IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-積層体及びその製造方法 図1
  • 特開-積層体及びその製造方法 図2
  • 特開-積層体及びその製造方法 図3
  • 特開-積層体及びその製造方法 図4
  • 特開-積層体及びその製造方法 図5
  • 特開-積層体及びその製造方法 図6
  • 特開-積層体及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024316
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20250213BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20250213BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250213BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20250213BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
B32B15/08 U
C08G59/42
C08L63/00 C
B32B15/092
H01L23/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128343
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】長島 稔
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】趙 奕靖
(72)【発明者】
【氏名】西尾 健
(72)【発明者】
【氏名】岩田 侑記
(72)【発明者】
【氏名】川上 亮子
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J036
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AB04A
4F100AB10A
4F100AB11A
4F100AB17D
4F100AB17H
4F100AB20A
4F100AB24B
4F100AB24H
4F100AB31C
4F100AD00A
4F100AG00A
4F100AK53B
4F100AK53D
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AR00D
4F100AT00
4F100BA04
4F100CA02B
4F100CA02D
4F100CA02H
4F100CA23B
4F100CA23D
4F100CA23H
4F100DE04B
4F100DE04D
4F100DE04H
4F100GB41
4F100JJ01
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD061
4J002DA078
4J002DA088
4J002DA098
4J002EF066
4J002EU117
4J002FB078
4J002FD118
4J002FD146
4J002FD147
4J002GF00
4J002GQ00
4J036AA01
4J036AB07
4J036AB09
4J036AC02
4J036AC03
4J036AC08
4J036AD08
4J036AE05
4J036AF05
4J036AF06
4J036AJ05
4J036AJ14
4J036AK09
4J036DA01
4J036DB05
4J036DB06
4J036DB17
4J036DB18
4J036DC02
4J036DC06
4J036DC10
4J036DC40
4J036DC41
4J036DD02
4J036FA02
4J036JA08
5F136BC07
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA04
5F136FA12
5F136FA52
5F136FA61
(57)【要約】
【課題】耐熱性、熱伝導率、及び接着性に優れる積層体の提供。
【解決手段】基材と、前記基材上に設けられ、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び第1の熱伝導性粒子を含有する第1の熱伝導層と、前記第1の熱伝導層上に設けられ、硬化成分、前記硬化成分を硬化させる硬化剤、第2の熱伝導性粒子、及び低融点金属を含有する第2の熱伝導層と、前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に設けられ、前記低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層と、を有し、前記第1の熱伝導層が、前記低融点金属を含有しない積層体である。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられ、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び第1の熱伝導性粒子を含有する第1の熱伝導層と、
前記第1の熱伝導層上に設けられ、硬化成分、前記硬化成分を硬化させる硬化剤、第2の熱伝導性粒子、及び低融点金属を含有する第2の熱伝導層と、
前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に設けられ、前記低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層と、を有し、
前記第1の熱伝導層が、前記低融点金属を含有しないことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記硬化剤が、下記一般式(1)及び一般式(2)の少なくともいずれかで表される、請求項1に記載の積層体。
【化1】
ただし、前記一般式(1)中、R~Rは各々独立に水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。Rは水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
【化2】
ただし、前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。R及びRは各々独立に水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
【請求項3】
前記硬化成分が、オキセタン化合物、及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含む、請求項1から2のいずれかに記載の積層体。
【請求項4】
前記第1の熱伝導性粒子が、銀粒子、銀被覆粒子、及び銀粒子の少なくともいずれかを含む、請求項1から2のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記低融点金属が、Snと、Bi、Ag,Cu、及びInから選択される少なくとも1種と、を含む、請求項1から2のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記基材が、シリコン、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ガラス、モールド樹脂、ステンレス鋼、セラミックスから選択される少なくとも1種を含む、請求項1から2のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記第1の熱伝導層における前記第1の熱伝導性粒子の含有量が、50体積%以上である、請求項1から2のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記第2の熱伝導層上に、前記基材と対向する対向基材を有し、
前記対向基材が、銅、金、白金、パラジウム、銀、亜鉛、鉄、錫、ニッケル、マグネシウム、インジウム、及びこれらの合金から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から2のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
基材上に、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び第1の熱伝導性粒子を含有し、低融点金属を含有しない第1の熱伝導層組成物を付与する工程と、
付与した前記第1の熱伝導層組成物上に、硬化成分、前記硬化成分を硬化させる硬化剤、第2の熱伝導性粒子、及び低融点金属粒子を含有する第2の熱伝導層組成物を付与する工程と、
前記第1の熱伝導層組成物、及び前記第2の熱伝導層組成物を加熱して、第1の熱伝導層と、第2の熱伝導層とを形成するとともに、前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に、前記低融点金属粒子が溶解した低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層とを形成する工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器におけるLarge Scale Integration(LSI、大規模集積回路)等では、用いられている素子の発熱によりLSI自身が長時間高温に晒されると動作不良や故障につながる恐れがある。このため、LSI等の昇温を防ぐために熱伝導材料が広く用いられている。前記熱伝導材料は素子の発熱を拡散させるか、あるいは大気等の系外に放出させるための放熱部材に伝えることによって機器の昇温を防ぐことができる。
【0003】
このような熱伝導材料として金属又はセラミックスを用いると、軽量化しにくい、加工性が悪い、又は柔軟性が低くなるという問題がある。そこで、樹脂又はゴム等からなる高分子材料を母材とする熱伝導材料が種々提案されている。例えば、硬化成分及び該硬化成分用の硬化剤を含有する熱硬化性接着剤と、該熱硬化性接着剤中に分散した金属フィラーとを有し、金属フィラーは、銀粉及びハンダ粉を有し、該ハンダ粉は、熱伝導接着剤の熱硬化処理温度よりも低い溶融温度を示し、かつ該熱硬化性接着剤の熱硬化処理条件下で銀粉と反応して、当該ハンダ粉の溶融温度より高い融点を示す高融点ハンダ合金を生成するものであり、該硬化剤は、金属フィラーに対してフラックス活性を有する硬化剤であり、該硬化成分が、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂であり、硬化剤がトリカルボン酸のモノ酸無水物である熱伝導接着剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-188646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高熱伝導かつ低熱抵抗を満たすために、金属フィラーを高充填化すると、金属フィラーを含む組成物では、流動性(粘度)が悪化するという問題がある。
一方で、前記特許文献1に記載の従来技術のように、低融点金属(ハンダ粉)を用い低充填の金属フィラーで粒子間を接合させることにより熱伝導性の向上を図ると、体積比で低融点金属の量が多くなり、高熱伝導と低熱抵抗を満足することができないという問題がある。また、低融点金属を用いると、熱伝導率が界面材質により大きく影響を受けることがあり、シリコン基材に対して低融点金属を含む熱伝導層を形成すると、シリコン界面との接触抵抗が大きくなり、熱伝導性が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐熱性、熱伝導率、及び接着性に優れる積層体、及び積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 基材と、
前記基材上に設けられ、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び第1の熱伝導性粒子を含有する第1の熱伝導層と、
前記第1の熱伝導層上に設けられ、硬化成分、前記硬化成分を硬化させる硬化剤、第2の熱伝導性粒子、及び低融点金属を含有する第2の熱伝導層と、
前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に設けられ、前記低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層と、を有し、
前記第1の熱伝導層が、前記低融点金属を含有しないことを特徴とする積層体である。
<2> 前記硬化剤が、下記一般式(1)及び一般式(2)の少なくともいずれかで表される、前記<1>に記載の積層体である。
【化1】
ただし、前記一般式(1)中、R~Rは各々独立に水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。Rは水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
【化2】
ただし、前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。R及びRは各々独立に水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
<3> 前記硬化成分が、オキセタン化合物、及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含む、前記<1>から<2>のいずれかに記載の積層体である。
<4> 前記第1の熱伝導性粒子が、銀粒子、銀被覆粒子、及び銀粒子の少なくともいずれかを含む、前記<1>から<3>のいずれかに記載の積層体である。
<5> 前記低融点金属が、Snと、Bi、Ag,Cu、及びInから選択される少なくとも1種と、を含む、前記<1>から<4>のいずれかに記載の積層体である。
<6> 前記基材が、シリコン、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ガラス、モールド樹脂、ステンレス鋼、セラミックスから選択される少なくとも1種を含む、前記<1>から<5>のいずれかに記載の積層体である。
<7> 前記第1の熱伝導層における前記第1の熱伝導性粒子の含有量が、50体積%以上である、前記<1>から<6>のいずれかに記載の積層体である。
<8> 前記第2の熱伝導層上に、前記基材と対向する対向基材を有し、
前記対向基材が、銅、金、白金、パラジウム、銀、亜鉛、鉄、錫、ニッケル、マグネシウム、インジウム、及びこれらの合金から選択される少なくとも1種を含む、前記<1>から<7>のいずれかに記載の積層体である。
<9> 基材上に、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び第1の熱伝導性粒子を含有する第1の熱伝導層組成物を付与する工程と、
付与した前記第1の熱伝導層組成物上に、硬化成分、前記硬化成分を硬化させる硬化剤、第2の熱伝導性粒子、及び低融点金属粒子を含有する第2の熱伝導層組成物を付与する工程と、
前記第1の熱伝導層組成物、及び前記第2の熱伝導層組成物を加熱して、第1の熱伝導層と、第2の熱伝導層とを形成するとともに、前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に、前記低融点金属粒子が溶解した低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層とを形成する工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、耐熱性、熱伝導率、及び接着性に優れる積層体、及び積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る積層体の製造方法のプロセスの一例を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態に係る積層体の一例を示す概略図である。
図3図3は、本実施形態の積層体を有する放熱構造体の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、実施例1の積層体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
図5図5は、比較例1の積層体を示す概略図である。
図6図6は、比較例2の積層体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
図7図7は、比較例3の積層体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(積層体)
本発明の積層体は、基材と、第1の熱伝導層と、合金層と、第2の熱伝導層と、を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0011】
本実施形態の積層体は、基材上に第1の熱伝導層と、合金層と、第2の熱伝導層と、をこの順に有し、前記合金層が、前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に設けられ、前記低融点金属粒子が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層であり、前記第1の熱伝導層が低融点金属を含まないことにより、耐熱性、熱伝導率、及び接着性に優れる積層体を提供することができる。
前記積層体の製造工程において、上層に積層した第2の熱伝導層組成物に含まれる、フラックス活性を有する硬化剤と溶融した低融点金属とが、下層を形成するための第1の熱伝導層組成物に流入し、第1の熱伝導層組成物に含まれる第1の熱伝導性粒子と流入した低融点金属とが反応して合金を形成することにより、前記合金層が形成される。
【0012】
<基材>
前記基材の形状、構造、大きさ、材質などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記基材の形状としては、例えば、板状、シート状などが挙げられる。前記基材の構造としては、単層構造、積層構造などが挙げられる。前記基材の大きさとしては、用途等に応じて適宜選択することができる。
【0013】
前記基材の材質としては、前記基材と接する第1の熱伝導層が低融点金属を含まないため、はんだが濡れにくい材質を選択することができ、例えば、シリコン、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ガラス、モールド樹脂、ステンレス鋼、セラミックスなどが好適に挙げられる。
前記セラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、アルミナ、窒化ガリウムなどが挙げられる。
前記モールド樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
前記基材は、シリコンを含むことが好ましい。
【0014】
前記基材の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記基材は、放熱構造体における発熱体(電子部品)そのものであってもよい。
【0015】
<第1の熱伝導層>
前記第1の熱伝導層は、前記基材上に形成され、基材と接して形成されることが好ましい。
前記第1の熱伝導層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂を硬化させるエポキシ樹脂硬化剤と、第1の熱伝導性粒子と、を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。前記第1の熱伝導層は、低融点金属を含有しない。
【0016】
-エポキシ樹脂-
前記エポキシ樹脂は、高分子内にエポキシ基(オキシラン環)を有する樹脂であり、当該エポキシ基により架橋形成することで硬化可能な熱硬化性樹脂である。
前記第1の熱伝導層がエポキシ樹脂を含有することにより、柔軟性を付与することができるとともに、特にリフロー処理後の熱伝導性、及び接着性を実現でき、したがって、優れた耐熱性を実現することができる。
前記エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、テトラフェノール型エポキシ樹脂、フェノール-キシリレン型エポキシ樹脂、ナフトール-キシリレン型エポキシ樹脂、フェノール-ナフトール型エポキシ樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記エポキシ樹脂の中でも、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、EPICLON(登録商標)EXA-850CRP(DIC株式会社製)などが好適に挙げられる。
【0018】
前記エポキシ樹脂の含有量としては、第1の熱伝導層の全量に対して、5体積%以上50体積%以下が好ましく、10体積%以上40体積%以下がより好ましく、20体積%以上40体積%以下が更に好ましい。
【0019】
-エポキシ樹脂硬化剤-
前記エポキシ樹脂硬化剤としては、前記エポキシ樹脂を硬化させる硬化剤であって、例えば、酸無水物系硬化剤、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤(例えば、イミダゾール系硬化剤)、フェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等の重付加型硬化剤;イミダゾール等の触媒型硬化剤などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、芳香族アミン系硬化剤が好ましく、イミダゾール系硬化剤がより好ましい。
【0020】
前記イミダゾール系硬化剤としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、旭化成工業株式会社から販売されている「ノバキュア(登録商標)」シリーズのHX-3941HP、HXA3922HP、HXA3792、HXA3932HP、HXA3042HP、HXA9322HP、HXA9382HP、HXA5052HP、HXA3542HPなどが挙げられる。
ノバキュア(登録商標)シリーズは、マイクロカプセル型のエポキシ樹脂用液状潜在性硬化剤であり、カプセルの厚みやカプセルの粒径が異なることにより、第1の熱伝導層を形成するための第1の熱伝導層組成物の硬化開始温度、反応速度、及び耐溶剤性を調整することができる。また、ノバキュア(登録商標)シリーズは、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の未硬化のエポキシ樹脂を更に含んでおり、高温(百数十℃付近)になると、カプセルから硬化剤がバルク(液状エポキシ樹脂)に放出され、硬化が進行する。
前記エポキシ樹脂硬化剤の硬化開始温度としては、120℃以上が好ましい。
【0021】
前記エポキシ樹脂硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、第1の熱伝導層の全量に対して、0.1体積%以上20体積%以下が好ましく、1体積%以上10体積%以下がより好ましく、3体積%以上5体積%以下が更に好ましい。
【0022】
-第1の熱伝導性粒子-
前記第1の熱伝導性粒子としては、銅粒子、銀被覆粒子、及び銀粒子の少なくともいずれかが好ましく、銀粒子がより好ましい。
前記銀被覆粒子としては、例えば、銀被覆銅粒子、銀被覆ニッケル粒子、銀被覆アルミニウム粒子などが挙げられる。
前記第1の熱伝導性粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球状、扁平状、粒状、針状などが挙げられる。
【0023】
前記第1の熱伝導層における前記第1の熱伝導性粒子の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、高充填化して熱伝導性を高める観点から、40体積%以上が好ましく、45体積%以上がより好ましく、50体積%以上が更に好ましい。
【0024】
前記第1の熱伝導性粒子の体積平均粒径は、0.3μm以上30μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下がより好ましい。熱伝導性粒子の体積平均粒径が0.3μm以上30μm以下であると、第1の熱伝導性粒子の低融点金属粒子に対する体積割合を大きくすることができ、積層体の耐熱性、熱伝導率、及び接着性を優れて実現できる。
前記体積平均粒径は、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(製品名:Microtrac MT3300EXII)により、測定することができる。
【0025】
-低融点金属-
前記第1の熱伝導層は、低融点金属を含有しない。
ここで、低融点金属とは、後述する積層体の製造方法における第2の熱伝導層組成物において説明する低融点金属粒子、及び前記低融点金属粒子が溶融して固化した低融点金属を意味する。
前記第1の熱伝導層が、前記低融点金属を含有しないことを確認する方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜修正でき、例えば、積層体の切断面を研磨し、研磨面を走査型電子顕微鏡(例えば、S-3000N、株式会社日立製作所製)で観察する方法、日本工業規格JIS Z 3910:2017 はんだ分析方法に記載された分析方法により分析する方法などが挙げられる。
【0026】
-その他の成分-
前記第1の熱伝導層は、本発明の効果を損なわない限りにおいてその他の成分を含有してもよい。前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属以外の熱伝導性粒子(例えば、窒化アルミ、アルミナ、炭素繊維等)、添加剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、レベリング剤、難燃剤等)、エポキシ樹脂以外の樹脂などが挙げられる。
【0027】
前記エポキシ樹脂以外の樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分子内に、フェノキシ構造、ポリブタジエン構造、ポリシロキサン構造、ポリ(メタ)アクリレート構造、ポリアルキレン構造、ポリアルキレンオキシ構造、ポリイソプレン構造、ポリイソブチレン構造、ポリアミド構造、ポリカーボネート構造から選択される少なくとも1種の構造を有するポリマーなどが挙げられる。
【0028】
前記第1の熱伝導層を形成するための第1の熱伝導層組成物は、前記エポキシ樹脂、前記エポキシ樹脂硬化剤、前記第1の熱伝導性粒子、及び必要に応じてその他の成分を常法により均一に混合することにより調製することができる。
【0029】
前記第1の熱伝導層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましい。
【0030】
<第2の熱伝導層>
第2の熱伝導層は、硬化成分と、前記硬化成分を硬化させる硬化剤と、第2の熱伝導性粒子と、及び低融点金属と、を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0031】
-硬化成分-
前記硬化成分は、オキセタン化合物、及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含むことが好ましく、オキセタン化合物、及びエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0032】
--オキセタン化合物--
前記オキセタン化合物は、オキセタニル基を有する化合物であり、脂肪族化合物、脂環式化合物、又は芳香族化合物であってもよい。
前記オキセタン化合物は、オキセタニル基を1つのみ有する1官能のオキセタン化合物であってもよいし、オキセタニル基を2つ以上有する多官能のオキセタン化合物であってもよい。
【0033】
前記オキセタン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3,7-ビス(3-オキセタニル)-5-オキサ-ノナン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,2-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ヘキサン、3-エチル-3-(フェノキシ)メチルオキセタン、3-エチル-3-(シクロヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、キシリレンビスオキセタン、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル(OXBP)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記オキセタン化合物としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、東亞合成株式会社から販売されている「アロンオキセタン(登録商標)」シリーズ、宇部興産株式会社から販売されている「ETERNACOLL(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
これらの中でも、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル(ETERNACOLL(登録商標)OXBP)が好ましい。
【0035】
--エポキシ樹脂--
前記エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、テトラフェノール型エポキシ樹脂、フェノール-キシリレン型エポキシ樹脂、ナフトール-キシリレン型エポキシ樹脂、フェノール-ナフトール型エポキシ樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記硬化成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、第2の熱伝導層の全量に対して、0.5体積%以上60体積%以下が好ましい。
【0037】
-硬化剤-
前記硬化剤としては、前記硬化成分に対応した硬化剤であって、例えば、多官能カルボン酸、酸無水物系硬化剤、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等の重付加型硬化剤、イミダゾール等の触媒型硬化剤などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
これらの中でも、多官能カルボン酸が好ましく、下記一般式(1)及び一般式(2)の少なくともいずれかで表される多官能カルボン酸がより好ましい。
【0039】
【化3】
ただし、前記一般式(1)中、R~Rは各々独立に水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。Rは水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
【0040】
【化4】
ただし、前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。R及びRは各々独立に水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
【0041】
前記一般式(1)中のR~R、及び一般式(2)のR及びRにおける、アルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、tert-オクチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
前記一般式(1)中のR~R、及び一般式(2)のR及びRにおける、カプロラクトン骨格は、下記一般式(i)で表される。
【化5】
ただし、前記一般式(i)中、nは1以上の整数を表し、1~10が好ましい。mは2以上の整数を表し、2~5が好ましい。
【0042】
及びRにおける水酸基で置換されていてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、-(CH)-OH、-(CH-OH、-(CH-OHなどが挙げられる。
【0043】
における炭素数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
の炭素数2~3のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基(2-プロペニル基)などが挙げられる。
は、炭素数2~3のアルキル基及び炭素数2のアルケニル基のいずれかであることが、優れたフラックス活性と硬化性を兼ね備える点から好ましい。
【0044】
前記一般式(1)及び一般式(2)の少なくともいずれかで表される多官能カルボン酸は、以下に説明するように、特定の酸無水物に特定の多官能アルコールを作用させることにより合成することができる。
【0045】
[多官能カルボン酸の製造方法]
前記多官能カルボン酸の製造方法は、前記多官能カルボン酸を製造する方法であって、酸無水物と多官能アルコールをエステル化反応させる工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。酸無水物と多官能アルコールのエステル化反応としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0046】
前記酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、安息香酸無水物、シュウ酸無水物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物が好ましい。
【0047】
前記多官能アルコールは、2官能以上であることが好ましく、2官能以上4官能以下であることがより好ましい。前記多官能アルコールとしては、例えば、カプロラクトン誘導体、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、カプロラクトン誘導体、グリセリンが好ましい。
【0048】
前記カプロラクトン誘導体としては、前記一般式(i)で表されるカプロラクトン骨格を有する化合物などが挙げられる。
前記カプロラクトン誘導体としては、市販品を用いることができ、前記市販品としは、例えば、プラクセル205、プラクセル205U、プラクセル303、プラクセル410(いずれも、株式会社ダイセル製)などが挙げられる。
【0049】
以下に、特定の酸無水物と3官能アルコールとのエステル化反応の一例を示す。
【化6】
ただし、前記反応式中、R~Rは水素原子、アルキル基、又はカプロラクトン骨格を表す。Rは水素原子又は水酸基で置換されていてもよいアルキル基を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数2~3のアルケニル基を表す。
【0050】
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、濃縮工程、分離精製工程などが挙げられる。
【0051】
前記一般式(1)及び一般式(2)の少なくともいずれかで表される多官能カルボン酸は、良好なフラックス効果及び良好な硬化剤としての機能を両立できる。即ち、前記一般式(1)及び一般式(2)の少なくともいずれかで表される多官能カルボン酸は、常温~高温まで液状を呈し、成膜中には反応が起こらず塗工液の濡れ性を向上させることができる。段階的に加熱されると、第1段階の加熱によりフラックスの効果を発揮し、次いで、第2段階の加熱により共に配合していた硬化成分により硬化が始まる加熱硬化開始スイッチ機能を備えている。
前記第1段階の加熱は、例えば、120℃~150℃であることが好ましい。
前記第2段階の加熱は、例えば、150℃~190℃であることが好ましい。
【0052】
前記多官能カルボン酸は、25℃及び150℃で液状であることが好ましい。
ここで、液状であるとは、塗布可能な流動性を有していることを意味する。多官能カルボン酸が25℃及び150℃で液状であることは、例えば、25℃(常温)での目視による流動性の確認及びDSCによる150℃までの吸収ピーク有無により確認することができる。
前記多官能カルボン酸の分子量は、液状である点から、800g/mol以下であることが好ましく、400g/mol以上700g/mol以下がより好ましい。前記多官能カルボン酸の分子量は、例えば、Shodex(登録商標)GPC-101(昭和電工株式会社製品)により測定することができる。
【0053】
前記多官能カルボン酸は、フラックス活性を有する硬化剤である。
第1段階の加熱により、前記多官能カルボン酸がフラックス活性を有しているので、第2の熱伝導層に含まれる第2の熱伝導性粒子に対する溶融した低融点金属の濡れ性を向上させることができる。加えて、上層である第2の熱伝導層の形成に必要な量より過剰な前記多官能カルボン酸が、溶融した低融点金属と共に、下層を形成するための第1の熱伝導層組成物に流入し、第1の熱伝導層組成物に含まれる第1の熱伝導性粒子と反応することにより、合金層を形成することができる。
次いで、第2段階の加熱により、前記多官能カルボン酸は、第2の熱伝導層、合金層、及び第1の熱伝導層のそれぞれにおいて、硬化成分を硬化させることができる。
合金層の形成により、得られる積層体の耐熱性の向上を実現することができる。
【0054】
前記酸無水物系硬化剤は、硬化成分がエポキシ樹脂である場合、熱硬化の際にガスの発生がなく、エポキシ樹脂と混合した際に長いポットライフを実現でき、また、得られる硬化物の電気的特性、化学的特性、及び機械的特性間の良好なバランスを実現できる点から好ましい。
【0055】
前記酸無水物系硬化剤としては、例えば、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、トリカルボン酸のモノ酸無水物などが挙げられる。前記トリカルボン酸のモノ酸無水物としては、例えば、シクロへキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-酸無水物などが挙げられる。
【0056】
前記硬化剤は、フラックス活性を有するものが、熱伝導性粒子に対する溶融した低融点金属の濡れ性を向上させる点から好ましい。
前記硬化剤にフラックス活性を発現させる方法としては、例えば、前記硬化剤にカルボキシ基、スルホニル基、リン酸基等のプロトン酸基を公知の方法により導入する方法などが挙げられる。これらの中でも、硬化成分としてのエポキシ樹脂又はオキセタン化合物との反応性の点から、カルボキシ基を導入することが好ましく、例えば、グルタル酸、コハク酸等のカルボキシル基含有の有機酸などが挙げられる。また、グルタル酸無水物又はコハク酸無水物から変性された化合物又はグルタル酸銀等の有機酸の金属塩などであっても構わない。
【0057】
前記第2の熱伝導層における、前記硬化剤の含有量としては、上層である第2の熱伝導層の形成に必要な量より過剰な量であり、かつ、下層を形成するための第1の熱伝導層組成物に含まれる第1の熱伝導性粒子と共に合金層を形成可能である含有量を適宜選択することができ、第2の熱伝導層の全量に対して、5体積%以上20体積%以下が好ましく、7体積%以上18体積%以下がより好ましい。
【0058】
-第2の熱伝導性粒子-
前記第2の熱伝導性粒子としては、銅粒子、銀被覆粒子、及び銀粒子の少なくともいずれかが好ましく、銀被覆粒子がより好ましい。
前記銀被覆粒子としては、例えば、銀被覆銅粒子、銀被覆ニッケル粒子、銀被覆アルミニウム粒子などが挙げられる。
前記第2の熱伝導性粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球状、扁平状、粒状、針状などが挙げられる。
【0059】
前記第2の熱伝導性粒子の体積平均粒径は、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上70μm以下がより好ましく、5μm以上50μm以下が更に好ましい。第2の熱伝導性粒子の体積平均粒径が1μm以上100μm以下であると、優れた熱伝導性を実現できる。
前記第2の熱伝導性粒子の体積平均粒径は、前記第1の熱伝導性粒子の体積平均粒径と同様にして、測定することができる。
【0060】
-低融点金属-
前記低融点金属とは、前記低融点金属粒子、及び前記低融点金属粒子が溶融して固化した低融点金属を意味する。
前記低融点金属粒子としては、JIS Z3282-1999に規定されているはんだ粒子が好適に用いられる。
【0061】
前記はんだ粒子としては、例えば、Sn-Pb系はんだ粒子、Pb-Sn-Sb系はんだ粒子、Sn-Sb系はんだ粒子、Sn-Pb-Bi系はんだ粒子、Sn-Bi系はんだ粒子、Sn-Bi-Ag系はんだ粒子、Sn-Cu系はんだ粒子、Sn-Pb-Cu系はんだ粒子、Sn-In系はんだ粒子、Sn-Ag系はんだ粒子、Sn-Pb-Ag系はんだ粒子、Pb-Ag系はんだ粒子、Sn-Ag-Cu系はんだ粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、Snと、Bi、Ag、Cu、及びInから選択される少なくとも1種と、を含むはんだ粒子が好ましく、Sn-Bi系はんだ粒子、Sn-Bi-Ag系はんだ粒子、Sn-Ag-Cu系はんだ粒子、Sn-In系はんだ粒子がより好ましく、Sn及びBiを含むSn-Bi系はんだ粒子が更に好ましい。
【0062】
前記低融点金属粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球状、扁平状、粒状、針状などが挙げられる。
前記低融点金属粒子の融点は、100℃以上250℃以下が好ましく、120℃以上200℃以下がより好ましい。
【0063】
前記低融点金属粒子の融点は、第1の熱伝導層組成物、及び第2の熱伝導層組成物の熱硬化処理温度(第2段階の加熱)よりも低いことが好ましい。
これにより、第2の熱伝導層組成物の硬化物中に溶融した低融点金属により第2の熱伝導性粒子を介してネットワーク(金属の連続相)を形成した、第2の熱伝導層を形成できる。加えて、上層である第2の熱伝導層の形成に必要な量より過剰な硬化剤が、溶融した低融点金属粒子と共に、下層を形成するための第1の熱伝導層組成物に流入し、第1の熱伝導層組成物に含まれる第1の熱伝導性粒子と反応することにより、合金層を形成することができる。したがって、耐熱性、熱伝導率、及び接着性に優れる積層体を実現できる。
前記低融点金属が、第1の熱伝導層組成物の熱硬化処理条件下で前記第1の熱伝導性粒子と反応して、前記低融点金属粒子より高い融点を示す合金となることにより、圧着後のみならずリフロー処理後の積層体の優れた熱伝導性、及び接着性を実現でき、したがって、優れた耐熱性を実現することができる。
前記第1の熱伝導層組成物の熱硬化処理は、例えば、150℃以上190℃以下の温度で30分間以上2時間以下の条件で行われる。
【0064】
前記低融点金属粒子の体積平均粒径は、10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。低融点金属粒子の体積平均粒径が10μm以下であると、低融点金属粒子の第2の熱伝導性粒子に対する体積割合を小さくすることができ、第2の熱伝導層の高熱伝導性及び低熱抵抗を実現できる。
前記低融点金属粒子の体積平均粒径は、前記第1の熱伝導性粒子の体積平均粒径と同様にして測定することができる。
【0065】
前記第2の熱伝導性粒子の体積平均粒径が前記低融点金属粒子の体積平均粒径よりも大きく、前記第2の熱伝導性粒子Aと前記低融点金属粒子Bとの体積平均粒径比(A/B)は2以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。前記体積平均粒径比(A/B)の上限値は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
前記第2の熱伝導性粒子よりも体積平均粒径が小さい低融点金属粒子を用いることにより、第2の熱伝導層組成物中で前記第2の熱伝導性粒子が主成分となり、前記第2の熱伝導性粒子と前記第2の熱伝導性粒子の間に存在する低融点金属粒子が加熱により溶融し、前記第2の熱伝導性粒子と合金化してネットワークを形成するために、高熱伝導性及び低熱抵抗が実現できる。
【0066】
第2の熱伝導層を形成するための第2の熱伝導層組成物における、前記第2の熱伝導性粒子Aと前記低融点金属粒子Bとの体積比(A/B)は、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上が更に好ましい。前記体積比(A/B)の上限値は5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。
【0067】
前記第2の熱伝導層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20μm以上300μm以下が好ましく、50μm以上200μm以下がより好ましい。
【0068】
<合金層>
前記合金層は、前記第1の熱伝導層と前記第2の熱伝導層の間に設けられ、前記低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金を含む。
【0069】
前記合金層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上30μm以下が好ましく、5μm以上30μm以下がより好ましい。
前記合金層の平均厚みは、第2の熱伝導層組成物に含まれる硬化剤の含有量、及び低融点金属粒子の含有量を調整することにより、適宜設定することができる。
【0070】
前記第1の熱伝導層と前記合金層の合計平均厚みに対する、前記合金層の平均厚みの比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5%以上100%未満が好ましく、10%以上99%以下がより好ましく、20%以上99%以下がさらに好ましい。
なお、前記基材との界面には前記第1の熱伝導層が接しており、前記合金層は前記基材の界面には存在しない。或いは、存在していたとしても前記基材の界面に対する、前記合金層の面積の割合が、1%未満である。
【0071】
前記合金層が、前記低融点金属を含有しないことを確認する方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜修正でき、例えば、積層体の切断面を研磨し、研磨面を走査型電子顕微鏡(例えば、S-3000N、株式会社日立製作所製)で観察する方法、日本工業規格JIS Z 3910:2017 はんだ分析方法に記載された分析方法により分析する方法などが挙げられる。
【0072】
<対向基材>
前記対向基材は、前記基材と対向して配置され、その形状、構造、大きさ、材質などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記対向基材の形状としては、例えば、板状、シート状などが挙げられる。前記対向基材の構造としては、単層構造、積層構造などが挙げられる。前記対向基材の大きさとしては、用途等に応じて適宜選択することができる。
前記対向基材の材質は、はんだが濡れやすい材質であり、銅、金、白金、パラジウム、銀、亜鉛、鉄、錫、ニッケル、マグネシウム、インジウム、及びこれらの合金から選択される少なくとも1種を含む。
前記対向基材の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記対向基材は、放熱構造体におけるヒートスプレッダそのものであってもよい。
【0073】
<その他の部材>
その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、保護層などが挙げられる。
【0074】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は、第1の付与工程と、第2の付与工程と、加熱工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0075】
<第1の付与工程>
前記第1の付与工程は、前記基材上に、第1の熱伝導層組成物を付与する工程である。
前記第1の熱伝導層組成物は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び第1の熱伝導性粒子を含有し、低融点金属を含有せず、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記基材、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、第1の熱伝導性粒子、その他の成分、及び低融点金属としては、本実施形態の積層体において説明した事項を適宜選択することできる。
【0076】
前記第1の熱伝導層組成物を前記基材へ付与する方法としては、例えば、インクジェット法、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本ロールコート法、5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0077】
<第2の付与工程>
前記第2の付与工程は、付与した前記第1の熱伝導層組成物上に、第2の熱伝導層組成物を付与する工程である。
前記第2の熱伝導層組成物は、硬化成分、前記硬化成分を硬化させる硬化剤、第2の熱伝導性粒子、及び低融点金属粒子を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
前記第2の硬化成分、前記第2の硬化剤、前記第2の熱伝導性粒子、及び前記低融点金属粒子は、本実施形態の積層体において説明した事項を適宜選択することできる。
【0078】
前記第2の熱伝導層組成物を付与した前記第1の熱伝導層組成物上に付与する方法としては、例えば、インクジェット法、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本ロールコート法、5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0079】
<加熱工程>
前記加熱工程は、前記第1の熱伝導層組成物、及び前記第2の熱伝導層組成物を加熱して、第1の熱伝導層と、第2の熱伝導層とを形成するとともに、前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間に、前記低融点金属粒子が溶解した低融点金属が前記第1の熱伝導性粒子と反応してなる合金層とを形成する工程である。
【0080】
前記加熱の条件としては、(1)硬化剤のフラックス活性が発現して、硬化剤及び溶解した低融点金属が第1の熱伝導層組成物に流入する、第1段階の加熱、及び(2)硬化剤の硬化活性が発現して、各層が硬化される、第2段階の加熱を行うことが好ましい。
前記加熱は、例えば、連続的に昇温することで第1段階の加熱を行った後に、第2段階の加熱を行ってもよく、2段階の加熱条件を順次行ってもよい。
前記第1段階の加熱は、例えば、120℃~150℃、1分間~30分間が好ましい。
前記第2段階の加熱は、例えば、150℃~190℃、30分間~2時間が好ましい。
【0081】
液相のまま第1の熱伝導層組成物上に第2の熱伝導層組成物を付与し、次いで、第1段階の加熱により硬化剤のフラックス活性が発現することで、上層に積層した第2の熱伝導層組成物に含まれる、フラックス活性を有する硬化剤と溶融した低融点金属とが、下層を形成するための第1の熱伝導層組成物に流入する。
【0082】
次いで、第2段階の加熱により、第1の熱伝導層組成物、及び第2の熱伝導層組成物が硬化され、それぞれ第1の熱伝導層、及び第2の熱伝導層が形成される。これと共に、前記第1の熱伝導層及び前記第2の熱伝導層の間では、第1の熱伝導層組成物に含まれる第1の熱伝導性粒子と流入した低融点金属とが反応して合金を形成することにより、前記合金層が形成される。
【0083】
前記エポキシ樹脂硬化剤の硬化開始温度としては、120℃以上であることが好ましい。
前記硬化開始温度が120℃以上であると、第2の付与工程後、及び加熱工程の第1段階の加熱において、特に第1の熱伝導層組成物の硬化が始まることなく、硬化剤のフラックス活性が発現して、硬化剤及び溶解した低融点金属が第1の熱伝導層組成物に流入する。続く、第2段階の加熱により、各層の硬化が実施され、合金層が好適に形成される。
【0084】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、保護層形成工程、対向基材積層工程などが挙げられる。
【0085】
ここで、本発明の積層体の製造方法、及び積層体の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状などは本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状などにすることができる。
【0086】
図1は、実施形態に係る積層体の製造方法のプロセスの一例を示す概略図である。
この図1に示す硬化前の積層体10aは、第2の付与工程後、かつ加熱工程前のウェットオンウェットの硬化前の積層体であり、具体的には、基材11上に、第1の熱伝導性粒子12bを含有する第1の熱伝導層組成物12aと、第1の熱伝導層組成物12a上に、第2の熱伝導性粒子14b、及び低融点金属粒子14cを含有する第2の熱伝導層組成物14aと、第2の熱伝導層組成物14a上に、対向基材15を有する。
【0087】
図2は、実施形態に係る積層体の一例を示す概略図である。
図2に示す積層体10は、基材11上に、第1の熱伝導性粒子12bを含有する第1の熱伝導層12と、第1の熱伝導層12上に、合金13bを含有する合金層13と、合金層13上に、第2の熱伝導性粒子14b、及び低融点金属14dを含有する第2の熱伝導層14と、第2の熱伝導層14上に、対向基材15を有する。
【0088】
本発明の積層体は、例えば、LSI等の熱源とヒートシンクとの間の微小な間隙を埋めることで、両者の間に熱がスムーズに流れるようにするサーマルインターフェイスマテリアル(TIM)、LEDチップ又はICチップを実装した放熱基板を、ヒートシンクに接着してパワーLEDモジュール又はパワーICモジュールを構成する際に好適に使用することができる。
ここで、パワーLEDモジュールとしては、ワイヤーボンディング実装タイプのものとフリップチップ実装タイプのものがあり、パワーICモジュールとしてはワイヤーボンディング実装タイプのものがある。
【0089】
(放熱構造体)
本実施形態の放熱構造体は、発熱体と、上述した本発明の積層体と、放熱部材とを有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0090】
前記発熱体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の電子部品などが挙げられる。
【0091】
前記放熱部材としては、電子部品(発熱体)の発する熱を放熱する構造体であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒートスプレッダ、ヒートシンク、ベーパーチャンバー、ヒートパイプなどが挙げられる。
前記ヒートスプレッダは、前記電子部品の熱を他の部品に効率的に伝えるための部材である。前記ヒートスプレッダの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銅、アルミニウムなどが挙げられる。前記ヒートスプレッダは、通常、平板形状である。
前記ヒートシンクは、前記電子部品の熱を空気中に放出するための部材である。前記ヒートシンクの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銅、アルミニウムなどが挙げられる。前記ヒートシンクは、例えば、複数のフィンを有する。前記ヒートシンクは、例えば、ベース部と、前記ベース部の一方の面に対して非平行方向(例えば、直交する方向)に向かって延びるように設けられた複数のフィンを有する。
前記ヒートスプレッダ、及び前記ヒートシンクは、一般的に、内部に空間を持たない中実構造である。
前記ベーパーチャンバーは、中空構造体である。前記中空構造体の内部空間には、揮発性の液体が封入されている。前記ベーパーチャンバーとしては、例えば、前記ヒートスプレッダを中空構造にしたもの、前記ヒートシンクを中空構造にしたような板状の中空構造体などが挙げられる。
前記ヒートパイプは、円筒状、略円筒状、又は扁平筒状の中空構造体である。前記中空構造体の内部空間には、揮発性の液体が封入されている。
【0092】
ここで、図3は、放熱構造体としての半導体装置の一例を示す概略断面図である。本発明の積層体7は、半導体素子等の電子部品3の発する熱を放熱するものであり、図3に示すように、ヒートスプレッダ2の電子部品3と対峙する主面2aに固定され、電子部品3と、ヒートスプレッダ2との間に挟持されるものである。また、熱伝導シート1は、ヒートスプレッダ2とヒートシンク5との間に挟持される。
【0093】
ヒートスプレッダ2は、例えば、方形板状に形成され、電子部品3と対峙する主面2aと、主面2aの外周に沿って立設された側壁2bとを有する。ヒートスプレッダ2は、側壁2bに囲まれた主面2aに熱伝導シート1が設けられ、また主面2aと反対側の他面2cに熱伝導シート1を介してヒートシンク5が設けられる。ヒートスプレッダ2は、高い熱伝導率を有するほど、熱抵抗が減少し、効率よく半導体素子等の電子部品3の熱を吸熱することから、例えば、熱伝導性の良好な銅又はアルミニウムを用いて形成することができる。
【0094】
電子部品3は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板6へ実装される。またヒートスプレッダ2も、側壁2bの先端面が配線基板6に実装され、これにより側壁2bによって所定の距離を隔てて電子部品3を囲んでいる。
そして、ヒートスプレッダ2の主面2aに、本発明の積層体7が設けられることにより、電子部品3の発する熱を吸収し、ヒートシンク5より放熱する放熱部材が形成される。
【実施例0095】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0096】
<硬化剤の合成>
以下の手順により、硬化剤として、前記一般式(1)で表される多官能カルボン酸を合成し、その同定を行った。
熱電対、撹拌装置、冷却管、及び加温装置を備えたガラス製の三口フラスコに、グリセリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)50質量部を計量し、これにメチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)43.3質量部を添加し、よく攪拌して完全に溶解させた。
次いで、触媒としてトリエチルアミン(東京化成工業株式会社製)1質量部を加えて、更によく攪拌した。完全に溶解させて後、下記構造式で示すグルタル酸無水物(Glutaric Anhydride、東京化成工業株式会社製)50質量部を三口フラスコ内に漏斗を用いて粉末状のまま滴下した。上記を完全に反応が終了するまで、60℃で一定に保ち、24時間攪拌させた。上述の合成体を常温に冷却後、ナスフラスコに移しエバポレーターで濃縮した後、減圧乾燥(60℃で24時間)して、目的の多官能カルボン酸を収率90%で得た。得られた多官能カルボン酸は液状であった。
【0097】
得られた多官能カルボン酸をFT-IR測定により同定した。FT-IRの測定は、Nicolet iS10(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を使用し、ATR法で測定を行った。得られた多官能カルボン酸のFTIR吸収を以下に示す。
781cm-1、868cm-1、1016cm-1、1065cm-1、1097cm-1、1138cm-1、1268cm-1、1410cm-1、1703cm-1、1730cm-1及び2700cm-1~3700cm-1
【0098】
FTIR吸収の結果、カルボン酸由来のブロードな吸収振動が見られたことから、目的とする、下記構造を有する、ペンタン二酸-1,1’,1’’-(1,2,3-プロパントリイル)エステル(分子式:C182612)が得られたことがわかった。
【0099】
【化7】
【0100】
(実施例1)
<熱伝導層組成物の調製>
表1に記載の組成及び含有量を、撹拌装置(泡とり練太郎・自動公転ミキサー、株式会社シンキー製)を用いて均一に混合し、第1の熱伝導層組成物、及び第2の熱伝導層組成物を調製した。
なお、表1~表2における各成分の含有量は体積%である。また、用いたノバキュア(登録商標)シリーズは、「エポキシ樹脂硬化剤」の欄に示しているが、エポキシ樹脂硬化剤に加えてエポキシ樹脂を含む。
【0101】
<積層体の製造>
次に、20mm×20mm×0.725mmの基材(シリコン基材)上に、第1の熱伝導層組成物を硬化後の平均厚みが20μmとなるように付与し、次に、第1の熱伝導層上に、第2の熱伝導層組成物を硬化後の平均厚みが80μmとなるように付与し、この第2の熱伝導層組成物上に20mm×20mm×1mmの対向基材(銅)を積層し、150℃で5分間、及び170℃で60分間の2段階で加熱し、硬化させて、実施例1の積層体を製造した。
【0102】
(実施例2)
実施例1において用いたエポキシ樹脂硬化剤1(ノバキュア(登録商標)HX-3941HP、旭化成イーマテリアルズ株式会社製)に代えて、エポキシ樹脂硬化剤2(ノバキュア(登録商標)HXA3932HP、旭化成イーマテリアルズ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の積層体を製造した。
【0103】
(実施例3~4)
実施例1において用いた第2の熱伝導層組成物における硬化剤、及び低融点金属粒子の含有量を変えて、合金層の厚みを変えたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3~4の積層体をそれぞれ製造した。
【0104】
(比較例1)
実施例1において用いた第2の熱伝導層組成物における硬化剤、及び低融点金属粒子の含有量を変えて、合金層の厚みを変えたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の積層体を製造した。
【0105】
(比較例2~3)
実施例1において、第1の熱伝導層組成物の組成を表2に示す通り変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2~3の積層体をそれぞれ製造した。
【0106】
次に、実施例1~4、及び比較例1~3について、以下のようにして、「合金層の形成有無の評価」、「各層の平均厚みの測定」、「熱伝導性」、及び「接着性」を評価した。結果を表1~表2に示した。
【0107】
<合金層の形成有無の評価>
各積層体を切断し、得られた切断面を研磨し、研磨面を走査型電子顕微鏡(S-3000N、株式会社日立製作所製)で撮影し、低融点金属、及び熱伝導性粒子1により形成された合金層(金属の合金相)の有無を観察し、下記の基準により、合金層の形成の有無を評価した。
[評価基準]
〇:低融点金属粒子が溶融し、合金を形成した。
×:低融点金属粒子が溶融し、合金を形成していない。
【0108】
<各層の平均厚みの測定>
次いで、積層体の切断面から、各層の厚みを測定し、任意の3点の厚みの平均値を求めた。
図4は、実施例1の積層体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。図2に示す積層体の断面図に対応して、基材上に、第1の熱伝導層と、合金層と、第2の熱伝導層と、対向基材と、をこの順に有することが確認できる。
【0109】
その結果、実施例1~4、及び比較例1~3のいずれにおいても、第1の熱伝導層及び合金層の合計平均厚みは20μmであり、第2の熱伝導層の平均厚みは80μmであった。また、合金層の平均厚みを測定し、第1の熱伝導層と合金層の合計平均厚みに対する合金層の平均厚みの比率を算出し、表1~表2に示した。
【0110】
<熱伝導性>
<<圧着後の積層体の作製>>
各積層体について、20mm×20mm角のシリコン板(厚み0.77mm)と直径20mmの銅板(厚み1.0mm)の間に挟み込み、ミニプレス機にて銅基板側の上板温度150℃、シリコン基板側の下板温度150℃、設定空気圧0.11MPa(圧力換算で40psi)の条件で5分間プレスを行った。
【0111】
<<リフロー後の積層体の作製>>
260℃で5分間の加熱を行うリフロー条件を模した処理を行うことにより、各積層体の低融点金属粒子を再融解(リフロー)し、リフロー後の積層体を得た。
【0112】
<<熱伝導性の評価>>
圧着後の積層体、及びリフロー後の積層体(界面Cu及びシリコン)のそれぞれについて、ASTM-D5470に準拠した方法で熱抵抗(℃・cm/W)を測定した。その結果から基材(シリコン基材)及び対向基材(銅基材)の熱抵抗を引いて、積層体から基材及び対向基材を除いた部分の熱抵抗を算出し、前記熱抵抗と積層体から基材及び対向基材を除いた部分の厚み(100μm)から、熱伝導率(W/m・K)を求め、下記の基準により熱伝導性を評価した。
[評価基準]
◎:熱伝導率が、20W/m・K以上である。
〇:熱伝導率が、12W/m・K以上20W/m・K未満である。
×:熱伝導率が、12W/m・K未満である。
【0113】
<接着性>
各実施例について、圧着後の積層体、及びリフロー後の積層体を用いて、以下の手順により、接着性を評価した。
なお、圧着後の積層体、及びリフロー後の積層体は、上述した<熱伝導性>において説明した手順で作製した。
信頼性試験としてボンドテスター(4000Plus、Nordson DAGE製)を用いて、せん断速度200μm、高さ150μm、n=3、130℃環境の試験条件で圧着後の積層体、又はリフロー後の積層体に対して、せん断試験を実施し、高温時の接着性を評価した。
[評価基準]
○:接着強度が、3kg以上である。
×:接着強度が、3kg未満である。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
その結果、実施例1の積層体では、第2の熱伝導層組成物中の融解した低融点金属が硬化剤と共に第1の熱伝導層組成物に流入し、低融点金属と第1の熱伝導性粒子とが反応してなる合金層が形成されることが確認できた。実施例1の積層体では、圧着後の積層体の熱伝導率、及び接着性が良好であった。また、リフロー後の積層体でも熱伝導率、及び接着性が良好であり、耐熱性にも優れることが分かった。
第1の熱伝導層組成物中のエポキシ樹脂硬化剤の種類を変更した実施例2でも、同様に優れた耐熱性、熱伝導率、及び接着性を示すことが分かった。
【0117】
実施例1、及び3~4では、第2の熱伝導層組成物中の硬化剤量を変更することにより、第1の熱伝導層と合金層の合計平均厚みに対する合金層の平均厚みの比率を変更することができたが、いずれの場合にも優れた耐熱性、熱伝導率、及び接着性を示すことが分かった。
なお、いずれの実施例も、基材と第1の熱伝導層とが接しており、その界面に合金層は存在しなかった。
【0118】
一方で、実施例4よりもさらに過剰量の硬化剤を用いた比較例1の積層体では、第1の熱伝導層が存在せず、全て合金層に変換されていた。加えて、図5に示すように、比較例1の積層体20では、第2の熱伝導層組成物から流入した過剰の硬化剤に由来する樹脂層16が、基材11との界面に形成されてしまっていた。これにより、熱伝導性が低下することが分かった。また、接着性、及びリフロー処理による耐熱性も劣る結果となった。
【0119】
比較例2の積層体では、第1の熱伝導層が低融点金属を含むため、積層体の圧着後の熱伝導性及び接着性は評価基準を満たすものの、リフロー後の熱伝導性及び接着性が劣り、耐熱性が劣る結果となった。
また、比較例3の積層体では、第1の熱伝導層組成物が低融点金属粒子を含まないが、エポキシ樹脂硬化剤も含まないため、耐熱性、熱伝導率、及び接着性全てが劣る結果となった。
比較例2~3の積層体では、第1の熱伝導層組成物がエポキシ樹脂硬化剤を含まないため、第1の熱伝導層組成物の硬化に時間を要し、実施例1の積層体で観察されたような第1の熱伝導層と合金層との2層構造やその界面(図2及び図4参照)が、比較例2~3の積層体では観察できなかった(図6~7参照)。図6及び7は、それぞれ比較例2及び3の積層体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。一方で、比較例2~3の積層体(図6~7参照)では、基材との界面に、第1の熱伝導層組成物に含まれる硬化剤、及び第2の熱伝導層組成物に含まれる硬化剤に由来する樹脂層が形成されていた(図5の樹脂層16も参照)。
【0120】
表1~表2における各成分の詳細については、以下のとおりである。
【0121】
-エポキシ樹脂-
・EPICLON(登録商標)EXA-850CRP(DIC株式会社製)
【0122】
-エポキシ樹脂硬化剤-
・エポキシ樹脂硬化剤1:ノバキュア(登録商標)HX-3941HP(旭化成イーマテリアルズ株式会社製、エポキシ樹脂硬化剤30%~40%、ビスフェノールA型エポキシ樹脂45%~55%、ビスフェノールF型エポキシ樹脂10%~20%)
・エポキシ樹脂硬化剤2:ノバキュア(登録商標)HXA3932HP(旭化成イーマテリアルズ株式会社製、エポキシ樹脂硬化剤30%~40%、ビスフェノールA型エポキシ樹脂45%~55%、ビスフェノールF型エポキシ樹脂10%~20%)
【0123】
-硬化成分-
・硬化成分(オキセタン化合物):ETERNACOLL(登録商標)OXBP(宇部興産株式会社製)、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル
【0124】
-硬化剤-
・硬化剤:前記一般式(1)で表される多官能カルボン酸(ペンタン二酸-1,1’,1’’-(1,2,3-プロパントリイル)エステル;分子式:C182612;デクセリアルズ株式会社合成品)
【0125】
-低融点金属粒子(はんだ粒子)-
・Sn58Bi42:三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径Dv:4μm、融点139℃
【0126】
-熱伝導性粒子-
・熱伝導性粒子1:Ag粒子、DOWAエレクトロニクス株式会社製、体積平均粒径Dv:1.9μm
・熱伝導性粒子2:AgコートCu粒子、福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径Dv:10μm
【0127】
-熱可塑性樹脂-
・熱可塑性樹脂:YP-50(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテル
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の積層体は、サーマルインターフェイスマテリアル(TIM)として優れた耐熱性、熱伝導率、及び接着性を実現できるので、例えば、温度によって素子動作の効率や寿命等に悪影響が生じるCPU、MPU、パワートランジスタ、LED、レーザーダイオード等の各種の電気デバイス周りなどに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0129】
1 熱伝導シート
2 ヒートスプレッダ
2a 主面
3 発熱体(電子部品)
3a 上面
5 ヒートシンク
6 配線基板
7 積層体
10 積層体
10a 硬化前の積層体
11 基材
12 第1の熱伝導層
12a 第1の熱伝導層組成物
12b 第1の熱伝導性粒子
13 合金層
13b 合金
14 第2の熱伝導層
14a 第2の熱伝導層組成物
14b 第2の熱伝導性粒子
14c 低融点金属粒子
14d 低融点金属
15 対向基材
16 樹脂層

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7