(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002439
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20230101AFI20241226BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C02F1/52 K
B01D21/01 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102620
(22)【出願日】2023-06-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出-プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 進
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA03
4D015BA04
4D015BA11
4D015BA22
4D015BA24
4D015BA28
4D015BB08
4D015BB09
4D015BB12
4D015BB14
4D015BB16
4D015CA14
4D015CA20
4D015DA05
4D015DA13
4D015DA19
4D015DB03
4D015EA04
4D015EA18
4D015EA32
4D015FA25
4D015FA28
4D015FA29
(57)【要約】
【課題】シリカ及びカルシウムを含む水から、シリカ及びカルシウムを効率的に除去する、水処理方法を提供する。
【解決手段】シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法であって、
シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを処理槽中で共存させ、前記水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる処理工程を備える、水処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法であって、
シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを処理槽中で共存させ、前記水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる処理工程を備える、水処理方法。
【請求項2】
前記処理工程に供される水は、シリカの含有率が0.02ppm以上であり、カルシウムの含有率が20ppm以上である、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記処理工程において、シリカに対する前記酸性凝集剤のモル比(酸性凝集剤/シリカ)を、15~30の範囲に調整する、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記処理工程において、カルシウムに対する前記塩基性凝集剤のモル比(塩基性凝集剤/カルシウム)を、15~25の範囲に調整する、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記処理工程において、前記塩基性凝集剤に対する前記酸性凝集剤のモル比(酸性凝集剤/塩基性凝集剤)を、0.5~0.6の範囲に調整する、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記処理工程において、水のpHを6.0~9.0の範囲に調整する、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記処理工程において、前記塩基性凝集剤と水とを混合してカルシウムの凝集工程を前記処理槽中で行い、引き続き、前記酸性凝集剤と水とを混合してシリカの凝集工程を前記処理槽中で行う、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記処理工程の後に、水の中和工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記処理工程に供される水は、アンモニウムイオンをさらに含む、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記処理工程の後に、水からアンモニウムイオンを回収する工程をさらに含む、請求項9に記載の水処理方法。
【請求項11】
シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法に用いられる水処理装置であって、
シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを共存させる、処理槽を備える、水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法及び水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水源には、カルシウム、シリカなどが含まれている。例えば、日本は島国であり、河川、地下水等の水脈が短く、土壌中からの成分の溶け込みが少ないため、水道水源の硬度は欧州の半分程度(約200mg/L)であるが、それでも、50mg/L程度のカルシウムを含んでいる。また、火山の多い日本の土壌には花崗岩、石英粗面岩などケイ酸が多く含まれており、水道水源のシリカは、欧州の倍程度(約50mg/L)になる。そのため、水道水源を利用する排水(工場廃水など)にも数~数十ppmのシリカやカルシウムイオンが含まれる。
【0003】
カルシウム、シリカなどを含む排水を処理して再利用するために、逆浸透膜(RO膜)等を用いて溶解成分を濃縮除去する場合、シリカやカルシウムが不溶化析出して、膜の目詰まり(スケーリング)を生じ、処理が不能になる場合がある。
【0004】
例えば、シリカ除去については、特許文献1に見られるようなフッ素化合物として除去する方法が提案されている。しかしながら、フッ素化合物のような劇物を使用する方法は汎用的とはいえない。また、現状、シリカを安全かつ効率的に除去する実用的な吸着剤や薬剤が存在しないため、多量の酸性凝集剤を排水中に投入し、固形物としてシリカを凝集させて分離することが一般的である。
【0005】
また、カルシウム除去については、安価な方法として、二酸化炭素を排水中に吹き込んで炭酸カルシウムとして沈殿分離する方法等が知られている。しかしながら、この方法では、数%濃度の二酸化炭素含有気体が必要であり、適用範囲が限られる。このため、排水中のカルシウムについては、塩基性凝集剤である炭酸塩を添加して炭酸カルシウムとして沈殿分離することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、排水中のシリカ除去については、多量の酸性凝集剤を排水中に投入し、固形物としてシリカを凝集させて分離することが一般的である。シリカを凝集させた水は、多量の酸性凝集剤によって酸性となる。排水基準に適合するよう水を中和するためには、多量のアルカリ性中和剤(水酸化カルシウムなど)が必要となる。
【0008】
一方、排水中のカルシウムについては、塩基性凝集剤である炭酸塩を添加して炭酸カルシウムとして沈殿分離することが一般的である。塩基性凝集剤によってカルシウムを凝集させるためには、pHは高いことが好ましく、塩基性凝集剤に加えて剤(水酸化カルシウムなど)が添加される。カルシウムを凝集させた水は、塩基性凝集剤とアルカリ剤によってアルカリ性となっているため、排水基準に適合するように水を中和するために、多量の酸性中和剤(塩酸など)が必要となる。
【0009】
このように、排水中のシリカ、カルシウムの除去には、多量の酸性凝集剤、塩基性凝集剤、アルカリ剤、酸を使用する必要がある。多量の凝集剤を使用すると、水処理のコストが大きくなるだけでなく、水中の塩濃度が上昇し、例えばRO膜で水を濃縮する操作を行う場合の操作圧の上昇にもつながる。
【0010】
本開示は、シリカ及びカルシウムを含む水から、シリカ及びカルシウムを効率的に除去する、水処理方法を提供することを主な目的とする。さらに、本開示は、当該水処理方法に好適に使用することができる、水処理装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法において、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを、同一の処理槽中で共存させて、水中のシリカ及びカルシウムを凝集させると、シリカ及びカルシウムを効率的に除去できることを見出した。
【0012】
本開示は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法であって、
シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを処理槽中で共存させ、前記水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる処理工程を備える、水処理方法。
項2. 前記処理工程に供される水は、シリカの含有率が0.02ppm以上であり、カルシウムの含有率が20ppm以上である、項1に記載の水処理方法。
項3. 前記処理工程において、シリカに対する前記酸性凝集剤のモル比(酸性凝集剤/シリカ)を、15~30の範囲に調整する、項1又は2に記載の水処理方法。
項4. 前記処理工程において、カルシウムに対する前記塩基性凝集剤のモル比(塩基性凝集剤/カルシウム)を、15~25の範囲に調整する、項1~3のいずれか1項に記載の水処理方法。
項5. 前記処理工程において、前記塩基性凝集剤に対する前記酸性凝集剤のモル比(酸性凝集剤/塩基性凝集剤)を、0.5~0.6の範囲に調整する、項1~4のいずれか1項に記載の水処理方法。
項6. 前記処理工程において、水のpHを6.0~9.0の範囲に調整する、項1~5のいずれか1項に記載の水処理方法。
項7. 前記処理工程において、前記塩基性凝集剤と水とを混合してカルシウムの凝集工程を前記処理槽中で行い、引き続き、前記酸性凝集剤と水とを混合してシリカの凝集工程を前記処理槽中で行う、項1~6のいずれか1項に記載の水処理方法。
項8. 前記処理工程の後に、水の中和工程をさらに含む、項1~7のいずれか1項に記載の水処理方法。
項9. 前記処理工程に供される水は、アンモニウムイオンをさらに含む、項1~8のいずれか1項に記載の水処理方法。
項10. 前記処理工程の後に、水からアンモニウムイオンを回収する工程をさらに含む、項9に記載の水処理方法。
項11. シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法に用いられる水処理装置であって、
シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを共存させる、処理槽を備える、水処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、シリカ及びカルシウムを含む水から、シリカ及びカルシウムを効率的に除去する、水処理方法を提供することができる。さらに、本開示によれば、当該水処理方法に好適に使用することができる、水処理装置を提供することもできる。
【0014】
本開示の水処理方法及び水処理装置によれば、水中のシリカ及びカルシウムの同時除去(1槽処理)が可能となり、酸性凝集剤と塩基性凝集剤との相乗効果により、シリカ及びカルシウムの効率的な除去を行うことができる。
【0015】
また、従来のシリカ除去及びカルシウム除去では、シリカ除去とカルシウム除去とは別々の処理槽で行われることから、シリカ除去とカルシウム除去との間に多量の中和剤を必要とし、さらに、カルシウム除去においても多量のアルカリ剤が使用される。これに対して、本開示の水処理方法では、同一の処理層中で酸性凝集剤と塩基性凝集剤とを併用することから、その後の中和工程において使用する中和剤(酸性中和剤又はアルカリ性中和剤)の使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】比較例1の方法において、塩鉄(酸性凝集剤)によるSi除去効果を示すグラフである。
【
図2】比較例1の方法において、ソーダ灰(塩基性凝集剤)によるCa除去効果を示すグラフである。
【
図3】実施例1の方法において、塩鉄(酸性凝集剤)及びソーダ灰(塩基性凝集剤)を同一の処理槽中で併用すること(塩鉄とソーダ灰の同時添加)によるSi, Ca除去効果を示すグラフである。
【
図4】実施例1の方法において、塩鉄(酸性凝集剤)とソーダ灰(塩基性凝集剤)の混合モル比と水のpHとの関係を示すグラフである。
【
図5】実施例2の方法において、ソーダ灰(塩基性凝集剤)を先行投入する効果(塩鉄とソーダ灰の同時添加との比較)を示すグラフである。
【
図6】実施例3における、T-N除去率(アンモニア回収率)に及ぼす水のpHの影響を示すグラフである。
【
図7】本開示の水処理方法を説明するための模式図である。
【
図8】本開示の水処理方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の水処理方法は、シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法であって、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを処理槽中で共存させ、前記水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる処理工程を備えることを特徴とする。本開示の水処理方法は、当該構成を備えることにより、シリカ及びカルシウムを含む水から、シリカ及びカルシウムを効率的に除去することができる。
【0018】
また、本開示の水処理装置は、シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法に用いられる水処理装置であって、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを共存させる、処理槽を備えることを特徴とする。本開示の水処理装置は、当該構成を備えることにより、シリカ及びカルシウムを含む水から、シリカ及びカルシウムを効率的に除去することができる。
【0019】
以下、本開示の水処理方法及び水処理装置について詳述する。
【0020】
本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0021】
1.水処理方法
本開示の水処理方法は、シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法である。具体的には、水に含まれるシリカ及びカルシウムを除去し、水中におけるシリカ及びカルシウムの濃度を低下させる方法である。
【0022】
本開示の水処理方法は、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを処理槽中で共存させ、水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる処理工程を備える。
【0023】
図7及び
図8は、それぞれ、本開示の水処理方法を説明するための模式図である。
図7及び
図8において、処理対象となる水(原水)は原水槽5に貯蔵されており、
処理槽1に送られる。
図7,8に示された水処理方法では、それぞれ、酸性凝集剤が貯蔵された酸性凝集剤槽2と、塩基性凝集剤が貯蔵された塩基性凝集剤槽3とが、処理槽1に接続されている。水、酸性凝集剤、及び塩基性凝集剤が、処理槽1に送られ、処理槽1において、酸性凝集剤と、塩基性凝集剤と、水とが混合されて処理水となる。
【0024】
図7に示された水処理方法では、さらに、処理槽1にpH調整剤槽4が接続されており、必要に応じて、pH調整剤が処理槽1に送られ、pHが調整される構成を示している。
【0025】
一方、
図8に示された水処理方法では、処理槽1の後(水が進む先)に中和処理槽7が接続されている。中和処理槽7には、pH調整剤槽4が接続されている。処理槽1において、酸性凝集剤、塩基性凝集剤、及び水が混合された処理水が、中和処理槽7に送られ、中和処理槽7において、さらに、必要に応じて、pH調整剤が中和処理槽7に送られ、pHが調整される構成を示している。
【0026】
pH調整剤は、処理水のpHを中性付近に調整する目的(すなわち、水の中和工程を行う目的)、処理水のpHをアルカリ性又は酸性に調整し、カルシウム又はシリカの凝集を促進する目的等で使用することができる。
【0027】
図7においては、処理槽1の後(水が進む先)に沈殿槽6が接続されている。また、
図8においては、中和処理槽7の後(水が進む先)に沈殿槽6が接続されている。処理槽1で調整された処理水は、必要に応じてpH調整がなされた後、沈殿槽6に送られる。沈殿槽6において、処理水に含まれる凝集シリカ及び凝集カルシウムの沈殿が行われ、凝集シリカ及び凝集カルシウムと処理水との分離が行われる。
【0028】
本開示の水処理方法が処理対象とする水は、シリカ及びカルシウムを含む水であれば、特に制限されず、例えば、排水(工場廃水、下水、最終処分場浸出水など)、海水、河川水、地下水などが挙げられる。
【0029】
図7及び
図8に示す水処理方法は、それぞれ、本開示の水処理方法を示す一例であり、本開示の水処理方法は、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを処理槽中で共存させ、水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる処理工程を備えていればよい。本開示の発明の効果を奏することを限度として、例えば、処理槽1の前後には、必要に応じて、原水槽5、中和処理槽7、沈殿槽6の他にも、任意の槽、装置などを設けることができる。例えば、後述のように、処理槽1の後(水が進む先)には、アンモニウムイオンを回収する工程を設けることができ、当該工程を行うための槽、装置などを設けることができる。また、処理槽1には、必要に応じて処理槽1に混合される成分を貯蔵する貯蔵槽をさらに設けることもできる。
【0030】
処理槽1、中和処理槽7などには、処理水の混合効率を高めることなどを目的として、攪拌機を設けることが好ましい。また、処理槽1、中和処理槽7などには、水のpHを測定するpH調整計を設けることが好ましい。水、処理水、酸性凝集剤、塩基性凝集剤、pH調整剤などは、ポンプを利用し、配管を通して各槽間を移動させることができる。
【0031】
処理工程に供される水のシリカ含有率は、例えば、0.02ppm以上、2ppm以上、5ppm以上など(具体的には、例えば、下水であれば5ppm以上、海水であれば0.02ppm以上、工場(鉄鋼)廃水であれば2ppm以上など)であり、また、例えば、12ppm以下、7ppm以下、5ppm以下など(具体的には、下水であれば12ppm以下、海水であれば5ppm以下、工場(鉄鋼)廃水であれば7ppm以下など)であり、シリカ含有率の範囲としては、0.02~12ppmなどが挙げられる。処理工程に供される水のカルシウム含有率は、例えば、20ppm以上、140ppm以上、400ppm以上など(具体的には、例えば、下水であれば20ppm以上、海水であれば400ppm以上、工場(鉄鋼)廃水であれば140ppm以上など)であり、また、例えば、600ppm以下、180ppm以下、40ppm以下など(具体的には、下水であれば40ppm以下、海水であれば600ppm以下、工場(鉄鋼)廃水であれば180ppm以下など)であり、カルシウム含有率の範囲としては、20~600ppmなどが挙げられる。
【0032】
また、処理工程に供される水にアンモニウムイオンが含まれる場合、アンモニウムイオン含有率は、例えば、2ppm以上、4ppm以上、25ppm以上など(具体的には、下水であれば25ppm以上、海水であれば2ppm以上、工場(鉄鋼)廃水であれば4ppm以上など)であり、また、例えば、40ppm以下、15ppm以下、6ppm以下など(具体的には、下水であれば40ppm以下、海水であれば15ppm以下、工場(鉄鋼)廃水であれば6ppm以下など)であり、アンモニウムイオン含有率の範囲としては、2~40ppmなどが挙げられる。
【0033】
シリカを凝集させる酸性凝集剤としては、本開示の発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、例えば、塩化第二鉄(FeCl3)などの鉄系凝集剤;硫酸アルミ二ウム(Al2(SO4)3)などのアルミ系凝集剤;ポリアクリルアミド系ノニオンなどの高分子凝集剤;が挙げられる。本開示の水処理方法に使用される酸性凝集剤は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0034】
また、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤としては、本開示の発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、例えば、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸マグネシウム(Na2CO3)などのアルカリ金属炭酸塩;ポリアクリルアミド系アニオンなどの高分子凝集剤;などが挙げられる。本開示の水処理方法に使用される塩基性凝集剤は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0035】
本開示の発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、処理工程において、シリカに対する酸性凝集剤のモル比(酸性凝集剤/シリカ)は、好ましくは1以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは15~30の範囲に調整する。
【0036】
また、本開示の発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、処理工程において、カルシウムに対する前記塩基性凝集剤のモル比(塩基性凝集剤/カルシウム)を、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは15~25の範囲に調整する。
【0037】
また、本開示の発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、処理工程において、塩基性凝集剤に対する酸性凝集剤のモル比(酸性凝集剤/塩基性凝集剤)は、好ましくは0.3~0.8、より好ましくは0.4~0.7、さらに好ましくは0.5~0.6の範囲に調整する。
【0038】
また、本開示の発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、処理工程において、水のpHは、好ましくは6.0~9.0、より好ましくは6.5~8.5、さらに好ましくは7.0~8.2の範囲に調整する。塩基性凝集剤によるカルシウムの凝集は、pHが高いほど効率的に進行することから、pHは7.0以上であることが好ましい。一方、酸性凝集剤によるシリカの凝集は、中性条件で進行しやすいため、pHは7.0以上、8.0以下で行うことが好ましい。本開示の水処理方法において、処理工程における水のpHは、水に含まれるシリカ及びカルシウムの含有率等に応じて経時的に変化させ、より効率的にシリカ及びカルシウムの凝集を行うことができる。水のpHの調整は、酸性凝集剤及び塩基性凝集剤を水と混合するタイミング、量、さらにはpH調整剤の使用などによって行うことができる。
【0039】
例えば、処理工程において、塩基性凝集剤と水とを混合してカルシウムの凝集工程を先行して処理槽中で行い、引き続き、酸性凝集剤と水とを混合してシリカの凝集工程を処理槽中で行うことができる。この場合、水のpHは7.0以上(アルカリ側)に保ちながらカルシウムの凝集を優先して行い、引き続き、酸性凝集剤を添加してシリカの凝集を行う。逆に、酸性凝集剤と水とを混合してシリカの凝集工程を先行して処理槽中で行い、引き続き、塩基性凝集剤と水とを混合してカルシウムの凝集工程を処理槽中で行うことができる。
【0040】
さらに、例えば、処理工程の後に、水からアンモニウムイオンを除去(回収)する工程をさらに設ける場合、水中のアンモニウムイオンは、pHが8.2を超えると、アンモニアとして揮発しやすくなることから、処理工程は、水のpHを8.2以下を保ちながらで行うことが好ましい。
【0041】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ、塩酸、硫酸、硝酸などの酸が挙げられる。これらの中でも、中和によって固形物が生成しない、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸、硝酸などが処理水からのスケールの生成を抑制する観点から好ましい。また、pH調整剤として、塩基性凝集剤を使用することもできるし、酸性凝集剤を使用することもできる。
【0042】
処理工程に供された後の水(処理水)のシリカ含有率は、例えば、2.4ppm以下、1.4ppm以下、1.0ppm以下など(具体的には、下水であれば2.4ppm以下、海水であれば1.0ppm以下、工場(鉄鋼)廃水であれば1.4ppm以下など)であり、また、例えば、0.004ppm以上、0.4ppm以上、1.0ppm以上など(具体的には、下水であれば1.0ppm以上、海水であれば0.004ppm以上、工場(鉄鋼)廃水であれば0.4ppm以上など)であり、シリカ含有率の範囲としては、0.004~2.4ppmなどが挙げられる。処理工程に供された後の水(処理水)のカルシウム含有率は、例えば、120ppm以下、36ppm以下、8ppm以下など(具体的には、下水であれば8ppm以下、海水であれば120ppm以下、工場(鉄鋼)廃水であれば36ppm以下など)であり、また、例えば、4ppm以上、28ppm以上、80ppm以上など(具体的には、下水であれば4ppm以上、海水であれば80ppm以上、工場(鉄鋼)廃水であれば28ppm以上)などであり、カルシウム含有率の範囲としては、4~120ppmなどが挙げられる。
【0043】
前記の通り、本開示においては、処理工程に供される水は、アンモニウムイオンの含有率が、例えば、2ppm以上、4ppm以上、25ppm以上など(具体的には、下水であれば25ppm以上、海水であれば2ppm以上、工場(鉄鋼)廃水であれば4ppm以上など)であり、また、例えば、40ppm以下、15ppm以下、6ppm以下など(具体的には、下水であれば40ppm以下、海水であれば15ppm以下、工場(鉄鋼)廃水であれば6ppm以下など)であってもよい。本開示の水処理方法では、処理水中のシリカの含有率及びカルシウム含有率が好適に低減される。このため、処理水をRO膜などを用いて高度に濃縮(例えば、アンモニウムイオン濃度が400ppm以上になるまで濃縮)しても、濃縮液中のシリカの含有率は、例えば、50ppm以下、カルシウムの含有率は、例えば、200ppm以下にまで低減することができ、シリカ及びカルシウムに起因するスケールの生成を抑制することができる。このため、例えばアンモニウムイオン濃度が400ppm以上という高濃度に濃縮された処理水から、アンモニウムイオンを除去することで、アンモニウムイオン(アンモニア)を効率的に回収することができる。したがって、本開示の水処理方法においては、前記処理工程の後に、水(処理水)からアンモニウムイオンを除去する工程を好適に設けることができる。
【0044】
水(処理水)からのアンモニウムイオンの除去は、例えば、pHを8.2超とした水を加熱し、アンモニアガスとして揮発させる方法など、公知の方法を採用することができる。
【0045】
2.水処理装置
本開示の水処理装置は、シリカ及びカルシウムを含む水の処理方法に用いられる水処理装置である。本開示の水処理装置は、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを共存させる、処理槽を備える。
【0046】
本開示の水処理装置は、前記「1.水処理方法」の欄で説明した本開示の水処理方法に好適に利用することができる。シリカを凝集させる酸性凝集剤、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤、水、処理槽等の詳細については、前記「1.水処理方法」の欄で説明した通りである。
【0047】
前記の通り、本開示の水処理装置は、処理槽1に加えて、原水槽5、酸性凝集剤槽2、塩基性凝集剤槽3、pH調整剤槽4、中和処理槽7、沈殿槽6などを有することができる(
図7,8)。
【実施例0048】
以下に実施例を示して本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[実験方法]
以下の実施例及び比較例における水処理の実験方法は、以下の通りである。100mlガラス製ビーカーに原水50mlを投入し、マグネティックスターラー(アズワン(株)製RS-6DN、回転子φ7×20)で撹拌しながら凝集剤および中和剤(pH調整剤)を添加し、600rpm急速撹拌で20分、50rpm緩速撹拌で20分反応させた。用いた凝集剤は、水中のシリカを凝集させる酸性凝集剤としての塩鉄(富士フィルム和光純薬(株)製の塩化第二鉄六水和物特級試薬)、水中のカルシウムを凝集させる塩基性凝集剤としてのソーダ灰(富士フィルム和光純薬(株)製の炭酸ナトリウム無水特級試薬)を用い、それぞれ2N濃度に調整した。また、pH調整剤として塩酸(富士フィルム和光純薬(株)製36%特級試薬)および水酸化ナトリウム(富士フィルム和光純薬(株)製粒状特級試薬)を用い、それぞれ2N濃度に調整した。pH調整は、pH指示計(東亜DKK(株)製IM-32P)の値を見ながら、マイクロピペットでpH調整剤を添加した。凝集反応後の溶液に含まれる成分は、卓上遠心機(日立工機(株)製CT6E)で6000rpm10分、遠心分離した上澄み液につき、0.45μmフィルター(アドバンテック(株)製DISMIC)でろ過後、ICP発光分析装置(島津製作所(株)製ICPE-9800)で定量した。
【0050】
<比較例1>
比較例1では、従来法として、Siを塩鉄で、Caをソーダ灰で除去した場合の凝集剤添加量と除去率の関係を検討した。用いた試料(化学工場廃水)の成分分析結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
試料50mlを撹拌しながら所定のモル比の塩鉄を添加した。凝集剤の添加によりpHが低下するため、水酸化ナトリウムでpHが約7.5となるよう調整した。結果を
図1に示す。
【0053】
塩鉄のみでSiを80%除去するには、Fe/Siモル比15以上の添加が必要で、その場合、Ca除去率は約30%、中和に必要な2NNaOHの添加量は原水容量の約2.5%であった。
【0054】
一方、ソーダ灰でCaを除去する場合、ソーダ灰の添加によりpHが上昇するため、塩酸でpHが約7.5となるよう調整した。通常のソーダ・ライム法では、pHを10以上に調整するが、比較例1では、塩鉄の凝集条件に合わせてpHを約7.5に合せた。結果を
図2に示す。
【0055】
pH約7.5の条件では、ソーダ灰では大きな凝集効果は期待できず、CO3/Feモル比20の条件においても、CaおよびSi除去率はそれぞれ20%および10%程度であった。
【0056】
<実施例1>
実施例1では、比較例1における塩鉄添加後、さらにソーダ灰を用いてpH調整を実施した。結果を
図3に示す。塩鉄-NaOHでは、Fe/Siモル比15以上でSi80%、Ca30%の除去であったが、塩鉄-Na
2CO
3では、モル比13でSi85%、Ca75%の除去が可能で、Si、Caの同時除去が可能であった。pH中性でソーダ灰単独では、Ca除去効果が小さかったことから、シリカを凝集させる酸性凝集剤と、カルシウムを凝集させる塩基性凝集剤と、水とを、同一の処理槽中で共存させて、水中のシリカ及びカルシウムを凝集させる、塩鉄-ソーダ灰同時添加の相乗効果が認められた。
【0057】
また、塩鉄-NaOHでは、中和のため原水に対し約2.5%のNaOHの添加が必要であったが、実施例1では追加のpH調整剤の必要はなかった。実施例1での塩鉄とソーダ灰の混合モル比(Fe/CO
3)は、0.5~0.6であった。
図4に同じ2N濃度の塩鉄とソーダ灰の混合割合とpHの関係を示す。
【0058】
通常の塩鉄の凝集反応pH域であるpH7~8となる混合モル比は、0.5~0.65で、原水Si濃度が高く(塩鉄添加量が多く)、Fe/CO3モル比が0.65を上回る場合は、pHが酸側となるため、pHを適正に維持するため、追加のアルカリ(NaOH等)を添加する。逆に、原水Ca濃度が高く(ソーダ灰添加量が多く)、Fe/CO3モル比が0.5を下回る場合は、pHがアルカリ側となるため、酸(塩酸等)を追加添加してpHを適正に維持する。
【0059】
<実施例2>
一般的に多価金属(Al、Ca等)は、pHが高い条件で水酸化物として析出しやすいことから、ソーダ灰を先に添加してpHを8以上に維持して10分間多価金属の凝集反応を促進した後、塩鉄を注入してさらに10分間反応を継続した。凝集剤添加条件としては、CO
3/Caが8.4の条件でソーダ灰を添加し、10分後、pHが約7.5となるよう塩鉄を添加した。結果を
図5に示す。ソーダ灰を先に添加することにより多価金属の除去率が向上した。
【0060】
<実施例3>
プロセスがアンモニア回収プロセスである場合、ソーダ灰を先行投入してpHが上昇すると、廃水中のアンモニウムイオンがアンモニアになり気散するようになり、アンモニアの回収率が低下する結果となる。そこで、前記工業廃水を凝集処理したときの凝集槽pHとT-N除去率の関係を調べた。ソーダ灰と塩鉄の添加量を変化させて、凝集槽のpHを変化させた。供試原水として表1の原水を用いた場合、原水中のCaモル濃度(5mmol/L)がSi(2mmol/L)の約2.5倍と高いため、ソーダ灰の添加量が多くなり、pHはややアルカリ側となる。凝集剤としてソーダ灰および塩鉄を対スケール成分モル比のCO
3/CaおよびFe/Siが、それぞれ10および15となるよう添加したとき、凝集槽のpHは7.4であった。凝集槽のpHを変化させるため、塩鉄の添加モル比を15から14.5、14.0と0.5刻みで小さくした。最終的に凝集剤添加量として、CO
3/Ca、Fe/Siモル比をそれぞれ10、10としたとき、凝集槽のpHは8.5まで上昇した。
図6に凝集槽pHとT-N除去率の関係を示す。T-N除去率(アンモニア回収率)はpHの影響をうけ、アンモニア回収率を95%以上(除去率5%以下)を確保するには、pHを8.2以下に抑える必要があることが分かる。したがって、ソーダ灰を先行添加してpHが8.2を超える場合は、塩鉄を添加して、pHが8.2を上回らないよう制御する必要がある。pHが8.2を超えない条件で多価金属の凝集反応を促進し、第2の槽にて、残りの塩鉄を加えて、追加の中和剤でpHを凝集反応に適したpHに調整する。第1の槽(処理槽)にて塩鉄を添加してもなおpHが8.2を超える場合は、第1の槽に酸を添加して、pHが8.2を超えない条件で凝集を促進させ、第2の槽(中和処理槽)において、放流水質を守れるよう、酸を添加して適正なpHにして放流することが好ましい。