(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024308
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】二次電池用正極および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20250213BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250213BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20250213BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250213BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20250213BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128330
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 優一郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029DJ08
5H029HJ01
5H029HJ05
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】優れた電池特性を得ることが可能である二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池は、正極活物質層を含む正極と、負極と、電解液とを備え、その正極活物質層は、正極活物質および正極結着剤を含む。正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含む。正極結着剤は、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、その水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちの少なくも1種の重合体を含み、その脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも1種の重合体を含む。正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上2重量%以下であり、正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量は、2重量%以上6重量%以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を含む正極と、
負極と、
電解液と
を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質および正極結着剤を含み、
前記正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含み、
前記正極結着剤は、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、
前記水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちの少なくも1種の重合体を含み、
前記脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも1種の重合体を含み、
前記正極活物質層における前記水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上2重量%以下であり、
前記正極活物質層における前記脂溶性高分子化合物の含有量は、2重量%以上6重量%以下である、
二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質層における前記水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上1.5重量%以下である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層における前記脂溶性高分子化合物の含有量は、3重量%以上5重量%以下である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、複数の二次粒子を含み、
前記複数の二次粒子のメジアン径は、5μm以上15μm以下である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記二次粒子は、複数の一次粒子を含み、
前記複数の一次粒子のメジアン径は、0.1μm以上1μm以下である、
請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記リン酸化合物は、鉄およびマンガンのうちの一方または双方を構成元素として含む、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項8】
正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質および正極結着剤を含み、
前記正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含み、
前記正極結着剤は、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、
前記水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちの少なくも1種の重合体を含み、
前記脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも1種の重合体を含み、
前記正極活物質層における前記水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上2重量%以下であり、
前記正極活物質層における前記脂溶性高分子化合物の含有量は、2重量%以上6重量%以下である、
二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池用正極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度が得られる電源として二次電池の開発が進められている。この二次電池は、二次電池用正極である正極と共に負極および電解液を備えており、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。
【0003】
具体的には、正極活物質がオリビン型リン酸リチウムを含んでいると共に、結着剤がポリアクリロニトリルを含んでいる(例えば、特許文献1参照。)。また、正極活物質がオリビン型構造を有するリチウム複合酸化物を含んでいると共に、結着剤がアクリロニトリル系共重合体を含んでいる(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-251554号公報
【特許文献2】特開2010-272272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池の構成に関する様々な検討がなされているが、その二次電池の電池特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0006】
優れた電池特性を得ることが可能である二次電池用正極および二次電池が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池用正極は、正極活物質層を備え、その正極活物質層が正極活物質および正極結着剤を含むものである。正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含む。正極結着剤は、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、その水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちの少なくも1種の重合体を含み、その脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも1種の重合体を含む。正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上2重量%以下であり、正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量は、2重量%以上6重量%以下である。
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池は、正極と負極と電解液とを備え、その正極が上記した本技術の一実施形態の二次電池用正極の構成と同様の構成を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本技術の一実施形態の二次電池用正極または二次電池によれば、正極活物質層が正極活物質および正極結着剤を含み、その正極活物質がオリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含み、その正極結着剤が水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、その正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量が1重量%以上2重量%以下であり、その正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量が2重量%以上6重量%以下であるので、優れた電池特性を得ることができる。
【0010】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本技術の一実施形態における二次電池用正極の構成を表す断面図である。
【
図2】
図2は、本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した電池素子の構成を表す断面図である。
【
図4】
図4は、試験用の二次電池の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池用正極
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-4.作用および効果
2.二次電池
2-1.構成
2-2.動作
2-3.製造方法
2-4.作用および効果
3.変形例
4.二次電池の用途
【0013】
<1.二次電池用正極>
まず、本技術の一実施形態の二次電池用正極(以下、単に「正極」と呼称する。)に関して説明する。
【0014】
ここで説明する正極は、電気化学デバイスである二次電池に用いられる。ただし、正極は、二次電池以外の他の電気化学デバイスに用いられてもよい。他の電気化学デバイスの具体例は、一次電池およびキャパシタなどである。
【0015】
この正極は、電気化学デバイスの動作時、すなわち電極反応時において、電極反応物質を吸蔵放出する。電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属の具体例は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属の具体例は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0016】
以下では、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。これにより、正極では、電極反応時においてリチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0017】
<1-1.構成>
図1は、本技術の一実施形態における正極の一例である正極100の断面構成を表している。この正極100は、
図1に示したように、正極活物質層100Bを備えている。
【0018】
ここでは、正極100は、さらに、正極活物質層100Bを支持する正極集電体100Aを備えている。ただし、正極集電体100Aは、省略されてもよい。
【0019】
[正極集電体]
正極集電体100Aは、正極活物質層100Bを支持する導電性の部材であり、その正極活物質層100Bが設けられる一対の面を有している。この正極集電体100Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。
【0020】
[正極活物質層]
ここでは、正極活物質層100Bは、正極集電体100Aの片面に設けられている。ただし、正極活物質層100Bは、正極集電体100Aの両面に設けられていてもよい。
【0021】
この正極活物質層100Bは、正極活物質および正極結着剤を含んでいる。ただし、正極活物質層100Bは、さらに、正極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0022】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムを吸蔵放出する複数の粒子状の物質(以下、「複数の正極活物質粒子」と呼称する。)を含んでおり、その正極活物質粒子は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。以下では、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を「オリビン型リン酸化合物」と呼称する。
【0023】
正極活物質粒子がオリビン型リン酸化合物を含んでいるのは、そのオリビン型リン酸化合物の結晶構造が強固かつ安定であるため、正極100の電極反応時においてオリビン型リン酸化合物から酸素が放出されることは抑制されるからである。これにより、正極活物質層100Bにおいてリチウムが安定に吸蔵放出されるため、電極反応が安定に進行する。よって、正極100を備えた二次電池において安定な電池容量が得られると共に、その二次電池の安全性が向上する。
【0024】
ここでは、上記したように、電極反応物質がリチウムであるため、オリビン型リン酸化合物は、リチウム、リンおよび酸素を構成元素として含んでいる。この場合において、オリビン型リン酸化合物の種類は、リチウム、リンおよび酸素を構成元素として含んでいれば、特に限定されない。
【0025】
なお、オリビン型リン酸化合物は、さらに、リチウムを除く金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。金属元素の種類は、特に限定されないが、具体的には、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、チタン、クロム、バナジウム、亜鉛、スズ、タングステン、ジルコニウム、マグネシウムおよびアルミニウムなどである。
【0026】
中でも、金属元素は、鉄およびマンガンのうちの一方または双方を含んでいることが好ましい。すなわち、オリビン型リン酸化合物は、鉄およびマンガンのうちの一方または双方を構成元素として含んでいることが好ましい。オリビン型リン酸化合物から酸素が放出されることは十分に抑制されるからである。
【0027】
より具体的には、オリビン型リン酸化合物は、式(1)により表される化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。オリビン型リン酸化合物が2種類以上の金属元素(Me)を構成元素として含んでいる場合には、その2種類以上の金属元素の混合比(モル比)は任意に設定可能である。
【0028】
Lix MePO4 ・・・(1)
(Meは、Fe、Mn、Co、Ni、Ti、Cr、V、Zn、Sn、W、Zr、MgおよびAlのうちの少なくとも1種である。xは、0.9≦x≦1.1を満たす。)
【0029】
オリビン型リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 、LiFe0.5 Mn0.5 PO4 およびLiFe0.5 Co0.5 PO4 などである。
【0030】
ここで、正極活物質粒子は、二次粒子であるため、正極活物質は、複数の二次粒子である複数の正極活物質粒子を含んでいることが好ましい。また、二次粒子は、複数の一次粒子を含んでいるため、その複数の一次粒子の集合体であることが好ましい。正極活物質層100Bの導電性が向上するからである。
【0031】
詳細には、オリビン型リン酸化合物は、本質的に低い電子伝導性を有している。このため、オリビン型リン酸化合物の導電性を向上させるためには、そのオリビン型リン酸化合物は複数の微小な粒子構造を有していることが好ましい。よって、正極活物質粒子を造粒することにより、複数の一次粒子の集合体である二次粒子となるように正極活物質粒子を構成することが好ましい。
【0032】
これにより、複数の二次粒子同士が互いに接触しやすくなるため、その複数の二次粒子間の電子伝導性が向上すると共に、複数の一次粒子同士が互いに接触しやすくなるため、その一次粒子間の電子伝導性も向上する。よって、正極活物質粒子の内部において導電性が向上すると共に、複数の正極活物質粒子間の導電性も向上するため、正極活物質層100Bの導電性が向上する。
【0033】
複数の二次粒子である複数の正極活物質粒子のメジアン径MD2は、特に限定されないが、中でも、5μm~15μmであることが好ましい。複数の二次粒子同士が互いにより接触しやすくなるため、その複数の二次粒子間の電子伝導性がより向上するからである。
【0034】
ここでは、複数の一次粒子が互いに凝集することにより、二次粒子が形成されている。複数の一次粒子のメジアン径MD1は、特に限定されないが、中でも、0.1μm~1μmであることが好ましい。複数の一次粒子同士が互いにより接触しやすくなるため、その複数の一次粒子間の電子伝導性がより向上するからである。
【0035】
メジアン径MD2を測定する手順は、以下で説明する通りである。ここでは、正極活物質層100Bが複数の正極活物質粒子、正極結着剤および正極導電剤を含んでいる場合に関して説明する。
【0036】
メジアン径MD2を測定するためには、粒径測定装置を用いて複数の正極活物質粒子を分析する。この粒径測定装置としては、株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA-960などを使用可能である。
【0037】
より具体的には、メジアン径MD2を測定する場合には、最初に、水性溶媒に正極100を投入したのち、その水性溶媒を攪拌することにより、正極集電体100Aから正極活物質層100Bを剥離させる。水性溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、正極結着剤を溶解可能である純水などである。ここで説明した水性溶媒に関する詳細は、以降においても同様である。
【0038】
続いて、水性溶媒に正極活物質層100Bを投入することにより、その水性溶媒を撹拌したのち、その水性溶媒を濾過する。これにより、正極結着剤のうちの水溶性高分子化合物が溶解除去されるため、固形分である複数の正極活物質粒子、脂溶性高分子化合物および正極導電剤が回収される。
【0039】
続いて、水性溶媒に固形分を投入したのち、遠心分離器を用いて水性溶媒中の固形分を遠心分離する。これにより、脂溶性高分子化合物および正極導電剤から複数の正極活物質粒子が分離されるため、その複数の正極活物質粒子が回収される。最後に、粒径測定装置を用いて複数の正極活物質粒子を分析することにより、メジアン径MD2を測定する。
【0040】
メジアン径MD1を測定する手順は、以下で説明する通りである。最初に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、正極活物質層100Bの断面を観察(観察倍率=10000倍)する。これにより、正極活物質層100Bに含まれている複数の正極活物質粒子が観察されるため、複数の正極活物質粒子(複数の二次粒子)のそれぞれを形成している複数の一次粒子が観察される。続いて、複数の一次粒子の中から、輪郭(外縁)の全体を観察可能である任意の50個の一次粒子を選択したのち、その50個の一次粒子のそれぞれの粒径を測定する。この粒径は、一次粒子が長軸および短軸を含んでいる場合において、その長軸の径(長軸の方向における径の最大値)である。最後に、50個の粒径の平均値を算出することにより、メジアン径MD1とする。
【0041】
(正極結着剤)
正極結着剤は、複数の正極活物質粒子などの粒子を互いに結着させる材料であり、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含んでいる。
【0042】
水溶性高分子化合物は、純水などの水性溶媒に溶解可能である高分子化合物であり、その水溶性高分子化合物の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0043】
具体的には、水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちのいずれか1種類または2種類以上の重合体を含んでいる。すなわち、水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちのいずれか1種類同士が重合した化合物である単独重合体でもよい。また、水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちのいずれか2種類以上が互いに重合した化合物である共重合体でもよい。ここで説明したアクリロニトリルは、水溶性高分子化合物の候補であることから明らかなように、水溶性を有するアクリロニトリルである。
【0044】
このため、水溶性高分子化合物は、ポリアクリル酸塩でもよいし、ポリアクリロニトリルでもよいし、ポリアクリルアミドでもよい。また、水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩-アクリロニトリル共重合体でもよいし、アクリロニトリル-アクリルアミド共重合体でもよいし、アクリル酸塩-アクリルアミド共重合体でもよいし、アクリル酸塩-アクリロニトリル-アクリルアミド共重合体でもよい。
【0045】
アクリル酸塩は、いわゆるアクリル酸金属塩である。アクリル酸塩の種類は、特に限定されないが、具体的には、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウムおよびアクリル酸カリウムなどのアクリル酸金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0046】
正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量は、後述する正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量との関係において適正化されており、具体的には、1重量%~2重量%である。
【0047】
脂溶性高分子化合物は、純水などの水性溶媒に不溶である高分子化合物であり、その脂溶性高分子化合物の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。すなわち、脂溶性高分子化合物は、水性溶媒に不溶である反面、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤に溶解可能である高分子化合物である。
【0048】
具体的には、脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちのいずれか1種類または2種類以上の重合体を含んでいる。すなわち、脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちのいずれか1種類同士が重合した化合物である単独重合体でもよい。また、脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちのいずれか2種類以上が互いに重合した化合物である共重合体でもよい。ここで説明したアクリロニトリルは、脂溶性高分子化合物の候補であることから明らかなように、脂溶性を有するアクリロニトリルである。
【0049】
このため、脂溶性高分子化合物は、ポリアクリロニトリルでもよいし、ポリアクリル酸エステルでもよいし、ポリメタクリル酸エステルでもよい。また、脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル―アクリル酸エステル共重合体でもよいし、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体でもよいし、アクリロニトリル-メタクリル酸エステル共重合体でもよいし、アクリロニトリル-アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体でもよい。
【0050】
アクリル酸エステルの種類は、特に限定されないが、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸プロピルなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。メタクリル酸エステルの種類は、特に限定されないが、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸プロピルなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0051】
正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量は、上記した正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量との関係において適正化されており、具体的には、2重量%~6重量%である。
【0052】
正極結着剤が水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含んでおり、正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~2重量%であり、正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量が2重量%~6重量%であるのは、正極100の物理的耐久性が向上すると共に、その正極100を備えた二次電池の動作安定性が向上するからである。
【0053】
詳細には、正極結着剤として水溶性高分子化合物を用いると、後述する正極100の製造工程、より具体的には水性溶媒を用いた正極合剤スラリーの調製工程において、その水溶性高分子化合物が水性溶媒中において分散剤および増粘剤として機能する。
【0054】
この場合には、水性溶媒中において複数の正極活物質粒子の分散性が向上するため、正極合剤スラリー中において複数の正極活物質粒子が均一に分散される。また、正極合剤スラリーの粘度が安定化するため、その正極合剤スラリーが正極集電体100Aの表面に安定に塗布されやすくなる。
【0055】
これにより、正極合剤スラリーを用いて正極活物質層100Bを形成すると、少量の正極結着剤を用いるだけで、複数の正極活物質粒子同士が互いに結着されやすくなる。また、正極合剤スラリーの塗布時において、複数の正極活物質粒子が均一に分散された状態で正極集電体100Aの表面に供給される。よって、正極活物質層100Bが安定に形成されるため、正極100を備えた二次電池の動作安定性が向上する。
【0056】
この場合には、特に、正極合剤スラリーの調製工程において、溶媒として有機溶剤ではなく水性溶媒が用いられるため、環境負荷が低減する。
【0057】
しかしながら、正極結着剤として水溶性高分子化合物を用いた場合において、正極100のエネルギー密度を増加させるために正極活物質層100Bの厚さを増加させると、その正極活物質層100Bが硬くなる。この場合には、正極活物質層100Bの柔軟性が低下すると共に、正極集電体100Aに対する正極活物質層100Bの密着性も低下する。これにより、正極活物質層100Bが割れやすくなると共に、その正極活物質層100Bが正極集電体100Aから剥離しやすくなる。
【0058】
そこで、正極結着剤として水溶性高分子化合物の代わりに脂溶性高分子化合物を用いると、正極活物質層100Bが硬くなりにくいため、その正極活物質層100Bの柔軟性が向上すると共に、正極集電体100Aに対する正極活物質層100Bの密着性も向上する。これにより、正極活物質層100Bが割れにくくなると共に、その正極活物質層100Bが正極集電体100Aから剥離しにくくなるため、正極100の物理的耐久性が向上する。
【0059】
しかしながら、脂溶性高分子化合物は、上記したように、水性溶媒に不溶である。よって、水性溶媒を用いた正極合剤スラリーの調製工程では、その水性溶媒に可溶である水溶性高分子化合物を用いることはできるが、その水性溶媒に不溶である脂溶性高分子化合物を用いることはできない。すなわち、正極合剤スラリーを調製するための溶媒として水性溶媒を用いる場合には、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を併用することができない。
【0060】
これらのことから、正極合剤スラリーの調製工程において、正極結着剤として水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含んでいるエマルション溶液を用いる。このエマルション溶液では、水性溶媒中において水溶性高分子化合物が溶解されていると共に、その水性溶媒中において脂溶性高分子化合物が分散されている。
【0061】
これにより、溶媒として水溶溶媒を用いていながら、正極結着剤として水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を併用することができる。よって、正極合剤スラリーの調製工程において、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物の双方を含んでいる正極合剤スラリーが調製される。
【0062】
この場合において、正極合剤スラリーを用いて形成される正極活物質層100Bは、正極結着剤として水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物の双方を含んでいる。これにより、水溶性高分子化合物に基づく利点および脂溶性高分子化合物に基づく利点の双方が得られるため、上記したように、正極100の物理的耐久性が向上すると共に、その正極100を備えた二次電池の動作安定性が向上する。
【0063】
中でも、正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%~1.5重量%であることが好ましい。正極100の物理的耐久性がより向上すると共に、その正極100を備えた二次電池の動作安定性がより向上するからである。
【0064】
また、正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量は、3重量%~5重量%であることが好ましい。正極100の物理的耐久性がより向上すると共に、その正極100を備えた二次電池の動作安定性がより向上するからである。
【0065】
ここで、正極結着剤が水溶性高分子化合物を含んでいるか否かを事後的に確認する手順は、以下で説明する通りである。以下では、正極活物質層100Bが複数の正極活物質粒子、正極結着剤および正極導電剤を含んでいる場合に関して説明する。なお、上記した「事後的」とは、正極100の完成後を意味している。
【0066】
最初に、水性溶媒に正極100を投入したのち、その水性溶媒を攪拌する。これにより、水性溶媒中において正極結着剤のうちの水溶性高分子化合物が溶解される。
【0067】
続いて、水性溶媒を濾過したのち、濾液を回収する。これにより、濾過物である正極集電体100A、複数の正極活物質粒子、脂溶性高分子化合物および正極導電剤などの固形物が除去されるため、水溶性高分子化合物を含んでいる濾液が得られる。
【0068】
最後に、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)および溶液核磁気共鳴分光法(NMR)などの分析方法のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて濾液を分析する。これにより、濾液中に含まれている物質の組成が分析されるため、正極結着剤は水溶性高分子化合物を含んでいるか否かが確認される。
【0069】
なお、正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量を事後的に測定する手順は、以下で説明する通りである。
【0070】
最初に、正極活物質層100Bから正極集電体100Aを剥離させることにより、その正極活物質層100Bの重量を測定する。
【0071】
続いて、水性溶媒中に正極活物質層100Bを投入したのち、その水性溶媒を攪拌する。これにより、水性溶媒中において正極結着剤のうちの水溶性高分子化合物が溶解される。
【0072】
続いて、水性溶媒を濾過したのち、濾液を回収する。これにより、濾過物である正極集電体100A、複数の正極活物質粒子、脂溶性高分子化合物および正極導電剤などの固形物が除去されるため、水溶性高分子化合物を含んでいる濾液が得られる。
【0073】
続いて、濾液を加熱する。加熱温度および加熱時間などの加熱条件は、任意に設定可能である。これにより、水性溶媒が揮発するため、乾燥物である水溶性高分子化合物が回収される。続いて、水溶性高分子化合物の重量を測定する。
【0074】
最後に、正極活物質層100Bの重量と、水溶性高分子化合物の重量と基づいて、その正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量を算出する。この含有量は、含有量(重量%)=(水溶性高分子化合物の重量/正極活物質層100Bの重量)×100という計算式に基づいて算出される。
【0075】
また、正極結着剤が脂溶性高分子化合物を含んでいるか否かを事後的に確認する手順は、以下で説明する通りである。以下では、正極活物質層100Bが複数の正極活物質粒子、正極結着剤および正極導電剤を含んでいる場合に関して説明する。
【0076】
最初に、正極結着剤が水溶性高分子化合物を含んでいるか否かを事後的に確認する場合と同様の手順を用いて、濾過物を得る。この濾過物は、上記したように、水性溶媒に不溶である脂溶性高分子化合物と共に、正極集電体100A、複数の正極活物質粒子および正極導電剤を含んでいる。
【0077】
続いて、有機溶剤中に濾過物を投入したのち、その有機溶剤を攪拌する。有機溶剤の種類は、脂溶性高分子化合物を溶解可能である有機溶剤であれば、特に限定されないが、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤のうちのいずれか1種類または2種類以上である。これにより、有機溶剤中において脂溶性高分子化合物が溶解される。
【0078】
続いて、有機溶剤を濾過したのち、濾液を回収する。これにより、濾過物である正極集電体100A、複数の正極活物質粒子および正極導電剤などの固形物が除去されるため、脂溶性高分子化合物を含んでいる濾液が得られる。
【0079】
最後に、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)および溶液核磁気共鳴分光法(NMR)などの分析方法のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて濾液を分析する。これにより、濾液中に含まれている物質の組成が分析されるため、正極結着剤は脂溶性高分子化合物を含んでいるか否かが確認される。
【0080】
なお、正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量を事後的に測定する手順は、以下で説明する通りである。
【0081】
最初に、正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量を事後的に測定する場合と同様の手順を用いて、正極活物質層100Bの重量を測定する。
【0082】
続いて、有機溶剤中に正極活物質層100Bを投入したのち、その有機溶剤を攪拌する。これにより、有機溶剤中において正極結着剤のうちの脂溶性高分子化合物が溶解される。
【0083】
続いて、有機溶剤を濾過したのち、濾液を回収する。これにより、濾過物である正極集電体100A、複数の正極活物質粒子、水溶性高分子化合物および正極導電剤などの固形物が除去されるため、脂溶性高分子化合物を含んでいる濾液が得られる。
【0084】
続いて、濾液を加熱する。加熱温度および加熱時間などの加熱条件は、任意に設定可能である。これにより、有機溶剤が揮発するため、乾燥物である脂溶性高分子化合物が回収される。続いて、脂溶性高分子化合物の重量を測定する。
【0085】
最後に、正極活物質層100Bの重量と、脂溶性高分子化合物の重量と基づいて、その正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量を算出する。この含有量は、含有量(重量%)=(脂溶性高分子化合物の重量/正極活物質層100Bの重量)×100という計算式に基づいて算出される。
【0086】
(正極導電剤)
正極導電剤は、正極活物質層100Bの導電性を向上させる材料であり、炭素材料、金属材料および導電性高分子化合物などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。炭素材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。
【0087】
<1-2.動作>
この正極100では、電極反応時において、正極活物質層100Bからリチウムがイオン状態で放出されると共に、その正極活物質層100Bにおいてリチウムがイオン状態で吸蔵される。
【0088】
<1-3.製造方法>
この正極100は、以下で説明する一例の手順を用いて製造される。
【0089】
最初に、複数の正極活物質粒子と、エマルション溶液と、正極導電剤と、粘度調整用の溶媒とを互いに混合させることにより、正極合剤スラリーを調製する。
【0090】
このエマルション溶液は、上記したように、水性溶媒中において水溶性高分子化合物が溶解されていると共に、その水溶性溶媒中において脂溶性高分子化合物が分散されている溶液である。粘度調整用の溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、純水などの水性溶媒である。
【0091】
この場合には、後工程において形成される正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量が上記した範囲内となるように、エマルション溶液における水溶性高分子化合物の含有量を調整する。また、後工程において形成される正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量が上記した範囲内となるように、エマルション溶液における脂溶性高分子化合物の含有量を調整する。
【0092】
続いて、正極集電体100Aの片面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層100Bを形成する。
【0093】
最後に、必要に応じて、ロールプレス機などの圧縮装置を用いて正極活物質層100Bを圧縮成形する。この場合には、正極活物質層100Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0094】
これにより、正極集電体100Aの片面に正極活物質層100Bが形成されるため、正極100が完成する。
【0095】
<1-4.作用および効果>
この正極100によれば、正極活物質層100Bが正極活物質および正極結着剤を含んでおり、その正極活物質がオリビン型リン酸化合物を含んでおり、その正極結着剤が水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含んでおり、その正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~2重量%であり、その正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量が2重量%~6重量%である。性高分子化合物および脂溶性高分子化合物のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
【0096】
これにより、上記したように、以下で説明する一連の作用が得られる。
【0097】
第1に、正極活物質がオリビン型リン酸化合物を含んでいる。この場合には、正極100の電極反応時において正極活物質から酸素が放出されることは抑制される。これにより、正極活物質層100Bにおいてリチウムが安定に吸蔵放出されるため、電極反応が安定に進行する。
【0098】
第2に、正極結着剤が水溶性高分子化合物を含んでおり、正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~2重量%である。この場合には、少量の正極結着剤を用いるだけで複数の正極活物質粒子同士が互いに結着されやすくなると共に、正極合剤スラリーの塗布時において複数の正極活物質粒子が均一に分散された状態で正極集電体100Aの表面に供給される。これにより、正極活物質層100Bが安定に形成されるため、正極100を備えた二次電池の動作安定性が向上する。
【0099】
第3に、正極結着剤が脂溶性高分子化合物を含んでおり、正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量が2重量%~6重量%である。この場合には、正極活物質層100Bの柔軟性が向上すると共に、正極集電体100Aに対する正極活物質層100Bの密着性も向上する。これにより、正極活物質層100Bが割れにくくなると共に、その正極活物質層100Bが正極集電体100Aから剥離しにくくなるため、正極100の物理的耐久性が向上する。
【0100】
これらのことから、正極100を備えた二次電池において、電極反応の安定な進行が担保されながら、その正極100の物理的耐久性が向上すると共に、その二次電池の動作安定性が向上するため、優れた電池特性を得ることができる。
【0101】
特に、正極活物質層100Bにおける水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~1.5重量%であれば、正極100の物理的耐久性がより向上すると共に、二次電池の動作安定性がより向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0102】
また、正極活物質層100Bにおける脂溶性高分子化合物の含有量が3重量%~5重量%であれば、正極100の物理的耐久性がより向上すると共に、二次電池の動作安定性がより向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0103】
また、複数の二次粒子である複数の正極活物質粒子のメジアン径MD2が5μm~15μmであれば、その複数の二次粒子同士が互いに接触しやすくなる。よって、複数の正極活物質粒子間の電子伝導性が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0104】
この場合には、複数の一次粒子のメジアン径MD1が0.1μm~1μmであれば、その複数の一次粒子同士が互いに接触しやすくなる。よって、複数の一次粒子間の電子伝導性が向上するため、さらに高い効果を得ることができる。
【0105】
また、オリビン型リン酸化合物が鉄およびマンガンのうちの一方または双方を構成元素として含んでいれば、そのオリビン型リン酸化合物から酸素が放出されることは十分に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0106】
<2.二次電池>
次に、正極100が適用される本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0107】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に電解液を備えている。以下では、上記したように、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0108】
なお、負極の充電容量は、正極の放電容量よりも大きいことが好ましい。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きいことが好ましい。充電途中において負極の表面にリチウムが析出することを防止するためである。
【0109】
<2-1.構成>
図2は、本技術の一実施形態における二次電池の一例である二次電池の断面構成を表していると共に、
図3は、
図2に示した電池素子20の断面構成を表している。
【0110】
この二次電池は、
図2および
図3に示したように、電池缶11と、一対の絶縁板12,13と、電池素子20と、正極リード25と、負極リード26とを備えている。ここで説明する二次電池は、円筒状の電池缶11に電池素子20が収納されている円筒型の二次電池である。
【0111】
[電池缶]
電池缶11は、電池素子20などを収納する部材である。この電池缶11は、開放された一端部および閉塞された他端部を有しているため、中空の構造を有している。また、電池缶11は、鉄、アルミニウム、鉄合金およびアルミニウム合金などの金属材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、電池缶11の表面には、ニッケルなどの金属材料が鍍金されていてもよい。
【0112】
電池缶11の開放された一端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子であるPTC素子16がガスケット17を介して加締められている。これにより、電池缶11は、電池蓋14により密閉されている。ここでは、電池蓋14は、電池缶11の形成材料と同様の材料を含んでいる。安全弁機構15およびPTC素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、PTC素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。ガスケット17は、絶縁性材料を含んでおり、そのガスケット17の表面には、アスファルトなどが塗布されていてもよい。
【0113】
安全弁機構15では、内部短絡および外部加熱などの要因に起因して電池缶11の内圧が一定以上に到達すると、ディスク板15Aが反転するため、電池蓋14と電池素子20との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常な発熱を防止するために、PTC素子16の電気抵抗は温度の上昇に応じて増加する。
【0114】
[絶縁板]
絶縁板12,13は、電池素子20を介して互いに対向するように配置されている。これにより、電池素子20は、絶縁板12,13により挟まれている。
【0115】
[電池素子]
電池素子20は、いわゆる発電素子であり、正極21、負極22、セパレータ23および電解液(図示せず)を含んでいる。
【0116】
この電池素子20は、いわゆる巻回電極体であるため、正極21および負極22は、セパレータ23を介して互いに対向しながら巻回されている。電池素子20の巻回中心に設けられている空間20Sには、センターピン24が挿入されている。ただし、センターピン24は省略されてもよい。
【0117】
(正極)
正極21は、正極100の構成と同様の構成を有している。
【0118】
具体的には、正極21は、正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bを含んでいる。正極集電体21Aの構成は、正極集電体100Aの構成と同様であると共に、正極活物質層21Bの構成は、正極活物質層100Bの構成と同様である。ここでは、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの両面に設けられている。ただし、正極活物質層21Bは、正極21が負極22に対向する側において正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0119】
(負極)
負極22は、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bを含んでいる。
【0120】
負極集電体22Aは、負極活物質層22Bが設けられる一対の面を有している。この負極集電体22Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。
【0121】
負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵放出する負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。負極活物質層22Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0122】
ここでは、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの両面に設けられている。ただし、負極活物質層22Bは、負極22が正極21に対向する側において負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0123】
負極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭素材料および金属系材料などである。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0124】
炭素材料の具体例は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。この黒鉛は、天然黒鉛でもよいし、人造黒鉛でもよい。
【0125】
金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料であり、その金属元素および半金属元素の具体例は、ケイ素およびスズなどである。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。ただし、単体は、任意量の不純物を含んでいてもよいため、その単体の純度は、必ずしも100%に限られない。金属系材料の具体例は、TiSi2 およびSiOx (0<x≦2または0.2<x<1.4)などである。
【0126】
負極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などの材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムの具体例は、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物の具体例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0127】
負極導電剤は、炭素材料、金属材料および導電性高分子化合物などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。
【0128】
(セパレータ)
セパレータ23は、正極21と負極22との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極21と負極22との接触に起因する短絡を防止しながらリチウムをイオン状態で通過させる。このセパレータ23は、ポリエチレンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0129】
(電解液)
電解液は、液状の電解質であり、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに含浸されている。この電解液は、溶媒および電解質塩を含んでいる。
【0130】
溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0131】
この非水溶媒は、エステル類およびエーテル類などであり、より具体的には、炭酸エステル系化合物、カルボン酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などである。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0132】
炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルである。環状炭酸エステルの具体例は、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどであると共に、鎖状炭酸エステルの具体例は、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルなどである。
【0133】
カルボン酸エステル系化合物は、鎖状カルボン酸エステルなどである。鎖状カルボン酸エステルの具体例は、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。
【0134】
ラクトン系化合物は、ラクトンなどである。ラクトンの具体例は、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。
【0135】
なお、エーテル類は、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサンなどでもよい。
【0136】
また、非水溶媒は、不飽和環状炭酸エステル、フッ素化環状炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物およびイソシアネート化合物などである。電解液の電気化学的な安定性が向上するからである。
【0137】
不飽和環状炭酸エステルの具体例は、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。フッ素化環状炭酸エステルの具体例は、モノフルオロ炭酸エチレンおよびジフルオロ炭酸エチレンなどである。スルホン酸エステルの具体例は、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。リン酸エステルの具体例は、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。酸無水物の具体例は、コハク酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物および2-スルホ安息香酸無水物などである。ニトリル化合物の具体例は、スクシノニトリルなどである。イソシアネート化合物の具体例は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0138】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0139】
リチウム塩の具体例は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 )2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 O4 )2 )、モノフルオロリン酸リチウム(Li2 PFO3 )およびジフルオロリン酸リチウム(LiPF2 O2 )などである。高い電池容量が得られるからである。
【0140】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、具体的には、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0141】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード25は、正極集電体21Aに接続されており、アルミニウムなどの導電性材料を含んでいる。この正極リード25は、安全弁機構15を介して電池蓋14と電気的に接続されている。
【0142】
負極リード26は、負極集電体22Aに接続されており、ニッケルなどの導電性材料を含んでいる。この負極リード26は、電池缶11と電気的に接続されている。
【0143】
<2-2.動作>
二次電池は、充放電時において、以下のように動作する。
【0144】
充電時には、電池素子20において、正極21からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時には、電池素子20において、負極22からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極21に吸蔵される。充電時および放電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵および放出される。
【0145】
<2-3.製造方法>
二次電池を製造する場合には、以下で説明する一例の手順を用いて、正極21および負極22を作製すると共に、電解液を調製したのち、二次電池を組み立てると共に、その組み立て後の二次電池の安定化処理を行う。
【0146】
[正極の作製]
上記した正極100の作製手順と同様の手順を用いて正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製する。
【0147】
[負極の作製]
最初に、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤が互いに混合された混合物(負極合剤)を溶媒に投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。この溶媒は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。最後に、ロールプレス機などの圧縮装置を用いて負極活物質層22Bを圧縮成形してもよい。この場合には、負極活物質層22Bを加熱してもよいし、圧縮成形を複数回繰り返してもよい。これにより、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが形成されるため、負極22が作製される。
【0148】
[電解液の調製]
溶媒に電解質塩を投入する。これにより、溶媒中において電解質塩が分散または溶解されるため、電解液が調製される。
【0149】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などの接合方法を用いて、正極21のうちの正極集電体21Aに正極リード25を接続させると共に、溶接法などの接合方法を用いて、負極22の負極集電体22Aに負極リード26を接続させる。
【0150】
続いて、セパレータ23を介して正極21および負極22を互いに積層させたのち、その正極21、負極22およびセパレータ23を巻回させることにより、空間20Sを有する巻回体(図示せず)を作製する。この巻回体は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子20の構成と同様の構成を有している。続いて、巻回体の空間20Sにセンターピン24を挿入する。
【0151】
続いて、絶縁板12,13により巻回体が挟まれた状態において、電池缶11に巻回体および絶縁板12,13を収納する。この場合には、溶接法などの接合方法を用いて正極リード25を安全弁機構15に接続させると共に、溶接法などの接合方法を用いて負極リード26を電池缶11に接続させる。続いて、電池缶11に電解液を注入することにより、その電解液を巻回体に含浸させる。これにより、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに電解液が含浸されるため、電池素子20が作製される。
【0152】
最後に、電池缶11に電池蓋14、安全弁機構15およびPTC素子16を収納したのち、ガスケット17を介して電池缶11を加締める。
【0153】
これにより、電池蓋14、安全弁機構15およびPTC素子16が電池缶11に固定されると共に、その電池缶11に電池素子20が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0154】
[組み立て後の二次電池の安定化処理]
組み立て後の二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの充放電条件は、任意に設定可能である。これにより、正極21および負極22のそれぞれの表面に被膜が形成されるため、電池素子20の状態が電気化学的に安定化する。よって、二次電池が完成する。
【0155】
<2-4.作用および効果>
この二次電池によれば、正極21が正極100の構成と同様の構成を有している。よって、上記した理由により、正極21の物理的耐久性が向上すると共に、二次電池の動作安定性が向上するため、優れた電池特性を得ることができる。
【0156】
特に、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0157】
なお、二次電池に関する他の作用および効果は、正極100に関する他の作用および効果と同様である。
【0158】
<3.変形例>
上記した二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例は、互いに組み合わされてもよい。
【0159】
[変形例1]
多孔質膜であるセパレータ23を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、積層型のセパレータを用いてもよい。
【0160】
具体的には、積層型のセパレータは、多孔質膜および高分子化合物層を含んでいる。この多孔質膜は、一対の面を有していると共に、高分子化合物層は、多孔質膜の片面または両面に設けられている。正極21および負極22のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれの巻きずれが抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が発生しても、二次電池の膨れが抑制される。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンは、優れた物理的強度を有していると共に、電気化学的に安定だからである。
【0161】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱を促進させるため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。複数の絶縁性粒子は、無機材料および樹脂材料などの絶縁性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機材料の具体例は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどである。樹脂材料の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などである。
【0162】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および溶媒を含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、必要に応じて、前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0163】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極21と負極22との間においてリチウムが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、二次電池の安全性が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0164】
[変形例2]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0165】
電解質層を用いた電池素子20では、正極21および負極22がセパレータ23および電解質層を介して互いに対向しながら巻回されている。この電解質層は、正極21とセパレータ23との間に介在していると共に、負極22とセパレータ23との間に介在している。
【0166】
具体的には、電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。電解液の漏液が防止されるからである。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および溶媒を含む前駆溶液を調製したのち、正極21および負極22のそれぞれの片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0167】
この電解質層を用いた場合においても、正極21と負極22との間において電解質層を介してリチウムが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、電解液の漏液が防止されるため、より高い効果を得ることができる。
【0168】
<4.二次電池の用途>
二次電池の用途(適用例)は、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、電子機器および電動車両などにおいて、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、主電源から切り替えられる電源である。
【0169】
二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個の二次電池が用いられてもよいし、複数個の二次電池が用いられてもよい。
【0170】
電池パックは、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、駆動用電源として二次電池を用いて走行する車両であり、その二次電池以外の他の駆動源を併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に蓄積された電力を利用して、家庭用の電気製品などを使用可能である。
【実施例0171】
本技術の実施例に関して説明する。
【0172】
<実施例1~33および比較例1~13>
以下で説明するように、二次電池を製造したのち、その二次電池の電池特性を評価した。
【0173】
[二次電池の製造]
ここでは、電池特性を簡易評価するために、後述する試験用の二次電池作製した。以下では、試験用の二次電池の構成に関して説明したのち、その試験用の二次電池の作製手順に関して説明する。
【0174】
(二次電池の構成)
図4は、試験用の二次電池の断面構成を表しており、その試験用の二次電池は、いわゆるコイン型のリチウムイオン二次電池である。以下では、試験用の二次電池を単に「二次電池」とも呼称する。
【0175】
この二次電池は、
図4に示したように、試験極61と、対極62と、セパレータ63と、外装カップ64と、外装缶65と、ガスケット66と、電解液(図示せず)とを備えている。
【0176】
試験極61は、外装カップ64に収容されていると共に、対極62は、外装缶65に収容されている。試験極61および対極62は、セパレータ63を介して互いに積層されていると共に、電解液は、試験極61、対極62およびセパレータ63のそれぞれに含浸されている。外装カップ64および外装缶65は、ガスケット66を介して互いに加締められているため、試験極61、対極62およびセパレータ63は、外装カップ64および外装缶65により封入されている。
【0177】
(二次電池の作製手順)
以下で説明する手順を用いて、
図5に示した二次電池を作製した。
【0178】
(試験極の作製)
試験極61を作製する場合には、最初に、正極活物質である複数の正極活物質粒子(オリビン型リン酸化合物であるLiFePO4 (LFP)を準備した。この正極活物質粒子は、複数の一次粒子の集合体(二次粒子)であり、二次電池の完成後においてメジアン径MD1,MD2(μm)を調べた結果は、表1~表4に示した通りである。
【0179】
続いて、複数の正極活物質粒子(LFP)100質量部と、エマルション溶液5質量部と、正極導電剤(黒鉛)2質量部と、粘度調整用の溶媒(水性溶媒である純水)20質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤スラリーを調製した。このエマルション溶液は、水性溶媒(純水)と、水溶性高分子化合物(アクリル酸リチウム-アクリロニトリル-アクリルアミド共重合体(COP1))と、脂溶性高分子化合物(アクリロニトリル-アクリル酸メチル-メタクリル酸メチル共重合体(COP2))とを含んでいる。
【0180】
二次電池の完成後において、正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量(重量%)と、正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量(重量%)とを調べた結果は、表1~表4に示した通りである。
【0181】
続いて、コーティング装置を用いて正極集電体(アルミニウム箔,厚さ=12μm)の片面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層を形成した。この場合には、正極合剤スラリーの塗布量を15mg/cm2 とした。
【0182】
続いて、プレス機を用いて正極活物質層を圧縮成形した。この場合には、正極活物質層の体積密度を2.1g/cm3 とした。
【0183】
最後に、正極活物質層が形成された正極集電体を円盤状(直径=16.5mm)となるように打ち抜いた。これにより、試験極61が作製された。
【0184】
(対極の作製)
円盤状(直径=17mm)となるようにリチウム金属板を打ち抜いた。これにより、対極62が得られた。
【0185】
(電解液の調製)
溶媒(環状炭酸エステルである炭酸エチレンおよび鎖状炭酸エステルである炭酸ジエチル)に電解質塩(LiPF6 )を添加したのち、その溶媒を撹拌した。この場合には、溶媒の混合比(重量比)を炭酸エチレン:炭酸ジエチル=30:70としたと共に、電解液における電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。これにより、電解液が調製された。
【0186】
(二次電池の組み立て)
最初に、外装カップ64に試験極61を収容したと共に、外装缶65に対極62を収容した。続いて、電解液が含浸されたセパレータ63(微多孔性ポリエチレンフィルム,厚さ=20μm,直径=17.5mm)を介して、外装カップ64に収容された試験極61と外装缶65に収容された対極62とを互いに積層させた。この場合には、セパレータ63を介して正極活物質層と対極62とを互いに対向させた。
【0187】
続いて、試験極61および対極62がセパレータ63を介して互いに積層されている状態において、ガスケット66を介して外装カップ64および外装缶65を互いに加締めた。これにより、外装カップ64および外装缶65により試験極61および対極62が封止されたため、二次電池が組み立てられた。
【0188】
最後に、組み立て後の二次電池を静置(静置時間=10時間)した。これにより、二次電池が完成した。
【0189】
[電池特性の評価]
電池特性として物理的耐久性および動作安定性を評価したところ、表1~表4に示した結果が得られた。ここでは、以下で説明する手順を用いて、物理的耐久性として試験極61の密着性および柔軟性を評価したと共に、動作安定性として二次電池の負荷特性およびサイクル特性を評価した。
【0190】
(密着性)
最初に、二次電池を解体することにより、試験極61を回収した。続いて、洗浄用の溶媒(純水)を用いて試験極61を洗浄したのち、その試験極61を乾燥させた。
【0191】
続いて、常温環境中(温度=23℃)において剥離試験機に試験極61を装着したのち、その剥離試験機を用いて180°ピール試験を行った。これにより、正極活物質層から正極集電体が剥離されたため、密着性を評価するための指標である剥離強度(mN/mm)が測定された。
【0192】
最後に、剥離強度に基づいて密着性を判定した。具体的には、剥離強度が20mN/mm以上である場合には、「A」と判定した。剥離強度が20mN/mm未満である場合には、「C」と判定した。
【0193】
(柔軟性)
最初に、密着性を評価した場合と同様の手順を用いて、二次電池から試験極61を回収したのち、その試験極61を洗浄した。
【0194】
続いて、常温環境中において鉄製の金属棒(直径=4mm)の表面に試験極61を巻き付けることにより、その試験極61を湾曲させたのち、その湾曲された状態の試験極61を放置(放置時間=10分間)した。続いて、試験極61の状態を目視で確認することにより、柔軟性を評価するための指標である正極活物質層の状態を観察した。
【0195】
最後に、正極活物質層の状態に基づいて柔軟性を判定した。具体的には、正極活物質層に異常が発生していなかった場合には、「A」と判定した。正極活物質層に異常が発生していた場合は、「C」と判定した。ここで説明した正極活物質層の異常は、割れ、破損および脱落などである。
【0196】
(負荷特性)
最初に、常温環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。
【0197】
充電時には、0.2Cの電流で電圧が3.8Vに到達するまで定電流充電したのち、その3.8Vの電圧で電流が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.2Cの電流で電圧が2.0Vに到達するまで定電流放電した。0.2Cとは、電池容量(理論容量)を5時間で放電しきる電流値であると共に、0.05Cとは、電池容量を20時間で放電しきる電流値である。
【0198】
続いて、同環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、放電容量(2サイクル目の放電容量)を測定した。
【0199】
充放電条件は、放電時の電流を0.2Cから2Cに変更したことを除いて、1サイクル目の充放電条件と同様にした。2Cとは、電池容量を0.5時間で放電しきる電流値である。
【0200】
続いて、負荷維持率(%)=(2サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100という計算式に基づいて、負荷特性を評価するための指標である負荷維持率を算出した。
【0201】
最後に、負荷維持率に基づいて負荷特性を判定した。具体的には、負荷維持率が90%以上である場合には、「A」と判定した。負荷維持率が80%以上90%未満である場合には、「B」と判定した。負荷維持率が80%未満である場合は、「C」と判定した。
【0202】
(サイクル特性)
最初に、常温環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。続いて、同環境中においてサイクル数の合計が100サイクルに到達するまで二次電池を繰り返して充放電させることにより、放電容量(100サイクル目の放電容量)を測定した。充放電条件は、負荷特性を評価した場合における1サイクル目の充放電条件と同様にした。
【0203】
続いて、サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100という計算式に基づいて、サイクル特性を評価するための指標であるサイクル維持率を算出した。
【0204】
最後に、サイクル維持率に基づいてサイクル特性を判定した。具体的には、サイクル維持率が90%以上である場合には、「A」と判定した。サイクル維持率が90%未満である場合は、「C」と判定した。
【0205】
(総合評価)
ここでは、密着性および柔軟性のそれぞれを判定したと共に、負荷特性およびサイクル特性のそれぞれを判定したのち、それらの判定結果に基づいて電池特性を総合的に評価した。
【0206】
具体的には、密着性、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性に関する4種類の判定結果のうちのいずれかの判定結果がCである場合には、総合評価を「C」とした。4種類の判定結果のうちのいずれの判定結果もCでないと共に、負荷特性に関する判定結果がBである場合には、「B」とした。4種類の判定結果のうちのいずれの判定結果もCでないと共に、負荷特性に関する判定結果がAである場合には、「A」と判定した。
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
[考察]
表1~表4に示したように、試験極61が正極活物質としてオリビン型リン酸化合物を含んでいる場合において、4種類の評価結果(密着性、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性)に関する総合評価は、試験極61の構成に応じて変動した。
【0212】
具体的には、正極結着剤が水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含んでおり、正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~2重量%であり、正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量が2重量%~6重量%であるという適正条件が満たされていない場合(比較例1~13)には、密着性、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性のうちのいずれかが悪化したため、総合評価がCとなった。
【0213】
これに対して、上記した適正条件が満たされている場合(実施例1~33)には、密着性、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性の全てが向上したため、総合評価がB以上となった。
【0214】
特に、適正条件が満たされている場合(実施例1~33)には、以下で説明する一連の傾向が得られた。
【0215】
第1に、水溶性高分子化合物がアクリル酸リチウム-アクリロニトリル-アクリルアミド共重合体を含んでいると共に、脂溶性高分子化合物がアクリロニトリル-アクリル酸メチル-メタクリル酸メチル共重合体を含んでいると、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性の全てが十分に向上した。
【0216】
第2に、正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~1.5重量%であると、負荷特性がより向上した。
【0217】
第3に、正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量が3重量%~5重量%であると、負荷特性がより向上した。
【0218】
第4に、メジアン径MD2が5μm~15μmであると、負荷特性がより向上した。
【0219】
第5に、メジアン径MD1が0.1μm~1μmであると、密着性、負荷特性およびサイクル特性のそれぞれがより向上した。
【0220】
第6に、オリビン型リン酸化合物が鉄を構成元素として含んでいると、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性の全てが十分に向上した。この傾向は、オリビン型リン酸化合物が鉄の代わりにマンガンを構成元素として含んでいる場合においても同様に得られるはずである。
【0221】
[まとめ]
表1~表4に示した結果から、正極活物質層が正極活物質および正極結着剤を含んでおり、その正極活物質がオリビン型リン酸化合物を含んでおり、その正極結着剤が水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含んでおり、その正極活物質層における水溶性高分子化合物の含有量が1重量%~2重量%であり、その正極活物質層における脂溶性高分子化合物の含有量が2重量%~6重量%であると、密着性、柔軟性、負荷特性およびサイクル特性の全てが改善された。よって、試験極61の物理的耐久性が向上したと共に、その試験極61を備えた二次電池の動作安定性も向上したため、優れた電池特性が得られた。
【0222】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0223】
具体的には、二次電池の電池構造が円筒型およびコイン型である場合に関して説明した。しかしながら、二次電池の電池構造は、特に限定されないため、ラミネートフィルム型、角型およびボタン型などでもよい。
【0224】
また、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明した。しかしながら、電池素子の素子構造は、特に限定されないため、積層型および九十九折り型などでもよい。この積層型では、正極および負極が互いに積層されていると共に、九十九折り型では、正極および負極がジグザグに折り畳まれている。
【0225】
さらに、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0226】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。
【0227】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。
<1>
正極活物質層を含む正極と、
負極と、
電解液と
を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質および正極結着剤を含み、
前記正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含み、
前記正極結着剤は、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、
前記水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちの少なくも1種の重合体を含み、
前記脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも1種の重合体を含み、
前記正極活物質層における前記水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上2重量%以下であり、
前記正極活物質層における前記脂溶性高分子化合物の含有量は、2重量%以上6重量%以下である、
二次電池。
<2>
前記正極活物質層における前記水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上1.5重量%以下である、
<1>に記載の二次電池。
<3>
前記正極活物質層における前記脂溶性高分子化合物の含有量は、3重量%以上5重量%以下である、
<1>または<2>に記載の二次電池。
<4>
前記正極活物質は、複数の二次粒子を含み、
前記複数の二次粒子のメジアン径は、5μm以上15μm以下である、
<1>ないし<3>のいずれか1つに記載の二次電池。
<5>
前記二次粒子は、複数の一次粒子を含み、
前記複数の一次粒子のメジアン径は、0.1μm以上1μm以下である、
<4>に記載の二次電池。
<6>
前記リン酸化合物は、鉄およびマンガンのうちの一方または双方を構成元素として含む、
<1>ないし<5>のいずれか1つに記載の二次電池。
<7>
リチウムイオン二次電池である、
<1>ないし<6>のいずれか1つに記載の二次電池。
<8>
正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質および正極結着剤を含み、
前記正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含み、
前記正極結着剤は、水溶性高分子化合物および脂溶性高分子化合物を含み、
前記水溶性高分子化合物は、アクリル酸塩、アクリロニトリルおよびアクリルアミドのうちの少なくも1種の重合体を含み、
前記脂溶性高分子化合物は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも1種の重合体を含み、
前記正極活物質層における前記水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以上2重量%以下であり、
前記正極活物質層における前記脂溶性高分子化合物の含有量は、2重量%以上6重量%以下である、
二次電池用正極。