(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023881
(43)【公開日】2025-02-19
(54)【発明の名称】身体搬送車
(51)【国際特許分類】
A61G 1/00 20060101AFI20250212BHJP
A61G 1/007 20060101ALI20250212BHJP
A61G 1/02 20060101ALI20250212BHJP
A61G 1/048 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
A61G1/00 701
A61G1/007
A61G1/02 701
A61G1/048
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120355
(22)【出願日】2023-07-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】521293431
【氏名又は名称】株式会社明石発動機工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104640
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】前林 清和
(72)【発明者】
【氏名】田中 綾子
(72)【発明者】
【氏名】金井 清
(57)【要約】
【課題】特別な機械機構を設けることなく、階段の途中で手を離してもその場に停止させることができる身体搬送車を提供する。
【解決手段】被搬送者の下半身を載せる固定載置台2と頭部側を起こすことができるように回動可能に固定載置台2に連結された、被搬送者の上半身を載せる可動載置台3と可動載置台3の頭部側の端部に取り付けられた操作フレーム4と固定載置台2に設けられた走行用車輪5及び補助車輪6とを備えている。固定載置台2は、階段降下時に階段の段鼻に摺接する摺接面を有する摺動部14を有し、走行用車輪5の下端位置が摺動部14の摺接面の高さ位置より低く設定されている。摺動部14は、弾性変形層14aとその下側に積層された、階段の段鼻に摺接する摺接面が滑り性を有する摺接層14bとからなり、階段降下時に階段の段鼻SNが摺動部14に喰い込むと、弾性変形層14aが弾性変形することで制動力が作用するようになっている。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送者の下半身を載せる固定載置台と、
頭部側を起こすことができるように回動可能に前記固定載置台に連結された、被搬送者の上半身を載せる可動載置台と、
前記固定載置台に設けられた走行用車輪と
を備え、
前記固定載置台は、階段降下時に階段の段鼻に摺接する摺接面を有する摺動部を有し、
前記走行用車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より低く設定されており、
前記摺動部は、前記摺接面が滑り性を有すると共に、前記摺接面の上側に弾性変形可能な弾性変形層を有し、
階段降下時に階段の段鼻が前記摺動部に喰い込んで制動力が作用することを特徴とする身体搬送車。
【請求項2】
前記可動載置台には、前記可動載置台に対する取付角度を変更可能に操作フレームが取り付けられている請求項1に記載の身体搬送車。
【請求項3】
前記走行用車輪は、前記固定載置台の両側部にそれぞれ配設された一対の側部車輪を備えており、
前記側部車輪は、前記固定載置台の両側部に回転可能に取り付けられた、回転中心から放射状に延びる複数のアームを有する回転体と、前記回転体の各アームの先端にそれぞれ取り付けられた車輪とを有している請求項1または2に記載の身体搬送車。
【請求項4】
前記走行用車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に配設された中央車輪を備えており、
前記中央車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に揺動可能に取り付けられた、前記固定載置台の前後方向に延びる揺動体と、前記揺動体の揺動軸の前後にそれぞれ取り付けられた車輪とを有しており、
前記揺動体が揺動することで、いずれか一方の前記車輪が前記固定載置台の摺動部の摺接面から退避可能に構成されている請求項1、2または3に記載の身体搬送車。
【請求項5】
階段降下時に踊り場に最初に接地する左右一対の補助車輪が前記固定載置台の前端部に取り付けられており、
前記補助車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より高く設定されている請求項1、2、3または4に記載の身体搬送車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、病人や高齢者等の歩行困難な人を、階段を使って階下に搬送する際に使用する身体搬送車に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の身体搬送車としては、例えば、特許文献1に開示された避難困難者救出台車がある。この避難困難者救出台車(以下、「救出台車」という。)50は、
図19に示すように、下フレーム51、上フレーム52、上連結フレーム53及び下連結フレーム54から構成されており、上連結フレーム53の上端部に上持手55が、下フレーム51の後端部に下持手56がそれぞれ設けられている。
【0003】
前記下フレーム51の床面部の前部を、上方に角度を持たせて立ち上げて足乗せ部となる前面部51aが形成されており、その上方背面に上フレーム52の前端部が回動可能に連結されている。後方が次第に高くなるように傾斜させた上フレーム52の後端部が、上連結フレーム53の中間部に回動可能に連結されており、下連結フレーム54の下端部が下フレーム51の後方に回動可能に連結されている。
【0004】
前記下フレーム51の上部には、布地で形成された座席57が設けられており、下フレーム51の前面部51aの下方に左右一対の車輪58が取り付けられていると共に、下フレーム51の下面には、滑り材からなる1本の前ソリ59aと、摩擦材からなる2本の後ソリ59bと、前ソリ59aと後ソリ59bを接続して後ソリ59bの先端部を保護するプロテクター59cとからなる摺動体59が取り付けられている。
【0005】
また、踊り場から階段へ降ろし始めるときに行きすぎを防止し、また、階段を走行している途中で一時停止する必要が生じたときに使用する一時停止機構60が、同図に示すように、下フレーム51の後ソリ59bの先端部に近接させて左右に取り付けられている。
【0006】
前記一時停止機構60は、
図20に示すように、下フレーム51の後ソリ59bの先端部に近接させて左右に取り付けられた左右一対のローラー枠60aと、基端部が回転軸60dによって一対のローラー枠60aに揺動可能に支持された、先端部にローラー60bが取り付けられた左右一対の揺動アーム60cと、ローラー枠60aの底部にローラー60bで出退させる、摩擦性と弾力性を有する材料からなる帯状の摩擦帯60eと、回転軸60dの一端に取り付けられたフック60fと、前面部51aと座席57の間に床板を貼った平坦なフロントフロアー部51bに設けたフック60hと、一端がフック60fの先端部に掛止されると共に他端がフック60hに掛止された、ローラー60bを上方側に付勢するスプリング60gと、下持ち手56に取り付けたロック付きのブレーキレバー60jと、フック60fの中間部とブレーキレバー60jとを連結するワイヤーケーブル60iとを備え、ブレーキレバー60jを引くことによりローラー60bを揺動させて摩擦帯60eを後ソリ59bの下面より突出させるようになっている。
【0007】
以上のように構成された救出台車50は、以下のように使用する。先ず、
図21に示すように、要救助者を座席57に乗せた状態で下持手56を持って救出台車50を持ち上げ、車輪58を使って搬送する。
図22に示すように、踊り場zの階段にさしかかったら救出台車50を階段に直角に向け、左手は下持手56を持った状態のまま右手でブレーキレバー60jを引いて一時停止装置60の摩擦帯60eを突出させ、両手で下持手56を持った状態で階段に進入し、前ソリ59aによって滑らせて階段を降ろしはじめると、摩擦帯60eが段鼻yに当たって一旦停止する。停止した状態でブレーキレバー60jを戻し、下持手56から上持手55に持ちかえて救出台車50を下方に押すと、
図23に示すように、前ソリ59aの滑り材によって階段を滑走し、下方に押しつけると、後ソリ59bの摩擦材によってブレーキがかかり、滑走とブレーキを繰り返しながら降ろす。そして、次の踊り場に車輪が着地したら、
図21に示すように、上持手55から下持手56に持ちかえて、車輪58を使って踊り場を方向転換しながら次の階段に進入し、上述と同様な動作を繰り返して階段を降ろしていく。
【0008】
なお、階段の途中で前方に障害物があってそれを除去する必要が生じたとき等、走行を一旦停止して救出台車50から離れる事態が生じたときは、ブレーキレバー60jを引いてロックし、摩擦帯60eを後ソリ59bの下面より突出させた状態を保つことにより持続的に停止させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した救出台車50では、階段の途中で救出台車50から手を離さなければならない場合は、ブレーキレバー60jを引いてロックすることで、救出台車50を持続的に停止させることができるが、こういった機能を実現するためには、上述したように、帯状の摩擦帯60eを後ソリ59bの下面より下方側に突出させる一時停止機構60を設けなければならず、救出台車50の構造が複雑になるといった問題がある。
【0011】
そこで、この発明の課題は、こういった特別な機械機構を設けることなく、階段の途中で手を離してもその場に停止させることができる身体搬送車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、被搬送者の下半身を載せる固定載置台と、頭部側を起こすことができるように回動可能に前記固定載置台に連結された、被搬送者の上半身を載せる可動載置台と、前記固定載置台に設けられた走行用車輪とを備え、前記固定載置台は、階段降下時に階段の段鼻に摺接する摺接面を有する摺動部を有し、前記走行用車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より低く設定されており、前記摺動部は、前記摺接面が滑り性を有すると共に、前記摺接面の上側に弾性変形可能な弾性変形層を有し、階段降下時に階段の段鼻が前記摺動部に喰い込んで制動力が作用することを特徴とする身体搬送車を提供するものである。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の身体搬送車において、前記可動載置台には、前記可動載置台に対する取付角度を変更可能に操作フレームが取り付けられていることを特徴としている。
【0014】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明の身体搬送車において、前記走行用車輪は、前記固定載置台の両側部にそれぞれ配設された一対の側部車輪を備えており、前記側部車輪は、前記固定載置台の両側部に回転可能に取り付けられた、回転中心から放射状に延びる複数のアームを有する回転体と、前記回転体の各アームの先端にそれぞれ取り付けられた車輪とを有していることを特徴としている。
【0015】
また、請求項4に係る発明は、請求項1、2または3に係る発明の身体搬送車において、前記走行用車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に配設された中央車輪を備えており、前記中央車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に揺動可能に取り付けられた、前記固定載置台の前後方向に延びる揺動体と、前記揺動体の揺動軸の前後にそれぞれ取り付けられた車輪とを有しており、前記揺動体が揺動することで、いずれか一方の前記車輪が前記固定載置台の摺動部の摺接面から退避可能に構成されていることを特徴としている。
【0016】
また、請求項5に係る発明は、請求項1、2、3または4に係る発明の身体搬送車において、階段降下時に踊り場に最初に接地する左右一対の補助車輪が前記固定載置台の前端部に取り付けられており、前記補助車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より高く設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、請求項1に係る発明の身体搬送車は、固定載置台が、階段降下時に階段の段鼻に摺接する摺接面を有する摺動部を有し、摺動部は、摺接面が滑り性を有すると共に、摺接面の上側に弾性変形可能な弾性変形層を有し、階段降下時に階段の段鼻が摺動部に喰い込んで制動力が作用するようになっているので、階段降下時に、搬送者が身体搬送車を階段に沿って前方に軽く押すだけで身体搬送車が階段に沿って容易に降下すると共に、階段降下時に搬送者がこの身体搬送車から手を離しても、階段の段鼻が摺動部に喰い込むことで制動力が作用し、身体搬送車をその場に停止させることができる。従って、従来の身体搬送車のように、階段降下時に身体搬送車を一時的に停止させるための特別な機械機構を設ける必要がなく、構造を簡素化することができる。
【0018】
また、請求項2に係る発明の身体搬送車は、可動載置台に対する取付角度を変更可能に可動載置台に操作フレームが取り付けられているので、搬送者の体格に合わせて操作フレームの取付角度を変更することで、この身体搬送車を楽な姿勢で走行させることができる。
【0019】
また、請求項3に係る発明の身体搬送車は、走行用車輪が固定載置台の両側部にそれぞれ配設された一対の側部車輪を備えており、この側部車輪は、固定載置台の両側部に回転可能に取り付けられた、回転中心から放射状に延びる複数のアームを有する回転体と、回転体の各アームの先端にそれぞれ取り付けられた車輪とを有しているので、階段降下時に側部車輪が階段の段鼻を通過する際、複数の車輪が交互に退避することで、身体搬送車のがたつきを抑えながら階段を降下させることができる。
【0020】
また、請求項4に係る発明の身体搬送車は、走行用車輪が固定載置台の幅方向の中央部に配設された中央車輪を備えており、この中央車輪は、固定載置台の幅方向の中央部に揺動可能に取り付けられた、固定載置台の前後方向に延びる揺動体と、揺動体の揺動軸の前後にそれぞれ取り付けられた車輪とを有しており、揺動体が揺動することで、いずれか一方の車輪が固定載置台の摺動部の摺接面から退避可能に構成されているので、階段降下時に中央車輪が階段の段鼻を通過する際、段鼻によって前後の車輪が交互に押し上げられて固定載置台の摺動部の摺接面から退避することで、身体搬送車のがたつきを抑えながら階段を降下させることができる。
【0021】
また、請求項5に係る発明の身体搬送車は、階段降下時に踊り場に最初に接地する左右一対の補助車輪が固定載置台の前端部に取り付けられており、この補助車輪の下端位置が摺動部の摺接面の高さ位置より高く設定されているので、階段降下時に補助車輪が階段の段鼻を通過する際、階段の段鼻に接触することがなく、補助車輪に起因したがたつきが発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明に係る身体搬送車の一実施形態を示す斜視図である。
【
図8】同上の身体搬送車からシートマット、バックマット、ヘッドレスト、ベースプレート及び摺動部を取り外した状態を示す平面図である。
【
図9】同上の身体搬送車を構成する摺動部に階段の段鼻が食い込んだ状態を示す説明図である。
【
図10】同上の身体搬送車を構成する中央車輪を示す斜視図である。
【
図11】(a)、(b)は同上の身体搬送車の廊下搬送から階段搬送への移行動作を示す動作説明図である。
【
図12】(a)、(b)は同上の身体搬送車の廊下搬送から階段搬送への移行動作を示す動作説明図である。
【
図13】(a)、(b)は同上の身体搬送車の階段搬送時における側部車輪の動作説明図である。
【
図14】(a)、(b)は同上の身体搬送車の階段搬送時における側部車輪の動作説明図である。
【
図15】(a)、(b)は同上の身体搬送車の階段搬送時における中央車輪の動作説明図である。
【
図16】(a)、(b)は同上の身体搬送車の階段搬送時における中央車輪の動作説明図である。
【
図17】(a)、(b)は同上の身体搬送車の階段搬送~踊り場搬送への移行動作を示す動作説明図である。
【
図18】同上の身体搬送車の階段搬送~踊り場搬送への移行動作を示す動作説明図である。
【
図19】従来の身体搬送車である患者搬送車を示す側面図である。
【
図20】同上の身体搬送車を構成している一時停止機構を示す拡大断面図である。
【
図21】同上の身体搬送車の使用方法を示す説明図である。
【
図22】同上の身体搬送車の使用方法を示す説明図である。
【
図23】同上の身体搬送車の使用方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
図1~
図8に示すように、この身体搬送車1は、被搬送者の下半身を載せる固定載置台2と、頭部側を起こすことができるように回動可能に固定載置台2に連結された、被搬送者の上半身を載せる可動載置台3と、この可動載置台3の頭部側の端部に取り付けられた門形の操作フレーム4と、固定載置台2に設けられた走行用車輪5及び補助車輪6とを備えている。
【0024】
前記固定載置台2は、金属製のベースフレーム11と、このベースフレーム11の上面に取り付けられたベースプレート12と、ベースプレート12の上に取り付けられたクッション性を有するシートマット13と、ベースフレーム11の下面に取り付けられたマット状の摺動部14とを備えており、摺動部14は階段降下時に階段の段鼻に摺接しながら移動するようになっている。
【0025】
前記ベースプレート12は、被搬送者の臀部を支持する固定プレート12a、被搬送者の腿を支持する後側可動プレート12b及び被搬送者の膝下部分を支持する前側可動プレート12cに分割されており、固定プレート12aがベースフレーム11の後部に固定されていると共に、固定プレート12a、後側可動プレート12b及び前側可動プレート12cがヒンジを介して順次連結されている。
【0026】
前記後側可動プレート12bは、両側部における前後方向の中央部が、伸縮可能で伸長位置にロック及びロック解除可能な左右一対のステー12dを介してベースフレーム11の前部に連結されており、ステー12dが伸長位置にロックされた状態では、前端側が持ち上げられた状態に保持されている。
【0027】
従って、ステー12dが伸長位置にロックされた状態では、後側可動プレート12bが前方に向かって斜め上方に立ち上がると共に前側可動プレート12cが後方に向かって斜め上方に立ち上がっており、固定プレート12aの上に腰を下ろした被搬送者の脚を、山形に立ち上がった後側可動プレート12b及び前側可動プレート12cによって、膝を立てた状態に支持するようになっている。一方、伸長状態のステー12dのロックを解除すると、ステー12dが収縮可能な状態となり、後側可動プレート12bの前端側を押し下げることができるので、山形に立ち上がった後側可動プレート12b及び前側可動プレート12cをフラットな状態にすることができる。
【0028】
前記シートマット13は、相互に連結された固定プレート12a、後側可動プレート12b及び前側可動プレート12cにそれぞれ固定されており、固定プレート12aと後側可動プレート12bとの連結部及び後側可動プレート12bと前側可動プレート12cとの連結部でそれぞれ屈曲可能に構成されている。
【0029】
前記摺動部14は、発砲ポリエチレンからなる弾性変形可能な弾性変形層14aと、その下側に積層された、階段の段鼻に摺接する摺接面が滑り性を有するポリエステル起毛スエードによって形成された摺接層14bとから構成されており、
図9に示すように、階段降下時に階段の段鼻SNが摺動部14に喰い込むと、弾性変形層14aが弾性変形することで制動力が作用するようになっている。
【0030】
前記可動載置台3は、金属製のベースフレーム21と、このベースフレーム21に取り付けられたベースプレート22と、ベースプレート22の上に取り付けられたクッション性を有するバックマット23及びヘッドレスト24と、ベースフレーム21の下面に取り付けられた、階段降下時に階段の段鼻に摺接しながら移動するマット状の摺動部25とを備えており、ベースフレーム21の前端部が固定載置台2のベースフレーム11の後端部に複数のヒンジを介して回動可能(起倒可能)に連結されている。
【0031】
前記摺動部25は、摺動部14と同様に、発砲ポリエチレンからなる弾性変形可能な弾性変形層25aと、その下側に積層された、階段の段鼻に摺接する摺接面が滑り性を有するポリエステル起毛スエードによって形成された摺接層25bとから構成されており、階段降下時に階段の段鼻が摺動部25に喰い込むと、摺動部14と同様に、制動力が作用するようになっている。
【0032】
前記操作フレーム4は、左右一対の縦フレーム31a、31a及び両縦フレーム31a、31aを連結する上下2本の横フレーム31b、31bとからなり、縦フレーム31a、31aの下端部が可動載置台3のベースフレーム21の後端部に回動可能に軸支されたフレーム本体31と、フレーム本体31の縦フレーム31aの下側中間部に一端が回動可能に連結され、他端が可動載置台3のベースフレーム21におけるフレーム本体31の回動支点より前側において前後方向に移動可能に連結された左右一対のリンク32、32と、左右一対のリンク32、32の他端をその移動範囲内の複数の位置に段階的に固定する固定ユニット33、33とを備えており、左右一対のリンク32、32の他端の固定位置を変更することで、可動載置台3に対するフレーム本体31の取付角度を所定の範囲内で段階的に変更することができるようになっている。
【0033】
前記走行用車輪5は、固定載置台2の後端両側部にそれぞれ配設された左右一対の側部車輪5aと、固定載置台2の幅方向の中央部で側部車輪5aの前側に配設された中央車輪5bとを備えており、廊下等の平坦面を移送する際に接地するようになっている。
【0034】
前記側部車輪5aは、固定載置台2の後端両側部に回転可能に取り付けられた、回転中心から放射状に延びる3本のアームを有する回転体41と、回転体41の各アームの先端にそれぞれ回転可能に取り付けられた車輪42とを有しており、廊下等の平坦面上では、
図4に示すように、2つの車輪42、42が接地し、それらの接地位置が摺動部14の摺接面の高さ位置より低くなるように設定されている。
【0035】
前記中央車輪5bは、
図3、
図6~
図8及び
図10に示すように、固定載置台2のベースフレーム11の幅方向の中央部にブラケット43を介して揺動可能に軸支された、固定載置台2の前後方向に延びる揺動体44と、揺動体44の揺動軸44aの前後にそれぞれ取り付けられた一対の自在キャスタ45、45と、一端が揺動体44の前部に、他端が固定載置台2のベースフレーム11にそれぞれ取り付けられた一対のコイルばね46、46とを有しており、揺動体44は前後端が上下動し、一対のコイルばね46、46は、揺動体44の前端側を常時上方に付勢している。なお、前記摺動部14には、中央車輪5bに対応する領域に開口部Oが形成されており、その開口部Oから一対の自在キャスタ45、45が突出した状態となっている。
【0036】
廊下等の平坦面上では、
図4に示すように、コイルばね46の付勢力に抗して揺動体44の後部側が押し上げられて、前後双方の自在キャスタ45、45が同時に接地するようになっており、2つの自在キャスタ45、45の接地位置が、摺動部14の摺接面の高さ位置より低く、側部車輪5aの2つの車輪42、42の接地位置と同一高さになるように設定されている。
【0037】
前記補助車輪6は、階段降下時に踊り場に最初に接地するように、固定載置台2の前端両側部にそれぞれ取り付けられており、補助車輪6の下端位置が摺動部14の摺接面の高さ位置より高く設定されている。従って、摺動部14、25を階段の段鼻に摺接させながら降下させる階段降下時に、補助車輪6が階段の段鼻を通過する際、階段の段鼻に接触することがなく、補助車輪6に起因したがたつきが発生することがない。
【0038】
以下、この身体搬送車1を用いて被搬送者を階上から階段の踊り場を経由して階下に搬送する方法について説明する。まず、
図11(a)に示すように、搬送者(図示省略)の体格等に合わせて可動載置台3に対する操作フレーム4の取付角度を調整した状態で、身体搬送車1に被搬送者(図示省略)を載せ、搬送者が操作フレーム4の横フレーム31bを握って持ち上げることで固定載置台2に対して可動載置台3を少し起こした状態で身体搬送車1を押しながら廊下CDを階段の方向に移送する。このとき、上述したように、走行用車輪5である左右一対の側部車輪5aの2つの車輪42、42及び中央車輪5bの前後の自在キャスタ45、45が同時に接地しており、補助車輪6及び摺動部14の摺接面は廊下面から僅かに浮いた状態になっているので、身体搬送車1を円滑に走行させることができる。
【0039】
同図(b)に示すように、補助車輪6が廊下面と面一の下り階段の最上段の段鼻SNを超えた後、中央車輪5bの前の自在キャスタ45が下り階段の最上段の段鼻SNを超える手前で身体搬送車1の走行を停止させ、可動載置台3をフラットな状態まで倒して被搬送者を完全に寝かせた状態で、
図12(a)に示すように、接地している側部車輪5aの前の車輪42が下り階段の最上段の段鼻SNに位置するまで身体搬送車1を移動させた後、同図(b)に示すように、被搬送者を完全に寝かせた状態の身体搬送車1を前傾させて摺動部14の摺接面を階段の複数の段鼻SNに接触させるようにして階段を下りていく。
【0040】
前記摺動部14、25は、摺接層14b、25bの摺接面が滑り性を有しているので、階段降下時に、搬送者が身体搬送車1を階段に沿って前方に軽く押すだけで身体搬送車1が階段に沿って容易に降下すると共に、摺接層14b、25bの上側に弾性変形層14a、25aが積層されており、階段の段鼻が摺動部14、25に喰い込むと、弾性変形層14a、25aが弾性変形することで制動力が作用するようになっているので、その制動力によって、階段降下時に搬送者がこの身体搬送車1から手を離しても身体搬送車1をその場に停止させることができる。
【0041】
廊下等の平坦面上では、摺動部14、25の摺接面が接触しないように、側部車輪5aの2つの車輪42、42が摺動部14、25の摺接面よりも下方側に突出しているので、摺動部14、25を階段の段鼻に摺接させながら降下させる階段降下時は、側部車輪5aの車輪42が階段に当接することになるが、
図13(a)、(b)及び
図14(a)、(b)に示すように、身体搬送車1が階段の段鼻SNに沿って降下する際、階段に当接した車輪42が階段に押されて回転体41が反時計回りに回転し、階段に当接した車輪42が階段の段鼻を通過する際、
図14(a)に示すように、車輪42が摺動部14、25の摺接面より上側に移動して摺接面から退避する(突出しなくなる)ので、身体搬送車1が浮き上がることなく、がたつきを抑えながら階段を降下させることができる。
【0042】
また、中央車輪5bは、
図15(a)及び
図16(b)に示すように、階段に接触していない状態では、前後双方の自在キャスタ45、45が摺動部14の摺接面から突出した状態になっているが、
図15(b)に示すように、前の自在キャスタ45が階段の段鼻SNに接触すると、その段鼻SNに押されて揺動体44の前端側が押し上げられ、前の自在キャスタ45が摺動部14の摺接面から退避し、
図16(a)に示すように、後の自在キャスタ45が階段の段鼻SNに接触すると、その段鼻SNに押されて揺動体44の後端側が押し上げられ、後の自在キャスタ45が摺動部14の摺接面から退避するので、自在キャスタ45、45が階段の段鼻SNを通過する際、身体搬送車1が浮き上がることなく、がたつきを抑えながら階段を降下させることができる。
【0043】
図17(a)に示すように、身体搬送車1の補助車輪6が踊り場LSに当接すると、同図(b)に示すように、操作フレーム4を操作することによって、固定載置台2に対して可動載置台3を徐々に起こしながら、中央車輪5b及び側部車輪5aが踊り場LSに接地するまで階段を降下させる。
【0044】
図18に示すように、身体搬送車1の中央車輪5b及び側部車輪5aが踊り場LSに接地すると、固定載置台2に対して可動載置台3をさらに起こして、身体搬送車1の全長を短くした状態で、身体搬送車1の前側が下り階段を向くように、踊り場LSで方向転換し、以降は、上階の廊下CDから踊り場LSまで階段を下りていく場合と同様の動作を行いながら、中央車輪5b及び側部車輪5aが階下の廊下に接地するまで降下させ、階下の廊下を目的地まで移送する。
【0045】
以上のように、この身体搬送車1は、階段降下時に搬送者がこの身体搬送車1から手を離しても、階段の段鼻が摺動部14、25に喰い込むことで制動力が作用し、身体搬送車1をその場に停止させることができるので、従来の身体搬送車のように、階段降下時に身体搬送車を一時的に停止させるための特別な機械機構を設ける必要がなく、構造を簡素化することができる。
【0046】
また、この身体搬送車1は、可動載置台3に対する取付角度を変更可能に可動載置台3に操作フレーム4が取り付けられているので、搬送者の体格に合わせて操作フレーム4の取付角度を変更することで、この身体搬送車1を楽な姿勢で走行させることができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、発砲ポリエチレンからなる弾性変形層14a、25aと、その下側に積層された、階段の段鼻に摺接する摺接面が滑り性を有するポリエステル起毛スエードによって形成された摺接層14b、25bとからなる摺動部14、25を採用しているが、これに限定されるものではなく、弾性変形層14a、25aとしては弾性変形可能な種々の素材を、摺接層14b、25bとしては摺接面が滑り性を有する種々の素材を採用することができる。
【0048】
また、上述した実施形態では、固定載置台2及び可動載置台3の双方に摺動部14、25を設けているが、これに限定されるものではなく、廊下等の平坦面上を走行する場合と同様に、固定載置台2に対して可動載置台3を起こした状態で、固定載置台2だけを階段の段鼻に摺接させながら降下させるのであれば、必ずしも、可動載置台3に摺動部を設ける必要はない。
【0049】
また、上述した実施形態では、廊下等の平坦面を移送する際に使用する走行用車輪5を設けているが、階段降下時と同様に、廊下等の平坦面を移送する際も摺動部14を平坦面に摺接させながら円滑に移送することができるのであれば、走行用車輪5は特に設ける必要はない。
【0050】
また、上述した実施形態では、階段降下時に走行用車輪5を構成している側部車輪5aの車輪42及び中央車輪5bの自在キャスタ45が階段の段鼻SNを通過する際、車輪42及び自在キャスタ45が摺動部14の摺接面から退避するようになっているが、これに限定されるものではなく、多少のガタツキを許容できるのであれば、階段の段鼻SNを通過する際に走行用車輪が摺動部14の摺接面から退避しない構成であってもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では、走行用車輪5である側部車輪5a及び中央車輪5b以外に、最初に踊り場LSに当接する補助車輪6を備えているが、これに限定されるものではなく、補助車輪6に代えて、踊り場に当接した状態で身体搬送車1を前後方向に滑らすことができる摺接部材を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、病人や高齢者等の歩行困難な人を、階段を使って階下に搬送する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 身体搬送車
2 固定載置台
3 可動載置台
4 操作フレーム
5 走行用車輪
5a 側部車輪
5b 中央車輪
6 補助車輪
11 ベースフレーム
12 ベースプレート
12a 固定プレート
12b 後側可動プレート
12c 前側可動プレート
12d ステー
13 シートマット
14 摺動部
14a 弾性変形層
14b 摺接層
21 ベースフレーム
22 ベースプレート
23 バックマット
24 ヘッドレスト
25 摺動部
25a 弾性変形層
25b 摺接層
31 フレーム本体
31a 縦フレーム
31b 横フレーム
32 リンク
33 固定ユニット
41 回転体
42 車輪
43 ブラケット
44 揺動体
44a 揺動軸
45 自在キャスタ
46 コイルばね
O 開口部
CD 廊下
SN 段鼻
LS 踊り場
【手続補正書】
【提出日】2024-10-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送者の下半身を載せる固定載置台と、
頭部側を起こすことができるように回動可能に前記固定載置台に連結された、被搬送者の上半身を載せる可動載置台と、
前記固定載置台に設けられた走行用車輪と
を備え、
前記固定載置台は、階段降下時に階段の段鼻に摺接する摺接面を有する摺動部を有し、
前記走行用車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より低く設定されており、
前記摺動部は、前記摺接面が滑り性を有すると共に、前記摺接面の上側に弾性変形可能な弾性変形層を有し、
階段降下時に階段の段鼻が前記摺動部に喰い込んで制動力が作用することを特徴とする身体搬送車。
【請求項2】
前記可動載置台には、前記可動載置台に対する取付角度を変更可能に操作フレームが取り付けられている請求項1に記載の身体搬送車。
【請求項3】
前記走行用車輪は、前記固定載置台の両側部にそれぞれ配設された一対の側部車輪を備えており、
前記側部車輪は、前記固定載置台の両側部に回転可能に取り付けられた、回転中心から放射状に延びる複数のアームを有する回転体と、前記回転体の各アームの先端にそれぞれ取り付けられた車輪とを有している請求項1または2に記載の身体搬送車。
【請求項4】
前記走行用車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に配設された中央車輪を備えており、
前記中央車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に揺動可能に取り付けられた、前記固定載置台の前後方向に延びる揺動体と、前記揺動体の揺動軸の前後にそれぞれ取り付けられた車輪とを有しており、
前記揺動体が揺動することで、いずれか一方の前記車輪が前記固定載置台の摺動部の摺接面から退避可能に構成されている請求項3に記載の身体搬送車。
【請求項5】
階段降下時に踊り場に最初に接地する左右一対の補助車輪が前記固定載置台の前端部に取り付けられており、
前記補助車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より高く設定されている請求項4に記載の身体搬送車。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の身体搬送車において、前記走行用車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に配設された中央車輪を備えており、前記中央車輪は、前記固定載置台の幅方向の中央部に揺動可能に取り付けられた、前記固定載置台の前後方向に延びる揺動体と、前記揺動体の揺動軸の前後にそれぞれ取り付けられた車輪とを有しており、前記揺動体が揺動することで、いずれか一方の前記車輪が前記固定載置台の摺動部の摺接面から退避可能に構成されていることを特徴としている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
また、請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明の身体搬送車において、階段降下時に踊り場に最初に接地する左右一対の補助車輪が前記固定載置台の前端部に取り付けられており、前記補助車輪の下端位置が前記摺動部の摺接面の高さ位置より高く設定されていることを特徴としている。