(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002409
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/22 20060101AFI20241226BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20241226BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241226BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20241226BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20241226BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B01J27/22 M
B01J35/02 J
B01J37/08
B01J20/02 B
B01J20/20 D
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102578
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】中西 修一
(72)【発明者】
【氏名】今川 真之
【テーマコード(参考)】
4G066
4G169
【Fターム(参考)】
4G066AA04B
4G066AA23D
4G066AA41B
4G066AA50B
4G066AA66B
4G066CA46
4G066DA07
4G066FA22
4G066FA34
4G066FA37
4G066FA38
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA22C
4G169BA48A
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB15A
4G169BB15B
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BE14C
4G169CA01
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA05
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169EC28
4G169FA01
4G169FB06
4G169FB08
4G169FB10
4G169FB30
4G169FB34
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB02
4G169HB03
4G169HC22
4G169HD02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分解対象物の吸着をさらに高めて触媒作用を向上させることができる酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の酸化チタンアパタイト複合体は、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する、酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項2】
前記複合体は、前記酸化チタンの重量と前記アパタイトの重量との重量比が、0.8以上1.25以下である、請求項1に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項3】
前記酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンを含んでいる、請求項1に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項4】
前記複合体中の前記酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンが酸化チタン全体基準で90%以上存在している、請求項3に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項5】
前記アパタイトは、ハイドロキシアパタイトを含んでいる、請求項1に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項6】
前記複合体中のアパタイトは、ハイドロキシアパタイトがアパタイト全体基準で70%以上存在している、請求項5に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項7】
前記複合体が、重金属に対する吸着能および/または光触媒能を有する、請求項1に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
【請求項8】
酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、ドーパミン化合物を合成する合成工程と、
前記合成工程によって得られた合成物を焼成する焼成工程と、
を備えた、酸化チタンアパタイト複合体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程において、600℃以上800℃以下の温度で焼成することを含む、請求項8に記載の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、酸化チタンの光触媒能について多くの研究が行われている。そして、当該酸化チタンに対し、分解対象物(例えば、重金属)に対する吸着能を有するハイドロキシアパタイトを混ぜ合わせることによって、分解対象物を吸着して酸化チタンによる光触媒作用を高める技術が知られている。
【0003】
ここで、酸化チタンとハイドロキシアパタイトの混合物を製造する1つの手法として、
図18Aに示すように、酸化チタンの粉状体とハイドロキシアパタイトの粉状体を混ぜ合わせることが挙げられる。しかしながら、粉状体同士を均一に混ぜ合わせることは困難であった。
【0004】
そのため、
図18Bに示すように、ハイドロキシアパタイトの表面に酸化チタンを被覆して被覆体を製造する手法(例えば、特許文献1)や、酸化チタンの表面にハイドロキシアパタイトを被覆して被覆体を製造する手法(例えば、特許文献2および3)が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3550652号公報
【特許文献2】特許第4445789号公報
【特許文献3】特許第3975270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示された被覆体を製造する手法であっても、ハイドロキシアパタイトまたは酸化チタンを被覆する被覆量には限界があった。つまり、被覆対象の材料と被覆材料との重量比が同程度となるまで被覆することができなかった。そのため、分解対象物の吸着をさらに高めて光触媒作用を向上させるには更なる改良の余地を残していた。
【0007】
そこで、本開示は、分解対象物の吸着をさらに高めて光触媒作用を向上させることができる酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の酸化チタンアパタイト複合体は、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する。
【0009】
本開示の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法は、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、ドーパミン化合物を合成する合成工程と、前記合成工程によって得られた混合物を焼成する焼成工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、分解対象物の吸着をさらに高めて光触媒作用を向上させることができる酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法の製造フロー図である。
【
図2】実証試験1の結果を示すSEM-EDXによる元素マッピングである。
【
図3】実証試験1の結果を示すSEM-EDXによる元素マッピングである。
【
図4】実証試験1の結果を示すSEM-EDXによる元素マッピングである。
【
図5】実証試験2の結果を示すX線回折による回折パターンである。
【
図6】実証試験2のX線回折パターンから測定される回折角および結晶格子の間隔の表である。
【
図7A】実証試験2のX線回折パターンから測定されるアナターゼ型の結晶構造の酸化チタンとルチル型の結晶構造の酸化チタンとの割合を示す表である。
【
図7B】実証試験2のX線回折パターンから測定されるハイドロキシアパタイトとリン酸3カルシウムとの割合を示す表である。
【
図7C】実証試験2のX線回折パターンから測定されるアパタイトと酸化チタンの割合を示す表である。
【
図8】実証試験3の光触媒能評価によって得られたグラフおよび表である。
【
図9】実証試験3の光触媒能評価によって得られたグラフおよび表である。
【
図10】実証試験4の光触媒能速度評価によって得られたグラフおよび表である。
【
図11】実証試験4の光触媒能速度評価によって得られたグラフおよび表である。
【
図12】実証試験5の吸着能評価によって得られたグラフおよび表である。
【
図13】実証試験6の製造条件に対する光触媒能および吸着能評価によって得られた表である。
【
図14】実証試験6の製造条件に対する光触媒能および吸着能評価によって得られたグラフである。
【
図15】実証試験7の製造条件に対する光触媒能および吸着能評価によって得られた表である。
【
図16】実証試験7の製造条件に対する光触媒能および吸着能評価によって得られたグラフである。
【
図17】実証試験8の炭素元素量評価によって得られた表である。
【
図18A】従前の酸化チタンおよびハイドロキシアパタイトの混合物を示す模式図である。
【
図18B】従前の酸化チタンおよびハイドロキシアパタイトの被覆体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法について説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。なお、本明細書で言及する各種の数値範囲は、特に明記しない限り、下限および/または上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。また、各種数値に“約”または“程度”が付されている場合もあるが、この“約”および“程度”といった用語は、数パーセント、例えば±10パーセント、±5パーセント、±3パーセント、±2パーセント、および/または、±1パーセントの変動を含み得ることを意味する。
【0013】
-本開示の酸化チタンアパタイト複合体の説明-
本開示の酸化チタンアパタイト複合体は、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する。より具体的には、酸化チタンアパタイト複合体は、元素分析をしたときに、酸化チタン成分、リン酸カルシウム成分、炭素成分を含む複合体を構成する。ここで、酸化チタン成分とは、酸素元素およびチタン元素を含むことを少なくとも意図し、リン酸カルシウム成分とは、リン元素、酸素元素およびカルシウム元素を含むことを少なくとも意図し、炭素成分とは、炭素元素を含むことを少なくとも意図する。また、本開示の「複合体」とは、粉状体同士が混ぜ合わさった態様(
図18A)および構造体を被覆して構成される態様(
図18B)と異なり、複合体を構成する構成材料が渾然一体となって外見上で各構成材料を区別できない態様を意図している。
【0014】
このような構成によれば、従来から知られた酸化チタン粉状体とアパタイト粉状体同士が均一に混ざらない事象、および、被覆対象の材料と被覆材料との重量比が同程度(重量比が略1)となるように被覆できない事象を改善し、酸化チタンアパタイト複合体を構成する酸化チタンと、アパタイトとを酸化チタンアパタイト複合体の全体基準で重量比を略等しくできる。したがって、分解対象物の吸着をさらに高めて光触媒作用を向上させることができる。
【0015】
好適な複合体の態様として、複合体は、酸化チタンの重量とアパタイトの重量との重量比が、0.8以上1.25以下であってよい。言い換えると、複合体全体基準で酸化チタンの重量/アパタイトの重量が、0.8以上1.25以下であってよい。更に言い換えると、酸化チタンの重量がアパタイトの重量に対して0.8倍以上1.25倍以下であってよい。このような酸化チタンとアパタイトの重量比の範囲とすることにより、分解対象物の吸着をさらに高めて光触媒作用を向上させることができる。
【0016】
複合体を構成する酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンであることが好ましい。酸化チタンの結晶構造には、一例としてアナターゼ型とルチル型とが存在する。本明細書でいうアナターゼ型の結晶構造であることとは、X線回折パターンとして25.3°付近に回折ピークが得られることを意図し、ルチル型の結晶構造であることとは、X線回折パターンとして27.4°付近に回折ピークが得られることを意図している。アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンが複合体に含まれることによって、光触媒作用をより向上させることができる。
【0017】
好適なアナターゼ型の結晶構造の酸化チタンの含有割合として、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンが酸化チタン全体基準で90%以上存在していてよい。このような含有割合でアナターゼ型の結晶構造の酸化チタンを含有させることにより、光触媒作用をより一層向上させることができる。
【0018】
複合体を構成するアパタイトは、リン酸カルシウムを含むハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)であることが好ましい。本明細書でいうハイドロキシアパタイトとは、X線回折パターンとして31.6°付近に回折ピークが得られることを意図している。ハイドロキシアパタイトが複合体に含まれることによって、分解対象物の吸着をさらに高めることができる。
【0019】
好適なハイドロキシアパタイトの含有割合として、ハイドロキシアパタイトがアパタイト全体基準で60%以上存在していてよい。言い換えると、アパタイトとしてハイドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム(例えば、リン酸3カルシウム(Ca3(PO4)2))が40%未満存在していてよい。このような含有割合でハイドロキシアパタイトを含有させることにより、光触媒作用をより向上させることができる。
【0020】
複合体を構成する炭素は、炭化物であることが好ましい。炭化物は、後述の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法のとおり、ドーパミンを複数重合させたポリドーパミン由来の化合物である。炭化物の一例として、炭化カルシウム、炭化チタンまたはグラファイトが挙げられる。本開示の酸化チタンアパタイト複合体は、炭化物に起因する炭素を包含するため、炭化物の導電性によって酸化チタンの励起された電子が流れ込んで電子/ホールの再結合が低減され、活性化を向上させることができる。また、炭化物による吸着能の寄与により、効果的に分解対象物の吸着を高めることができる。
【0021】
好適な酸化チタンアパタイト複合体の態様として、複合体が、重金属に対する吸着能および/または光触媒能を有していてよい。このように複合体が重金属に対する吸着能および/または光触媒能を有することにより、例えば、環境浄化フィルターまたはメディカル用途向けの材料開発に用いることができる。
【0022】
-本開示の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法の説明-
次に、本開示の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法について、
図1の製造フローを参照しながら説明する。本開示の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法は、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、ドーパミン化合物を合成する合成工程と、合成工程によって得られた合成物を焼成する焼成工程と、を備えている。以下、製造フローに沿って説明する。
【0023】
・合成工程
まず、リン酸カルシウムを含むアパタイトを準備する。一例として、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)および硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)を混ぜ合わせて撹拌する。そして、所定の温度下(一例として40℃)で数日間(一例として1日)エージングする。
【0024】
次に、ドーパミンと、酸化チタンを生成するために用いられるオルトチタン酸テトライソプロピル(Ti{OCH(CH
3)
2}
4)と、を準備する。なお、ドーパミンは、下記[化1]で示される。
【化1】
【0025】
そして、リン酸カルシウムを含むアパタイト、ドーパミン化合物、酸化チタンを合成する。合成手法の一例として、ゾルゲル合成または水熱合成が挙げられる。当該合成により、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、ドーパミン化合物が合成された合成物を得ることができる。
【0026】
・焼成工程
上述の合成工程によって得られた合成物を焼成する。一例として、N2雰囲気下で600℃以上800℃以下の温度で焼成することを含むことが挙げられる。なお、合成物の焼成前に、400℃大気雰囲気下でプレ焼成処理を行ってもよい。当該焼成工程を経ることにより、本開示の酸化チタンアパタイト複合体を製造することができる。以上により、本開示の製造方法によって製造された酸化チタンアパタイト複合体によれば、分解対象物の吸着をさらに高めて光触媒作用を向上させることができる。
【実施例0027】
本開示の酸化チタンアパタイト複合体に関する実証試験について詳述する。
【0028】
-実証試験1:SEM-EDXによる元素マッピング-
以下に示す実施例1~3に対して、SEM-EDXによる元素マッピングを行った。
【0029】
・実施例1
上述の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法のとおり、合成工程を行った上で、焼成工程において600℃の焼成を行った。
【0030】
・実施例2
上述の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法のとおり、合成工程を行った上で、焼成工程において700℃の焼成を行った。
【0031】
・実施例3
上述の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法のとおり、合成工程を行った上で、焼成工程において800℃の焼成を行った。
【0032】
SEM-EDXによる元素マッピングは、卓上走査電子顕微鏡JCM-7000(日本電子株式会社)を使用し、元素マッピングの観察条件としては、加速電圧15kVでマッピング領域の各画素のスペクトルから、分析対象の元素の特性X線強度を抽出して表示したものである。
【0033】
実施例1~実施例3の元素マッピングを
図2~4に示す。
図2~4の電子顕微鏡写真によれば、本開示の酸化チタンアパタイト複合体について、複合体を構成する構成材料が渾然一体となって外見上で構成材料を区別できない態様であることを理解することができる。また、実施例1~3のいずれも炭素、酸素、チタン、リンおよびカルシウムを含有する結果が得られた。
【0034】
-実証試験2:X線回折による回折パターンの観察-
上述の実施例1~実施例3に対して、X線回折による回折パターンの観察を行った。
【0035】
X線回折は、X線回折装置MiniFlex600(株式会社リガク)を使用し、回折パターンの観察条件としては、X線源はCu-Kα線、管球出力として管電圧40kV、管電流15mAである。
【0036】
実施例1~3の回折パターンを
図5に示す。そして、各実施例の酸化チタン(TiO
2)およびハイドロキシアパタイト(HAP)の回折角(2θ)および結晶格子(Å)を
図6に示す。実証試験2によれば、回折角として25.3°付近に回折ピークを有するアナターゼ型の結晶構造の酸化チタン、および、回折角として31.6°付近に回折ピークを有するハイドロキシアパタイトを確認することができた。
【0037】
また、当該回折パターンによれば、
図7Aの表に示すとおり、実施例1~3いずれもアナターゼ型の結晶構造の酸化チタンが酸化チタン全体基準で90%以上存在していることを確認することができた。なお、焼成工程において600℃以下の焼成温度とすると、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンが十分に生成されず、800℃以上の焼成温度とすると、ルチル型の結晶構造の酸化チタンの割合が多くなるため、焼成温度の温度範囲は600℃以上800℃以下が好適であった。
【0038】
さらに、当該回折パターンによれば、
図7Bの表に示すとおり、実施例1~3いずれもハイドロキシアパタイトがアパタイト全体基準で60%以上存在していることを確認することができた。なお、焼成工程において600℃以下の焼成温度とすると、ハイドロキシアパタイトが十分に生成されず、800℃以上の焼成温度とすると、リン酸3カルシウム(TCP:Tricalcium phosphate)の割合が多くなるため、焼成温度の温度範囲は600℃以上800℃以下が好適であった。
【0039】
さらに、当該回折パターンによれば、
図7Cの表に示すとおり、実施例1~3いずれも複合体全体基準で酸化チタンの重量/アパタイトの重量が、0.8以上1.25以下であることを確認することができた。なお、酸化チタンの重量/アパタイトの重量は、従前より知られている酸化チタンの粉状体とハイドロキシアパタイトの粉状体を混ぜ合わせた実施例の回折パターンを比較することにより算出している。
【0040】
-実証試験3:光触媒能評価-
上述の実施例1~3および下記の比較例1~4に対して、光触媒能評価を行った。
【0041】
・比較例1
酸化チタン100%のサンプル。
【0042】
・比較例2
図18Aに示すように、酸化チタンの粉状体80%とハイドロキシアパタイトの粉状体20%を混ぜ合わせたサンプル。
【0043】
・比較例3
図18Aに示すように、酸化チタンの粉状体50%とハイドロキシアパタイトの粉状体50%を混ぜ合わせたサンプル。
【0044】
・比較例4
図18Aに示すように、酸化チタンの粉状体20%とハイドロキシアパタイトの粉状体80%を混ぜ合わせたサンプル。
【0045】
光触媒能評価は、光源としてLED型365nmブラックライトUV-SU365-01FDC(株式会社コンテック)を使用し、評価条件としては、色素であるメチレンブルー溶液0.001%、評価対象粉末の終濃度0.5mg/mLであり、光照射3分後の吸光度をマイクロプレートリーダーInfinite(登録商標) 200 PRO(Tecan)で測定した。
【0046】
光触媒能評価の結果を
図8および
図9に示す。
図8に示す比較例1~4に対する光触媒能評価結果によれば、比較例1~4の光触媒能の指標を示す対ブランク比は、32%以上である結果が得られた。一方で、
図9に示す実施例1~3に対する光触媒能評価結果によれば、実施例1~3の光触媒能の指標を示す対ブランク比は、11~12%を示しており、比較例1~4の光触媒能よりも良好な結果が得られた。なお、本明細書において対ブランク比に基づく光触媒能評価は、メチレンブルーの色素が光照射によってどれだけ分解されたかを意図しており、数値が低いほど光触媒能が良好である。
【0047】
-実証試験4:光触媒能速度評価-
上述の実施例1~3および比較例1に対して、光触媒能速度評価を行った。光触媒能評価は、光源としてキセノンスポット光源LC8-01A(浜松ホトニクス)を使用し、評価条件としては、色素であるメチレンブルー溶液0.001%、評価対象粉末の終濃度1mg/20mLであり、光照射後5分毎の吸光度をマイクロプレートリーダーInfinite(登録商標) 200 PRO(Tecan)で測定した。
【0048】
光触媒能速度評価の結果を
図10および
図11に示す。
図10に示す比較例1に対する光触媒能速度評価によれば、比較例1の速度定数は、0.039min
-1であり、半減期が17.8minであった。一方で、
図11に示す実施例1~3に対する光触媒能速度評価によれば、速度定数および半減期は、比較例1と比べて良好な結果が得られた。
【0049】
-実証試験5:吸着能評価-
上述の実施例3および比較例1~4および下記の比較例5に対して、吸着能評価を行った。
【0050】
・比較例5
ハイドロキシアパタイト100%のサンプル。
【0051】
吸着能評価は、二価のCuイオンの検出用試薬としてPhen GreenTM SK, Dipotassium Salt(InvitrogenTM)を使用し、評価条件としては、二価のCuイオン溶液100μM、評価対象粉末の終濃度1mg/0.2mLであり、30分後の蛍光強度をマイクロプレートリーダーInfinite(登録商標) 200 PRO(Tecan)で測定した。
【0052】
吸着能評価の結果を
図12に示す。比較例1~5に対する吸着能は、対ブランク比が80%以下である結果が得られた。一方で、実施例3に対する吸着能は、対ブランク比が90%以上を示しており、比較例1~5の吸着能よりも良好な結果が得られた。なお、本明細書において対ブランク比に基づく吸着評価は、Cuイオンの吸着量に基づいて評価しており、数値が高いほどCuイオンの吸着量が多いため吸着能が良好となる。
【0053】
-実証試験6:製造条件に対する光触媒能および吸着能評価-
以下に示す実施例2-1~2-9に対して、光触媒能および吸着能評価を行った。
【0054】
・実施例2-1
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物をゾルゲル合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、大気雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0055】
・実施例2-2
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、大気雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0056】
・実施例2-3
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物をゾルゲル合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、N2雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0057】
・実施例2-4
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、N2雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0058】
・実施例2-5
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物をゾルゲル合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、大気雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0059】
・実施例2-6
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、大気雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0060】
・実施例2-7
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、N2雰囲気でプレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0061】
吸着能評価および光触媒能評価の手法は、上述の実証試験3および5と同様である。
【0062】
製造条件に対する光触媒能および吸着能評価の結果を
図13および
図14に示す。実施例2-1~2-9の評価結果によれば、いずれも吸着能のブランク比が50%以上、光触媒能の対ブランク比が40%以下であるため、吸着能および光触媒能の両方が良好である酸化チタンアパタイト複合体を製造することができる。
【0063】
-実証試験7:製造条件に対する光触媒能および吸着能評価-
以下に示す実施例3-1~3-6に対して、光触媒能および吸着能評価を行った。
【0064】
・実施例3-1
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(6mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0065】
・実施例3-2
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で3時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0066】
・実施例3-3
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)をゾルゲル合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で3時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0067】
・実施例3-4
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0068】
・実施例3-5
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際にエージングを行わなかった。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)をゾルゲル合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0069】
・実施例3-6
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0070】
吸着能評価および光触媒能評価の手法は、上述の実証試験3および5と同様である。
【0071】
製造条件に対する光触媒能および吸着能評価の結果を
図15および
図16に示す。実施例3-1~3-6の評価結果によれば、いずれも吸着能のブランク比が60%以上、光触媒能の対ブランク比が40%以下であるため、吸着能および光触媒能の両方が良好である酸化チタンアパタイト複合体を製造することができる。
【0072】
-実証試験8:炭素元素量の評価-
以下に示す実施例4-1~4-3に対して、製造された酸化チタンアパタイト複合体の炭素元素量の評価を行った。
【0073】
炭素元素量の評価は、炭素・硫黄分析装置装置EMIA-920V2/FA(株式会社堀場製作所)を使用し、評価方法としては、酸素気流中燃焼(高周波加熱炉方式)-赤外線吸収法である。なお、表中の吸着能評価および光触媒能評価の手法は、上述の実証試験3および5と同様である。
【0074】
・実施例4-1
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、600℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0075】
・実施例4-2
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、700℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0076】
・実施例4-3
上述した合成工程として、アパタイトを準備する際に40℃で1日エージングを行った。合成工程として、アパタイト、酸化チタンおよびドーパミン化合物(2mg/mL)を水熱合成によって合成した。
焼成工程として、400℃、空気雰囲気で1時間プレ焼成した後に、800℃、N2雰囲気で3時間焼成を行った。上記製造条件で、酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する酸化チタンアパタイト複合体を製造した。
【0077】
製造条件に対する炭素含有量の結果を
図17に示す。実施例4-1~4-3の評価結果によれば、酸化チタンアパタイト複合体は、炭素が全体基準で54%以下含有されている結果が得られた。そして、実施例4-1~4-3いずれも吸着能のブランク比が60%以上、光触媒能の対ブランク比が40%以下であるため、吸着能および光触媒能の両方が良好であった。
【0078】
本開示の酸化チタンアパタイト複合体および酸化チタンアパタイト複合体の製造方法は、以下の態様を包含する。
<1>酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、炭素と、を含む複合体を構成する、酸化チタンアパタイト複合体。
<2>前記複合体は、前記酸化チタンの重量と前記アパタイトの重量との重量比が、0.8以上1.25以下である、<1>に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
<3>前記酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンを含んでいる、<1>または<2>に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
<4>前記複合体中の酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造の酸化チタンが酸化チタン全体基準で90%以上存在している、<3>に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
<5>前記アパタイトは、ハイドロキシアパタイトを含んでいる、<1>~<4>のいずれか1つに記載の酸化チタンアパタイト複合体。
<6>前記複合体中のアパタイトは、ハイドロキシアパタイトがアパタイト全体基準で70%以上存在している、<5>に記載の酸化チタンアパタイト複合体。
<7>前記複合体が、重金属に対する吸着能および/または光触媒能を有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の酸化チタンアパタイト複合体。
<8>酸化チタンと、リン酸カルシウムを含むアパタイトと、ドーパミン化合物を合成する合成工程と、
前記合成工程によって得られた合成物を焼成する焼成工程と、
を備えた、酸化チタンアパタイト複合体の製造方法。
<9>前記焼成工程において、600℃以上800℃以下の温度で焼成することを含む、<9>に記載の酸化チタンアパタイト複合体の製造方法。
【0079】
なお、今回開示した実施態様は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施態様のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本開示の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。