(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024455
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】レーザアニール装置、レーザアニール方法、レーザアニールプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20250213BHJP
【FI】
H01L21/268 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128573
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】政岡 正記
(57)【要約】
【課題】レシピ等によって指定される制御入力値を適切に補正できるレーザアニール装置等を提供する。
【解決手段】レーザアニール装置1は、アニール処理のためにレーザ装置2から半導体ウエハ3に対して照射されるレーザパルスLPを、制御パラメータに基づいて制御するレーザ制御部51において、制御パラメータの複数の制御入力値CIに対して、異なる補正値を設定可能な補正値設定部62と、複数の制御入力値CIのいずれかがレーザパルスLPの制御のために指定された場合、当該制御入力値CIを対応する補正値によって補正した補正制御入力値ACIをレーザ装置2に入力する制御入力部61と、を備える。制御パラメータは、レーザパルスLPのエネルギー密度である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニール処理のためにレーザ装置から被処理物に対して照射されるレーザを、制御パラメータに基づいて制御するレーザ制御部において、
前記制御パラメータの複数の制御入力値に対して、異なる補正値を設定可能な補正値設定部と、
前記複数の制御入力値のいずれかがレーザの制御のために指定された場合、当該制御入力値を対応する前記補正値によって補正した補正制御入力値を前記レーザ装置に入力する制御入力部と、
を備えるレーザアニール装置。
【請求項2】
前記補正値設定部は、離散的な前記複数の制御入力値に対して、異なる前記補正値を設定可能であり、
前記制御入力部は、隣接する二つの前記制御入力値の間の中間制御入力値がレーザの制御のために指定された場合、一方の前記制御入力値に対応する一方の前記補正値および他方の前記制御入力値に対応する他方の前記補正値の間の中間補正値によって補正した前記中間制御入力値を、前記補正制御入力値として前記レーザ装置に入力する、
請求項1に記載のレーザアニール装置。
【請求項3】
前記補正値設定部によって離散的な複数の前記制御入力値に対して設定された複数の前記補正値に基づいて、連続的な前記制御入力値に対して連続的な前記補正値を算出する近似式を生成する近似式生成部を備え、
前記制御入力部は、レーザの制御のために指定された前記制御入力値を、前記近似式から算出された前記補正値によって補正した前記補正制御入力値を前記レーザ装置に入力する、
請求項2に記載のレーザアニール装置。
【請求項4】
前記補正値設定部によって離散的な複数の前記制御入力値に対して設定された複数の前記補正値と、前記近似式の相関を評価する相関評価部と、
前記相関評価部によって評価された前記相関が所定の基準を下回る場合、前記近似式生成部によって前記近似式が生成された前記制御入力値の範囲を、複数の小範囲に分割する範囲分割部と、
を備え、
前記近似式生成部は、前記範囲分割部によって分割された前記小範囲毎に前記近似式を生成する、
請求項3に記載のレーザアニール装置。
【請求項5】
複数の前記補正制御入力値は、複数の前記制御入力値に対して非線型に変化する、請求項1から4のいずれかに記載のレーザアニール装置。
【請求項6】
前記補正値設定部によって、少なくとも三つの前記制御入力値に対して少なくとも三つの前記補正値が設定された場合、少なくとも三つの前記制御入力値と異なる他の制御入力値に対する他の補正値を、少なくとも三つの前記補正値に基づいて生成する補正値生成部を備える、請求項1から4のいずれかに記載のレーザアニール装置。
【請求項7】
前記制御パラメータは、レーザのエネルギー密度である、請求項1から4のいずれかに記載のレーザアニール装置。
【請求項8】
アニール処理のために被処理物に照射されるレーザの制御のための制御パラメータについて、複数の制御入力値に対して異なってもよい補正値を設定することと、
前記複数の制御入力値のいずれかがレーザの制御のために指定された場合、当該制御入力値を対応する前記補正値によって補正した補正制御入力値をレーザの制御のために入力することと、
を実行するレーザアニール方法。
【請求項9】
アニール処理のために被処理物に照射されるレーザの制御のための制御パラメータについて、複数の制御入力値に対して異なってもよい補正値を設定することと、
前記複数の制御入力値のいずれかがレーザの制御のために指定された場合、当該制御入力値を対応する前記補正値によって補正した補正制御入力値をレーザの制御のために入力することと、
をコンピュータに実行させるレーザアニールプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザアニール装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体ウエハ等の被処理物にレーザを照射してアニール処理を施すレーザアニール装置が開示されている。レーザは、エネルギー密度等の各種の制御パラメータに基づいて制御される。実際のアニール処理において使用されるレーザの制御パラメータの具体的な値(以下では、制御入力値とも表される)は、レーザアニール装置による処理条件や処理手順を定めるレシピと呼ばれる文書において指定されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数台の同じ(例えば、型番が同じ)レーザアニール装置を使用する場合、レシピが同じであれば同じ処理結果が得られるはずである。しかし、レーザアニール装置に個体差がある場合、レシピが同じでも異なる処理結果が得られる恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、レシピ等によって指定される制御入力値を適切に補正できるレーザアニール装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のレーザアニール装置は、アニール処理のためにレーザ装置から被処理物に対して照射されるレーザを、制御パラメータに基づいて制御するレーザ制御部において、制御パラメータの複数の制御入力値に対して、異なる補正値を設定可能な補正値設定部と、複数の制御入力値のいずれかがレーザの制御のために指定された場合、当該制御入力値を対応する補正値によって補正した補正制御入力値をレーザ装置に入力する制御入力部と、を備える。
【0007】
本態様によれば、レシピ等によって指定されうる複数の制御入力値に対して、異なってもよい補正値が設定される。このように制御入力値毎に細かく設定された補正値によって、当該各制御入力値を適切に補正できる。
【0008】
本開示の別の態様は、レーザアニール方法である。この方法は、アニール処理のために被処理物に照射されるレーザの制御のための制御パラメータについて、複数の制御入力値に対して異なってもよい補正値を設定することと、複数の制御入力値のいずれかがレーザの制御のために指定された場合、当該制御入力値を対応する補正値によって補正した補正制御入力値をレーザの制御のために入力することと、を実行する。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、レシピ等によって指定される制御入力値を適切に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】レーザ制御部の模式的な機能ブロック図である。
【
図3】補正値設定部によって補正値が設定される前の、エネルギー密度の制御入力値の具体例を示す。
【
図4】補正値設定部によって補正値が設定された後の、エネルギー密度の制御入力値および補正制御入力値の具体例を示す。
【
図5】
図4の第1列に示されているエネルギー密度の制御入力値を横軸に、
図4の第2列に示されている補正値を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図6】補正値生成部によるマニュアル設定の補助の例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。
【0013】
図1は、本開示の実施形態に係るレーザアニール装置1の構成を模式的に示す。レーザアニール装置1は、レーザ装置2が発振するレーザ(例えば、レーザパルスLP)を、非処理物としての半導体ウエハ3(後述するステージ装置4に固定されたウエハテーブル31上に載置されている)に照射してアニール処理(加熱処理)を施す装置である。図示の例におけるレーザアニール装置1は、実際のものから大幅に簡素化されており、本実施形態の説明においては触れられない多くの構成要素(例えば、レーザや半導体ウエハ3を測定するための構成要素、半導体ウエハ3を搬送するための構成要素、非常時にレーザの照射を停止するための構成要素)が省略されている。
【0014】
また、図示の構成は一例に過ぎず、異なる任意の構成のレーザアニール装置に本開示が適用されてもよい。例えば、図示の例では、制御系がレーザ制御部51、トリガパルス制御部52、パーソナルコンピュータ(PC)53、スキャナ制御部54、ステージ制御部55等によって構成されるが、レーザアニール装置1およびレーザ装置2が半導体ウエハ3にアニール処理を適切に施せる限り、異なる任意の構成の制御系が設けられてもよい。また、図示の例では、レーザの経路に沿って、エネルギー調整機構11、伝送光学系12、マスク13、照射光学系14、ガルバノスキャナ15、fθレンズ16等が設けられるが、レーザ装置2からのレーザが半導体ウエハ3に適切に照射される限り、レーザ装置2と半導体ウエハ3の間には任意の他の構成要素が設けられてもよいし、これらの配置も任意である。
【0015】
以下では、互いに直交するXYZの各軸を座標軸とする三次元直交座標系に基づいて、レーザアニール装置1の構成および/または作用に関する方向を記述する。以下では、便宜的に、X方向およびY方向が水平方向(すなわち、XY平面が水平面)であり、Z方向が鉛直方向であるものとする。後述するように、半導体ウエハ3は、スキャナ制御部54および/またはステージ制御部55による制御の下で、レーザ装置2からのレーザに対してXY平面内で相対駆動される。
【0016】
例えば、半導体ウエハ3は、ステージ制御部55によってX方向に駆動されるステージ装置4における移動テーブル41と一体的にX方向に駆動され(この場合のX方向は、駆動方向とも表される)、レーザ装置2からのレーザは、スキャナ制御部54によって制御されるガルバノスキャナ15によって、Y方向に走査される(この場合のY方向は、走査方向とも表される)。また、半導体ウエハ3は、ステージ制御部55によってZ方向に駆動されるステージ装置4における昇降テーブル42と一体的にZ方向に駆動される(この場合のZ方向は、昇降方向とも表される)。このZ方向は、レーザが半導体ウエハ3に対して入射する入射方向でもある。以下では、便宜的に、X方向が縦方向とも表され、Y方向が横方向とも表され、Z方向が高さ方向とも表される。
【0017】
レーザ装置2は、レーザ制御部51による制御の下で、例えば、100kHz以上の周波数でレーザパルスLPを発振するパルスレーザ装置である。本実施形態に係るレーザアニール装置1の作用や効果が十分に得られるように、レーザ装置2によって発振されるレーザパルスLPの周波数は、例えば、100kHzと10MHzの間であり、500kHzと5MHzの間であるのが好ましく、700kHzと3MHzの間であるのが更に好ましい。本実施形態の例では、特に断らない限り、レーザ装置2によって発振されるレーザパルスLPの周波数が1MHzであるものとする。本実施形態に係るレーザ装置2は、例えば、光ファイバによってレーザパルスLPを発振するファイバレーザ装置によって構成されてもよい。
【0018】
レーザパルスLPは、レーザ装置2から例えばX方向に出射される。このレーザパルスLPを照射対象(被処理物)である半導体ウエハ3まで導くレーザアニール装置1には、レーザパルスLPの経路(一点鎖線によって模式的に示される)に沿って、エネルギー調整機構11、伝送光学系12、マスク13、照射光学系14、ガルバノスキャナ15、fθレンズ16が、この順番で設けられる。
【0019】
エネルギー調整機構11は、レーザ装置2から出射されたレーザパルスLPのエネルギーやエネルギー密度を、所期のアニール処理に適した値に調整する。後述するように、本実施形態ではレーザパルスLPの制御パラメータとしてのエネルギー密度が補正されるが、この補正の少なくとも一部はレーザ装置2に加えてまたは代えてエネルギー調整機構11で反映されてもよい。
【0020】
伝送光学系12は、レーザパルスLPを伝送する光学系である。伝送光学系12は、レンズ、ミラー、プリズム、フィルタ、回折格子等の任意の光学素子によって構成され、レーザパルスLPの伝送だけでなく、レーザパルスLPのサイズ(径)の調整、レーザパルスLPの整形、レーザパルスLPの強度分布の調整等を担ってもよい。なお、レーザパルスLPのサイズ(径)の調整やレーザパルスLPの整形は、所期のアニール処理に適したサイズ(径)および/または形状を有するマスク13によって行われてもよい。照射光学系14は、レンズ、ミラー、プリズム、フィルタ、回折格子等の任意の光学素子によって構成され、レーザパルスLPを半導体ウエハ3への照射に適した態様(例えば、サイズ(径)、形状、強度分布)に調整する。
【0021】
ガルバノスキャナ15は、照射光学系14等によって調整されたレーザパルスLPをY方向に沿って走査するレーザ走査部である。ガルバノスキャナ15は、入射するレーザパルスLPを反射してY方向における所期の走査位置に向ける駆動可能な光学素子としてのガルバノミラー151と、当該ガルバノミラー151を所期の姿勢または角度に駆動する不図示のモータと、を備える。モータによってガルバノミラー151の姿勢または角度が調整されることで、ガルバノミラー151に入射するレーザパルスLPが所期のY方向位置に反射される。
【0022】
なお、入射するレーザパルスLPをY方向における所期の走査位置に向けるレーザ走査部はガルバノスキャナ15に限らず、回転駆動可能なポリゴンミラー(光学素子)を備えるポリゴンミラースキャナや、駆動可能なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等の光学素子によって構成されてもよい。また、ガルバノスキャナ15等のレーザ走査部によるレーザパルスLPの走査方向もY方向に限らず、X方向等のY方向に交差する方向でもよいし、X方向およびY方向の二方向でもよい。後者の場合のように、ガルバノスキャナ15等のレーザ走査部が、XY平面すなわち半導体ウエハ3の表面に亘ってレーザパルスLPを走査できる場合、半導体ウエハ3およびウエハテーブル31をX方向等に駆動するステージ装置4(移動テーブル41)を設けなくてもよい。この場合、ガルバノスキャナ15等によって、X方向およびY方向の二方向のレーザ走査部が構成される。
【0023】
fθレンズ16は、ガルバノスキャナ15によってY方向に走査されたレーザパルスLPをアニール対象の半導体ウエハ3上に集光する。fθレンズ16からのレーザパルスLPは、半導体ウエハ3に対してZ方向に入射する。このようにfθレンズ16によって半導体ウエハ3上に集光されるレーザパルスLPは、ガルバノスキャナ15によるY方向の走査によって半導体ウエハ3の表面上をY方向に移動する。半導体ウエハ3に集光されるレーザパルスLPのサイズは任意に設計できるが、例えば0.10mm四方と0.15mm四方の間とするのが好ましく、0.12mm四方と0.13mm四方とするのが更に好ましい。また、半導体ウエハ3の表面上におけるレーザパルスLPのY方向の走査速度(および/または、ステージ装置4(移動テーブル41)による半導体ウエハ3のX方向の駆動速度)も任意に設計できるが、例えば100cm/sと500cm/sの間とするのが好ましく、250cm/sと350cm/sの間とするのが更に好ましい。
【0024】
ステージ装置4における移動テーブル41は、半導体ウエハ3およびウエハテーブル31を、レーザパルスLPに対してX方向に沿って相対駆動する駆動装置である。この移動テーブル41によって、レーザパルスLPは半導体ウエハ3の表面上をX方向に相対移動する。
【0025】
以上のように、Y方向のレーザ走査部としてのガルバノスキャナ15によるレーザパルスLPのY方向の走査と、X方向のレーザ走査部としての移動テーブル41による半導体ウエハ3のX方向の駆動を組み合わせることで、レーザパルスLPをXY平面すなわち半導体ウエハ3の表面に亘って走査できる。なお、移動テーブル41による半導体ウエハ3の駆動方向はX方向に限らず、Y方向等のX方向に交差する方向でもよいし、X方向およびY方向の二方向でもよい。後者の場合のように、移動テーブル41がXY平面に亘って半導体ウエハ3をレーザパルスLPに対して相対駆動できる場合、レーザパルスLPをY方向等に走査するガルバノスキャナ15を設けなくてもよい。この場合、移動テーブル41によって、X方向およびY方向の二方向のレーザ走査部が構成される。
【0026】
以上のようなレーザアニール装置1およびレーザ装置2は、レーザ制御部51、トリガパルス制御部52、パーソナルコンピュータ53、スキャナ制御部54、ステージ制御部55を備える制御系によって制御される。
【0027】
レーザ制御部51は、レーザ装置2が発振するレーザパルスLPを各種の制御パラメータに基づいて制御する。制御パラメータとしては、レーザパルスLPのエネルギー、レーザパルスLPのエネルギー密度、レーザパルスLPの繰返し周波数、レーザパルスLPの持続時間(パルス幅)、レーザパルスLPのピーク強度、レーザパルスLPのプロファイル(例えば、強度分布)、複数台のレーザ装置2(不図示)で同じ場所にレーザパルスLPを照射する際の遅延時間(時間差)、レーザパルスLPを往復走査する場合の隣接行(または、隣接列)の間のオーバーラップ率(照射痕が重複する割合)等が例示される。以下では、制御パラメータの代表例として、レーザパルスLPのエネルギー密度について具体的に説明する。但し、以下の説明は、レーザ装置2が使用する任意の他の制御パラメータにも適用可能である。
【0028】
トリガパルス制御部52は、レーザ制御部51から提供される同期信号に基づいて、レーザ装置2が発振するレーザパルスLPに同期したトリガパルスを生成する。例えば、トリガパルス制御部52が生成するトリガパルスの周波数は、レーザパルスLPの繰返し周波数または発振周波数の1/N(Nは任意の自然数)倍またはN倍である。
【0029】
スキャナ制御部54は、パーソナルコンピュータ53によって必要に応じて加工されたトリガパルスに基づいて、ガルバノスキャナ15の制御(スキャナ制御)を行う。同様に、ステージ制御部55は、パーソナルコンピュータ53によって必要に応じて加工されたトリガパルスに基づいて、ステージ装置4における移動テーブル41の制御(ステージ制御)を行う。このように、レーザパルスLPに同期したトリガパルスに基づいて、スキャナ制御部54はガルバノスキャナ15によるレーザパルスLPのY方向走査を適切に実行でき、ステージ制御部55は移動テーブル41による半導体ウエハ3のX方向駆動を適切に実行できる。パーソナルコンピュータ53は、以下で説明するレーザ制御部51における調整に使用されてもよい。
【0030】
図2は、本実施形態に係るレーザ制御部51の模式的な機能ブロック図である。レーザ制御部51は、制御入力部61と、補正値設定部62と、補正値生成部63と、近似式生成部64と、相関評価部65と、範囲分割部66と、を備える。レーザ制御部51が以下で説明する作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り、これらの機能ブロックの一部は省略されてもよい。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働によって実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0031】
制御入力部61は、レーザパルスLPの制御のために指定された制御入力値をレーザ装置2に入力する。図示の例では、レーザアニール装置1および/またはレーザ装置2による処理条件や処理手順を定めるレシピRによって、レーザパルスLPのエネルギー密度等の制御パラメータの具体的な制御入力値が指定される。従来の典型的なレーザ制御部では、レシピRによって指定される制御入力値CIが、そのままレーザ装置2に入力される。これに対して、本実施形態に係るレーザ制御部51では、レシピRによって指定される制御入力値CIが、以下で説明する補正値設定部62によって補正制御入力値ACIに補正された上で、レーザ装置2に入力される。
【0032】
補正値設定部62は、レシピRによって指定されるレーザパルスLPのエネルギー密度等の制御パラメータの複数の制御入力値CIに対して、異なる補正値を設定可能である。制御入力部61は、複数の制御入力値CIのいずれかがレーザパルスLPの制御のためにレシピRによって指定された場合、当該制御入力値CIを対応する補正値によって補正した補正制御入力値ACIをレーザ装置2に入力する。なお、本実施形態では、便宜的に、制御入力部61および補正値設定部62を別の機能ブロックとして説明するが、これらは一体的な機能ブロックとして実現されてもよい。
【0033】
図3は、補正値設定部62によって補正値が設定される前の、エネルギー密度の制御入力値CI(補正制御入力値ACI)の具体例を示す。第1列に、レシピRによって指定されるエネルギー密度の複数の制御入力値CIが示されている。この例では、レシピRによって指定されるエネルギー密度の制御入力値CIが、0.1J/cm
2刻みになっている。但し、後述するように、レシピRは図示の0.1J/cm
2刻みの制御入力値CIの間の制御入力値CIを、レーザパルスLPのエネルギー密度の制御のために指定してもよい。図示の例では、補正値が未だ設定されていないため、全て「0」である。このため、第3列に示されているエネルギー密度の複数の補正制御入力値ACIは、第1列における制御入力値CIと同じである。
【0034】
第2列に示されている補正値は、レーザアニール装置1および/またはレーザ装置2の管理者等のユーザが操作可能なパーソナルコンピュータ53を通じてマニュアルで設定されてもよい。具体的には、レーザ制御部51における補正値設定部62が、ユーザの操作に応じてパーソナルコンピュータ53から提供される補正値設定情報に基づいて、第2列に示されている補正値を設定または記入する。
【0035】
このような補正値のマニュアル設定の際に、補正前の制御入力値CIおよび/または補正後の補正制御入力値ACIに基づくレーザパルスLPによって実際にアニール処理が施された後の半導体ウエハ3および/または当該レーザパルスLP自体の各種の特性を測定する測定装置7が利用されてもよい。このような測定装置7による測定結果は、パーソナルコンピュータ53に提供され、そのモニタ等を通じてユーザに対して提示または表示される。これによって、ユーザは、例えば、自ら設定した補正制御入力値ACIが、半導体ウエハ3および/またはレーザパルスLPの所期の特性を実現するか否かを略リアルタイムで確認できる。この補正制御入力値ACIが、半導体ウエハ3および/またはレーザパルスLPの所期の特性を実現しない場合、ユーザはパーソナルコンピュータ53を操作して当該補正制御入力値ACIを適切に更新できる。
【0036】
なお、以上のようなユーザおよびパーソナルコンピュータ53を介するマニュアル設定の代わりに、補正値設定部62が、測定装置7からの測定結果に基づいて、制御入力値CI毎の補正値を自律的に(または、自動で)設定してもよい。このような補正値設定部62は、各制御入力値CIについて半導体ウエハ3および/またはレーザパルスLPの所期の特性(測定装置7によって測定される)が実現されるように、適切な補正値を自律的に設定する。
【0037】
測定装置7によって測定される半導体ウエハ3(アニール処理後)および/またはレーザパルスLPの特性は任意であるが、半導体ウエハ3のシート抵抗、レーザパルスLPのエネルギー密度等の制御パラメータ自体、レーザパルスLPのパワー、強度分布、プロファイル、サイズ(径)、形状が例示される。補正値を自動設定する補正値設定部62は、これらの多様な測定結果を総合的に参照しながら、制御入力値CI毎に最適な補正値を設定できる。
【0038】
図4は、補正値設定部62によって補正値が設定された後の、エネルギー密度の制御入力値CIおよび補正制御入力値ACIの具体例を示す。ここで例示されるように、補正値設定部62は、レシピRによって指定されるエネルギー密度の複数の制御入力値CIに対して、異なる補正値を設定可能である。例えば、レシピRによって指定されるエネルギー密度の制御入力値「0.7」に対しては補正値「0.0001」が設定されている一方で、レシピRによって指定されるエネルギー密度の制御入力値「2.0」に対しては補正値「0.0289」が設定されている。
【0039】
そして、制御入力部61は、第1列における複数の制御入力値CIのいずれか(例えば「1.5」)がレーザパルスLPの制御のためにレシピRによって指定された場合、当該制御入力値CI(「1.5」)を対応する補正値(「0.0032」)によって補正した補正制御入力値ACI(「1.5032」)をレーザ装置2に入力する。すなわち、レシピRが「1.5」をエネルギー密度として指定した場合、実際には「1.5032」のエネルギー密度がレーザ装置2に対して指定される。
【0040】
このような補正は、主にレーザ装置2の個体差の影響を低減するために行われる。上記の例では、レーザ装置2がレシピRによって指定された「1.5」のエネルギー密度のレーザパルスLPを発振するために、実際には「1.5032」のエネルギー密度(補正制御入力値ACI)がレーザ装置2に対して指定されなければならない。換言すれば、レーザ装置2に対してレシピR通りの「1.5」のエネルギー密度(制御入力値CI)を指定したのでは、所望の「1.5」のエネルギー密度のレーザパルスLPが発振されない。
【0041】
本実施形態によれば、
図4に示されるように、レシピRによって指定される制御入力値CI毎に個別に細かく補正値を設定できるため、レーザアニール装置1および/またはレーザ装置2の個体差の影響を効果的に低減できる。例えば、複数台の同じ(例えば、型番が同じ)レーザアニール装置1および/またはレーザ装置2を使用する場合、以上のような精緻な補正を装置毎に個別に行うことで(つまり、第2列における補正値は装置毎に異なってもよい)、各装置においてレシピRで指定された通りの所望のエネルギー密度のレーザパルスLPを実現できる。従って、レーザアニール装置1および/またはレーザ装置2の個体差によらず、各装置がレシピR通りの所期のアニール処理を施せる(つまり、同じ処理結果が得られる)。
【0042】
図5は、
図4の第1列に示されているレシピRによって指定されるエネルギー密度の制御入力値CIを横軸に、
図4の第2列に示されている補正値を縦軸にプロットしたグラフである。この例のように、複数の補正値は、複数の制御入力値CI(0.7と2.0の間の0.1刻みの値)に対して非線型に変化するように、補正値設定部62(または、パーソナルコンピュータ53)によって設定されてもよい。図示は省略するが、この場合、
図4の第3列に示されている複数の補正制御入力値ACIは、第1列に示されている複数の制御入力値CIに対して非線型に変化する。換言すれば、補正値および補正制御入力値ACIは、制御入力値CI毎に自由に設定されうる。このため、レーザアニール装置1および/またはレーザ装置2に固有の特性(または、個体差)に合わせて、制御入力値CIを緻密に補正できる。
【0043】
特に、レーザパルスLPの制御パラメータとしてのエネルギー密度は、アニール処理の主な目的であるドーパントが注入された半導体ウエハ3の活性化に大きく影響するため、
図5に模式的に示されるような非線型または自由形式の補正は、アニール処理の高品質化や安定性の向上のために極めて有益である。
【0044】
図4の例では、第2列に示されている全ての補正値が、パーソナルコンピュータ53を通じてマニュアルで入力された。補正値生成部63は、このようなマニュアル設定を補助する情報をパーソナルコンピュータ53および/またはユーザに対して提供してもよい。
【0045】
図6は、補正値生成部63によるマニュアル設定の補助の例を模式的に示す。この例では、レシピRによって指定されるエネルギー密度(第1列)の制御入力値「1.1」「1.4」「2.0」に対して、補正値「0.0001」「0.0014」「0.0289」がそれぞれマニュアル設定されている。このように、少なくとも三つの制御入力値CI(第1列)に対して少なくとも三つの補正値(第2列)が設定されている場合、補正値生成部63は、当該少なくとも三つの制御入力値CIと異なる他の制御入力値CIに対する他の補正値を、当該少なくとも三つの補正値に基づいて生成する。
【0046】
具体的に図示の例では、補正値生成部63が、設定済の三つの制御入力値「1.1」「1.4」「2.0」と異なる他の制御入力値「1.7」に対する他の補正値「0.0100」を、設定済の三つの補正値「0.0001」「0.0014」「0.0289」に基づいて生成または算出する。
図6に模式的に示されているように、補正値生成部63によって提案された補正値「0.0100」および/または補正制御入力値「1.7100」は、パーソナルコンピュータ53のモニタ等を通じてユーザに対して提示または強調表示される。ユーザは、提案された補正値および/または補正制御入力値が適切であれば、そのまま採用する操作をパーソナルコンピュータ53で行って補正値設定部62に設定し、提案された補正値および/または補正制御入力値が不適切であれば、修正等の操作をパーソナルコンピュータ53で行う。
【0047】
図4の例では、補正値設定部62が、0.1刻みの離散的な複数の制御入力値CIに対して、異なってもよい非線型(または、線型)な補正値を設定した。しかし、レシピRは離散的な制御入力値CIの間の制御入力値CIを、レーザパルスLPの制御のために指定することもある。このような場合、指定された制御入力値CIに最も近い離散的な制御入力値CIについて設定された補正値が使用されてもよいが、以下で説明する近似式生成部64が生成する近似式が利用されるのが好ましい。
【0048】
近似式生成部64は、補正値設定部62および/またはパーソナルコンピュータ53によって離散的な複数の制御入力値CIに対して設定された複数の補正値に基づいて、連続的な制御入力値に対して連続的な補正値を算出する近似式を生成する。
図5には、近似式生成部64が生成した近似式の例が示されている。この多項近似式「y = 0.0275x
3 - 0.0791x
2 + 0.0739x - 0.0224」(ここで、xは横軸変数であり、yは縦軸変数である)は、
図4の例において0.1刻みの離散的な制御入力値CIに対して設定された離散的な補正値(
図5における黒い点)に基づいて、近似式生成部64が生成したものである。また、
図5では、この多項近似式が、点線の非線型な曲線としてグラフ表示されている。
【0049】
レシピRが0.1刻みの離散的な制御入力値CIの間の中間制御入力値を、レーザパルスLPのエネルギー密度の制御のために指定した場合、補正値設定部62は、近似式生成部64によって生成された多項近似式に基づいて、当該中間制御入力値に対する中間補正値を設定する。例えば、隣接する二つの制御入力値「1.5」「1.6」の間の中間制御入力値「1.55」がレシピRによって指定された場合、補正値設定部62は中間制御入力値「1.55」を多項近似式「y = 0.0275x3 - 0.0791x2 + 0.0739x - 0.0224」の「x」に代入することで、中間補正値「y = 0.0045」を算出する。この中間補正値「0.0045」は、隣接する一方の制御入力値「1.5」に対応する一方の補正値「0.0032」および他方の制御入力値「1.6」に対応する他方の補正値「0.0060」の間である。
【0050】
以上のように、制御入力部61は、レーザパルスLPの制御のために指定された中間制御入力値(例えば、1.55)を、近似式生成部64によって生成された近似式から算出された中間補正値(例えば、0.0045)によって補正した補正制御入力値(例えば、1.5545)をレーザ装置2に入力する。換言すれば、制御入力部61は、隣接する一方の制御入力値(例えば、1.5)に対応する一方の補正値(例えば、0.0032)および他方の制御入力値(例えば、1.6)に対応する他方の補正値(例えば、0.0060)の間の中間補正値(例えば、0.0045)によって補正した中間制御入力値(例えば、1.5545)を、補正制御入力値としてレーザ装置2に入力する。
【0051】
相関評価部65は、補正値設定部62によって離散的な複数の制御入力値CIに対して設定された複数の補正値と、近似式生成部64によって生成された近似式の相関を評価する。
図5の例では、相関評価部65が、0.1刻みの離散的な複数の制御入力値CIに対して設定された離散的な複数の補正値(
図5における黒い点)と、近似式生成部64によって生成された多項近似式(
図5における点線)の相関を評価するための相関係数R
2を算出する。相関係数R
2は、「1」に近いほど相関が強いことを示し、「0」に近いほど相関が弱いことを示す。
【0052】
範囲分割部66は、相関評価部65によって評価された相関が所定の基準を下回る場合、近似式生成部64によって近似式が生成された制御入力値CIの範囲を、複数の小範囲に分割する。範囲分割部66は、例えば、相関評価部65によって算出された相関係数R
2が所定の基準値「0.9」を下回る場合、範囲分割処理を実行する。
図5の例では、相関評価部65によって算出された相関係数R
2が基準値「0.9」以上の「0.9996」であるため、範囲分割部66は範囲分割処理を実行しない。
【0053】
一方、
図7に示される他の例では、相関評価部65によって算出された、補正値設定部62によって0.1刻みの離散的な複数の制御入力値CIに対して設定された離散的な複数の補正値(
図7における黒い点)と、近似式生成部64によって生成された多項近似式「y = 0.0017x
6 - 0.0117x
5 + 0.0309x
4 - 0.0376x
3 + 0.0193x
2 - 0.0023x + 0.0003」(
図7における点線)の間の相関係数R
2が、基準値「0.9」を下回る「0.653」であるため、範囲分割部66は範囲分割処理を実行する。
図7に模式的に示されるように、範囲分割部66は、離散的な補正値の分布、配置、連続性等を考慮して、近似式生成部64による近似式の生成対象の制御入力値CIの範囲を、例えば「0.95」以下の第1小範囲と「0.95」以上の第2小範囲に分割する。なお、範囲分割部66による分割位置は、ユーザがパーソナルコンピュータ53を通じて指定してもよい。
【0054】
近似式生成部64は、範囲分割部66によって分割された小範囲毎に近似式を生成する。以上のような範囲分割部66による範囲分割処理は、近似式生成部64によって生成される近似式が、全ての小範囲について基準値「0.9」を下回るまで繰り返される。
【0055】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0056】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 レーザアニール装置、2 レーザ装置、3 半導体ウエハ、4 ステージ装置、7 測定装置、15 ガルバノスキャナ、41 移動テーブル、51 レーザ制御部、53 パーソナルコンピュータ、61 制御入力部、62 補正値設定部、63 補正値生成部、64 近似式生成部、65 相関評価部、66 範囲分割部、LP レーザパルス。