(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024368
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】回転機の固定子
(51)【国際特許分類】
H02K 55/00 20060101AFI20250213BHJP
【FI】
H02K55/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128417
(22)【出願日】2023-08-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2023年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「航空機用先進システム実用化プロジェクト/次世代電動推進システム研究開発/高効率かつ高出力電動推進システム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩熊 成卓
(72)【発明者】
【氏名】川越 明史
(72)【発明者】
【氏名】川合 泰敬
(72)【発明者】
【氏名】池田 千夏
(72)【発明者】
【氏名】大伯 光雄
(72)【発明者】
【氏名】今野 雅行
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 昂輝
(57)【要約】
【課題】大電流容量化と、低交流損失化との両方を実現可能とすること。
【解決手段】回転機の固定子(10)は、複数の巻枠(20)と、巻枠に配設された薄膜超電導線(51)により構成されるコイル部(40)とを備えている。巻枠は、周方向に延出する枠本体(21)と、枠本体の内周側にて周方向に所定間隔に形成された複数の内側スロット(23)と、枠本体の外周側にて周方向に所定間隔に形成され、内側スロットと周方向に隣り合う複数の外側スロット(24)とを備えている。コイル部は、内側スロット及び外側スロットの内部に、複数の前記薄膜超電導線を積層した積層導体(50)を挿入し、積層方向を周方向に向けた状態で巻回される。周方向に隣り合う内側スロット内の積層導体と外側スロット内の積層導体とは、軸方向から見て周方向の向きが反転した配置状態とされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に等間隔に配置された複数の巻枠と、
前記巻枠に配設された薄膜超電導線により構成されるコイル部とを備えた回転機の固定子であって、
前記薄膜超電導線は、長手方向に延出する帯状の基部と、
前記基部に積層される超電導部をフィラメント化して形成された複数の超電導層とを備え、
前記巻枠は、周方向に延出する枠本体と、
前記枠本体の内周側にて周方向に所定間隔に形成された複数の内側スロットと、
前記枠本体の外周側にて周方向に所定間隔に形成され、前記内側スロットと周方向に隣り合う複数の外側スロットとを備え、
前記コイル部は、前記内側スロット及び前記外側スロットの内部に、複数の前記薄膜超電導線を積層した積層導体を挿入し、該積層導体における前記内側スロット及び前記外側スロットに挿入した範囲での積層方向を周方向に向けた状態で巻回され、
周方向に隣り合う前記内側スロット内の前記積層導体と、前記外側スロット内の前記積層導体とは、軸方向から見て周方向の向きが反転した配置状態とされることを特徴とする回転機の固定子。
【請求項2】
前記コイル部は、複数の前記内側スロットに前記積層導体を挿入して巻回した内側巻回部と、
複数の前記外側スロットに前記積層導体を挿入して巻回した外側巻回部とを備え、前記内側巻回部と前記外側巻回部とを繋ぐ前記積層導体にて前記配置状態が調整されることを特徴とする請求項1に記載の回転機の固定子。
【請求項3】
前記積層導体は、前記内側巻回部と前記外側巻回部とを繋ぐ範囲にて、延出方向回りに180°回転されることを特徴とする請求項2に記載の回転機の固定子。
【請求項4】
前記枠本体は、周方向中央部に形成される段差形成部と、
前記段差形成部から周方向一方側に形成される第1形成部と、
前記段差形成部から周方向他方側に形成され、径方向にて前記第1形成部より内方に形成される第2形成部とを備え、
複数の前記巻枠それぞれにおいて、前記第1形成部が周方向一方側の隣の前記巻枠の前記第2形成部の径方向外側に重なることで、異なる前記コイル部が径方向に重なることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の回転機の固定子。
【請求項5】
前記薄膜超電導線は、ビスマス系又はレアアース系の超電導線材を用いていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の回転機の固定子。
【請求項6】
前記内側スロット及び前記外側スロットの内部に挿入される前記積層導体は、径方向に複数並んで設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の回転機の固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の固定子に関し、特に、超電導を用いた回転機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、各相に対応した超電導コイルがステータの内周に沿って配置された超電導モータを開示している。超電導コイルは、テープ状の超電導線材がらせん状に巻かれて形成される。超電導コイルには、通常の銅線等からなるコイルと比較してはるかに大きな電流を流すことができ、コイルの巻き数が少ない場合であっても、大きな磁束密度を発生可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、コイルに用いた超電導線材に磁場が加わると、かかる磁場を遮蔽する遮蔽電流が誘導され、遮蔽電流によって交流損失が大きくなる、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、大電流容量化と、低交流損失化との両方を実現することができる回転機の固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様の回転機の固定子は、周方向に等間隔に配置された複数の巻枠と、前記巻枠に配設された薄膜超電導線により構成されるコイル部とを備えた回転機の固定子であって、前記薄膜超電導線は、長手方向に延出する帯状の基部と、前記基部に積層される超電導部をフィラメント化して形成された複数の超電導層とを備え、前記巻枠は、周方向に延出する枠本体と、前記枠本体の内周側にて周方向に所定間隔に形成された複数の内側スロットと、前記枠本体の外周側にて周方向に所定間隔に形成され、前記内側スロットと周方向に隣り合う複数の外側スロットとを備え、前記コイル部は、前記内側スロット及び前記外側スロットの内部に、複数の前記薄膜超電導線を積層した積層導体を挿入し、該積層導体における前記内側スロット及び前記外側スロットに挿入した範囲での積層方向を周方向に向けた状態で巻回され、周方向に隣り合う前記内側スロット内の前記積層導体と、前記外側スロット内の前記積層導体とは、軸方向から見て周方向の向きが反転した配置状態とされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薄膜超電導線を複数積層した積層導体によりコイル部が構成されるので、常電動機に用いられるコイルに比べ、単位体積当たりの電流容量を増大することができる。更に、内側スロット内の積層導体と外側スロット内の積層導体とが周方向にて反転した配置状態としている。これにより、内側スロット内の積層導体に発生する鎖交磁束と、外側スロット内の積層導体に発生する鎖交磁束とが反対方向となって打ち消し合い、遮蔽電流の発生を低減して単位体積当たりの交流損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る回転機の固定子における軸方向に垂直な断面図である。
【
図2】巻枠及びコイル部を示す
図1の部分拡大図である。
【
図5】積層導体に外部磁界が径方向に印加する場合の説明図である。
【
図6】積層導体に外部磁界が周方向に印加する場合の説明図である。
【
図7】各コイル部の合成後における磁界の位相及び極性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る回転機の固定子について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。
【0010】
なお、本明細書及び特許請求の範囲にて、「内側」、「内周側」、「外側」、「外周側」、「周方向」、「軸方向」、「径方向」という場合は、特に断らない限り、回転機の固定子の「内側」、「内周側」、「外側」、「外周側」、「周方向」、「軸方向」、「径方向」をいうものとする。
【0011】
図1は、実施の形態に係る回転機の固定子における軸方向に垂直な断面図である。固定子10は、
図1に示すように、周方向に等間隔に配置される6体の巻枠20と、6体の巻枠20それぞれに配設されるコイル部40とを備えている。よって、固定子10は、6体のコイル部40を備えている。固定子10においては、1体の巻枠20と1体のコイル部40とによって電機子コイルが構成される。
【0012】
固定子10は、円筒状に設けられ、ステータとして図示省略した回転機を構成している。回転機において、固定子10の内部に回転中心位置が軸方向に平行なロータ(図示省略)が回転可能に設けられる。
【0013】
6体の巻枠20は、同一構成とされ、後述のように極数を2極とすべく周方向に60°間隔毎に設けられる。
図2は、巻枠及びコイル部を示す
図1の部分拡大図である。巻枠20は、周方向に延出する枠本体21と、枠本体21の内周側にて周方向に所定間隔に形成された複数の内側スロット23と、枠本体21の外周側にて周方向に所定間隔に形成された複数の外側スロット24とを備えている。
【0014】
枠本体21は、周方向中央部に形成される段差形成部26と、段差形成部26から周方向一方側(
図2中左側)に形成される第1形成部27と、段差形成部26から周方向他方側(
図2中右側)に形成される第2形成部28とを備えている。
【0015】
枠本体21は、軸方向から見て、段差形成部26周りでクランク状に屈曲した形状に形成され、径方向にて第2形成部28が第1形成部27より内方に形成されるようになる。各形成部27、28は、周方向に円弧状に湾曲し、約30°の角度範囲に形成される。径方向にて、外方に位置する第2形成部28に比べて内方に位置する第1形成部27の方が小さい径寸法に形成される。
【0016】
内側スロット23は、各形成部27、28の内周面を開口するように形成され、該開口を通じてコイル部40が挿入される。本実施の形態では、各形成部27、28にて、内側スロット23の形成数が12ずつとされ、周方向に等間隔で形成される。なお、かかる形成数は特に限定されるものでなく、複数であれば適宜増減してもよい。
【0017】
外側スロット24は、各形成部27、28の外周面を開口するように形成され、該開口を通じてコイル部40が挿入される。各形成部27、28にて、外側スロット24の形成数が本実施の形態では12ずつとされ、周方向にて内側スロット23における段差形成部26側に隣り合うよう周方向に等間隔で形成される。
【0018】
図3は、巻枠及びコイル部の斜視図である。
図3に示すように、1体の巻枠20に対し、1本の積層導体50を螺旋状に巻回してコイル部40が構成される。ここで、
図4を参照して、積層導体50の構成について説明する。
【0019】
図4Aは、積層導体の分解断面図であり、
図4Bは、積層体の断面図である。
図4A及び
図4Bに示すように、積層導体50は、6本(複数)の薄膜超電導線51を厚さ方向に積層して導体化される。よって、積層導体50を巻回して構成されるコイル部40は、複数積層された薄膜超電導線51により構成される。積層された薄膜超電導線51同士においては絶縁する処理が施されている。
【0020】
図4Dは、薄膜超電導線を模式的に示す斜視図である。
図4A及び
図4Bに加え、
図4Dに示すように、薄膜超電導線51は、長手方向に延出する帯状の基部53の厚さ方向一方の面に、絶縁層54、超電導層55が積層して形成されている。基部53の厚さは約0.1mmであるのに対し絶縁層54、超電導層55における厚さは、数十μm以下であり、極めて薄くなっている。超電導層55における絶縁層54と反対側の面には金属層(不図示)が適宜積層される。基部53の幅は、2mm~10mm程度であるため、薄膜超電導線51は、厚さ方向に曲げることは容易ではあるが、幅方向に曲げることは容易ではない。
【0021】
薄膜超電導線51は、基部53の厚さ方向一方の面全体に、絶縁層54及び超電導層55を超伝導部として積層した後、該超電導部に対して長手方向に沿って3本の溝57を形成することにより、4本(複数)の超電導層55がフィラメント化して形成される。
【0022】
薄膜超電導線51としては、ビスマス系又はレアアース系の超電導線材が好ましく例示される。ビスマス系の超電導線材としては、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比(モル比)が2:2:2:3程度のBi-2223相を主相とするBi-2223線材が好ましく例示される。Bi-2223線材は、110K程度の高い臨界温度を有し、臨界電流値は、コイル状でない場合は、銅線と比較して77Kで100倍、20Kで200~300倍に達し、コイル状とした場合であっても、前記の半分程度の非常に大きな臨界電流値が得られる。
【0023】
レアアース系の超電導線材は、Re(レアアース)-Ba-Cu-Oで構成される高温超電導線材(REBCO線材)であり、レアアースとしてはホルミウムが例示される。レアアース系の超電導線材は、ビスマス系の超電導線材よりもさらに大きな電流密度を達成できるものであり、又耐磁場特性が良好との特徴も有する。
【0024】
図4Cは、
図4Bの積層導体の簡略図である。積層導体50の長手方向に垂直な断面を表すにあたり、
図4Bのように積層された状態を
図4Cのように簡略化して図示する場合がある(
図2参照)。
図4Cの積層導体50にて、同図中上下方向が薄膜超電導線51の積層方向となり、該積層方向の向きを表すため、積層された薄膜超電導線51における基部53が位置する方に図中網点を施した矩形状の基部位置50aを示す。
【0025】
図2に示すように、コイル部40は、巻枠20の内周側にて各内側スロット23に積層導体50を挿入して形成される内側巻回部40aと、巻枠20の外周側にて各外側スロット24に積層導体50を挿入して形成される外側巻回部40bとを備えている。
【0026】
なお、
図3に示すように、コイル部40の内側巻回部40aは、レーストラック状の外形に形成されつつ、積層導体50が螺旋状に巻回されるパンケーキ状に形成される。内側巻回部40aにて、巻枠20の各内側スロット23に積層導体50が挿入される範囲は、軸方向と平行な直線状に形成され、巻枠20の軸方向両側からはみ出る部分は概略半円弧状に湾曲して形成される。
【0027】
外側巻回部40bは、
図3では内側巻回部40aの裏側に配置され、内側巻回部40aと同様に形成される。外側巻回部40bにて、巻枠20の各外側スロット24(
図3では不図示、
図2参照)に積層導体50が挿入される範囲は、軸方向と平行な直線状に形成され、巻枠20の軸方向両側からはみ出る部分は概略半円弧状に湾曲して形成される。内側巻回部40a及び外側巻回部40bを含むコイル部40は、分布巻構造とされる。なお、内側巻回部40a及び外側巻回部40bにおける「軸方向と平行な直線状に形成」にあっては、スキューや加工精度、公差、尤度等によって軸方向に対して若干傾いたり湾曲したりする場合も含む意味である。
【0028】
図2に戻り、コイル部40における積層導体50の巻回方法について、以下に一例を挙げて説明する。ここでは、先ず、コイル部40の内側巻回部40aを形成すべく積層導体50を巻回する。かかる積層導体50の巻回にて第1回目の1周分の巻回が、第1形成部27の先端(
図2中左端)から段差形成部26に向かって1番目(
図2にて最も左側)の内側スロット23に積層導体50を挿入することから開始される。かかる内側スロット23の内部に挿入された積層導体50は、積層方向が周方向に向けられた状態となり、また、積層導体50の基部位置50aが周方向にて段差形成部26側に配置される。よって、第1形成部27の内側スロット23に挿入された範囲での積層導体50において、各薄膜超電導線51の基部53は、周方向にて段差形成部26側に配置される。
【0029】
上述のように第1形成部27の内側スロット23に挿入された積層導体50は、枠本体21の軸方向の両端からはみ出る位置にて湾曲させることで第2形成部28側に向けられる(
図3参照)。そして、第2形成部28の先端(
図2中右端)から段差形成部26に向かって1番目(
図2にて最も右側)の内側スロット23に積層導体50が挿入される。かかる内側スロット23の内部に挿入された範囲での積層導体50においても、積層方向が周方向に向けられた状態となり、且つ、積層導体50の基部位置50aが周方向にて段差形成部26側に配置される。
【0030】
このように第2形成部28の内側スロット23に挿入された積層導体50は、枠本体21の軸方向の両端からはみ出る位置にて湾曲させることで第1形成部27側に向けられる(
図3参照)。これにより、螺旋状に巻回される積層導体50の第1回目の1周分の巻回が完了され、引き続き、第2回目以降の1周分の巻回が繰り返し行われる。
【0031】
第2回目以降の1周分の巻回は、前回の巻回に対し、積層導体50を挿入する内側スロット23が段差形成部26側に1つ隣の内側スロット23に変更され、その他については上記と同様の要領で行われる。そして、本実施の形態では、第1形成部27及び第2形成部28にて、内側スロット23の形成数を12ずつとしたので、内側巻回部40aの形成においては第12回目の1周分の巻回が最終となる。かかる最終の巻回によって、第2形成部28における段差形成部26に最も近い(
図2にて最も左側の)内側スロット23に積層導体50が挿入され、かかる積層導体50の基部位置50aも周方向にて段差形成部26側に配置される。よって、内側巻回部40aの形成にて、全ての内側スロット23に挿入される積層導体50の各薄膜超電導線51における基部53は、周方向にて段差形成部26側に配置される。
【0032】
内側巻回部40aを形成する巻回を行った後の積層導体50は、連続して枠本体21の内側から外側に引き回されて外側巻回部40bを形成すべく巻回される。外側巻回部40bの形成にて、積層導体50における第1回目の1周分の巻回は、第1形成部27の先端(
図2中左端)から段差形成部26に向かって1番目(
図2にて最も左側)の外側スロット24に積層導体50を挿入することから開始される。かかる外側スロット24の内部に挿入された積層導体50は、積層方向が周方向に向けられた状態となり、且つ、積層導体50の基部位置50aが周方向にて段差形成部26とは反対側に配置される。よって、第1形成部27の外側スロット24に挿入された積層導体50において、各薄膜超電導線51の基部53は、周方向にて段差形成部26とは反対側に配置される。
【0033】
このような配置とするため、内側巻回部40aを形成する巻回の完了後、外側巻回部40bを形成する巻回の開始前に、積層導体50を延出方向回りに反転(180°回転)している(
図2の破線で示す矢印参照)。更に述べると、積層導体50は、第2形成部28における段差形成部26に最も近い内側スロット23に挿入された部分と、第1形成部27の先端における
図2にて最も左側の外側スロット24に挿入された部分との間の範囲R(
図3参照)にて、積層導体50を上記のように反転している。これにより、第1形成部27の
図2にて最も左側で周方向に内側スロット23及び外側スロット24が隣り合っているが、該内側スロット23内の積層導体50と、該外側スロット24内の積層導体50とは、軸方向から見て周方向の向きが反転した配置状態とされる。言い換えると、かかる配置状態は、内側巻回部40aと外側巻回部40bとを繋ぐ積層導体50の範囲Rにて調整されている。
【0034】
以後の外側巻回部40bを形成する巻回は、内側巻回部40aを形成する巻回に対して類似した流れで行われる。具体的に説明すると、上述のように第1形成部27の外側スロット24に挿入された積層導体50は、枠本体21の軸方向の両端からはみ出る位置にて湾曲させることで第2形成部28側に向けられる。そして、第2形成部28の先端(
図2中右端)から段差形成部26に向かって1番目(
図2にて最も右側)の外側スロット24に積層導体50が挿入される。かかる外側スロット24の内部に挿入された範囲での積層導体50においても、積層方向が周方向に向けられた状態となり、且つ、積層導体50の基部位置50aが周方向にて段差形成部26とは反対側に配置される。
【0035】
上述のように第2形成部28の外側スロット24に挿入された積層導体50は、枠本体21の軸方向の両端からはみ出る位置にて湾曲させることで第1形成部27側に向けられる。これにより、螺旋状に巻回される積層導体50の第1回目の1周分の巻回が完了され、引き続き、第2回目以降の1周分の巻回が繰り返し行われる。
【0036】
第2回目以降の1周分の巻回は、前回の巻回に対し、積層導体50を挿入する外側スロット24が段差形成部26側に1つ隣の外側スロット24に変更され、その他については上記と同様の要領で行われる。そして、本実施の形態では、第1形成部27及び第2形成部28にて、外側スロット24の形成数を12ずつとしたので、外側巻回部40bの形成においては第12回目の1周分の巻回が最終となる。かかる最終の巻回によって、第2形成部28における段差形成部26に最も近い(
図2にて最も左側の)外側スロット24に積層導体50が挿入され、かかる積層導体50の基部位置50aも周方向にて段差形成部26と反対側に配置される。
【0037】
よって、外側巻回部40bの形成にて、全ての外側スロット24に挿入される積層導体50の各薄膜超電導線51における基部53は、周方向にて段差形成部26と反対側に配置される。これにより、周方向に隣り合う全ての内側スロット23及び外側スロット24にて、該内側スロット23内の積層導体50と、該外側スロット24内の積層導体50とは、軸方向から見た周方向の向きが反転した配置状態とされる。続いて、かかる配置状態とした構成における作用、効果について、
図5及び
図6を参照して以下に説明する。
【0038】
図5は、積層導体に外部磁界が径方向に印加する場合の説明図である。
図6は、積層導体に外部磁界が周方向に印加する場合の説明図である。コイル部40においては、回転する不図示の回転子の向きに応じ、印加される磁界の向きが変化する。ここでは、コイル部40の積層導体50に対し、
図5の矢印B1で示す径方向に平行な外部磁界が印加された場合と、
図6の矢印B2で示す周方向に平行な外部磁界が印加された場合とについて説明する。
【0039】
図5に示すように、矢印B1で示す径方向に平行な外部磁界が積層導体50に印加される場合、内側スロット23内の積層導体50にて発生する線材(薄膜超電導線51、素線)間の鎖交磁束と、外側スロット24内の積層導体50にて発生する線材間の鎖交磁束とが同図の上下方向にて打ち消し合う。これは、周方向に隣り合う内側スロット23及び外側スロット24は、周方向の向きが反転した配置状態となるため、それぞれに発生する鎖交磁束が反対方向となるからである。
【0040】
図6に示すように、矢印B2で示す周方向に平行な外部磁界が積層導体50に印加される場合、内側スロット23内の積層導体50にて発生する線材内のフィラメント(超電導層55)間の鎖交磁束と、外側スロット24内の積層導体50にて発生する線材内のフィラメント間の鎖交磁束とが同図の左右方向にて打ち消し合う。これも、周方向に隣り合う内側スロット23及び外側スロット24は、周方向の向きが反転した配置状態となるため、それぞれに発生する鎖交磁束が反対方向となるからである。
【0041】
図5及び
図6に示すように、積層導体50に印加される磁界が径方向及び周方向の何れであっても、内側スロット23内の積層導体50と、外側スロット24内の積層導体50とは周方向の向きが反転した配置状態となるため、上述のように鎖交磁束を打ち消し合う。これにより、各積層導体50での遮蔽電流の発生を低減して単位体積当たりの交流損失を低減することができる。
【0042】
図1に戻り、上記のように巻枠20に積層導体50を巻回して形成された各コイル部40は、第1形成部27と第2形成部28とで極性が逆となる。また、本実施の形態の固定子10は三相交流の回転機を構成するので、各コイル部40は、U相、V相、W相に対応して構成される。以下の説明においては、
図1にて約3時から約7時の範囲を形成するコイル部40(
図2にて拡大視したコイル部40)を、第1コイル部41とする。また、その他のコイル部40については、第1コイル部41から周方向における時計回りで順に第2~第6コイル部46とする。
【0043】
第1~第6コイル部41~46における第1形成部27及び第2形成部28での位相(U相、V相、W相)と極性は、
図1及び表1のように設定される。極性は、位相の後に括弧書きする。
【0044】
【0045】
第1~第6コイル部41~46における位相及び極性の一部について、例を挙げて説明すると、第1コイル部41にて巻枠20の第1形成部27に巻回される範囲では、位相がU相となり、極性がマイナス(-)となる。また、第1コイル部41が巻回される第1形成部27は、周方向時計回り(一方側)で隣の巻枠20の第2形成部28に対し径方向外側に重なるように位置する。かかる隣の巻枠20には第2コイル部42が巻回される。第2コイル部42にて巻枠20の第2形成部28に巻回される範囲では、位相がV相となり、極性がマイナス(-)となる。
【0046】
周方向に隣り合う巻枠20の第1形成部27と第2形成部28とが径方向に重なり、異なる二相となる第1コイル部41と第2コイル部42とにおいても径方向に重なるようになる。第1コイル部41及び第2コイル部42に三相交流電流が流れると、第1コイル部41及び第2コイル部42が径方向に重なる範囲にて合成された磁界が発生する。ここで、三相交流回路の各相の電流は、加算すると「ゼロ」になる。これにより、第1コイル部41の位相がU相で極性がマイナスの電流と、第2コイル部42の位相がV相で極性がマイナスの電流とにより、合成された磁界として、位相がW相で極性がプラス(+)の電流に応じた磁界が発生する(表1参照)。
【0047】
図7は、各コイル部の合成後における磁界の位相及び極性の説明図である。上記においては、第1コイル部41と第2コイル部42とが重なる範囲での磁界について説明したが、
図7及び表1に示すように、他の各コイル部41~46においても、同様にして合成された磁界が発生する。これにより、第1~第6コイル部41~46によって極数が2極となる三相交流回転機に必要な回転磁界を発生することができる。
【0048】
以上のように、上記実施の形態によれば、薄膜超電導線51を巻回してコイル部40を構成したので、単位体積当たりの電流容量を増大することができる。しかも、
図5及び
図6で示したように、内側スロット23内及び外側スロット24内の各積層導体50に発生する鎖交磁束が打ち消し合い、遮蔽電流の発生を抑制して単位体積当たりの交流損失を低減可能となる。よって、上記実施の形態の固定子10によって、大電流容量化と、低交流損失化との両方を同時に実現することができる。
【0049】
また、内側スロット23内及び外側スロット24内の各積層導体50に発生する鎖交磁束が打ち消し合うような配置状態とするため、積層導体50における内側巻回部40aと外側巻回部40bとを繋ぐ範囲Rにて延出方向回りに反転する構成としている。これにより、隣り合う内側スロット23内及び外側スロット24内の積層導体50毎に、積層導体50の向きを変えたり、2本の積層導体50を接続したりする作業を不要にすることができる。言い換えると、1体のコイル部40に対して積層導体50を1回反転する簡単な作業を行うことで、
図2に示す積層導体50の配置状態にでき、各コイル部40の制作作業性を向上することができる。
【0050】
ここで、上記実施の形態は薄膜超電導線51が分布巻構造とされるコイル部40としたが、該構造の比較構造として、上記と同様の薄膜超電導線51がレーストラック状の集中巻構造となるコイル部について検討した。かかる検討及び上記実施の形態との比較について、以下に説明する。
【0051】
薄膜超電導線51においては、複雑な巻線形状にすることが困難となるため、比較構造の集中巻構造を採用する場合、ダブルパンケーキ状の巻線形状とすることが考えられる。この巻線形状で固定子を構成すると、巻線ピッチが小さくなり、また異なる相の巻線間距離が大きくなる。例えば、二極機であって一相を二つの巻線で構成した計6個の巻線で構成した場合、巻線ピッチは45°程度になって、巻線係数が小さくなる。これにより、所望の出力を実現すべく起磁力を大きくするためには、ターン数を増加する必要があるが、ターン数の増加は交流損失を増加させてしまう。また、集中巻構造においては、生成される回転磁界に本質的に大きな高調波を含んでしまい、異なる相間に空隙がある場合は、より顕著となる。このことは、リプル率を増加させ、また、回転子に金属部を含む場合は、回転子の渦電流損失も増加させる。回転子が超伝導巻線であった場合も同様に、高調波成分による交流損失が増加してしまう。
【0052】
これに対し、上記実施の形態のコイル部40は分布巻構造とされる。これにより、集中巻構造に比べて巻線係数を増加でき、ターン数を低減することができる。かかるターン数の低減によって交流損失を低減することができる。また、分布巻構造とすることで集中巻構造に比べて空間高調波を低減でき、かかる空間高調波の低減によってリプル率や、回転子の渦流損失、交流損失を低減することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、向きなどについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0054】
上記実施の形態において、巻枠20及びコイル部40の設置数は、複数であれば6体より増減してもよく、例えば、周方向の形成範囲を上記実施の形態の約半分(周方向に約30°)として12体としてもよい。この場合、極数を4極とすることができる。
【0055】
また、内側スロット23及び外側スロット24は、コイル部40における積層導体50の巻回する回数に応じて形成数を増減してもよい。
【0056】
また、積層導体50にて積層する薄膜超電導線51の本数は、複数であれば6本より増減してもよく、1本の薄膜超電導線51に形成される超電導層55の本数も、複数であれば4本より増減してもよい。
【0057】
また、コイル部40における積層導体50の巻回方法は、内側巻回部40a及び外側巻回部40bの巻回の順序を逆にし、外側巻回部40bを巻回した後、内側巻回部40aの巻回を行ってもよい。更に、上記実施の形態では、積層導体50を螺旋状に巻回するため、第1形成部27及び第2形成部28にて、該螺旋の外側から中心側に向かって巻回を進行させたが、これを逆にし、該螺旋の中心側から外側に向かって巻回を進行させてもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、内側巻回部40aと外側巻回部40bとを繋ぐ積層導体50の範囲Rにて、積層導体50を延出方向回りに180°回転する構成としたが、積層導体50を
図2に示す向き及び配置状態に調整できれば変更してもよい。例えば、積層導体50を延出方向回りに540°回転し、実質的に180°回転した向きと同一としてもよい。
【0059】
また、上記実施の形態では、複数の内側スロット23及び複数の外側スロット24それぞれに積層導体50が1回ずつ挿入される構成としたが、これに限られるものでなく、
図8に示すような構成としてもよい。
図8は、変形例に係る
図5と同様の説明図である。
図8の変形例では、内側スロット23及び外側スロット24の内部に挿入される積層導体50が径方向に複数(
図8では2本)並んで配設される。かかる配設にあたり、コイル部40は、1本の積層導体50を巻回しつつ各スロット23、24にて径方向に積層導体50が複数層となるよう設けられる。かかる構成によれば、起磁力の増加(同期機出力の増大)を図ることができ、各スロット23、24にて複数層となる積層導体50に位置ずれが生じていても、全体として上述と同様の原理で鎖交磁束を打ち消すことが可能となる。なお、径方向に複数並んで配設される積層導体50は、
図8では2層としたが、3層以上としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 :固定子
20 :巻枠
21 :枠本体
23 :内側スロット
24 :外側スロット
26 :段差形成部
27 :第1形成部
28 :第2形成部
40 :コイル部
40a :内側巻回部
40b :外側巻回部
50 :積層導体
51 :薄膜超電導線
53 :基部
55 :超電導層