(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024412
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20250213BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128497
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】陰山 和気
(72)【発明者】
【氏名】竹ヶ鼻 仁
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA16
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701DA11
3J701GA29
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB16
(57)【要約】
【課題】組付け性が改善されたころ軸受を提供する。
【解決手段】1対の軌道輪である内外輪10,20と、径方向において内外輪10,20の間に位置する複数のころ30と、これらころ30を保持する保持器40とを備え、前記1対のうち一方の軌道輪10と複数のころ30と保持器40とを合わせた組立品70が、前記1対のうち他方の軌道輪20に対して軸方向に相対移動されることで分離・組立可能なころ軸受50であって、前記他方の軌道輪20は、ころ30の軌道を画定する軌道面11とその軌道輪端面12との間を滑らかに繋げる周面をなす複数の曲面部131,132,133を有し、前記複数の曲面部は、それぞれ異なる曲率半径を有するR形状であり、前記複数の曲面部は、軌道輪端面12から軌道面11に向かうに従ってその曲面部の曲率半径が大きくなるように、軸方向に順次接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の軌道輪である内外輪と、径方向において前記内外輪の間に位置する複数のころと、これらころを保持する保持器とを備え、前記1対のうち一方の軌道輪と前記複数のころと前記保持器とを合わせた組立品が、前記1対のうち他方の軌道輪に対して軸方向に相対移動されることで分離・組立可能なころ軸受であって、
前記1対のうち他方の軌道輪は、前記ころの軌道を画定する軌道面とその軌道輪端面との間を滑らかに繋げる周面をなす複数の曲面部を有し、前記複数の曲面部は、それぞれ異なる曲率半径を有するR形状であり、前記複数の曲面部は、前記軌道輪端面から前記軌道面に向かうに従ってその曲面部の曲率半径が大きくなるように、軸方向に順次接続されている、ころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のころ軸受であって、前記複数の曲面部は、前記軌道輪端面に繋がる第1曲面部と、この第1曲面部に軸方向に隣接して繋がる第2曲面部とを有し、前記第1曲面部と前記第2曲面部とを接続する接続端部と、前記軌道面との間の径方向距離であるドロップ量(C)を、前記ころの直径(D)で除して得られる数値(C/D)が、0.02以上かつ0.40以下である、ころ軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載のころ軸受であって、前記複数の曲面部は、前記軌道面から前記軌道輪端面に向かうに従ってその表面粗さが粗くなるように配置される、ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンプレッサーのような産業機械に広く用いることが可能なころ軸受に関する。より具体的には、内外輪のいずれか一方の軌道輪に組立用のリードインチャンファ(lead in fillet)を有するころ軸受において、組付け性を改善することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ころ軸受の組立ての容易性に鑑みて、1対の軌道輪のうちいずれか一方の軌道輪に、リードインチャンファを設けたころ軸受が実用に供されている。このころ軸受は、内外輪のいずれか一方の軌道輪と前記複数のころと前記保持器とを合わせた組立品を、他方の軌道輪に対し軸方向に相対移動させることによって分離・組立可能である。(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-45988号公報
【特許文献2】特開平11-82518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなころ軸受においては、複数のころの軸線を、一対の軌道輪(内輪および外輪)の軸線と平行となるように保ちながら、全ての部品を組み付ける必要があった。また、ころ軸受のころが径方向内側または径方向外側へ押されて保持器から脱落してしまうのを抑制しながら、組付けを行う必要があった。このように、従来のころ軸受では、各構成を精度よく慎重に組み付けなければならず、組付け性の観点からは改善の余地があった。
【0005】
特許文献1の円筒ころ軸受に備えられる保持器は、一対の環状部間を結ぶ柱部を複数備え、周方向に隣り合う柱部間をポケットとしている。また、円筒ころの軸方向に対する傾きを抑制するために、ポケットを挟んで対向するころ落ち止め部間の距離を、円筒ころの直径未満としている。
【0006】
特許文献2の軸受用保持器には、環状部の内径部または外径部を半径方向に延ばして、柱部よりも内径側または外径側に突出するようにした延設部が設けられている。特許文献2では、この延設部の突出方向を所定の向きとすることにより、ころの半径方向の移動量を規制する、としている。
【0007】
しかしながら、ころの組付け時に、各部材の軸線方向の不一致やころ落ち等に起因して、ころの縁部や軌道輪の縁部などに応力が集中することは依然として生じうるものであり、組付け性をより向上させるための改善が望まれていた。
【0008】
また、ころの軸線が、軌道輪の軸方向に対して大きくずれている場合、またはころの径方向への移動量(「落ち量」とも称する。)が大きい場合、組付け時に、内輪または外輪の軌道輪端面と、ころ端面とが、接触する虞があり、そのような位置関係を維持したままでは、軸受を組み立てることが不能となる。また、上記の位置関係を維持したまま各部材に荷重を加えて無理やりに軸受を組み立てようとすると、ころが保持器から脱落する虞もある。
【0009】
本発明の目的は、上記のような事情に鑑み、組付け性を改善したころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のころ軸受は、1対の軌道輪である内外輪と、径方向において前記内外輪の間に位置する複数のころと、これらころを保持する保持器とを備え、前記1対のうち一方の軌道輪と前記複数のころと前記保持器とを合わせた組立品が、前記1対のうち他方の軌道輪に対して軸方向に相対移動されることで分離・組立可能なころ軸受であって、
前記1対のうち他方の軌道輪は、前記ころの軌道を画定する軌道面とその軌道輪端面との間を滑らかに繋げる周面をなす複数の曲面部を有し、前記複数の曲面部は、それぞれ異なる曲率半径を有するR形状であり、前記複数の曲面部は、前記軌道輪端面から前記軌道面に向かうに従ってその曲面部の曲率半径が大きくなるように、軸方向に順次接続されている、ころ軸受である。
【0011】
この構成によれば、対をなす軌道輪のうちの他方における軌道面と軌道輪端面との境界部を単なる面取り形状とした場合に生じる軌道面上のエッジ部を無くしながら、軌道輪端面の径方向における寸法を小さくして、軌道輪端面ところ端面とが接触する虞を軽減することができる。その結果、エッジ部によるころ軌道面の損傷を防止しながら、ころ軸受の組付け性を改善することができる。
【0012】
好ましくは、本発明のころ軸受においては、前記複数の曲面部は、前記軌道輪端面に繋がる第1曲面部と、この第1曲面部に軸方向に隣接して繋がる第2曲面部とを有し、前記第1曲面部と前記第2曲面部とを接続する接続端部と、前記軌道面との間の径方向距離であるドロップ量(C)を、前記ころの直径(D)で除して得られる数値(C/D)が、0.02以上かつ0.40以下である。
この構成によれば、前記複数の曲面部の形状を、転動体の径方向における寸法との比率を考慮した上で適正にすることができ、軌道輪の端面の主要部をストレート面としつつ、軌道輪端面のドロップ量を増加して、軌道輪のころ軸受への組み込みが容易化される。
【0013】
好ましくは、本発明のころ軸受においては、前記複数の曲面部は、前記軌道面から前記軌道輪端面に向かうに従ってその表面粗さが粗くなるように配置される。
この構成によれば、第1曲面部については、第2曲面部の表面粗さほどには、砥石等の手段で研摩する必要が無くなり、ころ軸受の製造工程をシンプルにすることができる。
【0014】
なお、本明細書において、「軸方向」とは、ころ軸受が精度よく理想的に組付けられた場合における、1対の軌道輪に共通する本来的な軸線方向を指し、「周方向」とは、軸線方向を中心にして描かれる仮想円の円周方向を指し、「径方向」とは、前記仮想円の中心と当該仮想円の外周上の任意の点とを軸線方向に対して垂直な面内において直線的に結ぶ半径方向を指す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、組付け性が改善されたころ軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の一形態に係るころ軸受の縦断面図である。
【
図3】同ころ軸受の内輪の要部の拡大断面図である。
【
図4】同ころ軸受における、外輪と、ころと、保持器とを組み合わせたサブアッセンブリに、内輪を組み付ける際の様子を示す断面模式図である。
【
図5】従来例のころ軸受の内輪の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態:NU形、
図1~
図4]
本実施形態に係るころ軸受を図面と共に説明する。ころ軸受は、例えば、コンプレッサー等の産業機械に使用される。
<ころ軸受の概略構造>
図1は、本発明の一実施形態に係るころ軸受50の概略構成を示す断面図である。本実施形態に係るころ軸受50は、円筒ころ軸受であり、内輪10と、外輪20と、複数の円筒状のころ30と、保持器40とを備えている。
【0018】
以下の説明においては、「軸方向」、「周方向」、および「径方向」とはそれぞれ、上述の課題を解決するための手段において定義した方向を指すものとして、説明を行う。
【0019】
本実施形態に係るころ軸受50は、NU型の円筒ころ軸受であり、外周面に外側軌道面11を有する内輪10と、内周面に内側軌道面21を有する外輪20と、径方向において前記の内外輪10,20の間に位置し、内外の軌道面11,21の間で転動自在に配置される複数の円筒状のころ30と、周方向に隣り合うころ30,30を離間させつつ保持する保持器40とを備えている。
【0020】
内輪10と外輪20とで、1対の軌道輪をなしている。本実施形態に係る外輪20は、その軸方向両端部に、径方向内側へ突出する鍔部22を有する。保持器40は、軸方向の一側と他側とに設けられる2つの環状部材41と、それぞれが軸方向に延びて軸方向両端が環状部材41,41に接続されると共に、周方向に一定の間隔を空けて配置される複数の柱部42とを有する。環状部材41と周方向に隣り合う柱部42とによって画定される複数のポケットのそれぞれに、ころ30が1つずつ収容される。かかるころ軸受50では、各ころ30の外周面が、内外の軌道面11,21に接触しながら回転することで、各ころ30が自転しながら周方向に公転し、これにより内輪10と外輪20とを相対回転可能にしている。
【0021】
上記のような構成のころ軸受を組み立てる際、例えば、一方の軌道輪に保持器ところを取り付けてサブアッセンブリ(組立品70)とした上で、当該サブアッセンブリに対し、他方の軌道輪を軸方向の一方側(又は他方側)から組み付けることが行われていた。その際、サブアッセンブリの軸線と、軌道輪の他方の軸線とを、一直線に配置しながら、かつ、保持器に支持されるころが径方向内側または径方向外側へ押されて保持器から脱落してしまうのを抑制しながら、精度よく慎重に組み付けることが求められていた。
【0022】
これに関して、サブアッセンブリの軸線と、他方の軌道輪の軸線とを、一致させやすくするとともに、ころ端面と軌道輪端面とが接触する虞を低減することでころの脱落を防止するために、他方の軌道輪における軌道面および軌道輪端面のあいだの境界部を、軸方向に対して斜めに削って傾斜面(テーパ面)として、面取り形状とすることが考えられる。
【0023】
しかしながら、
図5に例示されるように境界部を面取り形状とするだけでは、軌道輪端面のドロップ量を十分に確保できず依然としてころ端面と軌道輪端面とが接触する虞があり、また前記面取り部と軌道面の接続部(エッジ)が鋭利になってしまい、組付け性が不良となる虞もある。
【0024】
これに対し、本実施形態のころ軸受では、軌道面11と軌道輪10の端面12(以下、軌道輪端面12と称する。)と間を接続する境界部の外表面を、特有の曲面状にして、リードインチャンファを構成することで、ころ端面と軌道輪端面とが接触する虞をより軽減し、組付け性を向上させている。
【0025】
以下では、その本実施形態において特徴的な構成について、
図3を参照してより詳細に説明する。
図3は、内輪10における外側軌道面11と、軌道輪端面12と、これらを曲面状(断面視で曲線状)に接続する境界部13と、の形状を示す断面図である。
【0026】
境界部13は、軸方向他方側に向かうにつれてその外表面(周面)が径方向内側に緩やかに下降する曲面状である。境界部13は、外側軌道面11と、平坦な軌道輪端面12とのあいだを滑らかに繋ぐように、また外側軌道面11と軌道輪端面12との接続部を断面視で丸め込むように接続する。本実施形態の境界部13は、第1曲面部131と、第2曲面部132と、第3曲面部133とを有する。本実施形態の第1曲面部131と、第2曲面部132と、第3曲面部133とは、互いに異なる曲率半径を有するR形状である。より具体的には、第2曲面部132の曲率半径R2は第1曲面部131の曲率半径R1よりも大きく、第3曲面部133の曲率半径R3は第2曲面部132の曲率半径R2よりも大きく設計されている。これら曲面部131,132,133は、軌道輪端面12の側からこの順で、軸方向に順次接続される。これにより、本実施形態に係る境界部13は、軸方向に沿う断面で視たときに、軌道輪端面12から外側軌道面11に向かうに従ってその曲面部131,132,133の曲率半径が大きくなるようにして、リードインチャンファを形成している。
【0027】
詳述すると、
図2および
図3に示すように、曲面部131,132,133はそれぞれ、内輪10(の境界部13)を軸方向に沿う断面でみたときに、円弧状の部分である。これらの円弧状の部分はそれぞれ、半径がR1の第1仮想円の円弧、半径がR2の第2仮想円の円弧、および半径がR3の第3仮想円の円弧である。前記第1曲面部の径方向内側の端部は軌道輪端面12の外縁部に接続され、前記第1曲面部の径方向外側の端部は前記第2曲面部の径方向内側の端部に接続され、前記第2曲面部の径方向外側の端部は前記第3曲面部の径方向内側の端部に接続され、前記第3曲面部の径方向外側の端部は外側軌道輪11の軸方向他方側の端部に接続される。
【0028】
ここで、前記第1曲面部と前記第2曲面部とは滑らかに接続されており、前記第2曲面部と前記第3曲面部も、同様に滑らかに接続されている。また、前記第3曲面部をなす第3仮想円の半径R3は、R2と比べて大きいため、外側軌道面11に滑らかに接続させることができ、第3曲面部133と外側軌道面11との境界部分に鋭利なエッジなどは形成されない。
【0029】
また、本実施形態のころ軸受50(
図1)では、第1曲面部131の表面粗さS1は、第2曲面部132の表面粗さS2と同じかそれよりも大きい。同様に、第2曲面部132の表面粗さS2は、第3曲面部133の表面粗さS3よりも大きい。すなわち、境界部13をなす曲面の表面粗さは、S3<S2≦S1との大小関係を満たし、外側軌道面11に近づくほど表面粗さが小さくなっている。
【0030】
詳述すると、表面粗さは、JIS B 0651に基づき測定し、最大粗さ(Rmax)、算術平均粗さ(Ra)、または十点平均粗さ(Rz)で表される。例えば、第1曲面部の表面粗さS1のRaは3.2μm以上6.3μm以下である。第2曲面部の表面粗さS2のRaは、0.8μm以上6.3μm以下、第3曲面部の表面粗さS3のRaは、0.8μm以上1.6μm以下である。
このように、内輪10の外表面は、外側軌道面11に近いほど、つまり組付け時にころ30と接触しやすい箇所ほど、表面粗さが小さくなっている。表面粗さの測定箇所は、内輪の第1曲面部、第2曲面部、第3曲面部の各曲面部の任意の1ヶ所を測定する。
【0031】
境界部13の寸法設定について詳述すると、軸方向に沿う断面でみたときに、
図2及び
図3に示すように、第1曲面部131および第2曲面部132が互いに接続される接続端部Zと、外側軌道面11との間の径方向における距離Cであるドロップ量を、ころ30の直径Dで除して得られる値(C/D)が、0.02以上かつ0.40以下であることが好ましく、また0.02以上かつ0.20以下であることがより好ましい。前記値(C/D)が0.02未満であると、ドロップ量が不足して、ころ30と軌道輪端面が接触する可能性が増加し、ころ軸受への軌道輪の組み込みが容易でなくなる。前記値(C/D)が0.40を超えると、ドロップ量が過大となり、軌道輪端面12のストレート面の径方向寸法が不足して、鋭利な形状となり、ころ30や隣接部材にキズをつける可能性がある。このように境界部13の形状を、上記の数値範囲を満たすような形状とすることで、内輪10の軌道輪端面12ところ端面31との接触を回避しながら、軌道輪端面12のストレート面の径方向寸法を確保することが可能である。
【0032】
<ころ軸受の組立方法>
以上のような構成のころ軸受50は、例えば
図4に示すようなサブアッセンブリの組立てを経て、各部品が組み立てられる。
すなわち、まず保持器40において周方向に隣り合う柱部42,42の間に画定されるポケットに、ころ30が収容される。このように保持器40と複数のころ30とを組み合わせたものが、外輪20に組み付けられる。具体的には、外輪20と保持器40を同心円に配置し、周方向に沿って等間隔に配置された柱部42の間にころ30を圧入することで、ころ30と保持器40と外輪20とが組み合わされた外輪側サブアッセンブリ70(組立品)が形成される。
【0033】
一方、外輪20に対して相対回転させる回転対象物であるシャフト60が、内輪10の挿通孔14に挿入されて、焼嵌め、圧入などの公知の方法により、シャフト60と内輪10とが相対回転不能に固定される。このシャフト60と内輪10とを合わせたものが、外輪側サブアッセンブリ70の軸方向一方側から、複数のころ30の配列の径方向内側を通るように移動される。これにより、径方向内側へ向かって、外輪20と、ころ30および保持器40と、内輪10とが、この順に一直線に(径方向に)並ぶ状態として、ころ軸受50の組立てを完了することができる。
【0034】
図4に示すように、外輪側サブアッセンブリ70に対して、シャフト60と内輪10とを合わせたものが、複数のころ30の配列の径方向内側へと挿入される場合、外輪側サブアッセンブリ70ところ30とが完全に同心でない限り、ころ30の軸方向一方側に位置するころ端面31ところ軌道面32との角部(内縁部)に対して、内輪10の境界部13が衝突する。これにより、ころ30が境界部13によって案内されて、ころ30が内輪10の外側軌道面11に乗り上げられて、ころ軸受50の組立てが完了する。
【0035】
<作用効果>
以上のような構成のころ軸受50によれば、対をなす軌道輪10,20のうちの内輪10の他方側における外側軌道面11と軌道輪端面12との境界部13を単なる面取り形状とした場合に生じる軌道輪端面12上のエッジ部を鈍化させながら、軌道輪端面12の径方向における寸法を小さくすることができる。
【0036】
詳述すると、一方の軌道輪における外側軌道面と軌道輪端面との接続部(角部)を、角を単に斜めに削って傾斜面(テーパ面)とした場合には、
図5に示すように、この傾斜面と軌道面との境界部分に鋭利なエッジが生じる。なお、
図3中に2点鎖線で示したのが、断面視における前記傾斜面の外表面である。この傾斜面の傾きが軸方向のいずれの位置においても一律なため、エッジを鈍化させるために軌道面と前記傾斜面の間の角度X(
図3)が小さくなるように設計すると、軌道面端面のドロップ量が小さくなってしまい、軌道輪端面ところ端面とが接触する虞が増大し、組付け性の低下を招くと考えられる。
【0037】
この点、本実施形態に係るころ軸受50によれば、軸方向他方側における軌道輪端面12のドロップ量を増加させながら、外側軌道面11と、複数の曲面部R1,R2,R3のうち最も外側軌道面11に近い曲面部R3との、境目のエッジを緩やかにすることが可能であり、前記エッジによるころ軌道面32の損傷を防止しながら、ころ軸受50の組付け性を改善することができる。
【0038】
<変形例>
[他の実施形態:N形など]
上記の実施形態では、
図4のように、外輪20と、複数のころ30と、保持器40とを組み合わせた外輪側サブアッセンブリ70の(径方向内側の)空洞部に向かって、軸方向の他方側から内輪10を組み付けるとしたが、これに限るものではない。
上記外輪側サブアッセンブリに代えて、内輪10と、複数のころ30と、保持器40とを組み合わせた内輪側サブアッセンブリと、外輪20に対して円筒状の回転対象物がその径方向外側に取り付けられた他のサブアッセンブリとが、最初に用意され、内輪側サブアッセンブリの軸方向一方側または他方側から、上記他のサブアッセンブリが、上記内輪側サブアッセンブリ80に組み付けられるとしてもよい。すなわち、ころ軸受50はNU形のものに限られず、N型のころ軸受にも適用できる。その場合、外輪20の径方向内側の内縁部に上記実施形態で示したような境界部13が形成され、鍔部が外輪側に代えて内輪側に設けられるものとすればよい。
【0039】
さらに、本開示に係るころ軸受は、N形、NN形、NJ形、NNU形等の他の形式のものにも適用することが可能である。
【0040】
上記の実施形態では、
図3の境界部13は3つの曲面部(すなわち、第1~第3曲面部131,132,133)を有するとしたが、これに限るものではなく、境界部13が4つ以上の曲面部を有してもよい。
【0041】
上記の実施形態では、ころ軸受50は円筒ころ軸受であるものとしたが、これに限るものではない。例えば、ころ軸受50は、円筒ころ軸受に代えて、針状ころ軸受であるとしてもよい。
【0042】
上記の実施形態では、内輪10の軸方向一方側に境界部13が設けられるものとし、軸方向他方側の構成については特に触れなかったが、内輪の軸方向他方側に当該内輪の径方向外側へ突出する位置決め部(突出部)が設けられる等の、種々の変更を加えてもよい。
【0043】
各実施形態のころ軸受を、コンプレッサーに代えて、例えば、工作機械、ロボット等の産業機械に適用することも可能である。
【0044】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
10…内輪(他方の軌道輪)
11…外側軌道面
12…軌道輪端面
13…境界部
131…第一曲面部
132…第二曲面部
133…第三曲面部
14…挿通孔
20…外輪(一方の軌道輪)
21…内側軌道面
22…鍔部
30…ころ
31…ころ端面
32…ころ軌道面
40…保持器
41…環状部材
42…柱部
50…ころ軸受
60…シャフト(回転対象物)
70…外輪側サブアッセンブリ(組立品)