(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024447
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】重合体組成物、単層フィルム及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20250101AFI20250213BHJP
C08L 23/14 20060101ALI20250213BHJP
C08L 23/08 20250101ALI20250213BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20250213BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20250213BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L23/14
C08L23/08
C08L23/06
B32B15/085 A
B32B27/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128558
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 信貴
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AB00
4F100AB00B
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK64
4F100AK64A
4F100AK66
4F100AK66A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH17
4F100GB15
4F100JA06
4F100JK06
4J002BB034
4J002BB053
4J002BB141
4J002BB212
4J002GF00
(57)【要約】
【課題】押出ラミネート成形において成形性に優れ、高温雰囲気下においても基材層との接着性を良好に維持し得る重合体組成物を提供すること。
【解決手段】下記成分(A)~成分(D)を含有する重合体組成物。
成分(A):プロピレン系重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体
成分(B):プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及びプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のプロピレン系共重合体であって、120℃の貯蔵弾性率が6~300MPaのプロピレン系共重合体
成分(C):JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される密度が0.855~0.910g/cm3のエチレン・α-オレフィン共重合体
成分(D):高圧法低密度ポリエチレン
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~成分(D)を含有する重合体組成物。
成分(A):プロピレン系重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体
成分(B):プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及びプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のプロピレン系共重合体であって、120℃の貯蔵弾性率が6~300MPaのプロピレン系共重合体
成分(C):JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される密度が0.855~0.910g/cm3のエチレン・α-オレフィン共重合体
成分(D):高圧法低密度ポリエチレン
【請求項2】
前記成分(A)~成分(D)の含有量の合計に対する前記成分(B)の含有率が45~75質量%である、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
前記成分(B)がプロピレン・エチレン共重合体である、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項4】
前記成分(B)におけるプロピレン単位の含有率が90~99.5質量%である、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体組成物を含む単層フィルム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体組成物を含む接着層と、基材層とを含む、積層体。
【請求項7】
前記基材層が、金属材料からなる金属層又は金属と樹脂との複合材料からなる金属層である、請求項6に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物、単層フィルム及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
基材層と接着性重合体組成物からなる接着層を積層して得られる積層体は、産業資材、自動車、食品や医薬品等、品質の保持が重要視される内容物を包装する材料として広く用いられている。これらの用途に用いる積層体の基材層としては、包装材料に成形性及び材料強度が要求される場合は、金属材料からなる金属層や金属と樹脂との複合材料からなる金属層が用いられる。
このような基材層と接着層とを積層する方法として、押出ラミネート成形、熱ラミネート成形、共押出成形等が知られているが、中でも押出ラミネート成形は、製造速度が高いため好適に用いられている。
【0003】
しかしながら、押出ラミネート成形においては、既にフィルム状となっている基材層の表面に溶融した接着性重合体組成物等を高速でラミネートするため、両層間の接着強度は必ずしも高くならない。近年、上記積層体に対する耐久性、耐熱性の要求が高まりつつあり、より高温雰囲気下でも高い接着強度を求められるケースが増えている。
【0004】
このような問題を解決する方法として、例えば、ポリプロピレンを不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性した変性ポリプロピレンを含有するポリプロピレン系樹脂と、プロピレン系共重合体と、エチレン・α-オレフィン共重合体と、ポリエチレンとを含有する重合体組成物(特許文献1参照)を用いる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、押出ラミネート成形によって得られる、特許文献1に記載された重合体組成物を用いた接着層と基材層とを有する積層体において、100℃を超える高温雰囲気下での接着強度は十分ではなく、改良の余地があった。
【0007】
本発明は、押出ラミネート成形において成形性に優れ、高温雰囲気下においても基材層との接着性を良好に維持し得る重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、プロピレン系重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体と、特定の貯蔵弾性率を満足するプロピレン系共重合体と、特定の密度を満足するエチレン・α-オレフィン共重合体と、高圧法低密度ポリエチレンとを含有する重合体組成物を用いることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0010】
本発明の態様1は、下記成分(A)~成分(D)を含有する重合体組成物である。
成分(A):プロピレン系重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体
成分(B):プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及びプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のプロピレン系共重合体であって、120℃の貯蔵弾性率が6~300MPaのプロピレン系共重合体
成分(C):JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される密度が0.855~0.910g/cm3のエチレン・α-オレフィン共重合体
成分(D):高圧法低密度ポリエチレン
【0011】
本発明の態様2は、態様1の重合体組成物において、
前記成分(A)~成分(D)の含有量の合計に対する前記成分(B)の含有率が45~75質量%である、重合体組成物である。
【0012】
本発明の態様3は、態様1又は2の重合体組成物において、
前記成分(B)がプロピレン・エチレン共重合体である、重合体組成物である。
【0013】
本発明の態様4は、態様1~3のいずれか1つの重合体組成物において、
前記成分(B)におけるプロピレン単位の含有率が90~99.5質量%である、重合体組成物である。
【0014】
本発明の態様5は、態様1~4のいずれか1つの重合体組成物を含む単層フィルムである。
【0015】
本発明の態様6は、態様1~4のいずれか1つの重合体組成物を含む接着層と、基材層とを含む、積層体である。
【0016】
本発明の態様7は、態様6の積層体において、
前記基材層が、金属材料からなる金属層又は金属と樹脂との複合材料からなる金属層である、積層体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、押出ラミネート成形において成形性に優れ、高温雰囲気下においても基材層との接着性を良好に維持し得る重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施態様を詳細に説明するが、以下の実施態様は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0019】
[重合体組成物]
本実施形態に係る重合体組成物は、下記成分(A)~成分(D)を含有することを特徴とする。
成分(A):プロピレン系重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体
成分(B):プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及びプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のプロピレン系共重合体であって、120℃の貯蔵弾性率が6~300MPaのプロピレン系共重合体
成分(C):JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される密度が0.855~0.910g/cm3のエチレン・α-オレフィン共重合体
成分(D):高圧法低密度ポリエチレン
【0020】
<メカニズム>
本実施形態に係る重合体組成物において、成分(A)~成分(D)がそれぞれ以下の役割を担うことにより本発明の効果が得られると考えられる。成分(A)は基材層と不飽和カルボン酸又はその誘導体による水素結合により強固な接着を発現する。成分(B)は高温域での機械特性を保持する役割を担う。成分(C)は適度な柔軟性を付与することで応力緩和を促す。成分(D)は成形時における成形性を担う。
【0021】
<成分(A):プロピレン系重合体を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体>
成分(A)は、プロピレン系重合体を少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性した変性プロピレン系重合体である。
該変性は、グラフト変性であることが好ましい。ここで「グラフト変性」とは、プロピレン系重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を結合させることを意味する。なお、変性プロピレン系重合体における不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の結合位置は、特に限定されず、プロピレン系重合体の主鎖末端及び側鎖の少なくとも一方に導入されていればよい。「不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体」の表記は、「不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種」と表記してもよい。
【0022】
成分(A)の原料として用いるプロピレン系重合体は、プロピレン単位の含有率が50質量%を超える、即ちプロピレン以外の単量体単位の含有率が50質量%未満のものであれば限定されない。好ましくはプロピレン単量体単位の含有率が70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0023】
プロピレン系重合体は、プロピレン単位の含有率が50質量%を超えるものであれば特に限定されず、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、プロピレンとエチレン及び/又はその他のα-オレフィンとの共重合体、プロピレンとその他のビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。ここで、その他のα-オレフィン、すなわち、プロピレン以外のα-オレフィンは特に限定されないが、通常、炭素数4~20、好ましくは4~10の二重結合を有する炭化水素が挙げられる。また、前記「その他のビニルモノマー」も特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、スチレン誘導体等が挙げられる。
プロピレン系重合体は、上記の樹脂の1種であってもよく2種以上の混合物であってもよい。
【0024】
なお、前記の各共重合体としては、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等の何れであってもよい。
これらの中でも、プロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、又は、これらのブレンド物が好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0025】
JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定されるプロピレン系重合体の密度は、成形性と強度とを共に優れたものとするために、0.860~0.910g/cm3であることが好ましい。
【0026】
また、JIS K 7210:2014年に準拠して測定されるプロピレン系重合体のMFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm)は特に限定されないが、他の成分との均一混合性や高速成形性の観点から、通常0.5~50g/10分、好ましくは1~30g/10分、より好ましくは2~25g/10分である。
【0027】
プロピレン系重合体の曲げ弾性率は特に限定されないが、通常30~2000MPaの範囲であり、機械強度が保たれ、材料の破壊が起きにくくなることから、500MPa以上であることが好ましい。また、接着面における適度な濡れ性が確保され、密着性が低下しにくくなることから、曲げ弾性率は2000MPa以下であることが好ましい。
【0028】
プロピレン系重合体のグラフト変性に用いる不飽和カルボン酸としては、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの不飽和カルボン酸の酸無水物、カルボン酸エステル等が例示され、更には、酸ハロゲン化物、アミド、イミドなどの誘導体であってもよい。これらの誘導体としては、酸無水物が好ましい。
【0029】
これらの中では、特にマレイン酸及び/又はその無水物が好適である。また、これらの化合物を複数併用してもよい。更には、ビニルトリメトキシシランなどのいわゆるビニルシラン類などを不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体とともに併用することもできる。
【0030】
成分(A)の変性プロピレン系重合体を得るためのグラフト変性は、公知の方法を用いることができる。例えば、熱のみの反応でも得ることができるが、反応の際にラジカルを発生させる有機過酸化物等をラジカル発生剤として添加してもよい。また、反応させる手法としては、溶媒中で反応させる溶液変性法や溶媒を使用しない溶融変性法等が挙げられ、更には、懸濁分散反応法などその他の方法を用いてもよい。
【0031】
溶融変性法としては、プロピレン系重合体と、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体と、必要により後述するラジカル発生剤とを予め混合した上で、混練機中で溶融混練して反応させる方法や、混練機中で溶融したプロピレン系重合体に、ラジカル発生剤と、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体との混合物を装入口から添加して反応させる方法等を用いることができる。混合には通常、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用され、溶融混練には通常、単軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等を使用することができる。
【0032】
溶液変性法としては、プロピレン系重合体を有機溶媒等に溶解して、これにラジカル発生剤と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体とを添加してグラフト共重合させる方法を使用することができる。有機溶媒としては特に限定されるものではなく、例えばアルキル基置換芳香族炭化水素やハロゲン化炭化水素を使用することができる。
【0033】
プロピレン系重合体と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体との配合割合は特に限定されないが、プロピレン系重合体100質量部に対し、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を通常0.01~30質量部、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部の割合で配合することが望ましい。
【0034】
ラジカル発生剤は特に限定されないが、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,4-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレエート、2,2-ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(トルイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル類、ジ-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
これらのラジカル発生剤は、原料のプロピレン系重合体の種類やMFR、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の種類及び反応条件等に応じて適宜選択することができ、2種以上を併用してもよい。ラジカル発生剤の配合量は特に限定されないが、プロピレン系重合体100質量部に対し、通常0.001~20質量部、好ましくは0.005~10質量部、より好ましくは0.01~5質量部、特に好ましくは0.01~3質量部である。
【0036】
成分(A)の変性プロピレン系重合体における不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性量(グラフト率)は特に限定されないが、基材層への接着性の観点から、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、一方、熱安定性や他の成分との相溶性の観点から、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0037】
ここで、変性量(グラフト率)とは、赤外分光測定装置で測定した際の、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体成分の含有率を意味する。例えば、厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中のカルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収、具体的には1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。このようにして得られる測定値からグラフト部分の構造の質量を算出し、変性プロピレン系重合体を100質量%とした場合のグラフト部分の構造の質量の割合をグラフト率とする。
なお、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、100%が反応に供されずに、プロピレン系重合体と反応していない不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体も変性ポリプロピレン中に残留している場合があるが、本実施形態における変性量(グラフト率)は、上記の方法で測定した際の値を意味するものとする。
【0038】
また、成分(A)は、未反応の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を除く処理を行うことができる。この処理方法は特に限定されないが、具体的な例としては、装置下部より気体が吹き込める構造を有する貯蔵タンクに変性ポリプロピレン系樹脂を入れて、ヒーターあるいは熱媒油で装置を100℃程度に加熱し、装置下部より窒素などの不活性気体あるいは空気を吹き込み、6~24時間処理する方法がある。
【0039】
本実施形態において、成分(A)の変性プロピレン系重合体は1種のみを用いてもよく、プロピレン系重合体の単量体組成や物性、グラフト変性に用いた不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の種類や、変性量の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
本実施形態において、成分(A)及び後述する成分(B)~成分(D)の含有量の合計に対する成分(A)の含有率は、0.5~35質量%であることが好ましく、1~25質量%であることがより好ましく、2~20質量%であることが更に好ましい。
なお、プロピレン系重合体と反応していない不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が成分(A)中に残留している場合、成分(A)の含有率、及び、成分(A)~成分(D)の含有量の合計は、残存する不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を含めた値を採用する。以下、本明細書において論じる成分(A)の含有率、及び、成分(A)~成分(D)の含有量の合計についても同様である。
【0041】
<成分(B):プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及びプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のプロピレン系共重合体であって、120℃の貯蔵弾性率が6~300MPaのプロピレン系共重合体>
成分(B)として用いるプロピレン系共重合体は、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体よりなる群より選ばれる1種以上のプロピレン系共重合体であって、120℃の貯蔵弾性率が6~300MPaのプロピレン系共重合体である。
【0042】
成分(B)の120℃の貯蔵弾性率の下限は、材料強度の観点から、7MPa以上が好ましく、8MPa以上がより好ましく、9MPa以上が更に好ましい。
一方、成分(B)の120℃の貯蔵弾性率の上限は、密着性の観点から、290MPa以下が好ましく、280MPa以下がより好ましく、270MPa以下が更に好ましい。
成分(B)の120℃の貯蔵弾性率が7MPa以上であることにより、高温環境下で接着力が低下しにくくなるため好ましく、また、290MPa以下であることにより、初期接着力が低下しにくくなるため好ましい。
【0043】
成分(B)の貯蔵弾性率は、粘弾性測定装置(VES、アイティー計測制御株式会社製)を用いて測定した。測定には、プロピレン系共重合体などの重合体試料2gを230℃で3分間加熱し、230℃、7MPaの加圧条件下で2分間熱プレスして作成した試験片(厚み0.4mm、縦70mm、横70mm)を用いた。また、測定条件は、温度:-100~300℃、周波数:1Hz、昇温速度:3℃/min、歪:0.03~0.1%とした。
【0044】
成分(B)の貯蔵弾性率は、例えば、プロピレン系共重合体に含まれるα-オレフィン単量体やエチレン単量体の含有率により制御することができる。α-オレフィン単量体やエチレン単量体の含有率が大きいと貯蔵弾性率は小さくなり、α-オレフィン単量体やエチレン単量体の含有率が小さいと貯蔵弾性率は大きくなる傾向にある。
【0045】
成分(B)のプロピレン系共重合体は、プロピレン単位の含有率が50質量%を超える、即ちプロピレン以外単量体単位の含有率が50質量%未満のものであり、具体的には、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体が挙げられる。ここで、α-オレフィンは特に限定されないが、通常、炭素数4~20、好ましくは4~10の二重結合を有する炭化水素が挙げられる。
【0046】
なお、前記の各共重合体としては、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等の何れであってもよい。
【0047】
成分(B)におけるプロピレン単位の含有率は、耐熱性の観点から、90~99.5質量%が好ましく、91~99.4質量%がより好ましく、92~99.3質量%が更に好ましい。
【0048】
これらの中でも、成分(B)としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン共重合体、又は、これらのブレンド物が好ましく、プロピレン・エチレン共重合体がより好ましい。
【0049】
JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される成分(B)の密度は、柔軟性と機械強度のバランスの観点から、0.885~0.905g/cm3であることが好ましい。
【0050】
また、JIS K 7210:2014年に準拠して測定される成分(B)のMFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm)は特に限定されないが、成形性の観点から、通常1~80g/10分、好ましくは3~70g/10分、より好ましくは5~60g/10分である。
【0051】
成分(B)としては、市販品を好適に用いることができる。例えば、日本ポリプロ株式会社製のWINTEC、WELNEXや、エクソンモービル社製のビスタマックスの中から前記の特性に該当するものを適宜選択することができる。
【0052】
本実施形態において、成分(A)~成分(B)及び後述する成分(C)~成分(D)の含有量の合計に対する成分(B)の含有率は、柔軟性と耐熱性の観点から、45~75質量%であることが好ましく、47~73質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることが更に好ましい。
【0053】
<成分(C):JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される密度が0.855~0.910g/cm3のエチレン・α-オレフィン共重合体>
成分(C)のエチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位とα-オレフィン単位の合計量に対して、エチレン単位の含有率が50質量%を超えるエチレン・α-オレフィン共重合体である。成分(A)又は成分(B)に基づくポリプロピレンマトリックスとの親和性及び成分(D)との親和性の観点から、好ましくは、エチレン単位の含有率が70~90質量%であり、α-オレフィン単位の含有率が10~30質量%である。
【0054】
成分(C)を構成するα-オレフィンは特に限定されないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられる。中でも、α-オレフィンとしては炭素数が3~8であるものが好ましい。
【0055】
更に、成分(C)には、エチレン単位と上記以外のα-オレフィンとからなる他のコモノマーを用いてもよい。これらのコモノマーを用いる場合の含有量は特に限定されないが、コモノマーとα-オレフィンとの合計含有率が、前記のα-オレフィン単位の含有率の範囲内となることが好ましい。コモノマーとしては、具体的には、前記の成分(A)の説明における「その他のビニルモノマー」が挙げられる。
【0056】
JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される成分(C)の密度は、柔軟性と密着性の観点から、0.855~0.910g/cm3であり、0.860~0.905g/cm3であることが好ましい。
【0057】
また、JIS K 7210:2014年に準拠して測定される成分(C)のMFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm)は特に限定されないが、成形性と相溶性の観点から、通常0.2~40g/10分、好ましくは0.5~30g/10分、より好ましくは0.7~25g/10分である。
【0058】
好適な成分(C)としては市販品を用いることもでき、例えば、三井化学株式会社製「タフマー」シリーズ等の中から、前記の特性に該当するものを適宜選択することができる。
【0059】
本実施形態において、成分(A)~成分(C)及び後述する成分(D)の含有量の合計に対する成分(C)の含有率は、柔軟性の観点から、5~40質量%であることが好ましく、7~35質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。
【0060】
<成分(D):高圧法低密度ポリエチレン>
成分(D)としては、成形性の観点から、高圧法低密度ポリエチレンを用いる。JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される成分(D)の密度は、0.910を超えて0.930g/cm3以下が好ましい。
【0061】
JIS K 7210:2014年に準拠して測定される成分(D)のMFR(190℃、荷重21.2N)は、通常1g/10分以上、好ましくは3g/10分以上であり、また、通常30g/10分以下、好ましくは20g/10分以下、より好ましくは15g/10分以下である。高圧法低密度ポリエチレンのMFRを前記下限値以上とすることで、重合体組成物中での微分散性が良好に維持されやすくなるため好ましい。高圧法低密度ポリエチレンのMFRを前記上限値以下とすることで、高速押出ラミネート成形性が良好に維持されやすくなるため好ましい。
【0062】
好適な成分(D)としては市販品を用いることもでき、例えば、日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック」シリーズの中から適宜選択することができる。
【0063】
成分(D)は、高圧法低密度ポリエチレンの1種のみを用いてもよく、物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
本実施形態において、成分(A)~成分(D)の含有量の合計に対する成分(D)の含有率は、成形性の観点から、3~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましく、7~20質量%であることが更に好ましい。
【0065】
<成分(E):プロピレン単独重合体>
本実施形態に係る重合体組成物は、下記成分(E)をさらに含有してもよい。
成分(E):プロピレン単独重合体
【0066】
JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される成分(E)の密度は特に限定されないが、機械強度の観点から、0.890~0.910g/cm3であることが好ましく、0.895~0.905g/cm3であることがより好ましい。
JIS K 7112:1999年に準拠して水中置換法で測定される成分(E)の密度が0.890g/cm3以上であることにより、機械的物性が低下しにくくなるため好ましく、また、0.910g/cm3以下であることにより、柔軟性が低下しにくくなるため好ましい。
【0067】
また、JIS K 7210:2014年に準拠して測定される成分(E)のMFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm)は特に限定されないが、成形性と相溶性の観点から、通常0.01~50g/10分、好ましくは0.1~45g/10分、より好ましくは0.3~40g/10分である。
【0068】
成分(E)の曲げ弾性率は特に限定されないが、機械強度の観点から、1000~2000MPaであることが好ましく、1050~1800MPaであることがより好ましい。
【0069】
好適な成分(E)としては市販品を用いることもでき、例えば、日本ポリプロ株式会社製のMA3や、サンアロマー株式会社製のVX200Nの中から適宜選択することができる。
【0070】
<その他の成分>
本実施形態に係る重合体組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分以外に添加剤や重合体等(以下、「その他の成分」という場合がある。)を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0071】
本実施形態に係る重合体組成物に使用可能な添加剤は特に限定されないが、具体的には、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など)、難燃剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、充填剤(無機及び/又は有機フィラー等)、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、相溶化剤、触媒残渣の中和剤、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料など)等が挙げられる。これら添加剤を用いる場合のその含有量は特に限定されないが、重合体組成物の合計量中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下で含有されていることが望ましい。
【0072】
その他の成分として用いる樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等を挙げることができる。
【0073】
<重合体組成物の製造方法>
本実施形態に係る重合体組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。
混合の方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限はない。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分散した組成物を得る。
【0074】
より均一な混合・分散のためには、所定量の上記原料成分を溶融混合することが好ましい。例えば、本実施形態に係る重合体組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合してもよいし、各原料成分等の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0075】
本実施形態に係る重合体組成物は、所定量の上記原料成分を種々公知の手法、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、混合後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等で溶融混練し、造粒あるいは粉砕する手法により調製することができる。溶融混練時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150~300℃の範囲である。
【0076】
[積層体、積層体の製造方法]
<重合体組成物からなる成形品、単層フィルム>
本実施形態に係る重合体組成物から得られる成形品には限定はなく、種々の押出成形品や射出成形品とすることができる。具体的には、本実施形態に係る重合体組成物を含む単層フィルムが挙げられる。
【0077】
本実施形態に係る単層フィルムは、本実施形態に係る重合体組成物からなる単層フィルム(I)であってもよく、本実施形態に係る重合体組成物とその他の成分とを含む単層フィルム(II)であってもよい。ここで、前記その他の成分は、本実施形態に係る重合体組成物の構成成分とは異なるオレフィン系重合体を選択肢として含む。例えば、単層フィルム(II)は、本実施形態に係る重合体組成物と、本実施形態に係る重合体組成物の構成成分とは異なるオレフィン系重合体とを含むものであってもよい。
【0078】
単層フィルム(II)は、本実施形態に係る重合体組成物とその他の成分とを乾式混合した混合物を成形して得てもよい。
このような単層フィルム(II)は、例えば、本実施形態に係る重合体組成物とその他の成分とを乾式混合して、乾式混合物とする工程と、当該混合物を成形して単層フィルムを得る工程とを含む、単層フィルムの製造方法により得られる。
【0079】
このような単層フィルム(I)や単層フィルム(II)の厚みには特に制限はないが、通常5~500μm程度である。
【0080】
[積層体、積層体の製造方法]
本実施形態に係る積層体は、上述した本実施形態に係る重合体組成物を含む接着層と基材層とを含む積層体とすることができる。積層体の例としては、2層又は3層以上に積層された積層体が挙げられ、具体的には、積層シート、積層フィルム、積層チューブ等が挙げられる。ここで、「シート」と「フィルム」はいずれも面状の成形体を意味し、同義である。
【0081】
本実施形態に係る積層体の基材層を構成する材料は特に限定されないが、樹脂層、金属材料からなる金属層又は金属と樹脂との複合材料からなる金属層が好ましく、より好ましくは金属材料からなる金属層又は金属と樹脂との複合材料からなる金属層である。
【0082】
本実施形態に係る重合体組成物からなる接着層と基材層とは、隣接していることが好ましい。
【0083】
本実施形態に係る積層体を製造する方法としては、公知の種々の方法を採用することができるが、特に、押出ラミネート成形が好適である。押出ラミネート成形は、重合体組成物の溶融物をフィルム状に押出し基材上にキャストし、ロールの間で挟み込み圧着して接着する、成形加工法である。
【0084】
接着層を形成するための重合体組成物の単層フィルムとしては、上記した本実施形態に係る重合体組成物からなる単層フィルム(I)や、本実施形態に係る重合体組成物とその他の成分とを乾式混合した混合物から得られる単層フィルム(II)を用いることができる。
【0085】
基材層が樹脂層である場合、当該樹脂層は、樹脂フィルム又はシートにより得られることが好ましい。樹脂フィルム又はシートを構成する樹脂は特に限定されないが、具体的には、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含むオレフィン系ポリマーやオレフィン系エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6・66、ポリアミド12等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂やポリエステル系エラストマー、スチレン系樹脂やスチレン系エラストマー、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂が好適に用いられる。中でも、食品や医療用の材料に用いる場合は、ポリエステル樹脂層、エチレン・ビニルアルコール共重合体層又はポリアミド樹脂層を少なくとも有することが好ましく、ポリエステル樹脂層を少なくとも有することがより好ましい。
これらの樹脂層は、2種以上の樹脂層が積層されていてもよい。
【0086】
基材層が金属材料からなる金属層又は金属と樹脂との複合材料からなる金属層である場合、金属層は、金属材料又は金属と樹脂との複合材料からなるフィルム又はシートにより得られることが好ましい。金属としては、例えば、アルミ、SUS材、銅、チタンが好適に用いられる。樹脂としては、例えば、プロピレン系重合体、エチレン系重合体、エステル系重合体、ナイロン系重合体が好適に用いられる。
【0087】
基材の形態は、フィルムやシートに限定されず、織布、不織布のような形状であってもよい。また、基材は、単層構造であっても複層構造であってもよい。複層構造の基材の作成方法としては、特に限定されるものではなく、共押フィルム法、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出ラミネート法、サーマルラミネート法等が挙げられる。
【0088】
このような基材層の厚みには特に制限はないが、通常5~150μm程度である。
【0089】
本実施形態に係る積層体の各層の厚みは限定されず、層構成、用途、最終製品の形状、要求される物性等により任意に設定することができる。通常、積層体の総厚みは5~400μmであり、10~300μmであることが好ましく、20~200μmであることがより好ましい。また、積層体を構成する本実施形態に係る重合体組成物よりなる接着層の厚みは、通常0.1~300μmであり、1~250μmであることが好ましく、5~200μmであることがより好ましい。
【0090】
このようにして製造された積層体には、さらに、金属蒸着加工、コロナ放電処理加工、印刷加工等の各種フィルム加工処理を施すことができる。
【0091】
本実施形態に係る重合体組成物は、金属層や樹脂フィルムに対して優れた接着強度特性を示すため、これを用いた本実施形態に係る積層体は、各種食品や飲料、医薬・医療品、化粧品、衣料、文具及びその他電池をはじめとした産業資材や工業資材等の包装用途に好適である。
【実施例0092】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本実施形態における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0093】
[測定・評価方法]
以下の実施例及び比較例で用いた原材料、得られた重合体組成物及び積層体の測定・評価方法は以下のとおりである。
【0094】
(1)メルトフローレート(MFR)
原材料について、JIS K 7210:2014年に準拠して、温度230℃又は180℃、荷重21.2Nの条件でMFRを測定した。流動性が極端に高いものについてはオリフィス径を小さくしてMFRを測定し、所定のオリフィス径に換算した値を計算にて算出した。
【0095】
(2)グラフト率
変性プロピレン系重合体のペレットを230℃でプレス成形することにより、厚さ100μmのフィルム状のサンプルを得た。FT-IR装置(JASCOFT/IR610、日本分光株式会社製)を用いて得られたサンプルの赤外吸収スペクトルを測定し、測定結果よりグラフト率を算出した。
【0096】
(3)融解熱量・融点
示差走査熱量計(DSC)を用い、一旦200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて昇温して測定した際の、吸熱ピークトップの温度を融点とした。単位は℃である。また、融解熱量は、80℃から170℃までの吸熱ピークの積分値より求めた。単位はmJ/mgである。
【0097】
(4)密度
JIS K 7112:1999年に準拠して、水中置換法で測定した。
【0098】
(5)粘弾性
レオメーターを用い、以下の条件にて測定した。
温度:-100~300℃
周波数:1Hz
昇温速度:3℃/min
歪:0.03~0.1%
方向性:方向性なし
【0099】
[原材料]
以下の実施例及び比較例において、重合体組成物の製造に用いた原材料は以下のとおりである。
【0100】
<成分(A)>
・A-1
変性プロピレン系重合体として、市販のプロピレン単独重合体(密度:0.900g/cm3、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):10g/10分、曲げ弾性率:1500MPa)を無水マレイン酸によりグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(グラフト率:2.2質量%、MFR(180℃、荷重21.2N、オリフィス径1mmで測定した値をオリフィス径2mmの条件に換算した値):7200g/10分)を用いた。
【0101】
<成分(B)>
・B-1
貯蔵弾性率100℃:190MPa、120℃:73MPa、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):7.0g/10分、密度:0.900g/cm3、プロピレン含有率:96.2質量%、エチレン含有率:3.8質量%のプロピレン・エチレン共重合体を用いた。
・B-2
貯蔵弾性率100℃:34MPa、120℃:8MPa、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):20g/10分、密度:0.890g/cm3、プロピレン含有率:94.0質量%、エチレン含有率:6.0質量%のプロピレン・エチレン共重合体を用いた。
・B-3
貯蔵弾性率100℃:263MPa、120℃:139MPa、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):30g/10分、密度:0.900g/cm3、プロピレン含有率:99.3質量%、エチレン含有率:0.7質量%のプロピレン・エチレン共重合体を用いた。
・B-4
プロピレン・エチレン共重合体として、サンアロマー株式会社製のPZA20A(貯蔵弾性率100℃:227MPa、120℃:136MPa、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):44g/10分、プロピレン含有率:98.2質量%、エチレン含有率:1.8質量%)を用いた。
・B´-1
プロピレン・エチレン共重合体として、エクソンモービル社製のビスタマックス3000(貯蔵弾性率100℃:0.1MPa以下、120℃:0.1MPa以下、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm)8.0g/10分、密度0.871g/cm3、プロピレン含有率:89質量%、エチレン含有率:11質量%)を用いた。
【0102】
<成分C>
・C-1
エチレン・プロピレン共重合体として、三井化学株式会社製のタフマーP0180(MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):5.4g/10分、密度:0.870g/cm3、融点:40℃、エチレン含有率:74.5質量%、プロピレン含有率:25.5質量%)を用いた。
・C-2
エチレン・1-ブテン共重合体として、三井化学株式会社製のタフマーA4085S(MFR(190℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm)3.6g/10分、密度0.885g/cm3、エチレン含有率:85.0質量%、1-ブテン含有率15.0質量%)を用いた。
【0103】
<成分(D)>
・D-1
高圧法低密度ポリエチレンとして、日本ポリエチレン株式会社製のノバテックLDLC-522(MFR(190℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):4g/10分、密度:0.913g/cm3)を用いた。
・D-2
高圧法低密度ポリエチレンとして、日本ポリエチレン株式会社製のノバテックLDLC-701(MFR(190℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):14g/10分、密度:0.918g/cm3)を用いた。
【0104】
<成分(E)>
・E-1
プロピレン単独重合体として、日本ポリプロ株式会社製のMA3Q(密度0.900g/cm3、MFR(230℃、荷重21.2N、オリフィス径2mm):10g/10分、曲げ弾性率:1500MPa)を用いた。
【0105】
[実施例1]
<重合体組成物の製造>
上記[原材料]に記載されたA-1 9質量部、B-1 32質量部、B-2 10質量部、B-4 16質量部、C-1 13質量部、D-2 15質量部、及び、E-1 5質量部をドライブレンドして混合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX25、D=25mmφ、L/D=43)を用い、設定温度180~210℃、スクリュー回転数250~350rpm、押出量15~40kg/hで溶融混練し、ストランドカットにより、実施例1によるペレット状の重合体組成物を得た。
【0106】
<押出ラミネートフィルムの成形>
2台の口径40mmφの押出機A及びBが装着されたTダイスを有する押出ラミネート装置(住友重機械モダン株式会社製)を用い、得られた重合体組成物を押出機Aに、ポリプロピレン系重合体(日本ポリプロ株式会社製、ノバテックPPFL02G)を押出機Bにそれぞれ供給した。押出機Aにより形成される層が基材フィルム側に配されるように分配ブロックをセットし、2層で押出される樹脂の温度が共に280~290℃になるように設定し、エアギャップ120mm、冷却ロール表面温度20℃、ダイス幅360mm、ダイリップ開度0.7mm、引き取り加工速度50m/minに設定した。そして、重合体組成物層の被覆厚みが10μm、ポリプロピレン系重合体層の被覆厚みが10μmとなるように押出量を調整して押出し製膜し、実施例1による押出ラミネートフィルムを成形した。
ここで、基材フィルムとしては、パナック株式会社製アルペット(厚み:62μm、アルミとPETとの複合フィルム)を用いた。そして、基材フィルムのアルミ面と接するように上記重合体組成物層を配した。
【0107】
実施例1による重合体組成物及び押出ラミネートフィルムについて、下記の手順により評価した。結果を表1に示す。
【0108】
<評価:接着強度>
上記で得られた押出ラミネートフィルムを幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、100℃及び120℃に調整した恒温槽の雰囲気下にて、それぞれ速度300mm/minにてTピール型剥離試験を行うことで剥離強度を測定し、その値を押出ラミネートフィルムの接着強度とした。接着強度の数字は大きい程、接着性に優れると評価できる。
【0109】
<評価:成形性>
上記の押出ラミネートフィルムを成形する際の成形性の評価として、ドローダウン特性を評価した。
2台の口径40mmφの押出機A,Bが装着されたTダイスを有する押出ラミネート装置(住友重機械モダン株式会社製)を用い、得られた重合体組成物を押出機Aに供給し、押出機Aにより形成される層が基材であるクラフト紙に配されるように分配ブロックをセットし、押出機Bを用いずに押出ラミネート成形を行った。樹脂の温度が280~290℃になるように設定し、エアギャップ120mm、冷却ロール表面温度20℃、ダイス幅360mm、ダイリップ開度0.7mm、成形速度50m/minで、重合体組成物層の被覆厚みが10μmとなるように、押出量を調整して押出し製膜した。このとき、接着性樹脂層の押出機Aの押出量を固定した状態で成形速度を上昇させ、膜切れが発生する限界の速度を確認した。限界速度の数字が大きいほど、ドローダウン特性に優れ、50m/分以上であれば実用可能な成形性であると評価できる。
【0110】
【0111】
[実施例2,比較例1]
表1に記載の配合組成とした以外は実施例1と同じようにして、実施例2及び比較例1によるペレット状の重合体組成物及び押出ラミネートフィルムを得た。
得られた重合体組成物及び押出ラミネートフィルムについて、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0112】
表1に示される結果より、実施例1及び実施例2による重合体組成物及び押出ラミネートフィルムは成形性に優れ、かつ高温環境下での接着強度が高いことがわかった。
これに対して、比較例1による重合体組成物及び押出ラミネートフィルムは高温環境下での接着強度が低いことがわかった。
本実施形態に係る重合体組成物は、金属層や樹脂フィルムに対して優れた接着強度特性を示すため、これを用いた本実施形態に係る積層体は、各種食品や飲料、医薬・医療品、化粧品、衣料、文具及びその他電池をはじめとした産業資材や工業資材等の包装用途に好適である。