(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024407
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】精製アルミニウム合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 21/06 20060101AFI20250213BHJP
C22B 9/02 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
C22B21/06
C22B9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128490
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】増山 靖史
(72)【発明者】
【氏名】若林 亮
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA22
4K001EA05
(57)【要約】
【課題】使用済みアルミニウム合金製品を原料に用いても不純金属元素の混入量が少ない精製アルミニウム合金を得ることができる精製アルミニウム合金の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金の原料を単独でアルミニウム合金の液相線温度以上の加熱温度で加熱して液状溶湯を得る第1加熱工程と、液状溶湯を前記液相線温度未満でかつアルミニウム合金の固相線温度以上の冷却温度で冷却して、アルミニウム合金粒子とスラッジとを生成させて半凝固状溶湯を得る冷却工程と、半凝固状溶湯を液相線温度以上でかつスラッジの溶解温度以下の加熱温度で加熱して、アルミニウム合金粒子を溶融させることにより精製液状溶湯を生成させてスラッジ含有液状溶湯を得る第2加熱工程と、スラッジ含有液状溶湯のスラッジと精製液状溶湯とを分離して、精製液状溶湯を回収する回収工程とを含む精製アルミニウム合金の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の原料を単独で前記アルミニウム合金の液相線温度以上の加熱温度で加熱して液状溶湯を得る第1加熱工程と、
前記液状溶湯を前記液相線温度未満でかつ前記アルミニウム合金の固相線温度以上の冷却温度で冷却して、アルミニウム合金粒子とスラッジとを生成させて半凝固状溶湯を得る冷却工程と、
前記半凝固状溶湯を前記液相線温度以上でかつ前記スラッジの溶解温度以下の加熱温度で加熱して、前記アルミニウム合金粒子を溶融させることにより精製液状溶湯を生成させてスラッジ含有液状溶湯を得る第2加熱工程と、
前記スラッジ含有液状溶湯の前記スラッジと前記精製液状溶湯とを分離して、前記精製液状溶湯を回収する回収工程と、を含む精製アルミニウム合金の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程で得られる前記半凝固状溶湯の前記アルミニウム合金粒子の含有量が10~90質量%の範囲内にある、請求項1に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程の前記冷却温度が、前記液相線温度に対して40℃低い温度以上、前記液相線温度に対して19℃低い温度以下の範囲内にある、請求項1または2に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【請求項4】
前記第2加熱工程の前記加熱温度が、前記液相線温度に対して1℃高い温度以上、前記液相線温度に対して129℃高い温度以下の範囲内にある、請求項1または2に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【請求項5】
前記第2加熱工程において、前記スラッジ含有液状溶湯を静置して前記スラッジを前記精製液状溶湯中に沈降させる、請求項1または2に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金の原料が使用済みアルミニウム合金製品である、請求項1または2に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製アルミニウム合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムにケイ素や銅などの金属元素を添加したアルミニウム合金は、種々の工業製品に利用されている。また、使用済みのアルミニウム合金製品からアルミニウム合金を回収して再利用することは、広く行われている。使用済みアルミニウム合金製品からアルミニウム合金を回収する際には、使用済みアルミニウム合金製品を加熱してアルミニウム合金の溶湯とするのが一般的である。このアルミニウム合金の溶湯には、アルミニウム合金製品に使用されたビスやリベットなどの金属製固定具やアルミニウム合金製品の使用中に付着した金属が混入し、アルミニウム合金として溶け込んでいることがある。このため、アルミニウム合金の溶湯から、アルミニウム合金に添加された添加金属元素以外の不純金属元素を除去するための方法が検討されている。
【0003】
アルミニウム合金に混入した鉄を除去する方法として、鉄・マンガン含有材と、アルミニウム合金とを溶融させて溶湯を得て、得られた溶湯を冷却して、鉄化合物を晶出させ、晶出した鉄化合物を除去する方法が知られている(特許文献1を参照)。また、アルミニウム合金の溶湯に冷却体を接触させることによって、溶湯を冷却して、溶湯中に不純物の金属間化合物を晶出させ、晶出した金属間化合物を重力落下させるとともに、冷却体表面に精製アルミニウム固相を固着成長させて、アルミニウムを回収する方法が知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-111808号公報
【特許文献2】特許第3250256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
使用済みアルミニウム合金製品から回収されたアルミニウム合金を用いて、アルミニウム合金製品を再生産する場合、回収されたアルミニウム合金は使用前のアルミニウム合金製品で用いられているアルミニウム合金と組成が同等であることが望ましい。すなわち、使用済みアルミニウム合金製品からアルミニウム合金を回収する場合、使用済みアルミニウム合金製品の溶湯から選択的に不純金属元素を含むアルミニウム化合物のみを除去することが望ましい。しかしながら、鉄・マンガン含有材を用いる方法では、鉄・マンガン含有材がアルミニウム合金内に残留するおそれがある。また、冷却体表面に精製アルミニウム固相を固着成長させる方法では、冷却体表面に融点が高いアルミニウムが固着しやすいため、添加金属元素を含むアルミニウム合金を得ることが難しい。
【0006】
本発明は、使用済みアルミニウム合金製品を原料に用いても不純金属元素の混入量が少なく、そのアルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金と同等の組成を有する精製アルミニウム合金を工業的に有利に製造することができる精製アルミニウム合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、不純金属元素を含むアルミニウム合金の溶湯を冷却して、溶湯中にアルミニウム合金粒子とスラッジとを生成させて半凝固状溶湯を得て、得られた半凝固状溶湯を加熱して、スラッジを溶解させずに、アルミニウム合金粒子を溶融させた後、スラッジと液状溶湯とを分離することによって、上記の課題を解決することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。よって、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1)アルミニウム合金の原料を単独で前記アルミニウム合金の液相線温度以上の加熱温度で加熱して液状溶湯を得る第1加熱工程と、前記液状溶湯を前記液相線温度未満でかつ前記アルミニウム合金の固相線温度以上の冷却温度で冷却して、アルミニウム合金粒子とスラッジとを生成させて、半凝固状溶湯を得る冷却工程と、前記半凝固状溶湯を前記液相線温度以上でかつ前記スラッジの溶解温度以下の加熱温度で加熱して、前記アルミニウム合金粒子を溶融させることにより精製液状溶湯を生成させてスラッジ含有液状溶湯を得る第2加熱工程と、前記スラッジ含有液状溶湯の前記スラッジと前記精製液状溶湯とを分離して、前記精製液状溶湯を回収する回収工程と、を含む精製アルミニウム合金の製造方法。
【0009】
(1)の精製アルミニウム合金の製造方法においては、第1加熱工程にて、アルミニウム合金の原料を単独で加熱するので、得られる液状溶湯に外部からの異物が混入しにくい。また、アルミニウム合金の原料に混入した不純金属元素を含むアルミニウム合金不純物は、冷却工程にて固形のスラッジとされ、回収工程にてアルミニウム合金の溶湯から分離される。また、アルミニウム合金の原料に混入した不純金属元素を除去するための添加剤を必要としない。このため、(1)の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、アルミニウム合金の原料として、使用済みアルミニウム合金製品を用いても、そのアルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金と同等の組成を有する精製アルミニウム合金を工業的に有利に製造することができ、得られた精製のアルミニウム合金は、そのアルミニウム合金製品の原料として有利に用いることができる。
【0010】
(2)前記冷却工程で得られる前記半凝固状溶湯の前記アルミニウム合金粒子の含有量が10~90質量%の範囲内にある、(1)に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【0011】
(2)の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、冷却工程で得られる半凝固状溶湯のアルミニウム合金粒子の含有量が上記の範囲内にあるので、アルミニウム合金不純物をスラッジとしてより確実に効率よく生成させることができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金により近くなる。
【0012】
(3)前記冷却工程の前記冷却温度が、前記液相線温度に対して40℃低い温度以上、前記液相線温度に対して19℃低い温度以下の範囲内にある、(1)または(2)に記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【0013】
(3)の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、冷却工程での冷却温度が上記の範囲内にあるので、アルミニウム合金不純物をスラッジとしてさらに確実に効率よく析出させることができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金にさらに近くなる。
【0014】
(4)前記第2加熱工程の前記加熱温度が、前記液相線温度に対して1℃高い温度以上、前記液相線温度に対して129℃高い温度以下の範囲内にある、(1)~(3)のいずれか1つに記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【0015】
(4)の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、第2加熱工程での加熱温度が上記の範囲内にあるので、スラッジを溶解させずに、アルミニウム合金粒子を溶解させることができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金にさらに近くなる。
【0016】
(5)前記第2加熱工程において、前記スラッジ含有液状溶湯を静置して前記スラッジを前記精製液状溶湯中に沈降させる、(1)~(4)のいずれか1つに記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【0017】
(5)の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、第2加熱工程にてスラッジを精製液状溶湯中に沈降させるので、回収工程にてスラッジと精製液状溶湯とをより確実に分離することができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金にさらに近くなる。
【0018】
(6)前記アルミニウム合金の原料が使用済みアルミニウム合金製品である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の精製アルミニウム合金の製造方法。
【0019】
(6)の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、アルミニウム合金の原料として、使用済みアルミニウム合金製品を用いるので、資源を有効利用でき、環境への負荷を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、使用済みアルミニウム合金製品を原料に用いても不純金属元素の混入量が少なく、そのアルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金と同等の組成を有する精製アルミニウム合金を工業的に有利に製造することができる精製アルミニウム合金の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る精製アルミニウム合金の製造方法を説明するフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る精製アルミニウム合金の製造方法における冷却工程を説明する概念図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る精製アルミニウム合金の製造方法における第2加熱工程を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る精製アルミニウム合金の製造方法を説明するフロー図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る精製アルミニウム合金の製造方法における冷却工程を説明する概念図であり、
図3は、第2加熱工程を説明する概念図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る精製アルミニウム合金の製造方法は、第1加熱工程S1、冷却工程S2、第2加熱工程S3、回収工程S4を含む。
【0024】
本実施形態の精製アルミニウム合金の製造方法において、アルミニウム合金原料としては、使用済みのアルミニウム合金製品を用いることができる。アルミニウム合金は、アルミニウムに添加金属元素を添加した合金である。添加金属元素としては、例えば銅、ケイ素、マグネシウム、マンガン、亜鉛を用いることができる。アルミニウム合金製品は、例えば鋳造材、鍛造材、展伸材であってもよい。鋳造材は、ダイカスト材であってもよい。アルミニウム合金の種類には特に制限はなく、例えばAl-Cu系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Mn系合金、Al-Cu-Si系合金、Al-Mg-Si系合金、Al-Zn-Mg系合金であってもよい。アルミニウム合金原料の例としては、ADC1、ADC3、ADC5、ADC6、ADC10、ADC10Z、ADC12、ADC12Z、ADC14を挙げることができる。アルミニウム合金原料は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
第1加熱工程S1は、アルミニウム合金原料を単独で液相線温度以上の加熱温度で加熱して液状溶湯を得る工程である。第1加熱工程S1のアルミニウム合金原料の加熱温度は、アルミニウム合金の液相線温度以上であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム合金原料がADC12(液相線温度:610℃)である場合、加熱温度は610℃以上であればよい。
【0026】
アルミニウム合金原料を加熱する加熱装置は特に制限はなく、例えば回転炉などアルミニウム合金の溶解炉として用いられている公知の装置を用いることができる。
【0027】
冷却工程S2は、液状溶湯を液相線温度未満でかつ固相線温度以上の冷却温度で冷却して、アルミニウム合金粒子とスラッジとを生成させて、半凝固状溶湯を得る工程である。
【0028】
図2に示すように、冷却工程S2にて、加熱装置1内の液状溶湯2を液相線温度未満の温度に冷却すると、添加金属元素を含むアルミニウム合金粒子3が生成する。アルミニウム合金粒子3が生成することによって、液状溶湯2のアルミニウム合金の量が減少し、不純金属元素を含むアルミニウム合金不純物の濃度が相対的に上昇する。アルミニウム合金不純物は、例えば不純金属元素とアルミニウムとを含む金属間化合物である。液状溶湯2のアルミニウム合金不純物の濃度が上昇すると、アルミニウム合金不純物が析出してスラッジ4が生成する。液状溶湯2の冷却は、液状溶湯2を攪拌しながら行ってもよいし、攪拌せずに行ってもよい。不純金属元素の例としては、鉄、クロム、ニッケル、ケイ素が挙げられる。
【0029】
冷却工程S2の冷却温度は、例えば液相線温度に対して40℃低い温度以上、液相線温度に対して19℃低い温度以下の範囲内にあってもよい。例えば、アルミニウム合金原料がADC12である場合、冷却温度は570~591℃の範囲内にあってもよい。冷却時間は特に制限はなく、例えば30分以上であってもよい。
【0030】
冷却工程S2で得られる半凝固状溶湯のアルミニウム合金粒子3の含有量は、例えば10~90質量%の範囲内にあってもよい。アルミニウム合金粒子3の含有量は、アルミニウム合金の相平衡状態図の液相線温度と固相線温度、冷却温度から算出することができる。
【0031】
第2加熱工程S3は、半凝固状溶湯を液相線温度以上でかつスラッジの溶解温度以下の加熱温度で加熱して、スラッジを溶解させずに、アルミニウム合金粒子を溶融させることによって、スラッジ含有液状溶湯を得る工程である。
【0032】
図3に示すように、第2加熱工程S3では、冷却工程S2で得られた半凝固状溶湯を液相線温度以上で加熱するので、アルミニウム合金不純物を含まないアルミニウム合金粒子が溶融して精製液状溶湯2aが生成する。また、加熱温度はスラッジ4の溶解温度以下とされているので、スラッジ4は精製液状溶湯2aに溶解しにくい。半凝固状溶湯の加熱は、半凝固状溶湯を攪拌しながら行ってもよいし、攪拌せずに行ってもよい。第2加熱工程S3において、スラッジ4を含む精製液状溶湯2aを静置することによって、スラッジ4を沈降させ、加熱装置1の底部に堆積させてもよい。
【0033】
第2加熱工程の加熱温度は、例えば液相線温度に対して1℃高い温度以上、液相線温度に対して129℃高い温度以下の範囲内にあってもよい。例えば、アルミニウム合金原料がADC12であって、スラッジが鉄とアルミニウムとを含む金属間化合物である場合、加熱温度は611~739℃の範囲内にあってもよい。加熱時間は特に制限はなく、例えば30分以上であってもよい。
【0034】
回収工程S4は、スラッジ含有液状溶湯のスラッジと精製液状溶湯とを分離して、精製液状溶湯を回収する工程である。
精製液状溶湯を回収する方法としては、特に制限はなく、ろ過、デカンテーション、遠心分離などの各種の固液分離法を用いることができる。
【0035】
回収工程S4で回収された精製液状溶湯は、一旦、凝固させてアルミニウム合金インゴットとしてもよい。また、精製液状溶湯を直接、鋳造材、鍛造材、展伸材の原料として利用いてもよい。さらに、必要に応じて、精製液状溶湯に添加金属元素を添加してもよい。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態の精製アルミニウム合金の製造方法においては、第1加熱工程S1にて、アルミニウム合金の原料を単独で加熱するので、得られる液状溶湯に外部からの異物が混入しにくい。また、アルミニウム合金原料に混入した不純金属元素を含むアルミニウム合金不純物は、冷却工程S2にて固形のスラッジとされ、回収工程S4にてアルミニウム合金の溶湯から分離される。また、アルミニウム合金の原料に混入した不純金属元素を除去するための添加剤を必要としない。このため、本実施形態の精製アルミニウム合金の製造方法によれば、アルミニウム合金原料として用いた使用済みアルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金と同等の組成を有する精製アルミニウム合金を工業的に有利に製造することができ、得られた精製のアルミニウム合金は、そのアルミニウム合金製品の原料として有利に用いることができる。
【0037】
本実施形態の精製アルミニウム合金の製造方法において、冷却工程S2で得られる半凝固状溶湯のアルミニウム合金粒子の含有量が上記の範囲内にある場合は、アルミニウム合金不純物をスラッジとしてより確実に効率よく生成させることができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金により近くなる。また、冷却工程S2での冷却温度が上記の範囲内にある場合は、アルミニウム合金不純物をスラッジとしてさらに確実に効率よく析出させることができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金にさらに近くなる。
【0038】
本実施形態の精製アルミニウム合金の製造方法において、第2加熱工程S3での加熱温度が上記の範囲内にある場合は、スラッジを溶解させずに、アルミニウム合金粒子を溶解させることができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金にさらに近くなる。また、第2加熱工程S3にて、スラッジ含有液状溶湯を静置して、スラッジを精製液状溶湯中に沈降させる場合は、回収工程にてスラッジと精製液状溶湯とをより確実に分離することができる。このため、得られる精製アルミニウム合金の組成は、アルミニウム合金製品で使用されていたアルミニウム合金にさらに近くなる。
【0039】
本実施形態の精製アルミニウム合金の製造方法においては、アルミニウム合金原料として使用済みアルミニウム合金製品を使用するので、資源の有効利用が可能となるので、環境への負荷を低減することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
例えば、本実施例形態では、アルミニウム合金原料として、使用済みアルミニウム合金製品を用いているが、アルミニウム合金原料はこれに限定されるものではない。アルミニウム合金原料として、金属アルミニウムと添加金属元素とを含む原料混合物を用いてもよい。添加金属元素としては、例えば銅、ケイ素、マグネシウム、マンガン、亜鉛を用いることができる。この場合、金属アルミニウムや添加金属元素に含まれる不純物をスラッジとして除去できる。
【実施例0041】
[実施例1]
アルミニウム合金原料として、使用済みアルミニウム合金ダイカスト製品(ADC12、液相線温度:610℃)を用意した。用意したADC12を回転炉に投入し、650℃で加熱して液状溶湯を得た(第1加熱工程)。得られた液状溶湯の一部を抜き取って、凝固させ、その組成を分析した。その結果を、使用済みのアルミニウム合金の組成として、下記の表1に示す。また、表1に、使用前のアルミニウム合金ダイカスト製品のアルミニウム合金の成分の組成を、使用前のアルミニウム合金の組成として記載した。
【0042】
次いで、液状溶湯を580℃で30分間、静置状態で冷却して、アルミニウム合金粒子とスラッジとを含む半凝固状溶湯を得た(冷却工程)。アルミニウム合金の相平衡状態図の液相線温度と固相線温度、液状溶湯の温度(580℃)から算出した半凝固状溶湯のアルミニウム合金粒子の含有量は、63質量%である。
【0043】
次いで、半凝固状溶湯を620℃で30分間、静置状態で加熱して、アルミニウム合金粒子を溶融させた(第2加熱工程)。得られた液状溶湯の底部にはスラッジが堆積していた。次いで、回転炉から液状溶湯とスラッジとをそれぞれ回収した(回収工程)。回収したスラッジの組成を分析した結果、スラッジは、鉄とアルミニウムとを含む金属間化合物であることが確認された。また、スラッジの溶解温度は、740℃であった。なお、スラッジの溶解温度の測定は、次にようにして行った。スラッジを、熱電子付きの耐熱容器に収容して、電気炉に投入する。次いで、熱電対を用いてスラッジの温度を測定しながら、スラッジを加熱する。スラッジが溶融したときの温度を溶解温度とする。
【0044】
回収した液状溶湯を放冷してアルミニウム合金を得た。得られたアルミニウム合金の収率は96%であった。得られたアルミニウム合金の一部を採取して、その組成を分析した。その結果を、精製アルミニウム合金の成分の含有量として、下記の表1に示す。また、表1に、下記の式(1)により算出した成分含有量の変化量と、下記の式(2)により算出した成分含有量の変化率をそれぞれ示す。
成分含有量の変化量(質量%)=精製アルミニウム合金の成分の含有量(質量%)-使用済みのアルミニウム合金の成分の含有量(質量%) (1)
成分含有量の変化率(%)=[精製アルミニウム合金の成分の含有量(質量%)-使用前のアルミニウム合金の成分の含有量(質量%)]/使用前アルミニウム合金の成分の含有量(質量%)×100 (2)
【0045】
【0046】
表1の成分含有量の変化量から、実施例1によれば、ADC12の主要な添加金属元素である銅やケイ素の含有量を大きく変化させずに、鉄、マンガン、クロムなどの遷移金属の含有量を大幅に低減できることが確認された。また、成分含有量の変化率から、得られた精製アルミニウム合金は、使用前のアルミニウム合金と同等の組成を有することが確認された。