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特開2025-23883タングステン化合物を用いたシロアリ防除剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023883
(43)【公開日】2025-02-19
(54)【発明の名称】タングステン化合物を用いたシロアリ防除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20250212BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20250212BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20250212BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P7/04
A01P17/00
A01M1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023136668
(22)【出願日】2023-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】517177970
【氏名又は名称】株式会社希少金属材料研究所
(72)【発明者】
【氏名】石川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】石川 郁子
(72)【発明者】
【氏名】村松 伸樹
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA16
2B121CA02
2B121CA52
2B121CA59
2B121CA61
2B121CA81
2B121CC02
2B121CC12
4H011AC03
4H011AC06
4H011BB18
4H011BC03
4H011BC18
4H011DA14
4H011DA16
4H011DD05
(57)【要約】
【課題】一般的な酸化タングステンは粒子サイズが大きく、被着体の中に浸透しないため、長期の屋外や室内においては被着体からの脱離が生じてシロアリに対する防除効果が経年変化により消失するという問題があった。また、有機系のシロアリ防除効果は該有機化合物が揮発する、また水に溶出するために長期に渡る効果の持続性に課題があった。
【解決手段】本発明においてはタングステン化合物を50nm以下のサイズのナノ粒子化することにより木材などセルロース系素材に容易に表面から深部まで浸透させられるため、シロアリへの防除効果の高いタングステン化合物が被着体の表面から外部に溶出されない。この結果、シロアリ防除効果が長期に渡り効果が持続する。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロアリ防除剤において、平均粒径が50nmサイズ以下、且つタングステン酸アンモニウム塩のM・(NHn-P・Cl・ mWO・rHO、M・(NH2x-p・Cl・(WO・zHO またはM・(NH2x・Cl・(WO・(WO・zHO(n>0,n>P≧0、m>0,r≧0, q≧0,x>0,y≧0,Z≧0、M:Li,Na,K,Cs,H,Ca,Mg)、タングステン酸塩のM1-TWO・zHO(M:Na,Li,K,Cs,H,Ca,Mg,1≧T≧0,Z≧0)の中から少なくとも1種以上を含んだタングステン化合物からなるものを特徴とするシロアリ防除剤。
【請求項2】
請求項1記載のタングステン化合物において、WをMoに置換したタングステン化合物あることを特徴とするシロアリ防除剤。
【請求項3】
請求項1,2に記載のシロアリ防除剤にTi,Sn,In,Ga,Cu,Agの中から、少なくとも1つの元素を含んだ酸化物を含ませたことを特徴とするシロアリ防除スラリー。
【請求項4】
請求項1から3に記載のシロアリ防除剤をセルロース主成分の素材に浸透させた素材のタングステン化合物の量が0.01重量%以上であることによるシロアリに対する防除機能を有することを特徴とするセルロース含有の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタングステン化合物を用いたシロアリ防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にシロアリ防除剤は、忌避または殺蟻のいずれかの効果を持つものである。シロアリは、木材を加害し建物のみならず木材を利用した構造物に対して多大な被害をもたらしている。これまでのシロアリによる被害を防ぐ方法としては次のものがある。直接的に薬剤をかけることでシロアリを殺す方法である。ベイト剤を用いてシロアリに殺蟻効果のある薬剤を食させ、そのシロアリもしくは栄養交換やグルーミングなどで巣の中にいるシロアリに対し殺蟻効果を与える方法である。また、揮発性の化学物質を用いてシロアリに対して忌避効果または殺蟻効果をもたらす方法である。あるいは物理的な障壁・障害物を用いてシロアリの侵入を防ぐ方法である。これらは、それぞれ単独の効能であり、状況によって方法を選び、単独の効果もしくは複数の効果を組み合わせて利用されてきた。
【0003】
通常の殺虫剤として使用されている有機系素材としてはピレスロイドが一般的である。これは除虫菊の花に含まれている天然殺虫成分ピレトリンと、それに似せて作られた化合物になっている。特徴としては昆虫の神経を麻痺させる作用がある。具体的にはピレトリン、アレスリン、イミプロトリン、エムペントリン、シフェノトリン、シフルトリン、トランスフルトリン、ビフェントリン、フェノトリン、フタルスリン、フラメトリン、プラレトリン、プロフルトリン、ペルメトリン、メトフルトリン、レスメトリン、モンフルオロトリン、エトフェンプロックスがある。昆虫の神経の働きを阻害することで、効果を示す有効成分となる有機リン系殺虫剤としてはジクロルボス、フェニトロチオン、フェンチオン、トリクロルホン、プロペタンホス、ダイアジノン、ピリダフェンチオンがある。有機ケイ素系殺虫剤にはシラフルオフェンがある。アミジノヒドラゾン系殺虫剤としてはヒドラメチルノンが挙げられる。フェニルピラゾール系殺虫剤としてはフィプロニルがある。カーバメイト系殺虫剤としては、例えばフェノブカルブ、プロポクスル、カルバリルが代表的である。
【0004】
その他にホウ酸系に関してはホウ酸団子がある。オキサジアゾール系殺虫剤としてはメトキサジアゾンが挙げられる。昆虫の脱皮、または変態を抑制し、成虫の発生を予防する有効成分としてメトプレン、ピリプロキシフェン、ジフルベンズロンが挙げられる。
【0005】
昨今ではピレスロイド系殺虫成分、有機リン系殺虫成分、カーバメイト系殺虫成分に抵抗性をもつ害虫にも効果を持つネオニコチノイド系殺虫剤が開発されている。具体的にはイミダクロプリド、クロチアニジン、アセタミプリド、チアメトキサムがある。この中でもチアメトキサムはシロアリに対する持続的な殺虫効果がある。ネオニコチノイド系殺虫剤は昆虫の神経に作用することでピレスロイド系殺虫成分に抵抗性のある害虫の駆除に使われる。主な適用害虫は、ヤスデ、アリ、ダンゴムシ、ワラジムシ、ハサミムシ、ムカデ、ヤマビルなどの不快害虫がいる。しかし、ネオニコチノイド系はミツバチが大量に死ぬ鋒群崩壊症候群の原因である可能性が高いとされEUなどで規制対象になっている。
【0006】
忌避剤として有名な剤としては虫よけ効果のある香料や、衣料害虫よけに使われているピレスロイド系殺虫成分「エムペントリン」などがある。これは直接、肌に塗布しても問題がないと報告されている。具体的にはディート、イカリジンがその効果を持つことで知られている。
【0007】
有機化合物系の殺虫剤・忌避剤は、虫の種類に応じて、様々な効果のメカニズムを利用して開発されてきた。しかしながら基本的には有機物系素材の為、蒸発して減少し、また大気中の酸素と反応して劣化するので、長期に渡る効果がないのが致命的となっていた。
【0008】
一方、無機系の化合物においてはタングステン化合物やモリブデン化合物の殺虫効果が高いことが特許文献1、非特許文献の文献1には記載されている。この中でモリブデン化合物はモリブデン元素が発がん性物質であるので嫌厭されてきた。但し、タングステン化合物もモリブデン化合物も効果が長期的に持続すると期待されてきた。
【0009】
特にタングステンおよびタングステンを含む化合物は、特許文献1に記載されているようにシロアリのような昆虫においては木質の消化を助ける菌類による窒素固定を阻害して死に至らしめる効果を持ち、増殖を抑制することが知られている。タングステンは、特定の動物にのみ選択的に抑制効果を持ち安全性が高い。タングステンは高価でなく入手が容易である。そのためシロアリ防除剤として有望なものとして期待された。しかし、従来の報告例ではそれらの化合物の粒子サイズが大きく、耐候性に弱く雨などにより流れ出てしまうなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59-082309
【非特許文献】
【0011】
【文献1】
日本環境動物昆虫学会誌・モリブデンおよびタングステン化合物のシロアリ防除への応用 吉村開・勝田純郎・西本孝一(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のシロアリ防除剤は有機物系であり、具体的にはピレスロイド系、有機リン系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤等が忌避剤や殺虫剤として使用されてきた。これらの有機化合物系の防除剤は揮発性の物質であり空気中に拡散し消失することや、水に触れると溶出すること、また空気中の酸素触れて酸化分解することにより長期の効果が得られないという問題が発生していた。また、一部の有機化合物が水に溶出し河川や地下水を汚染するという問題が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては蒸発することが無い無機化合物素材としてタングステン化合物をナノ粒子化することにより、木材などの多孔性の部材に容易に表面から深部まで浸透させ、シロアリへの防除効果の高いタングステン化合物が被着体の表面から外部に溶出されないため長期の耐久性が維持される。
【問題の解決策】
【0014】
この発明はこのタングステン化合物のシロアリに対する防除機能を利用する新しいものである。防除効果としてはシロアリが寄らないという忌避効果と殺虫効果のいずれかを持つものを示す。これまでの薬剤を用いた防除剤は、忌避作用を持つ薬剤を木材に付着させ、且つ木材の周辺に散布し揮発した物質に対し防除するものである。揮発性の物質(ピレスロイド系等)は、空気中に拡散し分解するので長期間効果が持続しない。
【0015】
様々な素材を用いてシロアリ忌避効果を調べた中で、タングステン酸アンモニウム化合物が非常に強いシロアリ忌避効果があることが分かった。更にタングステン酸アンモニウム化合物は気化する素材ではなく長期安定した素材であるので経年劣化が小さいという性能を持っている。本発明のタングステン酸アンモニウム化合物の粒子としてはサイズが小さいことが良く、結晶または非晶質状態でも良い。形態としては溶媒に解けた状態にしてスプレーで塗布した状態においても充分な効果を持っている。タングステン酸アンモニウム化合物として組成的にはW,O,N,Hを少なくとも含んだものより成り立つが、他の元素を加えても同様な効果が得られる。他にPt,Ru,Ag,Pd,Cu,Ni,Sn等を添加しても良い。タングステン酸アンモニウム化合物は多種の組成、結晶構造を持つものであり、それらの組成や結晶構造にシロアリ忌避効果は依存しないために同様に忌避効果は高い。
【0016】
本発明のタングステン化合物の例として、代表的にはタングステン酸アンモニウム塩としてM・(NHn-P・Cl・ mWO・rHO、M・(NH2x-p・Clq・(WO・zHO またはM・(NH2x・Cl・(WO・(WO・zHO(n>0,n>P≧0、m>0,r≧0, q≧0,x>0,y≧0,Z≧0、M:Li,Na,K,Cs,H,Ca,Mg)、タングステン酸塩としてM1-TWO・zHO(M:Na,Li,K,Cs,H,Ca,Mg,1≧T≧0, Z≧0)の中から少なくとも1種以上を含んだものからなるタングステン化合物が挙げられる。
【0017】
タングステンサイトに他の元素として、Mo,La,Nd,Cr,As,Cd,Ta,Sr,Ca,Mg,Al,Si,Sn,Cu,Fe等の金属元素が入っても良い。
【0018】
これらの化合物のサイズが1um以上ではセルロース系素からなる構造体、部品、建設素材が持つ特有のナノポーラスな部分に浸透しないために、これらの素材としては500nm以下が良く、望ましくは50nm以下が好ましい。サイズが小さいとセルロース系素材からなる構造物、部品、建設素材の表面から中心部に浸透しやすく、耐候性、経年変化に強いことが確認された。
【0019】
この結果、本発明のスラリーとして、この化合物のサイズの分布としては全体の粒度分布の中で、構成としては50nm以下のサイズの粉の量が少なくとも全体の0.1重量%、望ましくは5重量%を含んだものからなるスラリーであることが望ましい。
【0020】
シロアリ防除効果を有効に作用させる方法としては、セルロース系木質素材や構造体、部品、建設素材、ひも状のものに対して、50nm以下のサイズの粉を用いることで効果が著しく発揮されることが試験的に確認された。
【0021】
本発明のスラリー構成として、溶媒は極性、非極性溶媒でも良く、溶媒種には限定されない。また、溶媒の中に蒸気圧にも限定されないが、蒸気圧の小さい有機溶媒を用いることにより忌避効果の長期の性能が得られやすく、また溶媒に接着剤、もしくはバインダーとなる添加物を加えて乾燥過程で硬化させることにより長期の経年変化に対応させることが可能である。殺虫効果だけの場合には単純には水やエタノール、イソプロパノール等に分散させた液をセルロース系素材からなる構造物、部品、建設素材の表面から中心部に浸透させて乾燥することで良い。
【0022】
溶媒を気化させて防除剤を残す方法では具体的には溶媒の一例として、水、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトフェノン、シクロヘキサノール、ヘブタン、オクタン、シクロヘキサン等の低沸点溶媒が妥当である。また逆に長期間に渡って防除剤を溶媒中に保持するために用いる場合においては、蒸気圧の小さい有機溶媒として具体的にエチレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸エチル類、プロピレングリコール、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。被着体の中に接着剤で防除剤を固定化するためのバインダーとしてはユリア系、メラミン系、フェノール系、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ブチルゴム系、シリコーンゴム系、アクリルゴム系、ウレタンゴム系等が挙げられる。この際に特に極性、非極性の溶媒種に限定されない。
【0023】
本発明のタングステン化合物がセルロース系化合物の素材に浸透した際の防除効果が得られるように処理する方法に関しては、少なくとも素材の重量に対して0.01重量%を含んでいると、防除効果が得られる。この際、構造体や部品、建設素材、家具に対してタングステン化合物が塗布した表面から少なくとも厚み10um以上に素材の重量に対して0.01重量%を含んでいると、防除効果が得られる。防除効果を高めるためには望ましくは0.1重量%を含んでいることが良い。更に表素材面から厚み100umまでのタングステン化合物の含有量として、100umの厚みで削り取った剥片におけるタングステン化合物の含有量の重量%が0.01重量%以上であれば良く、特に表面付近での重量%が多くても、逆に内側の方の含有量の重量%が大きくてもシロアリ防除効果において十分な効果が得られる。含有量の分布形態には限定されない。但し望ましくは本発明においては表面近傍に含有量が高い方が望ましい。
【0024】
本発明のスラリー液の作製方法として、タングステン酸塩、またはタングステン酸アンモニウム塩が水に対して溶解しやすい場合、非水系のエタノール、イソプロパノール、ブタノール等の揮発性の溶媒でスラリーを作製して、そこにバインダーを添加しても良い。この際、望ましくは防除剤に対して防除剤重量の等量以上の添加することが良い。揮発しにくい溶媒で塗布することでも良いが、望ましくはアルコール系溶媒を用いることが良い。その他の方法としてタングステン酸やタングステン酸塩のナノ粒子の表面をユリア系、メラミン系、フェノール系、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ブチルゴム系、シリコーンゴム系、アクリルゴム系、ウレタンゴム系等のバインダーにより被覆して硬化させたものを用いても良い。
セルロース含有素材のガラス化としては表面よりテトラエトキシチタンやテトラプロポキシシランを溶かした有機溶媒と本発明の防除剤を混ぜて塗布して、セルロース系素材の表面から内側の領域で加水分解させて、ガラス成分の中に防除剤を固定化することにより耐腐食性、耐候性、表面強度の改善が出来る。また、この際に有機無機ハイブリッド素材としてTi,Siが主骨格の成分を含ませたものを用いても良い。
【0025】
防除剤の機能をより長く保持するためにキレート剤、緩衝液を用いても良い。
【0026】
着色剤を使用することもでき、着色剤としては、無機顔料(例えば酸化鉄、酸化チタンそしてプルシアンブルー)、そしてアリザリン染色、アゾ染色又は金属フタロシアニン染料のような有機染料そして更に、鉄、マンガン、ボロン、銅、コバルト、亜鉛等のこれらの塩のような微量要素を挙げることができる。
【0027】
本発明の対象とするセルロース主成分の素材としては木質系素材、植物系の素材でも良く、特にセルロースを含むものであることが対象となる。対象としては、建築材で用いられる木材や端材がある。繊維として用いられる糸や布あるいはそれらを用いた服や構造物がある。針葉樹や広葉樹、麻、コウゾ、ミツマタ、サトウキビの絞りかす、イネ科のヨシ、果物搾りかす、再生古紙などを原料とするパルプがある。セルロースから作られる樹脂などがあり、セルロース系素材から構成される物の形状が板状や棒状でも良く、更に紐状、もしくは糸状のものでも良い。更に建築物、一般住宅の建造物、木材を用いた船、遊具、垣根、家具等に使用できるものである。特に用途の種類に限定されるものではない。その他として、絹やグラスウール、ロックウール、セルロースファイバー、羊毛(ウールブレス)、フェルト、コルク、炭化コルク、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、EVAフォーム、PPフォーム、PETフォーム、ウレタンフォーム、ゴムスポンジ、フェノールフォーム、インシュレーションボードなどが可能である。
【0028】
本発明のシロアリ防除効果を持つスラリーをセルロース含有の素材からなる構造物に含ませる方法として、セルロース系素材の中に含有させることが有効であるので、溶媒を用いた浸透圧により構造体の中に浸透させることが挙げられる。これは一般的な塗料をスプレーガンで塗布することやペンキの刷毛、スポンジローラーによる塗工でも良く、通常のペンキ塗装と同様な方法で施工が出来る。また、真空装置を用いる場合には一度スラリーを塗布した後に減圧にして中に浸透させることでも良い、その他として加圧浸透させることでも良い。これらの塗布後に室温、室温以上の加熱処理を行って、スラリー中にある溶媒を飛ばす工程と、またはスラリー中にあるモノマーを重合させる、もしくは重合反応、熱可塑的な成分による融着により本発明のタングステン化合物のナノ粒子を固定化することが良い。
【0029】
補足として本発明のシロアリ防除スラリーにバインダーを添加したものでは木材に塗布することにより、水に1ヶ月浸漬してもシロアリ防除効果は維持されるが、一般的な有機系シロアリ忌避、殺虫剤では水に溶出してシロアリ忌避、殺虫効果が消えていた。
【0030】
この発明のタングステン化合物のナノ粒子を含む部材には忌避効果がある場合があり、この素材の特徴として活用が期待される。例えば忌避効果がある時には、害虫を近づけない忌避剤として働き、忌避効果がない場合においてはシロアリに対し殺蟻効果がある。忌避効果と殺蟻効果の、少なくともどちらかの性能を有した化合物であることを特徴とする。
【0031】
本発明のタングステン化合物のナノ粒子を用いた防除効果を様々な虫に関して試験をした結果、木材を可食するキクイムシ類、ナガキクイムシ類、カミキリ類、シバンムシ、ゾウムシ、カツオブシムシ、アリ、アリガタバチ、カメムシ、マダニ、トコジラミ、チャタテムシ、イガ、ノシメマダラメイガ、コクヌスト、コクヌストモドキ、ケシキスイ、ヒラタムシ、ホソヒラタムシ、ゴミムシダマシ、ムカデ、ナメクジ等にも少なくとも効果があることが分かり、また蛾が寄り付かない防除効果もあることが分かった。
【0032】
本発明の防除効果の対象となる害虫は、特に限定されないが、トビムシ目、シミ目、ハサミムシ目、シロアリモドキ目、ナナフシ目、コバネイナゴなどのバッタ目、シロアリ類、ゴキブリ類などのゴキブリ目、チャタテムシ、シラミ、ハジラミなどのカジリムシ目、アザミウマ目、ウンカ・ヨコバイ類、マルカメムシ、クサギカメムシ、ヘリカメムシ類、トコジラミなどのカメムシ目、アリガタバチ類、アリ類、スズメバチ類、アシナガバチ類などのハチ目、キクイムシ類、ナガキクイムシ類、カミキリ類、シバンムシ類、ゾウムシ類、カツオブシムシ類、コクヌスト類、コクヌストモドキ類、ケシキスイ類、ヒラタムシ類、ホソヒラタムシ類、ゴミムシダマシ類などのコウチュウ目、ネコノミなどのノミ目、ネッタイシマカ、アカイエカなどのハエ目、イガ、ノシメマダラメイガなどのチョウ目、マダニなどのダニの仲間、セアカゴケグモなどのクモの仲間、ムカデなどの多足類、チャコウラナメクジ、アフリカマイマイ、スクミリンゴガイなどの軟体動物、ニューギニアヤリガタウズムシなどに効き、中でも効果の著しい害虫としては、木材を可食する害虫でゴキブリ目シロアリ下目、例えばヤマトシロアリ(Deucotermes speratus)、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)、カタンシロアリ(Glyptotermes fucus)、サツマシロアリ(Glyptotermes satsumensis)、ナカジマシロアリ(Glyptotermes nakajimai)、コダマシロアリ(Glyptotermes kodamai)、アメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor)、コウシュンシロアリ(Neotermes koshunensis)、ダイコクシロアリ(Cryptotermes domesticus)、オオシロアリ(Hodotermopsis japonica)、アマミシロアリ(Reticulitermes miyatakei)、タイワンシロアリ(Odontotermes formosanus)、タカサゴシロアリ(Nlasutitermus takasagoensis)、ニトベシロアリ(Capritermes nitobei)等を挙げることができる。
【0033】
本発明のシロアリ防除剤に既存の殺虫剤、または忌避剤として利用されている薬剤、例えばピレスロイド系殺虫成分、有機リン系殺虫成分、カーバメイト系殺虫成分に抵抗性をもつ害虫にも効果を持つネオニコチノイド系殺虫剤等がある。具体的にはイミダクロプリド、クロチアニジン、アセタミプリド、チアメトキサムがある。更には有機リン系殺虫成分、カーバメイト系殺虫成分、ネオニコチノイド系殺虫剤等を併用して使用することにより瞬間的な効果を出すことが出来る。この際に初めに殺虫剤で処理を行ってから、本発明のシロアリ防除剤を使う方法でも同様な効果が得られる。もしくはこれらの殺虫剤成分と本発明のシロアリ防除剤を混合した液を用いて使用することが出来る。
【発明の効果】
【0034】
本発明のタングステン化合物のナノ粒子をセルロース系素材含有の板や棒、柱等の構造体や建築物、遊具、垣根、家具に用いることにより、シロアリに対して、防水性・耐候性を持ちながら防除効果を発揮することを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】タングステン酸アンモニウム塩の一例としてPd添加したNa・(NHn-P・ mWOのSEM-EDXの評価による組成を図1に示した。
図2図2にW,N,Oから成り立っているタングステン酸アンモニウム塩のシロアリ防除剤の組成の一例を示した。
図3図2に示したW,N,Oから成り立っているタングステン酸アンモニウムのSEM像。
図4図2に示したW,N,Oから成り立っているタングステン酸アンモニウムのTEM像。
図5】酸化タングステン20nmナノ粒子のSEM-EDXの評価による組成を図5に示した。
図6】酸化タングステン20nmナノ粒子のTEM写真を図6に示した。
図7】棒材の表面から内側にナノ粒子が浸透している部分を色付けした木材のイメージ図である。
図8】酸化タングステンの数umの粒子を3重量%で分散して、棒材の木にスプレーで側面を塗布したイメージ図を示した。
図9】タングステン酸塩やタングステン酸の粒子表面に樹脂コートをしたコアシェル構造のイメージ図を示した。
図10】プラスチックの入れ物の中心位置に木材を設置しシロアリの殺蟻効果を評価する実験セット図を示した。
図11】プラスチックの入れ物の中心位置に木材を設置し、木の両脇にペーパータオルを設置してシロアリの忌避効果を評価する実験セット図を示した。
図12】プラスチックの入れ物の中心位置に木材を設置し、木の両脇にペーパータオルを設置してシロアリの忌避効果を評価した時の状態の写真。
図13】直径8cm×高さ5cmのプラスチック容器に浅く土を入れ木材(1.8cm×2.5cm×3cm)を置いてシロアリ殺蟻効果を評価した実験セットのイメージ図を示した。
図14】防除剤を吸わせた木材と未処理の木材を入れた12日目の実験後の写真。
図15】直径8cm×高さ5cmのプラスチック容器にろ紙を入れてシロアリにより摂食されたろ紙の消失状況と殺蟻効果を調べる実験セットの写真。
図16】シロアリにより摂食されたろ紙の消失状況の比較結果の写真。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のタングステン化合物は代表的にはタングステン酸アンモニウム塩としてM・(NHn-P・Cl・ mWO・rHO、M・(NH2x-p・Cl・(WO・zHO またはM・(NH2x・Cl・(WO・(WO・zHO(n>0,n>P≧0、m>0,r≧0, q≧0,x>0,y≧0,Z≧0、M:Li,Na,K,Cs,H,Ca,Mg)、タングステン酸塩としてM1-TWO・zHO(M:Na,Li,K,Cs,H,Ca,Mg,1≧T≧0, Z≧0)の中から少なくとも1種以上を含んだものからなるタングステン化合物が挙げられる。これらの中でアンモニアサイトを他の1価の金属イオンに置換したものや、更に含水結晶となるものもある。どちらもナノ粒子にサイズにしたものにおいてはシロアリの防除効果が実験的に高く得られた。またタングステン酸塩として塩のカチオン1価、または2価の金属イオンでも同様なシロアリ防除効果を示す。タングステン酸としてはHWO,HWOが代表的な組成式としてあるが、これも同様なシロアリ防除効果を示し、且つ酸化タングステンのナノ粒子も同様な効果を示す。
【0037】
また、タングステン酸アンモニウム塩の表記として、タングステン酸アンモニウム塩としてM・(NHn-P・Cl・ mWO・rHO、M・(NH2x-p・Cl・(WO・zHO またはM・(NH4)2x・Cl・(WO・(WO・zHO(n>0,n>P≧0、m>0,r≧0, q≧0,x>0,y≧0,Z≧0、M:Li,Na,K,Cs,H,Ca,Mg)として示される。含水物の状態から加熱処理により含水状態ではない状態でも同様な効果を示す。
【0038】
具体的な測定データの一部を示す。タングステン酸アンモニウム塩のSEM-EDXの評価による組成の一例を図1に示した。この際には塩素成分を含まず、アンモニアをNaに置換して、更にPdを添加したものを示した。アンモニアをNaに置換すること、またその量を変えて作製している。また、塩素を含有させたものも作製している。この表記を汎用的な表現としてタングステン酸アンモニウム塩としてM・(NHn-P・Cl・ mWO・rHO、 M・(NH2x-p・Cl・(WO・zHO またはM・(NH2x・Cl・(WO・(WO・zHO(n>0,n>P≧0、m>0,r≧0, q≧0,x>0,y≧0,Z≧0、M:Li,Na,K,Cs,H,Ca,Mg)として表現した。
【0039】
アンモニアを他の金属元素で置換しない場合の具体的な測定データの一部を示す。以下の用いたSEM,TEMについて装置名を記載する。SEMは株式会社日立ハイテクノロジーズSEM model S-4800である。TEMは株式会社日立ハイテクノロジーズmodel H-7650である。SEM-の評価による組成の一例を図2に示す。この結果、W,N,Oから成り立つことが確認される。水素はSEM-EDXでは検出できないために、成分分析では3成分から成り立っている。しかしながら、正確には水素を含んでおり、アンモニアとして含有している素材となっている。図3図4には、この組成を有する素材のSEM,TEM像を示す。この結果から、サイズが5nmから20nmのものとなっていることが観察される。
【0040】
図2に示したタングステン化合物において、組成としてWの原子1に対してMoに0.1、0.3原子比で置換したタングステン化合物も同様なシロアリ防除効果を持っていることが分かった。
【0041】
次にこれらの素材をシロアリ防除剤として有効に活用するには、耐候性、特に水に溶出すると長期の性能が維持できないことや、大きすぎると被着体のセルロース含有素材の組織内に浸透しないために被着体の表面に留まるために経年変化で脱落してしまう問題があった。本発明に示したように防除剤のタングステン化合物を100nm以下、望ましくは50nm以下にすることが良い。
【0042】
本発明はタングステン化合物を50nm以下にしてセルロース含有素材の中に浸透させ、且つ接着剤で固定化することにより耐水性や経年変化による脱落を防ぐことを達成した。補足ながら、50nm以下にしたタングステン化合物が被着体の中に浸透すると溶出はしにくく、特に接着剤(バインダー成分)を入れなくても、例えば比較例として用いた平均粒径1umのものよりも大きく改善された。
【0043】
図5図6にSEM-EDXの組成とTEM像を示した酸化タングステンナノ粒子20nmのものをイソプロパノールに3重量%で分散して、5cm角の棒材の木にスプレーで側面を塗布した結果、棒材の表面から内側に酸化タングステンナノ粒子を浸透させると、図7に示すように中まで浸透していた。比較例として酸化タングステン数umの粒子を3重量%で分散して、棒材の木にスプレーで側面を塗布した結果、図8に示すように棒材の表面にのみ残存した。この2つのサンプルに外側から水1Lを掛けて流した結果、比較例の棒材上にあった酸化タングステン数um粒子はほとんど流れてしまい、シロアリの防除効果はほぼ無くなった。
【0044】
酸化タングステンナノ粒子の代わりにパラタングステン酸アンモニウムのナノ粒子を用いても同様な結果となった。
【0045】
タングステン酸ナトリウムやタングステン酸リチウム等のタングステン酸塩に関しては水に溶出しやすいために本発明では非水系の溶媒を用いており、且つ接着剤によりこのタングステン酸塩を包含するので酸化タングステンのナノ粒子をスプレーで塗布した時と状態と同じになり、同様な効果が得られた。また、タングステン酸ナトリウムのようなタングステン酸塩やタングステン酸の粒子表面に、図9に示すような樹脂コートを行ってコアシェル構造を形成して溶媒に対する溶出を防ぎ、且つ溶媒に対する分散性を改善することが出来る。
【0046】
タングステン化合物のナノ粒子を用いたシロアリ防除スラリーにおいてTi,Sn,In,Ga,Cu,Agの酸化物を含めることにより、防除効果が更に改善することが実験的に確認できた。この際、具体的には酸化チタンや酸化第一錫、酸化第二錫、酸化インジウムをタングステン化合物の重量に対して、少なくとも0.1重量%、望ましくは1重量%を添加することによりシロアリ防除効果が改善されることが実験的に確認された。また、鉄や銅の酸化物が含まれてもシロアリ防除効果が同様に確認できた。
【0047】
具体的な例としてバインダーとしてアクリル系エマルジョン(新中村工業製 R-5HN)を10重量%、平均粒径5~10nmのタングステン酸アンモニウム塩を5重量%含んだイソプロパノールからなるシロアリ防除スラリーをセルロース含有の素材に塗布し浸透させたサンプルを作製して、素材の表面をサンドペーパーで研磨して、シロアリ防除効果を1年間の経年変化で調べた結果、素材の表面層厚100umの場所においてタングステン化合物の量が0.01重量%以上であることによりシロアリに対する防除機能を発揮するセルロース含有の部材が作製できることが分かった。また、溶媒を水にしても同様な効果が得られた。特に本発明において溶媒は極性溶媒に溶けるタングステン化合物ナノ粒子を用いる場合には非極性溶媒が好ましく、非極性、極性溶媒に対して溶けないタングステン化合物ナノ粒子の場合には溶媒種に限定されない。
【0048】
また、耐水性の評価として、無機成分であるポリシロキサンと有機成分であるアクリル樹脂がナノオーダーで化学的に複合化した構造を有する、水性有機‐無機ハイブリッド型樹脂アクリル樹脂系バインダー(大日本インキ製 セラネートWHW-822)を5重量%、平均粒径10nmのタングステン酸アンモニウムを2重量%含んだ水からなるシロアリ防除スラリーを、5cm角の長さ20cmのヒノキの角材にスプレー法で1m当たり10gになるように塗布した。これを水に1日浸漬して乾燥することを30回繰り返した後に、シロアリ防除効果を調べた結果、シロアリに対して強い防除効果が確認できた。また、このサンプルを用いて野外の土上に設置して5年間に渡ってシロアリ防除効果を調べた結果、5年経過してもシロアリ防除効果の性能は維持していた。
【0049】
本発明のタングステン酸アンモニウムは溶解度が高くはないが、僅かに水に溶けるのでオストワルド熟成現象が生じやすく、セルロース系木質材に浸漬して一度乾燥すると、セル構造体の中で粒子成長することが確認されている。このため、セル構造内で水やその他溶媒にナノ粒子として分散させて、乾燥時に粒子のサイズを大きくすることで、セルロース系木質素材から外への欠落を抑制できる。
【0050】
本発明の防除スラリーの定義として、少なくとも50nm以下のタングステン化合物を含んだものを溶媒に添加したものから構成され、分散液またはエマルジョン、固液が分離した状態のものも含んだものである。使用上ではバインダーや界面活性剤による表面処理やタングステン化合物ナノ粒子を帯電分散させることにより、溶媒に分散させることが望ましい。凝集していると木質等のセル構造体やセルロースを含んだものからなる多孔質素材に対しての浸透が下がる傾向がある。
【実施例
【実施例0051】
以下の実施例は光の無いところに設置して評価を行った。図10に本実験で行った際の評価方法を示した。図10のセットではプラスチックの入れ物の中心位置に木材を設置し、温度は室温として20℃前後になるようにエアコンで制御した。プラスチックケースに木材を入れた。木材としてヒノキを用いた。サイズは厚み1cm×高さ5cm×幅10cmのものを用いた。木材に防除スラリー2mlを含ませた。防除剤スラリーとしては酸化タングステン平均粒径20nmの粉を水に3重量%になるように添加し、更にこの水にジプロピレングリコールを6重量%になるように添加した。比較例として、水にジプロピレングリコールを6重量%になるようにしたものを同量で木材に添加したものを用いた。この容器にヤマトシロアリ20匹を入れて蓋をして5日後、10日後の生存状態を観察した。この結果を表1に示す。表中の数値は生存数を示している。防除剤を含んだ木材の方はヤマトシロアリが全滅していた。比較例の方は全てのヤマトシロアリが生存していた。短期間で殺蟻効果を示すような防除効果があることが分かった。
【0052】
【表1】
【実施例0053】
実施例1において、溶媒はイソプロパノールを用いて、防除液の成分としてタングステン酸ナトリウムNaWOを用いた。溶媒に溶かす成分として蒸気圧の小さい有機物であるオレイン酸を用いた場合を示す。オレイン酸は油なので撥水効果があり水には溶出しない性質がある。プラスチックケースに木材を入れた。木材としてヒノキを用いた。サイズは厚み1cm×高さ5cm×幅10cmのものを用いた。木材に防除スラリー2mlを含ませた。比較例としてイソプロパノールにオレイン酸を2重量%になるように添加したものを用いた。本実施例としてイソプロパノールと防除剤、オレイン酸を含ませたものを用いた。防除スラリーとしては防除剤のNaWOの平均粒径50nmにした粉をイソプロパノールに1重量%になるように添加して、更にオレイン酸を2重量%になるように添加し超音波装置を用いてスラリーを作製したものを用いた。この際にどちらの木材もイソプロパノールを気化させて乾燥させた。次にこの容器にヤマトシロアリ20匹を入れ観察した。この結果を表2に示す。表中の数値は生存数を示している。この結果、防除剤を含んだ木材を用いた評価では10日後にはヤマトシロアリは全滅していた。イソプロパノールのみを用いた木材ではヤマトシロアリが10日後も生存していた。観察期間において死滅したヤマトシロアリが10匹はいた。短時間で防除効果があることが分かった。
【0054】
【表2】
【実施例0055】
図11に本実験で行った際の評価方法を示した。温度は室温として20℃前後になるようにエアコンで制御した。防除剤のタングステン酸アンモニウムとして平均粒子サイズが30nmの(NH0.25WOの粉を水に3重量%になるように添加して、更にこの水にアクリル系エマルジョンバインダー(新中村工業製 R-5HN)を6重量%になるように添加した。この液を防除スラリーとして用いた。プラスチックケースに木材を入れ、木材の両端にペーパータオルを設置した。木材として合板を用いた。サイズは厚み1cm×高さ5cm×幅10cmのものを用いた。ペーパータオルにそれぞれ水と防除スラリーを1ml含ませた。この際、どちらのペーパータオルも自然乾燥させた。この容器にヤマトシロアリ20匹を防除剤の含んだペーパータオル側に入れ観察した。この結果を表3に示す。この結果、防除剤を含んだペーパータオルの方には1匹もヤマトシロアリがいなかった。水側の方に全てのヤマトシロアリが移動していた。この観察期間において死滅したヤマトシロアリはいなかった。図12に評価後の状態の写真を示した。この写真から水側の方へ移動していることが分かる。短時間で忌避効果としての防除効果があることが分かった。
【0056】
【表3】
【実施例0057】
実施例3において、防除剤のタングステン酸アンモニウム(NH0.25WOの平均粒径の異なるものを用いてサイズの違いによる防除効果を調べた。この際、防除剤の(NH0.25WOの平均粒子サイズを変えた粉を用いて水に3重量%になるように添加して、更にアクリル系エマルジョンバインダー(新中村工業製 R-5HN)を6重量%になるように添加した。これを防除スラリーとして用いた。水のみの方にはアクリル系エマルジョンバインダー(新中村工業製 R-5HN)を6重量%になるように添加したものを用いた。この際、どちらのペーパータオルもヤマトシロアリを入れる前に乾燥させた。この容器にヤマトシロアリ50匹を防除剤を含んだペーパータオル側に入れ観察した。この結果を表4に示す。表4では2日後の生存数を示した。この結果、防除剤を含んだペーパータオルの方には1匹もヤマトシロアリがいなかった。水側の方に全てのヤマトシロアリが移動していた。この観察期間において死亡したヤマトシロアリはいなかった。短時間で忌避効果としての防除効果があることが分かった。更にこの結果から、少なくとも100nmサイズ、望ましくは平均粒径50nm以下が良いことが分かった。
【0058】
【表4】
【実施例0059】
実施例4において防除剤液をタングステン酸アンモニウムの(NH0.25WOに対してTiO 5nmナノ粒子を10重量%添加したものを用いた。更にポリウレタン系バインダー(荒川化学工業製ユリアーノ W600)を用いた場合を示す。これを防除スラリーとして用いた。プラスチックケースに木材を入れ、木材の両端にペーパータオルを設置した。木材として合板を用いた。ペーパータオルにそれぞれ水と防除剤を含ませた。防除剤としては(NH0.25WOの平均粒子サイズを変えた粉を用いて水に3重量%になるように添加して、更にポリウレタン系バインダー(荒川化学工業製 ユリアーノ W600)を6重量%になるように添加した。比較例の方は水に(荒川化学工業製 ユリアーノ W600)を6重量%になるように添加したものを用いた。この際、どちらのペーパータオルも乾燥させた。この容器にヤマトシロアリ50匹を防除剤を含んだペーパータオル側に入れ観察した。この結果を表5に示す。表5では2日後の生存数を示した。この結果から、少なくとも100nmサイズ、望ましくは平均粒径が50nm以下が良いことが分かった。また、実施例4の結果と比較すると、TiOの添加により忌避効果が更に強くなることが分かった。
【0060】
【表5】
【実施例0061】
実施例5においてTiOの代わりにSnO5nmのナノ粒子を10重量%添加したものを用いた。これを防除スラリーとして用いた。プラスチックケースに木材を入れ、木材の両端にペーパータオルを設置した。木材として杉の板を用いた。ペーパータオルにそれぞれ水と防除剤を含ませた。防除剤としては(NH0.25WOの平均粒子サイズを変えた粉を水に3重量%になるように添加して、水に対してSnO 5nmナノ粒子を0.3重量%添加し、更にバインダーを6重量%になるように添加して防除スラリーを作製させた。この際、どちらのペーパータオルも乾燥させた。この容器にヤマトシロアリ50匹を防除剤を含んだペーパータオル側に入れ観察した。この結果を表6に示す。表6では2日後の生存数を示した。この結果から、少なくとも100nmサイズ、望ましくは平均粒径50nm以下が良いことが分かった。実施例4の結果と比較すると、SnOの添加により忌避効果が更に強くなることが分かった。
【0062】
【表6】
【0063】
このような結果はIn,Ga,Cu,Agの酸化物においても同様な傾向がみられた。これらの元素の酸化物が含まれると忌避効果が改善されることが分かった。
【実施例0064】
実施例1において防除剤のタングステン酸アンモニウムとして(NH0.15Na0.11-xMo・0.2HOにおいてWをMoに0.1~0.5の範囲で置換して作製したナノ粒子を10重量%添加したものを用いた。更にバインダーとしてポリウレタン系バインダー(荒川化学工業製 ユリアーノ W600)を用いた場合を示す。プラスチックケースに木材を入れ、木材の両端にペーパータオルを設置した。ペーパータオルにそれぞれ水と防除剤を含ませた。防除剤としては(NH0.251-xMoの平均粒子サイズを50nmにした粉を用いて水に3重量%になるように添加して、更にバインダーを6重量%になるように添加した。この際、どちらのペーパータオルも乾燥させた。この容器にヤマトシロアリ50匹を防除剤を含んだペーパータオル側に入れ観察した。WをMoに置換した際の殺蟻効果の結果を表7に示す。表7では4日後の生存数を示した。この結果から、Moが入ることにより殺蟻効果が改善することが分かった。
【0065】
【表7】
【実施例0066】
図13に実験方法を示した。直径8cm×高さ5cmのプラスチック容器に浅く土を入れ、処理区として水にNa0.3・(NH0.5・Cl0.01・WO・0.5HOを5重量%添加し、ジプロピレングリコールを5重量%を添加して作製したスラリーからなる防除スラリー3ml、コントロールとして水3mlを吸わせた木材(1.8cm×2.5cm×3cm)を置き、ヤマトシロアリを20匹入れて観察した。殺蟻効果の結果を表8に示した。表中の数字は生存数を示した。この結果から防除剤を吸わせた方は11日目には1個体となり、12日目にはすべての個体が死亡した。それに対しコントロール区では13日目でも死亡する個体は存在しなかった。図14に12日目の防除剤を吸わせた木材と未処理の木材を入れた実験後の写真を示す。防除剤を吸わせた木材ではヤマトシロアリは全滅していた。未処理のものは全数が生存していた。この結果から殺蟻効果が著しいことが分かった。
【0067】
【表8】
【実施例0068】
図13に実験方法を示した。直径8cm×高さ5cmのプラスチック容器に浅く土を入れ、処理区として水にNa0.3・(NH0.5・Cl0.01・WO・0.5HOを5重量%添加し、ポリウレタン系バインダー(荒川化学工業製 ユリアーノ W600)を5重量%を添加して作製したスラリーからなる防除剤3ml、コントロールとして水3mlを吸わせた木材(1.8×2.5×3cm)を置き、ヤマトシロアリを20匹入れて観察した。殺蟻効果の結果を表9に示した。表中の数値は生存数を示した。防除剤を吸わせた方は11日目には1個体となり、12日目にはすべての個体が死亡した。それに対しコントロール区では13日目でも死亡する個体は存在しなかった。
【0069】
【表9】
【実施例0070】
パラタングステン酸アンモニウムの粉末をビーズで砕いて、平均粒径を1umから20nmにしたものを作製した。これらのサイズの異なるパラタングステン酸アンモニウムの粉を用いてサイズごとに塗料を作製した。溶媒は水に固定とし、粉は5重量%含み、バインダーとしてアクリル系エマルジョンバインダー(新中村工業製 R-5HN)を10重量%添加した。これらの各サイズの塗料を5cm×5cm×5cmのサイズのヒノキの棒状のものに5mlスプレーして乾燥させたものをサンプルとした。バインダーのキュア条件として130℃ 4minで処理を行った。これらのサンプルを2000番のサンドペーパーで表面を軽く研磨した。これらサンプルを用いて、シロアリの防除効果を実施例1に示すような方法で確認した。ヤマトシロアリは20匹入れて観察した。また、研磨面のパラタングステン酸アンモニウムの量は木質由来の炭素成分とWの原子比で表現した。表10にパラタングステン酸アンモニウムの50nmの粒子の防除剤を用いてSEM-EDXでの原子比を1として規格化して、その他の数値もその数値処理と同様にして木質に存在するW量を比較した。ここで、表9の研磨深さ0mmの数値は塗布後に木の木質が見える程度に0.1mm未満で研磨して最表面とした。この結果、比較例の1umの粒子では表面の研磨でほぼ欠落しており、本発明のものは表面から中心に浸透していることが分かる。
【0071】
【表10】
【0072】
実施例10において最表面を研磨したサンプルを用いてヤマトシロアリの防除効果を調べた。
表11に50nmのサイズの防除剤を用いた場合の殺蟻効果を調べた結果を示した。この際、比較例として1umのサイズのものを用いた。表中の数字はシロアリの生存数を示した。この結果から、従来品の大きな粒子を用いる場合には効果が低いことが分かった。
【0073】
【表11】
【実施例0074】
実施例10において、パラタングステン酸アンモニウムの粉のサイズを変えて、最表面から0.5mm削った際の研磨面のW/Cの比を1として規格化して、パラタングステン酸アンモニウムのサイズとW/Cの数値及びシロアリの殺蟻効果の関係を調べた。ヤマトシロアリを20匹入れて観察した。表12には10日後のヤマトシロアリの生存数を示した。この結果、表12に示すようにサイズが500nm以下になると、研磨してもパラタングステン酸アンモニウムが残留し、100nm以下になると顕著に残留し、更に50nm以下になると、その量は20nmのサイズのものと変わらないことが分かった。少なくとも100nm以下にすることで、残留するパラタングステン酸アンモニウムが多くなることが確認された。この残留量とシロアリの殺蟻効果との相関関係があることが分かり、本結果から少なくともセルロース系木質素材の内部に浸透させるには平均粒径が100nm以下、望ましくは50nm以下であることが良いことが分かった。
【0075】
【表12】
【0076】
実施例11において、パラタングステン酸アンモニウムを酸化タングステンの粉末に変えて、且つ、ヒノキを杉の木に置き換えて同様な試験を行ったが、結果は同様であった。
【実施例0077】
図15に実験方法を示した。直径8cm×高さ5cmのプラスチック容器にろ紙を入れ、そこにヤマトシロアリを20匹入れた。この際用いたろ紙は、水に防除剤として(NH0.2・Cl0.01・WOを0.5重量%で添加し、ジプロピレングリコールを2重量%を添加して作製したスラリーからなる防除スラリー1mlを染み込ませて80℃で1時間乾燥させたものである。比較例として未処理のろ紙を用いた。容器にヤマトシロアリとろ紙を入れて、10日間後の殺蟻効果の結果を表13に示した。図15にシロアリにより摂食されたろ紙の比較写真を示した。表中の数字は生存数を示した。この結果から、防除剤を処理したろ紙ではヤマトシロアリは全滅した。一方、比較例の未処理のろ紙ではヤマトシロアリが全数生存していた。また、図16の写真より、未処理のろ紙は食べられて痛んでいたが、防除剤を処理したろ紙はほぼ無傷であった。この結果から、本発明の防除剤がシロアリに関して殺蟻効果が強く、セルロース系素材に対する保護をする効果が強いことが分かった。
【0078】
【表13】
【実施例0079】
実施例12においてろ紙に含ませる防除剤の量を変えて、殺蟻効果を調べた。ろ紙の重量1gに固定して、そこに水を防除剤入りのスラリーを1mlを染み込ませて80℃で1時間乾燥させたものを用いた。防除スラリーとしては水に防除剤(NH0.3・WOを0.01mg,0.05mg,0.1mg,0.5mg,1mg,2mg,5mg,10mgを添加して、次にこの液にジプロピレングリコールは一定量の0.02gを添加して攪拌したものを用いた。防除剤の添加量を変えて作製した防除液を用いて殺蟻効果を調べた。ヤマトシロアリを20匹入れた。容器にヤマトシロアリとろ紙を入れて、20日間後の殺蟻効果の結果を表14に示した。表中の防除剤の数値はろ紙が1gであるので、それに対して防除剤の添加量を重量%として表記した。またシロアリの表中の数字は生存数を示した。この結果から、防除剤を処理したろ紙において、添加量がろ紙1gに対して、少なくとも0.01重量%以上で殺蟻効果があることが分かった。比較例として防除剤を添加していないろ紙を用いて評価したが、防除剤を加えていないものでは全数が生存していた。この結果から、本発明の防除剤がシロアリに関して殺蟻効果が強く、少なくとも素材に0.01重量%が含まれていることが望ましい。この結果を踏まえるとスプレーや刷毛塗り、スポンジローラー等で木質素材、またはセルロース含有素材に対して防除スラリーをそれらの素材に浸透させる量としては塗布されて浸透した部分の防除剤の含有量が0.01重量%であることが望ましい。
【0080】
【表14】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のタングステン化合物のナノ粒子を用いてセルロース系木質素材に含侵させることによりセルロース系木質素材から構成される資材や建築物、家具、木材、食器等に対して、木質素材を食べる害虫を防除することが出来る。
【符号の説明】
1 タングステン化合物の表面に形成された樹脂膜
2 タングステン化合物のコア粒子
3 プラスチック箱
4 試験用木材
5 プラスチック箱
6 ペーパータオル
7 木材
8 ペーパータオル
9 試験で行った評価用プラスチック箱
10 防除剤入りの溶液を入れて乾燥させたペーパータオル
11 水のみを加えて乾燥させたペーパータオル
12 カップ型のプラスチック入れ物
13 試料の木材
14 土
15 水のみを染み込ませた木材を置いた時の結果の写真
16 防除剤を含んだ液を染み込ませた木材を置いた時の結果の写真
17 カップ型のプラスチック入れ物
18 ろ紙
19 水のみを染み込ませたろ紙
20 防除剤を染み込ませたろ紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16