(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023929
(43)【公開日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ピクリング腐食が低減した金属性表面用のフォスフェイト非含有の洗浄剤
(51)【国際特許分類】
C11D 7/22 20060101AFI20250212BHJP
C11D 7/04 20060101ALI20250212BHJP
C11D 3/37 20060101ALI20250212BHJP
C11D 1/66 20060101ALI20250212BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20250212BHJP
C23C 22/12 20060101ALI20250212BHJP
C23G 1/19 20060101ALI20250212BHJP
C23G 1/20 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C11D7/22
C11D7/04
C11D3/37
C11D1/66
C23C22/78
C23C22/12
C23G1/19
C23G1/20
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024182150
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2021559143の分割
【原出願日】2020-03-20
(31)【優先権主張番号】19167342.5
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シャウス,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイル,ドミニク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フォスフェイトを使用することなく作用する、水ベースのアルカリ性洗浄剤濃縮物、金属性表面を防食処理する方法、上記方法によって得られる金属性表面、及びこれらを金属加工工業の部門に使用する方法を提供する。
【解決手段】金属性表面用の洗浄剤を製造するための、水ベースのアルカリ性洗浄剤濃縮物であって、a)質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、及び、b)質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマー、を含み、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸とビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む、少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種の直鎖状コポリマーを含む洗浄剤濃縮物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属性表面用の洗浄剤を製造するための、水ベースのアルカリ性洗浄剤濃縮物であって、
a)質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、及び
b)質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマー、
を含み、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸とビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む、少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種の直鎖状コポリマーを含むことを特徴とする洗浄剤濃縮物。
【請求項2】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーが、ポリアクリル酸として計算して、質量平均モル質量が5000~15000g/molの範囲、好ましくは6000~12000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項3】
成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸と、ビニル基、及び少なくとも2つ、好ましくは正確に2つのカルボン酸基を含む、少なくとも1種、好ましくは正確に1種のコモノマーとの、少なくとも1種の-好ましくは交互する-コポリマーを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項4】
成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、質量平均モル質量を、55000~90000g/mol、好ましくは60000~80000g/molの範囲に有する、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーを含むことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項5】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーが、ポリアクリル酸として計算して、少なくとも1.0質量%、好ましくは少なくとも1.5質量%、しかし好ましくは最大で2.5質量%、より好ましくは最大で2.0質量%の濃度で存在し、及び成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、少なくとも0.5質量%、好ましくは少なくとも0.7質量%、しかし好ましくは最大で1.5質量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項6】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー及び成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、ポリアクリル酸:ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、1.0:1~2.5:1、より好ましくは1.3:1~2.0:1、特に好ましくは1.5:1~1.9:1及び極めて好ましくは1.7:1~1.8:1の範囲で存在することを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項7】
フォスフェイトが存在しないことを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項8】
少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)、好ましくはホウ酸及びアルカリ金属ホウ酸塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)を更に含むことを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項9】
少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)が、ホウ酸として計算して、少なくとも10.5質量%、好ましくは少なくとも12.5質量%、しかし好ましくは最大で25.0質量%、より好ましくは最大で20.0質量%の量で存在することを特徴とする、請求項8に記載の洗浄剤濃縮物。
【請求項10】
金属性表面用の水ベースのアルカリ性洗浄剤であって、
a)質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、
b)質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマー、及び
h)少なくとも1種の、好ましくは非イオン性の界面活性剤、
を含み、
前記少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸とビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む、少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種のコポリマーを含み、及び
前記洗浄剤が、未使用(**)の洗浄剤である場合には、成分a)は、ポリアクリル酸として計算して、最大で0.65g/lの濃度で存在し、好ましくは0.10~0.50g/lの濃度で存在し、及び成分b)は、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、最大で0.35g/lの濃度で存在し、好ましくは0.05~0.30g/lの範囲の濃度で存在する、ことを特徴とする水ベースのアルカリ性洗浄剤。
【請求項11】
金属性表面を防食処理するための方法であって、前記表面を以下の組成物、
i)請求項10に記載の少なくとも1種の水ベースのアルカリ性洗浄剤、
ii)第1の水ベースのすすぎ組成物、
iii)任意に第2の水ベースのすすぎ組成物、
iv)水ベースの酸性変換組成物、
v)任意に、第3の水ベースのすすぎ組成物、及び
vi)(メタ)アクリレートベース、及び/又はエポキシベースのカソード又はアノード電着材料、及び/又は水ベースの、又は溶媒ベースの濡れた、又は粉末コーティング材料を含む水ベースの組成物、
と、相次いで接触させることを含む、方法。
【請求項12】
工程iv)における酸性変換組成物が、ニッケル非含有の亜鉛リン酸塩処理組成物を含み、該ニッケル非含有の亜鉛リン酸塩処理組成物は、亜鉛イオン及びマンガンイオンに加え、リン酸イオンも含み、及び前記ニッケル非含有の亜鉛リン酸塩処理組成物には、ニッケルイオンは加えられていない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程iv)における酸性変換組成物が、オルガノシランに基づく薄膜系を適用するための組成物を含み、該組成物は、少なくとも1つのオルガノシランに加え、その加水分解及び縮合生成物を含み、及び任意に、更に少なくとも1種のチタン化合物、ジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項11~13の何れか1項に記載の方法によって得られる、防食処理された金属性表面。
【請求項15】
請求項14に記載の金属性表面を、金属加工工業の部門に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水ベースのアルカリ性洗浄剤濃縮物に関し、及び対応するピクリング腐食が低減した金属性表面用の洗浄剤に関し、上記濃縮物又は上記洗浄剤は、フォスフェイトを使用することなく作用するもので、及び本発明は、対応する洗浄工程を含む金属性表面を防食処理する方法、上記方法によって得られる金属性表面、及びこれらを金属加工工業の部門に使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォスフェイトを含有する洗浄剤製品は、その脱脂を加速する作用で、工業的な金属洗浄における規格品として既に長く使用されている。更に、その脱脂作用に加え、フォスフェイトはマグネシウム又はカルシウム等の干渉するイオンにとって錯化剤として作用するという長所を提供する。
【0003】
例えば、乗物の構成又は通常の工業における金属ストリップ及び金属性部品の防食事前処理は、水性洗浄系及びpHが相当に酸性の範囲であるか、又はアルカリ性の範囲である変換溶液を使用する。
【0004】
従って洗浄自体の間、いわゆるピクリングアタックが発生し、これは酸化物フィルムのみならずベース材料をも攻撃し得るものであり、その挙動(morphology)は不利に影響し得る。このことは、次に起こる変換コーティングの沈澱に作用し、そして次いで得られるコーティング、特にカソード電着材料の付着力の低下をもたらし得るもので、及び従って腐食制御に不利に影響し得る。
【0005】
この理由で、標準的なフォスフェイト含有製品はしばしば、腐食防止剤としてのシリケート化合物と組み合わされ、洗浄操作の間、影響を受けやすい材料、例えば(亜鉛)メッキスチール、アルミニウム又はアルミニウム含有基材が、過剰のストレスから保護される。
【0006】
しかしながら11未満のpHでは、シリケート化合物、例えばケイ酸カリウム及びナトリウム、並びにカリウム及びナトリウム水ガラスは沈澱する傾向を示し、及び従ってその活性を失い、及び従って更に、洗浄浴内で外皮を形成し、又は処理する金属表面上に乾燥した沈澱物を形成し得るもので、これは次に除去することが困難であり、目視的に障害となるものである。従って今日、このような化合物は、アルカリ性洗浄系内にピクリング防止剤として一般的に使用されていない。
【0007】
そうこうする間に、特にアルミニウム、及び亜鉛メッキしたスチールの場合における、ケイ酸塩化合物の代替物として、ホウ素化合物、例えばホウ酸、又はホウ酸塩ナトリウム又はホウ酸塩カリウムが使用されている。
【0008】
しかしながら数年前から、より安全で及びより環境にやさしい洗浄剤組成物に対する傾向が明らかに増してきている。この傾向を推進する源は第1には、種々の国(例えば中国)又は地域で、フォスフェイト及び錯化剤、例えばEDTAが含まれる所定の成分の使用を益々禁止することになる法的規制であり、そして第2には、ユーザーの環境的及び安全的な意識の増加である。
【0009】
この傾向は、変換系(conversion system)にも書き留められており、有機シランベースの薄いフィルム系、例えばOxsilan(登録商標)(Chemetall GmbH、ドイツ)に焦点がより強く当てられてきている。亜鉛のリン酸塩処理のように、これらの系は、水性変換系として作用するがしかし、より環境に優しい製品、環境的な配慮、及びニッケル又はフォスフェイト等の原料の禁止と関連して明確な長所を有している。
【0010】
従って水性洗浄剤は今日、確立された変換工程との高い両立性、例えば3カチオン(trication)リン酸塩処理との両立性のみならず、ニッケル不使用の亜鉛リン酸塩処理、及び特に上述した薄いフィルム系との両立性を示すことが要求されており、従って、変換処理の全ての種類にとって最適な金属表面を製造することが要求されている。
【0011】
特許文献1(US9567552B2)には、フォスフェイト不含有の洗浄剤が記載されており、該洗浄剤中では、長鎖ポリアクリレートが腐食防止剤として使用されている。この洗浄剤は、アルミニウム/アルミニウム合金を処理するために適切であるが、例えば自動車工業では通常の類の多重金属系(multimetal system)にとっては適切でない。洗浄剤と、次に行われるオルガノシランに基づく薄いフィルムコーティング、又は3カチオンリン酸塩処理系との適合性は、説明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は、水ベースの洗浄剤濃縮物を提供することであり、及び第1にフォスフェイトを使用することなく作用し、及びこの一方で、調和したピクリングアタックを良好な洗浄性能に結び付け、及び第2に任意の種類の変換処理にとって最適な金属表面を調製する、対応する金属性表面用の水ベースの洗浄剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、金属性表面用の洗浄剤を製造するための、水ベースのアルカリ性洗浄剤濃縮物であって、
a)質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、及び
b)質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマー、
を含み、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸とビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む、少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種のコポリマーを含む洗浄剤濃縮物によって達成された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
成分a)及びb)のポリマーはここでは、記載された発明の洗浄剤濃縮物中のフォスフェイト代替物として使用される。驚くべきことに、標準的なフォスフェイトを含有する洗浄剤の性能は、ポリマー単独では達成不可能であった。その替わりに、成分a)及びb)のポリマー混合物を使用してのみ、相当する結果が達成可能であった。
【0016】
成分a)のポリマーは、比較的短い鎖の(メタ)アクリル酸ホモポリマーを含み、これはピクリングアタックの防止と適度な洗浄効果をまとめ合わせる。これに対して、成分b)のポリマーは、特定の長鎖(メタ)アクリル酸コポリマーであり、及びその強い錯体化特性及び関連した強いピクリングアタックのために、これらは洗浄促進剤として作用し、その洗浄性能は標準として使用されるフォスフェイトに相当する。
【0017】
成分a)及びb)のポリマーの質量平均モル質量はここでは一貫して、溶離水溶液を使用したGPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフ)を使用して測定される。この場合、カラムが狭い分子量分布を有するポリスチレンスルホネートを使用して較正される。
【0018】
定義:
ここでは、「水ベース」という用語は、溶解した及び分散した成分の両方を含んでも良い対応する組成物、例えば洗浄剤濃縮物又は洗浄剤が、例えば少なくとも50質量%の水、好ましくは少なくとも55質量%の水で構成されることを意味するものと理解される。
【0019】
「洗浄剤」及び「洗浄剤組成物」は、ここでは同意語として使用される。洗浄剤又は洗浄剤組成物はより特定的には、洗浄剤溶液であっても良い。
【0020】
「(メタ)アクリル酸」は、ここでは常に、メタクリル酸、アクリル酸、又は両方を表す。更に、
これには脱プロトン化体、従ってメタクリル酸又はアクリル酸それぞれの共役塩基も常に含まれることが意図される。
【0021】
従って、「(メタ)アクリル酸ホモポリマー」は、メタクリル酸のみ、アクリル酸のみ、又はメタクリル酸とアクリル酸の両方をモノマー単位として含むポリマーであって良く、しかしながら他のモノマー単位は該当しない。
【0022】
「(メタ)アクリル酸コポリマー」についても同様である。この用語は、メタクリル酸のみ、アクリル酸のみ、又はメタクリル酸とアクリル酸の両方をモノマー単位として含んで良く、しかしながら、メタクリル酸又はアクリル酸でない更なるモノマーを常に有する。ここで、ビニル基及び少なくとも2つの酸性基を有する少なくとも1種のモノマーは、対応する酸性基の全ての脱プロトン化体を含むことも意図されている。
【0023】
本願で各場合においてXが特に特定的に表示された化学化合物である「Xとして計算して」という表現が、質量基準の濃度(wt%)と関連して使用された場合、これは以下の意味を有している:(Xでない)替わりの化学化合物が使用された場合、これはXについて、それぞれ具体的に与えられた質量濃度(wt%)から、モル質量を考慮しつつ計算されたモル濃度として使用されるべきである。
【0024】
本発明の洗浄剤濃縮物の成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーは、好ましくは少なくとも1種のアクリル酸ホモポリマーを含み、及びより好ましくは少なくとも1種のアクリル酸ホモポリマーである。
【0025】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーは、好ましくは、ポリアクリル酸として計算して、質量平均モル質量が5000~15000g/molの範囲、特に好ましくは6000~12000g/molの範囲、及び特に極めて好ましくは7000~9000g/molの範囲の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーを含み、及びより好ましくはこれらのものである。
【0026】
ここで「ポリアクリル酸として計算して」という表現は、以下のように理解されるべきである:
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーがポリアクリル酸でないか、又はもっぱらポリアクリル酸でなかったとしても、それにもかかわらず濃度を計算する目的のために、成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーの全てのモノマー単位(100モル%)がアクリル酸であると仮定される。
【0027】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーは、特に好ましくは、ポリアクリル酸として計算して、質量平均モル質量が5000~15000g/molの範囲、特に好ましくは6000~12000g/molの範囲、及び極めて好ましくは7000~9000g/molの範囲の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーを含み、及びより好ましくはこれらのものである。
【0028】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーは、洗浄剤濃縮物に、好ましくは塩として、より好ましくはアルカリ金属塩として、及び特に好ましくはナトリウム塩として加えられる。洗浄剤濃縮物の得られるアルカリ度の面で、ナトリウム塩が特に有利である。
【0029】
特に適切なものは例えば、質量平均モル質量が、約8000g/molのポリアクリル酸(Sokalan(登録商標)PA 30 CL、BASF SE、ドイツからのもの、として入手可能)である。
【0030】
本発明の洗浄剤濃縮物の成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは、(メタ)アクリル酸と、ビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種の、好ましくは直鎖状のコポリマーを含む。
【0031】
一方では、(メタ)アクリル酸単位及び他方では、少なくとも2つの酸性基を有するモノマー単位はここでは、好ましくは交互する配列で配置される。原則として適切なものは、しかしながら、対応するブロックコポリマー及びランダムコポリマーである。少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは好ましくは、他のモノマー単位を含まず、より好ましくは酢酸ビニル又はビニルアルコールを含まず、及びより特定的になお酢酸ビニル単位を含まない。
【0032】
(メタ)アクリル酸単位は、成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーの、好ましくは35~65mol%、特に好ましくは40~50mol%、及び極めて好ましくは45~55mol%を構成し、この一方で、少なくとも2つの酸性基を有するモノマー単位は、成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーの、好ましくは65~35mol%、特に好ましくは60~40mol%、及び極めて好ましくは55~45mol%を構成し、上記mol%mol%は、各場合において好ましくは、合計で100になる。
【0033】
第1の好ましい実施の形態に従えば、成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは、(メタ)アクリル酸、及びビニル基及び少なくとも2つ、好ましくは正確に2つのカルボン酸基を含む、少なくとも1種の、好ましくは正確に1種のモノマーの少なくとも1種の、好ましくは交互するコポリマーを含み、好ましくはこのコポリマーである。
【0034】
ここでビニル基及び少なくとも2つのカルボン酸基を含む少なくとも1種のモノマーは好ましくは、ビニルジカルボン酸から成る群、より好ましくはマレイン酸及びフマール酸から成る群、より好ましくはマレイン酸から選ばれる。
【0035】
ここで、「マレイン酸」は、無水マレイン酸又はマレイン酸と無水マレイン酸の混合物をも含むと理解されることが参照される。しかしながら特には、この化合物はマレイン酸であり、この化合物は水性の環境中での加水分解によって無水マレイン酸から形成される。
【0036】
第2の好ましい実施の形態に従えば、成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは、(メタ)アクリル酸、及びビニル基及び少なくとも2つ、好ましくは正確に2つのスルホン酸基を含む、少なくとも1種、好ましくは正確に1種のモノマーの少なくとも1種の、好ましくは交互する、コポリマーを含み、より好ましくはこのコポリマーである。
【0037】
ビニル基及び少なくとも2つのスルホン酸基を含むモノマーは好ましくは、ビニルジスルホン酸から成る群から選ばれる。
【0038】
成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは好ましくは、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、質量平均モル質量を、55000~90000g/mol、特に好ましくは60000~80000g/molの範囲、及び特に極めて好ましくは65000~75000g/molの範囲に有する、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーを含み、及びより好ましくは該少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーである。
【0039】
「ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して」は従って、以下のように理解されるべきである:成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、「ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)」でないか、又はもっぱら「ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)」でなかったとしても、それにもかかわらず濃度を計算する目的のために、成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーのモノマー単位の半分(50%)が、マレイン酸であると仮定される。
【0040】
成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは特に好ましくは、少なくとも1種の、好ましくは交互するコポリマーであって、(メタ)アクリル酸及び少なくとも1種、好ましくは正確に1種の、(ビニル基及び少なくとも2つ、好ましくは正確に2つのカルボン酸基を有する)モノマーのコポリマーで、且つポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、質量平均モル質量が55000~90000g/molの範囲、特に好ましくは60000~80000g/molの範囲、及び非常に特に、65000~75000g/molの範囲のものを含み、及びより好ましくはこれらのものである。
【0041】
成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは、洗浄剤濃縮物に、好ましくは塩として、より好ましくはアルカリ金属塩として、及び特に好ましくはナトリウム塩として加えられる。洗浄剤濃縮物の得られるアルカリ度の理由で、特にナトリウム塩が有利である。
【0042】
特に適切なものは、例えば、質量平均モル質量が、約70000g/molのポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)(Sokalan(登録商標)CP 5、BASF SE、ドイツからのもの)である。
【0043】
特に適切には、対応して、本発明の成分a)及びb)のポリマー混合物として、例えば質量平均モル質量が、約8000g/molのポリアクリル酸(Sokalan(登録商標)PA 30CL、BASF SE、ドイツからのものとして入手可能)及び質量平均モル質量が、約70000g/molのポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)(Sokalan(登録商標)CP 5、BASF SE、ドイツからのものとして入手可能)の組み合わせが挙げられる。
【0044】
成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマーは、ポリアクリル酸として計算して、及び洗浄剤濃縮物の合計に基づいて、好ましくは、少なくとも1.0質量%、特に好ましくは少なくとも1.5質量%、及び極めて好ましくは少なくとも1.7質量%の濃度で存在し、しかし、好ましくは最大で2.5質量%、より好ましくは最大で、2.0質量%の量で存在し、この一方で、成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、及び洗浄剤濃縮物の合計に基づいて、少なくとも0.5質量%、特に好ましくは少なくとも0.7質量%、及び極めて好ましくは少なくとも0.9質量%の濃度で存在し、しかし、好ましくは最大で1.5質量%の量で存在する。
【0045】
ここで、成分a)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、及び成分b)の少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーは本発明の洗浄剤濃縮物中に、ポリアクリル酸:ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、好ましくは1.0:1~2.5:1の範囲の質量割合、より好ましくは1.3:1~2.0:1の範囲、特に好ましくは1.5:1~1.9:1の範囲、及び極めて好ましくは1.7:1~1.8:1の範囲の質量割合で存在する。
【0046】
成分a)及びb)の、上記に記載した好ましい範囲内での選択によって、本発明の洗浄剤濃縮物から得られる洗浄剤の性能、調和したピクリングアタックと結びついた効果的な洗浄性能が、標準的なフォスフェイト含有洗浄剤の性能近くにまで至り、又は該性能を超えても良い。
【0047】
本発明の洗浄剤濃縮物は好ましくは、フォスフェイト不含有であり、これは定義によって、製造の間、フォスフェイトがこれに加えられないことを意味する。しかしながら、望ましくないものであるが、使用される原料が微量のフォスフェイト不純物を含み、従って同様に、洗浄剤濃縮物が少量のフォスフェイトを含むことも可能である。更なる好ましい態様で、しかしながら洗浄剤濃縮物は、100ppm未満、より好ましくは10ppm未満、特に好ましくは1ppm未満、及び特に極めて好ましくは0.1ppm未満のフォスフェイトを含む。
【0048】
洗浄剤濃縮物は好ましくは、シリケート不含有であり、これは製造の間、シリケートがこれに加えられないことを意味する。しかしながら、使用される原料が微量のシリケート不純物を含み、従って同様に、洗浄剤濃縮物が少量のシリケート化合物を含むことも可能である。更なる好ましい態様で、しかしながら洗浄剤濃縮物は、100ppm未満、より好ましくは10ppm未満、特に好ましくは1ppm未満、及び特に極めて好ましくは0.1ppm未満のシリケート化合物を含む。
【0049】
この理由は、シリケート化合物は上述のように既に観察されているのだが、11未満のpHで沈澱する傾向が有り、及び従ってピクリング防止剤としての活性を失うからである。更に、これらは洗浄槽浴内で被膜化(crust)しても良く、又は処理される金属表面上に、目視的に障害となる乾燥沈澱物を生じるものである。
【0050】
本発明の洗浄剤濃縮物は好ましくは更に、少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)を含み、水溶性ホウ素化合物c)は好ましくは、ホウ酸及びアルカリ金属ホウ酸塩から成る群から選ばれ、より好ましくは、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、及びホウ酸カリウムから成る群から選ばれる。
【0051】
驚くべきことに、これにより、攻撃性、すなわち媒体のピクリングアタックが、洗浄される任意の金属性表面において、非常に敏感な材料、例えばアルミニウム及び亜鉛メッキされた、及び/又は事前にリン酸塩処理された鋼においても、正確に制御可能である。このことは従って、本発明の洗浄剤濃縮物から得られる洗浄剤の改良された複数金属性能をもたらし、すなわち、改良された複数金属処理をもたらすもので、ここで異なる金属表面、例えば鋼、アルミニウム、亜鉛メッキ鋼、及び事前にリン酸塩処理された鋼が、同時に洗浄され、又は同じ浴内で次々に洗浄される。
【0052】
ここで亜鉛メッキされた鋼は特に、溶融亜鉛メッキ又は電気亜鉛メッキした鋼、又は亜鉛-マグネシウム合金で被覆した鋼であっても良い。亜鉛メッキされた鋼は更に、事前にリン酸塩処理されていても良い。「アルミニウム」は常に、アルミニウム合金をも含むことが意図されている。
【0053】
少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)は、ホウ酸として計算して、及び洗浄剤濃縮物の合計に基づいて、好ましくは少なくとも7.5質量%、より好ましくは少なくとも10.0質量%、より好ましくは少なくとも10.5質量%、特に好ましくは少なくとも12.5質量%、及び極めて好ましくは少なくとも14.0質量%であり、しかし好ましくは最大で25.0質量%、より好ましくは最大で20.0質量%、特に好ましくは最大で17.0質量%、及び極めて好ましくは最大で16.0質量%の濃度で存在する。少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)の濃度の上述した下限値内に維持することにより、洗浄剤の複数金属能力(capacity)を更に改良することが可能であり、このことは特に濃縮物の1:50の希釈の場合に該当し、この一方で、上限値は水溶性ホウ素化合物のpH依存の溶解度によって決定される。
【0054】
本発明の洗浄剤濃縮物はアルカリ性であり、このことは、この洗浄剤濃縮物はpHが7を超えることを意味する。そのpHは好ましくは、9.5~14.0の範囲、特に好ましくは10.5~14.0の範囲、及び極めて好ましくは11.5~14.0の範囲である。アルカリ度は、例えば対応する量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、及び/又は炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムを本発明の洗浄剤組成物に加えることによって調節されても良い。
【0055】
洗浄剤濃縮物は好ましくは、少なくとも1種の塩を更に含むが、この少なくとも1種の塩は、その場(in situ)で形成された共役酸と一緒に、緩衝系を形成し、及び周囲の空気から二酸化炭素を取り入れることによってもたらされるpH値の低下に対して作用することによって、本発明の濃縮物及びこれから得られる洗浄剤の安定したpHを確実にするものである。この場合の少なくとも1種の塩は好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、及び/又は炭酸水素カリウムである。炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムを特に好ましく使用する場合の長所は、必要なアルカリ度がこのようにして、同時に確立できることである。
【0056】
ここで少なくとも1種の塩は、炭酸カリウムとして計算して、及び洗浄剤濃縮物の合計に基づいて、好ましくは少なくとも5質量%、より好ましくは少なくとも7質量%、及び特に好ましくは8~12質量%の濃度で存在する。
【0057】
洗浄剤組成物は好ましくは更に、少なくとも1種の錯化剤を含み、該錯化剤は、干渉的(妨害的)な外部イオン、特にCa、Mg、及びZnカチオンを錯化することが可能であり、及びこれにより、これらを溶液内に保持し、全運転においてこれらが不利な影響を及ぼさないようにし、すなわちこれらが被膜化の形態で浴を汚染して、これによる洗浄の必要性の増加をもたらすことがないようにし、及び洗浄剤の成分と反応することによって系の性能の性能を低下させることがないようにすることが可能なものである。この少なくとも1種の錯化剤は好ましくは、グルコン酸塩を含み、該グルコン酸塩は、好ましくはグルコン酸ナトリウム及び/又はグルコン酸カリウムの状態で、洗浄剤組成物中に加えられるものである。
【0058】
ここで、この少なくとも1種の錯化剤は好ましくは、グルコン酸ナトリウムとして計算して、及び洗浄剤濃縮物の合計に基づいて、濃縮物中に、少なくとも1.0質量%、より好ましくは少なくとも2.0質量%、及び特に好ましくは2.5~3.5質量%の範囲の量で存在する。
【0059】
特に好ましい実施形態に従えば、本発明の洗浄剤濃縮物は以下の成分、
a)ポリアクリル酸として計算して、少なくとも1.0質量%の、質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、
b)ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、少なくとも0.5質量%の、質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、(メタ)アクリル酸と、少なくとも1種のビニルジカルボン酸のコポリマー、
c)ホウ酸として計算して、少なくとも10.0質量%のホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸カリウム、
d)水酸化カリウムとして計算して、少なくとも8.0質量%の水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム、
e)炭酸カリウムとして計算して、少なくとも5質量%の炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウム、
f)グルコン酸ナトリウムとして計算して、少なくとも1.5質量%の錯化剤、及び
g)少なくとも50質量%の水、
を含み、ここで、(メタ)アクリル酸ホモポリマー及び(メタ)アクリル酸と少なくとも1種のビニルジカルボン酸のコポリマーは、2.0:1~1.5:1の質量割合で存在し、及び各場合において上述した質量%は合計で100質量%になる。
【0060】
本発明は更に、金属性表面用の水ベースのアルカリ性洗浄剤に関するが、該アルカリ性洗浄剤は、
a)質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、及び
b)質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマー、及び
h)少なくとも1種界面活性剤、
を含み、
少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸とビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む、少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種のコポリマーを含み、及び洗浄剤が、未使用の洗浄剤(fresh cleaner)である場合には、成分a)は、ポリアクリル酸として計算して、最大で0.65g/lの濃度で存在し、好ましくは0.10~0.50g/lの濃度で存在し、及び成分b)は、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、最大で0.35g/lの濃度で存在し、好ましくは0.05~0.30g/lの範囲の濃度で存在する。
【0061】
成分a)及びb)の規定した最大濃度を超える場合には、洗浄性能は十分ではあるが、ピクリングアタックが激しくなり過ぎる。
【0062】
「未使用の洗浄剤(fresh cleaner)」は、ここでは、金属性表面と未だ接触していない洗浄剤であると理解される。この理由は、金属性表面との接触は、上述した表面からイオンを浸出させ、及び上述した表面からオイルとグリースを分離させ、これらのイオン、オイル及びグリースが洗浄浴内に蓄積するからである。かくして浴のエイジングが生じる。この結果、洗浄剤のピクリングアタックが減少し、これにより成分a)を1.0g/l以下の濃度、及び成分b)を0.55g/l以下の濃度で使用することが可能になり、それでもピクリング腐食は起こらない。
【0063】
本発明の洗浄剤は、本発明の洗浄剤濃縮物から、
1)希釈、好ましくは水中希釈、及び好ましくは1:20~1:100(1.0lの洗浄剤について10~50gの濃縮物に相当)のファクターでの希釈により、
2)少なくとも1種の界面活性剤の添加、好ましくは洗浄剤に基づいて、0.3~10g/lの範囲の濃度での添加により、及び
3)場合により、少なくとも1種の酸又は塩基を使用したpHの調節により、得ることが可能である。
【0064】
特に好ましくは、工程1)で、希釈ファクターは1:40~1:60、及び特に好ましくは1:45~1:55である。逆に、工程2)における少なくとも1種の界面活性剤の濃度は、特に好ましくは、洗浄剤に基づいて、0.4~5g/lの範囲、及び極めて好ましくは0.5~3.5g/lの範囲である。
【0065】
洗浄操作内で、少なくとも1種の界面活性剤は、如何なる有機不純物、例えば鉱油及びグリースをも除去するように作用し、及び従って、必然的に希釈された濃縮物に加えられるべきものである。この少なくとも1種の界面活性剤は、より特定的には、少なくとも1種の非イオン性、アニオン性、及び/又はカチオン(陽イオン)性の界面活性剤を含む。
【0066】
ここで適切な非イオン性界面活性剤は特に、以下のものである:
-C6~C14アルキル鎖を有し、アルコキシル化の程度がフェノール1モルにつき、5~30モルであるアルキルフェノールアルコキシレート、特にアルキルフェノールエトキシレート、
-C8~C22のアルキル鎖長、好ましくはC10~C18のアルキル鎖長を有し、及び1~20個、好ましくは1~5個のグルコシド単位を有するアルキルポリグルコシド、
-脂肪酸アミドアルコキシレート、脂肪酸アルカノールアミドアルコキシレート、N-アルキルグルカミド、又はエチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び/又は他にブチレンオキシドから成るブロックコポリマー、及び
-アルコキシル化C8~C22アルコール例えば、脂肪アルコールアルコキシレート、オキソプロセスアルコールアルコキシレート、及びGuerbetアルコールアルコキシレートであって、アルコキシル化は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、及び/又はこれらの混合物をブロックコポリマー又はランダムコポリマーとして使用して行われても良い。アルコールは好ましくは、8~18個の原子を有する;アルコキシル化の程度は典型的には、アルコール1モルにつき、2~50モル、好ましくは3~20モルの範囲の少なくとも1種の上述したアルキレンオキシドである。アルキレンオキシド頭基(head group)は追加的に、以下の所謂エンドキャッピング基を変性として含んでも良い:ベンジル、メチル、及び/又はtert-ブチルキャッピング。
【0067】
用途に依存して、以下のアニオン性界面活性剤が特に使用される:
-アルキル鎖長が8~22個、好ましくは10~18個の炭素原子である脂肪アルコール界面活性剤、例えばラウリル硫酸、セチル硫酸、ミリスチル硫酸、パルミチル硫酸、又はステアリル硫酸、
-アルキル鎖長が8~22個、好ましくは10~18個の炭素原子であるアルキルエーテル硫酸、及び
-直鎖状C8~C20アルキルベンゼンスルホネート、又は他に、アルカンスルホネート、及び石けん、例えばC8~C24カルボン酸のナトリウム又はカリウム塩。
【0068】
使用されるカチオン(陽イオン)性の界面活性剤は用途に依存して、特に以下のものである:
-第4級のモノ-及びジ-(C7~C25アルキル)ジメチルアンモニウム化合物、
-エステルクワト、特にC8~C22カルボン酸でエステル化された第4級エステル化モノ-、ジ-及びトリアルカノールアミン、及び
-C7~C25アルキルアミン、N,N-ジメチル-N-(ヒドロキシ-C7~C25アルキル)アンモニウム塩及び/又はイミダゾリンクワト。
【0069】
少なくとも1種の界面活性剤は好ましくは、少なくとも1種の非イオン性活性剤を含み、及びより好ましくは少なくとも1種の非イオン性活性剤である。アニオン性界面活性剤は、大抵の用途の範囲内で、高い発泡傾向を示し、この一方でカチオン性界面活性剤は、金属性表面にしばしば付着し、及びこれにより、変換被覆の沈澱に問題を生じ得るものである。これらの短所は、非イオン性界面活性剤には含まれない。
【0070】
本発明の洗浄剤濃縮物の希釈において、pHの調節を行わない場合であっても、複数金属性能事前処理の容易性に使用するための適切なpHは既に達成されており(直ぐに使用できるpH)、及び従って、少なくとも1種の更なる酸又は塩基の更なる添加は特殊な用途においてのみ必要なものである。
【0071】
本発明の洗浄剤は好ましくは、フォスフェイト不含有であり、このことは、これにはフォスフェイトが加えられないことを意味する。それにも拘わらず、望ましくないことではあるが、使用する原材料が少量のフォスフェイト不純物を含み、及び従って、洗浄剤濃縮物及びこれから製造された洗浄剤が同様に、少量のフォスフェイトを含むことも可能である。洗浄剤中の少量のフォスフェイトは、洗浄された金属表面から溶解した物質に起因しても良く、特にこれらの表面が、事前リン酸塩処理を施されている場合には、このことが該当する。しかしながらより好ましくは、洗浄剤のフォスフェイト含有量は、200ppm未満、特に好ましくは20ppm未満、及び特に2ppm未満である。
【0072】
洗浄剤は好ましくは、シリケート化合物を含まず、このことは、製造の間、シリケート化合物が加えられないことを意味する。しかしながら、使用する原材料が少量のシリケート不純物を含み、及び従って、洗浄剤が同様に、少量のシリケート化合物を含むことが可能である。しかしながらより好ましくは、洗浄剤のシリケート化合物含有量は100ppm未満、より好ましくは10ppm未満、特に好ましくは1ppm未満、及び極めて好ましくは0.1ppm未満である。
【0073】
本発明の洗浄剤は好ましくは、少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)を含み、該少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)は好ましくは、ホウ酸及びアルカリ金属ホウ酸塩から成る群から選ばれ、より特定的には、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、及びホウ酸カリウムから成る群から選ばれる。
【0074】
少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)は、ホウ酸として計算して、及び洗浄剤濃縮物の合計に基づいて、好ましくは少なくとも0.15質量%、より好ましくは少なくとも0.20質量%、より好ましくは少なくとも0.21質量%、特に好ましくは少なくとも0.25質量%、及び極めて好ましくは少なくとも0.28質量%であり、しかしながら、好ましくは最大で0.50質量%、より好ましくは最大で0.40質量%、特に好ましくは最大で0.34質量%、及び極めて好ましくは最大で0.32質量%である。少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)の濃度の、上述した下限値を守ることで、洗浄剤の複数金属性能を更に改良することが可能であり、この一方で、上限値は、該濃縮物中の水溶性ホウ素化合物のpH依存性の溶解度、より特に1:50の濃縮物からの洗浄剤の希釈において生じるものである。
【0075】
本発明の洗浄剤の更なる有利な実施形態及び特性は、本発明の洗浄剤濃縮物との関連で上記に記載したものである。
【0076】
本発明は更に、金属性表面を防食処理するための方法であって、表面を以下の組成物、
i)金属性表面用の少なくとも1種の水ベースのアルカリ性洗浄剤であって、a)質量平均モル質量が3000~19000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸ホモポリマー、b)質量平均モル質量が50000~100000g/molの範囲の、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマー、及びh)少なくとも1種の界面活性剤、を含み、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸コポリマーが、(メタ)アクリル酸とビニル基、及びカルボン酸基及びスルホン酸基から成る群から選ばれる少なくとも2つの酸性基を含む、少なくとも1種のモノマーとの、少なくとも1種のコポリマーを含み、及び洗浄剤が、未使用の洗浄剤である場合には、成分a)は、ポリアクリル酸として計算して、最大で0.65g/lの濃度で存在し、好ましくは0.10~0.50g/lの濃度で存在し、及び成分b)は、ポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)として計算して、最大で0.35g/lの濃度で存在し、好ましくは0.05~0.30g/lの範囲の濃度で存在する、少なくとも1種の水ベースのアルカリ性洗浄剤、
ii)第1の水ベースのすすぎ組成物、
iii)任意に第2の水ベースのすすぎ組成物、
iv)水ベースの酸性変換組成物、
v)任意に、第3の水ベースのすすぎ組成物、及び
vi)(メタ)アクリレートベース、及び/又はエポキシベースのカソード又はアノード電着材料、及び/又は水ベースの、又は溶媒ベースの濡れた、又は粉末のコーティング材料を含む水ベースの組成物、
と、相次いで接触させることを含む、方法に関する。
【0077】
金属性表面を、次々に組成物i)からvi)と接触させることは、リン酸塩処理について後述するように、少なくとも1種の更なる、好ましくは水ベースの組成物、例えば活性化組成物、又は不動態化組成物と、又は更なるすすぎ組成物と事前に、後で、又はその間に接触させることを除外することを意図するものではなく、又はこのものが後に、例えば乾燥炉内で少なくとも1つの乾燥に処理され、又は更なるコーティングフィルム、例えば中塗り、頂部コート、及びクリアコート(自動車塗装系)が与えられることを除外することを意図するものではない。
【0078】
本発明の方法の特徴は、フォスフェイト含有洗浄剤組成物を使用することなく運転する一方で、それにも拘わらず、腐食制御及び塗装付着について、フォスフェイト含有洗浄剤組成物を使用した場合の結果に相当する結果を作り出すことである。
【0079】
金属性表面を工程i)で、調和したピクリングアタックを効率的な洗浄性能と組み合わせて、本発明の少なくとも1種の洗浄剤と接触させることで、如何なる種類の変換処理にとっても最適な金属性表面が調製される。従って、工程iv)における酸変換組成物は、トリカチオンリン酸塩処理のための変換コーティングのためだけでなく、ニッケル不含有亜鉛リン酸塩処理のため、有機シランベースの薄いフィルムコーティング、又は不動体化組成物を与えるための変換コーティングであっても良い。
【0080】
工程i)における少なくとも1種の洗浄剤は好ましくは更に、少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)を含み、水溶性ホウ素化合物c)は好ましくは、ホウ酸、アルカリ金属ホウ酸塩、から成る群から選ばれ、より好ましくはホウ酸、ホウ酸ナトリウム、及びホウ酸カリウムから成る群から選ばれる。既に上記に記載したように、この方法によって、洗浄し及び次にコートされる各金属表面への攻撃性(積極性)について、たとえこれが影響を受けやすい材料であったとしても、正確な制御を行うことが可能である。金属性表面は従って好ましくは、アルミニウム、亜鉛メッキした鋼、及び事前にリン酸塩処理された鋼の群から選ばれる、少なくとも1種の影響を受けやすい(sensitive)材料を含む。
【0081】
少なくとも1種の水溶性ホウ素化合物c)の添加は、既に記載したように、改良された複数金属性能をもたらす。従って金属性表面は好ましくは、鋼、アルミニウム、亜鉛メッキ鋼及び事前リン酸塩処理された鋼から成る群、より好ましくは、アルミニウム、亜鉛メッキ鋼及び/又は事前リン酸塩処理された鋼から成る群から選ばれる、少なくとも2種の金属性材料を含む。更に好ましくは、金属性表面は、アルミニウムのみならず、少なくとも1種の亜鉛メッキした、及び/又は事前リン酸塩処理した鋼を含み、特に好ましくはアルミニウム及び少なくとも1種の亜鉛メッキした及び少なくとも1種の事前リン酸塩処理した鋼の両方を含む。
【0082】
第1の好ましい実施形態に従えば、工程iv)における酸性変換組成物は、ニッケル不含有のリン酸塩処理用の組成物であり、該組成物は、亜鉛イオン、及びマンガンイオンに加え、リン酸イオンをも含み、及びこれにはニッケルイオンは加えられていない。
【0083】
ニッケル不含有の亜鉛リン酸塩処理の場合、及び亜鉛、マンガン、及びニッケルイオン及びリン酸イオンが使用されるトリカチオンリン酸塩処理の場合、金属性表面は工程iv)の前に通常、水性活性剤と追加的に接触され、該水性活性剤は好ましくは、リン酸亜鉛及び又はリン酸チタニウムの結晶から構成される粒子を含むものである。このことは、工程iv)でのリン酸結晶相の沈澱を促進する。
【0084】
工程iv)でのリン酸塩処理の後、金属性表面は更に、水性の不動態化組成物と接触されていても良い。このことは特に、亜鉛及び/又は鉄を含有する領域に加え、アルミニウムを含有する領域を含む表面にとって有利であり得る。このようにして、腐食制御及び塗装された表面の塗装付着における更なる改良を達成可能である。上述した不動態化組成物は好ましくは、チタニウムの、ジルコニウムの、及び/又はハフニウムの少なくとも1種の化合物を含み、より好ましくは上述した元素の少なくとも1種のフルオロ錯体、及びまた、好ましくは少なくとも1種のオルガノシラン(これらの加水分解生成物及び縮合生成物を含む)を同様に含む。
【0085】
第2の好ましい実施形態に従えば、工程iv)における酸性変換組成物は、オルガノシランベースの薄いフィルム系を与えるための組成物であり、該組成物は、少なくとも1種のオルガノシラン、含まれるこれらの加水分解及び縮合生成物のみならず、しかしながら任意に、チタニウムの、ジルコニウムの、及び/又はハフニウムの少なくとも1種の化合物を含む。
【0086】
リン酸塩処理の場合とは異なって、本発明の洗浄剤組成物は、オルガノシランベースの薄いフィルム系と組み合わせて、通常のフォスフェイト含有洗浄剤よりも良好な腐食保護の結果をもたらし、このことは、洗浄剤組成物がフォスフェイト不含有の場合に該当する。工程i)における本発明の少なくとも1種の洗浄剤、及び従って本発明の洗浄剤濃縮物は従って好ましくはフォスフェイト不含有であり、このことは特に、オルガノシランベースの薄いフィルム系を次に与える場合に該当する。
【0087】
第3の好ましい実施形態に従えば、工程iv)における水ベースの酸性変換組成物は、不動態化組成物を含むが、該不動態化組成物は、チタニウム、ジルコニウム、及び/又はハフニウム化合物に加え、特に上述した元素の少なくとも1種のフルオロ錯体、任意になお少なくとも1種のオルガノシラン-その加水分解生成物及び縮合生成物も含まれる-を含むものである。
【0088】
工程i)で使用される本発明の有利な実施形態及び特徴は、本発明の洗浄剤濃縮物及び本発明の洗浄剤に関して上述したものである。
【0089】
本発明は更に、本発明の方法を使用して得ることができる防食処理された金属性表面に関し、及びこの製品を、事前処理の目的に変換工程が使用される金属加工工業、特に自動車、自動車部品提供のセクター、又は一般産業に使用する方法に関する。
【0090】
以下に本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、上記実施例は何ら限定を加えるものではないと理解される。
【実施例0091】
i)ピクリング腐食の決定:
測定原理:
ピクリング腐食は、洗浄工程の間の地金の質量損失を示す。これは、寸法が105×190mmの規定されたAA6014アルミニウムの標準シート(Gardobond(登録商標)テストシート、Chemetall GmbH、ドイツ)を、試験対象の溶液-この場合、対応する洗浄溶液-に浸すことによって試験される。次に化学てんびんを使用して、重量測定法で質量損失が測定される。この場合の試験は、アルミニウム表面に限定される。この理由は、これらがピクリングアタックに対して最も影響を受けやすいからである。
【0092】
試験シートの調製
如何なる種類の有機不純物をも除去するために、試験シートを最初に、石油スピリットを使用して事前に脱脂した。このことは、評価され、及び比較されるベース基材上での試験溶液の直接的なアタックを可能なものにした。
【0093】
ピクリング腐食の測定
事前に脱脂処理された各試験シートの質量を化学てんびん上で測定した。その直後に、試験シートを10分間、55℃で、対応する試験溶液を含んだ3lビーカー内に浸けた。40mm磁気かくはん器を使用して、ビーカーの底部で500rpmの速度でかくはんを行った。
【0094】
10分後、試験シートを試験溶液から取り出し、十分に脱塩した(FD)水を使用して濯ぎを行い、そして圧縮空気を使用して乾燥した。次に質量損失を、化学天秤を使用して測定した。
【0095】
得られた値を比較可能とするために、各場合において参照(reference)が並行して試験された。
【0096】
ii)最小洗浄時間の測定
測定原理:
最小洗浄時間(MCT)は、寸法が105×190mmの1.0312鋼の標準シート(試験シート)から、有機不純物を一定条件下で除去するために必要とされる洗浄工程の最小継続時間を示す。洗浄の品質は定められた最小値を達成しなければならず、この最小値は、金属表面の水の濡れの百分率に基づいて決定された。ここで、鋼の表面上で専ら集中して行われたが、この理由は、鋼の表面は通常、脱脂が最も困難な表面だからである。
【0097】
試験シートの作成
使用した試験シートは、一定のオイル被覆(1.7+/-0.2g/m2)を有していた。これは、結果の比較に役立った。
【0098】
最小洗浄時間の測定:
最小洗浄時間を測定するために、それぞれの試験シートを、対応する洗浄剤溶液を含んだ3lビーカー内に55℃で1分間、浸けた。40mm磁気かくはん器を使用して、ビーカーの底部で500rpmの速度でかくはんを行った。試験シートを次に、浸漬すすぎ(immersive rinse)内で、往復運動させてすすいだ(約15回の前後運動)。各場合において、シートは常にすすぎ水から完全に取り出され、及び10秒後の評価のために、(見掛け上の濡れを除外するために)垂直に保持された。
表面の水濡れが少なくとも95%になった時、すなわち密着した水フィルムが存在した時に、最小限の洗浄時間が達成された、というものである。この条件が満たされない場合、試験シートを洗浄溶液内に上述のように、更に1分間浸け、そして浸漬すすぎ内ですすいだ。条件に適合するまでこれを繰り返した。
【0099】
繰り返し数を合計し、及び、チェックのために、同じオイルの試験シートを洗浄剤溶液中に、全体時間にわたり放置した。このことが必要であったが、その理由は、中間的なすすぎ工程が洗浄性能を改良するからである。シートが合計時間の後に、少なくとも95%の範囲で濡れた場合、この時間をMCTとして記録した。このケースに該当しない場合、表面が少なくとも95%水濡れ性になるまで、中間の濯ぎ工程を行うことなく洗浄及び濯ぎを1分間の工程で繰り返した。そしてこの時間をMCTに記録した。
iii)異なる洗浄溶液の調査:
異なるポリマーのピクリング腐食及びMCTについての影響を試験するために、pHが12.9の標準洗浄剤濃縮物(VB1)を参照として最初に調製したが、この濃縮物は、FV水及び以下の成分を含んでいた:
【表1】
【0100】
この標準物に、以下のポリマーを加えることによって、異なる洗浄剤濃縮物が得られた(VB2~VB6及びB1)
【0101】
【0102】
更に、pHが11.5を超える、フォスフェイトを含有する標準濃縮物(VB7)を参照として調製したが、これはFV水及び以下の成分を含んでいた:
【表3】
【0103】
全ての洗浄剤濃縮物は次に、1:50のファクター(1.0lの洗浄剤につき、20gの濃縮物に対応)で、FV水で希釈され、そして2g/lのエチレン/プロピレンオキシド脂肪アルコール、つまり非イオン性界面活性剤と混合された。
【0104】
追加的に、ホウ酸又は水酸化カリウム水溶液を加えることによって、全ての洗浄剤濃縮物のpHを10.5に調節した。
【0105】
次に得られた洗浄溶液を、上述したようなピクリング腐食及びMCTのために試験した(注、i)及びii))。得られた結果を表1に示した(各場合において、少なくとも3枚のシートの平均値、すなわちn≧3)。
【0106】
【0107】
実験結果は、ポリマー-ポリアクリル酸又はポリ(アクリル酸-alt-マレイン酸)-を加えることによって、洗浄性能における大きな改良を達成することが可能であることを示している(MCT;VB2~VB6及びB1対VB1、参照)。同時に、媒体のアルミニウムへの攻撃性が増加した(ピクリング腐食、参照)。ポリアクリル酸の場合、鎖長さが長くなるに従い、すなわちモル質量が増すに従い、ポリマー添加の効果は、ピクリングアタック及びMCTの局面で大きくなったことが明らかである(VB2~VB4)。
【0108】
更に、ポリマーは単独では、標準フォスフェイト含有洗浄剤の、ピクリング腐食及びMCTについての性能を達成できないことも見出された。2種のポリマーの特定の混合物を含む本発明の洗浄溶液(B1)のみが、全般的に低い投入濃度及び調和したピクリングアタック-0.8g/m2以下のピクリング腐食-で、フォスフェイト含有洗浄剤(VB7)の洗浄性能-MCTが4分未満-を達成するか、又はこれに優ることさえも可能である。しかしながら2つのポリマーの濃度が二倍になった場合(増加した場合)、洗浄性能は継続して満足のいくものであるが、しかしピクリングアタックが厳しくなり過ぎる(VB6)。
【0109】
iv)複数金属性能の測定:
上述したピクリング腐食(表2:n≧3、参照)及びMCT(表3:n≧3、参照)の2つ測定原理を使用し、しかし各場合において特定のVDA230-213試験装置を使用して、種々の溶液の複数金属性能を同様に測定した。これらの試験は、自動車産業で扱われる、以下の4つの基材上で行われた:冷間ロール鋼(CRS)、ホットディップ亜鉛メッキ鋼(HDG)、事前にリン酸塩処理された鋼(ZEP)、及び自動車グレードのアルミニウム(AA6014)。
【0110】
【0111】
【0112】
表2から明確に理解されるように、本発明の洗浄剤溶液(B1)の場合には、ピクリングアタックは、フォスフェイト含有洗浄剤(VB7)と比較して実際に、幾分か高いものである。しかしながら、ただ1種のみのポリマーに基づく洗浄剤溶液とは対照的に、より低いポリマー濃度(VB8)について、アルミニウム(AA6014)について得られた値は、現行の操作にとって許容できるものでもあり、従って、本発明の洗浄剤溶液の複数金属性能を裏付けている。
【0113】
表3は、本発明の洗浄剤溶液(B1)について、最小洗浄時間(MCT)、すなわち洗浄性能が、各場合において、複数金属操作で使用された基材で、特にフォスフェイト含有洗浄剤(VB7)と比較して、より良好であることを示しているが、しかし、より低いポリマー濃度を有するただ1種のポリマーにのみ基づく洗浄剤溶液(VB8)に対しても、より良好であることをも示している。
特定のVDA230-213試験装置を使用することによってピクリング腐食及びMCTについて得られた結果は、表1の手動で確かめた結果と比較して、より高いものであったが、これは装置内でのより低い循環/浴動作によるものである。
【0114】
複数金属操作内でのピクリングアタックという面で、最適状態を確かめるために、本発明の洗浄剤溶液B1内では更に、ホウ酸塩の濃度を変化させた。このようにして調製された洗浄溶液(B1-1~B1-3)は次に、上述したように(注、i))試験されたが、これは自動車工業で適用される、以下の3つの基材でのピクリング腐食に関するものである:自動車グレードのアルミニウム(AA6014)、ホットディップ亜鉛メッキ鋼(HDG)、及び電気亜鉛メッキ鋼(MBZE)。この目的で使用された金属シートはそれぞれ、界面活性剤溶液を使用して、事前に脱脂処理されていた。
【0115】
これにより得られた結果を表4に示した(少なくとも3シートの平均値、すなわちn≧3)。
【0116】
【0117】
本発明の洗浄剤溶液B1及びその変形B1-1及びB1-3の実験結果から理解されるように、濃縮物中のホウ酸の濃度が14.5及び16.5質量%の濃度範囲の場合、すなわち洗浄剤溶液中の1:50の希釈でそれぞれ0.29及び0.33質量%の場合、アルミニウム(AA6014)のピクリングアタックは所望の低い範囲内であった。従ってこのようにして、試験したアルミニウムを含む全ての基材が組み合わされて、最適に処理することが可能であった。
【0118】
v)変換処理との両立性:
オルガノシランベースの薄いフィルムコーティング及び又トリカチオンリン酸塩処理に基づいて、本発明の洗浄剤溶液(B1)の公知の変換処理との両立性を試験した。
本発明の洗浄剤溶液(B1)の影響を調査するために、対応するポリマーを、工程にとっては通常の量よりも多い量で、これらが変換浴内の部材を伝わって、洗浄剤媒体に達するように、両方の変換浴内に加えた(B2及びB3)。その後、自動車産業で扱われる以下の基材、冷間ロール鋼(CRS)、ホットディップ亜鉛メッキ鋼(HDG)及びアルミニウム(AA6014)を、標準の処理手順内で事前処理した-、オルガノシラン及びジルコニウム化合物、又は亜鉛-マンガン-ニッケルフォスフェイト(リン酸塩処理:180秒)、リン酸亜鉛を使用した事前活性化(活性化時間:60秒)に続く。
【0119】
得られた変換コートの表面構造のX線蛍光灯分析(XRF)及び走査電子顕微鏡(SEM)画像による被膜(coat)質量(CW)を測定することによって、ポリマーの影響を評価した。オルガノシランベースの薄いフィルムコーティングについての測定した被膜質量-ジルコニウム金属(Zr)として計算-を表5に示す(n≧3)。
【0120】
【0121】
異なる変形例(VB9、B2及びB3)内で生じる偏差は、CW測定の可能なエラー許容範囲内に位置していた。変換被膜の表面構造のSEM画像は、如何なる場合にも異常な点を示さなかった。本発明に使用したポリマーは従って、オルガノシランベースの薄いフィルム系のコーティングの最適な発達に不利な影響を与えることが無く、及び従って上述した系と相性が良い。
測定した被膜質量を、Zn3(PO4)2・4H2Oとして計算して、リン酸亜鉛に関し、及び次のトリカチオンリン酸塩処理に関し、表6及び表7にそれぞれ示した(各場合において、n≧3)。
【0122】
【0123】
【0124】
得られた被膜質量は、2種のポリマーがリン酸亜鉛の活性化に対する影響を示さず(注、表6)、及びトリカチオンリン酸塩処理に僅かな影響のみを示す(注、表7)(B4及びB5対VB10)ことを表しており、及びこれらの影響は、リン酸塩のパラメーターに適合させることによって現行の操作内で補償することができるものである。トリカチオン変換被膜の表面構造のSEM画像は、異常な点を示さなかった。
【0125】
従って、本発明の洗浄剤溶液の、オルガノシランベースの薄いフィルムコーティングとの適合性のみならず、トリカチオンリン酸塩処理系との適合性を実証することが可能であった。
【0126】
vi)オルガノシランベースの薄いフィルムコーティング内での腐食挙動:
本発明の洗浄剤溶液B1の腐食挙動に対する影響を調査するために、シート状の材料HDGを標準化された工程で処理した。
工程:
1.)スプレー洗浄、60秒
2.)浸漬洗浄、180秒
3.)浸漬すすぎ、30秒
4.)浸漬変換、180秒
5.)浸漬すすぎ、30秒
6.)圧縮空気を使用した乾燥
【0127】
本発明のフォスフェイト非含有の洗浄剤溶液を、濃縮物からの1:50の希釈において、及び2g/lのエチレン/プロピレンオキシド脂肪アルコールで使用して、 洗浄工程1.)及び2.)を実施した。比較のために、2つの標準のフォスフェイト含有洗浄剤(VB11及びVB12)も試験した。
【0128】
工程4.)における変換のために、オルガノシランベースの薄いフィルム系(Chemetall、ドイツ)を使用した。工程6.)の後、処理したシートを塗料付着及び腐食について試験したが、これらは自動車分野では通常の循環腐食試験(VDA621-415)を使用して行われた。
【0129】
腐食侵入(corrosive undermining)及び石打(stone chipping)後の塗料付着の結果を表8に示す(各場合において、n≧3)。
【0130】
本発明のフォスフェイト非含有の洗浄剤溶液B1は、オルガノシランベースの変換系と組み合わせて、腐食挙動及び表面の塗料付着特性の両方を、標準のフォスフェイト含有洗浄剤(VB11及びVB12)と比較して相当に改良することが明確である。
【0131】