップルなどの雌ネジと接続できる。
【0021】
下蓋40には複数の通気孔41aを設けて両端が開口した通気筒41が略垂直に取り付けられている。通気筒41には、複数の給気孔51aを設けた給気筒51が被せられている。給気筒51はピストン板50に略垂直に取り付けられている。通気孔41aと給気孔51aの直径は1~5mmである。1mmより小さいと膨張剤が詰ってしまい空気の流れ悪くなる。5mmより大きいと膨張剤70が通気筒41や給気筒51に浸入してくる。望ましくは3mmである。通気孔41aと給気孔51aの数は10~50個の範囲である。グリース自動給脂器10は温度、湿度などの外的条件により吐出量が変化するので設置場所に応じて孔数を変えて吐出量を調整できる。例えば給気孔51aや通気孔41aにシールなどを張り付けて通気を遮断することにより通気量の調整ができる。
【0022】
図2は膨張剤80が膨脹してピストン板50とシール板60とグリース80を押し上げた状態を示している。膨張剤70の中央部に給気筒51と通気筒41が連結されており、膨張剤が膨脹してピストン 板が押し上げられると給気筒も同時に上昇する。通気筒41は下蓋40に固定されており上昇せず下部の膨張剤70と吸気筒51に空気を供給する。給気孔51aから膨張剤70に空気が供給され膨脹が継続できる。
【0023】
図1図2に円筒容器20内の空気の流れを示している。通気筒41から取り入れられた空気は通気孔41aを通って給気筒51に浸入し給気孔51aを経て膨張剤70に吸収され膨張剤70を膨脹させる。図2に示すように膨張剤70が膨脹するとピストン板50及び給気筒51は上昇するが、通気筒41によって通気経路は維持されるので最後まで空気の供給が継続し膨張剤70の膨脹が進行しグリー80が押し出される。
【0024】
ピストン板50の中央部にはレベル計取付け部50aが設けられており、ワイヤ52もしくは紐52でレベル計53が吊り下げられている。レベル計53は樹脂板や銅板などの薄板や樹脂紐などが適している。ピストン板50が上昇するにつれてレベル計53が引上げられていくのでグリース80の減少量を正確に検出できる。
【0025】
図1にシール板60の横断面図を示す。シール板60は弾力性のあるゴム板で形成されている。ゴム板には天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロブレンゴム(CR)、アクリロニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Si)などがある。シール板60をゴム板で形成することにより、ゴム板が垂直方向の加圧力により圧縮変形するとともに水平方向に変形して延びる特性を応用している。シール板60の側面60bに溝60aを形成してOリング61を取り付ければシール性が向上する。
【0026】
シール板60の厚みは15~30mmがよい。15mmより薄いとシール性が低下する。30mmより厚いと半径方向のポアソン変形が小さくなりシール性能が落ちる。20mm前後が望ましい。
【0027】
従来のように硬質の樹脂や金属で形成されているシール板60とOリング61の組み合わせの場合は、シール板60の製作精度や円筒容器20の膨脹量によってOリング61のシール性が微妙に変化する。例えば、円筒容器20は金属薄板又は硬質樹脂で形成されているので、真夏の日中と真冬の夜間ではグリース70の粘度は異なるので背圧の変化が生じ、円筒容器20の膨脹量は異なってくる。また円筒容器20をプレス製作する場合は真円に成形するのは困難であり、金属や硬質樹脂などの剛性の高いシール板60にOリング61を組み合わせたシールでは変形に追随できず局部的な漏れを防止できなかった。このような膨脹量の変化に追随するためには本発明のように弾性体からなるシール板60のポアソン変形を応用したシール機能が必須である。弾性体シール板60の外周側面60bに溝60aを形成してOリング61を嵌装すればシール性が向上する。
【0028】
図4に示すようにOリング61を取り付けたシールリング60のシール性能を説明する。膨張剤70の膨張加圧によるシール板60の半径方向膨張量δを示す。シール板60の厚みをt1、加圧後のシール板の厚みt2、シール板60の直径をs1、加圧後のシール板60の直径をs2、シール板60のポアソン比をνとすると、δ=s2-s1={(t1-t2)/t1}/(ν/s1)となる。膨張剤70が膨張するにつれてシール板60は上下方向から加圧され垂直方向に圧縮され、ポアソン比で半径方向に膨張する。薄板で形成された円筒容器20が半径方向に膨張変形しても変形量に追随してシール板60が変形するので確実にシールすることができる。
【0029】
例えば、ゴムのポアソン比は一般に0.5程度であるので、シール板60が1mm圧縮されると横方向には約0.5mm延びることになる。シール板60がポアソン比で横方向に広がることにより円筒容器20が膨張してもグリース70が洩れることなく適正圧力で軸受けに供給できる。
【0030】
図5に示すように、ピストン板50に片側開口の補助円筒54を取り付ければ空間50bを形成できる。空間50bに膨張剤70を充填した後に円筒容器20に載置できるので作業性が向上する。輔助円筒54は膨張剤による円筒容器20の変形を抑制できる。
【0031】
下蓋40に補強円筒43を取り付ければ、膨張剤70の膨脹で補助円筒54が半径方向に変形するのを抑制できる。
【0032】
膨張剤70は酸化カルシウム(CaO)を主体とする化合物である。酸化カルシウムが水和反応することにより水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を形成し時間経過ともに長大な異方性の六角板状結晶へと成長することで体積が増大する性質を利用している。膨張剤商品としては例えばブライスター(太平洋セメント(株))、Sマイト(住友大阪セメント(株))、HPロックトーン(河合石灰工業(株))などがある。これらの商品と酸化カルシウムを適宜組み合わせて軸受け環境に適合した膨張剤を調合できる。
【0033】
酸化カルシウムに潮解性のある物質の粉末を1~5重量%混合することにより膨張量や膨張速度を調整できる。1重量%より少ないと効果が小さい。5重量%より多いと膨張速度が速すぎて制御が困難である。潮解性のある物質には、クエン酸(C6H8O7)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化マグネシウム(MgCL2)などがある。
【0034】
第2の解決手段は特許請求項2に示すように、膨張剤70とグリース80がピストン板50を介して円筒容器20の両側に配置されているグリース自動給脂器10において、前記円筒容器20のグリース80側の端面20aには吐出口30aを設けた上蓋30が設けてあり、前記円筒容器20の膨張剤70側の端面20bには下蓋40が設けられており、前記上蓋30と前記下蓋40はボルト90で前記円筒容器20に固定されており、前記下蓋40には複数の通気孔41aが設けられた両端が開孔した通気筒41が垂直に取り付けられており、該通気筒41は複数の給気孔51aを設けた給気筒51に挿入されており、該給気筒51はピストン板50に垂直に取り付けられており、前記膨張剤70は前記ピストン板50と前記下蓋40で形成された空間70aに充填されており、前記通気筒41から取り込まれた空気が前記通気孔41aを通じて前記給気筒51に浸入し、さらに該給気孔51aを経て前記膨張剤70に吸収され、空気に含有されている水分で前記膨張剤70を膨脹せしめて前記ピストン板50を押し上げて前記グリース80が排出されるグリース自動給脂器10において、前記グリース80は伸縮自在な蛇腹状の弾性体容器81に充填されており、該弾性体容器81は雄ネジが設けられた吐出管82を備えており、前記上蓋30の吐出口30bに挿入されており、前記吐出管82には固定ナット83が螺合されており、該固定ナット83で前記上蓋30を挟んで前記弾性体容器81が前記上蓋30に固定されていることを特徴とするグリース自動給脂器10である。
【0035】
図2に示すように、グリース容器81は塩化ビニルなどの樹脂弾性体からなりジャバラが形成されており、上下方向に自在に圧縮可能である。グリース容器81は雄ネジを設けた排出管82を備えており、上蓋30に設けた吐出口30bに挿入されている。排出管82にはナット83が螺合され排出管82を上蓋30に締め付けて固定している。
【0036】
グリース容器81は膨張剤70の膨脹による押し上げ力を受けたピストン板50によって圧縮され、排出管82から外に押し出される。
【0037】
第3の解決手段は特許請求項3に示すように、請求項1又は請求項2に記載の前記ピストン板50に片側開口の補助円筒54や前記下蓋40に片側開口の補強円筒43が取り付けられていることを特徴とするグリース自動給脂器10である。
【0038】
図5に示すようにピストン板50と補助円筒54で片側開口の空間50bが形成できるので、この空間50bに膨張剤70を充填することができる。空間50bに膨張剤70を充填した後に円筒容器20に載置できるので作業性が向上する。
【0039】
補助円筒54の材質は金属板や樹脂板を使用できる。補助円筒54はピストン板50に溶接や接着剤で固定できる。補助円筒54は膨張剤70が膨脹して円筒容器20を半径方向に広げる力を緩和することができる。
【0040】
補強円筒43は片側開口の金属円筒であり下蓋40に溶接して取り付ける。補強円筒43は膨張剤70や補助円筒54が円筒容器20を直接押し付けるのを緩和し変形を抑制できる。
【符号の説明】
【0041】
10:グリース自動給脂器
20:円筒容器
20a:端面
20b:端面
30:上蓋
31:吐出管
32:貫通孔
40:下蓋
41:通気筒
41a:通気孔
42:貫通孔
43:補強円筒
50:ピストン板
50a:取付け部
50b:空間
51:給気筒
51a:給気孔
52:ワイや
53:レベル計
54:補助円筒
60:シール板
60a:溝
60b:側面
61:Oリング
70:膨張剤
80:グリース
90:ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7