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特開2025-2436複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002436
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/36 20060101AFI20241226BHJP
   B29B 17/02 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C23F1/36
B29B17/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102612
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】504315705
【氏名又は名称】エンバイロメントシステム有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】塚田 正隆
(72)【発明者】
【氏名】小寺 洋一
(72)【発明者】
【氏名】永田 耕太郎
【テーマコード(参考)】
4F401
4K057
【Fターム(参考)】
4F401AB10
4F401AD01
4F401AD07
4F401BA10
4F401CA32
4F401EA07
4F401FA01Z
4F401FA07Z
4K057WA20
4K057WB05
4K057WC10
4K057WE22
4K057WG02
4K057WG03
4K057WN10
(57)【要約】
【課題】複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去して樹脂を取り出すための実用的な技術を提供する。
【解決手段】複合樹脂フィルムは、両面を樹脂層で覆われており内部にアルミニウムでできたアルミニウム層を持つ。複合樹脂フィルムに、小さな孔を多数穿つ。次いで、複合樹脂フィルムを水酸化ナトリウム水溶液に水没させる。水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃とし、水酸化ナトリウムの濃度を9.72%から23.9%とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムでできたアルミニウム層と、前記アルミニウム層の両面を覆う2つの樹脂層とを備えている複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法であって、
2つの前記樹脂層の少なくとも一方側の表面から、前記アルミニウム層にまで達する溝又は孔を設ける第1過程、
前記第1過程を経た前記複合樹脂フィルムを、濃度が9.72%から23.9%の水酸化ナトリウム水溶液に水没させる第2過程、
前記第2過程の後に、前記水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃の所定の温度に維持しつつ、前記複合樹脂フィルムを前記水酸化ナトリウム水溶液に前記アルミニウム層を構成するアルミニウムが概ねすべて溶解するまで水没させ続ける第3過程、
前記第3過程が終了した後、前記アルミニウム層が除去された前記複合樹脂フィルムを前記水酸化ナトリウム水溶液から取出す第4過程、
を含む、複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項2】
前記第1過程が実行される前の前記複合樹脂フィルムが長尺ものであり且つロール状にされているとともに、
前記第1過程では、ロール状にされている前記複合樹脂フィルムを連続的に先端から解きつつ先端から巻き取ることにより再びロール状にする最中において、2つのロールの間を走る前記複合樹脂フィルムに対して、当該複合樹脂フィルムが持つ2つの前記樹脂層の少なくとも一方側の表面から、前記アルミニウム層にまで達する溝又は孔を設ける処理を実行する、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項3】
前記第1過程では、前記複合樹脂フィルムに前記複合樹脂フィルムを貫通する孔を多数穿つ、
請求項1又は2記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項4】
前記第2過程、前記第3過程では、13.0%から22.0%の水酸化ナトリウム水溶液を用いる、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項5】
前記第2過程、前記第3過程では、14.1%から20.5%の水酸化ナトリウム水溶液を用いるとともに、
前記第3過程における所定の温度を30℃以上とする、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項6】
前記第2過程、前記第3過程では、13.0%から21.5%の水酸化ナトリウム水溶液を用いるとともに、
前記第3過程における所定の温度を35℃以上とする、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項7】
前記第3過程では、水酸化ナトリウム水溶液の前記所定の温度が一定であり、且つ前記水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度C[%]と、温度T[K]とが、下記の数式を満たすようにする、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.00815 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
【請求項8】
前記第3過程では、前記水酸化ナトリウム水溶液の前記所定の温度が一定であり、且つ前記水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度C[%]と、温度T[K]とが、下記の数式を満たすようにする、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.0100 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
【請求項9】
前記第2過程を実行する時点における前記水酸化ナトリウム水溶液の温度が20℃よりも低い温度であり、
前記第2過程を実行した後、前記第3過程を実行する前に、
20℃より低い温度から、前記第3過程における前記所定の温度まで前記水酸化ナトリウム水溶液の温度を上昇させる予熱過程を実行する、
請求項1記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【請求項10】
前記予熱過程の実行時間を、10分から30分とする、
請求項9記載の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム層を有する複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム層を有する複合樹脂フィルム(以降、単に「複合樹脂フィルム」と称する場合がある。)が、広く用いられている。例えば、スナック菓子その他の食品や、薬剤の包装用に、アルミニウム層を有する複合樹脂フィルムが広く用いられている。
複合樹脂フィルムは、アルミニウム層を備えている。アルミニウム層は、箔である場合もあるし、隣接する樹脂の層にアルミニウムを蒸着することで形成されたものである場合もある。アルミニウム層の両面にはそれぞれ樹脂層が設けられている。アルミニウム層の両面に設けられた樹脂層はそれぞれ、単層である場合もあるが、異なる樹脂でできた複数の層でできているのが普通である。アルミニウム層と、両樹脂層(或いは、両樹脂層をそれぞれ構成する複数種類の樹脂の層)とにそれぞれ異なる機能を担わせることで、複合樹脂フィルムは、所望の機能を発揮できるようになっている。
複合樹脂フィルムは、包装すべき製品に合わせた適宜の印刷を行った長尺ものとされ、ロール状にして準備される。準備された複合樹脂フィルムは、適宜の幅に、また適宜の長さ毎に切断した後に、包装用の製品、例えば袋等のパッケージ等に加工される。
【0003】
上述したように、複合樹脂フィルムは、包装すべき対象に合わせた適宜の印刷を行った状態で準備される。
しかしながら、包装すべき製品に変更が生じた場合には複合樹脂フィルムの印刷にも変更を加える必要が生じるし、また、包装すべき製品に変更が生じない場合であっても広告宣伝の戦略を変える必要が生じた場合等にはパッケージの変更が必須となるため、複合樹脂フィルムの印刷に変更を加える必要が生じる。
複合樹脂フィルムに既に行われた印刷を修正することは事実上不可能であるため、そのような事情が生じた場合には、ロール状の複合樹脂フィルムが丸ごと廃棄されることになる。そして、複合樹脂フィルムを廃棄しなければならなくするような上述の如き事情はそれなりの頻度で生じるため、廃棄の対象となる複合樹脂フィルムの量は膨大である。
【0004】
ところで近年SDGsの意識が益々高まっている。そのような状況下で大量の複合樹脂フィルムをそのまま廃棄するというのはもちろん好ましくない。
複合樹脂フィルムには樹脂が含まれているため、アルミニウム層のアルミニウムを除去して樹脂層のみを残すことにより樹脂のみを取り出すことができれば、廃棄されるはずであった複合樹脂フィルムから大量の樹脂を回収することができる。回収された樹脂は、何らかの形態で再利用が可能となり、それはもちろん環境負荷の削減にも繋がる。
そのような観点から、複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去して、樹脂を回収する技術が提案されている。
アルミニウムがアルカリ水溶液中で溶解することは常識である。そこでアルカリ水溶液中に複合樹脂フィルムを浸し、複合樹脂フィルム中のアルミニウムのみを溶解させることにより複合樹脂フィルム中の樹脂を回収するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4574543号
【特許文献2】特許第5014488号
【特許文献3】特許第6777263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従前の技術では、複合樹脂フィルム中のアルミニウムを溶解させるのに要する時間が長くなり過ぎたり、複合樹脂フィルム中のアルミニウムを溶解させる際の反応が激しくなりすぎることにより安全性を確保するための手段を講じなければならなかったりするなどの不具合があり、原理的にはともかく実用するには難がある。
【0007】
本願発明は、複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去して樹脂を取り出すための実用的な技術を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本願発明者は、以下の発明を提案する。
本願発明は、アルミニウムでできたアルミニウム層と、前記アルミニウム層の両面を覆う2つの樹脂層とを備えている複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法(以下、単に「アルミニウム除去方法」と称する場合がある。)である。このアルミニウム除去方法でアルミニウムを除去する対象となる複合樹脂フィルムは、背景技術の欄で説明した複合樹脂フィルムと同じである。
そして、このアルミニウム除去方法は、2つの前記樹脂層の少なくとも一方側の表面から、前記アルミニウム層にまで達する溝又は孔を設ける第1過程、前記第1過程を経た前記複合樹脂フィルムを、濃度が9.72%(重量%、以下すべて同じ。)から23.9%の水酸化ナトリウム水溶液に水没させる第2過程、前記第2過程の後に、前記水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃の所定の温度に維持しつつ、前記複合樹脂フィルムを前記水酸化ナトリウム水溶液に前記アルミニウム層を構成するアルミニウムが概ねすべて溶解するまで水没させ続ける第3過程、前記第3過程が終了した後、前記アルミニウム層が除去された前記複合樹脂フィルムを前記水酸化ナトリウム水溶液から取出す第4過程、を含む。
このアルミニウム除去方法は、複合樹脂フィルムが持つ2つの樹脂層の少なくとも一方側の表面から、アルミニウム層にまで達する溝又は孔を設ける第1過程を含む。つまり、第1過程が終了した段階で、複合樹脂フィルムの内部に存在するアルミニウム層が、溝又は孔を介して2つの樹脂層の少なくとも一方から露出した状態となる。孔は、複合樹脂フィルムを貫通していても良いし、そうでなくてもよい。溝及び孔は、多数とするのが好ましい。溝及び孔は、複合樹脂フィルムの全体に満遍なく、多数設けるのが好ましい。ただし、溝及び孔が複合樹脂フィルムが破断するような複合樹脂フィルムの強度低下を招かないように考慮すべきである。
このアルミニウム除去方法では、第1過程が終了した後の複合樹脂フィルムを、第2過程において水酸化ナトリウム水溶液に水没させる。水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度は、9.72%から23.9%とする。
そして、このアルミニウム除去方法では、第3過程において、水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルムを水没させた状態で、前記水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃の所定の温度に維持しつつ、複合樹脂フィルムを水酸化ナトリウム水溶液にアルミニウム層を構成するアルミニウムが概ねすべて溶解するまで水没させ続ける。本願では、アルミニウム層を構成するアルミニウムが98%以上溶解した場合に、アルミニウムが「概ねすべて」溶解したと言うものとする。第3過程が実行されている場合、アルミニウム層中のアルミニウムと水酸化ナトリウム水溶液との接触を促すため、バッチ的でも連続的でも良いが、水酸化ナトリウム水溶液を撹拌するのが好ましい。
複合樹脂フィルム中のアルミニウム層は概ねすべて溶解するため、その後このアルミニウム除去方法では、第4過程として、アルミニウム層が除去された前記複合樹脂フィルムを水酸化ナトリウム水溶液から取出す。
このアルミニウム除去方法では、第1過程を実行することで、2つの樹脂層の少なくとも一方から、本来であれば複合樹脂フィルムの内部に存在するアルミニウム層(正確にいうと、アルミニウム層は複合樹脂フィルムの縁では、上述の溝又は孔を設けるまでもなく、外部に露出している場合がある。)を、溝又は孔を介して露出させる。それにより、第2過程以降で水酸化ナトリウム水溶液が、アルミニウム層に接触しやすくなる。
従来の複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法では、本願のアルミニウム除去方法における第1過程に相当する処理が存在しなかった。したがって、従来の方法では、アルカリ水溶液は、複合樹脂フィルムの縁部でしか露出していないアルミニウム層にまず接触し、そこからアルミニウム層を溶解させながら、複合樹脂フィルムの中心のアルミニウム層に向けて進行していくことになる。それと比較すれば、第1過程を実行したことで、2つの樹脂層の様々な位置で溝又は孔を介してアルミニウム層を露出させた複合樹脂フィルムを水酸化ナトリウム水溶液に水没させる本願のアルミニウム除去方法は、アルミニウムを溶解させるに必要な時間を大幅に短縮させることが可能となる。
具体的には、本願発明によるアルミニウム除去方法でアルミニウム層におけるアルミニウムを概ねすべて溶解するのに必要な時間は、概ね8時間以内であり、場合によっては6時間以内となる。8時間程度、或いは6時間程度の時間内に複合樹脂フィルムからアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法を実施できるのは、例えば、工場の操業時間との兼ね合いで、アルミニウム除去方法の実用化に大きな意味を持つ。
【0009】
水酸化ナトリウム水溶液の濃度と、温度を上述の範囲とするのは以下のような理由による。
水酸化ナトリウム水溶液とアルミニウムとが接触した場合には、以下の(1)、(2)の化学式で示された反応が生じる。
Al + NaOH + 3 H2O → Na[Al(OH)4] + 3/2 H2……(1)
Al + 3NaOH → Al(OH)……(2)
これらはいずれも、アルミニウムを溶解させる反応であるが、(2)の化学式で示される反応で生じたAl(OH)は、水酸化ナトリウム水溶液中で沈殿する。
水酸化ナトリウム水溶液内では、化学式(3)で示される以下の反応も生じる。
Al(OH) + NaOH → Na[Al(OH)4]……(3)
(3)の反応は、(2)の 反応で生じたAl(OH)が、水酸化ナトリウム水溶液中で再度溶解する反応である。この反応が生じると、水酸化ナトリウム水溶液中の沈殿物は減っていく。しかしながら、(1)の反応により(3)の化学式の右辺のNa[Al(OH)4]が増えると(3)の反応は化学平衡に達し、(3)の左辺から右辺への反応は生じなくなっていく。つまり、(1)の反応によってアルミニウムの溶解が進んでいくにつれ上述の化学平衡が生じて(3)の反応が生じにくくなっていき、それ故、水酸化ナトリウム水溶液中のAl(OH)の沈殿量が徐々に増えていくという現象が生じることになる。
本願出願人は、本願発明をなすにあたり、水酸化ナトリウム水溶液の濃度と温度とを様々な条件で変化させて実験を行った。その実験、及びその結果に対する考察から見出したのは次のようなことである。
まず、上述の(1)の反応は、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が高い程盛んに生じ、また、多くの化学反応がそうであるように、温度が高い程盛んに生じる。
したがって、上述の(1)の反応を効率よく生じさせてアルミニウムを効率よく或いは素早く溶解させるには、水酸化ナトリウムの濃度と温度を高くすべき、ということになる。これらは極めて常識的である。
しかしながら出願人は、実験により、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度がある濃度よりも高いとき、或いは水酸化ナトリウム水溶液の温度がある温度よりも高いときには、上述の(2)の反応が盛んに生じること、或いは上述の(3)の反応が十分に生じないこと、又はそれらの両者が同時に起こることを見出した。その結果、水酸化ナトリウム水溶液中には、Al(OH) が多く沈殿していくことになる。
Al(OH)の沈殿量の増加は、本願のアルミニウム除去方法では極めて由々しき問題を生じる。なぜなら本願のアルミニウム除去方法では、第1過程において樹脂層に設けられた溝や孔を介して水酸化ナトリウム水溶液がアルミニウム層中のアルミニウムに接触することによりアルミニウムの溶解を促進するものであるところ、上述の沈殿物が溝や孔に付着すると、アルミニウムに対する水酸化ナトリウム水溶液の接触が妨げられるからである。複合樹脂フィルムの強度を考えると、上述の溝や孔の幅や大きさを大きくすることは難しいため、沈殿物がそれらに付着すると、アルミニウムに対する水酸化ナトリウム水溶液の接触が容易に妨げられてしまうことになる。
そのような点を考慮すると、上述の(1)の反応のみに着目して水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度をいたずらに高くし、また、水酸化ナトリウム水溶液の温度をいたずらに高くするのは得策でない、ということを本願発明者は見出した。
そして、様々な実験、及びその結果の考察から、複合樹脂フィルムを水没させる水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度を、9.72%から23.9%とするとともに、複合樹脂フィルムを水没させた水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃に維持して概ね8時間以内に、複合樹脂フィルムのアルミニウム層を構成するアルミニウムが概ねすべて溶解することがわかったのである。
なお、水酸化ナトリウム濃度の下限の9.72%と、温度の下限の25℃は、上述の(1)の反応を促進するために最低限必要な濃度と温度であり、水酸化ナトリウム濃度の上限の23.9%と、温度の上限の50℃は、(2)の反応を過剰にしないか、或いは(3)の反応を十分にするために必要な濃度と温度である。
【0010】
これには限られないが、前記第1過程が実行される前の前記複合樹脂フィルムは、長尺ものであり且つロール状にされていてもよい。というより、背景技術の欄で説明したように、長尺物でありロール状にされているというのは、ごく一般的な使用前の複合樹脂フィルムの態様である。複合樹脂フィルムがそのようなものである場合、前記第1過程では、ロール状にされている前記複合樹脂フィルムを連続的に先端から解きつつ先端から巻き取ることにより再びロール状にする最中において、2つのロールの間を走る前記複合樹脂フィルムに対して、当該複合樹脂フィルムが持つ2つの前記樹脂層の少なくとも一方側の表面から、前記アルミニウム層にまで達する溝又は孔を設ける処理を実行するようにしてもよい。
そのようにすることにより、長尺である場合の複合樹脂フィルムの全長にわたって、溝又は孔を設ける処理を施すことが可能となる。これは、複合樹脂フィルムの全長において、アルミニウム層のアルミニウムと水酸化ナトリウム水溶液とを接触させることにつながり、ひいては、アルミニウム除去方法の実施に必要な時間の短縮に繋がる。
【0011】
上述したように、本願のアルミニウム除去方法で用いられる水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、9.72%から23.9%とするが、この濃度は前記第2過程、前記第3過程では、13.0%から22.0%とするのが望ましい。
そうすることにより、アルミニウム層中のアルミニウムを概ねすべて溶解させるのに必要な時間を、略確実に8時間以内とすることができる。
前記第2過程、前記第3過程では、14.1%から20.5%の水酸化ナトリウム水溶液を用いるとともに、前記第3過程における所定の温度を30℃以上とすることもできる。
そうすることにより、アルミニウム層中のアルミニウムを概ねすべて溶解させるのに必要な時間を、略確実に6時間以内とすることができる。
前記第2過程、前記第3過程では、13.0%から21.5%の水酸化ナトリウム水溶液を用いるとともに、前記第3過程における所定の温度を35℃以上とすることもできる。
こうすることによっても、アルミニウム層中のアルミニウムを概ねすべて溶解させるのに必要な時間を、略確実に6時間以内とすることができる。
【0012】
本願のアルミニウム除去方法では、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度と温度を、以下のように制御するのが好ましい。
前記第3過程では、水酸化ナトリウム水溶液の前記所定の温度が一定であり、且つ前記水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度C[%]と、温度T[K]とが、下記の数式を満たすようにすることができる。
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.00815 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
CとTがこの条件を充足するように水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度と温度とを調整すると、複合樹脂フィルム中のアルミニウム層におけるアルミニウムを概ねすべて溶解するのに必要な時間を8時間程度或いはそれ以下とすることができる。
また、前記第3過程では、水酸化ナトリウム水溶液の前記所定の温度が一定であり、且つ前記水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度C[%]と、温度T[K]とが、下記の数式を満たすようにすることができる。
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.0100 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
CとTがこの条件を充足するように水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度と温度とを調整すると、複合樹脂フィルム中のアルミニウム層におけるアルミニウムを概ねすべて溶解するのに必要な時間を6時間程度或いはそれ以下とすることができる。
【0013】
前記第2過程を実行する時点における前記水酸化ナトリウム水溶液の温度を20℃よりも低い温度とすることができる。この場合前記第2過程を実行した後(つまり、複合樹脂フィルムを水酸化ナトリウム水溶液に水没させた後)、前記第3過程を実行する前に、20℃より低い温度から、前記第3過程における前記所定の温度まで前記水酸化ナトリウム水溶液の温度を上昇させる予熱過程を実行するようにしてもよい。
水酸化ナトリウム水溶液の温度が高い、例えば、30℃よりも高いときに、そのようなある程度高温な水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルムを水没させると、水酸化ナトリウム水溶液とアルミニウム層を構成するアルミニウムとが過剰に反応し、上述の(1)の式で特定される化学反応が勢いよく生じて水素が大量に発生することがある。水素の大量発生は危険を伴うことがあるし、もちろん適切な措置を講じることによりそのような危険を避けることは可能であるが、その措置を講じるために手間とコストが生じることになる。対して、20℃よりも温度が低い水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルムを水没させ、その後水酸化ナトリウム水溶液の温度を例えば30℃まで上昇させた場合には、そのような水素の大量発生が生じないことを、本願発明者は実験により見出した。
したがって、第2過程実施時、つまり複合樹脂フィルムが投入される時点の水酸化ナトリウム水溶液の温度を上述したように20℃よりも低い温度とし、その後第3過程を実施するまでに、水酸化ナトリウム水溶液の温度を、第3過程を実施する際の水酸化ナトリウム水溶液の温度にまで上昇させることとすれば、ある程度高温の水酸化ナトリウム水溶液を用いることによるある程度高速のアルミニウムの溶解速度を維持しつつ、水素の大量発生を避けることが可能となる。
前記予熱過程の実行時間は、10分から30分のなるべく短い時間、可能であれば10分から20分程度の範囲の時間とするのが好ましい。予熱過程を実行する時間があまりにも短いと、水素の大量発生の抑制の効果が十分に得られないことも想定される。しかしながら、予熱過程があまりにも長いと、本願のアルミニウム除去方法の実施に要する時間が長くなりすぎるおそれがある。その観点からすれば予熱過程の時間は、水素の大量発生の抑制の効果が得られる範囲でなるべく短くすべきである。予熱過程の実行時間を上述の範囲とすれば、水素の大量発生の抑制の効果を得るには十分であり、アルミニウム除去方法の実施に必要な時間が過剰に延びることもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のアルミニウムの除去方法によりアルミニウムが除去される対象となる複合樹脂フィルムの例の断面図。
図2】複合樹脂フィルムに孔を穿つ方法を概念的に示す側面図。
図3】孔を穿たれた複合樹脂フィルムの平面図。
図4】複合樹脂フィルムのロールを水酸化ナトリウム水溶液に水没させる方法を示す正面図。
図5】試験で用いられた複合樹脂フィルムの断面図。
図6】試験結果を示す表1。
図7】水酸化ナトリウム水溶液の濃度が20%、反応温度17℃のときのアルミニウムの量の経時変化を示す表2。
図8】水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃のときの反応率の自然対数の経時変化を、水酸化ナトリウム水溶液の濃度ごとに示したグラフ1。
図9】水酸化ナトリウム水溶液の温度が40℃のときの反応率の自然対数の経時変化を、水酸化ナトリウム水溶液の濃度ごとに示したグラフ2。
図10】水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃(290K)のときと、40℃(313K)のときの、水酸化ナトリウム水溶液の濃度ごとの反応速度定数を示した表3。
図11】表3の反応速度定数をプロットし更にカーブフィットを行うことにより得られた、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃と40℃のときそれぞれの、水酸化ナトリウム水溶液の濃度に対する反応速度定数の大きさを示すグラフ3。
図12】水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、及び50℃のときの反応曲線を示すグラフ4。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
以下に説明するのは、複合樹脂フィルムからアルミニウム層11を構成するアルミニウムを除去するアルミニウム除去方法である。
アルミニウム除去方法によってアルミニウムを除去される複合樹脂フィルム1の例を、図1に示す。図1は断面図である。
複合樹脂フィルム1自体は既存のもので良い、とうか通常は既存のものである。複合樹脂フィルム1は、アルミニウム層11と、アルミニウム層11の両面を覆う樹脂層12、13とを備えている。この実施形態の複合樹脂フィルム1は所定の商品を包装するための図示せぬ袋を製造するために用いられる。樹脂層12は、複合樹脂フィルム1が袋となったときの袋の内面側に、樹脂層13は外面側にそれぞれ位置する。
アルミニウム層11はアルミニウムでできている。アルミニウム層はアルミニウムの箔である場合もあるし、隣接する樹脂層12、13のいずれかに蒸着することにより形成されている場合もある。
樹脂層12と樹脂層13はともに樹脂にて構成されている。樹脂層12と、樹脂層13は同じ樹脂でできている場合もあるが、異なる樹脂でできている場合もある。図1(A)で示した例では、樹脂層12、樹脂層13はともに一種類の樹脂でできた単層であるが、樹脂層12、樹脂層13はともにそれぞれ異なる樹脂でできた複数層である場合もある。図1(B)では、樹脂層13が第1外樹脂層13Aと、第2外樹脂層13Bと、第3外樹脂層13Cの3層構造となっている。
図1(A)に示された例であれば、典型的には、樹脂層12はポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)等、樹脂層13はポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン(NY)等である。典型的な例について説明するのであれば、図1(A)に示された複合樹脂フィルム1におけるアルミニウム層11、樹脂層12、樹脂層13の厚さはそれぞれ6μmから8μm、40μmから80μm、20μmから30μmである。
図1(B)で示された例であれば、典型的には、樹脂層12はPE、第1外樹脂層13AがNY、第2外樹脂層13Bが二軸延伸ポリプロピレン(OP)、第3外樹脂層13CがPETでできている。典型的な例について説明するのであれば、図1(B)に示された複合樹脂フィルム1におけるアルミニウム層11、樹脂層12、第1外樹脂層13A、第2外樹脂層13B、第3外樹脂層13Cの厚さはそれぞれ9μm、40μmから120μm、12μm、24μm、15μmである。
各樹脂層12、樹脂層13(第1外樹脂層13A、第2外樹脂層13B、第3外樹脂層13C)を構成する樹脂はそれぞれ異なる特性を持ち、それぞれ異なる役割を担っている。各樹脂が担う役割は本願と関係が薄いので、詳細な説明は省略する。
【0017】
これには限られないが、この実施形態では、複合樹脂フィルム1は長尺物であり、またロール状にされている。本来は上述した袋を製造するために用いられる複合樹脂フィルム1ではあったが、何らかの理由で袋を作るために利用できなくなったものとして以下の話を進める。
【0018】
複合樹脂フィルム1に対してアルミニウム除去方法を実施する場合には、以下の第1過程から第3過程を実行する。また、必ずしも必要ではないが、この実施形態では、第2過程と第3過程の間に、予熱過程を実施する。
以下、第1過程から第3過程、及び予熱過程について説明する。
【0019】
第1過程は、複合樹脂フィルムが持つ2つの樹脂層12、13の少なくとも一方側の表面から、アルミニウム層11にまで達する溝又は孔を設けるというものである。
溝を設ける場合であれば、樹脂層12、13の少なくともいずれかの表面を、例えば、櫛状とされた歯で削り取り、少なくともアルミニウム層11にまで達する溝を設ける。溝の幅、長さ、方向、単位面積当たりの数には特に制限がないが、後述する予熱過程と第3過程において、アルミニウム層11に対するこれも後述する水酸化ナトリウム水溶液の接触が十分に促進されるようなものとする。溝はアルミニウム層11を貫通しても良い。また、樹脂層12から設けられた溝であればアルミニウム層11と樹脂層13とを貫通しても良いし、樹脂層13から設けられた溝であればアルミニウム層11と樹脂層12とを貫通しても良い。それらの場合、溝は、長孔となり、後述する孔と区別できなくなる。溝の幅、長さ、方向、単位面積当たりの数には上述したように特に制限がないが、溝を設けた結果、複合樹脂フィルム1の強度が落ちる結果を招くことも考えられる。例えば、後述するテンションを複合樹脂フィルム1にかけた場合に、複合樹脂フィルム1に破断が生じないように、或いは後述する予熱過程、第3過程を実施した場合においてアルミニウム層11を構成するアルミニウムが溶解した場合において複合樹脂フィルム1に破断が生じないように、複合樹脂フィルム1に溝を設ける必要があることに留意する必要がある。
孔を設ける場合であれば、樹脂層12、13の少なくともいずれかの表面に、例えば、円形の刃を押し付けることにより、少なくともアルミニウム層11にまで達する孔を設ける。孔の大きさ、形状、配置、単位面積当たりの数には特に制限がないが、後述する予熱過程と第3過程において、アルミニウム層11に対するこれも後述する水酸化ナトリウム水溶液の接触が十分に促進されるようなものとする。孔はアルミニウム層11を貫通しても良い。また、樹脂層12から設けられた孔であればアルミニウム層11と樹脂層13とを貫通しても良いし、樹脂層13から設けられた孔であればアルミニウム層11と樹脂層12とを貫通しても良い。それらの場合、孔は、複合樹脂フィルム1を貫通する孔となる。孔の大きさ、形状、配置、単位面積当たりの数には上述したように特に制限がないが、孔を設けた結果、複合樹脂フィルム1の強度が落ちる結果を招くことも考えられる。上述したような場合に複合樹脂フィルム1に破断が生じないように、複合樹脂フィルム1に孔を設ける必要があることに留意する必要がある。
【0020】
複合樹脂フィルム1に溝又は孔を設けるための技術は周知或いは公知技術によれば良い。
以下、複合樹脂フィルム1に孔を穿つものとしてその方法について説明する。
上述したように、この実施形態における複合樹脂フィルム1は、長尺でありロール状になっている。この実施形態では、ロール状にされている複合樹脂フィルム1を、連続的に先端から巻き解き(引出し)つつ、先端から巻き取って再びロール状にする(図2)。図1において左側にあるロール1Xが巻き解かれていく元のロールであり、右側にあるロール1Yが再び巻き取られていくことによって作られる新たなロールである。つまり、ロール状にされた複合樹脂フィルム1は、元のロール1Xから新たなロール1Yへ巻き換えられることになる。なお、これには限られないがこの実施形態では、元のロール1Xはロール1Xの中心に芯が有る場合も無い場合もあるが、新しいロール1Yは芯を持たない。
このようなロール状にされた複合樹脂フィルム1の巻き換えは、既存の技術によって容易に実現することができる。例えば、元の複合樹脂フィルム1のロールX1と新たな複合樹脂フィルム1のロール1Yとをそれぞれ、元のロール1Xから巻き解かれて新たなロール1Yに巻き取られる前の部分(以下、「引出し部1Z」)に適度なテンションがかかるような適切な速さで回転させることによって、それは可能である。この実施形態では、ロール1Xからロール1Yへの複合樹脂フィルム1の巻き換えは、これには限られないが止まること無く連続して行われる。複合樹脂フィルム1の進行方向を変えるために必要であれば、必要に応じて補助的なローラ2(駆動の入っていないいわゆるフリーローラで良い。)を配するのも自由である。
そして、この実施形態では上述した引出し部1Zに、孔開け装置3が配置されている。孔開け装置3は、引出し部1Zを連続的に通過していく複合樹脂フィルム1に対して、孔を穿つ機能を有している。そのような孔開け装置3は公知或いは周知であるので、孔開け装置3としては適当な公知或いは周知の装置を流用することが可能である。
原理が理解可能なように簡単に説明すると、孔開け装置3は、矢示したように上下動可能な可動部材31と、孔開け装置3内を通過する複合樹脂フィルム1を下から支持する台座32とを備えている。可動部材31は、所定の時間間隔で上下動を繰り返すようになっている。可動部材31は、最も下に位置するときには台座32と接触し、上に位置するときには複合樹脂フィルム1よりも上に位置する。可動部材31の下面には、図示を省略の刃が設けられている。刃は、可動部材31が台座32に接触したときに可動部材31と台座32との間に位置する複合樹脂フィルム1に複数の孔を穿つようになっている。
【0021】
孔開け装置3が複合樹脂フィルム1に穿つ孔の例を図3に示す。図3は、孔開け装置3を通過した複合樹脂フィルム1の平面図である。図3の上下方向が複合樹脂フィルム1の長さ方向である。複合樹脂フィルム1には、孔15が多数穿たれている。孔15は、これには限られないがこの実施形態では円形である。孔15はこれには限られないが、この実施形態では、複合樹脂フィルム1の全体に一様に穿たれるようになっている。また、この実施形態における孔15は、複合樹脂フィルム1を貫通している。図中αの破線で囲まれた範囲に含まれる孔15が、可動部材31が台座32に一回接触する際にまとめて穿たれる。つまり、そのような孔15をまとめて穿つことができるような刃(複数の刃)が、可動部材31の下面に設けられている。孔開け装置3内を移動する複合樹脂フィルム1の速さが一定であると仮定すれば、可動部材31を上下させる時間間隔を長くすると、上述したαの範囲間の孔15の存在しない範囲が増えるため、複合樹脂フィルム1の単位面積当たりの孔15の数が減る。このように、複合樹脂フィルム1の移動の速さと、可動部材31の上下動のタイミングを適切に設定することにより、複合樹脂フィルム1に設けられる単位面積当たりの孔15の数を調整することができる。
孔開け装置3によって孔15が開けられた複合樹脂フィルム1は、ロール1Yに巻き取られる。
ロール1Xからロール1Yに巻き換える際に複合樹脂フィルム1に孔15を穿つことの利点には、複合樹脂フィルム1の全面に時間的に連続して効率良く孔15を穿つことができるということがある。また、ロール1Xにおいて複合樹脂フィルム1がきつく巻かれている場合においても、ロール1Yにおいて複合樹脂フィルム1をゆるく巻き直すことが可能であり、それにより後述する第3過程を実行する際に、ロール1Yにおける複合樹脂フィルム1の間に水酸化ナトリウム水溶液が入り込みやすくすることができるということも挙げられる。
【0022】
なお、上述した例では、複合樹脂フィルム1に開けられる孔15は複合樹脂フィルム1を貫通する孔15であったが、孔15は、複合樹脂フィルム1のアルミニウム層11にまで至っているのであれば貫通孔である必要はない。例えば、ハーフカットの技術を用いれば、いずれかの樹脂層12、13からアルミニウム層11にまで達する貫通孔でない孔を作成するのは容易である。また、いずれかの樹脂層12、13からアルミニウム層11にまで至る溝を作るには、例えば、流れていく複合樹脂フィルム1に刃を当てるだけでも良い。そのようにすれば、複合樹脂フィルム1の表面に、複合樹脂フィルム1の長さ方向に伸びる溝を設けることができる。このように、複合樹脂フィルム1に設けられる溝又は孔の性状には様々なものがあり得るが、必要とされる溝又は孔の性状に合わせて孔開け装置3に適当な工夫を行うことができるということは当業者には自明であろう。
【0023】
以上のようにして第1過程が終了する。次いで第2過程が実行される。第2過程は、第1過程を経た複合樹脂フィルム1を、水酸化ナトリウム水溶液に水没させるというものである。水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度は、9.72%から23.9%とする。これには限られないが、この実施形態では、13.0%から22.0%の水酸化ナトリウム水溶液を用いることとする。水酸化ナトリウム水溶液は不純物を考慮しなければ、実質的に水と水酸化ナトリウムのみを含む。
この実施形態では、以下のようにして、ロール1Yの態様とされた複合樹脂フィルム1を、水酸化ナトリウム溶液に水没させる。
まず、ロール1Yの中心にワイヤ4を通す。そして、ワイヤ4でロール1Yを吊り上げ(図4(A))る。そして、ロール1Yを下降させ、上述の濃度に水酸化ナトリウムの濃度が予め調整された水酸化ナトリウム水溶液5を入れた水槽6にロール1Yを入れる。
これにより、第2過程が終了する。
【0024】
第2過程が終了したら第3過程を実行する前に、この実施形態では予熱過程を実行する。
予熱過程は、後述の第3過程を実行する前に実行される。
予熱過程は、その開始時点(=第2過程が終了した時点)、つまり、ロール1Y(複合樹脂フィルム1)を水酸化ナトリウム水溶液5に投入した時点における水酸化ナトリウム水溶液5の温度を20℃よりも低い温度(例えば、15℃より高く20℃よりも低い温度)とするとともに、その後水酸化ナトリウム水溶液5の温度を、後述する第3過程における所定の温度(25℃から50℃の間の所定の温度)まで上げていく、というものである。
それを可能とするために、水酸化ナトリウム水溶液5を溜める水槽6に、水酸化ナトリウム水溶液5のその時点での温度を計測するためのセンサと、センサによって測定された水酸化ナトリウム水溶液5の温度を所望の温度にまで上げるヒータとを設ける等の適宜の工夫を行うことができる。もちろん、水槽6内の溶液の温度を所望の温度にするための技術は公知、或いは周知であるので、そのような公知、或いは周知技術を水槽6に応用することが可能である。なお、水槽6内の水酸化ナトリウム水溶液5の温度を部位によらずなるべく均一にするために、水槽6には、水酸化ナトリウム水溶液5を撹拌するための適宜の手段を設けておくのが好ましい。撹拌を行うための手段としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液5を撹拌するための棒である可動の撹拌棒、水酸化ナトリウム水溶液5中に水流を作るためのポンプ、同じく水酸化ナトリウム水溶液5中に上下対流を作るための曝気装置を用いることができる。撹拌を行うための手段によって、第2過程が終了した後においては、水酸化ナトリウム水溶液5を間断なく撹拌するようにしている。
予熱過程の実行時間は、10分から30分の間の水素の発生量が多くなり過ぎない範囲のなるべく短い時間、好ましくは10分から20分程度の時間とするようにしている。これは、一定の温度よりも高い温度、例えば30℃よりも高い温度とされた水酸化ナトリウム水溶液5に対して複合樹脂フィルム1を投入した場合には、後述する式(1)で特定される化学反応が激しく生じ、水素が多く発生することがあるからである。したがって、例えば、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液5の温度が25℃程度と比較的低いのであれば、予熱過程は実行しなくても良い。
例えば、予熱過程を実行する場合には1分に1℃から2℃ずつ、水酸化ナトリウム水溶液5の温度を上昇させることにすることができる。
【0025】
予熱過程が終了したら、第3過程を実行する。
第3過程は、水酸化ナトリウム水溶液5の温度を25℃から50℃の所定の温度に維持しつつ、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液にアルミニウム層11を構成するアルミニウムが概ねすべて(98%以上)溶解するまで水没させ続けるという処理である。
第3過程を実行している最中において、ロール1Yを構成している複合樹脂フィルム1の隙間に水酸化ナトリウム水溶液5が入り込む。水酸化ナトリウム水溶液5は、複合樹脂フィルム1の縁部から露出しているアルミニウム層11に接触するとともに、複合樹脂フィルム1に多数穿たれた孔15の端面から露出しているアルミニウム層11に接触する。
第3過程でも引き続き、水酸化ナトリウム水溶液5を撹拌し続ける。
【0026】
水酸化ナトリウム水溶液5とアルミニウム層11中のアルミニウムとが接触した場合には、以下の(1)、(2)の化学式で示された反応が生じる。
Al + NaOH + 3 H2O → Na[Al(OH)4] + 3/2 H2……(1)
Al + 3NaOH → Al(OH)……(2)
これらはいずれも、アルミニウムを溶解させる反応であるが、(2)の化学式で示される反応で生じたAl(OH)は、水酸化ナトリウム水溶液5中で沈殿する。
水酸化ナトリウム水溶液5内では、化学式(3)で示される以下の反応も生じる。
Al(OH) + NaOH → Na[Al(OH)4]……(3)
(3)の反応は、(2)の 反応で生じたAl(OH)が、水酸化ナトリウム水溶液5中で再度溶解する反応である。この反応が生じると、水酸化ナトリウム水溶液5中の沈殿物は減っていく。
上述したように、第3過程が実行されているとき、水酸化ナトリウム水溶液5の水酸化ナトリウム濃度は、9.72%から23.9%(好ましくは13.0%から22.0%、この実施形態ではこの範囲にすることにしている。)とされ、また、水酸化ナトリウム水溶液5の温度は25℃から50℃に保たれる。
それにより、第3過程が実行されているときに、上述の(2)の反応が盛んに生じないという現象と、上述の(3)の反応が十分に生じないという現象が生じることの双方が抑制される。それにより、水酸化ナトリウム水溶液5中でAl(OH)が多く沈殿することがない。
その結果、水酸化ナトリウム水溶液5の水酸化ナトリウム濃度が13.0%から22.0%の場合には複合樹脂フィルム1中のアルミニウム層11を構成するアルミニウムは、概ね8時間程度で概ねすべて溶解する。
また、水酸化ナトリウム水溶液5中の水酸化ナトリウムの濃度を14.1%から20.5%とし、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液5の温度を30℃以上に保つこともできる。そうすると、アルミニウム層11中のアルミニウムを概ねすべて溶解させるのに必要な時間が、略確実に6時間以内となる。
水酸化ナトリウム水溶液5中の水酸化ナトリウムの濃度を13.0%から21.5%とし、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液5の温度を35℃以上に保つこともできる。そうすると、アルミニウム層11中のアルミニウムを概ねすべて溶解させるのに必要な時間が、略確実に6時間以内となる。
【0027】
第3過程を実行するとき、水酸化ナトリウム水溶液5の温度は、25℃から50℃の間に保たれる。ただし、水酸化ナトリウム水溶液5の温度は、第3過程が実行される間中一定である必要はなく、上述の温度範囲の間で変化させても良い。
他方、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液5の温度を一定とする場合には、水酸化ナトリウム水溶液5の水酸化ナトリウム濃度と温度とを、以下のように制御するのが好ましい。
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度C[%]と、温度T[K]とが、下記の数式を満たすようにすれば、複合樹脂フィルム1中のアルミニウム層11を構成するアルミニウムが概ね8時間程度或いはそれ以下の時間で概ねすべて溶解するという効果を、より確実に得られるようになる。
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.00815 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
また、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度C[%]と、温度T[K]とが、下記の数式を満たすようにすれば、複合樹脂フィルム1中のアルミニウム層11を構成するアルミニウムが概ね6時間程度或いはそれ以下の時間で概ねすべて溶解するという効果を、より確実に得られるようになる。
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.0100 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
【0028】
<試験例>
以下の条件で試験を行った。
まず、図5に示した断面を持つ複合樹脂フィルム1を用意した。この複合樹脂フィルム1は、アルミニウムでできたアルミニウム層11と、PEでできた樹脂層12と樹脂層13とを持つ。樹脂層13は、第1外樹脂層13Aと、第2外樹脂層13Bとに別れている。第1外樹脂層13AはPEで、第2外樹脂層13BはPETでできている。アルミニウム層11、樹脂層12、第1外樹脂層13A、第2外樹脂層13Bの厚さはそれぞれ9μm、30μm、13μm、25μmである。
上述した複合樹脂フィルム1に、本願の第1過程に相当する処理を行った。
具体的には、複合樹脂フィルム1の全体にまんべんなく、複合樹脂フィルム1を貫通する多数の孔を穿った。孔は円形であり、その直径は3.5mmであり、縦方向と横方向の孔の間隔は、孔の中心間を測定した場合にいずれも8mmとなるようにした。
試験に用いた複合樹脂フィルム1の大きさは、縦3500mm、横380mmの矩形とした。そのような長尺の複合樹脂フィルム1を横を幅方向としてロール状に巻いた状態で実験を行った。そのようなロール状の複合樹脂フィルム1を9つ準備し、水酸化ナトリウムの濃度と温度(後述するように、この実施形態で説明した予熱過程に相当する処理を実行することにより、温度を変化させる場合もある。)がそれぞれ異なる幾つかの水酸化ナトリウム水溶液に水没させ、基本的に3時間(180分)ごとに、複合樹脂フィルム1におけるアルミニウム層11が何%溶解済みかを観察した。
【0029】
試験結果を、表1として図6に示した。
試験は、表1の試験Noの欄に1から9の数字があるように、試験1から試験9の9種類行った。
「水酸化ナトリウムの濃度」の欄に記載されているのは、各試験で用いられれた水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度である。水酸化ナトリウム水溶液は、水に水酸化ナトリウムを溶解させて作成した。
「温度」の欄に記載されているのは、本願における第3過程が実施されているときの温度である。試験1から9のいずれの場合においても、第3過程が実施されているときの温度は一定とした。
試験2から試験5と試験9では、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に水没させて以降継続して、水酸化ナトリウム水溶液の温度を各欄に記載されている温度に保った。これは本願でいえば、第2過程と第3過程とが実施されているときの水酸化ナトリウム水溶液の温度が継続して一定であるということを意味する。
試験1と試験6から8では、複合樹脂フィルム1が水酸化ナトリウム水溶液に水没させられた時点での水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃であり、その後矢印の右側に記載された温度(例えば試験1の場合であれば40℃)まで、水酸化ナトリウム水溶液の温度を上昇させた。これは本願で言えば、第2過程が実施されるとき(つまり、複合樹脂フィルム1が投入されるとき)の水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃であり、第3過程での水酸化ナトリウム水溶液の温度が矢印の右側に記載された温度であるということを意味している。また、17℃から矢印の右側に記載された温度にまで水酸化ナトリウム水溶液の温度が上昇していく時間帯が、本願で言う予熱過程であるということとなる。今回の実験では、1分間に1℃ずつ水酸化ナトリウム水溶液の温度を上昇させた。したがって、それぞれの試験において17℃から矢印の右側に記載された温度まで上昇させるのに要した時間は、矢印の両側にある数字の差分(分)である。
また、「試験開始後のアルミニウムの溶解率」は、水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルム1が投入された時点を試験開始時間とした場合における、180分(3時間)経過後、360分(6時間)経過後、540分(9時間)経過後、720分(12時間)経過後、900分(15時間)経過後、1800分(30時間)経過後の、アルミニウムの溶解率を示している。観察は目視で行った。
なお、同欄において、「×」の印が記載されているのは、「観察を中止した」ことを意味している。試験2、試験3、試験6では、溶解率が100%に達して(つまり、アルミニウムが100%溶解して)それ以上観察する必要がなくなったため観察を中止した。試験9では、水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルム1を投入した直後から極端に多い水素の発生が見られたため、1分程度で試験自体を中止した。ただし、試験を中止する前の1分程度の観察によれば、アルミニウムは6時間以内に概ねすべて溶解すると思われた。
また、同欄において「-」が示されているのは「実験を中止してはいないが、そのタイミングでのアルミニウムの溶解率の観察を行わなかった」ことを意味している。
【0030】
<試験結果についての考察>
全体的な傾向として、以下のことがわかった。
まず、試験2から試験5に着目する。
試験2から試験5では、水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルム1が投入された時点から試験を行っている間中継続して、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃であるが、各試験において、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度が10%から40%とそれぞれ異なる。
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度が10%である試験2よりも、濃度が20%である試験3の方が反応速度が早く、短時間でアルミニウムの溶解率が100%に到達している。しかしながら、濃度が30%である試験例4では反応速度が落ち、濃度が40%である試験例5では反応速度が更に落ちて、1800分経過後においてもアルミニウムの溶解率が100%に到達することがなかった。これは、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が高ければ高い程アルミニウムの溶解する反応速度が速くなるとは限らないということを示している。
次に、試験1と試験6から8に着目する。
試験1と試験6から試験8では、17℃から始まる予熱過程から始まってその後水酸化ナトリウム水溶液の温度が40度に保たれる点では共通するが、各試験において、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度が5%から40%とそれぞれ異なる。
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度が5%である試験1のときには、水酸化ナトリウム水溶液の温度を17℃から40℃まで上げたとしても、反応速度が遅く、1800分が経過してもアルミニウムの溶解率が100%に到達していない。これに対して、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの濃度が20%である試験6のときには極めて短時間(360分)でアルミニウムの溶解率が100%に到達している。また、濃度が30%である試験7では試験6のときよりも反応速度が落ち、濃度が40%である試験8では反応速度が更に落ちて、1800分経過後においてもアルミニウムの溶解率が100%に到達することがなかった。これらは、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が高ければ高い程アルミニウムの溶解する反応速度が速くなるとは限らないということを示している。
また、本願で言う第2過程での水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃である試験3から5と、本願でいう第2過程での水酸化ナトリウム水溶液の温度が40℃である試験6から8とのうちの水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が同じもの同士を比較すると、試験3と試験6では水酸化ナトリウム水溶液の温度の高い後者の方が反応速度が速い。しかしながら、試験4と試験7、試験5と試験8とを比較すると、試験8は途中までは試験5よりも反応速度が速いという例外があるものの、最終的には、水酸化ナトリウム水溶液の温度の高い後者の方が反応速度が遅くなっている。これらは、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの温度が高ければ高い程アルミニウムの溶解する反応速度が速くなるとは限らないということを示している。
最後に、試験9である。
試験9については既に述べた通り事実上試験ができなかった。試験9と、試験を行ったなかでは最も反応速度が速かった試験6とは、水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度という点では一致し、また、第3過程での水酸化ナトリウム水溶液の温度も40℃と一致するものの、40℃の水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルム1を投入した試験9は水素の発生が多すぎて、長時間試験を続けることができなかった。
【0031】
以上のように、単純に水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度を上げたり、単純に水酸化ナトリウム水溶液の温度を上げたりしたとしても、アルミニウムの溶解或いは分解に関する反応の反応速度が速くなるとは限らない、ということがわかった。
それを踏まえて、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度C[%]、及び水酸化ナトリウム水溶液の温度T[K]を変数として、水酸化ナトリウム水溶液に複合樹脂フィルム1を水没させたときにおける反応速度を一般式として求めることとした。
そして、求めた反応速度から、アルミニウムが概ねすべて(98%)溶解するために要する時間が8時間以下になる濃度C[%]及び温度T[K]の関係と、アルミニウムが概ねすべて溶解するために要する時間が6時間以下になる濃度C[%]及び温度T[K]の関係とを求めることにした。
【0032】
水酸化ナトリウム水溶液中でアルミニウムが溶解していくときの反応は、上述の化学式(1)や(2)である。これらの化学反応の解析を容易にするため、これらの反応が一次反応(つまり、アルミニウムの減少が一次反応速度式に従うとする)であると仮定する。
その仮定の下、以下のとおり定義する。
試験開始時のアルミニウムの重量:Ao [kg]
試験開始後 t [分]後のアルミニウムの重量:A(t) [kg]
反応速度定数:k1 [min-1]
アルミニウムが溶解する反応が一次反応速度式に従うとの仮定から、以下の(数式1)が成り立つ。
-d[A]/dt = k1 [A] ……(数式1)
(数式1)から以下の(数式2)が得られる。
ln [A(t)/Ao] = -k1 t ……(数式2)
(数式2)は、試験開始からt分経過すると、アルミニウムが減少し、その量は時間が経つほど減り、また、反応速度定数k1が大きいほど、アルミニウムの減少量が大きいことを意味している。一般的には、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が高い場合や反応温度が高い場合に、反応速度定数が大きく、アルミニウムが溶解する速度が大きくなる。
【0033】
次に、(数式2)と試験結果のデータとからアルミニウムが溶解していく反応の反応速度を算出する。
水酸化ナトリウム水溶液の濃度が20%、反応温度17℃のとき、つまり、試験3のときにアルミニウムの量は図7に示した表2のように変化した。
次いで、ln(A(t)/Ao) = - k1 tという(数式2)を使って水酸化ナトリウム水溶液の濃度が20%、反応温度17℃のときの反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])を反応時間tでプロットすると図8に示したグラフ1における、「17℃、20%」の直線が得られた。
同様にして、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が10%であり、反応温度17℃のとき(試験2)について反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])を求め、反応時間tでプロットするとグラフ1における、「17℃、10%」の直線が得られた。
更に、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が30%と40%であり、反応温度17℃のとき(試験4、5)について反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])をそれぞれ求め、反応時間tでプロットするとグラフ1における、「17℃、30%」、「17℃、40%」の直線が得られた。
プロットした複数の点は、周知の演算手法である最小二乗法を用いてガウス分布曲線(k=P0+P1×Exp[-((C-P2)/P3)2] (kは反応速度定数、Cは濃度))で近似すると、最も近似誤差が少ないパラメータP0, P1, P2, P3が得られた。
これにて、水酸化ナトリウム水溶液の反応温度が17℃のグループである試験2から試験5までのすべてについて、反応時間tで反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])をプロットする作業を終えた。
【0034】
次に、水酸化ナトリウム水溶液の反応温度が40℃のグループ、つまり、試験1、試験6から試験8の組についても同様に、反応時間tで反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])をプロットする作業を行った。
ただし、試験1と試験6から試験8では、正確にいうと反応温度が継続して40℃であったわけではなく、試験開始時は17℃であった水酸化ナトリウム水溶液の温度を23分かけて40℃まで上げるという予熱過程を実行しているものの、予熱過程の実行時間が最高到達温度に影響されることに鑑みて、反応温度は代表温度条件40℃とし反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])を求め、反応時間tで反応割合の自然対数(自然対数ln [A(t)/Ao])をプロットする作業を行った。
その結果、図9に示したグラフ2を得た。
グラフ2において「40℃、5%」と注記されているのが試験1の直線、「40℃、20%」と注記されているのが試験6についての直線、「40℃、30%」と注記されているのが試験7についての直線である。
また、試験8からは2つの直線を作成した。試験8では、試験開始から180分までの時間帯においては急速にアルミニウムの溶解が進んでいるが、180分を経過すると、アルミニウムの溶解が殆ど止まった状態となっている。つまり、試験8では、アルミニウムの溶解が進む状態と、沈殿したAl(OH)によってアルミニウムの溶解が強く阻害されている状態とが現れている。そこで、試験8からは、前者についての直線と、後者についての直線の2種類を作成した。「40℃、40%A」と注記されている実線が前者の直線であり、「40℃、40%B」と注記されている破線が後者の直線である。
にグラフ1、グラフ2についてまとめる。グラフ1で示された反応温度が17℃のグループ1でも、グラフ2で示された反応温度が40℃のグループ2でも、反応時間の経過に伴ってアルミニウムの重量が減少し対数の値は小さくなる。
グラフ1の場合には、水溶液の濃度が10%の場合よりも、20%の場合の方が減少速度が大きい。しかし、濃度が30%になると生成するアルミン酸ナトリウム類(代表的なものがAl(OH)である。)が固形物として析出するため、水酸化ナトリウム水溶液とアルミニウムの接触が困難になり、反応速度が低下することがわかる。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が40%の場合さらに著しい反応速度の低下が観察された。
グラフ2の場合には、水溶液の濃度が5%の場合よりも、20%の場合の方が減少速度が大きい。しかし、濃度が30%になると水酸化ナトリウム水溶液の流動性が悪化しアルミニウムの接触が困難になり、反応速度が低下することがわかった。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が40%の場合、反応初期はアルミニウムの溶解速度は速いが、流動性が悪いため、水酸化ナトリウムの接触が滞り、途中から著しい反応速度の低下が観察された。
【0035】
上述の数式2を再度引用する。
ln [A(t)/Ao] = -k1 t ……(数式2)
この数式から明らかなように、反応速度定数(k1)はグラフ1、グラフ2に示された各直線の傾きであることがわかる。
グラフ1、グラフ2中にそれぞれ複数示された各直線の傾きである、各試験における反応速度定数を、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度ごとに各試験における反応温度と紐づけて図10に示した表3に記載した。
表3において、17℃(290K)における水酸化ナトリウムの濃度が10%、20%、30%、40%の欄に記載された数字はそれぞれ、グラフ1において「17℃、10%」、「17℃、20%」、「17℃、30%」、「17℃、40%」と注記された各直線の傾き(正確にいうとそれに-1を掛けたもの)である。なお、表3において17℃(290K)における水酸化ナトリウムの濃度が5%のときの下線が付された値は、流動性が問題とならない濃度領域であれば、濃度が半分であれば反応速度もほぼ半分との推定を基に、「17℃、10%」の傾きの値を1/2して求めた推定値である。
表3において、40℃(313K)における水酸化ナトリウムの濃度が5%、20%、30%、40%の欄に記載された数字はそれぞれ、グラフ2において「40℃、5%」、「40℃、20%」、「40℃、30%」、「40℃、40%B」と注記された各直線の傾き(正確にいうとそれに-1を掛けたもの)である。なお、表3において40℃(313K)における水酸化ナトリウムの濃度が10%のときの下線の付された値は、実測データがないため、「40℃、5%」の傾きの値と「40℃、20%」の傾きの値との平均を求めることによって決定1/2した推定値である。
以上のようにして、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃のときと40℃のときの反応速度定数を、様々な水酸化ナトリウム水溶液の濃度について求めた。
【0036】
次いで、横軸に水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度C(%)を、縦軸に反応速度定数k(10/min)を取り、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃の場合と40℃の場合とをそれぞれプロットした。
そして、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃の5つの点をそれぞれガウス分布曲線で結ぶカーブフィットを行った。その結果、図11に示したグラフ3を得た。
17℃と注記されているグラフが、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃のときにおける、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウム水溶液の濃度C(%)と、反応速度定数との関係を示す曲線である。
40℃と注記されているグラフが、水酸化ナトリウム水溶液の温度が40℃のときにおける、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウム水溶液の濃度C(%)と、反応速度定数との関係を示す曲線である。
【0037】
次いで、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度C(%)を変数とした場合における、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃、つまり290Kのときの反応速度定数k290 (C)を求めた。
反応速度定数k290 (C)の濃度依存性を示す曲線は下記ガウス関数(数式3)で近似した。
k290 (C) = P0 + P1×Exp[-((C - P2)/P3)2]…… (数式3)
ここで、Cは水酸化ナトリウム水溶液濃度5~40wt%である。
グラフ3における17℃と注記されているグラフから求められた数式3におけるP0からP3のパラメータは、P0 =0.00157、 P1 =0.00554 , P2 = 18.4, P3 = 8.41であった。
これらパラメータを数式3に代入して整理すると、k290 (C)は以下の(数式4)となる。
k290 = 0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]……(数式4)
さらに、実験をしていない他の温度条件での反応速度を推定するために、水酸化ナトリウム水溶液濃度がC[wt%]のときにおける温度17℃(290 K)のときの反応速度定数(k290 (C))と、40℃(313 K)のときの反応速度定数(k313 (C))との比(Ratio313(C))の近似曲線の式(数式5)を求めた。
Ratio313(C) = K313(C)/K290(C)
= (0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])……(数式5)
この(数式5)を変形すると、水酸化ナトリウム水溶液濃度がC[wt%]の場合における温度40℃(313 K)のときの反応速度定数(k313 (C))は以下の(数式6)のようになる。
K313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×K290(C) ……(数式6)
【0038】
次に、上述のようにしてそれぞれ求めた、水酸化ナトリウム水溶液の温度17℃(290 K)における反応速度定数k290(C)と、温度40℃(313 K)における反応速度定数k313(C)とを用いて、任意の反応温度T(k)、任意の水酸化ナトリウム濃度C(%)のときにおける、アルミニウムの溶解反応についての反応速度定数k(C,T)を算出する式である(数式7)を得た。
k(C,T) = k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23……(数式7)
ただし、k290(C)とk313(C)は、(数式4)と(数式6)で示した通り、以下のようになる。
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
これにて、任意の反応温度T(k)、任意の水酸化ナトリウム濃度C(%)のときの反応速度定数k(C,T)についての一般式を得ることができた。
【0039】
(数式7)による上述の一般式を用いて、水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、及び50℃の場合における、水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度C(%)と反応速度定数との関係(両者の関係を示す曲線を以下、「反応曲線」と称することにする。)を、図12に示したグラフ4に示した。
【0040】
その一方で、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが概ねすべて、つまり98%溶解するまでの時間が8時間となる場合と6時間となる場合の反応速度定数を求めることとした。その時間が8時間であれば、例えば作業員が10時間の勤務時間のうちの8時間でアルミニウムの除去方法を実施できるし、その時間が8時間であれば、例えば作業員が8時間の勤務時間のうちの6時間でアルミニウムの除去方法を実施できるといった面で、アルミニウムの除去方法が実用的なものとなる。
複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間となる場合の反応速度定数は(数式2)に基づいて求めることができる。(数式2)は以下のようなものであった。
ln [A(t)/Ao] = -k1 t ……(数式2)
これに、上述の条件を代入する。
ln[(100-98)/100] = - k ×8×60
-3.91 = - k ×8×60
k = 0.00815 min-1
同様に、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が6時間となる場合の反応速度定数は以下のようにして求めることができる。
ln[(100-98)/100] = - k ×6×60
-3.91 = - k ×6×60
k = 0.0100 min-1
この2つの値を、図12に示したグラフ4に8h、6hの符号を付して書き込む。
【0041】
グラフ4から以下のことがわかる。
反応温度、つまり第2過程における水酸化ナトリウム水溶液の温度が17℃と20℃の場合の反応曲線は、直線8hの上側には存在しない。これは、反応温度が17℃と20℃(或いはその中間の温度)の場合には、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度がどのような値であっても、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間を下回る実用的な時間範囲となることがない、ということを示している。
【0042】
他方、反応温度が25℃から50℃までの反応曲線はいずれも、直線8hの上側に位置する部分を持つ。したがって、これら反応曲線によれば、25℃から50℃までの反応曲線のうち、水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度がある範囲であれば、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間を下回る実用的な時間範囲となる場合が存在することがわかる。ここで、50℃の反応曲線が直線8hと交わるときの低濃度側の水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が9.72%、高濃度側の濃度が23.9%である。したがって、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度を9.72%から23.9%とし、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃(一定である必要はない。)とすることで、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間を下回るようにすることができることがわかる。
また、上述したように、反応温度が25℃から50℃までの反応曲線はいずれも、直線8hの上側に位置する部分を持つ。そして、25℃の反応曲線が直線8hと交わるときの低濃度側の水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が13.0%、高濃度側の濃度が22.0%である。そして、その濃度範囲内であれば、25℃以上のすべての反応曲線の全長が、8hよりも上に位置することになる。したがって、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度を13.0%から22.0%とし、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液の温度を25℃から50℃(一定である必要はない)とすることで、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間を下回るようにすることができることがわかる。
【0043】
更に、反応温度が30℃から50℃までの反応曲線はいずれも、直線6hの上側に位置する部分を持つ。そして、30℃の反応曲線が直線6hと交わるときの低濃度側の水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が14.1%、高濃度側の濃度が20.5%である。そして、その濃度範囲内であれば、30℃以上のすべての反応曲線の全長が、6hよりも上に位置することになる。したがって、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度を14.1%から20.5%とし、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液の温度を30℃から50℃(一定である必要はない)とすることで、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が6時間を下回るようにすることができることがわかる。
また、反応温度が35℃から50℃までの反応曲線はいずれも、直線6hの上側に位置する部分を持つ。そして、35℃の反応曲線が直線6hと交わるときの低濃度側の水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度が13.0%、高濃度側の濃度が21.5%である。そして、その濃度範囲内であれば、35℃以上のすべての反応曲線の全長が、6hよりも上に位置することになる。したがって、水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度を13.0%から21.5%とし、第3過程における水酸化ナトリウム水溶液の温度を35℃から50℃(一定である必要はない)とすることで、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が6時間を下回るようにすることができることがわかる。
【0044】
上述したように、任意の反応温度T(k)、任意の水酸化ナトリウム濃度C(%)のときにおけるアルミニウムの溶解速度についての反応速度定数k(C,T)は、(数式7)で表すことができる。
反応温度が一定であると仮定するのであれば、k(C,T)が0.00815以上であれば複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間以下となり、k(C,T)が0.0100以上であれば複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間以下となる。
つまり、濃度C(%)と一定の温度T(K)とが、
k(C,T) ≧0.00815 min-1
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.00815 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
の条件を充足すれば、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が8時間以下となる。
また、濃度C(%)と一定の温度T(K)とが、
k(C,T) ≧0.0100 min-1
k290(C)+[k313(C)-k290(C)]×(T-290)/23≧0.0100 min-1
ただし、
k290(C)=0.00157+0.00554×Exp[-0.0141×(C-18.4)2]
k313(C)=(0.302+2.02×Exp[-0.00881×(C-15.2) 2])×k290(C)
の条件を充足すれば、複合樹脂フィルム1を水酸化ナトリウム水溶液に投入してからアルミニウム層11におけるアルミニウムが98%溶解するまでの時間が6時間以下となる。
【符号の説明】
【0045】
1 複合樹脂フィルム
5 水酸化ナトリウム水溶液
6 水槽
11 アルミニウム層
12 樹脂層
13 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12