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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024372
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】電気掃除機
(51)【国際特許分類】
   A47L 9/28 20060101AFI20250213BHJP
   A47L 9/04 20060101ALI20250213BHJP
   A47L 9/00 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
A47L9/28 A
A47L9/04 A
A47L9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128427
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鹿山 俊洋
【テーマコード(参考)】
3B006
3B057
3B061
【Fターム(参考)】
3B006AA00
3B057DA09
3B061AA04
3B061AA06
3B061AD05
3B061AE02
(57)【要約】
【課題】モータの制御を安定化しつつ、モータの過熱を適切に防止することが可能な電気掃除機を提供する。
【解決手段】電気掃除機は、電動送風機と、被掃除部Fを掃除するためのモータ12と、モータ12を制御する制御手段と、を備える。制御手段は、所定のロック判定条件に基づきモータ12の駆動電力を減少処理するものであって、モータ12の起動初期において、減少処理が生じにくくする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動送風機と、
被掃除部を掃除するためのモータと、
このモータを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、所定のロック判定条件に基づき前記モータの駆動電力を減少処理するものであって、前記モータの起動初期において、前記減少処理が生じにくくする
ことを特徴とする電気掃除機。
【請求項2】
前記モータの起動からの前記モータの累積駆動時間又はその関連値が所定の閾値以上になったことを条件の少なくとも一つとして、前記減少処理が生じにくくする処理をキャンセルする
ことを特徴とする請求項1記載の電気掃除機。
【請求項3】
前記モータの通電時間又は通電量に応じて前記累積駆動時間又はその関連値の累積度合い又は前記閾値を変更する
ことを特徴とする請求項2記載の電気掃除機。
【請求項4】
前記ロック判定条件は、複数設定され、それぞれ前記モータの電流値又はその関連値の閾値と時間閾値との組み合わせを少なくとも条件として有し、
前記モータの電流値又はその関連値の閾値が小さい順から前記ロック判定条件を一つ以上無効化することで前記減少処理が生じにくくする
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の電気掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被掃除部を掃除するためのモータを制御する電気掃除機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気掃除機に用いられる清掃具として、回転清掃体と、この回転清掃体を回転させるモータと、を備える、いわゆるアクティブブラシ構造の吸込口体が知られている。このような吸込口体では、モータによって回転された回転清掃体により被掃除面から塵埃を一旦掻き上げてから吸い込むことにより、絨毯のような塵埃が絡み付きやすい被掃除面からも効率的に塵埃を除去できる。
【0003】
この吸込口体は、毛足が長い絨毯等、回転抵抗が大きい被掃除面に回転清掃体を置いた場合や、回転清掃体に布等を巻き込んだ場合、モータがロックし大電流が流れる。そのため、モータの電流値を監視し、電流値が所定の時間時間に亘り所定の電流値の閾値を超えた場合には、モータがロックしたと判定してモータの駆動を停止する。このような構成において、判定用の時間閾値と電流値の閾値との組を複数設け、一方の組を時間閾値が長く電流閾値が小さい組とし、他方の組を時間閾値が短く電流値の閾値が大きい組として、それらの条件に基づき吸込口体あるいは回転清掃体又はモータの状態を検出することで、被掃除面上での掃除動作の有無や、通常環境下におけるモータのロックを判定可能としたものが知られている。しかしながら、冬季や起動初期等の低温環境下では、モータの電流値が相対的に大きくなるため、時間閾値と電流値の閾値との組からなるロック判定条件に基づくモータのロックの判定精度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-68680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、モータの制御を安定化しつつ、モータの過熱を適切に防止することが可能な電気掃除機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電気掃除機は、電動送風機と、被掃除部を掃除するためのモータと、このモータを制御する制御手段と、を備える。制御手段は、所定のロック判定条件に基づきモータの駆動電力を減少処理するものであって、モータの起動初期において、減少処理が生じにくくする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態の電気掃除機の一部を模式的に示す断面図である。
図2】同上電気掃除機の一部の内部構造を示すブロック図である。
図3】同上電気掃除機を示す斜視図である。
図4】同上電気掃除機のロック判定条件の例を示す表である。
図5】(a)は同上電気掃除機の清掃具の自重を掛けた状態でのモータの通電時間又は通電量が小さいときの電流値の平均値の例を示すグラフであり、(b)は同上電気掃除機の清掃具の自重を掛けた状態でのモータの通電時間又は通電量が大きいときの電流値の平均値の例を示すグラフである。
図6】同上電気掃除機の制御手段における減少処理が生じにくくする処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
図1において、1は清掃具である。清掃具1は、掃除ヘッド等とも呼ばれ、床等の被掃除面である被掃除部Fを掃除する。清掃具1は、ケース体10を備える。ケース体10には、集塵口100が形成されている。また、ケース体10には、回転清掃体11が回転可能に配置されている。回転清掃体11は、モータ12により回転されて被掃除部Fの塵埃を集塵口100に掻き上げる。本実施形態では、回転清掃体11は、集塵口100に取り付けられている。モータ12は、図2に示す制御手段13により制御される。
【0010】
図3に示すように、清掃具1は、電気掃除機CLに用いられる。本実施形態において、清掃具1は、電気掃除機CLの掃除機本体2に配置された吸引源である電動送風機3の駆動により生じた負圧によって空気とともに塵埃を分離部4へと吸い込む、吸引型の電気掃除機CLに適用される。電気掃除機CLは、床走行型又はキャニスタ型、スティック型、アップライト型、ハンディ型、あるいは、自走式電気掃除機等、任意のものとしてよい。本実施形態では、電気掃除機CLは、スティック型の電気掃除機を例に挙げて説明する。また、図示される例では、清掃具1は、吸込口体又は床ブラシとも呼ばれ、管部である延長管5を介して間接的に、あるいは直接、掃除機本体2に対し、ケース体10に接続された接続部である接続管14により機械的及び流体的に接続される。さらに、本実施形態において、電動送風機3の動作又は吸引力又は強モード・弱モード等の運転強度すなわち運転モード、及び、回転清掃体11又はモータ12の回転のオンオフは、把持操作用の把持部である手元操作部6のスイッチ7の操作によって使用者により設定される。掃除機本体2には、スイッチ7により設定された操作に応じて電動送風機3を動作させる本体制御部8が配置されている。スイッチ7又は本体制御部8が、制御手段13(図2に示す)と電気的に接続される。制御手段13(図2に示す)は、清掃具1に配置されていてもよいが、本実施形態では、本体制御部8に制御手段13(図2に示す)の少なくとも一部が組み込まれている。電気掃除機CLの電源部Bは、例えば掃除機本体2に配置される。本実施形態において、電源部Bはバッテリ又は二次電池とするが、これに限らず、商用電源等の外部電源から電力を取るAC-DCアダプタやコードリール装置等でもよい。
【0011】
次に、図1及び図2を参照して、制御手段13の内部構造について説明する。
【0012】
制御手段13は、モータ12の駆動電力を可変する電力可変部130を有する。電力可変部130は、モータ12の駆動電力を無段階に変化させてもよいし、複数の段階のいずれかに変化させてもよい。本実施形態では、電力可変部130は、モータ12の駆動電力を、少なくとも複数の段階のいずれかに設定可能となっている。
【0013】
電力可変部130によるモータ12の駆動電力の可変方法としては、例えば電源からモータ12への通電時間又は通電量を調整し、モータ12の駆動電力を、モータ12の通電時間に応じて設定する。一例として、電力可変部130は、モータ12への制御信号つまり印加電圧をPWM信号とし、PWM信号のデューティ比を調整することで、モータ12の駆動電力を設定する。つまり、PWM信号のデューティ比を100%とするとモータ12の駆動電力が最大となり、PWM信号のデューティ比を下げることでモータ12の駆動電力が減少され、回転清掃体11の回転速度及び回転トルクが低下するようになっている。つまり、電力可変部130は、モータ12の駆動電力を増加させる際に、デューティ比を増加させ、モータ12の駆動電力を減少させる際に、デューティ比を減少させる。本実施形態において、電力可変部130は、複数の異なるデューティ比を有し、モータ12のPWM信号のデューティ比をこれらのデューティ比のいずれかに選択的に設定することにより、モータ12の駆動電力を、複数の異なる駆動電力に設定可能となっている。
【0014】
電力可変部130によるモータ12の駆動電力の設定は、スイッチ7(図3に示す)等による使用者の設定に応じて切り換えてもよいし、電動送風機3の吸引力の強弱又は運転モードに応じて切り換えてもよいし、掃除状況に応じて自動的に切り換えてもよい。掃除状況とは、例えば被掃除部Fを構成する床の種類、あるいは被掃除部Fにおける吸塵量の多寡等をいうものとする。すなわち、被掃除部Fの種類を検出する種類検出手段、及び/又は、吸塵量を検出する塵埃量検出手段等の、掃除状況検出手段と組み合わせて、電力可変部130がモータ12の駆動電力を自動的に選択設定してもよい。種類検出手段、及び、塵埃量検出手段は、既知の任意の構成としてよい。本実施形態では、例えば電力可変部130は、デューティ比100%のPWM信号と、デューティ比40%のPWM信号と、のいずれかを選択的に用いて、モータ12の駆動電力を強弱いずれかに設定する。
【0015】
また、制御手段13は、モータ12の電流値を検出する電流検出部131を有する。電流検出部131は、所定の検出周期毎にモータ12の電流値を検出する。電流検出部131によるモータ12の電流値の検出方法としては、一例として、検出素子である抵抗値が小さい抵抗、いわゆるシャント抵抗に電流を流し、シャント抵抗の両端に発生する電位差を増幅して変換部であるA/Dコンバータに入力し、A/Dコンバータの出力を取り込む。本実施形態において、電流検出部131により検出される電流値とは、例えば負荷電流値とする。負荷電流値は、モータ12により回転される回転清掃体11の負荷状態を示す電流値であり、モータ12の実電流値と相関を有する。モータ12の実電流値は、例えば所定時間毎に所定回数取得した電流値の平均値である。この実電流値は、電力可変部130のPWM信号のデューティ比に大きく依存する。そのため、本実施形態において、負荷電流値は、PWM信号のデューティ比から独立させるために、実電流値を電力可変部130でのPWM信号のデューティ比で除した値として求められる。すなわち、(負荷電流値)=(実電流値)/(デューティ比)である。したがって、本実施形態の負荷電流値は、モータ12に流れる電流値とデューティ比とに基づき算出された値である。
【0016】
制御手段13による制御や判定においては、電流検出部131で検出される電流値に代えて、又は、電流値に加えて、その関連値を用いてもよい。電流値の関連値としては、モータ12に流れる電流値自体、モータ12に流れる電流値から所定値を減算した値等の、モータ12に流れる電流値から算出された、この電流値と相関を有する値を含む。以下、「モータ12の電流値又はその関連値」を単に「モータ12の電流値」といい、「回転清掃体11又はモータ12の回転負荷」を単に「回転負荷」というものとする。
【0017】
なお、本実施形態において、電流検出部131は、検出素子及びA/Dコンバータ等を有してモータ12に流れる電流値を取得する電流値取得部、実電流値を求める実電流値算出部、及び、負荷電流値を求める負荷電流値算出部を備えるものとして説明したが、電流値取得部、実電流値算出部、及び、負荷電流値算出部については、それぞれ別個の回路部として構成されていてもよく、それらが任意に組み合わせられて構成されていてもよく、それらの一部が他の回路部の一部をなしていてもよい。すなわち、電流検出部131は、電流値取得部、実電流値算出部、及び、負荷電流値算出部を一体的に備えるものに限定されない。
【0018】
さらに、制御手段13は、メモリ等の記憶部132を有する。本実施形態において、記憶部132には、電流検出部131により検出された電流値、各種の判定用の閾値、及び、判定値等が記憶される。また、記憶部132には、その他の任意の閾値やフラグ、プログラム等、制御手段13による制御に用いられる各種データが記憶される。
【0019】
また、制御手段13は、判定部133を有する。判定部133は、電流検出部131で検出された電流値に基づきモータ12又は回転清掃体11の状態を判定し、その判定に応じて、電力可変部130によるモータ12の駆動電力の設定を制御する。本実施形態では、判定部133は、予め設定されたロック判定条件に基づき、回転清掃体11及びモータ12がロックしたか否か、すなわち布等の巻き込み等の外的要因によってモータ12の通電中にも拘らず強制的に回転が止められた状態となったか否かを判定する。この判定の詳細については、後述する。
【0020】
なお、モータ12及び制御手段13の電源は、清掃具1に備えられていてもよいし、掃除機本体2の電源部B(図3に示す)から取ってもよい。
【0021】
次に、一実施形態の動作を説明する。
【0022】
掃除の際、使用者は、手元操作部6を把持し、スイッチ7を操作することで、本体制御部8が電動送風機3を動作させる。電動送風機3の動作により生じた負圧が、分離部4を介して延長管5、清掃具1と作用することで、集塵口100から被掃除部の塵埃が空気とともに分離部4へと吸い込まれる。
【0023】
また、制御手段13は、電力可変部130により清掃具1のモータ12を起動させて回転清掃体11を回転させる。回転清掃体11の回転により、被掃除部Fの塵埃が掻き上げられ、この掻き上げられた塵埃が、集塵口100に作用する負圧によって分離部4へと吸い込まれる。このとき、制御手段13は、例えば電動送風機3の運転モードや使用者により設定された駆動力に応じたPWM信号を用いてモータ12を動作させる。なお、使用者は、回転清掃体11による物体の巻き込みを防止する等、必要に応じて、スイッチ7を操作して清掃具1の回転清掃体11の回転を停止させることが可能である。
【0024】
使用者は、手元操作部6により清掃具1を被掃除部F上に載置した状態で前後に交互に移動させることで、被掃除部F上の塵埃を分離部4へと順次吸い込ませていく。分離部4に吸い込まれた含塵空気は、分離部4において、塵埃が分離捕集される。塵埃が分離された空気は、電動送風機3を冷却した後、掃除機本体2の外部に排出される。
【0025】
制御手段13は、モータ12の動作中に、判定部133において、電流検出部131により検出されたモータ12の所定の電流値と、ロック判定条件における電流値の閾値と、の大小の比較と、その継続時間と時間閾値との大小の比較と、に応じて、回転清掃体11及びモータ12のロックを判定する。
【0026】
本実施形態において、「モータ12の所定の電流値」とは、判定時から所定の短時間以内の、すなわち直近の電流値等をいい、好適には最新の電流値が用いられるが、これに限らず、最新の電流値に対して直前の電流値、すなわち記憶部132に記憶されている電流値のうち最新のもの、つまり判定時から電流検出部131によるモータ12の電流値の一検出周期前の電流値でもよい。また、直前の電流値とは、記憶部132に記憶されている電流値のうち所定の電流値に最も近い過去のもの、つまり所定の電流値から一検出周期前の電流値とするが、これに限らず、所定の電流値から二検出周期前あるいは三検出周期前等、十分短い所定時間以内の過去の電流値を用いてもよいし、所定の電流値から所定時間以内の電流値の平均値等、直前の複数の電流値から算出された値でもよい。
【0027】
そして、制御手段13は、モータ12の動作中に判定部133が所定のロック判定条件を満たしたと判定したときに、電力可変部130によりモータ12の駆動電力を減少させ、モータ12を実質的に停止させる。この制御を、以下、減少処理又は電力減少制御という。
【0028】
上記の減少処理は、モータ12を停止させて、ロック状態の継続によるモータ12の過熱を防止することを狙った制御である。減少処理を実施するためのロック判定条件は、任意に設定してよいが、本実施形態では、少なくとも、モータ12の電流値の閾値と時間閾値との組み合わせを条件として含む。そして、モータ12の電流値が閾値以上の状態が時間閾値以上継続したことに基づいて、減少処理が実施される。
【0029】
ここで、モータ12は、低温環境下にあると、負荷に対する消費電流が増加し、高温環境下にあると負荷に対する消費電流が下がる傾向を持つ。低温環境下とは、例えば冬季や寒冷地での使用時等、起動時にモータ12の内部温度が所定温度以下に低下している場合を指し、高温環境下とは、その逆の環境、又は、低温環境でない環境下、つまり非低温環境下であることを指す。
【0030】
そのため、ロック判定条件が一つのみである場合、例えば低温環境下で毛足が長い絨毯を掃除する際、つまりモータ12の電流値が大きくなりがちな掃除環境において減少処理が生じないようにロック判定条件における電流値の閾値を相対的に高く設定すると、高温環境下で回転清掃体11及びモータ12がロックした際のモータ12の電流値がロック判定条件における電流値の閾値より低くなり、必要な状況であるにも拘らず減少処理が生じないおそれがある。逆に、例えば高温環境下で回転清掃体11及びモータ12がロックした際に減少処理が生じるようにロック判定条件における電流値の閾値を相対的に低く設定すると、低温環境下で毛足が長い絨毯を掃除する際にモータ12の電流値がロック判定条件における電流値の閾値を頻繁に上回ることとなり、モータ12の駆動電力が不必要に低下して、使用者が不便を感じるおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態においては、ロック判定条件が予め複数種類設定されている。複数のロック判定条件は、電流値の閾値が大きいものほど、時間閾値が小さく設定されている。つまり、複数のロック判定条件から任意の二つを比較すると、電流値の閾値の大小関係と時間閾値の大小関係とが互いに逆転している。すなわち、一のロック判定条件の電流値の閾値に対し、他のロック条件の電流値の閾値が小さく、一のロック判定条件の時間閾値に対し、他のロック条件の時間閾値が大きく設定される。
【0032】
本実施形態のロック判定条件の例を、図4に示す。本実施形態では、三種類のロック判定条件が予め設定されている。ロック判定条件1は、例えば電流値の閾値が3A、時間閾値が0.8秒の高電流・短時間条件である。また、ロック判定条件2は、例えば電流値の閾値が2.25A、時間閾値が1.6秒の低電流・長時間条件である。さらに、ロック判定条件3は、例えば電流値の閾値が1.5A、時間閾値が16秒の超低電流・超長時間条件である。
【0033】
ロック判定条件2において、時間閾値1.6秒とは、使用者が清掃具1を前後に一往復する時間を念頭に置いている。つまり、一般的な使用者による清掃具1の移動速度は、JIS等の所定の規格に規定されているように、0.5m/秒であり、一般的な使用者が清掃具1の前進を開始してから停止するまでの時間は、0.8~1秒程度、清掃具1の後進を開始してから停止又は再度前進するまでの時間は、1~1.5秒程度であるため、清掃具1が一往復に要するまでの時間として、1.6秒が設定されている。
【0034】
掃除具1を後方に引いている際は、清掃具1を被掃除部Fから持ち上げる方向に力が働くため、回転清掃体11の負荷が大幅に低下し、電流値が低下する。したがって、その低下した電流値が2.25A未満、あるいは1.5A未満であれば、ロック判定条件2,3に合致しないため、清掃具1を前後に動かしていれば、ロック判定条件1のみが有効となる。
【0035】
一方、回転清掃体11及びモータ12がロックした場合、モータ12の電流値は比較的一定であるため、ロック判定条件2,3も有効となり、仮に回転清掃体11及びモータ12がロックしたときに電流値が低くても、ロック判定、すなわち回転清掃体11及びモータ12がロックしたという判定が生じる。
【0036】
このように、電流値の閾値と時間閾値との組み合わせを条件として有するロック判定条件を複数設定し、それらのロック判定条件において、電流値の閾値の大小関係と時間閾値の大小関係とを逆転させることで、低温環境下で毛足が長い絨毯を掃除する場合と、高温環境下で回転清掃体11及びモータ12がロックした場合と、を判別して、必要なときに減少処理を生じさせることが可能となっている。
【0037】
しかしながら、例えば低温環境下において、毛足が長い絨毯上で清掃具1を静止させている場合、モータ12の電流値が相対的に高い状態が長く続くことが考えられる。特に、掃除の開始直後は、清掃具1が被掃除部F上で静止していることが多いため、起動直後から間もなくロック判定条件を満たし、減少処理が生じることが懸念される。また、モータ12の駆動電力を制御手段13が何らかの制御によって通常より低減させている場合、回転清掃体11の回転トルクが小さいため、絨毯等による回転抵抗が相対的に大きな負荷となり、絨毯上とロック時との電流値差が通常より小さくなる。これに低温環境下でのモータ12の電流値の相対的な増加と高温環境下でのモータ12の電流値の相対的な減少とを加味すると、低温環境下で絨毯を掃除する際のモータ12の電流値と、高温環境下で回転清掃体11及びモータ12がロックした際の電流値と、では、前者の方が大きくなる逆転状態が生じやすい。
【0038】
そこで、本実施形態では、モータ12の起動初期において、減少処理が生じにくくする。
【0039】
モータ12の起動初期とは、例えばモータ12の起動の開始からの累積駆動時間又はその関連値が所定の閾値である判定用閾値内である期間を言う。そして、モータ12の起動の開始からの累積駆動時間又はその関連値が所定の判定用閾値未満であれば、減少処理が生じにくくした状態とし、モータ12の起動の開始からの累積駆動時間又はその関連値が所定の判定用閾値以上になったことを少なくとも一つの条件として、上記減少処理が生じにくくした状態をキャンセルして元に戻す。
【0040】
例えば、判定用閾値としては、モータ12の内部温度が所定温度を超えると想定されるまでの時間とする。モータ12は、連続して駆動することで自身の発熱によって内部温度が徐々に上昇していき、内部温度の上昇に伴い比較的短時間のうちに低温状態から脱して電流値の大きな変動が収まることが実験的に判明したため、本実施形態では、例えばその低温状態から脱することが予想されるまでの時間を判定用閾値として設定し、例えば1分とする。
【0041】
また、モータ12の通電時間又は通電量が大きいほど、モータ12に流れる電流値が大きいため、モータ12の発熱が大きく、低温状態から脱するまでの時間が短くなる傾向がある。図5(a)に例を示すように、モータ12の通電時間又は通電量が小さいとき、例えばPWM信号のデューティ比が40%のときと比較して、図5(b)に例を示すように、モータ12の通電時間又は通電量が大きいとき、例えばPWM信号のデューティ比が100%のときの方が、モータ12の電流値の変動がより早く収まる、そのため、好ましくは、モータ12の通電時間又は通電量、例えばPWM信号のデューティ比に応じて、累積駆動時間又はその関連値の累積度合い又は判定用閾値を変更し、通電時間又は通電量が大きいほど、累積駆動時間又はその関連値の累積度合いを大きく変更する、又は、判定用閾値を短く変更する。
【0042】
「減少処理が生じにくくする」処理としては、様々な方法が可能である。例えば、判定部133によるロック判定条件にさらなる条件を追加する、電流検出部131により検出した電流値を補正する、ロック判定を無視する、等の方法が可能であるが、本実施形態では、判定部133において、ロック判定が生じにくくなるようにロック判定条件を変更又は厳格化する。
【0043】
ロック判定条件の変更又は厳格化には、様々な方法が可能である。例えば、1)予め設定されている複数のロック判定条件のうち、電流値の閾値が低いものから一つ以上を無効化する、2)起動初期に用いるロック判定条件の電流値の閾値及び/又は時間閾値を、起動初期以外で用いるロック判定条件と異なる値に設定しておく、3)予め設定されている何らかの定義値に基づき、起動初期に用いるロック判定条件の電流値の閾値及び/又は時間閾値を算出する、等の方法が可能である。特に、モータ12の起動初期には、モータ12の電流値が相対的に大きくなることを加味し、好ましくは、ロック判定条件において、電流値又はその関連値の閾値の条件を厳格化する。本実施形態では、上記の1)を用い、図4に示す例では、少なくとも、電流値の閾値が最も低い「ロック判定条件3」を無効化する。
【0044】
この制御を、図6に示すフローチャートも参照して説明する。
【0045】
電気掃除機CLが起動すると、ステップS1において、制御手段13は、起動初期であるか否か、つまり低温環境であるか否かを示すフラグisColdをTrueに設定するとともに、起動からのモータ12の累積駆動時間を示すタイマtColdを0に設定する。制御手段13では、判定部133において、フラグisColdがTrueである間、減少処理が生じにくくなるようにロック判定条件が厳格化される。
【0046】
次いで、ステップS2において、制御手段13は、例えば電流検出部131により検出する電流値等に基づき、モータ12が駆動しているか否かを判定する。モータ12が駆動していないと判定した場合、すなわちステップS2におけるNOの場合、ステップS2を繰り返す。また、ステップS2において、モータ12が駆動していると判定した場合、すなわちステップS2におけるYESの場合、ステップS3において、制御手段13は、モータ12の通電時間又は通電量、本実施形態ではPWM信号のデューティ比が、所定の閾値D_Heat以上であるか否かを判定する。閾値D_Heatは、モータ12の発熱が早いと想定されるデューティ比であり、本実施形態では例えば50%に設定されている。
【0047】
ステップS3において、デューティ比がD_Heat以上であると判定した場合、すなわちステップS3におけるYESの場合、ステップS4において、制御手段13は、タイマtColdに累積度合いC_Hiを加算し、ステップS5に進む。累積度合いC_Hiは、デューティ比が相対的に大きい場合のタイマtColdの加算量であり、本実施形態では例えば2に設定されている。
【0048】
また、ステップS3において、デューティ比がD_Heat以上でないと判定した場合、すなわちステップS3におけるNOの場合、ステップS6において、制御手段13は、タイマtColdに1を加算し、ステップS5に進む。
【0049】
したがって、本実施形態では、ステップS3,S4,S6の処理により、モータ12の駆動用のPWM信号のデューティ比が50%未満の場合と比較して、モータ12の駆動用のPWM信号のデューティ比が50%以上の場合には、累積度合いが2倍となっている。なお、本実施形態では、ステップS2~S6の制御のループ周期が、例えば電流検出部131によるモータ12の電流値の検出周期、例えば100msに設定されている例を示す。したがって、モータ12の駆動用のPWM信号のデューティ比が50%未満の場合には、累積度合いが100ms、モータ12の駆動用のPWM信号のデューティ比が50%以上の場合には、累積度合いが200msとなる。
【0050】
そして、ステップS5において、制御手段13は、タイマtColdが判定用閾値T_Heat以上か否かを判定する。判定用閾値T_Heatは、例えば600とする。つまり、本実施形態の場合、判定用閾値T_Heatは6000msすなわち1分に相当する。ステップS5において、タイマtColdが判定用閾値T_Heat以上でないと判定した場合、すなわちステップS5におけるNOの場合、ステップS2に進む。また、ステップS5において、タイマtColdが判定用閾値T_Heat以上であると判定した場合、すなわちステップS5におけるYESの場合、ステップS7において、制御手段13は、フラグisColdをFalseに設定し、つまりモータ12の起動初期でなくなった、又は、低温環境を脱したものと判定し、処理を終了する。
【0051】
このように、本実施形態によれば、制御手段13が、所定のロック判定条件に基づきモータ12の駆動電力を減少処理するものであって、モータ12の起動初期において、減少処理が生じにくくすることにより、起動初期の低温環境下でモータ12の電流値が増加することに起因してロック判定条件に基づき減少処理が頻繁に生じることを抑制できる。
【0052】
したがって、例えば冬季や寒冷地での使用時等、温度が低いためにモータ12の電流値が大きくなる状況での起動時においても、制御手段13によるモータ12の減少処理を精度よく適切に生じさせることができるので、不必要にモータ12の駆動電力を減少させることがなく、モータ12の制御を安定化しつつ、必要なときに減少処理を実施して、ロックに起因する過大電流によるモータ12の過熱を適切に防止することが可能になる。
【0053】
例えば、モータ12の電流値又はその関連値の閾値と時間閾値との組み合わせを少なくとも条件として有するロック判定条件を複数設定し、モータ12の電流値又はその関連値の閾値が小さい順からロック判定条件を一つ以上無効化することで減少処理が生じにくくするように構成することにより、起動初期の低温環境下でモータ12の電流値が増加することに起因するロック判定条件に基づき減少処理が発生することを容易に抑制できる。
【0054】
また、モータ12の起動初期の低温環境下において、モータ12の電流値又はその関連値の閾値が小さい順からロック判定条件を一つ以上無効化するので、例えば電流値又はその関連値の閾値及び/又は時間閾値をより極端な値としたロック判定条件を設定することが可能になる。例えば、図4に示す例ではロック判定条件3のように、電流値又はその関連値の閾値を極端に小さく、時間閾値を極端に長くしたロック判定条件を設定しても、モータ12の起動初期には基本的に無効化され、このロック判定条件によって不必要なロック判定が生じることを防止できる。そのため、モータ12が起動初期を過ぎて低温環境を脱した状態では、電流値又はその関連値の閾値及び/又は時間閾値をより極端な値としたロック判定条件をさらに用いて、モータ12がロックした場合に適切にロック判定をすることができる。
【0055】
さらに、モータ12の起動からのモータ12の累積駆動時間又はその関連値が所定の判定用閾値以上になったことを条件の少なくとも一つとして、ロック判定が生じにくくする処理をキャンセルすることにより、モータ12が低温環境を脱して電流値が安定しているにも拘らず減少処理又はロック判定が生じにくくなっている状態が継続することを防止できる。
【0056】
また、モータ12の通電時間又は通電量、本実施形態ではPWM信号のデューティ比に応じて累積駆動時間又はその関連値の累積度合い又は判定用閾値を変更することで、モータ12の通電に伴う発熱の影響を加味して、減少処理又はロック判定が生じにくくしている期間を適切に設定できる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲をこれらの実施形態に限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
CL 電気掃除機
F 被掃除部
3 電動送風機
12 モータ
13 制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6