(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024479
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ制御方法、及びモータシステム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20250213BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128623
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 譲
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505BB05
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ16
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】N次関数による伝達関数を使用した制御信号を用いる場合でも、信号に混入したノイズの増幅を抑制する。
【解決手段】電流指令値に基づいて三相モータを制御するモータ制御装置であって、前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出手段と、N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算手段と、前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正手段と、前記補正手段にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御手段と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値に基づいて三相モータを制御するモータ制御装置であって、
前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出手段と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算手段と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正手段と、
前記補正手段にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御手段と、
を有する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記制御信号は、三相のDuty指令値、または、三相の電流指令値である、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記N次関数は一次関数であり、
前記一次関数に基づくゲイン特性の逆特性は、以下の式(1)にて示される、請求項1に記載のモータ制御装置。
【数1】
【請求項4】
前記N次関数は二次関数であり、
前記二次関数に基づくゲイン特性の逆特性は、以下の式(2)にて示される、請求項1に記載のモータ制御装置。
【数2】
【請求項5】
電流指令値に基づいて三相モータを制御するモータ制御方法であって、
前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出工程と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算工程と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正工程と、
前記補正工程にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御工程と、
を有する、モータ制御方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置にて制御される三相モータと、
を備えるモータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、モータ制御装置、モータ制御方法、及びモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置や鉄道動揺防止アクチュエータなどの様々な装置で永久磁石型の同期電動機が用いられている。このような電動機では、周波数や電圧、電流、位相などを制御可能な電源から電力を供給し、その動作を制御することが行われている。
【0003】
一般に、モータに対する制御を行うための信号は、A/D変換(アナログ-デジタル変換)や制御信号演算処理などに起因して遅延が生じ得る。例えば、特許文献1では、電動パワーステアリング装置に備えられたブラシレスモータにおける遅延を抑制して制御するために、一次関数や二次関数に基づく外挿補間を行うことで電気角の未来の値を予測し、これに基づいて未来のDuty指令値を計算する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、一次関数や二次関数に基づく外挿を用いて制御信号の補正を行う場合、高周波側でゲイン特性が上昇し、制御信号にノイズが混入している場合にはこれを増幅してしまうという課題がある。高周波側でノイズが増幅された結果、意図しない音や振動が発生してしまう。このような、高周波側において、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することが求められる。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、N次関数に基づく外挿による制御信号を用いてモータの制御を行う場合でも、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、電流指令値に基づいて三相モータを制御するモータ制御装置であって、
前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出手段と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算手段と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正手段と、
前記補正手段にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御手段と、
を有する、モータ制御装置。
【0008】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、電流指令値に基づいて三相モータを制御するモータ制御方法であって、
前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出工程と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算工程と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正工程と、
前記補正工程にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御工程と、
を有する、モータ制御方法。
【0009】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、モータシステムであって、
モータ制御装置と、
前記モータ制御装置にて制御される三相モータと、
を備え、
前記モータ制御装置は、
電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出手段と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算手段と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正手段と、
前記補正手段にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御手段と、
を有する、モータシステム。
【発明の効果】
【0010】
本願発明により、N次関数に基づく外挿による制御信号を用いてモータの制御を行う場合でも、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一次関数を用いた外挿補間による制御信号の予測を説明するためのグラフ図。
【
図2】二次関数を用いた外挿補間による制御信号の予測を説明するためのグラフ図。
【
図3】従来の手法におけるゲイン特性および位相特性を説明するためのグラフ図。
【
図4】本実施形態に係るモータシステムの構成例を示す概略図。
【
図5】本実施形態に係る一次関数に基づく機能構成の例を示す図。
【
図6】本実施形態に係る二次関数に基づく機能構成の例を示す図。
【
図7】本実施形態に係る一次関数に基づくゲイン特性および位相特性を説明するためのグラフ図。
【
図8】本実施形態に係る二次関数に基づくゲイン特性および位相特性を説明するためのグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0013】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。本願発明の一実施形態に係るモータ制御装置は、様々な永久磁石型の同期電動機、より具体的には、三相同期モータを備えるシステム全般に適用可能である。システムの一例としては、電動パワーステアリング装置や鉄道動揺防止アクチュエータなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0014】
[N次関数に基づく予測値の特性]
図1および
図2を用いて、モータ制御に係る信号の未来の値の予測について説明する。上述したように、モータ制御においては、装置内におけるA/D変換や制御信号演算処理などに起因して信号の遅延が生じる。この遅延を抑制するために一次関数や二次関数などのN次の関数を用いた外挿補間により、現在および過去の値に基づいて信号の未来の値を予測する。この予測値に基づいて制御を行うことで、遅延の影響を抑制することが可能となる。
【0015】
なお、本実施形態では、一例として、一次関数に基づく外挿補間および二次関数に基づく外挿補間を用いた構成について説明する。本明細書では、一次関数に基づく外挿補間の演算をFOH(First Order Hold)演算とも称する場合がある。また、二次関数に基づく外挿補間の演算をSOH(Second Order Hold)演算とも称する場合がある。
【0016】
図1は、一次関数を用いた外挿補間による信号値の予測を説明するためのグラフ図である。
図1において、横軸はサンプル時間[k]を示し、縦軸は信号値y[k]を示す。ここで、現時点における信号値をy[0]とし、1サンプル時間分、過去の信号値をy[-1]とする。また、サンプル時間は時間間隔(制御周期)を示し、予め規定されている。k=0は現時点を表し、k=-1は1サンプル時間分の過去を表し、k=1/2は1/2サンプル時間分の未来を表す。ここでは、1/2サンプル時間分の未来の信号値を予測する場合の例を示している。
【0017】
信号値の予測のための、一次関数に基づく予測式(伝達関数)は以下の式(1)にて表される。
【0018】
【0019】
図1に示すように、例えば、k=1/2のサンプル時間における信号の予測値を導出する場合、k=0の信号値y[0]とk=-1の信号値y[-1]を用いて導出される。過去の値を式(1)に代入すると、以下の式(2)、式(3)のように表される。
【0020】
【0021】
更に、式(2)および式(3)を係数a,bについて展開すると、以下の式(4)、式(5)のように表される。
【0022】
【0023】
そして、式(4)、式(5)を、式(1)に代入すると、以下の式(6)となる。
【0024】
【0025】
図2は、二次関数を用いた外挿補間による信号の予測を説明するためのグラフ図である。
図2において、横軸はサンプル時間[k]を示し、縦軸は信号値y[k]を示す。ここで、現時点における信号値をy[0]とし、1サンプル時間分の過去の信号値をy[-1]、2サンプル時間分の過去の信号値をy[-2]とする。k=0は現時点を表し、k=-1は1サンプル時間分の過去を表し、k=-2は2サンプル時間分の過去を表し、k=1/2は1/2サンプル時間分の未来を表す。ここでは、1/2サンプル時間分の未来の信号値を予測する場合の例を示している。
【0026】
信号値の予測のための、二次関数に基づく予測式(伝達関数)は以下の式(7)にて表される。
【0027】
【0028】
図2に示すように、例えば、k=1/2のサンプル時間における信号の予測値を導出する場合、k=0の信号値y[0]、k=-1の信号値y[-1]、およびk=-2の信号値y[-2]を用いて導出される。過去の値を式(7)に代入すると、以下の式(8)~式(10)のように表される。
【0029】
【0030】
更に、式(8)~式(10)を係数a,b,cについて展開すると、以下の式(11)~式(13)のように表される。
【0031】
【0032】
そして、式(11)~式(13)を、式(7)に代入すると、以下の式(14)となる。
【0033】
【0034】
図3は、式(6)に示す一次関数型の伝達関数と、式(14)に示す二次関数型の伝達関数に基づく周波数特性を示すボード線図である。
図3(a)はゲイン特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を振幅[dB]とする。
図3(b)は位相特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を位相[deg]とする。
【0035】
図3(a)において、点線301は振幅の理想値を示し、モータの駆動に伴う音や振動を抑制するために、0dBであることが好ましい。これに対し、実線302は一次関数型の伝達関数による振幅を示し、実線303は二次関数型の伝達関数による振幅を示す。つまり、高周波側に行くに従って一次関数型も二次関数型も理想値である0dBから乖離している。そのため、制御信号にノイズが含まれている場合、このノイズを増幅してしまい、モータの駆動に伴って、意図しない音や振動が発生しうる。
【0036】
図3(b)において、点線311は位相の理想値を示す。また、実線312は一次関数型の伝達関数による位相を示し、実線313は二次関数型の伝達関数による位相を示す。
図3(b)を参照すると、高周波側に行くに従って一次関数型も二次関数型も位相が理想値とは乖離するが、二次関数型の方がより理想値に近い制御を行うことができる。
【0037】
上記のような一次関数型や二次関数型の伝達関数の事象を考慮し、本実施形態では、ゲインの増大分を補正することにより、制御に対する影響を抑制する構成について説明する。
【0038】
[回路構成]
まず、本実施形態に係るモータシステム10の機能構成の例について、
図4を用いて説明する。モータシステム10は、モータ制御装置100、および三相モータ200を含んで構成される。なお、ここでは本実施形態に関連する部分のみを例示的に示しており、他の部位(例えば、センサや信号入力のためのインタフェース等)を更に含んでもよい。
【0039】
モータ制御装置100は、三相モータ200の駆動制御を行う。モータ制御装置100の各種機能は、記憶部に格納されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)などの処理部が読み出して実行されてもよいし、各種電子回路にて実現されてもよいし、これらを組み合わせて実現されてもよい。
【0040】
モータ制御装置100において、電流指令値演算部101は、目的とする制御量に基づいて、dq軸座標系におけるq軸およびd軸に対応する電流指令値I
ref_q、I
ref_dを演算し、モータ制御部102へ指示する。d軸は、三相モータ200が備える回転子(不図示)の磁束の方向を示す。また、q軸は、d軸に直交した方向を示す。モータ制御部102は、電流指令値演算部101からの電流指令値I
ref_q、I
ref_d、および、三相モータ200側からのフィードバック信号に基づいて、三相に対応するDuty値(D
u,D
v,D
w)を生成し、PWM制御部103へ出力する。本実施形態に係るモータ制御部102は、
図5や
図6を用いて後述する演算部を用いて、外挿補間による制御信号の予測を行う。
【0041】
PWM制御部103は、モータ制御部102からのDuty値(Du,Dv,Dw)に基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)処理を行い、インバータ回路104へ制御信号を出力する。インバータ回路104は、バッテリ(不図示)により供給される交流電源の電力を、PWM制御部103からの制御信号に基づいて、各相に対する電流に変換して三相モータ200へ出力する。モータ電流検出回路105は、インバータ回路104により三相モータ200に対して出力された電流を検出し、検出された電流値Iu,Iv,Iwを三相/二相変換部106に出力する。
【0042】
三相/二相変換部106は、モータ電流検出回路105からの電流値Iu,Iv,Iwを、モータ角度検出部107からのモータ角θeに基づいてd軸およびq軸の二相の電流値Id,Iqに変換し、モータ制御部102へ出力する。モータ角度検出部107は、三相モータ200に対して設置された回転角センサ(不図示)からの信号に基づいて、モータ角θeを検出する。そして、モータ角度検出部107は、検出したモータ角θeを、モータ制御部102、三相/二相変換部106、および角速度演算部108へ出力する。角速度演算部108は、モータ角度検出部107からのモータ角θeに基づいて、角速度ωやモータ回転数Nを算出し、モータ制御部102へ出力する。
【0043】
三相モータ200は、例えば三相ブラシレスモータであり、永久磁石界磁または巻線界磁を有する。三相モータ200は、u相、v相、w相の各相コイル(不図示)に120°ずつ位相が異なる三相の交流電流が供給されることにより回転する。三相モータ200の回転子(不図示)の軸には、レゾルバやロータリエンコーダなどから構成される回転角センサ(不図示)が設置される。
【0044】
(一次関数型の場合)
図5は、
図4に示すモータ制御部102内に設けられる、一次関数型の第1の演算部500の機能構成例を示す図である。本実施形態では、第1の演算部500は、三相のDuty指令値の補正や三相の電流指令値の補正に用いられる。ここでは、Duty指令値を例に挙げて説明する。
【0045】
第1の演算部500は、現在のDuty指令値の前回のDuty指令値を保持する保持部501、現在のDuty指令値に対する係数部502、前回のDuty指令値に対する係数部503、加算部504、および補正演算部505を有する。
【0046】
モータ制御部102内で生成されたDuty指令値が、一次関数型の第1の演算部500の保持部501および係数部502に入力される。保持部501は、前回のDuty指令値を係数部503へ出力した上で、保持する値を現在のDuty指令値にて更新する。係数部502は、現在のDuty指令値に予め規定された係数をかけ合わせ、加算部504へ出力する。係数部502による係数は、式(6)に示した係数(k+1)に相当する。係数部503は、保持部501からのDuty指令値に予め規定された係数をかけ合わせ、加算部504へ出力する。係数部503による係数は、式(6)に示した係数(-k)に相当する。加算部504は、係数部502からの値と、係数部503からの値とを加算し、補正演算部505へ出力する。
【0047】
補正演算部505は、加算部504からの値に対して一次関数の逆特性を示すパラメータをかけ合わせることで、補正Duty指令値を導出し、出力する。ここでの逆特性を示すパラメータについて説明する。
【0048】
上記の式(6)に関し、ラプラス演算子sおよびパデ近似を用いて以下のように展開する。また、数式を簡便に表現するため、上記のkに係るパラメータa0,a-1,A1を定義して用いる。
【0049】
【0050】
【0051】
上記の式(15)に基づくと、一次関数型のゲイン特性は以下の式(16)のように定義できる。
【0052】
【0053】
そして、下記の式(17)に示すように、上記の式(16)にて示すゲイン特性の逆数を一次関数型の式(1)にかけることで、ゲイン特性を打ち消す。
【0054】
【0055】
(二次関数の場合)
図6は、
図4に示すモータ制御部102内に設けられる、二次関数型の第2の演算部600の機能構成例を示す図である。本実施形態では、第2の演算部600は、三相のDuty指令値の補正や三相の電流指令値の補正に用いられる。ここでは、Duty指令値を例に挙げて説明する。
【0056】
第2の演算部600は、現在のDuty指令値の前回のDuty指令値を保持する保持部601、現在のDuty指令値の前々回のDuty指令値を保持する保持部602、現在のDuty指令値に対する係数部603、前回のDuty指令値に対する係数部604、前々回のDuty指令値に対する係数部605、加算部606、加算部607、および補正演算部608を有する。
【0057】
モータ制御部102内で生成されたDuty指令値が、二次関数型の第2の演算部600の保持部601および係数部603に入力される。保持部601は、前回のDuty指令値を保持部602および係数部604へ出力した上で、保持する値を現在のDuty指令値にて更新する。保持部602は、前々回のDuty指令値を係数部605へ出力した上で、保持する値を前回のDuty指令値にて更新する。
【0058】
係数部603は、現在のDuty指令値に予め規定された係数をかけ合わせ、加算部606へ出力する。係数部603による係数は、式(14)に示した係数((k2+3k+2)/2)に相当する。係数部604は、保持部601からのDuty指令値に予め規定された係数をかけ合わせ、加算部607へ出力する。係数部604による係数は、式(14)に示した係数(-k2-2k)に相当する。係数部605は、保持部602からのDuty指令値に予め規定された係数をかけ合わせ、加算部607へ出力する。係数部605による係数は、式(14)に示した係数((k2+k)/2)に相当する。
【0059】
加算部607は、係数部604からの値と、係数部605からの値とを加算し、加算部606は、係数部603からの値と、加算部607からの値とを加算し、補正演算部608へ出力する。
【0060】
補正演算部608は、加算部606からの値に対して、二次関数の逆特性を示すパラメータをかけ合わせることで、補正Duty指令値を導出し、出力する。ここでの逆特性を示すパラメータについて説明する。
【0061】
上記の式(14)に関し、ラプラス演算子sおよびパデ近似を用いて以下のように展開する。また、数式を簡便に表現するため、上記のkに係るパラメータa0,a-1,a-2,A1,A2を定義して用いる。
【0062】
【0063】
【0064】
上記の式(17)に基づくと、二次関数型のゲイン特性は以下の式(18)のように定義できる。
【0065】
【0066】
そして、下記の式(19)に示すように、上記の式(18)にて示すゲイン特性の逆数を二次関数に基づく式(7)にかけることで、ゲイン特性を打ち消す。
【0067】
【0068】
[補正後の特性特性]
図7および
図8は、本実施形態に係る補正前後によるゲイン特性および位相特性を説明するためのボード線図である。
【0069】
(一次関数型の場合)
図7は、一次関数型の伝達関数のボード線図である。
図7(a)は、補正前のゲイン特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を振幅[dB]とする。
図7(b)は補正前の位相特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を位相[deg]とする。また、
図7(c)は、補正後のゲイン特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を振幅[dB]とする。
図7(d)は補正後の位相特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を位相[deg]とする。
【0070】
ゲイン特性に関し、
図7(a)と
図7(c)とを比較すると、補正後はすべての周波数帯域にて振幅を、理想値である0dBに抑制している。すなわち、制御信号にノイズが混入している場合でも、そのノイズの増幅を抑制することができる。また、位相特性に関し、
図7(b)と
図7(d)とを比較すると、本実施形態による補正処理の影響は生じていない。すなわち、位相特性については影響を与えず、信号を補正することが可能である。
【0071】
(二次関数型の場合)
図8は、二次関数による伝達関数のボード線図である。
図8(a)は、補正前のゲイン特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を振幅[dB]とする。
図8(b)は補正前の位相特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を位相[deg]とする。また、
図8(c)は、補正後のゲイン特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を振幅[dB]とする。
図8(d)は補正後の位相特性を示し、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸を位相[deg]とする。
【0072】
ゲイン特性に関し、
図8(a)と
図8(c)とを比較すると、補正後はすべての周波数帯域にて振幅を、理想値である0dBに抑制している。すなわち、制御信号にノイズが混入している場合でも、そのノイズの増幅を抑制することができる。また、位相特性に関し、
図8(b)と
図8(d)とを比較すると、本実施形態による補正処理の影響は生じていない。すなわち、位相特性については影響を与えず、信号を補正することが可能である。
【0073】
以上、本実施形態の手法により、一次関数や二次関数などのN次関数に基づく外挿による制御信号を用いてモータの制御を行う場合でも、高周波側に生じるゲインの増大を抑制し、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することが可能となる。
【0074】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、一次関数および二次関数を用いる例を示した。しかし、これらに限定するものではなく、N次(N≧3)の関数を用いてもよい。このような関数についても同様の手法にてゲイン特性の逆特性を導出して用いることで、モータ制御に適用可能である。
【0075】
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0076】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0077】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 電流指令値に基づいて三相モータ(例えば、200)を制御するモータ制御装置(例えば、100)であって、
前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出手段(例えば、102)と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算手段(例えば、501,502,503,504)と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正手段(例えば、505)と、
前記補正手段にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御手段(例えば、102,103,104)と、
を有する、モータ制御装置。
この構成によれば、N次関数に基づく外挿による制御信号を用いてモータの制御を行う場合でも、高周波側に生じるゲインの増大を抑制し、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することが可能となる。
【0078】
(2) 前記制御信号は、三相のDuty指令値、または、三相の電流指令値である、(1)に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、三相モータを制御するための三相のDuty指令値、または、三相の電流指令値を対象として補正を行うことで、指令値内のノイズの増幅を抑制することが可能となる。
【0079】
(3) 前記N次関数は一次関数であり、
前記一次関数に基づくゲイン特性の逆特性は、以下の式にて示される、(1)または(2)に記載のモータ制御装置。
【0080】
【0081】
(4) 前記N次関数は二次関数であり、
前記二次関数に基づくゲイン特性の逆特性は、以下の式にて示される、(1)または(2)に記載のモータ制御装置。
【0082】
【0083】
(5) 電流指令値に基づいて三相モータ(例えば、200)を制御するモータ制御方法であって、
前記電流指令値に基づいて制御信号を導出する導出工程と、
N次関数に基づく外挿により、前記制御信号に対する未来の予測値を演算する演算工程と、
前記予測値に対し、前記N次関数に基づくゲイン特性の逆特性を掛け合わせることにより、補正を行う補正工程と、
前記補正工程にて補正された予測値を用いて、前記三相モータを制御する制御工程と、
を有する、モータ制御方法。
この構成によれば、N次関数に基づく外挿による制御信号を用いてモータの制御を行う場合でも、高周波側に生じるゲインの増大を抑制し、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することが可能となる。
【0084】
(6) (1)から(4)のいずれかに記載のモータ制御装置(例えば、100)と、
前記モータ制御装置にて制御される三相モータ(例えば、200)と、
を備えるモータシステム(例えば、10)。
この構成によれば、N次関数に基づく外挿による制御信号を用いてモータの制御を行うモータシステムにおいて、高周波側に生じるゲインの増大を抑制し、制御信号に混入したノイズの増幅を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0085】
10…モータシステム
100…モータ制御装置
101…電流指令値演算部
102…モータ制御部
103…PWM制御部
104…インバータ回路
105…モータ電流検出回路
106…3相/2相変換部
107…モータ角度検出部
108…角速度演算部
200…三相モータ
500…第1の演算部
501,601,602…保持部
502,503,603,604,605…係数部
504,606,607…加算部
505,608…補正演算部
600…第2の演算部